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特開2022-57305ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057305
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性向上方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/03 20060101AFI20220404BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20220404BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220404BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20220404BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20220404BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C08L67/03
C08K5/12
C08L101/00
C08L23/00
C08L51/06
C08L67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165487
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】坂田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】松崎 流成
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC032
4J002AC062
4J002AC082
4J002BB002
4J002BB052
4J002BB062
4J002BB152
4J002BC032
4J002BG042
4J002BN122
4J002CF002
4J002CF071
4J002CF092
4J002CP032
4J002EH146
4J002FD010
4J002FD200
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法を提供する。ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための芳香族多価カルボン酸エステル及び耐アルカリ溶液性向上助剤の使用を提供する。及びポリブチレンテレフタレートの耐アルカリ溶液性向上剤を提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート樹脂に、芳香族多価カルボン酸エステル及び耐アルカリ溶液性向上助剤を配合することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法とする。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための、芳香族多価カルボン酸エステル及び耐アルカリ溶液性向上助剤の使用とする。芳香族多価カルボン酸エステル及び耐アルカリ溶液性向上助剤を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性向上剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法であって、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)芳香族多価カルボン酸エステル1~15質量部と、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤5~300質量部と、を配合することを含み、
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、
(C1)エラストマー5~100質量部、
(C2)耐トラッキング性向上剤0~180質量部、及び
(C3)カルボジイミド化合物0~20質量部
を含み、
(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、及びグリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上であり、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する配合量が、
(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂0~30質量部、
(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部、及び
(C2-3)窒素系化合物0~50質量部
である、方法。
【請求項2】
(B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(C1)エラストマーがオレフィン系エラストマー、アクリル系コアシェル型エラストマー、及びポリエステル系エラストマーから選択される1以上を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の使用であって、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する使用量が、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が5~300質量部であり、
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、
(C1)エラストマー5~100質量部、
(C2)耐トラッキング性向上剤0~180質量部、及び
(C3)カルボジイミド化合物0~20質量部
を含み、
(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、及びグリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上であり、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する使用量が、
(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂0~30質量部、
(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部、及び
(C2-3)窒素系化合物0~50質量部
である、使用。
【請求項5】
(B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
(C1)エラストマーがオレフィン系エラストマー、アクリル系コアシェル型エラストマー、及びポリエステル系エラストマーから選択される1以上を含む、請求項4または5に記載の使用。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法で用いられる、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のための耐アルカリ溶液性向上剤であって、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤を含有し、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が少なくとも(C1)エラストマーを含む、耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項8】
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が(C2)耐トラッキング性向上剤及び/又は(C3)カルボジイミド化合物をさらに含み、
(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1種以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上である、請求項7に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項9】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のための耐アルカリ溶液性向上剤であって、
(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤を含有し、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が5~300質量部となる量で用いられ、
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、
(C1)エラストマー5~100質量部、
(C2)耐トラッキング性向上剤0~180質量部、及び
(C3)カルボジイミド化合物0~20質量部
となる量で用いられ、
(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、及びグリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上であり、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、
(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂0~30質量部、
(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部、及び
(C2-3)窒素系化合物0~50質量部
となる量で用いられる、耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項10】
(B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、請求項7から9のいずれか一項に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項11】
(C1)エラストマーがオレフィン系エラストマー、アクリル系コアシェル型エラストマー、及びポリエステル系エラストマーから選択される1以上を含む、請求項7から10のいずれか一項に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【請求項12】
(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が、シリコーン系化合物を含有しない、又はシリコーン系化合物の含有量が(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の合計含有量の5質量%以下である、請求項7から11のいずれか一項に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を成形してなるポリブチレンテレフタレート樹脂成形品は、その機械的特性、電気特性、及び加工性から今日幅広い用途に用いられている。洗剤、漂白剤、融雪剤等のアルカリ溶液に接触する環境で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂成形品は、アルカリ溶液と反応して経時的に品質が低下してしまうことを防ぐために、アルカリ溶液に対する長期耐久性に優れることが求められている。特に、ネジ締め、金属圧入、かしめ等により過大な歪がかかった状態で使用されるポリブチレンテレフタレート樹脂成形品や、薄肉部及び/又は成形時の溶融樹脂流動の合流界面であるウェルド部等の応力割れが発生しやすい部分を有するポリブチレンテレフタレート樹脂成形品は、アルカリ溶液と接触する環境で用いられると上記部分でクラック等がより発生しやすい。とりわけネジ締めや金属圧入を行う成形品が融雪剤等に接触する環境で用いられる場合、融雪剤によりネジや金属の錆が誘発されやすく、錆は発生する際に周辺をアルカリ性の環境にすることから、より高い耐アルカリ溶液性が要求される。
そこで、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる技術として、ポリブチレンテレフタレート樹脂にシリコーン系化合物及び/又はフッ素系化合物を配合する技術がある(例えば、特許文献1)。しかしながら、シリコーン系化合物を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂の成形品は、例えば電気電子部品の接点部分等に用いられると熱や火花等によって表面に二酸化ケイ素が形成され接点不良が発生してしまう場合がある。
一方、ポリブチレンテレフタレート樹脂には、加工性等を考慮して可塑剤や離型剤等が添加されることがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第00/78867号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2011/058992号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法を提供することを第1の課題とする。本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための芳香族多価カルボン酸エステル及び耐アルカリ溶液性向上助剤の使用を提供することを第2の課題とする。本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性向上剤を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、シリコーン系化合物を用いなくともポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させることができる方法について鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、ポリブチレンテレフタレート樹脂の添加剤として一般的に用いられる芳香族多価カルボン酸エステルを配合することでポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を高めることができることを見出した。また、高温環境下等での使用により配合した芳香族多価カルボン酸エステルがブリードしてしまうと、長期的な耐アルカリ性が低下するだけでなく、耐トラッキング性の低下に繋がりうる。本発明者らはさらに研究を進め、芳香族多価カルボン酸エステルと、少なくともエラストマーを含む耐アルカリ溶液性向上助剤とを組み合わせて配合することで、芳香族多価カルボン酸エステルのブリードに伴う問題をも抑制し、長期的に耐アルカリ溶液性と耐トラッキング性を維持できることを見出した。
本発明は、以下の実施形態を有する。
[1](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法であって、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)芳香族多価カルボン酸エステル1~15質量部と、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤5~300質量部と、を配合することを含み、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(C1)エラストマー5~100質量部、(C2)耐トラッキング性向上剤0~180質量部、及び(C3)カルボジイミド化合物0~20質量部を含み、(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、及びグリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する配合量が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂0~30質量部、(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部、及び(C2-3)窒素系化合物0~50質量部である、方法。
[2](B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、[1]に記載の方法。
[3](C1)エラストマーがオレフィン系エラストマー、アクリル系コアシェル型エラストマー、及びポリエステル系エラストマーから選択される1以上を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[4](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の使用であって、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する使用量が、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が5~300質量部であり、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(C1)エラストマー5~100質量部、(C2)耐トラッキング性向上剤0~180質量部、及び(C3)カルボジイミド化合物0~20質量部を含み、(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、及びグリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する使用量が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂0~30質量部、(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部、及び(C2-3)窒素系化合物0~50質量部である、使用。
[5](B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、[4]に記載の使用。
[6](C1)エラストマーがオレフィン系エラストマー、アクリル系コアシェル型エラストマー、及びポリエステル系エラストマーから選択される1以上を含む、[4]または[5]に記載の使用。
[7][1]から[3]のいずれかに記載の方法で用いられる、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のための耐アルカリ溶液性向上剤であって、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤を含有し、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が少なくとも(C1)エラストマーを含む、耐アルカリ溶液性向上剤。
[8](C)耐アルカリ溶液性向上助剤が(C2)耐トラッキング性向上剤及び/又は(C3)カルボジイミド化合物をさらに含み、(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1種以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上である、[7]に記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
[9](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のための耐アルカリ溶液性向上剤であって、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤を含有し、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが1~15質量部、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が5~300質量部となる量で用いられ、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(C1)エラストマー5~100質量部、(C2)耐トラッキング性向上剤0~180質量部、及び(C3)カルボジイミド化合物0~20質量部となる量で用いられ、(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、及びグリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂0~30質量部、(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部、及び(C2-3)窒素系化合物0~50質量部となる量で用いられる、耐アルカリ溶液性向上剤。
[10](B)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、[7]から[9]のいずれかに記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
[11](C1)エラストマーがオレフィン系エラストマー、アクリル系コアシェル型エラストマー、及びポリエステル系エラストマーから選択される1以上を含む、[7]から[10]のいずれかに記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
[12](B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が、シリコーン系化合物を含有しない、又はシリコーン系化合物の含有量が(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の合計含有量の5質量%以下である、[7]から[11]のいずれかに記載の耐アルカリ溶液性向上剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させる方法を提供することができる。本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための芳香族多価カルボン酸エステル及び耐アルカリ溶液性向上助剤の使用を提供することができる。本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂用耐アルカリ溶液性向上剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している。
【0008】
[耐アルカリ溶液性向上方法]
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性向上方法は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)芳香族多価カルボン酸エステル1~15質量部と、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤5~300質量部と、を配合する。
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤は、(C1)エラストマーを含み、さらに(C2)耐トラッキング性向上剤及び/又は(C3)カルボジイミド化合物を含むことが好ましい。
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤は、(C1)エラストマー5~100質量部、(C2)耐トラッキング性向上剤0~180質量部、及び(C3)カルボジイミド化合物0~20質量部を含む。
(C2)耐トラッキング性向上剤は、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂0~30質量部、(C2-2)タルク、マイカ、無機金属化合物から選択される1種以上の耐トラッキング性向上用充填剤0~100質量部、(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物から選択される1種以上の窒素系化合物0~50質量部、から選択される1種以上である。
【0009】
上記した(C)耐アルカリ溶液性向上剤を(B)芳香族多価カルボン酸エステルと組み合わせて配合する配合することにより、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させることができる。
「耐アルカリ溶液性」は、アルカリ溶液に長期間接触した場合でも品質が低下しにくい性質のことであり、本明細書では、試験片を23℃で水酸化ナトリウム水溶液中に50時間以上浸漬した後にクラックが発生しない場合に、耐アルカリ溶液性に優れているという。
【0010】
((A)ポリブチレンテレフタレート樹脂)
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0011】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0012】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.5dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上1.2dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0013】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができ、これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0014】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができ、これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0016】
((B)芳香族多価カルボン酸エステル)
(B)芳香族多価カルボン酸エステルは、芳香族環に2個以上のエステル基(アルコキシカルボキシル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)を有する芳香族化合物であればよく、例えば、以下の式Iで示される化合物を挙げることができる。
【0017】
φ-(COOR)n ・・・I
式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい。φは、-COORで置換されている水素原子以外の水素原子は他の置換基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。例えば、φは、-COORで置換されている水素原子以外の水素原子のうちの1以上が-OH及び/又は-NHで置換されている構成にすることもできる。(A)結晶性熱可塑性樹脂との相溶性の点から、nが3以上(例えば3~6又は3~4)であることが好ましい。これらの(B)芳香族多価カルボン酸エステルは一種または二種以上を併用することができる。
【0018】
6-12アレーン環としては、ベンゼン、ナフタレン環等を挙げることができる。芳香族多価カルボン酸エステル成分の多価カルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、これらの酸無水物など)、芳香族トリカルボン酸(トリメリット酸又はその酸無水物など)、芳香族テトラカルボン酸(ピロメリット酸又はその酸無水物)などを挙げることができる。
【0019】
アルキルエステル(-COOR)を構成するアルキル基としては、例えば、ブチル,t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、トリイソデシルル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-20アルキル基などを挙げることができる。好ましいアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状C3-16アルキル基,特に直鎖状又は分岐鎖状C4-14アルキル基である。
シクロアルキルエステル基を構成するシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が例示できる。
アラルキルエステル基を構成するアラルキル基としては、ベンジル基などのC6-12アリール-C1-4アルキル基を挙げることができる。
【0020】
代表的な(B)芳香族多価カルボン酸エステルとしては、トリメリット酸トリC4-20アルキルエステル(トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリイソデシルなど)、トリメリット酸トリC5-10シクロアルキルエステル(トリメリット酸トリシクロヘキシルなど)、トリメリット酸トリアラルキル(トリメリット酸トリベンジルなど)、トリメリット酸ジアルキル モノアラルキル(トリメリット酸ジ(2-エチルヘキシル)モノベンジル)、ピロメリット酸テトラC4-20アルキルエステル(ピロメリット酸テトラブチル、ピロメリット酸テトラオクチル、ピロメリット酸テトラ2-エチルヘキシル、ピロメリット酸テトライソデシルなど)、ピロメリット酸テトラアラルキル(ピロメリット酸テトラベンジルなど)、ピロメリット酸ジアルキル ジアラルキル(ピロメリット酸ジ(2-エチルヘキシル)ジベンジルなど)などが例示できる。なお、カルボン酸エステルは異なるエステル基(アルコキシカルボキシル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)を有する混合エステルであってもよい。
【0021】
(B)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量は、(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して1~15質量部であることが好ましく、2~12質量部であることがより好ましく、3~12質量部であることがさらに好ましく、3~10質量部であることが特に好ましい。(B)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量を(A)結晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して1質量部以上にすることで、耐アルカリ溶液性をより向上させることができる。(B)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量を熱可塑性樹脂100質量部に対して15質量部以下にすることで、アルカリ溶液に対する長期耐久性をより発揮することができるとともに、(B)芳香族多価カルボン酸エステルが成形品表面に染み出す(ブリードアウト)などの不具合が発生することを容易に抑制することができる。
【0022】
((C)耐アルカリ溶液性向上助剤)
本実施形態においては、(B)芳香族多価カルボン酸エステルの配合による(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ性向上効果をより高めるため、あるいは耐アルカリ性向上効果と引き換えに発生しうる不都合を低減するため、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤として、(C1)エラストマーが配合される。(C)耐アルカリ溶液性向上助剤として、さらに(C2)耐トラッキング性向上剤、及び/又は(C3)カルボジイミド化合物が配合されることが好ましい。以下、各成分について説明する。
【0023】
((C1)エラストマー)
本実施形態においては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を使用することから、成形時の冷却固化過程における結晶化に伴う成形収縮や、成形品の使用環境における後収縮などにより、成形品に歪が発生することがある。特にネジ締め、金属圧入、かしめなどを行う成形品では、拘束部による歪(応力)が、耐アルカリ溶液性の低下を促進させうるため、耐アルカリ溶液性の向上を図る上では成形品の歪の緩和も重要となる。そこで、本実施形態では成形品の歪を緩和させて耐アルカリ溶液性をより向上させるため、および(B)芳香族多価カルボン酸エステルのブリードアウトを抑制し、アルカリ溶液に対する長期耐久性を向上するため、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤としての(C1)エラストマーが配合される。
【0024】
(C1)エラストマーとしては、成形時や熱処理時の収縮率及び/又は線膨張係数が小さいのみならず、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂との加工温度が近く、相溶性の良い樹脂を好ましく用いることができる。このような(C1)エラストマーの例としては、オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、コアシェル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、シリコーン系エラストマー及びこれらの組み合わせを挙げることができる。中でも、オレフィン系エラストマー、コアシェル系エラストマー、ポリエステル系エラストマーから選択される1種以上を用いる場合、成形品の歪の緩和に加え、(B)芳香族多価カルボン酸エステルのブリードアウトの抑制や、それに伴う耐トラッキング性の低下を補う効果も得られるため好ましく、耐トラッキング性向上の観点からはオレフィン系エラストマーを用いることが特に好ましい。なお、これらの(C1)エラストマーと(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂との親和性を向上させるために、公知の相溶化剤を併用してもよい。
【0025】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EP共重合体)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPD共重合体)、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、EP共重合体およびEPD共重合体から選択された少なくとも一種の単位を含む共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体(エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等)などが含まれる。好ましいオレフィン系エラストマーには、EP共重合体、EPD共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体が含まれ、特にエチレンエチルアクリレートが好ましい。これらのオレフィン系エラストマーは単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
コアシェル系エラストマーは、コア層がゴム成分(軟質成分)、シェル層が硬質成分で構成されるポリマーであり、コア層のゴム成分としてはアクリル系ゴム等を用いるものである。コア層に用いるゴム成分は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば-10℃以下)であるのが好ましく、-20℃以下(例えば-180℃以上-25℃以下)であるのがより好ましく、-30℃以下(例えば-150℃以上-40℃以下)であるのが特に好ましい。
【0027】
ゴム成分としてアクリル系ゴムを用いる場合、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC1~C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC~Cのアルキルエステルがより好ましい。
【0028】
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体でも、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
【0029】
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。かかるコアシェル系エラストマーのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0030】
ポリエステル系エラストマーとしては、ハードセグメントとソフトセグメントにいずれもポリエステル系単位構造を有するエステル-エステル型と、ソフトセグメントをポリエーテル系単位構造としたエステル-エーテル型の、いずれも好ましく用いることができるが、耐熱性面では前者、寸法精度面では後者が、それぞれより好ましい。
【0031】
(C1)エラストマーの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、5~100質量部であり、10~90質量部または15~80質量部であってもよい。(C1)エラストマーの配合量を5~100質量部とすることで、高温環境下等での使用により(B)芳香族多価カルボン酸エステルがブリードアウトしてしまうことを防ぐことができ長期的な耐アルカリ性を維持することができる。
一実施形態において、(C1)エラストマーの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し8~80質量部である。
ただし、非晶性の(C1)エラストマーは結晶性の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に比べ一般的に耐薬品性が劣り、多量に添加することで組成物としての耐アルカリ溶液性を低下させるおそれがあるため、エラストマーの含有量は、本実施形態に係る方法を用いて得られた樹脂組成物全体に対し、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
((C2)耐トラッキング性向上剤)
本実施形態において(B)芳香族多価カルボン酸エステルは、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるために配合するものであるが、これを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品が、長期間高温に晒されるなど厳しい環境下で用いられると、成形品表面からのブリードアウトが発生する場合がある。この(B)芳香族多価カルボン酸エステルのブリードアウトは、耐アルカリ溶液性の長期耐久性を損なうのみならず、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性(樹脂の表面に埃や水が付着して微小放電が繰り返された場合でも樹脂の表面に導電性の経路が形成されにくい性質)を低下させる原因にもなりうる。そこで本実施形態では、上述した(C1)エラストマーを配合することにより、成形品に生じる歪の緩和による耐アルカリ溶液性の向上に加え、(B)芳香族多価カルボン酸エステルのブリードアウトの抑制による耐アルカリ溶液性の長期信頼性維持と耐トラッキング性の低下軽減も図っているが、さらに(C2)耐トラッキング性向上剤を配合することで、耐トラッキング性の低下をより抑えることができる。すなわち、(C2)耐トラッキング性向上剤は、(B)芳香族多価カルボン酸エステルによる耐トラッキング性への悪影響を抑制し、副作用の少ない耐アルカリ溶液性向上方法を確立する意味で、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤として配合される。
【0033】
ここで本実施形態における(C2)耐トラッキング性向上剤は、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、無機金属化合物、及びこれらの組み合わせから選ばれる1種以上の耐トラッキング性向上用充填剤、(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物、カルボジイミド化合物、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上の窒素系化合物、のいずれか又は組み合わせからなるものである。
【0034】
(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂としては、数平均分子量1万~100万のポリエチレンやポリプロピレンが好ましく、耐トラッキング性向上の観点で高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンがより好ましい。
【0035】
(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し0~30質量部であり、0.1~30質量部であることが好ましく、5~20質量部であることがより好ましい。一実施形態において、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂の配合量は、3~12質量部である。
【0036】
(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤としては、タルク、マイカ、無機金属化合物のいずれ1種、又はこれらの2種以上を組み合わせたものを用いることができる。
【0037】
タルクとしては、公知のものを使用することができ、好ましくはJIS Z8825に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した体積平均粒子径が1~10μmのタルク、またはJIS K5101に準拠して測定した嵩比重が0.4~1.5の圧縮微粉タルクを用いることができる。
【0038】
マイカとしては、公知のものを使用することができ、好ましくはJIS Z8825に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した体積平均粒子径が10~60μmのマイカを用いることができる。
【0039】
無機金属化合物としては、無機酸(リン酸及びケイ酸以外の無機酸、例えば、炭酸、ホウ酸、スズ酸、タングステン酸、硫酸など)の金属塩、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナなど)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、アルミナ水和物(ベーマイト)など)、金属硫化物(硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステンなど)等を挙げることができ、好ましいものとして、硫酸バリウム、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、スズ酸亜鉛が挙げられる。
【0040】
これらの(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤は、無機化合物および/または有機化合物で表面処理(表面被覆)されていてもよく、表面処理に用いられる無機化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、ジルコニア、水酸化ジルコニウム、ジルコニア水和物、酸化セリウム、酸化セリウム水和物、水酸化セリウム等のアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、セリウム等の無機酸化物、水酸化物が好ましく挙げられる。また、これらの無機化合物は水和物であってもよい。これらの中でも、水酸化アルミニウム、シリカが好ましく、シリカを用いる場合は、SiO・nHOで表されるシリカ水和物であることが特に好ましい。また、表面処理に用いられる有機化合物としては、エポキシ化合物やアミン化合物が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ、ノボラック型エポキシ等のエポキシ化合物およびモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジクロルヘキシルアミン等のアミン化合物がより好ましい化合物として例示することができる。
【0041】
(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤の配合量は、耐トラッキング性向上と機械的特性への影響の観点から、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0~100質量部であり、0.1~100質量部であることが好ましく、5~90質量部または10~80質量部であってもよい。一実施形態において、(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し24~85質量部である。
【0042】
(C2-3)窒素系化合物としては、トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
トリアジン化合物の具体例としては、シアヌル酸、トリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレート、トリ(n-プロピル)シアヌレート、メチルシアヌレート、ジエチルシアヌレート、イソシアヌル酸、トリメチルイソシアヌネート、トリエチルイソシアヌレート、トリ(n-プロピル)イソシアヌレート、ジエチルイソシアヌネート、メチルイソシアヌレート、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェート化合物、ジメラミンホスフェート化合物、メラミンポリホスフェート化合物、ビスメラミンジンコホスフェート、ビスメラミンアルミノトリホスフェート、硫酸メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、アリールグアナミン、メラム、メレム、メロンなどが挙げられる。
【0044】
(C2-3)窒素系化合物の配合量は、耐トラッキング性向上と機械的特性への影響の観点から、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し0~50質量部であり、0.1~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましい。一実施形態において、(C2-3)窒素系化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し18~40質量部である。
【0045】
(C2)耐トラッキング性向上剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(C2-1)エラストマー、(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤、(C2-3)窒素系化合物の合計で0~180質量部であり、0.1~180質量部であることが好ましく、5~150質量部であることがより好ましく、10~120質量部であることがさらに好ましい。一実施形態において、(C2)耐トラッキング性向上剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し合計で12~130質量部である。
【0046】
((C3)カルボジイミド化合物)
本実施形態において(C3)カルボジイミド化合物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐加水分解性を向上させるとともに、耐トラッキング性を向上させる作用を有する。耐加水分解性は耐アルカリ溶液性と必ずしも相関する訳ではないが、アルカリ溶液が水溶液であれば、その水分が存在する環境において高温下で使用された場合、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が加水分解により劣化し、アルカリ溶液によるストレスクラックへの耐性が低下しうるため、耐加水分解性の向上は耐アルカリ性の向上に寄与しうる。また、メカニズムの詳細は明確でないが、(C3)カルボジイミド化合物により(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐トラッキング性が向上することから、(C2)耐トラッキング性向上剤と同様に、他の特性への悪影響の少ない耐アルカリ溶液性向上方法を確立する意味で、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤として配合される。
【0047】
本実施形態における(C3)カルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物であり、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物(ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等)、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物(ジシクロヘキシルカルボジイミド等)、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物(ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物;及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等)を挙げることができる。(C3)カルボジイミド化合物としては、これらから選択される1種以上を用いることができ、中でも、耐トラッキング性をより向上できる点で、芳香族カルボジイミド化合物を含有することが好ましい。
また、(C3)カルボジイミド化合物の数平均分子量は、300以上であることが好ましい。数平均分子量を上記範囲にすることで、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂との溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合において、ガスや臭気の発生を低減することができる。
【0048】
(C3)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0~20質量部であり、0.1~10質量部または0.5~5質量部であってもよい。一実施形態において、(C3)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し5~18質量部である。
【0049】
(その他の配合剤)
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性向上方法において、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に、酸化防止剤、耐候安定剤、分子量調整剤、流動性改善剤、耐候性改善剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、染料や顔料といった着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填剤(ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク等)、有機充填剤、着色剤等の添加剤をさらに配合することができる。
【0050】
なお、上記した(B)芳香族多価カルボン酸エステルは可塑剤としても作用することができるので、通常は可塑剤を添加する必要はないが、必要に応じて脂肪族カルボン酸エステル等の他の可塑剤を含有することができる。この場合の可塑剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.01~10質量部とすることができる。
【0051】
また、本実施形態に係る方法により得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が無機充填剤を含有する場合、耐アルカリ溶液性が低下しやすい傾向にあるため、本実施形態に係る方法は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、無機充填剤(上記した(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤とは異なる無機充填剤であり、例えばガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク等の無機充填剤)を5質量部以上含む場合に用いることが好ましく、10質量部以上含む場合に用いることがより好ましく、20質量部以上含む場合に用いることがさらに好ましく、30質量部以上含む場合に用いることが特に好ましい。
【0052】
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性を向上させる方法によれば、シリコーン系化合物を用いなくとも(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させることができるので、特に本実施形態に係る方法を用いて得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を電気電子部品用途に使用する場合、シリコーン系化合物に由来する二酸化ケイ素層の生成による接点不良を抑制できる。この点から、シリコーン系化合物の配合量は、本実施形態に係る方法を用いて得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体に対して1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。シリコーン系化合物を配合しない構成とすることもできる。シリコーン系化合物としては、例えば、シリコーンオイルとして知られている、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等のシリコーン樹脂;シリコーン樹脂をアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の変性用樹脂と反応させた変性シリコーン等を挙げることができる。
【0053】
(配合方法)
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に、(B)芳香族多価カルボン酸エステル、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤、並びに必要に応じて添加する配合剤を配合する方法は、特に限定されず、従来の樹脂組成物調製方法や成形方法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)樹脂成分及び他の各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【0054】
押出機により練り込みペレット化する場合、押出機中での樹脂温度(加工温度)は、240~300℃とすることが好ましく、250~280℃とすることがより好ましい。
【0055】
上記方法は、本実施形態に係る方法を用いて得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる、80mm×10mm×厚さ1mmの長手方向の略中央部にウェルドを有する試験片を、常時1.0%の曲げ歪みがウェルド部に加わるようにたわませた状態で、23℃で水酸化ナトリウム溶液中に50時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための方法であることが好ましく、70時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための方法であることがより好ましく、100時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための方法であることがさらに好ましく、200時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための方法であることが特に好ましい。
【0056】
(樹脂成形品)
上記方法により(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に、(B)芳香族多価カルボン酸エステル、及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐アルカリ溶液性に優れているので、その成形品は、耐アルカリ溶液性が求められる用途に広く用いることができる。例えば、自動車用部品、電気電子部品等のうち、洗剤や融雪剤等のアルカリ性溶液と接触する部品として好適に用いることができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記方法により得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0057】
[(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の使用]
本実施形態に係る(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の使用は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させるための、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の使用である。上記使用は、上記試験片を、常時1.0%の曲げ歪みがウェルド部に加わるようにたわませた状態で、23℃で水酸化ナトリウム溶液中に50時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための使用であることが好ましく、70時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための使用であることがより好ましく、100時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための使用であることがさらに好ましく、200時間以上浸漬した後にクラックを発生させないための使用であることが特に好ましい。
【0058】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂並びに、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の種類等については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の使用量についても、上記した(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の配合量と同様である。
【0059】
[耐アルカリ溶液性向上剤]
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性向上剤は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に配合して用いられるためのものであり、(B)芳香族多価カルボン酸エステル、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤を含有する。
【0060】
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤は、少なくとも(C1)エラストマーを含む。(C)耐アルカリ溶液性向上助剤が(C2)耐トラッキング性向上剤及び/又は(C3)カルボジイミド化合物をさらに含むことが好ましい。
【0061】
(C2)耐トラッキング性向上剤が、(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂、(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1種以上の耐トラッキング性向上用充填剤、並びに(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、グリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物、から選択される1以上であることが好ましい。
【0062】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂並びに、(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の種類等については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の使用量についても、上記した(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の配合量と同様である。
【0063】
耐アルカリ溶液性向上剤中の(B)芳香族多価カルボン酸エステル、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の合計含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上、又は90質量%以上とすることができる。
【0064】
耐アルカリ溶液性向上剤は、上記した(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に配合してもよいその他の配合剤を含有していてもよい。その配合量は、特に限定されず、例えば、合計50質量%未満、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下にすることができる。
【0065】
耐アルカリ溶液性向上剤中の各成分の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に対して上記した配合量になる量で容易に使用できるように、好ましくは以下の範囲とする。
耐アルカリ溶液性向上剤中の(B)芳香族多価カルボン酸エステルの含有量は、好ましくは0.1~50質量%であり、より好ましくは1~30質量%であり、さらに好ましくは好ましくは3~15質量%である。
耐アルカリ溶液性向上剤中の(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の含有量は、好ましくは50~99.9質量%であり、より好ましくは70~99質量%であり、さらに好ましくは好ましくは85~97質量%である。
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤中の(C1)エラストマーの含有量は、好ましくは1~99.9質量%であり、より好ましくは5~90質量%であり、さらに好ましくは好ましくは10~80質量%である。
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤中の(C2)耐トラッキング性向上剤の含有量は、好ましくは0~95質量%であり、より好ましくは5~90質量%であり、さらに好ましくは好ましくは10~80質量%である。
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤中の(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂の含有量は、好ましくは0~95質量%であり、より好ましくは5~90質量%であり、さらに好ましくは好ましくは10~80質量%である。
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤中の(C2-2)タルク、マイカ、及び無機金属化合物から選択される1以上の耐トラッキング性向上用充填剤の含有量は、好ましくは0~95質量%であり、より好ましくは5~90質量%であり、さらに好ましくは好ましくは10~80質量%である。
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤中の(C2-3)トリアジン化合物、ベンゾグアニン化合物、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートのテレフタル酸エステル化合物、アラントイン化合物、及びグリコールウリル化合物から選択される1以上の窒素系化合物の含有量は、好ましくは0~95質量%であり、より好ましくは5~90質量%であり、さらに好ましくは好ましくは10~80質量%である。
(C)耐アルカリ溶液性向上助剤中の(C3)カルボジイミド化合物の含有量は、好ましくは0~60質量%であり、より好ましくは0.1~30質量%であり、さらに好ましくは好ましくは0.5~20質量%である。
から選択される1以上を含む。
【0066】
本実施形態に係る耐アルカリ溶液性向上剤は、シリコーン系化合物を用いなくとも(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐アルカリ溶液性を向上させることができるので、シリコーン系化合物を含有しない、又はシリコーン系化合物の含有量が5質量%未満であるように構成することができる。
【0067】
上記耐アルカリ溶液性向上剤は、上記試験片を、常時1.0%の曲げ歪みがウェルド部に加わるようにたわませた状態で、23℃で水酸化ナトリウム溶液中に50時間以上浸漬した後にクラックを発生させない耐アルカリ溶液性向上剤であることが好ましく、70時間以上浸漬した後にクラックを発生させない耐アルカリ溶液性向上剤であることがより好ましく、100時間以上浸漬した後にクラックを発生させない耐アルカリ溶液性向上剤であることがさらに好ましく、200時間以上浸漬した後にクラックを発生させない耐アルカリ溶液性向上剤であることが特に好ましい。
【0068】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、並びに(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の種類等については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。耐アルカリ溶液性向上剤の使用量は、耐アルカリ溶液性向上剤中の(B)芳香族多価カルボン酸エステル及び(C)耐アルカリ溶液性向上助剤の量が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に対して上記した配合量になる量とすることができる。
【実施例0069】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0070】
各実施例及び比較例において、表1,2に示す(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)芳香族多価カルボン酸エステル、(C)耐アルカリ溶液性向上助剤を、必要に応じて用いる配合剤とともに、表1に示す量(質量部)でドライブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)を用いてシリンダー温度260℃で溶融混練し、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。
使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0071】
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
PBT:ポリプラスチックス(株)製、ポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度:0.77dL/g、末端カルボキシル基量:28meq/kg)
PA:宇部興産(株)製、ポリアミド6「UBEナイロン1015B」
(2)(B)芳香族多価カルボン酸エステル
ピロメリット酸エステル:ADEKA(株)製、ピロメリット酸混合直鎖アルキルエステル「アデカサイザーUL-100」
(比較成分1)芳香族モノカルボン酸エステル:(株)ダイセル製、ポリカプロラクトンジベンゾエート「PLACCEL BCL2」
(比較成分2)脂肪族多価カルボン酸エステル:日油(株)製、ペンタエリスリトールジステアレート「ユニスターH476」
(3)(C)耐アルカリ溶液性向上助剤
(C1)エラストマー
EEA:オレフィン系エラストマー、(株)NUC製、エチレン-エチルアクリレート共重合体「NUC-6570」
EO:オレフィン系エラストマー、ダウ・ケミカル日本(株)製、エチレン-オクテン共重合体「ENGAGE 8440」
EGMA-g-BAMMA:オレフィン系エラストマー、日油(株)製、エチレン-グリシジルメタクリレート-graft-(ブチルアクリレート-メチルメタクリレート)共重合体「モディパー A4300」
コアシェル:アクリル系コアシェル型エラストマー、ダウ・ケミカル日本(株)製、グリシジル基含有コアシェルポリマー「パラロイドEXL2314」
PEsエラストマー:東洋紡(株)製、ポリエステル系エラストマー「ペルプレン S2001」
ABS:ジエン系エラストマー、ダイセルミライズ(株)製、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体「セビアンV DP611」
(C2)耐トラッキング性向上剤
(C2-1)直鎖状ポリオレフィン樹脂
LLDPE:Braskem社製、直鎖状低密度ポリエチレン「SLL318」
(C2-2)耐トラッキング性向上用充填剤
タルク:松村産業(株)製「クラウンタルクPP」
マイカ:(株)ヤマグチマイカ製「AB-25S」
(C2-3)窒素系化合物
メラミンシアヌレート:BASF社製「Melapur MC50」
(C3)カルボジイミド化合物
カルボジイミド:ラインケミージャパン(株)製、芳香族カルボジイミド「スタバクゾールP400」
(4)その他の配合剤
ガラス繊維:日本電気硝子(株)製「ECS03T-127」(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
難燃剤:ブロモケム・ファーイースト(株)製、ポリペンタブロモベンジルアクリレート(PBBPA)「FR-1025」
難燃助剤:日本精鉱(株)製、三酸化アンチモン「PATOX-M」
【0072】
<評価>
(耐アルカリ溶液性)
樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃、射出時間20秒、冷却時間10秒で、試験片成形用金型(縦80mm、横80mm、厚み1mmの平板成形用金型で、平板の一主面の略中央部に相当する位置にピンを設置することにより、平板の一辺の側面中央部に設けた幅2mm×厚み1mmのサイドゲートから樹脂を充填する際に、平板の一主面上にウェルドが発生するようにしたもの)を用いて射出成形し、ウェルド付平板成形品を製造した。得られたウェルド付平板成形品を、長手方向の略中央部がウェルドとなるよう、幅10mm、長さ80mmの短冊状に切削して試験片を準備した。この試験片をたわませた状態で治具に固定し、常時1.0%の曲げ歪みがウェルド部に加わるようにした。この状態のまま、治具ごと10%の水酸化ナトリウム溶液中に浸漬し、周辺温度23℃にて静置し、浸漬開始から72時間後、120時間後及び240時間後の時点で、試験片にクラックが発生するか否かを目視観察した。
評価は、実施例及び比較例のペレットについて3個ずつの試験片を用いて行い、以下の基準で評価した。結果を表1~2に示す。
◎(優):3個の試験片のうちいずれもクラックが発生していない
〇(良):3個の試験片のうち1個のみクラックが発生している
△(可):3個の試験片のうち2個にクラックが発生している
×(不可):3個の試験片の全てにクラックが発生している
【0073】
(耐トラッキング性)
IEC112第3版に準拠して、0.1%塩化アンモニウム水溶液及び白金電極を用いて評価用試験片の比較トラッキング指数(CTI)を測定し、下記の基準に基づき、比較トラッキング指数をランク付けした。結果を表1~2に示す。
500V以上:◎(優)
400V以上500V未満:○(良)
300V以上400V未満:△(可)
300V未満:×(不可)
【0074】
(耐ブリード性)
樹脂組成物のペレットを用いて、上記の耐アルカリ溶液性試験で使用した成形品と同様の成形条件にて、評価用試験片(8cm×8cm×厚み3mmの平板)を作製し、東洋精機製作所社製ギアオーブンにて、110℃で20時間放置した後、目視にて成形品表面の染み出しの状態を観察した。以下の評価基準で評価した。結果を表1~2に示す。
◎(優):染み出しなし
〇(良):ごく僅かな浸み出しあり
△(可):若干の染み出しあり
×(不可):顕著な染み出しあり
【0075】
【表1】


【表2】