(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066580
(43)【公開日】2022-04-28
(54)【発明の名称】印刷層を備えた基材
(51)【国際特許分類】
B41M 1/40 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
B41M1/40 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038484
(22)【出願日】2022-03-11
(62)【分割の表示】P 2018095740の分割
【原出願日】2018-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017098467
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 啓佑
(57)【要約】
【課題】屈曲部を有する屈曲基材であって、印刷不良のない均質な印刷層を備えた基材を提供する。
【解決手段】基材10は、少なくとも1つの屈曲部11bを有する被印刷面11と、被印刷面11の屈曲部11bに形成された印刷層と、を備え、屈曲部11bは、ひねり構造を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの屈曲部を有する被印刷面と、前記被印刷面の前記屈曲部に形成された印刷層と、を備え、
前記屈曲部は、ひねり構造を有することを特徴とする印刷層を備えた基材。
【請求項2】
前記ひねり構造は、曲率半径が異なる部位が存在する、請求項1に記載の印刷層を備えた基材。
【請求項3】
前記ひねり構造は、前記屈曲部の開始点を結んだ仮想線と、前記基材の端面による一辺との交差角εが、0°<ε<90°となる構造である、請求項1又は請求項2に記載の印刷層を備えた基材。
【請求項4】
前記屈曲部は、二個以上の異なる曲率半径の曲面を有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の印刷層を備えた基材。
【請求項5】
少なくとも1つの前記屈曲部は、被印刷面が凹んでいる凹曲形状である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の印刷層を備えた基材。
【請求項6】
さらに基材が被印刷面に向けて凸である凸曲形状を備える請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の印刷層を備えた基材。
【請求項7】
前記基材は、更に平坦部を有し、前記印刷層の光学濃度は、平坦部と前記屈曲部とでいずれも4以上である請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の印刷層を備えた基材。
【請求項8】
前記屈曲部の曲げ深さは、3mm以上である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の印刷層を備えた基材。
【請求項9】
前記屈曲部の曲率半径は、4000mm以下である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の印刷層を備えた基材。
【請求項10】
前記印刷層の厚さの分布は、印刷層の平均厚さに対して20%以内である請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の印刷層を備えた基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷層を備えた基材に関する。
【背景技術】
【0002】
曲面形状の屈曲部を有する基材にスクリーン印刷する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の印刷方法においては、屈曲部を有する基材の被印刷面上部にスクリーン版を配置し、スキージによりスクリーン版を押圧して、被印刷面を印刷している。このスクリーン版は、ステンレス等の金属材料、ナイロンやポリエステル等を含む樹脂材料からなるメッシュ材料で構成される。
【0003】
スクリーン版は、印刷対象である基材が屈曲部を有する場合、基材の屈曲形状と同様の形状に形成される。その場合、スクリーン版は、屈曲部における版形状を維持するため、スクリーン版の屈曲部分を、他の部分よりも高い張力を付与した状態でフレームに固定される。
【0004】
しかし、スクリーン版の張力が大きい屈曲部においては、スキージを基材に向けて押圧した際、スキージによるスクリーン版の押し込み量が不足する。その場合、スクリーン版が屈曲した基材の被印刷面に接触しない又は接触圧が極端に小さくなる現象を生じ、かすれ、抜け、欠け等の所望量のインクが被印刷面に形成されない印刷不良を生じるおそれがある。
【0005】
そこで、屈曲部を有する基材の被印刷面を印刷する場合には、基材の平面部と屈曲部とを分け、それぞれの部位を別々に印刷すれば上記の印刷不良を回避できる。しかし、その場合でも、異なる印刷パス同士の重なり部分で印刷層の厚さに段部が生じ、均一な厚さの印刷層を得るのが極めて難しい。また、印刷位置を合わせることも非常に困難となる。更に、印刷工程自体も煩雑となってしまう不利がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、屈曲部を有する基材であって、印刷不良のない均質な印刷層を備えた基材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
少なくとも1つの屈曲部を有する被印刷面と、前記被印刷面の前記屈曲部に形成された印刷層と、を備え、
前記屈曲部は、ひねり構造を有することを特徴とする印刷層を備えた基材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈曲部を有する屈曲基材であっても、印刷不良のない均質な印刷層を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1構成例の印刷装置であって、スクレーパが回転及び変位して印刷材料をスクリーン版上に塗り広げる様子を示す一部断面側面図である。
【
図4】2以上の異なる曲率半径の屈曲部を有する基材の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図6】一つの屈曲部のみからなる基材を模式的に示す断面図である。
【
図8】(A)は載置台の他の構成例を示す平面図であり、(B)は(A)の概略的な側面図である。
【
図10】
図9に示す印刷版をV方向から見た印刷版下側面の斜視図である。
【
図13】
図9のXIII-XIII線断面図である。
【
図14】第1構成例の印刷装置であって、スキージが回転及び変位して印刷する様子を示す一部断面側面図である。
【
図15】(A)~(C)はスキージにより被印刷面へ印刷材料を押し出す工程を段階的に示す工程説明図である。
【
図16】(A),(B)は屈曲部における押し込み量の不足を解消する様子を概略的に示す説明図である。
【
図17】(A)は印刷後の基材の一部外観斜視図、(B)は(A)のXVII-XVII線断面図である。
【
図18】第2構成例の印刷装置における、スクリーン版とスキージとの関係を示す模式的な要部上視図である。
【
図19】成形処理により形成した板状ガラスの斜視図である。
【
図20】実施例に係る印刷層付きガラスの屈曲部周辺を示す外観図である。
【
図21】比較例に係る印刷層付きガラスの屈曲部周辺を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1構成例>
本発明の基材の製造方法は、以下に説明する基材の製造装置としての印刷装置によって実現される。
【0012】
図1は第1構成例の印刷装置100であって、スクレーパが回転及び変位して印刷材料をスクリーン版上に塗り広げる様子を示す一部断面側面図である。
印刷装置100は、ベース1上に設けられ被印刷面11を有する基材10が載置される載置台3と、載置台3の上方に配置されスクリーン版30を有する印刷版20と、印刷版20上で移動するスクレーパ6及び後述するスキージと、を備える。以後、基材10の肉厚方向(
図1の上下方向)をZ方向、Z方向に垂直でスクレーパ6の移動する方向をY方向、Z方向とY方向に直交する方向をX方向と呼称する。以下、基材10と印刷装置100の各部構成を順次説明する。
【0013】
(基材)
基材10は、被印刷面としての第1の主面11(上面)と、第2の主面12(被印刷面11の反対面である下面)と、を有する。本構成の基材10は、第1の主面11及び第2の主面12が互いに平行であるが、必ずしも平行である必要はない。基材10は、三次元に湾曲した形状を有する屈曲基材であり、第1の主面11は、少なくとも1つの屈曲部を有する。屈曲基材としては特に、後述のようなひねりを含む、又は二以上の曲率半径の異なる曲面が混在する、又は平坦部と屈曲部が混在する屈曲基材を使用できる。「屈曲部」とは、その平均曲率半径が無限大ではない部分を意味し、平均曲率半径が5000mm以下である部位を意味する。その平均曲率半径が5000mm超である部分を「平坦部」とする。なお、基材10は、基材10の全面が湾曲した形状であってもよい。
【0014】
本構成の基材10は、Y方向一端から他端に向けて、XY面に平行な第一平面部10aと、第一平面部10aに接続され、Z方向(図中上方)に屈曲する屈曲部10bと、屈曲部10bに接続され、Y方向他端(図中右方)までの間に延在する第二平面部10cと、を有する。そして、基材10の被印刷面11は、第一平面部10a、屈曲部10b、及び第二平面部10cに対応するように、XY面に平行な第一平面部11a、第一平面部11aに接続され、Z方向(図中上方)に屈曲する屈曲部11bと、屈曲部11bに接続され、Y方向他端(図中右方)までの間に延在する第二平面部11cと、を有する。
【0015】
屈曲部10bの曲率半径は、4000mm以下が好ましく、3000mm以下がより好ましく、1500mm以下が更に好ましく、1000mm以下が特に好ましい。本発明によれば、これまで均一印刷ができなかった曲率半径が小さい屈曲部を有する基材10であっても、均一印刷でき、均一な印刷層を備えた屈曲基材が得られる。屈曲部10bの曲率半径は1mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、10mm以上が更に好ましい。屈曲部の曲率半径が下限値以上であれば印刷材料の表面張力による凝集を無視でき、より均一な印刷層が得られる。
【0016】
図2はひねりのある基材10の外観を模式的に示す斜視図であり、
図3は
図2のIII-III線断面図である。
ここで、第一平面部10a、屈曲部10b、及び第二平面部10cを有する基材10のX方向寸法をa、Y方向寸法をb、肉厚をtとする。また、
図3に示すように、基材10の両端間の距離を曲げ深さhとする。ここで曲げ深さhとは、屈曲部を有する基材の厚さ方向断面視において、2つの下端部Pa,Pbを結ぶ線分Laと、この線分Laと平行となる直線Lbのうち、屈曲部に接する接線との距離をいう。
【0017】
屈曲部10bの曲げ深さhは1000mm以下が好ましく、800mm以下が好ましく、500mm以下がより好ましく、200mm以下が更に好ましい。上限値以下の曲げ深さを有する基材であれば、これまで均一印刷ができなかった曲げの深い屈曲部10bについても、本発明に係る印刷方法を使用することで均一印刷でき、均一な印刷層を備える基材が得られる。屈曲部10bの曲げ深さhは特に制限はないが、3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、10mm以上が更に好ましく、20mm以上が特に好ましい。下限値以上の曲げ深さであれば、従来の平板スクリーン版を使用したスクリーン印刷法などで均一印刷できなかった基材に対し、本発明により均一な印刷層を形成できる。
【0018】
本構成の基材10は、屈曲部10bの形状がX方向に沿って変化する、ひねり構造を有する。ここでいう「ひねり」とは、屈曲部10bにおける曲率半径が一定である必要はなく、後述する開き角γが一定である必要もない、という条件により得られる形状を示す。具体的には、
図2の基材10のYZ平面と平行な面でX軸と垂直となるような切断面を観察した場合、基材10はX方向の各位置で異なる曲率半径と開き角を有する。
【0019】
つまり、基材10の被印刷面11の屈曲部11bは、X方向一端部である
図2の手前側では、曲率半径R1の湾曲形状を有し、X方向他端部である
図2の奥側では、曲率半径R1より小さい曲率半径R2の湾曲形状を有する。この屈曲部11bは、X方向に沿って曲率半径がR1からR2に連続的に変化する形状であり、例えば平板板材にひねりを加えて折り曲げて得られる形状となっている。
【0020】
図2、
図3のような、ひねりのある基材の場合、屈曲部10bのR1とR2との曲率半径は、R1とR2のうち大きい曲率半径を基準にした場合、他方の曲率半径は5%以上異なっていることが好ましい。このような場合に特に、通常のスクリーン印刷では印刷ができない部分が生じやすく、本発明の効果がより発揮される。R1とR2のうち大きい曲率半径を基準にした場合、他方の曲率半径は10%以上異なることがより好ましい。
【0021】
また、
図3に示すように、被印刷面11の第一平面部11aと第二平面部11cのそれぞれの面の延長線が交差する交点で形成される角度を「開き角γ」とする。この基材10の開き角γは、45°以上315°以下が好ましく、90°以上270°以下がより好ましい(180°の場合を除く)。
【0022】
図4は2以上の曲率半径を有する基材10Aの外観を模式的に示す斜視図であり、
図5は
図4のV-V線断面図である。
図4、
図5のような2以上の曲率半径を有する基材10Aの場合、屈曲部10bのうち、最も大きい屈曲部の曲率半径r2を基準にした場合、最も小さい屈曲部の曲率半径r1は5%以上異なっていることが好ましい。このような場合に特に、通常のスクリーン印刷では印刷ができない部分が生じやすく、本発明の効果がより発揮される。曲率半径r2を基準にした場合、曲率半径r1は10%以上異なることがより好ましい。
【0023】
また、
図5に示す基材10Aにおいて、Z方向下端部Pa,Pbを結ぶ線分Laを平行移動して、基材10Aの底部(凹状基材の湾曲内側面)と接する点を接点Oとすると、この基材10Aの開き角γは、接点OからPa,Pbを結ぶ各線分で形成される角度で表される。
【0024】
更に、
図6に示すように、本構成の基材は、基材10Bのように、被印刷面11が一つの屈曲部11bのみからなる構成としてもよい。また、Z方向下端部Pa、Pbを結ぶ線分と平行な線が基材10Bの底部(凹状基材の湾曲内側面)と接する点を接点Oとすると、この基材10Bの開き角γは、接点OからPa,Pbを結ぶ各線分で形成される角度で表される。
【0025】
上記基材10(10A,10Bも同様、以下、基材10と略記する)においては、被印刷面11には、少なくとも一つの屈曲部11bが形成されればよく、屈曲部11bの位置、数、及び形状等は限定されない。例えば、屈曲部11bは、
図1に示すような被印刷面11が凹面となる凹曲形状ではなく、被印刷面11が凸面となる凸曲形状であってもよい。
【0026】
また、基材10の被印刷面11が、少なくとも1つの凸面となる凸曲形状の屈曲部11bと、少なくとも1つの凹面となる凹曲形状の屈曲部11bと、を有する基材10でもよい。例えば、基材10の厚さ方向断面視で、いわゆる「S字形状」を備える基材10が挙げられる。基材10の被印刷面11が、このような凸曲形状と凹曲形状を有する場合でも、印刷版をその被印刷面11に対応させるように作製し、印刷版と基材10との距離を調整しながら印刷することで、均一に印刷層を形成できる。なお、基材10は、均質な凸曲形状と凹曲形状とだけでなく、平坦部を有してもよい。
【0027】
いずれの場合でも、基材10のX方向寸法a、Y方向寸法bは特に限定されない。肉厚tは、基材10の全域で略一定にするのが好ましい。また、肉厚tは、部分的に変化してもよく、基材10の全域で変化しても良い。基材10としては、例えば、aは150mm~1500mm、bは100mm~500mmのような大きい基材が適している。
【0028】
基材10としては、ガラスや、セラミクス、樹脂、木材、金属等の板が挙げられる。ガラスとしては、無色透明の非晶質ガラスの他、結晶化ガラスや色ガラス等が挙げられる。
【0029】
基材10がガラスである場合には、その肉厚tとしては0.2mm以上5mm以下が好ましい。この下限値以上の厚さを備えたガラスであれば、高い強度と良好な質感を兼ね備えた印刷層を備えた基材10を得られる利点がある。上限値以上の厚さを備えたガラスだと、ガラスを載置台の形状に沿って吸着固定しにくくなり、印刷の位置精度が悪くなる。また、ガラスの肉厚tとしては0.5mm以上3mm以下がより好ましく、0.7mm以上3mm以下が更に好ましく、1mm以上2mm以下が特に好ましい。基材10は、印刷層を形成する前に、コロナ処理やプラズマ処理などの表面改質処理を、数秒~数分実施してよい。
【0030】
屈曲基材としてのガラス板は、様々な用途に使用できるが、特に、自動車、電車、船舶、航空機等の輸送機に搭載され、好適に使用できる。これらにはサイズが大きく、曲げ深さhが深く、ひねりを含む、又は、2つ以上の曲率の異なる曲面が混在する、又は、平坦部と屈曲部が混在する、屈曲部を備えるガラスが使用される。このような複雑な構造のガラスを印刷する際に、本発明は極めて有効である。また、ガラス板からなる基材10を、インストルメントパネル、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、ダッシュボード、センターコンソール、シフトノブ等の輸送機の内装部品に使用すると、均一な印刷層を形成できるため当該内装部品に高い意匠性や高級感等を付与でき、輸送機の内装のデザイン性を向上できる。
【0031】
(載置台)
図1に示すように、載置台上面4には、基材10の外周形状と略同一形状の溝5が形成される。基材10は、この溝5に載置された状態で、基材10の被印刷面11が載置台上面4よりもZ方向上方に僅かに突出する。この基材10の突出は、印刷版20のスクリーン版30が載置台上面4等に触れることを防ぎ、基材10の印刷材料による汚染を防ぐ効果がある。基材10の被印刷面11が載置台上面4から突出する突出量は、0.1~1mmが好ましく、0.1~0.5mm以下がより好ましく、0.1~0.2mmが更に好ましい。
【0032】
載置台3は、カーボンや樹脂等からなる。樹脂としては、ベークライト(登録商標)、ピーク(登録商標)、塩化ビニル、ジュラコン(登録商標)等が例示される。これらの樹脂には、導電性を付与するための導電膜等による表面処理や、カーボン等の導電性付与材が混合されてもよい。載置台3の少なくとも載置台上面4の体積抵抗率は、109Ωm以下が好ましく、107Ωm~108Ωmがより好ましい。体積抵抗率が上記範囲であると、印刷時に発生する静電気が抑制され、詳細は後述するが被印刷面11からのスクリーン版30の版離れが向上する。更に、インク等の印刷材料の切れがよくなり、スクリーン版30を汚染させずに印刷精度を向上できる。また、静電気を低減できるため、埃等の異物を引き寄せず、良好な印刷層を形成できる。
【0033】
基材10の載置台3への固定方法は、上述した溝5への嵌合に限らず、真空吸着であってもよく、両者を併用しても構わない。
【0034】
図7は載置台3の平面図である。
図1及び
図7に示すように、載置台上面4の溝5には、複数の真空孔7が開口し、各真空孔7がZ方向に延びて、不図示の真空装置(例えば真空ポンプ等)に接続される。真空装置により真空孔7から外部空気が吸引されると、基材10が載置台3に真空吸着される。
図1に示す載置台3は、基材10の溝5への嵌合と真空吸着との両者を併用した構成例を示している。
【0035】
また、載置台3の上面には、基材10の縁部(本構成では、基材10の一辺)が通過する位置に、窪み9が形成される。この窪み9の開口には、基材10の縁部における第2の主面12が臨んで配置される。窪み9は、基材10の印刷後に、手やへら等を入れて基材10を浮かせ、被印刷面(第1の主面)11に触れずに基材10を載置台3から取り外すために設けられている。したがって、窪み9は、手やへら等を挿入可能な大きさを有し、本構成では、基材10の一辺に沿って形成される。
更に基材10のXY面内等の移動を規制するように載置台3に突き当て部材を設けてもよい。これにより、基材10の端面が固定されて、印刷工程でも基材10が動きにくくなり、印刷精度が向上する。
【0036】
載置台3の基材10の取り出し機構は上記例に限らない。
図8(A)は載置台の他の構成例を示す平面図であり、
図8(B)は
図8(A)の概略的な側面図である。
載置台3Aは、その載置面の中央部に突き上げ棒13を有する。突き上げ棒13は、その頂部で基材10の下面を押し上げて、載置台上面4の溝5から基材10を取り外す。
本構成によれば、基材10のハンドリング性をより向上でき、自動搬送等に適した構成にできる。
【0037】
(印刷版)
載置台3のZ方向上方には、基材10の被印刷面11にスクリーン印刷を実施する印刷版20が配置される。
【0038】
図9は印刷版20の斜視図である。
印刷版20は、開口パターン31を有するスクリーン版30と、スクリーン版30がその内部に支持される枠体40と、スクリーン版30及び枠体40を接続する固定部材50と、を備える。スクリーン版は、中央の内紗と外側の外紗を異なる紗で張ったコンビネーション版でもよい。
【0039】
この印刷版20においては、ひねりを有する屈曲基材、2以上の曲率を備える屈曲部を有する屈曲基材、平坦部と屈曲部とを備える屈曲基材など、それぞれの屈曲基材の第1の主面の形状に合わせてスクリーン版を作成すればよい。
【0040】
枠体40は、Y方向左方端から右方端に向かうに従ってZ方向上方に傾斜して延設される四角形状の上枠41と、上枠41からZ方向下方に突出する版支持部46と、を有する。上枠41は、Y方向左方端部に位置する第一上枠片41aと、第一上枠片41aのX方向両端部に接続してY方向右方端部に延びる第二上枠片41b、第三上枠片41cと、第二上枠片41b、第三上枠片41cのY方向右方端部同士を接続する第四上枠片41dと、を有する。
【0041】
第一上枠片41aには、Z方向下方に伸びる第一側壁42aが形成される。また、第二上枠片41bと第三上枠片41cとの間には、これら第二上枠片41bと第三上枠片41cに対して垂直となるZ方向下方に伸びる第二側壁42b、第三側壁42cが形成される。第一側壁42aのX方向両端部は、第二側壁42b、第三側壁42cに接続される。また、これら第一側壁42a、第二側壁42b、第三側壁42cの下辺43a、43b、43cは、
図1に示す基材10の被印刷面11及び載置台上面4に沿う形状となっている。
【0042】
更に、第二側壁42b、第三側壁42cのX方向外側には、下辺43b,43cをそのままX方向に延設した第一延設部44a、第二延設部44bが形成される。第一延設部44aは、第二側壁42b側の反対側となるX方向端部に形成された第四側壁45aに接続される。また、第二延設部44bは、第三側壁42c側の反対側となるX方向端部に形成された第五側壁45bに接続される。これら第一側壁42a、第四側壁45a、第五側壁45b、第一延設部44a、第二延設部44bは、Z方向下方に突出する版支持部46を構成する。
【0043】
図10は
図9に示す印刷版20をV方向から見た印刷版下側面の斜視図である。
スクリーン版30の外周部に接続された固定部材50は、枠体40の版支持部46に沿って配置され、固定部材50の外周部が版支持部46に接着により固定される。なお、本構成においては、固定部材50をなくした構成としてもよい。
【0044】
スクリーン版30は、第二側壁42bと第三側壁42cとの間で、版面を露出した状態で配置される。第一延設部44aと第二延設部44bは、スクリーン版30と面一にして固定部材50を版面内で変位可能に支持するフレームとなる。このフレームによって、スクリーン版30の三次元状に屈曲した形状が保持される。第二側壁42bと第三側壁42cは、フレームの形状が維持されるのであればなくてもよい。
【0045】
図11はスクリーン版30と固定部材50の平面図である。
固定部材50は、矩形枠状のシートであって、内周部50aがスクリーン版30の周縁に接続され、外周部50bが枠体40に接着剤により固定される。
【0046】
スクリーン版30は、金属材料を用いて構成するのが好ましい。これは、スクリーン版30の屈曲部30bにおける屈曲形状を、スクリーン版30の張力のみで維持するために、高い伸張強度が必要なためである。金属材料としては、ステンレス等が挙げられる。更に、スクリーン版30は、被膜が形成された金属材料を用いて構成するのが好ましい。これは、金属材料のみからなるスクリーン版30よりも伸張強度を高められるからである。被膜としては、ニッケル等の耐腐食性や撥液性を有する金属被膜、フッ素樹脂被膜、等が挙げられるが、耐腐食性や撥液性を有する金属被覆が好ましい。
【0047】
また、固定部材50は、スクリーン版30よりも大きい伸び率を有する樹脂材料又は金属材料からなることが好ましい。つまり、固定部材50の伸展強度はスクリーン版30の伸展強度よりも小さい。樹脂材料としては、テトロン(登録商標)、ナイロン、ポリエステル等が挙げられる。金属材料としては、ステンレス、等が挙げられる。固定部材50の伸び率が大きいことにより、印刷時においてスクリーン版30を元の形状から大きく変位させられる。また、スクリーン版30と基材10の被印刷面11との間隔Sを、枠体40、基材10、及び載置台3の加工や成型精度の誤差を吸収する程度に大きく設定できる。
【0048】
図12は
図9のXII-XII線断面図、
図13は
図9のXIII-XIII線断面図である。
スクリーン版30の屈曲部30bは、
図12、
図13に示すX方向一端部と他端部の曲率半径がR1,R2となるように、X方向に沿って曲率半径が異なる。なお、図示例では、スクリーン版30の下面(被印刷面11との対向面)の曲率半径を示しているが、これはスクリーン版30の厚さが誇張してあるためである。実際の版厚は非常に薄く、スクリーン版30の表裏面の各曲率半径は実質的に同一となる。
【0049】
上記構成の印刷版20は、
図1に示すように、載置台3の上方に配置される。載置台3が設けられるベース1の図中左端側には、Z方向に支持棒55が立設される。また、ベース1の図中右端側には、Z方向に昇降駆動されるピストン56aを備える一対のエアシリンダ56が、載置台3を挟んで配置される。
【0050】
支持棒55にはクランプ57が固定されており、このクランプ57によって第一上枠片41aの上下面が狭持される。このクランプ57は、支持棒55への接続点Pを中心にYZ平面で回転可能に支持される。
【0051】
一対のエアシリンダ56のピストン56aは、印刷版20の上枠41における第二上枠片41bと第三上枠片41cとを、それぞれ下方から支持する。エアシリンダ56は、印刷版20(スクリーン版30、枠体40、及び固定部材50)の高さを調整し、スクリーン版30と基材10との間隔Sを調整する高さ調整機構として機能する。
【0052】
印刷版20は、スクリーン版30による印刷後に、接続点Pを中心として基材10から離間する方向(図中、反時計回り)に回転させることで、印刷位置からの退避が可能となっている。印刷版20を退避位置に移動させた後、印刷した基材10を載置台3から取り外し、次に印刷される基材10を載置台3にセットし、再び印刷版20を印刷位置に戻すことで、次の印刷準備が完了する。
なお、印刷版20の退避動作は、上記の回転機構以外にも、図示しない昇降機構による昇降動作で実施してもよい。
【0053】
ここで、スクリーン版30について、更に詳細に説明する。
スクリーン版30は、枠体40の内周側に固定され、第一延設部44a及び第二延設部44bに沿わせることで、基材10の被印刷面11及び載置台上面4に対応した形状とされる。すなわち、スクリーン版30は、基材10の被印刷面11及び載置台上面4に、略一定の間隔Sで離間させて配置され、基材10の被印刷面11及び載置台上面4をZ方向に平行移動した面内(平行移動後に傾斜させた面内であってもよい)に配置される。つまり、スクリーン版30の面形状は、被印刷面11及び載置台上面4と略同一形状とされる。
【0054】
また、基材10が第一平面部10a、屈曲部10b、及び第二平面部10cを有するのと同様に、スクリーン版30も同様の形状を有する。すなわち、
図12及び
図13に示すように、スクリーン版30は、XY面に平行な第一平面部30aと、第一平面部30aに接続され、Y方向右方端部に向かうに従ってZ方向上方に傾斜して延設される屈曲部30bと、屈曲部30bに接続され、Y方向右方端部に向かうに従ってZ方向上方に傾斜して延設される第二平面部30cと、を有する。なお、スクリーン版30と、被印刷面11及び載置台上面4と、の間隔Sは必ずしも一定でなくてもよい。また、スクリーン版30と、被印刷面11及び載置台上面4と、の形状(曲面形状を含む)は同一形状でなくてもよい。基材10の全面が湾曲した形状である場合には、スクリーン版30も全面が湾曲した形状となる。
【0055】
スクリーン版30は、印刷時にインクを通過させる複数の開口パターン31を有する。開口パターン31は、一例として
図11に示すように、第一平面部30a、屈曲部30b、及び第二平面部30cの領域にわたって形成される。開口パターン31が設けられる位置や形状等は、特に限定されず、任意である。
【0056】
スクリーン版30は、固定部材50を介して枠体40に固定される。より具体的には、スクリーン版30の周縁には、接着剤等により固定部材50が接続される。固定部材50は、スクリーン版30と同様に、被印刷面11及び載置台上面4に対して略一定の間隔Sを介して配置される。つまり、固定部材50は、被印刷面11及び載置台上面4の形状(曲面形状を含む)と略同一形状となる。
【0057】
そして、固定部材50の外周部50bは、枠体40に接着剤等により固定される。より詳細には、固定部材50の外周部50bのうち、
図10のY方向奥側端部は、第一上枠片41aの下側面(図中上側)におけるY方向端部から所定距離をオフセットした位置に固定される。固定部材50のY方向手前側端部は、第四上枠片41dの下側面(図中上側)におけるY方向端部に固定される。固定部材50のX方向両端部は、第一延設部44a、第二延設部44bのX方向外側端部に固定される。
【0058】
なお、固定部材50と、被印刷面11及び載置台上面4と、の間隔Sは一定でなくてもよい。また、固定部材50と、被印刷面11及び載置台上面4と、の形状(曲面形状を含む)は同一形状でなくてもよい。
【0059】
(スクレーパとスキージ)
印刷装置100は、
図1に示すように、スクリーン版30のZ方向上方にスクレーパ6を備える。また、印刷装置100は、
図14に示すように、スクレーパ6の移動方向の逆方向に移動して、スクリーン版30を押し込みながら印刷するスキージ8を備える。
【0060】
図1に示すスクレーパ6は、印刷材料をスクリーン版30の上面に塗り広げ、開口パターン31(
図11参照)内に印刷材料を充填する。
図14に示すスキージ8は、スクリーン版30の上面を押し付けながら回転及び変位することによって、開口パターン31(
図11参照)内に充填された印刷材料を押し出し、基材10の被印刷面11にパターンを転写する。
【0061】
スクレーパ6は、スクリーン版30上の進行方向先方が接触角度αでスクリーン版30に押し当てられ、スキージ8は、スクリーン版30上の進行方向先方が鋭角となる接触角度βでスクリーン版30に押し当てられる。これらスクレーパ6とスキージ8は、それぞれ個別に駆動される。ここで、接触角度αの範囲は60~120度が好ましく、80~100度がより好ましく、ほぼ90度一定に固定してもよい。接触角度αの範囲を60~120度にすることにより、厚さが均一で良好な直線性を持つ印刷層の印刷が可能になる。
【0062】
印刷装置100は、印刷版20(スクリーン版30、固定部材50、及び枠体40)と、基材10と、載置台3と、を変位させず固定した状態で、スクレーパ6を回転及び変位させることで印刷材料の塗り広げ工程を実施する。また同様に、スキージ8を回転及び変位させて印刷材料の押し出し工程を実施する。押し出し工程前に塗り広げ工程を実施することで、印刷材料が基材10の被印刷面11に均一に形成される。
【0063】
スクレーパ6とスキージ8は、図示は省略するが、互いに同様の構成を有するスクレーパ駆動機構とスキージ駆動機構に接続される。すなわち、各駆動機構は、スクレーパ6やスキージ8を支持する軸体を回転駆動する回転機構と、軸体をYZ面内で移動させる移動機構とを備える。回転機構や移動機構としては、例えばモータ駆動によりスクレーパ6及びスキージ8を回転、移動させる機構等、適宜の機構であってよい。
【0064】
(印刷手順)
以上説明した印刷装置100は、次の手順で基材10の被印刷面11に印刷材料を印刷する。
まず、印刷版20の一端部をクランプ57に挟持させた状態で、
図1に示す状態から接続点Pを中心に反時計方向に回転させ、印刷版20を載置台3上から退避させる。
【0065】
次に、基材10を載置台3の溝5内に嵌め合わせて載置する。この際に、載置台3には不図示の突き当て用ピンを備え、基材10の位置合わせを実施してよい。そして、不図示の真空ポンプにより真空孔7から外部空気を吸引して、基材10を溝5内で真空吸着させる。
【0066】
上記のように基材10を載置台3へセットした後、退避させていた印刷版20を、エアシリンダ56のピストン56aの上面に第二上枠片41b、第三上枠片41cの下面が当接するまで、接続点Pを中心に時計方向に回転させる。これにより、基材10の被印刷面11とスクリーン版30との間に間隔Sが形成される。
【0067】
そして、
図1に示すスクレーパ6を、スクリーン版30の
図1における右方側の第二平面部30cから、屈曲部30bを通って第一平面部30aの左方端部の固定部材50との接続部近傍まで移動させる。このとき、印刷材料をスクレーパ6の移動方向上流側に供給しておき、スクレーパ6によってスクリーン版30の全体に印刷材料を塗り広げる。
【0068】
この印刷材料を塗り広げる塗り広げ工程においては、スクリーン版30の上面に対するスクレーパ6の接触角度αが一定となるように、スクレーパ6を回転及び変位させるのが好ましい。これにより、スクリーン版30の全体にわたって印刷材料が均一に塗り広げられる。また、スクリーン版30の上面へのスクレーパ6の押圧力が一定となるように、スクレーパ6を回転及び変位させるのが好ましい。これによっても、印刷材料が均一に塗り広げられる。
【0069】
次に、
図14に示すスキージ8を、スクリーン版30の左方側の第一平面部30aから、屈曲部30bを通って第二平面部30cの右方端部の固定部材50との接続部近傍まで移動させる。
スキージ8により被印刷面11に印刷材料を押し出す押し出し工程においては、被印刷面11とスキージ8の先端部とが成す接触角度βが一定となるように、スキージ8を回転及び変位させる。
図15(A)~(C)にスキージ8を用いた押し出し工程を示す。
【0070】
スクリーン版30は、スクレーパ6やスキージ8による押圧を受けない通常状態で、第一平面部30a及び第二平面部30cよりも、屈曲部30bにおける張力が大きい。これは、スクリーン版30の曲面形状を維持させるため、特に屈曲部30bにおいてはスクリーン版を強く引っ張った状態で枠体40に固定するからである。しかし、その場合に、
図15(A)に示すようにスキージ8がスクリーン版30の第一平面部30a上を移動する場合、及び
図15(C)に示すようにスキージ8がスクリーン版30の第二平面部30c上を移動する場合と、
図15(B)に示すようにスキージ8がスクリーン版30の屈曲部30b上を移動する場合とでは、スクリーン版30に生じるスキージ8の押し込み量が変化する。
【0071】
つまり、第一平面部30a、第二平面部30cについては、基材10への適正な押し込み量が維持できるが、屈曲部30bについては、スクリーン版30の張力が第一平面部30a、第二平面部30cよりも大きいため、スキージ8の押し込み量が不足する。そこで、スキージ8の押し込み不足を解消するために、
図15(B)に示すようにエアシリンダ56を駆動させ、ピストン56aを下降させることでスクリーン版30と基材10の被印刷面11との間隔Sを短くする。
【0072】
図16(A),(B)は屈曲部30bにおける押し込み量の不足を解消する様子を概略的に示す説明図である。
前述の各図においては、スクリーン版30が基材10側に押し込まれることに関して、図面を省略して示したが、
図16(A),(B)においては実際に近いスキージ8によるスクリーン版30の押し込み状態を示している。つまり、
図14,
図15においては不図示であるが、実際は、スキージ8によって押し付けられたスクリーン版30は、枠体40に対してスクリーン版30が相対移動して、Z方向下方に変位する。
【0073】
図16(A)に示すように、スキージ8が屈曲部30bを通過する際、スクリーン版30の張力が高いためにスクリーン版30のスキージ8による押し込みが十分に作用せず、結果としてΔSの浮きを生じてしまう。そこで、少なくとも浮きΔSをキャンセルさせるように印刷版20をエアシリンダ56によって下降させる。ここで、エアシリンダ56は、エアシリンダ56に一定以上の押圧力がかかった場合にのみ縮むように設定されている。すると、
図16(B)に示すように、下降した印刷版20のスクリーン版30は、屈曲部30bが基材10の被印刷面の屈曲部11bと重なって、被印刷面の屈曲部11bに、スクリーン版30の開口パターンに応じた印刷が確実に実施できる。
【0074】
これにより、スクリーン版30の屈曲部30bをスキージ8が通過する際に、印刷材料がスクリーン版30から均一に押し出され、被印刷面11を均一に印刷できる。
【0075】
なお、
図16(A),(B)に示す浮きΔSや印刷版20の下降量は一例であって、スクリーン版30の材質や張力、又はスキージ8の押圧力等に応じて適宜変更されるものである。
また、
図16(A),(B)には被印刷面が固定され、印刷版20が動く場合について記載したが、印刷版20が固定され、被印刷面が動いてもよく、被印刷面11と印刷版20が別個に動いてもよい。
【0076】
以上の動作によって、スクリーン版30に対するスキージ8の押圧力を、平坦部と屈曲部とで略一定にできる。そして、
図11に示すスクリーン版30の開口パターン31を通して印刷材料が基材10の被印刷面11に確実に転写される。これにより、印刷材料が基材10の被印刷面11へ均一に印刷され、所望のパターンの印刷層を均一に形成できる。
【0077】
なお、塗り広げ工程におけるスクレーパ6と、印刷版20、基材10、及び載置台3と、は相対移動させてもよく、させなくてもよい。相対移動させる場合には、相対移動させる方法は限定されない。いずれの方法が適用される場合であっても、スクリーン版30の上面に対するスクレーパ6の接触角度αを一定にする点と、スクリーン版30の上面に対するスクレーパ6の押圧力を一定にする点は同様である。なお、構造上、接触角度αや押圧力は完全に一定にすることは難しく、多少の変化を許容する。所望の接触角度αや押圧力を基準として±30%の変化となるように制御することが好ましい。
【0078】
また、押し出し工程においても同様に、スキージ8を、印刷版20、基材10、及び載置台3と相対移動させる方法は限定されない。いずれの方法が適用される場合であっても、スクリーン版30の上面に対するスキージ8の接触角度βを一定にする点と、スクリーン版30の上面に対するスキージ8の押圧力を一定にする点は同様である。なお、構造上、接触角度βや押圧力は完全に一定にすることは難しく、多少の変化を許容する。所望の接触角度βや押圧力を基準として±30%の変化となるように制御することが好ましい。
【0079】
本構成のスクリーン版30は、固定部材50及びスクリーン版30の材料や面積等を適宜設定することにより、固定部材50の伸張強度が、スクリーン版30の伸張強度よりも小さく設定される。より具体的には、固定部材50の伸張強度は、スクリーン版30の伸張強度の4/5倍以下が好ましく、3/5倍以下がより好ましく、1/5倍以下が更に好ましい。これにより、スクリーン版30は、枠体40に対して相対移動可能に固定される。なお、ナイロンやポリエステル等の樹脂材料からなる固定部材50の伸張強度は、約400~800N/mm2であり、ステンレス等の金属材料からなるスクリーン版30の伸張強度は、約1000~4000N/mm2である。
【0080】
本構成の印刷版20においては、スクリーン版30の第一平面部30a、第二平面部30cと被印刷面11との間隔Sは、0.5mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましい。間隔Sが0.5mm以上である場合、版離れが良好となる。また、間隔Sは、15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。間隔Sが15mm以下の場合、スクリーン版30をスキージ8によって押し込めるため印刷しやすく、版離れも良好となる。
【0081】
また、本構成の印刷装置100は、印刷してから成形することが困難な基材10に印刷する場合、特にガラス板を基材10として使用する場合に適している。アクリル等の熱可塑性樹脂を基材10として用いた場合、平板状の樹脂に印刷してから屈曲部等の成形ができる。これは、成形温度が比較的に低温であり、印刷により得られた印刷層がダメージを受けにくいためである。一方、ガラスのような成形温度が高温となる基材10を用いた場合、平板状のガラス板に印刷してから屈曲部等を成形すると、形成した印刷層が高温に晒されるため、印刷層がダメージを受けてしまう。以上のことから、屈曲部等の成形後に印刷する必要性のある基材10に対しては、本構成の印刷装置100を適用することが特に有益となる。
【0082】
本構成の印刷装置100は、特に、被印刷面11に少なくとも一つの屈曲部11bを有し、少なくとも1つのひねりを含む、又は、2つ以上の曲率半径の異なる曲面が混在している、又は、少なくとも1つ以上の平面と少なくとも1つ以上の曲面が混在している、又は、これらの形状の組み合わせ形状を有している被印刷面を有する基材10に印刷できる点で優れる。このような基材10に、従来の平板状のスクリーン版を使用して印刷する場合に、基材10と平板状のスクリーン版が干渉してしまい、厚さが均一で優れた外観の印刷層を形成できない。本構成によれば、曲げ深さの深い基材10であっても、均質な印刷層を形成できる。
【0083】
また、本構成の印刷装置100は、特に、被印刷面11に凹曲形状の屈曲部11bを少なくとも一つ以上有し、曲げ深さが3mm以上となる基材10に印刷できる点で優れる。従来の平版状のスクリーン版を使用して印刷する場合に、曲げ深さが3mm以上の凹曲部に均一に印刷することは難しい。しかし、本構成によれば、曲げ深さの深い基材10にも均質な印刷層を形成できる。
【0084】
図17(A)は印刷後の基材10の一部外観斜視図であり、
図17(B)は
図17(A)のXVII-XVII線断面図である。
基材10の被印刷面11に印刷された印刷層59は、被印刷面11の屈曲部11bであっても、均等な印刷層の厚さtpに形成される。ここでいう均等とは形成された印刷層の厚さ偏差は、印刷層の平均厚さに対して±20%以内であることをいう。ここでいう平均厚さとは、膜厚計で測定した、各々の曲面ごとに各々3点以上の測定結果の平均値をいう。また、印刷層の厚さ偏差は、好ましくは±7%以内、更に好ましくは±5%以内がよい。曲げ深さの深い基材10であっても、スクリーン版と被印刷面11との間隔を、屈曲部において印刷版を移動させて近づけることで、屈曲部にも均一な印刷層59を形成できる。
【0085】
形成された印刷層59が遮光目的である場合、印刷層59における可視光領域のOD値の平均値は、3以上が好ましい。印刷層を備えた基材を表示パネルのカバーガラスに使用した場合、表示パネルの背面に配置されるバックライトから漏れ出た光を印刷層により確実に遮光でき、これにより画像視認性が向上するという効果が得られる。印刷層59における可視光領域のOD値の平均値は4以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
形成された印刷層59におけるOD値の平均値の上限値は、特に制限はないが、8以下が好ましい。上限値を超えるようなOD値であると、印刷層の厚さが厚くなり、印刷層の段差により基材10と表示装置との貼合時に空隙ができやすくなるといった欠点が発生しやすくなる。
形成された印刷層59が特定の波長範囲を選択的に透過する(半透過)ことが目的である場合、550nmでのOD値は任意であるが、半透過印刷層の面内での透過率分布は任意の3点で測定したときの平均値に対して±10%以下が好ましい。
形成された印刷層59が赤外領域(IR;波長750~1400nm)を選択的に透過する半透過印刷層である場合、900nm以上の任意の波長での透過率が70%以上であることが好ましい。
【0086】
光学濃度(OD値)とは、ある光の入射光量Iに対する、被測定物を透過してきた透過光量Tの比について底を10とした常用対数で表した値の絶対値であり、隠蔽性能を示す。例えば、波長が360~830nmである可視光で入射光量Iが1000、透過光量Tが1とすると、この時のOD値は|Log10(1/1000)|=3となる。このOD値は、平面基板透過率/反射率計測ユニット(ラムダビジョン社製、商品名:LV-RTM)を使用して測定できる。
【0087】
また、本構成によれば、被印刷面11に一回の印刷工程で印刷層59が形成されるため、複数回の印刷で印刷層を形成する場合と比較して、屈曲部における視認しやすい部位に印刷層の重なり部分が生じない。よって、印刷層の濃度を一定にでき、美観に優れた構成にできる。
【0088】
<第2構成例>
次に、第2構成例の印刷装置を説明する。
図18は第2構成例の印刷装置における、スクリーン版30とスキージ8との関係を示す模式的な要部上視図である。なお、以降の説明においては、
図1~
図17に示すものと同一の部材や部位に対しては、同一の符号を付与することで、その説明を省略又は簡略化する。
【0089】
ここで、
図18に示す仮想線L1,L2,L3は、基材の屈曲部における被印刷面のX方向両端部を、それぞれX方向に側面視した場合に、被印刷面の接線に垂直な法線方向が一致する端部同士を結んだ直線である。したがって、一本の仮想線上では、法線方向が全て一致する同じ向きの被印刷面を有する。つまり、仮想線L1,L2,L3は、スキージ8を回転、直進させた際の、スキージ8の先端部がスクリーン版30を介して基材と接触する接触線である。仮想線L1は、第一平面部30aと屈曲部30bとの境界、仮想線L3は、屈曲部30bと第二平面部30cとの境界を示している。仮想線L2は、仮想線L1とL2の中間の線である。各仮想線L1,L2,L3線上ではそれぞれ法線方向が同じ向きとなっている。
【0090】
この印刷版20を用いてスキージ8をスクリーン版30に押し当てて移動させる際、スクリーン版30の第一平面部30aの領域では、スキージ8を、スキージ8の長手方向をX方向と平行にする。そして、スキージ8のY方向移動により、スキージ8が屈曲部30bに到達すると、スキージ8を仮想線L1と平行な状態から、スキージ8の移動に伴って徐々に仮想線L2と平行になるまで傾ける。更にスキージ8がY方向移動により仮想線L2に到達したときには、スキージ8の長手方向を仮想線L2と一致させる。更に、スキージ8の移動を進めて仮想線L3に到達したときには、スキージ8の長手方向を仮想線L3に一致させる。
【0091】
つまり、スキージ8の移動に伴って、スキージ8を
図18に示すXY面内で連続的に回転させ、スキージ8の先端がスクリーン版30を介して押し当てられる基材表面(第1の主面11)が、常に同じ法線方向を向くようにする。これにより、ひねり構造を有する基材10の第1の主面11に、常に同じ向きでスキージ8が押し当てられる。その結果、第1の主面11とスキージ8の先端部とが成す接触角度βがX方向に沿ったどの位置においても一定となり、印刷材料が第1の主面11へ均一に押し出されて、良好な印刷がなされる。よって、均質で美観にも優れた印刷状態が得られる。
【0092】
スキージ8は、前述したように、図示しないモータ等により構成されるスキージ駆動機構に接続され、スキージ駆動機構の駆動によって、
図18に示すY方向移動に伴って所望の角度や位置に変更される。
【0093】
スキージ8のX方向からの傾斜角は、仮想線L1からL3にかけて、Y方向移動に伴って連続的に変化させることに限らない。最初から仮想線L3と平行にした状態で、Y方向に移動させてもよく、仮想線L1に達する前にスキージ8を仮想線L1と平行な状態から仮想線L2またはL3に平行な状態に近づけてもよい。
【0094】
なお、上記したひねり構造とは、
図18に示す屈曲部の開始線となる仮想線L1と、基材10の端面10dによる一辺とで形成される交差角εは、0°<ε<90°となる構造である。
【0095】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0096】
上記した印刷装置においては、印刷装置に固定された印刷版上でスクレーパを移動させているが、これに限らない。例えば、印刷装置外の基材や載置台のない場所で、スクレーパを用いてインクを印刷版上に充填する構成としてもよい。
また、上記した印刷装置においては、印刷版を被印刷面に対して相対移動させる駆動源としてエアシリンダを用いているが、これに限らない。例えば、スキージに負荷されるスクリーン版からの力が所定の一定値以上となった場合に、ゴムやばね材等を用いた機械的な駆動方式により印刷版を被印刷面に近づける機構としてもよい。また、印刷版及び被印刷面のどちらか一方又は両方に機械的移動機構を使用し、屈曲部において印刷版と被印刷面を相対移動させて近づけても良い。
また、上記した印刷装置は、スクレーパやスキージがいずれも略水平方向に移動する構成であるが、これに限らず、例えば、上下方向等、他の方向に移動する構成にしてもよい。その場合、製造装置の水平設置面積を低減でき、効率よく製造できる。
【0097】
印刷材料については、遮光印刷もしくは半透過印刷のための、ウレタンアクリル、ポリエステル系などの樹脂材料にカーボンブラックや酸化チタンなどの顔料を含有させたものを使用できる。
【実施例0098】
次に、本発明の実施例について説明する。本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。例1は本発明の実施例、例2は比較例である。
【0099】
基材として、厚さが2mm、平面視の大きさが540mm×450mmの、主面が四角形の板状ガラス(化学強化前のドラゴントレイル(登録商標)、旭硝子社製)を用い、以下の手順で印刷層付きガラス板を得た。
【0100】
<例1>
ガラス板に(1)成形処理、(2)端面の研削処理、(3)化学強化処理及びアルカリ処理、(4)印刷層の形成、の順に処理を行った。具体的な処理は以下の通りである。
【0101】
(1)成形処理
板状ガラスの第1の主面に以下の手順で、成形処理により凹部を形成した。
まず、板状ガラスの両面について酸化セリウム研磨液を使用し、それぞれ3μmずつ研磨した。その後、洗浄した後に乾燥した。この板状ガラスを成形型上に載置し、750℃程度まで昇温し、板状ガラスを軟化させ、成形型に沿わせた。成形型の屈曲部を転写させることで、
図19に示すように、板状ガラスの第1の主面61側における屈曲部63を、屈曲部63一端(図中手前側)の曲率半径R1を70mm、他端(図中奥側)の曲率半径R2を25mmにした。この屈曲部63が付与された板状ガラスについて、徐々に室温まで冷却し、屈曲部63を有する板状ガラス(以降、単に「屈曲ガラス65」という)を得た。
【0102】
なお、屈曲ガラス65は屈曲部63に接続される平坦部67を有する。第2の主面側69において、平坦部67の大きさは、La1=130mm,La2=250mm,La3=120mm,La4=350mmである。この屈曲ガラス65の曲げ深さhは40mmであった。
【0103】
(2)端面の研削処理
屈曲ガラス65の全周にわたってガラスの端面から0.2mmの寸法でC面取りを行った。面取りは600番の砥石(東京ダイア社製)を用い、砥石の回転数が6500rpm、砥石の移動速度が5000mm/minで処理した。これにより端面の算術表面粗さRaが450nmとなった。
【0104】
(3)化学強化処理及びアルカリ処理
次に、450℃に加熱して硝酸カリウム塩を溶融させた溶融塩に、屈曲ガラス65を2時間浸漬して化学強化処理を行った。その後、屈曲ガラス65を溶融塩より引き上げ、1時間で室温まで徐冷した。以上の処理で、表面圧縮応力(CS)が730MPa、応力層の深さが30μmの化学強化した屈曲ガラス65を得た。この屈曲ガラス65を水洗後、アルカリ溶液(商品名:サンウォッシュTL-75、ライオン社製)に4時間浸漬してアルカリ処理を施した。
【0105】
(4)印刷層の形成
屈曲ガラス65の第1の主面61の外周部に、平面視でガラス基板の端面から0.1mmの位置に印刷層の外側端面が形成されるように、次のようにして2cm幅の黒枠状の印刷層を形成した。
【0106】
まず、
図9~
図13に示すような形状の印刷版を作成した。スクリーン版30として、メッシュ径が28μm、メッシュ数が325メッシュ/inchの材質ステンレスの紗を使用した。また固定部材50として、メッシュ径が35μm、メッシュ数が355メッシュ/inchの材質ポリエステルの紗を使用した。スクリーン版30の形状は、屈曲ガラス65の形状と合致するように枠体40に固定した。
【0107】
インクとしては、ポリエステルウレタン系黒色インク(商品名:GLS HF20106AGC墨-1、帝国インキ製造株式会社製)を使用した。
【0108】
印刷版上にインクを供給して屈曲ガラス65に印刷を実施した。屈曲ガラス65の平坦部67における印刷層の厚さが5~6μmの厚さとなるように、スキージを印刷版上で駆動させた。印刷版の屈曲部付近にスキージが到達したときに、スクリーン版30と屈曲ガラス65の間隙を狭めるために、エアシリンダ56によりスクリーン版30を屈曲ガラス65に近づけた。このエアシリンダ56による駆動により、スクリーン版30と屈曲ガラス65との距離を0.5mm前後に制御させ、屈曲ガラス65上に印刷層を形成した。得られた印刷層付きガラスの屈曲部63周辺の外観を
図20に示す。
図20に示すように、印刷層は屈曲部63においても均一に形成されており、写りこむ照明の歪みが小さかった。
【0109】
<例2>
屈曲ガラス65に、例1と同様に(1)成形処理、(2)端面の研削処理、(3)化学強化処理及びアルカリ処理、(4)印刷層の形成、の順に処理を行ったが、(4)の印刷層の形成において、エアシリンダを使用せず、屈曲ガラス65の屈曲部63においてもスクリーン版30を近づけずに印刷層を形成した。得られた印刷層付きガラスの屈曲部63周辺の外観を
図21に示す。
図21に示すように、屈曲部63において印刷層が印刷されない部分が生じた。
【0110】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 開口パターンを有するスクリーン版と、前記スクリーン版を支持する枠体と、を有する印刷版を、少なくとも1つの屈曲部を有する基材の被印刷面に対面させて配置し、 前記スクリーン版の前記基材とは反対側の版面に対向してスキージを配置し、
前記枠体を前記被印刷面に対して前記被印刷面の法線方向に相対移動可能に支持した状態で、前記スキージにより、前記スクリーン版の開口パターンを介して印刷材料を前記被印刷面に押し出して印刷層を形成する、ことを特徴とする印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、スキージがスクリーン版の開口パターンを介して印刷材料を被印刷面に押し出すことで、屈曲部を有する被印刷面に印刷不良のない均質な印刷層を形成できる。
【0111】
(2) 前記印刷版が屈曲部を有する、(1)に記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、印刷版が屈曲部を有することで、複雑な形状の屈曲部を有する基材の被印刷面に印刷層が形成されやすくなり、印刷不良の発生を抑制できる。
【0112】
(3) 前記印刷版の屈曲部は、前記被印刷面の屈曲部と対応する形状を有する(2)に記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、印刷版と被印刷面の屈曲部同士が対応する形状であることで、より確実に均質な印刷層を形成できる。
【0113】
(4) 前記スキージにより前記印刷材料を前記被印刷面に押し出す際に、前記枠体を前記被印刷面に対して相対移動させる、(1)~(3)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、枠体を被印刷面に対して相対移動させることで、枠体に固定されたスクリーン版と被印刷面との間隔Sを、スクリーン版の張力に応じた適正な間隔に変更できる。
【0114】
(5) 前記スキージにより前記印刷材料を前記被印刷面の前記屈曲部に押し出す際に、前記枠体を前記被印刷面に対して相対移動させる、(1)~(4)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、スクリーン版の張力が大きくなる屈曲部において、スクリーン版と被印刷面との間隔Sを適正に変更できる。
【0115】
(6) 前記基材の前記屈曲部は、ひねり構造を有する、(1)~(5)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、基材がひねり構造を有して被印刷面が複雑な曲面形状であっても、均質な印刷層を形成できる。
【0116】
(7) 前記印刷材料を前記被印刷面に押し出す際に、前記被印刷面に対する前記スキージの接触角度が一定となるように、前記スキージと、前記スクリーン版及び前記基材と、を相対移動させる、(1)~(6)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、スキージの長手方向に沿ったどの位置においても、印刷材料が被印刷面へ均一に押し出されて、良好な印刷がなされる。よって、均質で美観にも優れた印刷状態が得られる。
【0117】
(8) 前記スキージにより前記印刷材料を前記被印刷面に押し出す前に、スクレーパにより前記印刷材料を前記スクリーン版上に塗り広げる、(1)~(7)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、印刷材料をスクレーパによりスクリーン版に均一に塗り広げられた状態で、スキージによって印刷材料を被印刷面へ押し出すため、被印刷面の印刷状態の均一性をより高められる。
【0118】
(9) 前記印刷版は、前記スクリーン版の周縁に内周部が接続され、外周部が前記枠体に固定される固定部材を更に備え、
前記固定部材の伸び率は前記スクリーン版の伸び率よりも大きくされ、前記スクリーン版が前記枠体に対して相対移動可能に支持される、(1)~(8)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、固定部材がスクリーン版よりも多く伸張することで、スクリーン版が枠体に対して相対移動可能に支持される。これにより、印刷時におけるスクリーン版の開口パターンの歪みを抑制しつつ、スクリーン版を被印刷面側に接近させることができる。
【0119】
(10) 前記固定部材は樹脂材料からなる、(9)に記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、固定部材が伸縮が容易な樹脂材料であることで、印刷時においてスクリーン版を元の形状から大きく変位させることができる。また、スクリーン版と基材の被印刷面との間隔を、枠体、基材、及び載置台の加工や成形精度の誤差を吸収する程度に大きく設定できる。
【0120】
(11) 前記スクリーン版は金属材料からなる、(1)~(10)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、スクリーン版が金属材料からなることで、スクリーン版の屈曲部における屈曲形状を、スクリーン版の張力のみで維持する高い伸張強度が得られる。
【0121】
(12) 前記基材はガラスである、(1)~(11)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、基材は高い意匠性や高級感等を付与でき、デザイン性を向上できる。
【0122】
(13) 前記スクリーン版及び前記基材の少なくとも1つの前記屈曲部は、凹曲部である、(2)~(12)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、従前では印刷が困難であった凹曲部であっても、均質な印刷層を形成できる。ここで「凹曲部」とは、前記スクリーン版の前記屈曲部にあっては、前記スクリーン版の前記基材とは反対側の版面が凹んでいることを意味し、前記基材の前記屈曲部にあっては被印刷面が凹んでいることを意味する。
【0123】
(14) 前記印刷材料を前記スクリーン版上に塗り広げる際に、前記スクリーン版に対するスクレーパの接触角度が一定となるように、前記スクレーパと、前記スクリーン版と、を相対移動させる、(8)~(13)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材の製造方法。
この印刷層を備えた基材の製造方法によれば、印刷材料を確実にスクリーン版上で均一に広げることができる。
【0124】
(15) 少なくとも1つの屈曲部を有する被印刷面と、前記被印刷面の前記屈曲部に形成された印刷層と、を備え、
前記屈曲部は、ひねり構造を有することを特徴とする印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、屈曲部のひねり構造を有する部位にも均質な印刷層が形成され、美観に優れたものとなる。
【0125】
(16) 前記ひねり構造は、曲率半径が異なる部位が存在する、(15)に記載の印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、従前では印刷が困難であったひねり構造の基材であっても、均質な印刷層が形成される。
【0126】
(17)前記ひねり構造は、前記屈曲部の開始点を結んだ仮想線と、前記基材の端面による一辺との交差角εが、0°<ε<90°となる構造である、(15)又は(16)に記載の印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、屈曲部が基材の端面による一辺から傾斜した方向に屈曲していても、この屈曲部に均質な印刷層が形成される。
【0127】
(18) 少なくとも1つの屈曲部を有する被印刷面と、前記被印刷面の前記屈曲部に形成された印刷層と、を備え、
前記屈曲部は、二個以上の異なる曲率半径の曲面を有することを特徴とする印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、従前では印刷が困難であった二個以上の異なる曲率半径を有する基材であっても、均質な印刷層が形成される。
【0128】
(19) 少なくとも1つの前記屈曲部は、被印刷面が凹んでいる凹曲形状である(15)~(18)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、印刷が困難な凹面形状であっても、均質な印刷層が形成される。
【0129】
(20) さらに基材が被印刷面に向けて凸である凸曲形状を備える(15)~(19)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、印刷が困難な、例えばS字形状といった複雑な形状に、均質な印刷層が形成される。
【0130】
(21) 前記基材は、更に平坦部を有し、前記印刷層の光学濃度は、平坦部と前記屈曲部とでいずれも4以上である(15)~(20)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、光透過率0.01%以下の高い遮光性が得られる印刷層が安定して形成される。
【0131】
(22) 前記屈曲部の曲げ深さは、3mm以上である、(15)~(21)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、3mm以上の曲げ深さを有する屈曲部でも、均質な印刷層が形成される。
【0132】
(23) 前記屈曲部の曲率半径は、4000mm以下である、(15)~(22)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、上記範囲のような印刷しにくい曲率半径を有する場合に、均質な印刷層が形成される。
【0133】
(24) 前記印刷層の厚さの分布は、印刷層の平均厚さに対して20%以内である(15)~(23)のいずれか一つに記載の印刷層を備えた基材。
この印刷層を備えた基材は、印刷層の厚さが高精度に保たれるので、均質な印刷層となり、美観にも優れたものとなる。
【0134】
<付記>
上記のように本明細書には、次に示す事項も開示される。
<1> 少なくとも1つの屈曲部を有する被印刷面と、前記被印刷面に形成された印刷層と、を備える基材の製造装置であって、
開口パターンを有するスクリーン版と、前記スクリーン版を支持する枠体と、を有し、前記被印刷面に対面して配置される印刷版と、
前記スクリーン版の反基材側の版面に対向して配置されるスキージと、
を備え、
前記枠体は、前記被印刷面に対して相対移動可能に支持され、前記スキージにより、前記スクリーン版の開口パターンを介して印刷材料が前記被印刷面に押し出される、ことを特徴とする印刷層を備えた基材の製造装置。
この印刷層を備えた基材の製造装置によれば、スキージがスクリーン版の開口パターンを介して印刷材料を被印刷面に押し出すことで、屈曲部を有する被印刷面に印刷不良のない均質な印刷層を形成できる。