(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062819
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の育成方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20220414BHJP
C30B 15/22 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C30B29/06 502E
C30B29/06 502H
C30B15/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170959
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 泰史
(72)【発明者】
【氏名】酒谷 和幸
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077EB05
4G077EB06
4G077EG02
4G077EG18
4G077EG25
4G077PE07
4G077PE12
4G077PE16
4G077PF55
(57)【要約】 (修正有)
【課題】有転位化の発生を抑制しながら、揮発性ドーパントの蒸発を抑制することができるシリコン単結晶の育成方法の提供。
【解決手段】チャンバ21と、坩堝22と、加熱部23と、種結晶2をシリコン融液に接触させた後に引き上げる引き上げ部24とを備えたシリコン単結晶育成装置10を利用してチョクラルスキー法でシリコン単結晶5を育成し、加熱部23は、坩堝22の上部を加熱する上加熱部231と、坩堝22の下部を加熱する下加熱部232とを備えており、シリコン単結晶5の育成は、シリコン融液に揮発性ドーパントを添加するドーパント添加工程と、ドーパント添加工程の後に、シリコン単結晶5を引き上げる引き上げ工程と、を有し、ドーパント添加工程は、シリコン融液の液面に固化層を形成することなく、下加熱部232の発熱量Qdと上加熱部231の発熱量Quとが、Qd>Quとなるように坩堝22を加熱するシリコン単結晶の育成方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置された坩堝と、
前記坩堝に収容されたシリコン融液を加熱する加熱部と、
種結晶を前記シリコン融液に接触させた後に引き上げる引き上げ部とを備えたシリコン単結晶育成装置を利用し、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の育成方法であって、
前記加熱部は、前記坩堝の上部を加熱する上加熱部と、前記坩堝の下部を加熱する下加熱部とを備えており、シリコン単結晶の育成は、
前記シリコン融液に揮発性ドーパントを添加するドーパント添加工程と、
前記ドーパント添加工程の後に、前記シリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程と、を有し、
前記ドーパント添加工程は、前記シリコン融液の液面に固化層を形成することなく、前記下加熱部の発熱量Qdと前記上加熱部の発熱量Quとが、Qd>Quとなるように前記坩堝を加熱するシリコン単結晶の育成方法。
【請求項2】
前記揮発性ドーパントは、赤リン、ヒ素、またはアンチモンである請求項1に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【請求項3】
前記ドーパント添加工程は、前記下加熱部の発熱量Qdを前記上加熱部の発熱量Quで除した発熱比Qd/Quが1.5以上、4.0以下となるように前記坩堝を加熱する請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【請求項4】
前記引き上げ工程は、ネック部を育成するネック部育成工程を有し、前記ネック部育成工程における発熱比Qd/Quは前記ドーパント添加工程における発熱比Qd/Quの100±10%である請求項3に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【請求項5】
前記引き上げ工程は、肩部を育成する肩部育成工程を有し、
直胴部の狙い酸素濃度が12.0×1017atoms/cm3以上である場合は、少なくとも肩部育成工程の終了時における発熱比Qd/Quを3.5以上、4.5以下とし、
直胴部の狙い酸素濃度が12.0×1017atoms/cm3未満である場合は、少なくとも肩部育成工程の終了時における発熱比Qd/Quを0.75以上、1.25以下とする請求項3または請求項4に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【請求項6】
前記肩部育成工程以降に、前記肩部に有転位化が発生しているか否かを判定する第1の有転位化判定工程を有し、前記第1の有転位化判定工程にて前記肩部に有転位化が発生と判定された場合に、引き上げを中止して前記シリコン単結晶を前記シリコン融液に溶かすメルトバック工程を実施し、前記メルトバック工程における前記発熱比Qd/Quを1.5以上、3.0以下とする請求項5に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【請求項7】
前記引き上げ工程の後に、前記坩堝と同一の坩堝を用いて他のシリコン単結晶を引き上げるマルチ引き上げ工程を有し、
前記マルチ引き上げ工程の前に、前記他のシリコン単結晶用のシリコン融液に揮発性ドーパントを添加する工程において、前記発熱比Qd/Quが1.5以上、4.0以下となるように前記坩堝を加熱する請求項3から請求項6のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョクラルスキー法(Czochralski method、以下「CZ法」と略す。)を用いてシリコン単結晶を育成する際、シリコン融液にリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などの揮発性ドーパントを高濃度に添加することにより、低抵抗率のシリコン単結晶を育成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
揮発性ドーパントは、シリコン原料を溶解してシリコン融液とした後、シリコン融液の液面から吸収させている。揮発性ドーパントは、ドーピング作業直後から蒸発し続けるため、その供給量は蒸発量を考慮して決定している。
【0003】
揮発性ドーパントの蒸発量が大きいと、例えばシリコン単結晶の狙い抵抗率の的中率が悪くなるなどの不具合があるため、揮発性ドーパントの蒸発を抑制する試みがなされている。揮発性ドーパントの蒸発を抑制する方法として、チャンバ内の圧力を高くする方法が知られている。すなわち、シリコン融液の液面にかかる圧力を大きくすることにより、液面から蒸発する揮発性ドーパントを少なくする試みがなされている。
【0004】
また、特許文献2には、シリコン融液の液面に固化層を形成することで、揮発性ドーパントの蒸発を抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-1408号公報
【特許文献2】特開2011-73897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、チャンバ内の圧力を高くすると、シリコン融液からのSiOx蒸発物がチャンバ内面などに付着し、シリコン単結晶の引き上げ中に落下し、有転位化の要因となるという課題がある。
また、特許文献2に記載の方法は、シリコン融液の液面に固化層が形成される領域を制御することが難しいという課題がある。
当該課題について、具体的に以下に説明する。特許文献2に記載の方法は、ドーパント供給装置をワイヤにより吊り下げて、ドーパント供給装置内でドーパントを気化させてドーパントガスを形成し、気化したドーパントガスをシリコン融液面に直接噴射することによってドーピングする方法である。この方法の場合、特に熱遮蔽体を有する引き上げ炉では、シリコン融液面の中央領域に噴射することになる。
そのため、ヒーターから離れたシリコン融液面の中央領域には固化層を形成せずに、ヒーターに近いシリコン融液面の外周領域に固化層を形成する必要がある。しかし、引き上げ炉の構造上、シリコン融液面における温度分布は、ヒーターに近い外周領域の温度が高く、ヒーターから離れた中央領域の温度は低くなるため、固化層を液温の低いシリコン融液面の中央領域に形成せずにヒーターに近く液温の高い外周領域に形成させることは極めて難しい。
【0007】
本発明は、有転位化の発生を抑制しながら、揮発性ドーパントの蒸発を抑制することができるシリコン単結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、揮発性ドーパントの蒸発を抑制すべく誠意検討を進める中で、坩堝の下部を上部と比較してより加熱し、シリコン融液の液面に固化層を形成することなく、液面を低温度化することにより、揮発性ドーパントの蒸発を抑制できることを見出した。具体的には、加熱部を構成する上加熱部による発熱量Qu(出力)と下加熱部による発熱量QdとがQd>Quとなるように坩堝を加熱することにより、揮発性ドーパントの蒸発速度を低下させることができることを見出した。
図1は、その実験結果であり、横軸は下加熱部による発熱量Qdを上加熱部による発熱量Quで除した発熱比Qd/Qu、縦軸は揮発性ドーパントの蒸発速度(g/h)である。当該実験により、発熱比Qd/Quを約3.5とすることによって、揮発性ドーパントの蒸発速度を、発熱比Qd/Quを約1とした場合と比較して、57.3%まで下げることが可能であることがわかった。また、揮発性ドーパントの投入量を5.2%低減できることがわかった。
【0009】
本発明のシリコン単結晶の育成方法は、チャンバと、前記チャンバ内に配置された坩堝と、前記坩堝に収容されたシリコン融液を加熱する加熱部と、種結晶を前記シリコン融液に接触させた後に引き上げる引き上げ部とを備えたシリコン単結晶育成装置を利用し、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の育成方法であって、前記加熱部は、前記坩堝の上部を加熱する上加熱部と、前記坩堝の下部を加熱する下加熱部とを備えており、シリコン単結晶の育成は、前記シリコン融液に揮発性ドーパントを添加するドーパント添加工程と、前記ドーパント添加工程の後に、前記シリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程と、を有し、前記ドーパント添加工程は、前記シリコン融液の液面に固化層を形成することなく、前記下加熱部の発熱量Qdと前記上加熱部の発熱量Quとが、Qd>Quとなるように前記坩堝を加熱することを特徴とする。
【0010】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記揮発性ドーパントは、赤リン、ヒ素、またはアンチモンであってよい。
【0011】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記ドーパント添加工程は、前記下加熱部の発熱量Qdを前記上加熱部の発熱量Quで除した発熱比Qd/Quが1.5以上、4.0以下となるように前記坩堝を加熱してよい。
【0012】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記引き上げ工程は、ネック部を育成するネック部育成工程を有し、前記ネック部育成工程における発熱比Qd/Quは前記ドーパント添加工程における発熱比Qd/Quの100±10%であってよい。
【0013】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記引き上げ工程は、肩部を育成する肩部育成工程を有し、直胴部の狙い酸素濃度が12.0×1017atoms/cm3以上である場合は、少なくとも肩部育成工程の終了時における発熱比Qd/Quを3.5以上、4.5以下とし、直胴部の狙い酸素濃度が12.0×1017atoms/cm3未満である場合は、少なくとも肩部育成工程の終了時における発熱比Qd/Quを0.75以上、1.25以下としてよい。
【0014】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記肩部育成工程以降に、前記肩部に有転位化が発生しているか否かを判定する第1の有転位化判定工程を有し、前記第1の有転位化判定工程にて前記肩部に有転位化が発生と判定された場合に、引き上げを中止して前記シリコン単結晶を前記シリコン融液に溶かすメルトバック工程を実施し、前記メルトバック工程における前記発熱比Qd/Quを1.5以上、3.0以下としてよい。
【0015】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記引き上げ工程の後に、前記坩堝と同一の坩堝を用いて他のシリコン単結晶を引き上げるマルチ引き上げ工程を有し、前記マルチ引き上げ工程の前に、前記他のシリコン単結晶用のシリコン融液に揮発性ドーパントを添加する工程において、前記発熱比Qd/Quが1.5以上、4.0以下となるように前記坩堝を加熱してよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有転位化の発生を抑制しながら、揮発性ドーパントの蒸発を抑制することができる。また、揮発性ドーパントの蒸発量のばらつきが小さくなり、製品の狙い抵抗率の的中率を上げることができる。
また、シリコン融液の液面に固化層を形成することなく、坩堝を加熱することによって、固化層によりドーピングが阻害されることがなく、より確実にドーピングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】発熱比を変化させてドーパントの蒸発速度への影響を調査した実験結果である。
【
図2】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の育成方法を適用したシリコン単結晶育成装置の構成の一例を示す概念図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶育成装置のドーパント供給装置の構成の一例を示す概念図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の育成方法を説明するフローチャートである。
【
図5】直胴部最頂部の抵抗率/狙い抵抗率を示すグラフと、データのばらつきを示す箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明のシリコン単結晶の育成方法は、揮発性ドーパントを使用したシリコン単結晶の育成において、シリコン融液の液面を低温度化して、揮発性ドーパントの蒸発速度を低下させることを特徴としている。また、本発明のシリコン単結晶の育成方法は、ガス化した揮発性ドーパントをシリコン融液の液面の中央部に直接的に噴射してドーピングする場合に適した発明である。
【0019】
〔シリコン単結晶育成装置〕
図2は、本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の育成方法を適用したシリコン単結晶育成装置10の構成の一例を示す概念図である。シリコン単結晶育成装置10は、CZ法を用いてシリコン単結晶1を育成する。
【0020】
図2に示されるように、シリコン単結晶育成装置10は、装置本体11と、メモリ12と、制御部13とを備えている。装置本体11は、チャンバ21と、坩堝22と、加熱部23と、引き上げ部24と、熱遮蔽体25と、断熱材26と、坩堝駆動部27と、を備えている。
【0021】
また、
図3に示されるように、シリコン単結晶育成装置10は、ドーパント供給装置54を有する。ドーパント供給装置54は、揮発性ドーパントDが収容される容器本体55と、容器本体55に設けられ、下方に向けて開放された放出管56と、容器本体55を上下動可能に支持する、支持ワイヤ57と、を有する。
【0022】
図2に示されるように、チャンバ21は、メインチャンバ31と、このメインチャンバ31の上部に接続されたプルチャンバ32とを備えている。プルチャンバ32の上部には、アルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスをチャンバ21内に導入するガス導入口33Aが設けられている。メインチャンバ31の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ21内の気体を排出するガス排気口33Bが設けられている。
【0023】
ガス導入口33Aからチャンバ21内に導入された不活性ガスは、育成中のシリコン単結晶1と熱遮蔽体25との間を下降し、熱遮蔽体25の下端とドーパント添加融液MDの液面との隙間を経た後、熱遮蔽体25と坩堝22の内壁との間、さらに坩堝22の外側に向けて流れ、その後に坩堝22の外側を下降し、ガス排気口33Bから排出される。
【0024】
坩堝22は、メインチャンバ31内に配置され、ドーパント添加融液MDを貯留する。坩堝22は、側部22a、底部22c、および側部22aと底部22cを接続する湾曲部22b(
図3参照)によって構成されている。坩堝22は、支持坩堝41と、支持坩堝41に収容された石英坩堝42と、支持坩堝41と石英坩堝42との間に挿入された黒鉛シート43とを備えている。なお、黒鉛シート43は設けなくても良い。
【0025】
支持坩堝41は、例えば、黒鉛又は炭素繊維強化型炭素から構成されている。支持坩堝41は、例えば、炭化シリコン(SiC)化表面処理又は熱分解炭素被覆処理が施されていても良い。石英坩堝42は、二酸化シリコン(SiO2)を主成分とする。黒鉛シート43は、例えば、膨張黒鉛から構成されている。
【0026】
加熱部23は、坩堝22の外側に所定間隔を隔てて配置され、坩堝22内のシリコン融液M(
図3参照)、またはドーパント添加融液MDを加熱する。加熱部23は、坩堝22の上部を加熱する上加熱部231と、上加熱部231の下方に配置され、坩堝22の下部を加熱する下加熱部232とを備えている。
上加熱部231の加熱対象である坩堝22の上部には、少なくともシリコン融液Mの液面と同じ高さレベルの坩堝22の側部22aが含まれる。
下加熱部232の加熱対象である坩堝22の下部には、少なくとも坩堝22の湾曲部22bまたは底部22cが含まれる。
【0027】
上加熱部231の高さ寸法をH1、下加熱部232の高さ寸法をH2とすると、加熱部23は、H1:H2=1:1となるように形成されている。また、上加熱部231と下加熱部232とは、可能な限り近接するように配置されている。
【0028】
上加熱部231の高さ寸法H1と下加熱部232の高さ寸法H2とは、上記のような寸法とする必要はなく、例えば、H1:H2=2:3とすることもできる。上加熱部231と下加熱部232の出力は高さ寸法に比例するため、H1:H2=2:3とした場合、上加熱部231と下加熱部232とに同じ電力を供給すると、出力比も2:3となる。
【0029】
引き上げ部24は、一端に種結晶2が取り付けられるケーブル51と、このケーブル51を昇降及び回転させる引き上げ駆動部52とを備えている。
【0030】
熱遮蔽体25は、少なくとも表面がカーボン材で構成されている。熱遮蔽体25は、シリコン単結晶1を製造する際にシリコン単結晶1を囲むように設けられる。熱遮蔽体25は、育成中のシリコン単結晶1に対して、坩堝22内のドーパント添加融液MDや加熱部23、坩堝22の側壁からの輻射熱を遮断するとともに、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、外部への熱拡散を抑制し、シリコン単結晶1の中心部及び外周部の引き上げ軸方向の温度勾配を制御する役割を担う。
【0031】
断熱材26は、ほぼ円筒状を呈し、カーボン部材(例えば、グラファイト)から構成されている。断熱材26は、加熱部23の外側に所定間隔を隔てて配置されている。坩堝駆動部27は、坩堝22を下方から支持する支持軸53を備え、坩堝22を所定の速度で回転及び昇降させる。
【0032】
メモリ12は、チャンバ21内のArガスのガス流量や炉内圧、加熱部23に供給する電力、坩堝22やシリコン単結晶1の回転数、坩堝22の位置など、シリコン単結晶1の製造に必要な各種情報を記憶している。また、メモリ12は、例えば、抵抗率プロファイル、引き上げ速度プロファイルを記憶する。
【0033】
制御部13は、メモリ12に記憶された各種情報や、作業者の操作に基づいて、各部を制御してシリコン単結晶1を製造する。
【0034】
上記シリコン単結晶育成装置10によれば、種結晶2をドーパント添加融液MDに接触させた後に引き上げることにより、まずネック部3が育成され、次いで、漸次拡径する肩部4と、直胴部5と、漸次縮径するテール部(図示せず)とからなるシリコン単結晶1が育成される。
【0035】
また、
図3において、ドーパント供給装置54は、容器本体55が、シリコン融液Mの液面付近にまで降ろされると、シリコン融液Mの液面からの輻射熱によって、容器本体55内の揮発性ドーパントDが昇華し、容器本体55内にガス化した揮発性ドーパントDが充満するようになる。さらに、揮発性ドーパントDの昇華が進行すると、放出管56を介して、ガス化した揮発性ドーパントDがシリコン融液Mの液面に向けて放出される。ガス化した揮発性ドーパントDがシリコン融液Mの表面に噴射されると、シリコン融液M中に揮発性ドーパントDがドーピングされ、ドーパント添加融液MD(
図2参照)となる。
ドーパント供給装置の構成は上記構成に限ることはなく、例えば粒状の揮発性ドーパントを落下させてシリコン融液M中に投入する形態を採用してもよい。
【0036】
〔シリコン単結晶の育成方法〕
次に、本発明の実施形態のシリコン単結晶の育成方法の一例について、
図4に示すフローチャートを参照して説明する。本実施形態では、製品直径が200mmであるn型シリコン単結晶を製造する場合について例示するが、製品直径はこれに限ることはない。
また、添加する揮発性ドーパントとしては、例えば、赤リン(P)、ヒ素(As)およびアンチモン(Sb)が挙げられるが、これに限ることはない。
【0037】
図4のフローチャートに示すように、シリコン単結晶の育成方法は、引き上げ条件設定工程S1と、原料溶解工程S2と、シリコン融液温度安定化工程S3と、ドーパント添加(ドーピング)工程S4と、引き上げ工程S5と、結晶冷却工程S6と、を有し、上記順番で工程を実行する。シリコン単結晶1を引き上げる引き上げ工程S5は、ネック部育成工程S5Aと、肩部育成工程S5Bと、第1の有転位化判定工程S5Cと、直胴部育成工程S5Dと、第2の有転位化判定工程S5Eと、テール部育成工程S5Fと、を有する。
また、シリコン単結晶の育成方法は、シリコン単結晶1をドーパント添加融液MDに溶かすメルトバック工程S7を有し、第1の有転位化判定工程S5C、または、第2の有転位化判定工程S5EでYesと判定され、シリコン単結晶1に有転位化が発生した場合に、引き上げを中止して、メルトバック工程S7に送られる。
【0038】
本実施形態のシリコン単結晶の育成方法では、n型ドーパント(赤リン、ヒ素、アンチモン)を添加したドーパント添加融液MDからシリコン単結晶1を引き上げることによって、低抵抗率のシリコン単結晶1を育成する。また、狙いのドーパント濃度も設定される。ドーパント濃度は、シリコン単結晶1中のドーパント濃度であり、例えば揮発性ドーパントが赤リンである場合は、シリコン単結晶1中のリンの濃度である。
【0039】
引き上げ条件設定工程S1は、シリコン単結晶1のシリコン単結晶1の直胴部5における狙いの抵抗率、狙いのドーパント濃度などに基づいて、ルツボ回転などの引き上げ条件を設定する工程である。
【0040】
シリコン単結晶1の直胴部5における狙いの抵抗率は、揮発性ドーパントを赤リンとした場合、0.5mΩ・cm以上、1.3mΩ・cm以下とすることができる。シリコン単結晶1内の狙いのドーパント濃度は、揮発性ドーパントを赤リンとした場合、3.4×1019atoms/cm3以上、1.6×1020atoms/cm3以下とすることができる。
シリコン単結晶1の直胴部5における狙いの抵抗率は、揮発性ドーパントをヒ素とした場合、1.0mΩ・cm以上、5.0mΩ・cm以下とすることができる。シリコン単結晶1内の狙いのドーパント濃度は、揮発性ドーパントをヒ素とした場合、1.2×1019atoms/cm3以上、7.4×1019atoms/cm3以下とすることができる。
シリコン単結晶1の直胴部5における狙いの抵抗率は、揮発性ドーパントをアンチモンとした場合、10.0mΩ・cm以上、30.0mΩ・cm以下とすることができる。シリコン単結晶1内の狙いのドーパント濃度は、揮発性ドーパントをアンチモンとした場合、0.2×1019atoms/cm3以上、0.6×1019atoms/cm3以下とすることができる。
【0041】
本発明は、上記したような非常に低い抵抗率のシリコン単結晶1の製造に好適である。また、シリコン単結晶1の直胴部5の一部が上記した狙いの抵抗率である場合は、当該シリコン単結晶1は、本発明の範囲内に含まれる。
【0042】
作業者は、上記した狙い抵抗率および狙いドーパント濃度などに基づいて、引き上げ速度などの引き上げ条件を設定し、制御部13に入力する。制御部13は、設定した引き上げ条件などをメモリ12に記憶する。制御部13は、メモリ12から、引き上げ条件などを読み出し、それらに基づいて各工程を実行する。
【0043】
原料溶解工程S2は、坩堝22に収容された多結晶シリコン(シリコン原料)を溶解して、シリコン融液Mにする工程である。制御部13が、図示しない電源装置を制御することにより、加熱部23に電力が供給される。加熱部23により、坩堝22が加熱されることにより坩堝22内の多結晶シリコンが融解し、シリコン融液Mが生成する。
【0044】
シリコン融液温度安定化工程S3は、シリコン融液Mの温度を、シリコン単結晶1を育成するのに適した温度に調整する工程である。シリコン融液温度安定化工程S3では、制御部13は、種結晶2をシリコン融液Mに付け込んだ際に種結晶2が溶融せず、かつ、シリコン融液Mの液面に結晶が析出しない温度(例えば、1412℃)となるように、加熱部23の出力を制御する。
この際、シリコン融液Mの液面には、固化層が形成されることはない。固化層とは、シリコン融液Mが固体化したものである。固化層が形成されると、固化層に阻害されてドーピングすることができない。
【0045】
シリコン融液温度安定化工程S3において、制御部13は、下加熱部232の発熱量Qdが上加熱部231の発熱量Quよりも大きくなるように、加熱部23の上加熱部231および下加熱部232を制御する。換言すれば、下加熱部の発熱量Qd>前記上加熱部の発熱量Quとなるように、加熱部23を制御する。
好ましくは、下加熱部232の発熱量Qdを上加熱部231の発熱量Quで除した発熱比Qd/Quを、1.5以上、4.0以下とする。発熱比Qd/Quは、3.0以上、3.8以下がより好ましい。
【0046】
すなわち、本実施形態のシリコン単結晶の育成方法では、シリコン融液温度安定化工程S3以降で、シリコン融液Mの下方がより高温となるように、下加熱部232の発熱量Qdを上加熱部231の発熱量Quよりも大きくする。
加熱部23の発熱量は、加熱部23への供給電力と同じである。すなわち、発熱比Qd/Quは、下加熱部232への供給電力を上加熱部231への供給電力で除した値である。
【0047】
制御部13は、加熱部23の高さ寸法などの仕様に基づいて加熱部23を制御する。すなわち、制御部13は、上加熱部231と下加熱部232の高さ寸法が異なる場合でも、上記すなわち、発熱比Qd/Quが実現されるよう、上加熱部231および下加熱部232に供給される電力を制御する。
【0048】
ドーパント添加工程S4は、シリコン融液Mに揮発性ドーパントDを添加してドーパント添加融液MDとする工程である。ドーパント添加工程S4では、制御部13によりドーパント供給装置54が制御され、ガス化した揮発性ドーパントDがシリコン融液Mの液面の中央部に直接的に噴射される。なお、ガス化した揮発性ドーパントDをシリコン融液Mの液面に全面的に噴射してもよい。
ドーパント添加工程S4において、制御部13は、シリコン融液温度安定化工程S3と同様の発熱量Qu、Qdとなるように、加熱部23を制御する。すなわち、下加熱部の発熱量Qd>前記上加熱部の発熱量Quとなるように加熱部23を制御する。ドーパント添加工程S4における発熱比Qd/Quは、1.5以上、4.0以下が好ましく、3.0以上、3.8以下がより好ましい。最も好ましい発熱比Qd/Quは、3.5±0.1である。
【0049】
発熱比Qd/Quが1.5より小さいと、シリコン融液Mの液面温度が十分に下がらず、シリコン融液Mに添加した揮発性ドーパントDの蒸発量が大きくなるとともに、蒸発量のバラつきも大きくなる。そのため、抵抗率が狙いの抵抗率から外れ易くなり、好ましくない。また、発熱比Qd/Quが4.0より大きいと、シリコン融液M内に意図しない対流が発生するなどしてシリコン融液Mの液面温度が変化してしまい、添加した揮発性ドーパントDの蒸発量をコントロール出来ない為、抵抗率が狙いの抵抗率から外れ易くなり却って好ましくない。
【0050】
次に、制御部13は、ガス導入口33Aからチャンバ21内にArガスを所定の流量で導入するとともに、図示しない真空ポンプを制御し、ガス排気口33Bからチャンバ21内の気体を排出することにより、チャンバ21内の圧力を減圧して、チャンバ21内を減圧下の不活性雰囲気に維持する。
【0051】
次に、制御部13は、引き上げ駆動部52を制御し、ケーブル51を下降させることにより、種結晶2をドーパント添加融液MDに着液させる。
【0052】
次に、制御部13は、坩堝駆動部27を制御し、坩堝22を所定の方向に回転させるとともに、引き上げ駆動部52を制御し、ケーブル51を所定の方向に回転させつつ、ケーブル51を引き上げることにより、シリコン単結晶1を育成する。
具体的には、ネック部育成工程S5Aでネック部3を育成し、肩部育成工程S5Bで肩部4を育成し、直胴部育成工程S5Dで直胴部5を育成し、テール部育成工程S5Fでテール部(図示せず)を育成する。
【0053】
ネック部育成工程S5Aにおいて、制御部13は、ドーパント添加工程S4と略同じの発熱比Qd/Quとなるように、加熱部23を制御する。具体的には、ネック部育成工程S5Aにおける発熱比Qd/Quはドーパント添加工程S4における発熱比Qd/Quの100±10%とすることが好ましい。
すなわち、ネック部育成工程S5Aでは、坩堝22内のシリコン融液Mの液面のほとんどが暴露した状態であり、揮発性ドーパントDの蒸発量が大きくなる状態にあるため、ドーパント添加工程S4と略同じの発熱比Qd/Quに維持して、揮発性ドーパントDの蒸発を抑制することが好ましい。
【0054】
肩部育成工程S5Bでは、直胴部5において要求される酸素濃度(直胴部5中の酸素濃度)に基づいて発熱比Qd/Quを調整することができる。なお、上記酸素濃度は格子間酸素の濃度であり、ASTM F121-1979に基づく濃度である。
例えば、直胴部5で要求される酸素濃度(狙い酸素濃度)が12.0×1017atoms/cm3以上の場合、少なくとも肩部育成工程S5Bの終了時において発熱比Qd/Quが3.5以上、4.5以下、好ましくは、発熱比Qd/Quが3.9以上、4.1以下となるように、発熱比Qd/Quを調整する。
直胴部5で要求される酸素濃度が12.0×1017atoms/cm3未満の場合、少なくとも肩部育成工程S5Bの終了時において発熱比Qd/Quが0.75以上、1.25以下、好ましくは、発熱比Qd/Quが0.9以上、1.1.以下となるように、発熱比Qd/Quを調整する。
【0055】
このように直胴部5で要求される酸素濃度によって肩部育成工程S5Bにおける発熱比Qd/Quを変える理由は、直胴部5の肩部4に近い部位の酸素濃度は肩部育成工程S5Bにおける坩堝内の融液温度の影響を強く受けるので、発熱比Qd/Quにより融液温度を調整して、直胴部5の肩部4に近い部位の酸素濃度が、要求される酸素濃度の範囲内になることを容易にするためである。
なお、直胴部育成工程S5Dにて、磁場強度や坩堝回転数等の調整をさらに加えることにより直胴部5の酸素濃度が調整される。
【0056】
肩部育成工程S5Bにおいては、揮発性ドーパントDの蒸発を抑制することを重視して、上記した直胴部5において要求される酸素濃度に基づいた調整を行わずに、単に、発熱比Qd/Quが一定となるように制御してもよい。発熱比Qd/Quは、1.0以上、4.0以下が好ましく、2.5以上、3.8以下がより好ましい。
【0057】
第1の有転位化判定工程S5Cは、肩部育成工程S5B以降に、シリコン単結晶1の肩部4に有転位化が発生しているか否かを判定する工程である。
有転位化が発生していた場合(Yes)、引き上げ工程S5を中止して、シリコン単結晶1をドーパント添加融液MDに溶かすメルトバック工程S7を実行し、シリコン融液温度安定化工程S3からシリコン単結晶1の育成を再開する。メルトバック工程S7においては、発熱比Qd/Quは、1.5以上、3.0以下が好ましく、2.0以上、2.5以下がより好ましい。メルトバック工程S7において、有転位化が発生していない場合(No)、直胴部育成工程S5Dを実行する。
【0058】
直胴部育成工程S5Dでは、制御部13は、発熱比Qd/Quが1となるように、加熱部23を制御して直胴部5を育成する。すなわち、直胴部育成工程S5Dでは、上加熱部231と下加熱部232の出力が略同じとなるように、加熱部23を制御する。
【0059】
第2の有転位化判定工程S5Eでは、シリコン単結晶1の直胴部5に有転位化が発生しているか否かを判定する。有転位化が発生していた場合(Yes)、引き上げ工程S5を中止して、メルトバック工程S7を行い、シリコン融液温度安定化工程S3からシリコン単結晶1の育成を再開する。有転位化が発生していない場合(No)、テール部育成工程S5Fを実行する。
【0060】
テール部育成工程S5Fでは、制御部13は、発熱比Qd/Quが1となるように、加熱部23を制御してテール部を育成する。すなわち、テール部育成工程S5Fでは、上加熱部231と下加熱部232の出力が略同じとなるように、加熱部23を制御する。
【0061】
次に、制御部13は、引き上げ駆動部52を制御し、シリコン単結晶1のテール部をドーパント添加融液MDから切り離す。
結晶冷却工程S6では、制御部13は、引き上げ駆動部52を制御し、ケーブル51をさらに引き上げつつ、ドーパント添加融液MDから切り離されたシリコン単結晶1を冷却する。
最後に、冷却されたシリコン単結晶1がプルチャンバ32に収容されたことを確認した後、プルチャンバ32からシリコン単結晶1を取り出す。
【0062】
上記実施形態によれば、ドーパント添加工程S4において、下加熱部232の出力を上加熱部231の出力よりも大きくすることによって、揮発性ドーパントD添加時のシリコン融液Mの液面の温度を低温度化することができる。これにより、液面における揮発性ドーパントDの蒸発速度が小さくなり、シリコン融液Mに添加する揮発性ドーパントDの量を少なくすることが可能となる。
このような方法で揮発性ドーパントDの蒸発を抑制することによって、チャンバ内の圧力を高圧化し蒸発を抑制する方法と比較して、有転位化の発生を抑制しながら、低抵抗率のシリコン単結晶の取得が可能となる。
また、シリコン融液Mの液面に固化層を形成することなく揮発性ドーパントDの添加を行うことによって、固化層によりドーピングが阻害されることがなく、より確実にドーピングを行うことができる。
【0063】
また、揮発性ドーパントDを、赤リン、ヒ素、またはアンチモンとすることによって、低抵抗率のn型シリコン単結晶1を育成することができる。
【0064】
また、ネック部育成工程S5Aにおける発熱比Qd/Quを、ドーパント添加工程S4における発熱比Qd/Quと略同じとすることによって、ネック部育成工程S5Aにおける発熱比調整を省略することができる。
【0065】
また、肩部育成工程S5Bにおいて、直胴部5において要求される酸素濃度に基づいて発熱比Qd/Quを調整することによって、直胴部5における酸素濃度を要求される数値に近づけることができる。
【0066】
また、本発明のシリコン単結晶の育成方法は、同一の坩堝22を使用して、複数本のシリコン単結晶1を引き上げる、いわゆるマルチ引き上げ法を採用したシリコン単結晶の育成方法にも応用が可能である。
マルチ引き上げ法を採用したシリコン単結晶の育成方法では、引き上げ工程S5および結晶冷却工程S6の後に、引き上げ工程S5で使用した坩堝22と同一の坩堝22を用いて他のシリコン単結晶を引き上げるマルチ引き上げ工程を有する。
【0067】
マルチ引き上げ工程の前には、坩堝22に他のシリコン単結晶用のシリコン原料を供給し、シリコン原料を加熱することにより得られるシリコン融液に揮発性ドーパントを添加する。この他のシリコン単結晶用のシリコン融液に揮発性ドーパントを添加する工程においても、発熱比Qd/Quは、1.5以上、4.0以下が好ましく、3.0以上、3.8以下がより好ましい。最も好ましい発熱比Qd/Quは、3.5±0.1である。
このように、マルチ引き上げ法を採用したシリコン単結晶の育成方法において、再供給されたシリコン融液のドーピング時に発熱比Qd/Quを制御することによっても、揮発性ドーパントDの蒸発速度が小さくし、シリコン融液に添加する揮発性ドーパントDの量を少なくすることが可能となる。
【実施例0068】
シリコン融液温度安定化工程S3から肩部育成工程S5Bまでの発熱比Qd/Quを3.5とした実施例と、シリコン融液温度安定化工程S3から肩部育成工程S5Bまでの発熱比Qd/Quを1とした比較例とを比較した。
なお、実施例および比較例との相違は発熱比Qd/Quのみであり、その他の条件は同一である。
図5は、直胴部最頂部の抵抗率/狙い抵抗率を示すグラフと、データのばらつきを示す箱ひげ図である。縦軸は、直胴部最頂部の抵抗率/狙い抵抗率であり、直胴部最頂部の抵抗率が狙い抵抗率と同一の場合、100%となる。横軸は、同じ直胴部最頂部の抵抗率/狙い抵抗率の出現回数である。
【0069】
図5に示されるように、実施例(発熱比3.5)は比較例(発熱比1)と比較して、直胴部最頂部の抵抗率/狙い抵抗率は100%が突出して多く、ばらつきが少ない結果となった。すなわち、シリコン単結晶の育成において、発熱比Qd/Quを3.5とすることにより、揮発性ドーパントの蒸発量のばらつきが小さくなり、製品の狙い抵抗率の的中率を上げることができる。
【0070】
なお、上記実施形態では、加熱部23を上加熱部231と下加熱部232とからなるものとしたが、これに限ることはなく、例えば、坩堝22の底部を加熱する底加熱部(ボトムヒーター)を有する3段の加熱部としてもよい。この場合、発熱比Qd/Quは、下加熱部の発熱量と底加熱部の発熱量の和を、上加熱部の発熱量で除した値とする。
10…シリコン単結晶育成装置、12…メモリ、13…制御部、21…チャンバ、22…坩堝、23加熱部、231…上加熱部、232…下加熱部、24…引き上げ部、54…ドーパント供給装置、D…揮発性ドーパント、M…シリコン融液、S1…引き上げ条件設定工程、S2…原料溶解工程、S3…シリコン融液温度安定化工程、S4…ドーパント添加(ドーピング)工程、S5…引き上げ工程、S5A…ネック部育成工程、S5B…肩部育成工程、S5C…第1の有転位化判定工程、S5D…直胴部育成工程、S5E…第2の有転位化判定工程、S5F…テール部育成工程、S6…冷却工程、S7…メルトバック工程。