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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053899
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】CVD装置、および、CVD方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20220330BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20220330BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20220330BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
H01L21/31 C
H01L21/316 X
C23C16/42
C23C16/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160788
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小林 忠正
(72)【発明者】
【氏名】座間 秀昭
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA06
4K030AA09
4K030AA14
4K030BA44
4K030BB13
4K030CA04
4K030CA12
4K030FA03
4K030FA10
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
4K030LA02
4K030LA15
5F045AA06
5F045AA08
5F045AB32
5F045AC00
5F045AC07
5F045AC11
5F045AC15
5F045AC16
5F045AD06
5F045AD07
5F045AD08
5F045AD09
5F045AE23
5F045AE25
5F045AF07
5F045BB07
5F045BB09
5F045BB12
5F045BB16
5F045CA15
5F045DP03
5F045DQ10
5F045EC09
5F045EE02
5F045EE04
5F045EE12
5F045EF05
5F045EG02
5F045EH14
5F045EK07
5F058BA20
5F058BB07
5F058BC02
5F058BF04
5F058BF07
5F058BF22
5F058BF29
5F058BF36
5F058BF37
5F058BG01
5F058BG02
5F058BG03
(57)【要約】
【課題】プラズマダメージを抑制して低温成膜を可能にしたCVD装置、および、CVD方法を提供する。
【解決手段】基板Sを収容する真空槽11と、真空槽11内を減圧する排気部12と、真空槽11に収容された基板Sを加熱する基板加熱部14と、真空槽11にシラン化合物と酸素含有ガスとを供給する供給部20とを備え、シラン化合物と酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を基板に形成する。基板加熱部14は、基板Sの温度が200℃以上500℃以下になるように基板Sを加熱し、酸素含有ガスは、酸素ガス、あるいは、酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスのいずれかであり、供給部20は、シラン化合物であるジイソプロポキシシランに対する酸素含有ガスの分子のモル比が10以上25以下となるようにジイソプロポキシシランと酸素含有ガスとを供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容する真空槽と、
前記真空槽内を減圧する排気部と、
前記真空槽に収容された前記基板を加熱する加熱部と、
前記真空槽にシラン化合物と酸素含有ガスとを供給する供給部と、を備え、
前記シラン化合物と前記酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を前記基板に形成するCVD装置であって、
前記加熱部は、前記基板の温度が200℃以上500℃以下になるように前記基板を加熱し、
前記酸素含有ガスは、酸素ガス、あるいは、酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスのいずれかであり、
前記供給部は、前記シラン化合物であるジイソプロポキシシランに対する前記酸素含有ガスの分子のモル比が10以上25以下となるように前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとを供給する
CVD装置。
【請求項2】
前記排気部は、前記真空槽内の圧力が5KPa以上15KPa以下になるように前記真空槽内を排気し、
前記供給部は、前記ジイソプロポキシシランを気化させる気化装置と、前記真空槽に前記気化装置を接続する通路と、を備え、
前記供給部は、前記通路を60℃以上200℃以下に加熱する
請求項1に記載のCVD装置。
【請求項3】
前記供給部は、前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとを混合して前記真空槽に供給するシャワーヘッドを備え、
前記シャワーヘッドに高周波電力を供給する高周波電源と、
前記供給部の駆動と前記高周波電源の駆動とを制御する制御部と、をさらに備え、
前記制御部は、
前記供給部を駆動して前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとを前記真空槽に供給しながら、前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を形成した後に、
前記供給部を駆動して前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとを前記真空槽に供給しながら、前記高周波電源を駆動して前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとのプラズマ反応によってさらにシリコン酸化膜を形成する
請求項1または2に記載のCVD装置。
【請求項4】
減圧された真空槽に収容される基板の加熱と、
シラン化合物および酸素含有ガスの前記真空槽に対する供給と、を含み、
前記シラン化合物と前記酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を前記基板に形成するCVD方法であって、
前記加熱において、前記基板の温度が200℃以上500℃以下になるように前記基板を加熱し、
前記供給において、前記酸素含有ガスは、酸素ガス、あるいは、酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスのいずれかであり、
前記シラン化合物であるジイソプロポキシシランに対する前記酸素含有ガスの分子のモル比が10以上25以下となるように前記シラン化合物と前記酸素含有ガスとを供給する
CVD方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD装置、および、CVD方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物半導体を主成分とする半導体層を備える薄膜トランジスタとして、トップゲート型の薄膜トランジスタが知られている。トップゲート型の薄膜トランジスタは、例えば、基板と、基板上に形成された半導体層と、半導体層上に形成されたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極とを備えている。また、トップゲート型の薄膜トランジスタは、ソース電極とドレイン電極とを備え、各電極は、半導体層に接続されている。ゲート絶縁膜には、シリコン酸化物によって形成された層が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-161339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トップゲート型の薄膜トランジスタに限らず、薄膜トランジスタが備えるゲート絶縁膜の形成には、熱CVD法またはプラズマCVD法が用いられている。また、ゲート絶縁膜は、一辺の長さが1mを越える大型のガラス基板に形成することが求められている。大型のガラス基板に対して熱CVD法を用いてゲート絶縁膜を形成することは、ゲート絶縁膜の下地に700℃を越える高温処理を要し、デバイス性能を得られがたい大きな熱収縮を下地膜に生じさせる。また、プラズマCVD法を用いてゲート絶縁膜を成膜することは、下地の温度を500℃程度に下げることが可能ではあるが、デバイス性能の向上を妨げるプラズマダメージをゲート絶縁膜や下地膜に生じさせる。
【0005】
本発明は、プラズマダメージを抑制して低温成膜を可能にしたCVD装置、および、CVD方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのCVD装置は、基板を収容する真空槽と、前記真空槽内を減圧する排気部と、前記真空槽に収容された前記基板を加熱する加熱部と、前記真空槽にシラン化合物と酸素含有ガスとを供給する供給部と、を備え、前記シラン化合物と前記酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を前記基板に形成する。前記加熱部は、前記基板の温度が200℃以上500℃以下になるように前記基板を加熱し、前記酸素含有ガスは、酸素ガス、あるいは、酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスのいずれかであり、前記供給部は、前記シラン化合物であるジイソプロポキシシランに対する前記酸素含有ガスの分子のモル比が10以上25以下となるように前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとを供給する。
【0007】
上記課題を解決するためのCVD方法は、減圧された真空槽に収容される基板の加熱と、シラン化合物および酸素含有ガスの前記真空槽に対する供給と、を含み、前記シラン化合物と前記酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を前記基板に形成する。前記加熱において、前記基板の温度が200℃以上500℃以下になるように前記基板を加熱し、前記供給において、前記酸素含有ガスは、酸素ガス、あるいは、酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスのいずれかであり、前記シラン化合物であるジイソプロポキシシランに対する前記酸素含有ガスの分子のモル比が10以上25以下となるように前記シラン化合物と前記酸素含有ガスとを供給する。
【0008】
上記CVD装置および上記CVD方法によれば、ジイソプロポキシシランと酸素含有ガスとの熱反応を200℃以上500℃以下において進めることが可能であるから、シリコン酸化膜を形成する過程において、プラズマダメージを抑制して低温での成膜を行うことが可能である。
【0009】
上記CVD装置において、前記排気部は、前記真空槽内の圧力が5KPa以上15KPa以下になるように前記真空槽内を排気し、前記供給部は、前記ジイソプロポキシシランを気化させる気化装置と、前記真空槽に前記気化装置を接続する通路と、を備え、前記供給部は、前記通路を60℃以上200℃以下に加熱してもよい。
【0010】
上記CVD装置によれば、5KPa以上15KPaの圧力においてジイソプロポキシシランと酸素含有ガスとの熱反応が進められるから、シリコン酸化膜をゲート絶縁膜に適用することに際し、ゲート絶縁膜の形成に求められる成膜速度を得ることが容易である。そして、気化装置と真空槽とを接続する通路が60℃以上200℃以下に加熱されるため、一度気化されたジイソプロポキシシランが5KPa以上15KPa以下の圧力を有した真空槽に到達するまでに再度液化することを抑えることも可能である。
【0011】
上記CVD装置において、前記供給部は、前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとを混合して前記真空槽に供給するシャワーヘッドを備え、前記シャワーヘッドに高周波電力を供給する高周波電源と、前記供給部の駆動と前記高周波電源の駆動とを制御する制御部と、をさらに備え、前記制御部は、前記供給部を駆動して前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとを前記真空槽に供給しながら、前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を形成した後に、前記供給部を駆動して前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとを前記真空槽に供給しながら、前記高周波電源を駆動して前記ジイソプロポキシシランと前記酸素含有ガスとのプラズマ反応によってさらにシリコン酸化膜を形成してもよい。
【0012】
上記CVD装置によれば、ジイソプロポキシシランと酸素含有ガスとのプラズマ反応によるプラズマダメージは、プラズマ反応に先駆けて形成された熱反応によるシリコン酸化膜によって抑制される。そして、熱反応のみによる成膜速度よりも高い成膜速度を実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態におけるCVD装置を模式的に示す装置構成図。
図2】一実施形態におけるCVD方法を説明するための工程図。
図3】一実施形態におけるCVD方法を説明するための工程図。
図4】一実施形態におけるCVD方法を説明するための工程図。
図5】一実施形態におけるCVD方法を説明するための工程図。
図6】DiPOSの蒸気圧曲線。
図7】成膜速度と温度との関係を示すグラフ。
図8】試験例におけるMOS型デバイスの構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1から図8を参照して、CVD装置およびCVD方法の一実施形態を説明する。以下では、CVD装置、CVD方法、および、試験例を順に説明する。
【0015】
[CVD装置]
図1を参照してCVD装置を説明する。
図1が示すCVD装置10は、シラン化合物と酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を基板Sに形成するCVD装置である。CVD装置10は、基板Sを収容する真空槽11を備えている。真空槽11には、真空槽11内を減圧する排気部12が接続されている。真空槽11内には、基板Sを支持する支持部13が位置している。支持部13内には、基板加熱部14が位置している。基板加熱部14は、真空槽11に収容された基板Sを加熱する。本実施形態では、基板加熱部14は、支持部13上に位置する基板Sを加熱する。基板Sは、例えばガラス基板である。基板Sは、例えば、一辺の長さが1m以上の四角形状を有してよい。
【0016】
CVD装置10は、真空槽11にシラン化合物と酸素含有ガスとを供給する供給部20を備えている。本開示において、シラン化合物は、ジイソプロポキシシラン(Diisopropoxysilane : DiPOS)(SiH(OCH(CH)である。本開示において、酸素含有ガスは、酸素(O)ガス、あるいは、酸素ガスとオゾン(O)ガスとの混合ガスのいずれかである。
【0017】
供給部20は、第1配管21、第2配管22、酸素含有ガス供給部23、配管加熱部24、シャワーヘッド25、および、気化装置30を備えている。気化装置30は、DiPOSを気化させる。シャワーヘッド25は、DiPOSと酸素含有ガスとを混合して真空槽11に供給する。シャワーヘッド25は、真空槽11内に位置している。第1配管21は、シャワーヘッド25に気化装置30を接続している。そのため、第1配管21が区画する空間は、真空槽11に気化装置30を接続する通路である。
【0018】
第2配管22は、第1配管21が気化装置30から真空槽11に向けて延びる途中において、第1配管21に接続されている。第2配管22には、酸素含有ガス供給部23が接続されている。酸素含有ガス供給部23は、例えばマスフローコントローラーである。酸素含有ガス供給部23は、第2配管22を通じて酸素含有ガスを第1配管21に供給する。そのため、第1配管21のうちで、第2配管22の接続位置よりも下流において、気化されたDiPOS、すなわちDiPOSのガスと、酸素ガスとが混合される。
【0019】
配管加熱部24は、例えば第1配管21の外部に位置している。配管加熱部24は、第1配管21を加熱する。これにより、配管加熱部24は、第1配管21内に供給されるDiPOSのガス、および、酸素含有ガスを加熱する。
【0020】
本実施形態において、気化装置30は、収容槽31を備えている。収容槽31内には恒温槽32が位置している。恒温槽32は、恒温槽32が区画する空間内を所定の温度に維持することが可能である。恒温槽32内には、タンク33、タンク加熱部34、DiPOS供給部35、および、DiPOS配管36が位置している。タンク33内には、DiPOSが貯蔵されている。タンク加熱部34は、タンク33内のDiPOSが気液平衡の状態に維持されるように、タンク33を所定の温度に加熱する。タンク33には、DiPOS配管36によってDiPOS供給部35が接続されている。そのため、タンク33において気化されたDiPOSが、DiPOS配管36を通じてDiPOS供給部35に供給される。DiPOS供給部35は、例えばマスフローコントローラーである。気化装置30のうち、DiPOS供給部35が、第1配管21によって真空槽11に接続されている。
【0021】
シャワーヘッド25には、高周波電源15が接続されている。高周波電源15は、シャワーヘッド25に高周波電力を供給する。高周波電源15は、例えば、27.12MHz、または、13.56MHzなどの周波数を有した高周波電力をシャワーヘッド25に供給する。酸素含有ガスとDiPOSのガスとの混合ガスが真空槽11内に供給された状態において、高周波電源15がシャワーヘッド25に高周波電力を供給することによって、シャワーヘッド25の周りに混合ガスからプラズマが生成される。シャワーヘッド25が広がる平面と対向する視点から見て、シャワーヘッド25の面積は、例えば2700cmである。
【0022】
真空槽11には、加熱用ガス供給部16が接続されている。加熱用ガス供給部16は、真空槽11内に加熱用ガスを供給する。加熱用ガスは、成膜前の基板Sを所定の温度に加熱する際に用いられるガスである。加熱用ガスは、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、酸素ガス、および、水素ガスのいずれかであってよい。
【0023】
排気部12は、例えば、排気ポンプ12A、第1バルブ12B、および、第2バルブ12Cを備えている。第1バルブ12Bは、真空槽11に排気ポンプ12Aを接続する第1通路の開放と閉鎖とが可能である。第2バルブ12Cは、真空槽11に排気ポンプ12Aを接続する第2通路の開放と閉鎖とが可能である。第1通路のコンダクタンスと、第2通路のコンダクタンスとは互いに異なっている。例えば、排気部12は、CVD法によってシリコン酸化膜を形成する場合に、第1通路を開放する一方で、第2通路を閉鎖する。これに対して、排気部12は、プラズマCVD法によってシリコン酸化膜を形成する場合に、第2通路を開放する一方で、第1通路を閉鎖する。
【0024】
CVD装置10は、制御部10Cをさらに備えている。制御部10Cは、排気部12、基板加熱部14、高周波電源15、加熱用ガス供給部16、および、供給部20の各々の駆動を制御する。これによって、制御部10Cは、CVD装置10によるシリコン酸化膜の形成を可能にする。
【0025】
CVD装置10では、シラン化合物であるDiPOSと酸素含有ガスの一例である酸素ガスとの熱反応によって以下の反応式によって示される反応が進行する。これにより、基板S上にシリコン酸化膜が形成される。
SiH(OCH(CH+10O→SiO+6CO+8H
【0026】
CVD装置10は、第1圧力計P1、および、第2圧力計P2を備えている。第1圧力計P1は、真空槽11内の圧力を測定する。第2圧力計P2は、第1配管21のうちで、DiPOS供給部35からDiPOSのガスが供給される部位での圧力を測定する。
【0027】
[CVD方法]
図2から図5を参照して、CVD方法を説明する。
本開示のCVD方法は、減圧された真空槽11に収容される基板Sの加熱と、シラン化合物および酸素含有ガスの真空槽11に対する供給と、を含み、シラン化合物と酸素含有ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を基板Sに形成する。加熱において、基板Sの温度が200℃以上500℃以下になるように基板Sを加熱する。供給において、酸素含有ガスは、酸素ガス、あるいは、酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスのいずれかであり、シラン化合物であるジイソプロポキシシラン(MA)に対する酸素含有ガスの分子(MB)のモル比(MB/MA)が10以上25以下となるようにシラン化合物と素含有ガスとを供給する。以下、図面を参照してCVD方法をより詳しく説明する。
【0028】
図2は、成膜前の基板Sを加熱する加熱工程を示している。
図2が示すように、シリコン酸化膜を形成する際には、まず、成膜前の基板Sが真空槽11内の支持部13に配置される。次いで、排気部12が真空槽11内を排気することによって、真空槽11内が所定の圧力まで減圧される。そして、加熱用ガス供給部16が真空槽11内への窒素ガスの供給を開始する。これにより、真空槽11内の圧力が、第1圧力に昇圧される。その後、基板加熱部14が支持部13を介した基板Sの加熱を開始する。このように、加熱工程では、真空槽11内に窒素ガスが供給されている状態で、基板Sの加熱が行われる。加熱工程において、基板Sの温度は、200℃以上500℃以下の範囲内に含まれる所定の温度に加熱される。
【0029】
すなわち、加熱工程では、制御部10Cが、排気部12の駆動を制御して、排気部12に真空槽11内を所定の圧力まで減圧させ、次いで、加熱用ガス供給部16の駆動を制御して、加熱用ガス供給部16に窒素ガスの供給を開始させる。また、制御部10Cは、基板加熱部14の駆動を制御して、基板加熱部14に基板Sの加熱を開始させる。
【0030】
図3が示すように、基板Sの加熱が開始された時点から所定の時間が経過した後に、加熱用ガス供給部16が真空槽11内への窒素ガスの供給を停止する。加熱用ガス供給部16は、基板の温度が上述した所定の温度まで昇温されたと推定される時間が経過した後に、真空槽11内への窒素ガスの供給を停止する。この際に、排気部12が真空槽11内を排気し続けることによって、真空槽11内から窒素ガスが排気される。すなわち、制御部10Cが、加熱用ガス供給部16の駆動を制御して、加熱用ガス供給部16に窒素ガスの供給を停止させる。
【0031】
図4が示すように、窒素ガスの排気が開始された時点から所定の時間が経過した後に、供給部20がシラン化合物のガスと酸素含有ガスとの混合ガスを真空槽11内に供給する。上述したように、シラン化合物はDiPOSであり、酸素含有ガスは例えば酸素ガスである。この際に、基板加熱部14は、基板Sの温度が200℃以上500℃以下になるように基板Sを加熱している。供給部20は、DiPOSに対する酸素分子のモル比が10以上25以下となるようにDiPOSと酸素ガスとを供給する。すなわち、DiPOSのモル数(MA)に対する酸素のモル数(MB)の比(MB/MA)が10以上25以下となるように、供給部20はDiPOSのガスと酸素ガスとを真空槽11に供給する。これにより、基板Sにシリコン酸化膜Fが形成される。なお、真空槽11内の圧力は、加熱工程から第1圧力に維持されている。
【0032】
このように、シリコン酸化膜Fの形成工程では、制御部10Cが、基板加熱部14の駆動を制御して、基板Sの温度が200℃以上500℃以下の所定の温度に維持されるように、基板加熱部14に基板Sの加熱を維持させる。また、制御部10Cは、供給部20の駆動を制御して、DiPOSに対する酸素分子のモル比が10以上25以下となるようにDiPOSと酸素ガスとを供給させる。
【0033】
こうしたCVD装置10によれば、ジイソプロポキシシランと酸素ガスとの熱反応を200℃以上500℃以下において進めることが可能であるから、シリコン酸化膜Fを形成する過程において、プラズマダメージを抑制して低温での成膜を行うことが可能である。すなわち、低温でのシリコン酸化膜Fの形成が可能であるから、シリコン酸化膜Fをゲート絶縁膜として用いた場合に、下地膜の熱収縮を抑えることが可能である。また、真空槽11内にプラズマを生成せずともシリコン酸化膜Fの形成が可能であるから、ゲート絶縁膜および下地膜に対するプラズマダメージを避けることが可能である。
【0034】
この際、真空槽11内の圧力が5KPa以上15KPa以下に設定され、かつ、真空槽11に気化装置30を接続する通路の温度が、60℃以上200℃以下に設定される。すなわち、排気部12が、真空槽11内の圧力が5KPa以上15KPa以下になるように真空槽11内を排気する。また、供給部20が、通路を60℃以上200℃以下に加熱する。
【0035】
5KPa以上15KPaの圧力においてジイソプロポキシシランと酸素ガスとの熱反応が進められるから、シリコン酸化膜Fをゲート絶縁膜に適用することに際し、ゲート絶縁膜の形成に求められる成膜速度を得ることが容易である。そして、気化装置30と真空槽11とを接続する通路が60℃以上200℃以下に加熱されるため、一度気化されたDiPOSが5KPa以上15KPa以下の圧力を有した真空槽11に到達するまでに再度液化することを抑えることも可能である。
【0036】
排気部12は、DiPOSのガスと酸素ガスとの混合ガスが真空槽11内に供給されている状態において、真空槽11内の圧力が5KPa以上15KPaとなるような排気速度で真空槽11内を排気する。供給部20は、例えば、タンク加熱部34によって所定の温度に加熱されたシリコン化合物のガスを供給すること、および、第1配管21を配管加熱部24によって所定の温度に加熱することによって、通路を60℃以上200℃以下に加熱する。
【0037】
この際に、制御部10Cは、排気部12の駆動を制御して、排気部12に真空槽11内の圧力が5KPa以上15KPa以下となるように真空槽11内を排気させる。また、制御部10Cは、供給部20の駆動を制御して、供給部20に通路を加熱させる。
【0038】
図5が示すように、熱反応によって所定の厚さを有したシリコン酸化膜が形成された後に、シャワーヘッド25に高周波電力が供給される。プラズマダメージを抑えることが可能な厚さを有したシリコン酸化膜Fが形成された後において、シャワーヘッド25に対する高周波電力の供給が開始される。これにより、シャワーヘッド25の周りに混合ガスからプラズマPが生成される。この際に、熱反応に求められる真空槽11内の圧力と、プラズマの生成に求められる真空槽11内の圧力とが互いに異なるから、第1通路を用いた排気から、第2通路を用いた排気に切り替えられる。
【0039】
すなわち、制御部10Cは、供給部20を駆動してDiPOSと酸素ガスとを真空槽11に供給しながら、DiPOSと酸素ガスとの熱反応によってシリコン酸化膜を形成した後に、供給部20と高周波電源15とを駆動して以下を行う。すなわち、供給部20を駆動してDiPOSと酸素ガスとを真空槽11に供給しながら、高周波電源15を駆動してDiPOSと酸素ガスとのプラズマ反応によってさらにシリコン酸化膜Fを形成する。
【0040】
これにより、ジイソプロポキシシランと酸素ガスとのプラズマ反応によるプラズマダメージは、プラズマ反応に先駆けて形成された熱反応によるシリコン酸化膜Fによって抑制される。そして、熱反応のみによる成膜速度よりも高い成膜速度を実現することも可能である。
【0041】
所望の厚さを有したシリコン酸化膜が形成された後に、シャワーヘッド25に対する高周波電力の供給が停止される。次いで、DiPOSのガスおよび酸素ガスの供給が停止される。すなわち、制御部10Cが、高周波電源15の駆動を制御して、高周波電源15に高周波電力の供給を停止させる。また、制御部10Cは、供給部20の駆動を制御して、DiPOSガスおよび酸素ガスの供給を停止させる。
【0042】
[試験例]
図6から図8を参照して、試験例を説明する。
【0043】
[DiPOSの蒸気圧曲線]
図6は、DiPOSの蒸気圧曲線である。
図6が示すように、DiPOSの蒸気圧曲線は、縦軸がDiPOSの蒸気圧(Pa)であり、横軸が1000/T(1/K)である場合に、以下の式によって近似される。
y=2E+11e-5.527x
【0044】
例えば、DiPOSの蒸気圧は、液温が56℃である場合に、すなわち1000/Tが3.04(1/K)である場合に、100hPaである。DiPOSの蒸気圧は、液温が75℃である場合に、すなわち1000/Tが2.87(1/K)である場合に、250hPaである。
【0045】
CVD装置10において、DiPOSの流量が100sccmに維持され、かつ、真空槽11内の圧力、すなわち第1圧力計P1の測定値が5KPaに維持される場合、酸素ガスの流量が1SLM以上25SLM以下に設定されることによって、第2圧力計P2の測定値が以下の値であることが認められた。すなわち、第2圧力計P2の測定値が、51hPa以上90hPa以下であることが認められた。なお、第2圧力計P2の測定値は、酸素ガスの流量が大きいほど大きくなる傾向を有する。
【0046】
また、上述した条件において、真空槽11内の圧力を10KPaに変更した場合には、酸素ガスの流量が1SLMから25SLM以下に設定されることによって、第2圧力計P2の測定値が、102hPa以上116hPa以下であることが認められた。また、真空槽11内の圧力を101.3KPaに変更した場合には、酸素ガスの流量が25SLMであることによって、第2圧力計P2の測定値が、1032hPaであることが認められた。
【0047】
このように、DiPOS分子のモル数に対する酸素分子のモル数の比が10以上25以下となるようにDiPOSと酸素ガスとを真空槽11に供給する場合には、第2圧力計P2の測定値が100hPaを超えることが好ましい。先に参照したDiPOSの蒸気圧曲線によれば、液温が60℃である場合にDiPOSの蒸気圧が116hPaであるから、第1配管21の温度が60℃以上であることによって、気化装置30から放出されたDiPOSの液化を抑えることが可能である。なお、上述したように、基板Sは過剰に加熱されないことが好ましいから、DiPOSの供給に起因した基板Sの加熱を抑える観点において、第1配管21の温度は、基板Sの温度における下限値である200℃以下に設定されることが好ましい。
【0048】
[成膜速度]
図7は、シリコン酸化膜の成膜速度を示している。なお、図7では、以下の成膜条件での成膜速度が示されている。
【0049】
[成膜条件]
・基板の温度 350℃以上420℃以下
・1000/T 1.44以上1.61以下
・DiPOSの流量 320sccm
・酸素含有ガス 酸素ガス
・酸素ガスの流量 3400sccm
・真空槽内の圧力 10KPa
【0050】
なお、図7には、酸素含有ガスが酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスであって、酸素含有ガスの流量が3400sccmであり、かつ、酸素含有ガスにおける5体積%がオゾンガスである場合の成膜速度が示されている。
【0051】
図7が示すように、基板の温度が350℃以上420℃以下の範囲において、シリコン酸化膜の成膜速度は、1.0×10-1nm/min以上であることが認められた。また、酸素含有ガスがオゾンガスを含む場合にも、酸素含有ガスが酸素ガスである場合と同様の成膜速度でシリコン酸化膜が形成されることが認められた。なお、テトラエトキシシラン(TEOS)と酸素ガスとを用いた熱CVD法では、参考文献1(J. Electrochem. Soc. SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY, June 1979, The deposition of Silicon Dioxide Films at Reduced Pressure)に記載のように、基板の温度が400℃以下である場合には、成膜速度が1.0×10-2nm/min未満であることが認められている。
【0052】
[不純物濃度]
[試験例1]
プラズマCVD法を用いて、以下の成膜条件によりシリコン酸化膜を形成した。得られたシリコン酸化膜において、水素濃度、炭素濃度、および、窒素濃度は、以下の表1が示す通りであった。
【0053】
[成膜条件]
・基板の温度 350℃
・1000/T 1.61
・TEOSの流量 320sccm
・酸素ガスの流量 16000sccm
・真空槽内の圧力 175Pa
・高周波電力 0.6W/cm
【0054】
[試験例2]
熱CVD法を用いて、以下の成膜条件によりシリコン酸化膜を形成した。得られたシリコン酸化膜において、水素濃度、炭素濃度、および、窒素濃度は、以下の表1が示す通りであった。
【0055】
[成膜条件]
・基板の温度 405℃
・1000/T 1.47
・DiPOSの流量 320sccm
・酸素ガスの流量 3400sccm
・真空槽内の圧力 10000Pa
【0056】
【表1】
【0057】
表1が示すように、試験例1では、水素濃度が2×1021であり、炭素濃度が1×1020であり、窒素濃度が1×1018であることが認められた。これに対して、試験例2では、水素濃度が4×1021であり、炭素濃度が3×1019であり、窒素濃度が9×1018であることが認められた。すなわち、試験例2のシリコン酸化膜における不純物濃度が、試験例1のシリコン酸化膜における不純物濃度と同程度であることが認められた。
【0058】
[電気的特性]
プラズマCVD(PECVD)法、または、熱CVD法を用いて形成したシリコン酸化膜を備える試験用のMOS型デバイスを形成した。そして、MOS型デバイスを用いて、各シリコン酸化膜の電気的特性を測定した。
【0059】
なお、図8が示すように、シリコン基板41と、シリコン基板41上に位置するシリコン酸化膜42と、シリコン酸化膜42上に位置するアルミニウム電極43とを備えるMOS型デバイスを形成した。MOS型デバイスにおいて、シリコン基板41の大きさを1辺の長さが25mmである正方形状に設定した。また、シリコン酸化膜の厚さを100nmに設定した。試験例3から試験例6の各々において、以下の成膜条件によってシリコン酸化膜を形成した。また、試験例6では、酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスを酸素含有ガスとして用いた。この際に、オゾンガスの体積を混合ガスの全体積における5体積%に設定した。
【0060】
[試験例3]
・基板の温度 350℃
・1000/T 1.61
・TEOSの流量 320sccm
・酸素ガスの流量 16000sccm
・真空槽内の圧力 175Pa
・高周波電力 0.6W/cm
【0061】
[試験例4]
・基板の温度 420℃
・1000/T 1.44
・TEOSの流量 320sccm
・酸素ガスの流量 16000sccm
・真空槽内の圧力 175Pa
・高周波電力 0.6W/cm
【0062】
[試験例5]
・基板の温度 405℃
・1000/T 1.47
・DiPOSの流量 320sccm
・酸素ガスの流量 3400sccm
・真空槽内の圧力 10000Pa
【0063】
[試験例6]
・基板の温度 405℃
・1000/T 1.47
・DiPOSの流量 320sccm
・酸素含有ガスの流量 3400sccm(オゾン 5体積%)
・真空槽内の圧力 10000Pa
【0064】
なお、リーク電流は、各MOS型デバイスに対して2MV/cmの電圧を印加したときの電流値である。また、絶縁耐圧は、リーク電流が1×10-6A/cmである印加電圧の値である。界面における欠陥密度の測定には、半導体検査装置(セミコンダクターフィジックスラボラトリー社製、MCV‐530)を用いた。各試験例のMOS型デバイスにおける電気的特性は、以下の表2に示す通りであった。
【0065】
【表2】
【0066】
表2が示すように、試験例5,6のMOS型デバイスにおける電気的特性、すなわち、比誘電率、リーク電流、絶縁耐圧、および、界面欠陥密度の値は、いずれも試験例3,4のMOS型デバイスと同程度であるか、あるいはそれ以上であることが認められた。
【0067】
以上説明したように、CVD装置、および、CVD方法の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)DiPOSと酸素含有ガスとの熱反応を200℃以上500℃以下において進めることが可能であるから、シリコン酸化膜を形成する過程において、プラズマダメージを抑制して低温での成膜を行うことが可能である。
【0068】
(2)5KPa以上15KPaの圧力においてDiPOSと酸素含有ガスとの熱反応が進められるから、シリコン酸化膜をゲート絶縁膜に適用することに際し、ゲート絶縁膜の形成に求められる成膜速度を得ることが容易である。
【0069】
(3)気化装置30と真空槽11とを接続する通路が60℃以上200℃以下に加熱されるため、一度気化されたDiPOSが5KPa以上15KPa以下の圧力を有した真空槽11に到達するまでに再度液化することを抑えることも可能である。
【0070】
(4)DiPOSと酸素含有ガスとのプラズマ反応によるプラズマダメージは、プラズマ反応に先駆けて形成された熱反応によるシリコン酸化膜によって抑制される。そして、熱反応のみによる成膜速度よりも高い成膜速度を実現することも可能である。
【0071】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[第2圧力計]
・CVD装置10において、第2圧力計P2は省略されてもよい。この場合であっても、第1配管21との温度によって、気化装置30から放出されたDiPOSが再度液化することが抑えられるから、上述した(3)に準じた効果を得ることはできる。
【0072】
[高周波電源]
・CVD装置10において、高周波電源15は省略されてもよい。この場合には、排気部12において、第1通路および第2バルブ12Cが省略されてよい。また、図5を参照して先に説明したプラズマCVD法によって酸化シリコン膜を形成する工程が省略される。この場合であっても、DiPOSと酸素含有ガスとの熱反応を200℃以上500度以下において進めることが可能であるから、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0073】
[配管加熱部]
・気化装置30から放出されたDiPOSによって第1配管21を60℃以上200℃以下の温度に加熱することが可能であれば、CVD装置10において、配管加熱部24は省略されてもよい。この場合であっても、上述した(3)に準じた効果を得ることはできる。
【符号の説明】
【0074】
10…CVD装置
10C…制御部
11…真空槽
12…排気部
14…基板加熱部
15…高周波電源
20…供給部
21…第1配管
24…配管加熱部
25…シャワーヘッド
30…気化装置
34…タンク加熱部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8