(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022055792
(43)【公開日】2022-04-08
(54)【発明の名称】三次元形状造形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/16 20060101AFI20220401BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20220401BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220401BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20220401BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220401BHJP
C22C 19/05 20060101ALN20220401BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F3/105
B22F3/24 G
B29C64/40
B33Y10/00
C22C19/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020163418
(22)【出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 賢一
(72)【発明者】
【氏名】水谷 耕久
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL43
4F213WL55
4F213WL62
4F213WW02
4F213WW23
4F213WW24
4K018AA07
4K018BA04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA06
4K018KA12
4K018KA58
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、製造コスト全体に占める切削加工コストの割合を従来より低減することのできる三次元形状造形体の製造方法を提供することである。
【解決手段】 複数の結合層が積層一体化された積層造形体を作製する積層造形工程と、積層造形体から余肉部を除去して三次元形状造形体とする加工工程と、を有する三次元形状造形体の製造方法であって、積層造形工程では、少なくとも一部の結合層において相対的に強度が異なる部分を形成することで、三次元形状造形体となる高強度部と、該高強度部に隣接して、該高強度部よりも相対的に強度が低い低強度部とを形成し、加工工程において、高強度部の一部と、それに隣接する低強度部とを余肉部として加工によって除去する三次元形状造形体の製造方法。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末の層の所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させることで結合層を形成し、前記結合層の上に金属粉末の層を被覆して所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させると共に下層の結合層と一体化された新たな結合層を形成することを繰り返して、複数の結合層が積層一体化された積層造形体を作製する積層造形工程と、
前記積層造形体から余肉部を除去して三次元形状造形体を得る加工工程とを有し、
前記積層造形工程では、少なくとも一部の結合層において相対的に強度が異なる部分を形成することで、前記三次元形状造形体となる高強度部と、該高強度部に隣接して、該高強度部よりも相対的に強度が低い低強度部とを形成し、
前記加工工程において、前記高強度部の一部と、それに隣接する前記低強度部とを前記余肉部として加工によって除去することを特徴とする三次元形状造形体の製造方法。」
【請求項2】
前記積層造形体は、前記三次元形状造形体に対応する部分を支持する、前記高強度部よりも相対的に強度が低いサポート部を有し、
前記加工工程の後に前記サポート部を除去することを特徴とする請求項1に記載の三次元形状造形体の製造方法。
【請求項3】
前記加工工程において、前記サポート部を用いて前記積層造形体を固定することを特徴とする請求項2に記載の三次元形状造形体の製造方法。
【請求項4】
前記高強度部に対する前記低強度部の硬さ比が0.9以下である請求項1乃至3の何れかに記載の三次元形状造形体の製造方法。
【請求項5】
前記金属粉末がNi基合金からなる請求項1乃至4の何れかに記載の三次元形状造形体の製造方法。
【請求項6】
前記エネルギービームのエネルギー密度を変えることで前記低強度層と高強度層とを形成する請求項1乃至5の何れかに記載の三次元形状造形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる3Dプリンタを使用して原料である金属粉末から三次元形状造形体を作製する製造方法に関するもので、特に難削材と言われる切削加工が困難な材料からなる三次元形状造形体を作製する際に、造形後の切削加工を容易にする三次元形状造形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元形状造形体は通常、次のようにして作製される。すなわち、先ず、積層造形工程において金属粉末の層の所定箇所にエネルギービームを照射して当該個所の金属粉末を溶融結合させることで結合層を形成し、この結合層の上に更に金属粉末の層を被覆して所定箇所にエネルギービームを照射して当該個所の金属粉末を溶融結合させると共に下層の結合層と一体化された新たな結合層を形成することを繰り返して、複数の結合層が積層一体化された積層造形体(以下、積層体と記すことがある)を作製する。次いで、加工工程において積層造形体から表面の余肉を除去して、所望の寸法精度や表面状態を備える三次元形状造形体(以下、単に造形体と記すことがある)を得るのである。
【0003】
特許文献1は、三次元造形技術により金型を製造する発明を開示するもので、その特徴は使用時に流体物又は固体物との接触に起因して三次元形状造形体に力のかかる表面領域を固化密度95~100%の高密度領域となるように固化層形成を行い、三次元形状造形体をコア側またはキャビティ側の金型として用い、金型使用時にてコア側とキャビティ側とが接触することになる前記表面領域の一部に対して切削加工を施す点にある。これにより、特許文献1の発明は、金型の必要な箇所にのみ高密度領域を形成し、その一部に対して切削加工を施すので、金型の製造時間の短縮および製造コストの低減を図ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5539347号公報
【特許文献2】特許6504064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法は、特に三次元造形により金型を製造することを想定した発明である。金型使用時にてコア側とキャビティ側とが接触することになる表面領域が三次元形状造形体の全体の表面領域に占める割合は、比較的小さいことが一般的である。したがって、三次元造形により金型を製造する場合、金型使用時にてコア側とキャビティ側とが接触することになる表面領域の一部に対する切削加工のコストが、高密度領域の形成やその切削加工に要する製造コスト全体に対して占める割合は、金型においては比較的小さいと考えられる。
【0006】
近年では三次元造形技術は、金型に限らず多くの金属製品や金属部品(以下、合わせて一般部材と記すことがある)の作製にも適用が進みつつある。表面領域の一部ではなく、より多くの表面領域または全ての表面領域において高密度領域を形成し、その高密度領域に対して切削加工を施すことにより所望の寸法精度や表面状態を付与する一般部材を三次元造形技術により作製することが求められることがある。このような場合、製造コスト全体に占める高密度領域の形成やその切削加工に要するコストの割合は、特許文献1が想定する金型作製の場合に比べて高くなると考えられ、特許文献1の製造方法は一般部材の製造時間の短縮および製造コストの低減を図るための手段として必ずしも適しているとは言えない。特に、難削材と呼ばれる被削性に劣る材料を用いる場合は、製造コスト全体に占める切削加工コストの割合が特に高くなる傾向にあるため、効率的に切削できる製造方法が求められている。
【0007】
特許文献2の金属部材の製造方法は、台座上に敷き詰めた金属粉末層の所定領域に光ビームを照射して、選択的に溶融・凝固させた造形層を繰り返し形成することによって、オーバーハング部を有する金属部材を、オーバーハング部を支持するサポート部材と共に造形する、金属部材の製造方法であって、金属部材は、中央に中空部分を有し、中空部分の上方に、オーバーハング部を有し、中空部分の内部に、中実のサポート部材を形成し、オーバーハング部とサポート部材との境界面の略全体に0.3~0.8mmのギャップを設け、サポート部材と、中空部分の下方の金属部材との間に、ハニカム構造を含むアンカー膜を形成し、サポート部材に、サポート部材を金属部材から分離除去するための凹部を形成する、というものである。かかる発明により、サポート部材を容易に分離除去することができるとしている。しかし、この製造方法はオーバーハング部とサポート部材との境界面にギャップを有するため、加工等によりオーバーハング部に大きな負荷がかかるとオーバーハング部に変位を生じ、高い加工精度が得られにくいという課題がある。
【0008】
本発明の目的は、三次元造形により表面領域の一部ではなく、より多くの表面領域または全ての表面領域において高密度領域を形成する場合に好適な、高密度領域に対して切削加工を施すことにより所望の寸法精度や表面状態を付与する三次元形状造形体の製造方法であって、特に難削材からなる三次元形状造形体を製造する場合において、製造コスト全体に占める切削加工コストの割合を従来より低減することのできる三次元形状造形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。すなわち本願発明の三次元形状造形体の製造方法は、粉末の層の所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させることで結合層を形成し、前記結合層の上に金属粉末の層を被覆して所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させると共に下層の結合層と一体化された新たな結合層を形成することを繰り返して、複数の結合層が積層一体化された積層造形体を作製する積層造形工程と、前記積層造形体から余肉部を除去して三次元形状造形体を得る加工工程とを有し、前記積層造形工程では、少なくとも一部の結合層において相対的に強度が異なる部分を形成することで、前記三次元形状造形体となる高強度部と、該高強度部に隣接して、該高強度部よりも相対的に強度が低い低強度部とを形成し、前記加工工程において、前記高強度部の一部と、それに隣接する前記低強度部とを前記余肉部として加工によって除去することを特徴とする三次元形状造形体の製造方法である。なお、ここでいう、「高強度」、「低強度」は強度の相対関係を意味するものである。
【0010】
本願発明の三次元形状造形体の製造方法においては、前記積層造形体は、前記三次元形状造形体に対応する部分を支持する、前記高強度部よりも相対的に強度が低いサポート部を有し、前記加工工程の後に前記サポート部を除去することが好適である。
【0011】
本願発明の三次元形状造形体の製造方法においては、前記加工工程において、前記サポート部を用いて前記積層造形体を固定することができる。
【0012】
本願発明の三次元形状造形体の製造方法においては、前記高強度部に対する前記低強度部の硬さ比が0.9以下であることが好適である。
【0013】
本願発明の三次元形状造形体の製造方法においては、前記金属粉末をNi基合金からなる金属粉末とすることができる。
【0014】
本願発明の三次元形状造形体の製造方法においては、前記エネルギービームのエネルギー密度を変えることで前記低強度層と前記高強度層とを形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、三次元造形により表面領域の一部ではなく、より多くの表面領域または全ての表面領域において高密度領域を形成し、その高密度領域に対して切削加工を施すことにより所望の寸法精度や表面状態を付与する三次元形状造形体の製造方法であって、特に難削材からなる三次元形状造形体を製造する場合において、製造コスト全体に占める切削加工コストの割合を従来より低減することのできる三次元形状造形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態における積層体の三次元データに基づいて作製される積層体の断面の一部を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態における歪が生じた積層体の断面の一部を示す図である。
【
図3】
図2の積層体から余肉部を除去した後の造形体を示す図である。
【
図4】従来の実施形態における積層体の三次元データに基づいて作製される積層体の断面の一部を示す図である。
【
図5】従来の実施形態における歪が生じた積層体の断面の一部を示す図である。
【
図6】
図5の積層体から余肉部を除去した後の造形体を示す図である。
【
図7】実施例1の積層造形工程後の積層造形体を三角法によって表した三面図である。
【
図9】実施例1の加工工程(ドリル穴加工)後の積層造形体を三角法によって表した三面図である。
【
図10】実施例1の加工工程(リーマ加工)後の積層造形体を三角法によって表した三面図である。
【
図11】実施例1の加工工程(ベース板除去)後の積層造形体を三角法によって表した三面図である。
【
図12】実施例1の加工工程(サポート除去)後の積層造形体を三角法によって表した三面図である。
【
図13】実施例2の積層造形工程後の薄肉で3次元曲面形状を有する積層造形体の断面を表す図である。
【
図14】実施例2の加工工程後の積層造形体の断面を表す図である。
【
図15】実施例2の加工工程(プレート除去)後の積層造形体の断面を表す図である。
【
図16】実施例3の積層造形工程後の二つの円柱状部材が一体化したT字形状の積層造形体を表す三面図である。
【
図17】実施例3の加工工程(ベース板除去)後の二つの円柱状部材が一体化したT字形状の積層造形体を表す三面図である。
【
図18】実施例3の加工工程(加工)後の二つの円柱状部材が一体化したT字形状の積層造形体を表す三面図である。
【
図19】実施例3の加工工程(サポート除去)後の二つの円柱状部材が一体化したT字形状の積層造形体を表す三面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
製造コスト全体に占める切削加工コストの割合を高める要因の一つが、積層造形工程またはその後の熱処理工程に伴って生じる残留熱応力による積層体の歪みである。
図4は積層体の三次元データに基づいて作製される積層体の外周面を含む断面の一部を示すものである。結合層の積層方向は図の下から上である。但し、この積層体に歪は反映されていない。
図4では、積層体の外周面を含む断面の一部は外周面である積層面1a、上面1d、下面1eおよび断面の一部のみを図示していることを示す一点鎖線で囲まれている。積層造形工程またはその後の熱処理工程を経た後の加工工程で積層体1から点A,B,C,Dで囲まれる余肉部1Bを切削加工等により除去して、積層面1aに代わり加工面1cを外周面とする造形体1Aが得られる。
【0018】
積層体1が所定量の余肉部1Bを必要とする理由について説明する。
図4の積層体に歪は反映されていないが、実際には積層造形工程またはその後の熱処理工程を経た後の積層体1には歪が生じていることがある。
図5は歪が生じた積層体の断面の一部を示すものである。但し、説明を解り易くするために歪は積層面1aにのみ生じるものとし、上面1dおよび下面1eには生じないものとする。積層体には積層造形工程またはその後の熱処理工程において生じる残留熱応力により歪が生じることが知られている。歪は一様ではなく造形体の部位により設計寸法に対してプラスの歪またはマイナスの歪みとなる。その結果、
図5に示すように本来の積層面1aの形状と一致しない積層面1a’が形成され、本来の余肉部1Bの断面形状(点A,B,C,D)と一致しない余肉部1B’(点A’,B,C,D’)が形成される。
図5の余肉部1B’は、
図4の余肉部1Bとほぼ同じ断面積を維持しつつ上面1d側の長さがA-BからA'-Bへとプラスの歪みを有し、下面1e側の長さがC-DからC-D'へとマイナスの歪みを有する。
【0019】
積層体1から余肉部1B’を切削加工により除去して造形体(一般部材)1Aを得る(
図6)。余肉部1B’を設ける目的は、それを除去することにより造形体1Aに所望の寸法精度や表面状態を付与するための加工代を確保することである。余肉部1B’を除去すると積層面1a’が失われ、それに代わって現れる加工面1cが新たな外周面となり、造形体1Aに所望の寸法精度や表面状態を付与することができる。
【0020】
加工面1cが一部でも欠けることなく完全に形成されるためには、十分な厚さの余肉部1B’が確保されていなければならない。余肉部の厚さは加工面1c上の所定箇所からその垂直方向に測った積層面1a’までの長さである。特に、最大のマイナス歪が生じ余肉部1B’が最も薄くなる下面1e側においても加工面1cに余肉が被っていなければならない。熱の影響を受けた金属体が歪む現象にはばらつきがあり、材質、形状、大きさが同一の金属体どうしで比較しても歪が生じる部位や歪量は必ずしも一定ではない。そのため、大きなマイナス歪が生じる部位においても加工面1c上に一定程度の厚さ(長さCD’)の余肉が確保されるよう、設計上の余肉部の厚さ(長さCD(長さAB))を十分に厚くしておく必要がある。一方で、大きなプラス歪が生じる部位においては余肉部の厚さが長さA’Bとなり、厚くなり過ぎるという課題も生じる。このようにして余肉部の厚さ(長さCD(長さAB))を決めると、結果として余肉部1B’の体積が大きくなり、それを切削加工して除去するのにより多くの時間とコストを要することとなる。
【0021】
余肉部の体積を可能な限り小さくして切削加工の工数を抑制する手段としてニアネットシェイプがある。ニアネットシェイプはシミュレーションまたは実測により予め求めた歪の発生部位や歪量を考慮して余肉部を極力小さくするように積層体の設計寸法を決める技術である。この技術は比較的小さい、または単純形状である積層体に対しては有効であるが、比較的大きい、または複雑形状である積層体に対しては必ずしも有効とは言えない。
【0022】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。すなわち本願発明の三次元形状造形体の製造方法は、粉末の層の所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させることで結合層を形成し、前記結合層の上に金属粉末の層を被覆して所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させると共に下層の結合層と一体化された新たな結合層を形成することを繰り返して、複数の結合層が積層一体化された積層造形体を作製する積層造形工程と、前記積層造形体から余肉部を除去して三次元形状造形体を得る加工工程とを有し、前記積層造形工程では、少なくとも一部の結合層において相対的に強度が異なる部分を形成することで、前記三次元形状造形体となる高強度部と、該高強度部に隣接して、該高強度部よりも相対的に強度が低い低強度部とを形成し、前記加工工程において、前記高強度部の一部と、それに隣接する前記低強度部とを前記余肉部として加工によって除去することを特徴とする。以下、
図1~
図3を用いて本発明の三次元形状造形体の製造方法について説明する。
【0023】
[積層造形工程]
積層造形工程では、三次元造形機を用いて三次元データに基づき原料粉末から積層造形体を作製する。より具体的には、粉末の層の所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させることで結合層を形成し、前記結合層の上に金属粉末の層を被覆して所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させると共に下層の結合層と一体化された新たな結合層を形成することを繰り返して、複数の結合層が積層一体化された積層造形体を作製する。積層造形工程では、少なくとも一部の結合層において相対的に強度が異なる部分を形成することで、三次元形状造形体となる高強度部と、該高強度部に隣接して、該高強度部よりも相対的に強度が低い低強度部とを形成する。
【0024】
図1は積層体の三次元データに基づいて作製される積層体の外周面を含む断面の一部を示すものである。結合層の積層方向は図の下から上である。但し、この積層体に歪は反映されていない。
図1では、積層体の外周面を含む断面の一部は外周面である積層面1a、上面1d、下面1eおよび断面の一部のみを図示していることを示す一点鎖線で囲まれている。積層造形工程またはその後の熱処理工程を経た後の加工工程で積層体1から点A,B,C,Dで囲まれる余肉部1Bを切削加工等により除去して、積層面1aに代わり加工面1cを外周面とする造形体1Aが得られる。既に述べたとおり、積層体1は歪が生じることから設計上の十分な厚さ(長さAB(CD))の余肉部1Bを必要とする。余肉部1Bは加工面1c側の高強度余肉部1B
Hと積層面1a側の低強度余肉部1B
Lとからなり、両者は強度界面1fで互いに接する。強度界面1fは積層面1aと加工面1cの間に形成されるが、積層面1aまたは加工面1cと一致することはない。高強度余肉部1B
Hは相対的に硬さの高い高強度部からなり、低強度余肉部1B
Lは相対的に硬さの低い低強度部からなる。本願発明では、硬さを強度の評価とし、高硬度部を高強度部、低硬度部を低強度部と称している。造形体1Aは全てを高強度部で形成する構造、または少なくとも加工面1cおよびその近傍の部位を高強度部で形成し、それ以外の部位(内部)を低強度部で形成する高強度部と低強度部とを組み合わせた構造とすることができる。積層体の表面を構成する結合層の外周部(低強度余肉部1B
L)が低強度部となるよう造形し、外周部を除く結合層(高強度余肉部1B
Hと造形体1A)が高強度部となるよう造形する。低強度部と高強度部は同じ原料粉末から造形条件を変えることにより一体的に形成することができる。
【0025】
同一材料から硬さの高い高強度部と硬さの低い低強度部を有する積層体を一体的に積層造形するには、金属粉末の層に向けて照射するエネルギービームの出力、走査速度、走査間隔等を変更可能にして、結合層の高強度層と低強度層の各々において金属粉末の層に供給するエネルギー密度(J/mm3)を調整すればよい。高強度層を形成するにはエネルギー密度を大きくし、低強度層を形成するには小さくすればよい。特に、走査速度を変更可能にしてエネルギー密度を調整することが好ましい。大きな走査速度でエネルギービームを照射すればエネルギー密度が小さくなり低強度層を形成することができるとともに、より短時間で積層造形を完了することができる。上述のようにして、少なくとも一部の結合層を高強度層と低強度層とからなるよう形成することができる。すなわち、積層方向に垂直な層(面内方向)で、強度が異なる部分を形成することができる。
[積層造形工程後の積層体]
【0026】
図2は歪が生じた積層体の断面の一部を示すものである。但し、説明を解り易くするために歪は積層面1aにのみ生じるものとし、上面1dおよび下面1eには生じないものとする。
図2に示すように本来の積層面1aの形状と一致しない積層面1a’が形成され、本来の余肉部1Bの断面形状(点A,B,C,D)と一致しない余肉部1B’(点A’,B,C,D’)が形成される。
図2の余肉部1B’は、
図1の余肉部1Bとほぼ同じ断面積を維持しつつ上面1d側の長さがA-BからA'-Bへとプラスの歪みを有し、下面1e側の長さがC-DからC-D'へとマイナスの歪みを有する。余肉部1B’は加工面1c側の高強度余肉部1B’
Hと積層面1a’側の低強度余肉部1B’
Lとからなり、両者は強度界面1f’で互いに接する。強度界面1f’は積層面1a’と加工面1cの間に形成されるが、積層面1a’または加工面1cと一致することはない。
【0027】
加工面1cが一部でも欠けることなく完全に形成されるためには、十分な厚さの余肉部1B’が確保されていなければならない。特に、最大のマイナス歪が生じ余肉部1B’が最も薄くなる下面1e側においても加工面1cに高強度余肉部1B’Hおよび低強度余肉部1B’Lが被っていなければならない。
[加工工程]
【0028】
加工工程では積層造形体1から余肉部1B’を除去して三次元形状造形体1Aとする(
図3)。加工工程においては、高強度部の一部と、それに隣接する低強度部とを余肉部として加工によって除去する。より具体的には、積層造形体の表面からの余肉部の除去深さを低強度部の深さより大とする。余肉部1B’の除去の際には先ず、積層体1の外周側にある低強度余肉部1B’
Lを切削加工により除去する。低強度余肉部1B’
Lは高強度余肉部1B’
Hと同一材料であっても、より低い硬さになるよう積層造形されるため、高強度余肉部1B’
Hと比較して被削性が改善される。次いで高強度余肉部1B’
Hを切削加工し余肉部1B’を除去すると積層面1a’が失われ、それに代わって現れる加工面1cが新たな外周面となり、造形体1Aに所望の寸法精度や表面状態を付与することができる。余肉部1B’に占める低強度余肉部1B’
Lの割合を高くするほど余肉部1B’の切削除去を容易にすることができるが、最大のマイナス歪が生じ余肉部1B’が最も薄くなる下面1e側においても加工面1c上に一定程度の厚さの高強度余肉部1B’
Hが確保される必要があるため、低強度余肉部1B’
Lの割合を高くし過ぎることは好ましくない。
【0029】
大きな製品になるほど積層体の歪量も大きくなり、余肉部の体積も大きくなる。余肉部の増大は切削加工コストの増加や生産性の低下を招く。特に難削材と言われるNCF718(JIS)合金、MAT21(MAT21は日立金属株式会社の登録商標)等のNi基合金等からなる積層体については、それが顕著である。
【0030】
析出強化型合金であるNCF718は、最大温度700℃での優れた引っ張り強さ、疲労強度、クリープ強度、破断強度を特徴とし、ジェットエンジンディスク材やロケットエンジン等の高温用途の航空宇宙構造材として幅広く使用されている。一般的にNCF718は高温強度が大きく熱伝導率が小さいため、切削加工が困難な合金とされている。
【0031】
MAT21は優れた耐環境性ニッケル基合金であり、その代表的組成はNi-19Cr-19Mo-1.8Ta(mass%)である。MAT21は、種々の環境で高い耐食性を発揮する新耐食合金であることから、多目的・多反応プラント、腐食許容量の小さい医薬品製造プラントや半導体製造装置に適用可能なほか、排煙脱硫装置等で生じる硫酸露点腐食に対しても優れた耐食性を有している。
【0032】
(参考例1)
以下のようにして高強度部からなる積層造形体(以下、積層体と表記することがある)の作製、加工および評価を行った。
[原料粉末]
三次元形状造形体の原料としてガスアトマイズ法により作製したNCF718合金粉末を使用した。この合金粉末の粒度分布はD10=19.0μm,D50=31.6μm,D90=51.5μmであった。D10、D50、D90は小粒径側からの体積累積分布曲線において試料体積のそれぞれ10%、50%、90%の粒径である。
【0033】
[積層造形工程]
三次元造形機EOS社製M290を用いて三次元データに基づき上記の原料粉末から高強度部からなる縦50mm×横50mm×高さ30mmの直方体の積層体を作製した。
【0034】
高強度部の積層造形条件は次の通りとした。
レーザー種類・・・Yb-fiber
レーザー出力・・・350(W)
走査速度・・・1300(mm/s)
走査間隔・・・0.11(mm)
レーザービーム径・・・0.1(mm)
エネルギー密度・・・61.2(J/mm3)
造形温度・・・80(℃)
金属粉末層の厚さ・・・40(μm)
【0035】
[加工工程]
積層造形工程で得られた積層体の表面から余肉部を以下の条件で切削加工により除去した。
【0036】
余肉部の切削加工条件は次の通りとした。
工具種類・・・2枚刃エンドミル 直径10(mm)
工具材種・・・超硬+コーティング
一刃当たりの送り量 ・・・0.05(mm/t)
切込み深さ・・・10(mm)
切込み幅・・・0.2(mm)
切削速度・・・40(m/min)
【0037】
[評価]
10000mm切削した時点で工具の切削抵抗および工具のすくい面がえぐり取られるすくい面摩耗の平均幅を測定して、それぞれ切削抵抗および工具摩耗量とした。
【0038】
(参考例2)
以下のようにして低強度部からなる積層体の作製、加工および評価を行った。
[原料粉末]
参考例1と同様のものを使用した。
【0039】
[積層造形工程]
低強度部の積層造形条件のうち走査速度3100(mm/s)、エネルギー密度25.7(J/mm3)としたことを除いて、参考例1と同様の積層造形条件で同様の積層体を作製した。
【0040】
[加工工程]
積層体の表面から参考例1と同様の切削加工条件で余肉部を除去して、同様の造形体を得た。
【0041】
[評価]
10000mm切削した時点で参考例1と同様にして切削抵抗と工具摩耗量を測定した。
【0042】
(参考例3)
以下のようにして低強度部からなる積層体の作製、加工および評価を行った。
[原料粉末]
参考例1と同様のものを使用した。
【0043】
[積層造形工程]
低強度部の積層造形条件のうち走査速度3700(mm/s)、エネルギー密度21.5(J/mm3)としたことを除いて、参考例1と同様の積層造形条件で同様の積層体を作製した。
【0044】
[加工工程]
積層体の表面から参考例1と同様の切削加工条件で余肉部を除去して、同様の造形体を得た。
【0045】
[評価]
10000mm切削した時点で参考例1と同様にして切削抵抗と工具摩耗量を測定した。
【0046】
(参考例4)
以下のようにして低強度部からなる積層体の作製、加工および評価を行った。
[原料粉末]
参考例1と同様のものを使用した。
【0047】
[積層造形工程]
低強度部の積層造形条件のうち走査速度4600(mm/s)、エネルギー密度17.3(J/mm3)としたことを除いて、参考例1と同様の積層造形条件で同様の積層体を作製した。
【0048】
[加工工程]
積層体の表面から参考例1と同様の切削加工条件で余肉部を除去して、同様の造形体を得た。
【0049】
[評価]
10000mm切削した時点で参考例1と同様にして切削抵抗と工具摩耗量を測定した。
【0050】
【0051】
[参考例の結果]
表1に結果を示す。参考例1で得られた高強度部からなる積層体の切削抵抗および工具摩耗量の何れもが大きくなり、製造コスト全体に占める切削加工コストの割合は大きかった。参考例2~3で得られた低強度部からなる積層体については切削抵抗および工具摩耗量の何れもが、特に工具摩耗量が抑制された結果、参考例1に対して製造コスト全体に占める切削加工コストの割合を小さくすることができた。参考例4で得られた低強度部からなる積層体については切削抵抗および工具摩耗量の何れもが大幅に抑制された結果、参考例1に対して製造コスト全体に占める切削加工コストの割合を更に小さくすることができた。各参考例において高強度部に対する低強度部の密度比と硬さ比も測定した。硬さはロックウェル硬さHRBとした。エネルギービーム照射条件を調整して結合層を形成するエネルギー密度を小さくするに連れて低強度部の密度比と硬さ比の減少幅が大きくなり、切削抵抗と工具摩耗量が低減する傾向にあることが分かった。参考例2~4の結果から、好ましくは高強度部に対する低強度部の硬さ比0.9以下とすることにより、更に好ましくは硬さ比0.6以下とすることにより、製造コスト全体に占める切削加工コストの割合を更に小さくする効果が得られることが分かった。一方、健全な積層造形体を形成する観点からは、低強度部の金属粉末どうしの溶融結合および/または結合層どうしの一体化を十分に確保するために、高強度部に対する低強度部の硬さ比を0.2以上にすることが好ましい。
【0052】
(実施例1)
以下のようにして高強度部および低強度部からなる積層体の作製、加工を行った。
[三次元形状造形体]
本実施例では機械部品を想定したT字が横になった形状を有し、かつ高精度な穴を有する金属部材を作製した(
図7~
図12)。
[原料粉末]
参考例1と同様のものを使用した。
【0053】
[積層造形工程]
図7は積層造形工程後の積層造形体を三角法によって表した三面図である。積層造形はベース板50上から開始し、ベース板に対して垂直方向に順次、結合層を繰り返し形成し、予め設計した積層造形体100が作製されたところで終了させた。具体的には、粉末の層の所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させることで結合層を形成し、この結合層の上に金属粉末の層を被覆して所定箇所にエネルギービームを照射して当該箇所の金属粉末を溶融結合させると共に下層の結合層と一体化された新たな結合層を形成することを繰り返して、複数の結合層が積層一体化された積層造形体を作製した。積層造形工程では、少なくとも一部の結合層において相対的に強度が異なる部分を形成することで、三次元形状造形体となる高強度部と、該高強度部に隣接して、該高強度部よりも相対的に強度が低い低強度部とを形成した。T字が横になった形状とはベース板から立ち上がる立設部10と立設部10に支持されるオーバーハング部20とが一体化した構造である。後工程でオーバーハング部には鉛直方向の中心軸を持つ穴が設けられるが、積層造形工程ではその穴の直径より僅かに小さい直径の穴形成部30が形成される。オーバーハング部は粉末層上に形成されるため下支えが不安定であり、高精度な造形が困難である。これを解決する手段としてオーバーハング部の下にサポート40を造形する。サポートは三次元形状造形体に対応する部分であるオーバーハング部20を支持する。サポートは高強度部である立設部10やオーバーハング部20よりも相対的に強度の低い低強度部であるが、加工時のオーバーハング部20の変位を抑制するには十分な強度を有する。サポート40が三次元形状造形体に対応する部分であるオーバーハング部を支持することによりオーバーハング部の高精度な造形が可能となる。サポートは加工工程の後に除去される。
【0054】
図8は造形途中の積層体(結合層)の平面図を示す。A-Aの位置では結合層101は立設部10を構成する高強度層とサポート40を構成する低強度層とからなるよう形成され、B-Bの位置では結合層101は立設部10とオーバーハング部20を構成する高強度層と穴形成部30を構成する低強度層とからなるよう形成される。立設部とオーバーハング部は高強度層を積層してなる高強度部であり、サポートと穴形成部は低強度層を積層してなる低強度部である。
【0055】
高強度層(部)/低強度層(部)を造形するためのエネルギービーム走査速度、エネルギー密度を次の通りとしたことを除いて、参考例1と同様の積層造形条件で積層体を作製した。
走査速度・・・1300(mm/s)/4600(mm/s)
エネルギー密度・・・61.2(J/mm3)/17.3(J/mm3)
【0056】
[加工工程]
加工工程では、積層体のオーバーハング部に機械加工により穴を設けた後にサポート(低強度部)を除去して三次元形状造形体を得た。まず、ドリルでオーバーハング部の穴形成部に最終的な穴の直径よりやや小さい直径の下穴31をあけた(
図9)。下穴はオーバーハング部を貫通しサポートの途中まで形成した。下穴の周囲には穴形成部(低強度部)30が残るようにした。高精度な穴加工を実現するために重要なことの一つに、下穴加工時のオーバーハング部の変形量が少ないことが挙げられる。本実施例においてはサポートがオーバーハング部を下支えする構造であるため、下穴加工時にオーバーハング部が変形しにくく、高精度な下穴を形成することができる。本実施例のサポートは低強度層を積層した構造であるものの、空隙が均一に分散した構造であるから、従来のサポートでよく見られる薄板、棒状体または針状体の各集合体からなるサポートより高剛性である。このことも下穴加工時にオーバーハング部が変形しにくい理由の一つである。特に、難削材からなる積層体ではドリルに大きな加工負荷がかかるが、サポートがあることに加えて穴形成部が低強度部で形成されているため加工負荷が抑制され、下穴の寸法精度が向上する。次いで、下穴に対してリーマ加工を施して余肉部である残った低強度部を完全に除去するとともに高強度部であるオーバーハング部の一部を余肉部として除去した(
図10)。オーバーハング部に高精度の直径、真直度、表面粗さを有する穴32を形成することができた。高精度の穴を形成できた理由は下穴が高精度であることと、リーマ加工自体も下穴加工と同様の理由で加工精度が高いからである。次いで、積層体とベース板とを分離した(
図11)。最後に、積層体からサポートを除去して三次元形状造形体200を得た(
図12)。サポートは低強度部で形成されているため加工除去は比較的容易である。なお、穴形成部の低強度部とサポートの低強度部は必ずしも同じ密度や硬さを有している必要はない。
【0057】
(実施例2)
以下のようにして高強度部および低高強度部からなる積層体の作製、加工を行った。
[三次元形状造形体]
本実施例ではタービンブレードのような薄肉で3次元曲面形状を有する金属部材を作製した。その金属部材の断面図を
図13~
図15に示す。
[原料粉末]
参考例1と同様のものを使用した。
【0058】
[積層造形工程]
図13は積層造形工程後の薄肉で3次元曲面形状を有する積層造形体の断面を表す図である。積層造形はベース板上から開始し、ベース板に対して垂直方向に順次、結合層を繰り返し形成し、予め設計した積層造形体300が作製されたところで終了させた。
具体的には、粉末の層の所定箇所にエネルギービームを照射して当該個所の金属粉末を溶融結合させることで結合層を形成し、この結合層の上に金属粉末の層を被覆して所定箇所にエネルギービームを照射して当該個所の金属粉末を溶融結合させると共に下層の結合層と一体化された新たな結合層を形成することを繰り返して、複数の結合層が積層一体化された積層造形体を作製した。積層造形工程では、各結合層の平面方向に対して内部が高強度層、それに隣接する外周部が低強度層となるよう各結合層を形成し、積層造形体300を高強度層からなる高強度部60と低強度層からなる低強度部70とからなるよう形成した。
【0059】
積層造形体の作製条件は実施例1と同様とした。
【0060】
[加工工程]
加工工程では、積層造形体を片持ち固定して、回転するエンドミルを3軸方向に動かしながら積層造形体300の外周部をなす低強度部70を余肉部として加工除去し、3次元曲面形状を削り出した。積層体の外周部の低強度部全てとその内部の高強度部60の表面をわずかに切削除去し(
図14)、最後にベース板50を除去して薄肉で3次元曲面形状を有する金属部材400を得た(
図15)。一般的に難削材からなる積層体ではエンドミルに大きな加工負荷がかかることに加えて、積層体が薄肉で片持ち固定の場合は、特に固定箇所から遠い先端部で積層体がエンドミルから逃げやすく高精度加工が困難である。これに対して本実施例では積層体の外周部を低強度部で形成したため、エンドミルに生じる加工負荷は比較的小さく、固定箇所から遠い先端部でも積層体がエンドミルから逃げにくいことから高精度加工が可能であった。
【0061】
(実施例3)
以下のようにして高強度部および低高強度部からなる積層体の作製、加工を行った。
[三次元形状造形体]
本実施例では二つの円柱状部材が一体化してT字形状をなし、かつ一方の円柱状部材が高精度な外形寸法を有する金属部材を作製した(
図16~
図19)。
[原料粉末]
参考例1と同様のものを使用した。
【0062】
[積層造形工程]
図16は積層造形工程後の二つの円柱状部材が一体化したT字形状の積層造形体を表す三面図である。積層造形はベース板50上から開始し、ベース板に対して垂直方向に順次、結合層を繰り返し形成し、予め設計した積層造形体500が作製されたところで終了させた。具体的には、粉末の層の所定箇所にエネルギービームを照射して当該個所の金属粉末を溶融結合させることで結合層を形成し、この結合層の上に金属粉末の層を被覆して所定箇所にエネルギービームを照射して当該個所の金属粉末を溶融結合させると共に下層の結合層と一体化された新たな結合層を形成することを繰り返して、複数の結合層が積層一体化された積層造形体500を作製した。積層造形工程においては3つの形成方法を用いて結合層を形成した。一つ目はサポート110(
図16の(a))の形成方法であって、各結合層を低強度層のみから形成した。二つ目は大円柱状部材80と小円柱状部材90の一部(
図16の(b))の形成方法であって、各結合層を高強度層のみから形成した。三つ目はサポートと大円柱状部材との接続部(
図16の(c))および小円柱状部材の残り(先端部)(
図16の(d))の形成方法であって、各結合層の平面方向に対して内部が高強度層、それに隣接する外周部が低強度層となるよう各結合層を形成した。積層造形工程では、積層造形体を高強度層からなる高強度部と低強度層からなる低強度部とからなるよう形成した。サポートは三次元形状造形体に対応する部分全体を支持する。本実施例ではサポート110からの大円柱状部材80のはみだし(オーバーハング)量が比較的小さいので大円柱状部材80の造形は健全であった。
【0063】
積層造形体の作製条件は実施例1と同様とした。
【0064】
[加工工程]
一般的にワーク加工時に曲面を把持するとワークが安定しない。また、積層体においては造形まま面は加工面より面粗さが粗く、積層体の把持力が低くなりがちである。本実施例の加工工程では、先ず積層体全体からベース板を除去した(
図17)。次いでサポートを僅かに表面研削して表面粗さを小さくしてからサポートを把持した。大円柱状部材を把持しようとすると曲面を把持しなければならず積層体が不安定になるが、例えば、直方体形状のように少なくとも一対の平行面を有するサポートを利用すれば強力に積層体を把持することができる。次いで小円柱状部材の先端部の低強度部120を余肉部として全て加工除去し、その下の高強度部を僅かに余肉部として加工除去して、小円柱状部材の先端部に高精度な外形寸法を付与した(
図18)。低強度部120を除去する際に隣接する小円柱状部材(高強度部)90の一部も除去すると僅かに段差ができる。
図18の小円柱状部材90の線91はこの段差を示す。最後にサポートを除去して高強度部からなる金属部材600を得た(
図19)。一般的に難削材からなる積層体では切削工具に大きな加工負荷がかかることに加えて、積層体の把持箇所から遠い加工点では積層体が切削工具から逃げやすく高精度加工が困難である。これに対して本実施例では積層体のサポートを残して把持部材として利用したため強力に積層体を固定できるとともに、加工部位を低強度部で形成したため切削工具に生じる加工負荷は比較的小さく、把持箇所から遠い加工点でも積層体が切削工具から逃げにくいことから高精度加工が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、いわゆる3Dプリンタを使用して原料である金属粉末から三次元形状造形体を作製する方法に関するもので、特に難削材と言われる切削加工が困難な材料からなる三次元形状造形体を作製する際に、造形後の積層造形体の切削加工を容易にし製造コスト全体に占める切削加工コストの割合を従来より低減するとともに高い加工精度を得ることのできる三次元形状造形体の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 積層造形体、積層体
1A 三次元形状造形体、造形体(高強度部)
1B 余肉部
1B’ 余肉部
1a 積層面
1a’ 積層面
1c 加工面
1d 上面
1e 下面
1f 強度界面
1f’ 強度界面
1BH 高強度余肉部(高強度部)
1B’H 高強度余肉部(高強度部)
1BL 低強度余肉部(低強度部)
1B’L 低強度余肉部(低強度部)
10 立設部(高強度部)
20 オーバーハング部(高強度部)
30 穴形成部(低強度部)
31 下穴
32 穴
40 サポート(低強度部)
50 ベース板
60 高強度部
70 低強度部
80 大円柱状部材
90 小円柱状部材
100 積層造形体
101 結合層
110 サポート
120 低強度部
200 三次元形状造形体
300 積層造形体
400 金属部材
500 積層造形体
600 金属部材