(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066203
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20220421BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220421BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220421BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220421BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220421BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M10/0569
H01M4/13
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022015614
(22)【出願日】2022-02-03
(62)【分割の表示】P 2020541853の分割
【原出願日】2018-09-12
(31)【優先権主張番号】17196540.3
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(71)【出願人】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スタイン・プット
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ネリス
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブライデル
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-レ・キム
(57)【要約】
【課題】Liイオン電池の充放電中に周期的に繰り返され、シリコン系の電気化学的に活性な材料の反復的な機械的分解は、電池の寿命を許容できないレベルに低減することがある。
【解決手段】負極と電解質とを含むリチウムイオン電池であって、前記負極は複合粒子を含み、前記複合粒子はシリコン系ドメインを含み、前記複合粒子は、その中に前記シリコン系ドメインが埋め込まれたマトリクス材料を含み、前記複合粒子及び前記電解質は界面を有し、この界面にSEI層が存在し、前記SEI層は炭素-炭素化学結合を有する一以上の化合物を含み、前記SEI層は炭素-酸素化学結合を有する一以上の化合物を含み、第一ピークの面積を第二ピークの面積で割ることで規定される比が少なくとも1.30であり、前記第一ピーク及び前記第二ピークはSEIのX線光電子分光測定におけるピークであり、前記第一ピークはC-C化学結合を表し、前記第二ピークはC-O化学結合を表すことを特徴とする、リチウムイオン電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と電解質とを含むリチウムイオン電池であって、前記負極は複合粒子を含み、前記複合粒子はシリコン系ドメインを含み、シリコン系ドメインは主にシリコン原子からなるクラスター又は個別のシリコン粒子であり、前記複合粒子は、その中に前記シリコン系ドメインが埋め込まれたマトリクス材料を含み、前記複合粒子及び前記電解質は界面を有し、この界面にSEI層が存在し、前記SEI層は炭素-炭素化学結合を有する一以上の化合物を含み、前記SEI層は炭素-酸素化学結合を有する一以上の化合物を含み、第一ピークの面積を第二ピークの面積で割ることで規定される比が少なくとも1.30であり、前記第一ピーク及び前記第二ピークはSEIのX線光電子分光測定におけるピークであり、前記第一ピークはC-C化学結合を表し、284.33eVに中心があり、前記第二ピークはC-O化学結合を表し、285.83eVに中心があり、
前記電解質は少なくとも一つの有機カーボネートを含む配合を有し、
前記複合粒子は30μm以下のd50値を有する質量基準粒径分布を有することを特徴とする、リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記比が少なくとも1.60である、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記シリコン系ドメインのシリコン量が80質量%以上である、請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
前記少なくとも一つの有機カーボネートがフルオロエチレンカーボネート若しくはビニレンカーボネート又はフルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートとの混合物である、請求項3に記載の電池。
【請求項5】
前記SEI層は、前記少なくとも一つの有機カーボネートとリチウムとの化学反応の一以上の反応生成物を含む、請求項3又は4に記載の電池。
【請求項6】
前記負極が、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Zn、Cd、Hgのうちの一以上の元素を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電池。
【請求項7】
前記負極が、Cr、Mo、W、Mn、Co、Fe、Ni、Zn、Cd、Hgのうちの一以上の元素を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の電池。
【請求項8】
前記負極が、Cr、Fe、Ni、Znのうちの一以上の元素を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の電池。
【請求項9】
前記負極が、Ni元素を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の電池。
【請求項10】
前記シリコン系ドメインはシリコン粒子であり、前記シリコン粒子は前記マトリクス材料に埋め込まれている、請求項1~9のいずれか一項に記載の電池。
【請求項11】
前記シリコン系ドメインは、10質量%未満のSi及びO以外の元素を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の電池。
【請求項12】
前記マトリクス材料は炭素である、請求項1~11のいずれか一項に記載の電池。
【請求項13】
前記マトリクス材料は少なくとも50質量%のピッチ又は熱分解ピッチを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の電池。
【請求項14】
前記シリコン系ドメインが最大150nmのd50値を有する質量基準粒度分布を有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の電池。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の電池のサイクルプロセスであって、前記電池に電気化学的サイクルが適用される、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池に関連する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)電池は現在最も性能のよい電池であり、既に携帯用電子デバイス用の標準となっている。更に、これらの電池は、自動車や蓄電等の他の産業に既に進出し、急速に受け入れられている。そのような電池が可能にする利点は、良好な電力性能と組み合わされた高エネルギー密度である。
【0003】
Liイオン電池は典型的には多数のいわゆるLiイオンセルを含み、今度はそれらが、カソードとも呼ばれる正極と、アノードとも呼ばれる負極と、電解質に浸漬されたセパレータと、を含む。携帯用途に最も頻繁に使用されるLiイオンセルは、カソードにリチウムコバルト酸化物又はリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物等の電気化学的に活性な材料を使用し、アノードに天然黒鉛又は人口黒鉛を使用して開発された。
【0004】
電池の性能、特に電池のエネルギー密度に影響を与える重要な制限要因の一つはアノード中の活物質であることが知られている。従って、エネルギー密度を改善するために、過去数十年の間、シリコンに基づくより新しい電気化学的に活性な材料が探索され開発された。
【0005】
しかし、アノードでシリコン系の電気化学的に活性な材料を使用することの一つの欠点は、シリコン系材料にリチウムイオンが完全に取り込まれた際(このプロセスはしばしばリチウム化と呼ばれる)には300%にもなる、充電中のその大きな体積膨張である。Li取り込み中のシリコン系材料の大きな体積膨張はシリコン内に応力を誘発することがあり、今度はこれによってシリコン系材料の機械的分解が引き起こされ得る。
【0006】
Liイオン電池の充放電中に周期的に繰り返され、シリコン系の電気化学的に活性な材料の反復的な機械的分解は、電池の寿命を許容できないレベルに低減することがある。
【0007】
シリコン系活物質の体積変化の有害な効果を軽減するために、負極に複合粉末がしばしば使用される。そのような複合粉末は、大半が、通常炭素系材料であるマトリクス材料に埋め込まれたサブミクロン又はナノサイズのシリコン系粒子からなる。
【0008】
更に、シリコン系アノードの膨張はSEI層(Solid-Electrolyte Interface layer)と呼ばれる保護層に悪影響を有する。
【0009】
SEI層は電解質とリチウムとの複雑な反応生成物である。それは大半がポリマー様有機化合物及び炭酸リチウムからなる。
【0010】
厚いSEI層の形成、換言すると電解質の連続的な分解は、二つの理由により望ましくない。第一に、それはリチウムを消費し、それによって電気化学反応へのリチウム可用性の損失を引き起こし、従って充放電サイクル当たりの容量損失であるサイクル性能の低減を引き起こす。第二に、厚いSEI層は電池の電気抵抗を更に高くすることがあり、これによって達成可能な充電速度及び放電速度が制限される。
【0011】
理論的には、SEI層の形成は、アノード表面上に「パッシベーション層」が形成されるとすぐに停止する自己終結プロセスである。しかし、複合粉末の体積膨張の理由により、放電(リチウム化)中及び再充電(脱リチウム化)中にSEIはひび割れる、かつ/又は分離してしまうことがあり、それによって新たなシリコン表面が開放され、SEI形成の新たな開始が引き起こされる。
【0012】
本技術分野では(例えば、US20070037063A1、US20160172665、及びKjell W.Schroder著、Journal of Physical Chemistry C、第11巻、第37号、19737~19747頁)、上記リチウム化/脱リチウム化のメカニズムは、放電中に電池から除去されたエネルギーと充電中に使用されたエネルギーとの比(ある充放電サイクルについての%)として規定される、いわゆるクーロン効率によって一般に定量される、又はこれと直接関連付けられる。従ってシリコン系アノード材料に関する大半の研究は上記クーロン効率の改善に焦点があてられている。
【0013】
多くのサイクルにわたる100%クーロン効率からの逸脱の蓄積が電池の使用可能な寿命を決定する。従って、簡単に言えば、99.9%のクーロン効率を有するアノードは、99.8%のクーロン効率を有するアノードよりも二倍よい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題、及び他の問題を低減するために、本願発明は、負極と電解質とを含むリチウムイオン電池であって、前記負極は複合粒子を含み、前記複合粒子はシリコン系ドメインを含み、前記複合粒子はマトリクス材料を含み、前記複合粒子及び前記電解質は界面を有し、この界面にSEI層が存在し、前記SEI層は炭素-炭素化学結合を有する一以上の化合物を含み、前記SEI層は炭素-酸素化学結合を有する一以上の化合物を含み、第一ピークの面積を第二ピークの面積で割ることで規定される比が少なくとも1.30であり、前記第一ピーク及び前記第二ピークはSEIのX線光電子分光測定におけるピークであり、前記第一ピークはC-C化学結合を表し、284.33eVに中心があり、前記第二ピークはC-O化学結合を表し、285.83eVに中心がある、リチウムイオン電池に関する。
【0015】
そのような電池は従来の電池に比べて改善したサイクル寿命性能を有するであろう。
【0016】
好ましくは、前記比は少なくとも1.40である。より好ましくは、前記比は少なくとも1.50である。更により好ましくは、前記比は少なくとも1.60である。更により好ましくは、前記比は少なくとも1.80である。最も好ましくは、前記比は少なくとも2.0である。
【0017】
理論に束縛されることなく、C-C結合が豊富なSEI層における化合物が比較的ポリマー様であり、炭酸リチウム等のC-O結合が豊富な化合物と比べて、よりフレキシブルであり、比較的脆くないSEI層がもたらされるという事実によってこれを説明できると本発明者らは信じている。
【0018】
その結果、SEI層は複合粒子の繰り返された膨張を比較的よく耐えることができ、ひび割れの影響を比較的受けず、従って、各サイクル後に新たなSEI層材料の形成を比較的起こさないであろう。
【0019】
所望の比を得る実用的な方法は、負極中に存在する特定の元素を有することによる。これらの元素は活性化エネルギーを減らし、それによってSEI層における反応メカニズムの反応速度が大きくなり、多量のポリマー様成分が得られる。
【0020】
これらの元素の不可避の一部は最終的にSEI層自体に存在するであろう。
【0021】
従って、好ましい実施形態において、上記SEI層は一以上のこれらの元素を含む。
【0022】
前述した元素は、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Zn、Cd、Hgである。
【0023】
上記元素は重合反応への触媒効果で知られている。
【0024】
好ましくは、前述した元素は、Cr、Mo、W、Mn、Co、Fe、Ni、Zn、Cd、Hgであり、より好ましくは前述した元素はCr、Fe、Ni、Znであり、最も好ましくはそれはNi元素である。
【0025】
好ましい実施形態において、上記電解質は少なくとも一つの有機カーボネートを含む配合を有し、好ましくは、上記少なくとも一つの有機カーボネートはフルオロエチレンカーボネート若しくはビニレンカーボネート又はフルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートとの混合物である。
【0026】
上記少なくとも一つの有機カーボネートの消費の減少、換言すれば劣化までのサイクル数の増加が電池の使用可能寿命を決定する際の主要因と考えられる。
【0027】
更に好ましい実施形態において、上記SEI層は、上記少なくとも一つの有機カーボネートとリチウムとの化学反応の一以上の反応生成物を含む。
【0028】
シリコン系ドメインによって、マトリクス材料と別々の境界を有する主にシリコンからなるクラスターが意味される。そのようなシリコン系ドメインのシリコン量は、通常80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上である。
【0029】
実際には、そのようなシリコン系ドメインは、主にシリコン原子からなるクラスター、又は別の材料からなるマトリクス中の個別のシリコン粒子であり得る。複数のそのようなシリコン粒子はシリコン粉末である。
【0030】
好ましい実施形態において、シリコン系ドメインはシリコン系粒子であり、これは、それらはマトリクスと一緒に形成されていないので、複合粒子を形成する前に、それらはマトリクス材料とは別に存在した個々に同定可能な粒子であったことを意味する。
【0031】
好ましくは、シリコン系ドメインが最大150nmの、より好ましくは最大120nmのd50を有する質量基準粒度分布を有する。
【0032】
d50値は50質量%積算篩下ドメインサイズ分布に対応するシリコン系ドメインのサイズとして定義される。換言すると、例えばシリコン系ドメインサイズd50が93nmであれば、試験された試料中のドメインの合計質量の50%は93nmよりも小さい。
【0033】
そのようなサイズ分布は、少なくとも200個のシリコン系ドメインを測定することによって光学的にSEM像及び/又はTEM像から電池中で決定され得る。ドメインによって、SEM像又はTEM像から光学的に決定できる最小の個別のドメインが意味されることに注意されたい。その後、シリコン系ドメインのサイズはドメインの外縁の二点間の測定可能な最大の直線距離として決定される。そのような光学的方法は個数に基づくドメインサイズ分布を与え、これは周知の数学の方程式によって直ちに質量基準粒度分布に変換され得る。
【0034】
シリコン系ドメインは酸化シリコンの薄い表面層を有してよい。
【0035】
好ましくは、シリコン系ドメインの酸素含有量は、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0036】
好ましくは、シリコン系ドメインは、10質量%未満のSi及びO以外の元素を含み、より好ましくはシリコン系ドメインは1質量%未満のSi及びO以外の元素を含む。
【0037】
シリコン系ドメインは通常実質的に球状であるが、ウィスカ、ロッド、板、ファイバ等の任意の形状を有してよい。
【0038】
好ましい実施形態において、マトリクス材料は炭素である。
【0039】
好ましい実施形態において、マトリクス材料は熱分解ピッチを含み、又はより好ましくは熱分解ピッチからなる。
【0040】
ある実施形態において複合粒子は5質量%から80質量%のSiを含み、より狭い実施形態において複合粒子は10質量%から70質量%のSiを含む。
【0041】
好ましくは更に第一複合粒子とも呼ばれる上記複合粒子は第二複合粒子へと一体化され、第二複合粒子は一以上の第一複合粒子と黒鉛とを含む。
【0042】
好ましくは黒鉛はマトリクス材料に埋め込まれていない。
【0043】
好ましくは第一複合粒子と第二複合粒子との両方が30μm以下のd50値を有する質量基準粒径分布を有し、より好ましくは50μm以下のd90値を有する。
【0044】
電池は、顧客に供給される準備ができた新たな電池であり得る。そのような電池は電池製造業者によって、又は電池製造業者のために、事前サイクル又はコンディショニングとも呼ばれる、使用のための準備としていくつかの限られた電気化学的サイクルを既に経験しているだろう。電池は使用された結果として電気化学的サイクルを経験している使用された電池でもよい。
【0045】
従って、本発明は本発明に係る電池のサイクルプロセスであって、前記電池に電気化学的サイクルが適用されるプロセスに関連する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】横軸は結合エネルギーをeVで表し、縦軸は信号強度を表す、XPSのデータである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は以下の比較例及び実施例によって更に説明される。
【0048】
[使用された分析方法]
[酸素含有量の決定]
酸素含有量はLeco TC600酸素窒素分析器を用いて、以下の方法によって決定された。
【0049】
分析される生成物の試料が、それ自身がニッケルバスケット内に置かれた閉じたスズカプセル内に置かれた。バスケットは黒鉛るつぼ内に置かれ、キャリアガスとしてのヘリウム下で2000℃超に加熱された。
【0050】
それによって試料は融解し、酸素はるつぼからの黒鉛とCO又はCO2ガスへと反応する。これらのガスは赤外測定セルへと導かれる。観測された信号は酸素含有量へと再計算される。
【0051】
[ナノシリコン粉末のシリコン粒径分布の決定]
0.5gのSi粉末と99.50gの脱塩水とが混合され、225Wで2分間、超音波プローブを用いて分散された。
【0052】
測定中に超音波を使用し、3.5のSiの屈折率と0.1の吸収係数とを使用して、Malvern Mastersizer 2000で寸法分布が決定され、検知閾値は5から15%であることを保証した。
【0053】
[複合粉末の粒径の決定]
複合粉末の粒径分布は、同じ装置で類似した乾式法で決定された。
【0054】
以下の測定条件が選択された:圧縮レンジ;活性ビーム長2.4mm;測定範囲:300RF;0.01~900μm。試料の調製及び測定は製造者の指示に従って実行された。
【0055】
[電気化学的性能の決定]
評価される電池は以下のように試験された。
【0056】
リチウムフルセル電池が以下の条件下で25℃で数回充放電され、それらの充放電サイクル性能を決定した。
-1CレートのCCモードで4.2Vまで、その後、C/20に到達するまでCVモードで充電が実行される。
-セルを次に、10分間休止設定する。
-CCモードにて1Cレートで、2.7Vに下がるまで放電を行う。
-セルを次に、10分間休止設定する。
-充放電サイクルを、電池が約80%の保持容量に到達するまで行なう。25サイクル毎に、CCモードにて0.2Cレートで、2.7Vに下がるまで放電を行う。
【0057】
n回目のサイクルにおける保持容量は、第1サイクルに対する第nサイクルで得られた放電容量の比として計算される。
【0058】
C/5の充放電レートで類似の実験も行われた。
【0059】
電池が約80%の保持容量に到達するまでのサイクル数がサイクル寿命として報告される。
【0060】
[XPS測定によるC-O結合に対するC-C結合の比の決定]
PHI 5000 VersaProbe(Ulvac-PHI)上でX線光電子分光(XPS)が行われた。X線源はモノクロメータAl Kα(1486.6eV)アノード(24.5W、15kV)であった。
【0061】
284.6eVのC1sピークで較正を行った。
【0062】
以下の条件が使用された:
スポットサイズ:100μm×100μm;ワイドスキャンパスエネルギー:117.4eV;ナロースキャンパスエネルギー:46.950eV
【0063】
測定は炭素の信号(295eVから280eVの間)に集中した。
【0064】
XPSPEAK 4.1ピーク解析ソフトウェアを用いて、脂肪族C-C化学結合を表す284.33eVのピークと、C-O化学結合を表す285.83eVのピークのピーク面積が決定され、それらの比R1が決定された。
【0065】
[本発明に係る例A]
[第一複合粉末の準備]
60kWの高周波(RF)誘導結合プラズマ(ICP)を適用し、プラズマガスとしてアルゴンを用い、そこにマイクロサイズのシリコン粉末前駆体が約200g/hの速度で注入され、2000K超の反応ゾーンの温度をもたらすことによってシリコンナノ粉末が得られた。
【0066】
この第一プロセスステップにおいて前駆体は完全に蒸発した。第二プロセスステップにおいて、ガスの温度を1600K未満に下げるために反応ゾーンの直下でクエンチガスとしてアルゴンフローが使用され、金属サブミクロンシリコン粉末への核生成を生じた。
【0067】
最後に、1モル%の酸素を含むN2/O2混合物を100l/hで加えることによってパッシベーションステップが100℃の温度で5分間行われた。
【0068】
プラズマ及びクエンチガスの両方のガスフローレートは、75nmのd50及び341nmのd90の平均粒径を有するナノシリコン粉末を得るために調節された。今回は2.0Nm3/hのアルゴンがプラズマに使用され、15Nm3/hのアルゴンがクエンチガスとして使用された。
【0069】
酸素含有量は2質量%と測定された。
【0070】
ナノシリコン粉末の純度が試験され、酸素を考慮せずに99.8%超であることが判明した。
【0071】
ブレンド物は14.5gの上記シリコンナノ粉末と、24gの石油系ピッチ粉末とから構成された。
【0072】
ピッチが融解するようにこれをN2下で450℃まで加熱し、60分間待った後で、1000rpmで運転しているCowles溶解型混合機を用いて高せん断下で30分間混合した。
【0073】
このように得られたピッチ中のシリコンナノ粉末の混合物がN2下で室温まで冷却され、固化されてから粉砕され、400メッシュ上で篩われ、複合粉末を生成した。
【0074】
ピッチ中のシリコンナノ粉末の混合物上にナノニッケル粉末がコートされるように、約10nmの平均粒径を有する0.1質量%のナノサイズニッケル粉末と共に、この複合粉末は低強度でボールミルされ、第一複合粒子からなる更なる複合粉末を生成した。ニッケルナノ粉末はAldrich(CAS番号7440-02-0)から得られ、更に粒径を小さくするためにミルされた。
【0075】
第一複合粒子の表面上にニッケルナノ粉末がほぼ連続的な層を形成したことがEDS-SEMマッピングによって確認された。
【0076】
代替的に、ニッケル酸化物又はニッケル塩の形でピッチ-シリコン粒子上に同様の方法でニッケルが複合体の周りにコートされてもよい。また、ピッチ-シリコン粒子をニッケル塩の溶液と混合し、その後に乾燥することによってニッケルリッチなコーティング層を得ることができる。ニッケルのより薄い、しかしより均一な層を堆積するために原子層堆積も用いることができる。
【0077】
8gの粉砕された混合物と7.1gの黒鉛とがローラーベンチ上で3時間混合され、その後、解凝集するために得られた混合物はミルに通された。これらの条件で良好な混合が得られるが、黒鉛はピッチ内に埋め込まれない。
【0078】
シリコン、ピッチ、及び黒鉛の混合物を得るために次のように熱的後処理が行われた:生成物を管状炉内の石英るつぼに入れ、3℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱し、その温度で2時間保持し、その後冷却した。この全てはアルゴン雰囲気下で行われた。
【0079】
焼成された生成物は粉砕され、400メッシュの篩で篩われ、第二複合粒子からなる更なる複合粉末を形成し、更に複合粉末Aと呼ばれる。
【0080】
複合粉末A中の合計Si含有量は化学分析によって23質量%±0.5質量%と測定された。これは、加熱に伴う約40質量%のピッチの質量減少と、加熱に伴う他の成分の些細な質量減少とに基づく計算値に対応する。
【0081】
複合粉末Aの酸素含有量は1.7%であった。
【0082】
複合粉末Aは14μmのd50と27μmのd90を有した。
【0083】
完全のために、上記熱処理後の第一複合粒子の組成の計算値は、50%のSi及び50%の炭素であり、熱分解ピッチであったことが言及される。
【0084】
[負極の準備]
2.4質量%のNa-CMC溶液が準備され、一晩中溶解された。その後、この溶液にTIMCAL Carbon Super P(導電性炭素)が加えられ、高せん断混合機を用いて20分間撹拌された。
【0085】
黒鉛と複合粉末Aとの混合物が形成された。500mAh/g乾燥材料の理論負極可逆容量を得るために比率が計算された。
【0086】
Na-CMC溶液に、黒鉛と複合粉末Aとの混合物が加えられ、高せん断混合機を用いてそのスラリーは再び30分間撹拌された。
【0087】
そのスラリーは、94質量%の黒鉛と複合粉末Aとの混合物と、4質量%のNa-CMCと、2質量%の導電性炭素とを用いて準備された。
【0088】
その後、6.25mg乾燥材料/cm2の充填量で得られたスラリーを銅ホイル上にコーティングすることによって負極が準備され、その後、70℃で2時間乾燥された。ホイルは両側がコートされ、カレンダーされた。
【0089】
[正極の準備]
水中に溶解されたNa-CMCの代わりにNMP系バインダ中に溶解されたPVDF(PVDF)を用い、銅の代わりに15μmの厚さのアルミニウムホイル集電体を用いたことを除いて、負極と同様に正極が準備された。ホイルは両側がコートされ、カレンダーされた。
【0090】
電池用途用の市販のLiCoO2が活物質として使用された。
【0091】
負極上と正極上の活物質の充填量は、1.1の容量比を得るために計算された。
【0092】
[電気化学的試験のための電池セルの製造]
幅43mm及び長さ450mmを有する正極を用いて、650mAhのパウチ型電池セルを準備した。正極集電タブとして機能するアルミニウム板が正極の端部にアーク溶接された。負極集電タブとして機能するニッケル板が負極の端部にアーク溶接された。
【0093】
正極のシート、負極のシート、及び厚さ20μmの細孔性ポリマーフィルムからなるセパレータのシート(Celgard(登録商標)2320)が、らせん状に巻かれた電極アセンブリへとらせん状に巻かれた。その後、巻かれた電極アセンブリと電解質とが空気乾燥室内でアルミニウム積層パウチ内に配置され、4.20Vまで充電された際に650mAhの設計容量を有する平坦パウチ型リチウム電池が準備された。
【0094】
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの50/50混合物中の10%フルオロエチレンカーボネートと2%ビニレンカーボネートとの混合物中の1M LiPF6が電解質として使用された。
【0095】
電解質溶液は室温で8時間、浸透することが許された。電池は、その理論容量の15%にプレ充電され、室温で1日エージングされた。その後、電池は脱ガスされ、アルミニウムパウチは封止された。
【0096】
以下のように試験のために電池が準備された:CCモードにて0.5Cレートで放電して2.7Vのカットオフ電圧まで下がる前に、CCモード(定電流)にて0.2C(1C=650mA)の電流を用いて4.2Vまで、次にCVモード(定電圧)にてC/20のカットオフ電流に到達するまで、加圧下で電池を充電した。
【0097】
この電池は、以降、「電池A」と呼ばれる。
【0098】
[本発明ではない例B]
ニッケルが加えられなかったことを除いて、例Aについてと同じ手順に従った。例Aと例Bとの最大の比較可能性を保証するために、ニッケルなしでボールミルステップがやはり実行された。このように電池Bが製造された。
【0099】
[本発明に係る例C]
0.1質量%の代わりに1.0質量%のニッケルが加えられたことを除いて、例Aについてと同じ手順に従った。このように電池Cが製造された。
【0100】
[分析]
上記に概説した電気化学的試験が電池A、B、及びCに行われた。結果が表1に示されている。
【0101】
【0102】
電気化学的試験の後、電池A、B、及びCから負極が除去された。
【0103】
いずれの場合も、表面におけるリチウムと電解質との化学反応の結果として、シリコン分解ピッチ粒子の表面でXPSによってSEI層を分析することができた。
【0104】
データは
図1に図示されており、図中、横軸は結合エネルギーをeVで表し、縦軸は信号強度を表す。電池Aの負極のSEI層についての信号は細かい点線で表され、電池Bの負極のSEI層についての信号は実戦で表され、電池Cの負極のSEI層についての信号は粗い点線で表されている。
【0105】
比R1を決定するために信号はデコンボリューションされ分析された。これは表2に報告されている。
【0106】
【0107】
見て分かるように、C-O化学結合に対するC-C化学結合の比R1は、電池Cの負極のSEI層において最も高く、続いて電池Aの負極のSEI層であり、電池Bの負極のSEI層において最も低いことが分かった。
【0108】
EDX分析と組み合わせれたSEM及びTEM分析が負極に対して行われた。これによって、電池A及びCについて、圧倒的に殆どのニッケルが第一複合粒子の表面に依然として存在したことが確認された。
【外国語明細書】