(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022056982
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20220404BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20220404BHJP
G02B 6/125 20060101ALI20220404BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20220404BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/122 311
G02B6/125 301
G02F1/01 C
G02B6/12 363
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165005
(22)【出願日】2020-09-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/高い環境耐性を有するキャリアコンバータ技術の研究開発/5G時代に対応した大容量・低遅延・シームレスな光/ミリ波変換デバイスの開発と実証評価」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】山根 裕治
(72)【発明者】
【氏名】高野 真悟
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AB02
2H147AB24
2H147BA05
2H147BB01
2H147BB07
2H147BE01
2H147CB02
2H147CD13
2H147CD18
2H147DA11
2H147EA05C
2H147EA06C
2H147EA12C
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147EA14C
2H147EA16C
2H147FA20
2H147FB02
2H147FB03
2H147FB11
2H147FB12
2H147FB13
2H147FC02
2H147FC03
2H147FC07
2H147FD15
2K102AA21
2K102BA02
2K102BA03
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA00
2K102DA05
2K102DB04
2K102DB05
2K102DC05
2K102DC10
2K102DD03
2K102DD04
2K102DD05
2K102EA02
2K102EB16
(57)【要約】
【課題】
小型かつ低光損失で長期安定性を有する光導波路素子を提供すること。
【解決手段】
第一の基板(2)に光導波路A(20)が形成され、前記第一の基板の端部には、該光導波路Aへ光波を入射する入射部又は該光導波路Aから光波を出射する出射部を有しており、第二の基板(1)に光導波路B(10)が形成され、前記第二の基板には該光導波路Bを伝搬する光波を変調する光変調部を有しており、該光導波路A(20)の少なくとも一部には、光モードフィールド径を変換する変換部(20)を有することを特徴とする光導波路素子である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の基板に光導波路Aが形成され、
前記第一の基板の端部には、該光導波路Aへ光波を入射する入射部又は該光導波路Aから光波を出射する出射部を有しており、
第二の基板に光導波路Bが形成され、
前記第二の基板には該光導波路Bを伝搬する光波を変調する光変調部を有しており、
該光導波路Aの少なくとも一部には、光モードフィールド径を変換する変換部を有することを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該変換部で変換された光波の光モードフィールド径は、2μm以上、5μm以下の範囲であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、前記第二の基板の厚みが2μm以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路Aの中の該光導波路Aと該光導波路Bと接続すると共に、該第一の基板に形成される接続光導波路は、イオン注入、イオン交換、又は超短パルスレーザーのいずれかで形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路素子において、前記第一の基板又は前記第二の基板のいずれかには、位相調整用電極が設けられていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路A又は該光導波路Bのいずれかには、光波の進行方向が180度回転する曲げ部が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の光導波路素子が筐体内に収容され、該筐体には該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバーを備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子の該光変調部は変調電極を備え、該変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の光ファイバー通信で用いられる光変調器は、多値変調に利用されるため、小型で低光損失かつ長期安定性を有することが必要になる。光変調器などの小型化を実現する上で、低駆動電圧化のために光と電界の重なり効率を向上させた、薄板構造の光変調器が提案されている。(特許文献1参照)
【0003】
従来の薄板構造の光変調器は、
図1及び2に示すように、ニオブ酸リチウム(LN)等の基板1を20μm以下の厚みに薄板化すると共に、該基板1に光導波路10を形成している。
図1は、光変調器を構成する光導波素子の平面図であり、変調電極等の電極は、簡略化のため省略している。
図2は、
図1の側面図である。薄板となる基板1は、接着層3を介して保持基板2に接合されている。Linは入射光、Loutは出射光を示す。
【0004】
HB-CDM(High Bandwidth-Coherent Driver Modulator)などの集積型LN光変調器として用いるためには、光導波路素子の小型化が必須となり、駆動電圧低減のため、光導波路の断面構造も更に小型化しなければならない。そのため、
図3に示すように、新規の薄板構造の光変調器は、ニオブ酸リチウム(LN)等の基板1を2μm以下の厚みに薄板化する必要があり、熱膨張係数の大きく異なる接着層を介さず、保持基板2に直接接合することが求められる。
【0005】
基板1の厚みを2μm以下とすると、光導波路10の光モードフィールド径は1μm程度であり、光ファイバーの光モードフィールド径の10μmと比較し、両者の差異が大きくなる。このため、入射部や出射部における光導波路素子と光ファイバーとの接続部における光損失は、従来の薄板構造(厚さ10μm程度)の光変調器は片端で0.5dB程度であったが、新規の薄板構造の光変調器は片端で14dB以上と大幅に増加する。
【0006】
光ファイバーとの結合による光損失を低減するため、半導体材料を用いた光変調器の場合には、
図4又は
図5のように、入射部と出射部に水平方向のテーパ光導波路(
図4の符号11参照)や、垂直方向のテーパ光導波路(
図5の符号12参照)を設けて光モードフィールド径(MFD)を変換する方法が提案されている。(非特許文献1参照)
【0007】
しかし、これらの水平方向又は垂直方向のテーパ光導波路でMFDを拡大させることは作製プロセスが複雑であることが大きな問題となっている。一方、
図6に示すように、薄板構造の入射部と出射部に有機材料からなる光導波路13を設けて光モードフィールド径を変換する場合、作製プロセスは比較的容易になるが、有機材料の光耐久性などの長期安定性が問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】内田泰芳ほか,“2.5%Δ石英系PLCを用いた低接続損失可能なバーティカルスポットサイズ変換器(SSC)の開発”,古河電工時報,第125号,pp.1-5,2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、小型かつ低光損失で長期安定性を有する光導波路素子を提供することである。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 第一の基板に光導波路Aが形成され、前記第一の基板の端部には、該光導波路Aへ光波を入射する入射部又は該光導波路Aから光波を出射する出射部を有しており、第二の基板に光導波路Bが形成され、前記第二の基板には該光導波路Bを伝搬する光波を変調する光変調部を有しており、該光導波路Aの少なくとも一部には、光モードフィールド径を変換する変換部を有することを特徴とする光導波路素子である。
【0012】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該変換部で変換された光波の光モードフィールド径は、2μm以上、5μm以下の範囲であることを特徴とする。
【0013】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、前記第二の基板の厚みが2μm以下であることを特徴とする。
【0014】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路Aの中の該光導波路Aと該光導波路Bと接続すると共に、該第一の基板に形成される接続光導波路は、イオン注入、イオン交換、又は超短パルスレーザーのいずれかで形成されていることを特徴とする。
【0015】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光導波路素子において、前記第一の基板又は前記第二の基板のいずれかには、位相調整用電極が設けられていることを特徴とする。
【0016】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路A又は該光導波路Bのいずれかには、光波の進行方向が180度回転する曲げ部が形成されていることを特徴とする。
【0017】
(7) 上記(1)乃至(6)いずれかに記載の光導波路素子が筐体内に収容され、該筐体には該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバーを備えることを特徴とする光変調デバイスである。
【0018】
(8) 上記(7)に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子の該光変調部は変調電極を備え、該変調電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0019】
(9) 上記(7)又は(8)に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、第一の基板に光導波路Aが形成され、前記第一の基板の端部には、該光導波路Aへ光波を入射する入射部又は該光導波路Aから光波を出射する出射部を有しており、第二の基板に光導波路Bが形成され、前記第二の基板には該光導波路Bを伝搬する光波を変調する光変調部を有しており、該光導波路Aの少なくとも一部には、光モードフィールド径を変換する変換部を有するため、光変調部を有する第二の基板の優れた特性を維持しながら、第二の基板とは異なる第一の基板に変換部を形成でき、小型かつ低光損失で長期安定性を有する光導波路素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】
図1の光導波路素子の側面図(光導波路に沿った断面図。以下同じ。)である。
【
図3】接着層を設けない光導波路素子の側面図である。
【
図4】半導体基板を使用した光導波路素子の一例を示す平面図である。
【
図5】半導体基板を使用した光導波路素子の他の例を示す側面図である。
【
図6】光導波路の端部に有機材料を使用した光導波路素子の例を示す側面図である。
【
図7】本発明の光導波路素子の第1の実施例を示す側面図である。
【
図9】
図7の一点鎖線A-A’における断面図である
【
図10】変換部のモードフィールド径を変化させた際の結合効率の変化を示す図である。
【
図11】本発明の光導波路素子の第2の実施例を示す側面図である。
【
図12】本発明の光導波路素子の第3の実施例を示す平面図である。
【
図13】本発明の光導波路素子の第4の実施例を示す平面図である。
【
図14】本発明の光導波路素子の第5の実施例を示す平面図である。
【
図15】本発明の光変調デバイス及び光送信装置を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、
図7及び8に示すよう、第一の基板(2)に光導波路A(20)が形成され、前記第一の基板の端部には、該光導波路Aへ光波を入射する入射部又は該光導波路Aから光波を出射する出射部を有しており、第二の基板(1)に光導波路B(10)が形成され、前記第二の基板には該光導波路Bを伝搬する光波を変調する光変調部を有しており、該光導波路A(20)の少なくとも一部には、光モードフィールド径を変換する変換部(20)を有することを特徴とする光導波路素子である。
【0023】
本発明の光導波路素子に使用される第二の基板の材料1は、電気光学効果を有する材料で構成され、特に、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの材料による気相成長膜などが利用可能である。
また、半導体材料や有機材料など種々の材料も光導波路として利用可能である。
【0024】
光導波路10の形成方法としては、光導波路以外の基板1をエッチングしたり、光導波路の両側に溝を形成するなど、基板に光導波路に対応する部分を凸状としたリブ型の光導波路を利用することが可能である。さらに、リブ型の光導波路に合わせて、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより、光導波路の屈折率をより高くすることも可能である。
【0025】
光導波路10を形成した第二の基板(薄板)の厚さは、変調信号のマイクロ波と光波との速度整合を図るため、2μm以下に設定される。また、リブ型光導波路の高さは、1μm以下、より好ましくは0.4μm以下に設定される。また、保持基板である第一の基板2の上に気相成長膜を形成し、当該膜を光導波路の形状に加工することも可能である。
【0026】
光導波路を形成した第二の基板1には、機械的強度を高めるため、保持基板として第一の基板2が、樹脂層(接着層)を介さず、直接接合されている。第一の基板2としては、第二の基板よりも屈折率が低く、光導波路などと熱膨張率が近い材料、例えば水晶やガラス等の酸化物層を含む基板(「ガラス材料」という。)が好適に利用される。SOI、LNOIと略されるシリコン基板上に酸化ケイ素層やLN基板上に酸化ケイ素層を形成した複合基板も利用可能である。
【0027】
本発明の光導波路素子の特徴は、
図7及び
図8に示すように、第一の基板(例えば、ガラス基板)の端部に埋め込み型の光導波路A(20)を形成していることを特徴とする。光導波路Aの一部又は全部は、伝搬する光波の光モードフィールド径を変化させる変換部として機能している。そして、一例としては、光導波路Aを形成した第一の基板に第二の基板(例えば、LN基板)を直接接合した後、第二の基板を2μm以下まで研磨して薄板化し、ドライもしくはウェットによるエッチング法で第二の基板にリブ型の光型導波路B(10)を形成することができる。
【0028】
図9は、
図8の一点鎖線A-A’における断面図を示している。リブ型光導波路(10)を形成する場合に、光導波路の幅s1は0.2~2.0μm、高さt1は0.2~2.0μmの範囲で設定される。また、光導波路と隣接する基板の突起部(エッチングされずに残った基板部分)までの距離s2は5.0~50.0μm、第二の基板1の厚さは0.5~2.0μmに設定される。
【0029】
第一の基板(ガラス基板)の光導波路Aで光モードフィールド径を変換することにより、光ファイバーの光モードフィールド径(10μm)と光変調部を有するLN基板の光モードフィールド径(1μm)の急激な変化による光損失の増大を防ぐことが可能になる。なお、リブ型光導波路(10)の出射側端部はテーパ構造にすることで第一の基板に形成された光導波路へのモード移行が円滑になる。
【0030】
図10に、第二の基板の光モードフィールド径w2を0.5μm、1.0μm、2.0μmとした場合における、第一の基板の光モードフィールド径w1を1.0μm~10.0μmを介して、光モードフィールド径10μmの光ファイバーに結合する際の効率を示す。ここでは、ここで、光モードフィールド径は縦方向と横方向の光モードフィールド径の平均として、簡易的に光モードフィールド径の差異で計算している。また、各グラフはピーク値を基準に規格化している。
【0031】
第一の基板(ガラス基板)の光導波路A(20)、特に変換部で、光モードフィールド径をw1が2μm以上、5μm以下の領域を含むようにすることにより、結合効率の著しい低下を防ぐことができ、光損失の低減に繋がる。さらに、急峻な光モードフィールド径の変化は光損失の増大に繋がるため、光導波路Aのw1及び光導波路Bのw2を緩やかに変化することで更なる光損失の低減が見込まれる。
【0032】
また、光結合効率の観点から光導波路A(20)のw1は光導波路B(10)のw2よりも大きく、かつ光導波路A及び光導波路Bは、第一の基板を平面視した場合、少なくとも重なっていることが望ましい。ただし、各光導波路のエバネッセント波を利用する場合は、互いに光結合する範囲において、光導波路A及び光導波路Bは重なっていなくてもよい。また、光導波路A(20)の屈折率n1は光導波路B(10)の屈折率n2よりも小さいことが望ましい。
【0033】
第一の基板(ガラス基板)に埋め込み型の光導波路Aを形成する方法として、イオン交換、イオン注入、超短パルスレーザー描画が挙げられる。例えば、イオン交換の場合、ソーダガラスなどのガラス基板にチタンなどの金属膜でマスクパターンを形成し、300~400℃の硝酸カリウム溶融液に浸漬すると、金属膜の開口部分のみが選択的にイオン交換されて光導波路が形成される。浸漬温度、時間、印可電圧などの条件などにより、屈折率を0.01~0.1程度高くすることが可能である。K、Ag、Tlなどをイオン交換に用いることが出来る。このような構成はニオブ酸リチウムにチタンを熱拡散させた光導波路よりも屈折率差を大きくすることが出来る。またガラス基板の光モードフィールド径を光ファイバーの光モードフィールド径(10μm)よりも小さくすることが可能である。このため基板の光モードフィールド径を、上述した2μm以上、5μm以下の領域にすることが可能となるため光ファイバーとの結合効率の著しい低下を防ぐことができる。
【0034】
イオン交換後、金属マスクをウェットエッチングで除去すれば、第一の基板の一面に光導波路を形成することが出来る。ガラス基板の表面を研磨した後、LN基板と直接接合した後、LN基板を2μm以下まで研磨する。LN基板にドライエッチングによるリブ型導波路を形成した後、めっき法による金電極を形成する。
【0035】
イオン注入の場合、Si、Ge、Pなどのイオンをガラス基板に注入して、300~900℃で熱処理をすることにより、光導波路が形成される。注入するイオンの種類、ドーズ量、熱処理などの条件により、イオン注入箇所の屈折率を0.05程度高くすることが可能である。イオン注入の場合は、イオン交換同様、LN基板と直接接合する前に第一の基板(ガラス基板)に埋め込み型の光導波路を形成する必要がある。
【0036】
超短パルスレーザーの場合、フェムト秒レーザーの集光照射によって、ガラス内部に構造変化が誘起されることにより、屈折率が変化して光導波路が形成される。パルス幅、繰り返し周波数、パルスエネルギーなどの条件により、レーザー光の焦点付近の屈折率を0.01程度高くすることが可能である。通常のシリカガラスを構成するケイ素および酸素のネットワークは6員環あるいは5員環が支配的であるが、超短パルスレーザーを照射した箇所のネットワークは員環の数が減少し、3員環、4員環の数が増加する。言い換えると、フェムト秒レーザーの集光照射によって形成された光導波路における、シリカガラス中のケイ素および酸素からなる3員環もしくは4員環の含有率は、当該光導波路が形成された基板のその他の部分における含有率よりも大きくなる。3員環、4員環が増加した光導波路は員環の変化がないその他の部分に比べ、密度が向上し、機械的強度が増加する。
【0037】
超短パルスレーザーで光導波路を形成した場合、光導波路はレーザー光の焦点に限定されるため、光変調部を有するLN基板の光導波路とガラス基板に形成された光導波路を3次元的に接続することも可能となり、より低損失な光導波路素子の提供が可能になる。
【0038】
図11は、本発明の光導波路素子の他の実施例を示す図である。
図11に示すように、第一の基板(ガラス基板)(2)に形成された光導波路(22)と第二の基板(LN基板)(1)に形成された光導波路(10)との間を3次元的に接続する接続光導波路(21)を設けることを特徴とする。光モードフィールド径を変化させる変換部は、接続光導波路(21)又は光導波路(22)の何れであっても良い。また、必要に応じて、光導波路(22)の接続光導波路(21)とは反対側の端部に変換部を別途形成することも可能である。なお、光導波路(22)や接続光導波路(21)は超短パルスレーザーや上述したイオン交換、イオン注入により形成することも可能である。特に、
図11のように接続光導波路(21)を第一の基板(ガラス基板)(2)の厚さ方向に向かって3次元的に形成する場合、光の低損失化及び機械的強度の観点から、少なくとも接続光導波路(21)は超短パルスレーザーで形成し3員環、4員環を増加することが望ましい。また、接続光導波路(21)の屈折率は光導波路(10)側から光導波路(22)側にかけて徐々に高くなるように形成してもよい。
【0039】
これらの技術を組み合わせることにより、
図12乃至14に示すような様々な光導波路素子を構成することが可能である。
図12は、光の入出射部のみ(光導波路(20)の部分)で光損失の低減を図る構造である。
図13は、光の入出射部、180°の折り曲げ部(R2)、曲げ部から出射部に繋がる直線部を第一の基板に形成し、光損失の低減を図る構造である。
図14は、光変調部を除く、光の入出射部、180°の折り曲げ部、直線部に加えてマッハツェンダーの分岐部までも第一の基板に形成し、光損失の低減を図る構造となっている。
【0040】
図12乃至14に記載された符号MEは、進行波型の変調電極であり、符号BEは位相調整用のバイアス電極である。位相調整用電極BEを第二の基板(LN基板)に設ける場合は、DCバイアス電極で構成される。
図14に示すように、電極BEを第一の基板(ガラス基板)に設ける場合は、熱光学効果を用いた加熱電極となる。なお、
図12乃至14における入射部(Lin)と出射部(Lout)はそれぞれを入れ替えてもよい。この場合、変調電極やバイアス電極の位置などは適宜変更される。ただし、入射側の光導波路の伝送距離が長い場合、光の偏波状態は保持されていることが望ましい。
【0041】
本発明の光導波路素子は、光導波路10を伝搬する光波を変調する変調電極を設け、
図15のように、筐体8内に収容される。さらに、光導波路に光波を入出力する光ファイバー(F)を設けることで、光変調デバイスMDを構成することができる。
図15では、光ファイバーは、筐体の側壁を貫通する貫通孔を介して筐体内に導入し、光導波路素子に直接接合されている。光導波路素子と光ファイバーとは、空間光学系を介して光学的に接続することも可能である。符号5は、光導波路素子の端面近傍を保護すると共に、光導波路素子と光ファイバー又は光学ブロック等との接合を確実するために使用される補強部材である。
【0042】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光導波路素子に印加する変調信号は増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体8の外部に配置することも可能であるが、筐体8内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、小型かつ低光損失で長期安定性を有する光導波路素子を提供することが可能となる。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイスと光送信装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 第二の基板
2 第一の基板
10 光導波路B
20 光導波路A(一部又は全部に光モードフィールド径の変換部を含む)