(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054097
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】結晶化ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 10/12 20060101AFI20220330BHJP
C03C 10/02 20060101ALI20220330BHJP
C03C 10/04 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C03C10/12
C03C10/02
C03C10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161095
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 拓樹
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 周作
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA11
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4G062QQ11
(57)【要約】
【課題】外観不良が少なく、可視光透過性に優れた結晶化ガラスを提供すること。
【解決手段】厚さ0.7mm換算の可視光透過率が88%以上の結晶化ガラスであって、結晶化率が30%以上であり、SnO2を含有し、長径が10~50μmである気泡の個数が10cm3あたり3個以下である結晶化ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ0.7mm換算の可視光透過率が88%以上の結晶化ガラスであって、
結晶化率が30%以上であり、
SnO2を含有し、
長径が10~50μmである気泡の個数が10cm3あたり3個以下である結晶化ガラス。
【請求項2】
酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を40~80%、
Al2O3を2~20%、
Li2Oを10~40%、
SnO2を0.1~3%含有する請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
LAS結晶を含有する請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
前記LAS結晶は、βスポジュメン結晶、ペタライト結晶及びユークリプタイト結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶である請求項3に記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
リチウムメタシリケート結晶、リチウムダイシリケート結晶及びリチウムフォスフェート結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶をさらに含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
前記長径が10~50μmである気泡の個数が10cm3あたり1個以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
長径が50μmを超える気泡の個数が10cm3あたり1個以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
前記長径が50μmを超える気泡の個数が10cm3あたりに存在しない請求項7に記載の結晶化ガラス。
【請求項9】
厚さが0.4mm~0.8mmである請求項1~8のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項10】
前記結晶化率が50%~90%である請求項1~9のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項11】
前記結晶化率が60%~85%である請求項1~10のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項12】
Fe成分が200ppm以下である請求項1~11のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項13】
酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を60~75%、
Al2O3を3~6%、
Li2Oを15~25%、
SnO2を0.15~1%含有する請求項1~12のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項14】
βスポジュメン結晶、ペタライト結晶及びユークリプタイト結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶を有する結晶化ガラスであって、
厚さ0.7mm換算の可視光透過率が88%以上であり、
長径が10~50μmである気泡の個数が10cm3あたり3個以下である結晶化ガラス。
【請求項15】
酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を40~80%、
Al2O3を2~20%、
Li2Oを10~40%、
SnO2を0.1~3%含有する請求項14に記載の結晶化ガラス。
【請求項16】
前記長径が10~50μmである気泡の個数が10cm3あたり1個以下である請求項14または15に記載の結晶化ガラス。
【請求項17】
厚さが0.4mm~0.8mmである請求項14~16のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項18】
結晶化率が50%~90%である請求項14~17のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項19】
前記結晶化率が60%~85%である請求項18に記載の結晶化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
結晶化ガラスとは、ガラスを再加熱して当該ガラス中に結晶を析出させた材料である。結晶化ガラスの歴史は古く、食器や歯科材料、IHクッキングヒーターのトッププレート等に用いられている。
【0003】
近年、スマートフォンに代表される電子デバイスのディスプレイ等の保護カバーとして化学強化ガラスが用いられており、より強度を高められる化学強化可能な結晶化ガラスへの期待が高まっている。
【0004】
化学強化ガラスとは、例えばアルカリ金属イオンを含む溶融塩にガラスを接触させて、ガラス中のアルカリ金属イオンと、溶融塩中のアルカリ金属イオンとの間でイオン交換を生じさせ、ガラス表面に圧縮応力層を形成したものである。
【0005】
例えば、特許文献1には、透明結晶化ガラスが記載されている。しかし、透明結晶化ガラスでかつ化学強化可能な組成は限られており、かつそれらの組成で泡等の異物が少なく、ディスプレイのカバーに適した高品質なガラスを製造するには清澄剤の選定や量の調整等の高い清澄技術が必要となってくる。
【0006】
また、特許文献2には、結晶化度(結晶化率)の小さな結晶化ガラスが開示されている。
【0007】
結晶化ガラスを保護カバーとして使用するためには結晶化ガラスの機械的強度を高めることが重要である。そのためには結晶化率を高くすることが好ましい。しかし、結晶化率を高くすると外観不良が生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2011/152337号
【特許文献2】日本国特許第6643243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、外観不良が少なく、可視光透過性に優れた結晶化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る結晶化ガラスは、厚さ0.7mm換算の可視光透過率が88%以上の結晶化ガラスであって、結晶化率が30%以上であり、SnO2を含有し、長径が10~50μmである気泡の個数が10cm3あたり3個以下である。
【0011】
上記結晶化ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を40~80%、Al2O3を2~20%、Li2Oを10~40%、SnO2を0.1~3%含有することが好ましい。
【0012】
上記結晶化ガラスはLAS結晶を含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の別態様に係る結晶化ガラスは、βスポジュメン結晶、ペタライト結晶及びユークリプタイト結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶を有する結晶化ガラスであって、厚さ0.7mm換算の可視光透過率が88%以上の結晶化ガラスであり、長径が10~50μmである気泡の個数が10cm3あたり3個以下である。
【0014】
上記結晶化ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を40~80%、Al2O3を2~20%、Li2Oを10~40%、SnO2を0.1~3%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、泡密度が小さく、可視光透過性に優れた結晶化ガラスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において「非晶質ガラス」とは、後述の粉末X線回折法によって、結晶を示す回折ピークが認められないガラスをいう。「結晶化ガラス」は、「非晶質ガラス」を加熱処理して、結晶を析出させたものであり、結晶を含有する。本明細書においては、「非晶質ガラス」と「結晶化ガラス」とを合わせて「ガラス」ということがある。また、加熱処理によって結晶化ガラスとなる非晶質ガラスを、「結晶化ガラスの母ガラス」ということがある。
【0017】
本明細書において「可視光透過率」は、波長380nm~780nmの光における平均透過率をいう。また、「ヘーズ値」はC光源を使用し、JIS K3761:2000に従って測定する。
【0018】
本明細書において、粉末X線回折測定は、CuKα線を用いて2θが10°~80°の範囲を測定し、回折ピークが現れた場合には、Hanawalt法によって析出結晶を同定する。また、この方法で同定される結晶のうち積分強度の最も高いピークを含むピーク群から同定される結晶を主結晶とする。
【0019】
以下において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
【0020】
本明細書において、ガラス組成は、特に断らない限り酸化物基準のモル%表示で表し、モル%を単に「%」と表記する。また、数値範囲を示す「~」とは、特段の定めがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0021】
<結晶化ガラス>
本結晶化ガラスの形状は、典型的には板状であり、平板状でも曲面状でもよい。
本結晶化ガラスが板状の場合の厚さ(t)は、3mm以下が好ましく、より好ましくは、以下段階的に、2mm以下、1.6mm以下、1.1mm以下、0.9mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下である。また、当該厚さ(t)は、化学強化処理による十分な強度が得られるために、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、さらに好ましくは0.5mm以上である。また、厚さの異なる部分があってもよい。スマートフォン等のポータブルデバイスに用いる場合は重さと強度の観点から当該厚さ(t)は、0.4mm~0.8mmが特に好ましい。
【0022】
本結晶化ガラスは厚さ0.7mmに換算した可視光透過率が高いので、携帯ディスプレイのカバーガラスに用いた場合に、ディスプレイの画面が見えやすい。可視光透過率は88%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。可視光透過率は、高い程好ましいが、結晶化ガラスの場合通常は93%以下であり、典型的には92%以下である。
【0023】
なお、実際の厚さが0.7mmではない場合は、測定値を基に、ランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer law)から0.7mmの場合の光透過率を計算できる。また、板厚tが0.7mmよりも大きい場合は、研磨やエッチングなどで板厚を0.7mmに調整して測定してもよい。
【0024】
また、厚さ0.7mmに換算した透過ヘーズ値は、1.0%以下であり、0.4%以下が好ましく、0.3%以下がより好ましく、0.2%以下がさらに好ましく、0.15%以下が特に好ましい。ヘーズ値は小さい程好ましいが、ヘーズ値を小さくするために結晶化率を下げたり、結晶粒径を小さくしたりすると、機械的強度が低下する。機械的強度を高くするためには、厚さ0.7mmの場合のヘーズ値は0.02%以上が好ましく、0.03%以上がより好ましい。
【0025】
本結晶化ガラスのXYZ表色系におけるY値は、87以上が好ましく、88以上がより好ましく、89以上がさらに好ましく、90以上が特に好ましい。また携帯ディスプレイのカバーガラスに用いる場合、ディスプレイ画面側に用いる場合には表示される色の再現性を高くするために、筐体側に用いる場合は意匠性を維持するためにガラス自体の着色はなるべく抑えられていることが好ましい。そのため、本結晶化ガラスの刺激純度Peは1.0以下が好ましく、0.75以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.35以下が特に好ましく、0.25以下がもっとも好ましい。
【0026】
本結晶化ガラスは、結晶化率が30%以上なので、結晶化していないガラスと比較して、硬くて割れにくい。
結晶化率は、リートベルト法で求められる。本結晶化ガラスの結晶化率は、強度を高くするためには50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、70%以上がよりさらに好ましい。結晶化率が高すぎると透過率が低下しやすい場合がある。透明性を確保するためには、結晶化率は90%以下が好ましく、85%以下がより好ましい。透明性を特に重視する場合の結晶化率は、60%以下が好ましい。
【0027】
本結晶化ガラスは長径が10~50μmの気泡の数が10cm3あたり3個以下であり、好ましくは1個以下である。ここで、「長径」とは気泡中の任意の2点が最も離れた場合の2点間の距離のことを意味している。結晶化ガラス中に長径が50μmを超える気泡が存在すると外観不良に繋がるため長径が50μmを超える気泡は存在しないことが好ましく、存在したとしても10cm3あたり1個以下が好ましい。
【0028】
気泡が結晶化前の母ガラス中に存在すると、結晶化後の結晶化ガラスも気泡が存在することになる。本発明の結晶化ガラスは結晶化率が30%以上であるため、結晶化ガラス中に多くの気泡が存在すると、気泡と結晶との距離が近くなり、可視光透過率や色味が悪化しやすい。また、泡周辺に結晶が生じることで、チラつき等の外観不良が生じやすい。
また、母ガラス中に気泡が存在すると、結晶化工程において核形成がしやすくなる。例えば、2結晶系の結晶化ガラスであれば、より高温で析出する結晶(たとえばリチウムダイシリケート結晶)が選択的に泡の周辺に生成し、透明性が失われる場合があることが本発明者らの検討で分かった。そのため30%以上の高結晶化率の結晶化ガラスの場合は特に気泡の数が重要である。
【0029】
本結晶化ガラスは、SiO2を40~80%、Al2O3を2~20%、Li2Oを10~40%、含有するリチウムアルミノシリケートガラスであることが好ましい。
SiO2を60~75%、Al2O3を3~6%、Li2Oを15~25%、含有することがより好ましい。
【0030】
本結晶化ガラスは、LAS結晶を含有することが好ましい。本明細書において、LAS結晶とはSiO2、Al2O3、Li2Oを含有する結晶をいう。LAS結晶を含有する結晶化ガラスは、化学強化特性が優れている。
【0031】
LAS結晶としては、βスポジュメン結晶、ペタライト結晶及びユークリプタイト結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶が好ましい。これらの結晶は、典型的な結晶構造と異なっていてもよい。すなわち結晶構造がひずんでいてもよい。以下に述べる他の結晶についても同様である。
また、2以上の結晶を含有することが好ましく、LAS結晶以外の結晶を含有してもよい。複数種の結晶を含有することで、それぞれの結晶の大きさが小さくなりやすいからである。結晶化ガラスに含まれる結晶が小さいことで透明性が向上する。
【0032】
本結晶化ガラスは、LAS結晶を含有しない場合には、リチウムシリケート結晶を含有することが好ましい。リチウムシリケート結晶を含有する結晶化ガラスは、化学強化特性が比較的優れている。この場合、リチウムシリケート結晶としては、リチウムメタシリケート結晶が好ましい。LAS結晶以外の結晶としては、例えば、リチウムメタシリケート、リチウムダイシリケート及びリチウムフォスフェートなどが挙げられる。リチウムフォスフェートはSiを含んでいてもよい。
【0033】
本結晶化ガラスはSnO2を含有することを特徴とする。SnO2はガラスを製造する工程において、清澄剤となることが知られている。SnO2を含有する本結晶化ガラスは、結晶化前の非晶質ガラスを製造する工程で、ガラスに含まれる気泡が小さく、泡数も少ない。
SnO2は0.1~3.0%含有することが好ましい。SnO2を清澄剤として使用した場合、結晶化ガラスが着色する場合があるためSnO2の含有量は3.0%を超えないことが好ましい。SnO2の含有量は好ましくは2.0%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。
【0034】
本結晶化ガラスにおいてSiO2はガラスネットワークを構成する成分であり、LAS結晶の構成成分であり、必須である。
SiO2の含有量は、LAS結晶を形成しやすいために40%以上であり、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。また、ガラスの溶融性を高くするためにSiO2の含有量は80%以下であり、77%以下が好ましく、75%以下がより好ましい。
【0035】
Al2O3はLAS結晶の構成成分であり、化学強化の際のイオン交換性を向上させて強化後の表面圧縮応力を大きくする成分である。
Al2O3の含有量は、化学強化しやすいために2%以上であり、3%以上が好ましく、4%以上がより好ましい。また、Al2O3の含有量は、ガラスの溶融性を高くするために、20%以下であり、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下、6%以下がさらに好ましい。
【0036】
Li2Oは、イオン交換によって表面付近に圧縮応力を形成させる成分であり、LAS結晶の構成成分でもある。Li2Oの含有量は、圧縮応力を高めるために、10%以上であり、15%以上が好ましく、18%以上がより好ましく20%以上がさらに好ましい。また、ガラスの化学的耐久性のために40%以下であり、35%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。
【0037】
Na2Oはイオン交換により圧縮応力を形成させる成分であり、少量含有することでガラスの安定性を増す場合がある。Na2Oを含有する場合の含有量は0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1.0%以上がさらに好ましい。また、Na2Oの含有量は、化学的耐久性を維持するために、好ましくは10%以下であり、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましい。
【0038】
K2Oは任意成分であり、含有してもよい。K2Oの含有量は、化学的耐久性を維持するために3%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0039】
MgO、CaO、SrO、BaOは、いずれもガラスの溶融性を高める成分であるが、イオン交換性能を低下させる傾向がある。これらの合計の含有量MgO+CaO+SrO+BaOは5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0040】
P2O5は、結晶化を促進する成分であり、0.2%以上含有することが好ましい。結晶化しやすくするためには、より好ましくは0.4%以上、さらに好ましくは0.6%以上である。P2O5含有量が多すぎると、溶融時に分相しやすくなり、また耐酸性が著しく低下するため4%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。
【0041】
ZrO2は、イオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分である。ZrO2の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。また溶融時の失透を抑制するために5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0042】
B2O3を含有してもよい。B2O3の含有量はチッピング耐性の向上、また溶融性を向上させるために0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましい。B2O3の含有量が多すぎると溶融時に脈理が発生したり、分相しやすくなったりして化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく1%以下がさらに好ましい。
【0043】
本結晶化ガラスの母ガラス中に、Fe成分が含まれていると結晶化工程においてFe成分が還元され、着色が生じて可視光透過率が低下するおそれがある。そのためFe成分は200ppm以下が好ましい。なお本明細書において、Feの含有量は質量基準の割合で表される。
【0044】
本結晶化ガラスのヤング率は、化学強化処理する際に反りを抑制できるために、好ましくは80GPa以上、より好ましくは85GPa以上、さらに好ましくは90GPa以上、特に好ましくは95GPa以上である。本結晶化ガラスは研磨して用いることがある。研磨しやすさのために、ヤング率は130GPa以下が好ましく、120GPa以下がより好ましく、110GPa以下がさらに好ましい。
【0045】
本結晶化ガラスはビッカース硬度が高く、傷つきにくい。本結晶化ガラスのビッカース硬度は、好ましくは680GPa以上、より好ましくは720GPa以上、さらに好ましくは750GPa以上である。
【0046】
本結晶化ガラスは、破壊靱性値が高く、化学強化によって大きな圧縮応力を形成しても激しい破壊が生じにくい。破壊靱性値は、例えば、DCDC法(Acta metall. mater. Vol.43: p. 3453-3458, 1995)を用いて測定できる。本結晶化ガラスの破壊靱性値は、好ましくは0.85MPa・m1/2以上、より好ましくは0.90MPa・m1/2以上、さらに好ましくは1.0MPa・m1/2以上であると、耐衝撃性の高いガラスが得られる。本結晶化ガラスの破壊靱性値の上限は特に制限されないが、典型的には2.0MPa・m1/2以下である。
【0047】
<結晶化ガラスおよび化学強化ガラスの製造方法>
本結晶化ガラスは、非晶質ガラスを加熱処理して結晶化する方法で製造できる。また、本結晶化ガラスをイオン交換処理して化学強化ガラスを製造できる。
【0048】
(非晶質ガラスの製造)
本発明にかかる非晶質ガラスは、たとえば以下の方法で製造できる。なお、以下に記す製造方法は、板状のガラスを製造する場合の例である。
【0049】
好ましい組成のガラスが得られるようにガラス原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等により溶融ガラスを均質化し、公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。または、溶融ガラスをブロック状に成形して、徐冷した後に切断する方法で板状に成形してもよい。
【0050】
(結晶化処理)
上記の手順で得られた非晶質ガラスを加熱処理することで結晶化ガラスが得られる。
【0051】
加熱処理は、室温から第一の処理温度まで昇温して一定時間保持した後、第一の処理温度より高温である第二の処理温度に一定時間保持する二段階の加熱処理によってもよい。二段階の加熱処理後に、さらに第三の処理温度に一定時間保持する三段階の加熱処理をおこなってもよい。または、特定の処理温度に保持した後、室温まで冷却する1段階の加熱処理によってもよい。
【0052】
二段階の加熱処理による場合、第一の処理温度は、そのガラス組成において結晶核生成速度が大きくなる温度域が好ましく、第二の処理温度は、そのガラス組成において結晶成長速度が大きくなる温度域が好ましい。三段階の加熱処理による場合、第一の処理温度と第二の処理温度を結晶核生成速度が大きくなる温度とし、第三の処理温度を結晶成長速度が大きくなる温度とするのが好ましい。または、第一の処理温度を結晶核生成速度が大きくなる温度とし、第二の処理温度と第三の処理温度を結晶成長速度が大きくなる温度としてもよい。
また、第一の処理温度での保持時間は、充分な数の結晶核が生成するように長く保持することが好ましい。多数の結晶核が生成することで、各結晶の大きさが小さくなり、透明性の高い結晶化ガラスが得られる。
【0053】
二段階の処理による場合は、例えば500℃~700℃の第一の処理温度で1時間~6時間保持した後、例えば600℃~800℃の第二の処理温度で1時間~6時間保持することが挙げられる。
三段階の処理による場合は、例えば500℃~600℃の第一の処理温度で1時間~6時間保持した後、例えば550℃~650℃の第二の処理温度で1時間~6時間保持した後、例えば600℃~800℃の第二の処理温度で1時間~6時間保持することが挙げられる。一段階の処理による場合は、例えば500℃~800℃で1時間~6時間保持することが挙げられる。
【0054】
上記手順で得られた結晶化ガラスを必要に応じて研削及び研磨処理して、結晶化ガラス板を形成する。結晶化ガラス板を所定の形状及びサイズに切断したり、面取り加工を行ったりする場合、化学強化処理を施す前に、切断や面取り加工を行えば、その後の化学強化処理によって端面にも圧縮応力層が形成されるため、好ましい。
【0055】
本結晶化ガラスは化学強化できる。
(化学強化処理)
化学強化処理は、大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはKイオン)を含む金属塩(例えば、硝酸カリウム)の融液に浸漬する等の方法で、ガラスを金属塩に接触させることにより、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオン(典型的には、NaイオンまたはLiイオン)が大きなイオン半径の金属イオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)と置換させる処理である。
【0056】
化学強化処理の速度を速くするためには、ガラス中のLiイオンをNaイオンと交換する「Li-Na交換」を利用することが好ましい。またイオン交換により大きな圧縮応力を形成するためには、ガラス中のNaイオンをKイオンと交換する「Na-K交換」を利用することが好ましい。
【0057】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。このうち硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀などが挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
化学強化処理の処理条件は、ガラス組成や溶融塩の種類などを考慮して、時間及び温度等を選択できる。例えば、本結晶化ガラスを好ましくは600℃以下、より好ましくは500℃以下にて好ましくは20時間以下、化学強化処理することが挙げられる。
【0059】
本結晶化ガラスを化学強化して得られる化学強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器等の電子機器に用いられるカバーガラスとしても有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等の電子機器のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)にも有用である。また、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲面形状を有する筺体等にも有用である。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれによって限定されない。例1、2、7、11が実施例である。
【0061】
<非晶質ガラスおよび結晶化ガラスの作製>
表1~2の組成欄に酸化物基準のモル%表示で示したガラス組成となるようにガラス原料を調合し、400gのガラスが得られるように秤量した。ついで、混合したガラス原料を白金るつぼに入れ、1600℃の電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。
得られたガラスを型に流し込み、475℃で1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。
【0062】
ガラス板を表1、2の結晶化条件欄に示した条件で加熱処理して結晶化ガラス板を得た。結晶化条件欄の記載は、例えば上段に「540℃4h」、中段に「600℃4h」、下段に「700℃4h」とある場合、室温から540℃まで昇温して4時間保持した後、600℃まで焼損して4時間保持し、さらに700℃まで昇温して4時間保持した後、室温まで降温したことを示す。
得られた結晶化ガラスブロックを切断し、研削および研磨して、30×30×0.7mmの結晶化ガラス板を得た。
【0063】
<評価>
得られた結晶化ガラス板について異物やチラつき等の外観不良の有無を目視で観察した。
また、顕微鏡を用いて、長径が10~50μmである気泡の個数を計測した。
また、分光光度計(PerkinElmer社製;LAMBDA950)に検出器として積分球ユニット(150mm InGaAs Int. Sptere)を用い、積分球に結晶化ガラス板を密着させて可視光透過率を測定した。
【0064】
また、結晶化ガラスの一部を粉砕して粉末エックス線回折によって析出結晶を同定し、リートベルト法で結晶化率を見積もった。結晶の種類を表1~2の結晶欄に示す。ここでPEはペタライト結晶、LDはリチウムダイシリケート結晶、SPはβスポジュメン結晶、LSはリチウムメタシリケート結晶、LPはリチウムフォスフェート結晶を意味する。また、2以上の結晶が表示されている場合は、上段に示す結晶が主結晶である。
(X線回折測定条件)
測定装置:リガク社製 Smart Lab
使用X線:CuKα線
測定範囲:2θ=10°~80°
スピード:1°/分
ステップ:0.01°
【0065】
【0066】
【0067】
例1と例4、例2と例5、例3と例6、例7と例9、例8と例10を比較すると,SnO2を含有する例は、SnO2を含有しないことを除いてほぼ同組成のガラスを同じ条件で結晶化した場合と比較して気泡が少ないことがわかる。
また、例1と例4、例2と例5、例7と例9を比較すると、気泡が少ない場合に外観不良が少ない。しかし、例3と例6、例8と例10を比較すると、気泡が多い例6、例10も外観不良は少ない。したがって結晶化率が高い場合に、気泡を減らすことで外観不良を抑制できることがわかる。