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特開2022-59208メカノケミカル状態の判定方法、メカノケミカル化したフライアッシュの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059208
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】メカノケミカル状態の判定方法、メカノケミカル化したフライアッシュの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/06 20060101AFI20220406BHJP
   B09B 3/20 20220101ALI20220406BHJP
【FI】
G01N27/06 Z
B09B3/00 301N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166800
(22)【出願日】2020-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田島 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】甚野 智子
(72)【発明者】
【氏名】人見 尚
(72)【発明者】
【氏名】田口 信子
(72)【発明者】
【氏名】白井 孝
(72)【発明者】
【氏名】辛 韵子
【テーマコード(参考)】
2G060
4D004
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AA19
2G060AC02
2G060AF08
2G060HC10
4D004AA37
4D004BA01
4D004BA02
4D004CA04
4D004CB13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フライアッシュがメカノケミカル状態となっているかどうか容易に判定できる判定方法を提供する。
【解決手段】判定方法は、フライアッシュの懸濁液の電気伝導率を計測することによって、前記フライアッシュがメカノケミカル状態であるかどうかを判定する。また、前記電気伝導率の残存率が基準値以下であるときに、前記フライアッシュがメカノケミカル状態であると判定する。また、前記基準値は、前記フライアッシュに対するメカノケミカル処理を実施する過程における、前記残存率の減少率が所定値以下になるときの前記残存率に基づいて設定される。また、前記基準値は30%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュの懸濁液の電気伝導率を計測することによって、前記フライアッシュがメカノケミカル状態であるかどうかを判定する、判定方法。
【請求項2】
前記電気伝導率の残存率が基準値以下であるときに、前記フライアッシュがメカノケミカル状態であると判定する、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記基準値は、前記フライアッシュに対するメカノケミカル処理を実施する過程における、前記残存率の減少率が所定値以下になるときの前記残存率に基づいて設定される、請求項2に記載の判定方法。
【請求項4】
前記基準値は30%以下である、請求項2または3に記載の判定方法。
【請求項5】
前記フライアッシュに対してメカノケミカル処理を実施する処理工程と、
請求項1から4のいずれか1項に記載の判定方法を用いて前記フライアッシュがメカノケミカル状態に到達したかどうか判定する判定工程と、を含み、
前記判定工程においてメカノケミカル状態に到達したと判定したときに前記処理工程を終了する、メカノケミカル化したフライアッシュの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰(フライアッシュ)を原料とする自硬性材料に対する、メカノケミカル状態の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、メカノケミカル処理を施したフライアッシュを原料とする自硬性材料の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6347512号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】地盤工学会「土質試験の方法と解説」改訂編集委員会:土質試験の方法と解説(第一回改訂版)、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術を用いてメカノケミカル処理を実行する場合、フライアッシュがメカノケミカル状態となっているかどうかの判定が困難であった。
【0006】
上記課題に鑑み、フライアッシュがメカノケミカル状態となっているかどうか容易に判定できる判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では一態様としてフライアッシュの懸濁液の電気伝導率を計測することによって、前記フライアッシュがメカノケミカル状態であるかどうかを判定する、判定方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フライアッシュがメカノケミカル状態となっているかどうか容易に判定できる判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】試験1におけるフライアッシュのX線回折分析結果である。
図2】試験1におけるフライアッシュの粒度分布である。
図3】試験1における(a)Al、Si溶出量、及び(b)試験結果まとめである。
図4】試験2におけるフライアッシュの粒度分布である。
図5】試験2におけるフライアッシュの化学組成である。
図6】試験2における(a)X線回折分析結果、及び(b)摩砕時間とピーク強度の関係である。
図7】試験2における摩砕時間と非晶質率の関係である。
図8】試験2における摩砕時間とpH、ECの測定結果である。
図9】試験2における、(a)摩砕時間とpHの測定結果(混合30分後)及び、(b)摩砕時間とECの測定結果(混合30分後)である。
図10】試験2における摩砕時間とSi溶出量、Al溶出量の関係である。
図11】試験2における(a)電気伝導率残存率、(b)電気伝導率残存率の減少率、及び(c)測定値のまとめである。
図12】灰種B~灰種FのEC残存率及びEC残存率減少率である。
図13】灰種B~FのEC残存率の時間変化である。
図14】10%の尤度を考慮した、灰種毎のメカノケミカル処理終了基準値である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態による、フライアッシュのメカノケミカル状態の判定方法について、図1図14を用いて以下に説明する。
【0011】
<概要>
石炭灰(フライアッシュ)に対するメカノケミカル処理は、一般に、フライアッシュをボールミルなどで摩砕することにより行われる。フライアッシュに摩砕処理を実行すると、灰粒子が粉砕され、表面が活性化するメカノケミカル現象が生じる。この摩砕処理灰に高アルカリのケイ素スラリーを混合すると短時間で硬化することから、これをセメント不使用コンクリートとして利用することが考えられる。
【0012】
メカノケミカル処理の過程において、フライアッシュの表面が活性化したメカノケミカル状態となったかどうか、すなわちメカノケミカル化したかどうかを正確に判断することは、工程管理及び品質管理上において重要である。
【0013】
フライアッシュのメカノケミカル化を判定する方法として、X線回折による構成鉱物の変化、高アルカリ溶液によるAl、Siの溶出量の測定などが従来から用いられている。しかしいずれの測定も、時間と手間を要するものである。
【0014】
そのため以下では、従来に代わる方法として、フライアッシュの電気伝導率(electrical conductivity, EC)の測定による方法を提案する。
【0015】
<試験1:メカノケミカル化したフライアッシュの特徴>
メカノケミカル化したフライアッシュの物理的及び科学的特性を把握するため、ボールミルを用いたメカノケミカル処理(試験1)を以下のように実行した。
【0016】
メカノケミカル処理は、フライアッシュを摩砕処理することによって実行した。用いたフライアッシュは、灰種Aである。摩砕装置は遊星型ボールミル(フリッチュ製、P-5)を用いた。
【0017】
メカノケミカル処理は、フライアッシュ50gに対して、ボール500gをポットに入れ、フライアッシュを6時間摩砕することによって実行した。150(rpm、回転/分)から400rpmまで、50rpmずつ遊星型ボールミルの回転数を変えることにより、6種類の処理を実行した。このように試験1では、摩砕時間を一定とし、ボールミルの回転数を変えていることから、回転数が大きいほど、メカノケミカル処理の度合いは大きいことになる。
【0018】
摩砕処理を行ったフライアッシュ、及び未処理のフライアッシュ(原灰)について、X線回折分析、粒度分布測定を行い、さらに、アルカリ溶液へのAl、Si(アルミニウム、ケイ素)溶出量および摩砕処理灰のpH、ECを測定した。
【0019】
X線回折分析の結果を図1に示す。フライアッシュには結晶鉱物として石英とムライトのピークが検出された。回転数200rpmでは未処理に比べて、石英のピークが小さくなっている。これは石英の結晶構造が破壊されたことを示唆している。さらに回転数が大きくなるとムライトのピークが小さくなり、ムライトの結晶構造が破壊されたことを示唆している。
【0020】
原灰と摩砕処理したフライアッシュの粒子径分布の測定結果を図2に示す。測定には、マイクロトラック・ベル社:粒度分布測定装置 MT3300 EXIIを用いた。原灰は分布形状が広く、粒径70μm(マイクロメートル)付近にピークがある。摩砕すると粒径が小さくなり、粒径2μm近傍にピークが見られる。回転数が200~350rpmまでは回転数が大きいほど平均粒径は小さくなったが、400rpmの平均粒径は200rpmよりも大きくなり、粒子が再凝集したことが考えられる。
【0021】
摩砕処理灰は、高アルカリのケイ素スラリーと接触することにより、灰からAlやSiが溶出してこれが基になって硬化体を形成する。つまり、硬化体になるためには、AlやSiが灰から溶出することが重要となる。摩砕処理灰をアルカリ溶液と混合して、溶出した元素の濃度をICP発光分析装置で測定した。測定手順を以下に示す。
1.粉末0.2g+3M KOH溶液 20ml(ミリリットル)混合
2.シェーキングバスで24hr反応
3.15000rpmで20分超遠心分離
4.上澄みを200nm 親水PTFE Membrane Filterで濾過
5.純水で30倍希釈
6.測定
【0022】
Al、Siの測定結果を図3(a)に示す。Al溶出量は摩砕によって増加したが、回転数150、200、250rpmでの溶出量はほぼ同じであった。300rpmを超えると回転数が大きいほど溶出量が増大した。ムライトの結晶構造が破壊されたことにより、Al溶出量が増大したと推定される。
【0023】
Si溶出量も摩砕によって増加し、回転数150、200、250rpmはほぼ同じであった。300rpm以上では回転数が大きいほど溶出量が増大した。X線回折分析結果と照合すると、250rpmまでは主に石英(SiO)からの溶出、300rpmからは主にムライト(Al13Si)からの溶出と推定される。
【0024】
地盤工学会基準「土懸濁液のpH試験方法」(JGS0211-2000)及び「土懸濁液の電気伝導率試験方法」(JGS0212-2000)(非特許文献1)の方法に基づいてpHとECを測定した。具体的には、試料(フライアッシュ)と水を質量比1:5で混合・撹拌し、懸濁液を30分静置した後に測定した。静置30分後の測定結果を図3(b)に示す。pH、ECともに、摩砕1時間から3時間まで著しく低下し、それ以降は緩やかに低下した。pHの低下は、水酸化物イオンOHの減少を、ECの低下は、水溶性イオンの量が減少していることをそれぞれ示唆している。
【0025】
ECは回転数が大きいほど低下した。具体的には、回転数が200rpmまで著しく低下し、250~300rpmの間でもかなりの低下が見られた。300rpm以上はさほど低下しなかった。
【0026】
図3(b)にまとめるように、回転数250~300rpmを境にして、この回転数以上になると、以下の特徴が表れた。
・粉体の色が黒色になった
・ムライトの結晶ピークの低下が著しくなってきた
・高アルカリ溶液への、AlとSiの溶出量が増加し始めた
・ECが著しく低下した
【0027】
図3(a)、(b)に示すように、300rpm以上になると、AlとSiの溶出量が増加しており、300rpm以上の試験結果では、いずれもフライアッシュがメカノケミカル化したことが分かる。
【0028】
フライアッシュがメカノケミカル化してAlとSiの溶出量が増加するのに伴い、ECが低下することも分かる。フライアッシュからのAlとSi溶出量が増加し始める変化点と、ECの変化点とが略一致していることから判断すると、ECは、フライアッシュがメカノケミカル化したかどうか、すなわちメカノケミカル状態に達したかどうかを判定する指標になりうると考えられる。
【0029】
<試験2:ECとメカノケミカル化との関係>
ECとフライアッシュの状態との関係を、特に処理時間との関係をより詳細に調べるため、以下の試験(試験2)を行った。
【0030】
この試験では、回転数を一定として摩砕時間を変え、Al、Si溶出量とECとの関係を調べた。具体的に、使用した石炭灰は、灰種Aであり、摩砕処理には遊星型ボールミル(フリッチュ製、P-5)を用い、回転数は300rpmで一定に保った。処理時間は、1、3、6、12、24時間(試験名称:MC-1h、MC-3h、MC-6h、MC-12h、MC-24h)の5種類とした。
【0031】
原灰は黄色を帯びた灰色であったが、1時間摩砕すると灰色が濃くなった。さらに摩砕すると、3時間で黒灰色に変化した。
【0032】
レーザー回折式の粒度分布測定装置(マイクロトラック社 MT3000II)を用いて、粒度分布を測定した。結果を図4に示す。原灰は、粒子径40μm付近でピークがあったのが、摩砕によって細粒化し、粒子径2~3μmにピークが認められる。MC-3hで粒子径40μm付近にもピークが現れ、粒子径分布が二つ山になり始めた。MC-24hで粒子径40μm付近のビークが大きくなり、微粉砕された粉体が凝集したことが示唆された。
【0033】
波長分散型蛍光X線分析装置(島津製作所 XRF-1800)により、原灰および摩砕処理したフライアッシュの化学組成を求めた。摩砕時間別の各元素の存在割合を図5に示す。化学組成は、ケイ素が約61%、アルミニウムが約22%、次いで鉄が6%、カルシウムが4%、チタン、カリウム、ナトリウムがそれぞれ1%程度であった。マグネシウムは原灰が1.15%に対し、摩砕1時間~24時間は1.5%程度で少し増加した。原灰、MC-1h~MC-24hの主な化学組成比はほぼ同じで、摩砕処理によってほとんど変化していない。
【0034】
原灰および摩砕処理灰のX線回折図を図6(a)に示す。分析には、X線回折分析装置(リガク SmartLab)を用いた。図6(a)に示すように、結晶鉱物として石英とムライトが検出された。摩砕処理によっていずれの処理時間においてもピーク強度が低下したことが分かる(図6(b))。
【0035】
定量分析結果を基に非晶質の存在割合を算出した。摩砕時間と非晶質の割合の関係を図7に示す。原灰の非晶質割合が69%であったのが、MC-3hが77%に増加し、その後は徐々に非晶質の割合が増加した。
【0036】
地盤工学会基準「土懸濁液のpH試験方法」(JGS0211-2000)及び「土懸濁液の電気伝導率試験方法」(JGS0212-2000)(非特許文献1)の方法に準じて、pHとECを測定した。具体的には、試験1と同様、試料(フライアッシュ)と水を質量比1:5で混合・撹拌し、懸濁液を30分、または1時間静置した後に測定した。
【0037】
懸濁液の測定結果を図8及び図9に示す。pH、ECともに、摩砕1時間から3時間まで著しく低下し、それ以降は緩やかに低下した。pHの低下は、水酸化物イオンOHの減少を、ECの低下は、水溶性イオンの量が減少していることをそれぞれ示唆している。
【0038】
SiとAlの溶出量の測定を、試験1と同様の手順で行った。図10に示すように、Si溶出量は、摩砕時間1時間(MC-1h)で急激に増加し、12時間(MC-12h)で最大になった。また、24時間(MC-24h)ではやや低下した。
【0039】
Alについても、摩砕時間1時間(MC-1h)で急激に増加し、12時間(MC-12h)で最大になり、24時間(MC-24h)でやや低下した。この傾向はSiに類似していた。
【0040】
SiとAlの溶出量がMC-1hで急激に増加した。このことは、前述のX線回折分析で示したように、石英(SiO)とムライト(Al13Si)のピークが急激に低下、つまり、これらの結晶構造が崩壊してSiとAlがアルカリ溶液に溶出しやすくなったためと推定される。なお、SiもAlも摩砕6時間の溶出量がやや低くなったことは、前述の粒度分析で6時間の二つ目の山がやや小さくなったことに関連があると考えられる。
【0041】
SiとAlの溶出量は、いずれも摩砕時間1時間で著しく増加し、3時間で溶出量がピークに達している。ピーク強度の低下の傾向に関しても同様に、試験1で確認した、メカノケミカル化したフライアッシュの特徴が表れた。フライアッシュの色についても3時間で黒灰色になっている。これより、ボールミル粉砕装置「フリッチュP-5」を使用した場合、300rpm3時間の処理で、灰種Aはメカノケミカル状態に到達すると判断できる。
【0042】
Si、Al溶出量の低下に呼応し、ECは摩砕時間1時間で著しく低下し、3時間以降において一定の値に収束していることが分かる。ECは、メカノケミカル処理の過程で減少することが分かる。また、フライアッシュがメカノケミカル化すると、ECの減少率が低下し、ECが一定の値に収束することが分かる。
【0043】
ECの時間変化、原灰のECに対する比率(EC残存率)、および、EC残存率の時間当たりの減少率(EC残存率の減少率)を、図11に示す。図11(c)では、EC残存率の減少率は、1つ前の測定時点からその時点までの時間変化率として示した。上述の通り、EC残存率の減少率が3時間以降非常に小さいことから、処理3時間経過時において、フライアッシュがメカノケミカル化し、ECの減少がほぼ収束したことがわかる。
【0044】
図11(c)に網掛けで示すように、フライアッシュがメカノケミカル状態となった、摩砕処理3時間におけるEC残存率は8.8%であった。また、処理時間1時間~3時間におけるEC残存率の減少率は5.13%/h(時間)であるのに対し、処理時間3時間~6時間におけるEC残存率の減少率は0.28%/hに低下した。
【0045】
この結果をまとめると、フライアッシュがメカノケミカル状態に到達したと判定するために、EC残存率が一定以下に収束したことを基準とすることが可能と考えられる。具体的には、EC残存率減少率が収束したときのEC残存率を、メカノケミカル化したことの判定に用いる基準値として、またはメカノケミカル処理を終了するための基準値として採用することが考えられる。
【0046】
試験2の結果を用いた場合、処理時間3時間~6時間でのEC残存率の減少率が2%/h以下まで収束していることから、処理時間3時間におけるEC残存率を基準値として設定することが考えられる。処理3時間でのEC残存率は8.8%であるから、メカノケミカル処理終了の基準値は、EC残存率8.8%とすることとなる。
【0047】
また、過剰なメカノケミカル処理が負の効果をもたらしてしまうことを考慮し、上記の基準に一定の尤度を加えてもよい。試験2の結果を用いれば、処理3時間でのEC残存率は8.8%であるから、このEC残存率8.8%に測定の誤差などを考慮して10%の尤度を加え、処理終了の基準値をEC残存率9.7%とすることが考えられる。
【0048】
このような基準値を用いた場合、灰種Aのフライアッシュに対してメカノケミカル処理を行う場合、EC残存率が9.7%以下となったときに処理を終了すればよいことになる。
【0049】
<条件設定の確認>
石炭灰の物理化学性状は、原炭の産地やボイラーの燃焼方式によって異なる。そこで、試験2の結果から得られた知見を異なる灰種に対しても適用し、基準値の具体的な数値を設定するとともに、その妥当性を確認した。
【0050】
他の灰種を用いた場合においても、メカノケミカル化を判定するための基準を策定するため、灰種Aとは異なるフライアッシュを用いて、試験2と同様のメカノケミカル処理(ボールミル摩砕処理、300rpm)を実行し、EC等の測定結果を比較した。使用したフライアッシュの種別は、灰種B~灰種Fの5種類である。
【0051】
試験の結果を図12及び図13に示す。図12においては、2%/h以下になった時点でのEC残存率の減少率を下線で示す。また、EC残存率の減少率が収束した時点での、EC残存率を網掛けで示す。
【0052】
図12及び図13を参照すると、いずれの灰種に関しても、灰種Aの場合と同様に、3時間または6時間経過時において、EC残存率減少率は2%/h以下に低下し、EC残存率が収束していることが読み取れる。特に図13を参照すると、いずれの灰種においてもEC残存率減少率が2%/h以下になるときにグラフが大きく折れ曲がり、電気伝導率の値及び残存率が収束していることが分かる。収束時におけるEC残存率の最大値は28.9%(灰種F、処理3時間)であった。
【0053】
試験1、2での灰種Aの試験結果、及び灰種B~灰種Fの試験結果を考慮すると、メカノケミカル化を判定するための基準値は「EC残存率の減少率が所定値以下となったときのEC残存率」として設定できることが分かる。ただし、この基準値は、灰種Fの試験結果を踏まえ、30%を上限とすることが好ましい。
【0054】
EC残存率の減少率を判断するための上記「所定値」は、灰種A及び灰種B~灰種Fの試験結果より、ボールミルを用いた300rpmでの摩砕処理において、2%/hと設定できる。
【0055】
この基準値には、尤度を考慮してもよい。図14には、EC残存率の減少率が2%/h以下に低下したときのEC残存率を灰種毎に取得し、さらに尤度10%を加えることにより設定した基準値をまとめた。
【0056】
一例として、図14の基準値を使用し、灰種Bのフライアッシュに対してメカノケミカル処理を実施するケースを考えてみる。この場合、メカノケミカル処理の過程において都度サンプリングを行ってECを測定すればよい。EC残存率が16.2%以下となったとき、フライアッシュはメカノケミカル化したと判定し、メカノケミカル処理を終了することが可能である。
【0057】
このような方法を採用すれば、必要以上に処理時間を延ばす虞がないため、効率よくフライアッシュをメカノケミカル化することが可能となる。
【0058】
<効果>
上記実施形態において、フライアッシュの懸濁液の電気伝導率を計測することによって、前記フライアッシュがメカノケミカル状態であるかどうかを判定する、判定方法を用いた。
【0059】
上記の方法を用いることにより、X線回折による構成鉱物の変化、高アルカリ溶液によるAl、Siの溶出量の測定などの従来の判定方法と比較し、容易に、または短時間で、フライアッシュがメカノケミカル状態か否か判定することが可能である。
【0060】
上記実施形態では、電気伝導率の残存率が基準値以下であるときに、フライアッシュがメカノケミカル状態であると判定する方法が用いられる。この基準値は、フライアッシュに対するメカノケミカル処理を実施する過程において、電気伝導率の残存率減少率が所定値以下に到達したときの、電気伝導率の残存率として設定される。この所定値は、一例として2%/時間である。
【0061】
このような基準値を用いることによって、メカノケミカル状態か否かの判定を正確に行うことが可能となる。
【0062】
上記実施形態では、フライアッシュに対してメカノケミカル処理を実施する処理工程と、フライアッシュがメカノケミカル状態に到達したかどうか判定する判定工程とを含み、判定工程においてメカノケミカル状態に到達したと判定したときに処理工程を終了する、メカノケミカル化したフライアッシュの製造方法が提案される。
【0063】
このような方法を用いることにより、必要以上にメカノケミカル処理時間を延ばすことなく、効率よくメカノケミカル状態のフライアッシュを製造することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14