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特開2022-54108II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法
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  • 特開-II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054108
(43)【公開日】2022-04-06
(54)【発明の名称】II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220330BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20220330BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220330BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161110
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】520373338
【氏名又は名称】株式会社さくらコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】000226862
【氏名又は名称】日水製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
(72)【発明者】
【氏名】山崎 伸二
(72)【発明者】
【氏名】アワスチ シャルダ プラサダ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】II型細胞膨化致死毒素産生菌を効率良く検出する。
【解決手段】
II型細胞膨化致死毒素産生菌であるエシェリキア・アルバーティによる汚染可能性を判定する方法であって、判定対象である試料又は当該試料から抽出したDNAと接触させて当該試料中の対象遺伝子断片を増幅させる工程を有し、当該対象遺伝子断片を増幅させる工程において、好ましくは、配列番号48~58で示される塩基配列を有するプライマーの何れかと、配列番号59~67で示される塩基配列を有するプライマーの何れかからなるプライマーセットを用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法であって、
判定対象である試料又は当該試料から抽出したDNAと接触させて、当該試料中の対象遺伝子断片を増幅させる工程を有し、
当該対象遺伝子断片を増幅させる工程において、次のプライマーセットを用いる方法。
それぞれII型細胞膨化致死毒素遺伝子に相補的に結合可能な塩基配列を有し、
配列番号1で示される塩基配列を有する塩基数が20~24であるプライマーからなるプライマー群6Fと、配列番号3で示される塩基配列を有する塩基数が17~21であるプライマーからなるプライマー群7Fと、配列番号5で示される塩基配列を有する塩基数が17~22のプライマーからなるプライマー群8Fと、配列番号68で示される塩基配列を有するプライマー(1845F)からなる群から選ばれる1つのフォワード側プライマーと、
配列番号2で示される塩基配列を有する塩基数が16~20であるプライマーからなるプライマー群6Rと、配列番号4で示される塩基配列を有する塩基数が17~21であるプライマーからなるプライマー群7Rと、配列番号6で示される塩基配列を有する塩基数が16~21であるプライマーからなるプライマー群8Rと、配列番号70で示される塩基配列を有するプライマー(IchiR)から選ばれる1つのリバース側プライマーとの組み合わせからなり、
前記フォワード側プライマーと前記リバース側プライマーの組み合わせが、
プライマー群6Fとプライマー群6R、プライマー群6Fとプライマー群7R、プライマー群6Fとプライマー群8R、プライマー群7Fとプライマー群7R、プライマー群7Fとプライマー群8R、プライマー群8Fとプライマー群7R、プライマー群8Fとプライマー群8R、プライマー群6FとプライマーIchiR、プライマー1845Fとプライマー群7Rとなるプライマーセットであるか、又はこれらの当該プライマーセットの各塩基配列に1~3個の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーセット。
【請求項2】
II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法であって、
判定対象である試料又は当該試料から抽出したDNAと接触させて、当該試料中の対象遺伝子断片を増幅させる工程を有し、
当該対象遺伝子断片を増幅させる工程において、次のプライマーセットを用いる方法。
配列番号7~15で示される塩基配列からなるプライマーからなるプライマー群6Fと、配列番号27~36で示される塩基配列からなるプライマーからなるプライマー群7Fと、配列番号48~58で示される塩基配列からなるプライマーからなるプライマー群8Fと、配列番号68で示される塩基配列からなるプライマー(1845F)とからなる群から選ばれる1つのフォワード側プライマーと、
配列番号17~22及び24、25で示される塩基配列からなるプライマーからなるプライマー群6Rと、配列番号38~46で示される塩基配列からなるプライマーからなるプライマー群7Rと、配列番号59~67で示される塩基配列からなるプライマーからなるプライマー群8Rと、配列番号70で示される塩基配列からなるプライマー(IchiR)からなる群から選ばれる1つのリバース側プライマーとの組み合わせからなり、
前記フォワード側プライマーと前記リバース側プライマーの組み合わせが、
プライマー群6Fとプライマー群6R、プライマー群6Fとプライマー群7R、プライマー群6Fとプライマー群8R、プライマー群7Fとプライマー群7R、プライマー群7Fとプライマー群8R、プライマー群8Fとプライマー群7R、プライマー群8Fとプライマー群8R、プライマー群6FとプライマーIchiR、プライマー1845Fとプライマー群7Rとなるプライマーセットであるか、又はこれらのプライマーセットの各塩基配列に1~3個の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーセット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の何れかに記載の方法において、
前記フォワード側プライマーと前記リバース側プライマーの組み合わせが、
プライマー群6Fとプライマー群6R、プライマー群7Fとプライマー群7R、プライマー群8Fとプライマー群8Rである方法。
【請求項4】
II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法であって、
判定対象である試料又は当該試料から抽出したDNAと接触させて、当該試料中の対象遺伝子断片を増幅させる工程を有し、
当該対象遺伝子断片を増幅させる工程において、次の(1)~(4)のプライマーセットの何れかを用いる方法。
(1)配列番号7で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーと、
配列番号17、配列番号38、配列番号59、配列番号70の何れかで示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーからなるプライマーセット
(2)配列番号27で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーと、
配列番号38又は59で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーからなるプライマーセット
(3)配列番号48で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーと、
配列番号38又は59で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーからなるプライマーセット
(4)配列番号68で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーと、
配列番号38で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーからなるプライマーセット
【請求項5】
前記II型細胞膨化致死毒素産生菌は、エシェリキア・アルバーティである請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
II型細胞膨化致死毒素遺伝子の一部領域を増幅するためのプライマーセットであって、
それぞれII型細胞膨化致死毒素遺伝子に相補的に結合可能な塩基配列を有し、
配列番号1で示される塩基配列を有する塩基数が20~24であるプライマーからなるプライマー群6Fと、配列番号3で示される塩基配列を有する塩基数が17~21であるプライマーからなるプライマー群7Fと、配列番号5で示される塩基配列を有する塩基数が17~22のプライマーからなるプライマー群8Fと、配列番号68で示される塩基配列を有するプライマー(1845F)からなる群から選ばれる1つのフォワード側プライマーと、
配列番号2で示される塩基配列を有する塩基数が16~20であるプライマーからなるプライマー群6Rと、配列番号4で示される塩基配列を有する塩基数が17~21であるプライマーからなるプライマー群7Rと、配列番号6で示される塩基配列を有する塩基数が16~21であるプライマーからなるプライマー群8Rと、配列番号70で示される塩基配列を有するプライマー(IchiR)から選ばれる1つのリバース側プライマーとの組み合わせからなり、
前記フォワード側プライマーと前記リバース側プライマーの組み合わせが、
プライマー群6Fとプライマー群6R、プライマー群6Fとプライマー群7R、プライマー群6Fとプライマー群8R、プライマー群7Fとプライマー群7R、プライマー群7Fとプライマー群8R、プライマー群8Fとプライマー群7R、プライマー群8Fとプライマー群8R、プライマー群6FとプライマーIchiR、プライマー1845Fとプライマー群7Rとなるプライマーセットであるか、又はこれらの当該プライマーセットの各塩基配列に1~3個の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーセット。
【請求項7】
II型細胞膨化致死毒素遺伝子の一部領域を増幅するためのプライマーセットであって、
配列番号7~15で示される塩基配列を有するプライマーからなるプライマー群6Fと、配列番号27~36で示される塩基配列を有するプライマーからなるプライマー群7Fと、配列番号48~58で示される塩基配列を有するプライマーからなるプライマー群8Fと、配列番号68で示される塩基配列を有するプライマー(1845F)とからなる群から選ばれる1つのフォワード側プライマーと、
配列番号17~22及び24、25で示される塩基配列を有するプライマーからなるプライマー群6Rと、配列番号38~46で示される塩基配列を有するプライマーからなるプライマー群7Rと、配列番号59~67で示される塩基配列を有するプライマーからなるプライマー群8Rと、配列番号70で示される塩基配列を有するプライマー(IchiR)からなる群から選ばれる1つのリバース側プライマーとの組み合わせからなり、
前記フォワード側プライマーと前記リバース側プライマーの組み合わせが、
プライマー群6Fとプライマー群6R、プライマー群6Fとプライマー群7R、プライマー群6Fとプライマー群8R、プライマー群7Fとプライマー群7R、プライマー群7Fとプライマー群8R、プライマー群8Fとプライマー群7R、プライマー群8Fとプライマー群8R、プライマー群6FとプライマーIchiR、プライマー1845Fとプライマー群7Rとなるプライマーセットであるか、又はこれらのプライマーセットの各塩基配列に1~3個の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーセット。
【請求項8】
次の(1)~(4)の何れかで示されるプライマーセット。
(1)配列番号7で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーと、
配列番号17、配列番号38、配列番号59、配列番号70の何れかで示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーからなるプライマーセット
(2)配列番号27で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーと、
配列番号38又は59で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーからなるプライマーセット
(3)配列番号48で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーと、
配列番号38又は59で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーからなるプライマーセット
(4)配列番号68で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーと、
配列番号38で示される塩基配列からなるプライマー又は当該塩基配列に1~3の塩基が挿入、欠損又は置換されたプライマーからなるプライマーセット
【請求項9】
II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定するための測定キットであって、
請求項6~8の何れか1項に記載のプライマーセットを含む測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はII型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食中毒の原因菌の一つとしてエシェリキア・アルバーティ(Escherichia albertii)が注視されている。この細菌(以下「アルバーティ菌」と言う場合がある。)は、大腸菌(Escherichia coli)O157などと同様に腸管性出血を引き起こす可能性が高く、大腸菌と生化学的性状が酷似しているだけでなく、共通の病原因子として腸粘膜への接着に関するインチミンをコードしたeae遺伝子や、細胞膨化致死毒素(Cytolethal Distending Toxin:CDT)関わる遺伝子(cdt遺伝子)も保有することからも、両者を厳密に区別することが必要とされる。
【0003】
両者を区別する方法として、特許文献1にはアルバーティ菌が分解しない糖とpH指示薬を含む培地が開示されている。この培地を用いて培養することで、エシェリキア属の細菌群からエシェリキア・アルバーティを検出することができる。ところが、この培地においては、赤痢菌やプロビデンシア菌も同じようなコロニーを形成するために、エシェリキア・アルバーティであることを特異的に検出する必要が求められる。
【0004】
CDTを産生する細菌は大腸菌やアルバーティ菌の他にも多数存在することが知られているが、大腸菌が産生するとされる5つのタイプのcdt(cdtI~V)遺伝子のうち、cdt-I遺伝子、cdt-III遺伝子、cdt-IV遺伝子、cdt-V遺伝子は、アルバーティ菌が保有するcdt遺伝子と相同性が低く、大腸菌の特定の株が保有するcdt-II遺伝子と相同性が高いことが明らかにされている(非特許文献1)。非特許文献1には、この知見を元にcdt-III遺伝子、cdt-V遺伝子に加え、プロビデンシア・アルカリファシエンス(P.alcalifaciens)のcdt遺伝子を対象にして、アルバーティ菌が保有するcdt-II遺伝子を検出できるPCR法(Eacdt PCR法)並びにネスティッドPCR法(Nested Eacdt PCR法)が開発されたことが明らかにされている。また、非特許文献2には当該Eacdt PCR法に用いられた配列番号69に示された塩基配列からなるプライマーと配列番号70に示された塩基配列からなるプライマーが開示されている。
【0005】
しかしながら、前者のEacdt PCR法では検出下限が十分ではないだけでなく、後者のネスティッドPCR法では2段階の増幅が必要であるために、1段階の増幅でcdt-II遺伝子を他の4つのタイプのcdt遺伝子と区別して検出できる新たなプライマーが求められる。さらにcdt-II遺伝子にも一塩基多型などの変異があることが想定されるため、できる限り多くのcdt-II遺伝子を検出できる方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-024418
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】安田 憲朋、II型細胞膨化致死毒素遺伝子保有大腸菌の菌種再同定から見出したEscherichia albertiiの検出法の開発と応用、インターネット、<URL:https://www.osakafu-u.ac.jp/osakafu-content/uploads/sites/428/k1798.pdf>
【非特許文献2】Atsushi Hinenoya et al.、 Diagnostic Microbiology and Infection Disease 95(2019) 119-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、ネスティッドPCRではなく1段階の増幅で検出が可能なPCRでII型細胞膨化致死毒素産生菌を特異的に検出できるPCR用のプライマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法であって、判定対象である試料又は当該試料から抽出したDNAと接触させて、当該試料中の対象遺伝子断片を増幅させる工程を有し、当該対象遺伝子断片を増幅させる工程において、特定のプライマーセットを用いる方法である。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、種々のCDT産生菌からII型細胞膨化致死毒素(II型CDT)遺伝子(cdt-II遺伝子)を特異的に検出し、当該CDT産生菌による汚染可能性を迅速に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1はcdt-II遺伝子に対してプライマーが結合する箇所及び増幅領域を示した説明図である。
図2図2はcdt-II遺伝子の塩基配列の一部及びプライマーが結合する箇所を示した説明図である。
図3図3は種々のプライマーセットを用いた増幅産物の電気泳動画像である。レーン1はアルバーティ菌を、レーン2はプロビデンシア・ルスティガニを、レーン3は大腸菌を、レーン4は対照である蒸留水を、レーンM1、レーンM2はそれぞれマーカーを示す。
図4図4は種々のプライマーセットを用いて得られた融解曲線の代表例を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明に係る方法は、II型細胞膨化致死毒素産生菌による汚染可能性を判定する方法であって、判定対象である試料又は当該試料から抽出したDNAと接触させて、当該試料中の対象遺伝子断片を増幅させる工程を有し、当該対象遺伝子断片を増幅させる工程において、特定のプライマーセットを用いる方法である。
【0013】
II型細胞膨化致死毒素遺伝子(cdt-II遺伝子)は公知である。非特許文献1によれば、cdt-II遺伝子は大腸菌の一種であるCTEC-II(II型細胞膨化致死毒素産生大腸菌)が保有しているとされているが、CTEC-IIはアルバーティ菌である可能性が高く、cdt-IIが検出された場合にはアルバーティ菌による汚染があったと推定し得る。
【0014】
本願発明において、II型CDT産生菌による汚染とは、生死を問わず試料中にcdt-II遺伝子を保有する細菌が存在することだけでなく、cdt-II遺伝子を保有する細菌の混入や対象遺伝子を含む異物の混入などによって試料中に対象遺伝子が存在することを意味し、汚染可能性があるとは何らかの理由から当該細菌によって汚染されたことが推定されることを意味する。従って、本願発明の方法により汚染されていると判定された場合であっても、必ずしも生菌の存在があったと断定することはできず、他の方法による細菌による汚染の確定が必要とされる。
【0015】
本願発明に係る方法は、判定対象である試料又は当該試料から抽出したDNAと接触させて、当該試料中の対象遺伝子断片を増幅させる工程を有する。この工程はいわゆるPCR(Polymerase Chain Reaction)と言われる方法である。この工程において本願発明では以下のプライマーセットが用いられる。
【0016】
用いられるプライマーセットは、望ましくはそれぞれcdt-II遺伝子に対して相補的に結合可能な塩基配列を有する。相補的に結合可能であるとはPCRを行う当業者が通常用いる意味で用いられ、各プライマーがcdt-II遺伝子に相対する塩基同士が結合し得ることを意味するが、本願発明におけるプライマーは完全に相補的に結合せずとも、1~3個の塩基が挿入、脱落、置換されたとしてもcdt-II遺伝子の一部領域を増幅できるものであればよい。cdt-II遺伝子はII型CDTを産生する遺伝子であり、cdt-II遺伝子には一塩基が異なる種々の多型が存在する。本願発明におけるプライマーセットは図2に示されたコンセンサス配列(配列番号71)を有するcdt-II遺伝子に対して相補的に結合するが、当該コンセンサス配列と異なる塩基配列を有するcdt-II遺伝子の一部領域も増幅し得る。なお、配列番号71に示された塩基配列はcdt-II遺伝子のコンセンサス配列(センス鎖)のうち、5´末端から数えて1300番目の塩基から1940番目までの641塩基を示している。
【0017】
本願発明に係るプライマーセットは、配列番号1に示される塩基配列を有する塩基数が20~24であるプライマーからなるプライマー群6Fと、配列番号3に示される塩基配列を有する塩基数が17~21であるプライマーからなるプライマー群7Fと、配列番号5に示される塩基配列を有する塩基数が17~22のプライマーからなるプライマー群8Fと、配列番号68に示される塩基配列(TAATGATTCGAACGCCAAAC)を有するプライマー(1845F)とからなる群から選ばれる1つのフォワード側プライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有する塩基数が16~20であるプライマーからなるプライマー群6Rと、配列番号4に示される塩基配列を有する塩基数が17~21であるプライマーからなるプライマー群7Rと、配列番号6に示される塩基配列を有する塩基数が16~21であるプライマーからなるプライマー群8Rと、配列番号70に示される塩基配列(CTATTTCCCATCCAATAGTCT)を有するプライマー(IchiR)から選ばれる1つのリバース側プライマーとの組み合わせからなり、前記フォワード側プライマーと前記リバース側プライマーの組み合わせが、プライマー群6Fとプライマー群6R、プライマー群6Fとプライマー群7R、プライマー群6Fとプライマー群8R、プライマー群7Fとプライマー群7R、プライマー群7Fとプライマー群8R、プライマー群8Fとプライマー群7R、プライマー群8Fとプライマー群8R、プライマー群6FとプライマーIchiR、プライマー1845Fとプライマー群7Rとなるプライマーセットである。
【0018】
より具体的に言うと、前記フォワード側プライマーは、例えば、前記プライマー群6Fでは配列番号7~15で示される塩基配列を有するプライマーから選択され、前記プライマー群7Fでは配列番号27~36で示される塩基配列を有するプライマーから選択され、前記プライマー群8Fでは配列番号48~58で示される塩基配列を有するプライマーから選択され得る。また、前記リバース側プライマーは、例えば、前記プライマー群6Rでは配列番号17~22及び24、25で示される塩基配列を有するプライマーから選択され、前記プライマー群7Rでは配列番号38~46で示される塩基配列を有するプライマーから選択され、プライマー群8Rでは配列番号59~67で示される塩基配列を有するプライマーから選択され得る。
【0019】
本願発明においてフォワード側プライマー、リバース側プライマーはいわゆる当業者が通常用いる意味で用いられ、フォワード側プライマーはcdt-II遺伝子のアンチセンス鎖に結合するように設計されたプライマーを意味し、リバース側プライマーはcdt-II遺伝子のセンス鎖に結合するように設計されたプライマーを意味する。
【0020】
図1図2には各プライマーがcdt-II遺伝子へ結合する位置を示した。図1に示された数字は、cdt-II遺伝子の5´末端からの塩基位置を示している。また、図1図2に示された6F、7F、8F、6R、7R、8Rはそれぞれ前記プライマー群6F、プライマー群7F、プライマー群8F、プライマー群6R、プライマー群7R、プライマー群8Rの各群においてそれぞれ代表的なプライマーである配列番号7に記載された塩基配列(TCAGATAGATGAATTAGGAAAAG)からなるプライマー(6F)、配列番号27に記載された塩基配列(TGTGAAAACACCTGAAGAAG)からなるプライマー(7F)、配列番号48に記載された塩基配列(GAGAGACTATTGGATGGGAAA)からなるプライマー(8F)、配列番号17に記載された塩基配列(TTCTTCAGGTGTTTTCACA)からなるプライマー(6R)、配列番号38に記載された塩基配列(CGTCATTTTTAGCAGGTTCC)からなるプライマー(7R)、配列番号59に記載された塩基配列(TGGTCTGTGTTTGGCGTTCG)からなるプライマー(8R)の結合位置を示す。
【0021】
本願発明では、フォワード側プライマーとリバース側プライマーの組み合わせは、前記の組み合わせであればいずれの組み合わせでもよいが、好ましくはプライマー群7Fとプライマー群7Rの組み合わせであるか、プライマー群8Fとプライマー群8Rの組み合わせであり、望ましくはプライマー群8Fとプライマー群8Rの組み合わせである。
【0022】
対象となる試料は、cdt-II遺伝子を保有する細菌(生菌、死菌を問わず)が存在し得る試料に限られず、cdt-II遺伝子が存在し得る試料であればよく、ヒト、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなど各種動物の吐瀉物、糞、食品等であり得る。増幅には、これらの試料を直接サンプルとして用いてもよいが、好ましくはこれらの試料から抽出された増幅用のテンプレートDNA(鋳型DNA)が用いられる。テンプレートDNAの抽出、作製も特段限定されることなく、常法によって得られる。
【0023】
用いられるプライマーの濃度やテンプレートの使用量も限定されず、適宜調整され得る。本願発明においても、その増幅には前記プライマー(プライマーセット)の他に、PCRにおいて通常用いられる緩衝剤やDNAポリメラーゼなどが用いられる。これらの緩衝剤やDNAポリメラーゼも限定されず、また使用濃度も適宜当業者によって決定され得る。
【0024】
緩衝剤としては、例えば、トリス(TRIS)、トリシン(TRICINE)、ビス-トリシン(BIS-TRICINE)、へペス(HEPES)、モプス(MOPS)、テス(TES)、タプス(TAPS)、ピペス(PIPES)、キャプス(CAPS)が挙げられる。また、PCRの反応液中には、1.0~5mM程度のMg2+を含ませて反応させるのが好ましく、さらもKClも含ませて反応させることもできる。
【0025】
DNAポリメラーゼとして、公知である好ましくは耐熱性細菌由来のポリメラーゼが使用でき、例えば、上市されているもの(以下はそれぞれ商品名である)として、ファミリーA(PolI型)に属するTaq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、ファミリーB(α型)に属するKOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Pwo DNAポリメラーゼ、Ultima DNAポリメラーゼ、PrimeSTAR DNAポリメラーゼが挙げられる。耐熱性DNAポリメラーゼは、抽出物に限らず組換え体によるものであってもよく、天然のポリメラーゼのアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を有する変異体であってもよい。DNAポリメラーゼは1種又は2種以上が用いられる。
【0026】
増幅工程における増幅条件(増幅温度や増幅サイクル、保持時間など)はPCRを行う当業者の常識に基づいて設定され得る。その一例として実施例に記載の条件が示される。
【0027】
汚染可能性は増幅工程により増幅された増幅産物の有無やその量で判定される。増幅産物の有無やその量を判定する方法として、増幅工程後の反応液中の増幅産物を電気泳動して判定する電気泳動法、蛍光物質を利用したサイクリングプローブ法やプローブ法(5´ヌクレアーゼ法)、インターカレーター法が示される。これらの判定方法はいずれも公知である。汚染可能性の判定にはいずれの判定方法を用いることもできるが、リアルタイムPCRに比較的簡便な方法として利用できるインターカレーター法が好ましい。
【0028】
インターカレーター法に用いられるインターカレーターは、2本鎖DNA間に挿入されることで蛍光を発し、2本鎖DNAが解離することで消光する蛍光物質であれば、特に限定されることなく用いられる。例えば、上市されているもの(以下はそれぞれ商品名である)として、例えば、Ethidium bromide、シアニン色素(例えば、TOTO、YOYO、BOBO、POPO)、SYBR Green I、SYBR Green ER、SYBR Green Gold、SYBR DX、PicoGreen、LCGreen、EvaGreen、SYTOX Green、ResoLight、Acridine orange、CyQUANT GR、SYTO 9、SYTO 10、SYTO 13、SYTO 14、SYTO 82、FUN-1などが挙げられるが、特に限定されるものではない。もちろん、増幅産物の有無などを判定できる方法であれば例示の方法でなくとも差し支えない。また、インターカレーター法では融解曲線解析が行われるが、融解曲線解析時の条件も融解曲線解析を行う当業者の常識に基づいて設定され得る。PCRにおける増幅や融解曲線解析には市販のリアルタイムPCR装置が用いられ、融解曲線解析には用いられたリアルタイムPCR装置の操作マニュアルに従った条件が設定され得る。
【0029】
本願発明における測定用キットは、cdt-II遺伝子による汚染可能性を判定するための測定用キットであって、少なくとも一組の前記プライマーセットを含む。この測定用キットは、対象試料中に存在するcdt-II遺伝子を増幅し、cdt-II遺伝子を保有する菌による汚染可能性を調べるために使用されるキットであって、前記プライマーセットの他に、緩衝剤やDNAポリメラーゼ、増幅産物を検出するためのサイクリングプローブやインターカレーターなどを含み得る。
【0030】
次に本願発明について以下の実施例に基づいてさらに説明するが、本願発明は下記の実施例に限定されることのないのは言うまでもない。
【実施例0031】
由来が公知であるアルバーティ菌であると同定された表1に示す38菌株についてcdt-II遺伝子の塩基配列を解析することで、cdt-II遺伝子の塩基配列(コンセンサス配列:Majority配列)を求めた。なお、コンセンサス配列を決定した38菌株のアルバーティ菌には、基準株(ATCC)であるE. albertii(Albert19982)が含まれるが、他の37菌株は、その全てが当該基準株の塩基配列と同じ塩基配列を有するものではなく、図1に示す塩基配列(比較的保存性が高いと認められた1300~1940番目の塩基)の領域を含めてcdt-II遺伝子の随所に一塩基多型が認められた。このcdt-II遺伝子のコンセンサス配列並びにcdt-I遺伝子(NT3363-cdtI)、cdt-III遺伝子(PII4-cdtIII)、cdt-IV遺伝子(P159-cdtIV)、cdt-V遺伝子(P336-cdtV)の各塩基配列、アルバーティ菌のcdt-II遺伝子と比較的相同性が高いとされているプロビデンシア・ルスティガニ(Providencia rustigianii:JHI株)のcdt遺伝子(JHI-Prcdt)、プロビデンシア・アルカリファシエンス(P. alcalifaciens:AH31株)のcdt遺伝子(AH31-Pacdt)の塩基配列から、表2に示すSet1~Set8までのプライマーセットを作成してリアルタイムPCTを行った。表2のサンプル名(Sample Name)中の各セットにはフォワード側(上段)の開始位置とプライマーの塩基数及びリバース側(下段)の開始位置とプライマーの塩基数を示し、例えばSet6のフォワード側プライマーは1672番目の塩基から始まる23個の塩基で構成される配列番号7に示す塩基配列を有するプライマー(6F)、リバース側プライマーは1816番目の塩基から始まる19個の塩基で構成される配列番号17に示す塩基配列を有するプライマー(6R)を示し、Set7のフォワード側プライマーは1798番目の塩基から始まる20個の塩基で構成される配列番号27に示す塩基配列を有するプライマー(7F)、リバース側プライマーは1915番目から始まる20個の塩基で構成される配列番号38に示す塩基配列を有するプライマー(7R)を、Set8のフォワード側プライマーは1770番目から始まる21個の塩基で構成される配列番号48に示す塩基配列を有するプライマー(8F)、リバース側プライマーは1872番目から始まる20個の塩基で構成される配列番号59に示す塩基配列を有するプライマー(8R)を示す。その結果、Set1~Set5のプライマーセットでは融解曲線解析におけるTm値(2本鎖DNAの50%が1本鎖DNAに解離すると判断される温度:℃)において十分な分離が見られなかったり、増幅産物の電気泳動画像(図示せず)から他の菌種と区別してアルバーティ菌を検出できないと判断された。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
次に上記のSet6~Set8のプライマーセットを用いて、特異性の検討、つまり他の菌種と区別して検出できるか否かの検討を行った。対象とした菌種は表3に示すとおり、E. albertiiの39菌株とE. albertii以外の26菌種28菌株の全67菌株である。
【0035】
鋳型DNAは細菌から常法に従って調製し、鋳型DNA溶液1μL、DNAポリメラーゼ溶液(Go Taq qPCR Master Mix:プロメガ社製商品名)10μL、フォワード側プライマー溶液(10μM)及びリバース側プライマー溶液(10μM)各7μLに水を加えて全量20μLとした反応液を調製した。
【0036】
当該溶液について表4に示す条件により増幅を行い、その後融解曲線解析を行った(以下、同じ条件でリアルタイムPCRを行った。)。その結果、いずれのプライマーセットを用いた場合でも全てのアルバーティ菌によるTm値を観測し、cdt-II遺伝子を増幅できた。一方、他の28菌株においてはTm値が観測されず、アルバーティ菌の保有するcdt-II遺伝子のみを検出できることが確認された。
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
次に、Set8のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR(Real-Time PCR)と非特許文献1におけるEacdt法(IchiFとIchiRのプライマーセットを用いたリアルタイムPCR)との比較を行った。対象としてアルバーティ菌による感染が多く見られるアライグマを用いた。アライグマの直腸をスワブして検体を採取した後、検体をPBSに懸濁させた後TSBで10倍に希釈した。遠心分離後、沈殿物を水酸化ナトリウム液で分解、酸で中和することで鋳型DNAを調製した。その結果を表5に示す。その結果、陽性の検出率がEacdt法で67%であったのが、77%に向上した。なお、非特許文献1におけるIchiFとIchiRのプライマーセットは、CTEC-II(cdt-II遺伝子保有大腸菌)に分類されていた大腸菌が保有するcdt-II遺伝子における保存性が高い領域から設計された。
【0039】
【表5】
【実施例0040】
セット6~8のプライマーセットを元にして表6~8に示す改変プライマーを作製し、E. albertii AKT5の検出を試みた。表6はセット6のプライマー(1672F:図1中の6Fと1816R:図1中の6R)を元にした改変プライマーを、表7はセット7のプライマー(1798F:図1の7Fと1915R:図1の7R)を、表8はセット8のプライマー(1770F:図1の8Fと1872R:図1の8R)を元にした改変プライマーをそれぞれ使用した場合を示す。各表の上段はフォワード側プライマーを、各表の下段はリバース側プライマーを示し、各表において改変後のフォワード側プライマーに対して改変前のリバース側プライマーを組み合わせたプライマーセットとしてリアルタイムPCRを行い、改変後のリバース側プライマーに対して改変前のフォワードプライマーを組み合わせたプライマーセットとしてそれぞれリアルタイムPCRを行った。表にあるかっこ内の数字はTm値を示す。
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
【表8】
【実施例0044】
セット6~セット8の各プライマーセットは最大でも250bp程度の領域を増幅するものであるので、これらのセットにおける各フォワード側プライマーと各リバース側プライマーを相互に組み合わせたSetA~SetI(図3参照)を用いて、E.albertii(Eacdt)、P.rustigainii(Prcdt)、E.coli(CTEC-III)の検出を試みた。ここではフォワード側プライマー、リバース側プライマーとして、配列番号7の塩基配列からなるプライマー(6F)、配列番号27の塩基配列からなるプライマー(7F)、配列番号48の塩基配列からなるプライマー(8F)、配列番号68の塩基配列からなるプライマー(1845F)、配列番号17の塩基配列からなるプライマー(6R)、配列番号38の塩基配列からなるプライマー(7R)、配列番号59の塩基配列を有するプライマー(8R)、配列番号70の塩基配列からなる(IchiR)を用いた。なお、プライマー(8F)とプライマー(6R)の組み合わせ及びプライマー(7F)とプライマー(6R)の組み合わせはそれぞれ増幅領域が狭いなどの理由により検出を試みなかった。その結果を図3及び図4に示した。
また、特に良好に検出できたSetA、SetB及びSetDからSetIについてアライグマの糞便中のE. albertii(Eacdt)の検出を試みた。その結果を表9に示す。表9中の菌株名(Strain ID)は自然界で捕獲されたアライグマの直腸から検出された菌株名を示す。
【0045】
【表9】
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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