(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022060167
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】異種金属含有単斜晶系リチウムニッケルマンガン系複合酸化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20220407BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220407BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220407BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158000
(22)【出願日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020167898
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/高容量コバルトフリー正極材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 光春
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE06
4G048AE07
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA19
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA14
5H050GA15
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】作動電圧、充放電容量及び放電レート特性が既存のNMC系正極活物質と比較して同等又はそれ以上の電極活物質の提供。
【解決手段】Mg及び/又はTiを含み、単斜晶Li
2MnO
3型層状岩塩型構造を有する異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物であって、(1)前記単斜晶Li
2MnO
3型層状岩塩型構造の結晶相のX線回折パターンにおいて、(020)面のピークのピーク高さを、(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さで除して得られる、X線ピーク強度の割合、(2)リチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の金属の平均存在量の和(g
total)、又は(3)六角網目格子構成位置(4g位置)のリチウム以外の金属占有率(g
4g)から六角網目格子中心位置(2b位置)のリチウム以外の金属占有率(g
2b)を引いた値(g
4g-g
2b)が、特定の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
Li1+x(NiyMzMn1-y-z)1-xO2 (1)
[式中、MはMg及び/又はTiを示す。x、y及びzはそれぞれ、0<x<1/3、0.150≦y≦0.350、0.050≦z≦0.150を示す。ただし、MがMgである場合は0.150≦y≦0.250を示す。]
で表され、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造を有する異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物であって、以下の(1)~(3):
(1)前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相のX線回折パターンにおいて、(020)面のピークのピーク高さを、(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さで除して得られる、X線ピーク強度の割合が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は3.0~10.0%であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は3.0~14.0%であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は3.0~8.0%である、
(2)前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の金属の平均存在量の和(gtotal)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.780~0.850であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.720~0.800であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は0.750~0.820である、及び
(3)前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム以外の金属-リチウム層内での六角網目規則構造において、六角網目格子構成位置(4g位置)のリチウム以外の金属占有率(g4g)から六角網目格子中心位置(2b位置)のリチウム以外の金属占有率(g2b)を引いた値(g4g-g2b)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.230~0.300であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.250~0.390であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は0.230~0.310である
の少なくとも1つを満たすことを特徴とする、異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【請求項2】
前記(1)を満たす、請求項1に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【請求項3】
前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の金属の平均存在量の和(gtotal)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.780~0.850であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.720~0.800であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は0.750~0.820である、請求項2に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【請求項4】
前記(2)を満たす、請求項1に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【請求項5】
前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム以外の金属-リチウム層内での六角網目規則構造において、六角網目格子構成位置(4g位置)のリチウム以外の金属占有率(g4g)から六角網目格子中心位置(2b位置)のリチウム以外の金属占有率(g2b)を引いた値(g4g-g2b)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.230~0.300であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.250~0.390であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は0.230~0.310である、請求項2~4のいずれか1項に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【請求項6】
前記(3)を満たす、請求項1に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【請求項7】
前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相、又は前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相と立方晶岩塩型構造の結晶相との混合相により構成される、請求項1~6のいずれか1項に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を含有する、リチウムイオン二次電池用電極活物質。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用電極活物質を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の製造方法であって、
マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物との混合物をアルカリ処理することにより沈殿を形成する工程1、
前記沈殿を酸化させて複合酸化物前駆体を得る工程2、
リチウム化合物存在下、前記複合酸化物前駆体を酸化雰囲気中で熱処理する工程3、及び
前記工程3で得られる生成物を、不活性雰囲気下で前記工程3よりも高温条件で熱処理する工程4
を有することを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属含有単斜晶系リチウムニッケルマンガン系複合酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン、スマートフォン等に搭載される二次電池として有用なリチウムイオン二次電池は、電気自動車及びプラグインハイブリッド車のバッテリー、並びに電力負荷平準化システム等用のシステム構成電源としても重要視され、開発が進められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極として主にリチウム遷移金属複合酸化物、負極として炭素材料、及び有機電解液を構成要素とすることが一般的である。正極活物質は、リチウム供給源として機能し、正極活物質におけるリチウムイオン脱離量及び挿入量と、単電池内における正極量との積が単電池の電池容量を、正極活物質における作動電圧が単電池電圧を決定づけることから、最も重要な構成部材の一つである。
【0004】
現在大型リチウムイオン二次電池正極活物質として一般的に活用されているのが、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム系(NMC系)正極活物質とニッケル酸リチウム系正極活物質である。ニッケル酸リチウム正極は、NMC系正極活物質と対比し、正極活物質重量あたりの容量が大きいが、充電時の安全性の問題がある。従ってNMC系正極は大容量角形電池用として実用化されているが、ニッケル酸リチウム系正極活物質は小容量円筒型電池用としてのみ実用化されている。
【0005】
両材料系正極活物質中には、資源として偏在性が高く、かつ希少なコバルト元素が含まれており、コバルト原料価格の不安定性や高騰のリスク低減のために、コバルトフリーの充放電特性に優れた正極活物質開発が強く求められている。またニッケルに関しても、資源量が少なく、近年の電池開発競争によりコスト高の傾向があるため、同様に低減が求められている。
【0006】
本発明者は、単斜晶Li2MnO3層状岩塩型構造を有する、リチウム鉄マンガン系複合酸化物(特許文献1等)、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物(特許文献2等)及びリチウムニッケルマンガン系複合酸化物(特許文献3~4、非特許文献1~3等)が優れた充放電特性を示すことを明らかにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-179501号公報
【特許文献2】国際公開第2019/235573号
【特許文献3】特開2021-017397号公報
【特許文献4】国際公開第2018/169004号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田渕光春他、Electrochimica Acta,210(2016)105-110.
【非特許文献2】田渕光春他、第59回電池討論会講演要旨集3D21、(2018)
【非特許文献3】田渕光春、第60回電池討論会講演要旨集2A05、(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、作動電圧、充放電容量、放電レート特性等において十分とは言えなかった。また、特許文献2では、3価以上のマンガン化合物を原料として特定量以上使用し、二次焼成を大気雰囲気で行うと放電容量及び充放電サイクル特性に優れていることが記載されているが、放電レート特性を改善しようとした場合には同様の条件では好ましくないことも多い。このため、異種金属置換リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の中で、どのような材料を選択すれば特に作動電圧、充放電容量及び放電レート特性に優れる二次電池を製造できるかについては、依然として不明である。
【0010】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、作動電圧、充放電容量及び放電レート特性が既存のNMC系正極活物質と比較して同等又はそれ以上の電極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、マグネシウム又はチタンの異種金属を含むリチウムニッケルマンガン系複合酸化物において、異種金属、Ni及びMnからなる、リチウム以外の金属イオンの分布又は存在量を所定の条件とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物及びその製造方法を包含する。
【0013】
項1.一般式(1):
Li1+x(NiyMzMn1-y-z)1-xO2 (1)
[式中、MはMg及び/又はTiを示す。x、y及びzはそれぞれ、0<x<1/3、0.150≦y≦0.350、0.050≦z≦0.150を示す。ただし、MがMgである場合は0.150≦y≦0.250を示す。]
で表され、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造を有する異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物であって、以下の(1)~(3):
(1)前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相のX線回折パターンにおいて、(020)面のピークのピーク高さを、(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さを除して得られる、X線ピーク強度の割合が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は3.0~10.0%であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は3.0~14.0%であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は3.0~8.0%である、
(2)前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の金属の平均存在量の和(gtotal)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.780~0.850であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.720~0.800であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は0.750~0.820である、及び
(3)前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム以外の金属-リチウム層内での六角網目規則構造において、六角網目格子構成位置(4g位置)のリチウム以外の金属占有率(g4g)から六角網目格子中心位置(2b位置)のリチウム以外の金属占有率(g2b)を引いた値(g4g-g2b)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.230~0.300であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.250~0.390であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は0.230~0.310である
の少なくとも1つを満たすことを特徴とする、異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【0014】
項2.前記(1)を満たす、項1に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【0015】
項3.前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の金属の平均存在量の和(gtotal)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.780~0.850であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.720~0.800であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は0.750~0.820である、項2に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【0016】
項4.前記(2)を満たす、項1に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【0017】
項5.前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム以外の金属-リチウム層内での六角網目規則構造において、六角網目格子構成位置(4g位置)のリチウム以外の金属占有率(g4g)から六角網目格子中心位置(2b位置)のリチウム以外の金属占有率(g2b)を引いた値(g4g-g2b)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.230~0.300であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.250~0.390であり、0.250<y≦0.350且つ前記MがTiの場合は0.230~0.310である、項2~4のいずれか1項に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【0018】
項6.前記(3)を満たす、項1に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【0019】
項7.前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相、又は前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相と立方晶岩塩型構造の結晶相との混合相により構成される、項1~6のいずれか1項に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物。
【0020】
項8.項1~7のいずれか1項に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を含有する、リチウムイオン二次電池用電極活物質。
【0021】
項9.項8に記載のリチウムイオン二次電池用電極活物質を備えるリチウムイオン二次電池。
【0022】
項10.項1~7のいずれか1項に記載の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の製造方法であって、
マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物との混合物をアルカリ処理することにより沈殿を形成する工程1、
前記沈殿を酸化させて複合酸化物前駆体を得る工程2、
リチウム化合物存在下、前記複合酸化物前駆体を酸化雰囲気中で熱処理する工程3、及び
前記工程3で得られる生成物を、不活性雰囲気下で前記工程3よりも高温条件で熱処理する工程4
を有することを特徴とする、製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、作動電圧、充放電容量及び放電レート特性が既存のNMC系正極活物質と比較して同等又はそれ以上の電極用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)本発明のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物の結晶構造のb-c面配列図。(b)本発明のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物の結晶構造のa-b面上のリチウム以外の金属(TM)-リチウム層内の配列図。
【
図2】CuKα線を用いた実施例1のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物の実測(+)及び計算(実線)X線回折図。
【
図3】CuKα線を用いた比較例1のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物の実測(+)及び計算(実線)X線回折図。
【
図4】実施例1の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性。
【
図5】比較例1の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性。
【
図6】実施例1の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の放電レート特性。
【
図7】比較例1の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の放電レート特性。
【
図8】CuKα線を用いた実施例2のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物の実測(+)及び計算(実線)X線回折図。
【
図9】CuKα線を用いた比較例2のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物の実測(+)及び計算(実線)X線回折図。
【
図10】実施例2の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性。
【
図11】比較例2の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性。
【
図12】実施例2の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の放電レート特性。
【
図13】比較例2の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の放電レート特性。
【
図14】CuKα線を用いた実施例3のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物の実測(+)及び計算(実線)X線回折図。
【
図15】CuKα線を用いた比較例3のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物の実測(+)及び計算(実線)X線回折図。
【
図16】実施例3の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性。
【
図17】比較例3の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性。
【
図18】実施例3の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の放電レート特性。
【
図19】比較例3の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の放電レート特性。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0026】
(1.異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物)
本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、下記一般式(1):
Li1+x(NiyMzMn1-y-z)1-xO2 (1)
[式中、MはMg及び/又はTiを示す。x、y及びzはそれぞれ、0<x<1/3、0.150≦y≦0.350、0.050≦z≦0.150を示す。ただし、MがMgである場合は0.150≦y≦0.250を示す。]
で表される。
【0027】
本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造を有する異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物である。
【0028】
単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造は、P.Strobel et al.,J.Solid State Chem.,75,90-98,(1988).に記載されている下記(a)の空間式で表わされる空間群の結晶構造を有する。
【0029】
【0030】
ここで、本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物における第1の態様(要件(3))においては、前記単斜晶Li
2MnO
3型層状岩塩型構造内におけるリチウム以外の金属-リチウム層内での六角網目規則構造において、六角網目格子構成位置のリチウム以外の金属占有率(g
4g)から六角網目格子中心位置のリチウム以外の金属占有率(g
2b)を引いた値(g
4g-g
2b)が、0.150≦y≦0.250且つ前記MがMgの場合は0.230~0.300であり、0.150≦y≦0.250且つ前記MがTiの場合は0.250~0.390であり、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は0.230~0.310である。この第1の態様における本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、
図1にあるように、Mg、Ti、Ni及びMnからなるリチウム以外の金属(TM)イオンが、公知のLi
2MnO
3とは異なる分布を有する。
【0031】
図1(a)は層状岩塩型構造全体を表示し、
図1(b)は、
図1(a)のリチウム以外の金属-リチウム層(TM-Li層)を90°回転させて得られるリチウム以外の金属-リチウム層(TM-Li層)内の陽イオン配列を示す。
図1(a)において、酸化物イオン(大きな灰色の丸)層を介してリチウム以外の金属-リチウム層(TM-Li層)とリチウム層(Li層)が交互に積層する点については、従来のNMC正極等の六方晶層状岩塩型結晶構造(下記(b)の空間式で表される空間群)と同様であるが、リチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内の陽イオン分布が既存正極と異なる。
【0032】
【0033】
また、従来のNMC正極等の六方晶層状岩塩型結晶構造において、リチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内の陽イオン格子位置はそれぞれ一種類であるが、第1の態様における本発明の単斜晶層状岩塩型結晶構造においては、リチウム層及びリチウム以外の金属層-リチウム層内の陽イオン格子位置はそれぞれ二種類存在する。
【0034】
図1(a)のリチウム層において格子位置は、2c及び4h位置に対応し、リチウム以外の金属-リチウム層(TM-Li層)において格子位置は、
図1(b)に示すように、4g及び2b位置に対応する。第1の態様における本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物はこのTM-Li層内のリチウム以外の金属イオン分布に特徴がある。
【0035】
図1(b)に示すように4g位置が六角網目格子構成位置に相当し、2b位置が六角網目格子中心位置に相当する。理想的なLi
2MnO
3構造においては4g位置にのみリチウム以外の金属イオンが入り、2b位置にはリチウムイオンが入るが、実際には両格子位置にリチウム以外の金属イオンが占有しうる。
【0036】
本発明の第1の態様において、X線リートベルト法によって得られる4g位置のリチウム以外の金属イオン占有率(g4g)と2b位置のリチウム以外の金属イオン占有率(g2b)との差(g4g-g2b)が小さい。(g4g-g2b)の値は、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は0.230~0.300、好ましくは0.235~0.280である。(g4g-g2b)の値は、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は0.250~0.390、好ましくは0.300~0.380である。(g4g-g2b)の値は、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は0.230~0.310、好ましくは0.235~0.290である。(g4g-g2b)をこの範囲とすることで、3価以上の高価数のMn源が必要ではなくなり安価な2価Mn源が活用でき工業的に有利であるうえに、電気化学的に不活性なLi2MnO3リッチな成分の生成を抑制し、初期及び充放電サイクル後の充放電容量が高く、高放電レート特性の試料を得やすい。
【0037】
また、前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内にはリチウム層内2c及び4h位置にリチウム以外の金属が存在し、リチウム以外の金属-リチウム層内にも前述のように4g及び2b位置にリチウム以外の金属が存在する。組成式あたりのリチウム以外の金属量(gtotal)は、リチウム層内のリチウム以外の平均金属量((2g4h+g2c)/3)とリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の平均金属量((2g4g+g2b)/3)の和で定義される。この値を所定範囲にすることも充放電特性(特に初期及び充放電サイクル後の充放電容量、並びに放電レート特性)改善のために有効である。一方でこの値は構成異種金属価数及びその含有量が小さくなるほど大きくなるので、異種金属種及びその含有量によって最適値が異なる。具体的には、第2の態様(要件(2))における本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物においては、gtotal値は、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は0.780~0.850、好ましくは0.785~0.830である。gtotal値は、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は0.720~0.800、好ましくは0.725~0.780である。gtotal値は、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は0.750~0.820、好ましくは0.755~0.800である。gtotal値をこの範囲とすることで、電気化学的に不活性なLi2MnO3リッチな成分の生成を抑制するとともに、組成式あたりのリチウム含有量が十分大きいため、初期及び充放電サイクル後の充放電容量が高く、高放電レート特性の試料を得やすい。
【0038】
また、本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、CuKα線を用いたX線回折パターンにおいて2θ=20°付近に見られる六角網目構造に起因する(020)面のピークのピーク高さを2θ=45°付近に見られる(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さで除して得られる、X線ピーク強度の割合ができるだけ低くなることが好ましい。このX線ピーク強度の割合は異種金属価数及びその含有量が小さくなるほど大きくなる傾向があるため異種金属種及びその含有量によって最適値が異なる。このため、第3の態様(要件(1))における本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物においては、このX線ピーク強度の割合は、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は10.0%以下、好ましくは9.0%以下である。このX線ピーク強度の割合は、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は14.0%以下、好ましくは13.5%以下である。このX線ピーク強度の割合は、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は8.0%以下、好ましくは7.5%以下である。当該割合をこの範囲とすることで、電気化学的に不活性なLi2MnO3成分の生成を抑制し、所望の初期及び充放電サイクル後の充放電容量、並びに高放電レート特性を有する試料が得やすい。なお、このX線ピーク強度の割合の下限値としては特に限定はなく、例えば、3.0%とすることが好ましい。
【0039】
また、一般式(1)において、xは過剰リチウム量を示し、具体的には、0<x<1/3である。xの値をこの範囲とすることで、リチウムを必要以上に使用せずとも、構造中にリチウムを導入させやすく不純物相として生成物中に残留しにくくコスト面で有利である。また、xは0.05~0.30とすることが好ましい。
【0040】
本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、例えば後述する共沈-焼成法を利用した特定の組成式で表される酸化物を製造することによって得ることができる。当該製造方法を採用することにより、リチウム以外の金属イオンが4g位置のリチウム以外の金属イオン占有率(g4g)と2b位置のリチウム以外の金属イオン占有率(g2b)の差(g4g-g2b)、組成式あたりのリチウム以外の金属量(gtotal)及びX線ピーク強度の割合を小さくする効果があるものと考えられる。
【0041】
なお、例えば後述する共沈-焼成法を利用した特定の組成式で表される酸化物を製造する場合、上記した要件(1)~(3)全てを満たす異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物が生成されやすい。具体的には、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム以外の金属-リチウム層内での六角網目規則構造において、六角網目格子構成位置のリチウム以外の金属占有率(g4g)から六角網目格子中心位置のリチウム以外の金属占有率(g2b)を引いた値(g4g-g2b)が、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は0.230~0.300、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は0.250~0.390、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は0.230~0.310であり(要件(3))、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相のX線回折パターンにおいて2θ=20°付近に見られる(020)面のピークのピーク高さを2θ=45°付近に見られる(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さで除して得られる、X線ピーク強度の割合が、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は3.0~10.0%、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は3.0~14.0%、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は3.0~8.0%であり(要件(1))、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の金属の平均存在量の和(gtotal)が、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は0.780~0.850、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は0.720~0.800、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は0.750~0.820である(要件(2))異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物が生成されやすい。
【0042】
なお、このリチウム以外の金属イオン分布の安定化のためにはリチウム以外の全金属量あたりのニッケルイオン量yが0.150≦y≦0.350であり、0.150≦y≦0.250、好ましくは0.175≦y≦0.225としたり、0.250<y≦0.350、好ましくは0.275≦y≦0.325とすることもできる。ただし、MがMgである場合は、リチウム以外の金属イオン分布の安定化のためにはリチウム以外の全金属量あたりのニッケルイオン量yは0.150≦y≦0.250、好ましくは0.175≦y≦0.225である。yをこの範囲とすることで、ニッケルイオンの持つ放電電位上昇効果を十分に維持したまま、組成式内のMn量を多くしすぎることがなくリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の金属イオン分布を安定化させることができ、組成式内のリチウムイオン量を十分にする結果として充放電容量を向上させることができる。
【0043】
本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相、又は前記単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相と立方晶岩塩型構造の結晶相との混合相により構成されることが好ましい。
【0044】
換言すると、異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物には、上記した単斜晶系Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相が含まれることが好ましい。もちろん、その他の岩塩型結晶構造を含む混合相であることも好ましい。具体的には、下記式(c)の空間群で表される立方晶岩塩型構造の結晶相をさらに含む混合相であることも、好ましい。
【0045】
【0046】
単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相と立方晶岩塩型構造との結晶相の存在割合は、通常、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造結晶相:立方晶岩塩型構造結晶相(質量比)=100:0~10:90程度の範囲であることが好ましい。また、本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、他の不純物相(炭酸リチウム、水酸化リチウム、マンガン及びニッケル化合物、又はそれらの複合化合物等)を、充放電特性に大きく影響しない範囲(X線回折パターンにピークが確認できる結晶相の総量を100質量%として0.01~10質量%程度)で含むこともできる。なお、例えば後述する共沈-焼成法を利用した特定の組成式で表される酸化物を製造する場合、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造単相又は単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の存在割合が極めて大きい(例えば、X線回折パターンにピークが確認できる結晶相の総量を100質量%として90~99.9質量%程度)異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物が生成されやすい。
【0047】
(2.リチウムイオン二次電池用電極活物質及びリチウムイオン二次電池)
本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、リチウムイオン二次電池用電極活物質として、特に、リチウムイオン二次電池用正極活物質として、好適に使用することができる。本発明の異種金属含有リチウムマンガン系複合酸化物を使用し、常法によりリチウムイオン二次電池を製造することも可能である。具体的には、正極活物質として、本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を使用し、負極活物質として、公知の金属リチウム、チタン酸リチウム、ケイ素、酸化ケイ素、炭素系材料(黒鉛系材料、難黒鉛系材料)等を使用し、電解液として、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート等の溶媒に、過塩素酸リチウム、LiPF6等のリチウム塩を溶解させた有機電解液あるいはポリマー電解質、硫化物固体電解質、さらにその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てることができる。
【0048】
(3.異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の製造方法)
本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の製造方法は、例えば、マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物との混合物を、アルカリ性に調整することにより沈殿を形成する工程1、前記沈殿を酸化させて複合酸化物前駆体を得る工程2、リチウム化合物存在下、前記複合酸化物前駆体を酸化雰囲気中で加熱する工程3、及び前記工程3で得られる生成物を、不活性雰囲気下で、前記工程3よりも高温条件で熱処理する工程4を、この順に含んで構成される。
【0049】
(3.1.工程1)
工程1では、マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物との混合物をアルカリ処理することにより、沈殿を形成する。
【0050】
マグネシウム化合物、チタン化合物、マンガン化合物及びニッケル化合物は、それぞれ異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物のマグネシウム源、チタン源、マンガン源及びニッケル源として機能し、公知のマグネシウム、チタン、マンガン及びニッケルの金属塩を広く使用することが可能であり、特に限定はない。例えば、コスト面を考慮し、2価の塩(硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩及びこれらの水和物等)を使用することが好ましい。また、高価数Mn源として過マンガン酸(VII)カリウム、酢酸マンガン(III)、アセチル酢酸マンガン(III)等を用いてもよい。これら以外にも、例えばマグネシウム金属、チタン金属、マンガン金属又はニッケル金属や、マグネシウム、チタン、マンガン又はニッケルの酸化物を使用することも好ましく、マグネシウム金属、チタン金属、マンガン金属及びニッケル金属やその酸化物を酸で溶解させたものを金属塩として使用することも好ましい。マグネシウム化合物、チタン化合物、マンガン化合物及びニッケル化合物はいずれも、上記した物の中から一種を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0051】
使用するマグネシウム化合物、チタン化合物、マンガン化合物及びニッケル化合物の混合割合は、目的とする異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物におけるマグネシウム、チタン、マンガン及びニッケルの配合比と同一とすることが好ましい。
【0052】
本発明の製造方法では、上記したように、上記した要件(1)~(3)全てを満たす異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物が生成されやすい。具体的には、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム以外の金属-リチウム層内での六角網目規則構造において、六角網目格子構成位置のリチウム以外の金属占有率(g4g)から六角網目格子中心位置のリチウム以外の金属占有率(g2b)を引いた値(g4g-g2b)が、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は0.230~0.300、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は0.250~0.390、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は0.230~0.310であり(要件(3))、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造の結晶相のX線回折パターンにおいて2θ=20°付近に見られる(020)面のピークのピーク高さを2θ=45°付近に見られる(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さで除して得られる、X線ピーク強度の割合が、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は3.0~10.0%、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は3.0~14.0%、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は3.0~8.0%であり(要件(1))、単斜晶Li2MnO3型層状岩塩型構造内におけるリチウム層及びリチウム以外の金属-リチウム層内のリチウム以外の金属の平均存在量の和(gtotal)が、0.150≦y≦0.250且つMがMgの場合は0.780~0.850、0.150≦y≦0.250且つMがTiの場合は0.720~0.800、0.250<y≦0.350且つMがTiの場合は0.750~0.820である(要件(2))異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物が生成されやすい。
【0053】
以上から、得られる本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の要求物性及び要求特性に応じて、上記パラメータを適宜選択することができる。
【0054】
マグネシウム化合物、チタン化合物、マンガン化合物及びニッケル化合物は、マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物とを含む混合物とすることが好ましく、適宜の溶媒に溶解させてマグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物との混合溶液とすることがより好ましく、水に溶解させてマグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物との混合水溶液とすることがさらに好ましい。当該混合水溶液の濃度に関しては特に限定はなく、例えば、マグネシウム化合物、チタン化合物、マンガン化合物及びニッケル化合物の合計濃度を0.01~5mol/Lとすることが好ましく、0.1~2.0mol/Lとすることがより好ましい。
【0055】
マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物とを含む混合物を、好ましくは混合液、より好ましくは混合水溶液とし、アルカリ処理することにより沈殿を形成する。アルカリ処理は、マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物とを含む混合物(好ましくは混合液、より好ましくは混合水溶液)をアルカリ性とすることにより達成され得る。
【0056】
マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、マンガン化合物と、ニッケル化合物とを含む混合物をアルカリ処理する際のpHとしては、化合物の種類及び濃度等を考慮し、適切なpHを設定すればよい。具体的には、pH8以上とすることが好ましく、pH11以上とすることがより好ましい。この際のpHの上限値は特に制限はないが、通常14程度である。
【0057】
アルカリ処理の具体的な操作方法に関しては、特に限定はない。例えば、マグネシウム化合物及び/又はチタン化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物とを含む混合物を、アルカリ水溶液に徐々に添加する方法を挙げることができる。かかる方法を採用する場合には、例えば送液ポンプを使用し、上記混合物(好ましくは混合液、より好ましくは混合水溶液)を、好ましくは1~10時間、より好ましくは2~5時間かけて滴下することが好ましい。かかる方法を採用することにより、均一な沈殿物を得ることができる。
【0058】
アルカリ処理に使用するアルカリ物質は特に限定されず、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア等を使用することが可能である。これらのアルカリ物質は、適宜の溶媒に溶解させ、例えば0.1~20mol/L、好ましくは0.3~10mol/Lの濃度に調整したアルカリ溶液として、使用することが好ましい。
【0059】
アルカリ物質を溶解させる溶媒としては、特に限定されないが、水の他、水-アルコール混合溶媒を使用することも好ましい。ここで、使用するアルコールは、エタノール、メタノール等の水溶性アルコールであることが好ましい。水を使用することが簡便であるが、水-アルコール混合溶媒を使用することにより、アルコールが不凍液として機能し、0℃を下回る温度での沈殿生成が行いやすい。またアルコール添加を行うことにより、アルコールが還元剤として機能し、高価数Mn源の一つである過マンガン酸(VII)カリウムを用いての沈殿生成も容易である。
【0060】
水-アルコール混合溶媒におけるアルコールの使用量は、目的とする沈殿生成温度に応じて適宜設定すればよく、例えば、水100質量部に対し、アルコールを10~50質量部とすることが好ましく、20~40質量部とすることがより好ましい。
【0061】
沈殿形成に伴い中和熱が発生することを考慮し、沈殿形成は恒温槽等を用いた温度制御を行うことが好ましい。アルカリ処理時における設定温度は、-20~80℃とすることが好ましく、-10~60℃とすることがより好ましい。
【0062】
(3.2.工程2)
工程2では、前記工程1で得られる沈殿を酸化させて複合酸化物前駆体を得る。
【0063】
工程2においては、沈殿を含む反応系に酸化処理を行うことが好ましい。当該酸化処理は、好ましくは0~150℃、より好ましくは10~100℃の温度条件にて、好ましくは0.5~7日間、より好ましくは1~4日間にわたり、反応系に空気又は酸素を吹き込むことにより実施できる。
【0064】
酸化処理は、均一な試料を得るために、湿式条件で行われることが好ましい。湿式条件の具体的な態様としては、バブリング処理を例示することができる。
【0065】
上記酸化処理を経て、複合酸化物前駆体を得ることができる。複合酸化物前駆体は、そのまま次の工程3で使用してもよいし、蒸留水等で洗浄した後、過剰のアルカリ成分及び残留原料等を除去し、濾別することにより精製した複合酸化物前駆体とした後に、工程3に使用してもよい。
【0066】
(3.3.工程3)
工程3では、前記工程2で得られる複合酸化物前駆体を、リチウム化合物存在下、酸化雰囲気中で熱処理する。
【0067】
使用するリチウム化合物としては、特に限定はなく、例えばリチウム塩を使用することができる。より具体的には、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウムの水和物、硝酸リチウム、及び酢酸リチウム等を例示することができる。
【0068】
リチウム以外の金属化合物モル量に対するリチウム化合物の使用量は特に限定されない。但し、(Li/(Ni+M+Mn)(モル比))で、例えば、異種金属価数を2価(MがMgの場合)、ニッケルを2価、マンガンを4価とした場合のyNiO-zMO-(1-y-z)Li2MnO3を仮定して得られる値とすることが好ましい。例えば、yが0.200でzが0.100の場合、上記固体組成より
(Li/(Ni+M+Mn)(モル比))=0.30×0+0.70×2=1.40
を使用することにより、後述する工程4の熱処理後の水洗処理が不要となり、工程を単純化できる。一方でLi/(Ni+M+Mn)(モル比)を所望の充放電特性を得るために適宜変更することもできる。例えばLi/(Ni+M+Mn)(モル比)を2.00等の目的組成より過剰の数値として、熱処理し後で水洗処理、濾過、乾燥等により過剰のリチウム塩を除去してもよい。
【0069】
複合酸化物前駆体とリチウム化合物とを乾式混合し、得られた混合物を熱処理に供してもよいが、複合酸化物前駆体とリチウム化合物とを溶媒(好ましくは、水)中でスラリー化し、スラリーを乾燥させて得られる乾燥物を、熱処理に供することが好ましい。
【0070】
例えば、リチウム化合物として水溶性化合物を使用する場合には、リチウム化合物を水に溶解させて水溶液とし、複合酸化物前駆体と混合し、スラリー化することが好ましい。一方、リチウム化合物として水に対して不溶性のものを使用する場合には、当該リチウム化合物を水に分散させた後に複合酸化物前駆体を添加して混合してスラリー化することが好ましい。
【0071】
得られたスラリーは、熱処理前に乾燥させて、乾燥混合物とすることが好ましい。乾燥条件は、特に限定されない。例えば、40~60℃の温度で徐々に乾燥させることが比重の異なるリチウム塩と沈殿の分離を防ぎやすいという観点から好ましい。
【0072】
その後、複合酸化物前駆体とリチウム化合物との混合物、又はスラリーを乾燥させた乾燥混合物を、酸化雰囲気中で熱処理を行う。ここで、乾燥混合物に熱処理を行う場合には、熱処理前に粉砕処理を行うことが好ましい。粉砕処理の処理条件に関しては特に限定されず、粉砕物が粗大粒子を含まず、均一な色調となっていればよい。
【0073】
工程3において、熱処理は酸化雰囲気中で実施する。酸化性雰囲気としては、例えば、大気中、酸素中等の環境を例示することができる。
【0074】
熱処理における温度条件としては、400~800℃とすることが好ましく、500~700℃とすることがより好ましい。熱処理時間に関しては、例えば、1~30時間とすることが好ましく、3~20時間とすることがより好ましい。
【0075】
(3.4.工程4)
工程4では、前記工程3で得られる生成物に、不活性雰囲気下において、前記工程3よりも高温条件で熱処理を行う。
【0076】
工程3で得られる生成物は、工程3の熱処理後、そのまま使用してもよいが、粉砕して使用することが好ましい。
【0077】
工程4における熱処理は、不活性雰囲気下で実施する。不活性雰囲気下とは、高温での酸化を抑制するような環境であれば特に限定はなく、例えば、窒素中、アルゴン中等の環境を例示することができる。
【0078】
工程4における熱処理温度は、工程3における熱処理温度よりも高い。工程4における熱処理温度が工程3における熱処理温度以下である場合、充分な粒成長及び還元効果が得られないため充放電サイクル特性に優れた試料が得られない。
【0079】
工程4における熱処理の具体的な温度条件に関しては、800~1000℃とすることが好ましく、850~950℃とすることがより好ましい。熱処理時間に関しては、例えば、1~30時間とすることが好ましく、3~20時間とすることがより好ましい。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0081】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
硝酸ニッケル(II)6水和物14.54g、硝酸マグネシウム(II)6水和物6.41g及び塩化マンガン(II)4水和物34.63g(全量0.25mol、Ni:Mg:Mnモル比=20:10:70)を500mLの蒸留水に加え、完全に溶解させ、Ni-Mg-Mn水溶液(0.50mol/L)を得た。別のビーカーに水酸化ナトリウム水溶液(蒸留水500mLに水酸化ナトリウム50gを溶解させた溶液;2.50mol/L)を作製した。この水酸化ナトリウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、攪拌しつつ恒温漕内に設置し、恒温漕内を+20℃に保った。次いで、この水酸化ナトリウム水溶液に上記Ni-Mg-Mn水溶液を2~3時間かけて徐々に滴下して、Ni-Mg-Mn沈殿物を形成させた(工程1)。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で48時間以上酸素を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させ目的とする前駆体を得た(工程2)。
【0083】
前駆体を蒸留水で洗浄後濾別し得られたものを、全量に対して1.00倍(モル比)の炭酸リチウム(18.47g;(Li/(Ni+Mg+Mn)(モル比)が2.00))と蒸留水200mLを加え、ミキサーで混合して均一なスラリーを作製し、その後ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シャーレに移して、50℃で2日間乾燥させた。
【0084】
乾燥粉末を振動ミルで粉砕後、電気炉に入れ、大気中650℃で5時間一次焼成した(工程3)。その後粉末を電気炉から取り出し、再び振動ミルで粉砕後、電気炉に入れ窒素気流中850℃で5時間二次焼成した(工程4)。その後粉末を電気炉から取り出し、再び振動ミルで粉砕後、蒸留水による水洗処理及び濾過、乾燥処理を行ってマグネシウム含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を得た。
【0085】
(比較例1)
工程4の二次焼成を、不活性雰囲気である窒素雰囲気から大気に変えて、実施例1と同様に作製しマグネシウム含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を得た。
【0086】
X線回折測定(実施例1)
X線リートベルト解析ソフトRIETAN-FP(泉富士夫他、Solid State Phenom.130(2007)15-20.)を用いて得られた実施例1の実測パターン(+)と単斜晶Li
2MnO
3単位胞を用いて得られた計算パターンとの比較(実線)を
図2に示す(ピーク位置は縦棒で、実測値と計算値の残差は強度0付近に表記。)。実測値と計算値の差は小さく、信頼できる解析値が得られたことが確認された。得られた格子定数はa=4.9578(4)Å、b=8.5632(5)Å、c=5.0245(3)Å、β=109.210(6)°、格子体積はV=201.4(4)Å
3であった。各格子位置における金属(仮想原子Ni
0.20Mg
0.10Mn
0.70を仮定)占有率を、等方性熱振動パラメータBを1と仮定して求めると、下記表1の通りとなった。
【0087】
X線回折測定(比較例1)
X線リートベルト解析ソフトRIETAN-FPを用いて得られた比較例1の実測パターン(+)と単斜晶Li
2MnO
3単位胞を用いて得られた計算パターンとの比較(実線)を
図3に示す(ピーク位置は縦棒で、実測値と計算値の残差は強度0付近に表記。)。実測値と計算値の差は小さく、信頼できる解析値が得られたことが確認された。得られた格子定数はa=4.9447(5)Å、b=8.5515(5)Å、c=5.0217(3)Å、β=109.168(9)°、格子体積はV=200.6(6)Å
3であった。各格子位置におけるリチウム以外の金属(仮想原子Ni
0.20Mg
0.10Mn
0.70を仮定)占有率を、等方性熱振動パラメータBを1と仮定して求めると、下記表1の通りとなった。
【0088】
【0089】
表1に示す通り、実施例1の複合酸化物は、六角網目構成位置(4g位置)占有率と六角網目中心位置(2b位置)占有率との差g4g-g2bは0.244であり、本発明の範囲内であることが明らかである。また2θ=20°付近の(020)面のピークと2θ=45°付近の(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さの比I020/I20-2,131は、7.58%であり、本発明の範囲内であることが明らかである。またリチウム層内平均金属量((2g4h+g2c)/3)とリチウム以外の金属-リチウム層内平均金属量((2g4g+g2b)/3)の和で定義される組成式あたりのリチウム以外の金属量(gtotal)は、0.799であり、本発明の範囲内であることが明らかである。
【0090】
また、比較例1の複合酸化物に関しては、表1に示すとおり、六角網目構成位置(4g位置)占有率と六角網目中心位置(2b位置)占有率の差g4g-g2bは0.355であり、本発明の範囲外であることが明らかである。また2θ=20°付近の(020)面のピークと2θ=45°付近の(20-2)面及び(131)面ピークの重なりからなる単一のピークの高さの比I020/I20-2,131は、10.95%であり、本発明の範囲外であることが明らかである。またリチウム層内平均金属量((2g4h+g2c)/3)とリチウム以外の金属-リチウム層内平均金属量((2g4g+g2b)/3)の和で定義される組成式あたりの金属量(gtotal)は、0.772であり、本発明の範囲外であることが明らかである。従って、工程4を不活性雰囲気下において行うことが必要なことが分かる。
【0091】
化学分析(実施例1及び比較例1)
実施例1及び比較例1のマグネシウム含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の金属量をICP発光分析により求め、結果を下記表2に示す。表中のx値はLi/(Ni+Mg+Mn)(モル比)より以下の計算式:
x=(Li/(Ni+Mg+Mn)-1)/(Li/(Ni+Mg+Mn)+1)
で求めた。一方y値はNi/(Ni+Mg+Mn)(モル比)それ自体、z値はMg/(Ni+Mg+Mn)(モル比)それ自体である。実施例1は、本発明の組成式範囲内にあることが明らかである。
【0092】
【0093】
充放電特性評価(実施例1及び比較例1)
実施例1及び比較例1のマグネシウム含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物20mg及びアセチレンブラック粉末5mgを乳鉢でよく混合後、0.5mgのポリテトラフルオロエチレン粉末を加えて互いを結着させた。これをアルミニウムメッシュ上に圧着して合材電極を作製した。合材電極を120℃で一晩真空乾燥後、露点-80℃以下のグローブボックス内に導入し、負極に金属リチウム、電解液として1M LiPF6を炭酸エチレンと炭酸ジメチルとの混合溶媒(体積比 炭酸エチレン:炭酸ジメチル=3:7)に溶解させたものを用いてコイン型リチウム二次電池を組み立てた。作製した電池をグローブボックス内より取り出し、充放電試験装置に接続し、充電開始にて30℃、電流密度40mA/gで充放電試験を行った。なお電気化学的活性化のために4サイクル目まで段階充電法を適用した。1-4サイクル目までは、充電容量を80mAh/gから40mAh/gずつあげて充電させ、各サイクルにおいて、2.0Vまで放電させた。5サイクル目は4.8Vまで充電後2.0Vまで放電させた。その後6サイクル目以降は2.0-4.6Vの電位範囲内で29回定電流充放電させた。
【0094】
実施例1及び比較例1のマグネシウム含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性を、それぞれ
図4及び5に示した。なお、
図4及び5ともに、図中右上がりの曲線が充電曲線(添字cで表記)を、右下がりの曲線が放電曲線(添字dで表記)を示す。数字はサイクル数を示す。なお1~4サイクルに関しては、電気化学的活性化のためのサイクルであるため、図示していない。また、実施例1及び比較例1の充放電容量を、下記表3に示した。
【0095】
【0096】
図4~5及び表3より、実施例1のリチウム二次電池は、比較例1のリチウム二次電池に比べて、5サイクル目から34サイクル目までの充放電容量が大きく、サイクル経過時の充放電曲線変化も小さいことがわかる。また実施例1のリチウム二次電池の5サイクル目放電平均電圧は3.48Vであり、比較例1のリチウム二次電池の値(3.45V)とほぼ同等であった。
【0097】
放電レート特性評価(実施例1及び比較例1)
次に、別の実施例1及び比較例1のリチウム二次電池を用いて高電流密度下での放電レート特性を評価した。5サイクル目までは上記サイクル試験と同様に充放電させ、その後2.0-4.6Vの電位範囲で、充電時の電流密度を40mA/gに固定し、放電電流密度を100mA/gから400mA/gまで変化させて評価した。なお、高電流密度放電試験評価後は電池の充電深度が通常の定電流密度試験より大きくずれるため、各高電流密度放電試験後に1サイクル低電流密度(40mA/g)下での充放電を実施して調整した。
【0098】
図6~7及び表4に、実施例1及び比較例1のリチウム二次電池の放電レート特性を示した。
【0099】
【0100】
図6~7及び表4より、実施例1のリチウム二次電池の方が比較例1のリチウム二次電池に比べて、各電流密度での放電容量が大きく、放電レート特性に優れることが明らかである。
【0101】
(実施例2)
硝酸ニッケル(II)6水和物14.54g、30%硫酸チタン(IV)水溶液20.00g及び塩化マンガン(II)4水和物34.63g(全量0.25mol、Ni:Ti:Mnモル比=20:10:70)を500mLの蒸留水に加え、完全に溶解させ、Ni-Ti-Mn水溶液(0.50mol/L)を得た。別のビーカーに水酸化ナトリウム水溶液(蒸留水500mLに水酸化ナトリウム50gを溶解させた溶液;2.50mol/L)を作製した。この水酸化ナトリウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、攪拌しつつ恒温漕内に設置し、恒温漕内を+20℃に保った。次いで、この水酸化ナトリウム水溶液に上記Ni-Ti-Mn水溶液を2~3時間かけて徐々に滴下して、Ni-Ti-Mn沈殿物を形成させた(工程1)。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で48時間以上酸素を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させ目的とする前駆体を得た(工程2)。
【0102】
前駆体を蒸留水で洗浄後濾別し得られたものを、全量に対して1.00倍(モル比)の炭酸リチウム(18.47g;(Li/(Ni+Ti+Mn)(モル比)が2.00))と蒸留水200mLを加え、ミキサーで混合して均一なスラリーを作製し、その後ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シャーレに移して、50℃で2日間乾燥させた。
【0103】
乾燥粉末を振動ミルで粉砕後、電気炉に入れ、大気中650℃で5時間一次焼成した(工程3)。その後粉末を電気炉から取り出し、再び振動ミルで粉砕後、電気炉に入れ窒素気流中900℃で5時間二次焼成した(工程4)。その後粉末を電気炉から取り出し、再び振動ミルで粉砕後、蒸留水による水洗処理及び濾過、乾燥処理を行ってチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を得た。
【0104】
(比較例2)
工程4の二次焼成を、不活性雰囲気である窒素雰囲気から大気に変えて、実施例2と同様に作製しチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を得た。
【0105】
X線回折測定(実施例2)
X線リートベルト解析ソフトRIETAN-FPを用いて得られた実施例2の実測パターン(+)と単斜晶Li
2MnO
3単位胞を用いて得られた計算パターンとの比較(実線)を
図8に示す(ピーク位置は縦棒で、実測値と計算値の残差は強度0付近に表記。)。実測値と計算値の差は小さく、信頼できる解析値が得られたことが確認された。得られた格子定数はa=4.9486(3)Å、b=8.5568(3)Å、c=5.02475(19)Å、β=109.291(4)°、格子体積V=201.1(3)Å
3であった。各格子位置におけるリチウム以外の金属(仮想原子Ni
0.20Ti
0.10Mn
0.70を仮定)占有率を、等方性熱振動パラメータBを1と仮定して求めると、下記表5の通りとなった。
【0106】
X線回折測定(比較例2)
X線リートベルト解析ソフトRIETAN-FPを用いて得られた比較例2の実測パターン(+)と単斜晶Li
2MnO
3単位胞を用いて得られた計算パターンとの比較(実線)を
図9に示す(ピーク位置は縦棒で、実測値と計算値の残差は強度0付近に表記。)。実測値と計算値の差は小さく、信頼できる解析値が得られたことが確認された。得られた格子定数はa=4.9443(2)Å、b=8.5584(2)Å、c=5.02894(16)Å、β=109.293(3)°、格子体積V=200.85(18)Å
3であった。各格子位置におけるリチウム以外の金属(仮想原子Ni
0.20Ti
0.10Mn
0.70を仮定)占有率を、等方性熱振動パラメータBを1と仮定して求めると、下記表5の通りとなった。
【0107】
【0108】
表5に示す通り、実施例2の複合酸化物は、六角網目構成位置(4g位置)占有率と六角網目中心位置(2b位置)占有率との差g4g-g2bは0.376であり、本発明の範囲内であることが明らかである。2θ=20°付近の(020)面のピークと2θ=45°付近の(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さの比I020/I20-2,131は、13.32%であり、本発明の範囲内であることが明らかである。またリチウム層内平均金属量((2g4h+g2c)/3)とリチウム以外の金属-リチウム層内平均金属量((2g4g+g2b)/3)の和で定義される組成式あたりのリチウム以外の金属量(gtotal)は、0.736であり、本発明の範囲内であることが明らかである。
【0109】
また、比較例2の複合酸化物に関しては、表5に示すとおり、六角網目構成位置(4g位置)占有率と六角網目中心位置(2b位置)占有率との差g4g-g2bは0.404であり、本発明の範囲外であることが明らかである。2θ=20°付近の(020)面のピークと2θ=45°付近の(20-2)面及び(131)面ピークの重なりからなる単一のピークの高さの比I020/I20-2,131は、15.25%であり、本発明の範囲外であることが明らかである。またリチウム層内平均金属量((2g4h+g2c)/3)とリチウム以外の金属-リチウム層内平均金属量((2g4g+g2b)/3)の和で定義される組成式あたりの金属量(gtotal)は、0.713であり、本発明の範囲外であることが明らかである。従って、工程4を不活性雰囲気下において行うことが必要なことが分かる。
【0110】
化学分析(実施例2及び比較例2)
実施例2及び比較例2のチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の金属量をICP発光分析により求め、結果を下記表6に示す。表中のx値はLi/(Ni+Ti+Mn)(モル比)より以下の計算式:
x=(Li/(Ni+Ti+Mn)-1)/(Li/(Ni+Ti+Mn)+1)
で求めた。一方y値はNi/(Ni+Ti+Mn)(モル比)それ自体、z値はTi/(Ni+Ti+Mn)(モル比)それ自体である。実施例2の複合酸化物は、本発明の組成式範囲内にあることが明らかである。
【0111】
【0112】
充放電特性評価(実施例2及び比較例2)
実施例2及び比較例2のチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を用いて実施例1と同様に電極作製、電池作製、充放電試験条件設定を行った後、充放電試験を行った。
【0113】
実施例2及び比較例2のチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性を、それぞれ
図10及び11に示した。なお、
図10及び
図11ともに、図中右上がりの曲線が充電曲線(添字cで表記)を、右下がりの曲線が放電曲線(添字dで表記)を示す。数字はサイクル数を示す。なお1~4サイクルに関しては、電気化学的活性化のためのサイクルであるため、図示していない。また、実施例2及び比較例2の充放電容量を、下記表7に示した。
【0114】
【0115】
図10~
図11及び表7より、実施例2のリチウム二次電池は、比較例2のリチウム二次電池に比べて、5サイクル目の充放電容量が大きく、14サイクル目はほぼ同等の充放電容量を示し、サイクル経過時の充放電曲線形状変化も小さいことがわかる。また実施例2のリチウム二次電池の5サイクル目放電平均電圧は3.47Vであり、比較例2のリチウム二次電池の値(3.42V)より高くなった。
【0116】
放電レート特性評価
次に、別の実施例2及び比較例2のリチウム二次電池を用いて高電流密度下での放電レート特性を実施例1と同様に評価した。
【0117】
図12~13及び表8に、実施例2及び比較例2のリチウム二次電池の放電レート特性を示した。
【0118】
【0119】
図12~13及び表8より、実施例2のリチウム二次電池の方が比較例2のリチウム二次電池に比べて、各電流密度での放電容量が大きく、放電レート特性に優れることが明らかである。
【0120】
(実施例3)
硝酸ニッケル(II)6水和物21.81g、30%硫酸チタン(IV)水溶液20.00g及び塩化マンガン(II)4水和物29.69g(全量0.25mol、Ni:Ti:Mnモル比=30:10:60)を500mLの蒸留水に加え、完全に溶解させ、Ni-Ti-Mn水溶液(0.50mol/L)を得た。別のビーカーに水酸化ナトリウム水溶液(蒸留水500mLに水酸化ナトリウム50gを溶解させた溶液;2.50mol/L)を作製した。この水酸化ナトリウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、攪拌しつつ恒温漕内に設置し、恒温漕内を+50℃に保った。次いで、この水酸化ナトリウム水溶液に上記Ni-Ti-Mn水溶液を2~3時間かけて徐々に滴下して、Ni-Ti-Mn沈殿物を形成させた(工程1)。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で48時間以上酸素を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させ目的とする前駆体を得た(工程2)。
【0121】
前駆体を蒸留水で洗浄後濾別し得られたものを、全量に対して1.00倍(モル比)の炭酸リチウム(18.47g;(Li/(Ni+Ti+Mn)(モル比)が2.00))と蒸留水200mLを加え、ミキサーで混合して均一なスラリーを作製し、その後ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シャーレに移して、50℃で2日間乾燥させた。
【0122】
乾燥粉末を振動ミルで粉砕後、電気炉に入れ、大気中650℃で5時間一次焼成した(工程3)。その後粉末を電気炉から取り出し、再び振動ミルで粉砕後、電気炉に入れ窒素気流中850℃で5時間二次焼成した(工程4)。その後粉末を電気炉から取り出し、再び振動ミルで粉砕後、蒸留水による水洗処理及び濾過、乾燥処理を行ってチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を得た。
【0123】
(比較例3)
工程4の二次焼成を、不活性雰囲気である窒素雰囲気から大気に変えて、実施例3と同様に作製しチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を得た。
【0124】
X線回折測定(実施例3)
X線リートベルト解析ソフトRIETAN-FPを用いて得られた実施例3の実測パターン(+)と単斜晶Li
2MnO
3単位胞を用いて得られた計算パターンとの比較(実線)を
図14に示す(ピーク位置は縦棒で、実測値と計算値の残差は強度0付近に表記。)。実測値と計算値の差は小さく、信頼できる解析値が得られたことが確認された。得られた格子定数はa=4.9665(3)Å、b=8.5966(4)Å、c=5.03574(17)Å、β=109.300(5)°、格子体積V=202.9(3)Å
3であった。各格子位置におけるリチウム以外の金属(仮想原子Ni
0.30Ti
0.10Mn
0.60を仮定)占有率を、等方性熱振動パラメータBを1と仮定して求めると、下記表9の通りとなった。
【0125】
X線回折測定(比較例3)
X線リートベルト解析ソフトRIETAN-FPを用いて得られた比較例3の実測パターン(+)と単斜晶Li
2MnO
3単位胞を用いて得られた計算パターンとの比較(実線)を
図15に示す(ピーク位置は縦棒で、実測値と計算値の残差は強度0付近に表記。)。実測値と計算値の差は小さく、信頼できる解析値が得られたことが確認された。得られた格子定数はa=4.9445(3)Å、b=8.5639(3)Å、c=5.0221(2)Å、β=109.295(4)°、格子体積V=200.7(3)Å
3であった。各格子位置におけるリチウム以外の金属(仮想原子Ni
0.30Ti
0.10Mn
0.60を仮定)占有率を、等方性熱振動パラメータBを1と仮定して求めると、下記表9の通りとなった。
【0126】
【0127】
表9に示す通り、実施例3の複合酸化物は、六角網目構成位置(4g位置)占有率と六角網目中心位置(2b位置)占有率との差g4g-g2bは0.273であり、本発明の範囲内であることが明らかである。2θ=20°付近の(020)面のピークと2θ=45°付近の(20-2)面及び(131)面のピークの重なりからなる単一のピークの高さの比I020/I20-2,131は、6.074%であり、本発明の範囲内であることが明らかである。またリチウム層内平均金属量((2g4h+g2c)/3)とリチウム以外の金属-リチウム層内平均金属量((2g4g+g2b)/3)の和で定義される組成式あたりのリチウム以外の金属量(gtotal)は、0.792であり、本発明の範囲内であることが明らかである。
【0128】
また、比較例3の複合酸化物に関しては、表9に示すとおり、六角網目構成位置(4g位置)占有率と六角網目中心位置(2b位置)占有率との差g4g-g2bは0.312であり、本発明の範囲外であることが明らかである。2θ=20°付近の(020)面のピークと2θ=45°付近の(20-2)面及び(131)面ピークの重なりからなる単一のピークの高さの比I020/I20-2,131は、8.901%であり、本発明の範囲外であることが明らかである。またリチウム層内平均金属量((2g4h+g2c)/3)とリチウム以外の金属-リチウム層内平均金属量((2g4g+g2b)/3)の和で定義される組成式あたりの金属量(gtotal)は、0.744であり、本発明の範囲外であることが明らかである。従って、工程4を不活性雰囲気下において行うことが必要なことが分かる。
【0129】
化学分析(実施例3及び比較例3)
実施例3及び比較例3のチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物の金属量をICP発光分析により求め、結果を下記表10に示す。表中のx値はLi/(Ni+Ti+Mn)(モル比)より以下の計算式:
x=(Li/(Ni+Ti+Mn)-1)/(Li/(Ni+Ti+Mn)+1)
で求めた。一方y値はNi/(Ni+Ti+Mn)(モル比)それ自体、z値はTi/(Ni+Ti+Mn)(モル比)それ自体である。実施例3の複合酸化物は、本発明の組成式範囲内にあることが明らかである。
【0130】
【0131】
充放電特性評価(実施例3及び比較例3)
実施例3及び比較例3のチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を用いて実施例1と同様に電極作製、電池作製、充放電試験条件設定を行った後、充放電試験を行った。なお、電解液は、1.5MLiPF6を炭酸エチレンと炭酸ジメチルとの混合溶媒(体積比 炭酸エチレン:炭酸ジメチル=3:7)に溶解させたものを用いた。
【0132】
実施例3及び比較例3のチタン含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性を、それぞれ
図16及び17に示した。なお、
図16及び
図17ともに、図中右上がりの曲線が充電曲線(添字cで表記)を、右下がりの曲線が放電曲線(添字dで表記)を示す。数字はサイクル数を示す。なお1~4サイクルに関しては、電気化学的活性化のためのサイクルであるため、図示していない。また、実施例3及び比較例3の充放電容量を、下記表11に示した。
【0133】
【0134】
図16~
図17及び表11より、実施例3のリチウム二次電池は、比較例3のリチウム二次電池に比べて、5サイクル目から34サイクル目までの充放電容量が大きく、サイクル経過時の充放電曲線変化も小さいことがわかる。また実施例3のリチウム二次電池の5サイクル目放電平均電圧は3.58Vであり、比較例3のリチウム二次電池の値(3.51V)より高くなった。
【0135】
放電レート特性評価(実施例3及び比較例3)
次に、別の実施例3及び比較例3のリチウム二次電池を用いて高電流密度下での放電レート特性を評価した。5サイクル目までは上記サイクル試験と同様に充放電させ、その後2.0-4.6Vの電位範囲で、充電時の電流密度を40mA/gに固定し、放電電流密度を100mA/gから400mA/gまで変化させて評価した。なお、高電流密度放電試験評価後は電池の充電深度が通常の定電流密度試験より大きくずれるため、各高電流密度放電試験後に1サイクル低電流密度(40mA/g)下での充放電を実施して調整した。
【0136】
図18~19及び表12に、実施例3及び比較例3のリチウム二次電池の放電レート特性を示した。
【0137】
【0138】
図18~19及び表12より、実施例3のリチウム二次電池の方が比較例3のリチウム二次電池に比べて、各電流密度での放電容量が大きく、放電レート特性に優れることが明らかである。
【0139】
以上から、本発明の異種金属含有リチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、特異なリチウム以外の金属イオン分布又は存在量を有するため、通常のリチウム以外の金属イオン分布及び存在量を有するものに比べて優れた充放電特性を有し、車載用等の大型リチウムイオン二次電池用正極材料として好適に使用可能であると考えられる。
本発明のリチウムニッケルマンガン系複合酸化物は、作動電圧、初期充放電容量及び放電レート特性が既存のNMC系正極材料と比較して同等又はそれ以上である。そのため、電気自動車若しくはプラグインハイブリッド車用のバッテリー、又は定置用蓄電池等に好適に利用することが可能である。