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特開2022-59336磁性化細胞および磁性化細胞の誘導方法
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  • 特開-磁性化細胞および磁性化細胞の誘導方法 図1
  • 特開-磁性化細胞および磁性化細胞の誘導方法 図2
  • 特開-磁性化細胞および磁性化細胞の誘導方法 図3
  • 特開-磁性化細胞および磁性化細胞の誘導方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059336
(43)【公開日】2022-04-13
(54)【発明の名称】磁性化細胞および磁性化細胞の誘導方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220406BHJP
   C12N 13/00 20060101ALI20220406BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220406BHJP
   A61K 35/12 20150101ALN20220406BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N13/00
A61P19/02
A61K35/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167006
(22)【出願日】2020-10-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・刊行物名 「第28回MAGDAコンファレンス講演論文集」 発行日 令和1年10月30日 発行者 第28回MAGDAコンファレンスin 大分 実行委員会 ・研究集会名 第28回MAGDAコンファレンス 開催場所 ホルトホール大分 開催日 令和1年10月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム(START)、プロジェクト支援型「変形性膝関節症を対象とした骨髄間葉系幹細胞の磁気ターゲッティングによる軟骨再生治療の事業化」に関する研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】亀井 直輔
(72)【発明者】
【氏名】越智 光夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 義和
(72)【発明者】
【氏名】平見 尚隆
【テーマコード(参考)】
4B033
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B033NG05
4B033NH06
4B033NJ02
4B033NK05
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB03
4B065CA44
4C087AA03
4C087BB63
4C087MA67
4C087NA13
4C087ZA96
(57)【要約】
【課題】磁性化細胞を、磁場の印加により効率的に誘導できる技術を提供する。
【解決手段】磁性化細胞は、酸化鉄を含有し、酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄を含有し、前記酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である、磁性化細胞。
【請求項2】
前記含有量が、125pg/cell以下である、請求項1に記載の磁性化細胞。
【請求項3】
酸化鉄を含有し、前記酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である磁性化細胞に対して、磁束密度が0.1T以上の磁場を印加することによって前記磁性化細胞を所望の位置へ誘導する工程を含む、磁性化細胞の誘導方法。
【請求項4】
前記工程において、
前記磁場は、ソレノイドコイルを用いて発生され、
前記磁性化細胞は、動物の患部近傍に注入されており、
前記患部は、前記ソレノイドコイルの中心近傍に配置されている、請求項3に記載の磁性化細胞の誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場を印加することにより誘導可能な磁性化細胞およびその誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞と磁性粒子とを複合させて磁性化した細胞に磁場を印加して、磁性化した細胞を患者の体内の特定の部位に集積させることにより、当該部位の損傷の再生等を行う技術の開発が進められている。このような技術は、磁気ターゲティングとも呼ばれる。例えば、特許文献1および特許文献2には、磁気ターゲティングに利用可能な磁場誘導装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-151605号公報
【特許文献2】特開2020-039557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、どのような条件で磁性化された細胞であれば、磁場の印加によって効率的に所望の位置に誘導し、滞留させることができるかについては不明である。
【0005】
本発明の一態様は、磁性化細胞を、磁場の印加により効率的に誘導し、滞留させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁性化細胞は、酸化鉄を含有し、前記酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である。前記の構成によれば、磁場の印加によって、磁性化細胞を所望の位置に誘導し、滞留させることができる。
【0007】
本発明の一態様に係る磁性化細胞は、前記含有量が、125pg/cell以下であってもよい。前記の構成によれば、このような量の酸化鉄を含有する磁性化細胞を容易に作製できる。
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁性化細胞の誘導方法は、酸化鉄を含有し、前記酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である磁性化細胞に対して、磁束密度が0.1T以上の磁場を印加することによって前記磁性化細胞を所望の位置へ誘導し滞留させる工程を含む。
【0009】
本発明の一態様に係る磁性化細胞の誘導方法は、前記工程において、前記磁場は、ソレノイドコイルを用いて発生され、前記磁性化細胞は、動物の患部近傍に注入されており、前記患部は、前記ソレノイドコイルの中心近傍に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、磁性化細胞を、磁場の印加により効率的に誘導できる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る磁性化細胞を用いて、膝軟骨の損傷を再生する方法の一例を示す図である。
図2】実施例1~4に係る磁性化細胞に対して磁場を印加する前の状態を示す図である。
図3】実施例1~4に係る磁性化細胞に対して磁場を印加し、定常状態に達した状態を示す図である。
図4】実施例5および比較例1、2に係る磁性化細胞に対して磁場を印加した時の、磁性化細胞の誘導速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図1を参照して説明する。本実施形態に係る磁性化細胞は、酸化鉄を含有し、当該酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である。このような磁性化細胞は、酸化鉄を含有していることで、磁場の作用によって位置が誘導される性質を有する。本明細書では、上述のように酸化鉄を含有している動物細胞について「磁性化細胞」と称する。
【0013】
(磁性化細胞)
磁性化細胞は、酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である。従来、どのような磁性化細胞であれば、磁場の印加により所望の位置に誘導することができるかについて、詳細な知見がなかった。本発明者らは、過度に強い磁場を発生させることなく、例えば磁束密度が0.1Tの磁場により誘導可能となる条件として、磁性化細胞が、1細胞あたり35pg以上の鉄を含む酸化鉄を含有していればよいことを見出した。
【0014】
磁性化細胞における、酸化鉄に由来する鉄の含有量は、35pg/cell以上であればよく、40pg/cell以上であればより好ましく、45pg/cell以上であればさらに好ましい。
【0015】
また、磁性化細胞における酸化鉄に由来する鉄の含有量の上限は、磁性化細胞の機能を損なわず、かつ磁性化細胞を導入した動物に健康上の有害事象を発生させない限りにおいて、特に制限されない。このような観点から、磁性化細胞における酸化鉄に由来する鉄の含有量は、例えば、1ng/cell以下であってもよく、500pg/cell以下であってもよく、250pg/cell以下であってもよく、200pg/cell以下であってもよく、150pg/cell以下であってもよく、125pg/cell以下であってもよい。
【0016】
磁性化細胞が含有する酸化鉄は、超常磁性を示すことが好ましい。酸化鉄が超常磁性を示すものであれば、磁性化細胞が含有する酸化鉄の量が多いほど、磁場の印加による誘導力が酸化鉄に対して効率的に作用する。したがって、磁場の印加による磁性化細胞の誘導・滞留が容易となる。
【0017】
磁性化細胞が含有する酸化鉄は、水溶性多糖類により被覆されたものであることが好ましい。酸化鉄を被覆する水溶性多糖類としては、例えば、デキストラン、デキストリン、セルロース、ヒアルロン酸、ゼラチン、マンナン、プルランおよびコンドロイチン硫酸が挙げられる。なかでも、カルボキシデキストランが好ましい。酸化鉄を被覆する水溶性多糖類は、これらのうちの1種であってもよく、2種以上が混合したものであってもよい。このような水溶性多糖類であれば、安価かつ容易に酸化鉄を被覆でき、また、酸化鉄の細胞への悪影響を効果的に防止できる。
【0018】
このような水溶性多糖類に被覆された酸化鉄の具体例としては、フェルカルボトランを挙げることができる。フェルカルボトランは、マグヘマイト(γ-Fe)がカルボキシデキストランにより被覆された酸化鉄粒子である。フェルカルボトランは、MRI(Magnetic Resonance Imaging)用造影剤として臨床で使用されており、人体に対しての安全性が確立している点において、磁性化細胞が含有する酸化鉄として好ましい。また、フェルカルボトランは超常磁性を示す点においても、磁性化細胞が含有する酸化鉄として好ましい。
【0019】
磁性化細胞は、注射等により動物の体内に注入される際に、輸液に懸濁されていることが好ましい。このような輸液としては、等張電解質輸液であることが好ましく、例えば、生理食塩水、リンゲル液またはブドウ糖液であってよい。輸液は、これらのうちの1種であってもよく、2種以上が混合したものであってもよい。
【0020】
(磁性化細胞の利用例)
磁性化細胞のホストとなる動物細胞は、動物由来の細胞であれば特に制限されない。ここで、磁性化細胞を利用する一例として、ホストとなる動物細胞が骨髄由来の間葉系幹細胞(以下、「骨髄MSC」と称する)である場合について説明する。
【0021】
人体の関節に含まれる軟骨が、その近傍に位置する骨の表層と共に剥がれることにより生じる軟骨損傷は、自然には極めて再生しにくい。このような軟骨損傷を再生させるためには、軟骨または骨を再生させる機能を有する細胞を患部に集積させることが有効である。このような細胞としては、例えば、骨髄MSCが知られている。
【0022】
図1には、膝軟骨の損傷を再生する方法の一例を示している。従前から、骨髄MSCは、膝軟骨の損傷部位に集積させることで、膝軟骨の再生効果を示すことが知られている。しかしながら、骨髄MSCを膝軟骨の損傷部位(患部)近傍に注入するだけでは、軟骨の再生は起こりにくい。これは、注入した骨髄MSCが膝軟骨の損傷部位に集積せず、体内で分散してしまうことが原因であると考えられる。
【0023】
一方、骨髄MSCをホストとする磁性化細胞は、磁場の印加により所望の位置に誘導することが可能であるという特性を有する。したがって、図1に示すように、骨髄MSCをホストとする磁性化細胞を膝軟骨の損傷部位近傍に注入するとともに、当該磁性化細胞が損傷部位に誘導されるように磁場を印加すれば、磁性化細胞は効率的に損傷部位に集積する。したがって、このような磁性化細胞によれば、膝軟骨の損傷を非常に効率的に再生できる。
【0024】
また、磁性化細胞は、磁場の印加開始後数秒から遅くとも数分以内に、損傷部位に誘導される。臨床では、約10分以内に骨髄MSC等が患部へ集積されることが求められているが、本実施形態に係る磁性化細胞であれば、より素早く磁性化細胞を患部へ誘導し、集積させることが可能である。
【0025】
なお、磁性化細胞のホストとなる動物細胞の種類は、骨髄MSCに限られず、例えば、骨髄以外に由来する間葉系幹細胞であってもよく、間葉系幹細胞以外の幹細胞であってもよい。幹細胞の種類は、再生する損傷部位によって、適切な種類が選択されてよい。また、磁性化細胞の用途は、動物の体内における損傷の再生に限られるものではない。例えば、磁性化細胞をマーカーとして利用する目的で、当該磁性化細胞を動物の体内における特定の臓器近傍等に蓄積させてもよい。したがって、磁性化細胞のホストとなる動物細胞は、幹細胞以外の種類の細胞であってもよい。
【0026】
動物細胞は、ヒト細胞であってもよく、ヒト以外の哺乳動物細胞であってもよく、それ以外の動物細胞であってもよい。
【0027】
(磁性化細胞の製造方法)
磁性化細胞の製造方法は、特に限定されないが、例えば、磁性化細胞のホストとなる動物細胞を培養している培地中に酸化鉄を添加して、所定の時間培養する方法であってよい。酸化鉄の添加量および培養時間については、磁性化細胞のホストとなる動物細胞の種類、酸化鉄の種類、培地の種類、培養中の細胞数等により、適宜適切な添加量および培養時間を選択すればよい。動物細胞が、エンドサイトーシス等の機構によってこのような酸化鉄を細胞内に取り込むことで、磁性化細胞が得られる。
【0028】
(磁性化細胞の誘導方法)
本実施形態に係る磁性化細胞の誘導方法は、酸化鉄を含有し、当該酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である磁性化細胞に対して、磁束密度が0.1T以上の磁場を印加することによって磁性化細胞を所望の位置へ誘導し、滞留させる工程を含む。
【0029】
磁性化細胞の誘導および滞留には、磁束密度が0.1T以上の磁場を印加すれば足りる。磁束密度が0.1T以上の磁場であれば、種々の磁場発生源を用いて発生させることが容易である。磁場発生源としては、例えば、ソレノイドコイル、超電導コイル、超電導磁石および永久磁石が挙げられる。
【0030】
磁場発生源としては、ソレノイドコイルを用いることが好ましい。この場合、発生させる磁場は0.1T以上であればよいため、ソレノイドコイルに印加する電流を過度に大きくする必要が無い。また、ソレノイドコイルは、磁場の向きを患部に対して直交させやすい。また、ソレノイドコイルは、中空部に患部を挿入できる設計としてもよい。このような設計であれば、患部に対するソレノイドコイルの相対位置を調整しやすいため、磁性化細胞の誘導方向を容易に調整できる。例えば、ソレノイドコイルの中心は最も磁場が強いため、患部が当該中心近傍に配置されるようにソレノイドコイルの位置を調整することで、患部への磁性化細胞の誘導および滞留が容易となる。
【0031】
言い換えれば、本実施形態に係る磁性化細胞の誘導方法は、前記の工程において、磁場は、ソレノイドコイルを用いて発生され、磁性化細胞は、動物の患部近傍に注入されており、当該患部は、ソレノイドコイルの中心近傍に配置されていることが好ましい。なお、ソレノイドコイルを備えた磁場発生源としては、例えば、特許文献1または特許文献2に開示された磁場誘導装置を用いてよい。
【0032】
磁性化細胞に印加される磁場は、磁束密度が0.1T以上であればよく、0.15T以上であればより好ましく、0.2T以上であればさらに好ましい。印加される磁場が強いほど、磁性化細胞の誘導および滞留が容易となる。ただし、磁場発生源としてソレノイドコイル等を用いる場合には、強い磁場を発生させるためには大きな電流を印加する必要がある。必要以上の電力消費を回避する観点から、磁性化細胞に印加される磁場は、磁束密度が1T以下であってもよく、0.5T以下であることが好ましく、0.3T以下であることがより好ましく、0.2T以下であることがさらに好ましい。
【0033】
(磁性化細胞の誘導キット)
本実施形態に係る磁性化細胞の誘導キットは、酸化鉄を含有し、当該酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上である磁性化細胞を含む。磁性化細胞の構成については、上述の説明が援用可能である。
【0034】
また、本実施形態に係る磁性化細胞の誘導キットは、上述の磁性化細胞ではなく、酸化鉄を含まない状態の動物細胞と、酸化鉄とを含むものであってもよい。
【0035】
このような動物細胞は、動物由来の細胞であれば特に制限されない。動物細胞としては、例えば、骨髄MSCであってもよく、骨髄以外に由来する間葉系幹細胞であってもよく、間葉系幹細胞以外の幹細胞であってもよい。幹細胞の種類は、再生する損傷部位によって、適切な種類が選択されてよい。また、動物細胞は、幹細胞以外の種類の細胞であってもよい。また、動物細胞は、ヒト細胞であってもよく、ヒト以外の哺乳動物細胞であってもよく、それ以外の動物細胞であってもよい。
【0036】
酸化鉄は、磁性化細胞において、酸化鉄に由来する鉄の含有量が35pg/cell以上となるように、動物細胞に取り込ませることが可能なものである。酸化鉄は、超常磁性または強磁性を示すものであることが好ましい。また、酸化鉄は、デキストラン等の水溶性多糖類により被覆されたものであることが好ましい。このような酸化鉄の好ましい例としては、フェルカルボトランが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る磁性化細胞の誘導キットは、さらに、磁束密度が0.1T以上の磁場を発生可能な磁場発生源を含んでいてもよい。このような磁場発生源としては、例えば、ソレノイドコイル、超電導コイル、超電導磁石および永久磁石が挙げられる。磁場発生源としては、ソレノイドコイルが好ましい。ソレノイドコイルを備えた磁場発生源としては、例えば、特許文献1または特許文献2に開示された磁場誘導装置であってよい。
【0038】
また、本実施形態に係る磁性化細胞の誘導キットには、動物細胞の培地等の試薬、注射器等の器具、ソレノイドコイルに電流を供給する直流安定化電源等の機器、その他取扱説明書等がさらに含まれていてもよい。
【実施例0039】
〔1.磁性化細胞の磁場による誘導〕
本発明の一実施例に係る磁性化細胞について、磁束密度が約0.1Tの磁場を印加して誘導する実験を行った。
【0040】
(1-1.実験条件)
磁性化細胞に印加する磁場は、ソレノイドコイルを用いて発生させた。ソレノイドコイルは、内径200mm、外径300mm、コイル直径2mm、軸方向段数100、径方向段数20、総ターン数2000ターン、軸方向の長さ200mmとした。当該ソレノイドコイルに12Aの電流を流すことで、ソレノイドコイル端部のコイル中心で磁束密度が約0.1Tの磁場が発生する。
【0041】
磁性化細胞として、フェルカルボトランを取り込ませた骨髄MSCを作製した。フェルカルボトランの取り込みは、骨髄MSCを培養している培地中に、フェルカルボトランを添加して培養することにより行った。培養後の1細胞あたりの鉄含有量(Fe量)について、下記表1に示す。
【0042】
単位体積あたりの鉄含有量は、各サンプルを3等分して、それぞれICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析装置により測定した結果の平均値である。1細胞あたりの鉄含有量は、単位体積あたりの鉄含有量からサンプル全体の(全細胞の)鉄含有量を算出し、そこからサンプル中の細胞数により除算することで求めた。
【0043】
【表1】
【0044】
(1-2.実験結果)
図2および図3を参照して、実験結果を説明する。実施例1~4の磁性化細胞に対して、磁場を印加する前の状態を図2に、約0.1Tの磁場を印加して定常状態に達した状態を図3に示している。なお、本実験は磁性化細胞の各サンプルを生理食塩水中に懸濁した状態で行った。
【0045】
図2および図3に示すように、磁場を印加する前は、磁性化細胞は生理食塩水中に略均一に懸濁されていた。一方、ソレノイドコイルによって約0.1Tの磁場を印加すると、磁性化細胞がソレノイドコイルの軸方向に向かって誘導された。以上の結果から、本発明の一実施形態に係る磁性化細胞は、0.1T以上の磁場によって誘導可能なことが示された。
【0046】
〔2.磁性化細胞の磁場による誘導速度〕
次に、本発明の一実施例に係る磁性化細胞または比較例に係る磁性化細胞について、磁束密度が約0.1Tまたは約0.2Tの磁場を印加して、これらの細胞が磁場の誘導により移動する速度(誘導速度)を測定する実験を行った。
【0047】
(2-1.実験条件)
実施例5および比較例1、2の磁性化細胞は、骨髄MSCを培養している培地中にフェルカルボトランを添加し、それぞれ12時間培養することで作製した。下記表2に、培地中に添加したフェルカルボトランの濃度および得られた細胞中の鉄含有量を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例5および比較例1、2の磁性化細胞をそれぞれ生理食塩水中に溶解し、幅2mmの水路内に静置した。その後、これらの細胞に磁束密度が約0.1Tまたは約0.2Tの磁場を印加して、各細胞の誘導速度を測定した。
【0050】
各細胞に印加する磁場は、ソレノイドコイルを用いて発生させた。ソレノイドコイルは、内径240mm、外径404mm、幅119mm、軸方向段数29、径方向段数25、総ターン数725ターンとした。当該ソレノイドコイルに33Aの電流を流すことで、ソレノイドコイル端部のコイル中心で磁束密度が約0.1Tの磁場が発生する。また、当該ソレノイドコイルに66Aの電流を流すことで、ソレノイドコイル端部のコイル中心で磁束密度が約0.2Tの磁場が発生する。
【0051】
また、ソレノイドコイルは、ソレノイドコイルの中心軸を含む直線に沿って水路が延伸するように設置した。なお、ソレノイドコイルは、水路において各細胞が誘導される範囲には、安定して約0.1Tまたは約0.2Tの磁場が印加される設計としている。
【0052】
(2-2.実験結果)
図4を参照して、実験結果を説明する。図4は、実施例5または比較例1、2の各細胞に、それぞれ磁束密度が約0.1Tまたは約0.2Tの磁場を印加した場合の、これらの細胞がソレノイドコイルの軸方向へ誘導される誘導速度を測定した結果を示している。なお、磁場を印加しない状態での、生理食塩水中における細胞の沈降速度が0.1mm/s~0.2mm/sであった。したがって、「細胞誘導速度」が0.2mm/sを超えていれば、磁場の印加による誘導効果があったと判定した。
【0053】
図4に示すように、実施例5の磁性化細胞は、磁束密度が約0.1T以上であれば、磁場の印加による誘導効果が見られた。一方、比較例1、2の磁性化細胞は、磁束密度が約0.2Tの磁場を印加した場合は誘導効果が見られたが、磁束密度が約0.1Tの磁場を印加した場合は、誘導効果が見られなかった。磁束密度が約0.1Tの磁場を印加した群の結果から、磁性化細胞が約30pg/cell以上の鉄を含有していれば、0.2mm/sを超えた誘導速度を示すことが示唆された。したがって、35pg/cell以上の鉄を含有する磁性化細胞であれば、磁束密度が0.1T以上の磁場により安定して誘導可能であることが示された。
【0054】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態または各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、動物の再生医療等に利用することができる。
図1
図2
図3
図4