(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066269
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】細菌検査装置および細菌検査方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20220421BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220421BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/06
G01N33/48 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026351
(22)【出願日】2022-02-24
(62)【分割の表示】P 2018072303の分割
【原出願日】2018-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内保 裕一
(72)【発明者】
【氏名】植松 千宗
(72)【発明者】
【氏名】小出 哲士
(57)【要約】
【課題】輝度値変化を利用し、画像全体に細菌が増殖した後の細菌の増殖曲線を推定する技術を提供する。
【解決手段】本開示による細菌検査装置は、菌の画像ごとの輝度値の特徴量として、平均値、中央値および最頻値のうち少なくとも1つを含む特徴量を算出し、輝度値の特徴量の変化が閾値を超えた場合に、複数のウェルのそれぞれのウェルにおける画像から輝度値の特徴量の傾きを算出し、傾きが予め決められた大きさ以上の変化をした時刻を基準時刻とし、基準時刻以降の細菌面積について、以下の式を用いて補正して、細菌の増殖曲線を推定し、推定された細菌の増殖曲線を前記表示装置に表示させる、細菌検査装置について提案する。
A’
T=-k×(L
T-L
0)×s+A
T0
ここで、基準時刻T0とその直前の時刻の細菌面積の傾きをs、基準時刻T0での細菌面積をA
T0、現在の時刻Tの輝度特徴量をL
T、基準時刻の輝度特徴量をL
T0、輝度値の特徴量に固有な比例定数をk、補正後の細菌面積A’
Tとする。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌の同定や薬剤感受性を検査する細菌検査装置であって、
抗菌薬と細菌を含む培養液を保持する複数のウェルのそれぞれにおける菌の画像を、複数の時点において取得する顕微鏡光学系と、
前記菌の画像ごとに輝度値の特徴量を算出する演算部と、
前記輝度値の特徴量の時間的変化に基づいて、前記ウェルにおける前記細菌の増殖を判別する判別部と、
前記判別部による判別結果を表示する表示装置と、を備え、
前記演算部は、前記輝度値の特徴量として、平均値、中央値および最頻値のうち少なくとも1つを含む特徴量を算出し、前記輝度値の特徴量の変化が閾値を超えた場合に、前記複数のウェルのそれぞれのウェルにおける画像から前記輝度値の特徴量の傾きを算出し、前記傾きが予め決められた大きさ以上の変化をした時刻を基準時刻とし、前記基準時刻以降の細菌面積について、以下の式を用いて補正して、細菌の増殖曲線を推定し、前記推定された細菌の増殖曲線を前記表示装置に表示させる、細菌検査装置。
A’T=-k×(LT-L0)×s+AT0
ここで、基準時刻T0とその直前の時刻の細菌面積の傾きをs、基準時刻T0での細菌面積をAT0、現在の時刻Tの輝度特徴量をLT、基準時刻の輝度特徴量をLT0、輝度値の特徴量に固有な比例定数をk、補正後の細菌面積A’Tとする。
【請求項2】
請求項1において、
前記基準時刻は、前記複数のウェルのそれぞれのウェルにおける培養初期と当該ウェルの次の撮像時刻における前記輝度の特徴量の傾きに対して、前記傾きが予め決められた大きさ以上の変化をした時刻である、細菌検査装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記輝度値の特徴量の変化が閾値を超えない場合には、前記補正を行わずに細菌面積の時間変化を算出し、細菌の増殖曲線を前記表示装置に表示させる、細菌検査装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記演算部は、前記菌の画像の前記輝度値の特徴量に加えて、前記菌の画像内の前記細菌の面積、円形度、周長および個数のうち少なくとも1つを含む形状特徴量を取得し、前記判別部は、前記輝度値の特徴量と前記形状特徴量とを複数組み合わせて、前記細菌の増殖および阻止について判別する、細菌検査装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記演算部は、前記菌の画像に対して最小値フィルタ処理を施して前記菌のエッジを強調した後に前記輝度値の特徴量を算出する、細菌検査装置。
【請求項6】
細菌の同定や薬剤感受性を検査する細菌検査方法であって、
顕微鏡光学系を用いて、抗菌薬と細菌を含む培養液を保持する複数のウェルのそれぞれにおける菌の画像を、複数の時点において取得することと、
演算部が、前記菌の画像ごとに輝度値の特徴量を算出することと、
判別部が、前記輝度値の特徴量の時間的変化に基づいて、前記ウェルにおける前記細菌の増殖を判別することと、
表示装置が、前記判別部による判別結果を表示することと、を含み、
前記演算部は、前記輝度値の特徴量として、平均値、中央値および最頻値のうち少なく
とも1つを含む特徴量を算出し、前記輝度値の特徴量の変化が閾値を超えた場合に、前記複数のウェルのそれぞれのウェルにおける画像から前記輝度値の特徴量の傾きを算出し、前記傾きが予め決められた大きさ以上の変化をした時刻を基準時刻とし、前記基準時刻以降の細菌面積について、以下の式を用いて補正して、細菌の増殖曲線を推定し、前記推定された細菌の増殖曲線を前記表示装置に表示させる、細菌検査方法。
A’T=-k×(LT-L0)×s+AT0
ここで、基準時刻T0とその直前の時刻の細菌面積の傾きをs、基準時刻T0での細菌面積をAT0、現在の時刻Tの輝度特徴量をLT、基準時刻の輝度特徴量をLT0、輝度値の特徴量に固有な比例定数をk、補正後の細菌面積A’Tとする。
【請求項7】
請求項6において、
前記基準時刻は、前記複数のウェルのそれぞれのウェルにおける培養初期と当該ウェルの次の撮像時刻における前記輝度の特徴量の傾きに対して、前記傾きが予め決められた大きさ以上の変化をした時刻である、細菌検査方法。
【請求項8】
請求項6において、
前記輝度値の特徴量の変化が閾値を超えない場合には、前記補正を行わずに細菌面積の時間変化を算出し、細菌の増殖曲線を前記表示装置に表示させる、細菌検査方法。
【請求項9】
請求項6において、
さらに、前記演算部が、前記菌の画像内における、前記細菌の面積、円形度、周長および個数のうち少なくとも1つを含む形状特徴量を取得することと、
前記判別部が、前記輝度値の特徴量と前記形状特徴量とを組み合わせて、前記細菌の増
殖および阻止を判別することと、を含む、細菌検査方法。
【請求項10】
請求項6において、
前記演算部は、前記菌の画像に最小値フィルタ処理を施して前記菌のエッジを強調した
後、前記輝度値の特徴量を算出する、細菌検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細菌検査装置および細菌検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症患者に対する抗生物質の濫用により薬剤耐性菌の割合が増加し、それに伴い院内感染の発生件数も増加傾向にある。しかし、利益率の低下のため新規抗生物質の開発は年々減少している。そのため、感染症発生時にその起因菌の菌種同定検査および薬剤感受性検査を実施し、抗生物質を適切に使用することによって、患者の早期回復、院内感染の拡大防止、さらに薬剤耐性菌の出現を抑制することは、極めて重要となっている。
【0003】
病院の細菌検査室で通常実施されている検査方法では、感染症起因菌を培養し、その増殖の有無から菌種の同定と薬剤感受性を判定する。まず、患者から血液、咽頭ぬぐい液、喀痰などの検体を採取し、感染起因菌を単独コロニーで得るための分離培養を1昼夜行う。単独コロニーから細菌懸濁液を調製し、同定培養や薬剤感受性検査のための培養をさらに1昼夜行う。培養後、菌の増殖度を濁度で判定し、感染症起因菌の菌種同定および薬剤感受性の結果が得られる。したがって、薬剤感受性検査の判定結果が得られ、適切な投薬が行われるためは、患者からの検体採取後例えば3日目以降となる。増殖速度が遅く、長時間の培養が必要な感染起因菌においては、さらに日数を要する。この検査結果が判明するまでは幅広い菌種に有効な抗菌剤が使用される場合が多い。そのため、従来に比べてより迅速に菌種同定および薬剤感受性の結果が得られる手法が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1は、迅速に薬剤感受性結果を得るために、顕微鏡を用いた手法について開示している。当該手法においては、細菌の増殖状況を検知するため、顕微鏡画像または、顕微鏡画像から得られる特徴量(菌体数や形態の変化など)を、結果が既知のデータベースと比較する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された顕微鏡画像を用いた細菌の増殖状況を判定する方法では、細菌のエッジを検出し、2値化し、細菌の特徴量を抽出する。細菌の増殖度合いに応じて2値化の閾値が異なることがあるため、2値化は判別分析法等を利用して自動で2値化される。しかし、細菌の増殖が進み、画像全体に細菌が増殖すると、2値化の閾値が適切に設定されなくなる可能性がある。このため、菌の増殖/阻止を正確に判定することができなくなる。
【0007】
また、一般的な細菌検査装置においては、細菌が画像全体に増殖してしまうと、それ以降に細菌が増殖しているかどうかを検知することができない。また、ユーザが細菌面積を利用して細菌の増殖曲線を確認する場合に、自動2値化の影響により細菌面積が減少していると、直感的に増殖かどうかわかりにくくなってしまう。このため、細菌面積が減少したとしても細菌が増殖したか否かの判断を可能にすることが望ましい。
【0008】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、輝度値を細菌の特徴量と組み合わせて、増殖曲線を推定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示は、細菌の同定や薬剤感受性を検査する細菌検査装置であって、抗菌薬と細菌を含む培養液を保持する複数のウェルのそれぞれにおける菌の画像を、複数の時点において取得する顕微鏡光学系と、菌の画像ごとに輝度値の特徴量を算出する演算部と、輝度値の特徴量の時間的変化に基づいて、ウェルにおける前記細菌の増殖を判別する判別部と、判別部による判別結果を表示する表示装置と、を備える。演算部は、輝度値の特徴量として、平均値、中央値および最頻値のうち少なくとも1つを含む特徴量を算出し、輝度値の特徴量の変化が閾値を超えた場合に、複数のウェルのそれぞれのウェルにおける画像から輝度値の特徴量の傾きを算出し、傾きが予め決められた大きさ以上の変化をした時刻を基準時刻とし、基準時刻以降の細菌面積について、以下の式を用いて補正して、細菌の増殖曲線を推定し、推定された細菌の増殖曲線を前記表示装置に表示させる、細菌検査装置について提案する。
A’T=-k×(LT-L0)×s+AT0
ここで、基準時刻T0とその直前の時刻の細菌面積の傾きをs、基準時刻T0での細菌面積をAT0、現在の時刻Tの輝度特徴量をLT、基準時刻の輝度特徴量をLT0、輝度値の特徴量に固有な比例定数をk、補正後の細菌面積A’Tとする。
【0010】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
【0011】
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではないことを理解する必要がある。
【発明の効果】
【0012】
本開示による細菌検査装置によれば、細菌が画像全体に増殖し、自動2値化処理が不適当な閾値設定により細菌検出に誤差が生じた場合でも、細菌の増殖を精度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】判別分析を利用した2値化で細菌を検出した場合の画像と増殖曲線の例を示す図である。
【
図2】本開示の実施形態(全実施形態共通)の細菌検査装置100の概略構成例を示す図である。
【
図3】画像処理部105の内部構成例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態による、画像処理および増殖/阻止判定(画像処理部105の処理の詳細)を説明するためのフローチャートである。
【
図5】細菌の生画像の例と画像処理ステップ300~ステップ326の処理により2値化した画像の例を示す図である。
【
図6】特徴量の例として、画像内の細菌面積と輝度平均値をプロットした結果を示す図である。
【
図7】アンピシリン/スルバクタムの濃度1/0.5μg/mLを含む培地に大腸菌を培養し、0分、180分、360分で撮影した画像を示す図である。
【
図8】
図7と同じ条件で30分毎に6時間撮影した画像を用い、画像内の細菌面積と輝度平均値をプロットした結果を示す図である。
【
図9】濃度2μg/mLのセフォキシチンを含む培地で大腸菌を培養したとき、0、180、360分の顕微鏡画像を示す図である。
【
図10】、
図9の画像に対し、輝度値の平均値、中央値、最頻値の変化をプロットした結果を示す図である。
【
図11】第2の実施形態の細菌検査装置によって実行される画像処理を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図9に示した画像に対して3×3の最小値フィルタ処理を施した場合の輝度最頻値の変化と当該最小値フィルタ処理を施さない場合の輝度最頻値の変化とを比較した結果を示す図である。
【
図13】濃度2μg/mLのアンピシリンを含む培地で大腸菌を培養したときの、0分、180分、および360分の顕微鏡画像を示す図である。
【
図14】
図13の条件の細菌面積の時間変化と、最小値フィルタの有無で輝度最頻値の時間変化を示す図である。
【
図15】細菌面積と輝度値に基づいて細菌面積による増殖曲線を推定する処理を説明するためのフローチャートである。
【
図16】
図9に示した画像の輝度最頻値、補正前の細菌面積、および補正後の細菌面積の時間変化を示す(30分毎に撮影)図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0015】
本実施形態では、当業者が本発明を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本発明の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0016】
(1)顕微鏡画像を用いた検査において細菌の増殖/阻止を正確に判定できなくなってしまう原因について
顕微鏡画像を用いた細菌の増殖状況を判定する方法では、細菌の増殖度合いに応じて2値化の閾値が異なることがあるため、細菌の増殖が進み、画像全体に細菌が増殖すると、2値化の閾値が適切に設定されなくなる可能性がある。そのため、画像内の実際の細菌よりも少なく検出され、細菌が減少しているように見えてしまう場合がある。
【0017】
図1は、判別分析を利用した2値化で細菌を検出した場合の画像と増殖曲線の例を示す図である。
図1を見ると、画像からは細菌が時間と共に増殖していることが明らかであるが、判別分析を利用した2値化で検出した細菌の面積は、200分程度まで増殖した後、一転して減少していることが分かる。このような減少傾向の結果、抗菌薬の効果により減少しているのか、画像処理の効果により減少しているかの判断が困難な場合がある。
【0018】
本実施形態は、このような従来の細菌の増殖判定方法の改良案を提案するものである。より具体的には、顕微鏡画像の輝度値の統計的特徴量(統計的評価値ともいう。例えば、平均値、中央値、最頻値など)の時間変化に基づく細菌の増殖判定が開示される。
【0019】
(2)第1の実施形態
第1の実施形態は、検査プレートの各ウェルの画像を取得し、各ウェルの画像の輝度値(例えば、輝度平均値)の時間変化に基づいて細菌の増殖の有無を判定する形態について開示する。
【0020】
<細菌検査装置の構成例>
図2は、本開示の実施形態(全実施形態共通)の細菌検査装置100の概略構成例を示す図である。細菌検査装置100は、照明部101と、検査プレート102と、対物レンズ103と、撮像部104と、画像処理部105と、制御部106と、を備えている。
【0021】
検査プレート102は、複数のウェルを有し、各ウェルには細菌が増殖するための培地成分および検査対象の抗菌薬が保持されている。各ウェルに対して検査対象の細菌を含む菌液が分注された後、検査プレート102は細菌検査装置100へ導入される。細菌検査装置100は細菌が増殖できる温度、例えば37℃に温度調整されている。
【0022】
照明部101は、検査プレート102に光を照射する。照明部101は、ランプなどの白色光や、特定の波長域の光を含むLED等の光源を利用してもよい。検査プレート102内の各ウェルを通った光は、対物レンズ103により集光され、撮像部104で画像として測定される。細菌の増殖の様子が観察できるように、対物レンズ103の焦点は検査プレート102のウェル底面に合わせることが望ましいが、底面から離れた培養液内部に合わせて撮影してもよい。また、ウェル内の複数の地点の画像を取得してもよいし、検査プレート102のウェル底面から離れた培養液内部の画像を複数枚測定してもよい。画像の撮影は、あらかじめ設定された時間間隔、例えば30分ごとに実行される。得られた画像は画像処理部105で処理され、制御部106に送られる。
【0023】
制御部106は例えば一般的なコンピュータおよび表示装置などで構成され、オペレータの指示に応じて、測定条件の設定、測定の開始および中止、結果の閲覧が可能となる。測定条件の設定は、検査プレート102の抗菌薬の種類および濃度の配置、検査する菌種の情報、画像の測定間隔や判別時間などを設定する。
【0024】
<画像処理部の内部構成例>
図3は、画像処理部105の内部構成例を示す図である。画像処理部105は、演算部1051と、記憶部1053と、判別器(判別部)1055と、を備えている。
【0025】
演算部1051は、撮影された画像を処理し、特徴量を抽出する。判別器1055は、演算部1051から取得した特徴量を用いて、抗菌薬が無効で細菌が増殖している(“増殖”)か、抗菌薬が有効で細菌の増殖が抑制されている(“阻止”)か判別する。
【0026】
記憶部1053は、測定された画像および特徴量、判別式を保存する。判別式は、あらかじめ測定された画像、特徴量、および従来法の結果などの教師データから学習し、作成される。また、従来法の結果とは、18~24時間後に濁度計で判定された、増殖または阻止の結果である。この従来法の結果を「正解」とし、画像の測定結果および抽出された特徴量を用いて学習し、判別式は作成される。判別式は、抗菌薬の種類または菌種ごとに作成される。発育速度や抗菌薬に対する応答が類似の菌種で学習された教師データを用いて判別してもよい。また、類似の菌種で教師データをまとめて判別式を作成してもよい。
【0027】
判別器1055は、特徴量を取得すると、抗菌薬に対応した判別式を用いて、当該ウェルの増殖/阻止を判別する。このとき、撮像部104から入力された画像には、菌種と抗菌薬の情報が含まれているため、適当な判別式が記憶部1053から選択される。画像を用いた増殖/阻止の判別は、あらかじめ設定された時点、例えば培養後3、6、18時間後などで制御部106に出力される。制御部106では、撮影された生画像や画像処理後の画像、増殖/阻止の判別結果などが閲覧できる。
【0028】
<画像処理部105における処理の詳細>
図4は、第1の実施形態による、画像処理および増殖/阻止判定(画像処理部105の処理の詳細)を説明するためのフローチャートである。なお、以降の説明において、画像は8bitのグレースケール画像とし、画素値0が黒、255が白とする。8bit以外のグレースケール画像や、白黒反転した画像でも、当該処理は有効(適用可能)である。カラー画像も、グレースケール画像へ変換することで同様の処理が可能となる。
【0029】
(i)ステップ300
演算部1051は、撮像部104から、撮影された画像を取得する(S300)。演算部1051での画像処理では、2つの独立した画像処理により特徴量が抽出される。1つは輝度値に基づく特徴量(撮像画像の各画素の輝度値に関する統計的特徴量)であり、もう1つは既知の手法による特徴量(2値化画像に基づく特徴量)である。それぞれの特徴量抽出処理は、例えば、並行して実行することができる。
【0030】
(ii)ステップ310
演算部1051は、各画素の輝度値から、画像内の輝度値ヒストグラムを算出する。
【0031】
(iii)ステップ312
演算部1051は、ステップ310で得られた輝度値ヒストグラムから輝度値の特徴量として、平均値、中央値、最頻値などの特徴量を算出し、これらの輝度値の特徴量を記憶部1053に記憶する。
【0032】
(iv)ステップ320
演算部1051は、まず対象の画像に対して分散フィルタ処理を実行する。分散フィルタ処理は、注目する画素の値を、その画素の周囲の画素の分散値に置き換える処理である。細菌がある画素では、細菌がいない周囲の画素との変化が大きくなるため、細菌のエッジを検出することができる。分散フィルタ以外のエッジ検出技術、例えばソーベルフィルタなどを用いてもよい。
【0033】
(v)ステップ322
演算部1051は、分散フィルタ処理された画像に対してガウシアンフィルタ処理を実行する。ガウシアンフィルタ処理は、検出したエッジを平滑化するために行う処理である。その後、処理後の画像を見やすくするため、任意で白黒反転処理を行う。白黒反転により、細菌が黒、背景が白と表示される。
【0034】
(vi)ステップ324
続いて、演算部1051は、その後の2値化処理のため、白黒の閾値を設定する。画像内の細菌の明るさやコントラストは、菌種や画像内の細菌数によって変化するため、同じウェルの画像であっても、培養が進むに従って変化する場合がある。一定の閾値で2値化した場合には、画像内の細菌を十分に認識できず、細菌数などに誤差が生じることがある。したがって、同一ウェルであっても、画像毎に自動で判別する必要がある。本実施形態では、公知である判別分析を利用した方法で2値化の閾値を設定する。閾値の自動設定法は、公知の別の方法を利用してもよい。
【0035】
(vii)ステップ326
演算部1051は、ステップ324で設定された閾値に基づいて2値化処理を実行し、2値化された画像を記憶部1053に保存する。
【0036】
(viii)ステップ328
演算部1051は、2値化された画像から、細菌として黒で認識された部分について特徴量を抽出する。特徴量として、画像内の細菌数、細菌面積、細菌の周長、細菌の真円度、短軸・長軸の長さおよびそれらの比、などが算出される。
【0037】
(ix)ステップ330
演算部1051は、ステップ312で抽出した特徴量(輝度値の特徴量)とステップ328で抽出した特徴量(2値化画像に基づく特徴量)のそれぞれについて、同一ウェルからの時間変化を利用した新たな特徴量を算出する。この新たな特徴量としては、最大値、最小値、傾き、特定の2つの時刻間の特徴量の差分、最大値や最小値が得られた時間、などが算出される。これらの新たな特徴量も、記憶部1053で保存される。測定したデータは、再度教師データとして利用することも可能である。教師データを増やすことで、判別器1055の判定精度を向上させることができる。
【0038】
以上の特徴量抽出までの工程(ステップ300~ステップ330)は、撮影直後の画像をリアルタイムに処理してもよいし、測定後にまとめて複数の画像を処理してもよい。
【0039】
(x)ステップ340
判別器1055は、演算部1051から新たな特徴量を取得し、ウェルごとに判別結果を出力する。まず、判別器1055は、輝度値の特徴量(輝度値に関する統計的特徴量)を用いて、細菌の増殖が起こっているか判別する。本実施形態では、輝度値の統計的特徴量として、平均値が使用される。あらかじめ設定された判別時刻で撮影された画像から輝度平均値を算出し、培養初期の輝度平均値との差分を算出する。ここで、培養初期とは、培養開始後0~1時間程度とする。閾値は、教師データにより学習して設定される。画像全体に細菌が増殖した場合、細菌は焦点が合っている底面よりも上部でも増殖が進む。細菌の増殖が進むと、透過する光量が減少するため、画像全体の輝度値が黒に近づき、輝度平均値は減少する。したがって画像の輝度平均値が、ある閾値以下に減少したときに、確実に細菌が増殖していると判別することができる。細菌の増殖が画像全体に至らない場合には、輝度平均値の変化は非常に少ないため、誤って細菌を増殖と判別することはない。
【0040】
(xi)ステップ350
判別器1055は、判別する時刻の輝度平均値と、培養初期の輝度平均値の差分の絶対値が閾値よりも大きい場合、増殖と判定する。
【0041】
(xii)ステップ360
一方、判別器1055は、輝度平均値の差分が閾値以下の場合は、細菌の特徴量を用いた判別式により、増殖または阻止と判別する。細菌の特徴量としては、細菌数や細菌面積の最大値、細菌面積の傾き、真円度の最小値など、1ないし複数の特徴量を用いて判別式を作成する。判別式は、抗菌薬や菌種により異なる特徴量を用いることが好ましい。
【0042】
従来法の結果に対して一致率が高い判別式を使用することで精度よく、かつ迅速に判別可能となる。判別式による判別の結果、増殖(ステップ350)または阻止(ステップ370)の結果が制御部106に出力される。
【0043】
その後、各抗菌薬の濃度ごとに増殖/阻止の結果が得られる。そして、阻止となった最小の抗菌薬濃度が、最小発育阻止濃度(MIC: Minimum Inhibitory concentration)としてとして出力される。さらに、ブレイクポイント表と比較して、対象の菌が抗菌薬に対して感受性(S)か、中間(I)か、耐性(R)か、を判定する。
【0044】
<測定例:実施例1>
図5は、細菌の生画像の例と画像処理ステップ300~ステップ326の処理により2値化した画像の例を示す図である。当該測定例では、アンピシリン/スルバクタムの濃度4/2μg/mLを含む培地で大腸菌を培養し、0分、180分、360分で撮影した。2値化画像において黒色の部分が細菌と認識されている部分である。さらに、
図5と同じ条件で30分毎に6時間撮影した画像から、S312およびS328で特徴量を抽出した。
図6は、特徴量の例として、画像内の細菌面積と輝度平均値をプロットした結果を示す図である。
図6に示されるように、細菌面積は300分まで増加しているが、その後は減少している。一方、輝度平均値は培養初期から6時間までほとんど変化がない。ここから、ステップ330における時間変化に基づく特徴量の例として、最大細菌面積や各測定時刻での傾きが算出される。例えば、判別時間が6時間のとき、6時間時点での細菌面積の最大値、6時間とその直前の細菌面積から求められる傾き、6時間での輝度平均値と0時間での輝度平均値の差分、などを算出する。
【0045】
これらの特徴量を用いて、前記の判別手順S340およびS350に従い、増殖/阻止が判別される。
図4および5では、輝度平均値の差分の絶対値が2.2となり、閾値以下であるため、増殖とは判断されず、判別手順S360に進む。続いて、前記の細菌面積最大値や傾きを判別器に入力し、増殖/阻止を判別する。この結果は、阻止と判定された。18時間後に濁度で得られた従来法の結果は阻止であり、画像から得られた結果と一致した。
【0046】
一方、
図7は、アンピシリン/スルバクタムの濃度1/0.5μg/mLを含む培地に大腸菌を培養し、0分、180分、360分で撮影した画像を示す図である。また、
図8は、
図7と同じ条件で30分毎に6時間撮影した画像を用い、画像内の細菌面積と輝度平均値をプロットした結果を示す図である。
図8に示されるように、細菌面積の経時変化から120分付近で立ち上がりはじめている。240分で細菌面積は最大値となるが、その後は一転して減少している。そして、270分時点での輝度平均値の差分絶対値が閾値を超えたため、上記ステップ340により、増殖と判定される。18時間後の濁度による従来法の結果でも増殖と判定され、両判別法による判別結果は一致した。
【0047】
このように、輝度平均値を用いることで、精度良く細菌の増殖を判定することができる。輝度値を利用しない場合には、細菌面積が見かけ上減少することで、270分以降で阻止と判定されていたが、輝度平均値による判定により増殖と正しく判定することができる。また、各画素の輝度値の平均値を利用することで、画像を複数の領域に分割して2値化するといった処理なく増殖が判定できるため、計算時間およびコストが小さくできるという効果もある。したがって、迅速かつリアルタイムに細菌の増殖/阻止を判別することができる。
【0048】
なお、輝度値を利用した判別には、平均値以外に最頻値や中央値を用いることができる。最頻値や中央値を用いて判別しても平均値による判別と同様の効果が得られる。
図9は、濃度2μg/mLのセフォキシチンを含む培地で大腸菌を培養したとき、0、180、360分の顕微鏡画像を示す図である。また、
図10は、
図9の画像に対し、輝度値の平均値、中央値、最頻値の変化をプロットした結果を示す図である。同じ画像であっても、特徴量により変化量は異なり、最頻値が最も大きな変化を示している。例えば、
図9の360分の画像で特に顕著に見られるが、βラクタム系抗菌薬などの場合に、画像内で一部の細菌が白色となって撮影される場合がある。このような場合には、輝度値の平均値や中央値では、培養初期に比べたときに変化量が少なくなってしまう。一方、最頻値を用いればこのような影響を受けにくいことが分かった。培養初期の最頻値は、細菌数が少ないため、背景となる培地部分の輝度値を表している。細菌が画像全体に増殖すると、培地部分がなくなり、輝度値の異なる細菌部分が大多数となる。白く撮影される細菌もあるが、大多数の細菌は黒く撮影されるため、最頻値は減少する。このため、迅速かつ確実に増殖を検出可能となる。
【0049】
(3)第2の実施形態
第2の実施形態は、各ウェルの画像に対して最小値フィルタ処理を施し、各画像の輝度値の時間的変化に基づいて、より迅速に細菌の増殖を判定する形態について開示する。
第2の実施形態による細菌検査装置について、第1の実施形態による細菌検査装置100(
図2参照)と同様の構成(例)を用いることができる。
【0050】
図11は、第2の実施形態の細菌検査装置によって実行される画像処理を説明するためのフローチャートである。
図11において、
図4と同一の符号を付した部分については詳細な説明は省略する。
【0051】
図11において、第1の実施形態の処理との差異は、
図4の処理にステップ1101が追加されている点である。つまり、第2の実施形態では、輝度値ヒストグラムを算出する処理(ステップ310)の前に、画像に対して最小値フィルタ処理を実行するステップ1101が追加されている。
【0052】
ステップ1101における最小値フィルタ処理は、注目する画素の輝度値を、周辺の画素の最小値で置き換える処理である。細菌のエッジ(輪郭)を太く強調する効果が得られる。そして、この最小値フィルタ処理をしてから輝度値ヒストグラムを算出し、輝度値の特徴量を抽出する。このようにすると、最小値フィルタ処理がある場合は、最小値フィルタ処理がない場合に比べて、特徴量の変化量が大きく強調できる。したがって、より迅速に細菌の増殖を判別できるようになる。
【0053】
<測定例:実施例2>
図12は、
図9に示した画像に対して3×3の最小値フィルタ処理を施した場合の輝度最頻値の変化と当該最小値フィルタ処理を施さない場合の輝度最頻値の変化とを比較した結果を示す図である。
【0054】
図12に示されるように、最小値フィルタ処理を加えることで、輝度最頻値がより大きく変化している。したがって、より迅速に増殖を判定することができる。この場合には、最小値フィルタ処理によって30分以上早く細菌の増殖を判別できる。
【0055】
図13は、濃度2μg/mLのアンピシリンを含む培地で大腸菌を培養したときの、0分、180分、および360分の顕微鏡画像を示す図である。
図14は、
図13の条件の細菌面積の時間変化と、最小値フィルタの有無で輝度最頻値の時間変化を示す図である。
図14に示されるように、細菌が画像全体に増殖していない場合には、最小値フィルタの有無に関係なく、輝度最頻値に変化はない。したがって、最小値フィルタ処理によって、細菌の増殖を誤検知することはないため、最小値フィルタ処理によるメリット(特徴量の変化量の強調)を最大限に享受することができる。
【0056】
(4)第3の実施形態
第3の実施形態は、輝度値変化を利用し、画像全体に細菌が増殖した後の細菌の増殖曲線を推定する形態について開示する。
【0057】
第3の実施形態による細菌検査装置についても、第1の実施形態による細菌検査装置100(
図2参照)と同様の構成(例)を採ることができる。また、第3の実施形態による細菌検査装置100においては、第1の実施形態による画像処理(
図4参照)を実行した後に、細菌の増殖曲線の推定処理(
図15参照)を実行する。
図2および
図4と同一の符号を付した部分については詳細な説明を省略する。
【0058】
<細菌の増殖曲線の推定処理の必要性>
一般的な細菌検査装置においては、細菌が画像全体に増殖してしまうと、それ以降に細菌が増殖しているかどうかを検知することができない。また、ユーザが制御部106で細菌面積を利用して細菌の増殖曲線を確認する場合に、自動2値化の影響により細菌面積が減少していると、直感的に増殖かどうかわかりにくくなってしまう。このため、細菌面積が減少したとしても細菌が増殖したか否かの判断を可能にすることが望ましい。
【0059】
そこで、本実施形態は、輝度値を細菌の特徴量と組み合わせて、増殖曲線を推定することを提案している。
【0060】
<細菌面積の増殖曲線推定処理>
本実施形態では、輝度最頻値と細菌面積を組み合わせることにより、細菌面積の増殖曲線を推定している。
図15は、細菌面積と輝度値に基づいて細菌面積による増殖曲線を推定する処理を説明するためのフローチャートである。以下、細菌面積の増殖曲線推定処理について説明する。
【0061】
(i)ステップ1401
画像処理部105は、
図4の画像処理に基づいて、入力された画像を用い、各特徴量(輝度最頻値および最近検知後の特徴量)を算出する。
【0062】
(ii)ステップ1403
画像処理部105は、培養初期の輝度最頻値に対して、ある時刻で撮影された画像の輝度最頻値の差分の絶対値が、あらかじめ設定された閾値を超えたか否か判断する。当該輝度最頻値の差分の絶対値が閾値以下の場合、処理はステップ1411に移行する。当該輝度最頻値の差分の絶対値が閾値よりも大きい場合、処理はステップ1421に移行する。当該輝度最頻値の差分の絶対値が閾値よりも大きい場合には、細菌の検知が実際よりも少なくなったと判断される。当該予め設定された閾値は、例えば、教師データにより学習し、設定することができる。
【0063】
(iii)ステップ1411
画像処理部105は、輝度最頻値の差分絶対値が閾値以下の場合、抽出された細菌面積をそのまま用いる。
【0064】
(iv)ステップ1421
画像処理部105は、輝度最頻値の差分の絶対値が閾値を超えた場合、同一ウェルで撮影された画像から、各時刻の輝度最頻値の傾きを計算する。なお、培養初期(0~1時間まで)では菌数が少ないことが明らかであるため、傾きは計算しない。
【0065】
(v)ステップ1423
画像処理部105は、培養初期と次の撮影時刻の傾き(例えば、1時間と1.5時間との輝度最頻値の傾き)に対して、一定以上の傾きの変化となった時刻を基準時刻に設定する。例えば、培養初期での傾きの10倍以上の傾きとなった時刻が基準時刻とされる。
【0066】
(vi)ステップ1425
画像処理部105は、基準時刻以降の細菌面積について、式(1)に示される補正式を用いて、細菌面積を補正する。
A’T=-k×(LT-L0)×s+AT0 ・・・・ (1)
式(1)では、基準時刻T0とその直前の時刻の細菌面積の傾きをs、基準時刻T0での細菌面積をAT0、現在の時刻Tの輝度最頻値をLT、基準時刻の輝度最頻値をLT0、輝度値の特徴量に固有な比例定数をkとし、補正後の細菌面積A’Tを推定する。つまり、細菌面積は、基準時刻まではほぼ正確に検出できているとの仮定と、基準時刻直後も対数増殖期であると考えられる。このことから、ほぼ同等の増殖速度で細菌は増殖していると仮定し、増殖曲線を推定する。その後の細菌の増殖速度は、基準時刻の輝度値からの変化量にほぼ比例すると考えられるため、輝度値の差分に傾きをかけることで細菌面積が推定される。細菌の増殖が飽和し、静止期となると細菌の増殖速度が低下するため、輝度値の変化量も少なくなる。
【0067】
(vii)ステップ1431
画像処理部105は、細菌面積の変化を制御部106に出力する。制御部106は、生成された増殖曲線を表示装置の表示画面に表示する。これにより、ユーザは、増殖曲線を確認することができるようになる。
【0068】
<測定例:実施例3>
図16は、
図9に示した画像の輝度最頻値、補正前の細菌面積、および補正後の細菌面積の時間変化を示す(30分毎に撮影)図である。
【0069】
まず、輝度最頻値の変化量の絶対値は、240分まで閾値よりも小さい値であったため、240分までの細菌面積はそのまま出力される。次に、60分以降の各時間の輝度最頻値の傾きを算出する。この場合、60分と90分の輝度最頻値の傾きを基準とし、10倍以上の傾きの変化となった210分を基準時刻とする。したがって、210分を基準時刻に、240分以降の細菌面積が補正される。ここで、一度240分の細菌面積は出力されているが、270分で輝度最頻値が閾値を超えたため、さかのぼって細菌面積を補正する。つまり、240分撮影後時点では、そのままの細菌面積が出力されるが、270分撮影後では、細菌面積は補正される。このようにすることで、2値化処理の影響による細菌面積の減少のみを補正することができる。
【0070】
240分以降の細菌面積の補正には、180分-210分の傾きと、基準時刻である210分の細菌面積A
T0をそれぞれ用いた。補正式(上記式(1))を用いて、
図16に示す補正後の増殖曲線が得られた。このように、細菌面積の増殖曲線が輝度最頻値を組み合わせることで推定でき、細菌の増殖の様子が視覚的にわかりやすく表示できる。また、画像全体に細菌が増殖したとき、増殖の様子は画像だけでは推定が困難だが、輝度値を用いることで、その後増殖しているかどうかを推定することができる。
【0071】
(5)まとめ
(i)各実施形態は、細菌の同定や薬剤感受性を検査する細菌検出装置について開示する。当該細菌検査装置は、抗菌薬と細菌を含む培養液を保持する複数のウェルのそれぞれにおける菌の画像を、複数の時点において取得する顕微鏡光学系と、菌の画像ごとに輝度値の特徴量を算出する演算部と、輝度値の特徴量の変化に基づいて、ウェルにおける細菌の増殖を判別する判別部と、判別部による判別結果を表示する表示装置と、を備える。ここで、演算部は、上記輝度値の特徴量として、平均値、中央値および最頻値のうち少なくとも1つを含む特徴量を算出する。従来は、細菌の形状の特徴量(細菌の面積、周長、円形度、個数の少なくとも1つ)によって細菌の増殖および阻止を判別していたが、本実施形態では輝度値の特徴量に基づいて増殖の有無を判定するので、確実にかつ精度良く細菌の増殖を検知することができるようになる。
【0072】
本実施形態では、菌の画像の前記輝度値の特徴量に加えて、菌の画像内の細菌の形状特徴量を取得し、輝度値の特徴量と形状特徴量とを複数組み合わせて、細菌の増殖および阻止について判別するようにする。このように、細菌の形状特徴量に基づく細菌増殖判定を補完的に行うことにより、迅速に細菌の増殖および阻止を検知することができるようになる。
【0073】
第2の実施形態では、菌の画像に対して最小値フィルタ処理を施して菌のエッジを強調した後に輝度値の特徴量を算出する。このようにすることにより、輝度値の特徴量の変化量を強調することができるので、迅速に細菌の増殖を検知することができるようになる。
【0074】
第3の実施形態では、輝度値の特徴量の時間変化に基づいて細菌面積の時間変化を補正することにより細菌の増殖曲線を推定し、この推定された細菌の増殖曲線を表示装置に表示させるようにしている。このようにすることにより、自動2値化の影響によって細菌の面積が減少している場合であっても細菌の増殖判定を精度良く行うことができるようになる。
【0075】
(ii)本開示は、上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、様々な変形例をも包含する。実施形態および実施例は、本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
100 細菌検査装置
101 照明部
102 検査プレート
103 対物レンズ
104 撮像部
105 画像処理部
106 制御部