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特開2022-66024光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066024
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/31 20060101AFI20220421BHJP
   C07C 69/003 20060101ALI20220421BHJP
   C07C 231/18 20060101ALI20220421BHJP
   C07C 233/05 20060101ALI20220421BHJP
   C07C 229/12 20060101ALI20220421BHJP
   C07C 227/32 20060101ALI20220421BHJP
   C07D 307/54 20060101ALI20220421BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220421BHJP
【FI】
C07C67/31
C07C69/003 C
C07C231/18
C07C233/05
C07C229/12
C07C227/32
C07D307/54
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174920
(22)【出願日】2020-10-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「不斉水素化触媒 s-PICA触媒」,関東化学株式会社,令和1年11月1日 関東化学株式会社のウェブサイト(https://products.kanto.co.jp/web/index.cgi?c=t_product_table&pk=924),令和1年12月1日
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】大熊 毅
(72)【発明者】
【氏名】新井 則義
(72)【発明者】
【氏名】安田 俊尚
(72)【発明者】
【氏名】内海 典之
(72)【発明者】
【氏名】片山 武昭
【テーマコード(参考)】
4C037
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C037HA29
4H006AA02
4H006AB99
4H006AC41
4H006BA23
4H006BA39
4H006BA48
4H006BB14
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC19
4H006BE20
4H006BJ50
4H006BN10
4H006BT12
4H006BV22
4H006KA31
4H006KC14
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】基質カルボニル化合物を高い効率で水素化し、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を高いエナンチオマー純度およびジアステレオマー純度で製造する方法の提供。
【解決手段】一般式:RuXYAB[XおよびYは互いに同一または異なり、水素原子またはアニオン性基を示し、Aは特定の光学活性ジホスフィンを示し、Bも特定の化合物を示す。]で表されるルテニウム化合物の存在下、基質カルボニル化合物を水素および/または水素を供与する化合物と反応させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法であって、下記一般式(1)
RuXYAB (1)
[(一般式(1)中、XおよびYは互いに同一または異なり、水素原子またはアニオン性基を示し、Aは下記一般式(2)
【化1】
(一般式(2)中、
およびRは、互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状または環状炭化水素基を示し、
およびRは互いに同一または異なり、水素原子、または炭素数1~3の炭化水素基を示し、
、R、RおよびRは、互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭化水素基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)
で表される光学活性ジホスフィンを示し、
Bは、下記一般式(3)
【化2】
(一般式(3)中、各Dは、独立して同一または異なり、炭素原子または窒素原子を示し、
、R10およびR11は、互いに同一または異なり、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状もしくは環状炭化水素基を示し、および/または、R10とR11は、互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成してもよく、
各R12は、互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状もしくは環状炭化水素基を示し、および/または、2つのR12同士が互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成してもよく、
12は、少なくともその一部がアニオン性基Xとしてルテニウムに結合してもよく、
nは、0~(4-(窒素原子であるDの数))の整数である。)で表されるアミン化合物を示す。]
で表される化合物から選択される1種または2種以上のルテニウム錯体の存在下において、下記一般式(4)
【化3】
(式中、Jは、それぞれ置換基を有してもよい、芳香環またはアルキル基であり、Kは、それぞれ置換基を有してもよい、アルキル基、アリール基、アリル基、アミノ基、アミド結合のN原子で結合するアミド基、またはアミド結合のN原子で結合するスルホンアミド基のいずれかであり、Lは、エステル結合のC原子で結合するエステル基、または、アミド結合のC原子で結合するアミド基のいずれかである。)で表される基質カルボニル化合物を、水素および/または水素を供与する化合物と反応させて、下記一般式(5)
【化4】
(式中、J、KおよびLは前記と同じ意味を示し、*は不斉炭素の位置を示す)
で表される光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を製造する、前記方法。
【請求項2】
反応系中に、下記一般式(6)
RuXYA (6)
(一般式(6)中、X、YおよびAは、互いに独立して一般式(1)中で定義されたとおりの意味を有する。)で表される化合物から選択される1種または2種以上の錯体と、前記一般式(3)で表される化合物から選択される1種または2種以上のアミン化合物とを存在させることにより、一般式(1)で表されるルテニウム錯体がin situで調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2つのR12同士が互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成し、当該2つのR12同士によって形成される環とDを含んで構成される環とによって形成される環が、キノリン環またはイソキノリン環である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(3)中、4つのDのうち1以上が窒素原子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
Aが、2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-イソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジtertブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、1,3-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパンまたは1,3-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
Aが、2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-イソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジtertブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、または2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
Bが、2-ピコリルアミン、(6-(p-トリル)-2-ピリジル)メタンアミン、1-(2-ピリジル)エチルアミン、2-(アミノメチル)-6-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-6-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-6-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-6-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4-イソピロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-6-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-tert-ブチルピリジン、2-(N-ベンジル-アミノメチル)ピリジン、2-(アミノメチル)ピロリジン、2-(アミノメチル)-1-エチルピロリジン、2-(ピロリジニルメチル)ピロリジン、2-(1-アミノ-1,1-ジフェニルメチル)ピロリジン、2-(アミノメチル)-6-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-5-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4,5-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5,6-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5,6-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4,5,6-テトラメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)キノリン、1-(アミノメチル)イソキノリン、3-(アミノメチル)イソキノリン、2-(アミノメチル)ピラジン、2-(アミノメチル)ピリミジン、6-アミノメチルフェナントリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4,5-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5,6-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5,6-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4,5,6-テトラメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)キノリン、1-(1-アミノエチル)イソキノリン、3-(1-アミノエチル)イソキノリン、2-(1-アミノエチル)ピラジン、2-(1-アミノエチル)ピリミジンまたは6-(1-アミノエチル)フェナントリジンである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸基とエステル基またはアミド基が置換した両炭素原子に不斉を有する光学活性β-ヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を製造する効率的な方法として、ラセミ体のβ-ケトエステル類またはβ-ケトアミド類を不斉触媒存在下でジアステレオ選択的かつエナンチオ選択的に水素化もしくは還元する方法が知られている。例えば、BINAP等の光学活性ジホスフィンを配位子とするルテニウム錯体を触媒とする方法が知られている(非特許文献1、2、3)。しかし、これらの文献に開示されている手法は、使用する触媒量が多く、かつ高圧水素を必要とするため工業的に実施することは困難である。
また、光学活性ジホスフィンを配位子とするイリジウム錯体を触媒に用いて、添加剤としてNaBARFを共存させることにより、低水素圧で反応を進行させる手法が開示されている(非特許文献4)。しかし、本手法では高価なイリジウムを用いる必要があることや、α位の置換基が窒素原子であるヒドロキシエステル類に限定されるといった問題がある。
また、光学活性なリン原子と窒素原子で配位する配位子を有するイリジウム錯体を用いて、ラセミ体のβ-ケトエステル類をジアステレオ選択的かつエナンチオ選択的に水素化してエステル基と水酸基が置換した両炭素原子に不斉を有する光学活性β-ヒドロキシエステルを取得する方法が開示されている(非特許文献5,6)。しかし、これらに開示されている手法は、いずれも高価なイリジウムを必要とすることや、基質適用範囲、立体選択性及び触媒効率の観点から不十分である。
一方、α-ピコリルアミン配位子を有する不斉金属触媒を用いたケトン類の不斉還元方法としては、2-プロパノールを水素源として使用し、不斉ルテニウム錯体によるプロキラルなケトン類の不斉還元反応による光学活性アルコールの製法が報告されている。しかし、本文献中にはα-位に置換基を持つβ-ケトエステル類またはβ-ケトアミド類への適応の記載はない(特許文献1)。
以上のように、従来からラセミ体のβ-ケトエステル類あるいはβ-ケトアミド類から効率的に光学活性β-ヒドロキシエステル類あるいはβ-ヒドロキシアミド類を製造する手法の開発が望まれているが、水酸基とエステル基またはアミド基が置換した両炭素原子に不斉を有する光学活性β-ヒドロキシエステル類あるいはβ-ヒドロキシアミド類を高収率、高エナンチオマー純度、高ジアステレオマー純度で製造する例は全く報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007-536338号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 111, 9134-9135 (1989)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 126, 1626-1627 (2004)
【非特許文献3】Chem. Commun., 1296-1297 (2004)
【非特許文献4】Org. Lett., 8, 4573-4576 (2006)
【非特許文献5】Org. Lett., 18, 5592-5595 (2016)
【非特許文献6】Org. Lett., 20, 1888-1892 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、特定の光学活性ジホスフィン化合物と、合成が容易なアミン化合物を配位子とするルテニウム錯体を触媒として、基質カルボニル化合物を高い効率で水素化し、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を高いエナンチオマー純度およびジアステレオマー純度で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは基質カルボニル化合物の水素化反応を鋭意検討する中で、合成が容易な炭素上に不斉を有するジホスフィン化合物である光学活性SKEWPHOS(2,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン)誘導体化合物とPICA型配位子とをもつルテニウム錯体触媒が、カルボニル化合物の不斉水素化触媒として優れた性能を有し、これにより、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類が高いエナンチオマー純度およびジアステレオマー純度で生成することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] 光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法であって、下記一般式(1)
RuXYAB (1)
[(一般式(1)中、XおよびYは互いに同一または異なり、水素原子またはアニオン性基を示し、Aは下記一般式(2)
【0008】
【化1】
(一般式(2)中、
およびRは、互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状または環状炭化水素基を示し、
およびRは互いに同一または異なり、水素原子、または炭素数1~3の炭化水素基を示し、
、R、RおよびRは、互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭化水素基を表し、*は不斉炭素原子を表す。)
で表される光学活性ジホスフィンを示し、
Bは、下記一般式(3)
【0009】
【化2】
(一般式(3)中、各Dは、独立して同一または異なり、炭素原子または窒素原子を示し、
、R10およびR11は、互いに同一または異なり、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状もしくは環状炭化水素基を示し、および/または、R10とR11は、互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成してもよく、
各R12は、互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状もしくは環状炭化水素基を示し、および/または、2つのR12同士が互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成してもよく、
12は、少なくともその一部がアニオン性基Xとしてルテニウムに結合してもよく、
nは、0~(4-(窒素原子であるDの数))の整数である。)で表されるアミン化合物を示す。]
で表される化合物から選択される1種または2種以上のルテニウム錯体の存在下において、下記一般式(4)
【0010】
【化3】
(式中、Jは、それぞれ置換基を有してもよい、芳香環またはアルキル基であり、Kは、それぞれ置換基を有してもよい、アルキル基、アリール基、アリル基、アミノ基、、アミド結合のN原子で結合するアミド基、またはアミド結合のN原子で結合するスルホンアミド基のいずれかであり、Lは、エステル結合のC原子で結合するエステル基、または、アミド結合のC原子で結合するアミド基のいずれかである。)で表される基質カルボニル化合物を、水素および/または水素を供与する化合物と反応させて、下記一般式(5)
【0011】
【化4】
(式中、J、KおよびLは前記と同じ意味を示し、*は不斉炭素の位置を示す)
で表される光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を製造する、前記方法。
【0012】
[2] 反応系中に、下記一般式(6)
RuXYA (6)
(一般式(6)中、X、YおよびAは、互いに独立して一般式(1)中で定義されたとおりの意味を有する。)で表される化合物から選択される1種または2種以上の錯体と、前記一般式(3)で表される化合物から選択される1種または2種以上のアミン化合物とを存在させることにより、一般式(1)で表されるルテニウム錯体がin situで調製される、前記[1]に記載の方法。
[3] 2つのR12同士が互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成し、当該2つのR12同士によって形成される環とDを含んで構成される環とによって形成される環が、キノリン環またはイソキノリン環である、前記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 一般式(3)中、4つのDのうち1以上が窒素原子である、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
【0013】
[5] Aが、2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-イソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジtertブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、1,3-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパンまたは1,3-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパンである、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
【0014】
[6] Aが、2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-イソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジtertブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、または2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタンである、前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
【0015】
[7] Bが、2-ピコリルアミン、(6-(p-トリル)-2-ピリジル)メタンアミン、1-(2-ピリジル)エチルアミン、2-(アミノメチル)-6-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-6-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-6-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-6-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4-イソピロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-6-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-tert-ブチルピリジン、2-(N-ベンジル-アミノメチル)ピリジン、2-(アミノメチル)ピロリジン、2-(アミノメチル)-1-エチルピロリジン、2-(ピロリジニルメチル)ピロリジン、2-(1-アミノ-1,1-ジフェニルメチル)ピロリジン、2-(アミノメチル)-6-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-5-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4,5-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5,6-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5,6-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4,5,6-テトラメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)キノリン、1-(アミノメチル)イソキノリン、3-(アミノメチル)イソキノリン、2-(アミノメチル)ピラジン、2-(アミノメチル)ピリミジン、6-アミノメチルフェナントリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4,5-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5,6-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5,6-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4,5,6-テトラメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)キノリン、1-(1-アミノエチル)イソキノリン、3-(1-アミノエチル)イソキノリン、2-(1-アミノエチル)ピラジン、2-(1-アミノエチル)ピリミジンまたは6-(1-アミノエチル)フェナントリジンである、前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、合成が容易な炭素上に不斉を有するジホスフィン化合物である光学活性SKEWPHOS(2,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン)誘導体化合物とPICA型配位子とをもつルテニウム錯体触媒が、高い効率をもつ水素化触媒として作用する。これにより、従来用いられてきたルテニウム錯体では不斉水素化が効率的に進行せず、また、高価なイリジウム錯体ではエナンチオマー純度およびジアステレオマー純度が不十分であった、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造を、高いエナンチオマー純度およびジアステレオマー純度で行うことが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、好適な実施態様に基づいて詳細に説明する。
本発明は、後述する一般式(1)で表される化合物から選択される1種または2種以上のルテニウム錯体の存在下において、後述する一般式(4)で表される基質カルボニル化合物を水素あるいは水素を供与する化合物と反応させて、後述する一般式(5)で表される光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を製造する方法である。
以下、まず、本方法に用いられるルテニウム錯体を詳細に説明し、その後本方法の好適な態様を詳細に説明する。
【0018】
<ルテニウム錯体>
本発明で用いられるルテニウム錯体は、一般式(1)
RuXYAB (1)
(式中、Aは、下記一般式(2)
【化5】
で表される光学活性ジホスフィン化合物Aであり、Bは、下記一般式(3)
【化6】
で表されるアミン化合物Bである。)
で表される。
【0019】
上記一般式(1)中、置換基XおよびYは互いに同一または異なり、水素原子またはアニオン性基を示す。
アニオン性基としては、ハロゲン原子やカルボキシル基、テトラヒドロボラートアニオン、置換フェニルアニオン基が好適であるが、その他各種アニオン性基であってもよく、例えばアルコキシ基、ヒドロキシ基等も用いることができる。XおよびYは、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、テトラヒドロボラートアニオン、トリルアニオン性基、アセトキシ基等であり、より好ましくはハロゲン原子またはトリルアニオン性基であり、特に好ましくは、塩素原子または臭素原子である。
【0020】
また上述したように、一般式(1)で表される光学活性ルテニウム錯体中の光学活性ジホスフィン化合物Aは、下記一般式(2)で表される。
【化7】
【0021】
一般式(2)中、RおよびRは互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状または環状炭化水素基を示し、RおよびRは互いに同一または異なり、水素または炭素数1~3の炭化水素基を示し、R、R、RおよびRは互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭化水素基を示し、*は不斉炭素原子を示す。
ここでRおよびRとしては、特に限定されないが、例えば、飽和または不飽和の鎖状脂肪族炭化水素基、飽和または不飽和の単環または多環の環状脂肪族炭化水素基、単環または多環の芳香族炭化水素基およびこれらの各種炭化水素基を組み合わせた基が挙げられ、これらの炭化水素基はさらに置換基を有していてもよい。
【0022】
およびRの例としては、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、例えばフェニルおよびナフチル、アラルキル、例えばフェニルアルキル等の炭化水素基、およびこれら炭化水素基に更にアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、エステル、アシルオキシ、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の許容される置換基を有する炭化水素基が挙げられる。
これらのうち、RおよびRは、好ましくは飽和鎖状脂肪族炭化水素基または単環の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基または置換もしくは未置換のフェニル基であり、特に好ましくはメチル基およびフェニル基である。
【0023】
およびRは、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、好ましくは脂肪族の飽和炭化水素基である。具体的には水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が好ましい。
【0024】
、R、RおよびRとしては、特に限定されないが、例えば、飽和または不飽和の鎖状脂肪族炭化水素基、飽和または不飽和の単環または多環の環状脂肪族炭化水素基、単環または多環の芳香族炭化水素基が挙げられ、これらの炭化水素基はさらに置換基を有していてもよい。
【0025】
、R、RおよびRの例としては、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、例えばフェニルおよびナフチル、アラルキル、例えばフェニルアルキル等の炭化水素基およびこれらの炭化水素基に更にアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、エステル、アシルオキシ、ハロゲン原子、ジアルキルアミノ基、ニトロ基、シアノ基等の許容される置換基を有する炭化水素基が挙げられる。
【0026】
このうちR、R、RおよびRは、好ましくは置換または未置換の単環の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基、および置換フェニル基であり、特に好ましくは、フェニル基、ならびにメチル基、エチル基、イソプロピル基、プロピル基およびtert-ブチル基から選ばれた置換基を少なくとも1つ有する置換フェニル基である。
【0027】
なお、R、R、RおよびRの炭素数は、特に限定されないが、例えば、1~20、好ましくは、5~10とすることができる。
【0028】
一般式(2)で表される光学活性ジホスフィンの例としては、2位および4位にジフェニルホスフィノ基を有するペンタン誘導体、2位および4位にジ-4-トリルホスフィノ基を有するペンタン誘導体、2位および4位にジ-4-t-ブチルフェニルホスフィノ基を有するペンタン誘導体、2位および4位にジ-3,5-キシリルホスフィノ基を有するペンタン誘導体、2位および4位にジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ基を有するペンタン誘導体、2位および4位にジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ基を有するペンタン誘導体、1位および3位にジフェニルホスフィノ基を有する1,3-ジフェニルプロパン誘導体、1位および3位にジ-4-トリルホスフィノ基を有する1,3-ジフェニルプロパン誘導体、1位および3位にジ-4-t-ブチルフェニルホスフィノ基を有する1,3-ジフェニルプロパン誘導体、1位および3位にジ-3,5-キシリルホスフィノ基を有する1,3-ジフェニルプロパン誘導体、1位および3位にジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ基を有する1,3-ジフェニルプロパン誘導体が挙げられる。
【0029】
より具体的には、光学活性ジホスフィン化合物Aは、SKEWPHOS:2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、TolSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)ペンタン、XylSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)ペンタン、4-t-BuSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、4-i-PrSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-4-イソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、3,5-diEtSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)ペンタン、DIPSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、DTBSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-3,5-ジtertブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタン、1,3-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニルプロパン、1,3-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパン、1,3-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパンまたは1,3-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)-1,3-ジフェニル-2-メチルプロパンである。
【0030】
光学活性ジホスフィン化合物Aは、より好ましくは、SKEWPHOS:2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、TolSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-4-トリルホスフィノ)ペンタン、XylSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)ペンタン、4-t-BuSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-4-tert-ブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、4-i-PrSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-4-イソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、3,5-diEtSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-3,5-ジエチルフェニルホスフィノ)ペンタン、DIPSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-3,5-ジイソプロピルフェニルホスフィノ)ペンタン、DTBSKEWPHOS:2,4-ビス-(ジ-3,5-ジtertブチルフェニルホスフィノ)ペンタン、または2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-3-メチルペンタンである。
【0031】
これらのうち、特にSKEWPHOS、TolSKEWPHOS、3,5-diEtSKEWPHOS、4-t-BuSKEWPHOS、XylSKEWPHOS、DTBSKEWPHOSおよびDIPSKEWPHOSが好適である。しかし、もちろん本発明に用いることのできる光学活性ジホスフィン化合物は、これらに何ら限定されるものではない。
【0032】
また、一般式(1)で表される光学活性ルテニウム錯体中のアミン化合物Bとしては、下記式(3)で表される化合物を用いることができる。
【化8】
【0033】
一般式(3)中、
各Dは、独立して同一または異なり、炭素原子または窒素原子を示し、
、R10およびR11は、互いに同一または異なり、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状もしくは環状炭化水素基を示し、および/または、R10とR11は、互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成してもよく、
各R12は、互いに同一または異なり、置換基を有してもよい炭素数1~20の鎖状もしくは環状炭化水素基を示し、および/または、2つのR12同士が互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成してもよく、
12は、少なくともその一部がアニオン性基Xとしてルテニウムに結合してもよく、
nは、0~(4-(窒素原子であるDの数))の整数である。
【0034】
ここで、上述したように式中各Dは、独立して同一または異なり、窒素原子または炭素原子を示す。式中の4つのDのすべてが炭素原子であることができ、また、4つのDのうちの1以上が窒素原子であることもできる。
Dを含んで構成される環中において存在する窒素原子は、例えば、1~3、好ましくは1~2であることができる。したがって、この場合、式中の4つのDのうち、0~2、好ましくは、0または1のDが窒素原子であり、その余のDが炭素原子である。
Dを含んで構成される環は、特に限定されないが、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環またはテトラジン環であることができる。中でもDを含んで構成される環は、好ましくは、ピリジン環、ピラジン環またはピリミジン環である。
【0035】
式中、R~R11としては、特に限定されないが、例えば、水素原子、飽和または不飽和の鎖状脂肪族炭化水素基、飽和または不飽和の単環または多環の環状脂肪族炭化水素基、単環または多環の芳香族炭化水素基が挙げられ、これらの炭化水素基はさらに置換基を有していてもよい。
~R11の例としては、水素原子、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、例えばフェニル、ナフチル、アラルキル、例えばフェニルアルキル等の炭化水素基、およびこれら炭化水素基にさらにアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、エステル、アシルオキシ、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の許容される各種の置換基を有する炭化水素基が挙げられる。
【0036】
上記Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、フェニル基およびフェニルアルキル基であり、より好ましくは、水素原子、ベンジル基、特に好ましくは水素原子である。
上記のR10およびR11は、好ましくは水素原子、アルキル基、フェニル基、フェニルアルキル基等であり、特に好ましくはすべてが水素原子、あるいはR10およびR11のいずれか一つがメチル基である。
【0037】
また、R10とR11は、互いに連結して、置換基を有してもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成してもよい。このような炭化水素環としては、環員数が3~10、好ましくは4~8のシクロアルカン環、シクロアルケン環、シクロアルキン環が挙げられる。R10とR11とが形成する環としては、より具体的には、例えばシクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ピペリジリデンやこれらに置換基が置換されたものが挙げられる。上述した中でも、単環の炭化水素基、特にシクロペンチリデン、シクロヘキシリデンが好ましい。
【0038】
また、R12としては、特に限定されないが、例えば、飽和または不飽和の鎖状脂肪族炭化水素基、飽和または不飽和の単環または多環の環状脂肪族炭化水素基、単環または多環の芳香族炭化水素基が挙げられ、これらの炭化水素基はさらに置換基を有していてもよい。
12の例としては、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、例えばフェニル、ナフチル、アラルキル、例えばフェニルアルキル等の炭化水素基、およびこれら炭化水素基にさらにアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、エステル、アシルオキシ、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の許容される各種の置換基を有する炭化水素基が挙げられる。
上記R12は、好ましくはアルキル基またはアリール基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、置換または未置換のフェニル基、特に好ましくは、メチル基、フェニル基またはo-、m-もしくはp-トリル基である。
【0039】
また、2つのR12同士が互いに連結して、置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素環または複素環を形成してもよい。前記互いに連結する2つのR12は、隣り合うDに置換するR12(オルト位の位置関係にあるR12)または1つのDを挟んだDに置換するR12(メタ位の位置関係にあるR12)であることが好ましく、隣り合うDに置換するR12であることが好ましい
このような2つのR12同士によって形成される環としては、環員数が3~10、好ましくは4~8の飽和または不飽和の炭化水素環または複素環が挙げられ、より具体的には、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、テトラジン環、イミダゾリン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環や、これらに置換基が置換されたものが挙げられる。上述した中でも、単環の炭化水素芳香族基、特にベンゼン環が好ましい。
【0040】
2つのR12同士によって形成される環とDを含んで構成される環とによって形成される環としては、例えば、キノリン環、イソキノリン環、プリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、フタラジン環、フェナントリジン環が挙げられ、これらのうち、キノリン環またはイソキノリン環が好ましい。
【0041】
また、上述したように、式中、nは、0~(4-(窒素原子であるDの数))の整数である。すなわち、窒素原子であるDの数が0である場合、nは、0~4であり、窒素原子であるDの数が1である場合、nは、0~3であり、窒素原子であるDの数が2である場合、nは、0~2であり、窒素原子であるDの数が3である場合、nは、0~1であり、窒素原子であるDの数が4である場合、nは、0である。
【0042】
より具体的には、アミン化合物Bは、例えば、PICA:2-ピコリルアミン、(6-(p-トリル)-2-ピリジル)メタンアミン、1-(2-ピリジル)エチルアミン、2-(アミノメチル)-6-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-メチルピリジン、2-(アミノメチル)-6-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-エチルピリジン、2-(アミノメチル)-6-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5-n-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-6-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4-イソピロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5-イソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-6-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4-tert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5-tert-ブチルピリジン、2-(N-ベンジル-アミノメチル)ピリジン、2-(アミノメチル)ピロリジン、2-(アミノメチル)-1-エチルピロリジン、2-(ピロリジニルメチル)ピロリジン、2-(1-アミノ-1,1-ジフェニルメチル)ピロリジン、2-(アミノメチル)-6-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4-フェニルピリジン、2-(アミノメチル)-5-フェニルピリジン、3,4-DMPICA:2-(アミノメチル)-3,4-ジメチルピリジン、3,5-DMPICA:2-(アミノメチル)-3,5-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4,5-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5,6-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5,6-トリメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4,5,6-テトラメチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジエチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジn-プロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジイソプロピルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジn-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジイソブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(アミノメチル)-3,4-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3,5-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-3,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4,5-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-5,6-ジフェニルピリジン、2-(アミノメチル)-4-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン、2-AMQ:2-(アミノメチル)キノリン、1-AMIQ:1-(アミノメチル)イソキノリン、3-AMIQ:3-(アミノメチル)イソキノリン、AMPZ:2-(アミノメチル)ピラジン、2-AMPR:2-(アミノメチル)ピリミジン、6-アミノメチルフェナントリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4,5-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5,6-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5,6-トリメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4,5,6-テトラメチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジエチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジn-プロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジイソプロピルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジn-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジイソブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジtert-ブチルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,4-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,5-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-3,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,5-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-4,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)-5,6-ジフェニルピリジン、2-(1-アミノエチル)キノリン、1-(1-アミノエチル)イソキノリン、3-(1-アミノエチル)イソキノリン、2-(1-アミノエチル)ピラジン、2-(1-アミノエチル)ピリミジンまたは6-(1-アミノエチル)フェナントリジンであることが好ましい。これらのうち特にPICA、2-AMQ、1-AMIQ、3-AMIQ、3,4-DMPICA、3,5-DMPICA、AMPZ、2-AMPRが好適である。
【0043】
以上説明した一般式(1)で表されるルテニウム錯体は、アミン配位子として、一般式(3)で表される、含窒素環上に複数の置換基を有するか、または含窒素環が複数の窒素原子を含んで構成されるアミン化合物Bを有する。このようなアミン化合物Bと、一般式(2)で表される光学活性ジホスフィン化合物Aとを有するルテニウム錯体を用いて基質カルボニル化合物を水素化した場合、従来知られているアキラルな配位子をもつルテニウム錯体を用いた場合と比較して、遥かに高いエナンチオマー純度およびジアステレオマー純度で水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を得ることができる。
【0044】
なお、本発明で用いる一般式(1)で表されるルテニウム錯体は、基質カルボニル化合物を塩基存在下で水素と反応させる際に、その反応系中(in situ)で調製してもよい。その方法に制限はないが、一例としては、反応系中に、前駆体である下記一般式(6)
RuXYA (6)
[一般式(6)中、X、YおよびAは、互いに独立して一般式(1)中で定義されたとおりの意味を有する。]で表される化合物から選択される1種または2種以上の錯体と、前記一般式(3)で表される化合物から選択される1種または2種以上のアミン化合物とを存在させることにより、一般式(1)で表されるルテニウム錯体をin situで調製することができる。
【0045】
一般式(6)で表される錯体と、一般式(3)で表されるアミン化合物とは、一般式(6)で表される錯体と、一般式(3)で表されるアミン化合物が反応し、一般式(1)で表される触媒前駆体を生成することから、一般式(6)で表される錯体と、一般式(3)で表されるアミン化合物のモル比は特に制限はないが、一般式(6)で表される錯体に比べ、一般式(3)で表されるアミン化合物が少ない場合は、一般式(6)で表される錯体が一般式(1)で表される触媒前駆体に変化せずに残存するため、反応の経済性の観点から不利である。よって一般式(6)で表される錯体と、一般式(3)で表されるアミン化合物とは、好ましくは1:1~1:50のモル比で、さらに好ましくは1:1~1:20のモル比で、基質カルボニル化合物を水素および/または水素を供与する化合物と反応させる容器に仕込むことができる。一般式(6)で表される錯体に比べ、一般式(3)で表されるアミン化合物が少ない場合においても、反応性が低下する点を除けば、問題なく使用することができる。
【0046】
また、一般式(1)および一般式(6)で示されるルテニウム錯体は、その合成に用いられた反応試剤である有機化合物を1ないし複数個含む場合がある。ここで、有機化合物は配位性の有機溶媒を示し、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロへキシルケトンなどのケトン系溶媒、アセトニトリル、DMF、N-メチルピロリドン、DMSO、トリエチルアミンなどヘテロ原子を含む有機溶剤などが例示される。
【0047】
一般式(1)で表されるルテニウム錯体の合成は、一例として一般式(6)で表される光学活性ルテニウム錯体と、アミン化合物、あるいは、光学活性アミン化合物と反応させることにより行うことができる。一般式(6)で表される光学活性ルテニウム錯体の合成は、光学活性ジホスフィン化合物と、原料であるルテニウム錯体と反応させることにより行うことができる。一般式(1)で表される錯体は、前述のように予め調製したものを用いても良く、水素化反応の系中で調製したものを用いてもよい。一般式(1)で表されるルテニウム錯体の調製法としては、用いる原料の構造を含めて現在までに報告された何れの方法でも用いることができ、特に制限はないが、その実施態様の一つを以下に示す。
【0048】
錯体合成のための出発物質であるルテニウム錯体には、0価、1価、2価、3価及びさらに高原子価のルテニウム錯体を用いることができる。0価、および1価のルテニウム錯体を用いた場合には、最終段階までにルテニウムの酸化が必要である。2価の錯体を用いた場合には、ルテニウム錯体と光学活性ジホスフィン化合物、及び、光学活性ジアミン化合物を順次もしくは逆の順で、または、同時に反応することで合成できる。3価、及び4価以上のルテニウム錯体を出発原料に用いた場合には、最終段階までに、ルテニウムの還元が必要である。
【0049】
出発原料となるルテニウム錯体としては、塩化ルテニウム(III)水和物、臭化ルテニウム(III)水和物、沃化ルテニウム(III)水和物等の無機ルテニウム化合物、[2塩化ルテニウム(ノルボルナジエン)]多核体、[2塩化ルテニウム(シクロオクタ-1,5-ジエン)]多核体、ビス(メチルアリル)ルテニウム(シクロオクタ-1,5ジエン)等のジエンが配位したルテニウム化合物、[2塩化ルテニウム(ベンゼン)]多核体、[2塩化ルテニウム(p-シメン)]多核体、[2塩化ルテニウム(トリメチルベンゼン)]多核体、[2塩化ルテニウム(ヘキサメチルベンゼン)]多核体、等の芳香族化合物が配位したルテニウム錯体、また、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等のホスフィンが配位した錯体等が用いられる。その他、光学活性ジホスフィン化合物、光学活性ジアミン化合物と置換可能な配位子を有するルテニウム錯体であれば、特に、上記に限定されるものではない。例えば、COMPREHENSIVEORGANOMETALLIC CHEMISTRY II 7巻 p294-296(PERGAMON)に示された、種々のルテニウム錯体を出発原料として用いることができる。
【0050】
3価のルテニウム錯体を出発原料として用いる場合には、例えば、ハロゲン化ルテニウム(III)を過剰のホスフィンと反応することにより、ホスフィン-ルテニウムハライド錯体を合成することができる。次いで得られたホスフィン-ルテニウムハライド錯体を、アミンと反応することにより、目的とする一般式(1)で表されるアミン-ホスフィン-ルテニウムハライド錯体を得ることができる。例えば、この合成については、文献[J.Mol.Cat.,15, 297(1982)]などに記述がある。
すなわち、Inorg,Synth., vol 12, 237(1970)などに記載の方法により合成されたRuCl(PPhをベンゼン中、エチレンジアミンと反応させて、 RuCl(PPh(en)が得られている(ただし収率の記載がない)。ただ、この方法では、反応が不均一系であり、未反応の原料が残存する傾向が見られる。一方、反応溶媒を塩化メチレン、クロロホルム等の溶媒に変更する場合には、反応を均一状態で行うことができ、操作性が向上する。
【0051】
ハロゲン化ルテニウムとホスフィン配位子との反応は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、DMF、N-メチルピロリドン、DMSOなどヘテロ原子を含む有機溶剤中、反応温度-100℃から200℃の間で行われ、一般式(6)で表されるホスフィン-ルテニウムハライド錯体を得ることができる。
【0052】
得られた、一般式(6)で表されるホスフィン-ルテニウムハライド錯体と一般式(3)で表されるアミン配位子との反応は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、DMF、N-メチルピロリドン、DMSOなどヘテロ原子を含む有機溶剤中、反応温度-100℃から200℃の間で行われ、一般式(1)で表されるアミン-ホスフィン-ルテニウムハライド錯体を得ることができる。
【0053】
一方、最初から二価のルテニウム錯体を用い、これと、ホスフィン化合物、アミン化合物を順次、もしくは逆の順で、または同時に、反応する方法も用いられる。一例として、[2塩化ルテニウム(ノルボルナジエン)]多核体、[2塩化ルテニウム(シクロオク-1,5-タジエン)]多核体、ビス(メチルアリル)ルテニウム(シクロオクタジエン)等のジエンが配位したルテニウム化合物、または、[2塩化ルテニウム(ベンゼン)]ニ核体、[2塩化ルテニウム(p-シメン)]ニ核体、[2塩化ルテニウム(トリメチルベンゼン)]ニ核体、[2塩化ルテニウム(ヘキサメチルベンゼン)]ニ核体等の芳香族化合物が配位したルテニウム錯体、また、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等のホスフィンが配位した錯体を、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、DMF、N-メチルピロリドン、DMSOなどヘテロ原子を含む有機溶剤中、反応温度-100℃から200℃の間で、ホスフィン化合物と反応し、一般式(6)で表されるホスフィン-ルテニウム-ハライド錯体、またはホスフィン-ルテニウム-メチルアリル錯体を得ることができる。ホスフィン-ルテニウム-メチルアリル錯体はハロゲン化水素との反応によりホスフィン-ルテニウム-ハライド錯体を得ることができる。
【0054】
得られた一般式(6)で表されるホスフィン-ルテニウムハライド錯体とジアミン化合物の反応は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2-プロパンノール、ブタノール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、DMF、N-メチルピロリドン、DMSOなどヘテロ原子を含む有機溶媒中、反応温度-100℃から200℃の間で、アミン配位子と反応し、アミン-ホスフィン-ルテニウム錯体を得ることができる。また、同様の条件で、[クロロルテニウム(BINAP)(ベンゼン)]クロライドなどのカチオン性ルテニウム錯体をアミン配位子と反応させて、一般式(1)で表されるアミン-ホスフィン-ルテニウムハライド錯体を得ることができる。
【0055】
一般式(3)で表されるジアミン化合物に結合した環状炭化水素基がアニオン性基Xとしてルテニウムに結合した錯体の合成方法としては、文献[Organometallics, 29, 3563(2010)]などに記載の方法によって合成できる。すなわち上記アミン-ホスフィン-ルテニウムハライド錯体合成法と同様に、一般式(6)で表される、ホスフィン-ルテニウムハライド錯体に対してアミン配位子を添加してアミン-ホスフィン-ルテニウムハライド錯体を合成した後、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレンなどのハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2-プロパンノール、ブタノール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、DMF、N-メチルピロリドン、DMSOなどヘテロ原子を含む有機溶媒中、トリエチルアミンなどの塩基を温度-100℃から200℃の間で反応する。あるいは一般式(6)で表される、ホスフィン-ルテニウムハライド錯体とアミン配位子を上記溶媒中、トリエチルアミンなどの塩基存在下、温度-100℃から200℃の間で反応することで合成できる。
【0056】
また、合成した一般式(1)で表される、アミン-ホスフィン-ルテニウムハライド錯体は、いくつかの配位様式の異なる錯体の混合物となる場合があるが、精製して単一構造の錯体を取得することなく、直接水素化反応に使用することができる。
【0057】
<基質カルボニル化合物>
本発明で用いられる基質カルボニル化合物は、一般式(4)
【0058】
【化9】
で表される。
【0059】
上記一般式(4)中、Jは、それぞれ置換基を有してもよい、芳香環またはアルキル基を示す。
芳香環としては、芳香族炭化水素環または芳香族複素環が挙げられる。
芳香族炭化水素環としては特に限定されず、単環または多環であることができ、環員数は、特に制限がないが、5~20が好ましく、5~15がより好ましい。具体例として、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アズレン環、アセナフチレン環、アントラセン環、フルオレン環、フェナントレン環、ビフェニレン環、ピレン環、テトラセン環が挙げられ、これらのうち、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましい。
また、芳香族複素環としては特に限定されず、例えば、窒素原子、酸素原子あるいは硫黄原子をヘテロ原子として有する単環または多環式のヘテロ環が好ましい。環員数には特に制限がないが、5~20が好ましく、5~15がより好ましい。具体例として、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、テトラジン環、イミダゾリン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、キノリン環、イソキノリン環、プリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、フタラジン環、フェナントリジン環、フラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環が挙げられ、これらのうち、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、フラン環、チオフェン環が好ましい。
【0060】
芳香環上の置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルアルキルオキシ、アリールアルキル、アリールアルキルオキシ、アルコキシ、エステル、ハロゲン原子、アミノ基、N-アルキルアミノ基、N,N-ジアルキルアミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基が挙げられる。
【0061】
アルキル基としては、例えば、1~10の炭素原子、好ましくは1~5の炭素原子、を有する、直鎖または分枝鎖アルキル基が挙げられる。また、アルキル基が有してもよい置換基としては、例えば、アルコキシ、エステル結合のC原子で結合するエステル基、ハロゲン原子、アミノ基、アミド結合のC原子で結合するアミド基、ニトロ基、シアノ基、N-アセトアミド基、上記Jについて述べた芳香族炭化水素環が挙げられる。
【0062】
上記一般式(4)中、Kは、それぞれ置換基を有してもよい、アルキル基、アリール基、アリル基、アミノ基、アミド結合のN原子で結合するアミド基、または、アミド結合のN原子で結合するスルホンアミド基を示す。
アルキル基としては、例えば、1~10の炭素原子、好ましくは1~5の炭素原子、を有する、直鎖または分枝鎖アルキル基が挙げられる。また、アルキル基が有してもよい置換基としては、例えば、アルコキシ、エステル、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、N-アセトアミド基、上記Jについて述べた芳香族炭化水素環が挙げられる。
アリール基としては、例えば、上記Jについて述べた芳香族炭化水素環が挙げられ、好ましい範囲も同様である。また、アリール基が有してもよい置換基としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環上の置換基と同様のものが挙げられる。
アリル基およびアミノ基が有してもよい置換基としては、例えば、1~10の炭素原子、好ましくは1~5の炭素原子、を有する、直鎖または分枝鎖アルキル基が挙げられる。
【0063】
アミド結合のN原子で結合するアミド基とは、アミド結合のN原子が、一般式(4)中のカルボニル基のα位に結合するアミド基を意味する。アミド結合の他方(C原子)と結合する基としては、例えば、それぞれ置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基または芳香環が挙げられる。また、アミド結合のN原子はアミノ基が有してもよい置換基として挙げたような置換基を更に有してもよい。
アミド結合の他方と結合するアルキル基またはアルコキシ基としては、例えば、1~10の炭素原子、好ましくは1~5の炭素原子、を有する、直鎖または分枝鎖アルキル基またはアルコキシ基が挙げられる。また、アルキル基またはアルコキシ基が有してもよい置換基としては、例えば、アルコキシ、エステル、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、N-アセトアミド基、上記Jについて述べた芳香族炭化水素環が挙げられる。
アミド結合の他方と結合する芳香環としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環が挙げられる。また、芳香環が有してもよい置換基としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環上の置換基と同様のものが挙げられる。
【0064】
アミド結合のN原子で結合するスルホンアミド基とは、アミド結合のN原子が、一般式(4)中のカルボニル基のα位に結合するスルホンアミド基を意味する。アミド結合の他方(S原子)と結合する基としては、例えば、それぞれ置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基または芳香環が挙げられる。また、アミド結合のN原子はアミノ基が有してもよい置換基として挙げたような置換基を更に有してもよい。
アミド結合の他方と結合するアルキル基またはアルコキシ基としては、例えば、1~10の炭素原子、好ましくは1~5の炭素原子、を有する、直鎖または分枝鎖アルキル基またはアルコキシ基が挙げられる。また、アルキル基またはアルコキシ基が有してもよい置換基としては、例えば、アルコキシ、エステル、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、N-アセトアミド基、上記Jについて述べた芳香族炭化水素環が挙げられる。
アミド結合の他方と結合する芳香環としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環が挙げられる。また、芳香環が有してもよい置換基としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環上の置換基と同様のものが挙げられる。
【0065】
上記一般式(4)中、Lは、エステル結合のC原子で結合するエステル基、または、アミド結合のC原子で結合するアミド基のいずれかである。
エステル結合のC原子で結合するエステル基とは、エステル結合のC原子が、一般式(4)中のカルボニル基のα位に結合するエステル基を意味する。エステル結合の他方(O原子側)と結合する基としては、例えば、それぞれ置換基を有してもよい、アルキル基または芳香環が挙げられる。
エステル結合の他方と結合するアルキル基としては、例えば、1~10の炭素原子、好ましくは1~5の炭素原子、を有する、直鎖または分枝鎖アルキル基が挙げられる。また、アルキル基が有してもよい置換基としては、例えば、アルコキシ、エステル、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、N-アセトアミド基、上記Jについて述べた芳香族炭化水素環が挙げられる。
エステル結合の他方と結合する芳香環としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環が挙げられる。また、芳香環が有してもよい置換基としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環上の置換基と同様のものが挙げられる。
【0066】
アミド結合のC原子で結合するアミド基とは、アミド結合のC原子が、一般式(4)中のカルボニル基のα位に結合するアミド基を意味する。アミド結合の他方(N原子側)と結合する基としては、例えば、それぞれ置換基を有してもよい、アルキル基または芳香環が挙げられる。
アミド結合の他方と結合するアルキル基としては、例えば、1~10の炭素原子、好ましくは1~5の炭素原子、を有する、直鎖または分枝鎖アルキル基が挙げられる。また、アルキル基が有してもよい置換基としては、例えば、アルコキシ、エステル、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、N-アセトアミド基、上記Jについて述べた芳香族炭化水素環が挙げられる。
アミド結合の他方と結合する芳香環としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環が挙げられる。また、芳香環が有してもよい置換基としては、例えば、上記Jについて述べた芳香環上の置換基と同様のものが挙げられる。
【0067】
一般式(4)で表される基質カルボニル化合物は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
使用できる基質カルボニル化合物としては、一般式(4)を満たすものであれば特に制限されないが、例えば、α位にメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert‐ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、アリル基、フェニル基、ジメチルアミノ基、アセトアミドメチル基のいずれかを有する3-オキソ-3-フェニルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-ピリジルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-フリルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-チエニルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-ナフチルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-フェニルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-ピリジルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-フリルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-チエニルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-ナフチルプロパン酸エステル誘導体、3-オキソ-3-フェニルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-ピリジルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-フリルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-チエニルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-ナフチルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-フェニルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-ピリジルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-フリルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-チエニルプロパン酸アミド誘導体、3-オキソ-3-ナフチルプロパン酸アミド誘導体等が挙げられる。
【0068】
特に有効である基質カルボニル化合物の具体例としては、2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸エチル、3-(4-クロロフェニル)-2-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(2-ブロモフェニル)-2-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(フラン-3-イル)-3-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(フラン-2-イル)-3-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(チオフェン-3-イル)-3-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(チオフェン-2-イル)-3-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(ピリジン-3-イル)-3-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(ピリジン-2-イル)-3-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、3-(ピリジン-4-イル)-3-メチル-3-オキソプロパン酸エチル、2-メチル-3-(ナフタレン-1-イル)-3-オキソプロパン酸エチル、2-メチル-3-(ナフタレン-2-イル)-3-オキソプロパン酸エチル、2-ベンゾイルブタン酸エチル、2-ベンゾイル-3-メチルブタン酸エチル、2-ベンゾイル-4-ペンテン酸エチル、3-オキソ-2,3-ジフェニルプロパン酸エチル、2-アセトアミドメチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸エチル、2-(ジメチルアミノ)-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸エチル、2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸メチル、2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸プロピル、2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸イソプロピル、2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸ブチル、2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸イソブチル、2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸tert-ブチル、2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパン酸フェニル、N-ベンジル-2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパンアミド、N-メチル-2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパンアミド、N-エチル-2-メチル-3-オキソ-3―フェニルプロパンアミド、N-プロピル-2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパンアミド、N、N-ジメチル-2-メチル-3-オキソ-3-フェニルプロパンアミドが挙げられる。またここで例示した基質カルボニル化合物は、上述した置換基をさらに有してもよい。
【0069】
<水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法>
次に、本実施態様の、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法について説明する。
本実施態様の、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法は、上記一般式(1)で表される1種または2種以上のルテニウム錯体の存在下において、上述一般式(4)で表される基質カルボニル化合物を水素および/または水素を供与する化合物と反応させて、下記一般式(5)
【0070】
【化10】
【0071】
で表される光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を製造する方法である。
【0072】
上記一般式(5)中、J、KおよびLの定義は、一般式(4)中のJ、KおよびLの定義とそれぞれ同じであり、また、これらの好ましい範囲も同じである。
【0073】
上記一般式(5)で表される光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類は、特に医薬、農薬等に使用される光学活性な生理活性化合物、または液晶材料合成中間体として有用である。
【0074】
ルテニウム錯体は、本方法において触媒として機能するものである。ルテニウム錯体としては、上述した一般式(1)で表されるものであればよいが、一般式(1)で表されるルテニウム錯体中の一般式(2)で表される光学活性ジホスフィン化合物のうち、これらの(R,R)体または(S,S)体のいずれかを選択することにより、水酸基のα位に関して所望する絶対配置を有する、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類をつくり分けることができる。
【0075】
また、一般式(1)で表されるルテニウム錯体中の一般式(3)で表されるアミン化合物が光学活性体である場合、一般式(6)で表される光学活性ルテニウム錯体中のジホスフィン化合物の絶対構造と添加する光学活性アミン化合物の絶対構造の組合せが、高い光学純度を得るためには重要である。例えば、基質の構造により、ジホスフィン化合物の絶対構造とアミン化合物の絶対構造の適切な組合せが異なる。不適切な組合せをもつ錯体を用いた場合には、適切な組合せをもつ錯体を使用した場合と比較して、触媒活性の低下あるいは生成物のエナンチオマー純度、ジアステレオマー純度が低下する場合がある。
【0076】
一般式(1)で表されるルテニウム錯体の使用量は、使用する反応容器、水素の純度、使用する溶媒の種類や純度、または基質の純度などの反応条件あるいは経済性によって異なるが、基質カルボニル化合物に対してモル比で、1/100~1/10,000,000の範囲で、好ましくは1/500~1/1,000,000の範囲で用いることができる。
【0077】
本方法に用いる水素源としては、上述したように水素(水素ガス)および/または水素を供与する化合物(水素供与体)を用いることができる。
ここで、本明細書中において水素供与体とは、分子内の水素をルテニウム触媒に供給する作用を有する化合物を指し、このような化合物としては、特に限定されないが、例えば、2-プロパノール、プロパノール、ブタノール、エタノール、メタノールなどの低級アルコールやギ酸、またはギ酸カリウム、ギ酸ナトリウムなどのギ酸塩が挙げられる。
上述した中でも、水素供与体として、低級アルコールを用いることが好ましく、2-プロパノールを用いることがより好ましい。
【0078】
水素供与体の用量としては、特に限定されないが、基質カルボニル化合物に対して1~20当量の範囲、好ましくは、1~10当量の範囲で用いることができる。
【0079】
また、水素源としては、水素ガスを用いることが、十分な反応性が得られるとの観点から、好ましい。
また、水素ガスを用いる場合、水素ガスの圧力は、特に限定されないが、例えば、1~200気圧の範囲、好ましくは1~100気圧の範囲、特に好ましくは1~20気圧の範囲である。
なお、水素ガスと水素供与体とを併用してもよい。
【0080】
また、反応において、反応系中に塩基を存在させることが好ましい。
また、用いることのできる塩基としては、特に限定されないが、例えば、KOH、KOCH、KOCH(CH、KOC(CH、KOC10、KOC(CH(CHCH)、NaOC(CH3、NaOC(CH(CHCH)、LiOH、LiOCH、LiOCH(CH、LiOC(CH等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩あるいは4級アンモニウム塩が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、塩基は、好ましくはKOH、KOCH(CH、KOC(CHまたはNaOC(CHであり、特に好ましくはKOCH(CH、KOC(CHまたはNaOC(CHである。
【0081】
添加する塩基の量は、特に限定されないが、例えば、塩基濃度が反応系中において0.001~0.2モル/Lとなる量、好ましくは、0.005~0.1モル/Lとなる量、さらに好ましくはである0.01~0.05モル/Lとなる量である。
【0082】
以上の通り、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を、円滑な不斉水素化反応により高いエナンチオマー純度及びジアステレオマー純度で製造するためには、触媒として使用する一般式(1)に示したルテニウム錯体と塩基とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0083】
ただし、一般式(1)で表されるルテニウム錯体のX,Yが水素原子の場合、あるいはXが水素原子でありYがテトラヒドロボラートアニオンの場合は、塩基を添加することなしに、基質カルボニル化合物の円滑な不斉水素化反応による高い不斉収率が達成される。このような場合、例えば、ルテニウム錯体と基質カルボニル化合物とを塩基を加えることなく混合した後、水素圧をかけて攪拌することで反応を行ってもよい。
【0084】
また、反応系中に溶媒が存在していてもよい。
用いることのできる溶媒としては、特に限定されず、基質および触媒系を可溶化するものが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、ベンジルアルコールなどの低級アルコール、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒、塩化メチレン等のハロゲン含有炭化水素溶媒、エーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のヘテロ原子を含む有機溶媒が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
溶媒の量は反応基質の溶解度および経済性により判断される。例えば、基質濃度は、基質によっては反応系中0.1モル/L以下の低濃度から無溶媒に近い状態で反応を行うことができるが、好ましくは0.3~5モル/Lの範囲で用いることが望ましい。
【0086】
反応温度は、その上限は触媒として用いるルテニウム錯体の分解が生起しない範囲に、下限は活性を考慮して設定することが必要であり、例えば、0~60℃、好ましくは、25~40℃で反応を実施することが好ましく、かかる温度範囲は経済性の観点からも優れたものといえる。
【0087】
反応時間は、反応溶媒、反応基質濃度、温度、圧力、基質/触媒比等の反応条件によって異なるが、反応操作の容易さと経済性の両面を考慮し、数分から数十時間、例えば、10分~96時間、好ましくは、2時間~48時間で反応が完結するよう任意に設定することができる。
【0088】
なお仮に、基質のカルボニル基の還元反応が完結した後に、そのまま継続して反応操作を続行した場合においても、特に問題は認められない。従って本発明の実施に際しては、反応の進行度を絶えずモニターする必要は無く、反応完結後に直ちに反応を打ち切る必要も無い。即ち、反応時間は実質的な反応完結時間よりも長めに設定することができ、工業的な実施に際しては有利な方法である。
上記記載の方法により、基質カルボニル化合物を水素化することにより、対応する、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類を得ることができる。
【0089】
しかしながら、本発明の方法によっても、水素化反応生成物中に原料ケトン、添加した塩基あるいは錯体と塩基が反応して生成した塩等を含むことがある。これらは蒸留、水洗、再結晶、クロマトグラフィー等の一般的に知られた精製操作によって精製することができる。
【0090】
また、上記反応の反応形式は、特に限定されず、バッチ式、連続式あるいはフロー反応装置のいずれにおいても実施することができる。
【0091】
以上の本発明によれば、合成が容易な炭素上に不斉を有するジホスフィン化合物である光学活性SKEWPHOS(2,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン)誘導体化合物とPICA型配位子またはピリジン環が複数の窒素原子をもつ複素環に置換されたPICA型配位子をもつルテニウム錯体触媒が、高い効率をもつ水素化触媒として作用する。この錯体は従来用いられてきた光学活性アミンでなく、合成が容易なアキラルなアミンを配位子とすることができるため安価となる。かかる特徴は、従来の方法に比べて、工業的かつ経済性に優れた手法であると言える。そして、本方法によって得られる、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類は、従来の方法によって得られるものよりもそのエナンチオマー純度およびジアステレオマー純度が高いものとなる。
【0092】
また、本発明の他の実施態様に係る、水酸基のα、β位に不斉点を有する光学活性なヒドロキシエステル類またはヒドロキシアミド類の製造方法は、下記一般式(6)
RuXYA (6)
[一般式(6)中、XおよびYは互いに同一または異なり、互いに独立して一般式(1)中で定義されたとおりの意味を有する。]で表される化合物から選択される1種または2種以上の錯体と、上記一般式(3)で表される化合物から選択される1種または2種以上のアミン化合物の存在下で、上記一般式(4)で表される基質カルボニル化合物を水素および/または水素を供与する化合物と反応させる、方法である。
【0093】
一般式(6)で表される錯体と、一般式(3)で表されるアミン化合物とは、好ましくは1:1~1:50のモル比で、さらに好ましくは1:1~1:20のモル比で、基質カルボニル化合物を水素および/または水素を供与する化合物と反応させる容器に仕込むことができる。
【0094】
また、本実施態様における他の条件としては、上述した条件を用いることができる。
このような態様の方法によっても、同様の効果を得ることができる。
【0095】
本発明における基質カルボニル化合物の水素化反応は、反応形式が、バッチ式においても連続式においても実施することができる。
【実施例0096】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、下記の実施例においては、反応はすべてアルゴンガスあるいは窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行った。また、反応にもちいた溶媒は、特に記載しない限り、乾燥、脱気したものを使用した。カルボニル化合物の水素化反応は、オートクレーブ中、水素を加圧して行った。
【0097】
実施例または比較例に記載する基質カルボニル化合物は、特に記載しない限り試薬購入品を直接使用した。反応に用いる溶媒は、関東化学社製脱水溶媒を直接使用した。その他の薬品に関しては、特に記載しない限り関東化学社製試薬を直接使用した。
以下に記載する実施例および比較例において、S/Cは、基質/触媒モル比を示す。
また、[物質名]は、当該物質の初期濃度を示す。
【0098】
尚、以下の測定には次の機器を使用した。
NMR:JNM-ECX400P型(400MHz)(日本電子(株)製)
内部標準物質:1H-NMR・・・テトラメチルシラン
【0099】
HPLCによる光学純度測定
測定装置:LC―20(高速液体クロマトグラフ、島津製作所製)、Agilent 1260 INFINITY(高速液体クロマトグラフ、アジレント製)、Agilent 1260 INFINITY II(高速液体クロマトグラフ、アジレント製)
カラム:各実施例に記載のものを使用した
【0100】
[実施例1]化合物(2R,3S)-2aの合成
【化11】
【0101】
100mLハイパーグラス内筒に、RuBr[(S,S)-dipskewphos](3-amiq)(2.39mg,2μmol,0.002当量)とBuONa(3.84mg,40μmol,0.04当量)を量りとり、オートクレーブ内部をアルゴンガス雰囲気に置換した。アルゴンガスをフローさせながらBuOH(1.8mL)、化合物1a(0.19mL,1mmol,1当量)を加えたのち、攪拌を行いながら軽く気泡立つ程度に減圧脱気とアルゴンガスの充填を5回繰り返した。その後、水素ガスで0.5MPaまで加圧し、0.1MPaまでリークする作業を10回繰り返し、系内を水素雰囲気に置換した。水素ガスを1.0MPaまで加圧し、恒温水層を用いて25Cの条件で24時間攪拌した。
24時間後、水素ガスを放出して反応液を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=5:1)により精製を行い無色の液体として化合物2aを得た(201.6mg,97%収率,ジアステレオ比>99:1,>99%ee)。
【0102】
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.03(d,J=7.4Hz,3H),δ1.26(t,J=7.4Hz,3H),δ2.80(dq,J=7.4,8.2Hz,1H),δ3.00(d,J=4.6Hz,1H),δ4.19(q,J=7.4Hz,2H),δ4.75(dd,J=4.6,8.2Hz,1H),δ7.28-7.38(m,5H)
(2R,3S)-2aのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALCEL OD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/2-PrOH=97/3、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=12.2min,13.9min,15.8min,21.2min
【0103】
[実施例2]化合物(2R,3S)-2bの合成
【化12】
【0104】
化合物1bはAngew. Chem. Int. Ed., 57, 1039-1043 (2018)に記載の方法を参考にして、原料に(4-メトキシベンゾイル)酢酸エチルを用いて合成した。
100mLガラス内筒に、RuBr[(S,S)-dipskewphos](3-amiq)(2.39mg,2μmol,0.002当量)とBuONa(3.84mg,40μmol,0.04当量)を量りとり、ステンレスのオートクレーブ内部をアルゴンガス雰囲気に置換した。アルゴンガス雰囲気下、20mLシュレンク管に化合物1b(236.27mg,1mmol,1当量)を量り取り、BuOH(1.8mL)で希釈しながらキャヌラーを用いてオートクレーブ内に圧送した。その後、攪拌を行いながら軽く気泡立つ程度に減圧脱気とアルゴンガスの充填を5回繰り返した。つづいて水素ガスで0.5MPaまで加圧し、0.1MPaまでリークする作業を10回繰り返し、系内を水素雰囲気に置換した。水素ガスを2.0MPaまで加圧し、恒温水層を用いて25Cの条件で24時間攪拌した。
24時間後、水素ガスを放出して反応液を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製を行い無色の結晶として化合物2bを得た(225.7mg,95%収率,ジアステレオ比>99:1,>99%ee)。
【0105】
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.00(d,J=6.9Hz,3H),δ1.27(t,J=7.3Hz,3H),δ2.78(dq,J=6.9,8.7Hz,1H),δ2.88(d,J=4.1,1H),δ3.81(s,3H),δ4.20(q,J=7.3Hz,2H),δ4.71(dd,J=4.1,8.7Hz,1H),δ6.85-6.92(m,2H),δ7.25-7.29(m,2H)
(2R,3S)-2bのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALCEL OD-H(4.6×250 mm)(ダイセル社製)×2、移動相:ヘキサン/2-PrOH=99:1、フロー:0.5ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=59.5min,66.2min,76.6min,79.2min
【0106】
[実施例3]化合物(2R,3S)-2cの合成
【化13】
【0107】
化合物1cはAngew. Chem. Int. Ed., 57, 1039-1043 (2018)に記載の方法を参考にして、原料に3-オキソ-(4-クロロフェニル)プロピオン酸エチルを用いて合成した。
100mLハイパーグラス内筒に、RuBr[(S,S)-dipskewphos](3-amiq)(2.39mg,2μmol,0.002当量)とBuONa(3.84mg,40μmol,0.04当量)を量りとり、オートクレーブ内部をアルゴンガス雰囲気に置換した。アルゴンガス雰囲気下、20mLシュレンク管に化合物1c(240.68mg,1mmol,1当量)を量り取り、BuOH(1.8mL)で希釈しながらキャヌラーを用いてオートクレーブ内に圧送した。その後、攪拌を行いながら軽く気泡立つ程度に減圧脱気とアルゴンガスの充填を5回繰り返した。つづいて水素ガスで0.5MPaまで加圧し、0.1MPaまでリークする作業を10回繰り返し、系内を水素雰囲気に置換した。水素ガスを1.0MPaまで加圧し、恒温水層を用いて25Cの条件で24時間攪拌した。
24時間後、水素ガスを放出して反応液を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製を行い無色の結晶として化合物2cを得た(231.6mg,95%収率,ジアステレオ比99:1,>99%ee)。
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.04(d,J=7.3Hz,3H),δ1.26(t,J=7.3Hz,3H),δ2.75(dq,J=7.3,8.0Hz,1H),δ3.14(d,J=4.6,1H),δ4.18(q,J=7.3Hz,2H),δ4.74(dd,J=4.6,8.0Hz,1H),δ7.26-7.36(m,4H)
(2R,3S)-2cのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALPAK AD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)×2、移動相:ヘキサン/2-PrOH=97:3、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=37.9min,40.3min,67.1min,70.7min
【0108】
[実施例4]化合物(2R,3S)-2dの合成
【化14】
【0109】
化合物1dはAngew. Chem. Int. Ed., 57, 1039-1043 (2018)に記載の方法を参考に合成した。
100mLハイパーグラス内筒に、RuBr[(S,S)-dipskewphos](3-amiq)(1.20mg,1μmol,0.002当量)とBuONa(1.92mg,20μmol,0.04当量)を量りとり、オートクレーブ内部をアルゴンガス雰囲気に置換した。アルゴンガス雰囲気下、20mLシュレンク管に化合物1d(140.25mg,0.5mmol,1当量)を量り取り、BuOH(0.86mL)で希釈しながらキャヌラーを用いてオートクレーブ内に圧送した。その後、攪拌を行いながら軽く気泡立つ程度に減圧脱気とアルゴンガスの充填を5回繰り返した。つづいて水素ガスで0.5MPaまで加圧し、0.1MPaまでリークする作業を10回繰り返し、系内を水素雰囲気に置換した。水素ガスを1.0MPaまで加圧し、恒温水層を用いて25Cの条件で24時間攪拌した。
24時間後、水素ガスを放出して反応液を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製を行い無色の液体として化合物2dを得た(132.5mg,92%収率,ジアステレオ比98:2,>99%ee)。
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.20(t,J=7.2Hz,3H),δ1.22(d,J=7.2Hz,3H),δ2.94(dq,J=6.8,7.2Hz,1H),δ3.54(d,J=6.8,1H),δ4.13(m,2H),δ5.19(dd,J=6.8,6.8Hz,1H),δ7.12-7.17(m,1H),δ7.33-7.36(m,1H),δ7.45-7.48(m,1H),δ7.52-7.55(m,1H)
(2R,3S)-2dのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALPAK AD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)×2、移動相:ヘキサン/2-PrOH=99:1、フロー:0.5ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=47.4min,69.1min,88.4min,91.1min
【0110】
[実施例5]化合物(2R,3S)-2eの合成
【化15】
【0111】
化合物1eはAngew. Chem. Int. Ed., 57, 1039-1043 (2018)に記載の方法を参考にして、原料にβ-オキソ-3-フランプロピオン酸エチルを用いて合成した。
実施例2と同条件の操作により2eを取得した(131.0mg,67%収率,ジアステレオ比98:2,>99%ee)。
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.13(d,J=7.3Hz,3H),δ1.27(t,J=7.3Hz,3H),δ2.78(dq,J=7.3,7.3Hz,1H),δ2.99(d,J=5.5,1H),δ4.19(q,J=7.3Hz,2H),δ4.75(dd,J=5.5,7.3Hz,1H),δ6.39-6.42(m,1H),δ7.38-7.42(m,2H)
(2R,3S)-2eのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALPAK AD-H(4.6×250 mm)(ダイセル社製)×2、移動相:ヘキサン/2-PrOH=97/3、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=21.1min,24.4min,31.3min,34.3min
【0112】
[実施例6]化合物(2R,3S)-2fの合成
【化16】
【0113】
化合物1fはJ. Med. Chem., 32, 757-765 (1989)に記載の方法を参考に合成した。
実施例3と同条件の操作により2fを取得した(248.8mg,96%収率,ジアステレオ比>99:1,>99%ee)。
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.07(d,J=7.2Hz,3H),δ1.25(t,J=7.2Hz,3H),δ3.16(dq,J=7.6,7.6Hz,1H),δ3.29(d,J=4.4,1H),δ4.20(q,J=7.2Hz,2H),δ5.53(dd,J=4.4,7.6Hz,1H),δ7.47-7.58(m,4H),δ7.81(d,J=8.4Hz,1H),δ7.88(d,J=8.0Hz,1H),δ8.23(d,J=8.4Hz,1H)
(2R,3S)-2fのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC測定により決定した。
カラム:CHIRALCEL OD-H(4.6×250 mm)(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/2-PrOH=97/3、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=19.6min,29.5min,33.2min,62.7min
【0114】
[実施例7]化合物(2R,3S)-2gの合成
【化17】
【0115】
化合物1gはAngew. Chem. Int. Ed., 57, 1039-1043 (2018)に記載の方法を参考にして、原料にヨードエタンを用いて合成した。
実施例3と同条件の操作により2gを取得した(207.0mg,93%収率,ジアステレオ比96:4,97.6%ee)。
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ0.88(t,J=7.4Hz,3H),δ1.23(t,J=7.3Hz,3H),δ1.35-1.45(m,1H),δ1.50-1.64(m,1H),δ2.68(ddd,7.8Hz,1H),δ2.86(d,J=5.5Hz,1H),δ4.17(m,2H),δ4.81(dd,J=5.5,7.8Hz,1H),δ7.27-7.38(m,5H)
(2R,3S)-2gのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALCEL OD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)×2、移動相:ヘキサン/2-PrOH=97/3、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=21.5min,24.9min,31.4min,32.9min
【0116】
[実施例8]化合物(2R,3S)-2hの合成
【化18】
【0117】
化合物1hはAngew. Chem. Int. Ed., 57, 1039-1043 (2018)に記載の方法を参考にして、原料に2-ヨードプロパンを用いて合成した。
実施例3と同条件の操作により2hを取得した(180.6mg,76%収率,ジアステレオ比93:7,>99%ee)。
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ0.95(d,J=6.9Hz,3H),δ1.07(d,overlapped,3H),δ1.08(t,overlapped,3H),δ2.03(m,1H),δ2.53(dd,J=5.5,8.2Hz,1H),δ3.42(d,J=7.8Hz,1H),δ4.00-4.07(m,2H),δ4.98(dd,J=5.5,7.8Hz,1H),δ7.24-7.38(m,5H)
(2R,3S)-2hのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALPAK AD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)×2、移動相:ヘキサン/2-PrOH=98/2、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=36.0min,38.8min,42.9min,50.0min
【0118】
[実施例9]化合物(2R,3S)-2iの合成
【化19】
【0119】
化合物1iはAngew. Chem. Int. Ed., 57, 1039-1043 (2018)に記載の方法を参考にして、原料に3-ヨードプロピレンを用いて合成した。
実施例2と同条件の操作により2iを取得した(217.6mg,93%収率,ジアステレオ比94:6,>99%ee)。
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.20(t,J=7.3Hz,3H),δ2.14-2.23(m,1H),δ2.26-2.35(m,1H),δ2.84(m,1H),δ2.96(d,J=6.0Hz,1H),δ4.15(m,2H),δ4.83(dd,J=6.0,7.6Hz,1H),δ5.00-5.07(m,2H),δ5.64-5.76(m,1H),δ7.28-7.39(m,5H)
(2R,3S)-2iのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALPAK AD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)×2、移動相:ヘキサン/2-PrOH=98/2、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=37.8min,42.2min,66.0min,68.5min
【0120】
[実施例10]化合物(2R,3S)-2jの合成
【化20】
【0121】
化合物1jはEur. J. Org. Chem., 2333-2336 (2015)に記載の方法を参考に合成した。
100mLハイパーグラス内筒に、化合物1j(134.2mg,0.5mmol,1当量)、RuBr[(S,S)-xylskewphos](3,5-dmpica)(4.75mg,5μmol,0.01当量)、BuONa(1.92mg,20μmol,0.04当量)を量りとり、オートクレーブ内部をアルゴンガス雰囲気に置換した。アルゴンガスをフローさせながらBuOH(10mL)を加えたのち、攪拌を行いながら軽く気泡立つ程度に減圧脱気とアルゴンガスの充填を5回繰り返した。つづいて水素ガスで0.5MPaまで加圧し、0.1MPaまでリークする作業を10回繰り返し、系内を水素雰囲気に置換した。水素ガスを1.0MPaまで加圧し、恒温水層を用いて25Cの条件で24時間攪拌した。
24時間後、水素ガスを放出して反応液を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製を行い無色の液体として化合物2jを得た(77.3mg,57%収率,ジアステレオ比94:6,97.9%ee)。
【0122】
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.22(t,J=7.2Hz,3H),δ3.15(d,J=4.0Hz,1H),δ3.87(d,J=9.2Hz,1H),δ4.10-4.28(m,2H),δ5.17(dd,J=9.2,4.0Hz,1H),δ7.06-7.30(m,10H)
(2R,3S)-2jのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALCEL OJ-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/2-PrOH=90/10、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=9.1min,14.1min,15.6min,25.5min
【0123】
[実施例11]化合物(2R,3S)-2kの合成
【化21】
【0124】
100mLガラス内筒に、化合物1k(131.7mg,0.5mmol,1当量)、RuBr[(S,S)-dipskewphos](3-amiq)(5.98mg,5μmol,0.01当量)、BuONa(1.92mg,20μmol,0.04当量)を量りとり、オートクレーブ内部をアルゴンガス雰囲気に置換した。アルゴンガスをフローさせながらBuOH(0.87mL)を加えたのち、攪拌を行いながら軽く気泡立つ程度に減圧脱気とアルゴンガスの充填を5回繰り返した。つづいて水素ガスで0.5MPaまで加圧し、0.1MPaまでリークする作業を10回繰り返し、系内を水素雰囲気に置換した。水素ガスを2.0MPaまで加圧し、恒温水層を用いて40Cの条件で24時間攪拌した。
24時間後、水素ガスを放出して反応液を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)により精製を行い無色の液体として化合物2kを得た(123.3mg,93%収率,ジアステレオ比90:10,>99%ee)。
【0125】
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.17(t,J=7.2Hz,3H),δ1.93(s,3H),δ3.07(dt,J=6.0,7.2Hz,1H),δ3.22(d,J=6.0Hz,1H),δ3.40-3.55(m,2H),δ4.09-4.15(q,J=7.2Hz,2H),δ4.94(dd,J=6.0,6.0Hz,1H),δ5.78(br,1H),δ7.27-7.36(m,5H)
(2R,3S)-2kのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALCEL OJ-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)+CHIRALPAK AD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/2-PrOH=90/10、フロー:1.0ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=23.0min,28.9min,31.9min,37.5min
【0126】
[実施例12]化合物(2R,3S)-2lの合成
【化22】
【0127】
化合物1lはChem. A Eur. J., 16, 11954-11962 (2010)に記載の方法を参考にして塩酸塩を合成し、中和することで取得した。
100mLガラス内筒に、RuBr[(S,S)-dipskewphos](3-amiq)(5.98mg,5μmol,0.01当量)とBuONa(1.92mg,20μmol,0.04当量)を量りとり、ステンレスのオートクレーブ内部をアルゴンガス雰囲気に置換した。アルゴンガス雰囲気下、20mLシュレンク管に化合物1l(117.64mg,0.5mmol,1当量)を量り取り、BuOH(0.88mL)で希釈しながらキャヌラーを用いてオートクレーブ内に圧送した。その後、攪拌を行いながら軽く気泡立つ程度に減圧脱気とアルゴンガスの充填を5回繰り返した。つづいて水素ガスで0.5MPaまで加圧し、0.1MPaまでリークする作業を10回繰り返し、系内を水素雰囲気に置換した。水素ガスを2.0MPaまで加圧し、恒温水層を用いて40Cの条件で72時間攪拌した。
72時間後、水素ガスを放出して反応液を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製を行い無色の液体として化合物2lを得た(89.0mg,75%収率,ジアステレオ比93:7,>99%ee)。
【0128】
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.16(d,J=7.2Hz,3H),δ2.36(s,6H),δ3.28(d,J=7.2Hz,1H),δ4.02-4.17(m,2H),δ5.00-5.07(m,2H),δ5.02(d,J=7.2,4.1Hz,1H),δ7.26-7.38(m,5H)
(2R,3S)-2lのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALCEL OD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)、移動相:ヘキサン/2-PrOH=97/3、フロー:0.8ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=8.0min,9.0min,19.3min,21.4min
【0129】
[実施例13]化合物(2R,3S)-2nの合成
【化23】
【0130】
100mLハイパーグラス内筒に、化合物1n(133.7mg,0.5mmol,1当量)RuBr[(S,S)-dipskewphos](3-amiq)(1.20mg,1μmol,0.002当量)とBuONa(1.92mg,40μmol,0.04当量)を量りとり、オートクレーブ内部をアルゴンガス雰囲気に置換した。アルゴンガスをフローさせながらBuOH(0.87mL)を加えたのち、攪拌を行いながら軽く気泡立つ程度に減圧脱気とアルゴンガスの充填を5回繰り返した。その後、水素ガスで0.5MPaまで加圧し、0.1MPaまでリークする作業を10回繰り返し、系内を水素雰囲気に置換した。水素ガスを1.0MPaまで加圧し、恒温水層を用いて25Cの条件で24時間攪拌した。
24時間後、水素ガスを放出して反応液を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製を行い無色の固体として化合物2nを得た(133.9mg,99%収率,ジアステレオ比>99:1,>99%ee)。
【0131】
H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl)δ1.21(d,J=7.6Hz,3H),δ2.55(dq,J=6.0,7.6Hz,1H),δ3.84(d,J=6.0Hz,1H),δ4.30-4.50(m,2H),δ4.78(dd,J=6.0,6.0Hz,1H),δ5.85(brs,1H),δ7.08-7.11(m,2H),δ7.25-7.35(m,8H)
(2R,3S)-2nのエナンチオマー過剰率(ee)は、下記条件下のHPLC光学純度測定により決定した。
カラム:CHIRALCEL OD-H(4.6×250mm)(ダイセル社製)×2、移動相:ヘキサン/2-PrOH=90/10、フロー:1.0ml min-1、検出器:UV 210nm、カラム温度:30C、t=18.2min,24.2min,30.0min,32.7min