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特開2022-59797フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059797
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20220407BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
G01N21/892 A
G01N21/88 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167620
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510284200
【氏名又は名称】伊藤忠マシンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀公
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA41
2G051AB07
2G051BA10
2G051BA11
2G051BB01
2G051CA03
2G051CB01
2G051CB05
2G051CC07
(57)【要約】
【課題】フィルムを高速で搬送中にも、検出感度よくフィルムの表面欠陥を検査しうる、フィルムの表面欠陥の検査方法。
【解決手段】フィルムの表面欠陥の検査方法であって、前記フィルムは、透明樹脂層を含み、前記透明樹脂層は、前記フィルムの表面に配置され、前記方法は、前記フィルムの前記透明樹脂層に、60°以上90°未満の入射角で光を照射する工程(1)、及び前記フィルムにより反射された光を検出する工程(2)を含み、前記工程(1)で照射される光及び前記工程(2)で検出される光の一方又は両方が、S偏光である、表面欠陥の検査方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの表面欠陥の検査方法であって、前記フィルムは、透明樹脂層を含み、前記透明樹脂層は、前記フィルムの表面に配置され、前記方法は、前記フィルムの前記透明樹脂層に、60°以上90°未満の入射角で光を照射する工程(1)、及び前記フィルムにより反射された光を検出する工程(2)を含み、前記工程(1)で照射される光及び前記工程(2)で検出される光の一方又は両方が、S偏光である、表面欠陥の検査方法。
【請求項2】
前記工程(1)で照射される光がS偏光である、請求項1に記載の表面欠陥の検査方法。
【請求項3】
前記工程(2)で検出される光がS偏光である、請求項1又は2に記載の表面欠陥の検査方法。
【請求項4】
前記工程(1)及び工程(2)を、前記フィルムを搬送しながら行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の表面欠陥の検査方法。
【請求項5】
前記フィルムの搬送が、速度10m/min以上200m/min以下で行われる、請求項4に記載の表面欠陥の検査方法。
【請求項6】
前記フィルムの前記透明樹脂層に照射される光と、前記フィルムの前記透明樹脂層により反射される光のうち正反射光とにより規定される入射面が、前記フィルムの搬送方向と平行である、請求項4又は5に記載の表面欠陥の検査方法。
【請求項7】
検査対象であるフィルムの表面に、60°以上90°未満の入射角で光を照射可能な位置に設けられた、光照射部と、前記フィルムによって反射された光を検出可能な位置に設けられた、光検出部とを含み、前記光照射部がS偏光を照射可能であるか、若しくは、前記光検出部がS偏光を検出可能であるか、又は、前記光照射部がS偏光を照射可能でありかつ前記光検出部がS偏光を検出可能である、フィルムの表面欠陥の検査装置。
【請求項8】
前記光照射部と前記光検出部とが、前記フィルムの搬送方向に沿って配置されている、請求項7に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象に光を照射し、反射光により検査対象が有する欠陥を検査する方法として、特許文献1~6の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-097873号公報
【特許文献2】特開2001-194313号公報
【特許文献3】特開2009-139355号公報
【特許文献4】特開2017-067664号公報
【特許文献5】特開2006-098090号公報
【特許文献6】特開2003-344301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルムが、製品となる透明樹脂層と、透明樹脂層を保護する保護層とを含む場合など、フィルムの表面に存在する製品となる透明樹脂層の欠陥のみを検査したい場合がある。
さらに、フィルムを高速で搬送しながら表面欠陥を検査できれば、フィルムの検査効率を向上できる。特に、フィルムが長尺の場合には、フィルムを高速で搬送しながら検査することにより、フィルムの表面欠陥を全長に亘り検査することが可能となり、フィルムを用いた製品の歩留まりを高くできる。
【0005】
しかし、従来の検査方法では、フィルムを高速で搬送しながら、フィルム表面に配置された透明樹脂層の表面欠陥を検査しようとしても、フィルムから反射される光の量が少ないため検出感度が悪く、微細な表面欠陥を検査することが難しい場合があった。
【0006】
したがって、フィルムを高速で搬送中にも、検出感度よくフィルムの表面欠陥を検査しうる、フィルムの表面欠陥の検査方法;及び、かかる検査方法を実施しうる、フィルムの表面欠陥の検査装置;が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、フィルムに対して、所定の入射角で光を照射するとともに、照射光及び検出光のいずれか又は両方をS偏光とすることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0008】
[1] フィルムの表面欠陥の検査方法であって、前記フィルムは、透明樹脂層を含み、前記透明樹脂層は、前記フィルムの表面に配置され、前記方法は、前記フィルムの前記透明樹脂層に、60°以上90°未満の入射角で光を照射する工程(1)、及び前記フィルムにより反射された光を検出する工程(2)を含み、前記工程(1)で照射される光及び前記工程(2)で検出される光の一方又は両方が、S偏光である、表面欠陥の検査方法。
[2] 前記工程(1)で照射される光がS偏光である、[1]に記載の表面欠陥の検査方法。
[3] 前記工程(2)で検出される光がS偏光である、[1]又は[2]に記載の表面欠陥の検査方法。
[4] 前記工程(1)及び工程(2)を、前記フィルムを搬送しながら行う、[1]~[3]のいずれか一項に記載の表面欠陥の検査方法。
[5] 前記フィルムの搬送が、速度10m/min以上200m/min以下で行われる、[4]に記載の表面欠陥の検査方法。
[6] 前記フィルムの前記透明樹脂層に照射される光と、前記フィルムの前記透明樹脂層により反射される光のうち正反射光とにより規定される入射面が、前記フィルムの搬送方向と平行である、[4]又は[5]に記載の表面欠陥の検査方法。
[7] 検査対象であるフィルムの表面に、60°以上90°未満の入射角で光を照射可能な位置に設けられた、光照射部と、
前記フィルムによって反射された光を検出可能な位置に設けられた、光検出部とを含み、前記光照射部がS偏光を照射可能であるか、若しくは、前記光検出部がS偏光を検出可能であるか、又は、前記光照射部がS偏光を照射可能でありかつ前記光検出部がS偏光を検出可能である、フィルムの表面欠陥の検査装置。
[8] 前記光照射部と前記光検出部とが、前記フィルムの搬送方向に沿って配置されている、[7]に記載の検査装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルムを高速で搬送中にも、検出感度よくフィルムの表面欠陥を検査しうる、フィルムの表面欠陥の検査方法;及び、かかる検査方法を実施しうる、フィルムの表面欠陥の検査装置;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、屈折率がおよそ1.53である樹脂層を空気中に置き、様々な入射角でS偏光又はP偏光を樹脂層に照射した際の反射率を示すグラフである。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る検査装置を概略的に示す側面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る検査装置を概略的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0013】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0014】
長尺のフィルムの搬送方向は、通常フィルムの長手方向と一致し、またフィルムの幅方向は、通常フィルムの搬送方向と直交する。
【0015】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」の文言は、「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する。
以下の説明において、「(メタ)アクリレート」の文言は、「アクリレート」、「メタクリレート」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0016】
[1.フィルムの表面欠陥の検査方法]
本発明の方法は、フィルムの表面欠陥の検査方法に係る。検査対象のフィルムは、透明樹脂層を含み、前記透明樹脂層は、前記フィルムの表面に配置されている。
本発明の一実施形態に係る検査方法は、前記フィルムの前記透明樹脂層に、60°以上90°未満の入射角で光を照射する工程(1)、及び前記フィルムにより反射された光を検出する工程(2)を含む。ただし、前記工程(1)で照射される光及び前記工程(2)で検出される光の一方又は両方が、S偏光である。
工程(1)及び工程(2)は、通常空気中で行う。
【0017】
[1.1.検査対象のフィルム]
本発明の一実施形態に係る検査方法の検査対象は、透明樹脂層を含むフィルムである。 透明樹脂層は、全光線透過率が、100%でなくてもよい。透明樹脂層の全光線透過率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、通常100%以下である。
透明樹脂層の厚みは任意であり、例えば、5μm以上200μm以下であってよい。
【0018】
透明樹脂層は、樹脂から形成された層であり、透明樹脂層を形成する樹脂は、通常重合体を含む。樹脂に含まれうる重合体の例としては、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、セルロース系重合体、及び脂環式構造を含有する重合体が挙げられる。樹脂に含まれうる重合体は、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。また、共重合体は、ランダム重合体であっても、ブロック重合体であってもよい。
樹脂は、重合体を、一種単独で含んでいてもよく、二種以上の任意の比率の組み合わせとして含んでいてもよい。
【0019】
脂環式構造を含有する重合体とは、脂環式構造を有する繰り返し単位を含む重合体であり、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物などが挙げられる。
透明樹脂層を形成する樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、脂環式構造を含有する重合体を含む熱可塑性樹脂であることがより好ましい。
【0020】
透明樹脂層を形成する樹脂の屈折率は、任意であるが、例えば、1.1以上、1.2以上、1.3以上であってよく、例えば、2.0以下、1.9以下、1.8以下であってよい。
【0021】
透明樹脂層は、検査対象のフィルムの表面に配置されている。すなわち、透明樹脂層の少なくとも一つの主面は、露出している。検査対象のフィルムは、透明樹脂層のみからなっていてもよく、透明樹脂層の他に、任意の層を備えていてもよい。本実施形態の検査方法によれば、フィルムが透明樹脂層以外の任意の層を含む場合であっても、露出した透明樹脂層の表面に存在する欠陥を、検査できる。
【0022】
一実施形態において、検査対象のフィルムは、透明樹脂層と、前記透明樹脂層に接するように配置された保護層とを含むフィルムであり、当該フィルムであることが好ましい。保護層を形成する材料は、任意であり、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂であってよい。保護層は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。保護層は、例えば、粘着性を有する粘着層と樹脂層とを含む多層フィルムであってもよい。フィルムは、透明樹脂層と前記保護層の樹脂層とが、粘着層を介して貼り合わされているものであってもよい。
【0023】
保護層の表面には、フィルムのブロッキングを抑制するために、マット処理などが施されていてもよい。
【0024】
任意の層のヘイズ値は特に限定されない。任意の層のヘイズは高くてもよく、例えば30%以上であってよく、通常100%以下である。任意の層のヘイズは低くてもよく、例えば10%以下であってよく、通常0%以上である。
本実施形態の検査方法によれば、表面に配置された透明樹脂層に存在する欠陥を、透明樹脂層の反射光を検出することによって検査するので、検査結果が任意の層のヘイズ値による影響を受けにくい。
【0025】
本実施形態の検査方法によれば、露出する透明樹脂層の表面に存在する欠陥を、小さいノイズで検出できる。前記のように検査対象が透明樹脂層と任意の層とを含むフィルムである場合、任意の層の表面に存在する凹凸を検出しにくくできる。よって、所望とする、露出する透明樹脂層の表面に存在する欠陥を、小さいノイズで検出できる。
【0026】
検査対象のフィルムは、枚葉であってもよく、長尺のフィルムであってもよい。本実施形態の検査方法によれば、フィルムを高速で搬送しながら感度良くフィルムの表面欠陥を検査できるので、例えば、長尺のフィルムを、搬送ロールなどの搬送手段により連続的に搬送しながら、工程(1)及び工程(2)を含む、表面欠陥の検査方法を実施できる。
【0027】
検査対象フィルムの幅は、特に限定されないが、例えば、500mm~4000mmとしうる。
【0028】
本実施形態の検査方法は、静止状態のフィルムに対して行ってもよく、搬送中のフィルムに対して行ってもよい。しかし、本実施形態の検査方法は、高速でフィルムを搬送中であっても、検出感度良くフィルムの表面欠陥を検査できるので、搬送中のフィルムに対して好適に行うことができる。
検査対象のフィルムを搬送しながら工程(1)及び工程(2)を行う場合、フィルムの搬送速度は、好ましくは10m/min以上、より好ましくは50m/min以上、更に好ましくは80m/min以上であり、搬送速度の上限は、データのサンプリング間隔、所望とする分解能などに応じて設定できるが、例えば200m/min以下であってもよい。
【0029】
[1.2.表面欠陥]
本実施形態の検査方法では、フィルムの表面欠陥を検査する。表面欠陥とは、フィルムの表面に存在する、所望としない凹凸を意味する。表面欠陥は、例えば、突出部、凹み、線状の傷、これらが組み合わされたものでありうる。表面欠陥が生じる原因は、特に限定されず、本実施形態の検査方法では、任意の原因による表面欠陥を検査できる。例えば、異物を含んだ保護層を含むフィルムをロールの形態とした場合に、異物によりフィルムの透明樹脂層の表面に、突出部と、突出部を囲む凹みとからなる欠陥(打痕ともいう。)が生じることがあり、本実施形態の検査方法では、かかる表面欠陥を好適に検査できる。
【0030】
表面欠陥の、フィルム面方向の大きさ及びフィルム厚み方向の大きさは特に限定されない。検査される突出部の高さは、例えば0.01μm~10μmである。検査される凹みの深さは、例えば0.01μm~10μmである。検査される線状の傷の長さは、例えば5μm~5000μmである。
【0031】
[1.3.工程(1)]
本実施形態の検査方法は、工程(1)を含む。工程(1)では、フィルムの透明樹脂層に、60°以上90°未満の入射角で光を照射する。ここで入射角は、露出する透明樹脂層の主面に入射する入射光と、露出する透明樹脂層の主面の、入射光の入射位置における法線とがなす角を意味する。
【0032】
フィルムが透明樹脂層のみからなる場合、通常、透明樹脂層が有する2つの主面のうち、欠陥の存在を検査する対象である主面の側から、光を照射する。
フィルムが透明樹脂層以外に、任意の層を含む場合、通常、表面に配置されて露出している透明樹脂層の側から、光を照射する。
【0033】
照射される光は、非偏光であってもよく、S偏光であってもよい。照射される光が非偏光である場合は、工程(2)で検出される光は、通常S偏光である。
【0034】
照射される光は、好ましくはS偏光である。ここで、S偏光には、S偏光成分のみからなる偏光に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲において、S偏光成分にわずかにP偏光成分を含む偏光も含まれる。照射する光は、照射する全ての光線に対するS偏光成分の光の強度の比率が、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、通常100%以下であり、最も好ましくは100%である。
【0035】
ここで、S偏光とは、露出する透明樹脂層の主面に入射する光の電気ベクトルの振動方向が、入射面に対して垂直である偏光を意味する。また、P偏光とは、露出する透明樹脂層の主面に入射する光の電気ベクトルの振動方向が、入射面に対して平行である偏光を意味する。
入射面とは、通常、フィルムの透明樹脂層に照射される光の進行方向(すなわち、露出する透明樹脂層の主面に入射する入射光の進行方向)と、フィルムの透明樹脂層により反射される光のうち、正反射光の進行方向とを含む面を意味する。
【0036】
フィルムの透明樹脂層に、S偏光を照射する方法の例としては、直線偏光子を介して、光源からフィルムの透明樹脂層に光を照射する方法が挙げられる。直線偏光子は、透過軸が、通常入射面に対して略垂直、好ましくは垂直となるように配置される。直線偏光子の透過軸と入射面とがなす角度は、好ましくは90°±5°の範囲、より好ましくは90°±3°の範囲、更に好ましくは90°±1°の範囲、特に好ましくは90°である。
【0037】
S偏光の反射率は、通常P偏光の反射率よりも大きい。したがって、S偏光をフィルムの透明樹脂層に照射すると、露出する透明樹脂層の表面により反射される光の量が、P偏光成分を多く含む非偏光を照射する場合と比較して多くなる。
一方、P偏光成分を多く含む非偏光を照射すると、透明樹脂層の表面を透過した後、フィルムの内部又は光を照射する側とは反対側のフィルムの面(裏面)で反射されて透明樹脂層の表面から出射される光の量が増加する。すなわち、ノイズとして検出される光の量が増加する。
したがって、工程(1)において、S偏光を照射することにより、ノイズを効果的に小さくすることができる。
【0038】
照射される光の入射角は、通常60°以上、好ましくは70°以上であり、通常90°未満であり、好ましくは88°以下、より好ましくは85°以下である。照射される光の入射角は、好ましくは、ブリュースター角より大きくかつ前記範囲にある。
【0039】
照射される光の入射角を、前記上限値以下とすることによって、高いSN比で表面の情報を得ることができる。
【0040】
照射される光の入射角を、前記下限値以上とすることによって、光の反射率を高くすることができるので、露出する透明樹脂層の表面により反射される光の量を増加させることができる。その結果、フィルムの内部又はフィルムの裏面で反射されて透明樹脂層の表面から出射される光の量が相対的に減少するので、ノイズを小さくすることができる。また、反射光の量の増加により、反射光の検出を容易にできる。したがって、フィルムを高速で搬送しながら、感度良くフィルムの表面欠陥を検査することができる。
【0041】
入射角がブリュースター角である場合、P偏光の反射率は0(0%)である。すなわち、P偏光は、露出する透明樹脂層の表面により反射されずに表面を透過し、フィルム内部で反射、散乱等された光が、透明樹脂層の表面から出射する。
【0042】
入射角をブリュースター角に設定し、フィルムにより反射された光のうちS偏光を検出するようにすると、フィルムの表面欠陥を反映しない反射光であってP偏光である光は、検出されないか検出されにくい。したがって、P偏光によるノイズを減少させることができる。しかし、入射角がブリュースター角である場合に、S偏光の反射率は、ブリュースター角よりも大きい入射角の場合と比較して小さい。そのため、反射光の量は、ブリュースター角よりも大きい入射角の場合と比較して少なくなって、反射光の検出がしにくくなる。その結果、フィルムを高速で搬送しながら、感度良くフィルムの表面欠陥を検査することが難しくなる。
【0043】
図を用いて光の入射角と反射率との関係について説明する。図1は、屈折率がおよそ1.53である樹脂層を空気中に置き、様々な入射角でS偏光又はP偏光を樹脂層に照射した際の反射率を示すグラフである。
は、入射角に対してS偏光の反射率をプロットしたグラフを示す。Lは、入射角に対してP偏光の反射率をプロットしたグラフを示す。Pは、反射率が0であるP偏光のグラフ上の点を示す。図1において、点Pにおける入射角が、ブリュースター角である。
【0044】
図1に示すとおり、ブリュースター角では、P偏光の反射率は0(0%)であり、S偏光の反射率は約0.15である。したがって、入射角をブリュースター角に設定して自然光又はS偏光をフィルムの透明樹脂層に照射しても、露出する透明樹脂層の表面による反射光の量は、照射された光に対して、0.08(自然光を照射した場合)、又は0.15(S偏光を照射した場合)に過ぎない。そのため、フィルムを高速で搬送しながら表面欠陥を検査することが難しい。
一方、入射角を60°以上に設定すると、S偏光の反射率は、ブリュースター角におけるS偏光の反射率よりも大きい。そのため、反射光の量の増加により、反射光の検出を容易にできる。したがって、フィルムを高速で搬送しながら、感度良くフィルムの表面欠陥を検査することができる。
特に、入射角を70(X)°以上に設定すると、S偏光の反射率は、0.3(Y)以上である。したがって、露出する透明樹脂層の表面による反射光の量は、照射された光に対して、およそ15(Y×0.5×100)%以上(自然光を照射した場合)、又はおよそ30(Y×100)%以上(S偏光を照射した場合)であって、入射角がブリュースター角である場合のおよそ1.5倍以上となる。
したがって、入射角を70°以上とすることにより、フィルムを高速で搬送しながら、より感度良くフィルムの表面欠陥を検査することができる。
【0045】
[1.4.工程(2)]
本実施形態の検査方法は、工程(2)を含む。通常、工程(2)は工程(1)の後に行われる。工程(2)では、フィルムにより反射された光を検出する。
工程(1)において、フィルムの透明樹脂層に照射された光は、露出した透明樹脂層の表面により反射される他、フィルムの内部又はフィルムの裏面により反射される。しかし、フィルムの内部又はフィルムの裏面により反射される光は、露出した透明樹脂層の表面により反射される光よりも光量が小さい。前記のとおり、照射される光の入射角が所定の範囲であって露出した透明樹脂層の表面による反射率が大きいためである。したがって、工程(2)では、露出した透明樹脂層の表面により反射された光を主として検出でき、少ないノイズでフィルムの表面欠陥を検査できる。
検出される反射光は、露出した透明樹脂層による正反射光と、露出した透明樹脂層の表面に存在する欠陥(すなわち、所望としない凹凸)による散乱光を含みうる。
【0046】
工程(1)において、非偏光を照射した場合、工程(2)では、通常S偏光を検出する。工程(1)において、非偏光を所定範囲の入射角で照射した場合、露出した透明樹脂層の表面により反射される光には、S偏光と、S偏光よりも光量の少ないP偏光が含まれる一方、フィルムの内部又はフィルムの裏面で反射される光には、S偏光と、S偏光よりも光量の多いP偏光が含まれる。したがって、工程(2)で、S偏光を、好ましくはS偏光のみを、検出することにより、フィルムの内部又はフィルムの裏面で反射された、光量の多いP偏光によるノイズを減少させることができる。
【0047】
工程(1)において、S偏光を照射した場合、工程(2)では、非偏光を検出してもよいし、S偏光を検出してもよい。工程(1)において、S偏光を所定範囲の入射角で照射した場合、露出した透明樹脂層の表面により反射される光には、S偏光が含まれる。また、フィルムの内部又はフィルムの裏面で反射される光にもS偏光が含まれる。しかし、S偏光を所定範囲の入射角で透明樹脂層に照射した場合、露出した透明樹脂層の表面によるS偏光の反射率は大きいので、フィルムの内部又はフィルムの裏面で反射される光に含まれるS偏光は、光量が少ない。したがって、工程(2)で、非偏光を検出する場合及びS偏光を検出する場合のいずれであっても、フィルムの内部又はフィルムの裏面で反射される検出対象の光は光量が少なく、そのため検出しにくい。よって、小さいノイズでフィルムの表面欠陥を検査できる。
【0048】
好ましくは、工程(1)においてS偏光を照射し、かつ工程(2)でS偏光を検出する。S偏光をフィルムの表面欠陥に照射すると、表面欠陥の凹凸により散乱反射し、反射光が偏光解消された非偏光となる場合がある。工程(2)でS偏光を検出することにより、表面欠陥の凹凸による散乱反射光におけるS偏光成分は、光量の非常に小さい光として検出される。そのため、表面欠陥の検出の感度をより高めることができる。
【0049】
フィルムを搬送しながら工程(1)及び工程(2)を行う場合、前記のとおり定義された入射面が、フィルムの搬送方向と平行であることが好ましい。これにより、フィルムの搬送方向と平行に発生することが多いシワの影響が軽減できる。また、本実施形態の検査方法を実施する装置の構成を、簡略化でき、また装置をコンパクトにできる。
【0050】
[1.5.任意の工程]
本実施形態の検査方法は、前記の工程(1)及び(2)の他に、任意の工程を含んでいてもよい。例えば、検査方法は、工程(2)で検出された光のデータを処理して、フィルムの表面欠陥の有無の判定、表面欠陥の種類の判別、表面欠陥の大きさの測定などを行う工程を含んでいてもよい。
【0051】
[2.フィルムの表面欠陥の検査装置]
本発明の一実施形態に係る、フィルムの表面欠陥の検査装置は、検査対象であるフィルムの表面に、60°以上90°未満の入射角で光を照射可能な位置に設けられた、光照射部と、前記フィルムによって反射された光を検出可能な位置に設けられた、光検出部とを含む。前記光照射部は、S偏光を照射可能であるか、若しくは、前記光検出部は、S偏光を検出可能である。または、前記光照射部は、S偏光を照射可能でありかつ前記光検出部はS偏光を検出可能である。
本実施形態に係る検査装置により、好適に前記検査方法を実施しうる。
【0052】
以下、図を用いて本発明の一実施形態に係る検査装置について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る検査装置を概略的に示す側面図である。図3は、本発明の一実施形態に係る検査装置を概略的に示す上面図である。
図2、3に示すように、検査装置100は、光照射部110と、光検出部120とを含む。図2に示すように、検査装置100は、検査対象であるフィルム10を搬送するための搬送ロール101、搬送ロール102、搬送ロール103、及び搬送ロール104を備える。フィルム10の搬送方向上流から順に、搬送ロール101、102、103、104が配置されている。検査装置100の搬送ロール101には、図示されない繰り出し装置から、フィルム10が供給される。検査装置の搬送ロール104から、図示されない巻き取り装置へ、検査の終了したフィルム10が送られる。繰り出し装置におけるフィルム繰り出し速度及び巻き取り装置におけるフィルム巻き取り速度の調整により、フィルム10の搬送速度が調整されうる。
【0053】
図2に示すように、光照射部110は、フィルム10の表面に、入射角θで光を照射可能な位置に設けられている。ここで、入射角θは、入射光L1と、入射光L1の入射位置P1におけるフィルム10の法線nLとがなす角度である。θは、60°以上90°未満である。
【0054】
光照射部110は、出光部111を備え、出光部111から光照射部110の外部に光を出射できるように構成されている。出光部111から出射される光のフィルム10の表面における入射位置P1が、フィルム10の搬送方向Dと直交する線状となるように、出光部111の形状及び搬送されるフィルム10との相対位置が調整されている。出光部111は、長方形状であり、出光部111の長手方向は、搬送方向Dと直交する方向であってかつフィルム10の表面に含まれる方向と、平行である。出光部111の短手方向の寸法は、表面欠陥の検出感度を高くする観点から、できるだけ小さくすることが好ましく、例えば、10mm以下、例えば5mm以下であり、通常0mmより大きい。
【0055】
出光部111は、フィルム10の表面における、光の入射位置P1からの距離が、好ましくは200mm以上、より好ましくは400mm以上である。当該距離は、フィルム10に入射する光を、平行光に近い光とする観点から、できるだけ大きいことが好ましい。当該距離の上限は、検査装置100の寸法が過大とならないようにする観点、装置の振動防止の観点から、好ましくは1000mm以下である。
【0056】
光照射部110は、通常光源を備える。光源としては、従前公知の光源を用いうる。光源の例としては、レーザ光源、発光ダイオード(LED)光源、光ファイバーを用いたライトガイドが挙げられる。光照射部110は、出光部111から出射される光を、S偏光とするための直線偏光子112を備える。直線偏光子112は、出光部111から出射される光のうちS偏光のみを透過させるように、透過軸の方向が調整されている。
別の実施形態では、S偏光のみを出射する光源を備える光照射部を用いてもよい。この場合、直線偏光子112を省略しうる。
また別の実施形態では、光照射部は、非偏光を照射しうるものであってもよい。ただし、この場合は、光検出部として、通常S偏光を検出する機能を有するものを用いる。
【0057】
光検出部120は、光を検出する機能を有する。光検出部120は、CCDイメージセンサ、C-MOSイメージセンサなどの、撮像素子を含みうる。光検出部120は、検査対象のフィルム10により反射された光を検出可能な位置に設けられている。光検出部120は、フィルム10の表面における、光の入射位置P1からの距離が、好ましくは150mm以上、より好ましくは300mm以上である。当該距離は、フィルム10の表面欠陥の検出感度を高くする観点から、できるだけ大きいことが好ましい。当該距離の上限は、検査装置100の寸法が過大とならないようにする観点、装置の振動防止の観点から、好ましくは1000mm以下である。
【0058】
光検出部120は、光のうち、特にS偏光を検出する機能を有する。本実施形態では、光検出部120は、直線偏光子122を含む。直線偏光子122は、フィルム10から反射される光のうちS偏光のみを透過させるように、透過軸の方向が調整されている。これにより、光検出部120の撮像素子にS偏光が入射し、撮像素子がS偏光を検出できる。
【0059】
図3に示すように、光照射部110と光検出部120とは、フィルム10の搬送方向Dに沿って配置されている。光照射部110と光検出部120とは、搬送方向Dと平行な直線上に配置されている。本実施形態では、光照射部110は、搬送方向Dの上流側に配置され、光検出部120は、搬送方向Dの下流側に配置されている。
【0060】
本実施形態の検査装置100は、光照射部110及び光検出部120を1個ずつ備えているが、別の実施形態では、検査装置は、光照射部を複数備えていてもよい。及び/又は、検査装置は、光検出部を複数備えていてもよい。
【0061】
本実施形態の検査装置100を用いた検査手順について説明する。
検査対象のフィルム10を、搬送ロール101、102、103、104により搬送する。
フィルム10は、露出する透明樹脂層の側が、光照射部110及び光検出部120に対向するように搬送される。
フィルム10に、光照射部110の出光部111から直線偏光子112を介して、光を照射する。直線偏光子112の作用により、フィルム10に照射される光はS偏光となる。フィルム10に入射される、S偏光である入射光L1は、入射角θで入射位置P1でフィルム10に入射する。θは、60°以上90°未満である。
光検出部120は、フィルム10から反射された光を、直線偏光子122を介して受光し、検出する。フィルム10から反射された光は、直線偏光子122に入射する。フィルム10から反射された光のうち、P偏光は直線偏光子122により反射又は吸収される。その結果、光検出部120は、S偏光のみを検出する。
【0062】
検査装置は、光照射部及び光検出部の他に、任意の要素を含んでいてもよい。例えば、検査装置は、光検出部で検出された光のデータを処理するデータ処理部、フィルムに対する光照射部の位置を調整する光照射部駆動装置、フィルムに対する光検出部の位置を調整する光検出部駆動装置などの要素を含んでいてもよい。
【0063】
本実施形態の検査装置が、前記構成を有することにより、フィルムの表面欠陥を検出感度よく検査できる。
【符号の説明】
【0064】
10 フィルム
100 検査装置
101、102、103、104 搬送ロール
110 光照射部
111 出光部
112 直線偏光子
120 光検出部
122 直線偏光子
D 搬送方向
L1 入射光
P1 入射位置
nL 法線
θ 入射角
図1
図2
図3