(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057190
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】冷凍機油組成物、冷媒潤滑油混合組成物及び冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20220404BHJP
C10M 137/04 20060101ALI20220404BHJP
C10M 137/02 20060101ALI20220404BHJP
C10M 137/08 20060101ALI20220404BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20220404BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20220404BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20220404BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M137/04
C10M137/02
C10M137/08
C09K5/04 B
C09K5/04 A
F25B1/00 396C
C10N40:30
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165311
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 元気
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BH02C
4H104BH03C
4H104BH05C
4H104DA02A
4H104EB05
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB11
4H104EB13
4H104EB20
4H104LA03
4H104PA20
(57)【要約】
【課題】低粘度の鉱油を含む基油を用いた場合においても、十分に摩擦を低減でき、かつ、摺動部材間の焼き付きを防止できる良好な潤滑特性を有する冷凍機油組成物を提供する。
【解決手段】鉱油を含む基油と、(A)特定の中性リン酸エステル及びそのアミン塩から選択される少なくとも1種と、(B)特定の酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びそれらのアミン塩から選択される少なくとも1種とを含有し、40℃動粘度が1.0~6.0mm2/sである冷凍機油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油を含む基油と、(A)下記一般式(1)で表される中性リン酸エステル及びそのアミン塩から選択される少なくとも1種と、(B)下記一般式(2)で表される酸性リン酸エステル、一般式(3)で表される酸性亜リン酸エステル及びそれらのアミン塩から選択される少なくとも1種とを含有し、40℃動粘度が1.0~6.0mm
2/sである冷凍機油組成物。
【化1】
前記一般式(1)におけるR
1~R
3は、それぞれ独立に、炭素数1~24の炭化水素基を示す。
前記一般式(2)におけるR
4は、水素原子又は炭素数6~24の炭化水素基を示し、R
5は、炭素数6~24の炭化水素基を示す。
前記一般式(3)におけるR
6及びR
7は、それぞれ独立に、炭素数6~24の炭化水素基を示す。
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR1~R3が、それぞれ独立に、炭素数6~20のアルキル基、炭素数6~20のアルケニル基、炭素数7~24のアルキルアリール基又は炭素数7~24のアリールアルキル基である請求項1に記載の冷凍機油組成物。
【請求項3】
前記一般式(2)におけるR4が、水素原子、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基を示し、R5が、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基を示し、かつ、前記一般式(3)におけるR6及びR7が、それぞれ独立に、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基を示す請求項1又は2に記載の冷凍機油組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、前記中性リン酸エステルから選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項5】
前記(B)成分が、前記酸性リン酸エステル及び酸性亜リン酸エステルから選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項6】
前記基油における鉱油の含有量が70.0~100質量%である請求項1~5のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項7】
前記基油の含有量が、組成物全量基準で90.0~100質量%である請求項1~6のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項8】
前記(A)成分の含有量が、組成物全量基準で0.01~5.0質量%である請求項1~7のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項9】
前記(B)成分の含有量が、組成物全量基準で0.01~5.0質量%である請求項1~8のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項10】
前記基油のn-d-M環分析による%CAが1.9未満である請求項1~9のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項11】
さらに、酸化防止剤、酸素捕捉剤、耐荷重添加剤、酸捕捉剤、銅不活性化剤、消泡剤、及び粘度指数向上剤から選択されるその他の添加剤を1種以上含有する請求項1~10のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の冷凍機油組成物と、冷媒とを含有する冷媒潤滑油混合組成物。
【請求項13】
前記冷媒が、炭化水素系冷媒、二酸化炭素及びアンモニアから選択される1種以上である請求項12に記載の冷媒潤滑油混合組成物。
【請求項14】
圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を含む冷凍回路に、請求項12又は13に記載の冷媒潤滑油混合組成物を封入した冷蔵庫。
【請求項15】
前記鉱油を含む基油に対し、前記(A)成分を配合する工程と、前記(B)成分を配合する工程とを含む、請求項1~11のいずれかに記載の冷凍機油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油組成物、冷媒潤滑油混合組成物及び冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機、例えば圧縮型冷凍機は、一般に、少なくとも圧縮機、凝縮器、膨張機構(例えば膨張弁等)、及び蒸発器を含み、密閉された冷凍回路系内を、冷媒と冷凍機油組成物との混合物(以下、「冷媒潤滑油混合組成物」ともいう)が循環する構造を有する。
【0003】
圧縮型冷凍機等の冷凍機に用いられる冷媒としては、従来多く使用されていたハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)に代わり、オゾン破壊係数の低い炭化水素冷媒が使用されつつある。
【0004】
ところで、潤滑油組成物には、潤滑特性だけでなく、コスト削減等の経済的側面での要求もある。例えば、特許文献1に記載の冷凍機おいては、エステル油や、エーテル油、ポリアルキレングリコール油及びアルキルベンゼン油といった価格が高い合成油を使用しているが、コスト削減の観点からの改善が求められている。
コスト削減の観点から、合成油に代えて鉱油を基油として用いた場合、コスト削減の点では優位性があるが、温度依存性や潤滑特性の面で、合成油を用いた潤滑油組成物に比べて劣るという問題がある。
そのため、鉱油系基油を用いた場合においても、合成油を用いた場合と同程度の特性を有する潤滑油組成物の開発が求められている。
また、近年のさらなる省エネルギー化への要望に応えるべく、より低粘度の冷凍機油の使用が検討されており、例えば特許文献2においては、40℃動粘度が3.0mm2/s程度の鉱油系基油を用いた冷凍機油組成物が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2018/199204号公報
【特許文献2】特開2018-123300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、冷凍機油の低粘度化が進むと、摺動部における油膜の保持が難しくなるが、このような境界潤滑領域においても摩擦を低減しつつも、確実に摺動部材間の焼き付きを防止する必要がある。
すなわち本発明は、低粘度の鉱油系基油を用い、十分に摩擦を低減でき、かつ、摺動部材間の焼き付きを防止できる良好な潤滑特性を有する冷凍機油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、低粘度の鉱油を含む基油を用いた冷凍機油組成物において、特定のリン系化合物の組合せを用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本実施形態は、下記[1]~[4]を提供する。
[1] 鉱油を含む基油と、(A)下記一般式(1)で表される中性リン酸エステル及びそのアミン塩から選択される少なくとも1種と、(B)下記一般式(2)で表される酸性リン酸エステル、一般式(3)で表される酸性亜リン酸エステル及びそれらのアミン塩から選択される少なくとも1種とを含有し、40℃動粘度が1.0~6.0mm
2/sである冷凍機油組成物。
【化1】
前記一般式(1)におけるR
1~R
3は、それぞれ独立に、炭素数1~24の炭化水素基を示す。
前記一般式(2)におけるR
4は、水素原子、炭素数6~24の炭化水素基を示し、R
5は、炭素数6~24の炭化水素基を示す。
前記一般式(3)におけるR
6及びR
7は、それぞれ独立に、炭素数6~24の炭化水素基を示す。
[2] [1]に記載の冷凍機油組成物と、冷媒とを含有する冷媒潤滑油混合組成物。
[3] 圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を含む冷凍回路に、[2]に記載の冷媒潤滑油混合組成物を封入した冷蔵庫。
[4] 前記鉱油を含む基油に対し、前記(A)成分を配合する工程と、前記(B)成分を配合する工程とを含む、[1]に記載の冷凍機油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の冷凍機油組成物は、低粘度の鉱油系基油を用い、十分に摩擦を低減でき、かつ、摺動部材間の焼き付きを防止できる良好な潤滑特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることができる。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0011】
本明細書において、「炭化水素基」とは、特にことわりのない限り、炭素原子及び水素原子のみから構成されている基を意味する。「炭化水素基」には、飽和もしくは不飽和の直鎖又は飽和もしくは不飽和の分岐鎖から構成される「脂肪族基」、芳香性を有しない飽和又は不飽和の炭素環を1以上有する「脂環式基」、ベンゼン環等の芳香性を示す芳香環を1以上有する「芳香族基」も含まれる。
【0012】
〔冷凍機油組成物〕
本実施形態の冷凍機油組成物は、鉱油を含む基油と、前記(A)中性リン酸エステル及びそのアミン塩から選択される少なくとも1種(以下、(A)成分と記載することがある。)と、前記(B)酸性リン酸エステル、前記酸性亜リン酸エステル及びそれらのアミン塩から選択される少なくとも1種(以下、(B)成分と記載することがある。)とを含有し、40℃における動粘度(以下、「40℃動粘度」と記載することがある。)が1.0~6.0mm2/sであることを要する。冷凍機油組成物の40℃動粘度が1.0mm2/s未満であると、冷凍機の圧縮機内における摺動部材間において焼き付きが生じる虞があり、6.0mm2/sを超えると、近年の冷凍機に要求される高い省エネルギー性を満たす事ができない。
冷凍機油組成物の40℃動粘度は、好ましくは1.5mm2/s以上、より好ましくは2.0mm2/s以上であり、また、好ましくは5.0mm2/s以下、より好ましくは4.5mm2/s以下であり、さらにこれらの上限値及び下限値は、任意に組み合わせてもよい。冷凍機油組成物の40℃動粘度は、具体的には、1.5~5.0mm2/sであることが好ましく、2.0~4.5mm2/sであることがより好ましい。
本明細書における40℃動粘度の値は、JIS K 2283:2000に準拠して測定したものである。
【0013】
本実施形態の冷凍機油組成物は、取扱性を向上させる観点から、流動点が好ましくは-15.0℃以下、より好ましくは-17.5℃以下である。また流動点の下限については、特に制限はないが、コストパフォーマンスや入手性の観点から、-35.0℃以上であると好ましく、-29.0℃以上であるとより好ましい。さらにこれらの流動点の上限値及び下限値は、任意に組み合わせてもよい。冷凍機油組成物の流動点は、具体的には、-35.0~-15.0℃であることが好ましく、-29.0~-17.5℃であることがより好ましい。
本明細書における流動点の値は、JIS K 2269:1987に準じて測定されたものである。
【0014】
本発明の一態様の冷凍機油組成物は、前記鉱油を含む基油、(A)成分及び(B)成分のみを含有するものであってもよいが、本実施形態の効果を損なわない範囲で、これら以外の他の成分を含有していてもよい。
本発明の一態様の冷凍機油組成物において、鉱油を含む基油、(A)成分及び(B)成分の合計含有量は、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは80.0~100質量%、より好ましくは85.0~100質量%、更に好ましくは90.0~100質量%、特に好ましくは95.0~100質量%である。
【0015】
以下、本本実施形態の冷凍機油組成物が含有する各成分について、詳細に説明する。
【0016】
<基油>
本発明の一態様の冷凍機油組成物において、鉱油を含む基油の含有量は、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、更に好ましくは92.0質量%以上、特に好ましくは95.0質量%以上であり、また、好ましくは99.0質量%以下、より好ましくは98.9質量%以下、更に好ましくは98.8質量%以下、特に好ましくは98.7質量%以下であり、更にこれらの上限値及び下限値は任意に組み合わせてもよい。基油の含有量は、具体的には、組成物全量基準で85.0~99.0質量%が好ましく、90.0~98.9質量%がより好ましく、92.0~98.8質量%が更に好ましく、95.0~98.8質量%が特に好ましい。冷凍機油組成物における鉱油を含む基油の含有量が85.0質量%以上であると、冷凍機油組成物として要求される長期的な安定性が得られ、また99.0質量%以下であると、摩擦低減効果や焼き付き防止性能が良好となる。
【0017】
本実施形態における鉱油を含む基油としては、冷凍機油として通常用いられるものを用いる事ができるが、基油基準で好ましくは50.0~100質量%、より好ましくは70.0~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%、よりさらに好ましくは95.0~100質量%の鉱油を含むものであり、特に好ましくは鉱油のみからなるものである。
基油に含まれる鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、若しくはナフテン系原油を常圧蒸留するか、又は原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1つ以上の処理を行って精製した油、鉱油系ワックスを異性化することによって製造される油等が挙げられる。
なお、基油に含まれる鉱油としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
基油に含まれる鉱油以外の成分としては、冷凍機油として用いることができるものであって、鉱油との相溶性が良好なものあれば特に制限は無いが、ポリα-オレフィン(PAO)、脂環式炭化水素化合物、アルキル化芳香族炭化水素化合物、フィシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化することによって製造される油等の合成油等を用いることができ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記基油の40℃動粘度は、好ましくは1.0mm2/s以上、より好ましくは1.5mm2/s以上、さらに好ましくは2.0mm2/s以上であり、また、好ましくは6.0mm2/s以下、より好ましくは5.0mm2/s以下、さらに好ましくは4.5mm2/s以下であり、さらにこれらの上限値及び下限値は、任意に組み合わせてもよい。前記基油の40℃動粘度は、具体的には、1.0~6.0mm2/sであることが好ましく、1.5~5.0mm2/sであることがより好ましく、2.0~4.5mm2/sであることがさらに好ましい。
また、前記基油としては、潤滑性の観点からASTM D-3238環分析(n-d-M法)により測定される%CAが1.9未満のものが好ましく、1.5以下のものがより好ましく、1.2以下のものがさらに好ましい。
さらに、前記基油としては、潤滑性の観点から上記n-d-M法により測定される%CNが15.0以上のものが好ましく、20.0以上のものがより好ましく、25.0以上のものがさらに好ましい。
【0019】
<(A)中性リン酸エステル及びそのアミン塩>
本実施形態の冷凍機油組成物において用いられる(A)成分は、下記一般式(1)で表される中性リン酸エステル及びそのアミン塩から選択されるものである。
【0020】
【化2】
(式中、R
1~R
3は、それぞれ独立に、炭素数1~24の炭化水素基を示す。)
前記一般式(1)におけるR
1~R
3は、それぞれ独立に、炭素数1~24のアルキル基、炭素数1~24のアルケニル基、炭素数7~24のアルキルアリール基又は炭素数7~24のアリールアルキル基であることが好ましく、炭素数6~20のアルキル基、炭素数6~20のアルケニル基、炭素数7~20のアルキルアリール基又は炭素数7~20のアリールアルキル基であることがより好ましい。
【0021】
中性リン酸エステルとしては、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェートなどがあり、具体的には、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどを挙げることができ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中性リン酸エステルの中では、極圧性、摩擦特性などの点からトリクレジルホスフェート、tert-ブチルフェニルジフェニルホスフェート及びジ(tert-ブチルフェニル)フェニルホスフェートから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましく、トリクレジルホスフェートが最も好ましく用いられる。
【0022】
さらに、本実施形態における(A)成分は、上記中性リン酸エステルとアミン類とから形成されるアミン塩であってもよく、当該アミン類の具体例としては、下記一般式(a)で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン又はトリ置換アミンが挙げられる。
RmNH3-m ・・・(a)
(式中、Rは炭素数3~30のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6~30のアリール基もしくはアラルキル基又は炭素数2~30のヒドロキシアルキル基を示し、mは1、2又は3を示す。また、Rが複数ある場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
上記一般式(a)におけるRのうちの炭素数3~30のアルキル基もしくはアルケニル基は、直鎖状,分岐状,環状のいずれであってもよい。
【0023】
ここで、モノ置換アミンの例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミンなどを挙げることができ、ジ置換アミンの例としては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノールなどを挙げることができる。また、トリ置換アミンの例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンなどを挙げることができ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
本実施形態においては、(A)成分としては上述の中性リン酸エステル及びそのアミン塩から選択される一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、前記中性リン酸エステルから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
また、本実施形態の冷凍機油組成物における(A)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、また、5.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましく、更にこれらの上限値及び下限値は任意に組み合わせてもよい。(A)成分の含有量は、具体的には、0.01~5.0質量%の範囲が好ましく、0.05~2.0質量%の範囲がより好ましく、0.1~1.5質量%の範囲がさらに好ましい。
(A)成分の含有量が0.01質量%以上であると極圧性や摩擦特性が良好となり、また5.0質量%以下であるとスラッジ発生の虞が低下する。
【0025】
<(B)酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びそれらのアミン塩>
本実施形態の冷凍機油組成物において用いられる(B)成分は、下記一般式(2)で表される酸性リン酸エステル、下記一般式(3)で表される酸性亜リン酸エステル及びそれらのアミン塩から選択されるものである。
【0026】
【化3】
(式中、R
4は、水素原子又は炭素数6~24の炭化水素基を示し、R
5は、炭素数6~24の炭化水素基を示す。)
前記一般式(2)におけるR
4は、水素原子、炭素数6~24のアルキル基、炭素数6~24のアルケニル基、炭素数6~24のアルキルアリール基又は炭素数6~24のアリールアルキル基であることが好ましく、水素原子、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基であることがより好ましく、水素原子、炭素数10~20のアルキル基又は炭素数10~20のアルケニル基であることが特に好ましい。
前記一般式(2)におけるR
5は、炭素数6~24のアルキル基、炭素数6~24のアルケニル基、炭素数6~24のアルキルアリール基又は炭素数6~24のアリールアルキル基であることが好ましく、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基であることがより好ましく、炭素数10~20のアルキル基又は炭素数10~20のアルケニル基であることが特に好ましい。
前記一般式(2)で表される酸性リン酸エステルとしては、R
4が、水素原子、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基を示し、R
5が、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基を示すものが好ましく、R
4が、水素原子、炭素数10~20のアルキル基又は炭素数10~20のアルケニル基を示し、R
5が、炭素数10~20のアルキル基又は炭素数10~20のアルケニル基を示すものが特に好ましい。
【0027】
前記一般式(2)で表される酸性リン酸エステルとしては、具体的には、例えば2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェートなどを挙げることができ、イソトリデシルアシッドホスフェート及び/又はモノオレイルアシッドホスフェートが好ましい。
【化4】
(式中、R
6及びR
7は、それぞれ独立に、炭素数6~24の炭化水素基を示す。)
前記一般式(3)におけるR
6及びR
7は、それぞれ独立に、炭素数6~24のアルキル基、炭素数6~24のアルケニル基、炭素数6~24のアルキルアリール基又は炭素数6~24のアリールアルキル基であることが好ましく、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基であることがより好ましく、炭素数10~20のアルキル基又は炭素数10~20のアルケニル基であることが特に好ましい。
【0028】
前記一般式(3)で表される酸性亜リン酸エステルとしては、具体的には、例えばジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイトなどを挙げることができ、ジオレイルハイドロゲンホスファイトが好ましい。
【0029】
さらに、本実施形態における(B)成分は、上記酸性リン酸エステル及び/又は酸性亜リン酸エステルとアミン類とから形成されるアミン塩であってもよく、当該アミン類としては、上述の(A)成分とアミン塩を形成する際に用いられるものと同様のものが用いられる。
【0030】
本実施形態においては、(B)成分としては上述の酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びそれらのアミン塩から選択される一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、前記酸性リン酸エステル及び酸性亜リン酸エステルから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
また、本実施形態の冷凍機油組成物における(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、また、5.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましく、更にこれらの上限値及び下限値は任意に組み合わせてもよい。(B)成分の含有量は、具体的には、0.01~5.0質量%の範囲が好ましく、0.05~2.0質量%の範囲がより好ましく、0.1~1.5質量%の範囲がさらに好ましい。
(B)成分の含有量が0.01質量%以上であると極圧性や摩擦特性が良好となり、また5.0質量%以下であるとスラッジ発生の虞が低下する。
【0031】
本実施形態においては、ある程度極性が高いことで冷凍機回路内においては金属表面付近に偏在する(B)成分としてR5~R7の鎖長が十分に長いものを用い、さらにこれと(A)成分とを組み合わせ、両成分の炭化水素基の立体障害の影響により、境界潤滑領域においても良好な潤滑性及び焼き付き防止性能を奏するものと推察される。
【0032】
<その他の添加剤>
本発明の一態様の冷凍機油組成物は、本実施形態の効果を損なわない範囲内で、更にその他の添加剤を含有してもよい。
その他の添加剤としては、冷凍機油組成物の安定性向上の観点から、酸化防止剤、酸素捕捉剤、耐荷重添加剤、酸捕捉剤、銅不活性化剤、消泡剤、及び粘度指数向上剤からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。
これらの添加剤は、各々について、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他の添加剤の合計含有量は、冷凍機油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下、特に好ましくは3.0質量%以下であり、更にこれらの上限値及び下限値は任意に組み合わせてもよい。その他の添加剤の合計含有量は、具合的には、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.05~8.0質量%、更に好ましくは0.1~5.0質量%、特に好ましくは0.5~3.0質量%である。
【0033】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤からなる群から選択される1種以上が好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(DBPC)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、フェニル-α-ナフチルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。
これらの中でも、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(DBPC)がより好ましい。
【0034】
<酸素捕捉剤>
酸素捕捉剤としては、脂肪族不飽和化合物、二重結合を有するテルペン類等が挙げられる。
上記脂肪族不飽和化合物としては、不飽和炭化水素が好ましく、具体的には、オレフィン;ジエン、トリエン等のポリエン等が挙げられる。オレフィンとしては、酸素との反応性の観点から、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等のα-オレフィンが好ましい。
上記以外の脂肪族不飽和化合物としては、酸素との反応性の観点から、分子式C20H30Oで表されるビタミンA((2E,4E,6E,8E)-3,7-ジメチル-9-(2,6,6-トリメチルシクロヘキセ-1-イル)ノナ-2,4,6,8-テトラエン-1-オール)等の共役二重結合を有する不飽和脂肪族アルコールが好ましい。
二重結合を有するテルペン類としては、二重結合を有するテルペン系炭化水素が好ましく、酸素との反応性の観点から、α-ファルネセン(C15H24:3,7,11-トリメチルドデカ-1,3,6,10-テトラエン)及びβ-ファルネセン(C15H24:7,11-ジメチル-3-メチリデンドデカ-1,6,10-トリエン)がより好ましい。
【0035】
<耐荷重添加剤>
耐荷重添加剤としては、モノスルフィド類、ポリスルフィド類、スルホキシド類、スルホン類、チオスルフィネート類、硫化油脂、チオカーボネート類、チオフェン類、チアゾール類、メタンスルホン酸エステル類などの有機硫黄化合物系のもの、チオリン酸トリエステル類などのチオリン酸エステル系のもの、高級脂肪酸、ヒドロキシアリール脂肪酸類、含カルボン酸多価アルコールエステル類、アクリル酸エステル類などの脂肪酸エステル系のもの、塩素化炭化水素類、塩素化カルボン酸誘導体などの有機塩素系のもの、フッ素化脂肪族カルボン酸類、フッ素化エチレン樹脂、フッ素化アルキルポリシロキサン類、フッ素化黒鉛などの有機フッ素化系のもの、高級アルコールなどのアルコール系のもの、ナフテン酸塩類(ナフテン酸鉛)、脂肪酸塩類(脂肪酸鉛)、チオリン酸塩類(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)、チオカルバミン酸塩類、有機モリブデン化合物、有機スズ化合物、有機ゲルマニウム化合物、ホウ酸エステルなどの金属化合物系のものが挙げられる。
但し、銅管への腐食性を低減する観点からは、上述した耐荷重添加剤のうち、有機硫黄系化合物やチオリン酸エステルの含有量は、組成物全量基準で0.1質量%以下とすることが好ましい。
【0036】
<酸捕捉剤>
前記酸捕捉剤としては、例えば、エポキシ化合物が挙げられる。エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル化合物、シクロヘキセンオキシド、α-オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油等が挙げられるが、これらの中では、グリシジルエーテル化合物が好ましい。
前記グリシジルエーテル化合物としては、好ましくは炭素数3以上30以下、より好ましくは炭素数4以上24以下、更に好ましくは炭素数6以上16以下である脂肪族モノアルコール;炭素数3以上30以下、より好ましくは4以上24以下、更に好ましくは炭素数6以上16以下である脂肪族多価アルコール;又は水酸基を1個以上含有する芳香族化合物由来のグリシジルエーテルが挙げられる。脂肪族モノアルコール又は脂肪族多価アルコールは、直鎖状、分岐状若しくは環状のいずれでのものでもよく、また、飽和若しくは不飽和のいずれのものでもよい。
なお、脂肪族多価アルコールの場合又は水酸基を2個以上含有する芳香族化合物の場合、冷凍機油の安定性及び水酸基価の上昇を抑える観点から、水酸基の全てがグリシジルエーテル化されていることが好ましい。
【0037】
前記グリシジルエーテル化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル等が挙げられる。当該グリシジルエーテル化合物としては、例えば、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数6以上16以下の飽和脂肪族モノアルコール由来のグリシジルエーテル(すなわち、アルキル基の炭素数が6以上16以下のアルキルグリシジルエーテル)が挙げられ、例えば、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、イソノニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ミリスチルグリシジルエーテルが挙げられる。
本実施形態の冷凍機油組成物は当該酸捕捉剤を1種単独で含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0038】
<銅不活性化剤>
銅不活性化剤としては、N-[N,N’-ジアルキル(炭素数3~12のアルキル基)アミノメチル]トリアゾール等が挙げられる。
【0039】
<消泡剤>
消泡剤としては、シリコーン油、フッ素化シリコーン油等のシリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0040】
<粘度指数向上剤>
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ジエン水素化共重合体等が挙げられる。
但し、長期的に冷凍機油組成物の粘度を維持する観点から、粘度指数向上剤の含有量は少なくする事が好ましく、具体的には、組成物全量基準での樹脂分で5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
〔冷媒潤滑油混合組成物〕
本実施形態はまた、前述の冷凍機油組成物と冷媒とを混合した冷媒潤滑油混合組成物をも提供する。
すなわち、本実施形態の冷媒潤滑油混合組成物は、前述の本実施形態の冷凍機油組成物と、冷媒とを含有する。
本実施形態において用いられる冷媒について、以下に説明する。
【0042】
本実施形態の冷媒潤滑油混合組成物が含有する冷媒としては、炭化水素系冷媒、二酸化炭素及びアンモニアから選択される1種以上が好ましく、炭化水素系冷媒が特に好ましい。
前記炭化水素系冷媒としては、好ましくは炭素数1以上8以下の炭化水素、より好ましくは炭素数1以上5以下の炭化水素、更に好ましくは炭素数3以上5以下の炭化水素が用いられる。炭素数が8以下であると、冷媒の沸点が高くなり過ぎず冷媒として好ましい。該炭化水素系冷媒としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、プロピレン、n-ブタン、イソブタン(R600a)、2-メチルブタン、n-ペンタン、イソペンタン、シクロペンタンイソブタン、及びノルマルブタンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
炭化水素冷媒としては、プロパン及び/又はイソブタンが特に好ましい。
【0043】
本発明の一態様の冷媒潤滑油混合組成物において、冷媒及び冷凍機油組成物の混合比は、冷凍機油組成物/冷媒の質量比で、好ましくは1/99以上、より好ましくは5/95以上、さらに好ましくは8/92以上であり、また、好ましくは90/10以下、より好ましくは70/30以下、さらに好ましくは50/50以下であり、更にこれらの上限値及び下限値は任意に組み合わせてもよい。冷凍機油組成物/冷媒の質量比は、具体的には、好ましくは1/99~90/10、より好ましくは5/95~70/30、さらに好ましくは8/92~50/50である。
冷凍機油組成物/冷媒の質量比を該範囲内とすると、潤滑性が良好になるとともに、冷凍機の冷凍能力が良好となる。
【0044】
〔本発明の冷凍機油組成物及び冷媒潤滑油混合組成物の用途〕
本発明の冷凍機油組成物及び冷媒潤滑油混合組成物は、例えば、空調機、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、冷凍システム、給湯システム、又は暖房システムに用いることが好ましい。なお、空調機としては、開放型カーエアコン、電動カーエアコン等のカーエアコン;ガスヒートポンプ(GHP)エアコン等が挙げられる。
【0045】
〔本発明の冷凍機油組成物を用いた冷凍機の潤滑方法〕
本実施形態はまた、本発明の冷凍機油組成物及び冷媒潤滑油混合組成物を用いて、上述のような空調機、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、冷凍システム、給湯システム、又は暖房システムが有する摺動部材間の潤滑方法をも提供する。
【0046】
〔冷蔵庫〕
本実施形態はまた、圧縮機、凝縮器、膨張機構(例えば膨張弁)及び蒸発器を含む冷凍回路に、前記冷媒潤滑油混合組成物を封入した冷蔵庫をも提供する。
【0047】
〔冷凍機油組成物の製造方法〕
本実施形態はまた、前記鉱油を含む基油に対し、前記(A)成分を配合する工程と、前記(B)成分を配合する工程とを含む、前記冷凍機油組成物の製造方法をも提供する。
【0048】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様によれば、下記[1]~[16]が提供される。
[1] 鉱油を含む基油と、(A)下記一般式(1)で表される中性リン酸エステル及びそのアミン塩から選択される少なくとも1種と、(B)下記一般式(2)で表される酸性リン酸エステル、一般式(3)で表される酸性亜リン酸エステル及びそれらのアミン塩から選択される少なくとも1種とを含有し、40℃動粘度が1.0~6.0mm
2/sである冷凍機油組成物。
【化5】
前記一般式(1)におけるR
1~R
3は、それぞれ独立に、炭素数1~24の炭化水素基を示す。
前記一般式(2)におけるR
4は、水素原子又は炭素数6~24の炭化水素基を示し、R
5は、炭素数6~24の炭化水素基を示す。
前記一般式(3)におけるR
6及びR
7は、それぞれ独立に、炭素数6~24の炭化水素基を示す。
[2] 前記一般式(1)におけるR
1~R
3が、それぞれ独立に、炭素数6~20のアルキル基、炭素数6~20のアルケニル基、炭素数7~24のアルキルアリール基又は炭素数7~24のアリールアルキル基である[1]に記載の冷凍機油組成物。
[3] 前記一般式(2)におけるR
4が、水素原子、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基を示し、R
5が、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基を示し、かつ、前記一般式(3)におけるR
6及びR
7が、それぞれ独立に、炭素数6~24のアルキル基又は炭素数6~24のアルケニル基を示す[1]又は[2]に記載の冷凍機油組成物。
[4] 前記(A)成分が、前記中性リン酸エステルから選択される少なくとも1種である[1]~[3]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[5] 前記(B)成分が、前記酸性リン酸エステル及び酸性亜リン酸エステルから選択される少なくとも1種である[1]~[4]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[6] 前記基油における鉱油の含有量が70.0~100質量%である[1]~[5]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[7] 前記基油の含有量が、組成物全量基準で90.0~100質量%である[1]~[6]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[8] 前記(A)成分の含有量が、組成物全量基準で0.01~5.0質量%である[1]~[7]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[9] 前記(B)成分の含有量が、組成物全量基準で0.01~5.0質量%である[1]~[8]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[10] 前記基油のn-d-M環分析による%C
Aが1.9未満である[1]~[9]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[11] さらに、酸化防止剤、酸素捕捉剤、耐荷重添加剤、酸捕捉剤、銅不活性化剤、消泡剤、及び粘度指数向上剤から選択されるその他の添加剤を1種以上含有する[1]~[10]のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
[12] [1]~[12]のいずれかに記載の冷凍機油組成物と、冷媒とを含有する冷媒潤滑油混合組成物。
[13] 前記冷媒が、炭化水素系冷媒、二酸化炭素及びアンモニアから選択される1種以上である[12]に記載の冷媒潤滑油混合組成物。
[14] 圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を含む冷凍回路に、[12]又は[13]に記載の冷媒潤滑油混合組成物を封入した冷蔵庫。
[15] 前記鉱油を含む基油に対し、前記(A)成分を配合する工程と、前記(B)成分を配合する工程とを含む、[1]~[11]のいずれかに記載の冷凍機油組成物の製造方法。
【実施例0049】
本実施形態について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[各種物性値の測定方法]
各実施例及び各比較例で用いた各原料並びに各実施例及び各比較例の冷凍機油組成物の各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
(1)動粘度
40℃動粘度及び100℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定した。
(2)酸価
JIS K2501:2003の5(指示薬滴定法)に準拠して測定した。
(3)流動点
JIS K 2269:1987に準拠して測定した。
(4)リン含有量
JPI-5S-38-03に準拠して測定した。
【0051】
[冷凍機油組成物の調製に用いた各成分の詳細]
冷凍機油組成物の調製に用いた各成分の詳細について、以下に示す。
【0052】
(1)ナフテン系基油
ナフテン系鉱油(40℃動粘度:4.320mm2/s、100℃動粘度:1.540mm2/s、%CA:0.9、%CN:41.4、%CP:57.7)を用いた。
(2)パラフィン系基油
パラフィン系鉱油(40℃動粘度:2.584mm2/s、100℃動粘度:1.087mm2/s、%CA:0.4、%CN:29.6、%CP:70.1)を用いた。
尚、上記ナフテン系基油及びパラフィン系基油のパラフィン分(%CP)、ナフテン分(%CN)及び芳香族分(%CA)は、ASTM D-3238環分析(n-d-M法)により測定した。
(3)中性リン酸エステル
トリクレジルホスフェート(リン含有量:8.4質量%、R1~R3が炭素数7の炭化水素基である化合物)を用いた。
(4)酸性亜リン酸エステル
ジオレイルハイドロゲンホスファイト(リン含有量:5.1質量%、R6及びR7が炭素数18の炭化水素基である化合物)を用いた。
(5)酸性リン酸エステル1
イソトリデシルアシッドホスフェート(リン含有量:8.2質量%、R4が水素原子であり、R5が炭素数13の炭化水素基である化合物と、R4及びR5が炭素数13の炭化水素基である化合物と混合物)を用いた。
(6)酸性リン酸エステル2
モノオレイルアシッドホスフェート(リン含有量:6.3質量%、R4が水素原子であり、R5が炭素数18の炭化水素基である化合物)を用いた。
(7)リン酸アミン塩
C12~14-t-アルキルアンモニウム ハイドロゲンメチルホスフェートと、C12~14-t-アルキルアンモニウム ジメチルホスフェートとの1:1の混合物(リン含有量:9.5質量%、窒素含有量:4.95質量%)を用いた。
(8)酸化防止剤
2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(DBPC)を用いた。
(9)酸捕捉剤
2-エチルヘキシルグリシジルエーテルを用いた。
(10)消泡剤
シリコーン系消泡剤(シリコーン量:0.5質量%)を用いた。
【0053】
[実施例1~7及び比較例1~9]
上記各成分を混合して表1及び表2に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、以下に説明するJASO振り子試験、ファレックス焼き付き荷重試験及び二層分離温度試験を行った。
【0054】
<JASO振り子試験>
JASO-M314-88に規定される「曽田式振り子試験」に準拠し、曽田式振り子試験機(II)型を用いて、油温50℃及び80℃で摩擦係数μを測定した。
【0055】
<ファレックス焼き付き荷重試験>
ASTM D3233に準拠するファレックス試験機を用い、ピン/ブロックをセットし、試料油(冷凍機油組成物)の焼付き荷重を以下の条件で測定した。
ピン:AISI-3125
ブロック:AISI-1137
馴らし:荷重1112N×1分間
回転数:290rpm
油温:室温
【0056】
<二層分離温度試験>
冷凍機油組成物とR600a冷媒(イソブタン)との低温側二層分離温度をJIS K2211-2009付属書Dに規定される「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して測定した。冷凍機油組成物の当該R600a冷媒との低温側での二層分離温度が低いほど、低温でのR600a冷媒との相溶性に優れる。
なお、-50℃まで二層分離しなかったものは、“-50>”と示す。
【0057】
【0058】
【0059】
表1より、実施例1~7の冷凍機油組成物は、JASO振り子試験における摩擦係数が低く、具体的には50℃における摩擦係数が0.125以下であり、かつ、80℃における摩擦係数が0.135以下である。さらに、ファレックス焼き付き荷重試験の結果も良好である。
これに対し、(A)成分や(B)成分を含有しない比較例1~9の組成物は、例えリン酸アミン塩を配合したものであっても、JASO振り子試験における摩擦係数が劣り、さらにはファレックス焼き付き荷重の結果が不良となることもあった。