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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057469
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】生コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20220404BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20220404BHJP
   C04B 103/14 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B22/08 A
C04B103:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165747
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】新見 龍男
(72)【発明者】
【氏名】茶林 敬司
(72)【発明者】
【氏名】安野 淳晶
(72)【発明者】
【氏名】古城 誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB06
(57)【要約】
【課題】生コンクリートの適切な施工性を確保しつつ、凝結時間の促進および初期強度の増加が得られる生コンクリートの製造方法を提供する。
【解決手段】ポルトランドセメント、粗骨材、細骨材、結晶性層状ケイ酸ナトリウムおよび水を主成分として混錬させる生コンクリートの製造方法において、結晶性層状ケイ酸ナトリウムの添加量が、ポルトランドセメント100質量部当たり2.5~7質量部であり、水セメント比が、25%以上70%以下であることを特徴とする前記生コンクリートの製造方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、粗骨材、細骨材、結晶性層状ケイ酸ナトリウムおよび水を主成分として混練する生コンクリートの製造方法において、
結晶性層状ケイ酸ナトリウムの添加量が、ポルトランドセメント100質量部当たり2.5~7質量部であり、
水セメント比が、25%以上70%以下である
ことを特徴とする前記生コンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記結晶性層状ケイ酸ナトリウムが、下記式
Na(2-x)ySi・zH
(式中、xは0~2、yは1±0.1、zは0~5の数)
で示される化学組成を有することを特徴とする請求項1に記載の生コンクリートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で得られた生コンクリートを、硬化させることを特徴とするコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生コンクリートの製造方法に関する。詳しくは、流動性の低下を抑制しつつ硬化の促進並びに初期強度の増加を実現した生コンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生コンクリートに用いられるセメントは、石灰を主成分とするクリンカー鉱物および石こうからなる無機の粉末であり、水と反応して硬化する性質を有する。セメントに、水、細骨材および粗骨材を混練したコンクリートは、社会資本の形成に欠かせない材料であり、適切に製造・管理することで耐荷性能や耐久性能に優れた構造材料となる。
生コンクリートを使用した建設工事においては、施工性の確保、工期の短縮、養生設備の簡素化等の観点から、凝結硬化時間の制御が求められている。中でも、寒冷地における施工性の確保、工期短縮、養生設備の簡素化等を目的とした生コンクリートの凝結促進に対する要求が高まっており、優れた凝結促進効果を有する硬化促進剤の開発が期待されている。
【0003】
従来から提案されている代表的な硬化促進剤の一つとして、水ガラスに代表されるケイ酸ナトリウムが挙げられる。
水ガラスは水あめ状の無色ないしわずかに着色した液体であり、セメント系水和物と反応してゲル化することによって急結作用を示すと考えられている。しかしながら、水に対する溶解性が高いために生コンクリート中のアルカリ分量が増加し、また、セメントとの反応が急激に起こるために、流動性や粘性等の観点から施工性が著しく悪化するといった問題があった。
ケイ酸ナトリウムの一種として結晶性層状ケイ酸ナトリウムがあり、特許文献1に、結晶性層状ケイ酸ナトリウムを含有させた自己修復性モルタルの開示がある。しかしながら、当該発明はモルタルに係る技術であるため、生コンクリートの流動性に左右される施工性、更には生コンクリートに必要な凝結時間や初期強度に関する問題意識が存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-203582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、流動性を確保し且つ凝結時間の促進および初期強度の増加について検討した結果、生コンクリートの流動性がその中に含まれるアルカリ分の量に左右されること、即ちアルカリ分が増加することにより流動性が低下することに気付き、アルカリ分の制御方法について検討した。
その結果、結晶性層状ケイ酸ナトリウムが、結晶性層状構造の層間にアルカリ分を取り込むこと並びに結晶性であるため溶解性が低いことにより、それを添加した生コンクリート中においてアルカリ分の増加を抑制する一方、ケイ酸ナトリウム自体が持つ硬化促進性を発現することによって、流動性等の施工性を確保しつつ、凝結時間の促進および初期強度の増加が可能となることを見出し、本発明を完成するに到った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明によって、ポルトランドセメント、粗骨材、細骨材、結晶性層状ケイ酸ナトリウムおよび水を主成分として混練する生コンクリートの製造方法において、結晶性層状ケイ酸ナトリウムの添加量が、ポルトランドセメント100質量部当たり2.5~7質量部であり、水セメント比が、25%以上70%以下であることを特徴とする前記生コンクリートの製造方法が提供される。
【0007】
上記生コンクリートの製造方法において、前記結晶性層状ケイ酸ナトリウムが、下記式
Na(2-x)ySi・zH
(式中、xは0~2、yは1±0.1、zは0~5の数)
で示される化学組成を有することが好適である。
また、本発明により、前記生コンクリートの製造方法によって得られた生コンクリートを硬化させるコンクリートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生コンクリート中に結晶性層状ケイ酸ナトリウムを添加することにより、流動性の低下並びに急結を抑制して施工性を有しつつ、要求される凝結の促進および初期強度の増加が発現する。
この結果、流動性およびポンプ圧送性が確保されるので、十分な施工性が確保され充填不良等の問題が生じなくなる。また、凝結時間の促進および初期強度が確保されるので、寒冷地や冬季における工期短縮が可能となることに加えて硬化促進のための加熱養生も不要となり効率的な施工が実現する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用するセメントとしては、JIS規格で規定されている公知のポルトランドセメントが採用される。具体的には、JIS R 5210「ポルトランドセメント」が該当する。
本発明における結晶性層状ケイ酸ナトリウムとの後述する諸作用、更にはセメント構成成分とのゲル化反応による硬化促進作用は、その反応メカニズムから、ポルトランドセメントが最も効果的に発現する。
【0010】
本発明の最大の特徴は、生コンクリート中に結晶性かつ層状の性質を有している結晶性層状ケイ酸ナトリウムを用いることにある。
当該結晶性層状ケイ酸ナトリウムとは、斜方晶または単斜晶を呈し、層状の構造を有するケイ酸ナトリウムである。このような結晶性層状ケイ酸ナトリウムは、具体的にはNaSi・xHOで示されるケニヤイト、NaSi1429・xHOで示されるマガディアイト、NaSi17で示されるアイラアイト、NaSi等の組成式を持つものが挙げられる。
これらの中でも水との反応によって層間距離の拡大効果が高く、アルカリ捕捉能が高いという点で、
Na(2-x)ySi・zH
(ここでxは0~2、yは1±0.1、zは0~5の数)
の組成式で示される結晶性層状ケイ酸ナトリウムが好適に用いられる。
生コンクリート中のアルカリ分量が高いと流動性が低下するので、アルカリ捕捉能を有する層状構造であることが流動性を低下させることなく施工性を確保するために重要となる。
なお、上記組成式の結晶性層状ケイ酸ナトリウムは、本発明の効果に影響しない範囲で、Na、K、Mg、Ca、Al等の金属元素が含まれていても良い。これら元素の混入量は、Na1モルに対し、0.005モル以下が好ましい。
【0011】
結晶性層状ケイ酸ナトリウムは結晶性であることから溶解度が低いため、生コンクリート中のアルカリ分量(アルカリ濃度)が比較的小さくなる。
また、一部溶解した結晶性層状ケイ酸ナトリウムは、水と反応してカネマイト(NaHSi・3HO)に変化するが、このカネマイト自体も結晶性であるため溶解性が低く、生コンクリート中のアルカリ濃度が上昇しにくいと推測される。
さらに、カネマイトは結晶水を有し、この結晶水は層間に捕捉されているため結晶の層間距離が大きくなる。カネマイトへの変化に伴ってアルカリ分であるNaOHが放出されるが、このNaOHが結晶水に捕捉されることにより、生コンクリート中のアルカリ濃度の上昇を抑制しているものと推察される。
【0012】
このような結晶性層状ケイ酸ナトリウムは工業的に入手可能であり、具体的には、株式会社トクヤマ製「プリフィード」(NaSi)などが挙げられる。
結晶性層状ケイ酸ナトリウムは、粉末状や顆粒状で存在し、その平均粒子径は10~100μm、好ましくは30~80μmである。
【0013】
ところで、水ガラスに代表される一般的なケイ酸ナトリウムは、非結晶性であり水に対する溶解度が比較的高く、生コンクリート中のアルカリ濃度を著しく上昇させ流動性が低下する。加えて、セメントと急激に反応してゲル化するため、同じく流動性が大きく低下し施工性に大きく影響する。
【0014】
本発明において、上記結晶性層状ケイ酸ナトリウムの添加量は、ポルトランドセメント100質量部当たり2.5質量部以上7質量部以下とする必要がある。
2.5質量部に満たないと、凝結促進および初期強度増加の効果が十分に得られない。7質量部を超えて多い場合、凝結促進および初期強度増加の効果が得られるものの、生コンクリート中のアルカリ量が増加するために所定の流動性が得られず施工性が悪化する。
【0015】
本発明の生コンクリートはコンクリートの製造に使用されるため、粗骨材および細骨材が必須成分として配合される。これら骨材としては、生コンクリートの製造に際して使用される、下記公知の粗骨材および細骨材が使用できる。
粗骨材としては、川などで採取される砂利,岩石を破砕して製造される砕石などが使用され、平均粒子径は通常5mm以上に調製される。
細骨材としては、通常使用される、珪砂などの硅石、灰長石、曹長石、正長石などの長石、陶石、または高炉水砕スラグや高炉徐冷スラグなどの高炉スラグ等が何ら制限なく使用可能であり、平均粒子径は通常5mm以下に調製される。
上記粗骨材および細骨材は、各々、単体で或いは二種以上の混合物で使用できる。
【0016】
本発明において、骨材全量の使用量は特に限定されるものではないが、生コンクリート全質量の60~90質量%とするのが一般的である。
細骨材と粗骨材とは、通常35~70質量%:30~65質量%の範囲で配合される。当該配合比は、最終製品のコンクリートに対して要求される、材料分離抵抗性、ポンプ圧送性、圧縮強度等の物性によって適宜選択され決定される。
【0017】
本発明の生コンクリートの製造方法において使用する水は、生コンクリートの調製用として公知の水が特に制限なく使用できる。具体的には、工水、水道水等である。
水セメント比(水とセメントとの重量比率)は一般的なコンクリートで使用される範囲であれば特に制限されず、通常25%以上70%以下である。
【0018】
本発明において、上記したポルトランドセメント、粗骨材、細骨材、および水のほかに、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的にコンクリートの調製に際して使用される公知の混和剤である、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、空気量調整剤、凝結促進剤等を添加配合してもよい。
【0019】
本発明において、ポルトランドセメント、骨材、水、結晶性層状ケイ酸ナトリウム及び必要に応じて配合するその他材料を混練して生コンクリートを製造する方法としては、生コンクリート工場やコンクリート二次製品工場において行われている通常の方法が特に限定なく採用できる。
具体的には、生コンクリートの混練物を得る際に、結晶性層状ケイ酸ナトリウムは他の成分とは独立して(単独)で混練系に添加してもよいし、ポルトランドセメントと予め混合した混合物としておいて混練に供してもよい。或いは、結晶性層状ケイ酸ナトリウムは他の成分と同時に一括で混練しても良いし、他の成分を混練して得た混練物に対して、後から加えてさらに混練しても構わない。
【0020】
本発明において、生コンクリートを混錬する際に使用するミキサーは一般的にモルタルやコンクリートを混錬するミキサーが制限なく使用できる。具体的には、パン型ミキサー、強制二軸ミキサー、傾動ミキサー、モルタルミキサー、ハンドミキサー等が挙げられる。
【0021】
本発明において得られた生コンクリートの硬化方法並びに硬化体の養生方法は、生コンクリート工場やコンクリート二次製品工場における従来の硬化、養生方法が特に制限なく使用できる。具体的には、湿潤養生、水中養生、蒸気養生、オートクレープ養生、気中養生等が挙げられる。
【実施例0022】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
以下の実施例及び比較例で用いた試験方法は、次の通りである。
[凝結時間]
JIS A 1147:2019「コンクリートの凝結時間試験方法」に準拠して、凝結時間(始発、終結)を測定した。なお、凝結時間(始発)とは生コンクリートの流動性が失われる時間であり、凝結時間(終結)とはコンクリートの硬化が始まる時間である。
[1日強度]
コンクリートをΦ100×200mmの円柱型枠に打込み、1日(24時間)後に脱型した後、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して、圧縮強度を測定した。
[スランプ測定]
JIS A 1101:2014「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して、練上がり直後のスランプを測定した。硬化促進剤を含有しない生コンクリートを基準(18.0±1.5cm)にして、スランプが大きい場合は流動性が大きいことを意味し、小さい場合は流動性が小さいことを意味する。施工性の目安となる物性値である。
【0023】
実施例1、2
普通ポルトランドセメント(トクヤマ社製)、粗骨材、細骨材、水、AE減水剤(BASF社製:マスターポリヒード15S)および結晶性層状ケイ酸ナトリウム(トクヤマ社「プリフィード」;NaSi)を表1に示す添加割合で、20℃環境においてパン型コンクリートミキサーによって混練した。なお、AE減水剤の使用量は取扱説明書に従いセメント量×0.6~1.5%の範囲とした。練上がり時の目標スランプは18.0±1.5cmとした。
混錬して製造した生コンクリートを用い、前記試験方法に従い、スランプ、凝結時間並びに圧縮強度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0024】
参考例1
結晶性層状ケイ酸ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして生コンクリートを製造し各種特性の測定を行った。結果を表2に示す。
比較例1,2
セメント100質量部に対して結晶性層状ケイ酸ナトリウムをそれぞれ1、10質量部添加した以外は、実施例1と同様にして生コンクリートを製造し各種物性の測定を行った。結果を表2に示す。
比較例3,4
セメント100質量部に対して、1号ケイ酸ナトリウム(水ガラス;東曹産業社、1号珪酸ナトリウム製品X2)をそれぞれ1、3質量部添加した以外は、実施例1と同様にして生コンクリートを製造し各種物性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
参考例1はケイ酸ナトリウムを添加しなかった場合、比較例1、実施例1、実施例2、比較例2は、セメント100質量部に対して結晶性層状ケイ酸カルシウムをそれぞれ1、3、5および10質量部添加した場合の結果である。比較例3および4は、セメント100質量部に対して1号ケイ酸ナトリウム(水ガラス)をそれぞれ1および3質量部添加した場合の結果である。
比較例1では、スランプは所定の範囲となったが、参考例と比較して凝結時間が遅く、特に初期強度の増加が認められなかった。結晶性層状ケイ酸ナトリウムの添加量が少ない場合は凝結促進および初期強度増加の効果が得られないことがわかる。
実施例1および2では、スランプは所定の範囲となり、参考例と比較して凝結時間が早く、初期強度が著しく大きくなった。結晶性層状ケイ酸ナトリウムを適正量添加することにより、流動性を低下させることなく凝結促進および初期強度増加の効果が得られたことがわかる。
比較例2では、凝結促進および初期強度の増加が最も高かったものの、スランプは所定の値が得られず、結晶性層状ケイ酸ナトリウムの添加量が多いと流動性が低下して施工性が悪化することがわかる。
比較例3および4では、参考例と比較して凝結時間の促進および初期強度の増加が著しかったものの、所定のスランプが得られず、一般的なケイ酸ナトリウム(水ガラス)を使用した場合は施工性が大きく悪化することがわかる。