(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062998
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】抗ウイルス性シート、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 21/36 20060101AFI20220414BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20220414BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220414BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20220414BHJP
D21H 19/10 20060101ALI20220414BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20220414BHJP
【FI】
D21H21/36
B32B27/10
B32B27/18 Z
B32B29/00
D21H19/10 Z
C09J7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171259
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】澤野 勝丈
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4L055
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
4F100AE07B
4F100AK01B
4F100AK21B
4F100AT00D
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CB05C
4F100CB05E
4F100DE01B
4F100DG10A
4F100GB07
4F100GB71
4F100JA07
4F100JA13A
4F100JC00B
4F100JD15A
4F100JK06C
4F100JL13C
4F100JL13E
4F100YY00A
4F100YY00B
4J004BA02
4J004BA03
4J004CA02
4J004CB03
4J004CC02
4J004CE01
4J004FA05
4J004FA09
4L055AG16
4L055AG64
4L055AH37
4L055AJ03
4L055BE08
4L055CH14
4L055CH16
4L055EA08
4L055EA10
4L055EA14
4L055EA16
4L055EA25
4L055EA40
4L055FA30
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス性を長時間持続できるシート及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】紙の支持体上に、水酸化カルシウム粒子及び樹脂バインダーを含む抗ウイルス層を有するシートであって、(a)前記水酸化カルシウム粒子の担持量が1.0~50.0g/m
2、及び(b)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した際の水酸化カルシウム残存率が20%以上、の要件を満足する抗ウイルス性シート、及びその製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙の支持体上に、水酸化カルシウム粒子及び樹脂バインダーを含む抗ウイルス層を有するシートであって、
下記(a)及び(b)の要件を満足することを特徴とする抗ウイルス性シート。
(a)前記水酸化カルシウム粒子の担持量が1.0~50.0g/m2
(b)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した際の水酸化カルシウム残存率が20%以上
【請求項2】
さらに下記(c)の要件を満足することを特徴とする請求項1記載の抗ウイルス性シート。
(c)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した際の水酸化カルシウム残存量が0.2g/m2以上
【請求項3】
厚さが、0.05~3.0mmであることを特徴とする請求項1又は2記載の抗ウイルス性シート。
【請求項4】
前記支持体の抗ウイルス層と反対側の面に、接着層を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の抗ウイルス性シート。
【請求項5】
前記接着層が、前記支持体側から、強粘着層、基材及び着脱可能な弱粘着層の順に構成された層であることを特徴とする請求項4記載の抗ウイルス性シート。
【請求項6】
前記弱粘着層の接着力が、0.1~2.0N/20mmであることを特徴とする請求項5記載の抗ウイルス性シート。
【請求項7】
クレム吸水度が5.0mm以下で目付が10~200g/m2であるパルプ繊維紙の支持体に対して、メジアン径が0.5~10.0μmの水酸化カルシウム粒子及び樹脂バインダーを含み、前記水酸化カルシウムの濃度が1.0~50.0質量%の分散液を塗布する塗布工程と、
前記分散液を塗布した支持体を乾燥する乾燥工程と、
を有することを特徴とする抗ウイルス性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性シート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ウイルスや細菌の感染を抑制するために、種々の抗ウイルスグッズや抗菌グッズが販売されている。特に最近では、新型ウイルスの流行もあり、その需要は増加している。
【0003】
このような抗菌グッズとしては、例えば、樹脂フィルムと、樹脂フィルムの少なくとも片面に付着した銅粒子とを有し、波長380~780nmにおける全光線透過率が20%以上であり、銅粒子の平均円相当径は10~30nmであり、銅粒子の付着量が100~200mg/μm2である抗菌シートが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、抗ウイルス性を長時間持続できるシート、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、水酸化カルシウムを担持し、特定の条件を満たすシートが抗ウイルス性を長時間持続できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]紙の支持体上に、水酸化カルシウム粒子及び樹脂バインダーを含む抗ウイルス層を有するシートであって、下記(a)及び(b)の要件を満足することを特徴とする抗ウイルス性シート。
(a)前記水酸化カルシウム粒子の担持量が1.0~50.0g/m2
(b)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した際の水酸化カルシウム残存率が20%以上
【0008】
[2]さらに下記(c)の要件を満足することを特徴とする上記[1]記載の抗ウイルス性シート。
(c)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した際の水酸化カルシウム残存量が0.2g/m2以上
[3]厚みが、0.05~3.0mmであることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の抗ウイルス性シート。
[4]前記支持体の抗ウイルス層と反対側の面に、接着層を有することを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載の抗ウイルス性シート。
[5]前記接着層が、前記支持体側から、強粘着層、基材及び着脱可能な弱粘着層の順に構成された層であることを特徴とする上記[4]記載の抗ウイルス性シート。
[6]前記弱粘着層の接着力が、0.1~2.0N/20mmであることを特徴とする上記[5]記載の抗ウイルス性シート。
【0009】
[7]クレム吸水度が5.0mm以下で目付が10~200g/m2であるパルプ繊維紙の支持体に対して、メジアン径が0.5~10.0μmの水酸化カルシウム粒子及び樹脂バインダーを含み、前記水酸化カルシウムの濃度が1.0~50.0質量%の分散液を塗布する塗布工程と、前記分散液を塗布した支持体を乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする抗ウイルス性シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシートは、抗ウイルス性を長時間持続できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性シートの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗ウイルス性シートは、紙の支持体上に、水酸化カルシウム粒子及び樹脂バインダーを含む抗ウイルス層を有し、下記(a)及び(b)の要件を満足することを特徴とする。
【0013】
(a)前記水酸化カルシウム粒子の担持量が1.0~50.0g/m2
(b)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した際の水酸化カルシウム残存率(以下、炭酸化後の水酸化カルシウム残存率という)が20%以上
【0014】
本発明の抗ウイルス性シートは、水酸化カルシウムの炭酸化を抑制して、所望の抗ウイルス性を長時間持続できる。したがって、各種製品の人が手を触れる接触部位等に貼付することにより、ウイルス感染を抑制することができる。なお、本発明のシートは、通常、抗ウイルス性と共に、細菌に対する抗菌性も備える。
【0015】
本発明の抗ウイルス性シートを製品に貼付して使用する場合、適用可能な製品としては、人が手を触れる製品を好ましく例示することができ、具体的には、ドアノブ、電気スイッチ、文房具、消毒液ボトル等の衛生用品等を挙げることができる。すなわち、本発明の抗ウイルス性シートは、ドアのノブに貼付するドアノブ用シート、電気スイッチ類に貼付するスイッチ用シート、ペン等の文房具に貼付する文房具用シート、消毒液ボトル(ポンプ押圧部)等の衛生用品に貼付する衛生用品用シートなどとして用いることができる。また、消毒液ボトルやマスク箱等の衛生製品などを載置する載置シートとして用いることもできる。
【0016】
なお、本発明の抗ウイルス性シートは、上記のように、各種用途に用いることができることから、購入者が適宜使用方法を決定することができるよう、特に用途を特定しない抗ウイルス性シート(ウイルス感染対策シート)として販売することができる。
【0017】
以下、各要件について説明する。
[要件(a)]
本発明の抗ウイルス性シートにおける水酸化カルシウム粒子の担持量としては、上記のように、1.0~50.0g/m2であり、2.0~40.0g/m2が好ましく、3.0~30.0g/m2がより好ましく、5.0~30.0g/m2がさらに好ましい。担持量が1.0g/m2未満であると、所望の抗ウイルス性を長時間持続することができない。また、担持量が50.0g/m2を超えると、水酸化カルシウム粒子の脱落が多くなり、経済的でない。
【0018】
水酸化カルシウムの担持量は、純水中に裁断した試験体を加えて十分撹拌した後、塩酸で滴定して、その滴定量より算出する。なお、ここで求められる水酸化カルシウムの担持量は、後述する要件(b)の炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を算出する上での基準量(CA0)でもある。
【0019】
[要件(b)]
本発明の抗ウイルス性シートの炭酸化後の水酸化カルシウム残存率としては、上記のように、20%以上であり、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。炭酸化後の水酸化カルシウム残存率が20%未満であると、所望のウイルス性を長時間持続することができない。なお、この炭酸化後の水酸化カルシウム残存率は、耐二酸化炭素性(耐炭酸ガス性)を示すものであり、二酸化炭素による水酸化カルシウムの炭酸化の抑制効果を示すものである。通常の室内の二酸化炭素濃度は0.1%以下であることから、本条件(二酸化炭素2%、5日間)で水酸化カルシウムが20%以上残存する本発明のウイルス性シートは、数か月程度、抗ウイルス性を持続できる。
【0020】
炭酸化後の水酸化カルシウム残存率は、以下のように算出する。
湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した試験体について、上記要件(a)と同様にして、水酸化カルシウムを定量して水酸化カルシウム量(CA1)を求める。続いて、以下の式より、炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を算出する。
【0021】
炭酸化後の水酸化カルシウム残存率(%)=(CA1)/(CA0)×100
【0022】
また、本発明の抗ウイルス性シートは、所望の抗ウイルス性を長時間より確実に持続する点から、下記要件(c)を満たすことが好ましい。
【0023】
(c)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した際の水酸化カルシウム残存量(以下、炭酸化後の水酸化カルシウム残存量という)が、0.2g/m2以上、好ましくは1.0g/m2以上、より好ましくは2.0g/m2以上、さらに好ましくは3.0g/m2以上、特に好ましくは5.0g/m2以上
【0024】
本発明の抗ウイルス性シートに用いる支持体としての紙としては、洋紙であっても、和紙であってもよいが、吸水性の観点から、洋紙が好ましい。適切な吸水性の紙を用いることにより、抗ウイルス層における水酸化カルシウムの担持状態が良好となり、抗ウイルス性を長時間持続することができる。
【0025】
紙の吸水性を示すクレム吸水度としては、5.0mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましい。これにより、塗布分散液に含まれる水及びバインダー樹脂を必要以上に内部に吸収することを防止して、抗ウイルス層において水酸化カルシウムが良好な状態で担持される。クレム吸水度の測定は、クレム吸水試験(JIS-P-8141)に準拠して実施する。
【0026】
また、紙の目付量としては、10~200g/m2が好ましく、20~120g/m2がより好ましい。紙の目付量は、JIS L 1096(織物及び編物の生地試験方法)の単位面積当たりの質量の測定方法に準じて測定する。
【0027】
本発明の抗ウイルス性シートは、支持体の抗ウイルス層と反対側の面に、接着層を有することが好ましい。これにより、抗ウイルス性シートを各種製品に容易に貼付することができる。
【0028】
この接着層の構成としては、前記支持体側から、強粘着層、基材及び着脱可能な弱粘着層の順であることが好ましい。これにより、抗ウイルス性シートの製品への着脱(接着及び剥離)が容易となる。
【0029】
例えば、
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性シート1は、支持体としての紙2上に抗ウイルス層3が設けられ、紙2の抗ウイルス層3の反対側に接着層4が設けられる。接着層4は、紙2側から、強粘着層5、基材6及び着脱可能な弱粘着層7の順で設けられる。なお、各層(紙、基材を含む)の間には、各種機能を備えた中間層が設けられていてもよい。
【0030】
弱粘着層の接着力としては、接着力と剥離のバランスから、0.1~2.0N/20mmであることが好ましく、0.3~1.5N/20mmであることがより好ましい。なお、粘着力の測定は、JIS Z 0237の粘着テープ試験法に準じて実施する。例えば、0.1N/20mmとは、20mm幅のテープを長手方向に180°折り返して剥がすときに、0.1Nの重量が必要であることを意味する。
【0031】
本発明の抗ウイルス性シートの厚さとしては、0.05~3.0mm程度が好ましく、0.1~2.0mmがより好ましく、0.1~1.0mmがさらに好ましい。この範囲の厚さであると、シートが所定の柔軟性を有し、製品の曲線形状等にも合わせて貼付することが容易となる。なお、ここでいう厚さは、上記接着層を有する場合には、接着層を含む厚さである。
【0032】
続いて、上記本発明の抗ウイルス性シートを製造する方法について説明する。
本発明の抗ウイルス性シートを製造する方法としては、例えば、支持体に対して、水酸化カルシウム粒子及びバインダー樹脂を含む分散液を塗布する塗布工程と、分散液を塗布した支持体を乾燥する乾燥工程とを有する方法を挙げることができ、以下の方法により製造することが好ましい。
【0033】
すなわち、クレム吸水度が5mm以下で目付が10~200g/m2であるパルプ繊維紙の支持体に対して、メジアン径が0.5~10.0μmの水酸化カルシウム粒子及び樹脂バインダーを含み、水酸化カルシウムの濃度が1.0~50.0質量%の分散液を塗布する塗布工程と、分散液を塗布した支持体を乾燥する乾燥工程とを有する方法が好ましい。なお、分散液としては、水を主体とする水系分散液を用いることが好ましい。
【0034】
このようなパルプ繊維紙の支持体を用いることにより、水酸化カルシウムを良好な状態で担持することができ、抗ウイルス性を長時間持続することができる。また、このような水酸化カルシウム粒子を含む分散液を用いることにより、水酸化カルシウムの炭酸化を抑制して抗ウイルス性を長時間持続できる。
【0035】
水酸化カルシウム粒子のメジアン径(D50)としては、上記のように、0.5~10.0μmであり、0.8~8.0μmが好ましく、1.0~6.0μmがより好ましい。メジアン径が0.5μm未満であると、炭酸化が進みやすく、所望の抗ウイルス性を長時間持続することができないおそれがある。また、メジアン径が10.0μmを超えると、水酸化カルシウム粒子が支持体から取れやすく、安定してシートに担持することができないおそれがある。なお、シートへの担持前後で水酸化カルシウム粒子の粒径はほぼ変化しないことから、製造に用いる水酸化カルシウム粒子のメジアン径を、抗ウイルス性シートにおけるメジアン径と考えることができる。
【0036】
メジアン径(D50)の算出は、分散媒体としてエタノールを使用し、レーザー回折式粒度分析計を用いて体積基準の粒度分布を測定し、その測定結果から算出する。
【0037】
また、本発明で用いる水酸化カルシウム粒子(メジアン径0.5~10.0μm)は、通常の工業用水酸化カルシウムと比較して粒径が小さいものであり、工業用水酸化カルシウムを粉砕または分級して用いてもよい。
【0038】
分散液における水酸化カルシウム濃度としては、上記のように、1.0~50.0質量%であり、5.0~40.0質量%が好ましく、10.0~30.0質量%がより好ましい。水酸化カルシウム濃度が1.0質量%未満であると、十分な量の水酸化カルシウムを支持体に担持することが困難となる。また、水酸化カルシウム濃度が50.0質量%を超えると、塗布する際の取り扱い性が悪く、塗布ムラが生じるおそれがある。
【0039】
バインダー樹脂としては、水溶性樹脂、水分散性樹脂を挙げることができ、水溶性樹脂が好ましい。これにより、水分を含む飛沫がシートに付着した際、樹脂が溶解して飛沫(ウイルス)が水酸化カルシムに効果的に接触し、より有効にウイルスを死滅させることができる。
【0040】
水溶性樹脂としては、具体的に、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリ(N-ヒドロキシエチルアクリルアミド)、ポリ(N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルホリン)、ポリアクリル酸及びその塩、ポリスチレンスルホン酸及びその塩等を挙げることができる。なかでも、水酸化カルシウム粒子との反応性のない非イオン性の高分子からなる樹脂が好ましく、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが特に好ましい。
【0041】
バインダー樹脂の配合量(分散液中の濃度)としては、5.0~40.0質量%が好ましく、5.0~20.0質量%がより好ましい。この範囲とすることにより、水酸化カルシウム粒子を支持体に適切に担持することができる。
【0042】
塗布工程における水酸化カルシウム分散液の塗布方法としては、シートに均一に塗布できる方法であれば特に制限されるものではなく、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法、カーテンコート法、グラビア印刷法等、各種塗布方法を挙げることができる。
【0043】
乾燥工程における乾燥は、例えば、自然乾燥、温風乾燥等、各種乾燥方法を用いることができる。
【0044】
また、本発明の抗ウイルス性シートの製造方法においては、乾燥工程の後に、接着層形成工程を有していることが好ましい。接着層形成工程においては、例えば、基材の一方の面に強粘着層を形成すると共に他方の面に弱粘着層を形成した接着シートを製造し、かかる接着シートの強粘着層側を、支持体の抗ウイルス層が設けられていない面に貼付する。なお、接着シートは、市販のものを用いてもよい。
【実施例0045】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0046】
本発明の抗ウイルス性シートを制作し、抗ウイルス性について評価した。
(1)原材料
1)コート液
以下のコート液A~Fを調製した。
コート液A:消石灰x30質量%+ポリビニルアルコール(PVA)10質量%+残部水
コート液B:消石灰x20質量%+PVA10質量%+残部水
コート液C:消石灰x10質量%+PVA10質量%+残部水
コート液D:消石灰x2質量%+PVA10質量%+残部水
コート液E:消石灰y10質量%+PVA10質量%+残部水
【0047】
なお、消石灰xのメジアン径(D50)は4.5μmであり、消石灰yのメジアン径(D50)は0.20μmである。メジアン径(D50)の算出は、分散媒体としてエタノールを使用し、レーザー回折式粒度分析計を用いて体積基準の粒度分布を測定した結果から算出した。
【0048】
また、ポリビニルアルコールは、和光純薬工業製「ポリビニルアルコール500」(重合度約500)を使用した。
水は、イオン交換水を使用した。
【0049】
2)支持体
支持体として以下の紙A~Cを用いた。クレム吸水度及び目付量の測定は、以下の方法により行った。
【0050】
(クレム吸水度)
クレム吸水試験(JIS-P-8141)に準拠して行った。測定器具として、ものさし、ストップウォッチ、プラスチック容器及び水道水(青色1号で着色)を用いた。幅25mm、長さ150mmの大きさに切り取った支持体をサンプル(N=3)とした。まず、水道水をプラスチック容器に深さが10mm以上となるまで入れた。次に、採取したサンプルを固定チャックで固定し、サンプル先端から5mmの深さで水道水に浸るようセットした。これをそのままの状態で120秒放置した(環境:温度20℃/湿度60%)。水道水がサンプルを伝い上昇し、サンプル上における吸い上げ距離を水道水の表面から測定した。吸い上げ距離の長い方が、クレム吸水度が高いことを示す。
【0051】
(目付量)
目付量については、JIS L 1096(織物及び編物の生地試験方法)の単位面積当たりの質量の測定方法に準じて測定した。
【0052】
【0053】
(2)製造方法
支持体をガラス板(縦300×横250×厚さ10mm)にテープで固定し、バーコーターを用いて、コート液をコートした。その後、支持体をガラス板から取り外し、60℃の恒温送風乾燥機中で20分間乾燥させて、水酸化カルシウム担持シート(試験体)を制作した。なお、下記定量や評価に用いる部分を除外したシートに、接着層となる市販の接着シートを貼付し、接着層を有するシートを制作した。
【0054】
制作した試験体について、水酸化カルシウム量(要件a)を求めた。具体的には、以下の方法にて行った。
【0055】
(水酸化カルシウム量の定量)
純水500ml中に裁断した試験体約2gを加え、12時間スターラーで撹拌した。フェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/Lの塩酸で滴定した。その滴定量より、有効アルカリとしての水酸化カルシウムの付着量を算出した。
【0056】
また、制作した試験体について、湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置し、炭酸化後の水酸化カルシウム残存量及び残存率(要件b,c)を確認した。具体的には、以下の方法にて行った。
【0057】
(炭酸化後の水酸化カルシウム残存量及び残存率)
上記条件で炭酸ガス養生装置内に5日間放置した試験体について、上記要件(a)と同様の方法で水酸化カルシウム量(残存量)を定量した(CA1)。続いて、上記制作直後の試験体の水酸化カルシウム量をCA0として、以下の式により、炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を求めた。
【0058】
炭酸化後の水酸化カルシウム残存率(%)=(CA1)/(CA0)×100
【0059】
(3)抗ウイルス特性の評価
制作した試験体について、湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に5日間放置した後の抗ウイルス性を確認した。繊維製品の抗ウイルス性試験(JIS L 1922)に準拠し、ウイルス感染価を「プラーク法」により測定した。使用ウイルスには、「A型インフルエンザウイルス」を用いた。具体的な方法を以下に示す。
【0060】
1)測定方法
1)試験体(質量0.4g)をバイアル瓶に入れた。
2)ウイルス液0.2mlを接種し、25℃で2時間放置した。
3)SCDLP培地20mlを加え、試験体からウイルスを洗い出した。
4)洗い出した液のウイルス感染価(感染性ウイルス量)を、プラーク法で測定した。
【0061】
2)抗ウイルス効果の確認
抗ウイルス活性値により、以下のように判断した。
抗ウイルス活性値<2.0・・・効果低い(×)
3.0>抗ウイルス活性値≧2.0・・・効果あり(○)
抗ウイルス活性値≧3.0・・・十分な効果あり(◎)
【0062】
以上の結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表2に示すように、実施例1~6は、炭酸ガス下に5日間放置後の水酸化カルシウムの残存量及び残存率も優れており、抗ウイルス性が長時間持続することがわかる。また、シート厚は薄く柔軟性も良好であり、円弧状のドアノブにも問題なく貼付することができた。
【0065】
一方、比較例1及び2のように、水酸化カルシウムの初期担持量が少なすぎると、初期に適正な粒径の水酸化カルシウムを坦持していても、炭酸化の進みが早く、所望の炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を担保できず、十分な抗ウイルス性を持続できない。また、比較例3及び4のように、担持する水酸化カルシウム粒子の径が小さすぎると、初期に十分な量の水酸化カルシウムを坦持していても、炭酸化の進みが早く、所望の炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を担保できず、抗ウイルス性を持続できない。さらに、比較例5のように、支持体の吸水性が高すぎると、初期に適正な粒径かつ十分な量の水酸化カルシウムを坦持していても、炭酸化の進みが早く、所望の炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を担保できず、抗ウイルス性を持続できない。