(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057991
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20220404BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166537
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】新藤 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】武山 慶久
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP031
4J002DA026
4J002GF00
(57)【要約】
【課題】長期にわたる保管等を実施した場合でも、ゴム組成物を架橋した架橋物が硬度低下を起こさず、かつ十分な導電性を確保できるゴム組成物を提供する。
【解決手段】シリコーンゴムおよびカーボンナノチューブを含むゴム組成物と、前記ゴム組成物を収容する包装体と、前記包装体内に封入される乾燥剤と、を備え、前記包装体に収容された前記ゴム組成物中の水分量が600ppm以下に維持されている複合部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムおよびカーボンナノチューブを含むゴム組成物と、
前記ゴム組成物を収容する包装体と、
前記包装体内に封入される乾燥剤と、を備え、
前記包装体に収容された前記ゴム組成物中の水分量が600ppm以下に維持されている複合部材。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブを含む、請求項1または2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記シリコーンゴムが、ミラブル型シリコーンゴムである、請求項1~3のいずれかに記載の複合部材。
【請求項5】
前記包装体が、金属層と樹脂層とを含む積層フィルムにより構成されている、請求項1~4のいずれかに記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンゴムに、導電性フィラーとしてのカーボンナノチューブ(以下、適宜、「CNT」と称する)を添加することにより、柔軟性(低硬度)と導電性(低体積抵抗率)とを高いレベルで両立するゴム組成物が得られることが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す技術では、得られたシリコーンゴムに十分な導電性を付与できるものの、例えば高湿度下や長期間にわたってゴム組成物を保管した場合には、それを架橋してなる架橋物の硬度が低下してしまうという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、長期にわたる保管等を実施した場合でも、ゴム組成物を架橋した架橋物が硬度低下を起こさず、かつ十分な導電性を確保できるゴム組成物を提供するための複合部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討したところ、シリコーンゴムとCNTとを含むゴム組成物を、乾燥剤とともに包装体に収容した際に、ゴム組成物中の水分量を所定量以下に調整することにより、長期にわたる保管等を実施した場合でも、ゴム組成物を架橋した架橋物が硬度低下を起こさず、かつ十分な導電性を確保できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の複合部材は、シリコーンゴムおよびカーボンナノチューブを含むゴム組成物と、前記ゴム組成物を収容する包装体と、前記包装体内に封入される乾燥剤と、を備え、前記包装体に収容された前記ゴム組成物中の水分量が600ppm以下に維持されている。このような構成によれば、乾燥剤の作用によりゴム組成物内の水分量を所定量以下とすることができ、これによりシリコーンゴムの劣化が生じず、長期にわたる保管等を実施した場合でも、ゴム組成物を架橋した架橋物が硬度低下を起こさず、かつ十分な導電性を確保できるゴム組成物を提供できる。
なお、本発明において、ゴム組成物中の水分量は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0008】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)を含むことが好ましい。この際、前記カーボンナノチューブは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。このような構成によれば、導電性を付与するフィラーであるカーボンナノチューブの添加量を比較的少なくでき、ゴム組成物を架橋した架橋物の硬度と導電性とのバランスをさらに高いレベルで達成できる。
【0009】
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ(多層CNT)を含んでいてもよい。このような構成によれば、シリコーンゴムへのカーボンナノチューブの分散処理を比較的簡便に実施できて生産効率を向上できる。この際、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとを所定の比率で混合したものを用いてもよい。このような混合物を用いた場合には、ゴム組成物を架橋した架橋物の柔軟性および導電性と、カーボンナノチューブの分散効率性との両立を容易に図ることができる。単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとの配合割合は、例えば、単層CNT/多層CNT=1/99~99/1とすることができる。
【0010】
前記シリコーンゴムは、ミラブル型シリコーンゴムであることが好ましい。
また、前記包装体は、金属層と樹脂層とを含む積層フィルムにより構成されていることが好ましい。このような構成によれば、比較的簡単な材料で透湿性の低い包装体を提供できる。
【0011】
前記ゴム組成物は、架橋剤を含有しないものが好ましいが、架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤を含む場合には、当該組成物を架橋して架橋物を得ることができる。この架橋物は、たとえば電極として用いることができる。電極としては、人体等の体や凹凸を有する構造物等の対象物に当接させて、当該対象物からの電気信号等の信号を検出する電極として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合部材によれば、ゴム組成物中の水分量を所定範囲に調整することにより、長期にわたる保管等を実施した場合でも、ゴム組成物を架橋した架橋物が硬度低下を起こさず、かつ十分な導電性を確保できるゴム組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の複合部材は、シリコーンゴムおよびカーボンナノチューブを含むゴム組成物と、前記ゴム組成物を収容する包装体と、前記包装体内に封入される乾燥剤と、を備え、前記包装体に収容された前記ゴム組成物中の水分量が600ppm以下に維持されている。
【0014】
<シリコーンゴム>
シリコーンゴムとしては、特に限定されることなく、オルガノポリシロキサンとして通常広く知られている、ジメチルシロキサン等のアルキルシロキサン単位を主成分とするポリマーなどの既知のシリコーンゴムを用いることができる。なお、シリコーンゴムは、アルキルシロキサン単位以外に少量の他の構造単位を有していてもよく、さらには、少量の官能基を含有していてもよい。また、シリコーンゴムは、所望により補強性充填剤や潤滑剤などの既知の添加剤を配合したものであってもよく、補強性充填剤としては、例えば、補強性シリカ、石英粉、酸化鉄、アルミナ、ビニル基含有シリコーンレジンなどを使用できる。具体的には、シリコーンゴムとしては、例えばミラブル型シリコーンゴムや液状シリコーンゴムを用いることができる。中でも、シリコーンゴムとしては、ミラブル型シリコーンゴムを用いることが好ましい。ここで、ミラブル型シリコーンゴムとは、粘度が高く、25℃において自己流動性がない非液状(固体状またはペースト状)であるシリコーンゴムである。なお、液状シリコーンゴムとは、25℃、回転数6rpmにおける粘度が0.1~7000mPa・sのものであり、自己流動性があるものである。
【0015】
オルガノポリシロキサンは、有機基を有する。有機基は、1価の置換または非置換の炭化水素基である。非置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、β-フェニルエチル基、β-フェニルプロピル基などのアラルキル基などが挙げられる。置換の炭化水素基としては、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などが挙げられる。オルガノポリシロキサンとしては、一般的には、有機基としてメチル基を有するものが、合成のしやすさ等から多用される。オルガノポリシロキサンは、直鎖状のものが好ましいが、分岐状もしくは環状のものであってもよい。
【0016】
オルガノポリシロキサンは、その架橋機構(硬化機構)に応じて、所定の反応性基(官能基)を有する。反応性基としては、アルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基など)やシラノール基などが挙げられる。アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、有機過酸化物を架橋剤とする過酸化物架橋反応や、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)を架橋剤とする付加反応により架橋される。付加反応には、ヒドロシリル化触媒を組み合わせて用いることができる。シラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、縮合反応により架橋される。縮合反応には、縮合用架橋剤を組み合わせて用いることができる。
【0017】
アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。また、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有することが好ましい。また、シラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のシラノール基を有することが好ましい。
【0018】
有機過酸化物としては、ベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、p-メチルベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルペルオキシド、クミル-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5- ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらのうちでは、特に低い圧縮永久歪みを与えることから、ジクミルペルオキシド、クミル-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシドが好ましい。
【0019】
有機過酸化物の添加量は、特に限定されるものではないが、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~10質量部の範囲とされる。
【0020】
ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)として、具体的には、両末端トリメチルシロキシ基を有するメチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基を有するジメリルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基を有するメチルハイドロジェンシロキサン・フェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基を有するメチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位から成る共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)SiO3/2単位とから成る共重合体などが挙げられる。
【0021】
ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンの配合量は、特に限定されるものではないが、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~40質量部の範囲とされる。
【0022】
ヒドロシリル化触媒としては、白金系触媒が挙げられる。白金系触媒としては、微粒子白金、白金黒、白金担持活性炭、白金担持シリカ、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体などが挙げられる。
【0023】
ヒドロシリル化触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、白金系金属の金属量に換算して、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して10-4質量部~2質量部の範囲とされる。
【0024】
縮合用架橋剤としては、加水分解性の基を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上有するシラン、あるいはその部分加水分解縮合物が使用される。この場合、その加水分解性の基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基などのケトオキシム基、アセトキシ基などのアシルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基などのアルケニルオキシ基、N-ブチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基などのアミノ基、N-メチルアセトアミド基などのアミド基等が挙げられる。
【0025】
縮合用架橋剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常、シラノール基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して1~50質量部の範囲とされる。
【0026】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブ(CNT)は、シリコーンゴムに添加することにより、シリコーンゴムに導電性を付与し得る。カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)、2層や3層以上の多層カーボンナノチューブ(多層CNT)、および、単層CNTと多層CNTの混合物を用いることができる。ここで、前記カーボンナノチューブにおいて、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブの配合割合は、たとえば、単層CNT/多層CNT=1/99~99/1とすることができ、単層CNT/多層CNT=10/90~90/10や、30/70~70/30、40/60~60/40としてもよい。単層CNTと多層CNTとを適宜な配合で混合することにより、ゴム組成物を架橋した架橋物の十分な導電性を確保しつつ、シリコーンゴムへのCNT分散を簡便に実施できる利点がある。
【0027】
<<単層カーボンナノチューブ(単層CNT)>>
単層CNTは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。中でも、CNTの開口処理が施されておらず、かつt-プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。このような構成によれば、ゴム組成物を架橋した架橋物における硬度と導電性とのバランスを向上できる。
【0028】
t-プロットは、窒素ガス吸着法により測定された吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得られる。即ち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、CNTのt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0029】
ここで、表面に細孔を有する試料では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3) の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0030】
上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有するCNTは、CNTの全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、CNTに多数の開口が形成されていることを示しており、その結果として、CNTは凝集しにくくなる。
【0031】
単層CNTのt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0を満たす範囲にあることが更に好ましい。t-プロットの屈曲点の位置が上記範囲内にあると、CNTの特性が更に向上する。ここで、「屈曲点の位置」とは、t-プロットにおける、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0032】
単層CNTは、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が、0.05以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.08以上であることが更に好ましく、0.30以下であることが好ましい。S2/S1が0.05以上0.30以下であれば、CNTの特性を一層高めることができる。
【0033】
単層CNTの吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル社製)を用いて行うことができる。
【0034】
単層CNTとしては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.80未満のCNTを用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超のCNTを用いることがより好ましく、3σ/Avが0.40超のCNTを用いることが更に好ましく、3σ/Avが0.50超のCNTを用いることが特に好ましい。3σ/Avが0.20超0.80未満のCNTを使用することにより、ゴム組成物を架橋した架橋物の硬度と導電性とのバランスをより高いレベルで両立できる。
【0035】
なお、「CNTの平均直径(Av)」および「CNTの直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定して求めることができる。CNTの平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0036】
単層CNTは、BET比表面積が600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることがより好ましく、2500m2/g以下であることが好ましく、1500m2/g以下であることがより好ましい。CNTのBET比表面積が上記範囲であることにより、シリコーンゴムに対してCNTの分散性が向上し、ゴム組成物を架橋した架橋物の硬度と導電性とのバランスをより高いレベルで両立できる。CNTのBET比表面積は、例えば、JIS Z8830に準拠した、BET比表面積測定装置((株)マウンテック製、H M model-1210)を用いて測定できる。
【0037】
単層CNTの平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、2nm以上であることが更に好ましく、また、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることが更に好ましい。CNTの平均直径(Av)が上記範囲であることにより、ゴム組成物を架橋した架橋物の硬度と導電性とのバランスをより一層高めることができる。
【0038】
単層CNTは、合成時におけるCNTの長さ(平均長さ)が5μm超であることが必要であり、その中でも、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることがさらに好ましい。また、合成時のCNTの長さが長いほど、分散時にCNTに破断や切断等の損傷が発生し易いので、合成時のCNTの平均長さは、5000μm以下であることが好ましく、シリコーンゴムへの分散性を高める観点から、CNTの合成時の平均長さは、1000μm以下であることがより好ましい。なお、CNTの平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて無作為に選択したCNT100本の長さを測定して求めることができる。
【0039】
単層CNTのアスペクト比(長さ/直径)は、10を超えることが好ましい。なお、CNTのアスペクト比は、前述の通りに測定した直径および長さを用いて、これらの比(長さ/ 直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0040】
単層CNTは、G/D比が2.0以上10.0以下であることが好ましく、2.5以上4.5以下であることがより好ましい。G/D比が上記範囲であればシリコーンゴムへの分散性をより一層高めることができる。なお、本発明において、「G/D比」とは、ラマンスペクトルにおいて、1340cm-1近傍で観察されるDバンドピーク強度に対する、15 90cm-1近傍で観察されるGバンドピーク強度の比を指し、例えば、顕微レーザラマン分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製Nicolet Alm ega XR)を用いて測定できる。
【0041】
上述した性状を有するCNTは、例えば、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行うことで、効率的に製造できる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0042】
<<多層カーボンナノチューブ(多層CNT)>>
多層CNTは、層数が2層以上のカーボンナノチューブである。多層CNTのBET比表面積が600m2/g以下とすることができる。また、多層CNTの平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましく、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることが更に好ましい。このような構成であれば、ゴム組成物中への分散性を高めることができる。なお、CNTの平均直径は、前述した単層CNTの場合と同様に測定できる。多層CNTの平均長さが200μm以下のものを使用できる。
【0043】
前記ゴム組成物におけるカーボンナノチューブの添加量は、シリコーンゴム100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましく、2.0質量部以上であることが特に好ましい。また、前記ゴム組成物におけるカーボンナノチューブの添加量は、シリコーンゴム100質量部に対して、8.0質量部以下であることが好ましく、7.5質量部以下であることがより好ましく、7.0質量部以下であることがさらに好ましく、6.5質量部以下であることが特に好ましい。カーボンナノチューブの添加量を上記範囲とすることにより、ゴム組成物を架橋した架橋物の硬度と導電性とをより一層高いレベルで両立できる。
【0044】
<その他の添加剤>
前記ゴム組成物は、前記カーボンナノチューブの他に、その他の添加剤を添加できる。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、シリコーンオイル等の硬度調整剤などを用いることができる。その他の添加剤は、本発明の効果を損なわない限り、任意の量を添加できる。また、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを挙げることができる。
【0045】
<包装体>
前記包装体は、ゴム組成物および乾燥剤を収容する容器であり、ゴム組成物を気密に収容できるものであれば、その材質や構造などは特に限定されない。前記包装体としては、例えば、金属層を含むシートにより形成された袋状容器や、金属、ガラス等の容器を用いることができる。前記袋状容器を形成するシートとしては、例えば、金属層と樹脂層とを含む積層フィルムを好適に用いることができる。前記積層フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの樹脂からなる単層または多層の樹脂シートと、この樹脂シートにアルミなどの金属箔をラミネートしたものなどを挙げることができる。この積層フィルムには、補強のために不織布や紙などを積層してもよい。このような積層フィルムとしては、樹脂シートにアルミをラミネートしたアルミラミネートシートを好適に用いることができる。
【0046】
前記包装体は、透湿度が10g/m2・24時間以下であることが好ましく、1g/m2・24時間以下であることがより好ましい。ここで、気密容器の透湿度は、JIS Z0222、JIS K 7129およびJIS Z0208に準拠して測定できる。
【0047】
前記包装体内には、ゴム組成物および乾燥剤を収容した状態で、包装体内を真空にしたり、乾燥気体を充填したりしてもよい。乾燥気体としては、乾燥空気のほか、窒素ガスなどの不活性ガスを使用できる。これにより、ゴム組成物と水分との接触を妨げることができ、物性変化を抑えることができる。
【0048】
<乾燥剤>
前記包装体内には、乾燥剤が配置されている。この乾燥剤は、ゴム組成物中の水分の低減により、硬度等の各物性の変化を抑えることができる。このような乾燥剤としては、特に限定されないが、たとえば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、五酸化二リン、酸化アルミニウム、酸化バリウム、シリカゲルなどが挙げられる。なお、乾燥剤は、ゴム組成物への汚染を防止するため、袋状の容器などに充填して使用することが好ましい。
【0049】
<ゴム組成物の物性>
包装体に収容されたゴム組成物は、乾燥剤や包装体により、当該ゴム組成物中の水分量が600ppm以下となるように維持されており、500ppm以下となるように維持されることがより好ましい。ゴム組成物中に残存する水分量が上記範囲であることにより、長期に渡って保管した場合であっても、ゴム組成物を架橋した架橋物の硬度低下を抑えることができる。ゴム組成物中の水分量を上記範囲にするために、前述した乾燥剤の量や、包装体内の環境(湿度等)や、包装体の物性等を適宜調整することができる。
【0050】
<ゴム架橋物>
前記ゴム組成物が未架橋物であるゴム組成物の場合、包装体からゴム組成物を取り出して、このゴム組成物に前述した架橋剤を添加して架橋することにより、ゴム架橋物を得ることができる。なお、架橋は、一次架橋のみの1段階で行ってもよく、一次架橋および二次架橋の2段階で行ってもよく、3段階以上で行ってもよい。ゴム架橋物は、硬度が70~40であることが好ましく、65~50であることがより好ましい。このようなゴム架橋物の用途は、特に限定されないが、例えば、ウェアラブルデバイスにおいて、人体に当接して、人体からの電気信号を検出する電極として用いることができる。また、ゴム組成物を架橋した架橋物は、導電性を示す指標としての体積抵抗率が1.0×104Ω・cm以下であることが好ましく、1.0×102Ω・cm以下であることがより好ましく、5.0×101Ω・cm以下であることがさらに好ましい。
なお、ゴム架橋物の硬度および体積抵抗率は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【実施例0051】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0052】
実施例および比較例では、ゴム組成物中の水分量、ゴム架橋物の硬度、体積抵抗率、粉落ちの有無、について、以下の通りに測定または評価した。
【0053】
<ゴム組成物中の水分量>
カールフィッシャー(京都電子製)を用いてゴム組成物中の水分量を測定した。具体的には、ゴム組成物約1g(短冊状に切り取ったものを2本)を秤量後、気化装置上部から投入し、130℃で15分間加熱した。
【0054】
<硬度>
ゴム組成物を金型に投入し、加硫成形して2mm厚のシート状のゴム架橋物(幅150mm、長さ150mm)を作製した。なお、1次加硫条件は130℃で10分、2次加硫は177℃で2時間とした。作製した架橋物について、JIS K6253-3に準拠し、タイプAデュロメータを用いて硬度を測定し、測定した硬度の平均値を求めて架橋物の硬度とした。
【0055】
<体積抵抗率>
ゴム組成物を金型に投入し、加硫成形して2mm厚のシート状のゴム架橋物(幅150mm、長さ150mm)を作製した。なお、1次加硫条件は130℃で10分、2次加硫は177℃で2時間とした。低抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、製品名「ロレスタ(登録商標)MCP-T610」)用い、JIS K7194に準拠した方法で測定サンプルの体積抵抗率を測定した。具体的には、測定サンプルを絶縁ボードの上に固定し、最大90Vの電圧をかけて各測定サンプルの任意の箇所の体積抵抗率を5点測定した。そして、測定値の平均値を求めてシート状のゴム架橋物の体積抵抗率(ρV1)とした。なお、低抵抗率計の四端針プローブには、ESPプローブを選択した。
【0056】
<粉落ちの有無>
ゴム組成物を金型に投入し、加硫成形して2mm厚のシート状のゴム架橋物(幅150mm、長さ150mm)を作製した。なお、1次加硫条件は130℃で10分、2次加硫は177℃で2時間とした。ゴム架橋物を印刷用紙で50回擦りつけ、転写具合を観察し、下記の基準に基づいて粉落ちの有無を評価した。
粉落ち無し:印刷用紙に黒い痕がない
粉落ち有り:印刷用紙に黒い痕がある
【0057】
(実施例1)
ミラブル型シリコーンゴム(ダウ社製、製品名「C6-235」、ビニル変性ポリシロキサン(反応性基としてのビニル基を有するオルガノポリシロキサン))500g(100部)に、単層CNTとしてのSGCNT(ゼオンナノテクノロジー社製、品名「ZEONANO SG101」、平均直径:3.5nm、平均長さ:350μm、BET比表面積:1256m2/g、G/D比:3.5、t-プロットは上に凸、)15g(3部)と、多層CNTとしてのK-nanos(Kumho社製、品名「K-nanos400T」、平均直径:13nm、平均長さ:30μm、BET比表面積:266m2/g)15g(3部)とを加え、ロールで混練し、初期のゴム組成物を得た。
得られた初期のゴム組成物に、架橋剤としてのRD-7(ダウ社製、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン)5g(1部)と、白金触媒としてのRD-27(ダウ社製)7.5g(1.5部)と、反応遅延剤としてのRD-9(ダウ社製)3.75g(0.75部)を加えた後、ゴム架橋物を得て、上述の方法に従ってゴム架橋物の硬度および体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0058】
次に、上記と同じ操作で得られたゴム組成物を、包装体としてのアルミラミネート袋(エーディーワイ社製、製品名「MBYシリーズ」、透湿度:0.1g/m2・24時間)に入れ、さらに、このアルミラミネート袋内に、樹脂製の包装袋内に収容された乾燥剤としての塩化マグネシウムを封入して複合部材を得た。この複合部材を、温度40℃、湿度80%RHの環境下に放置した。次いで、90日後、複合部材の包装体からゴム組成物を取り出した。得られた90日保管後のゴム組成物を用いて、上記の方法に従って、水分量を測定した。また、90日保管後のゴム組成物に対して、上記と同じ操作で架橋剤、白金触媒および反応遅延剤を加えた後、上記の方法に従ってゴム架橋物の硬度、体積抵抗率、および粉落ちの有無を測定または評価した。その結果を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
CNTの添加量を12.5g(2.5部)(SGCNT:6.25g、K-nanos:6.25g)とした以外は実施例1と同様にして、初期のゴム組成物、および90日保管後のゴム組成物を得て、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
複合部材の作製の際に、乾燥剤を全く封入せず、包装体内の圧力を大気圧以下まで減圧した以外は、実施例1と同様にして、初期のゴム組成物、および90日保管後のゴム組成物を得て、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
複合部材の作製に用いる包装体をアルミラミネート袋に代えてポリエチレン袋(株式会社ワールドパック社製、製品名「ポリ袋」、透湿度15.2g/m2・24時間)とした以外は、比較例1と同様にして、初期のゴム組成物、および90日保管後のゴム組成物を得て、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3)
CNTの代わりにカーボンブラック(デンカ株式会社社製、製品名「アセチレンブラックHS-100」)250g(50部)を用いた以外は、比較例1と同様にして、初期のゴム組成物、および90日保管後のゴム組成物を得て、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
実施例1、2に示すように、複合部材におけるゴム組成物中の水分量を所定値以下となるように構成した場合には、長期保管後のゴム組成物を架橋した架橋物の硬度低下を抑えると共に、当該架橋物の導電性を十分に確保することができたことが分かる。他方、比較例1、2に示すように、複合部材におけるゴム組成物中の水分量が所定値を超える場合には、長期保管後のゴム組成物を架橋した架橋物の硬度が5~10程度減少し、大きく変化(劣化)することが分かる。また、カーボンナノチューブの代わりに、カーボンブラックを用いた比較例3では、長期保管後のゴム組成物を架橋した架橋物の硬度低下を抑えると共に、当該架橋物の導電性を十分に確保できるものの、粉落ちの問題が生じたことが分かる。
本発明の複合部材によれば、長期にわたる保管等を実施した場合でも、ゴム組成物を架橋した架橋物が硬度低下を起こさず、かつ十分な導電性を確保できるゴム組成物を提供できる。