(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062754
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】Oリング硬度測定器
(51)【国際特許分類】
G01N 3/40 20060101AFI20220414BHJP
【FI】
G01N3/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170868
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】山地 政吏
(57)【要約】
【課題】Oリングを実際の製品に組み込んだときの状態に近い状態でOリングの硬度を測定するためのOリング硬度測定器を提供する。
【解決手段】Oリング硬度測定器は、変位検出装置と、ウエイト体と、を備える。ウエイト体は、平坦面である下端面と、下端面の中心点を中心としてリング状に形成された浅溝と、下端面に対して垂直であって中心点を通って当該ウエイト体を上下に貫くように形成された貫通孔と、を有する。スピンドルが貫通孔を通り、測定子が貫通孔から下端面より下方に出没するように変位検出装置がウエイト体に取り付けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Oリングの硬度を測定するためのOリング硬度測定器であって、
下端に測定子を有するスピンドルの軸方向変位を検出する変位検出装置と、
一定の重量を有するウエイト体と、を備え、
前記ウエイト体は、
平坦面である下端面と、
前記下端面の中心点を中心としてリング状に形成された浅溝と、
前記下端面に対して垂直であって前記中心点を通って当該ウエイト体を上下に貫くように形成された貫通孔と、を有し、
前記スピンドルが前記貫通孔を通り、前記測定子が前記貫通孔から前記下端面より下方に出没するように前記変位検出装置が前記ウエイト体に取り付けられている
ことを特徴とするOリング硬度測定器。
【請求項2】
請求項1に記載のOリング硬度測定器において、
前記ウエイト体は、円柱状である
ことを特徴とするOリング硬度測定器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のOリング硬度測定器において、
前記ウエイト体は、その側面の少なくとも一部に、前記下端面に対して垂直かつ平坦に形成された壁面を有する
ことを特徴とするOリング硬度測定器。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のOリング硬度測定器において、
前記ウエイト体は、その側面に、前記下端面に対して垂直かつ平坦に形成された壁面を二面有し、かつ、前記2つの壁面は互いに直角である
ことを特徴とするOリング硬度測定器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はOリング硬度測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
Oリングの硬度測定については、国際標準化機構(ISO 18517:2005)や日本産業規格(JIS K 6253:2012)に規定されている。上記規定に従ってOリングの硬度を計測する場合、試験品は、Oリングから採取された試験片、または、Oリングと同一条件で作製された試験片である。そして、硬度測定は、加圧板で試験片を拘束した状態でゴムの局部的な硬度評価を行うとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58-72032
【特許文献2】特開昭56-153235
【特許文献1】特開2012-108067
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】国際標準化機構(ISO 18517:2005)
【非特許文献2】日本産業規格(JIS K 6253:2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記規格に沿った評価ではOリングの直接的な硬度評価を実施できない。
また、Oリングなどのゴム成形品を実際の製品に組み込んで用いる場合、局部的に圧力が付加されるのではなく、ゴム成形品全体に圧力が掛かる状態での使用が多く存在する。
Oリングを実際の製品に組み込んで用いる場合、Oリングは密閉性と摺動性とを兼ね備えた作用を発揮する重要な部品となる。そして、Oリングとしての機能(性能)を評価するにあたっては、Oリングの成形品としての硬度が重要となる。
しかし、現状、Oリングの成形品としての直接的な性能評価ができていないという問題がある。このことは、Oリングが組み込まれた実際の製品の性能に直接関係する重大な問題となる。
実際の製品に組み込まれた状態に近い状態でOリングの硬度を測定したいという切実な要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のOリング硬度測定器は、
Oリングの硬度を測定するためのOリング硬度測定器であって、
下端に測定子を有するスピンドルの軸方向変位を検出する変位検出装置と、
一定の重量を有するウエイト体と、を備え、
前記ウエイト体は、
平坦面である下端面と、
前記下端面の中心点を中心としてリング状に形成された浅溝と、
前記下端面に対して垂直であって前記中心点を通って当該ウエイト体を上下に貫くように形成された貫通孔と、を有し、
前記スピンドルが前記貫通孔を通り、前記測定子が前記貫通孔から前記下端面より下方に出没するように前記変位検出装置が前記ウエイト体に取り付けられている
ことを特徴とする。
【0007】
本発明の一実施形態では、
前記ウエイト体は、円柱状である
ことが好ましい。
【0008】
本発明の一実施形態では、
前記ウエイト体は、その側面の少なくとも一部に、前記下端面に対して垂直かつ平坦に形成された壁面を有する
ことが好ましい。
【0009】
本発明の一実施形態では、
前記ウエイト体は、その側面に、前記下端面に対して垂直かつ平坦に形成された壁面を二面有し、かつ、前記2つの壁面は互いに直角である
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】ウエイト体の側面図(A)と底面図(B)とを示す図である。
【
図4】ウエイト体を定盤に置いた状態で基点設定している様子を例示する図である。
【
図5】ウエイト体と定盤とでOリングを挟んでOリングの硬度を測定している様子を例示する図である。
【
図6】ウエイト体の側面に設けられた互いに直角の関係にある2つの直角壁面を例示するウエイト体の底面図である。
【
図7】Oリングの硬度をOリング硬度測定器で測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明のOリング硬度測定器に係る第1実施形態について説明する。
図1は、Oリング硬度測定器100の外観図である。
Oリング硬度測定器100は、変位検出装置としてのダイヤルゲージ200と、ウエイト体300と、を備えている。
【0012】
図2は、ダイヤルゲージ200の外観図である。ダイヤルゲージ200は、既知の小型測定器である。簡単に説明すると、ダイヤルゲージ200は、円筒形の測定器本体部210と、スピンドル230と、表示部240と、を備えている。
【0013】
スピンドル230が測定器本体部210を貫通して進退するようになっている。具体的には、測定器本体部210の側面にステム220が突設され、ステム220によりスピンドル230が軸受けされている。
スピンドル230の先端(下端)には測定子が設けられている。測定器本体部210内にはスピンドル230の直動変位を拡大して指針260の回転量に変換する拡大機構(不図示)が設けられている。拡大機構は、複数の歯車の組み合わせであり、スピンドル230に設けられたラック(不図示)と噛合するピニオン(不図示)を有し、このピニオンの回転を複数の歯車列で拡大していく。表示部240は、文字盤250と指針260とで構成されており、指針260の回転量を文字盤250の目盛で読み取る。
【0014】
なお、アナログ式のダイヤルゲージ200ではなく、例えば、スピンドル230の変位をエンコーダ等の変位検出器(不図示)で読み取り、デジタル表示パネル(液晶表示パネルや有機ELパネル)に表示するデジタル表示式ダイヤルゲージでもよい。(デジタル表示式ダイヤルゲージはデジタルインジケータとも称される。)
【0015】
図3は、ウエイト体300の側面図(A)と底面図(B)とを示す図である。
ウエイト体300は、一定の重量を有するものであって、例えば合金(鉄合金)で形成されている。ここでは、ウエイト体300は、円柱形状である。ウエイト体300の下端面310は平坦面に仕上げられている。そして、下端面310には、下端面310の中心点311を中心とするリング状の浅い溝が設けられている。このリング状の浅溝をリング溝320と称することにする。
【0016】
ここで、リング溝320の直径および溝の幅は、測定対象となるOリングに合わせて設計される。
例えば、Oリングが外径φ35(mm)で線径1.52(mm)のとき、リング溝320の外径はφ35.4(mm)で、溝の深さが深さ1.1(mm)で、溝の幅が溝幅1.7(mm)である。(もちろん、数値は例示である。)
本実施形態のOリング硬度測定器100の目的として、実際の製品に組み込まれたときのOリングの状態に近い状態でOリングの硬度を測定したいという要望に応えるということがある。例えば、Oリングが組み込まれる予定の製品において、Oリングに掛かる予定の圧力(予圧)というのがあるとする。この場合、ウエイト体300の重量(質量)を前記予圧に近いものとするとなおよいだろう。例えば、ウエイト体300の重量(質量)が430gであり、ダイヤルゲージ200の重量(質量)が140gであり、ダイヤルゲージ200とウエイト体300とを合わせた重量(質量)は570gである。(もちろん、数値は例示である。)
【0017】
また、ウエイト体300には、上端面から下端面310を貫くように貫通孔が設けられている。この貫通孔は、ダイヤルゲージ200のスピンドル230を通すための孔であるから、スピンドル挿通孔330と称することとする。スピンドル挿通孔330は、下端面310の中心点311を貫き、かつ、下端面310に対して垂直である。すなわち、スピンドル挿通孔330は、ウエイト体300の中心線に同軸である。(ウエイト体300は円柱形と説明したが、スピンドル挿通孔330の存在を考慮すれば、ウエイト体300は円筒状(筒状)といってもよい。)
【0018】
ウエイト体300の側面には平坦に形成された壁面が設けられている。この壁面を直角壁面340と称することとする。直角壁面340は、下端面310に対して垂直な面である。
【0019】
ウエイト体300の側面からスピンドル挿通孔330に貫通するように雌ネジ孔351が設けられている。この雌ネジ孔351には雄ネジ352が螺入され、ダイヤルゲージ200を固定できるようになっている。すなわち、ダイヤルゲージ200のステム220をスピンドル挿通孔330に差し込んだ状態で雄ネジ352を雌ネジ孔351にねじ込む。雄ネジ352の先端がダイヤルゲージ200のステム220を押圧し、ダイヤルゲージ200がスピンドル挿通孔330に固定される。これにより、本実施形態のOリング硬度測定器100は、ダイヤルゲージ200にウエイト体300が一体化した小型測定器となる。このように一体化した小型測定器となっているので、Oリング硬度測定器100は持ち運びに便利である。
【0020】
次に、本実施形態のOリング硬度測定器100を用いたOリングの硬度測定手順を説明する。
まず、Oリング硬度測定器100の基点設定を行なう。
基点設定の基準として、ここでは、ウエイト体300の下端面310そのものを用いることとする。すなわち、ウエイト体300の下端面310に何もセットしない状態で、ウエイト体300を平らな定盤の上に置く。このときのダイヤルゲージ200の読み値を基点とする。ここでは、ウエイト体300の下端面310に何もセットしない状態でウエイト体300を平らな定盤400に置いたときのダイヤルゲージ200の読み値をゼロ(原点)に設定するとする。
図4は、ウエイト体300を定盤400に置いた状態で基点設定している様子を例示する図である。
【0021】
次に、測定対象のOリングWを順々に測定していく。すなわち、OリングWをウエイト体300のリング溝320に軽くはめてセットする。そして、ウエイト体300を定盤400の上において、ウエイト体300の下端面310と定盤400とでOリングWを挟むようにする。このときのダイヤルゲージ200の読み値を測定値として記録していく。
図5は、ウエイト体300の下端面310と定盤400とでOリングWを挟んでOリングWの硬度を測定している様子を例示する図である。
【0022】
ここで、ウエイト体300が傾いでしまっては正確な計測ができない。そこで、測定値を読む前に、例えば直角スコヤ500を用いて、直角壁面340と定盤とが直角になっているかを確認することが好ましい(
図5参照)。さらには、直角壁面340を直角スコヤ500に当接させながらゆっくりとウエイト体300を下ろしていき、静かにウエイト体300と定盤400とを接触させるようにすることが好ましい。
本実施形態では、直角壁面340は一面であったが、ウエイト体300の側面に2つの直角壁面340を互いに直角になるように設けておくとさらによい。2つの直角壁面340をそれぞれ直角スコヤ500に当接させれば、ウエイト体300と定盤400とが互いに平行となるので、ウエイト体300が定盤400に対して傾斜するという誤差要因は排除できる。
図6は、ウエイト体300の側面に設けられた互いに直角の関係にある2つの直角壁面340を例示するウエイト体300の底面図である。
【0023】
柔らかい(硬度が小さい)OリングWの場合、ダイヤルゲージ200の読み値は小さい値となり、硬い(硬度が大きい)OリングWの場合、ダイヤルゲージ200の読み値は大きな値となるはずである。
図7は、OリングWの硬度を本実施形態のOリング硬度測定器100で測定した結果を示す図である。ここでは、8種類のOリングの硬度を測定した。
図8は、
図7の結果をグラフにして示す図である。
【0024】
図8より、Oリングのゴムの硬度が大きくなるとダイヤルゲージ200の読み値が大きくなることが示されている。
このこと自体は当然と言えるが、ゴムの硬度が同じであっても、線径が異なると、本実施形態のOリング硬度測定器100による測定値に差が生じている。
本実施形態のOリング硬度測定器100による測定値に差が生じているということは、製品に組み込んだときのOリングの変形量に0.1mm程度の違いが生じてくるということである。また、製造誤差によりOリングごとに個体差があるので、同じ種類のOリングを購入してきたとしてもバラツキはありうる。そこで、本実施形態のOリング硬度測定器100によってOリングの硬度を測定(比較測定)して選別しておくことで、最終製品の安定性に繋がると期待できる。
【0025】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
ウエイト体300の形状および中心点311について補足しておく。
下端面310の中心点311を中心としてリング溝320が設けられ、また、中心点311を貫通するようにスピンドル挿通孔330が設けられている。
上記第1実施形態において、ウエイト体300が円柱形状であったので、下端面310の中心点311とは円の中心のことであった。直角壁面340があるような図形(一部を切断した円)の中心が不明確と思われる場合には、下端面310の外接円の中心(外心)と考えて頂いてもよい。ウエイト体300は、円柱形状ではなく、角柱状であってもよい。
【符号の説明】
【0026】
100 Oリング硬度測定器
200 ダイヤルゲージ(変位検出装置)
210 測定器本体部
220 ステム
230 スピンドル
240 表示部
250 文字盤
260 指針
300 ウエイト体
310 下端面
311 中心点
320 リング溝
330 スピンドル挿通孔
340 直角壁面
351 雌ネジ孔
352 雄ネジ
400 定盤
500 直角スコヤ。