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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053072
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】ファットポンプ用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220329BHJP
   A21D 13/16 20170101ALI20220329BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20220329BHJP
【FI】
A23D7/00
A21D13/16
A23D7/00 506
A21D2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020159679
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】木村 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】玉木 良平
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】三木 研司
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敏幸
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH02
4B026DL01
4B026DX02
4B026DX05
4B032DB15
4B032DB17
4B032DB18
4B032DB38
4B032DE05
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK47
4B032DK54
4B032DP08
4B032DP13
4B032DP24
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】ファットポンプを使用した連続式生産の層状ベーカリー製品において、良好な浮きと内相を得ることのできる油脂組成物を提供すること。
【解決手段】油相を連続相とし、比重が0.9未満であるファットポンプ用油脂組成物である。前記ファットポンプ用油脂組成物は、油相の融点が36℃以上であることが好ましい。また、前記ファットポンプ用油脂組成物は、エステル交換油脂を油相中に25質量%以上含有することが好ましい。更に、前記ファットポンプ用油脂組成物は、ラウリン系油脂を含有しないことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相を連続相とし、比重が0.9未満であるファットポンプ用油脂組成物。
【請求項2】
油相の融点が36℃以上である請求項1記載のファットポンプ用組成物。
【請求項3】
エステル交換油脂を油相中に25質量%以上含有する請求項1又は2記載のファットポンプ用油脂組成物。
【請求項4】
ラウリン系油脂を非含有である請求項1~3のいずれか一項に記載のファットポンプ用油脂組成物。
【請求項5】
乳化剤を実質的に非含有である請求項1~4のいずれか一項に記載のファットポンプ用油脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のファットポンプ用油脂組成物を含有する積層状生地。
【請求項7】
請求項6記載の積層状生地の焼成品である層状ベーカリー製品。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のファットポンプ用油脂組成物を使用する連続式生産の層状ベーカリー製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式生産の層状ベーカリー製品製造時に使用するファットポンプ用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
層状ベーカリー製品にはクロワッサンやデニッシュ・ペストリー、パイなどがあり、これらは通常、シート状ロールイン油脂をドウに積載して包み込み、圧延及び折り畳みの操作を複数回行うことで折込み、層状ベーカリー生地を製造した後、これを各種成形し、次いで必要に応じてホイロをとった後、焼成及び/又はフライすることによって得られる。
【0003】
これら層状ベーカリー製品の製造の際に、大手製菓製パンメーカーでは省力化の目的で連続製造ラインを使用することが多い。この連続生産ラインの場合、ロールイン油脂は、シート状のものをドウに並べて置くのではなく、ファットポンプを使用して連続したシート状に吐出することとなるが、ファットポンプでは油脂送り出しのためのスクリュー機構により油脂に強力な圧力がかかることから、融点の低い油脂配合である場合などコシの弱い油脂であると、軟化して簡単にコシが抜けてしまい、ひどい場合は乳化破壊が発生してしまう。そのような油脂を使用して得られたパイやデニッシュは浮きも悪く不均等で、また、内相も不均一でパン目になってしまう。
【0004】
このためファットポンプ用油脂としては、通常、融点の高い油脂が用いられる。しかし融点の高い油脂を多く用いると、スクリュー機構への噛み込み不足により油脂の供給が不安定になり、吐出部において均質な油脂層が得られない問題、あるいは配管詰まり、そもそもスクリュー機構への送り込み自体ができない問題などが発生してしまう。
【0005】
そのため、上記のような問題が発生することなく、良好な浮き、且つ、良好な内相の層状ベーカリー製品を得ることのできるファットポンプ用油脂組成物の検討が行われてきた。
【0006】
その結果、油脂又はそのエマルションを加圧晶析して得られた油脂組成物(例えば特許文献1参照)や、パーム中部油1質量部に対し、ラードを1.0~5.0質量部の比率で含有し、且つ、油相中に極度硬化油を0.5~12質量%含有する油脂組成物(例えば特許文献2参照)が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載の油脂組成物は、融点が低い割には十分な硬さとコシを有する油脂組成物とすることができるが、それだけではファットポンプの強力な圧力に対応できるものではなかった。またこれらの油脂組成物は、温度変化による硬さの変化が大きく、ファットポンプ内における軟化が大きく、その点でも得られる層状ベーカリー製品の浮きや内相の悪化につながりやすかった。
【0008】
ここで、本発明者らは、良好な浮きと内相の層状ベーカリー製品を得ることのできるシート状ロールイン油脂として、油相を連続相とし、比重が0.9未満である油脂組成物を提案している(特許文献3参照)。しかし、このロールイン油脂組成物にはファットポンプに適用する記載がない。これは、本来、ファットポンプ用の油脂はファットポンプ吐出時に不連続なシート状にならないようエアをかまないように注意深く投入する必要がある、すなわちファットポンプに気相が入るのを避ける必要があるためである。また更に、特許文献3に記載のロールイン油脂組成物が良好な浮きと内相の層状ベーカリー製品を得ることができるのは、ロールイン油脂が割れを生じながら伸展するため、ロールイン油脂組成物が、練りパイ生地に含まれる油脂組成物のように、生地に油脂小片となって含まれるようになることに起因するが、ファットポンプを使用した連続生産ラインの場合は、油脂供給後に油脂が硬化するような過度のリタードをとることができないことから引用文献3の発明は適用できないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-238598号公報
【特許文献2】特開2017-093365号公報
【特許文献3】特開2018-186808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、ファットポンプを使用した連続式生産の層状ベーカリー製品において、良好な浮きと内相を得ることのできる油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、ファットポンプ用油脂では気相を含ませないことが必要であるという常識に反して、ファットポンプ用油脂に過剰に気相を分散させることで、上記目的が達成可能であることを見出した。
【0012】
本願発明はこの知見に基づくものであり、油相を連続相とし、比重が0.9未満であることを特徴とするファットポンプ用油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ファットポンプの強力な圧力にも耐え、均質な連続のロールイン油脂層を吐出することができる。また、ファットポンプを使用した連続式生産の層状ベーカリー製品において、良好な浮きと内相を得ることのできる油脂組成物を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のファットポンプ用油脂組成物について詳述する。
ファットポンプとは、可塑性油脂組成物をシート状に押し出すための可塑性油脂組成物押出装置のことである。ファットポンプは例えば連続的にパイ生地を製造することができる機械(シーディング・ラミネーティングライン)に併設される。そのような装置は、例えばレオン自動機株式会社(日本)、ラダーマーカー社(オランダ)、ライカート社(オランダ)、フリッチ社(ドイツ)などから入手可能である。本発明の油脂組成物は、ファットポンプに供給されるものである。つまり本発明は、ファットポンプ供給用油脂組成物に関するものである。
【0015】
本発明のファットポンプ用油脂組成物は油脂を含有する。本発明のファットポンプ用油脂組成物で用いることができる油脂としては、食用の油脂であれば特に制限なく用いることができる。
具体的には、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂及びイリッペ脂等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の各種動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することができる。本発明はこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
本発明のファットポンプ用油脂組成物は、油相の融点が、36℃以上、特に37℃以上であることが、高い浮きの層状ベーカリー製品が得られる点で好ましい。また、油相の融点の上限値に関しては、好ましくは45℃以下、より好ましくは42℃以下である。なお、本発明において油相とは、上記油脂のほか、油溶性の成分も合わせたものとする。本発明のファットポンプ用油脂組成物において、油相の融点とは上昇融点であり、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法」に記載の方法により測定することができる。
【0017】
本発明のファットポンプ用油脂組成物は、エステル交換油脂を油相中に25質量%以上含有することが好ましく、25~100質量%含有することがより好ましく、25~95質量%含有することが更に好ましく、30~90質量%含有することが特に好ましい。油相中のエステル交換油脂の含有量を上述の範囲とすることで、ファットポンプの内部、特にスクリュー部において、軟化が起きにくく、コシのある状態でロールイン油脂層を吐出することが可能となる。更に、該ファットポンプ用油脂組成物を用いて製造した層状ベーカリー製品は内相及び食感が良好なものとなる。
【0018】
エステル交換油脂としては、上記食用の油脂をエステル交換したものを特に制限なく使用することができるが、より浮きが良好な層状ベーカリー製品とすることが可能である点で、パーム油、パーム油の極度硬化油、パームオレイン及びパームステアリン等のパーム系油脂を含有する油脂をエステル交換したものが好ましい。パーム系油脂を含有する油脂におけるパーム系油脂の含有量は、50~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましく、パーム系油脂を含有する油脂がパーム系油脂のみからなることが特に好ましい。
エステル交換の方法及び条件については特に制限はなく、公知の方法及び条件を採用することができる。
【0019】
また、本発明のファットポンプ用油脂組成物は、ラウリン系油脂を非含有であることが好ましい。ここで、「ラウリン系油脂」とは炭素数12の脂肪酸を多く含有する油脂のことをいい、具体的には、ヤシ油、パーム核油、及びこれらを原料として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂等をいう。
【0020】
また、本発明において、「ラウリン系油脂を非含有である」とは、上記ラウリン系油脂の含有量が、ファットポンプ用油脂組成物における使用油脂中、好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下であることをいう。なお、ラウリン系油脂を原料の一部として、水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用する場合は、その原料に使用したラウリン系油脂の含量を用いてラウリン系油脂の含有量を算出するものとする。
【0021】
本発明のファットポンプ用油脂組成物における油脂の含有量は、ファットポンプ用油脂組成物中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは55~100質量%、更に好ましくは75~100質量%である。
【0022】
本発明のファットポンプ用油脂組成物は油相を連続相とする。また、本発明のファットポンプ用油脂組成物は可塑性油脂組成物であることが好ましい。その場合、本発明のファットポンプ用油脂組成物は、水分を含有するマーガリンやファットスプレッドである場合があり、また、水分を実質的に含有しないショートニングである場合がある。本発明のファットポンプ用油脂組成物が水分を含有する場合、油相を連続相とするものであればその乳化型に制限はなく、水を分散相とする油中水型であってもよく、油脂が分散した水を分散相とする油中水中油型などの、二重乳化以上の多重乳化型であってもよい。
ここで可塑性油脂組成物とは、油相のみ、又は油相と水相の乳化物を急冷可塑化して得られる油脂組成物であり、その配合油脂に応じた温度域において可塑性を有していれば可塑性油脂組成物として扱う。
【0023】
本発明のファットポンプ用油脂組成物における水の含有量は、油相が連続相となる範囲内であれば特に制限はないが、乳化安定性の面から0~70質量%、より好ましくは0~45質量%、更に好ましくは0~25質量%である。
【0024】
本発明のファットポンプ用油脂組成物は、より高い本発明の効果が得られる点で、乳化剤を実質的に非含有であることが好ましい。ここで実質的に非含有であるとは、乳化剤の含量が、ファットポンプ用油脂組成物中、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下であることをいう。本発明のファットポンプ用油脂組成物は、乳化剤を非含有であることが最も好ましい。
【0025】
上記の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、レシチン、リゾレシチンを挙げることができる。
【0026】
本発明のファットポンプ用油脂組成物は、必要により、その他の材料を含有する場合がある。
上記その他の材料として、上白糖・グラニュー糖・粉糖・液糖・ブドウ糖・果糖・ショ糖・麦芽糖・乳糖・酵素糖化水飴・還元澱粉糖化物、異性化液糖・ショ糖結合水飴・オリゴ糖・還元糖・ポリデキストロース・還元乳糖・ソルビトール・トレハロース・キシロース・キシリトール・マルチトール・エリスリトール・マンニトール・フラクトオリゴ糖・大豆オリゴ糖・ガラクトオリゴ糖・乳果オリゴ糖・ラフィノース・ラクチュロース・パラチノースオリゴ糖等の糖類、コーンスターチ・タピオカ澱粉・馬鈴薯澱粉・小麦澱粉・米澱粉・モチ米澱粉などの澱粉や加工澱粉、キサンタンガム・アルギン酸ナトリウム・グアガム・ローカストビーンガム・カラギーナンなどの増粘安定剤、卵類、β-カロチン・カラメル・紅麹色素などの着色料、トコフェロール・茶抽出物などの酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・発酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリーム・乳清ミネラル・乳清カルシウムなどの乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズなどのチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデーなどの蒸留酒、ワイン・日本酒・ビールなどの醸造酒、各種リキュール、無機塩類、食塩、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、高甘味度甘味料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、アミノ酸、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材、コンソメ・ブイヨンなどの植物及び動物エキス、食品添加物などを用いることができる。その他の材料は、本発明の目的を損なわない限り任意に使用することができる。本発明のファットポンプ用油脂組成物におけるその他の材料の含有量は、該ファットポンプ用油脂組成物中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0027】
本発明のファットポンプ用油脂組成物の比重は、0.9未満、好ましくは0.4~0.84、更に好ましくは0.5~0.8、最も好ましくは0.60~0.75である。このような低比重とすることにより、ファットポンプにおいて均質な連続のロールイン油脂層を吐出可能となり、且つ、連続生産ラインにおいて、良好な浮きと良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることができる。
【0028】
なお、上述の効果が奏される作用機構の詳細は不明であるが、おそらくは本発明のファットポンプ用油脂組成物は気相を多く含むことから、ファットポンプの内部、特にスクリュー部において微細な油脂断片となるが、ファットポンプの押し出しにより再結着し、均質な連続のロールイン油脂層を吐出可能なものと思われる。
【0029】
そして、高融点の油脂であると、更にこのファットポンプ内での軟化が起きにくく、コシのある状態で吐出することが可能となり、更には連続生産ラインにおいて、油相層が厚い状態のまま大きな割れを生じることなく、良好な伸展性をもって最終の層状生地とすることができるため、油相層中の気相がホイロから焼成時のドウの結着を阻害し、且つ、ベイパーアクションを促進することで、良好な浮きと良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることができるものと思われる。
【0030】
なお、ファットポンプ用油脂組成物の比重は、容積法により測定することができる。具体的には、一定容積の計量カップに油脂組成物を充填し、該カップ内の油脂組成物の質量を測定し、その質量を、同計量カップに入る水の質量で除して得られる数値をファットポンプ用油脂組成物の比重とする。なお、ファットポンプ用油脂組成物の比重は20℃において測定するものとする。
【0031】
本発明のファットポンプ用油脂組成物は、その形状に関して、ファットポンプに供給可能な形状であれば特に問題はなく、例えば、シート状、ブロック状、円柱状、顆粒状、粉末状、小片状等の形状を挙げることができる。
【0032】
本発明のファットポンプ用油脂組成物では、上記形状の中でもファットポンプ投入時に均質な状態で投入可能な点で、ブロック状であることが好ましい。その大きさとしては、縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ10~500mmであることが好ましく、縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ30~500mmであることがより好ましい。
【0033】
次に上記のファットポンプ用油脂組成物の製造方法について説明する。
上記のファットポンプ用油脂組成物がショートニングの場合は、油脂に油溶性の乳化剤やその他の材料を添加した油相を用意する。上記のファットポンプ用油脂組成物がマーガリンの場合は、油脂に油溶性の乳化剤やその他の材料を添加した油相と、水に必要により水溶性の乳化剤やその他の材料を添加した水相を準備し、油中水型乳化物とする。
【0034】
次にショートニングの場合は油相を、マーガリンの場合は油中水型乳化物を、殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80~100℃、更に好ましくは80~95℃、最も好ましくは80~90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40~60℃、更に好ましくは40~55℃、最も好ましくは40~50℃とする。
【0035】
次に冷却、好ましくは急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機などが挙げられ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターを組み合わせが挙げられる。
【0036】
これらの装置の後に、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0037】
上記のファットポンプ用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、ショートニングの場合は油相に、マーガリンの場合は油中水型乳化物に、窒素、空気等を含気させ、比重を0.9未満、好ましくは0.4~0.84、さら好ましくは0.5~0.8、最も好ましくは0.60~0.75とする。
【0038】
上記のようにして得られたファットポンプ用油脂組成物は、ケースやカップなどの容器に流し込むことが好ましい。そのケースやカップの形状は上記のとおりである。また、さらに各種形状に2次加工することもできる。
【0039】
次に、本発明の積層状生地について述べる。
本発明の積層状生地とは、本発明のファットポンプ用油脂組成物を使用して得られる積層状のベーカリー生地であり、詳しくは、上記本発明のファットポンプ用油脂組成物をファットポンプに投入して、均質な連続のロールイン油脂層を吐出し、小麦粉主体のドウと併せ、好ましくは連続式生産ラインで、折り畳み操作を加えることで得られる積層状ベーカリー生地である。
【0040】
ここで、小麦粉主体のドウとは、小麦粉に、水と、必要に応じて小麦粉以外の穀粉、油脂、卵、粉乳、食塩、糖類、呈味剤、イースト、膨張剤等を加えて練り上げたものであり、例えば、パイ生地、デニッシュ生地、クロワッサン生地、ドーナツ生地、イーストドーナツ生地、タルト生地等が挙げられる。なお上記生地名称は、ここではファットポンプ用油脂組成物を併せる前の生地をさす。
【0041】
ここで本発明の積層状生地における上記ファットポンプ用油脂組成物の含有量、すなわちロールイン量は、目的とする製品により異なるものであり、特に限定されるものではないが、十分な浮きの層状ベーカリー製品を得るためには、小麦粉主体のドウがイーストを含まないものである場合、小麦粉主体のドウに使用する穀粉類100質量部に対し、本発明のファットポンプ用油脂組成物の使用量は、好ましくは30~130質量部、より好ましくは30~100質量部である。小麦粉主体のドウがイーストを含むものである場合、小麦粉主体のドウに使用する穀粉類100質量部に対し、本発明のファットポンプ用油脂組成物の使用量は、好ましくは20~100質量部、より好ましくは25~80質量部である。なお、本発明において「穀粉類」とは、小麦粉を含む全穀粉のことをさすものとする。
【0042】
また積層状生地の好ましい層数は目的とする製品により異なるものであり、特に限定されるものではないが、十分な浮きの層状ベーカリー製品を得るためには、小麦粉主体のドウがイーストを含まないものである場合、好ましくは16~1024層、より好ましくは27~256層である。また、小麦粉主体のドウがイーストを含むものである場合、好ましくは9~256層、より好ましくは16~81層である。
【0043】
上記ファットポンプ用油脂組成物と小麦粉を主体とするドウを併せた後の折り畳み方法としてはとくに限定されず、リバースシーターを利用して折り畳みする方法、そして連続生産ラインであれば生地を切断して一部が重なるように重ねたあとシーティングする方法や、ラミネーターやパイラーによる連続式折り畳み方法などが挙げられるが、ラミネーターやパイラーによる連続式折り畳み方法で折りたたむことが、より均質な浮きと均質な内相の層状ベーカリー製品が得られる点で好ましい。
上記折り畳み時はリタードを取らずとも良好な浮きと内相の層状ベーカリー製品が得られる。
なお、リタードとはドウを併せた後、15℃以下、好ましくは5℃以下の低温で30分~24時間程度休ませる工程である。
【0044】
折り畳みを終えた積層状生地は、必要に応じリタードを取ったあと、最終圧延を行い、各種成型を行ったのち焼成することにより層状ベーカリー製品とすることができる。
【0045】
次に本発明の層状ベーカリー製品について説明する。
本発明の層状ベーカリー製品は、上記本発明の積層状生地の焼成品であり、良好な浮きと内相を有するという特徴を示す。
なお、焼成温度や時間などの各種条件は通常の層状ベーカリー製品と同様、適宜選択可能である。
また、上記焼成は蒸し焼きを含むものである。
更に、この層状ベーカリー製品は、更に、チョココーティングや、グレーズ、バタークリーム、マヨネーズなどをサンド、トッピングするなどの装飾を施してもよい。
【0046】
最後に本発明の連続式生産の層状ベーカリー製品の製造方法について述べる。
本発明の連続式生産の層状ベーカリー製品の製造方法は、連続式生産の層状ベーカリー製品の製造時のファットポンプに使用するファットポンプ用油脂組成物として、上記本発明のファットポンプ用油脂組成物を使用するものである。
【0047】
なお、具体的なファットポンプ用油脂組成物の製造方法、層状生地の製造方法、層状ベーカリー製品の製造方法については上述のとおりである。
【実施例0048】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何等制限するものではない。
【0049】
<エステル交換油脂の調製>
(油脂A)
ヨウ素価52のパーム油65質量部及びヨウ素価0.8のパーム油の極度硬化油脂35質量部を70℃にて混合溶解して得た油脂配合物を、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、0.93kPa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、0.4kPa以下の減圧下)を行ない、ランダムエステル交換油脂Aを得た。
【0050】
(油脂B)
パーム油をドライ分別して得られた低融点部であるヨウ素価55のパームオレインを、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、0.93kPa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、0.4kPa以下の減圧下)を行ない、ランダムエステル交換油脂Bを得た。
【0051】
(油脂C)
パーム油をドライ分別して得られた低融点部であるヨウ素価65のパームオレインを、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、0.93kPa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、0.4kPa以下の減圧下)を行ない、ランダムエステル交換油脂Cを得た。
【0052】
<シート状のファットポンプ用油脂組成物の製造>
[実施例1]
上記油脂Aを20質量部、油脂Bを65質量部、ナタネ油15質量部を60℃に加熱・混合し、混合油を得た。
次に得られた混合油83質量部を混合・溶解した油相と、水16質量部、食塩1質量部を混合・溶解した水相とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度-20℃/分以上)にかけた後、比重が0.75となるように窒素ガスを分散後、縦420mm、横285mm、深さ150mmのケースに流し込み、本発明のブロック状の可塑性油脂組成物であるファットポンプ用油脂組成物Aを得た。なお、ファットポンプ用油脂組成物Aは、油相を連続相とするものであり、比重は0.75、油相の融点は39℃、油脂含有量は83質量%、水分含有量は16質量%であった。
【0053】
[実施例2]
上記油脂Aを20質量部、油脂Bを65質量部、ナタネ油15質量部を60℃に加熱・混合し、混合油を得た。
次に得られた混合油82質量部に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5質量部とレシチン0.5質量部を混合・溶解した油相と、水16質量部、食塩1質量部を混合・溶解した水相とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度-20℃/分以上)にかけた後、比重が0.75となるように窒素ガスを分散後、縦420mm、横285mm、深さ150mmのケースに流し込み、本発明のブロック状の可塑性油脂組成物であるファットポンプ用油脂組成物Bを得た。なお、ファットポンプ用油脂組成物Bは、油相を連続相とするものであり、比重は0.75、油相の融点は39℃、油脂含有量は83質量%、水分含有量は16質量%であった。
【0054】
[実施例3]
上記油脂Cを95質量部、パーム油5質量部を60℃に加熱・混合し、混合油を得た。
次に得られた混合油83質量部を混合・溶解した油相と、水16質量部、食塩1質量部を混合・溶解した水相とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度-20℃/分以上)にかけた後、比重が0.75となるように窒素ガスを分散後、縦420mm、横285mm、深さ150mmのケースに流し込み、本発明のブロック状の可塑性油脂組成物であるファットポンプ用油脂組成物Cを得た。なお、ファットポンプ用油脂組成物Cは、油相を連続相とするものであり、比重は0.75、油相の融点は28℃、油脂含有量は83質量%、水分含有量は16質量%であった。
【0055】
〔比較例1〕
窒素ガス分散量を比重が0.9となるように調整したほかは実施例1と同様の配合・製法により、比較例のブロック状の可塑性油脂組成物であるファットポンプ用油脂組成物Dを得た。なお、ファットポンプ用油脂組成物Dは、油相を連続相とするものであり、比重は0.9、油相の融点は39℃、油脂含有量は83質量%、水分含有量は16質量%であった。
【0056】
<ベーカリー試験>
ファットポンプ使用自動製パンライン(CWCライン:レオン自動機(株))において、上記実施例1~3及び比較例1で得られたファットポンプ用油脂組成物を用いて、下記の配合・製法でデニッシュを製造し、ファットポンプ吐出時の油脂の状態、得られた焼成品(デニッシュ)の浮き及び内相の状態について、下記評価基準に従って4段階で評価し、結果を表1に記載した。
【0057】
(生地配合)
強力粉100質量部、上白糖15質量部、全卵(正味)5質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1.3質量部、練り込み油脂(ショートニング)8質量部、イースト5質量部、イーストフード0.1質量部、水55質量部。
【0058】
(生地製法)
全原料をたて型ミキサーにて低速で3分、中速で4分ミキシングした。捏上げ温度は22℃であった。ここでフロアタイムを30分とった。
【0059】
(ロールイン)
上記製法にて調製した生地をホッパーに投入し、ノズルから自動的に吐出、展延された生地に、ファットポンプから、ロールイン量が穀粉類100質量部に対し40質量部になるように、ファットポンプ用油脂組成物を供給した後、パイラーにて層数が24層となるよう折り込み作業を行った。
【0060】
(成形及び焼成)
4.5mm厚に圧延した後、100mm×100mmにカットし、ターンオーバー成形を行い、ピケを入れた。その後、上火200℃、下火200℃のオーブンにて、15分間焼成した。
【0061】
(評価基準)
・ファットポンプ吐出時の油脂の状態
◎:油脂の粒が全く見られず、割れがなく連続的な油脂層となって吐出された。
○:若干の油脂の粒が見られるが、割れがなく連続的な油脂層となって吐出された。
△:ところどころ空隙や割れ目のある油脂層となって吐出された。
×:ときどき切断される、あるいは詰まりを起こし、不連続な油脂層となって吐出された。乳化破壊が起きている。
××:乳化破壊が起きている。
【0062】
・焼成品浮き
◎:良好で且つ均質である。
○:良好であるが高さにやや不均一性がみられる。
△:浮きがやや悪く、不均質である。
×:浮きが悪く、不均質である。
【0063】
・焼成品内相
◎:内層の膜厚が薄く均質であり、きわめて良好である。
○:内層の膜厚がやや厚いが均質であり、良好である。
△:内層の膜厚が厚く、層状態がやや不明瞭である。
×:内層の膜厚がかなり厚く、層状態が不明瞭な、いわゆるパン目と言われる状態である。
××:層が厚く不均質である。
【0064】

【表1】