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特開2022-55068粉体物性予測システム、粉体物性予測方法および粉体物性予測用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055068
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】粉体物性予測システム、粉体物性予測方法および粉体物性予測用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16C 60/00 20190101AFI20220331BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20220331BHJP
   G06T 7/62 20170101ALI20220331BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20220331BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20220331BHJP
   G01B 11/30 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
G16C60/00
G06T7/00 350B
G06T7/62
G01B11/02 H
G01B11/24 R
G01B11/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162437
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】518293424
【氏名又は名称】田原 耕平
(71)【出願人】
【識別番号】518089159
【氏名又は名称】株式会社ナノシーズ
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】田原 耕平
(72)【発明者】
【氏名】島田 泰拓
(72)【発明者】
【氏名】堀田 幹則
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 彰紘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直樹
【テーマコード(参考)】
2F065
5L096
【Fターム(参考)】
2F065AA21
2F065AA48
2F065AA50
2F065AA58
2F065BB05
2F065FF04
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065QQ23
2F065QQ24
2F065QQ26
2F065QQ29
2F065QQ31
2F065QQ41
5L096AA06
5L096BA18
5L096CA18
5L096DA02
5L096FA32
5L096FA33
5L096FA59
5L096FA64
5L096FA65
5L096FA68
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】粉体の物性をより簡便に評価できる技術を提供する。
【解決手段】粉体を構成する粒子の形状を特徴付ける形状パラメータと当該粉体の物性データとの関係に基づき、予測対象の粉体に係る前記形状パラメータが入力された場合に前記予測対象の物性データを予測する物性データ予測モデルを記憶した物性データ予測モデル記憶部105と、被計測対象の粉体の画像を解析し、前記被計測対象の前記粉体の粒度分布および形状を特徴付ける形状パラメータを算出する画像解析部102と、前記画像解析部102が得た前記形状パラメータを前記物性データ予測モデルに入力することで、前記被計測対象の前記粉体の物性データを予測する粉体の物性データ予測部106とを備える粉体物性予測システム。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体の画像の画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データに基づき、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータを算出する形状パラメータ算出部と、
前記形状パラメータに基づき当該粉体の流動性を示す物性データを予測する粉体の物性データ予測部と
を備える粉体物性予測システム。
【請求項2】
粉体を構成する粒子の粒度分布および当該粒子の形状を特徴付ける形状パラメータと当該粉体の物性データとの関係に基づき、予測対象の粉体に係る前記形状パラメータが入力された場合に前記予測対象の粉体の物性データを予測する物性データ予測モデルを記憶した物性データ予測モデル記憶部と、
前記予測対象の粉体の画像を解析し、前記予測対象の粉体の形状を特徴付ける形状パラメータを算出する画像解析部と、
前記予測対象の粉体の粒度分布および前記画像解析部が得た前記形状パラメータを前記物性データ予測モデルに入力することで、前記予測対象の粉体の物性データを予測する粉体の物性データ予測部と
を備える粉体物性予測システム。
【請求項3】
前記物性データは、粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)から選ばれた少なくとも一つであり、
前記形状パラメータは、粒子の凸度、円形度、凹凸度、線形度、楕円の長軸と短軸の比の少なくとも一つである請求項1または2に記載の粉体物性予測システム。
【請求項4】
前記粉体の画像を二次元の投影像にしたものを対象として、
前記凸度は、粒子の突起を結ぶ輪郭の最短の周囲長をC1、当該粒子の投影像における実際の周囲長をC2として、粒子の凸度=100(1-(C1/C2))で定義され、
前記粒子の円形度は、円形度=(4π×粒子の面積)/C2で定義され、
前記粒子の凹凸度は、凹凸度=C2/(4π×粒子の面積)で定義され、
前記粒子の線形度は、粒子の突起同士を結ぶ粒子内の最長な直線の長さをLとして、線形度=πL/(4×粒子の面積)で定義される請求項3に記載の粉体物性予測システム。
【請求項5】
前記形状パラメータとして、均整度、空間充足度、球形度、表面粗度から選ばれた一または複数が利用される請求項1~4のいずれか一項に記載の粉体物性予測システム。
【請求項6】
前記物性データ予測モデルは、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、サポートベクター回帰から選ばれた1または複数を用いて、前記予測対象の粉体の前記粒度分布および前記形状パラメータと、前記予測対象の粉体の流動性に係る物性データとの関係を機械学習させることで得たものである請求項2に記載の粉体物性予測システム。
【請求項7】
粉体を構成する粒子の画像の画像データの取得と、
前記画像データに基づく、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出と、
前記形状パラメータに基づく当該粉体の流動性を示す物性データの予測と
を行う粉体物性予測方法。
【請求項8】
コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、
コンピュータに
粉体を構成する粒子の画像の画像データの取得と、
前記画像データに基づく、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出と、
前記形状パラメータに基づく当該粉体の流動性を示す物性データの予測と
を実行させる粉体物性予測用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の物性を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、薬品、食品、セラミック製品、金属製品、化粧品、電子部品、トナー、3Dプリンタの原料、各種製品の材料として各種の粉体(粉末)が利用される。粉体は、付着性、流動性、圧縮性といった物性の評価が重要となる。この粉体の物性を評価する手法や装置については、例えば非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】粉体工学会誌2017年54巻2号p.90-96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の技術は有効であるが、専用の計測装置が必要であり、また試料の扱いや計測機器を扱うための専門技術や専門知識が必要となる。また、現状の技術では、試料として、100g単位の粉体が必要であるが、医薬品等ではg単位の試料を用意することが容易でない場合がある。このような背景において、本発明は、粉体の物性をより簡便に評価できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、粉体を構成する粒子の画像の画像データを取得する画像データ取得部と、前記画像データに基づき、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータを算出する形状パラメータ算出部と、前記形状パラメータに基づき当該粉体の流動性を示す物性データを予測する粉体の物性データ予測部とを備える粉体物性予測システムである。
【0006】
また、本発明は、粉体を構成する粒子の粒度分布および当該粒子の形状を特徴付ける形状パラメータと当該粉体の物性データとの関係に基づき、予測対象の粉体に係る前記形状パラメータが入力された場合に前記予測対象の粉体の物性データを予測する物性データ予測モデルを記憶した物性データ予測モデル記憶部と、前記予測対象の粉体の画像を解析し、前記予測対象の粉体の形状を特徴付ける形状パラメータを算出する画像解析部と、前記予測対象の粉体の粒度分布および前記画像解析部が得た前記形状パラメータを前記物性データ予測モデルに入力することで、前記予測対象の粉体の物性データを予測する粉体の物性データ予測部とを備える粉体物性予測システムである。
【0007】
本発明において、前記物性データは、粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)から選ばれた少なくとも一つであり、前記形状パラメータは、粒子の凸度、円形度、凹凸度、線形度、楕円の長軸と短軸の比の少なくとも一つである態様が挙げられる。
【0008】
本発明において、前記粉体の画像を二次元の投影像にしたものを対象として、前記凸度は、粒子の突起を結ぶ輪郭の最短の周囲長をC1、当該粒子の投影像における実際の周囲長をC2として、粒子の凸度=100(1-(C1/C2))で定義され、前記粒子の円形度は、円形度=(4π×粒子の面積)/C2で定義され、前記粒子の凹凸度は、凹凸度=C2/(4π×粒子の面積)で定義され、前記粒子の線形度は、粒子の突起同士を結ぶ粒子内の最長な直線の長さをLとして、線形度=πL/(4×粒子の面積)で定義される態様が挙げられる。
【0009】
本発明において、前記形状パラメータとして、均整度、空間充足度、球形度、表面粗度から選ばれた一または複数が利用される態様が挙げられる。本発明において、前記物性データ予測モデルは、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、サポートベクター回帰から選ばれた1または複数を用いて、前記予測対象の粉体の前記粒度分布および前記形状パラメータと、前記予測対象の粉体の流動性に係る物性データとの関係を機械学習させることで得たものである態様が挙げられる。
【0010】
本発明は、粉体を構成する粒子の画像の画像データの取得と、前記画像データに基づく、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出と、前記形状パラメータに基づく当該粉体の流動性を示す物性データの予測とを行う粉体物性予測方法として把握することもできる。
【0011】
本発明は、コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、コンピュータに粉体を構成する粒子の画像の画像データの取得と、前記画像データに基づく、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出と、前記形状パラメータに基づく当該粉体の流動性を示す物性データの予測とを実行させる粉体物性予測用プログラムとして把握することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粉体の物性をより簡便に評価できる技術が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】凸度と円形度の定義を示す図である。
図2】凹凸度、線形度、楕円の長軸と短軸の比の定義を示す図である。
図3】内部摩擦角の実証データである。
図4】粉体物性予測装置のブロック図である。
図5】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図6】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図7】テストデータの正答率を示す表である。
図8】評価値の定義の一例の表を示す図である。
図9】評価値の予測結果の一例の表を示す図である。
図10】粉体を構成する粒子のSEM画像を示す図面代用写真である。
図11】粉体を構成する粒子のSEM画像を示す図面代用写真である。
図12】SEM画像に対する画像処理の段階を示す図面代用写真である。
図13】粉体を構成する粒子の形状を特徴づける形状パラメータの一覧を示す図である。
図14】粉体を構成する粒子の物性データの一覧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.第1の実施形態
(概要)
以下、粉体の画像情報に基づき、当該粉体の物性(特に流動性に関する物性)を予測するシステムの概要について説明する。この技術では、まず、各種粉体の電子顕微鏡画像(SEM画像)を解析し、粒度分布と、粉体の構造や形状を特徴づける形状パラメータを得る。この粒度分布と形状パラメータが画像解析データとなる。他方で、リファレンスデータとして上記各種粉体のせん断試験データを、せん断測定装置を用いて実測する。このせん断試験データが実測した粉体の実測された物性データとなる。
【0015】
ここで、画像解析データと実測したせん断試験データの対応関係をAI学習モデルに機械学習させる。AI学習手法としては、ランダムフォレストを利用する。この技術では、画像解析データ(粒度分布および各種の形状パラメータ)とせん断試験データ(実測された物性データ)との間に強い相関関係があることを利用している。この相関関係をAI学習モデルに機械学習させ、物性データ予測モデルを作成する。そして、運用に当たっては、サンプルの粉体を撮影したSEM画像の画像解析データをAI学習で得た物性データ予測モデルに当てはめ(入力し)、せん断試験データの予測値(予測された物性データ)を得る。
【0016】
この方法によれば、粉体の物性を実測せずに画像(SEM画像)から、当該粉体の物性データの予測値を得ることができる。この作業は簡便であり、またSEM画像が得られるのであれば、熟練した技術や専門知識は必要とされない。また、サンプルの量は、SEM画像が得られる程度のものでよく、少量(μg単位)で可能である。
【0017】
例えば、ある粒度分布の特定の粉体に係り、以下のデータが得られたとする。
(画像解析データ)
形状パラメータA1,形状パラメータA2,・・・形状パラメータAn(n=1,2,3・・)
(せん断試験データ)
実測物性データA1,実測物性データA2,・・・実測物性データAn(n=1,2,3・・)
【0018】
この場合、形状パラメータAnと実測物性データAnの関係をAI学習する。すなわち、画像から得た形状パラメータAnと、測定装置で実測した実測物性データAnの関係がAI学習される。そして、この関係を他の粒度分布についても同様に学習する。また、他の粉体についても同様の学習を行う。この学習は、極力多くの多種多様なサンプルに対して行われる。
【0019】
上記の学習により、粒度分布および形状パラメータを入力、予測される物性データを出力とする物性データ予測モデル(予測関数)を得る。そして、対象となる粉体を撮影した画像を解析することで、当該粉体の粒度分布および形状パラメータを得、更にこの粒度分布および形状パラメータを上記物性データ予測モデルに入力し、当該粉体の物性データの予測値を得る。
【0020】
実際の作業では、粉体画像の撮影、コンピュータを用いたソフトウェア処理による粉体画像の解析、更にこの解析の結果に基づく物性データ予測モデルを用いた物性データの予測が行なわれる。この作業は、計測装置を用いた実測に比べて簡便である。また、粉体画像の撮影に必要な粉体の量は、μg程度でも可能であり、微量なサンプル量で粉体の物性データの予測が可能となる。
【0021】
(画像解析データ)
粉体の画像解析から得られる形状パラメータは、凸度、円形度、凹凸度、線形度、楕円の長軸と短軸の比の5つである。各形状パラメータは、画像中の全ての粒子について求められ、その平均値と標準偏差の値が算出される。
【0022】
上記の各形状パラメータは、粉体の画像を二次元の投影像にしたものを対象として図1および図2に定義される方法により求められる。図1に凸度と円形度の定義を示す。凸度は、どの程度窪んだ構造であるかを評価するパラメータである。凸度は、粒子の突起を結ぶ輪郭の最短の周囲長をC1、当該粒子の投影像における実際の周囲長をC2として、粒子の凸度=100(1-(C1/C2))で定義される。円形度は、円にどの程度近いかを評価するパラメータである。粒子の円形度は、円形度=(4π×粒子の面積)/C2で定義される。
【0023】
図2に凹凸度、線形度、楕円の長軸と短軸の比の定義を示す。凹凸度は、円形度の逆数であり、円からのズレの程度を評価するパラメータである。凹凸度は、凹凸度=C2/(4π×粒子の面積)で定義される。線形度は、粒子の突起同士を結ぶ粒子内の最長な直線の長さを用いて、粒子の線状の構造の程度を評価するパラメータである。線形度は、粒子の突起同士を結ぶ粒子内の最長な直線の長さをLとして、線形度=πL/(4×粒子の面積)で定義される。楕円の長軸と短軸の比は、粒子を楕円形状として捉えた場合の長軸方向における伸び具合を評価するパラメータである。
【0024】
(画像解析の方法)
ここでは、対象とする粉体の拡大画像としてSEM画像を用いる。まず、対象とする粉体のSEM画像を撮影する。図10および図11に有機粉体のSEM画像の一例を示す。そしてこのSEM画像を白黒の2値化処理し、2値化画像を得る。次に、この2値化画像から写っている粒子の輪郭を抽出する。図12(A)は、粉体のSEM画像の一例である。図12(B)は、図12(A)のSEM画像を白黒2値化処理した白黒2値化画像である。図12(C)は、図12(B)の白黒2値化画像から輪郭を抽出した輪郭画像である。
【0025】
輪郭を抽出したら、画像解析を行い、各粒子に関して、凸度、円形度、凹凸度、線形度、楕円の長軸と短軸の比を求め、更にそれらの平均値と標準偏差を算出する。また、上記の輪郭のデータから粒度分布を算出する。これらの処理は、市販の画像処理用アプリケーションソフトウェアを利用して行うことができる。勿論、専用のアプリケーションソフトウェアを開発し、それを用いてもよい。なお、SEM画像以外の顕微鏡写真(拡大画像)を用いることも可能である。粉体の拡大画像を得る手段としては、各種光学顕微鏡、各種電子顕微鏡、各種走査型プローブ顕微鏡、X線顕微鏡、超音波顕微鏡、バーチャル顕微鏡を用いることができる。また粉体の立体画像を用いることもできる。
【0026】
(物性データ)
粉体の物性を示す物性データは、粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)である。これらの物性データの実測は、せん断力測定装置を用い、JIS規格(JIS-Z8835)に制定されている手法により行われる。せん断応力測定装置としては、例えば株式会社ナノシーズ社製の「粉体層せん断力測定装置NS-S」が利用される。これらの物性データにより、粉体の流動性、摩擦性、付着性、圧縮性、充填性を評価することができる。
【0027】
以下、各物性データについて説明する。粉体動摩擦角は、JIS-Z8835で定義され、運動中の粉体層の摩擦特性を示し、小さいほど流動性が高く、付着しにくいことを示す。
【0028】
内部摩擦角は、JIS-Z8835で定義され、粒子同士のせん断力に対する抵抗の程度を示す。例えば、粉体の山の崩れにくさが内部摩擦角で評価される。材料によっては、内部摩擦角だけでは、粒子同士のせん断力に対する抵抗を正確に評価できない。この場合は、有効内部摩擦角が利用される。
【0029】
応力緩和率は、緩和応力と初期応力との比(%)であり、変形させた場合に元に戻らない程度を示す。応力緩和率は、粉体の圧密特性のひとつである。応力伝達率は、粉体における離れた場所における応力の影響の程度を示す指標である。圧縮率は、圧縮のし易さを評価する指標である。
【0030】
せん断付着力(kPa)は、粉体の付着力を評価する指標である。フローファクター(ffc)は、粉体の流動性を評価する指標である。フローファクター(ffc)は、単軸崩壊応力fcと最大主応力σの関係を表しており,ffc=σfcで与えられる。流動性は、1<ffc<2:非常に流れにくい、2<ffc<4:やや流れにくい、4<ffc<10:流れやすい、ffc>10:非常に流れやすい、と評価される。
【0031】
応力緩和率、応力伝達率、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)については、粉体工学会誌2017年54巻2号p.90-96(J. Soc. Powder Technol., Japan, 54, 90-96 (2017))に記載されている。
【0032】
(実証データ)
図3は、物性データ予測モデルを用いて、画像解析に基づいて内部摩擦角(角度)を予測した結果である。以下、図3のデータを得た方法について詳述する。
【0033】
まず、43種類の粉体のサンプルを用意した。この粉体の内訳は、有機粉体が19種類、セラミック粉体が24種類である。有機粉体は、ラクトース、結晶セルロース、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、マンニトール、小麦粉であり、セラミック粉体は、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、火山灰土である。そして、この43種類の粉体それぞれについて、SEM画像を用いた画像解析を行い、形状パラメータとして、凸度、円形度、凹凸度、線形度、楕円の長軸と短軸の比の5つを取得した。また、各サンプルの物性データとして、粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)を実測し、それを答え(実測値)として取得した。
【0034】
次に、取得した形状パラメータを入力、対応する物性データの実測値を答えとして、AI学習モデルに学習を行わせ、物性データ予測モデルを得た。次に、学習に利用したサンプルの画像データを画像解析ソフトに入力し、その解析結果を上記の学習を行った物性データ予測モデルに入力し、内部動摩擦角の予測を行った。この結果が図3である。
【0035】
図3の縦軸は、内部動摩擦角の予測値であり、横軸は内部動摩擦角の実測値である。全てのデータが予測値=実測値であれば、プロット点は、傾き1の正比例直線上に分布する。
【0036】
図3の場合、学習データの種類が43組と少ないので、全学習データを入力しても正解率に多少のばらつきが見られる。しかしながら、学習データであれば、それなりの高い精度で予測できることも判る。本発明者らは、更に学習データの組数を増やして物性データ予測モデルの学習を進めており、学習データの組数を増やすことで、図3のデータが傾き1の正比例直線に近づく傾向があることを確認している。
【0037】
図7は、図3のデータが得られた物性データ予測モデルを用いて、学習をしていない未学習の10種類の粉体の物性データを予測した結果をまとめた表である。この10種類の粉末の内訳は、有機粉体が5種類、セラミック粉体が5種類である。有機粉体は、ソルビトール、デンプン、ラクトース、マンニトールであり、セラミック粉体は、酸化アルミニウムやフライアッシュである。図7において、予測モデル1は、粒度分布のみを入力パラメータとした場合である。予測モデル2と3は、粒度分布と形状パラメータ(粒子の凸度、粒子の円形度、粒子の凹凸度、粒子の線形度、粒子の楕円の長軸と短軸の比)を入力パラメータとした場合である。予測モデル2と3の違いは、採用した画像解析ソフトウェアの違いである。
【0038】
図7における正答率(%)は以下のように定義される。まず、粉体の物性データを5段階の相対評価値に分類する。図8は、ここで採用した評価値の定義を示す表である。そして、この相対評価値に関して、予測値と実測値が一致したか否かを判定する。ここで、正答率は、正答率(%)=(予測した評価値と実測した評価値が一致したサンプル数/予測したサンプル総数)×100で定義される。
【0039】
図9は、評価値を利用した有効内部摩擦角の予測結果の正答率を示す表である。例えば、図9における予測モデル2の有効内部摩擦角の正答率は70%である。これは、使用した10サンプルについて7サンプルにおいて予測された評価値と実測された評価値が一致し、他の3サンプルについは一致しなかったことを意味している。
【0040】
図7に示すように、現状では、学習していない種類の粉体についての物性データの予測の精度には、バラツキがある。このバラツキは、学習データの組数を増やすことで、是正されると考えられる。
【0041】
(粉体物性データ予測システムの例)
図4は、粉体の電子顕微鏡画像から当該粉体の物性データを予測する粉体物性予測システム100のブロック図である。粉体物性予測システム100は、本発明を利用した粉体物性予測システムの一例である。粉体物性予測システム100は、汎用のPC(パーソナル・コンピュータ)を利用して実現されている。この例では、図4に示す機能部を実現するためのアプリケーションソフトウェアをPCにインストールすることで、粉体物性予測システム100が実現されている。利用するPCは、市販の汎用のもので、CPU、記憶装置(半導体メモリやハードディスク装置)、通信インターフェース、ユーザインターフェース、ディスプレイ、キーボード等の各種の入力装置、その他を備える。図4に示す機能部の一または複数を専用の集積回路で構成することもできる。また、図4に示す構成を実現する専用のハードウェア(電子回路)を用意する形態も可能である。図4の構成は、独立した装置に限定されず、複数の装置を組み合わせて構成することもできる。また、図4の構成をLANやインターネットを利用した分散システムとして構築することもできる。
【0042】
粉体物性予測システム100は、画像データ取得部101、画像解析部102、粒度分布算出部103、形状パラメータ算出部104、物性データ予測モデル記憶部105、粉体の物性データ予測部106を備える。
【0043】
画像データ取得部101は、対象となる粉体のSEM(走査電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)画像の画像データを取得する。図10および図11に有機粉体のSEM画像の一例を示す。
【0044】
画像解析部102は、画像データ取得部101が取得したSEM画像を解析し、当該粉体の粒度分布および形状パラメータを算出する。この処理を行うために画像解析部102は、粒度分布算出部103および形状パラメータ算出部104を備える。
【0045】
粒度分布算出部103は、当該粉体のSEM画像に基づき、当該粉体の粒度分布を算出する。粒度分布の算出は、公知の画像解析手法を利用して行なわれる(専用のソフトウェアも販売されている)。この例では、x10,x50,x90により粒径分布が定義される。ここで、x10は、これ以下の粒子の比率が10%である粒径である。x50は、粒子の50%がこれより大きく、50%がこれより小さい粒径である。x90は、これ以下の粒子の比率が90%である粒径である。粒度分布の定義は、粉体サイズの分布状態を評価できるものであれば、上記の例に限定されない。
【0046】
粒径分布を計測する方法としては、レーザー回折・散乱法を利用することもできる。粒度分布を計測する他の方法としては、比重を利用する方法、液相沈降法、遮光法、電気的検知法、光相関法、クロマトグラフィーを挙げることができる。
【0047】
形状パラメータ算出部104は、画像データ取得部101が取得したSEM画像に基づき、SEM画像に写った粒子の凸度、円形度、凹凸度、線形度、楕円の長軸と短軸の比を求め、更にそれらの平均値と標準偏差を算出する。これら形状パラメータの算出は、公知の画像解析手法を利用し、図1および図2に示した方法で行なわれる。
【0048】
物性データ予測モデル記憶部105は、被測定粉体のSEM画像から得た当該粉体の粒度分布および形状パラメータを入力とし、当該粉体の物性データの予測値を出力とする物性データ予測モデルを記憶する。ここで、形状パラメータは、被測定粉体のSEM画像から得た粒度分布、粒子の凸度、粒子の円形度、粒子の凹凸度、粒子の線形度、粒子の楕円の長軸と短軸の比である。予測される物性データは、当該粉体の粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)である。
【0049】
物性データ予測モデルは、利用するPCの半導体メモリやハードディスク装置に記憶される。物性データ予測モデルを専用の記憶媒体や記憶装置に記憶させてもよい。また、インターネットに接続可能なサーバに物性データ予測モデルを記憶させ、そこからダウンロードして利用する形態も可能である。
【0050】
粉体の物性データ予測部106は、上記の物性データ予測モデルを用いて、被計測対象の粉体のSEM画像から得た形状パラメータに基づき、当該粉体の物性データを予測する。具体的には、被測定粉体のSEM画像から得た粒度分布、粒子の凸度、粒子の円形度、粒子の凹凸度、粒子の線形度、粒子の楕円の長軸と短軸の比が入力値として、上記物性データ予測モデルに入力され、上記物性データ予測モデルからは、当該粉体の粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)の予測値が出力される。この処理が粉体の物性データ予測部106で行われる。
【0051】
粉体物性予測システム100の機能をサーバで行う形態も可能である。この場合、ユーザーは、当該サーバにアクセスし、当該サーバに計測対象の粉体のSEM画像のデータを送る。このデータを受け付けた当該サーバは、当該粉体の物性の予測に係る処理を行う。そしてこの予測値がユーザーに返信される。
【0052】
(処理の一例)
(1)事前処理
以下、処理の一例を説明する。まず、物性データ予測モデルを得る処理を行う。図5は、物性データ予測モデルを得るための処理に係るフローチャートである。このフローチャートを実行するプログラムは、適当な記憶媒体に記憶され、物性データ予測モデルを作成するコンピュータのCPUにより実行される。当該プログラムをインターネットに接続されたサーバに記憶させ、そこからダウンロードして利用する形態も可能である。
【0053】
図5の処理において、まず粉体の実測物性データが取得される(ステップS101)。サンプルとなる粉体は、できるだけ多くの種類および出来るだけ多用な粒度分布のものを対象とする。取得される実測物性データは、粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)である。これらは、せん断力測定装置を用い、JIS規格(JIS-Z8835)に制定されている手法により測定される。
【0054】
次に、ステップS101で対象とした粉体のそれぞれのSEM画像を撮影し、画像解析により、対象となる粉体の粒度分布および形状パラメータを取得する(ステップS102)。取得する形状パラメータは、粒子の凸度、粒子の円形度、粒子の凹凸度、粒子の線形度、粒子の楕円の長軸と短軸の比である。
【0055】
次に、ステップS101で得た粉体の実測物性データとステップS102で得た当該粉体の粒度分布および形状パラメータの関係をAI学習(ランダムフォレストを利用)により機械学習させ、物性データ予測モデルを作成する(ステップS103)。この物性データ予測モデルにより、粉体に係る画像解析から得た粒度分布および形状パラメータから、当該粉体の物性データを予測することができる。
【0056】
(2)物性データの予測に係る処理
図6は、画像から得た粉体の粒度分布および形状パラメータに基づき、当該粉体の物性データの予測値を得る処理に係るフローチャートである。このフローチャートを実行するプログラムは、適当な記憶媒体に記憶され、図4の粉体物性予測装置を構成するPCのCPUにより実行される。当該プログラムをインターネットに接続されたサーバに記憶させ、そこからダウンロードして利用する形態も可能である。
【0057】
図6には、粉体を構成する粒子の画像の画像データの取得(ステップS201)と、前記画像データに基づく、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出(ステップS202)と、前記形状パラメータに基づく当該粉体の流動性を示す物性データの予測(ステップS203)を含む粉体物性予測方法の例が示されている。
【0058】
また、図6には、コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、コンピュータに粉体を構成する粒子の画像の画像データの取得(ステップS201)と、前記画像データに基づく、前記粒子の形状を特徴付ける形状パラメータの算出(ステップS202)と、前記形状パラメータに基づく当該粉体の流動性を示す物性データの予測(ステップS203)を実行させる粉体物性予測用プログラムのフローチャートの例が記載されている。
【0059】
まず、対象となる粉体のSEM画像の撮影を行い、その画像データを取得する(ステップS201)。次に、取得したSEM画像を解析し、当該粉体の粒度分布および当該粉体の形状パラメータを得る(ステップS202)。形状パラメータは、当該粉体に係る粒子の凸度、粒子の円形度、粒子の凹凸度、粒子の線形度、粒子の楕円の長軸と短軸の比である。
【0060】
次に、ステップS202で得た形状パラメータをステップS103で得た物性データ予測モデルに入力し、対象となる粉体の物性データの予測データを得る(ステップS203)。ここでは、予測された物性データとして、当該粉体の流動性を評価する物性データである粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)を得る。
【0061】
(その他)
形状パラメータは、当該粉体に係る粒子の凸度、粒子の円形度、粒子の凹凸度、粒子の線形度、粒子の楕円の長軸と短軸の比の全てを利用することが最良であるが、そのうちの少なくとも1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上の採用でもよい。ただし、利用する形状パラメータの種類が少なくなると、予測の精度は低下する。また、図1および図2に示した形状パラメータ以外の粒子の形状に係るパラメータの利用は排除されない。例えば、流動性に関係すると考えられる表面粗さ等のパラメータを更なる形状パラメータとして採用することが可能である。
【0062】
物性データは、粉体動摩擦角(角度)、有効内部摩擦角(角度)、応力緩和率(%)、応力伝達率(%)、圧縮率(%)、かさ密度(kg/m3)、内部摩擦角(角度)、せん断付着力(kPa)、フローファクター(ffc)の全てではなく、その中の少なくとも一つ以上、好ましくは2以上であってもよい。ただし、その種類が少ないと、粉体の物性に係る情報が減少する。
【0063】
AI学習させる粉体に関する情報として、有機物、セラミックス、金属といった材質に係る分類情報を利用することもできる。
【0064】
(優位性)
粉体の物性を実際に計測せずに、当該粉体の拡大画像(SEM画像)から予測することができる。この処理は簡便であり、また少量の試料で行うことができる。図7から明らかなように、粒度分布のみからでは、粉体の物性を予測することは難しい。しかしながら、粒度分布に加えて粉体のSEM画像の解析によって得られた粒子の形状に関する情報を利用することで、より高い精度で当該粉体の物性を予測することができる。
【0065】
2.第2の実施形態
粉体に係る形状パラメータとして、図13に示すパラメータを利用することもできる。図13に示す各パラメータの詳細については、粉体工学ハンドブック(朝倉書店、2014年2月20日発行、ISBN978-4-254-25267-5)の31頁~39頁に記載されている。
【0066】
図13には、形状パラメータとして、均整度、空間充足度、球形度、円形度、凹凸度、表面粗度が示されている。なお図13中の*印は、3次元の形状に係る指標である。図13に示す語句(概念)の詳細および定義については、上記粉体工学ハンドブックの31頁~38頁に記載されている。
【0067】
均整度は、粒子形状の巨視的な異方性を与える記述子(指標)である。均整度は、粒子の均整、すなわち粒子形状の釣り合いの程度を示す指標と捉えることもできる。図13には、均整度が、アスペクト比、重心アスペクト比、長短度、偏平度、柱状比、非均整度または楕円比、偏心度、直線度、展開比(フェレー径の変動係数)によって示される例が示されている。均整度を示すパラメータは、一つを単独で用いる場合に限定されず、複数を組み合わせて利用することも可能である。これは、空間充足度、球形度、円形度、凹凸度、表面粗度においても同じである。
【0068】
空間充足度は、粒子に外接する空間と粒子が占める空間の割合を与える指標である。簡単に言うと、粒子が空間に密に詰まっているか否かの程度を示す指標である。図13には、空間充足度が、体積充足度、シェルツの指数、ヘイガーの指数、面積充足度、ハウスナーのかさ指数、かさ指数、かさばり度、コンパクト比、慣性かさばり度、充実度によって示される例が示されている。
【0069】
球形度は、球状の程度示す。球形度は、ワーデルの球形度、ワーデルの近似球形度、アッシュンプレンナーの球形度の一または複数によって示される。また、図13の例では、円形度が、代表径の比によって定義される場合が示されている。
【0070】
凹凸度は、粒子表面の凹凸の程度を示す指標である。図13には、凹凸度が凹凸の指数、凹度、凹み指数、凸度、平均の凹みの指数、密集度、最大凹み度によって示される例が示されている。
【0071】
表面粗度は、粒子表面の粗さの程度(見方を変えると、滑らかさの程度)を示す指標である。図13には、表面粗度が、丸み度、表面指数、フラクタル次元、フーリエ記述子によって示される例が示されている。
【0072】
粉体の物性データとして、図14に示すパラメータを利用することもできる。図14に示す各パラメータの詳細については、上記粉体工学ハンドブックの266頁~272頁に記載されている。図14には、粉体の流動性を評価する物性データの代表的なものが示されている。
【0073】
図14には、物性データとして、傾斜角(安息角)、せん断破壊、圧縮破壊、重力流動、重力・その他外力併用、回転抵抗、振動移送、圧縮が示されている。また、粉体の流動性の総合評価として、Carr法が示されている。
【0074】
3.第3の実施形態
物性データ予測モデルを実現するAI学習手法としては、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、サポートベクター回帰など機械学習の一般的な手法から選ばれた1または複数を用いて行うことができる。これらの手法は、単独で用いることもできるし、複数を組み合わせて利用することもできる。複数のAI学習手法を利用する場合、(1)予測する物性データに応じて、異なるAI学習手法を使い分ける方法、(2)物性データの予測に複数のAI学習手法を用い、その結果の平均値を用いる方法、(3)物性データの予測に複数のAI学習手法を用い、物性データに応じてこれら複数のAI学習手法の結果に重み付けを与え、その加重平均を用いる方法等が挙げられる。
【0075】
異なる複数のAI学習手法を用いる手法は、例えば、粉体動摩擦角(角度)の予測には、第1のAI学習手法が適し(精度が高く)、応力緩和率(%)の予測には、第2のAI学習手法が適している場合等に有効となる。
【0076】
4.第4の実施形態
粉体の摩擦性や粉体の付着性に着目した場合の物性データを予測する技術に本発明を利用することもできる。この場合、粉体の形状パラメータと当該粉体の摩擦性や付着性を評価する物性データの実測値を用いて、物性データ予測モデルを作成する。そして、この物性データ予測モデルに画像解析から得た被予測対象の粉体の形状パラメータを入力することで、当該粉体の摩擦性や付着性を評価する物性データの予測値を得る。
【0077】
5.第5の実施形態
画像認識手法、AI予測モデル(AI学習手法)、AI学習条件の少なくとも一つが異なる複数の物性データ予測モデルを用意し、その中から、粉体の種類や予測する物性データに応じて、最適な物性データ予測モデルを選択する(あるいは選択できる)態様も可能である。例えば、図7の予測モデル1と予測モデル2の何れかを選択可能とし、圧縮率を予測する場合は、図7の予測モデル3を選択し、内部摩擦角を予測する場合は、予測モデル2を選択する。
【0078】
6.むすび
以上述べた技術では、粉体の画像情報から当該粉体の物性データ(例えば流動性)を予測することができる。この技術によれば、粒子の形状に係る観測ができればよいので、得られる粉体が微量であっても対応することができる。また、粒子の拡大画像が得られれば良いので、高価で操作に専門知識や専門の技能を必要とする計測機器を必要としない。
【0079】
本発明が対象とする粉体の種類は特に限定されない。粉体の種類としては、食品、サプリメント、医薬品、化粧品、セラミックス、樹脂材料、トナー、金属、電子材料、セメント、農材(肥料、土砂、土壌改良材等)、その他各種の有機材料や無機材料等の粉体を挙げることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14