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特開2022-61774分散液の製造方法および積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061774
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】分散液の製造方法および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20220412BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220412BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220412BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220412BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20220412BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220412BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220412BHJP
【FI】
C08L27/18
B05D7/24 302L
C08K3/36
C08K5/00
C09D127/18
C09D7/61
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169914
(22)【出願日】2020-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
【テーマコード(参考)】
4D075
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB16X
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB06
4D075DB07
4D075DB20
4D075DB31
4D075DB48
4D075DB53
4D075DC08
4D075DC13
4D075DC18
4D075DC19
4D075DC21
4D075DC24
4D075DC31
4D075DC38
4D075DC50
4D075EA06
4D075EA07
4D075EB18
4D075EB57
4D075EC03
4D075EC11
4D075EC22
4D075EC23
4D075EC24
4D075EC30
4D075EC45
4D075EC49
4D075EC53
4J002BD151
4J002DE027
4J002DJ016
4J002EE027
4J002EH007
4J002EP007
4J002FD016
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J038CD121
4J038GA06
4J038HA446
4J038KA06
4J038LA06
(57)【要約】
【課題】テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物とを含む複合粒子を分散媒と混合し、該複合粒子を分散媒に分散させた際に複合粒子の変形と変性が抑えられた分散液を、工業的かつ効率的に得られる製造方法および前記製造方法で得られた分散液を用いた、表面平滑性に優れた外観が良好な積層体の製造方法の提供。
【解決手段】本発明の分散液の製造方法は、テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物を含有する複合粒子と、分散媒とを、撹拌翼による撹拌機構、自転による撹拌機構および公転による撹拌機構からなる群から選ばれる少なくとも1種の撹拌機構を備えた槽内にて、非粉砕の条件下で混合し、前記複合粒子を前記分散媒中に分散させて分散液を得る、分散液の製造方法、および該製造方法で得られた分散液を基材の表面と接触させ、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物を含有する複合粒子と、分散媒とを、撹拌翼による撹拌機構、自転による撹拌機構および公転による撹拌機構からなる群から選ばれる少なくとも1種の撹拌機構を備えた槽内にて、非粉砕の条件下で混合し、前記複合粒子を前記分散媒中に分散させて分散液を得る、分散液の製造方法。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が260から320℃であり、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1から5モル%含むテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、さらに極性官能基を有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記無機物が、シリカである、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記複合粒子の平均粒子径が2μm以上10μm以下である複合粒子である、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記複合粒子が前記テトラフルオロエチレン系ポリマー100質量部に対して前記無機物を20から80質量部含有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記複合粒子が前記テトラフルオロエチレン系ポリマーをコアとし、前記コアの表面に前記無機物を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのコアおよび前記無機物が、それぞれ粒子状である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記コアの平均粒子径が前記無機物の平均粒子径より大きい、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記分散媒が、水、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1から9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
界面活性剤を実質的に含有しない、請求項1から10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記複合粒子の含有量が、25質量%以上である、請求項1から11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記分散液の分散層率が60%以上である、請求項1から12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
さらに他の樹脂または無機フィラーの少なくとも1種を含む組成物を混合する、請求項1から13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の製造方法で得られた分散液を基材の表面と接触させ、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物とを含有する複合粒子を分散媒に分散させた分散液の製造方法、および該製造方法により得られた分散液を基材の表面に塗布する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン系ポリマーとシリカとの複合粒子として、テトラフルオロエチレン系ポリマーをコアとし、シリカをシェルとする、コア・シェル構造の複合粒子が知られている(特許文献1および2参照)。かかる複合粒子は、低粘度な組成物の形成が可能であり、低線膨張性や電気特性等の両者の物性を具備した成形物の形成に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2017/135168号
【特許文献2】国際公開2018/212279号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、テトラフルオロエチレン系ポリマーは、極性が極めて低く、他の成分との親和性が低いため、シリカとも高度に相互作用しにくい。そのため、かかる複合粒子は、それ自体の安定性が充分ではない傾向がある。
本発明者らは、かかる複合粒子が分散媒中に分散した分散液(液状組成物)を、工業的かつ効率的に得るべく、両者を動的な撹拌機構を用いて混合した場合、かかる傾向が顕著となる点を知得した。具体的には、その調製に際して、泡立ちが激しくなり、その分散安定性が低下する点を知見した。
さらに、それから得られる成形物の物性も充分に発現せず、成形物の表面平滑性が低下する点を知見した。
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物とを含有する複合粒子と分散媒とを所定の条件で混合し分散させることで、これらの課題が解決し、かかる複合粒子が分散媒中に安定に分散した分散液を、工業的かつ効率的に得られることを見い出した。また、そのような条件で得られた分散液を基材の表面に接触させ、加熱すれば、表面平滑性に優れた外観が良好な積層体が得られることを見出した。
本発明の目的は、テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物とを含む複合粒子を、分散媒と混合し、該複合粒子を分散媒に分散させた際に複合粒子の変形および変性が抑えられた分散液を、工業的かつ効率的に得られる製造方法の提供である。さらに本発明の目的は、前記製造方法で得られた分散液を用いた、表面平滑性に優れた外観が良好な積層体の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物を含有する複合粒子と、分散媒とを、撹拌翼による撹拌機構、自転による撹拌機構および公転による撹拌機構からなる群から選ばれる少なくとも1種の撹拌機構を備えた槽内にて、非粉砕の条件下で混合し、前記複合粒子を前記分散媒中に分散させて分散液を得る、分散液の製造方法。
<2>
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が260から320℃であり、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1から5モル%含むテトラフルオロエチレン系ポリマーである、前記<1>に記載の製造方法。
<3>
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、さらに極性官能基を有する、前記<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>
前記無機物が、シリカである、前記<1>から<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5>
前記複合粒子の平均粒子径が2μm以上10μm以下である、複合粒子である前記<1>から<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>
前記複合粒子が前記テトラフルオロエチレン系ポリマー100質量部に対して前記無機物を20から80質量部含有する、記<1>から<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7>
前記複合粒子が前記テトラフルオロエチレン系ポリマーをコアとし、前記コアの表面に前記無機物を有する、記<1>から<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8>
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのコアおよび前記無機物が、それぞれ粒子状である、前記<7>に記載の製造方法。
<9>
前記コアの平均粒子径が前記無機物の平均粒子径より大きい、前記<7>または<8>に記載の製造方法。
<10>
前記分散媒が、水、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記<1>から<9>のいずれかに記載の製造方法。
<11>
界面活性剤を実質的に含有しない、前記<1>から<10>のいずれかに記載の製造方法。
<12>
前記複合粒子の含有量が、25質量%以上である、前記<1>から<11>のいずれかに記載の製造方法。
<13>
前記分散液の分散層率が60%以上である、前記<1>から<12>のいずれかに記載の製造方法。
<14>
さらに他の樹脂または無機フィラーの少なくとも1種を含む組成物を混合する、前記<1>から<13>のいずれかに記載の製造方法。
<15>
前記<1>から<14>のいずれかに記載の製造方法で得られた分散液を基材の表面と接触させ、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物とを含む複合粒子を分散媒に分散させた際に、複合粒子の安定性が十分な分散液の製造方法が提供される。さらに本発明によれば、前記製造方法で得られた分散液を用い、表面平滑性に優れた外観が良好な積層体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「D50」は平均粒子径であり、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物(粒子)の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、対象物の粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「D90」は、同様にして測定される、対象物の体積基準累積90%径である。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマー、硬化物またはエラストマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で分散液を測定し求められる値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、分散液を回転数が30rpmの条件で測定して求められる粘度ηを回転数が60rpmの条件で測定して求められる粘度ηで除して算出される値(η/η)である。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーから直接形成された原子団であってもよく、得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
「分散層率」とは、18mLの分散液を内容積30mLのスクリュー管に入れ、25℃にて14日静置した際、静置前後の、スクリュー管中の分散液全体の高さと分散層の高さとから、以下の式により算出される値である。なお、静置後に分散層が確認されず、状態に変化がない場合には、分散液全体の高さに変化がないとして、分散層率は100%とする。分散層率が大きいほど分散安定性に優れる。
分散層率(%)=(分散層の高さ)/(分散液全体の高さ)×100
【0009】
本発明の分散液の製造方法(以下、「本法」とも記す。)は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)と無機物を含有する複合粒子(以下、「本複合粒子」とも記す。)と、分散媒とを、撹拌翼による撹拌機構、自転による撹拌機構および公転による撹拌機構からなる群から選ばれる少なくとも1種の撹拌機構を備えた槽内にて、非粉砕の条件下で混合し、前記複合粒子を前記分散媒中に分散させて分散液を得る方法である。
さらに本発明の積層体の製造方法(以下、「本製造方法」とも記す。)は、前記本法で得られた分散液を基材の表面と接触させ、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを有する積層体を得る方法である。
【0010】
Fポリマーは剛直性に富むポリマーであり、表面エネルギーが低く、そのパウダー同士は凝集しやすい。したがってFポリマーの粒子を含む、分散安定性に優れた分散液を得ることは難しく、分散性を改良するために一般には高剪断をかけて分散媒と混合する方法が採用されている。しかしながら、高剪断下で分散媒と混合すると、Fポリマーは分散液中で変性しやすいとも考えられる。特にFポリマーと無機物とを含有する複合粒子を高剪断下で混合すると、無機物とFポリマーとが強く衝突するため、複合粒子の変形や、Fポリマーの変性が生じやすい。また、空気の巻き込みにより、発泡や凝集が生じやすい。
本法では、Fポリマーと無機物とを含有する複合粒子を適切な剪断条件下で分散媒と混合することで、複合粒子の変形とFポリマーの分散液中での変性を抑えるとともに、空気の巻き込みによる発泡や凝集が抑制される。そのため、本法にて得られる分散液は、分散性と分散安定性に優れると考えられる。また、かかる分散液から形成されるポリマー層中で無機物が均一に分散し、積層体がFポリマーと無機物との物性を高度に発現すると考えられる。
【0011】
Fポリマーは、熱溶融性であってもよく、非熱溶融性であってもよいが、熱溶融性であるのが好ましい。
Fポリマーが熱溶融性の場合、その溶融温度は、260℃から320℃が好ましく、285℃以上から320℃以下がより好ましい。
Fポリマーのガラス転移点は、75から125℃が好ましく、80から100℃がより好ましい。
Fポリマーの溶融粘度は、380℃において1×10から1×10Pa・sが好ましく、1×10から1×10Pa・sがより好ましい。
Fポリマーの溶融温度、ガラス転移点または溶融粘度が、かかる範囲にあれば、分散媒と混合する際に、適切な先端力がかかりやすい。
【0012】
Fポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも記す)、テトラフルオロエチレンに基づく単位(以下、TFE単位とも記す)とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとも記す)に基づく単位(以下、PAVE単位とも記す)を含むポリマー(以下、PFAとも記す)またはTFEとヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むコポリマー(以下、FEPとも記す)が好ましく、PFAまたはFEPがより好ましく、PFAがさらに好ましい。これらのポリマーには、さらに他のコモノマーに基づく単位が含まれていてもよい。
PAVEとしては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCFまたはCF=CFOCFCFCF(以下、PPVEとも記す)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0013】
Fポリマーは、極性官能基を有するのが好ましい。
極性官能基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基およびホスホノ基含有基が好ましく、本粒子の分散性等の物性が高まりやすい観点から、水酸基含有基およびカルボニル基含有基がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。
【0014】
水酸基含有基としては、アルコール性水酸基含有基が好ましく、-CFCHOH、-C(CFOHおよび1,2-グリコール基(-CH(OH)CHOH)がより好ましい。
カルボニル基含有基としては、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)およびカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0015】
Fポリマーとしては、溶融温度が260から320℃であり、PAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1から5モル%含むポリマーが好ましく、TFE単位およびPAVE単位を含み、極性官能基を有するポリマー(1)、または、TFE単位およびPAVE単位を含み、全モノマー単位に対してPAVE単位を2から5モル%含み、極性官能基を有さないポリマー(2)がより好ましい。これらのポリマーを含有する分散液は、基材に塗布しFポリマーの層を形成した時、Fポリマーの層中に微小球晶を形成するため、得られる積層体の特性が向上しやすい。
【0016】
ポリマー(1)が有する極性官能基は、ポリマーが含有する単位に含まれていてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するポリマーや、プラズマ処理、電離線処理や放射線処理によって調製された、極性官能基を有するポリマーが挙げられる。
Fポリマーがポリマー(1)であれば、本複合粒子において、ポリマー(1)と無機物とが、物理的に付着しやすいだけでなく、化学的にも付着しやすくなり、分散媒と混合する際に、前記複合粒子の変性が抑えられる。また、複合粒子が分散媒中に分散した分散液を、より工業的かつ効率的に得やすい。
【0017】
ポリマー(1)は、全単位に対して、TFE単位を93から98.99モル%、PAVE単位を1から5モル%および極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01から2モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸および5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0018】
ポリマー(2)は、TFE単位およびPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95から98モル%、PAVE単位を2から5モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×10個あたりに対して、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
【0019】
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、重合開始剤に由来する極性官能基をポリマー鎖の末端基に有するポリマー等の極性官能基を有するポリマーをフッ素化処理して製造してもよい。
フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0020】
本複合粒子は、Fポリマー以外の他のポリマーを含んでいてもよい。ただし、本粒子に含まれるポリマーに占めるFポリマーの割合は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
Fポリマー以外の他のポリマーとしては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド等の耐熱性樹脂が挙げられる。
【0021】
本複合粒子における無機物としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金およびカーボンが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、窒化ホウ素、およびメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)がより好ましく、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、チタン、亜鉛から選択される元素の少なくとも1種を含有する無機酸化物がさらに好ましく、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、ステアタイトおよび窒化ホウ素が特に好ましく、シリカが最も好ましい。また、無機物は、セラミックスであってもよい。無機物は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の無機物を混合する場合、2種のシリカを用いてもよく、シリカと他の金属酸化物とを用いてもよい。
【0022】
かかる無機物は、Fポリマーとの相互作用が亢進しやすい。また、本複合粒子から形成される、例えば、後述するFポリマーの層およびフィルム等の成形物において、無機物に基づく物性が顕著に発現しやすい。
本複合粒子における無機物は、シリカを含むのが好ましい。
無機物におけるシリカの含有量は、50質量%以上が好ましく、75質量%がより好ましい。シリカの含有量は、100質量%以下が好ましい。
【0023】
無機物は、その表面の少なくとも一部が、表面処理されているのが好ましい。
かかる表面処理に用いられる表面処理剤としては、トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等の多価アルコール、ステアリン酸、ラウリン酸等の飽和脂肪酸またはそのエステル、アルカノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアミン、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサン、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ、チタニウム、アンチモン等の酸化物、それらの水酸化物、それらの水和酸化物、それらのリン酸塩が挙げられる。
【0024】
シランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランおよび3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0025】
無機物の比表面積(BET法)は、1から20m/gが好ましく、5から8m/gがより好ましい。この場合、無機物とFポリマーとの相互作用が亢進しやすい。また、Fポリマーの層等において、無機物とFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性のバランスをとりやすい。
【0026】
無機物の具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン(登録商標)」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX(登録商標)」シリーズ等)、球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP(登録商標)」シリーズ等)、多価アルコールおよび無機物で被覆処理されたルチル型酸化チタン(石原産業社製の「タイペーク(登録商標)」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT(登録商標)」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ、日本アエロジル社製の疎水性AEROSILシリーズ「RX200」等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
【0027】
無機物の形状は、粒状であるのが好ましく、球状、針状(繊維状)、および、板(柱)状であるのがより好ましい。無機物の具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられ、球状および鱗片状が好ましい。かかる形状の無機物を用いれば、Fポリマーの層等の中での無機物の分布の均一性が向上して、その機能を高めやすい。
【0028】
球状である無機物は、略真球状であるのが好ましい。この場合の無機物の粒子において、長径に対する短径の比は、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。上記比は、1未満が好ましい。かかる高度な略真球状の無機物の粒子を用いれば、複合粒子が分散媒中に分散した分散液を、より工業的かつ効率的に得やすい。また、Fポリマーの層等の成形物において、無機物とFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性のバランスをよりとりやすい。
【0029】
鱗片状である無機物のアスペクト比は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。アスペクト比は、1000以下が好ましい。
鱗片状である無機物の平均長径(長手方向の直径の平均値)は1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。平均長径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均短径は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。平均短径は、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。この場合、複合粒子が分散媒中に分散した分散液を、より工業的かつ効率的に得やすい。また、Fポリマーの層等において、無機物とFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性のバランスをよりとりやすい。
【0030】
鱗片状である無機物は、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。
後者の無機物としては、表面に疎水層を有し、内部に親水層を有する無機物が挙げられる。その具体例としては、疎水層、親水層または含水層、疎水層をこの順に備えた無機物が挙げられる。親水層の含水率は、0.3質量%以上が好ましい。この場合、分散液中への本複合粒子の分散状態が安定しやすいだけでなく、Fポリマーの層等における無機物の配向性も一層高まり、Fポリマーの物性と無機物の物性とを高度に具備したFポリマーの層等が得られやすい。
【0031】
本複合粒子の平均粒子径であるD50は、40μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましく、4μm以下が特に好ましい。本複合粒子のD50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
また、本複合粒子のD90は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
本複合粒子のD50およびD90が、かかる範囲にあれば、分散媒中への本複合粒子の分散安定性と、分散液から得られるFポリマーの層等の物性とがより向上しやすい。また、複合粒子が分散媒中に分散した分散液を、より工業的かつ効率的に得やすい。
【0032】
本複合粒子中の無機物の量は、Fポリマー100質量部に対して、20から80質量部であるのが好ましい。本粒子中の無機物の量は、Fポリマー100質量部に対して、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上がさらに好ましい。また本粒子中の無機物の量は、Fポリマー100質量部に対して、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。
【0033】
本複合粒子は、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを、加熱条件下、浮遊状態にて衝突させる方法(以下、「乾式法A」とも記す。)、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを、押圧または剪断状態にて衝突させる方法(以下、「乾式法B」とも記す。)、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを接触させて、Fポリマーの粒子を凝固させる方法(以下、「湿式法」とも記す。)等により製造される。乾式法Aは、ハイブリダイゼーション処理と呼ばれる場合もある。
【0034】
本複合粒子の好適な態様としては、Fポリマーをコアとし、このコアの表面に無機物が付着している態様(以下、「態様I」とも記す。)、無機物をコアとし、このコアの表面にFポリマーが付着している態様(以下、「態様II」とも記す。)が挙げられる。
ここで、「コア」とは、本複合粒子の粒子形状を形成するのに必要な核(中心部)を意味し、本複合粒子の組成における主成分を意味するのではない。
コアの表面に付着する無機物またはFポリマーである付着物は、コアの表面の一部にのみ付着していてもよく、その大部分または全面にわたって付着していてもよい。前者の場合、付着物は埃状にコアの表面にまとわり付くような状態、換言すれば、コアの表面の多くの部分を露出させた状態となっているとも言える。後者の場合、付着物はコアの表面に満遍なくまぶされた態様であるか、またはコアの表面を被覆した状態となっているとも言え、かかる本複合粒子は、コアとコアを被覆するシェルとからなるコア・シェル構造を有するとも言える。
【0035】
態様Iの場合、Fポリマーのコアおよび無機物は、それぞれ粒子状であるのが好ましい。この場合、本粒子は、Fポリマーより硬度の高い無機物が表面に露出するので流動性が高まり、その取り扱い性が向上しやすい。
なお、態様Iの場合、Fポリマーのコアは、Fポリマーの単一粒子で構成されてもよく、Fポリマーの粒子の集合物で構成されてもよい。
態様Iの本複合粒子は、乾式法Aまたは乾式法Bにより製造するのが好ましい。この場合、Fポリマーの粒子のD50を無機物の粒子のD50よりも大きく設定し、Fポリマーの粒子の量を無機物の粒子の量よりも多く設定するのが好ましい。このような関係に設定して、乾式法Aまたは乾式法Bにより本粒子を製造すれば、態様Iの本粒子を得やすい。
【0036】
態様Iの本複合粒子では、FポリマーのコアのD50が無機物の粒子のD50より大きく、かつ、それに占めるFポリマーの質量が無機物の質量より多くなる。この場合、Fポリマーのコアの表面は、より多量の無機物の粒子により被覆され、態様Iの本粒子は、コア・シェル構造を有するようになる。この場合、Fパウダーの粒子同士の凝集が抑制され、単独のFパウダーの粒子からなるコアに無機物の粒子が付着した本複合粒子が得られやすい。
【0037】
態様Iにおいて、無機物の粒子は、球状であるのが好ましく、略真球状であるのがより好ましい。略真球状とは、粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した際に、長径に対する短径の比が0.5以上である、球形の粒子の占める割合が95%以上であることを意味する。この場合の無機物の粒子において、長径に対する短径の比は0.6以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。上記比は、1未満が好ましい。ここで「球状」とは、真球状だけでなく、若干歪んだ球状も含む。
かかる高度な略真球状の無機物の粒子を用いれば、ポリマー層等の成形物において、無機物とFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性のバランスがよりとりやすい。
【0038】
態様Iにおいて、無機物の粒子のD50は0.001から1μmの範囲が好ましく、0.01~0.5μmがより好ましく、0.05から0.3μmがさらに好ましい。D50がかかる範囲にあれば、本粒子の取り扱い性や流動性が向上しやすく、また分散安定性が高まりやすい。
また、無機物の粒子の粒度分布が、D90/D10の値を指標として、3以下であるのが好ましく、2.9以下であるのがより好ましい。ここで、「D10」は、D50およびD90と同様にして測定される、対象物の体積基準累積10%径である。粒度分布が狭いと、得られる本粒子の流動性制御が容易になるという観点より好ましい。
【0039】
態様Iにおいて、無機物の粒子は、その表面の少なくとも一部が表面処理されているのが好ましく、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン化合物や、シランカップリング剤等により表面処理されているのがより好ましい。シランカップリング剤としては、上述した化合物が挙げられる。
【0040】
態様Iにおいて、無機物の粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種の無機物の粒子を混合して用いる場合、各無機物の粒子の平均粒子径は互いに異なっていてもよく、各無機物の粒子の含有量の質量比は、求める機能に応じて適宜設定できる。
【0041】
また、態様Iの場合、無機物の粒子の一部は、Fポリマーのコアに埋入しているのが好ましい。これにより、無機物の粒子のFポリマーのコアへの密着性がより向上し、本粒子からの無機物の粒子の脱落がより生じにくくなる。すなわち、本粒子の安定性がより向上する。
態様Iの本粒子において、FポリマーのコアのD50は、0.1μm以上が好ましく、1μm超がより好ましい。その上限は、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。
態様Iの本粒子において、無機物の粒子のD50は、0.001μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましい。その上限は、1μmが好ましく、0.1μmがより好ましい。
態様Iの本粒子において、無機物の粒子のD50は、FポリマーのコアのD50を基準として、0.001から0.5が好ましく、0.01から0.3がより好ましく、0.1から0.2がさらに好ましい。具体的には、FパウダーのコアのD50が1μm超、かつ無機物の粒子のD50が0.5μm以下であるのが好ましい。
【0042】
本複合粒子はX線光電子分光法(以下、ESCAとも称する)によって測定した時、表面近傍におけるフッ素原子の量に対するケイ素原子の量は1以上であるのが好ましい。ESCAは粒子表面などに存在する元素量を定量する方法であり、炭素(C)、酸素(O)、フッ素(F)、ケイ素(Si)などの各元素を定量することが可能である。
本発明において、表面近傍とは、表面から2から8nmの深さとする。本発明においては、本複合粒子の表面から、かかる深さに存在する元素をESCAにより測定し、ケイ素原子の量とフッ素原子の量を定量する。本複合粒子はこのようにして定量されたケイ素の量をフッ素の量で除した値が1以上の値を有するのが好ましく、1.2以上の値を有するのがより好ましい。この場合、複合粒子が分散媒中に分散した分散液を、より工業的かつ効率的に得やすい。
【0043】
本複合粒子は、表面に付着した無機物の物性に応じて、さらに表面処理してもよい。かかる表面処理の具体例としては、無機物がシリカを含む態様Iの本複合粒子をポリジメチルシロキサン等のシロキサン類またはシランカップリング剤により表面処理する方法が挙げられる。
かかる表面処理は、本複合粒子を液中に分散させてシロキサン類またはシランカップリング剤と混合し、シロキサン類またはシランカップリング剤を反応させ、本複合粒子を回収して実施できる。
シランカップリング剤としては、上述した官能基を有するシランカップリング剤が好ましい。
かかる方法によれば、本複合粒子の表面シリカ量を調整できるだけでなく、その表面物性を更に調整できる。
【0044】
本発明における分散媒は、25℃で不活性な液体化合物である。分散媒は、水であってもよく、非水系分散媒であってもよい。分散媒は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。この場合、異種の分散媒は相溶するのが好ましい。
【0045】
分散媒の沸点は、125から250℃が好ましい。この範囲において、本法で得られる分散液から分散媒を除去する際に、本複合粒子が、高度に流動して緻密にパッキングし、その結果、緻密なFポリマーの層等が形成されやすい。
分散媒としては、分散液中の本複合粒子の分散安定性を高める観点から、水、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の液体化合物が好ましく、水、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびシクロペンタノンがより好ましい。
【0046】
分散媒がN-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒を含む場合、本複合粒子中の無機物は、その表面の少なくとも一部が、アミノ基、ビニル基および(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するシランカップリング剤で表面処理されているのが好ましく、フェニルアミノシランで表面処理されているのがより好ましい。
分散媒がトルエン等の非極性溶媒を含む場合、本複合粒子中の無機物は、その表面の少なくとも一部が、疎水化処理されているのが好ましく、アルキル基およびフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するシランカップリング剤で表面処理されているのが好ましい。
なお、分散媒が水等のプロトン性極性溶媒を含む場合、本複合粒子中の無機物は、表面処理されていないのが好ましい。
かかる分散媒と無機物の組み合わせの場合、本法で得られる分散液は分散安定性に優れやすい。
【0047】
本法は前記本複合粒子と分散媒とを撹拌翼による撹拌機構、自転による撹拌機構および公転による撹拌機構からなる群から選ばれる少なくとも1種の撹拌機構を備えた槽内にて、非粉砕の条件下で混合し、前記複合粒子を前記分散媒中に分散させることで分散液を得る方法である。
撹拌翼による撹拌機構とは、撹拌羽根を備えた一軸あるいは多軸の撹拌翼または回転子が、モーター等の駆動部から回転エネルギーを受け、槽内の撹拌対象物を撹拌する機構である。撹拌翼は対象物に対して上部、下部、または横部のいずれの方向から撹拌してもよい。回転エネルギーはモーターの駆動軸から直接受けてもよいし、磁石等を回転させ磁力等から間接的に受けてもよい。
【0048】
自転による撹拌機構とは、撹拌対象物を収納した槽が回転軸の回りに回転することで対象物を撹拌する機構である。回転軸の方向は槽に対していずれの方向でもよい。一方、公転による撹拌機構とは、撹拌対象物を収納した槽の外にある定点の周りを槽が周回することで対象物を撹拌する機構である。公転面に対して層は垂直、水平または傾斜のいずれでもよい。
【0049】
本複合粒子と分散媒を前記いずれかの撹拌機構を有する槽内にて撹拌する。槽は前記撹拌機構を2種以上有していても良い。例えば、撹拌翼による撹拌機構と自転による撹拌機構を有する槽、撹拌翼による撹拌機構と公転による撹拌機構を有する槽、自転と公転による撹拌機構を有する槽、撹拌翼による撹拌機構、自転による撹拌機構および公転による撹拌機構を有する槽でもよい。
【0050】
前記撹拌機構を備えた槽としては、ヘンシェルミキサー、プロペラ翼を有する撹拌機を備えた槽、アンカー翼を有する撹拌機を備えた槽、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサー、槽を自転させるミキサー(有限会社ミスギ社製「まぜまぜマン」(登録商標)等)等が例示できる。
【0051】
本複合粒子と分散媒は前記撹拌機構の少なくとも1種を有する槽内にて、非粉砕の条件下で混合される。
非粉砕の条件とは、本複合粒子の表面積が混合の前後で概ね維持されるような条件であり、例えば、本複合粒子の混合前の表面積を1とした時、混合後の表面積が1から1.2の範囲となるような条件である。
【0052】
前記非粉砕の条件を達成するためには、前記撹拌機構を有する槽の混合条件を適宜設定すればよいが、前記撹拌機構またはそれらの組合せのみで撹拌するのが好ましい。また撹拌に際して、ボールミルに用いられるボールのようなインナーピースまたは撹拌効率を上げるために槽壁面に設けられるバッフル等は用いないこと、槽の内壁は平滑であること、撹拌機構を有する槽の場合は撹拌翼にスクレイパー等を装着せず撹拌翼と槽の内壁とを接触させないこと、が好ましい。
これらの撹拌条件は、混合において本複合粒子に付与される剪断力を低下させる因子である反面、本複合粒子の変形やFポリマーの変性を抑制する因子となり、本複合粒子の高度な分散を一層促進させる。その結果、これらの撹拌条件により本複合粒子が分散媒中に分散した分散液を、より工業的かつ効率的に得やすい。
【0053】
本法において、本複合粒子と分散媒との混合の温度は、本複合粒子が均一に分散する限り、特に制限はないが、通常、20℃以上で行われる。また分散媒の沸点より低い温度で混合は行われ、100℃以下で混合を行うのが好ましい。
【0054】
前記撹拌機構の少なくとも1種を有する槽内で、前記非粉砕の条件下、本複合粒子と分散媒とを撹拌し、本複合粒子を分散媒へ分散させることで、本複合粒子の変形とFポリマーの分散液中での変性を抑えるとともに空気の巻き込みによる発泡や凝集が抑制された、分散性と分散安定性に優れた分散液が得られる。
【0055】
本法により得られる分散液中の本複合粒子の含有量は、分散液を100質量%として、25質量%以上が好ましく、30質量%から60質量%がより好ましい。
本法は比較的本複合粒子の濃度が高い分散液を製造するのに適している。
【0056】
本法で得られる分散液は、分散性と分散安定性に優れるため、通常、添加される界面活性剤を実質的に含有しないことが好ましい。界面活性剤を含有していると、後述するように分散液からFポリマーの層を形成した時、層の外観が劣る場合がある。なお界面活性剤を実質的に含有しないとは、分散液中の界面活性剤の濃度が1質量%を超えない、ということであり、得られる分散液中の界面活性剤の量が1質量%以下ということである。界面活性剤の量は0.5質量%以下が好ましく、0質量%がより好ましい。
【0057】
本法では、他の樹脂または無機フィラーを含む組成物(以下、第三成分とも記す)をさらに混合してもよい。他の樹脂は、Fポリマーであってもよい。他の樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とPAVE単位とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂等が挙げられる。他の樹脂は、本法で得られる分散液中に分散してもよく、溶解してもよい。
他の樹脂は、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよく、熱可塑性であるのが好ましい。
他の樹脂は、Fポリマーまたは芳香族性ポリマーであるのが好ましい。芳香族性ポリマーとしては、芳香族性ポリイミドが好ましい。
【0058】
無機フィラーとしては、前記無機物と同様な態様が例示できる。
他の樹脂または無機フィラーを含む組成物は、添加の際の取り扱い性と、多量を添加できるとの観点から、液状であるのが好ましい。
【0059】
本法において第三成分は、予め第三成分と前記本複合粒子とを混合し、前記分散媒と混合しても良いし、予め第三成分と前記分散媒とを混合し、前記本複合粒子と混合しても良い。また本法により前記本複合粒子と前記分散媒とを前記条件で混合し、本複合粒子を前記分散媒中に分散させたのち、さらに前記第三成分を添加して混合しても良い。
【0060】
本法では、上記成分以外にも、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、各種フィラー等の他の成分をさらに添加しもよい。
【0061】
本法で得られる分散液の粘度は、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本組成物の粘度は、50000mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以下がより好ましく、800mPa・s以下がさらに好ましい。この場合、本組成物は塗工性に優れるため、任意の厚さを有するFポリマーの層等を形成しやすい。
本法で得られる分散液のチキソ比は、1以上が好ましい。本法で得られる分散液のチキソ比は、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。この場合、本法で得られる分散液は塗工性に優れるだけでなく、その均質性にも優れるため、より緻密なFポリマーの層等を形成しやすい。
【0062】
本法で得られる分散液の分散層率は60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。分散層率の上限は100%である。本法で得られる分散液は、上述のとおり、分散性と分散安定性に優れやすい。
【0063】
本法による分散液から得られる成形物の成分分布の均一性の低下や空隙の抑制の観点から、分散液中の泡沫体積比率は、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましい。泡沫体積比率は、0%以上が好ましい。
なお、泡沫体積比率は、標準大気圧かつ20℃における分散液の体積(V)と、それを0.003MPaまで減圧した際の泡を合わせた体積(V)とを測定し、以下の算出式で求められる値である。
泡沫体積比率[%]=100×(V-V)/Vである。
【0064】
本製造方法では、本法で得られた分散液(以下、「本分散液」とも記す)を基材に接触し、加熱することでFポリマーからなる層(以下、「F層」とも記す)を形成して、F層で基材が被覆された積層体を製造する。接触の方法は、例えば基材表面に本分散液を塗布する方法、本分散液中に基材を浸し、基材中に本分散液を含浸させる方法、基材に本分散液を噴霧する方法等が挙げられる。
【0065】
基材としては、例えば、金属箔、樹脂フィルム、織布、不織布、繊維等が挙げられる。基材の好適な態様としては、金属箔とその少なくとも一方の表面に形成されたF層とを有する金属張積層体、樹脂フィルムとその少なくとも一方の表面に形成されたF層とを有する多層フィルム、織布または不織布に本分散液を含浸させ織布または不織布中の繊維をF層で被覆した被覆織布が挙げられる。また繊維に直接、本分散液を接触させ、焼成して繊維をFポリマーで被覆してもよい。
F層は、基材の全面を被覆していてもよく、一部を被覆していてもよく、基材の表面にFポリマーが付着していればよい。F層は、穴を有していてもよい。
【0066】
金属箔としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等の金属基板が挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、Fポリマー等の樹脂フィルム、繊維強化樹脂基板の前駆体であるプリプレグが挙げられる。樹脂フィルムにおけるFポリマーとしては、PTFE、PFA、FEPが好ましい。これら金属箔または樹脂フィルムの形状は、平面状、曲面状、凹凸状が挙げられ、さらに、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。
積層体の具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にF層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にF層を有する多層フィルムが挙げられる。これらの積層体は、電気特性等の諸物性に優れており、プリント基板材料等として好適である。具体的には、かかる積層体は、フレキシブルプリント基板やリジッドプリント基板の製造に使用できる。
【0067】
金属箔は、銅箔であるのが好ましい。基材が銅箔である金属張積層体は、プリント基板材料として特に有用である。
樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムまたはFポリマーのフィルムであるのが好ましい。基材がかかるフィルムの積層体である多層フィルムは、電線被覆材料、プリント基板材料として有用である。
【0068】
F層を有する金属張積層体またはF層を有する多層フィルムの製造においては、基材の表面の少なくとも片面にF層が形成されればよく、基材の片面のみにF層が形成されてもよく、基材の両面にF層が形成されてもよい。基材の表面は、シランカップリング剤等により表面処理されていてもよい。本分散液の塗布に際しては、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法の塗布方法を使用できる。
【0069】
本分散液を、織布に含浸させ、加熱により乾燥させれば、織布がF層で被覆された被覆織布が得られる。織布は、ガラス繊維織布、カーボン繊維織布、アラミド繊維織布または金属繊維織布が好ましく、ガラス繊維織布またはカーボン繊維織布がより好ましい。本分散液を織布に含浸させる方法は、本分散液に織布を浸漬する方法、本分散液を織布に塗布する方法が挙げられる。
【0070】
本分散液を繊維表面に接触し、焼成して、F層を繊維の表面に付着させれば、繊維がF層で被覆された被覆繊維が得られる。繊維としては、例えば繊維強化プラスチックの強化繊維として用いられる、Eガラス、Dガラス、Lガラス、Sガラス、Tガラス、Qガラス、UNガラス、NEガラス、球状ガラス等のガラス繊維、アラミド繊維、ポリオレフィン繊維、変性ポリフェニレンエーテル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維、天然繊維等の有機繊維、ボロン繊維、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。
繊維の形状は、チョップドストランド、サーフェシング、ロービングまたはこれらのマット、織布、不織布等のいずれでもよい。また、繊維の繊維長や断面形状にも特に制限はない。
【0071】
上記繊維をF層で被覆することで、繊維の糸切れ、毛羽立ちを抑えるサイジング効果が得られる。したがって本分散液はサイジング剤として好適に用いられる。本分散液をサイジング剤として用いる場合、使用する繊維に応じて適宜必要な添加剤を本分散液に添加してもよい。本分散液によりサイジング処理された繊維は、耐熱性と、他のポリマーとの接着性に優れる。
【0072】
F層は、加熱により前記分散媒を除去した後に、さらにポリマーを焼成して形成するのが好ましい。分散媒の除去の温度は、分散媒の沸点以下の温度が好ましく、沸点より50℃から150℃低い温度がより好ましい。例えば沸点が約200℃のN-メチル-2-ピロリドンを用いた場合、150℃以下、好ましくは100から120℃で加熱することが好ましい。例えば沸点が約100℃の水を用いた場合、90℃以下、好ましくは70から80℃で加熱することが好ましい。分散媒を除去する工程で空気を吹き付けるのが好ましい。
【0073】
分散媒を除去後、基材をポリマーが焼成する温度領域に加熱してF層を形成するのが好ましく、例えば300から400℃の範囲でポリマーを焼成するのが好ましい。F層は、Fポリマーの焼成物を含むのが好ましい。
F層は、上述のとおり分散液を基材に接触する工程、分散液を加熱する工程を経て形成される。これら工程は1回でも2回以上でもよい。例えば、前記本分散液を基材に塗布し、加熱により分散媒を除去し膜を形成する。形成した膜の上にさらに前記本分散液を塗布して加熱により分散媒を除去し、さらに加熱によりFポリマーを焼成して形成してもよい。外観に優れた厚い膜を得やすい観点から、本分散液の塗布、乾燥、焼成の工程を2回行ってもよい。
【0074】
F層の厚さは、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。厚さの上限は、200μmが好ましい。この範囲において、耐クラック性に優れたF層を容易に形成できる。
F層と基材との剥離強度は、10mN/m以上が好ましく、15mN/m以上がより好ましい。前記剥離強度は、100mN/m以下が好ましい。本分散液を用いれば、F層におけるFポリマーの物性を損なわずに、かかる積層体を容易に形成できる。
F層の空隙率は、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。空隙率は、0.1%以上が好ましい。なお、空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察される成形物の断面におけるSEM写真から、画像処理にてF層の空隙部分を判定し、空隙部分が占める面積をF層の面積で除した割合(%)である。空隙部分が占める面積は空隙部分を円形と近似して求められる。
【0075】
金属張積層体または多層フィルムの構成としては、基材/F層/基材/F層/基材、基材/基材/F層/基材/基材等が挙げられる。それぞれの基材は同じでも異なっていてもよく、また基材またはF層には、さらに、ガラスクロスやフィラーが含まれていてもよい。
かかる金属張積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、放熱部品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、航空機用電線等の電線被覆材、電気自動車等のモーターなどに使用されるエナメル線被覆材、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等の分離膜、リチウム二次電池用、燃料電池用等の電極バインダー、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等の摺動部材、シャベル、やすり、きり、のこぎり等の工具、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材、パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET、CPU、放熱フィンや金属放熱板として有用である。
より具体的には、パソコンやディスプレーの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装等、低酸素下で加熱処理する加工機や真空オーブン、プラズマ処理装置などのシール材や、スパッタや各種ドライエッチング装置等の処理ユニット内の放熱部品として有用である。
【0076】
また、本分散液は、プリント配線板の絶縁層、熱インターフェース材、パワーモジュール用基板、モーターなどの動力装置で使用されるコイルに含浸し、乾燥して、熱伝導性耐熱被覆層を形成する用途や、車載エンジンにおける、セラミックス部品や金属部品同士を接着する用途、熱交換器や、それを構成するフィンまたは管に耐腐蝕性を付与する用途にも使用できる。
【0077】
以上、本発明の分散液の製造方法および積層体の製造方法について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本複合粒子および分散媒は、それぞれ、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
また、本発明の分散液の製造方法および積層体の製造方法は、それぞれ、上記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例0078】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[複合粒子]
複合粒子1:TFE単位、NAH単位およびPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%で含有し、極性官能基を有するFポリマー1(溶融温度:300℃)の粒子(D50:2.0μm)の70質量部と、略真球状のシリカフィラー1(D50:0.25μm)の30質量部とを、ハイブリダイゼーション法によって処理して得られる、Fポリマー1をコアとし、このコアの表面にシリカフィラー1が付着してシェルが形成されたコア・シェル構造の球状の複合粒子(D50:3μm)
複合粒子2:TFE単位およびPPVE単位からなる、酸素含有極性基を有さないFポリマー2(溶融温度305℃)からなる粒子(D50:1.8μm)の70質量部と、略真球状のシリカフィラー1(D50:0.25μm)の30質量部とを、ハイブリダイゼーション法によって処理して得られる、Fポリマー2をコアとし、このコアの表面にシリカフィラー1が付着してシェルが形成されたコア・シェル構造の球状の複合粒子(D50:3μm)
[ポリイミドのワニス]
ワニス1:芳香族ポリイミド(PI1)がNMPに溶解したワニス
[液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0079】
2.分散液の作製
(例1)
ポットに、複合粒子1とワニス1とNMPとを投入し、自転公転ミキサーにて、1時間撹拌し、複合粒子1(40質量部)、PI1(1質量部)、およびNMP(59質量部)を含む分散液1を得た。なお、自転公転ミキサーの槽は、内面が平滑な槽を選択した。
(例2)
複合粒子1を、複合粒子2に変更した以外は、例1と同様にして、複合粒子2(40質量部)、PI1(1質量部)、およびNMP(59質量部)を含む分散液2を得た。
(例3)
ポットに、複合粒子2とワニス1とNMPとを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、複合粒子1(40質量部)、PI1(1質量部)、およびNMP(59質量部)を含む分散液3を得た。
3.評価
3-1.分散液の分散安定性の評価
各分散液18mLを、内容積30mLのスクリュー管に入れ、25℃にて14日間静置した。静置前後の、スクリュー管中の分散液の全体の高さと成分分散層の高さとから、以下の式により成分分散層率を算出した。
成分分散層率(%)=(成分分散層の高さ)/(分散液の全体の高さ)×100
なお、静置後に沈降層が確認されず、状態に変化がない場合には、分散液の全体の高さに変化がないとして、成分分散層率は100%とする。
分散液の分散安定性を、下記の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:成分分散層率が80%以上である。
△:成分分散層率が60%以上80%未満である。
×:成分分散層率が60%未満である。
【0080】
3-2.外観評価
厚さ18μmの銅箔の表面に、分散液1をグラビアリバース法によりロールツーロールで塗工して、液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜が形成された銅箔を、120℃の乾燥炉に5分間通し、加熱により乾燥させた。その後、窒素雰囲気下の遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を340℃にて3分間、加熱した。これにより、銅箔の表面に厚さ10μmのポリマー層が形成された積層体1を製造した。
分散液1を、分散液2または3に変更した以外は、積層体1と同様にして、積層体2または3を得た。
各積層体のポリマー層の表面を目視で観察し、以下の基準に従って評価した。
〇:表面に凝集および粉落ちは見られず、平滑である
△:表面の一部に凝集または粉落ちが見られる。
×:表面の全体に凝集または粉落ちが見られる。
【0081】
それぞれの評価結果を、まとめて下表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の分散液の製造方法により得られた分散液は、分散性と分散安定性に優れる。かかる分散液は、Fポリマーに基づく物性と無機物に基づく特性とを具備した積層体の製造に使用できる。本発明の積層体の製造方法により得られる積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材として有用である。