(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055151
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】ポリイミド組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20220331BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20220331BHJP
C08K 5/1535 20060101ALI20220331BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20220331BHJP
C08G 73/06 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
C08L79/08
C08K5/05
C08K5/1535
C08K5/09
C08G73/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162588
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁美
【テーマコード(参考)】
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002EC037
4J002EH126
4J002EJ067
4J002EL067
4J002FD207
4J002GP00
4J002GQ01
4J043PA05
4J043QB31
4J043RA34
4J043SA06
4J043UA122
4J043UA141
4J043UB121
4J043UB122
4J043UB351
4J043XA03
4J043ZB51
(57)【要約】
【課題】溶剤臭が抑制されたポリイミド組成物を提供する。
【解決手段】可溶性ポリイミドと、前記可溶性ポリイミドを溶解し得る溶剤と、調香成分と、を含んでなるポリイミド組成物であって、前記溶剤が安息香酸エステルを含み、前記調香成分が、環状構造および水酸基のいずれかまたは両方を含む炭素数20以下のテルペン系化合物、炭素数8~13のフェノール系化合物、ならびに炭素数4~7の炭素鎖を含むラクトン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、ポリイミド組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性ポリイミドと、前記可溶性ポリイミドを溶解し得る溶剤と、調香成分と、を含んでなるポリイミド組成物であって、
前記溶剤が安息香酸エステルを含み、
前記調香成分が、環状構造および水酸基のいずれかまたは両方を含む炭素数20以下のテルペン系化合物、炭素数8~13のフェノール系化合物、ならびに炭素数4~7の炭素鎖を含むラクトン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、ポリイミド組成物。
【請求項2】
前記調香成分が、前記溶剤に対して5~20質量%含まれる、請求項1に記載のポリイミド組成物。
【請求項3】
前記溶剤が、前記可溶性ポリイミドに対して350~680質量%含まれる、請求項1または2に記載のポリイミド組成物。
【請求項4】
テルペン系化合物が、ゲラニオール、リナロールおよびαテルピノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリイミド組成物。
【請求項5】
前記フェノール系化合物が、サリチル酸メチルである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリイミド組成物。
【請求項6】
前記ラクトン系化合物が、γ-デカノラクトンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリイミド組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド組成物に関し、より詳細には、可溶性ポリイミドを溶剤に溶解させたポリイミド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、高い耐熱性および寸法安定性などの優れた特性を有しているため様々な分野において広く利用されている。近年、電子部品の実装部材としてポリイミドが使用されており、近年では、フレキシブルディスプレイ用のカバーガラスなどのガラス基材に代えてあるいは極薄ガラスとの併用部材としてポリイミドが着目されている。
【0003】
上記のような用途に使用されるポリイミドの形態としては、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を溶解したタイプと、溶剤可溶なポリイミドを溶解したタイプとの2種に大別される。前者の場合、ポリイミド硬化物を得るためには、脱溶剤と同時にイミド化反応とを行う必要があるため通常は300℃以上の温度が必要であり、フレキシブルディスプレイ等の電子部品用途においては使用が限られていた。一方、後者の場合には、イミド化反応は完結しているため溶剤を揮発させてポリイミド硬化物を得ることができ、処理温度を低くすることができるうえ、イミド化反応に伴う水の発生も無いことから、欠陥の少ないポリイミド硬化物が得られやすいという利点を有している。
【0004】
しかしながら、ポリイミドは分子鎖が剛直であるという性質のゆえ、可溶な溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンやN,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤が主として使用されているが、これらの溶剤は極性が高く沸点も高いため他の素子を溶解することや、溶媒の除去に200℃~300℃の高温が必要であるため、低温処理にてポリイミド硬化物を得るという観点からは十分とは言えなかった。
【0005】
このような問題に対して、例えば特許文献1にはジアミン成分の一部をシリコーンジアミンや脂環式ジアミンとし、ポリイミドの分子構造内にシロキサン骨格や脂環式骨格を導入することでアニソールやシクロヘキサノン等の比較的沸点の低いケトン系溶剤に可溶なポリイミドが提案されている。また、特許文献2には、ジアミン成分として水酸基含有ジアミン化合物を用いることにより、ケトン系溶剤やエステル系溶剤等の低沸点溶剤に可溶なポリイミドが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-119285号公報
【特許文献2】国際公開第2010/044381号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように低沸点溶剤にも可溶なポリイミドは、ポリイミドを溶剤に溶解させてワニスとし、支持体等に塗布して塗膜とした後に塗膜を乾燥させることによって簡易かつ簡便にポリイミドフィルムを得ることができる。しかしながら、これら溶剤を含むポリイミドワニスには不快な溶剤臭があり、ワニスを用いてフィルムを製造する際の作業環境の改善が求められていた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、不快な溶剤臭が抑制されたポリイミド組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、安息香酸メチル等の臭気が強い溶剤にポリイミドを溶解したポリイミドワニスに、特定の化合物をごく少量添加することにより不快な溶剤臭が劇的に低減できるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づいて完成したものである。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1] 可溶性ポリイミドと、前記可溶性ポリイミドを溶解し得る溶剤と、調香成分と、を含んでなるポリイミド組成物であって、
前記溶剤が安息香酸エステルを含み、
前記調香成分が、環状構造および水酸基のいずれかまたは両方を含む炭素数20以下のテルペン系化合物、炭素数8~13のフェノール系化合物、ならびに炭素数4~7の炭素鎖を含むラクトン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、ポリイミド組成物。
[2] 前記調香成分が、前記溶剤に対して5~20質量%含まれる、[1]に記載のポリイミド組成物。
[3] 前記溶剤が、前記可溶性ポリイミドに対して350~680質量%含まれる、[1]または[2]に記載のポリイミド組成物。
[4] テルペン系化合物が、ゲラニオール、リナロールおよびαテルピノールからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミド組成物。
[5] 前記フェノール系化合物が、サリチル酸メチルである、[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミド組成物。
[6] 前記ラクトン系化合物が、γ-デカノラクトンである、[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミド組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明よれば、安息香酸メチル等の臭気が強い溶剤にポリイミドを溶解したポリイミド組成物において、特定の調香成分を配合することにより不快な溶剤臭が劇的に低減し、溶剤臭が抑制されたポリイミド組成物を提供することできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリイミド組成物は、可溶性ポリイミドと前記可溶性ポリイミドを溶解し得る溶剤と調香成分とを含むポリイミド組成物であって、可溶性ポリイミドを溶解し得る溶剤として、安息香酸エステルを含むものである。なお、本発明は、溶剤を含むポリイミド組成物の不快な臭気を抑制するものであり、本発明の要旨に反しない限り、溶剤として安息香酸エステル以外のものが含まれていてもよく、例えば可溶性ポリイミドの溶剤として使用されるN-メチル-2-ピロリドン等の他の溶剤が含まれていても良いことは言うまでもない。以下、本発明のポリイミド組成物を構成する成分について説明する。
【0013】
[溶剤]
本発明のポリイミド組成物は、可溶性ポリイミドを溶解し得る溶剤として安息香酸エステルを含む。安息香酸エステルとしては、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル等の比較的沸点の低いものを好適に使用することができる。これら溶剤は単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。好ましい溶剤は、安息香酸メチルおよび安息香酸エチルである。
【0014】
ポリイミド組成物には、上記した安息香酸エステル以外の溶剤が含まれていてもよく、例えばポリイミドを溶解し得る溶剤として知られているエステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、炭素数6もしくは7または14以上のフェノール系溶剤、スルホン系溶剤、スルホキシド系溶剤、アミド系溶剤等が含まれていてもよい。
【0015】
エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸ジメチルなどが挙げられる。また、環状エステル基を有する溶剤としては、ラクトン系溶媒、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-クロトノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、δ-ヘキサノラクトンなどが挙げられる。
【0016】
エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジブチルエーテル、などが挙げられる。
【0017】
ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0018】
フェノール系溶剤としては、m-クレゾールなどが挙げられる。
【0019】
スルホン系溶剤としては、メチルスルホン、エチルフェニルスルホン、ジエチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン、ビスフェノールS、ソラプソン、ダプソン、ビスフェノールAポリスルホン、スルホランなどが挙げられる。
【0020】
スルホキシド系溶剤としては、N,N-ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0021】
アミド系溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0022】
ポリイミド組成物中の溶剤の含有量は、組成物を塗布する際の粘度等により適宜調整されて良いが、可溶性ポリイミドに対して350~680質量%含まれることが好ましく、400~525質量%含まれることがより好ましい。また、溶剤中に、安息香酸エステルが50~100質量%含まれることが好ましい。
【0023】
[調香成分]
上記した溶剤のうち安息香酸エステルは刺激臭が強く、安息香酸エステルを溶剤として含むポリイミド組成物は不快な臭気を有する。本発明においては、このような不快な臭気を有するポリイミド組成物に調香成分を配合することにより不快な臭気を低減するものである。すなわち、調香成分として、環状構造および水酸基のいずれかまたは両方を含むテルペン系化合物、フェノール系化合物、ならびに炭素数6以上の炭素鎖を含むラクトン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を、安息香酸エステルを溶剤として含むポリイミド組成物に添加することにより、ポリイミド組成物の不快な臭気を抑制するこができる。この理由は明らかではないが、上記した調香成分は特有の芳香を持つものであるが少量添加で安息香酸エステルの臭気自体が消臭されるわけではなく、安息香酸エステル特有の不快な臭気と特定の芳香を持つ上記調香成分とを組み合わせることで不快臭が低減されるものと考えられる。
【0024】
調香成分は、溶剤に対して5~20質量%含まれることが好ましく、5~10質量%含まれることがより好ましい。本発明によれば、上記した特定の調香成分を溶剤に対して5~20質量%程度添加することよって、ポリイミド組成物全体の不快な臭気を低減することができる。
【0025】
環状構造および水酸基のいずれかまたは両方を含む炭素数20以下テルペン系化合物としては、ゲラニオール、リナロール、αテルピノール、ピネン、プレノール、リモネン、テルピネン、フェランドレン、シメン、カレン、樟脳、ボルネオール、シネオール、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、チオテルピネオール、ジヒドロカルベオール、l-メントン、カルボン、ベルベノン、フェンコン、ファルネソール、ネロリドール、ビサボロール、カマズレン、バレンセン、ネロリドール、ブルネセン、パチョロール、グアイエン、フムレン、サンタレン、サンタロール、ノートカトン、エレメンなどが挙げられる。ゲラニオールはゼラニウムから発見された直鎖モノテルペノイドの一種であり、バラに似た芳香を持つ。リナロールはモノテルペンアルコールの一種であり、スズラン、ラベンダー、ベルガモット様の芳香を持つ。αテルピノールは、テルピノールの異性体の一つであり、ライラックに似た芳香を持つ。ピネンはモノテルペンの一種で針葉樹に含まれる特有の芳香を持つ。プレノールは果実のような芳香を持つ。リモネンは柑橘系の芳香を持つ。テルピネンはコリアンダー、レモン、クミン、ティーツリー等の植物から抽出され、特有の芳香を持つ。フェランドレンはペパーミント様の芳香を持つ。シメンは天然に存在するモノテルペンの一種でクミンやタイムなどから抽出される。カレンは甘く刺激臭のある芳香を持つ。樟脳は強く刺すような芳香を持つ。ボルネオール、シネオール、フェンコンは樟脳と類似した芳香を持つ。シトラールはゲラニオールのシス体であり強いレモンの芳香を持つ。シトロネラールはサンザシに似た芳香を持つ。シトロネロールはローズ様の甘い芳香を持つ。チオテルピネオールはグレープフルーツ様の芳香を持つ。ジヒドロカルベオールはウッディ、ミント、フローラル様の芳香を持つ。l-メントン、カルボンはハッカ様の芳香を持つ。ベルベノンはローズ様の芳香を持つ。ファルネソールはレモン、シトラス様の芳香を持つ。ネロリドールはウッディ、フローラル系の芳香を持つ。ビサボロールは甘美な花の芳香を持つ。カマズレン(アズレン)はフルーティーはハーブ様の芳香を持つ。バレンセンはグレープフルーツ等の柑橘系の芳香を持つ。ネロリドール、ブルネセン、グアイエンはウッディ系の芳香を持つ。パチョロールはパチョリ(シソ科ミズトラノオ属の植物)の芳香を有する。フムレンはホップの芳香を持つ。サンタレンは白檀様の芳香を有する。ノートカトンはグレープフルーツ様の芳香を持つ。エレメンは植物様の芳香を持つ。
【0026】
炭素数8~13のフェノール系化合物としては、オイゲノール、サリチル酸メチル、サリチル酸イソアミル、サリチル酸フェニルなどが挙げられる。オイゲノールは刺激のある快い芳香を持つ。サリチル酸メチルは外用鎮痛消炎貼布剤の芳香を持つ。サリチル酸イソアミル、サリチル酸フェニルは快い芳香を持つ。これらのなかでも、サリチル酸メチルが好ましい。
【0027】
炭素数4~7の炭素鎖を含むラクトン系化合物としては、ウイスキーラクトン、ノナラクトン、γ-デカノラクトン(C10ラクトン)、ウンデカラクトン(C11)ラクトンなどが挙げられる。ウイスキーラクトンはウイスキー樽様の芳香を持つ。ノナラクトンはココナッツ様の芳香を持つ。γ-デカノラクトンはキンモクセイ様の芳香を持つ。また、ウンデカラクトンは、ココナッツやピーチ等のフルーティーな芳香を持つ。
【0028】
上記した調香成分の中でも、ポリイミド組成物を用いてフィルムを形成する際の基材とフィルムと密着性の観点からは、リナロール、αテルピノール、サリチル酸メチル、γ-デカノラクトンを好ましく使用することができる。
【0029】
[可溶性ポリイミド]
本発明のポリイミド組成物に含まれる可溶性ポリイミドは、上記したような溶剤に可溶であれば特に制限なく従来公知のポリイミドを使用することできる。本明細書においては、本発明の好ましい実施態様の可溶性ポリイミドを例示する。
【0030】
可溶性ポリイミドの好ましい実施形態として、ジアミン成分としては、カルボキシル基および水酸基の少なくとも1つを有するジアミン化合物(A-1)およびシロキサン結合を有するジアミン化合物(A-2)からなる群より選択される少なくとも1つのジアミン化合物と、酸無水物とを含む反応成分からなるポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を脱水閉環反応してポリイミド化したものが挙げられる。
【0031】
上記した可溶性ポリイミドは、有機溶剤への可溶性が高く、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の状態でポリイミド組成物に含有させる必要がない。そのため、硬化物の形成において、脱水閉環反応のために過度に加熱を行う必要がなく、乾燥によりポリアミド組成物中の有機溶剤を揮発させることで硬化物を形成することができる。その結果、加熱によりポリイミド被膜に変色が生じてしまうことを効果的に防止することができる。また、このような可溶性ポリイミドを含む樹脂組成物を用いて形成した硬化物は、基材に対して優れた密着性を示す。
【0032】
可溶性ポリイミドを構成する単位として上記ジアミン化合物(A-1)および(A-2)からなる群より選択される少なくとも1つのジアミン化合物を含むことにより、可溶性ポリイミドの有機溶剤への可溶性を効果的に向上させることができる。また、可溶性ポリイミドを含むポリイミド組成物を用いて形成される硬化物の熱膨張係数をより効果的に向上させることができる。
【0033】
本発明の一実施態様において用いる可溶性ポリイミドのジアミン成分は、カルボキシル基および水酸基の少なくとも1つを有するジアミン化合物(A-1)、およびシロキサン結合を有するジアミン化合物(A-2)からなる群より選択される少なくとも1つのジアミン化合物を含む。本発明においては、(A)可溶性ポリイミドの前駆体を構成する単位として、ジアミン化合物A-1を含むことにより、ポリイミド組成物を用いて形成した硬化物のポリイミドフィルム基材に対する密着性をより効果的に向上させることができる。
【0034】
一実施形態において、カルボキシル基および水酸基の少なくとも1つを有するジアミン化合物(A-1)は、下記一般式で表される。
【化1】
【0035】
上記一般式において、R5は二価の有機基または単結合である。また、R6は、それぞれ独立して、COOHまたはOHから選択される。oは、0~4の整数であるが、上記一般式で表されるジアミン化合物は、R6を少なくとも1つ有する。
【0036】
上記一般式で表されるカルボキシル基および水酸基の少なくとも一方を有するジアミン化合物(A-1)の特に好ましい態様として以下の化合物が挙げられる。
【化2】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
一実施形態において、カルボキシル基および水酸基の少なくとも一方を有するジアミン化合物(A-1)は、下記一般式で表される。
【化7】
【0042】
上記一般式において、R5は二価の有機基または単結合であり、pは、1~4の整数である。
【0043】
上記一般式で表されるカルボキシル基および水酸基の少なくとも一方を有するジアミン化合物(A-1)の特に好ましい態様として以下の化合物が挙げられる。
【化8】
【0044】
可溶性ポリイミドにおいて、ジアミン成分由来の構成単位の総含有量を100モル部としたとき、カルボキシル基および水酸基の少なくとも一方を有するジアミン化合物(A-1)の構成割合は、30モル部以上、85モル部以下であることが好ましく、33モル部以上、60モル部以下であることがより好ましく、35モル部以上、45モル部以下であることがさらに好ましい。このような構成割合とすることにより、本発明のポリイミド組成物を用いて形成した硬化物のポリイミドフィルム基材に対する密着性をより向上させることができる。また、可溶性ポリイミドの有機溶剤への可溶性を効果的に向上することができる。さらに、可溶性ポリイミドを含むポリイミド組成物を用いて形成される硬化物の熱膨張係数を効果的に向上することができる。
【0045】
一実施形態において、シロキサン結合を有するジアミン化合物(A-2)は、下記一般式で表される。
【化9】
【0046】
上記一般式中、R7~R12は、アルキル基またはフェニル基である。硬化物においてポリイミドフィルム基材に対する密着性の観点から、アルキル基が好ましく、アルキル基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましい。
また、qおよびrは、それぞれ独立して、1~10の整数から選択される。重合反応性の観点からは、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。sは、0~10の整数から選択される。重合反応性の観点からは、0~6であることが好ましく、0~2であることがより好ましい。
【0047】
上記一般式で表されるシロキサン結合を有するジアミン化合物(A-2)の特に好ましい態様として以下の化合物が挙げられる。
【化10】
【0048】
【0049】
可溶性ポリイミドにおいて、ジアミン成分由来の構成単位の総含有量を100モル部としたとき、シロキサン結合を有するジアミン化合物(A-2)の構成割合は、30モル部以上、60モル部以下であることが好ましく、35モル部以上、55モル部以下であることがより好ましい。このような構成割合とすることにより、本発明のポリイミド組成物を用いて形成した硬化物のポリイミドフィルム基材に対する密着性をより向上させることができる。また、可溶性ポリイミドの有機溶剤への可溶性を効果的に向上させることができる。さらに、可溶性ポリイミドを含むポリイミド組成物を用いて形成される硬化物の熱膨張係数を効果的に向上させることができる。
【0050】
また、(A)可溶性ポリイミドの構成成分として、ジアミン成分としてジアミン化合物(A-1)およびジアミン化合物(A-2)の両方を含む場合、ジアミン化合物(A-1)由来の構成単位と、ジアミン化合物(A-2)由来の構成単位との構成割合は、モル基準で、4:1~1:4であることが好ましく、3:2~2:3であることがより好ましい。構成割合とすることにより、可溶性ポリイミドを含むポリイミド組成物を用いて形成した硬化物のポリイミドフィルム基材に対する密着性をより効果的に向上させることができる。
【0051】
(A)可溶性ポリイミドは、ジアミン成分として、上記したA-1、A-2成分以外にも、本発明の特性を損なわない範囲において、その他のジアミン成分を含むことができる。例えば、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、 2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1~3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミンなど、4,4‘-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランスー1,4-ジアミノシクロヘキサン、シスー1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロププロパン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0052】
可溶性ポリイミドは、上記したジアミン成分と酸無水物(A-3)とを反応させることにより得られる。酸無水物としては、上記したジアミン化合物とイミド化反応し得る酸無水物であれば特に制限なく使用することができ、例えば、無水ピロメリット酸、2,2’-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)プロパン酸二無水物]、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、ビフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸2,3:6,7-二無水物、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ペンタン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、オクタヒドロビフェニレン-4a,8b:4b,8a-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ-1-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-エチルシクロヘキサン-1-(1,2),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1-プロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジプロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3-(2,3)-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-プロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジプロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3-(2,3)-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、オクタヒドロ-3H,3’’H-ジスピロ[4,7-メタノイソベンゾフラン-5,1’-シクロペンタン-3’,5’’-[4,7]メタノイソベンゾフラン]-1,1’’,2’,3,3’’(4H,4’’H)-ペンタオン、3-(カルボキシメチル)-1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0053】
これらのなかでも、可溶性ポリイミドの有機溶剤への可溶性、並びに硬化物のポリイミドフィルム基材に対する密着性および熱膨張係数の観点からは、2,2’-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)プロパン酸二無水物]および4,4’-オキシジフタル酸二無水物が好ましい。このような酸無水物を使用することにより、本発明のポリイミド組成物を用いて形成した硬化物のポリイミドフィルムに対する密着性がより向上させることができる。また、可溶性ポリイミドの有機溶剤への可溶性を効果的に向上させることができる。
【0054】
可溶性ポリイミドは、従来公知の方法により合成することができる。具体的には、ジアミン化合物(A-1およびA-2成分)と酸無水物(A-3成分)と、所望により上記反応成分とを反応させて、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を得た後、環化脱水反応を行い、ポリイミド化合物に転化させることにより得ることができる。可溶性ポリイミドの合成は後述する有機溶媒中において行うことができる。
【0055】
環化脱水反応時には、イミド化触媒を使用してもよく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、トリブチルアミン、tert-ブチルアミン、へキシルアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルピロリジン、N-エチルピロリジン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン、ピリジン、コリジン、ルチジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、バレロラクトン等を使用することができる。
【0056】
また、必要に応じて、トルエン、キシレン、エチルシクロヘキサンのような共沸脱水剤、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水安息香酸等の酸触媒を使用することができる。さらに、安息香酸、無水フタル酸、水添無水フタル酸等の封止剤を使用することができる。
【0057】
可溶性ポリイミドの重量平均分子量(Mw)は、30,000以上、100,000以下であることが好ましく、33,000以上、80,000以下であることがより好ましく、33,000以上、50,000以下であることが特に好ましい。可溶性ポリイミドのMwを上記数値範囲内とすることにより、本発明のポリイミド組成物の成形性を向上させることができる。特に、硬化物の形成に、スクリーン印刷を利用する場合、ポリイミド組成物の版離れ性を顕著に改善することができる。なお、重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した値を意味し、JIS K 7252-1(2008年発行)に準拠した方法により測定する。
【0058】
ポリイミド組成物に含まれる可溶性ポリイミド化合物の含有量は、15質量%以上、35質量%以下であることが好ましく、20質量%以上、30質量%以下であることがより好ましい。ポリイミド組成物における可溶性ポリイミドの含有量を上記数値範囲内とすることにより、ポリイミド組成物を用いて形成した硬化物の基材に対する密着性をより向上させることができる。また、本発明のポリイミド組成物の成形性を向上させることができる。特に、硬化物の形成に、スクリーン印刷を利用する場合ポリイミド組成物の版離れ性を顕著に改善することができる。
【0059】
[その他の成分]
本発明のポリイミド組成物は、着色剤が含まれていてもよい。着色剤は、顔料であってもよく、染料であってもよいが、本発明のポリイミド組成物により形成される硬化物の耐熱性および耐光性という観点からは、顔料が好ましい。また、顔料は、有機顔料であっても、無機顔料であってもよい。また、顔料と染料とを併用してもよい。
【0060】
着色剤は、特に限定されるものではなく、従来公知の着色剤を適宜使用することができるが、本発明のポリイミド組成物により形成される硬化物を、有機EL表示装置などが備える遮蔽部に適用する場合には、黒色着色剤または白色着色剤を使用することが好ましい。
【0061】
黒色着色剤としては、カーボンブラック、四三酸化鉄、黒酸化チタン、銅マンガンブラック、銅クロムブラックおよびコバルトブラック、シアニンブラックおよびアニリンブラックなどが挙げられる。
また、本発明において、黒色着色剤には、複数の着色剤を混合し、黒色とした着色剤も含まれる。さらに、光遮蔽性(隠蔽性)の観点から、黒色着色剤には、微量の白色着色剤を含むこともできる。
【0062】
白色着色剤としては、酸化チタン、炭酸バリウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、アンチモン白および硫化亜鉛などが挙げられる。また、光遮蔽性(隠蔽性)の観点から、白色着色剤には微量の黒色着色剤が含まれていてもよい。
【0063】
また、本発明においては、硬化物の黄変を抑制する観点から、白色着色剤には微量の青色着色剤が含まれていてもよい。青色着色剤としては、フタロシアニン系、アントラキノン系があり、顔料系はピグメント(Pigment)に分類されている化合物が挙げられ、例えば、Pigment Blue 15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,16,60。染料系としては、Solvent Blue 13,14,35,63,68,70,83,87,90.94,97,104,122,136,67,70等を使用することができる。上記以外にも、金属置換若しくは無置換のフタロシアニン化合物も使用することができる。
【0064】
ポリイミド組成物中の着色剤の含有量は、ポリイミド組成物を構成する可溶性ポリイミド100質量部に対して、80~200質量部であることが好ましく、100~150質量であることがより好ましい。
【0065】
本発明の一実施形態において、ポリイミド組成物は、ポリイミドフィルム基材との密着性をさらに向上させる観点から、さらに密着補助剤を含んでいてもよい。密着補助剤としては、2-ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート 、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、エチレングリコールアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニルホスフェート、ジベンジルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジデシルホスフェート、(o-ホスホリルエタノールアミン、フェニルホスファート、クレアチノールホスファート)、2-オキシパノンホモポリマー2-[2-メチル-1-オキソ-2-プロペニル]オキシ]エチルエステルリン酸、(2-エチルヘキシル)ホスホン酸2-エチルヘキシル、イソデシルアシッドホスフェート、モノイソデシルホスフェート等のリン酸エステル系化合物、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシシシリル基等の極性基付きのアクリルポリマーを挙げることができ、これらのかなでも、リン酸エステル系化合物は、より密着性が向上し、顔料分散性が向上するといった効果もあることから好ましい。
【0066】
密着補助剤の市販品としては、リン酸エステル系化合物として、東亞合成株式会社製の「ARUFON」のUC-3000、UC-3070、UC-3510、UC-3900、UC-3910、UC-3920等のUC-3000シリーズ、UF-5022等のUF-5000シリーズ、UH―2041、UH―2170、UH―2190等のUH-2000シリーズ、US-6100、US-6150、US-6170、US-6190等のUS-6000シリーズ、綜研化学株式会社製の「アクトフロー」のCB-3060、CB-3098、CBB-3098、CBL-3098等のCBシリーズ、NE-1000、NE-3000等のNEシリーズ、UMM-1001等のUMMシリーズ、UT-1001等のUTシリーズ、共栄社化学製の「ライトアクリレート」のHOB-A、HOA-HH(N)、HOA-MS(N)、「ライトエステル」のHOP-A(N)、HO-250(N)、HOP(N)、HOA(N)、HOB(N)、HO-MS(N)、エポキシエステルのM-600A等を挙げることができ、極性基付きのアクリルポリマーとしては、共栄社化学株式会社製の「ライトエステル」のP-1M、P-2M、日本化薬社製のKAYAMERシリーズのPM-2、PM-21、城北化学工業株式会社のJP-502、JP-504、JP-506H、JP-508、JP―512、JP-513、JP―518-O、JP-524R、EGAP、JPA-514、DBP、LB-58、JPCN-300、楠本化成株式会社のNACURE4000、大八化学工業株式会社製のPC-88A、AP-1、AP-4、DP-4,MP-4,AP-8,AP-10、MP-10、東邦化学工業株式会社製の「フォスフアノールRD-510Y、RD-720N、RL-210、RL-310、RS-410、RS-610、RS-710等を挙げることができる。
【0067】
密着補助剤の配合量は、ポリイミド組成物のポリマー成分に対して1~30質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。密着補助剤の配合量がこのような範囲にあれば、外観(漆黒性)を損なわず密着性を向上させることができる。
【0068】
一実施形態において、本発明のポリイミド組成物は、消泡剤を含むことができる。消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイルおよびフッ素化合物を挙げることができる。
【0069】
ポリイミド組成物中の消泡剤の含有量は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましい。ポリイミド組成物における消泡剤の含有量を上記数値範囲内とすることにより、ボイドの残存やハジキ等の外観不良の無い良好な硬化物を得ることができる。
【0070】
本発明の特性を損なわない範囲において、ポリイミド組成物は、上記可溶性ポリイミド以外のポリイミド化合物や上記可溶性ポリイミドの前駆体(ポリアミック酸)を含んでいてもよい。
【0071】
また、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリイミド組成物は、硬化膜表面をマット化するため、マット化剤を含むことができる。マット化剤としては、公知慣用の有機粒子、樹脂ワックス、無機粒子等が使用できる。具体的には、有機粒子としてアセチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、熱可塑型ポリエステル、ボリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール樹脂粉末等の熱可塑性高分子粉体、フェノール樹脂、尿素樹脂、トリアジン系樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、アクロレイン系樹脂等の熱硬化性高分子粉体、樹脂ワックスとしてポリエチレン等、無機粒子として酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化ケイ素、硫酸バリウム、タルク、カオリン、酸化クロム、硫化カドニウム、ゲーサイト、アルミナ等が挙げられる。また、無機微粒子の表面を有機物で表面処理することもできる。市販品のマット化剤としてはビックケミー社のCERAFROUR-988、991、1000などが挙げられる。
【0072】
また、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリイミド組成物は、上記した以外の添加剤を含んでいてもよく、例えば、顔料分散剤、増粘剤、酸素除去剤、蛍光増白剤、界面活性剤、酸化防止剤、可塑剤、架橋剤、難燃剤、耐電防止剤、レベリング剤、および抗菌剤などの添加剤を1種または2種以上、含んでいてもよい。
【0073】
[用途]
本発明のポリイミド組成物は、基材上に塗布し、乾燥することによりフィルム化することができ、基材に対し、高い密着性を有する。
【0074】
塗布方法としては、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、スピンコート法、インクジェット法、スプレー塗布法、スリット塗布法、ディスペンサー塗布法、滴下法などが挙げられるが、これらのなかでも、パターン状の塗膜を簡易的に形成できることから、スクリーン印刷法が特に好ましい。
【0075】
乾燥温度は、80~200℃であることが好ましく、これにより、ポリイミドフィルムの変色の発生を防止することができる。
【0076】
上記したようなポリイミドフィルムは、ディスプレイ用部材として好適に使用することができる。例えば、薄くて曲げられるフォルダブルタイプの有機ELディスプレイや、スマートフォンや腕時計型端末などの携帯端末、自動車内部の表示装置、腕時計などに使用するフレキシブルパネル等の部材用途が挙げられる。また、液晶表示装置、有機EL表示装置等の画像表示装置用部材や、タッチパネル用部材、フレキシブルプリント基板、表面保護膜や基板材料等の太陽電池パネル用部材、光導波路用部材、その他半導体関連部材等にも適用することもできる。中でも、フォルダブルタイプの有機ELディスプレイを構成するカバーウィンドウやTFT用基板などの部材用途に好適に用いられる。
【0077】
また、ディスプレイのカバーウィンドウとしては、例えば、ポリイミドフィルムを各種ディスプレイの表面に位置するように配置して用いられる。表面に配置する方法としては、特に限定はされないが、例えば、接着層を介する方法等が挙げられる。接着層の材料としては、ディスプレイ用表面材の接着に用いることができる従来公知の接着材料を用いることができる。なお、ポリイミドフィルムの表面にはハードコート層等の保護層や、さらに指紋付着防止層を設けても良い。
【実施例0078】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0079】
[実施例1]
<可溶性ポリイミドの調製>
窒素導入管、撹拌装置を備えた500mlセパラブルフラスコに、下記式で表される1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)4.39g(15ミリモル)、下記式で表される1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(PAM-E)3.73g(15ミリモル)、下記式で表される2,2’-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)プロパン酸二無水物](BPADA)15.61g(30ミリモル)、安息香酸メチル94.64g、ピリジン0.47g(6ミリモル)、トルエン10gを投入し、窒素雰囲気下、180℃で、途中トルエンを系外に除きながら4時間反応させることによりポリイミド溶液を得た。
【化12】
【0080】
得られたポリイミド溶液をメタノール4L入りの容器に徐々に投入して沈殿させた後、沈殿した固形分を濾過して粉砕した後、80℃で真空にて18時間乾燥させることにより、固形分粉末のポリイミドを得た。得られたポリイミドのGPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量は38,000であった。また、このポリイミドを安息香酸メチルに溶解させて溶液としたところ、ポリイミドの析出は見られなかった。
【0081】
<ポリイミド組成物の調製>
得られたポリイミド30gを安息香酸エチル70gに溶解した溶液を調製し、さらにγ-デカノラクトン5gを加えて撹拌することによりポリイミド組成物を調製した。
【0082】
[実施例2]
γ-デカノラクトンに代えてゲラニオールを5g加えた以外は実施例1と同様にしてポリイミド組成物を調製した。
【0083】
[実施例3]
γ-デカノラクトンに代えてα-テルピノールを5g加えた以外は実施例1と同様にしてポリイミド組成物を調製した。
【0084】
[実施例4]
γ-デカノラクトンに代えてサリチル酸メチルを5g加えた以外は実施例1と同様にしてポリイミド組成物を調製した。
【0085】
[実施例5]
γ-デカノラクトンに代えてリノナールを5g加えた以外は実施例1と同様にしてポリイミド組成物を調製した。
【0086】
[比較例1]
γ-デカノラクトンに代えてメントールを5g加えた以外は実施例1と同様にしてポリイミド組成物を調製した。
【0087】
[比較例2]
γ-デカノラクトンに代えて酢酸アミルを5g加えた以外は実施例1と同様にしてポリイミド組成物を調製した。
【0088】
[比較例3]
γ-デカノラクトンを加えなかった以外は実施例1と同様にしてポリイミド組成物を調製した。
【0089】
<臭気評価>
実施例1~5および比較例1~3の8種のポリイミド組成物の臭気について、試験者A~Fの6名により臭気評価を行った。試験者A~Fは無作為に選んだ男女6名であり、試料(ポリイミド組成物)の組成がわからないように同じ形状のサンプル瓶に入れた状態で臭いを嗅ぎ、下記評価基準に基づいて、臭いの強さを6段階で評価した。
-臭いの強さ-
0:無臭
1:やっと感知できる臭い
2:何の臭いであるかわかる弱い臭い
3:らくに感知できる臭い
4:強い臭い
5:強烈な臭い
【0090】
また、同じ試験者6名により、下記評価基準に基づいて不快指数を9段階で評価した。
-不快指数-
-4:極端に不快
-3:非常に不快
-2:不快
-1:やや不快
0:快でも不快でもない
+1:やや快
+2:快
+3:非常に快
+4:極端に快
評価結果は下記表1に示すとおりであった。
【0091】
<密着性評価>
厚さ50μmのポリイミドフィルム(コーロン社製)の表面に各ポリイミド組成物を塗布し、100℃で加熱乾燥し、硬化膜を形成した。得られた硬化膜の密着性をJIS K 5600-5-6に準拠して評価した。
具体的には、硬化膜に片刃を使用して1mm間隔で100マスの碁盤目状の切り込みをいれた後、“セロテープ”(登録商標)を貼り付け、その後、セロテープ(登録商標)を引き剥がし、硬化膜とセロテープの状態を目視により確認し、下記評価基準に基づいて密着性の評価を行った。
◎:硬化膜の剥がれが全くなく、高い密着性が確認された。
〇:マスの角の剥がれが微量あることが確認された。
×:マスの角の剥がれが確認された、または1マス以上の剥がれが確認された。
評価結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0092】
<屈曲性評価>
硬化膜が形成されたポリイミドフィルムについて、折り曲げ試験機(DMLHP-CS、ユアサシステム機器株式会社)を用いて、R=2mm、20万回の屈曲性試験を行い、下記評価基準に基づいて屈曲性評価を行った。
○:20万回の折り曲げ試験においても外観状変化がない。
△:20万回の折り曲げ試験において、屈曲部にひび割れがある。
×:20万回未満の折り曲げ試験において破断。
評価結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0093】
【0094】
表1の評価結果からも明らかなように、安息香酸エステルの不快な臭気を有するポリイミド組成物であっても、特定の調香成分と組み合わせることにより、臭気が抑えられていることがわかる。