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特開2022-66257変性ポリテトラフルオロエチレン、成形物、延伸多孔体の製造方法
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  • 特開-変性ポリテトラフルオロエチレン、成形物、延伸多孔体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066257
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】変性ポリテトラフルオロエチレン、成形物、延伸多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20220421BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220421BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20220421BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20220421BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20220421BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L101/00
C08F265/06
C08F214/26
C08F2/22
C08J9/00 A CEW
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025714
(22)【出願日】2022-02-22
(62)【分割の表示】P 2019545137の分割
【原出願日】2018-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2017187578
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】▲樋▼口 信弥
(72)【発明者】
【氏名】江畑 志郎
(72)【発明者】
【氏名】巨勢 丈裕
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れる変性PTFEの提供。
【解決手段】テトラフルオロエチレンに基づく単位を有する重合体と、非フッ素系単量体に基づく単位を有する重合体と、を含む変性ポリテトラフルオロエチレンであって、所定の方法で算出される吸熱量比Rが0.65以上である、変性ポリテトラフルオロエチレン。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレンに基づく単位を有する重合体と、非フッ素系単量体に基づく単位を有する重合体と、を含む変性ポリテトラフルオロエチレンであって、
以下の方法で算出される吸熱量比Rが0.65以上である、変性ポリテトラフルオロエチレン。
吸熱量比R算出方法:300℃以上の温度に加熱した履歴がない前記変性ポリテトラフルオロエチレンを用いて、昇温速度20℃/分にて示差走査熱量計により測定を行い、得られる示差熱曲線において、340℃超に位置する吸熱ピーク温度T℃から2.5℃低い温度を温度T℃とし、310℃~温度T℃の温度範囲における吸熱量S1および温度T℃~360℃の温度範囲における吸熱量S2を求め、吸熱量S1に対する吸熱量S2の比を吸熱量比Rとして算出する。
【請求項2】
前記吸熱比量Rが、0.75~2.50である、請求項1に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項3】
前記変性ポリテトラフルオロエチレンにおける非フッ素系単量体に基づく単位の含有割合が、前記変性ポリテトラフルオロエチレンにおけるすべての単量体に基づく単位の含有量に対して、1~500ppmである、請求項1または2に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項4】
前記変性ポリテトラフルオロエチレンがフッ素系界面活性剤を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項5】
前記変性ポリテトラフルオロエチレンが、フッ素系界面活性剤の不存在下でテトラフルオロエチレンを重合して得られた変性ポリテトラフルオロエチレンである、請求項4に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項6】
前記変性ポリテトラフルオロエチレンが、前記非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体が存在する水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合して得られたポリテトラフルオロエチレンである、請求項4または5に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項7】
前記非フッ素系単量体が、エチレン性不飽和基を有する非フッ素系単量体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項8】
前記非フッ素系単量体が、式(1)で表される単量体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
式(1) CH2=CR1-L-R2
1は、水素原子またはアルキル基を表す。Lは、単結合、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。*はR2との結合位置を表す。R2は、水素原子、アルキル基またはニトリル基を表す。
【請求項9】
前記式(1)で表される単量体が、式(1-1)で表される単量体、式(1-2)で表される単量体、式(1-3)で表される単量体、および、式(1-4)で表される単量体からなる群から選択される単量体である、請求項8に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
式(1-1) CH2=CR1-CO-O-R3
式(1-2) CH2=CR1-O-CO-R4
式(1-3) CH2=CR1-O-R5
式(1-4) CH2=CR1-R6
1は、水素原子またはアルキル基を表す。R3は、水素原子またはアルキル基を表す。R4は、アルキル基を表す。R5は、アルキル基を表す。R6は、ニトリル基を表す。
【請求項10】
ペースト押出成形用である、請求項1~9のいずれか1項に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンがペースト押出成形されてなる成形物。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンをペースト押出して押出ビードを得て、前記押出ビードを延伸して延伸多孔体を得る、延伸多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリテトラフルオロエチレン、成形物、および、延伸多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンは、その優れた性質のため種々の用途に用いられている。
中でも、テトラフルオロエチレンと他の単量体とを用いた変性ポリテトラフルオロエチレンに関しては、種々検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/137736号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、耐熱性に優れる変性ポリテトラフルオロエチレンが求められている。
なお、一般的に、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造の際には、フッ素系界面活性剤が使用されている。しかし、近年、環境問題の観点から、フッ素系界面活性剤の使用が制限されつつある。そのため、フッ素系界面活性剤を用いずに製造可能である、変性ポリテトラフルオロエチレンが望ましい。
【0005】
本発明は、耐熱性に優れる変性ポリテトラフルオロエチレンの提供を目的とする。
また、本発明は、成形物、および、延伸多孔体の製造方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記目的を達成できることを見出した。
【0007】
(1) テトラフルオロエチレンに基づく単位を有する重合体と、非フッ素系単量体に基づく単位を有する重合体と、を含む変性ポリテトラフルオロエチレンであって、
以下の方法で算出される吸熱量比Rが0.65以上である、変性ポリテトラフルオロエチレン。
吸熱量比R算出方法:300℃以上の温度に加熱した履歴がない前記変性ポリテトラフルオロエチレンを用いて、昇温速度20℃/分にて示差走査熱量計により測定を行い、得られる示差熱曲線において、340℃超に位置する吸熱ピーク温度T℃から2.5℃低い温度を温度T℃とし、310℃~温度T℃の温度範囲における吸熱量S1および温度T℃~360℃の温度範囲における吸熱量S2を求め、吸熱量S1に対する吸熱量S2の比を吸熱量比Rとして算出する。
【0008】
(2) 前記吸熱比量Rが、0.75~2.50である、(1)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
(3) 前記変性ポリテトラフルオロエチレンにおける非フッ素系単量体に基づく単位の含有割合が、前記変性ポリテトラフルオロエチレンにおけるすべての単量体に基づく単位の含有量に対して、1~500ppmである、(1)または(2)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
(4) 前記変性ポリテトラフルオロエチレンがフッ素系界面活性剤を含まない、(1)~(3)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
(5) 前記変性ポリテトラフルオロエチレンが、フッ素系界面活性剤の不存在下でテトラフルオロエチレンを重合して得られた変性ポリテトラフルオロエチレンである、(4)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
(6) 前記変性ポリテトラフルオロエチレンが、前記非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体が存在する水性媒体中でテトラフルオロエチレンを重合して得られたポリテトラフルオロエチレンである、(4)または(5)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
【0009】
(7) 前記非フッ素系単量体が、エチレン性不飽和基を有する非フッ素系単量体である、(1)~(6)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
(8) 前記非フッ素系単量体が、式(1)で表される単量体である、(1)~(7)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
式(1) CH2=CR1-L-R2
1は、水素原子またはアルキル基を表す。Lは、単結合、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。*はR2との結合位置を表す。R2は、水素原子、アルキル基またはニトリル基を表す。
(9) 前記式(1)で表される単量体が、式(1-1)で表される単量体、式(1-2)で表される単量体、式(1-3)で表される単量体、および、式(1-4)で表される単量体からなる群から選択される単量体である、(8)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
式(1-1) CH2=CR1-CO-O-R3
式(1-2) CH2=CR1-O-CO-R4
式(1-3) CH2=CR1-O-R5
式(1-4) CH2=CR1-R6
1は、水素原子またはアルキル基を表す。R3は、水素原子またはアルキル基を表す。R4は、アルキル基を表す。R5は、アルキル基を表す。R6は、ニトリル基を表す。
(10) ペースト押出成形用である、(1)~(9)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレン。
(11) (1)~(10)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレンがペースト押出成形されてなる成形物。
(12) (1)~(10)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレンをペースト押出して押出ビードを得て、前記押出ビードを延伸して延伸多孔体を得る、延伸多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性に優れる変性ポリテトラフルオロエチレンを提供できる。
また、本発明によれば、前記変性ポリテトラフルオロエチレンを用いた成形物、および、延伸多孔体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の変性ポリテトラフルオロエチレンの示差走査熱量計による測定結果の一例である。
図2】実施例1の変性ポリテトラフルオロエチレンを用いた示差走査熱量計による測定結果である。
図3】参考例1の示差熱曲線である。
図4】参考例2の示差熱曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、単量体1分子に由来する原子団の総称である。重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(質量%)は、重合体を固体核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により分析して求められるが、各単量体の仕込み量から推算できる。通常、各単量体の仕込み量から計算される各単位の含有量は、実際の各単位の含有量と略一致している。
【0013】
本発明の変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、「変性PTFE」ともいう。)の特徴点の一つとしては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)に基づく単位(以後、「TFE単位」ともいう)を有する重合体と、非フッ素系単量体(以下、「単量体A」ともいう。)に基づく単位(以下、「A単位」ともいう。)を有する重合体とを含み、かつ、示差走査熱量計測定によって算出される吸熱量比Rが所定値以上である点が挙げられる。
なお、以下、A単位を有する重合体を「重合体A」ともいう。
【0014】
<変性PTFE>
本発明の変性PTFEは、TFE単位を有する重合体と、A単位を有する重合体とを含む。
本発明の変性PTFEは、TFE単位を有する重合体とA単位を有する重合体との混合物であってもよく、さらにTFE単位とA単位を有する共重合体を含む混合物であってもよい。後述の好ましい変性PTFEの製法が示唆するように、本発明の変性PTFEは、TFE単位を有する重合体とA単位を有する重合体のそれぞれ独立した重合体の混合物のみからなるばかりでなく、TFE単位とA単位とを有する共重合体も含まれている場合があると推測される。
【0015】
(TFE単位を有する重合体)
変性PTFEは、TFE単位を有する重合体を含む。
変性PTFEは、通常、TFE単位を有する重合体を主成分として含む。主成分とは、変性PTFEに対して、TFE単位を有する重合体の含有量が99.700質量%以上を意図し、99.900質量%以上が好ましい。
【0016】
(非フッ素系単量体に基づく単位を有する重合体)
非フッ素系単量体とは、フッ素原子を含まない単量体である。
非フッ素系単量体は、重合の際に、重合体の単位となり得る化合物であればよい。例えば、重合性基を有する非フッ素系単量体が挙げられる。
【0017】
重合性基を有する非フッ素系単量体中の重合性基の数は、1~3個が好ましく、1個がより好ましい。
重合性基としては、エチレン性不飽和基が好ましい。より具体的には、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、ビニル基、アリル基が挙げられ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエステル基が好ましい。
【0018】
単量体Aとしては、式(1)で表される単量体が好ましい。
式(1) CH2=CR1-L-R2
1は、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基の炭素数は、1~3が好ましく、1がより好ましい。
Lは、単結合、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。*はR2との結合位置を表す。例えば、Lが-CO-O-*である場合、式(1)はCH2=CR1-CO-O-R2を表す。
2は、水素原子、アルキル基またはニトリル基を表す。
アルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましい。
アルキル基は、鎖状であっても、環状であってもよい。アルキル基が環状である場合、シクロアルキル基に該当する。
【0019】
単量体Aとしては、式(1-1)で表される単量体、式(1-2)で表される単量体、式(1-3)で表される単量体、および、式(1-4)で表される単量体からなる群から選択される単量体が好ましい。
式(1-1) CH2=CR1-CO-O-R3
式(1-2) CH2=CR1-O-CO-R4
式(1-3) CH2=CR1-O-R5
式(1-4) CH2=CR1-R6
1の定義は、上述した通りである。
3は、水素原子またはアルキル基を表し、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
4は、アルキル基を表し、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
5は、アルキル基を表し、直鎖状アルキル基または環状アルキル基であることが好ましい。
6は、ニトリル基を表す。
【0020】
単量体Aとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ビニルメタクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルが挙げられる。
非フッ素単量体としては、前記式(1-1)で表される単量体および前記式(1-2)で表される単量体が好ましく、Rが炭素数1~6のアルキル基である前記式(1-1)で表される単量体が特に好ましい。
【0021】
変性PTFEにおけるA単位の含有割合は、変性PTFEの耐熱性がより優れる点で、変性PTFEにおけるすべての単量体に基づく単位の含有量に対して、10~500質量ppmが好ましく、10~200質量ppmがより好ましく、30~100質量ppmがさらに好ましく、20~200質量ppmがより好ましく、30~150質量ppmがさらに好ましい。
上記変性PTFEにおけるすべての単量体に基づく単位とは、変性PTFE中のTFE単位とA単位とをいう。したがって、上記A単位の含有割合は、変性PTFE中のTFE単位とA単位の合計量に対するA単位の含有割合を意味する。
単量体Aは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、2種以上の単量体Aを用いる場合、それぞれの単量体Aに基づくA単位の合計含有量が上記範囲であればよい。
【0022】
変性PTFEは、本発明の効果を損なわない範囲において、TFE単位およびA単位以外の単位を含んでいてもよい。
なお、TFE単位およびA単位の合計含有量は、変性PTFEの全単位に対して、99.700質量%以上が好ましく、99.800質量%以上がより好ましい。上限は、100質量%が挙げられる。
【0023】
以下の方法で算出される、変性PTFEの吸熱量比Rが0.65以上である。中でも、変性PTFEの耐熱性がより優れる点で、0.70以上が好ましく、0.75以上がより好ましく、0.85以上がさらに好ましく、0.90以上が特に好ましい。変性PTFEの吸熱量比Rは、通常、2.50以下であるが、2.00以下であってもよく、1.10以下であってもよい。吸熱量比R算出方法:300℃以上の温度に加熱した履歴がない変性PTFEを用いて、昇温速度20℃/分にて示差走査熱量計により測定を行い、得られる示差熱曲線において、340℃超に位置する吸熱ピーク温度T℃から2.5℃低い温度を温度T℃とし、310℃~温度T℃の温度範囲における吸熱量S1(mJ/mg)および温度T℃~360℃の温度範囲における吸熱量S2(mJ/mg)を求め、吸熱量S1に対する吸熱量S2の比を吸熱量比Rとして算出する。
【0024】
より具体的には、上記算出方法において、示差走査熱量計としては、Pyris 1 DSC、PERKIN ELMER社製の示差走査熱量計を用いる。
測定の手順としては、300℃以上の温度に加熱した履歴がない変性PTFE(10mg)を温度200℃で1分間保持した後、上記昇温速度で380℃まで昇温して、横軸に温度を、縦軸に単位時間当りの吸熱量を示す示差熱曲線を得る(図1参照)。
次に、得られた示差熱曲線において、340℃超に位置する吸熱ピーク温度T℃から2.5℃低い温度を温度T℃とする。なお、図1に示すように、変性PTFEの吸熱ピークは310~360℃の範囲に現れやすい。
次に、310℃~温度T℃の温度範囲における吸熱量S1および温度T℃~360℃の温度範囲における吸熱量S2を求め、吸熱量S1に対する吸熱量S2の比を吸熱量比R(吸熱量S2/吸熱量S1)として算出する。
なお、吸熱量を求める際、得られた示差熱曲線の310℃の点と360℃の点とを結んでベースラインを作成する。
【0025】
上記吸熱量S1は、示差熱曲線とベースラインとから形成される領域(示差熱曲線とベースラインとによって囲まれる領域)のうち、温度T℃以下の領域の面積に相当する。また、吸熱量S2は、示差熱曲線とベースラインとから形成される領域のうち、温度T℃以上の領域の面積に相当する。
上記吸熱量S2と上記吸熱量S1とを比較すると、上記吸熱量S2は比較的高分子量の重合体の存在量を表し、上記吸熱量S1は比較的低分子量の重合体の存在量を表すといえる。
【0026】
変性PTFEの標準比重(以下、「SSG」ともいう。)は、2.155~2.175である。中でも、変性PTFEの破断強度がより優れる点で、2.155~2.170が好ましく、2.160~2.170がより好ましい。
SSGは分子量の指標であり、SSGが大きいほど、分子量が小さい。
上記SSGは、変性PTFEを製造する際の重合条件(重合圧力等。)により調整できる。
変性PTFEのSSGは、ASTM D4895-04に準拠して測定する。
【0027】
変性PTFEの性状は、取り扱いなどの点から、粒子状が好ましい。
変性PTFE粒子の平均一次粒子径は、0.10~0.50μmが好ましく、0.15~0.30μmがより好ましく、0.20~0.30μmがさらに好ましい。平均一次粒子径が0.10μm以上であると、低い押出圧力でペースト押出成形でき、表面に波打ち等のない、表面平滑性に優れた成形物が得られやすい。平均一次粒子径が0.50μm以下であると、押出時の粒子間の空隙が少なくなるため、押出安定性に優れ、結果として表面平滑性に優れた成形物が得られやすい。
変性PTFE粒子の平均一次粒子径は、例えば、レーザー散乱法粒子径分布分析計により測定されるD50に該当する。後述するように、水性媒体中にて変性PTFEを製造した場合は、得られる変性PTFE粒子の水性分散液を用いて、上記測定を実施し、変性PTFE粒子の平均一次粒子径が得られる。
【0028】
本発明の変性PTFEとしては、変性PTFEの破断強度がより優れる点で、後述する製造方法で得られる粒状の変性PTFEが好ましい。
【0029】
変性PTFEの押出圧力は、ペースト押出が容易である点から、18.0~35.0MPaが好ましく、20.0~25.0MPaがより好ましい。
押出圧力の測定は、以下の通りである。
室温で2時間以上放置された試料(変性PTFE)(100g)を内容量500mLのガラス瓶に入れ、潤滑油(アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)の21.7gを添加し、3分間混合して混合物を得る。得られた混合物を25℃恒温槽に2時間放置した後に、リダクションレシオ(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)100、押出速度51cm/分の条件で、25℃にて、直径2.5cm、ランド長1.1cm、導入角30°のオリフィスを通して、ペースト押出し押出ビード(ひも状物)を得る。このときの押出に要する圧力を測定し、押出圧力(単位:MPa)とする。
【0030】
変性PTFEの破断強度は、5.0N以上が好ましく、8.0N以上がより好ましい。変性PTFEの破断強度は、通常、50N以下である。
破断強度の測定は、以下の通りである。
押出圧力の測定方法と同様にして押出ビードを得て、これを230℃で30分間乾燥し、潤滑剤を除去する。次に、押出ビードを適当な長さに切断し、クランプ間隔5.1cmとなるように両方の末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱した。続いて、延伸速度100%/秒、延伸倍率2400%の条件で延伸して、変性PTFE延伸多孔体(以下、延伸ビードという。)を得る。
延伸ビードの各末端から得られるサンプル(クランプの範囲においてネックダウンがあればそれを除く)、および、延伸ビードの中心部から得られるサンプルの計3個について、引張り試験機(エイアンドディ社製)を用いて引張り破断負荷力をそれぞれ測定し、最小の値を破断強度とする。
引張り試験機での測定では、サンプルを、5.0cmのゲージ長である可動ジョーにおいて挟んで固定し、室温(24℃)にて、可動ジョーを300mm/分のスピードで駆動させて、引張り応力を付加する。
【0031】
変性PTFEの応力緩和時間は、変性PTFEの耐熱性がより優れる点で、100秒以上が好ましく、110秒以上がより好ましく、115秒以上がさらに好ましい。変性PTFEの応力緩和時間は、通常、700秒以下である。
応力緩和時間の測定は、以下の通りである。
クランプ間隔3.8cm、延伸速度1000%/秒、総延伸2400%の条件で、破断強度の測定と同様にして、押出ビードを延伸し、得られたこの延伸ビードのサンプルの両方の末端を固定具で固定し、390℃のオーブン中に放置したときに破断するのに要する時間を求める。
【0032】
上記変性PTFEの製造方法は、公知の方法を採用できる。ただし、公知の方法、特に乳化重合法を用いた公知の製造方法においては、通常、フッ素系界面活性剤が使用されている。しかし、前記のように、環境問題の観点から、フッ素系界面活性剤を使用することなく変性PTFEを製造することが好ましい。
本発明の変性PTFEは、フッ素系界面活性剤を使用することなく製造された変性PTFEであること、すなわち、フッ素系界面活性剤の不存在下でTFEを重合して得られた変性PTFEであることが好ましい。
さらには、フッ素系界面活性剤を含まない本発明の変性PTFEとしては、A単位を含む重合体、すなわち重合体A、が存在する水性媒体中で、TFEを重合することによって得られた変性PTFEが好ましい。
上記重合体Aが存在する水性媒体は、水性媒体中で単量体Aを重合して得られた、重合体Aが存在する水性媒体であることが好ましい。水性媒体中での単量体Aを重合および重合体Aが存在する水性媒体中でのTFEの重合のいずれにおいてもフッ素系界面活性剤の不存在下に重合を行うことにより、フッ素系界面活性剤を含まない変性PTFEを製造することができる。
【0033】
変性PTFEの製造方法の好適態様の一つとしては、以下の2つの工程を有する態様が挙げられる。
工程1:水性媒体中にて、単量体Aの重合を行い、重合体Aを含む水性媒体を得る工程
工程2:重合体Aが存在する水性媒体中でTFEの重合を行い、変性PTFEを得る工程
以下、各工程の手順について詳述する。
【0034】
<工程1>
工程1は、水性媒体中にて、単量体Aの重合を行い、重合体Aを含む水性媒体を得る工程である。
以下では、まず、工程1で使用される材料について詳述し、その後、工程1の手順について詳述する。
単量体Aの定義は、上述した通りである。
【0035】
(水性媒体)
水性媒体としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、例えば、tert-ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。水性媒体としては、水のみであることが好ましい。
【0036】
(重合開始剤)
工程1では、重合開始剤を用いてもよい。つまり、単量体Aの重合の際に、重合開始剤を用いてもよい。
重合開始剤としては、水溶性ラジカル開始剤、水溶性酸化還元系触媒が好ましい。
水溶性ラジカル開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸過酸化物、ビスグルタル酸過酸化物、tert-ブチルヒドロパーオキシド等の水溶性有機過酸化物が好ましい。
【0037】
水溶性酸化還元系触媒としては、臭素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過硫酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸またはその塩、亜硫酸水素またはその塩、チオ硫酸またはその塩、有機酸などの還元剤、との組み合わせが好ましい。中でも、臭素酸またはその塩と、亜硫酸またはその塩、亜硫酸アンモニウムとの組み合わせ、過マンガン酸またはその塩、過マンガン酸カリウムと、シュウ酸との組み合わせがより好ましい。
【0038】
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム単独、または、過硫酸塩とジコハク酸過酸化物との混合系が好ましく、過硫酸アンモニウム単独、または、過硫酸アンモニウムとジコハク酸過酸化物との混合系がより好ましく、過硫酸アンモニウム単独がさらに好ましい。
重合開始剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、重合開始剤の仕込み方法としては、重合反応を開始する前にその全量を重合系に仕込んでおいてもよく、連続的または断続的に重合系に添加してもよい。
【0039】
(工程の手順)
工程1では、水性媒体中にて単量体Aの重合を行う。具体的には、単量体Aと水性媒体とを混合して、得られた混合液中にて単量体Aの重合を行うのが好ましい。
【0040】
単量体Aの使用量(仕込み量)は、A単位の含有量が、得られる変性PTFEの全単位に対して、上述した好適範囲となるように調整されることが好ましい。
なお、単量体Aの仕込み方法としては、重合反応を開始する前に、その全量を重合系に仕込んでおく、初期一括添加が好ましい。
【0041】
単量体Aと水性媒体とを混合して得られる混合液中における単量体Aの含有量は、溶液全質量に対して、0.0005~0.0080質量%が好ましく、0.0005~0.0030質量%がより好ましい。
【0042】
重合開始剤の使用量は、単量体A全量に対して、0.2~1000質量%が好ましく、0.2~500質量%がより好ましい。
【0043】
単量体Aの重合温度は、10~95℃が好ましく、50~90℃がより好ましい。重合時間は、5~400分が好ましく、5~300分がより好ましい。
重合時の圧力条件は、減圧条件または常圧条件が好ましい。
また、重合時の雰囲気をTFE雰囲気として、重合を行ってもよい。なお、通常、水性媒体中での単量体Aの重合が、TFEの重合よりも優先して進行する。
【0044】
上記工程1により、重合体Aの粒子が水性媒体中で分散している、重合体Aを含む水性媒体が得られる。後述する工程2のTFEの重合の際に、重合体Aの粒子は乳化剤ではないが、水性媒体および重合途中の変性PTFE粒子双方に対する界面張力のバランスにより重合体Aの粒子が双方の境界に存在して、変性PTFE粒子の水性媒体中における分散安定化に寄与すると推測される。工程2により得られた変性PTFEの粒子は重合体Aの粒子を含む粒子である。
重合体Aの粒子の粒子径は、0.1~100nmが好ましく、0.1~50nmがより好ましい。
【0045】
重合体Aの粒子は、A単位を含む重合体から構成される。
重合体Aは、通常、A単位のみを含むが、本発明の効果を損なわない範囲でフッ素系単量体に基づく単位を含んでいてもよい。フッ素系単量体とは、フッ素原子を有する単量体であり、例えば、TFEが挙げられる。
重合体中におけるA単位の含有量は、重合体の全単位に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0046】
<工程2>
工程2は、重合体Aが存在する水性媒体中でTFEの重合を行い、変性PTFEを得る工程である。
以下では、まず、工程2で使用される材料について詳述し、その後、工程2の手順について詳述する。
【0047】
(重合開始剤)
工程2では、重合開始剤を用いてもよい。つまり、TFEの重合の際に、重合開始剤を用いてもよい。
使用される重合開始剤としては、工程1で説明した重合開始剤が挙げられる。
重合開始剤としては、過硫酸塩とジコハク酸過酸化物との混合系が好ましく、過硫酸アンモニウムとジコハク酸過酸化物との混合系がより好ましい。
重合開始剤の使用量は、重合系に供給するTFEの全量に対して、0.10質量%以上が好ましく、0.10~1.5質量%がより好ましく、0.20~1.0質量%がさらに好ましい。
【0048】
(界面活性剤)
工程2では、重合体Aと共に、非フッ素系界面活性剤を用いるのが好ましい。つまり、重合体Aと共に、非フッ素系界面活性剤の存在下にて、TFEの重合を行うのが好ましい。
非フッ素系界面活性剤とは、フッ素原子を含まない有機基からなる疎水部を有する界面活性剤である。非フッ素系界面活性剤としては、親水部等の疎水部以外の部分にもフッ素原子を含まないことが好ましい。
非フッ素系界面活性剤としては、炭化水素系界面活性剤が好ましい。炭化水素系界面活性剤とは、疎水部が炭化水素からなる界面活性剤である。炭化水素系界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれでもよく、炭化水素系アニオン系界面活性剤が好ましい。なお、上記炭化水素中には、酸素原子(-O-)が含まれていてもよい。つまり、オキシアルキレン単位を含む炭化水素であってもよい。
上記炭化水素基に含まれる炭素原子の数は、5~20が好ましい。
【0049】
炭化水素系アニオン系界面活性剤中のアニオンの対カチオンとしては、例えば、H+、Na+、K+、NH4 +、NH(EtOH)3 +が挙げられる。
炭化水素系アニオン系界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸アンモニウムが挙げられる。
炭化水素系界面活性剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(水性媒体)
工程2における重合体Aを含む水性媒体としては、工程1で得られた重合体Aを含む水性媒体、または、工程1で得られた重合体Aを含む水性媒体を水性媒体で希釈して得られる重合体Aを含む水性媒体、を使用する。希釈用の水性媒体は、工程1で使用した水性媒体と同じ水性媒体であってもよく、異なる水性媒体であってもよい。
【0051】
(安定化助剤)
工程2では、PTFEの乳化重合に通常使用されている安定化助剤を用いてもよい。安定化助剤は、工程1における単量体Aの重合に支障をきたすものではないことより、工程1で使用される水性媒体中に存在させて単量体Aの重合を行い、得られた安定化助剤を含む重合体A含有水性媒体を工程2に使用することができる。
安定化助剤としては、パラフィンワックス、フッ素系溶剤、シリコーンオイルが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。パラフィンワックスとしては、室温で、液体でも、半固体でも、固体であってもよい。中でも、炭素数12以上の飽和炭化水素が好ましい。パラフィンワックスの融点は、40~65℃が好ましく、50~65℃がより好ましい。
安定化助剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(その他)
また、工程2では、本発明の効果を損なわない範囲で、TFE以外の単量体を使用してもよいが、変性PTFEの各種特性がより優れる点で、TFEの合計使用量が、工程2で使用される単量体の合計使用量に対して、99.5質量%以上が好ましい。中でも、工程2では単量体としてTFEのみを用いるのがより好ましい。
【0053】
(工程の手順)
TFEは、常法により、重合系(つまり、重合反応容器)に投入される。具体的には、重合圧力が所定の圧力となるように、TFEは連続的または断続的に重合系に投入される。
重合開始剤を用いる場合、重合開始剤は重合系に一括して添加されてもよいし、分割して添加されてもよい。
【0054】
TFEの重合温度は、10~95℃が好ましく、15~90℃がより好ましい。重合圧力は、0.5~4.0MPaが好ましく、0.6~3.5MPaがより好ましい。重合時間は、90~520分が好ましく、90~450分がより好ましい。
【0055】
なお、工程1および工程2は、同一の重合反応容器内で連続的に行ってもよい。
また、本発明の製造方法においては、工程1において重合体Aの粒子が形成されればよく、工程1において完全に単量体Aが消費される前に、工程2を実施してもよい。
【0056】
上記手順によって、変性PTFEが粒子状に分散した水性分散液(変性PTFE粒子を含む水性分散液)が得られる。水性分散液中での変性PTFE粒子の濃度は、10~45質量%が好ましく、15~45質量%がより好ましく、20~43質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、水性分散液中の変性PTFE粒子をより容易に凝析でき、かつ、凝析液の白濁を抑制できる。
変性PTFE粒子の平均一次粒子径の好適範囲は、上述した通りである。
【0057】
上記では工程1を実施する態様について述べたが、水性媒体中にて、重合体Aの粒子の存在下、TFEの重合を行えれば、他の方法でもよい。例えば、別途用意した重合体Aの粒子を水性媒体中に添加して、その後、その水性媒体中にてTFEの重合を行う方法でもよい。
【0058】
<変性PTFE粉末>
上記製造方法の手順によって、変性PTFEを含む水性分散液が得られる。
なお、変性PTFE粒子を含む水性分散液から、変性PTFE粒子からなる変性PTFE粉末(変性PTFEファインパウダー)を得る方法としては、例えば、変性PTFE粒子を凝集させる方法が挙げられる。
具体的には、変性PTFE粒子を含む水性分散液の変性PTFEの濃度が8~25質量%になるように水で希釈するなどして、水性分散液の温度を5~35℃に調整した後、水性分散液を激しく撹拌して変性PTFE粒子を凝集させる。この際、必要に応じてpHを調節してもよい。また、電解質や水溶性の有機溶剤などの凝集助剤を水性分散液に加えてもよい。
その後、適度な撹拌を行い、凝集した変性PTFE粒子を水から分離し、得られた湿潤粉末(ウェットファインパウダー)を必要に応じて造粒および整粒し、次いで、必要に応じて乾燥する。これにより変性PTFE粉末が得られる。
【0059】
上記乾燥は、湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置して行う。乾燥方法としては、例えば、真空乾燥、高周波乾燥、熱風乾燥が挙げられる。
乾燥温度は、10~~300℃が好ましく、100~250℃がより好ましい。
【0060】
なかでも、未乾燥の変性PTFE粉末の乾燥は、アンモニアを含む雰囲気下で行うのが好ましい。ここで、アンモニアを含む雰囲気とは、未乾燥の変性PTFE粉末にアンモニアガスが接触し得る雰囲気を意味する。例えば、アンモニアガスを含む雰囲気や、未乾燥の変性PTFE粉末を含む水分中にアンモニアまたはアンモニアを発生する化合物が溶解していて、加熱等によってアンモニアガスが発生する雰囲気などを意味する。
アンモニアを発生する化合物としては、例えば、アンモニウム塩、尿素が挙げられる。これらの化合物は、加熱により分解してアンモニアガスを発生する。
アンモニアを含む雰囲気下で未乾燥の変性PTFE粉末を乾燥すると、物性を損なうこと無く、変性PTFE粉末のペースト押出圧力を下げられる。
【0061】
<成形物>
上述した変性PTFEは、ペースト押出成形用に好適に適用できる。
変性PTFE(特に、変性PTFE粉末)をペースト押出成形し、所望の成形品が得られる。
ペースト押出成形とは、変性PTFE粉末と潤滑剤とを混合し、変性PTFE粉末に流動性を持たせ、これを押出成形して、例えば、フィルム、チューブの成形物を成形する方法である。
潤滑剤の混合割合は、変性PTFE粉末が流動性を有するように適宜選定すればよく、例えば、変性PTFE粉末と潤滑剤との合計量を100質量%とした場合、10~30質量%が好ましく、15~20質量%がより好ましい。
潤滑剤としては、例えば、ナフサ、乾点が100℃以上の石油系炭化水素が好ましい。
混合物には、着色を目的として顔料等の添加剤を添加してもよく、強度および導電性等の付与を目的として各種充填剤を添加してもよい。
【0062】
成形物の形状としては、例えば、チューブ状、シート状、フィルム状、繊維状が挙げられる。用途としては、例えば、チューブ、電線の被覆、シール材、多孔膜、フィルターが挙げられる。
また、変性PTFE粉末をペースト押出して押出ビードを得て、押出ビードを延伸し、変性PTFEの延伸多孔体が得られる。延伸条件としては、例えば、5~1000%/秒の速度で、500%以上の延伸倍率が挙げられる。
延伸多孔体で構成される物品の形状としては、例えば、チューブ状、シート状、フィルム状、繊維状が挙げられる。
【実施例0063】
以下に、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0064】
各種測定方法および評価方法は下記のとおりである。
(A)変性PTFE粒子の平均一次粒子径(nm)(以下、「PPS」ともいう。)
変性PTFE粒子の水性分散液を試料とし、レーザー散乱法粒子径分布分析計(堀場製作所製、商品名「LA-920」)を用いて測定した。
【0065】
(B)標準比重(SSG)
ASTM D4895-04に準拠して測定した。
12.0gの試料(変性PTFE粉末)を計量し、内径28.6mmの円筒金型で34.5MPaで2分間保持した。これを290℃のオーブンへ入れて120℃/hrで昇温した。さらに、380℃で30分間保持した後、60℃/hrで降温して294℃で24分間保持した。試料を23℃のデシケーター中で12時間保持した後、23℃での試料の水に対する比重値を測定し、これを標準比重とした。SSGの値が小さいほど、分子量が大きい。
【0066】
(C)押出圧力の測定
室温で2時間以上放置された変性PTFE粉末(100g)を内容量500mLのガラス瓶に入れ、潤滑油(アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)(21.7g)を添加し、3分間混合して混合物を得た。得られた混合物を25℃恒温槽に2時間放置した後に、リダクションレシオ(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)100、押出速度51cm/分の条件で、25℃にて、直径2.5cm、ランド長1.1cm、導入角30°のオリフィスを通して、ペースト押出を行い、押出ビード(ひも状物)を得た。このときの押出に要する圧力を測定し、押出圧力(単位:MPa)とした。
【0067】
(D)破断強度の測定
押出圧力の測定と同様にして押出ビードを得て、これを230℃で30分間乾燥し、潤滑剤を除去した。次に、押出ビードを適当な長さに切断し、クランプ間隔5.1cmとなるように両方の末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱した。続いて、延伸速度100%/秒、延伸倍率2400%の条件で延伸して、変性PTFE延伸多孔体(以下、延伸ビードという。)を得た。
延伸ビードの各末端から得られるサンプル(クランプの範囲においてネックダウンがあればそれを除く)、および、延伸ビードの中心部から得られるサンプルの計3個について、引張り試験機(エイアンドディ社製)を用いて引張り破断負荷力をそれぞれ測定し、最小の値を破断強度とした。
引張り試験機での測定では、サンプルを、5.0cmのゲージ長である可動ジョーにおいて挟んで固定し、室温(24℃)にて、可動ジョーを300mm/分のスピードで駆動させて、引張り応力を付加した。
【0068】
(E)応力緩和時間の測定
クランプ間隔3.8cm、延伸速度1000%/秒、総延伸2400%の条件で、破断強度の測定と同様にして、押出ビードを延伸し、応力緩和時間の測定用のサンプルを作製した。このサンプルの両方の末端を固定具で固定し、ぴんと張り全長25cmとした。応力緩和時間は、このサンプルを390℃のオーブン中に放置したときに破断するのに要する時間を求めた。
【0069】
(F)吸熱量比Rの測定
事前に標準サンプルとして、インジウム、亜鉛を用いて温度校正した示差走査熱量計(Pyris 1 DSC、PERKIN ELMER社製)を用いて測定した。300℃以上の温度に加熱した履歴がない変性PTFEを、サンプル量が10.0mgになるよう規格化し、初期温度200℃で1分間保持した後、昇温速度20℃/分で380℃まで昇温して、示差熱曲線を得た。340℃以上における、吸熱ピーク温度T℃からマイナス2.5℃をT℃として、310℃~温度T℃の温度範囲における吸熱量S1および温度T℃~360℃の温度範囲における吸熱量S2を求め、吸熱量S1に対する吸熱量S2の比を吸熱量比Rとして算出した。
なお、上記吸熱量を算出する際、得られた示差熱曲線上の310℃の点と360℃の点を結んでベースラインとした。
【0070】
(実施例1)
100Lのステンレス鋼製オートクレーブに、パラフィンワックス(1500g)、脱イオン(60L)を仕込んだ。オートクレーブを窒素置換した後、減圧にして、n-ブチルメタクリレート(1g)と脱イオン水(0.5L)とを、オートクレーブ内に注ぎながら仕込んだ。なお、n-ブチルメタクリレートに基づく単位の含有量が、得られる変性PTFEの全単位に対して、48質量ppmとなるように、n-ブチルメタクリレートを仕込んだ。
次に、オートクレーブ内を大気圧以下の状態として、オートクレーブ内の溶液を撹拌しながら75℃に昇温した。その後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.11g)を脱イオン水(1L)に溶解させた溶液を、オートクレーブ内に注入し、n-ブチルメタクリレートを重合させた。
【0071】
10分後に、TFEで1.96MPaまで加圧し、過硫酸アンモニウム(0.54g)およびジコハク酸過酸化物(濃度80質量%、残り水)(53g)を約70℃の温水(1L)に溶解させた溶液を、オートクレーブ内に注入した。1379秒後には、オートクレーブ内の内圧が1.89MPaまで降下した。なお、上記重合開始剤(過硫酸アンモニウムおよびジコハク酸過酸化物)の使用量は、TFEの全使用量に対して、0.26質量%であった。
【0072】
次に、オートクレーブ内の内圧を1.96MPaに保つようにTFEを添加し、TFEの重合を進行させた。TFEを1kg添加した後、ドデシル硫酸ナトリウム(44g)を脱イオン水(3L)に溶解させた溶液を、供給されるTFE1kgに対して、ドデシル硫酸ナトリウムが1.5~1.6gとなるように、供給されるTFE量を流量計で確認しながら、ドデシル硫酸ナトリウムの供給を行った。
TFEの添加量が21kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ内のTFEを大気放出した。重合時間は226分だった。
【0073】
得られた変性PTFEの水性分散液を冷却し、上澄みのパラフィンワックスを除去した。水性分散液の固形分濃度(変性PTFEの濃度)は約23質量%であった。また、水性分散液中の変性PTFEの平均一次粒子径は260nmだった。
水性分散液を純水で固形分濃度10質量%に希釈し、20℃に調整して撹拌し、変性PTFE粒子を凝集させ、変性PTFE粉末を取得した。次に、この変性PTFE粉末を250℃で乾燥した。
得られた変性PTFE粉末のSSGは2.162だった。押出圧力は21.6MPaだった。破断強度は21.1Nだった。応力緩和時間は、180秒だった。また、吸熱量比Rは1.06で、ピーク温度Tpは345℃だった(図2参照)。
【0074】
(実施例2)
オートクレーブ内を大気圧以下の状態として、オートクレーブ内の溶液を撹拌しながら75℃に昇温した処理の代わりに、オートクレーブ内をTFEで0.15MPaまで昇圧し、オートクレーブ内の溶液を撹拌しながら75℃に昇温する処理を実施した以外は、上記(実施例1)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0075】
(実施例3)
n-ブチルメタクリレートに基づく単位の含有量が、得られる変性PTFEの全単位に対して、56質量ppmとなるように、n-ブチルメタクリレートを仕込み、TFEの使用量を21kgから18kgに変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0076】
(実施例4)
n-ブチルメタクリレートを酢酸ビニルに変更した以外は、実施例3と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0077】
(実施例5)
n-ブチルメタクリレートに基づく単位の含有量が、得られる変性PTFEの全単位に対して、83質量ppmとなるように、n-ブチルメタクリレートを仕込み、TFEの使用量を21kgから12kgに変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0078】
(実施例6)
n-ブチルメタクリレートを酢酸ビニルに変更した以外は、実施例5と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0079】
(実施例7)
n-ブチルメタクリレートをアクリル酸に変更し、アクリル酸に基づく単位の含有量が、得られる変性PTFEの全単位に対して、100質量ppmとなるように、アクリル酸を仕込み、TFEの使用量を21kgから10kgに変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0080】
(実施例8)
実施例2の変性PTFEの水性乳化液を純水で濃度10質量%に希釈し、20℃に調整して、撹拌し凝集をさせる際に、凝集槽内の変性PTFEに対して、5質量%の炭酸アンモニウムを仕込んで凝集を行った。次に、得られた未乾燥変性PTFEファインパウダーの含水率を測定し、その値を基に、乾燥用トレイに、未乾燥変性PTFEファインパウダーと、変性PTFEに対して5質量%となる炭酸アンモニウム水溶液(炭酸アンモニウム濃度:20質量%)とを同時に盛り付け、得られた乾燥用トレイを285℃で乾燥した。
得られた試料を用いて、破断強度および応力緩和時間の測定を行った。破断強度は28.2Nであった。応力緩和時間は、176秒であった。
【0081】
(比較例1)
n-ブチルメタクリレートをビニルスルホン酸に変更した以外は、実施例5と同様の手順に従って、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0082】
表1中、「BMA」はn-ブチルメタクリレートを、「VAc」は酢酸ビニルを、「AA」はアクリル酸を、「VSa」はビニルスルホン酸を、表す。
「含有量(質量ppm)」は、得られる変性PTFEの全単位に対するA単位の含有量を表す。
「固形分(質量%)」は、水性分散液の固形分濃度(変性PTFEの濃度)を表す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、本発明の変性PTFEは、耐熱性の指標である応力緩和時間が長く、耐熱性に優れていた。
【0085】
(参考例1および2)
なお、実施例1の変性PTFEを用いて、昇温速度20℃/分を昇温速度10℃/分に変更した以外は上記と同様の操作により、示差熱曲線を得た(参考例1:図3参照)。得られた示差熱曲線においては、340℃以下における、吸熱ピークからベースラインまでの高さh1と、340℃以上における、吸熱ピークからベースラインまでの高さh2の比(h2/h1)は、1.22だった。
また、比較例1の変性PTFEを用いて、昇温速度20℃/分を昇温速度10℃/分に変更した以外は上記と同様の操作により、示差熱曲線を得た(参考例2:図4参照)。得られた示差熱曲線においては、上記比(h2/h1)は1.09だった。
h2がより大きいほうが、物性は良好であった。
なお2017年09月28日に出願された日本特許出願2017-187578号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1
図2
図3
図4