IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特開2022-61220可塑性注入材作製用の第一混合物、可塑性注入材、可塑性注入材の製造方法、及び、可塑性注入材の施工方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061220
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】可塑性注入材作製用の第一混合物、可塑性注入材、可塑性注入材の製造方法、及び、可塑性注入材の施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20220411BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20220411BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20220411BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20220411BHJP
   C09K 17/40 20060101ALI20220411BHJP
   C09K 17/14 20060101ALI20220411BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20220411BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B14/10 Z
C04B24/12 A
C04B22/06 Z
C09K17/40 P
C09K17/14 P
C09K17/02 P
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169090
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐野 匠
(72)【発明者】
【氏名】川上 明大
(72)【発明者】
【氏名】沖原 直生
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 彩
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040AB01
2D040CA04
2D040CA10
2D040CB03
4G112PA03
4G112PA06
4G112PB20
4H026CA01
4H026CA05
4H026CB05
4H026CB08
4H026CC02
4H026CC03
(57)【要約】
【課題】可塑性注入材の収縮を低減できる可塑性注入材作製用の第一混合物、及び、該第一混合物を用いて形成される可塑性注入材を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る可塑性注入材作製用の第一混合物は、高炉スラグと可塑化材と水とアゾジカルボンアミド系発泡剤とを含有する第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製するための可塑性注入材作製用の第一混合物であって、前記アゾジカルボンアミド系発泡剤は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度50%の粒子径(D50)が5.0μm以上60.0μm以下であり、前記アゾジカルボンアミド系発泡剤の含有量は、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合が0.1kg/m以上0.7kg/m以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグと可塑化材と水とアゾジカルボンアミド系発泡剤とを含有する第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製するための可塑性注入材作製用の第一混合物であって、
前記アゾジカルボンアミド系発泡剤は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度50%の粒子径(D50)が5.0μm以上60.0μm以下であり、
前記アゾジカルボンアミド系発泡剤の含有量は、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合が0.1kg/m以上0.7kg/m以下である、
可塑性注入材作製用の第一混合物。
【請求項2】
前記アゾジカルボンアミド系発泡剤は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度30%の粒子径(D30)の前記累計頻度50%の粒子径(D50)に対する粒子径比(D30/D50)が0.3以上0.8以下である、
請求項1に記載の可塑性注入材作製用の第一混合物。
【請求項3】
前記アゾジカルボンアミド系発泡剤は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度70%の粒子径(D70)の前記累計頻度50%の粒子径(D50)に対する粒子径比(D70/D50)が1.20以上1.90以下である、
請求項1又は2に記載の可塑性注入材作製用の第一混合物。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とが混合されてなる、
可塑性注入材。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とを混合する工程を備える、
可塑性注入材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程と、該可塑性注入材を施工場所に注入する工程と、を備える、
可塑性注入材の施工方法。
【請求項7】
第一混合物を施工場所付近まで圧送する工程を更に備える、
請求項6に記載の可塑性注入材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性注入材作製用の第一混合物、可塑性注入材、可塑性注入材の製造方法、及び、可塑性注入材の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空隙や空洞等の施工場所に注入する注入材として、セメントを含む注入材が知られている。斯かる注入材は、施工場所に注入し且つ硬化するまでの間に周囲に漏れないようにするために、注入するまでは十分な流動性を有すると共に、注入後には周囲に流れださないようにゲル状に凝集する性質(すなわち、可塑性)を有することが要求される。
【0003】
斯かる可塑性を有する注入材(以下、可塑性注入材ともいう。)としては、例えば、水硬性材料及び水を含むA液と、可塑化材(具体的には、ベントナイト又はアタパルジャイト)及び水を含むB液とを混合して使用する二液式のものがある。特許文献1及び2では、水硬性材料として、セメント系特殊固化材を用いた可塑性注入材が開示されている。また、特許文献3~6では、水硬性材料として高炉スラグを用いた可塑性注入材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6071063号公報
【特許文献2】特許第6071064号公報
【特許文献3】特許第3366617号公報
【特許文献4】特開2015-229726号公報
【特許文献5】特開2018-202658号公報
【特許文献6】特開2018-203551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高炉スラグを用いた可塑性注入材は、セメント系特殊固化材を用いた可塑性注入材に比べて、可塑性注入材が硬化する過程、及び/又は、硬化した後に生じる収縮が大きくなることが知られており、斯かる収縮を低減することが要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、可塑性注入材の収縮を低減できる可塑性注入材作製用の第一混合物、及び、該第一混合物を用いて形成される可塑性注入材を提供することを課題とする。また、斯かる可塑性注入材の製造方法、及び、該可塑性注入材の施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る可塑性注入材作製用の第一混合物は、高炉スラグと可塑化材と水とアゾジカルボンアミド系発泡剤とを含有する第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製するための可塑性注入材作製用の第一混合物であって、前記アゾジカルボンアミド系発泡剤は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度50%の粒子径(D50)が5.0μm以上60.0μm以下であり、前記アゾジカルボンアミド系発泡剤の含有量は、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合が0.1kg/m以上0.7kg/m以下である。
【0008】
斯かる構成によれば、アゾジカルボンアミド系発泡剤の上記累計頻度50%の粒子径(D50)が上記範囲であり、アゾジカルボンアミド系発泡剤の含有量が上記範囲であることで、可塑性注入材の収縮(具体的には、作製直後の第一混合物を用いた可塑性注入材の収縮、及び、作製から数日経過した第一混合物を用いた可塑性注入材の収縮)を低減できる。また、上記累計頻度50%の粒子径(D50)が上記範囲であると共に、アゾジカルボンアミド系発泡剤の含有量が上記の範囲であることで、可塑性注入材が硬化した際に良好な圧縮強度を得ることができる。
【0009】
上記アゾジカルボンアミド系発泡剤は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度30%の粒子径(D30)の上記累計頻度50%の粒子径(D50)に対する粒子径比(D30/D50)が0.3以上0.8以下であることが好ましい。
【0010】
斯かる構成によれば、上記累計頻度30%の粒子径(D30)の上記累計頻度50%の粒子径(D50)に対する粒子径比(D30/D50)が上記範囲であることで、可塑性注入材の収縮をより低減できる。
【0011】
上記アゾジカルボンアミド系発泡剤は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度70%の粒子径(D70)の上記累計頻度50%の粒子径(D50)に対する粒子径比(D70/D50)が1.20以上1.90以下であることが好ましい。
【0012】
斯かる構成によれば、上記累計頻度70%の粒子径(D70)の上記累計頻度50%の粒子径(D50)に対する粒子径比(D70/D50)が上記範囲であることで、可塑性注入材の収縮をより低減できる。
【0013】
本発明に係る可塑性注入材は、上記何れかの第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とが混合されてなる。
【0014】
本発明に係る可塑性注入材の製造方法は、上記何れかの第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とを混合する工程を備える。
【0015】
本発明に係る可塑性注入材の施工方法は、上記何れかの第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程と、該可塑性注入材を施工場所に注入する工程と、を備える。
【0016】
上記可塑性注入材の施工方法は、第一混合物を施工場所付近まで圧送する工程を更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、可塑性注入材の収縮を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<可塑性注入材作製用の第一混合物>
以下、本実施形態に係る可塑性注入材作製用の第一混合物について説明する。
【0019】
本実施形態に係る可塑性注入材作製用の第一混合物(以下では、単に「第一混合物」とも記す)は、高炉スラグと、可塑化材と、水と、アゾジカルボンアミド系発泡剤と、を含有する。第一混合物は、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物と混合することで可塑性注入材を作製するものである。また、第一混合物は、セメントを含むものであってもよく、セメントを含まないものであってもよい。なお、「セメントを含有しない」とは、第一混合物におけるセメントの含有量が0kg/m以上10kg/m未満であることをいう。
【0020】
高炉スラグとしては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定されるものが挙げられる。具体的には、高炉スラグ微粉末3000、高炉スラグ微粉末4000、高炉スラグ微粉末6000、及び、高炉スラグ微粉末8000が挙げられる。高炉スラグは、硬化助材の存在下で水と接触すると水和反応を開始して硬化性の水和物を生成する。よって、水硬性材料として高炉スラグを用い、第一混合物がセメントを含まない場合、第一混合物が単独で硬化する虞がない。これにより、第一混合物を圧送する設備内等で第一混合物が硬化することがないため、施工終了後に毎回設備の洗浄を行う必要がなく、施工の省力化を図ることができる。また、洗浄廃水の処理が不要となるため、経済面及び環境面での負荷を軽減することができる。
【0021】
第一混合物における高炉スラグの含有量は、例えば、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合が150kg/m以上500kg/m以下であってもよく、200kg/m以上400kg/m以下であってもよい。
【0022】
可塑化材としては、第一混合物と第二混合物とが混合された際に可塑化作用を生じさせるものであれば、特に限定されるものではない。このため、可塑化材としては、第一混合物を可塑化する作用は低くてもよいが、第二混合物に含まれる硬化助材と混合されることで可塑化作用が高くなるものを用いることが好ましい。具体的には、ベントナイト、アタパルジャイト、メタカオリン等の粘土鉱物等が挙げられる。特に、ベントナイトは、適度な可塑性を可塑性注入材に付与できると同時に、第一混合物の流動性を適度な範囲に調整できるため好ましい。
【0023】
ベントナイトとしては、膨潤度が16ml/2g以上50ml/2g以下であってもよく、16ml/2g以上40ml/2g以下であってもよい。ベントナイトの膨潤度が前記範囲であることで、第一混合物の流動性をより長時間適度な範囲に維持できると共に、可塑性注入材の可塑性がより適度なものとなる。なお、ベントナイトの膨潤度は、日本ベントナイト工業会試験法(JBAS-104)によって求められるものであり、蒸留水もしくは純水の中にベントナイトを徐々に落としたときの水中で示す見掛け容積で表示されるものである。具体的には、純水又は蒸留水100ml中にベントナイト試料2gを落とし、落下後24時間放置して容器内の推積した試料の見掛け容積を読取るものである。
【0024】
第一混合物における可塑化材の含有量は、例えば、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合が50kg/m以上300kg/m以下であってもよく、75kg/m以上150kg/m以下であってもよい。可塑化材の含有量が上記の範囲であることで、第一混合物の流動性をより適度な範囲に調整できると共に、可塑性注入材の可塑性がより適度なものとなる。
【0025】
アゾジカルボンアミド系発泡剤は、アルカリと接触して窒素ガスの気泡を発生する。アゾジカルボンアミド系発泡剤は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度50%の粒子径(D50)(以下、単に「粒子径(D50)」とも記す)が5.0μm以上60.0μm以下であり、8.0μm以上55.0μm以下であってもよい。
【0026】
アゾジカルボンアミド系発泡剤は、可塑性注入材の収縮をより低減させる観点から、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度30%の粒子径(D30)(以下、単に「粒子径(D30)」とも記す)の粒子径(D50)に対する粒子径比(D30/D50)が0.3以上0.8以下であってもよく、0.4以上0.7以下であってもよい。また、アゾジカルボンアミド系発泡剤は、可塑性注入材の収縮をより低減させる観点から、レーザー回析散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累計頻度70%の粒子径(D70)(以下、単に「粒子径(D70)」とも記す)の粒子径(D50)に対する粒子径比(D70/D50)が1.20以上1.90以下であってもよく、1.30以上1.80以下であってもよい。
【0027】
第一混合物におけるアゾジカルボンアミド系発泡剤の含有量は、例えば、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合が0.1kg/m以上0.7kg/m以下であり、0.1kg/m以上0.5kg/m以下であってもよい。
【0028】
水としては、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等を使用できる。第一混合物における水の含有量は、例えば、第一混合物の単位体積に対する質量割合が700kg/m以上950kg/m以下であってもよく、800kg/m以上900kg/m以下であってもよい。水の含有量が上記の範囲であることで、第一混合物の流動性をより適度な範囲に調整できる。
【0029】
第一混合物がセメントを含む場合、該セメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱などの各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、白色セメント、耐硫酸塩セメント、ジェットセメントなどの特殊セメント等が挙げられる。セメントを含有する場合には、第一混合物におけるセメントの含有量は、例えば、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合を10kg/m以上50kg/m以下とすることができる。
【0030】
本実施形態における第一混合物は、必要に応じて他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、遅延剤、粘性調整剤等が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る第一混合物は、アゾジカルボンアミド系発泡剤の粒子径(D50)が5.0μm以上60.0μm以下であり、アゾジカルボンアミド系発泡剤の含有量が0.1kg/m以上0.7kg/m以下であることで、可塑性注入材の収縮(具体的には、作製直後の第一混合物を用いた可塑性注入材の収縮、及び、作製から数日経過した第一混合物を用いた可塑性注入材の収縮)を低減できる。また、粒子径(D50)が上記範囲であると共に、アゾジカルボンアミド系発泡剤の含有量が上記の範囲であることで、可塑性注入材が硬化した際に良好な圧縮強度を得ることができる。
【0032】
本実施形態に係る第一混合物は、粒子径(D30)の粒子径(D50)に対する粒子径比(D30/D50)が0.3以上0.8以下であることで、可塑性注入材の収縮をより低減できる。
【0033】
本実施形態に係る第一混合物は、粒子径(D70)の粒子径(D50)に対する粒子径比(D70/D50)が1.20以上1.90以下であることで、可塑性注入材の収縮をより低減できる。
【0034】
<可塑性注入材>
以下、本実施形態に係る可塑性注入材について説明する。
【0035】
本実施形態に係る可塑性注入材は、上記の第一混合物と、高炉スラグを硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とが混合されてなる。つまり、本実施形態に係る可塑性注入材は、第一混合物と第二混合物とを別々に調整してから混合することで作製される、所謂、二液式のものである。
【0036】
第二混合物を構成する硬化助材は、水の存在下、第一混合物中の高炉スラグと反応して水和反応を生じさせる(硬化性を発現させうる)材料をいう。硬化助材としては、特に限定されるものではなく、例えば、生石灰(酸化カルシウムCaO)、消石灰(水酸化カルシウムCa(OH))、苦土石灰(CaCO・MgCO)等の石灰、及び、セメント等が挙げられる。セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメントB種、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等が挙げられる。
【0037】
第二混合物における硬化助材の含有量は、例えば、第一混合物中の高炉スラグの質量に対して5質量%以上40質量%以下であってもよく、10質量%以上30質量%以下であってもよい。硬化助材の含有量が上記の範囲であることで、第一混合物と第二混合物とを混合した際に、硬化反応がより生じやすい。
【0038】
第二混合物を構成する水としては、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等を使用できる。第二混合物における水の含有量は、例えば、第二混合物の単位体積に対する質量割合が600kg/m以上900kg/m以下であってもよく、700kg/m以上800kg/m以下であってもよい。水の含有量が上記の範囲であることで、第二混合物の流動性をより適度な範囲に調整できる。
【0039】
本実施形態における第二混合物は、必要に応じて他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、流動化剤、粘性調整剤等が挙げられる。
【0040】
第一混合物と第二混合物との混合比としては、例えば、第一混合物と第二混合物との体積比が80:20~95:5であってもよく、85:15~90:10であってもよい。
【0041】
本実施形態の可塑性注入材における水の含有量は、例えば、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合が700kg/m以上900kg/m以下であってもよく、750kg/m以上850kg/m以下であってもよい。可塑性注入材における水の含有量が上記の範囲であることで、注入時に適度な流動性があり、硬化後に適度な強度を得ることができる。
【0042】
本実施形態に係る可塑性注入材は、可塑性注入材が硬化する過程、及び/又は、硬化した後に生じる収縮を低減できる。また、可塑性注入材が硬化した際に良好な圧縮強度を得ることができる。さらに、空隙や空洞(以下、施工場所とも記す)に注入する際には適度な流動性を有すると共に、注入後に周囲に流出することがない可塑性を有する。
【0043】
<可塑性注入材の製造方法>
以下、本実施形態に係る可塑性注入材の製造方法について説明する。
【0044】
本実施形態に係る可塑性注入材の製造方法は、上記の第一混合物と上記の第二混合物とを別々に作製しておき、任意のタイミングで第一混合物と第二混合物とを混合することで可塑性注入材を作製するものである。つまり、本実施形態の可塑性注入材の製造方法は、第一混合物を作製する工程と、第二混合物を作製する工程と、第一混合物と第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程とを備える。
【0045】
第一混合物を作製する工程において、高炉スラグ、可塑化材、アゾジカルボンアミド系発泡剤、及び、水を混合する順序としては、例えば、以下の順序で混合することができる。
【0046】
まず初めに、高炉スラグと水とを混合して高炉スラグ分散液を作製する工程を実施し、その後、該高炉スラグ分散液と可塑化材とを混合する工程を実施する。可塑化材は、高炉スラグと混合する前に水と接触すると膨潤するため、予め高炉スラグと水とを混合して高炉スラグ分散液を作製しておき、斯かる高炉スラグ分散液と可塑化材とを混合することで、可塑化材の膨潤による第一混合物の流動性の低下を抑制できる。これは、高炉スラグ分散液がアルカリ性を示すため、斯かるアルカリ性の分散液中では可塑化材の膨潤が抑制されるため、と考えられる。そして、アゾジカルボンアミド系発泡剤は、最後に混合することが好ましい。アゾジカルボンアミド系発泡剤を最後に混合することで、第一混合物の粘度の上昇を抑制し、第一混合物の流動性をより良好にできる。
【0047】
第一混合物を作製する工程において、各材料を混合する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知のモルタル等の混合方法を採用できる。例えば、モルタルミキサー、ハンドミキサー等の混合装置を用いて、5℃~35℃、1分間~10分間の混合条件で混合することが挙げられる。
【0048】
第二混合物を作製する工程において、各材料を混合する順序としては、特に限定されるものではない。また、第二混合物を作製する工程において、各材料を混合する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、第一混合物を作製する工程と同様に公知の混合装置を用いて公知の混合条件でのモルタル等の混合方法を採用できる。
【0049】
第一混合物を作製する工程と第二混合物を作製する工程とは、同時に並行して行ってもよく、或いは、一方の工程を先に行い、他の工程を後から行ってもよい。
【0050】
第一混合物を作製する工程と第二混合物を作製する工程とを並行して行う場合には、各工程を実施した後、得られた第一混合物及び第二混合物を混合して可塑性注入材を作製する工程を実施する。
【0051】
一方の工程を先に行い、他の工程を後から行う場合には、例えば、以下のような方法が挙げられる。即ち、第一混合物を作製する工程を実施して第一混合物を得ておき、該第一混合物を施工場所付近まで移送する。そして、施工場所付近において第二混合物を作製する工程を実施して第二混合物を作製し、該第二混合物と、移送してきた第一混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程を実施する。このように、第二混合物を作製する工程を施工場所付近において実施することで、第一混合物と第二混合物とを混合してから短時間で施工場所に可塑性注入材を注入できる。
【0052】
第一混合物と第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程において、第一混合物と第二混合物とを混合する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、第一混合物や第二混合物の作製と同様に、公知のモルタル等の混合方法を採用できる。
【0053】
本実施形態に係る可塑性注入材の製造方法は、可塑性注入材が硬化する過程、及び/又は、硬化した後に生じる収縮を低減できる。また、可塑性注入材が硬化した際に良好な圧縮強度を得ることができる。
【0054】
<可塑性注入材の施工方法>
以下、本実施形態に係る可塑性注入材の施工方法について説明する。
【0055】
本実施形態に係る可塑性注入材の施工方法は、上記の第一混合物を作製する工程と、上記の第二混合物を作製する工程と、上記の第一混合物と第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程と、可塑性注入材を所望の施工場所に注入する工程とを備える。
【0056】
この場合、第一混合物を作製する工程及び第二混合物を作製する工程を施工場所からは離れた場所(例えば、工場等)で実施し、得られた第一混合物及び第二混合物を別々に施工場所付近まで移送し、第一混合物及び第二混合物を混合して可塑性注入材を作製する工程を施工場所付近で実施してもよい。このように、第一混合物及び第二混合物を混合して可塑性注入材を作製する工程を、施工場所付近において実施することで、第一混合物と第二混合物とを混合してから短時間で施工場所に可塑性注入材を注入できる。
【0057】
本実施形態の可塑性注入材の施工方法は、第一混合物を施工場所付近まで移送する工程を備えてもよい。第一混合物を移送する工程を実施する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホースやパイプ等の管体とポンプとを備える圧送手段であってもよく、タンクローリーやベルトコンベア等であってもよい。第一混合物は、セメントを含まない場合、比較的長期間流動性を維持するため、例えば、長い圧送手段を用いた長距離圧送の場合にも、ホース等の内部に詰まりが生じて圧送しにくくなることを抑制できる。
【0058】
本実施形態の可塑性注入材の施工方法は、第二混合物を施工場所付近まで移送する工程を備えてもよく、第二混合物を施工場所付近で作製する工程を備えてもよい。第二混合物を移送する工程を実施する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、第一混合物を移送する手段(具体的には、圧送手段)と同様のものを用いることができる。
【0059】
第一混合物と第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程は、施工場所から離れた場所で実施してもよいが、施工場所付近で実施することが好ましい。
【0060】
可塑性注入材を施工場所に注入する工程を実施する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、可塑性注入材を作製する工程を実施しつつ、可塑性注入材を排出可能な注入ノズルを用いてもよく、公知のモルタル等の混合方法を用いて作製した可塑性注入材を容器から施工場所に直接的に、又は、スコップ等を用いて流し込んでもよい。
【0061】
可塑性注入材を注入する施工場所としては、特に限定されるものではなく、例えば、地盤とコンクリート構造物との間の空洞や空隙、地盤中やコンクリート構造物中の空洞や空隙等が挙げられる。本実施形態に係る可塑性注入材は、適度な流動性と可塑性とを備えているため、狭い空洞や空隙等にも良好に注入できる。
【0062】
本実施形態に係る可塑性注入材の施工方法は、可塑性注入材が硬化する過程、及び/又は、硬化した後に生じる収縮を低減できる。また、可塑性注入材が硬化した際に良好な圧縮強度を得ることができる。
【0063】
また、第一混合物を施工場所付近まで圧送する工程を更に備えることで、第一混合物と第二混合物とを混合してから短時間で施工場所に可塑性注入材を注入できる。
【0064】
なお、本発明に係る可塑性注入材作製用の第一混合物、可塑性注入材、可塑性注入材の製造方法、及び、可塑性注入材の施工方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよい(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよい)。
【実施例0065】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
<可塑性注入材の材料>
高炉スラグ:高炉スラグ微粉末(日鉄スラグ製品社製)
セメント:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
可塑化材:ベントナイト(クニミネ工業社製、品名:クニゲルV1、膨潤度16ml/2g)
混和剤:ポリカルボン酸系減水剤(フローリック社製)
発泡剤a~g:アゾジカルボンアミド系発泡剤(永和化成工業社製)
発泡剤h:金属アルミニウム系発泡剤(立花マテリアル社製)
硬化助剤:消石灰(吉澤石灰工業社製)
水:上水道水
【0067】
上記発泡剤a~hは、D30、D50、D70が表2に記載の通りとなるように、遊星型ボールミルPM400(ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社製)を用いて粒度分布を調整した。粒度分布は、マイクロトラック粒子径分布測定装置MT-3300EX(日機装社製)を用いて測定した。
【0068】
<可塑性注入材の作製>
まず、上記の各材料を用いて、表1及び表2の配合で実施例1~10及び比較例1~7の第一混合物と第二混合物を作製した。なお、表1及び表2の単位kg/mは、可塑性注入材の単位体積に対する質量割合を示したものである。
次に、作製した各第一混合物と第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製した。可塑性注入材は、各第一混合物と第二混合物の作製直後に混合して作製したもの(静置期間0日)、各第一混合物と第二混合物の作製から2日経過後に混合して作製したもの(静置期間2日)、及び、各第一混合物と第二混合物の作製から7日経過後に混合して作製したもの(静置期間7日)の3種類をそれぞれ作製した。作成した各可塑性注入材について、収縮率及び圧縮強度を測定した。なお、実施例10については、第一混合物の作製から7日経過後に第一混合物が硬化したことから、静置期間7日の可塑性注入材を作製しなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
<収縮率の測定>
第一混合物と第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製してから28日経過後に、NEXCO試験方法又は、φ10×高さ20cmのサミット缶評価により可塑性注入材の収縮率を測定した。φ10×高さ20cmのサミット缶評価では、まず、作成直後の可塑性注入材をφ10×高さ20cmの金属製型枠(商品名:サミットモールド)の上端摺り切りまで充填し、養生させた。28日経過後に、型枠の上端と硬化後の材料表面との差をノギスで測定し、収縮率を算定した。収縮率については表2に示す。
【0071】
収縮率は、第一混合物の静置期間0日の収縮率が-0.5%以上1.0%以下であったものを「〇」と評価し、1.0%を超えて2.0%以下又は-1.0%以上-0.5%未満であったものを「△」と評価し、2.0%を超える又は-1.0%未満であったものを「×」と評価した。また、静置期間2日以降については収縮率が-0.5%以上1.5%以下であったものを「〇」と評価し、1.5%を超えて2.5%以下又は-1.0%以上-0.5%未満であったものを「△」と評価し、2.5%を超える又は-1.0%未満であったものを「×」と評価した。
【0072】
<圧縮強度の測定>
第一混合物と第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製してから28日経過後に、JIS A 1216に基づいて、可塑性注入材の圧縮強度の測定を行った。測定結果については表2に示す。圧縮強度は、測定値が1.5N/mm以上であったものを「〇」と評価し、1.0N/mm以上1.5N/mm未満であったものを「△」と評価し、1.0N/mm未満であったものを「×」と評価した。
【0073】
総合評価は、静置期間0日及び静置期間2日以降における収縮率の評価及び圧縮強度の評価が「〇」のみであったものを「◎」と評価し、「×」を含むものは「×」と評価した。また、「×」を含まず「〇」及び「△」を含むものは、「〇」が「△」よりも多い場合には、総合評価「〇」と評価し、「△」が「〇」よりも多い又は同数の場合には、総合評価「△」と評価した。
【0074】
【表2】
【0075】
<まとめ>
表2の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1~10の第一混合物を用いた可塑性注入材は、作製直後の第一混合物を用いた可塑性注入材の収縮及び、作製から数日経過した第一混合物を用いた可塑性注入材の収縮を低減できる。また、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1~10の第一混合物を用いた可塑性注入材は、可塑性注入材の収縮を抑制しつつ、良好な圧縮強度を得ることができる。
【0076】
また、表2の結果から分かるように、第一混合物にセメントを含まない場合には、第一混合物の作製から7日後まで、可塑性注入材の収縮を低減できる。第一混合物にセメントを含む場合には、第一混合物の作製から2日後まで、可塑性注入材の収縮を低減できる。