(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058965
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】自動分析装置及び自動分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/86 20060101AFI20220405BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G01N33/86
G01N35/00 E
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019482
(22)【出願日】2022-02-10
(62)【分割の表示】P 2021032192の分割
【原出願日】2016-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2015057503
(32)【優先日】2015-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藪谷 千枝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 彰久
(57)【要約】
【課題】
被検血漿と正常血漿とを所定の混合比にて得られる混合血漿の調製を自動化可能とする分析装置及び方法を提供する。
【解決手段】
被検血漿及び/又は前記被検血漿の凝固時間を補正するため添加する正常血漿を分注する検体分注機構と、凝固時間を測定する測定部と、制御部と、を有する自動分析装置において、前記制御部は、即時型の測定および遅延型の測定を行う場合、前記検体分注機構が即時型の測定及び遅延型の測定に用いる前記被検血漿及び/又は前記正常血漿の混合血漿の調整を行い、前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を用いて即時型の測定を行い、即時型の測定後に残った前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を遅延型の測定に用いるよう制御することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検血漿及び/又は前記被検血漿の凝固時間を補正するため添加する正常血漿を分注する検体分注機構と、
凝固時間を測定する測定部と、
制御部と、
を有する自動分析装置において、
前記制御部は、即時型の測定及び遅延型の測定を行う場合、前記検体分注機構が即時型の測定及び遅延型の測定に用いる前記被検血漿及び/又は前記正常血漿の混合血漿の調整を行い、前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を用いて即時型の測定を行い、即時型の測定後に残った前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を遅延型の測定に用いるよう制御することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、前記遅延型の測定を、前記即時型の測定をしてから所定の時間経過後に行うよう制御することを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、前記遅延型の測定の場合は、所定の時間インキュベーションされた前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を測定するよう制御することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿のインキュベーション時間をカウントすることを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の自動分析装置において、
前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿のインキュベーションを行うインキュベーターは、自動分析装置外に設けられていることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、空の容器へ前記被検血漿及び正常血漿を分注するよう前記検体分注機構を制御することで、異なる正常血漿比率の混合血漿を自動的に調製することを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項6に記載の自動分析装置において、
前記空の容器には、前記混合血漿を管理するための識別情報が付されており、
前記即時型の測定後の前記混合血漿を含む容器が、前記インキュベーターに移動されて、インキュベーションされた後、自動分析装置内に移動され、前記測定部によって前記遅延型の測定がされることを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記即時型の測定結果及び前記遅延型の測定結果を1つのグラフにあわせて表示することを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記即時型の測定結果及び前記遅延型の測定結果を異なるグラフにそれぞれ表示することを特徴とする自動分析装置。
【請求項10】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記測定部は、優先度の高い正常血漿比率の混合血漿を優先して実行することを特徴とする自動分析装置。
【請求項11】
被検血漿及び/又は前記被検血漿の凝固時間を補正するため添加する正常血漿を分注する検体分注機構と、
凝固時間を測定する測定部と、
制御部と、
を有する自動分析装置を用いた自動分析方法において、
前記制御部は、即時型の測定及び遅延型の測定を行う場合、前記検体分注機構が即時型の測定及び遅延型の測定に用いる前記被検血漿及び/又は前記正常血漿の混合血漿の調整を行い、前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を用いて即時型の測定を行い、即時型の測定後に残った前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を遅延型の測定に用いるよう制御することを特徴とする自動分析方法。
【請求項12】
請求項11に記載の自動分析方法において、
前記制御部は、前記遅延型の測定を、前記即時型の測定をしてから所定の時間経過後に行うよう制御することを特徴とする自動分析方法。
【請求項13】
請求項12に記載の自動分析方法において、
前記制御部は、前記遅延型の測定の場合は、所定の時間インキュベーションされた前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を測定するよう制御することを特徴とする自動分析方法。
【請求項14】
請求項13に記載の自動分析方法において、
前記制御部は、前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿のインキュベーション時間をカウントすることを特徴とする自動分析方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の自動分析方法において、
前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿は、自動分析装置外に設けられたインキュベーターによってインキュベーションが行われることを特徴とする自動分析方法。
【請求項16】
請求項15に記載の自動分析方法において、
前記制御部は、空の容器へ前記被検血漿及び正常血漿を分注するよう前記検体分注機構を制御することで、異なる正常血漿比率の混合血漿を自動的に調製することを特徴とする自動分析方法。
【請求項17】
請求項16に記載の自動分析方法において、
前記空の容器には、前記混合血漿を管理するための識別情報が付されており、
前記即時型の測定後の前記混合血漿を含む容器が、前記インキュベーターに移動されて、インキュベーションされた後、自動分析装置内に移動され、前記測定部によって前記遅延型の測定がされることを特徴とする自動分析方法。
【請求項18】
請求項11に記載の自動分析方法において、
前記即時型の測定結果及び前記遅延型の測定結果を1つのグラフにあわせて表示することを特徴とする自動分析方法。
【請求項19】
請求項11に記載の自動分析方法において、
前記即時型の測定結果及び前記遅延型の測定結果を異なるグラフにそれぞれ表示することを特徴とする自動分析方法。
【請求項20】
請求項11に記載の自動分析方法において、
前記測定部は、優先度の高い正常血漿比率の混合血漿を優先して実行することを特徴とする自動分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液,尿などの生体試料の定性・定量分析を行う自動分析装置に係り、特に、血液の凝固・止血検査に好適な自動分析装置及び自動分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固検査は、血液凝固線溶系の病態把握、DIC(播種性血管内凝固症候群)の診断、血栓治療効果の確認、血友病の診断などの目的で行われている。特に、血液凝固時間測定は、検体と試薬とを混合し、フィブリン塊が形成されるまでの時間(以下、血液凝固時間と称する)を測定するもので、先天的、後天的に異常がある場合、血液凝固時間は延長する。
【0003】
しかし、単に、血液凝固時間の測定を行うだけでは、その原因が血液凝固因子欠乏による活性低下(欠損型)なのか、血液凝固系を構成する成分又は血液凝固時間測定試薬中の成分等に対する抗体の血液凝固反応阻害(インヒビター型)による活性低下なのかを鑑別することはできない。
一方で、治療においては、血液凝固時間の延長原因が欠損型なのか、インヒビター型なのかによって治療方針が異なるため、その原因を明確にすることが必要である。
【0004】
血液凝固時間の延長の原因を鑑別するための方法として、正常血漿添加によるクロスミキシングテスト(血液凝固補正試験、または交差混合試験とも言う)がある。クロスミキシングテストでは、被検血漿に正常血漿を添加し、その血液凝固時間の補正の程度をグラフ化して判定する。クロスミキシングテストの最も代表的な利用例はAPTTの延長要因の判定であるが、その他、PT(プロトロンビン時間)、dPT(希釈PT)、dAPTT(希釈APTT)、KCT(カオリン凝固時間)及びdRVVT(希釈ラッセル蛇毒時間)などの項目で実施することもある。
ところで、APTTは、血液凝固検査を実施しているほとんどの施設で実施可能である主要項目であるにもかかわらず、現状ではクロスミキシングテストが頻繁に実施されているとは言い難い。施設内で実施できずに外部委託先に検査を依頼する場合には、結果を受け取るまでに時間を要し、血友病などの重篤な疾患に対する発見と治療開始の遅れにつながる。このような状況を生じさせる理由は、検体の調製とインキュベーション作業が煩雑であり、その結果の解釈も明瞭でないため、検査者の熟練を要するためである。
【0005】
上記の問題を解決するため、特許文献1が提案されている。特許文献1では、被検血漿のみ、正常血漿のみ及び、被検血漿と正常血漿を少なくとも1種の混合比で混合した試料(混合血漿)につき、それぞれ、血液凝固時間を測定し、得られた測定値のプロットによる折れ線グラフの下面積(A)と、被検血漿のみ及び正常血漿のみの測定値を結ぶ直線の下面積(B)との差分を求め、この差分の面積比(A-B)/(B)と、所定の基準面積比Yとを比較し、比較結果に基づき、インヒビター型か欠乏型かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、被検血漿と正常血漿の混合を自動化する方法は開示されておらず、用手法で調製する場合には、作業の煩雑化あるいは、作業者の熟練度により得られる混合血漿の混合比の精度にばらつきが生じ得る。
【0008】
そこで、本発明は、被検血漿と正常血漿とを所定の混合比にて得られる混合血漿の調製を自動化可能とする自動分析装置及び自動分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、被検血漿及び/又は前記被検血漿の凝固時間を補正するため添加する正常血漿を分注する検体分注機構と、凝固時間を測定する測定部と、制御部と、を有する自動分析装置において、前記制御部は、即時型の測定および遅延型の測定を行う場合、前記検体分注機構が即時型の測定及び遅延型の測定に用いる前記被検血漿及び/又は前記正常血漿の混合血漿の調整を行い、前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を用いて即時型の測定を行い、即時型の測定後に残った前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を遅延型の測定に用いるよう制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、被検血漿及び/又は前記被検血漿の凝固時間を補正するため添加する正常血漿を分注する検体分注機構と、凝固時間を測定する測定部と、制御部と、を有する自動分析装置を用いた自動分析方法において、前記制御部は、即時型の測定及び遅延型の測定を行う場合、前記検体分注機構が即時型の測定及び遅延型の測定に用いる前記被検血漿及び/又は前記正常血漿の混合血漿の調整を行い、前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を用いて即時型の測定を行い、即時型の測定後に残った前記調製された前記被検血漿、正常血漿及び/又は混合血漿を遅延型の測定に用いるよう制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検血漿と正常血漿とを所定の混合比にて得られる混合血漿の調製を自動化可能とする自動分析装置及び自動分析方法を提供することが可能となる。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例に係る実施例1の自動分析装置の全体概略構成図である。
【
図3】
図1に示す自動分析装置の処理フローを示すフローチャートである。
【
図4】クロスミキシングテスト測定依頼時の操作画面の表示例である。
【
図5】クロスミキシングテスト測定依頼時の操作画面の表示例である。
【
図6】検体分注機構による正常血漿吸引時の状態を示す図である。
【
図7】検体分注機構による被検血漿吸引時の状態を示す図である。
【
図8】検体分注機構による正常血漿又は被検血漿吐出時の状態を示す図である。
【
図9】攪拌機構による混合血漿の攪拌状態を示す図である。
【
図10】実施例1の自動分析装置によるクロスミキシングテスト結果を示す図である。
【
図11】本発明の他の実施例に係る実施例2の自動分析装置の全体概略構成図である。
【
図12】
図11に示す自動分析装置における検体ラックの搬送順の説明図である。
【
図13】
図11に示す自動分析装置におけるクロスミキシングテストの際の検体ラックの搬送順を説明する図である。
【
図14】
図11に示す自動分析装置におけるクロスミキシングテスト時の検体分注位置の説明図である。
【
図15】本発明の他の実施例に係る実施例3の自動分析装置の処理フローを示すフローチャートである。
【
図16】実施例3によるクロスミキシングテスト依頼時の操作画面の表示例である。
【
図17】本発明の他の実施例に係る実施例4の自動分析装置の処理フローを示すフローチャートである。
【
図18】実施例4の自動分析装置の動作を示すタイミングチャートである。
【
図19】本発明の他の実施例に係る実施例5の自動分析装置の処理フローを示すフローチャートである。
【
図20】本発明の他の実施例に係る実施例6の自動分析装置の処理フローを示すフローチャートである。
【
図21】実施例6によるクロスミキシングテスト依頼時の操作画面の表示例である。
【
図22】正常血漿のみ、被検血漿のみ、及び5種の混合比による混合血漿を示す図である。
【
図23】正常血漿のみ、被検血漿のみ及び3種の混合比による混合血漿を示す図である。
【
図24】正常血漿のみ、被検血漿のみ及び1種の混合比による混合血漿を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「被検血漿」とは、入院或いは通院患者の血漿及び、健康診断等における被検者の血漿の双方を含む。また、本明細書では、「正常血漿」、「被検血漿」及び「各種混合比にて混合された混合血漿」の総称として、血液凝固時間を測定するための検体という場合もある。また、本明細書において、「一般検体」とは、被検者の検体のことである。
【0015】
図2は、クロスミキシングテストの概略図である。被検血漿に正常血漿を添加し、正常血漿の割合が0、10、20、50、80、90、100%となるように混合して調製した検体を準備し、APTTの測定を行う。測定結果(血液凝固時間)と正常血漿の割合の関係をプロットし、グラフを作成する。
図2に示すように、横軸は正常血漿比率(%)、縦軸はAPTT(血液凝固時間)である。例えば、
図2の実線(a)のように欠損型では、正常血漿の添加によりAPTT延長が補正され、下に凸のパターンを示す。一方、インヒビター型では、
図2の実線(b)に示すように、正常血漿を添加してもAPTT延長が補正されにくく、上に凸のパターンを示す。しかし、第VIII因子に対するインヒビターの反応は、時間および温度依存性を有するため、混和(混合)直後の反応(以下、即時反応と称する)では明確な、上に凸の形状を示さず、37℃で一定時間インキュベーションした後の反応(以下、遅延反応と称する)において上に凸の形状を示すようになることがある。
従って、クロスミキシングテストでは即時反応及び遅延反応の両方を測定することが推奨されている。
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例0016】
図1は、本発明の一実施例に係る実施例1の自動分析装置の全体概略構成図である。ここでは、基本的な血液凝固検査の流れについて
図1を用いて説明するが、以下の例に限定されない。
自動分析装置100は、検体分注機構101、検体ディスク102、試薬分注機構106、試薬ディスク107、反応容器ストック部111、反応容器搬送機構112、検出ユニット113、反応容器廃棄部117、操作部118、記憶部119及び制御部120から概略構成されている。
【0017】
検体分注機構101は、時計回り及び反時計回りに回転する検体ディスク102に配置された検体容器103に収容された検体を吸引し、反応容器ストック部111に収容される反応容器104へ吐出する。検体分注機構101は、先端部に検体分注プロープ101aを備え、制御部120によって制御される検体用シリンジポンプ105の動作により検体の吸引動作、及び吐出動作を実行する。
【0018】
試薬分注機構106は、試薬ディスク107に配置された試薬容器108に収容された試薬を吸引し、反応容器ストック部111に収容された反応容器104へ吐出する。試薬分注機構106は、先端部に試薬分注プローブ106aを備え、制御部120によって制御される試薬用シリンジポンプ110の動作により試薬の吸引動作、及び吐出動作を実行する。
また、試薬分注機構106は、試薬昇温機構109を内蔵する。試薬分注機構106によって吸引された試薬の温度は、制御部120により制御される試薬昇温機構109によって適温(所定の温度)へ昇温される。
【0019】
反応容器搬送機構112は、反応容器ストック部111に収容された反応容器104の搬送及び設置を行うものである。反応容器搬送機構112は、反応容器104を把持して水平面内で円弧状に回動することにより、反応容器104を反応容器ストック部111から検出ユニット113の反応容器設置部114へ搬送及び設置する。
【0020】
検出ユニット113は、反応容器104を載置するための、少なくとも1つ以上の反応容器設置部114を有する。検出ユニット113は、反応容器設置部114に挿入した反応容器104内の検体の光強度を測定する。なお、本実施例では、検出ユニット113を1つ配置した場合を示しているが、複数の検出ユニット113を有するよう構成しても良い。検出ユニット113における検出原理の例を以下に述べる。光源115から照射された光は、反応容器104内の反応溶液で散乱される。検出部(受光部)116は、フォトダイオードなどから構成されている。検出部116は、反応容器104内の反応溶液(検体)で散乱された散乱光を受光し、光/電変換を行うことによって、受光した散乱光の強度を示す測光信号をA/D変換器121に出力する。A/D変換器121でA/D変換された散乱光の測定信号は、インタフェース122を介して制御部120に入力される。検出ユニット113の動作は、制御部120により制御される。ここで、制御部120は、分析動作制御部120a及び演算部120bから構成される。分析動作制御部120a及び演算部120bは、例えば、CPU等のプロセッサにより実現され、図示しないROM又は記憶部119に格納される各種プログラムを読み出し、読み出されたプログラムを実行することにより、制御及び演算を実行する。
すなわち、分析動作制御部120aは、検体分注機構101及び検体ディスク102を制御し検体分注を行う。また、分析動作制御部120aは、試薬分注機構106及び試薬ディスク107を制御し、反応容器104内の検体へ試薬を吐出する。更に、分析動作制御部120aは、反応容器104の移動、反応容器104の廃棄等の自動分析装置の動作を制御する。
演算部120bは、検体と試薬との混合反応の程度に応じて時間変化する光強度の測定値から得られるシグナル値と、予め定めた判定閾値との比較結果に基づいて、検体の反応時間を測定する測定処理を実施するものである。算出された凝固時間は、表示部118cに出力されるとともに、記憶部119に記憶される。なお、算出結果としての凝固時間を、インタフェース122を介してプリンタ123に印字出力しても良い。
【0021】
検出部116は、反応容器104内の反応溶液(検体)による散乱光を受光する構成に限られない。例えば、検出部116を、反応容器104内の反応溶液(検体)を透過する透過光の強度を検出する構成としても良い。また、上記散乱光検出方式及び透過光検出方式の双方を用いた検出部116としても良い。更に、上記の他、粘凋度を利用する検出器116としても良い。
反応容器搬送機構112は、測定が終了した反応容器104を把持し、反応容器廃棄部117へ廃棄する。
なお、処理能力を向上させる目的で、測定開始試薬を添加する前の検体を加温しておく、検出器を有さないインキュベーター124を備える構成としても良い。
【0022】
自動分析装置100で分析される検体の分析項目は、入力部としてのキーボード118bや表示部118cに表示された操作画面を介して操作部118から制御部120へ入力される。なお、表示部118cに表示された分析項目をマウス118aによりポインタ等で操作することによって分析項目を入力するGUI(Graphical User Interface)を用いるよう構成しても良い。
【0023】
なお、
図1では、全ての構成要素を示すため便宜的に、反応容器ストック部111、検体ディスク102及び試薬ディスク107が離間配置されるよう表記しているが、実際の配置は、検体ディスク102と反応容器ストック部111が、検体分注機構101を構成する検体分注プローブ101aの水平面内における円弧状の移動軌跡の範囲内に配置されている。また、試薬ディスク107と反応容器ストック部111は、試薬分注機構106を構成する試薬分注プローブ106aの水平面内における円弧状の移動軌跡の範囲内に配置されている。従って、上方より見た場合、これら検体ディスク102、反応容器ストック部111及び試薬ディスク107は、略トライアングル状に配されている。
【0024】
続いて、本実施例の自動分析装置100におけるクロスミキシングテストの依頼と検体の調製方法について、以下に詳細に説明する。
図3は、
図1に示す自動分析装置の処理フローを示すフローチャートであり、特に、クロスミキシングテスト依頼時の検体調製方法のフローを示している。
まず、自動分析装置100は、クロスミキシングテストの依頼を受け付ける(ステップS101)。依頼の受け付け方法には、ホストコンピューターを利用したネットワークシステムを介して受信する方式と、操作者が操作部118から測定依頼することによって、入力されるクロスミキシングテスト測定依頼を受け付ける方式がある。以下では、操作画面を介して測定依頼が入力される場合を一例として説明する。
【0025】
図4及び
図5は、クロスミキシングテスト測定依頼時に、操作部118を構成する表示部108cに表示される操作画面の表示例を示している。
図4に示すように、クロスミキシングテスト測定依頼画面(操作画面)は、検体の種別、すなわち、一般検体、緊急検体及びコントロールのうち何れであるかを表示する領域を有する。
図4では、一般検体に対するクロスミキシング測定依頼であることを示している。また、クロスミキシング測定依頼画面(操作画面)は、検査項目選択/指定領域127を有する。操作者は、この操作画面からクロスミキシングテストを実施する項目を、検査項目選択/指定領域127より指定できる。
図4に示す例では、項目APTTが選択指定された状態を示している。また、操作画面は、正常血漿比率を選択指定可能な領域を有する。
図4に示す例では、正常血漿の割合が0、10、20、50、80、90、100%の7条件の全てが設定された状態を示している。なお、ここで、設定される正常血漿比率は、
図4に示す7条件に限られるものではなく、例えば、0%、100%を含む3条件以上、すなわち、被検血漿のみ、正常血漿のみ、及び少なくとも1つの混合比の混合血漿があれば良く、その他の混合比については任意に設定可能である。
【0026】
図4に示すように、測定項目と正常血漿比率が設定されると、分析動作制御部120aは、測定に必要な正常血漿量、被検血漿量を計算し、条件ごとに異なる正常血漿量及び被検血漿量をそれぞれ決定し、検体分注機構101の動作を制御する。その際、
図5に示すように、必要な正常血漿量、被検血漿量を表示部118cに表示することによって、操作者に知らせる。操作者が必要な血漿量を把握することができることは、操作者が必要量を計算する負担を軽減すると共に、調製の途中で血漿量が不足するのを未然に防ぐことができるという効果がある。ここで、
図5では操作者が正常血漿、被検血漿、空検体容器の設置位置を指定するようになっているが、装置が設置位置を指定するように制御しても良い。また、
図5では、正常血漿の設置ポジションとして「100」、被検血漿の設置ポジションとして「101」、及び空検体容器の開始ポジションとして「102」が設定された状態を示している。ここで、各ポジションは、検体ディスク102中の検体容器103の位置を表すものであり、必ずしも、数字のみで特定されるものでは無く、例えば、アルファベットと数字との組み合わせで、検体容器103の位置を特定しても良い。
また、ホストコンピューターを利用したネットワークシステムから依頼を受け付ける場合には、測定項目や測定条件の設定をすることなく分析が可能である。
【0027】
図5に示す状態で、「スタート」ボタンが押下される(ステップS102)と、正常血漿量、被検血漿量、空検体容器の有無を確認する(ステップS103)。ここで、空検体容器とは、個体識別媒体を有する使い捨て閉栓可能な容器とする。個体識別媒体とは、検体を識別するためのものであって、例えば、バーコード或いはRFID等が用いられる。被検者検体の個体識別媒体には、検体を識別する検体IDの他に、測定依頼情報等が含まれる。空検体容器に貼付する個体識別媒体には、任意の番号を割り当て、正常血漿、被検血漿を混合した後の混合血漿を管理するために用いられる。正常血漿量、被検血漿量、空検体容器の有無の確認は、検体分注機構101の液面検知機能、すなわち、検体分注機構101の先端に設けられた検体分注プローブ101aが、液面に接触又は近接することで変化する静電容量或いは抵抗値など電気的な特性の変化を利用して、液面を検知する。また、小型カメラ等による撮影機能(CCD、CMOS、PMTなどのセンサー)を用いて撮像し、液面高さから液量を計算する構成としても良い。以下では、検体分注機構101の液面検知機能を利用し、個体識別媒体としてバーコードを用いる場合を一例として説明する。
【0028】
時計回り及び反時計回りに回転する検体ディスク102の回転により、
図5で指定されたポジションに設置された被検者検体および空検体容器が、読取部125の前を通過するときに、被検者検体の個体識別媒体であるバーコードが読み取られる。読み取られたバーコードにより特定される被検者検体に対する依頼項目を照合すると共に、設置された空検体容器において作成される正常血漿比率や元の被検者検体情報と各混合血漿のIDとを照合させる。続いて、
図6に示すように、検体ディスク102中の検体容器103のうち、正常血漿が充填された検体容器103aを、検体分注機構101の分注ポジションに移動し、検体分注プローブ101aの液面検知機能により正常血漿の量を確認する。同様にして、被検血漿が充填された検体容器103bが分注ポジションに移動し、検体分注プローブ101aの液面検知機能により、被検血漿の量を確認する(
図7)。さらに空検体容器に対しては、検体分注プローブ101aの液面検知機能により、液面への接触がなくかつ、当該検体容器の底へ接触する(異常下降検知)場合に、設置された検体容器が空であることを認識する。
【0029】
図3に戻り、ステップS104では、容器設置チェックの結果、正常血漿量、被検血漿量が必要量に満たない、または、空検体容器が所定のポジションに必要個数設置されていない場合は、混合血漿調製を中止し、システムアラームを表示する(ステップS105)。これにより、測定途中での血漿の不足、或いは空検体容器が設置されていない場所、すなわち、検体(正常血漿、被検血漿、或いは混合血漿)が既に分注されている検体容器に、更に分注することによる検体ディスク102を汚染するリスクを回避できる。
【0030】
ステップS104にて、正常血漿量、被検血漿量が必要量以上準備され、空検体容器が必要個数設置されたことが確認できた場合には、空検体容器への正常血漿の分注を開始する(ステップS106)。
ここで、正常血漿の分注動作について説明する。時計回り及び反時計回りに回転する検体ディスク102の回転により、正常血漿が充填された検体容器103aを分注ポジションに移動し、検体分注機構101が正常血漿を吸引する(
図6)。
図6に示す例では、検体ディスク102が反時計回りにステップ状に回転する場合を示しており、その各ステップにおける移動距離は、相互に隣接配置される2つの検体容器103のピッチに相当する。これにより、読取部125により検体容器103に貼付されたバーコードが上述のように読み取られ、検体IDが識別された後、検体ディスク102の回転方向に沿って、読取部125より前方に位置する検体分注機構101の直下(検体分注ポジション)に位置付けられる。すなわち、各検体容器103は、常に、読取部125により検体IDが識別された後、分注ポジションに位置付けられる。
【0031】
次に、検体ディスク102のステップ状の回転により、分注ポジションに位置付けられる検体容器103は、被検血漿が充填された検体容器103bであるため(
図7)、検体分注機構101を構成する検体分注プローブ101aより吸引された正常血漿を吐出することは無い。続いて、分注ポジションに位置付けられる検体容器は、空検体容器103cであり、検体分注プローブ101a内に吸引された正常血漿を吐出する(
図8)。この動作を繰り返し、空検体容器103d~103iに正常血漿の分注を行う。正常血漿の分注が完了する(ステップS107)と、引き続き被検血漿の分注を行う(ステップS108)。
【0032】
ステップS108における被検血漿の分注動作は、検体ディスク102の回転により、先ず、被検血漿が充填された検体容器103bが分注ポジションに位置付けられ、検体分注機構101の検体分注プローブ101aにより、被検血漿が吸引される(
図7)。続いて、検体ディスク102の回転により、分注ポジションに位置付けられる検体容器は、ステップS106にて正常血漿が吐出された検体容器103cである。検体分注プローブ101aは、吸引された被検血漿を検体容器103cに吐出する(
図8)。同様の手順で、検体容器103d~103iに対し、検体分注プローブ101aにより被検血漿が分注される。全ての被検血漿の分注が完了するまで繰り返す(ステップS109)。
なお、ステップS106及びステップS108にて、検体分注機構101を構成する検体分注プローブ101aより、各検体容器103c~103iへの正常血漿及び被検血漿の吐出量は、例えば、
図4にて示した操作画面により設定された正常血漿比率に対応する。
図3に戻り、ステップS110では、
図9に示すように、攪拌機構126の直下に位置付けられた検体容器103c内に分注された正常血漿及び被検血漿の混合血漿を、攪拌機構126により撹拌する。ここで、攪拌機構126は、例えば、
図9に示すように、先端に設けられた攪拌翼或いはへら状の棒を、検体容器103c内の混合血漿に浸潤させて回転することにより実行される。なお、攪拌機構126は、攪拌翼或いはへら状の棒を回転させる方式に限られない。例えば、検体容器内の混合血漿に超音波を照射し攪拌する構成としても良い。また、これに替えて、検体ディスク102を正逆反転(時計回り、反時計回りに)回動させる構成、或いは、検体分注プローブ101aから検体容器103へ正常血漿又は被検血漿を吐出する際の吐出圧、すなわち、検体用シリンジポンプ105の吐出圧により混合血漿を攪拌するよう構成しても良い。
【0033】
このように、本実施例の自動分析装置100では、上述の
図4に示した操作画面により、設定された各種正常血漿比率の混合血漿を、検体分注機構101及び攪拌機構126により、自動的に調製することが可能となる。
【0034】
なお、
図3では、正常血漿の分注(ステップS106)後に、被検血漿の分注(ステップS108)を行う構成としたが、これに限られず、被検血漿の分注後に正常血漿を分注し混合血漿を調製する構成としても良い。また、正常血漿と被検血漿のコンタミネーション防止の観点から、正常血漿、被検血漿の分注を独立して行う構成としたがこれに限られるものでは無い。例えば、検体分注機構101の洗浄が十分でコンタミネーションの心配がない場合には、混合血漿を一つ一つ作製(調製)することも可能である。この場合には、空検体容器103cに必要量の正常血漿を分注した後に、必要量の被検血漿を分注する。検体容器103cの混合血漿作製後、空検体容器103dの混合血漿の作製を行うように、空検体容器毎に順次、混合血漿を作製する。
【0035】
また、2種類の検体が分注された時点、
図3ではステップS109まで終了した時点で、表示部118cに調製終了の画面を表示し、調製済検体の入った検体容器を操作者が閉栓、攪拌し、再度検体ディスク102上に設置しても良い。この場合には、検体攪拌機構126を備える必要がないため、装置を小型化できる。
【0036】
検体調製の終了後、103c~103i上に調製された7本の混合血漿を用いて分析を実施する。なお、このように検体調製に引き続いてすぐに実施する測定を即時型の測定と定義する。
図3のステップS111では、7本のそれぞれ異なる正常血漿比率の混合血漿が収容される検体容器103c~103iに貼付されたバーコートを、読取部125で読み取り、それぞれ、正常血漿のみ、被検血漿のみ、5種の混合比、すなわち、10、20、50、80、90%の正常血漿比率の混合血漿を特定し、その後ステップS112へ進む。ステップS112では、それぞれの検体容器103c~103iに収容される検体を、検体分注機構101により、反応容器ストック部111内に収容される、異なる反応容器104へ分注する。その後、反応容器搬送機構112により、各反応容器104を検出ユニット113へ移動し、上述のように反応容器104を反応容器設置部114へセットし、散乱光及び/又は透過光の強度を示す測光信号を検出する。ここで、7本の調製済検体の検体容器には、ステップS103で照合した正常血漿比率と被検者検体IDを認識し、測定結果との照合を可能にする機能を持つ。
【0037】
ところで、クロスミキシングテストにおいて通常の分析と異なるのは、一つの被検者検体に対し、複数の(この場合、7つ)APTT凝固時間を算出し、一つのグラフを作成して、診断に用いることである。即時型の測定終了後の結果表示は、例えば、
図10の実線(a)に示すように各混合血漿の正常血漿比率を横軸に、APTT凝固時間を縦軸としてプロットすることによって得られるグラフを操作部118cに表示する(ステップS113)。個別識別媒体による測定結果の照合とグラフの自動作成機能によって、操作者による測定結果の入力ミスを防ぐことができ、信頼性のある結果を提供できる。このとき、好ましくはインタフェース122を介してプリンタ123から結果を印字するのが良い。
【0038】
即時型測定後、引き続き遅延型の測定を実施する場合には(ステップS114)、即時型測定後の混合血漿(残余検体)の容器を閉栓し、37℃で一定時間インキュベーションする。インキュベーションはインキュベーター124で実施するが、インキュベーター124を有しない構成の装置の場合は、装置外で実施する。ここでは、装置の省スペース化、低コスト化を目的として装置にインキュベーター124は設けず、装置外でインキュベーションする場合について説明する。装置では測定終了時刻を起点とし、インキュベーション時間をカウントする。この時、操作者はインキュベーション時間を予め設定しておくことによって、操作画面からインキュベーションの終了時刻を知ることができる。また、好ましくは、インキュベーション終了時刻に近づいたときにインキュベーションの終了を知らせる表示を出力する(スッテプS115)。これによって、操作者は、インキュベーション中の検体の状況を把握し、忘れずに測定することができる。操作者はインキュベーションを終えた混合血漿を開栓し、検体ディスク102へ設置し、測定スタートボタンを押下する。測定スタートボタンが押下されると(ステップS116)、検体ディスク102の回転により、
図5に示した操作画面にて指定されたポジションに設置された混合血漿IDを読み込み、ステップS103で照合した正常血漿比率と被検者検体IDを認識し、依頼項目を照合し(ステップS117)、遅延型の測定を実施する(ステップS118)。測定を終えると 、
図10の実線(b)で示す遅延型のグラフを作成し(ステップS119)、即時型の結果との照合を行う(ステップS120)。この時、
図2のように即時型及び遅延型のグラフを1つに合成しても良く、又は、それぞれ異なる2つのグラフに分割して表示しても良い。
【0039】
以上のように、本実施例によれば、混合血漿の作製、即時型/遅延型の分析、即時型/遅延型の結果照合が自動で実行されるため、操作者の熟練度による測定結果のばらつきや、人為的な検体取違いなどのミスをなくし、より信頼性を高めることが可能となる。
また、操作者の負担が軽減され、迅速に結果を得ることが可能となる。
更にまた、被検血漿と正常血漿とを所定の混合比にて得られる混合血漿の調製を自動化可能とする自動分析装置及び自動分析方法を実現できる。