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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056858
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】エルゴチオネインを含む食品又は飼料
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/175 20160101AFI20220404BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20220404BHJP
   A23K 50/20 20160101ALI20220404BHJP
   A23K 50/30 20160101ALI20220404BHJP
   A23K 50/40 20160101ALI20220404BHJP
   A23K 20/142 20160101ALI20220404BHJP
【FI】
A23L33/175
A23K50/10
A23K50/20
A23K50/30
A23K50/40
A23K20/142
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020164829
(22)【出願日】2020-09-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】517351628
【氏名又は名称】株式会社ダンテ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 陽介
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B018
【Fターム(参考)】
2B005AA05
2B005BA01
2B005BA05
2B005BA08
2B005EA01
2B005EA02
2B150AA02
2B150AA03
2B150AA04
2B150AA06
2B150AB20
2B150AC33
2B150BE01
2B150DA43
2B150DD15
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD18
4B018MD82
4B018MD83
4B018ME14
4B018MF01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒト又はヒト以外の哺乳類動物において、雌の妊孕性を高めること、又は雌の発情再帰日数を減らすことが可能な、安全性の高い食品又は飼料を提供する。
【解決手段】哺乳類動物の雌の妊孕性を高めるために、又は発情再帰日数を減らすために、エルゴチオネインを含む食品又は飼料を対象となる哺乳類動物の雌に摂取させる方法であって、哺乳類動物の雌のエルゴチオネインの摂取量が0.18mg/kg体重/日以上である食品又は飼料をヒト以外の哺乳類動物の雌に摂取させる、哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴチオネインを含む、哺乳類動物の雌の妊孕性の向上又は発情再帰日数の減少のための食品又は飼料。
【請求項2】
前記哺乳類動物の雌のエルゴチオネインの摂取量が0.18mg/kg体重/日以上である、請求項1に記載の食品又は飼料。
【請求項3】
ヒト以外の哺乳類動物の雌にエルゴチオネインを摂取させる、哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法。
【請求項4】
前記ヒト以外の哺乳類動物の雌のエルゴチオネインの摂取量が0.18mg/kg体重/日以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ヒト以外の哺乳類動物の雌にエルゴチオネインを摂取させる、哺乳類動物の雌の発情再帰日数を減少させる方法。
【請求項6】
前記ヒト以外の哺乳類動物の雌のエルゴチオネインの摂取量を0.18mg/kg体重/日以上とする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させるためのエルゴチオネインを含む食品又は飼料、並びにエルゴチオネインを摂取させて哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本では晩婚化に伴い、生殖補助医療を利用する女性が増加している。これは、妊娠を希望する女性の平均年齢が高くなっているのに対し、女性の妊孕性は加齢とともに低下することから、妊娠に医療の介入が必要となるケースが増加しているためといえる。女性の妊孕性を高める治療としては、排卵誘発剤やホルモン剤等の使用があるが、これらの治療には少なからず副作用が生じることが知られる。
【0003】
ヒト以外の哺乳類動物、特に食肉等に利用されるウシ、ブタ、ヒツジ等について、その生産性向上のため、多胎動物においては平均出産子数を増やすこと、単胎動物においては、出産頻度を高めることが望まれる。また、多胎、単胎のいずれにおいても、単位期間あたりの妊娠回数を増やすことが望まれる。
【0004】
エルゴチオネインは、タモギタケ等のキノコ類に含まれる、抗酸化物質として化粧品等に使用されるアミノ酸の一種である。特許文献1には、タモギタケにおけるエルゴチオネイン含有量は、乾燥重量1gあたり15.8±0.06mgと報告されている。非特許文献1には、エルゴチオネインは、食物としてヒト及び動物に摂取された場合、代謝に時間がかかるため、ヒト及び動物の多くの組織及び体液に蓄積しやすいことが示されている。エルゴチオネインには、抗酸化作用及び細胞保護作用があることがin vitroで確認されており、ヒト及び動物の体内において、組織損傷の修復等に関与することが示唆されている。ヒトにおいて、エルゴチオネインは、その抗酸化作用と細胞保護作用により、神経変性疾患、眼疾患、循環器疾患、腎臓疾患、糖尿病等への治療効果を有する安全性の高い食物由来成分として期待されている。しかしながら、エルゴチオネインによるヒト又はヒト以外の哺乳類動物の妊孕性向上効果については、これまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-105618
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B. Halliwell et al., FEBS letters, vol.592, pp. 3357-3366 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒト又はヒト以外の哺乳類動物において、雌の妊孕性を向上させること、又は発情再帰日数を減少させることが可能な安全性の高い食品又は飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、哺乳類動物がエルゴチオネインを摂取することにより、その妊孕性が高くなること、及び/又は発情再帰日数が少なくなることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
(1)エルゴチオネインを含む、哺乳類動物の雌の妊孕性の向上又は発情再帰日数の減少のための食品又は飼料。
(2)前記哺乳類動物の雌のエルゴチオネインの摂取量が0.18mg/kg体重/日以上である、(1)の食品又は飼料。
(3)ヒト以外の哺乳類動物の雌にエルゴチオネインを摂取させる、哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法。
(4)前記ヒト以外の哺乳類動物の雌のエルゴチオネインの摂取量を0.18mg/kg体重/日以上とする、(3)の方法。
(5)ヒト以外の哺乳類動物の雌にエルゴチオネインを摂取させる、哺乳類動物の雌の発情再帰日数を減少させる方法。
(6)前記ヒト以外の哺乳類動物の雌のエルゴチオネインの摂取量を0.18mg/kg体重/日以上とする、(5)の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒト又はヒト以外の哺乳類動物において、雌の妊孕性を向上させる、又は発情再帰日数を減少させることが可能な安全性の高い食品又は飼料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1における、過剰排卵刺激繰り返しマウスの作出の手順を示す概略図である。
図2】3月齢の対照マウス(A)と、6回過剰排卵刺激を行ったマウス(B)の発情周期のパターンを示す折れ線グラフである。
図3】対照マウスと過剰排卵刺激後のマウスの1回の発情周期の長さを示す棒グラフである。図中の「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。
図4】3月齢マウスと過剰排卵刺激繰り返しマウスにおける排卵された卵の数を示す棒グラフである。図中の「**」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.01未満であったことを示す。
図5】エルゴチオネイン投与なしのマウス(A)及びエルゴチオネイン投与ありのマウス(B)の発情周期のパターンを示す折れ線グラフである。
図6】エルゴチオネイン投与なし及びありのマウスの1回の発情周期の長さを示す棒グラフである。図中の「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。
図7】対照マウス、並びにエルゴチオネイン投与なし及びありの過剰排卵刺激繰り返しマウスにおける排卵された卵の数を示す棒グラフである。図中の「*」及び「**」は、スチューデントのt検定におけるp値が、それぞれ0.05未満及び0.01未満であったことを示す。
図8】実施例4における、マウスへのエルゴチオネインの飲水投与の手順を示す概略図である。
図9】対照マウス並びに各試験区のエルゴチオネインを投与したマウスにおける、排卵された卵の数を示す棒グラフである。図中の「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。
図10】対照マウス、及び各投与量でエルゴチオネインを投与したマウスにおける排卵された卵の数を示す棒グラフである。図中の「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。
図11】対照マウス及びエルゴチオネインを投与したマウスの1出産あたりの平均産子数を示す棒グラフである。図中の「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.食品又は飼料>
本発明の食品又は飼料は、エルゴチオネインを含み、哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる、又は発情再帰日数を減少させることを特徴とする。本発明において、「食品」とは、ヒトに摂取させるのに適した形態の物質又は組成物を指す。また、本発明において「飼料」とは、ヒト以外の動物に摂取させるのに適した形態の物質又は組成物を指す。
【0012】
本発明において、「エルゴチオネイン」は、下記式Iで表される化合物及びその誘導体を指す。下記式Iの構造式を有する全ての立体異性体が包含される。ここでいう誘導体としては、金属塩、水和物等が挙げられるが、下記式Iの骨格を有する限り、特に限定されない。
【0013】
【化1】
【0014】
エルゴチオネインは、タモギタケ、ヒラタケ、エリンギ、ハナビラタケ、エノキタケ、シイタケ等のキノコ類に含まれ、特にタモギタケに多く含まれることが知られる。エルゴチオネインは、エルゴチオネインを含有するキノコ類等の原料から精製されて、本発明の食品又は飼料に添加されてもよい。エルゴチオネインの精製方法としては、例えば、特許文献1に示される方法を用いることができる。あるいは、エルゴチオネインは、エルゴチオネインを含有するキノコ類等の原料の未精製の細砕物、乾燥粉末、濃縮エキス等として、本発明の食品又は飼料に含まれていてもよい。本発明において、エルゴチオネインは、キノコ類の乾燥粉末又は濃縮エキスとして、特にタモギタケの乾燥粉末又は濃縮エキスとして食品又は飼料に含まれることが好ましい。
【0015】
本発明において、「哺乳類動物」とは、ヒト及びヒト以外を包含する、脊索動物門脊椎動物亜門哺乳網に属する動物を指し、例えば、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類、動物園で飼育される哺乳類動物などが含まれる。本発明の食品又は飼料を摂取させる対象は、好ましくは、ヒト又はウシ、ブタ、ヒツジ等の家畜動物である。
【0016】
本発明において、「妊孕性」とは、哺乳類動物の雌の妊娠しやすさを意味する。本発明において、妊孕性の向上は、発情周期の安定化又は短縮、及び、多胎動物においては一出産あたりの産子数の増加を指標として判断する。ヒトの成人女性において、不妊の原因の一つに生理周期の乱れ又は長期化がある。本発明は、これを安定化させ、もって妊孕性を向上させることを目的の一つとする。
【0017】
本発明において、「発情再帰日数」とは、哺乳類動物の雌が、先に出産した子の離乳時から再度発情するまでの日数を指す。発情再帰日数を減少させることで、単位期間(例えば、1年間)あたりの出産回数を増加させ、結果的に単位期間あたりの産子数を増加させることが可能である。
【0018】
本明細書の実施例のマウスを用いた検討で、過剰排卵刺激を繰り返すことでマウスの発情周期が長期化したが、過剰排卵刺激と同時にエルゴチオネインを投与したマウスでは、発情周期が短縮し、正常マウスと同等の長さとなった。また、エルゴチオネインを投与したマウスは、正常マウスより卵管中の排卵数が多くなった。また、ブタを用いた検討で、エルゴチオネインを摂取したブタにおける発情再帰日数の減少と、産子数の増加が見られた。このように、エルゴチオネインには、哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる効果、及び発情再帰日数を減少させる効果があることが明らかとなった。本発明は、上記の効果を有するエルゴチオネインを食品又は飼料に含ませ、これを摂取した哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる、及び/又は、発情再帰日数を減少させるものである。
【0019】
本発明の食品又は飼料の形状は、対象の哺乳類動物が無理なく摂取できるものであれば特に限定されないが、例えば、液体(飲料)、粉末、顆粒、錠剤又はカプセル剤等とすることができる。また、本発明の食品又は飼料は、必要に応じて担体を含むことができる。担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0020】
賦形剤としては、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが例として挙げられる。
【0021】
結合剤としては、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が例として挙げられる。
【0022】
崩壊剤としては、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が例として挙げられる。
【0023】
充填剤としては、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が例として挙げられる。
【0024】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
【0025】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0026】
このような担体は、製品の形状やエルゴチオネインの効果を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。上記の添加剤の他、必要であれば矯味矯臭剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。
【0027】
本発明の食品又は飼料は、そのまま摂取してもよいが、他の食品又は飼料と混合するか、飲料水に添加して摂取してもよい。特に、ヒト以外の哺乳類動物に摂取させる場合、確実に必要量を摂取させるために、他の飼料に混合したり、飲料水に溶解したりして摂取させることができる。
【0028】
本発明の食品又は飼料において、エルゴチオネインの含有量は、これを摂取する哺乳類動物において、摂取量が0.18mg/kg体重/日以上、特に0.36mg/kg体重/日以上となるように調整することが好ましい。摂取量の上限は特に限定されないが、食物又は飼料として摂取可能な量として、例えば、10.0mg/kg体重/日以下、特に5.0mg/kg体重/日以下、さらに3.2mg/kg体重/日以下とすることができる。なお、3.2mg/kg体重は、ヒトの成人女性(体重50kgと想定)がタモギタケ100g(生重量)を食した際に摂取できるエルゴチオネインに相当する。
【0029】
本発明の食品又は飼料は、摂取1回分において、1日の摂取量の1/5~3倍、特に1/3~1倍のエルゴチオネインが含まれることが好ましい。すなわち、摂取頻度は、3日に1回~1日5回、特に1日1回~1日3回とすることが好ましい。
【0030】
本発明の食品又は飼料を哺乳類動物に摂取させる時期及び期間は、特に限定されず、例えば、毎日摂取させてもよい。あるいは、例えば、排卵の数日前から交配までの期間のみ摂取させてもよい。
【0031】
<2.哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法>
本発明は、ヒト以外の哺乳類動物の雌にエルゴチオネインを摂取させる、哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法を包含する。本発明において、哺乳類動物にエルゴチオネインを摂取させる手段は、好ましくは、本発明の前記飼料を摂取させることである。
【0032】
本発明において、「ヒト以外の哺乳類動物」は、脊索動物門脊椎動物亜門哺乳網に属するヒト以外の全ての動物を指し、例えば、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類、動物園で飼育される哺乳類動物などが含まれる。本発明の方法が適用される対象は、好ましくは、ウシ、ブタ、ヒツジ等の家畜動物である。
【0033】
本発明において、哺乳類動物に摂取させるエルゴチオネインの量は、0.18mg/kg体重/日以上、特に0.36mg/kg体重/日以上とすることが好ましい。摂取量の上限は特に限定されないが、例えば、10.0mg/kg体重/日以下、特に5.0mg/kg体重/日以下、さらに3.2mg/kg体重/日以下とすることができる。
【0034】
本発明の哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法における、「エルゴチオネイン」、及び「妊孕性」の定義、エルゴチオネインを含む飼料の好ましい形状、摂取方法及び摂取頻度等は、いずれも<1.食品又は飼料>の項に記載した通りである。
【0035】
<3.哺乳類動物の雌の発情再帰日数を減少させる方法>
本発明は、ヒト以外の哺乳類動物の雌にエルゴチオネインを摂取させる、哺乳類動物の雌の発情再帰日数を減少させる方法を包含する。本発明において、哺乳類動物にエルゴチオネインを摂取させる手段は、好ましくは、本発明の前記飼料を摂取させることである。
【0036】
本発明の哺乳類動物の雌の発情再帰日数を減少させる方法における、対象となる哺乳類動物、哺乳類動物に摂取させるエルゴチオネインの量、「エルゴチオネイン」、「発情再帰日数」の定義、エルゴチオネインを含む飼料の好ましい形状、摂取方法及び摂取頻度等は、いずれも<1.食品又は飼料>及び<2.哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法>の項に記載した通りである。
【0037】
<4.ヒトの女性の妊孕性を向上させる方法>
本発明はまた、ヒトの女性の妊孕性を向上させる方法をも包含する。本発明のヒトの女性の妊孕性を向上させる方法は、ヒトの女性にエルゴチオネインを摂取させることを特徴とする。本発明において、ヒトの女性にエルゴチオネインを摂取させる手段は、好ましくは前記食品を摂取させることである。
【0038】
本発明のヒトの女性の妊孕性を向上させる方法における、「エルゴチオネイン」、及び「妊孕性」の定義、エルゴチオネインを含む食品の好ましい形状、摂取量、摂取方法及び摂取頻度等は、いずれも<1.食品又は飼料>及び<2.哺乳類動物の雌の妊孕性を向上させる方法>の項に記載した通りである。
【実施例0039】
<実施例1:過剰排卵刺激繰り返しマウスの作出>
3週齢未成熟C57BL6マウスに、ウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG)(卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤)とヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)(黄体形成ホルモン(LH)製剤)を投与する過剰排卵刺激を行い、過剰排卵刺激繰り返しマウスを作出した。具体的には、4I.UのeCGを皮下注射で投与し、2日後に5I.UのhCGを投与する工程を、10日ごとに6回繰り返した(図1)。毎投与後のマウスを膣腔検査に供試し、その発情周期を観察した。併せて、対照マウスとして、ホルモン剤未投与の3月齢、6月齢のマウスについても膣腔検査を行った。対照マウスと過剰排卵刺激マウスの試験数は、各3匹とし、各測定値の平均値±標準誤差を求めた。
【0040】
図2に、3月齢の対照マウス(図2A)と、6回過剰排卵刺激を行ったマウス(図2B)の発情周期のパターンを示す。図3に、各対照マウスと、各過剰排卵刺激後のマウスの1回の発情周期の長さを示す。図中の「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。対照マウスにおける発情周期は4.7±0.9日周期であったのに対して、過剰排卵刺激を6回繰り返した個体では、微発情期が継続して認められ、発情周期が8.1±1.1日周期まで長期化した。
【0041】
6回過剰排卵刺激を繰り返したマウスにさらに過剰排卵刺激(eCG及びhCG投与)を1回行った。hCGを投与した16時間後に卵管を回収し、排卵された卵の数を測定した。対照マウスとして、3月齢成熟雌マウスについても、同様に排卵された卵の数を測定した。対照マウスと過剰排卵刺激マウスの試験数は、各3匹とし、各測定値の平均値±標準誤差を求めた。
【0042】
図4に、3月齢マウスと過剰排卵刺激繰り返しマウスにおける排卵された卵の数を示す。図中「**」は、スチューデントのt検定においてp値が0.01未満であったことを示す。3月齢マウスでは16.6±2.3個の卵が排卵されたが、過剰排卵繰り返しマウスでは、わずか5.3±0.3個しか排卵されておらず、その数は有意に減少していた。したがって、過剰排卵刺激の繰り返しは、雌マウスの妊孕性を低下させることが明らかとなった。
【0043】
<実施例2:エルゴチオネインが発情周期の長期化に与える影響の検討>
3週齢未成熟C57BL6マウスに、1.8mg/kg体重/日のエルゴチオネインを継続的に飲水投与すると共に、過剰排卵刺激を10日ごとに6回行った。そのマウスを膣腔検査に供試し、その発情周期を観察した。比較マウスとして、エルゴチオネインの投与を省略した以外は同様の条件で処理したマウスについて、発情周期を観察した。エルゴチオネイン投与なし及びありのマウスの試験数は、各3匹とし、各測定値の平均値±標準誤差を求めた。
【0044】
図5に、エルゴチオネイン投与なしのマウス(図5A)及びエルゴチオネイン投与ありのマウス(図5B)の発情周期のパターンを示す。また、図6にエルゴチオネイン投与なし及びありのマウスの1回の発情周期の長さを示す。図中の「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。過剰排卵刺激を6回繰り返したマウスでは、微発情期が継続し、発情周期が11±0.7日と長期化した。一方、エルゴチオネインを飲水投与しながら6回過剰排卵刺激を繰り返すと、発情周期の長期化は認められなかった(4.9±0.2日)。
【0045】
<実施例3:エルゴチオネインがホルモン感受性の低下に与える影響の検討>
1.8mg/kg体重/日のエルゴチオネインを継続的に飲水投与しながら、過剰排卵刺激を10日ごとに6回行ったマウスにさらに過剰排卵刺激(eCG及びhCG投与)を1回行った。そして、hCG投与16時間後に卵管を回収し、排卵された卵の数を測定した。比較として、エルゴチオネインの投与を省略した以外は同様の条件で処理したマウスについても、排卵した卵の数を測定した。また、対照マウスとして、3月齢成熟雌マウスについても、同様に排卵された卵の数を測定した。対照マウス、並びにエルゴチオネイン投与なし及びありのマウスの試験数は、各5匹とし、各測定値の平均値±標準誤差を求めた。
【0046】
図7に、対照マウス、並びにエルゴチオネイン投与なし及びありの過剰排卵刺激繰り返しマウスにおける排卵された卵の数を示す。図中、「*」及び「**」は、それぞれスチューデントのt検定におけるp値が0.05未満、0.01未満であったことを示す。過剰排卵刺激を6回繰り返したマウスでは、排卵数が対照マウス(排卵数9±1.7)と比較して有意に減少していた。一方、エルゴチオネイン投与を行った過剰排卵刺激繰り返しマウスにおいては、排卵数が劇的に多くなった。対照マウス、エルゴチオネイン投与なしのマウス及びエルゴチオネイン投与ありのマウスの排卵数は、それぞれ、23±1.2、9±1.7及び30±2.6であった。したがって、長期のエルゴチオネイン飲水投与は、過剰排卵刺激の繰り返しによって生じる妊孕性の低下を妨げる効果があることが明らかとなった。
【0047】
<実施例4:エルゴチオネインの投与のタイミングの検討>
若齢マウスへのエルゴチオネイン効果を検討するため、1.8mg/kg体重/日のエルゴチオネインの飲水投与をeCG投与と同時(試験区1)、及び2日前から(試験区2)開始した。試験区1及び試験区2のエルゴチオネインの飲水投与の概略を図8に示す。eCG投与48時間後(2日後)にhCGを投与し、その16時間後に卵管を回収し、排卵された卵の数を測定した。対照マウスとして、エルゴチオネインを投与しない同日齢のマウスについても、排卵された卵の数を測定した。対照マウス並びに試験区1及び試験区2のマウスの試験数は、各5匹とし、各測定値の平均値±標準誤差を求めた。
【0048】
図9に、対照マウス並びに試験区1及び試験区2のマウスにおける排卵された卵の数を示す。図中の「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。エルゴチオネインの飲水投与をeCG投与2日前から行うことで、有意に排卵数が上昇することが明らかとなった。
【0049】
<実施例5:エルゴチオネインの至適濃度の検討>
エルゴチオネインの至適濃度を検討するため、0.09、0.18、0.36、0.9、1.8mg/kg体重/日のエルゴチオネインの飲水投与をeCG投与2日前からそれぞれ行い、その48時間後にhCGを投与した。hCG投与16時間後の各マウスから卵管を回収し、排卵された卵の数を測定した。併せて、対照マウスとして、エルゴチオネインを投与しない同日齢のマウスについても、排卵された卵の数を測定した。対照マウス及び各投与量でエルゴチオネインを投与したマウスの試験数は、各3匹とし、各測定値の平均値±標準誤差を求めた。
【0050】
図10に、対照マウス、及び各投与量でエルゴチオネインを投与したマウスにおける排卵された卵の数を示す。図中、「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。投与したエルゴチオネイン量に依存的に排卵数が上昇し、1.8mg/kg体重/日の投与で最も多くの排卵が見られた。
【0051】
<実施例6:エルゴチオネインのマウス産子数に与える影響の検討>
エルゴチオネインが産子数に与える影響を明らかにするため、3か月齢の雌マウスに1.8mg/kg体重/日のエルゴチオネインの飲水投与条件下で、3か月間雄と同居させて飼育した。その期間の1出産当たりの産子数を測定した。対象として、同月齢の雌マウスについて、エルゴチオネインを投与しない以外は同様の処理を行い、1出産当たりの産子数を測定した。対照マウス及びエルゴチオネインを投与したマウスの試験数は、各4匹とし、各測定値の平均値±標準誤差を求めた。
【0052】
図11に、対照マウス及びエルゴチオネインを投与したマウスの1出産あたりの平均産子数を示す。図中、「*」は、スチューデントのt検定におけるp値が0.05未満であったことを示す。エルゴチオネインを飲水投与することで、産子数が有意に上昇した。すなわちエルゴチオネインは雌の排卵数を上昇させることで、その妊孕性を向上させる効果があることが明らかとなった.
【0053】
<実施例7:エルゴチオネインのブタの妊孕性及び発情再帰日数に与える影響の検討>
経産の雌ブタ(初産を除く)13頭に、離乳から交配日までの期間、タモギタケ粉末をエルゴチオネイン摂取量が0.36mg/kg体重/日となるように餌に混入して摂取させた(試験区3)。各個体について、発情再帰日数(離乳から発情までの日数)、及びタモギタケ摂取後の最初の分娩時の産子数を集計した。併せて、タモギタケを摂取していない対照区についても、各個体の発情再帰日数及び産子数を集計した。
【0054】
試験区3及び対照区のブタの頭数、発情再帰日数及び産子数を表1に示す。発情再帰日数及び産子数については、各区の平均値±標準偏差を求めた。なお、対照区には発情再帰日数が50日を超える個体が2頭存在したが、発情再帰日数の平均値算出には含めなかった。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示す通り、タモギタケを摂取させた試験区3において、対照区と比較して産子数は平均で約1頭増加した。また、発情再帰日数の減少も見られた。上記の結果から、ブタにおいてもエルゴチオネインの妊孕性向上効果があることが判明した。また、エルゴチオネインに発情再帰日数の減少効果があることも判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11