(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067075
(43)【公開日】2022-05-02
(54)【発明の名称】カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/15 20060101AFI20220422BHJP
C07C 61/08 20060101ALI20220422BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20220422BHJP
C07C 51/353 20060101ALI20220422BHJP
C07C 61/10 20060101ALI20220422BHJP
C07C 61/06 20060101ALI20220422BHJP
C07C 53/128 20060101ALI20220422BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220422BHJP
【FI】
C07C51/15
C07C61/08
B01J31/22 Z
C07C51/353
C07C61/10
C07C61/06
C07C53/128
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168393
(22)【出願日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020175246
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021063512
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 雅希
(72)【発明者】
【氏名】奥 智治
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169BC71B
4G169BD01B
4G169BD02B
4G169BD04B
4G169BD07B
4G169BD12B
4G169BE27B
4G169BE42B
4G169CB74
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC46
4H006BA24
4H006BA37
4H006BA40
4H006BA48
4H006BA51
4H006BB17
4H006BE20
4H006BE41
4H006BJ20
4H006BS20
4H039CA65
4H039CF10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】空気中で失活しやすい化合物や毒性の高い化合物を使用することなく、従来よりも簡便な方法でカルボン酸を効率的に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】アルケンから、下記式(2);
(式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、水素原子または炭素数1~24の有機基を表し、R
1とR
2とが連結していてもよい。)で表されるカルボン酸を製造する方法であって、金属錯体及び4級アンモニウム塩の存在下で、アルケンと、ギ酸、及び/又は、二酸化炭素と水素とを反応させる工程を含むことを特徴とするカルボン酸の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1);
【化1】
(式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、水素原子または炭素数1~24の有機基を表し、R
1とR
2とが連結していてもよい。)で表されるアルケンから、下記式(2);
【化2】
(式中、R
1、R
2は、式(1)と同様である。)で表されるカルボン酸を製造する方法であって、
該製造方法は、金属錯体及び下記式(3);
【化3】
(式中、R
3~R
6は、同一又は異なって、有機基を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。)で表される4級アンモニウム塩の存在下で上記式(1)で表されるアルケンと、ギ酸、及び/又は、二酸化炭素と水素とを反応させる工程を含む
ことを特徴とするカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
前記式(3)におけるR3~R6は、炭素数1~30の有機基であることを特徴とする請求項1に記載のカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
前記式(3)におけるXは、ヨウ素原子であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
前記金属錯体は、周期表第8~12族原子、及び、Crからなる群より選択される少なくとも1種の原子を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
前記式(3)で表される4級アンモニウム塩の使用量は、金属錯体が含む金属原子1モルに対して、20モル以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のカルボン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸の製造方法に関する。より詳しくは、様々な工業製品や生活用品の原料としての利用可能なカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸は、様々な工業製品や生活用品の原料等として幅広く使用される化合物である。近年、二酸化炭素をC1炭素原料として活用し、有用化学品に変換する技術開発が環境負荷低減の観点だけでなく、未利用資源の有効活用の観点からも重要視されており、カルボン酸についても、二酸化炭素を原料に使用した製造が報告されている。例えば、Rh錯体触媒を用いるアルケンのヒドロキシカルボニル化について報告され、この反応を用いてCO2/H2とアルケンから様々な脂肪族カルボン酸を高収率で合成できることが報告されている(非特許文献1参照)。また、二酸化炭素と水素を反応させて得られるギ酸をカルボニル化剤として使用し、Rh錯体触媒の存在下で、アルケンのヒドロキシカルボニル化が効率的に進行することが報告されている(非特許文献2参照)。一般的に、アルケンを原料とするカルボン酸の製造ではCO2/H2混合ガスまたはCO/H2O混合ガスを使用した技術が検討されているが、カルボニル化剤としてギ酸を使用することは、反応条件に高圧を必要とせず、かつ可燃性ガスであるH2ガスや、可燃性、毒性ガスであるCOガスを使用することがないため、環境負荷低減だけでなく、製造プロセスの安全性の観点から、工業的にも重要な反応と考えられる。非特許文献2以外にも、アルケンとギ酸からカルボン酸やその塩、又はエステルを製造する反応が報告されている(特許文献1~3、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-132634号公報
【特許文献2】国際公開第04/076397号
【特許文献3】国際公開第11/048851号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「アンゲバンテ ヒェミー インターナショナル エディション(Angewante Chemie International Edition)」、2013年、第52巻 p.12119-12123
【非特許文献2】「ジャーナル オブ モレキュラー キャタリシス エー(Journal of Molecular Catalysis A)」、2003年、第197巻 p.61-64
【非特許文献3】「ジャーナル オブ CO2 ユーティリゼーション(Journal of CO2 Utilization)」、2018年、第25巻 p.1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、二酸化炭素やギ酸を原料としてカルボン酸やその塩、又はエステルを製造する種々の反応が報告されているが、非特許文献1~3の方法では、Rh触媒に対して多量のトリフェニルホスフィン及びヨウ化メチル等の反応促進剤の添加が不可欠である。トリフェニルホスフィンは空気中で容易に酸化され、トリフェニルホスフィンオキシドを生成することで不活化されるため、取り扱いに注意が必要である。またヨウ化メチルは、刺激性、毒性が高いため環境負荷が高い上に、腐食性も高く、反応器等材質にはハステロイやインコネル等の高価な材料が必要となる。これらの理由により、非特許文献1~3の方法を用いた高効率な製造プロセスの確立には未だ至っていない。また、特許文献1の方法では実際の生成物がカルボン酸塩で得られるため、カルボン酸を製造するためには酸で中和して、カルボン酸に変換し、抽出する工程が必要となる。特許文献2の方法ではチオ硫酸ナトリウム等の還元剤で過剰の酸化剤を失活するための追加の後処理工程が必要であり、また反応時間が長い。特許文献3の方法は、触媒としてRu化合物、Co化合物及びハロゲン化物塩の3種類の化合物の使用が必須であり、製造が煩雑である。このようにいずれの製造方法も充分とはいえないのが現状である。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、空気中で失活しやすい化合物や毒性の高い化合物を使用することなく、従来よりも簡便な方法でカルボン酸を効率的に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、空気中で失活しやすい化合物や毒性の高い化合物を使用することなく、従来よりも簡便な方法でカルボン酸を効率的に製造する方法について検討したところ、金属錯体を触媒として、アルケンと、ギ酸、又は、二酸化炭素と水素とを反応させてカルボン酸を得る反応において、所定の構造のアンモニウム塩が反応促進剤として機能し、これにより、カルボン酸が簡便かつ効率的に得られることを見出し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は下記式(1);
【0009】
【0010】
(式中、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子または炭素数1~24の有機基を表し、R1とR2とが連結していてもよい。)で表されるアルケンから、下記式(2);
【0011】
【0012】
(式中、R1、R2は、式(1)と同様である。)で表されるカルボン酸を製造する方法であって、該製造方法は、金属錯体及び下記式(3);
【0013】
【0014】
(式中、R3~R6は、同一又は異なって、有機基を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。)で表される4級アンモニウム塩の存在下で上記式(1)で表されるアルケンと、ギ酸、及び/又は、二酸化炭素と水素とを反応させる工程を含むことを特徴とするカルボン酸の製造方法である。
【0015】
上記式(3)におけるR3~R6は、炭素数1~30の有機基であることが好ましい。
【0016】
上記式(3)におけるXは、ヨウ素原子であることが好ましい。
【0017】
上記金属錯体は、周期表第8~12族原子、及び、Crからなる群より選択される少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。
【0018】
上記式(3)で表される4級アンモニウム塩の使用量は、金属錯体が含む金属原子1モルに対して、20モル以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のカルボン酸の製造方法は、反応促進剤として空気中で失活しやすい化合物や毒性の高い化合物を使用することなく、所定の4級アンモニウム塩を使用するだけで炭素源としてギ酸、又は、二酸化炭素を用いたアルケンとの反応からカルボン酸を簡便に製造することができる方法であることから、様々な用途に使用されるカルボン酸を製造する方法として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0021】
本発明のカルボン酸の製造方法は、金属錯体及び下記式(3);
【0022】
【0023】
(式中、R3~R6は、同一又は異なって、有機基を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。)で表される4級アンモニウム塩の存在下で、下記式(1);
【0024】
【0025】
(式中、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子または炭素数1~24の有機基を表し、R1とR2とが連結していてもよい。)で表されるアルケンとギ酸とを反応させる工程、及び/又は、該アルケンと二酸化炭素と水素とを反応させる工程を含むことを特徴とする。
上記式(3)で表される4級アンモニウム塩は、金属錯体を触媒とする上記式(1)で表されるアルケンと、ギ酸、又は、二酸化炭素と水素との反応の反応促進剤としての機能を発揮し、これにより生成物であるカルボン酸を得ることができる。上記4級アンモニウム塩は、空気中でも失活することがないため、この方法であると、トリフェニルホスフィンとヨウ化メチルを反応促進剤として用いた従来の方法に比べて、1種類の反応促進剤の使用のみでよく、また反応促進剤の取り扱いが容易になる。また、毒性や腐食性の問題も低減できるため、環境負荷や設備コストを低下させてカルボン酸を製造することが可能となる。更にこの反応ではカルボン酸が生成物として得られるため、特許文献1の方法の場合のような、カルボン酸塩を中和してカルボン酸に変換した後、抽出する工程は必要なく、少ない工程で簡便かつ効率的にカルボン酸を得ることができる。
本発明のカルボン酸の製造方法は、上記式(1)で表されるアルケンとギ酸、又は、二酸化炭素と水素のいずれか少なくとも一方を反応させるものであればよいが、両方を反応させるものであってもよい。
なお、本発明において、「金属」には「貴金属」が含まれる。
【0026】
上記式(1)において、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子または炭素数1~24の有機基を表し、R1とR2とが連結していてもよい。
R1、R2が1価の有機基である場合、該有機基の炭素数は1~20であることが好ましい。より好ましくは、1~16である。
R1、R2が1価の有機基である場合、有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アロイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アリールアルキルスルホニル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、トリアリールシリル基、ビス(ジアルキルアミノ)ホスフィノイル基、ジアルキルホスフィノイル基、ジアリールホスフィノイル基、ジアルキルホスホニル基、ジアリールホスホニル基等が挙げられる。
これらの中でも、アルキル基、アルケニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アロイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アリールアルキルスルホニル基、ビス(ジアルキルアミノ)ホスフィノイル基、ジアルキルホスフィノイル基、ジアリールホスフィノイル基、ジアルキルホスホニル基、ジアリールホスホニル基のいずれかが好ましい。
R1とR2とが連結している場合、上記式(1)で表されるアルケンは環構造を有するものとなる。その場合の環構造の大きさは特に制限されないが、該環構造は3~15員環であることが好ましい。より好ましくは、5~12員環である。
【0027】
上記R1、R2の有機基の具体例として挙げた基は、いずれも水素原子の1つ又は2つ以上が置換基で置換されていてもよい。
置換基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アロイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アリールアルキルスルホニル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、トリアリールシリル基、ビス(ジアルキルアミノ)ホスフィノイル基、ジアルキルホスフィノイル基、ジアリールホスフィノイル基、ジアルキルホスホニル基、ジアリールホスホニル基、カルボキシル基、スルホニル基、アミノ基、シリル基、クロロ基、フルオロ基、トリフルオロメチル基、4-ピリジル基、3-ピリジル基、2-ピリジル等が挙げられる。
置換基の炭素数は特に制限されず、置換基も含めた有機基の炭素数が1~24となればよいが、炭素数は0~23であることが好ましい。
【0028】
上記反応工程において、上記式(1)で表されるアルケンとギ酸とを反応させる場合、使用するギ酸の量は、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0.1~20モルの割合であることが好ましい。より好ましくは、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0.5~10モルの割合であり、更に好ましくは、1.0~5モルの割合である。
【0029】
上記反応工程において、上記式(1)で表されるアルケンと二酸化炭素と水素とを反応させる場合、使用する水素の量は、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0.1~20モルの割合であることが好ましい。より好ましくは、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0.5~10モルの割合であり、更に好ましくは、1~5モルの割合である。
なお二酸化炭素の量は特に制限はないが、二酸化炭素は反応原料であることに加え、不燃性ガスであるため、アルケンや水素ガス等の可燃性ガスを希釈し、安全に取り扱うための希釈ガスとしての役割も担う。従って、二酸化炭素の量は生産性と製造プロセスの安全性の両視点から適宜設定することができ、上記式(1)で表されるアルケンや水素ガスに対して大過剰に使用してもよいが、例えば、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0.1~200モルの割合であることが好ましい。より好ましくは、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0.5~150モルの割合であり、更に好ましくは、1~100モルの割合である。
【0030】
本発明のカルボン酸の製造方法に用いる金属錯体は、上記式(1)で表されるアルケンから式(2)で表されるカルボン酸を得る反応が進行する限りいずれの金属原子を含むものであっても特に制限されないが、周期表第8~12族原子、及び、Crからなる群より選択される少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。このような金属原子を含むことで、カルボン酸をより高い収率で得ることが可能となる。
周期表第8~12族原子、及び、Crの中でも、好ましくは、周期表第8~10族原子であり、より好ましくは、Fe、Ru、Co、Rh、Irであり、更に好ましくは、Co、Rh、Irであり、特に好ましくは、Rh、Irである。
【0031】
本発明のカルボン酸の製造方法に用いる金属錯体は、下記式(4);
[LmMZn]p (4)
(式中、Lは、同一又は異なって、周期表第14~16族の原子を含む配位子を表す。m、nは、配位子の数を表し、それぞれ0~8の数である。Mは、金属原子を表す。Zは、ハロゲン原子、水素原子、アルキル基、又は、水酸基を表す。pは、1~6の数を表す。)で表される錯体であることが好ましい。
上記式(4)のLの配位子を構成する周期表第14~16族の原子としては、炭素原子、窒素原子、燐原子、砒素原子、酸素原子、硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。より好ましくは、炭素原子、窒素原子、燐原子、酸素原子、硫黄原子であり、更に好ましくは、炭素原子、燐原子、酸素原子である。またこれらの周期表第14~16族の原子を含む配位子Lは、その配位部位の数に応じて、単座配位子、二座配位子または二座以上の多座配位子であってもよく、好ましくは単座配位子、二座配位子であり、より好ましくは単座配位子である。
【0032】
上記式(4)の周期表第14~16族の原子を含む配位子Lをさらに詳しく例示すると、一酸化炭素、カルボン酸、アセチルアセトン、アルケン化合物、アミン化合物、イミン化合物、ホスフィン化合物、N-複素環式カルベン化合物、ニトリル化合物、イソシアニド化合物から選ばれる配位子であることが好ましい。
カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の炭素数1~30のカルボン酸が挙げられる。
アルケン化合物としては、エチレン、プロピレン、シクロオクテン等の炭素数2~30のアルケン;ブタジエン、シクロペンタジエン、1,5-シクロオクタジエン等の炭素数4~30のアルカジエン等が挙げられる。
アミン化合物としては、アンモニア;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等の炭素数1~30の(モノ、ジ、トリ)アルキルアミン;フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン等の炭素数1~30の(モノ、ジ、トリ)アリールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタン-1,4-ジアミン等の炭素数1~10のジアミンが挙げられる。
イミン化合物としては、ピリジン;2,2‘-ビピリジン、1,10-フェナントロリン、1,8-ナフチリジン等のジイミン等が挙げられる。
ホスフィン化合物としては、トリメチルホスフィン等の炭素数1~24のトリアルキルホスフィン;トリフェニルホスフィン等の炭素数1~24のトリアリールホスフィン;1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、2,2‘-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1‘-ビナフチル等のジホスフィン;が挙げられる。
N-複素環式カルベン化合物としては、1,3-ジ-tert-ブチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン、1,3-ジメシチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリジン-2-イリデン等、イミダゾリウム塩由来の炭素数3~30のN-複素環式カルベン化合物が挙げられる。
ニトリル化合物としては、炭素数1~24のアルカン、アルケン、アルキンやベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素等の水素原子を-CNに置き換えた構造の化合物等が挙げられる。
イソシアニド化合物としては、炭素数1~24のアルカン、アルケン、アルキンやベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素等の水素原子を-NCに置き換えた構造の化合物等が挙げられる。
上記式(4)のZのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
上記式(4)のZのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基など炭素数1~30のアルキル基が挙げられる。
上記式(4)の金属錯体としては、L及び/又はZを介して架橋した複核の金属錯体も使用することができる。
これらの中でも、上記式(4)の金属錯体としては、配位子Lとして少なくとも1つのホスフィン化合物を有するものが好ましい。
【0033】
本発明のカルボン酸の製造方法において上記式(4)で表される金属錯体を用いる場合、反応原料に上記式(4)で表される金属錯体を添加してカルボン酸の製造をしてもよく、反応系中で上記式(4)で表される金属錯体を生成させるin situ反応によりカルボン酸の製造をしてもよい。
【0034】
本発明のカルボン酸の製造方法に用いる金属錯体の使用量は、上記式(1)で表されるアルケンから式(2)で表されるカルボン酸を得る反応が進行する限り特に制限されないが、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0.001~1.0モルの割合であることが好ましい。このような割合で用いることで、カルボン酸をより高収率でかつ製造コストを抑えて製造することができる。金属錯体の使用量は、より好ましくは、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0.005~0.5モルであり、更に好ましくは、0.01~0.1モルである。
【0035】
本発明のカルボン酸の製造方法に用いる上記式(3)で表される4級アンモニウム塩のR3~R6は、炭素数1~30の有機基であることが好ましい。より好ましくは、炭素数1~20の有機基であり、更に好ましくは、炭素数1~10の有機基である。
R3~R6の有機基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキレンオキサイドが挙げられる。これらの中でも、安価に入手でき、取り扱いが容易である点で、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルコキシ基、アルキレンオキサイドが好ましく、アルキル基、ベンジル基、アルキレンオキサイドがより好ましく、アルキル基が最も好ましい。
【0036】
上記式(3)におけるXは、ハロゲン原子を表し、いずれのハロゲン原子であってもよいが、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかが好ましく、これらの中でも得られるカルボン酸の収率が高くなる点でヨウ素が最も好ましい。
【0037】
本発明のカルボン酸の製造方法に用いる式(3)で表される4級アンモニウム塩の使用量は、上記式(1)で表されるアルケンから式(2)で表されるカルボン酸を得る反応が進行する限り特に制限されないが、金属錯体が含む金属原子1モルに対して、20モル以下であることが好ましい。より好ましくは、10モル以下、更に好ましくは5モル以下である。また、金属錯体が含む金属原子1モルに対する式(3)で表される4級アンモニウム塩の使用量は、0.5モル以上であることが好ましい。このような割合で用いることで、カルボン酸をより高い収率で得ることができる。式(3)で表される4級アンモニウム塩の使用量は、より好ましくは、1.0モル以上であり、更に好ましくは、1.5モル以上である。
触媒である金属錯体触媒と組み合わせる反応促進剤として式(3)で表される4級アンモニウム塩を用いると、反応促進剤としてトリフェニルホスフィンとヨウ化メチルとを用いた場合に比べてより少量の反応促進剤の使用でもカルボン酸を高い収率で製造することができ、また、触媒寿命もより長くすることができる。
【0038】
本発明のカルボン酸の製造方法は、金属錯体、式(3)で表される4級アンモニウム塩をそれぞれ1種用いるものであってもよく、2種以上用いるものであってもよい。
また、本発明のカルボン酸の製造方法は、上記式(1)で表されるアルケンから式(2)で表されるカルボン酸を得る反応工程において反応促進剤として式(3)で表される4級アンモニウム塩を使用するものである限り、その他の反応促進剤を併用してもよいが、反応促進剤として4級アンモニウム塩のみを使用することが好ましい。
【0039】
本発明のカルボン酸の製造方法は、金属錯体、反応促進剤以外のその他の添加剤を用いてもよい。その他の添加剤としては、p-トルエンスルホン酸(pTSA)、p-トルエンスルホン酸(pTSA・H2O)・一水和物、ベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸・一水和物、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等の酸性物質が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記その他の添加剤の使用量は、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0~10モルの割合であることが好ましい。より好ましくは、上記式(1)で表されるアルケン1モルに対して、0~5モルの割合であり、更に好ましくは、0~1モルの割合である。
【0041】
上記式(1)で表されるアルケンと、ギ酸、又は、二酸化炭素と水素とを反応させる工程は、溶媒を用いて行ってもよい。
溶媒としては反応が進行する限り特に制限されないが、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-デカン、n-ウンデカン、n-トリデカン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸等のカルボン酸;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物;ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;テトラメチル尿素、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
上記式(1)で表されるアルケンと、ギ酸、又は、二酸化炭素と水素とを反応させる工程における反応温度は、反応が進行する限り特に制限されないが、100~250℃であることが好ましい。このような温度で行うことで、得られるカルボン酸の収率をより高くすることができる。より好ましくは、120~220℃であり、更に好ましくは、140~200℃である。
また反応の圧力は、反応が進行する限り特に制限されないが、0.1~50MPaであることが好ましい。より好ましくは、0.1~30MPaであり、更に好ましくは、0.5~20MPaであり、最も好ましくは1.0~20MPaである。
また反応時間は、カルボン酸の収率を高めることとカルボン酸製造の効率とを考慮すると、0.1~20時間であることが好ましい。より好ましくは、0.2~15時間であり、更に好ましくは、0.5~10時間である。
【0043】
本発明のカルボン酸の製造方法は、上記式(1)で表されるアルケンと、ギ酸、又は、二酸化炭素と水素とを反応させる工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。例えば、本発明のカルボン酸の製造方法は、二酸化炭素と水素とを反応させてギ酸を製造する第一工程を行った後、第二工程において第一工程で製造されたギ酸を使用してアルケンと反応させることでカルボン酸を製造することができる。また、その他の工程としては、製造したカルボン酸の精製工程、抽出工程等が挙げられる。
【実施例0044】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0045】
実施例1
カルボン酸の製造は全て30mlのハステロイ製耐圧反応器を使用したバッチ反応形式により行った。
シクロヘキセン(0.46g、5.58mmol)、ギ酸(0.93g、20.17mmol)、p-トルエンスルホン酸・一水和物(0.19g、1.00mmol)、反応促進剤としてヨウ化テトラメチルアンモニウム(TMA-I、0.15g、0.73mmol)を酢酸(5.93g、98.7mmol)中に加え、あらかじめ溶解させた。得られた混合溶液と、触媒としてRhCl(CO)(PPh3)2(0.19g、0.28mmol)を耐圧反応器に加え、密閉した。密閉された耐圧反応器をアルミブロック形式の電気炉で180℃に加熱し、2.5時間の反応を行った。冷却後、耐圧反応器内の内容物を回収し、検出器にFIDを備えるガスクロマトグラフィ(GC)装置を使用して、回収物に含まれる反応生成物の定性及び定量分析を行った。GCによる定量分析には、内部標準法を採用した。GCによる定性分析の結果、主生成物であるシクロヘキサンカルボン酸(C6H11COOH)とともに、シクロヘキサン(C6H12)、ヨードシクロヘキサン(C6H11I)、アセトキシシクロヘキサン(C6H11OAc)等の副生成物が検出された。定量分析の結果から、シクロヘキセン転化率(C6H10転化率)、各生成物の選択率を算出した。結果を表3に示す。これらの算出式は、以下の通りである。
C6H10転化率(mol%)=(1-(回収物中のシクロヘキセンのモル数)/(耐圧反応器内に仕込んだシクロヘキセンのモル数))×100
各生成物の選択率(mol%)=((回収物中の生成物のモル数)/(耐圧反応器内に仕込んだシクロヘキセンのモル数))×100/(C6H10転化率)×100
本実施例により、反応促進剤としてTMA-Iを使用することで、シクロヘキサンカルボン酸を63.1mol%の高選択率で製造することができた。
【0046】
実施例2~58
反応条件を表1、2のように変更したこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。実施例24、25は、RhCl(CO)(PPh3)2の代わりに[RhCl(CO)2]2を加え、反応系中でPPh3を配位子とする金属錯体を生成させてカルボン酸化合物の製造を行うin situ反応を行った例である。実施例46~52は、RhCl(CO)(PPh3)2の代わりに[RhCl(CO)2]2を加え、表2に記載の各種ホスフィン化合物を用いて反応系中でこれらのホスフィン化合物を配位子とする金属錯体を生成させてカルボン酸化合物の製造を行うin situ反応を行った例である。
結果を表3~5に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【表5】
表1~5の反応促進剤、ホスフィン化合物は以下のとおりである。
[反応促進剤]
TMA-I:ヨウ化テトラメチルアンモニウム
TEA-I:ヨウ化テトラエチルアンモニウム
TPA-I:ヨウ化テトラプロピルアンモニウム
TBA-I:ヨウ化テトラブチルアンモニウム
THA-I:ヨウ化テトラヘキシルアンモニウム
TOA-I:ヨウ化テトラオクチルアンモニウム
TBA-Br:臭化テトラブチルアンモニウム
TBA-Cl:塩化テトラブチルアンモニウム
[ホスフィン化合物]
PPh
3:トリフェニルホスフィン
PMePh
2:メチルジフェニルホスフィン
P(p-tol)
3:トリ(p-トリル)ホスフィン
P(4-methoxy-Ph)
3:トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン
JohnPhos:2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)ビフェニル
Dppb:1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン
Dpppent:1,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン
DPEphos:ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル
【0052】
実施例59
カルボン酸の製造は全て30mlのハステロイ製耐圧反応器を使用したバッチ反応形式により行った。
シクロヘキセン(0.41g、5.00mmol)、p-トルエンスルホン酸・一水和物(0.19g、1.00mmol)、反応促進剤としてヨウ化テトラブチルアンモニウム(TBA-I、0.09g、0.25mmol)を酢酸(6.30g、104.9mmol)中に加え、あらかじめ溶解させた。得られた混合溶液と、触媒としてRhI(CO)(PPh3)2(0.20g、0.25mmol)を耐圧反応器に加え、密閉した。次に、容器内にH2ガス(0.91MPa)を充填した後、さらにポンプヘッドを-15℃に冷却したHPLCポンプを使用して、液化CO2(11.0mg、250mmol)を充填した。その後、密閉された耐圧反応器をアルミブロック形式の電気炉で180℃に加熱し、2.0時間の反応を行った。冷却後、耐圧反応器内の内容物を回収し、実施例1と同じ方法で回収物に含まれる反応生成物の定性及び定量分析を行った。結果を表7に示す。
本実施例により、反応促進剤としてTBA-Iを使用することで、カルボキシル化剤として二酸化炭素と水素とを用いた場合にも、シクロヘキサンカルボン酸を46.6mol%の高選択率で製造することができた。
【0053】
実施例60
反応促進剤であるTBA-Iの使用量を表6に記載のように変更した以外は実施例59と同様にして反応を行った。結果を表7に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
比較例1
シクロヘキセン(0.48g、5.86mmol)、ギ酸(0.96g、20.9mmol)、p-トルエンスルホン酸・一水和物(0.19g、1.00mmol)、反応促進剤としてトリフェニルホスフィン(0.36g、1.37mmol)とヨウ化メチル(0.39g、2.77mmol)を酢酸(6.5g、107.9mmol)中に加え、あらかじめ溶解させた。得られた混合溶液と、[RhCl(CO)2]2(0.047g、Rh原子として0.24mmol)を耐圧反応器に加え、密閉した。密閉された耐圧反応器をアルミブロック形式の電気炉で180℃に加熱し、2.5時間の反応を行った。結果を表9に示す。
【0057】
比較例2、3
反応条件を表8のように変更したこと以外は比較例1と同様にして反応を行った。結果を表9に示す。
【0058】
【0059】