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特開2022-66737光ファイバーバンドルを用いた非線形ラマン散乱内視鏡
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  • 特開-光ファイバーバンドルを用いた非線形ラマン散乱内視鏡 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066737
(43)【公開日】2022-05-02
(54)【発明の名称】光ファイバーバンドルを用いた非線形ラマン散乱内視鏡
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20220422BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20220422BHJP
   A61B 1/07 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
G01N21/65
A61B1/00 510
A61B1/00 521
A61B1/00 523
A61B1/07 732
A61B1/07 733
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020175260
(22)【出願日】2020-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】橋本 守
(72)【発明者】
【氏名】小川 拓希
【テーマコード(参考)】
2G043
4C161
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA03
2G043FA02
2G043HA05
2G043HA09
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA07
2G043KA08
2G043KA09
2G043LA03
4C161BB08
4C161FF46
4C161FF47
4C161HH54
4C161MM10
(57)【要約】
【課題】光ファイバーバンドルから発生する四光波混合光を抑制できる非線形ラマン散乱内視鏡を提供する。
【解決手段】非線形ラマン散乱内視鏡は、波長λを有するレーザビームLB1をパルス光として発生するレーザ光源11と、波長λとは異なる波長λを有するレーザビームLB2をパルス光として発生するレーザ光源21と、規則的に配列した複数のコア34aを有する光ファイバーバンドル34と、レーザビームLB1,LB2が異なるコア34aにそれぞれ入射するように、レーザビームLB1,LB2を2次元的に走査する光学的ビーム走査機構31と、光ファイバーバンドル34から出射されたレーザビームLB1,LB2を空間的に重ね合わせるための合波光学素子38と、合波光学素子38から出射されたレーザビームLB1,LB2を物体SPに集光する対物レンズ42と、物体内での非線形光学現象により発生したラマン散乱光を検出する光検出器47とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長を有する第1パルスレーザ光を発生する第1レーザ光源と、
第1波長とは異なる第2波長を有する第2パルスレーザ光を発生する第2レーザ光源と、
前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光が同時に物体を照射するように調整する機構と、
規則的に配列した複数のコアを有する光ファイバーバンドルと、
前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光が異なるコアにそれぞれ入射するように、前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光を2次元的に走査する光学走査機構と、
前記光ファイバーバンドルから出射された前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光を空間的に重ね合わせるための合波光学素子と、
前記合波光学素子から出射された前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光を物体に向けて同一スポットに集光する集光光学系と、
物体内での非線形光学現象により発生したラマン散乱光を検出する光検出器と、を備える非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項2】
前記第1パルスレーザ光の偏光および前記第2パルスレーザ光の偏光を同一な偏向状態に揃えるための波長板をさらに備える請求項1記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項3】
前記光ファイバーバンドルにおいて、複数のコアは六方最密充填構造で配列される請求項1記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項4】
前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光は、前記光ファイバーバンドル内で互いに直交した直線偏光を有する請求項1記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項5】
前記合波光学素子は、ウォラストンプリズム、ノマルスキープリズム、グラントムソンプリズム、グランテーラープリズム、ニコルプリズム、ロションプリズムおよび偏光ビームスプリッタからなるグループから選ばれる請求項1記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項6】
前記波長板は、前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光に対して異なる位相差を与える二波長波長板である請求項2記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項7】
前記ラマン散乱光は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱光である請求項1記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項8】
前記光ファイバーバンドルは、シングルモード伝送または偏光保持機能を有する請求項1記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項9】
前記光学走査機構は、ガルバノスキャナ、ポリゴンミラー、光音響偏向素子または電気光学偏向素子である請求項1記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【請求項10】
前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光は、前記光ファイバーバンドル内で右回りと左回りの偏光を有し、前記光ファイバーバンドル射出後、直交した直線偏光へ変換される請求項1記載の非線形ラマン散乱内視鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形光学現象を利用して、例えば消化管内壁等の物体を撮像する非線形ラマン散乱内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管用の内視鏡は、光ファイバーバンドルを用いたファイバースコープから、CCDなどの撮像素子を先端部に内蔵したビデオスコープが主流となっている。しかし、現在の消化管内視鏡スコープでは、細胞観測には充分な空間分解能が得られていない。また、消化管がんを診断するためには、細胞を採取して染色・標本化し、病理医が顕微鏡で観察する病理検査・診断が必要になる。
【0003】
近年、プロープ型共焦点レーザ顕微内視鏡が開発され、検体標本の病理像と同等レベルの観察像が得られるため、例えば、画像診断と内視鏡手術を同時に行うことも不可能ではなくなってきた。この手法では、蛍光色素(フルオレセイン等)を静脈投与して染色された細胞からの蛍光を観察する。このプローブ型共焦点レーザ顕微内視鏡は、数千本以上の細径光ファイバーからなる直径1mm~2mm程度の光ファイバーバンドルと、その先端(プローブヘッド)に小型の対物レンズとを備える。個々の光ファイバーを通じて励起光を伝送・照射し、発生した蛍光を逆伝搬させることで共焦点効果が得られ、細胞の形状まで観察できる。また、プローブ型共焦点レーザ顕微内視鏡は、直径が細く、プローブヘッドが小さいため、曲げられた消化管内視鏡スコープの鉗子孔にも挿入することが可能であり、広い視野で観察できる通常の内視鏡観察と、高い空間分解能で観察できるプローブ型共焦点レーザ顕微内視鏡観察とが両立できる。しかしながら、蛍光色素を静脈投与することについての安全性に懸念がある(非特許文献1~2)。
【0004】
一方、自発ラマン散乱分光を利用して、分子種等に敏感な分子の振動を観測する内視鏡が開発され、染色なしでがんの識別が可能であることが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、自発ラマン散乱は非常に微弱であるため、イメージングは難しく、ポイント計測しか実現していない。
【0005】
この代替手段として、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)(非特許文献4、5)、誘導ラマン散乱(SRS)(非特許文献6、7)などの非線形ラマン散乱を用いた内視鏡が提案されている(非特許文献8~10)。しかしながら、消化管内視鏡スコープの鉗子孔に挿入できるような細径の内視鏡は未だ開発されていない。
【0006】
これまでにアクチュエータを取り付けて光ファイバーを旋回させるビーム走査方法を用いた内視鏡が開発されている(非特許文献9、10)。しかし、ビーム走査機構が大きいため剛直なプローブヘッドが大きく、消化管内視鏡スコープの鉗子孔に挿入することは難しい。プローブ型共焦点レーザ顕微内視鏡と同様に光ファイバーバンドルを利用すれば細径化およびプローブヘッドの小型化が可能となるが、CARSの場合、励起光を光ファイバーで伝送する際にファイバー内部の非線形光学現象に起因して、CARS光と同じ波長を有する四光波混合(FWM: Four Wave Mixing)光が発生する(非特許文献11)。この四光波混合光の強度は、試料から発生するCARS光と比べて2~3桁大きいとされ、CARS光検出を妨害するノイズ光となる。励起光を伝送する光ファイバーバンドルとCARS光の検出用光ファイバーを分離することにより、この四光波混合光からの影響を防止する研究も行われているが、励起光とCARS光を分離するためにプローブヘッドが大きくなってしまい、鉗子孔へ挿入可能な細径化は実現されていない(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5926055号公報
【特許文献2】特許第4862164号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大宮 直木、「共焦点レーザー内視鏡Confocal laser endomicroscopy の現況と将来展望」、日本消化器内視鏡学会雑誌, 61(6), 1209-1217 (2019). https://doi.org/10. 11280/gee.61.1209
【非特許文献2】斎藤豊、特定臨床研究「胃上皮性病変に対するプローブ型共焦点レーザー顕微内視鏡の診断能に関する多施設前向き研究」, https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCTs031190135
【非特許文献3】M. S. Bergholt, W. Zheng, K. Y. Ho, M. Teh,K. G. Yeoh, et al., "Raman Endoscopy for Objective Diagnosis of Early Cancer in the Gastrointestinal System", J. Gastroint. Dig. Syst. Sl:008 (2013). doi:10.4172/2161- 069X.S1-008.
【非特許文献4】A. Zumbusch, G. R. Holtom, and X. S. Xie, "Three dimensional vibrational imaging by coherent anti-Stokes Raman scattering", Phys. Rev. Lett., 82, 4142-4145 (1999)
【非特許文献5】M. Hashimoto, T. Araki, and S. Kawata, "Molecular vibrational imaging in the fingerprint region by CARS microscopy with collinear configuration, "Opt. Lett., 25, 1768-1770 (2000)
【非特許文献6】C. W. Freudiger, W. Min, B. G. Saar, S. Lu, G. R. Holton, C. He, J. C. Tsai, J. X. Kang, and X. S. Xie, "Label-free biomedical imaging with high sensitivity by stimulated Raman scattering microscopy," Science 322, 1857-1861 (2008)
【非特許文献7】Y. Ozeki, F. Dake, S. Kajiyama, K. Fukui, and K. Itoh, "Analysis and experimental assessment of the sensitivity of stimulated Raman scattering microscopy," Opt. Express 17(5), 3651-3658 (2009)
【非特許文献8】K. Hirose, T. Aoki, T. Furukawa, S. Fukushima, H. Niioka, S. Deguchi, and M. Hashimoto, "Coherent anti-Stokes Raman scattering rigid endoscope toward robot-assisted surgery", Biomedical Optics Express, 9(2), 387-396, (2018)
【非特許文献9】B. G. Saar, R.S. Johnston, C. W. Freudiger, X. S. Xie, and E. J. Seibel, "Coherent Raman scanning fiber endoscopy", Opt. Lett. 36(13), 2396-2398 (2011)
【非特許文献10】A. Lombardini, V. Mytskaniuk, S. Sivankutty, E. R. Andresen, X. Chen , J. Wenger, M. Fabert, N. Joly, F. Louradour, A. Kudlinski and H. Rigneault. "High-resolution multimodal flexible coherent Raman endoscope", Light: Science & Applications, 7: 10, (2018)
【非特許文献11】A. Lukic, S. Dochow, H. Bae, G. Matz, I. Latka, B. Messerschmidt , M. Schmitt, and J. Popp, "Endoscopic fiber probe for nonlinear spectroscopic imaging", Optica, 4(5), 496-501 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、光ファイバーバンドルから発生する四光波混合光を抑制できる非線形ラマン散乱内視鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る非線形ラマン散乱内視鏡は、
第1波長を有する第1パルスレーザ光を発生する第1レーザ光源と、
第1波長とは異なる第2波長を有する第2パルスレーザ光を発生する第2レーザ光源と、
前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光が同時に物体を照射するように調整する機構と、
規則的に配列した複数のコアを有する光ファイバーバンドルと、
前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光が異なるコアにそれぞれ入射するように、前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光を2次元的に走査する光学走査機構と、
前記光ファイバーバンドルから出射された前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光を空間的に重ね合わせるための合波光学素子と、
前記合波光学素子から出射された前記第1パルスレーザ光および前記第2パルスレーザ光を物体に向けて同一スポットに集光する集光光学系と、
物体内での非線形光学現象により発生したラマン散乱光を検出する光検出器と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光ファイバーバンドルから発生する四光波混合光を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(A)は、本発明の一実施形態に係る非線形ラマン散乱内視鏡の構成の一例を示すブロック図であり、図1(B)は、光学系内部のレンズ配置例を示す。
図2図2(A)は、レーザビームLB1,LB2が光ファイバーバンドル34の端面FAに入射する様子を示す説明図である。図2(B)は、光ファイバーバンドル34の端面FAでの平面図である。
図3図3(A)は、レーザビームLB1,LB2が合波光学素子38に入射する様子を示す説明図である。図3(B)は、レーザビームLB1,LB2が波長板41に入射する様子を示す説明図である。
図4】光ファイバーバンドルで発生する四光波混合光を観察するための試験装置を示すブロック図である。
図5図5(A)は、レーザビームLB1,LB2を同一コアに入射した場合に、2次元走査なしで端面FBから出射される励起光の分布を示す画像である。図5(B)は、図5(A)の設定で2次元走査を行った場合に端面FAから出射される四光波混合光の分布を示す画像である。図5(C)は、レーザビームLB1,LB2を別個のコアにそれぞれ入射した場合に、2次元走査なしで端面FBから出射される励起光の分布を示す画像である。図5(D)は、図5(C)の設定で2次元走査を行った場合に端面FAから出射される四光波混合光の分布を示す画像である。
図6図6(A)(D)は、図1(A)に示す内視鏡において、物体SPとしてガラスプレート上に1つのポリスチレンビーズ(直径25μm)を戴置したサンプルを撮像した画像であり、図6(A)はCARS光の画像を示し、図6(D)はレーザ光の透過像を示す。図6(B)(E)は、図1(A)に示す内視鏡において、物体SPとしてガラスプレートのみのサンプルを撮像した画像であり、図6(B)はCARS光の画像を示し、図6(E)はレーザ光の透過像を示す。図6(C)は、図6(A)の画像と図6(B)の画像の差分画像である。図6(F)は、図6(D)の画像と図6(E)の画像の差分画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1(A)は、本発明の一実施形態に係る非線形ラマン散乱内視鏡の構成の一例を示すブロック図であり、図1(B)は、光学系内部のレンズ配置例を示す。この内視鏡は、レーザ光源11,21と、同期システム5と、部分反射ミラー11,22と、ミラー12~15を含む光遅延調整機構と、ミラー16,23,24と、1/2波長板17と、ダイクロイックミラー18,32と、光学的ビーム走査機構31と、対物レンズ33,35,42と、光ファイバーバンドル34と、レンズ36~37,39~40と、合波光学素子38と、波長板41と、波長フィルタ45と、レンズ46と、光検出器47などで構成される。
【0014】
レーザ光源11は、波長λを有するレーザビームLB1を、ピコ秒オーダーのパルス励起光として発生する(例えば、Spectra Physics社Tsunami)。レーザビームLB1は、例えば、紙面に平行な直線偏光を有する。部分反射ミラー11は、レーザビームLB1の一部、例えば、約1%の光を反射し、残りの光を通過させる。部分反射ミラー11で反射した光は、モニタ光としてミラー12~15を含む光遅延調整機構に入射する。
【0015】
光遅延調整機構において、ミラー12,15が固定され、ミラー13,14が一体的に変位可能であり、ミラー12,15とミラー13,14との間の光路長を調整することによって、レーザビームLB1がミラー12からミラー15までの通過する時間を調整できる。光遅延調整機構から出射した光は、モニタ光としてミラー16を経由して同期システム5に入射する。
【0016】
レーザ光源21は、波長λとは異なる波長λを有するレーザビームLB2を、ピコ秒オーダーのパルス励起光として発生する(例えば、Spectra Physics社Tsunami)。レーザビームLB2は、例えば、紙面に平行な直線偏光を有する。部分反射ミラー22は、レーザビームLB2の一部、例えば、約1%の光を反射し、残りの光を通過させる。部分反射ミラー22で反射した光は、ミラー23を経由して同期システム5に入射する。
【0017】
なお、この例ではレーザ光源11,21は別々のレーザ光源であるが、例えばレーザ光源11の一部の光を取り出して波長変換し、レーザ光源21の代わりに用いてもよい。または、レーザ光源21の光の一部を取り出して波長変換してレーザ光源11の代わりに用いてもよい。あるいは、レーザ光源からの光を2分割して、それぞれを波長変換してレーザ光源11、21の代わりに用いてもよい。この場合、常にレーザ光源11とレーザ光源21は同期しているため同期システムは不要となるが、レーザービームLB1あるいはレーザービームLB2、または両ビームに光遅延調整機構等を挿入し、レーザービームLB1とLB2が試料に同時に照射されるようにする。
【0018】
同期システム5は、レーザ光源11,21からのモニタ光を検出し、レーザ光源11,21でのパルス光のタイミングが一致するようにフィードバック制御し、例えば、レーザ光源11,21の一方または両方の発光タイミングを調整することでレーザービームLB1とLB2が試料に同時に照射されるようにする。なお、レーザ光源11,21のいずれか一方または両方を波長可変型のレーザ光源とし、同期システム5がレーザビームLB1,LB2の波長を調整するように構成してもよい。
【0019】
部分反射ミラー11を通過したレーザビームLB1は、直線偏光の偏光方向を90°回転させる1/2波長板17を通過して、レーザビームLB1を紙面に垂直な直線偏光にする。こうしてレーザビームLB1,LB2の偏光方向は、互いに直交するように設定される。
【0020】
ダイクロイックミラー18は、特定の波長の光を反射し、他の波長の光を透過させる機能を有し、ここでは、波長λを有するレーザビームLB1を透過させ、波長λを有するレーザビームLB2を反射して、両者の進行方向を一致させている。本実施形態では、各レーザビームLB1,LB2は同軸ではなく、両ビーム間の角度は予め定めた数値に設定される。レーザビームLB1,LB2の配置については後述する。
【0021】
光学的ビーム走査機構31は、例えば、互いに略直交する回転軸を有する2つのガルバノスキャナで構成され、レーザビームLB1,LB2を2次元的に走査する機能を有する。ガルバノスキャナは、制御信号に従って角変位するミラーを有する。これによりコンパクトな構成でレーザビームの2次元走査が可能になる。なお、ガルバノスキャナだけではなく、ポリゴンミラーや光音響偏向素子、電気光学偏向素子等を両回転軸の走査あるいは一方の回転軸の走査の代わりに用いてもよい。
【0022】
ダイクロイックミラー32は、レーザビームLB1,LB2を透過させ、物体SPで発生した非線形光、例えば、ラマン散乱光を反射する機能を有する。
【0023】
対物レンズ33は、レーザビームLB1,LB2をそれぞれスポット状に集光する。本実施形態では、ダイクロイックミラー18の角度調整およびレーザビームLB1,LB2の光軸調整により、光ファイバーバンドル34の端面FAにおいてレーザビームLB1,LB2が、同じコアではなく、異なるコアにそれぞれ入射するように設定される。
【0024】
光ファイバーバンドル34は、クラッド内に規則的に配列した複数のコアを有しており、例えば、一方の端面FAに入射した光分布が他方の端面FBにそのまま再現されるイメージファイバーが使用できる。
【0025】
図2(A)は、レーザビームLB1,LB2が光ファイバーバンドル34の端面FAに入射する様子を示す説明図である。図2(B)は、光ファイバーバンドル34の端面FAでの平面図である。光ファイバーバンドル34は、クラッド34b内に規則的に配列した複数のコア34aを有する。レーザビームLB1,LB2のビームの方向を調整することにより、対物レンズ33によりスポット状に集光され、予め定めた間隔の異なるコアにそれぞれ入射する。光学的ビーム走査機構31の2次元走査により、端面FAにおいてレーザビームLB1が隣りのコアに移動すると、コアが規則的に配列されているためレーザビームLB2も同様に隣りのコアに移動する。
【0026】
また、光ファイバーバンドル34において、複数のコア34aは六方最密充填構造で配列されることが好ましい。これにより画像の分解能を高めることができる。さらに光ファイバーバンドル34は、シングルモード伝送または偏光保持機能を有することが好ましい。これによりモード分散によるパルス幅の伸長、偏光状態の保存性を改善できる。
【0027】
図1に戻って、光ファイバーバンドル34の端面FBでは、端面FAでの配置と同じ配置でレーザビームLB1,LB2が出射する。
【0028】
対物レンズ35は、光ファイバーバンドル34の端面FBから出射したレーザビームLB1,LB2をコリメートする。レンズ36~37は、リレーレンズとして機能し、焦点距離の選択によりコリメートされたレーザビームLB1,LB2間の角度が調整できる。
【0029】
合波光学素子38は、光ファイバーバンドル34から出射されたコリメートされたレーザビームLB1,LB2を空間的に重ね合わせる機能を有し、例えば、偏光を利用して合波できる偏光プリズムが使用できる。こうした偏光プリズムは、ウォラストンプリズム、ノマルスキープリズム、グラントムソンプリズム、グランテーラープリズム、ニコルプリズム、ロションプリズムおよび偏光ビームスプリッタからなるグループから選ばれることが好ましく、これにより合波光学素子38の小型化が図られる。こうした機能により、合波光学素子38を出射したコリメートされたレーザビームLB1,LB2は同軸となる。
【0030】
図3(A)は、レーザビームLB1,LB2が合波光学素子38に入射する様子を示す説明図である。光ファイバーバンドル34の端面FBから出射したレーザビームLB1,LB2は、レンズ35によりコリメートされ、続いてレンズ36~37によってリレーされ、合波光学素子38に対して予め定めた方向の予め定めた角度差で入射する。一例として、コリメートされたレーザビームLB1とレーザビームLB2がつくる平面はY軸に平行であり、レーザビームLB1とレーザビームLB2は予め定めた角度差で合波光学素子38に入射する。また、レーザビームLB1は、Y方向に沿った直線偏光を有し、レーザビームLB2は、X方向に沿った直線偏光を有する。合波光学素子38は、互いに直交する直線偏光を有するレーザビームLB1,LB2を同軸に出射する。
【0031】
なお、図1に戻って、例えば対物レンズ33とダイクロイックミラー32の間に1/4波長板等を設置することよってレーザビームLB1,LB2の偏光を左、右円偏光として、光ファイバーバンドル34で伝送し、対物レンズ35と合波光学素子38の間に1/4波長板等を設置して、合波光学素子38に入射する際にはレーザビームLB1をY方向に沿った直線偏光に、レーザビームLB2を、X方向に沿った直線偏光となるように変換してもよい。
【0032】
図1に戻って、レンズ39~40は、リレーレンズとして機能し、焦点距離の選択により結像倍率が調整できる。
【0033】
波長板41は、例えば、異なる波長の光に対して異なる位相差を与える二波長波長板が使用できる。本実施形態では、波長板41は、波長λを有するレーザビームLB1に対して2nπ(nは0を含む自然数)の位相を付与し、波長λを有するレーザビームLB2に対して(2n+1)πの位相を付与することにより、互いに直交する直線偏光を有するレーザビームLB1,LB2の偏光を同一方向に揃える機能を有する。これによりラマン散乱光の発生効率が高くなる。
【0034】
図3(B)は、レーザビームLB1,LB2が波長板41に入射する様子を示す説明図である。X方向の直線偏光を有するレーザビームLB2は、波長板41によってY方向の直線偏光に変換され、レーザビームLB1,LB2はともにY方向の直線偏光を有するようになる。
【0035】
図1に戻って、対物レンズ42は、レーザビームLB1,LB2を同一スポット状に物体SP、例えば、消化管内壁に集光する。レーザビームLB1,LB2のスポットは、光学的ビーム走査機構31による2次元走査に追従して、物体SPにおいて2次元的に走査される。
【0036】
物体SPでは、後述するような非線形光学現象によりラマン散乱光が発生する。発生したラマン散乱光の一部は、内視鏡の光学系を逆行して、対物レンズ42、レンズ39~40、合波光学素子38、レンズ36~37、対物レンズ35、光ファイバーバンドル34、対物レンズ33を通過し、ダイクロイックミラー32で反射する。
【0037】
波長フィルタ45は、例えば、ラマン散乱光のみを通過させるバンドパス特性を有し、ラマン散乱光以外の波長を有する光を減衰させる。これにより信号のSN比が向上する。
【0038】
光検出器47は、例えば、光電子増倍管が使用でき、波長フィルタ45を通過した光の強度情報を電気信号に変換する。得られた電気信号は、A/Dコンバータによりデジタル値に変換されてコンピュータのメモリに保存され、続いて画像処理が施されてディスプレイに表示される。
【0039】
レンズ61とフォトダイオード62は、試料を透過したレーザ光を観測し、試料の形状を得るために設置されている。
【0040】
次に動作について説明する。波長が異なるレーザビームLB1,LB2が非線形光学効果を有する物質を進行する場合、四光波混合によりf(=2f-f)を有する光と周波数f(=2f-f)を有する光が発生する。このうち、レーザビームLB1,LB2の周波数差(f-f)が物質の分子振動の周波数と一致して、分子振動に共鳴して周波数f(=2f-f)の光が発生する現象は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)と称される。
【0041】
一例として、レーザビームLB1が、波長λ=708.73nm、波数ν=14109cm-1、周波数f=423.0THzを有し、レーザビームLB2が、波長λ=887.84nm、波数ν=16956cm-1、周波数f=337.7THzを有する場合、CARS光は、波長λ=589.75nm、波数ν=16956cm-1、周波数f=508.3THzを示す。なお、波長λ、波数ν、周波数f、角周波数ω、光速cの関係は、f=c/λ、ω=2πf、ν=1/λで表される。
【0042】
例えば、消化管内壁などにレーザビームLB1,LB2を同軸に集光して照射すると、CARS光が発生する。物体に対してレーザビームLB1,LB2を走査しながらCARS光の強度を計測することによって、ビデオスコープを用いた可視光観察と比べて高い空間分解能かつ高いコントラストの画像が得られる。また無染色細胞観察が可能になるため、蛍光色素の静脈投与が不要になり、被検体の安全性も確保できる。
【0043】
さらに本実施形態では、レーザビームLB1,LB2が光ファイバーバンドル34を通過する際、レーザビームLB1,LB2は異なるコアでそれぞれ伝送されるように設定される。これにより光ファイバーバンドル34での非線形光学現象に起因した四光波混合光の発生を大幅に抑制できる。リレーレンズ36、37および39、40を省略し、対物レンズ35、42にGRIN(gradient index: 屈折率分布型)レンズ等を用いることでプローブヘッドの小型化が可能で、また光ファイバーバンドル34の細径化が可能であるため、例えば、内視鏡の鉗子孔(例えば、直径2~4mm)へ挿入することも可能である。
【0044】
図4は、光ファイバーバンドルで発生する四光波混合光を観察するための試験装置を示すブロック図である。この試験装置は、図1(A)に示す内視鏡の構成と同様であるが、光ファイバーバンドル34の端面FBを撮像できるように、対物レンズ35の後段に順次、レンズ51,52、励起光を弱めるニュートラルデンシティフィルタ53、レンズ54、撮像カメラ55を配置している。
【0045】
図5(A)、(C)は、端面FBの画像を示しており、図5(A)は、レーザビームLB1,LB2を同一コアに入射した場合に、2次元走査なしで端面FBから出射される励起光の分布を示す画像であり、1つのコアからレーザビームLB1,LB2が出射されている様子が判る。
【0046】
図5(B)は、図5(A)の設定で2次元走査を行った場合に端面FAから出射される四光波混合光の分布を示す画像である。ほぼ全てのコアから四光波混合光が出射されている様子が判る。
【0047】
図5(C)は、レーザビームLB1,LB2を別個のコアにそれぞれ入射した場合に、2次元走査なしで端面FBから出射される励起光の分布を示す画像であり、1つのコアからレーザビームLB1が出射され、他のコアからレーザビームLB2が出射されている様子が判る。
【0048】
図5(D)は、図5(C)の設定で2次元走査を行った場合に端面FAから出射される四光波混合光の分布を示す画像である。ほぼ全てのコアにおいて四光波混合光が発生していない様子が判る。消光率は、図5(B)と比べて約1/250となった。なお、僅かなノイズ光は、四光波混合とは別の光学効果、例えば、蛍光に起因するものと推測される。
【0049】
このようにレーザビームLB1,LB2を異なるコアでそれぞれ伝送することによって、光ファイバーバンドル34で発生する四光波混合光を大幅に抑制できる。なお、図5(A)と(C)は、光ファイバーバンドルのコアの位置を示すために、光検出器47の代わりに白色光源を設置し、撮像カメラ55で画像を取得している。また、図5(B)と(D)は、光検出器47からの信号を用いて画像化している。
【0050】
図6(A)(D)は、図1(A)に示す内視鏡において、物体SPとしてガラスプレート上に1つのポリスチレンビーズ(直径25μm)を戴置したサンプルを撮像した画像であり、図6(A)はCARS光の画像を示し、図6(D)はレーザ光の透過像を示しており、フォトダイオード62で計測している。CARS光は、ポリスチレンのCH伸縮振動(波数2845cm-1)に起因している。
【0051】
図6(B)(E)は、図1(A)に示す内視鏡において、物体SPとしてガラスプレートのみのサンプルを撮像した画像であり、図6(B)はCARS光の画像を示し、図6(E)はレーザ光の透過像を示す。
【0052】
図6(C)は、図6(A)の画像と図6(B)の画像の差分画像である。図6(F)は、図6(D)の画像と図6(E)の画像の差分画像である。
【0053】
これらの画像から、光ファイバーバンドル34で伝送した励起光を用いてサンプルを励起し、発生したCARS光を光ファイバーバンドル34で逆方向に伝送することによって、励起光の2次元走査によるCARS光のイメージングが可能であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、光ファイバーバンドルから発生する四光波混合光を抑制できる点で産業上極めて有効である。
【符号の説明】
【0055】
5 同期システム
11,21 レーザ光源
11,22 部分反射ミラー
12~15 ミラー(光遅延調整機構)
17 1/2波長板
18,32 ダイクロイックミラー
16,23,24 ミラー
31 光学的ビーム走査機構
33,35,42 対物レンズ
34 光ファイバーバンドル
34a コア
34b クラッド
36~37,39~40,61 レンズ
38 合波光学素子
41 波長板
45 波長フィルタ
47 光検出器
62 フォトダイオード
FA,FB 端面
LB1,LB2 レーザビーム
SP 物体
図1
図2
図3
図4
図5
図6