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  • 特開-真空蒸着装置用の蒸着源 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022066943
(43)【公開日】2022-05-02
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20220422BHJP
【FI】
C23C14/24 A
C23C14/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020175566
(22)【出願日】2020-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 一也
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029CA01
4K029DB06
4K029DB12
4K029DB13
4K029DB18
4K029HA02
4K029HA03
4K029HA04
4K029JA01
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】蒸着中における被処理基板やマスクプレートの温度上昇を抑制することができる真空蒸着装置用の蒸着源を提供する。
【解決手段】真空チャンバ内に配置されて被処理基板に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源DSは、蒸着材料Vmが充填される容器41と、この容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段43とを備え、容器に、加熱によりこの容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出部44を有し、加熱手段による蒸着材料の加熱に伴って加熱されることで、被処理基板に対して熱線を放射する容器部分41a,44a,44bに、この容器の母材より低い放射率の低放射率層Leを設けた。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置されて被処理基板に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源であって、
蒸着材料が充填される容器と、この容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、容器に、加熱によりこの容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出部を有するものにおいて、
加熱手段による蒸着材料の加熱に伴って加熱されることで、被処理基板に対して熱線を放射する容器部分に、この容器の母材より低い放射率の低放射率層を設けたことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源であって、前記放出部が、前記被処理基板に対向する前記容器の上面に突設した放出ノズルで構成され、この放出ノズルを加熱する他の加熱手段を備えるものにおいて、
前記容器部分を放出ノズルの内面とし、放出ノズルの内面に低放射率層を設けたことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項3】
前記低放射率層は、この容器部分の表面に直接成膜した金膜で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項4】
前記低放射率層は、前記容器の表面を所定範囲内の表面粗さに加工することで構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に配置されて被処理基板に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源に関し、より詳しくは、蒸着中における被処理基板やマスクプレートの温度上昇が抑制されるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の蒸着源を備えた真空蒸着装置は、例えば特許文献1で知られている。このものは、真空チャンバの底部に蒸着源が配置され、蒸着源は、蒸着材料が充填される容器とこの容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備える。容器の上面には、気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出ノズル(放出部)が一方向に所定間隔で複数本列設されている。そして、真空雰囲気の真空チャンバ内で、容器内の蒸着材料を加熱して昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着材料を各放出ノズルから所定の余弦則に従い放出させ、蒸着源に対して相対移動する被処理基板に付着、堆積させて所定の薄膜が蒸着(成膜)される。このとき、容器上面の周囲または各放出ノズルの周囲には、通常、シースヒータなどの加熱手段が配置され、放出ノズルも加熱することで、蒸着時のノズル詰まりを可及的に防止している。また、蒸着に際しては、蒸着源と被処理基板との間にこの被処理基板に対する蒸着物質の付着範囲を制限するマスクプレート(即ち、板厚方向に貫通する開口が所定のマスクパターンで複数形成されたもの)を介在させることで、所定の成膜パターンで被処理基板に蒸着することも従来から知られている。
【0003】
ここで、容器や放出ノズルの加熱時、熱線の放射により被処理基板やマスクプレートも加熱されて被処理基板とマスクプレートとが熱膨張する場合がある。このとき、熱膨張量に差が生じると、(被処理基板に対して各開口が位置ずれして)所定の成膜パターンで精度よく蒸着できないという問題を招来する。そこで、本願発明者らは、容器の上面に対向させて、放出ノズルが挿通する透孔を開設した遮熱板を配置し、放出ノズルのみが熱源となるようにして、蒸着中、被処理基板やマスクプレートが加熱されることを抑制することを提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、近年では、被処理基板に蒸着しようとする成膜パターンの微細化がより一層進んでおり、これに伴い、マスクプレートに形成する開口の幅もより一層狭くなっている(開口幅が数μm以下)。このような場合、熱線の放射によりマスクプレートが加熱されると、マスクプレートに形成した各開口が歪む場合があり、これでは、高精度(言い換えると、所謂マスクボケなし)に蒸着することができない虞がある。このため、蒸着時に、被処理基板やマスクプレートの温度上昇を如何に抑制するかが重要な問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-77193号公報
【特許文献2】特開2019-167593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、蒸着中における被処理基板やマスクプレートの温度上昇を可及的に抑制することができる真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置されて被処理基板に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、蒸着材料が充填される容器と、この容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、容器に、加熱によりこの容器内で気化または昇華した蒸着材料の放出を可能とする放出部を有し、加熱手段による蒸着材料の加熱に伴って加熱されることで、被処理基板に対して熱線を放射する容器部分に、この容器の母材より低い放射率の低放射率層を設けたことを特徴とする。本発明では、前記放出部が、前記被処理基板に対向する前記容器の上面に突設した放出ノズルで構成され、この放出ノズルを加熱する他の加熱手段を備える場合、前記容器部分を放出ノズルの内面とし、放出ノズルの内面に低放射率層を設ける構成を採用することができる。
【0008】
ここで、本発明者らは、鋭意研究を重ね、仮に、上記容器の上面に対向させて放出ノズルが挿通する透孔を開設した遮熱板を配置し、放出ノズルのみが熱源となるようにしても、被処理基板やマスクプレートが加熱されることにとって、特に、放出ノズルの内面や外面からの熱放射の影響が無視できないことを知見するのに至った。そこで、本発明では、主として被処理基板に対して熱線を放射する、放出ノズルの内面及び外面や容器の上面といった容器部分に低放射率層を設け、被処理基板やマスクプレートへ向けての熱線の放熱量を減少させる構成を採用することで、蒸着中における被処理基板やマスクプレートの温度上昇を可及的に抑制することができる。この場合、前記低放射率層は、この容器部分の表面に直接成膜した金膜で構成することができる。これによれば、金膜は、耐熱性に優れており、また蒸着材料との反応性に乏しいため、耐久性に優れた低放射率層を得ることができる。一方で、前記低放射率層は、前記容器の表面を所定範囲内の表面粗さに加工することで構成してもよい。これによれば、容器や放出ノズルと同じ母材(金属)を用いて、熱線を放射する容器部分の表面のみの放射率をより低いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を説明する、一部を断面視とした部分斜視図、(b)は、真空蒸着装置を正面側からみた部分断面図。
図2】本実施形態の蒸着源の拡大断面図。
図3】蒸着源の遮熱板の温度分布を示す図。
図4】蒸着源の変形例の遮熱板の温度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、被処理基板を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、基板Swの片面に対して真空蒸着法により所定の薄膜を蒸着(成膜)する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源の実施形態を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を示す用語は図1を基準として説明する。
【0011】
図1(a)及び(b)を参照して、Dmは、本実施形態の蒸着源DSを備える真空蒸着装置である。真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して保持できるようになっている。また、真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で移動するようになっている。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、以下においては、蒸着源DSに対する基板Swの相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板Swの幅方向をY軸方向とする。
【0012】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと後述の蒸着源DSとの間には、板状のマスクプレート3が設けられている。マスクププレート3は、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製またはポリイミド等の樹脂製の薄板で構成され、板厚方向に貫通する開口31が所定のマスクパターンで複数形成されている(これにより、蒸着時、開口31がない位置にて蒸着材料Vmの基板Swへの付着が制限されることで基板Swに、マスクパターンに対応する成膜パターンで所定の薄膜が蒸着される)。マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送されるが、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。そして、真空チャンバ1の底面には、搬送される基板Swに対向させて蒸着源DSが設けられている。
【0013】
図2も参照して、蒸着源DSは、蒸着材料Vmを収容する金属製の容器41を有する。容器41内には金属製の坩堝42が格納され、坩堝42内に蒸着材料Vmが充填されるようになっている。坩堝42と容器41との間には、坩堝42の外壁面をその全体に亘って覆うように加熱手段としてのシースヒータ43が設けられ、坩堝42を介して蒸着材料Vmを気化温度または昇華温度まで加熱できる。蒸着材料Vmとしては、基板Swに成膜しようとする薄膜に応じて金属材料や有機材料が適宜選択され、顆粒状またはタブレット状のものが利用される。容器41の上面(基板Swとの対向面)41aには、放出部としての放出ノズル44がY軸方向に所定間隔で複数本(本実施形態では8本)列設されている。
【0014】
各放出ノズル44の周囲には、他の加熱手段としてのシースヒータ45が設けられている。そして、シースヒータ43により気化温度または昇華温度まで加熱されて、容器41内で気化または昇華した蒸着材料Vmが、各放出ノズル44から所定の余弦則に従い放出される。このとき、シースヒータ45により各放出ノズル44を夫々加熱することで、気化または昇華された蒸着材料Vmが放出ノズル44の内面44aに再付着して凝縮または凝固するのを防止することができる。なお、放出ノズル44の本数、各放出ノズル44のノズル径や、上面41aから放出ノズル44の先端までの高さは、例えば基板Swに蒸着したときのY軸方向の膜厚分布を考慮して適宜設定することができる。
【0015】
また、容器41の上面41aには、角柱状の支持枠5aを介してその全面を覆う遮熱板5が対向配置されている。遮熱板5は、耐熱性の高い材料、例えば、ステンレス製である。遮熱板5には、その板厚方向に貫通して各放出ノズル44の挿通を夫々許容する透孔51aが開設され、容器41の上面41aへの遮熱板5の取付状態で各放出ノズル44の先端部が遮熱板5の上面から僅かに突出するようにしている。また、容器41の上面41aと遮熱板5の下面との間の空間には、2枚のリフレクター板61,62が上下方向に間隔を存して設けられ、容器41の上面41aから放射される熱線を反射して遮熱板5が加熱されるのを防止することができる。この場合、遮熱板5の下方に冷却手段を配置して遮熱板5を所定温度以下に維持されるようにしてもよい。なお、本実施形態では、遮熱板5及びリフレクター板61,62を備えるものを例に説明するが、遮熱板5やリフレクター板61,62自体は省略することもできる。
【0016】
上記真空蒸着装置Dmにより基板Swの下面に所定の薄膜を蒸着するのに際しては、真空チャンバ1内の大気雰囲気中にて坩堝42に蒸着材料Vmを充填した後、図外の真空ポンプにより所定圧力まで真空排気する。次に、シースヒータ43を作動させて蒸着材料Vmを加熱すると、蒸着材料Vmが気化または昇華して容器41内に気化雰囲気または昇華雰囲気が形成され、真空チャンバ1内との圧力差で各放出ノズル44から気化または昇華した蒸着材料Vmが所定の余弦則に従い放出される。これに併せて、基板搬送装置2によって基板SwがX軸方向に搬送される。これにより、容器41に対してX軸方向に相対移動する基板Swの下面に、各放出ノズル44から所定の余弦則に従い放出された気化または昇華した蒸着材料Vmが付着、堆積して所定の有機膜が蒸着(成膜)される。このとき、シースヒータ45により各放出ノズル44を夫々加熱しているため、特に、放出ノズル44の内面44aや外面44bから放射される熱で基板Swやマスクプレート3が可及的に加熱されないようにしておく必要がある。
【0017】
本実施形態では、放出ノズル44の内面44a及び外面44bのその全体に亘って、並びに、容器41の上面41a全体に亘って、容器41の母材(金属)より低い放射率の低放射率層Leを設けた(図2参照)。低放射率層Leとしては、例えば、Au、Cu、TiN等の中から選択した金属または金属化合物の薄膜(膜厚が、例えば、1~20μm)を用いることができ、より好ましくは、直接成膜した金膜が用いられる。金膜は、耐熱性に優れ、蒸着材料Vmとの反応性に乏しいため、耐久性に優れた低放射率層Leを得ることができる。低放射率層Leの成膜方法としては、メッキ法、真空蒸着法やスパッタリング法といった物理的成膜法またはCVD法などを利用できる。一方で、低放射率層Leとして、放出ノズル44の内面44aや外面44b、容器41の上面41aの表面を所定範囲内の表面粗さ(例えば、Ra3μm以下)に加工(研磨)して構成することもできる。この場合、容器41や放出ノズル44と同じ母材(金属)を用いて、熱線を放射する容器部分の表面のみの放射率をより低いものとすることができる。表面粗さの加工方法としては、電解研磨法や化学研磨法といった研磨方法や切削加工などを利用できる。
【0018】
以上の実施形態によれば、基板Swに対して熱線を放射する容器部分として放出ノズル44の内面44a、外面44b及び容器41の上面41a全体に亘って、低放射率層Leを設けたことで、基板Swやマスクプレート3へ向けての熱線の放熱量が減少し、蒸着中における基板Swやマスクプレート3の温度上昇を可及的に抑制することができる。
【0019】
上記効果を確認するため、上記真空蒸着装置Dmを用いて次の評価を行った。即ち、蒸着物質VmとしてAlq:トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウムを坩堝42に充填し、真空チャンバ1内を所定圧力(10-5Pa)まで真空排気した後、シースヒータ43,45により蒸着温度(約400℃)まで昇温し、シミュレーションにより遮熱板5の温度分布を評価した。この場合、放出ノズル44が形成された容器41をチタン製とし、所定粒径の粒子を用いたブラスト処理のみを施したものを従来品、この従来品の放出ノズル44の内面44a、外面44b及び容器41の上面41a全体に亘って低放射率層Leとして、150nmの膜厚で金膜を物理的成膜法により予め成膜したものを発明品1、20nmの膜厚でTiN膜を物理的成膜法により予め成膜したものを発明品2とした。
【0020】
図3は、遮熱板5の基板Swとの対向面の温度分布を示す。これによれば、従来品では、図3(c)に示すように、放出ノズル44が存する、遮熱板5の長手方向に沿う中央領域が比較的高温(中点における温度が94℃)になり、その外周縁部との間に40℃以上の温度差が生じていることが確認された。このような中央領域と外周縁部の間の温度差は、放出ノズル44自体から放射される熱線の放熱量が大きくなることで生じる。それに対して、発明品1では、図3(a)に示すように、中点における温度が57℃であり、表面温度が従来品より40℃程度低くなり、しかも、遮熱板5の長手方向に沿う中央領域とその外周縁部との間の温度差も小さくできることが確認された。同様に、発明品2では、図3(b)に示すように、中点における温度が69℃であり、表面温度が従来品より25℃程度低くなり、同様に、遮熱板5の長手方向に沿う中央領域とその外周縁部との間の温度差も小さくできることが確認された。即ち、発明品1及び発明品2では、放出ノズル44自体から放射される熱線の放熱量が小さいことを示している。これらの結果から、基板Swに対して熱線を放射する容器部分として放出ノズル44の内面44a、外面44b及び容器41の上面41a全体に亘って、低放射率層Leを設けたことで、基板Swやマスクプレート3へ向けての熱線の放熱量が減少し、蒸着中における基板Swやマスクプレート3の温度上昇を可及的に抑制できたことが判る。
【0021】
次に、従来品の放出ノズル44の内面44a、外面44b及び容器41の上面41aを電解研磨法によりその表面を表面粗さRa3μm以下に加工したもの発明品3とし、上記と同条件で他の実験を行った。図4は、放出ノズル44を含む、遮熱板5の基板Swとの対向面の温度分布を示す。これによれば、中点における温度が76℃であり、表面温度が従来品より20℃程度低くなり、しかも、遮熱板5の長手方向に沿う中央領域とその外周縁部との間の温度差も従来品より小さくできることが確認された。即ち、発明品3では、上記発明品1及び発明品2と同様に、放出ノズル44自体から放射される熱線の放熱量が小さいことを示している。これらの結果から、放出ノズル44の内面44a、外面44b及び容器41の上面41aを電解研磨法によりその表面を表面粗さRa3μm以下に加工したことで、基板Swやマスクプレート3へ向けての熱線の放熱量が減少し、蒸着中における基板Swやマスクプレート3の温度上昇を可及的に抑制できることが判る。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、基板Swに対して熱線を放射する容器部分として、放出ノズル44の内面44a及び外面44bのその全体に亘って並びに、容器41の上面41a全体に亘って低放射率層Leを設けたものを例に説明したが、基板Swに対して熱線を放射する容器部分はこれらに限定されず、放出ノズル44の内面44a、外面44b、容器41の上面41aの各部分のみに、または、各部分の部分的に、低放射率層Leを設けてもよい。また、遮熱板5及びリフレクター板61,62を備える場合、基板Swに対して熱線を放射する容器部分として、遮熱板5やリフレクター板61,62の上面に低放射率層Leを設けもよい。
【符号の説明】
【0023】
Dm…真空蒸着装置、DS…蒸着源、Le…低放射率層、Sw…基板(被処理基板)、Vm…蒸着材料、1…真空チャンバ、41…容器、41a…容器の上面(被処理基板に対して熱線を放射する容器部分)、43…シースヒータ(加熱手段)、44…放出ノズル(放出部)、44a…放出ノズルの内面(被処理基板に対して熱線を放射する容器部分)、44b…放出ノズルの外面(被処理基板に対して熱線を放射する容器部分)、45…シースヒータ(他の加熱手段)。
図1
図2
図3
図4