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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067356
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】シート状食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20220425BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20220425BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A23L29/244
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020176027
(22)【出願日】2020-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】野上 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕樹
【テーマコード(参考)】
4B016
4B041
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LE01
4B016LG01
4B016LG03
4B016LG05
4B016LG08
4B016LG10
4B016LK09
4B016LP01
4B016LP03
4B016LP04
4B016LP05
4B016LP08
4B016LP13
4B041LC10
4B041LD10
4B041LE03
4B041LH08
4B041LK27
4B041LK29
4B041LP07
4B041LP12
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、野菜や果物などを原料としたペーストから製造するシート状食品であって、乾燥後にも野菜及び果物の本来持つ風味や色調を損なうことなく、かつ柔軟性を持ち合わせたシート状食品を提供することを目的とする。
【解決手段】野菜及び/または果物を原料としたシート状食品を製造する際に、マンナンを添加することにより、乾燥後のシート状食品の原料由来の風味及び色調を損なうことなく、かつ柔軟性に優れた野菜及び果物シートが得られ、上記課題が解決される。
【選択図】図1D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材として野菜及び/または果物ペーストを含み、かつマンナンを含むペースト状原料を乾燥してなるシート状食品。
【請求項2】
ペースト状原料が、野菜及び/または果物ペーストの合計質量100質量部に対し、マンナンを0.1~5質量部含む、請求項1記載のシート状食品。
【請求項3】
野菜ペーストが、根菜類、土物類、葉茎菜類、果菜類、マメ科野菜類、及びイネ科野菜類からなる群より選択される少なくとも一種の野菜のペーストである、請求項1または2記載のシート状食品。
【請求項4】
果物ペーストが、落葉性果樹、及び常緑性果樹からなる群より選択される少なくとも一種の果物のペーストである、請求項1~3のいずれか一項記載のシート状食品。
【請求項5】
野菜及び/または果物ペーストと、マンナンとを含むペースト状原料を製造し、前記ペースト状原料を乾燥することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のシート状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜及び/または果物のシート状食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野菜や果物(以下、野菜等ともいう)を原料としたシート状食品が市場に流通している。このようなシート状食品は、野菜等本来の栄養成分、風味及び色味等を有しているため、例えば海苔や生春巻きの皮の代わりに使用したり、細かく裁断して料理にトッピングしたりすること等によって、料理に彩りを簡単に付与することができ、喫食時には野菜等の風味を楽しむことができ、野菜等の栄養成分を摂取することもできる。
【0003】
しかしながら、野菜や果物には水分が多く含まれているため、単にミンチやペースト状にしたものを御簾あるいは簾に載せて乾かすのみでは、ひびわれなどが生じやすく、纏まりのあるしなやかなシート状食品を製造することは難しい。
従来このような野菜や果物のシート状食品の製造方法として、酵素共存下に野菜や果物をボイルする方法が報告されている(特許文献1)。この方法によると、酵素の作用により得られたシート状食品にしなやかさが付与されるものの、繊維組織の分解が進んでおり、全体がドロドロになりかえってシートがせんべいのように固くなってしまうという欠点がある。
また、機能保持性ならびに食感に優れた野菜シートを提供するために、野菜の組織内水分の一定割合以上をトレハロース溶液で置換して乾燥する方法が知られているが、野菜の繊維質が残り、歯ざわり、舌ざわり、口どけなどのテクスチャーに問題がある(特許文献2)。
結着剤(バインダー)として小麦粉、ヤマイモ、海藻等を利用したものが知られているが、小麦粉はアレルゲンであるため好ましくなく、また海藻はスペック(暗色の微小片あるいは異物)の原因となり、野菜シートの外観に影響を与えてしまう問題がある(特許文献3)。
歯ざわり、舌ざわり、口どけなどのテクスチャーに優れた野菜シートの開発のため海藻由来多糖類をバインダーとして利用したものがある(特許文献4)が、熱耐性が弱く、加熱調理をする場合に食感を維持できなかった。。
多価アルコールと天然多糖類との混合物を作製し、これを食品素材と混合してシート状食品を製造した旨の報告がある(特許文献5)。しかし、多価アルコールと天然多糖類との混合物を食品素材に対して過剰に使用するため、野菜や果物の本来の風味を有するシート状食品が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-56340号公報
【特許文献2】特開2002-45143号公報
【特許文献3】特開2013-188152号公報
【特許文献4】特開2013-102708号公報
【特許文献5】特開昭63-28380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、野菜や果物などを原料としたペーストから製造するシート状食品であって、巻物やサラダラップなどの食品に使用した際、具材から水分が移行してペースト状に戻ることのないシート状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ニンジンやカボチャ、タマネギ等を使用した野菜及び/またはリンゴなどの果物を原料としたシート状食品を製造する際にグルコマンナン等のマンナンを添加することにより、乾燥後のシート状食品を巻物やサラダラップとして用いた際、具材からの水分移行により乾燥前のペースト状態に戻ることがない野菜及び果物シート状食品が得られることを見いだした。グルコマンナン等のマンナンは野菜及び果物シート状食品内でバインダーおよび撥水剤として機能すると考えられ、シート状食品に十分な強度を付与することで、シート状食品の加工品への用途適性を向上し、かつシート状食品のペースト戻り(ペースト状に戻ること)を防いでいると考えられる。これにより食感が改良され、さらにおにぎりや巻きずし、サラダラップなどの水分を含んだ食品を具材とする加工品への活用が可能となった。
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 主材として野菜及び/または果物ペーストを含み、かつマンナンを含むペースト状原料を乾燥してなるシート状食品。
[2] ペースト状原料が、野菜及び/または果物ペーストの合計質量100質量部に対しマンナンを0.1~5質量部含む、[1]記載のシート状食品。
[3] 野菜ペーストが、根菜類、土物類、葉茎菜類、果菜類、マメ科野菜類、及びイネ科野菜類からなる群より選択される少なくとも一種の野菜のペーストである、[1]または[2]記載のシート状食品。
[4] 果物ペーストが、落葉性果樹、及び常緑性果樹からなる群より選択される少なくとも一種の果物のペーストである、[1]~[3]のいずれかに記載のシート状食品。
[5] 野菜及び/または果物ペーストと、マンナンとを含むペースト状原料を製造し、前記ペースト状原料を乾燥することを含む、[1]~[4]のいずれかに記載のシート状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、従来シート状食品とすることが難しかった糖度が多い野菜や果物あるいは繊維量が不十分な野菜や果物のシート状食品を提供することができる。
本発明においてマンナンを添加したことによる効果は以下の通りになる。
本発明の野菜及び/または果物のシート状食品は、柔軟性があり、歯切れがよくなり、食感が改良される
本発明の野菜及び/または果物のシート状食品は、乾燥によりひびを生じやすい野菜及び果物シートのひび防止効果がある
本発明の野菜及び/または果物のシート状食品は、強度があり、加工品への用途適性を向上させる。
本発明の野菜及び/または果物のシート状食品は、水分を含む食材と接触させることで水分移行が起こっても、ペースト状に戻らない
本発明の野菜及び/または果物のシート状食品は、接する食品からの水分移行によるシート状食品のペースト戻りを防ぐことができるため、加工品への用途適性を向上させることができ、様々な製品に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】比較例1のシート状食品の外観写真(左)とその拡大写真(右)である。
図1B】実施例1のシート状食品の外観写真(左)とその拡大写真(右)である。
図1C】実施例2のシート状食品の外観写真(左)とその拡大写真(右)である。
図1D】実施例3のシート状食品の外観写真(左)とその拡大写真(右)である。
図1E】実施例4のシート状食品の外観写真(左)とその拡大写真(右)である。
図1F】実施例5のシート状食品の外観写真(左)とその拡大写真(右)である。
図1G】実施例6のシート状食品の外観写真(左)とその拡大写真(右)である。
図2A】比較例1のシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図2B】実施例1のシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図2C】実施例2のシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図2D】実施例3のシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図3A】比較例1のシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図3B】実施例1のシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図3C】実施例2のシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図3D】実施例3のシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図3E】実施例4のシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図3F】実施例5のシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図3G】実施例6のシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図4A】比較例Aのシート状食品の外観写真である。
図4B】実施例Aのシート状食品の外観写真である。
図5A】比較例Aのシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図5B】実施例Aのシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図6A】比較例Aのシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図6B】実施例Aのシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図7A】比較例Bのシート状食品の外観写真である。
図7B】実施例Bのシート状食品の外観写真である。
図8A】比較例Dのシート状食品の外観写真である。
図8B】実施例Dのシート状食品の外観写真である。
図9A】比較例Dのシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図9B】実施例Dのシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図10A】比較例Dのシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図10B】実施例Dのシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である。
図11】実施例7のシート状食品の外観写真である。
図12】実施例7のシート状食品の耐水性試験の結果を示す写真である。
図13】実施例7のシート状食品の水分移行試験開始前(0時間)(左)と3時間後(右)の外観写真である
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシート状食品は、主材として野菜及び/または果物のペーストを含み、さらにマンナン及び外的に添加した水分を含むペースト状原料を乾燥してなるものである。
本明細書において野菜ペーストの「野菜」原料は特に限定されず、ニンジンやダイコン等の根菜類、タマネギやジャガイモ等の土物類、ケールやホウレンソウ等の葉茎菜類、カボチャやトマト等の果菜類、グリンピースやサヤエンドウ等のマメ科野菜類、トウモロコシやベビーコーン等のイネ科野菜類が挙げられる。好ましくは、ニンジン、カボチャ、ジャガイモ、タマネギ、コーンが挙げられる。より好ましくはニンジン、カボチャであり、最も好ましくはニンジンである。野菜原料は好ましくはペースト化の前に洗浄、皮をむく、不要な根や葉を除去するなどの前処理を行う。
【0010】
本明細書において果物ペーストの「果物」原料は特に限定されず、りんごやなし等の仁果類、モモやさくらんぼ等の核果類などの落葉性果樹、みかん等の柑橘類を含む常緑性果樹が挙げられる。好ましくは、りんご、なし、バナナが挙げられる。果物原料は好ましくはペースト化の前に洗浄、皮をむく、不要なへたや種子を除去するなどの前処理を行う。
上記野菜ペーストと果物ペーストは混合して用いてもよく、野菜と果物を破砕前後において混合した後ペーストを作製してもよい。
【0011】
本発明において、マンナンとはマンノースを主な構成単位とする多糖類をいう。本明細書では、マンノース以外に、ガラクトースやグルコースを含むものの総称として用いる。「マンノースを主な構成単位とする」とは、少なくとも50質量%程度マンノースを含むことを意味する。
ゾウゲヤシの種子胚乳には、ほぼマンノースのみから成るマンナンが存在する。本発明では、マンナンはマンノースを主な構成単位として含む限りにおいて、いずれの由来のものであってもよい。
グルコースを含むものはグルコマンナン(代表例はコンニャクマンナン)、ガラクトースを含むものはガラクトマンナン(例えば、グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)と呼ばれる。
【0012】
グルコマンナンは複合多糖の一種であり、代表例としてコンニャク芋の主成分の水溶性の食物繊維が挙げられる。グルコースとマンノースがβ-1,4-グリコシド結合した直鎖状の構造のものやグルコースとマンノースがβ-1,4-グリコシド結合した主鎖に一部β-1,3-グリコシド結合やβ-1,6-グリコシド結合の枝分かれ構造を有するものなどが存在する。グルコマンナンのマンノースとグルコースの比は1.5:1~20:1程度の割合である。
ガラクトマンナンは水溶性多糖類の一種であり、マンノースがβ-1,4-グリコシド結合した主鎖にα-1,6-グリコシド結合でガラクトースが側鎖として結合している。マンノースとガラクトースの比率は、1.5:1~10:1程度の割合である(例えば、グァーガムでは2:1、タラガムでは3:1、ローカストビーンガムでは4:1である。)。
本発明のバインダーとしてのマンナンは特に限定されないが、好ましくはグルコマンナン及びガラクトマンナンであり、より好ましくはグルコマンナンである。
【0013】
本発明のマンナンの添加量は、野菜及び果物ペーストの合計質量を100質量部としたとき、0.1~5質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましく、0.7~4質量部であることがよりさらに好ましい。野菜及び果物ペースト100質量部に対するマンナンの比率が0.1質量部以上であればバインダー及び撥水剤としての機能を発揮することができ、野菜シートの加工品への用途適性を付与できる。また、マンナンの量が5質量部を超えて多くなりすぎると、乾燥後のシート状食品が収縮し、また硬くなる傾向にある。
【0014】
本発明のシート状食品は、野菜及び/または果物のペーストを主材として製造される。「主材として」とは、「マンナン」と外的に添加される「水分」を除き、シート形成のための「主たる原材料」であることを意味する。本明細書において「主たる」とは、「マンナン」と外的に添加される「水分」を除くペースト状原料の全質量に対し、50質量%以上(例えば60質量%以上あるいは70質量%以上)を意味する。好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。本発明において、「ペースト」は、加熱または非加熱の野菜及び/または果物を破砕または摩砕することにより得られるものである。
【0015】
「ペースト」の製造(ペースト化とも呼ぶ)は、「ペースト化装置」と呼ばれる装置を用いて行うことができる。「ペースト化装置」は、野菜等をペースト化できる公知の装置であれば制限無く使用可能である。磨石式(砥石式)、切刃式、胴搗式、媒体攪拌式、圧縮式、衝撃式、すり潰式等の装置及びそれらの組合せを例示することができる。好ましくは磨石式又は切刃式装置であり、最も好ましくは切刃式装置である。切刃式装置としては、市販されているカッターミキサーを使用することができる。
【0016】
ペースト化の条件は、目的のシート状食品の厚さ等のスペックに応じたペースト状原料の粒度や粘度、野菜等原料の種類や事前の処理方法、あるいは用いるペースト化装置の種類等によって適宜変更することが可能である。例えばニンジン等をカッターミキサーで処理する場合、1000~2500rpmで30秒~3分間処理する事によりペースト化することが出来る。
【0017】
ペースト中の固形分の大きさ(粒度ともいう)は、目的のシート状食品を製造するのに適切な程度に小さくなっていることが好ましい。粒度は、シートの見た目や乾燥が均一に行えることからより細かい方が好ましく、ペーストをバット上に薄く均一に広げた時、粒状物が目視できない程度が良い。
シート状食品の乾燥を均一に行うことができる観点からは、粒度(粒子径)は2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。上記粒度の下限値は特に限定されないが、例えば100μm以上であることが好ましい。上記粒度は、上記ペースト化の条件を調節することで調整することができる。上記粒度は、以下の要領に従って判断することができる。
まず、ペーストを任意の目開きをもつステンレス篩にかけ、篩上で濾す。濾したのちに篩上に残っているペーストをステンレス篩の目開きよりも大きい粒度のペースト、篩を通ったペーストを目開き以下の細かい粒度のペーストとして扱う。
【0018】
本発明において、ペースト化装置に供する野菜等は、事前に任意の大きさに切断し、熱水中又は蒸気中で加熱することが好ましい。例えばニンジンペーストであれば、ニンジンを洗浄後カットして熱水中で加熱してから、ペースト化装置(例えばミキサー)を用いて細かく砕くことによって製造できる。なお、加熱工程を省略し、生の野菜ペーストを用いることもできる。
【0019】
野菜ペースト又は果物ペーストに粉末のマンナンを直接添加し混合してもよいし、あらかじめ粉末のマンナンを水に溶解し水溶液にしてから野菜ペースト又は果物ペーストと合わせ混合してもよい。
本発明のシート状食品は、野菜及び/または果物ペーストとマンナンとを含むペースト状原料を薄く延ばし、乾燥させることによって製造することができる。例えば、野菜ペーストを金属板やプラスチック板の上に置いた枠内に流し込み乾燥することによって、野菜シートが得られる。自動海苔製造機の海苔簾上で乾燥させることもできる。乾燥の時間及び温度は、シート状食品の水分含有率が後述する範囲となるように適宜調整すればよい。例えば、60~150℃程度の温度で1分~120分程度乾燥することができる。
【0020】
シート状食品の水分値の測定はいずれの方法により行ってもよいが、例えば、シートの電気抵抗を測定することにより行うことができる。本明細書では、ニシハツ産業株式会社製の海苔水分計NSを用いてシート状食品の水分値の測定を行った。
本発明のシート状食品の水分含有率は、3~25質量%程度であることが好ましく、8~15質量%がより好ましい。
【0021】
ペースト状原料には、水、炭水化物(澱粉、糖アルコール、野菜粉末、穀粉、糖類)、脂質(粉末油脂)、植物性蛋白質(小麦蛋白、大豆蛋白)、動物性蛋白質(乳蛋白、卵蛋白)、調味料、香辛料等を、シート状食品の性状に影響を与えない程度において添加してもよい。
本発明のシート状食品の大きさ(サイズ)や厚さは、目的により適宜変えることができるものであるが、例えば、縦50mm×横50mm~縦1000mm×横1000mmで、厚さ0.1~5mm程度(例えば0.1~2mm、0.1~0.5mm)のものを製造することができる。
【実施例0022】
製造例1 野菜及び果物ペーストの作製(リコピンニンジン、黄色ニンジン、ケール、ビーツ、リンゴ)
野菜や果物を洗浄後、皮をむき乱切りし、沸騰水中で15分間加熱した後、カッターミキサーを用いて2000rpmで3分間処理しペーストを得た。
【0023】
製造例2 シート状食品の製造方法
粉末のグルコマンナンと水を混合し、グルコマンナン水溶液とした。製造例1で得たペーストとグルコマンナン水溶液を任意の配合割合で混合し、型枠(150mm×150mm)をのせた平滑シートに混合済みのペーストを60g塗布した。型枠を外して85℃で60分間乾燥し、はがしとることで野菜シートを得た。厚さは0.2mmであった。
【0024】
試験例1 グルコマンナンの効果(バインダーとしての効果)
野菜シートを製造例2に従い、表1の配合割合でシート状食品を得た。本実施例では、各実施例のシートにおける固形分合計量が一定となるように、グルコマンナンの添加量とニンジンペーストの低減量を調整した。得られたシートの水分量を、海苔水分計NS(ニシハツ産業株式会社製)を用いて測定した。
また、得られた比較例1,実施例1~6のシート状食品の外観写真及びその拡大写真を図1A図1Gに示す。
乾燥後のシート状食品の表面の状態を確認することで、グルコマンナンのバインダーとしての効果を検証した。バインダーとして十分に機能するのであれば、シート状に成型するにあたって、野菜及び果物の繊維量が不足するような品種もしくは価格を抑えるために少量ペーストでの野菜及び果物を原料とするシート状食品の成型においても繊維間をつなぎ合わせることができ、割れや表面の荒れを抑制できると考えられた。
【0025】
表1 グルコマンナンの効果検証
【0026】
表1の条件でそれぞれシート状に成型・乾燥をさせた結果、グルコマンナンを添加していないニンジンシートにおいて、ひび割れが生じた(図1A)。これに対して、グルコマンナンを0.1質量%添加したものではひび割れがなくなり(図1B)、シート状に成型をすることができた。またグルコマンナンの添加量を増やすことにより、表面の滑らかさが増していく結果となった(図1C図1G)。
また、これらシートの乾燥後水分値はグルコマンナンの添加量に関わらず、11.1~12.5質量%の1.4質量%内の差に留まり、乾燥への影響は限定的となった。水分値の差によってではなく、グルコマンナンの添加によってシート状食品への成型が可能であることを示す効果となった。
上記結果よりグルコマンナンは野菜及び果物をシート状に加工をする上でバインダーとしての効果があることが確認された。
【0027】
試験例2 グルコマンナンの効果(耐水性及び強度評価)
野菜シートを製造例2に従い、表1の配合割合でシート状食品を得た。
耐水性評価は、得られた野菜シート(幅150mm×奥行150mm)を幅10mm×奥行20mmに切り取り、そのシート状食品片を10mlの水を入れた15mlファルコンチューブに入れ振盪機(TAITEC社製RECIPRO SHAKER SR-2s)に乗せ50rpmの条件で振盪し、シートの崩壊までの振盪回数を測定した。なお、ここでいう崩壊の定義は一枚のシート状食品片が2つ以上に分断した状態をいう。100回を超えて振盪をしても崩壊が起きない場合には「-」と記載した。比較例1及び実施例1~3のシート状食品の耐水性試験(100回振盪直後)の写真を図2A図2Dに示す。
【0028】
表2 浸漬後シート状食品の崩壊までの振盪回数

【0029】
グルコマンナンを添加していない野菜シートは浸水振盪をした際に脆くなり、数回振盪した後に亀裂が入り始め、30回目には崩壊した(図2A:ほぼ完全に崩壊して、一部ペースト状に戻っている)。これに対して、グルコマンナンを添加したシート状食品については耐水性及び強度が増しており、0.1質量%添加したものでも52回の振盪に耐え(図2B:崩壊したがシート状の部分が残っている)、グルコマンナンの添加量が2質量%を超えたものでは、100回の振盪に耐えた(図2D)。
この結果より、グルコマンナンを添加することで、シート状食品の耐水性及び強度を増強することが示された。
これらの効果によって、グルコマンナンを添加したシート状食品は水分を含む食材との相性が増し、蒸しなどの調理にも耐えることで食品への用途適性を向上することを可能とする。
また、これらの結果は初発の水分値による差ではなく、グルコマンナンの添加の有無によって、耐水性や強度に差が生まれたものであることが試験例1の乾燥後水分値の結果より分かった。
【0030】
試験例3 グルコマンナンの効果(用途適性の評価)
野菜シートを製造例2に従い、表1の配合割合でシート状食品を得た。
水分移行によるシート状食品のペースト戻りの評価を行った。
本試験はにんじんペーストに任意の量のグルコマンナンを添加し、直径30mm×長さ50mmの俵状に成形したご飯にシート状食品(幅80mm×長さ50mm)を巻いて、3時間静置し、表3の評価基準に従い官能評価を行った。官能評価は10名の熟練パネラーによって行い、平均値を表4に示した。なお、グルコマンナンを混合せずニンジンペーストのみで作製したシートの触感及び食感を2点とした。評価の結果は触感及び食感において2点を超える場合を本発明による改良効果が見られたと判断した。また、シート状食品をご飯に巻く直前(0時間)及び3時間経過後にご飯よりシート状食品を剥離し、水分量を海苔水分計NS(ニシハツ産業株式会社製)を用いて測定し、水分移行による水分値の変化を確認した。比較例1及び実施例1~6のシート状食品の水分移行試験の開始前(0時間)と開始3時間後の写真をそれぞれ図3A図3Gに示す。
【0031】
表3 評価基準
【0032】
表4 水分移行による触感・食感の変化と水分移行の違い
【0033】
グルコマンナンを添加していない野菜シートにおいては、おにぎりからの水分移行により、ご飯に巻いてから3時間後にペースト状に戻り(図3A右図参照)、手で掴むと手に野菜シートが付着するような状態になった。食感もペーストに戻っていることからべちゃべちゃとしていた。
これに対して、グルコマンナンを添加して作った野菜シートにおいては、ご飯に巻いてから3時間後もフィルム状の形態を維持しペースト戻りはしていなかった(図3B図3G右図参照)。食感も程よい歯切れと口どけを維持していた。これはグルコマンナンを0.1~5質量%添加したすべての野菜シートにおいて同様の傾向にあった。
また、おにぎりを掴んだ時の触感としては、グルコマンナンの添加量が増えるに従い、しっとりとした触感からサラサラとした触感となっていった。これはグルコマンナンを添加することにより、水分移行が抑えられたことに起因しており、その程度はグルコマンナンの添加量と正の相関があると考えられた。
これら結果よりグルコマンナンを添加することで水分移行によるシート状食品の劣化を防ぐ効果があることが分かった。
【0034】
試験例4 その他の野菜ペースト・果物ペースト
ニンジン以外の野菜にグルコマンナンを添加した場合においてもニンジンと同様に効果が得られるのかを検証した。製造例1に従い、様々な野菜ペースト又は果物ペーストを作製し、製造例2に従って、表5の配合割合でシート状食品を得た。野菜シートの耐水性及び強度を検証するために、試験例2と同様の振盪試験を行い、崩壊までに要する振盪回数を測定した。また、用途適性を検証するために、試験例3と同様の水分移行試験を行った。結果を表5に示す。
比較例A及び実施例Aのシート状食品の外観写真を図4A及び図4Bに示す。比較例A及び実施例Aのシート状食品の耐水性試験(100回振盪直後)の写真を図5A及び図5Bに、また水分移行試験開始前(0時間)と開始3時間後の外観写真をそれぞれ図6A及び図6Bに示す。
比較例Bび実施例Bのシート状食品の外観写真を図7A及び図7Bに示す。
比較例D及び実施例Dのシート状食品の外観写真を図8A及び図8Bに示す。また比較例D及び実施例Dのシート状食品の耐水性試験(100回振盪直後)の結果を図9A及び図9Bに、また水分移行試験開始前(0時間)と開始3時間後の外観写真をそれぞれ図10A及び図10Bに示す。
【0035】
表5 その他の野菜でのグルコマンナンの効果
【0036】
ニンジン以外の野菜及び果物を用いた場合にも、グルコマンナンはバインダーとして機能し、乾燥後のひび割れを抑制する効果があった。バインダーとしての機能として顕著に効果が表れたのはビーツであり(図7A図7B)、グルコマンナンを添加していないもの(図7A)ではひび割れによりシート状に成型することができなかったが、グルコマンナンを添加した場合(図7B)においては成型することができた。
また、耐水性及び強度の面においては、ケール、ビーツ、コーン、プラムを原料としたシート状食品全てにおいて、グルコマンナンを添加することにより耐水性が向上した。ケールではその差が顕著に現れ、グルコマンナンを添加していないものは非常に脆く、浸水後すぐに崩壊が始まったのに対し(図5A)、グルコマンナンを添加したものでは強度が増し、100回の振盪では崩壊しなかった(図5B)。
用途適性を見るために行った水分移行試験では、グルコマンナンを添加したすべてのシート状食品において、ご飯に巻き3時間経過した後の水分値の増加幅が、グルコマンナンを添加していないものに比べて抑えられた。また、グルコマンナンを添加していないものではご飯からの水分移行によって表面がべたついたのに対して、グルコマンナンを添加したものでは表面がしっとりしている一方でべたつきなどは抑えられた。
上記結果より、その他の野菜及び果物を原料としたシート状食品においても、グルコマンナンを添加することによって、シート状食品の加工適性の向上、耐水性及び強度の向上、用途適性の向上などの効果があることがわかった。
【0037】
試験例5 その他の植物由来多糖類の効果
野菜シートを製造例2に従い、表6の配合割合でシート状食品を得た。
試験例2と同様に耐水性評価を行ない、また、水分移行によるシート状食品のペースト戻りの評価を行った。
本試験はにんじんペーストに任意の量の植物由来多糖類を添加し、直径30mm×長さ50mmの俵状に成形したご飯にシート状食品(幅80mm×長さ50mm)を巻いて、3時間静置し、表3の評価基準に従い官能評価を行った。官能評価は10名の熟練パネラーによって行い、平均値を表6に示した。なお、植物由来多糖類を混合せずニンジンペーストのみで作製したシートの触感及び食感を2点とした。評価の結果は触感及び食感において2点を超える場合を本発明による改良効果が見られたと判断した。また、シート状食品をご飯に巻く直前(0時間)及び3時間経過後にご飯よりシート状食品を剥離し、水分量を海苔水分計NS(ニシハツ産業株式会社製)を用いて測定し、水分移行による水分値の変化を確認した。
【0038】
表6 その他の植物由来多糖類での効果
【0039】
グルコマンナン以外のマンナンを用いた場合にもバインダーとして機能し、乾燥後のひび割れを抑制する効果があった(図11)。
また、耐水性及び強度の面においては、ガラクトマンナンであるグァーガムを資材として添加したシート状食品において、強度が特に増し、100回の振盪では崩壊しなかった(図12)。
用途適性を見るために行った水分移行試験においてもグァーガムを添加したシート状食品において、ご飯に巻き3時間経過した後の水分値の増加幅が、植物由来多糖類を添加していないものに比べて抑えられた。また、マンナンを添加していないものではご飯からの水分移行によって表面がべたついたのに対して、グァーガムを添加したものでは表面がしっとりしている一方でべたつきなどは抑えられた。(図13)。
上記結果に対し、マンナン以外の多糖類を添加したものでは、多糖類を添加していないものと比較をして、多少の効果は見られたもののマンナンを添加して得られるほどの効果は見られなかった。
上記結果より、特にマンナンを資材として使用したシート状食品において、シート状食品の加工適性の向上、耐水性及び強度の向上、用途適性の向上などの効果があることがわかった。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13