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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055751
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】白カビ系チーズ
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/14 20060101AFI20220401BHJP
   A23C 19/068 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
A23C19/14
A23C19/068
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163345
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 彩加
(72)【発明者】
【氏名】本田 祐徳
(72)【発明者】
【氏名】昆野 慶
(72)【発明者】
【氏名】小泉 詔一
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC30
4B001BC51
4B001BC99
4B001EC01
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】
本発明は、白カビ系チーズに特有の風味や食感を維持しつつ、燻煙処理により発現する風味形成、および内部構造の流出抑制、および保形性向上を白カビ系チーズに付与することを解決課題とするもので、従来にない燻煙処理した白カビ系チーズとその製造方法を提供する。
【解決手段】
燻煙処理により、白カビ系チーズの表面部分にフェノール類を20~200μg/g含有させることで保存性及び切断時のチーズ内部の流出を抑制した白カビ系チーズ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チーズ表面部分にフェノール類を20~200μg/g含有することを特徴とする白カビ系チーズ。
【請求項2】
チーズ表面部分にフェノール類を20~200μg/g含有し、ポーション形状であることを特徴とする請求項1記載の白カビ系チーズ。
【請求項3】
請求項2記載のポーション形状の白カビ系チーズであって、白カビの生育していないポーション切断面においても、チーズ表面部分にフェノール類を20~200μg/g含有することを特徴とする白カビ系チーズ。
【請求項4】
白カビを生育させる熟成工程を経た後に、表面部分のフェノール類量が20~200μg/gとなるように燻煙処理をすることを特徴とする白カビ系チーズの製造方法。
【請求項5】
白カビを生育させる熟成工程を経た後に、チーズをポーション形状に切断し、その後、表面部分のフェノール類量が20~200μg/gとなるように燻煙処理をすることを特徴とする請求項4に記載の白カビ系チーズの製造方法。
【請求項6】
前記白カビチーズの熟成工程が5~25℃にて5~30日間行うことを特徴とする請求項4または5に記載の白カビ系チーズの製造方法。
【請求項7】
白カビを生育させる熟成工程を経た後に、表面部分のフェノール類量が20~200μg/gとなるように燻煙処理をすることを特徴とする、白カビ系チーズにおける保存性向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙処理した白カビ系チーズに関する。
【背景技術】
【0002】
スモークチーズは、燻煙により風味付けしたチーズであり、オードブルや料理に広く用いられていることから、これまでにスモークチーズに関する発明が開示されている。
引用文献1(特開2003-79313)は、プロセスチーズだけでなく、香味に特徴のあるナチュラルチーズでも、その風味を活かしたままスモーク風味とすることができるように、常温下で簡便かつ短時間にスモークすることができるスモークチーズの製造方法を提案することを課題とし、その解決手段として、スモーク発生装置からのスモークによりマイナスイオンを発生させる加湿用噴霧装置を備えたスモークチャンバー内に引込んでマイナスイオン・ミスト・スモークを充満させることにより、プラスイオンに帯電しているチャンバー内のチーズに対しクーロン力を利用して常温下でスモークすることを特徴とする常温短時間によるスモークチーズの製造方法を開示している。
【0003】
引用文献2(特開2004-350541号)は、プロセスチーズに加工するのに必須である溶融塩や乳化剤を使用せずにナチュラルチーズ特有の食感を維持しつつ、しかも、パスタフィラタチーズのような特殊な組織ではなく、ナチュラルチーズ特有のコクや旨みを維持するために脂肪分も高く、しかもオイルオフのないスモークナチュラルチーズを提供することを課題とし、水分含量が35重量%以下、熟度指標STN/TN値が20%以下のナチュラルチーズを燻煙処理してなるオイルオフの少ないスモークナチュラルチーズを開示している。
【0004】
引用文献3(国際公開 WO2015/005321号)は、一口サイズであり、しっかりとしたスモーク風味を有しつつも、スモーク処理したチーズの表面に発生する硬い皮膜による食感の悪化を防止したスモークチーズを提供することを課題とし、一口サイズのチーズの全表面積中の40~75%の表面がスモーク処理されており、残りの表面がスモーク処理されていないことを特徴とする一口サイズのスモークチーズを開示している。
【0005】
引用文献4(特開2016-152806号)は、常温下で内部構造が流出しない白カビチーズを提供することを課題とし、原料乳の限外濾過膜処理により、白カビチーズ中の遊離βラクトグロブリン含有量を一定量以下に抑えることを特徴とする白カビチーズを開示している。
【0006】
特許文献1~3に記載された発明は、ナチュラルチーズの燻煙処理に関する発明であり、例えば、特許文献3の明細書には燻煙処理する対象の多数のナチュラルチーズの例として、カマンベールやカレドゥレスト等の白カビ系チーズが例示列挙され、カマンベールチーズを燻煙処理する実施例が記載されている。しかし、これらの特許文献では、ナチュラルチーズの燻煙処理の1態様として白カビ系チーズの燻煙処理が、示唆あるいは記載されているにすぎず、特に白カビ系チーズに焦点を当て、燻煙条件を開示しているわけではない。また、特許文献4に記載された発明は、原料乳中の特定成分を一定量低減させる前処理により、常温下で白カビチーズの内部構造が流出しない実施例が記載されている。しかし、この特許文献では白カビチーズの内部流動性や保形性が記載されているにすぎず、燻煙処理、およびその条件について開示しているわけではない。
本発明は、白カビ系チーズに特有の風味や食感を維持しつつ、燻煙処理により発現する風味形成、および内部構造の流出抑制、および保形性向上を白カビ系チーズに付与することを目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-79313号
【特許文献2】特開2004-350541号
【特許文献3】国際公開 WO2015/005321
【特許文献4】特開2016-152806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来にない燻煙処理した白カビ系チーズとその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明には以下の構成が含まれる。
(1)チーズ表面部分にフェノール類を20~200μg/g含有することを特徴とする白カビ系チーズ。
(2)チーズ表面部分にフェノール類を20~200μg/g含有し、ポーション形状であることを特徴とする(1)記載の白カビ系チーズ。
(3)(2)記載のポーション形状の白カビ系チーズであって、白カビの生育していないポーション切断面においても、チーズ表面部分にフェノール類を20~200μg/g含有することを特徴とする白カビ系チーズ。
(4)白カビを生育させる熟成工程を経た後に、表面部分のフェノール類量が20~200μg/gとなるように燻煙処理をすることを特徴とする白カビ系チーズの製造方法。
(5)白カビを生育させる熟成工程を経た後に、チーズをポーション形状に切断し、その後、表面部分のフェノール類量が20~200μg/gとなるように燻煙処理をすることを特徴とする(4)に記載の白カビ系チーズの製造方法。
(6)前記白カビチーズの熟成工程が5~25℃にて5~30日間行うことを特徴とする(4)または(5)に記載の白カビ系チーズの製造方法。
(7)白カビを生育させる熟成工程を経た後に、表面部分のフェノール類量が20~200μg/gとなるように燻煙処理をすることを特徴とする、白カビ系チーズにおける保存性向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により燻煙処理した白カビ系チーズは、レトルト殺菌を行わなくても長期保存が可能であり、さらに常温下においても内部構造の流出がなく保形性が優れるという効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の燻煙処理された白カビ系チーズについて以下に詳細に説明する。
(白カビ系チーズ)
本発明の「白カビ系チーズ」とは、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)」で定義されるナチュラルチーズであって、表面に白カビを生育させるタイプのチーズ全てを包含するものである。白カビ系チーズは、カマンベール、ブリー、クロミエ、カレドゥレスト、ヌシャーテル、シャウルス、パテ・ソルビリゼなどを例示できる。
【0012】
(白カビ系チーズの製造方法)
本発明の白カビ系チーズの製造法について説明する。本発明の白カビ系チーズの製造法は、原料乳を凝固させてチーズカードを調製し、得られたチーズカードを熟成させる前に食用アルカリ剤を添加し、その後、チーズカードの表面に白カビを生育させる、というものである。
【0013】
ここでは、一例として白カビ系チーズであるカマンベールチーズの一般的な製造方法を例示する。なお、本発明は以下の製造方法に限定されるものではない。
(1)殺菌した原料乳に乳酸菌スターター、凝乳酵素、白カビを添加してチーズカードを製造し、(2)得られたチーズカードを型枠に流し込んで成型し、(3)ホエイを排除し、(4)ナトリウムを含む食用アルカリ剤を添加し、(5)チーズカードの熟成を進めることにより、白カビ系チーズを得ることができる。なお、加塩や白カビの添加方法については、さまざまな手法が考案されており、いずれも使用可能である。また、チーズ乳に均質化処理をするなどの工程を経ることも可能である。
【0014】
白カビ系チーズの製造方法には、チーズカードの最低pHを4.6程度まで低下させるトラディショナル製法、カードの最低pHを5.0より高く保持するスタビライズ製法が一般的に知られているが、本発明ではいずれの製法でも問題ない。
【0015】
(熟成工程)
本発明において、伝統的製法で製造された白カビチーズは、例えば、5℃~25℃で5~30日、好ましくは20℃において10日ほど熟成する。熟成時の相対湿度は、例えば70%~99%、又は75%~95%であることができる。熟成開始から3日目頃からチーズの表面に白カビが発生し、10日目を過ぎる頃になると表面から熟成が進み、熟成された部分は硬いカード状からペースト状の組織に変化する。白カビとしては、P.camemberti及び/又はP.candidumを用いることができる。
白カビ系チーズは、発酵成型後にレトルト殺菌していない生タイプとレトルト殺菌処理をしているレトルトタイプがある。本発明では、生タイプの燻煙処理後に白カビを再生したのちに、レトルト殺菌処理をすることもできる。
また、熟成工程に関して、通常熟成後に燻煙処理を実施するが、燻煙後に再度熟成を実施するなど熟成工程はいずれの順序でも構わない。また、熟成工程の途中でポーション形状に加工することもできる。本発明でいうポーション形状は、一口サイズに成型したチーズであり、例えば、円柱状のカマンベールチーズを放射状に4~8分割し、一口で食せる形状のチーズを示す。
【0016】
(燻煙処理)
本発明においては、表面に白カビ系チーズに対して燻煙処理を施すものである。
ここで燻煙処理は、木材などを燃焼させた際に発生する燻煙を食品に当て、燻煙の香りや成分を食品に添加する処理である。この処理により、食品の味・香り・色が変化し、食品に燻煙風味・燻煙カラーが付与される。燻煙には多くの成分が含まれているが、カルボニル化合物、フェノール類、酸等が代表的な含有成分で、フェノール類が燻煙処理をした食品の香りに影響を与えるという報告もある。また、燻煙処理においては、燻煙時間が増えるごとに食品中のフェノール量は増加し、燻煙濃度が濃くなるにつれて食品中のフェノール成分量が増加するとの報告もある。
燻煙処理工程における処理条件は、特に限定されないが、例えば、0~45℃で、3~720分間燻煙処理することが好適である。上記処理条件の範囲において、燻煙処理温度は、好ましくは0~40℃であり、より好ましくは4~30℃であり、及び/又は燻煙処理時間は、好ましくは3~300分間であり、より好ましくは30~120分間である。
燻煙直後の白カビ系チーズのpHは、例えば6.5以下、好ましくは6.0以下、より好ましくは、5.8以下である。燻煙2週間保存後の白カビ系チーズのpHは、例えば6.7以下、好ましくは6.5以下、より好ましくは、6.0以下である。燻煙4週間保存後の白カビ系チーズのpHは、例えば7.0以下、好ましくは6.8以下、より好ましくは、6.5以下である。この場合、pHの測定は、白カビチーズの内部において行い、4週間の保存は冷蔵(10℃)で行うものである。
本発明においては、白カビ系チーズの熟成を行う者と燻煙処理を行う者の同一性は要求されない。例えば、燻煙処理を行う者が熟成された白カビ系チーズを購入して、燻煙処理を実施してもよい。
【0017】
本発明者らは、白カビ系チーズの表面部に含まれるフェノール量に注目し、これを適切な範囲に設定することで、従来の単に燻煙に当てるのみの燻煙処理では得られなかった、新たな特性を白カビ系チーズに付与することができるという知見を得た。すなわち、本発明は、燻煙処理により、白カビ系チーズの表面部に含まれるフェノール量を適当な範囲とすることにより、白カビの生育した表面部分は白カビの生育を制御し、切断部分において内部構造の流出を抑制するという、新たな知見に基づくものである。
【0018】
すなわち、本発明の燻煙白カビ系チーズは、燻煙処理により得られる白カビ系チーズの表面部のフェノール類を20~200μg/gの範囲としたものである。白カビ系チーズの表面部のフェノール類は50~150μg/gが好ましく、70~150μg/gがより好ましい。なお、白カビ系チーズの表面部とは、チーズ表面から2.5mmの部位を意味するものである。
フェノール量を上述の範囲とすることで風味のよい燻製白カビ系チーズとなり、さらにカビの作用による白カビ系チーズの過度な熟成を抑制することができる。よって、レトルト殺菌等の処理をすることなく白カビ系チーズの長期保存が可能となる。
フェノール類の含有量が20μg/g未満の場合には燻煙処理の程度が弱すぎて白カビが再生し、熟成を抑制することができない。一方、フェノール類の含有量が200μg/gを越えると、白カビ系チーズの保存性が向上するので好ましいが、燻煙処理の程度が強く、燻煙風味が強くなる。このため、フェノール類の含有量は200μg/g以下であることが好ましい。 このような特性は、白カビ系チーズの表面部のフェノール類の含有量を燻煙処理により特定の数値範囲に設定したことにより達成される効果である。
【0019】
燻煙処理の方式は、通常の食品の燻煙処理に用いられる方式であれば、いかなる方式も採用することができる。通常は燻煙発生装置によって発生させた燻煙を燻煙室に導入して燻煙処理を行うジェネレーター方式の他、直火型や電子スモーク方式、燻液を塗布する方法も採用することできる。直火型は庫内が高温になり、熱によるチーズの溶解で良好な燻煙処理が出来ないことがあるため、熱による影響の少ない、ジェネレーター方式、電子スモーク方式、燻液塗布などの燻煙処理方式が好ましい。
【0020】
燻煙処理は一般的にはチーズ表面が軽く着色する程度の漠然とした条件で行なわれるが、本発明においては、この燻煙処理の程度が重要である。すなわち、上記したとおり、フェノール類が20~200μg/gの範囲、好ましくは50~150μg/gの範囲、より好ましくは70~150μg/gの範囲になるよう行う。燻煙に用いるスモークチップは桜、胡桃、林檎、なら、ヒッコリー、ぶな、ウィスキーオークなどが用いられるが、桜が好適である。
【0021】
(フェノール類量の測定方法)
前述の表面のフェノール類の測定は次の方法で行えばよい。
チーズ表面を縦×横×厚さが20×20×2.5mmになるようサンプリングし、試料とする。ギブスの方法(参考文献[Tucker,I.W.; 食肉及び脂肪中のフェノールの評価 J.A.O.A.C., XXV 779(1942))に則り、フェノール類を測定する。
すなわち、試料に60%エタノールを加え粉砕し、3000rpm、10min遠心分離した上澄みをサンプル液とする。pH8.3ホウ酸-塩化カリウム緩衝液0.5mlに、適宜希釈したサンプル液を0.5ml加える。0.6%NaOHを0.1ml加え、pH9.8に合わせる。着色試薬は、0.25gの2,6-ジクロロ-N-クロロ-p-ベンゾキノンモノイミンを30ml無水アルコールに溶解し調製する。蒸留水で15倍に希釈した着色試薬を0.1ml加え、室温で25分間発色させ、580nmの波長で吸光度を測定する。2,6-ジメトキシフェノールにて検量線を作成し、濃度を算出する。
【0022】
上記した方法で製造された白カビ系チーズは、レトルト殺菌等、保存や流通に適した状態にするために殺菌処理を行わなくても保存性が高まるという効果を有しているが、さらに殺菌工程を経ることを否定するものではなく、殺菌処理を行ってもよい。本発明の白カビ系チーズにおいて殺菌処理を行う場合は、燻煙処理後に行うことが好ましい。殺菌処理は、一般的に熟成工程後に行い、中身部分の品温が80℃以上になるように保持して行うが、特にこれに限定されるものではない。殺菌処理の一態様としてはレトルト処理、例えば、製造された白カビ系チーズを容器に入れその容器を封印した後に、容器を加熱殺菌処理する方法が挙げられる。その際、製造された円盤形や円柱形の白カビ系チーズをそのまま容器に挿入してもよいが、白カビ系チーズを熟成工程中あるいは熟成工程後に4~12個程度のポーションに切り分けたものを容器内に挿入してもよい。レトルト処理に用いられる容器としては、金属缶、アルミパウチ及びポリプロピレンのプラスティック容器等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0023】
また、本発明を実施するための白カビ系チーズの形状や質量はいかなるものでもよい。例えば、白カビ系チーズの一般的な形状である円盤形及び円柱形に加え、球形、方形、錐形など、また、香辛料等を内部に挟むなど多種多様なチーズ形態で実施可能である。
一般的には、楔形にポーションカットされた製品が流通しているが、このようなポーション加工を行ってもよい。この場合、予備発酵により白カビが生育したチーズをポーション加工処理することが好ましく、燻煙工程はポーション加工処理後に設ける。白カビ系チーズを製造から30日後に楔形にポージョンカットし、アルミ箔等で個包装するが、日数・包装紙はとくに限定しない。ポーション加工による1片のチーズ重量は10~30gであることが好ましいが、限定はしない。
【0024】
本明細書において、「保存性向上」、「保存性が向上する」、又は「保存性が高まる」とは、白カビチーズの燻煙後(例えば、白カビチーズ燻煙2週間後又は燻煙4週間後)において、過熟による風味、物性、及び外観の変化を抑制することを意味する。保存性向上には、具体的には、pHの上昇を抑制すること、白カビの過度な生育を抑制すること、形状を保つこと(例えば、白カビチーズを切断した場合における内部の流出を抑制すること)、風味の劣化を抑制すること(例えば、苦み又はアンモニア臭が生じることを抑制すること)が含まれる。
pHの上昇を抑制することとは、例えば、燻煙4週間保存後の白カビチーズのpHと燻煙直後の白カビチーズの差が、1.5より小さいことを意味する。燻煙4週間保存後の白カビチーズのpHと燻煙直後の白カビチーズの差は、好ましくは、1.0より小さいことが好ましく、0.70より小さいことがより好ましい。この場合、pHの測定は、白カビチーズの内部において行い、4週間の保存は冷蔵(10℃)で行うものである。
【実施例0025】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0026】
代表的な白カビチーズであるカマンベールを通常の製造方法により調製した。即ち、脂肪分3.8%に調整した調製乳を、75℃、15秒間殺菌して冷却した後、乳酸菌スターターとレンネットを添加して乳を凝固させる。この凝固したカードを切断し一定時間保持した後、フープに入れてカードとホエイを完全に分離し成型し、食塩溶液に浸漬して加塩し、P.camemberti、あるいはP.candidumの胞子を含有する懸濁液を表面に噴霧する。
次に、温度14℃、相対湿度75%の乾燥室内で1~2日間表面を乾燥させ、その後温度14℃、相対湿度95%の熟成室内で熟成を行った。
このチーズを製造から30日後に楔型にカットし、約30gのポーション白カビチーズを得た。チーズをカット後、燻製ジェネレーター方式で燻煙処理を実施した。燻煙温度は30℃、燻煙時間は30分、桜のチップを用いて燻煙処理を行った。燻煙処理後、10℃にて24時間冷蔵保存した後フィルムに包んで包装し、その後、製造から6週間後、8週間後にpH測定、官能評価を行った。官能評価は熟練した5名のパネラーによって、風味、外観、組織について評価を行った。
【実施例0027】
実施例1のポーションカマンベールの燻煙処理を温度30℃、燻煙時間を120分実施したものを同様に冷蔵、保存し、その後、製造から6週間後、8週間後にpH測定、官能評価を行った。官能評価は熟練した5名のパネラーによって、風味、外観、組織について評価を行った。
【実施例0028】
チーズカードを一般的なナチュラルチーズ製造方法により調製した。即ち、脂肪分3.8%に調整した調製乳を、75℃、15秒間殺菌して冷却した後、乳酸菌スターターとレンネットを添加して乳を凝固させる。この凝固したカードを切断し一定時間保持した後、フープ、またはモールドに入れてカードとホエイを完全に分離し成型する。U字型、ハート形のフープ、球形のモールドを使用し、U字(馬蹄形)に成型した100gのチーズ、ハート形に成型した30gのチーズ、球形(チェリータイプ)に成型した10gのチーズを得た。
これらのチーズを食塩溶液に浸漬して加塩し、P.camemberti、あるいはP.candidumの胞子を含有する懸濁液を表面に噴霧する。次に、温度14℃、相対湿度75%の乾燥室内で1~2日間表面を乾燥させ、その後温度14℃、相対湿度95%の熟成室内で熟成を行った。
これらのチーズを製造から30日後に燻製ジェネレーター方式で燻煙処理を実施した。燻煙温度は30℃、燻煙時間は60分、桜のチップを用いて燻煙処理を行った。燻煙処理後、10℃にて24時間冷蔵保存した後フィルムに包んで包装し、その後、製造から6週間後、8週間後にpH測定、官能評価を行った。官能評価は熟練した5名のパネラーによって、風味、外観、組織について評価を行った。
【0029】
[比較例1]
実施例1のポーションカマンベールチーズを、燻煙を行わずに熟成し、製造から4週間後、6週間後、8週間後にpH測定、官能評価を行った。
【0030】
(フェノール類の測定結果)
実施例1は、フェノール類50μg/gであった。
実施例2は、フェノール類150μg/gであった。
実施例3は、フェノール類90μg/gであった。
比較例1は、フェノール類5μg/gであった。
【0031】
(pH測定結果)
実施例1、3は、製造8週間後には再び白カビが周りを覆い、pHは高くなっていた。実施例2は白カビの生育は見られず、pHの変化はなかった。一方、比較例1は、燻煙を行っていない通常の熟成であるため、製造8週間後にはpHは高くなっていた。
【0032】
(官能評価結果)
実施例1、3は、製造後6週間後から切断部以外の表面から再び白カビが生え始め、8週間後にさらに白カビの状態は良好であり、再度熟成が進行し良好な風味となっていた。実施例1は熟成が進み柔らかい組織になっていたものの、切断部からの内部流出は見られずに変形はしていなかった。白カビとスモークのバランスのとれたほどよい風味であり、風味、食感ともに良好であった。
【0033】
実施例2は、製造6週間後、8週間後共に外観は良好であり、風味も良好であった。レトルト処理を行わない白カビチーズは、過熟になると苦味やアンモニア臭が強くなるが、これらの味や香りは感じなかった。保存による組織の変化はほとんど見られず、燻煙処理前と同様の適度な硬さを保持する組織となっていた。また、切断部からの内部流出もなかった。これらのことから、レトルト処理を行わない生カマンベールにおいても、十分な燻煙処理を行うことで保存性が高く、風味が良好な「生タイプスモークカマンベール」を製造することができた。
【0034】
比較例1は、製造後4週間後から6週間後でちょうど食べ頃であったが、8週間後では過熟となり、内部はトロトロとなり流動化し、苦味やアンモニア臭が強かった。
これらのことから、実施例1~3のように適度な燻煙処理を行うことで表面に白カビが生え、見た目は燻煙していない通常カマンベールだが、風味、組織、外観ともに良好な「スモークカマンベール」を製造することができた。