(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057565
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】偏心弁装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20220404BHJP
【FI】
F16K31/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165887
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩史
(72)【発明者】
【氏名】毛利 昌宏
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA03
3H062AA14
3H062BB33
3H062CC01
3H062DD05
3H062EE07
3H062FF11
3H062HH10
(57)【要約】
【課題】二重偏心弁を含む偏心弁において、短い開閉時間でも確実にシート漏れを検出または予測することができる偏心弁装置、およびその制御方法を提供する。
【解決手段】偏心弁装置1は、弁箱21と、シート部材23と、弁箱21内に回動可能に設けられ、かつ、シート部材23に押し当てられることで流路を遮断する弁体22と、弁体22を回動する弁駆動部3と、弁駆動部3の駆動を制御する制御部4とを備え、弁体22は、全開状態ではシート部材23と接触せず、全閉状態ではシート部材23と接触する構造であり、制御部4は、弁体22が全開状態から全閉状態に回動する過程において、弁体22の回動速度を変化させる速度制御部と、弁駆動部3の駆動パラメータに基づいて、シート部材23と弁体22間の漏れの有無を判定する漏れ判定部を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内の流路の遮断または開放を制御する偏心弁装置であって、
前記偏心弁装置は、前記流路に連通する開口部を有する略円筒状の弁箱と、前記弁箱内において前記開口部の周囲に装着されるリング状のシート部材と、前記弁箱内に回動可能に設けられ、かつ、前記シート部材に押し当てられることで前記流路を遮断する弁体と、前記弁体を回動する弁駆動部と、前記弁駆動部の駆動を制御する制御部とを備え、
前記弁体は、全開状態では前記シート部材と接触せず、全閉状態では前記シート部材と接触する構造であり、
前記制御部は、前記弁体が前記全開状態から前記全閉状態に回動する過程において、前記弁体の回動速度を変化させる速度制御部と、前記弁駆動部の駆動パラメータに基づいて、前記シート部材と前記弁体間の漏れの有無を判定する漏れ判定部とを有することを特徴とする偏心弁装置。
【請求項2】
前記速度制御部は、前記弁体を前記全開状態から第1速度で回動させた後、回動速度を前記第1速度よりも遅い第2速度に変化させて前記全閉状態まで回動させることを特徴とする請求項1に記載の偏心弁装置。
【請求項3】
前記速度制御部は、前記弁体を、該弁体が前記シート部材に近接した所定位置から前記全閉状態まで前記第2速度で回動させることを特徴とする請求項2に記載の偏心弁装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記駆動パラメータに基づいて前記弁駆動部の駆動トルクを算出するトルク算出部を有し、
前記漏れ判定部は、前記弁体が前記第2速度で回動する間において、前記駆動トルクが所定の閾値よりも小さい場合に前記シート部材と前記弁体間に漏れが生じたと判定することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の偏心弁装置。
【請求項5】
前記弁体が前記全開状態から前記全閉状態になるまでの所要時間が3.0秒以内であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の偏心弁装置。
【請求項6】
前記弁駆動部は通電を停止した後も慣性により前記弁体を回動可能な電動モータであることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の偏心弁装置。
【請求項7】
配管内の流路の遮断または開放を制御する偏心弁装置の制御方法であって、
前記偏心弁装置は、前記流路に連通する開口部を有する略円筒状の弁箱と、前記弁箱内において前記開口部の周囲に装着されるリング状のシート部材と、前記弁箱内に回動可能に設けられ、かつ、前記シート部材に押し当てられることで前記流路を遮断する弁体と、前記弁体を回動する弁駆動部とを備え、
前記弁体は、全開状態では前記シート部材と接触せず、全閉状態では前記シート部材と接触する構造であり、
前記制御方法は、前記弁体が前記全開状態から前記全閉状態に回動する過程において、前記弁体を第1速度で回動させるステップと、前記弁体を前記第1速度よりも遅い第2速度で回動させる間において、前記弁駆動部の駆動パラメータに基づいて、前記シート部材と前記弁体間の漏れの有無を判定するステップとを有することを特徴とする偏心弁装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心弁装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場などの生産プロセスを構成する配管システムには、各種ガス、液体、粉体、およびそれらの混合物(以下、それらを総称して流体という)の流れを制御するために、弁装置が組み込まれている。弁装置の弁体の開閉によって、配管内の流路が遮断または開放される。例えば、自動操作機能を備えた弁装置は、手動操作によらずに弁体の開閉を行うことができる。
【0003】
一般に、自動操作機能を備えた弁装置は、流路に連通する開口部を有する略円筒状の弁箱と、弁箱内において開口部の周囲に装着されるリング状のシート部材と、弁箱内に回動可能に設けられ、かつ、シート部材に押し当てられることで流路を遮断する弁体と、弁体を回動する弁駆動部と、弁駆動部の駆動を制御する制御部とを備えている。
【0004】
弁装置において、具体的な弁の種類としては種々のものが知られており、例えば、二重偏心弁や、ボールバルブなどの一重偏心弁がある。二重偏心弁は、弁体の回転軸がシート部材の軸線などに対して偏心した偏心構造を有しており、弁体とシート部材は、流路が開放された状態では接触しておらず、弁体が流路を閉じる位置付近でのみ接触する(特許文献1参照)。一方、ボールバルブでは、弁体とシート部材は常に接触しており、シート部材に押し当てられた状態で弁体の開閉が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、偏心弁において、全閉状態では、弁体がシート部材を潰すことで弁体におけるシート部材との接触面は反発力を受ける。その結果、両者が密着して流体の流れが遮断される。しかし、全閉状態であるにもかかわらず、上流から下流に向かって弁体とシート部材の間を流体が流れる、所謂シート漏れが生じる場合がある。シート漏れは、材料として流れる流体の量が変わり、製品の品質に悪影響を及ぼすおそれがあるため望ましくない。そこで、弁体の全閉時には流体の漏れ量を許容範囲内に収めることが求められている。
【0007】
一般に、シート漏れには、シート部材と弁体との間に異物が噛み込まれることで生じるシート漏れと、シート部材のへたりや摩耗によって生じるシート漏れがある。前者のシート漏れは、弁体とシート部材の接触面に固形物の異物が付着することで発生するものであり、シート部材に恒久的な傷がつかなければ一時的な漏れである場合が多い。一方、後者のシート漏れは、シート部材の経時的な劣化によって発生するものであり、一度漏れが生じると継続的に漏れが生じるため、例えば、製品の品質などに対して悪影響を及ぼすおそれがある。
【0008】
また、へたりや摩耗によるシート漏れは、弁装置の内部で生じる事象であるので、外部から発生を直ちに察知することは困難である。特に、自動操作機能を備えた弁装置は、通常、手動点検できない狭い場所や、遠隔地、特殊な雰囲気環境に取り付けられる場合も多く見受けられる。そのため、発生から暫く時間が経過してからシート漏れが発見される場合が多く、エネルギーロスや資源ロス、歩留まりの低下などが生じるおそれがある。例えば、シート漏れを察知するための方法として、流量センサや振動センサなどの各種センサを設置し、そのセンサからの出力によって察知する方法が考えられる。しかし、この方法は、センサを設置するための費用が必要であることや、シート漏れの発生を判断するための閾値を設定することが容易でないなどの問題がある。そのため、へたりや摩耗によるシート漏れを、容易な手段で発生後直ちに検出できることや事前に予測できることが望まれている。
【0009】
また、弁装置では、流路の遮断要求が生じた場合に直ちに流路を遮断できることが望ましい。しかし、弁体が全開状態から全閉状態になるまでには、ある程度時間を要し、遮断要求後の流体の流れは生産プロセスにとって無駄になってしまう。そのため、弁体の開閉時間は短いことが望ましい。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、二重偏心弁を含む偏心弁において、短い開閉時間でも確実にシート漏れを検出または予測することができる偏心弁装置、およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の偏心弁装置は、配管内の流路の遮断または開放を制御する偏心弁装置であって、偏心弁装置は、流路に連通する開口部を有する略円筒状の弁箱と、弁箱内において開口部の周囲に装着されるリング状のシート部材と、弁箱内に回動可能に設けられ、かつ、シート部材に押し当てられることで流路を遮断する弁体と、弁体を回動する弁駆動部と、弁駆動部の駆動を制御する制御部とを備え、弁体は、全開状態ではシート部材と接触せず、全閉状態ではシート部材と接触する構造であり、制御部は、弁体が全開状態から全閉状態に回動する過程において、弁体の回動速度を変化させる速度制御部と、弁駆動部の駆動パラメータに基づいて、シート部材と弁体間の漏れの有無を判定する漏れ判定部とを有することを特徴とする。ここで、「漏れの有無を判定する」とは、漏れが実際に発生したことの判定に加えて、漏れの兆候の判定も含む。
【0012】
本発明において、速度制御部は、弁体を全開状態から第1速度で回動させた後、回動速度を第1速度よりも遅い第2速度に変化させて全閉状態まで回動させることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、速度制御部は、弁体を、該弁体がシート部材に近接した所定位置から全閉状態まで第2速度で回動させることが好ましい。ここで、「近接した所定位置」とは、弁体がシート部材に接触しない位置であって、弁体とシート部材間の隙間を狭めて、弁体とシート部材に付着した異物を吹き飛ばす程度に流体の流速を速めることができる位置である。
【0014】
また、本発明において、制御部は、駆動パラメータに基づいて弁駆動部の駆動トルクを算出するトルク算出部を有し、漏れ判定部は、弁体が第2速度で回動する間において、駆動トルクが所定の閾値よりも小さい場合にシート部材と弁体間に漏れが生じたと判定することがより好ましい。
【0015】
さらに、本発明において、弁体が全開状態から全閉状態になるまでの所要時間が3.0秒以内であることがより好ましい。
【0016】
また、発明において、弁駆動部は通電を停止した後も慣性により弁体を回動可能な電動モータであってもよい。
【0017】
本発明の偏心弁装置の制御方法は、配管内の流路の遮断または開放を制御する偏心弁装置の制御方法であって、偏心弁装置は、流路に連通する開口部を有する略円筒状の弁箱と、弁箱内において開口部の周囲に装着されるリング状のシート部材と、弁箱内に回動可能に設けられ、かつ、シート部材に押し当てられることで流路を遮断する弁体と、弁体を回動する弁駆動部とを備え、弁体は、全開状態ではシート部材と接触せず、全閉状態ではシート部材と接触する構造であり、制御方法は、弁体が全開状態から全閉状態に回動する過程において、弁体を第1速度で回動させるステップと、弁体を第1速度よりも遅い第2速度で回動させる間において、弁駆動部の駆動パラメータに基づいて、シート部材と弁体間の漏れの有無を判定するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の偏心弁装置およびその制御方法は、このような構成にすることにより、短い開閉時間でも確実にシート漏れを検出または予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る偏心弁装置の全体の概略構成を示す説明図である。
【
図5】弁体が全閉状態から全閉状態へ移行する際の軸トルク推移を示す図である。
【
図6】弁体が全閉状態から全閉状態へ移行する際の軸トルク推移を示す図である。
【
図7】弁体が全閉状態から全閉状態へ移行する際の軸トルク推移を示す図である。
【
図8】軸トルクのピーク値に対する、モータの通電を停止したタイミングにおける軸トルクの割合を示すグラフである。
【
図9】本発明に係る偏心弁装置のブロック図である。
【
図10】弁体の回動速度が切り替わる位置の一例を示す図である。
【
図11】シート部材の新品と摩耗品の駆動トルク推移を示す図である。
【
図12】シート部材の新品と摩耗品の駆動トルク推移を示す図である。
【
図13】シート漏れ検出の処理手順を示すフローチャートである。
【
図14】算出された駆動トルクと閾値との関係を示す図である。
【
図15】弁体が全開状態から全閉状態へ移行する際のタイミングチャートの一例である。
【
図16】弁体が全開状態から全閉状態へ移行する際のタイミングチャートの他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明に係る偏心弁装置の全体の概略構成を示す説明図であり、
図2は、
図1の弁機構部の拡大断面図である。なお、
図1では、偏心弁装置の一部を断面図として示している。
図1に示す偏心弁装置1は、流体が流れる配管内の流路の途中に配置され、流路の遮断および/または開放を制御する装置である。
【0021】
図1に示すように、偏心弁装置1は、弁体22を有する弁機構部2と、弁機構部2を駆動する弁駆動部3と、弁駆動部3の駆動を制御する制御部4とを備える。弁機構部2および弁駆動部3は、弁棒35によって連結されており、弁駆動部3の駆動を弁機構部2に伝達可能になっている。偏心弁装置1は、弁体22の姿勢を、全開位置や、全閉位置、任意の位置(例えば全閉直前の位置など)に保持できる機能を有している。
【0022】
制御部4は、周知のCPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。なお、
図1や
図9では、便宜上、制御部4を弁駆動部3と区別して記載しているが、弁駆動部3内部にもマイコンが内蔵されており、後述する制御部4の機能の全部または一部を、弁駆動部3のマイコンに持たせてもよい。
【0023】
弁機構部2は、略円筒状の弁箱21と、弁箱21内に回動可能に設けられる弁体22と、弁箱21内に装着されるリング状のシート部材23と、シート部材23を支持する支持部材24とを備える。弁機構部2は、流体の配管の途中に設置され、弁箱21の上流側と下流側にはそれぞれ配管(図示省略)が接続される。流体は、
図1の矢印方向に流れる。弁機構部2において弁体22が回動することで、弁箱21内の流路が遮断または開放されて、上流側から下流側への流体の流れを遮断または開放することができる。
【0024】
図2に示すように、弁箱21は、上流側の流路と下流側の流路を連通する開口部211を有する。開口部211の周囲には、弁箱21の内周面が縮径するように径方向内側に張り出した段部214が形成されており、その段部214にシート部材23が装着されている。シート部材23は、弁箱21の上流側端部から挿入された支持部材24によって支持されている。弁箱21の上部には、内周面と外周面とが貫通し、弁棒35が挿入される装着孔212が形成されている。装着孔212は、弁箱21の軸方向と直交する向きで形成され、弁棒35が回転可能に挿入されている。また、弁箱21の下部には、ピン25が嵌り込むピン溝213が形成されている。
【0025】
弁箱21内において、弁棒35の端部には弁体22が連結されており、弁棒35の回転に伴って弁体22が回動する。弁棒35の回転軸と弁体22の回転軸は一致している。なお、
図2では、弁体22が開口部211を塞いでいる全閉状態を示している。
【0026】
弁体22は、略円盤状の弁部221と、支持部222、223を有している。弁部221の上流側端面は、シール面を構成しており、円盤中央部の平面と円盤周縁部の曲面で形成されている。該曲面は、上流側に向かって凸状に形成されている。支持部222は弁棒35に接続されており、支持部223はピン25に接続されている。弁体22は、ステンレス鋼などの金属材料や樹脂材料などにより形成される。
【0027】
シート部材23は、中空円形のシートリング231とゴムリング232を有している。シートリング231の弁体22との対向面は、シール面を構成している。シートリング231のシール面の背面側には、凹溝が形成され、その凹溝にゴムリング232が嵌め込まれている。シートリング231は、例えばポリテトラフルオロエチレン樹脂などの樹脂で形成される。この樹脂には、炭素繊維やガラス繊維などの繊維状補強材が配合されていてもよい。また、ゴムリング232には、例えば、四フッ化エチレン-パーフルオロメチルビニルエーテルゴム(FFKM)などのフッ素ゴムや、ニトリルブタジエンゴム(NBR)などを使用できる。
図2に示すような全閉状態では、弁体22の弁部221が押し当てられることで、シート部材23のシール面と弁体22のシール面とが密着する。
【0028】
続いて、弁機構部2の動作について、
図3および
図4を用いて説明する。
図3および
図4は、
図2の弁機構部を弁棒側から見た一部断面図である。各図に示すように、弁体22は二重偏心構造を有している。具体的には、シートリング231の軸線に対して、弁体22の回転軸Oが距離Yだけ偏心するとともに、シートリング231のシール面に対して、弁体22の回転軸Oが距離Xだけ偏心している。
【0029】
図3は、弁体22の全開状態を示しており、弁体22の弁部221は、流路に対して直交する方向を向いている。このとき、弁体22は、シート部材23とは接触していない。この全開状態から、弁体22は、弁部221が流路の上流側を向くように回動する。弁体22は、全開状態を0度、全閉状態を90度として、0度から90度の回転角度θで回動する。
図4は、弁体22の全閉状態を示しており、弁体22の弁部221は、流路の上流方向を向いている。弁体22がシート部材23と密着することで流路が遮断される。弁体22の開閉速度は適宜設定でき、一般に、全開状態から全閉状態までの所要時間は1秒以上である。
【0030】
図4の全閉状態ではシート部材23は、弁体22に押し付けられることで弾性変形する。シート部材23が変形する量(変形代)は、一般にシート部材23の断面幅の1/500~1/1000程度である。偏心弁の場合、シート部材は、弁体が開閉するたびに繰り返し変形する。この弁体の開閉回数に略比例して、シート部材の削れやへたり(永久歪)が起こり、シート部材の変形する量(反発力)が小さくなっていき、最終的にシート漏れが生じるおそれがある。本発明は、弁駆動部の駆動パラメータを用いて、シート部材の経時的な反発力の低下を、シート漏れとして検出または予測するものである。
【0031】
ここでまず、弁体を閉弁する際の軸トルク推移について説明する。
図5には、弁体が全開状態(0秒時点)から全閉状態(8秒時点)へ回動する過程における軸トルク推移、モータ電流の推移、およびブレーキ状態を示す。閉弁動作中、弁駆動部はモータ部に通電することで出力軸を回転させ弁体を回動させる。そして、所定のタイミングでモータ部の通電を停止すると同時にブレーキを作動させて、弁体を全閉状態にする。弁駆動部は、例えば、通電停止後も慣性力によって弁体が回動する電動モータ(ブラシレスモータなど)である。この場合、慣性力による負荷がシート部材に過剰に掛からないように、弁体の回動速度に応じて通電停止およびブレーキの作動タイミングが設定される。
【0032】
図5において、軸トルク(破線)は、モータの出力軸に装着されたトルクセンサによって検出された値である。トルクセンサは、ひずみゲージを有し、モータの出力軸に発生する軸トルクに応じた検出信号を発生する。また、モータ電流(点線)は、例えばモータ回路中のシャント抵抗間の電圧値から算出されるモータ電流である。なお、
図5では、ブレーキ作動後、つまりモータ部の通電停止後、モータ電流はなだらかに低下しているが、これは測定方法の影響によるもので、実際には通電停止後、直ちにゼロになる。なお、ブレーキ状態(実線)は、ブレーキの作動がオフとオンの状態を示している。
【0033】
図5は、弁体が全開状態から全閉状態になるまでの所要時間(開閉時間)が8.0秒の場合を示す。この試験では、モータ部への通電によって弁体の回動速度が一定に維持されている。
図5に示すように、軸トルクは、弁体の閉弁動作開始から7秒手前まではほぼ一定であり、その後7秒付近から上昇し始め、全閉状態になる8秒に到達するまで上昇するという推移を示している。この軸トルク推移は、開弁動作の進行に伴って弁体がシート部材に接触し、さらにシート部材を押し込んでいくという動作に基づく。また、
図5において、モータ電流は、開始直後こそ一時的な上昇が見られるものの、その後は、軸トルク推移と同様に、全閉状態の手前から上昇するという推移を示す。つまり、モータ電流は、閉弁動作時の弁体の駆動トルクを反映しているといえ、これをシート漏れの検出や予測に用いることができると考えられる。
【0034】
また、
図5の例では、ピーク時(8.0秒時)の軸トルクを100%とした場合の、ブレーキをかけた時点における軸トルクの割合は約100%であった。つまりこの場合、モータ部の通電は、弁体がほぼ全閉状態になるまで行われる。そのため、弁体がシート部材を押し込んでいる全区間のモータ電流を用いて、シート漏れの検出などを行うことができる。
【0035】
次に、
図6および
図7には、弁体の開閉時間を8.0秒よりも短くした場合の軸トルク推移などの例を示す。開閉時間について、
図6(a)は4.0秒、
図6(b)は3.0秒、
図7(a)は2.0秒、
図7(b)は1.0秒の場合を示している。
【0036】
図6および
図7に示すように、開閉時間が短くなるほど、目標時間(例えば、開閉時間4.0秒の場合は、閉弁動作開始4.0秒後の時点)に対してブレーキをかけるタイミングが早くなる。言い換えると、開閉時間が短くなるほど、モータの通電を停止するタイミングが早くなる。これは弁体の開閉時間が短くなるほど弁体の回動速度が速くなり、通電停止後も弁体が惰性で動く時間が長くなるためである。例えば、開閉時間8.0秒の場合は、通電時間が100%であったのに対して、開閉時間4.0秒の場合は通電時間が99.4%、開閉時間3.0秒の場合は通電時間が99.3%、開閉時間2.0秒の場合は通電時間が97.8%、開閉時間1.0秒の場合は通電時間が91.8%である。
図6および
図7に示すように、モータの通電を停止するタイミングが前倒しされるほど、駆動パラメータを測定できる区間が全区間(100%)に対して短くなる。
【0037】
図8は、軸トルクのピーク値に対する、モータの通電を停止したタイミングにおける軸トルクの割合を示したグラフである。モータの通電中、軸トルクの推移は駆動トルクの推移を反映していることから、
図8のグラフは、ピーク値に対してどの程度の割合の駆動パラメータが測定できるかを示しているといえる。
図8に示すように、開閉時間が8.0秒の場合は、測定可能な駆動パラメータが約100%であるのに対して、開閉時間が4.0秒の場合は約94%、開閉時間が3.0秒の場合は約92%、開閉時間が2.0秒の場合は約81%、開閉時間が1.0秒の場合は約35%になる。つまり、開閉時間が4.0秒以内の場合には、軸トルクがピーク値に到達する前にモータへの電力の供給が停止されるため、軸トルクがピーク値に到達するまでの全区間における駆動パラメータの測定ができない。
【0038】
これに対して、本発明の偏心弁装置は、弁体が全開状態から全閉状態へ回動する過程において、弁体の回動速度を変化させる速度制御部と、弁駆動部の駆動パラメータに基づいて、シート部材と弁体間の漏れの有無を判定する漏れ判定部とを有することを特徴とする。具体的には、速度制御部によって弁体を速く回動させる期間と、その後において弁体を遅く回動させる期間とを組み合わせている。これにより、全体として開閉時間の短縮を可能としながらも、モータへの通電停止のタイミングを全閉状態にできるだけ近付ける、つまり駆動パラメータの測定可能な区間を全区間にできるだけ近付けることで、駆動パラメータで駆動トルクの上昇を十分に判断できるようにしている。
【0039】
図9は、本発明に係る偏心弁装置の一例を示すブロック図である。偏心弁装置1は、弁機構部2と、弁駆動部3と、制御部4とを備えており、弁機構部2の具体的な構成は上述のとおりである。また、偏心弁装置1は、駆動パラメータを検出する各センサ51、52、53を有しており、各センサは、制御部4に接続されている。各センサの検出結果は随時、制御部4に入力され、開閉動作中に連続で検出、記憶できる構成となっている。また、制御部4は、各種演算機能も有している。なお、本発明において、駆動パラメータは、弁駆動部3の駆動状態を示すパラメータであり、例えば、モータ部33のモータ回転速度や、モータ電流値、モータ電圧値、駆動トルク、回転角度θを含むものである。本発明では、シート漏れの検出に弁駆動部3の駆動パラメータを用いているため、トルクセンサや、流量センサ、振動センサといった別途のセンサが必須とはならず、モータの回転速度と電流値をモニタするという簡単な手段でシート漏れの検出を行うことができる。
【0040】
弁駆動部3は、電源回路部31と、モータ回路部32と、モータ部33と、減速機(ギアボックス)34と、弁棒35と、電流センサ53とを備えている。モータ回路部32は、電源回路部31に接続され、制御部4の制御信号に基づいて、モータ部33に流れる電流を調整する。モータ部33は、ブラシレスモータからなり、モータ回路部32から流れる電流に基づいて出力軸を回転させる。
図1の構成では、出力軸の回転速度を減速機34にて減速して、弁棒35を回転させる。
【0041】
図9において、制御部4は、速度制御部41と、トルク算出部42と、漏れ判定部43とを有する。各部における処理は、主に弁体が全開状態から全閉状態へ移行する際に実行される。
【0042】
速度制御部41は、弁体が全開状態から全閉状態に回動する過程において、所定のタイミングで弁体の回動速度を変化させる。具体的には、弁体を全開状態から第1速度で回動させた後、回動速度を第1速度よりも遅い第2速度に変化させて全閉状態まで回動させる。第2速度は、例えば、第1速度の1/8~1/3に設定される。ここで、第1速度から第2速度に切り替えるタイミングは、弁体が所定位置まで回動したことなどに基づく。所定位置まで回動したことは、エンコーダなどの角度センサ52によって検出された回転角度に基づいて制御部4内の位置判定部によって行われる。
【0043】
上記の所定位置は、シート部材に近接した所定位置であることが好ましい。近接した所定位置は、例えば、
図10に示すように、弁体22がシート部材23に接触しない位置であって、弁体22とシート部材23との間の隙間が狭まり、弁体22とシート部材23に付着した異物を吹き飛ばす程度に流体の流速を速めることができる位置である。この場合、回転角度θが例えば60度や70度になった場合に、第1速度から第2速度に切り替えられる。シート部材に近接した所定位置で切り替えることにより、その後の弁部221とシートリング231の接触で生じる摩擦力は、異物に影響されない純粋な摩擦力となるため、へたりや摩耗に伴うシール性の低下を、異物の噛み込みによるシール性の低下と区別して検出できる。
【0044】
図9において、トルク算出部42は、回転センサ51によって検出されるモータ部33の回転速度や、電流センサ53によって検出されるモータ電流値などの駆動パラメータに基づいて、弁駆動部3の駆動トルクを算出する。駆動トルクの算出は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、下記の式(1)より駆動トルクを算出できる。なお、下記の式(1)中の係数は、実験により取得できる値である。
駆動トルク=係数×モータ電流値/モータ回転速度・・・(1)
【0045】
漏れ判定部43は、弁駆動部3の駆動パラメータに基づいて、シート部材23と弁体22間の漏れの有無を判定する。例えば、
図9の構成では、トルク算出部42で算出された駆動トルクと所定の閾値とに基づいてシート漏れを判定する。
【0046】
ここで、新品のシート部材と摩耗品のシート部材を用いて、駆動パラメータから算出した駆動トルクの推移を
図11に示す。
図11は、開閉時間が8.0秒の場合を示しており、上流側の流路と下流側の流路の圧力差である差圧はゼロの場合を示している。なお、図中の駆動トルクは、トルクセンサを用いずに、上記の式(1)を用いて算出した値である。
【0047】
図11に示すように、新品のシート部材と摩耗品のシート部材は同様の挙動を示すものの、駆動トルクが上昇する期間における駆動トルク値は、摩耗品の方が小さくなっている。シート部材にへたりや摩耗が生じると、閉弁時のシート部材の反発力が減少するため、正常時に比べて駆動トルクが小さくなるためと考えられる。この結果に基づいて、
図9に示す漏れ判定部43は、算出された駆動トルクが所定の閾値よりも小さい場合にシート漏れが生じたと判定する。なお、所定の閾値は、シート漏れ量と駆動トルクとの相関を予め実験によって取得しておき、それに基づいて設定することができる。
【0048】
一方、流体が、粉体、スラリーなどの固形物の異物を含む場合には、異物の噛み込みによるシート漏れが生じるおそれがある。異物の噛み込みの場合は、閉弁動作が過負荷となるため、正常時に比べて駆動トルクが大きくなると考えられる。そのため、算出された駆動トルクが所定の閾値よりも小さい場合にシート漏れが生じたと判定することで、異物の噛み込みによるシート漏れでなく、へたりや摩耗によるシート漏れを区別して検出することができる。
【0049】
続いて、
図12には、駆動トルクと差圧の関係を示す。
図12(a)は新品のシート部材を用いて差圧を検討した結果を示し、
図12(b)は摩耗品のシート部材を用いて差圧を検討した結果を示す。各図に示すように、差圧が大きくなるほど駆動トルクが高値を示す傾向であった。このように、差圧によって閉弁時の駆動トルクが変化するため、閾値を用いてシート漏れを判定する場合には差圧に応じて閾値を設定することが好ましい。なお、差圧が同じ場合を比較すると、摩耗品の方が、新品よりも低い駆動トルクであった。
【0050】
また、漏れ判定部43におけるその他の判定方法として、算出された駆動トルクと過去値(例えば、前回の閉弁時に算出された駆動トルク)との差分が、一定以上になった場合にシート漏れが生じたと判定する方法も採用できる。過去値には、例えば過去100回分の平均値などが用いられる。
【0051】
また、
図9の構成では、トルク算出部42によって算出された駆動トルクに基づいてシート漏れを判定したが、駆動トルク以外の駆動パラメータに基づいて、漏れ判定を行ってもよい。例えば、モータ電流値はモータ部33の駆動トルクとほぼ相関関係にあるため、モータ電流値を直接漏れ判定に用いることができる。
【0052】
続いて、閉弁動作時の制御部4のシート漏れの検出処理について説明する。この検出処理は、所定時間毎に繰り返し実施される。
【0053】
図13は、シート漏れ検出の処理手順を示すフローチャートである。
図13のスタートからエンドに至るまでの処理は、所定時間毎に繰り返し実施される。まず、ステップS11において、上位制御装置などから弁体を閉じる指令(閉指令)が入力されているか否かを判定する。ステップS11がYesの場合、ステップS12へ進み、ステップS11がNoの場合、この処理を一旦終了する。
【0054】
ステップS12では、切り替えフラグがオフであるか否かを判定する。後述するように、切り替えフラグは、第1速度で回動する弁体22が所定位置まで回動した後にオンとなる。ステップS12がYesの場合、ステップS13へ進み、モータ部33を駆動させる。モータ部33の駆動により弁体22が第1速度で全閉状態へ向けて回動する。ステップS14では、モータ部33の駆動に関する駆動パラメータを取得する。具体的には、モータ電流値やモータ回転速度を取得する。続くステップS15では、取得されたモータ電流値およびモータ回転速度に基づいて駆動トルクを算出する。
【0055】
ステップS16では、駆動トルクが正常範囲であるか否かを判定する。具体的には、ステップS15で算出された駆動トルクが所定の上限閾値と下限閾値の間に入っているか否かを判定する。これら閾値は、流路を流れる流体の種類や流速によって適宜設定される。
図11で示したように、一般に、弁体22がシート部材に接触する回転角度(例えば、回転角度θが60度)を超えるまでは駆動トルクは低値で安定している。そのため、駆動トルクが急上昇するなどして所定の上限閾値以上となった場合には、異物の噛み込みなどの異常が発生したと考えられる。駆動トルクが正常範囲でないと判定した場合(ステップS16がNoの場合)、ステップS26に進み、エラー処理を実行する。エラー処理としては、警報アラームの発報や警報ランプの点灯などを行う。なお、エラー処理として、モータ部の駆動を停止して閉弁動作を中断するようにしてもよい。
【0056】
ステップS16がYesの場合、ステップS17に進み、弁体22が所定位置まで回動したか否かを判定する。具体的には、角度センサ52で検出された回転角度θが所定角度になったか否かを判定する。弁体22が所定位置にまで到達していない場合(ステップS17がNoの場合)、この処理を一旦終了する。なお、
図13において、ステップS17がNoの場合に、ステップS13~ステップS17の処理を繰り返し実行するループを設けてもよい。
【0057】
さらに弁体22の閉弁動作が進み、弁体が所定位置まで回動すると(ステップS17:Yes)、切り替えフラグをオンにして(ステップS18)、この処理を一旦終了する。
【0058】
切り替えフラグがオンとなり、ステップS12が否定されると、ステップS19に進み、弁体22を第2速度で回動させる。これにより回動速度が第1速度から第2速度に切り替えられる。続くステップS20では、弁体が全閉位置であるか否かを判定する。具体的には、角度センサ52で検出された回転角度θが90度であるか否かを判定する。ステップS20がNoの場合、駆動パラメータを取得して(ステップS23)、駆動トルクを算出する(ステップS24)。ステップS23およびステップS24の処理は、ステップS14およびステップS15の処理と同様である。
【0059】
ステップS25では、駆動トルクが正常範囲であるか否かを判定する。具体的には、ステップS24で算出された駆動トルクと所定の上限閾値と下限閾値に基づいて判定する。ここで、算出値と各閾値との関係を
図14に示す。
図14に示すように、上限閾値は正常時(例えば出荷時)の駆動トルクよりも高めに設定されており、下限閾値は正常時の駆動トルクよりも低めに設定されている。各閾値の設定は、特に限定されないが、正常時の駆動トルクに対して、上限閾値は例えば10%高く、下限閾値は例えば10%低く設定される。
図13のステップS25では、例えば、各回転角度の時点で算出された駆動トルクが、その回転角度における所定の上限閾値と下限閾値の間に入っているか否かが判定される。駆動トルクが2つの閾値間の範囲外と判定した場合(ステップS25がNoの場合)、ステップS26に進み、エラー処理を実行する。
【0060】
駆動トルクが正常範囲であると判定した場合(ステップS25がYesの場合)、この処理を一旦終了する。そして、駆動トルクが正常範囲のまま閉弁動作が進み、弁体22が全閉位置に到達して、ステップS20が肯定されると、モータ部33の駆動を停止して(ステップS21)、切り替えフラグをオフにして(ステップS22)、一連の処理を終了する。なお、ステップS13およびステップS19の処理を実行する部分が速度制御部に相当し、ステップS17の処理を実行する部分が位置判定部に相当し、ステップS24の処理を実行する部分がトルク算出部に相当し、ステップS25の処理を実行する部分が漏れ判定部に相当する。
【0061】
以上、
図13では、閉弁動作時の制御部4における処理を示したが、本発明の制御方法はこれに限定されるものではない。例えば、ステップS17で判定する所定位置を、流体の流速や粘度、温度などに応じて可変にしてもよい。
【0062】
図13では、ステップS25の漏れ判定において、算出された駆動トルクが、上限閾値と下限閾値の間に入っているか否かを判定したが、これに限定されない。例えば、正常時の駆動トルクに対して低く設定した閾値のみを使用して漏れ判定を行ってもよい。上述したように、シート部材にへたりや摩耗が生じると、正常時に比べて駆動トルクが小さくなると考えられる。そのため、この閾値を下回った場合にはシート漏れが生じたと判断することができる。
【0063】
また、
図13では、弁体を第2速度で回動させる間において、駆動トルクに基づいてシート漏れを判定した。つまり、偏心弁装置1によって、シート漏れの発生を検出する構成を示したが、同様の構成でシート漏れの予測も行うことができる。この場合、例えば、ステップS25で用いる下限閾値を、シート漏れ検出の場合よりも高く設定することで、シート漏れが発生する直前の段階(シート漏れの兆候)を判定できる。その判定結果に基づくことでシート漏れ時期を予測することができる。また、随時算出した駆動トルクの推移から、シート漏れの発生時期を判定することも可能である。その結果、シート漏れが生じることを事前に察知してアラームを発することも可能になる。
【0064】
図15は、弁体22が全開状態から全閉状態へ移行する際の流れを示すタイミングチャートである。全開状態において、時刻t1にて弁体の閉指令が出されると、モータ部が起動して第1速度V1で閉弁動作が開始される。時間の経過に伴って、回転角度θが大きくなる。この際、駆動トルクは低値で安定している。時刻t2にて、弁体が所定位置まで回動すると、弁体22の回動速度が第2速度V2に切り替えられる。さらに開弁動作が進み、シート部材と弁体が接触することに伴って駆動トルクが上昇していく。時刻t3にて、全閉状態になると、モータ部が停止して、閉弁動作が完了する。時刻t2~時刻t3の間は、駆動トルクに基づいて、随時シート漏れの判定が行われる。なお、時刻t1から時刻t3までの所要時間が開閉時間に相当する。
【0065】
本発明において、速度制御部によって弁体の回動速度を変化させる態様は、
図15の態様に限られない。例えば、
図16(a)に示すように、第1速度V1で回動させる期間(時刻t4~時刻t5)と、第2速度V2で回動させる期間(時刻t6~時刻t7)との間に、弁体の回動を一時停止させる期間(時刻t5~時刻t6)を設けてもよい。この場合、弁体が所定位置まで回動すると、時刻t5にてモータ部が停止して閉弁動作が一旦停止される。一時停止時間経過後、モータ部が起動して第2速度V2で閉弁動作が再開される(時刻t6)。なお、弁体を一時停止させる時間は適宜設定できる。また、弁体が一時停止する位置は、シート部材に近接した所定位置であることが好ましい。
【0066】
また、
図16(b)に示すように、第1速度V1で回動させる期間(時刻t8~時刻t9)と、第2速度V2で回動させる期間(時刻t10~時刻t11)との間に、第1速度V1よりも遅く、かつ、第2速度V2よりも速い第3速度V3で回動させる期間(時刻t9~時刻t10)を設けてもよい。この場合、弁体を第3速度V3で回動させる時間は適宜設定できる。さらに、
図16(b)の態様に別の速度で回動させる期間を追加してもよい。
【0067】
上記実施形態では、本発明に係る偏心弁装置として、二重偏心弁について説明したが、弁の開閉時に二重偏心弁と同様の駆動トルクの変化を示す偏心弁にも、本発明を適用できる。
【0068】
本発明の偏心弁装置は、生産工場の生産プロセス配管に取り付けられた二重偏心弁を含む偏心弁において、開閉時間の短縮を可能にしつつ、へたりや摩耗によるシート漏れを検出または予測することができるので、安全で効率的なメンテナンスが可能であり、生産プロセスの総合的なロスを低減できる。また、シート漏れが生じる前にバルブを交換することも可能であり、設備の安定運転に貢献し、設備保守やメンテナンスに関わる作業性の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0069】
1:偏心弁装置
2:弁機構部
21:弁箱
211:開口部
212:装着孔
213:ピン溝
214:段部
22:弁体
221:弁部
222:支持部
223:支持部
23:シート部材
231:シートリング
232:ゴムリング
24:支持部材
25:ピン
3:弁駆動部
31:電源回路部
32:モータ回路部
33:モータ部
34:減速機
35:弁棒
4:制御部
41:速度制御部
42:トルク算出部
43:漏れ判定部
51:回転センサ
52:角度センサ
53:電流センサ