(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022067626
(43)【公開日】2022-05-06
(54)【発明の名称】銀付調人工皮革、その製造方法、及び銀付調人工皮革の表皮層の分別回収方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/14 20060101AFI20220425BHJP
【FI】
D06N3/14 101
D06N3/14 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140641
(22)【出願日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020176069
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】芦田 哲哉
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA03
4F055AA27
4F055BA13
4F055CA05
4F055CA18
4F055DA08
4F055EA01
4F055EA05
4F055EA12
4F055EA14
4F055EA24
4F055EA30
4F055EA31
4F055FA15
4F055FA19
4F055FA20
4F055FA27
4F055GA02
4F055GA25
4F055HA04
4F055HA17
(57)【要約】
【課題】銀面層を形成するための、中間層及び中間層をコートする表皮層を備えた、銀付調人工皮革において、簡単な処理のみで、中間層から表皮層のみを剥離して分別回収される銀付調人工皮革を提供する
【手段】繊維絡合体と、繊維絡合体に一体化された発泡ポリウレタンを含む中間層と、中間層に積層された厚さ4~20μmの表皮層と、を備え、表皮層は、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含む、中間層に接する厚さ4μm以上の第1の領域を少なくとも含む、銀付調人工皮革を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維絡合体と、前記繊維絡合体に一体化された発泡ポリウレタンを含む中間層と、前記中間層に積層された厚さ4~20μmの表皮層と、を備え、
前記表皮層は、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含む、前記中間層に接する厚さ4μm以上の第1の領域を少なくとも含むことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項2】
前記第1の領域は、ケイ素原子を3.0質量%以上含有する請求項1に記載の銀付調人工皮革。
【請求項3】
90℃の熱水に24時間浸漬したときに、前記表皮層が前記中間層から剥離される請求項1または2に記載の銀付調人工皮革。
【請求項4】
前記表皮層は、前記第1の領域をコートする第2の領域をさらに含む請求項1~3の何れか1項に記載の銀付調人工皮革。
【請求項5】
繊維絡合体及び前記繊維絡合体に一体化された発泡ポリウレタンを含む中間層を備える基材を準備する工程と、
前記中間層の表面に、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含むインキをグラビア塗布した後、乾燥させることにより、厚さ4μm以上の第1の領域を少なくとも含む表皮層を形成する工程と、を備えることを特徴とする銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の銀付調人工皮革を準備する工程と、
前記銀付調人工皮革を熱水に浸漬することにより、前記表皮層を前記中間層から剥離させる工程と、を備えることを特徴とする銀付調人工皮革の表皮層の分別回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀付調人工皮革の素材のリサイクル利用を実現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鞄や衣料や靴等の表皮材として用いられている、天然皮革に似せた銀付調の外観を有する銀付調人工皮革が知られている。このような銀付調人工皮革として、繊維絡合体と、繊維絡合体に一体化されて銀面層を形成するための、発泡ポリウレタン層を含む中間層及び中間層をコートする表皮層と、を備える銀付調人工皮革が知られている。
【0003】
資源リサイクルの要望から、廃棄物から類似する素材を分別して回収する分別回収は従来から行われている。銀付調人工皮革においても、素材が分別回収されて資源リサイクルされることが好ましい。しかしながら、繊維絡合体と発泡ポリウレタン層を含む中間層と表皮層とを積層一体化してなる銀付調人工皮革においては、各層が使用環境において互いに剥離しないように高い接着力で接着されていることが求められてきた。
【0004】
例えば、表皮層の剥離を抑制することを目的として、下記特許文献1は、繊維基材と、繊維基材に直接または他のポリウレタン層を介して表層に積層されたポリウレタン表皮膜とを含む銀付調皮革様シートであって、ポリウレタン表皮膜の表面にモノ(2-エチルヘキシル)フタレートを滴下して、常温で336時間放置した後でも、ポリウレタン表皮膜が剥離しない銀付調皮革様シートを開示する。
【0005】
ところで、表皮層の剥離を抑制する技術ではないが、下記特許文献2は、水系インキの保存安定性及び印刷物の耐擦過性を向上させる観点から、水系インキにシリコーン系界面活性剤を添加することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-151948号公報
【特許文献2】特開2020-097683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の銀付調人工皮革においては、使用環境において剥離しないように各層が互いに高い接着力で接着されており、各層を分離して類似する素材を分別して回収しようとする発想はなかった。
【0008】
本発明は、銀面層を形成するための、中間層及び中間層をコートする表皮層を備えた、銀付調人工皮革において、簡単な熱水浸漬処理のみで、中間層から表皮層のみを剥離して分別回収されることのできる銀付調人工皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面は、繊維絡合体と、繊維絡合体に一体化された発泡ポリウレタンを含む中間層と、中間層に積層された厚さ4~20μmの表皮層と、を備え、表皮層は、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含む、中間層に、接する4μm以上の第1の領域を少なくとも含む、銀付調人工皮革である。このような銀付調人工皮革は、それを用いた商品の一般的な使用環境においては中間層と表皮層とが互いに剥離しないように高い接着力で接着され、廃棄の際には、例えば、90℃の熱水に24時間浸漬させるような、簡単な熱水浸漬処理のみで、中間層から表皮層のみを選択的に剥離させることができる(以下、この特性を熱水剥離性とも称する)。そのために、このような銀付調人工皮革によれば、表皮層のみを選択的に剥離して分別回収することができる。
【0010】
また、第1の領域は、ケイ素原子を3.0質量%以上含有することが、熱水剥離性に充分に優れる銀付調人工皮革が得られやすい点から好ましい。
【0011】
また、表皮層は、第1の領域をコートする第2の領域をさらに含むことが、色や表面物性の調整の自由度に優れる点から好ましい。
【0012】
また、本発明の他の一局面は、繊維絡合体及び繊維絡合体に一体化された発泡ポリウレタンを含む中間層を備える基材を準備する工程と、中間層の表面に、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含むインキをグラビア塗布した後、乾燥させることにより、4μm以上の第1の領域を少なくとも含む表皮層を形成する工程と、を備える、銀付調人工皮革の製造方法である。
【0013】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかの銀付調人工皮革を準備する工程と、銀付調人工皮革を熱水に浸漬することにより、表皮層を剥離させる工程と、を備える銀付調人工皮革の表皮層の分別回収方法である。このような方法によれば、銀面層を形成する中間層から表皮層のみを剥離して分別回収することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、銀面層を形成するための、中間層及び中間層をコートする表皮層を備えた、銀付調人工皮革において、簡単な熱水浸漬処理のみで、表皮層のみを中間層から剥離して分別回収することのできる銀付調人工皮革が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態の銀付調人工皮革10の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る銀付調人工皮革の一実施形態を説明する。本実施形態の銀付調人工皮革は、繊維絡合体と、繊維絡合体に一体化された発泡ポリウレタンを含む中間層と、中間層に積層された厚さ4~20μmの表皮層と、を備え、表皮層は、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含む、中間層に接する4μm以上の第1の領域を少なくとも含む、銀付調人工皮革である。以下、図面及びその代表的な製造方法を参照して、本実施形態の銀付調人工皮革について詳しく説明する。
【0017】
図1は、銀付調人工皮革10の模式断面図を示す。
図1中、1は繊維絡合体であり、2は発泡ポリウレタンを含む中間層であり、3は、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含む、中間層に、接する厚さ4μm以上の第1の領域を少なくとも含む、中間層に積層された厚さ4~20μmの表皮層である。本実施形態の銀付調人工皮革10においては、中間層2は、繊維絡合体1に積層された積層領域2aと、繊維絡合体1に含浸付与された含浸領域2bとを含む。中間層2は空孔vを有する発泡構造を有している。また、銀付調人工皮革には、例えば、銀付調人工皮革の外表面に、エンボスロールで型押されたシボが形成されていてもよい。
【0018】
以下に、本実施形態に係る銀付調人工皮革の製造方法の一例を説明する。
【0019】
本実施形態の銀付調人工皮革の製造方法においては、はじめに、繊維絡合体と、繊維絡合体に一体化された中間層となる発泡ポリウレタン層と、を備える基材を準備する。例えば、以下のようにして基材が製造される。
【0020】
繊維絡合体の繊維構造は特に限定されないが、不織布、織布、編物、またはそれらを組み合わせた絡合体等が挙げられ、好ましくは不織布、または不織布と織物との絡合体が挙げられる。
【0021】
繊維絡合体を形成する樹脂は特に限定されない。具体的には、例えば、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、10-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、612-ナイロン等のナイロン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂や、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、塩素系ポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン単位を25~70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等から形成される変性ポリビニルアルコール系樹脂;及び、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の結晶性エラストマー等が挙げられる。これらの中では、ナイロン系樹脂や芳香族ポリエステル系樹脂が各種特性のバランスに優れる点から好ましい。
【0022】
また、繊維の繊度や形態は特に限定されない。例えば、平均繊度が1dtex超のようなレギュラー繊維であっても、平均繊度が1dtex未満の極細繊維、好ましくは、0.0001~0.1dtexの極細繊維であってもよい。また、繊維の形態は、中実繊維であっても、中空繊維やレンコン状繊維のような空孔を有する繊維であってもよい。なお、平均繊度は、銀付調人工皮革の厚さ方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で3000倍に拡大撮影し、万遍なく選択された15本の繊維径から繊維を形成する樹脂の密度を用いて算出した平均値として求められる。
【0023】
また、繊維絡合体の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.3~3mm、さらには0.5~1.5mm程度であることが好ましい。
【0024】
基材は、繊維絡合体と繊維絡合体に一体化された発泡ポリウレタン層とを備える。
【0025】
このような基材は、例えば、繊維絡合体に湿式凝固するポリウレタンを含むポリウレタン溶液を含浸させた後、さらに、繊維絡合体の表面に同様のポリウレタン溶液を塗布した後、例えば、水または水とDMFとの混合溶媒等のような凝固液に浸漬させることにより、発泡ポリウレタンを含むポリウレタン層を湿式凝固させることにより得られる。
【0026】
また、湿式凝固させる方法を用いて、繊維絡合体に一体化させた発泡ポリウレタンを含むポリウレタン層を形成する代わりに、いわゆる乾式発泡造面法を用いて、発泡ポリウレタンを含むポリウレタン層を繊維絡合体に一体化させてもよい。具体的には、離型紙上に発泡ポリウレタンを含むポリウレタン層を形成し、離型紙上に形成された発泡ポリウレタンを含むポリウレタン層を繊維絡合体に接着する方法を用いてもよい。本実施形態では、代表例として、湿式凝固させる方法を用いて、繊維絡合体に発泡ポリウレタン層を一体化させる方法について詳しく説明する。
【0027】
発泡ポリウレタンを形成するポリウレタンの種類は特に限定されず、その具体例としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル‐ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
また、発泡ポリウレタン層は、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料等の着色剤の他、凝固調節剤、酸化防止剤、耐光剤、抗菌剤等の添加剤を含有してもよい。
【0029】
ポリウレタン溶液に含まれる溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサノン(CHN)、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン(Ac)、ジオキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、及び水等を混合させた混合溶媒が好ましく用いられる。
【0030】
基材においては、繊維絡合体に予めポリウレタン溶液を含浸させておき、さらに、繊維絡合体の表面に、ポリウレタン溶液を塗布した後、凝固液に浸漬して凝固させることにより、繊維絡合体の内部に含浸された発泡ポリウレタンが繊維絡合体と一体化された含浸領域と、含浸領域に積層された発泡ポリウレタンを含む積層領域と、を含むような、繊維絡合体に一体化された発泡ポリウレタンを含むポリウレタン層が形成される。
【0031】
発泡ポリウレタンを含むポリウレタン層から形成される中間層の厚さは特に限定されないが、100~600μm、さらには200~400μmであることが好ましい。また、中間層のうち、含浸領域に積層された積層領域の厚さは、50~500μm、さらには100~300μmであることが好ましい。また、基材の全体の厚さとしては、800~3000μm、さらには1200~2000μmであることが好ましい。
【0032】
また、(発泡ポリウレタンの体積)/(発泡ポリウレタンの空孔を除いたポリウレタンの実体積)として定義される、発泡ポリウレタンの発泡倍率としては、1.5~5倍、さらには、3~4倍であることが熱水剥離性に優れる点から好ましい。発泡ポリウレタンの発泡倍率が低すぎる場合には、後述する熱水浸漬処理において、中間層と接する面に熱水が行き届きにくくなり、剥離に要する時間が長くなる等、熱水剥離性が低下する傾向がある。また、発泡倍率が高すぎる場合には、耐摩耗性が低下する等、機械的特性が低下する傾向がある。
【0033】
銀付調人工皮革を構成する繊維絡合体を形成する繊維と発泡ポリウレタンの質量比(繊維/発泡ポリウレタン)としては、40/60~70/30、さらには、50/50~60/40であることが、風合いと形態安定性とのバランスに優れる点から好ましい。発泡ポリウレタンの比率が高すぎる場合には、ゴムライクな風合いとなる傾向があり、繊維の比率が高過ぎる場合には、形態安定性が低下する傾向がある。
【0034】
次に、このようにして準備された基材の、中間層となる発泡ポリウレタン層の表面に、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含むインキ(以下、単に、第1のインキとも称する)をグラビア塗布した後、乾燥させることにより、表皮層に含まれる、中間層に接する、好ましくは直接接する、4μm以上の第1の領域を形成する。
【0035】
第1の領域を形成するために塗布される第1のインキは、シリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタンと、ポリウレタンを溶解する有機溶媒と、添加剤として配合された有機ポリシロキサンとを含む。
【0036】
第1の領域を形成するポリウレタンは、シリコーン変性ポリウレタンを含み、とくにはシリコーン変性ポリウレタンを主体とすることが好ましい。具体的には、例えば、第1の領域は、シリコーン変性ポリウレタンを60質量%以上、さらには、80質量%以上、とくには90質量%以上含む領域であることが好ましい。
【0037】
シリコーン変性ポリウレタンは、ポリウレタンの主鎖や側鎖にシロキサン結合が導入されたポリウレタンである。シリコーン変性ポリウレタンは、公知のポリウレタンの製造方法を用いて、例えば、ポリオール、鎖伸長剤、活性水素基含有オルガノポリシロキサン、及びポリイソシアネートを反応させることによって製造される。
【0038】
また、シリコーン変性ポリウレタンとしては、ポリオール成分の違いによって、シリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタン、シリコーン変性ポリエステル系ポリウレタン、シリコーン変性ポリエーテル系ポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、シリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタンが耐久性にとくに優れている点から好ましい。
【0039】
第1の領域は、本発明の効果を損なわない限り、シリコーン変性ポリウレタン以外のシリコーン未変性のポリウレタンを含んでもよい。シリコーン未変性のポリウレタンの具体例としては、シリコーン変性されていない、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエステル‐ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
そして、第1の領域は、シリコーン変性ポリウレタンに加えて、有機ポリシロキサンを含む。有機ポリシロキサンとは、ポリマー主鎖にシロキサン結合を有するシリコーン化合物であり、好ましくは、オイル状である。有機ポリシロキサンの具体例としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、または、ポリジメチルシロキサンのシロキサン単位(-Si-O-)の2つのメチル基のうち、一方を他の化学構造に置換された有機変性ポリシロキサンや、ポリジメチルシロキサンの片末端又は両末端に他の化学構造を付加させた末端有機変性ポリシロキサン等が挙げられる。他の化学構造としては、ポリエーテル基、フェニル基、ポリエステル基、炭素数2~9のアルキル基やアラルキル基等が挙げられる。それらの具体的としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、フェニル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0041】
また、第1の領域は、本発明の効果を損なわない限り、顔料等の着色剤、耐光剤、酸化防止剤、抗菌剤、分散剤などの添加剤を含有してもよい。とくには、第1の領域は顔料で着色されていることが好ましい。
【0042】
第1の領域に含まれるシリコーン変性ポリウレタンの含有割合は、第1の領域に含まれるケイ素原子含有割合が、1.0質量%以上、さらには2.0質量%以上になるような割合であることが熱水剥離性に優れる点から好ましい。
【0043】
また、第1の領域に含まれる有機ポリシロキサンの含有割合は、第1の領域に含まれるケイ素原子含有割合が、0.5質量%以上、さらには1.0質量%以上、とくには2.0質量%以上になるような割合であることが熱水剥離性に優れる点から好ましい。
【0044】
また、第1の領域に含まれるケイ素原子の総含有割合としては、3.0質量%以上、さらには3.5質量%以上、とくには4.0質量%以上になるような割合であることが熱水剥離性に優れる点から好ましい。
【0045】
第1のインキに含まれる溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサノン(CHN)、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン(Ac)、ジオキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、及び水等を混合させた混合溶媒が好ましく用いられる。
【0046】
また、第1のインキに含まれるシリコーン変性ポリウレタンの濃度は特に限定されないが、5~15質量%程度であることが好ましい。
【0047】
第1のインキの塗布方法は特に限定されないが、膜厚を制御しやすい点から、中間層の表面にグラビアロールを用いて第1のインキをグラビアコートする方法が挙げられる。グラビアロールとしては、グラビアロールの表面に彫刻されたセルのサイズが65~180メッシュ、さらには、100~130メッシュであることが、適量のインキを均質に塗布することができる点から好ましい。また、グラビアコートを複数段に分けて行うことにより、均質な膜厚を確保するように塗布してもよい。
【0048】
第1のインキの塗布量としては、1回の塗布あたり10~40g/m2、さらには15~30g/m2、とくには20~25g/m2、であることが好ましい。塗布を繰り返すことにより、第1の領域の厚さが調整される。第1の領域を形成するための第1のインキの合計の塗布量としては、50~250g/m2、さらには100~200g/m2、とくには120~150g/m2、であることが好ましい。第1のインキを中間層の表面にこのような塗布量で塗布し、溶媒を乾燥することにより、中間層に接する4μm以上の第1の領域が形成される。乾燥条件は溶媒の種類等に応じて適宜調整されるが、例えば、100~120℃に設定された熱風乾燥機において、5~30秒間程度で乾燥する条件が挙げられる。
【0049】
このようにして形成される第1の領域の厚さは4μm以上であり、5μm以上、さらには6μm以上であることが好ましい。なお、上限は、表皮層の厚さの上限である20μmである。第1の領域の厚さが4μm未満の場合には熱水剥離性が低下する。
【0050】
また、表皮層は、必要に応じて、第1の領域をコートする、第2の領域をさらに含んでもよい。このような第2の領域をさらに含有することにより、色や表面物性の調整の自由度が向上する点から好ましい。
【0051】
第2の領域は、第1の領域の表面に、第1の領域と同様のインキ、または、シリコーン変性ポリウレタンや有機ポリシロキサンを含まない第1の領域とは異なるポリウレタンを含むインキやポリウレタン以外の樹脂を含むインキ(以下、単に、第2のインキとも称する)をグラビア塗布した後、乾燥させることにより、形成される。第2の領域の形成方法は、第1のインキの代わりに第2のインキを用いる以外は、同様の方法により形成される。
【0052】
また、第2の領域も同様に、本発明の効果を損なわない限り、顔料等の着色剤、耐光剤、酸化防止剤、抗菌剤、分散剤などの添加剤を含有してもよい。とくには、第2の領域も顔料で着色されていることが好ましい。
【0053】
第1の領域を少なくとも含む表皮層の総厚さは4~20μmであり、4~15μm、さらには、8~15μmであることが好ましい。表皮層の総厚さが4μm未満の場合には、表面を保護して耐摩耗性を付与する等の効果が不充分になる傾向があり、20μmを超える場合には、風合いがかたくなったり、耐屈曲性が低くなったり、エンボスによる型押し性が低下したりする。
【0054】
このようにして、銀面層を形成する中間層と表皮層とを備えた銀付調人工皮革が得られる。なお、このような銀付調人工皮革には、表皮層を形成した後、その表面に、加熱されたシボを有するエンボスロールで型押する等してエンボス模様を付与してもよい。エンボスロールの表面のシボの形状はとくに限定されないが、例えば、凹凸の高低差が20~100μm程度であるようなエンボスロールが好ましく用いられる。また、エンボスロールの表面温度は、シボの形状が適切に転写できるとともに、径が小さな開口が残留しやすい温度が適宜選択される。具体的には、例えば、150~190℃、さらには、160~180℃であることが好ましい。
【0055】
このような銀付調人工皮革は、銀面層を形成する中間層及び表皮層を備えた銀付調人工皮革であって、熱水に浸漬することにより、表皮層のみを剥離して分別回収されることのできる銀付調人工皮革である。
【0056】
具体的には、例えば、90℃の熱水に浸漬したとき、表皮層のみを中間層から選択的に剥離させることができる。具体的には、90℃の熱水に浸漬したとき、12時間、さらには8時間、とくには4時間で完全に剥離することが好ましい。なお、剥離するとは、例えば、中間層と表皮層との間の少なくとも一部に空隙が生じ、その部位から軽い力で表皮層を容易に剥離させることができることを意味する。熱水の温度は高ければ高いほど短時間で剥離させることができるために適宜選択されるが、80℃以上、さらには90℃以上であることが好ましい。また、スチームで処理してもよい。
【0057】
一方、このような銀付調人工皮革は、商品の一般的な使用環境においては、表皮層は剥離せず、中間層に対して強い接着力を維持する。具体的には、高温高湿条件の促進試験である、例えば、90℃で80%RHのような恒温恒湿槽内に4週間放置しても剥離しない。
【0058】
このように表皮層を剥離することにより、表皮層を分別回収することができる。回収された表皮層は、再度溶解する等してインキの原料として再利用することもできる。なお、剥離された表皮層は、熱水に浸漬することのみによって剥離されるために、ポリウレタンの分子量の大幅な低下等の劣化を起こすことなく、回収することができる。例えば、回収された表皮層のポリウレタンのポリスチレン換算の分子量をGPCで測定した場合、重量平均分子量の保持率は80%以上になるように劣化を抑えられることができる。そのために、銀付調人工皮革を製造する際の表皮層を形成するための素材として、再利用することができる。
【0059】
以上説明した、本実施形態の銀付調人工皮革は、例えば、衣料材料、靴アッパー材、背負い鞄の背裏材等のような、人体に接触するような商品の表材等として好ましく用いられる。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
6-ナイロン45質量部(海成分)とポリスチレン55質量部(島成分)とからなる海島型複合繊維を溶融紡糸し、3倍に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけた後、乾燥することにより、捲縮繊維を製造した。
【0062】
得られた捲縮繊維を51mmにカットして3dtexのステープルとし、ウェッブを形成させた。そして、ウェッブに、その両面から交互に合わせて約500パンチ/cm2のニードルパンチングを行うことにより海島型複合繊維の不織布を得た。得られた海島型複合繊維の不織布の目付は350g/m2であり、見かけ比重は0.17であった。
【0063】
そして、海島型複合繊維の不織布をポリビニルアルコールの4%水溶液で処理し、厚さを約1.3mmに圧縮して固定し、表面をバフ掛けして平滑化した。そして、平滑化された海島型複合繊維の不織布に、ポリエステル系ポリウレタンを主体として含むポリウレタン溶液を含浸させた。さらにその表面に同じポリウレタン溶液を固形分で100g/m2になる量を塗布した後、DMF/水の混合液の中に浸漬することにより、多孔質の発泡ポリウレタンを湿式凝固させた。なお、ポリウレタン溶液は、ポリエステル系ポリウレタンを主体としジメチルホルムアミド(以下、DMFと称す)を溶媒として含む13質量%の濃度の溶液であった。
【0064】
そして、発泡ポリウレタンを付与された海島型複合繊維の不織布を熱トルエン中に浸漬することにより島成分を溶出除去して海島型複合繊維を中空繊維に変換した。このようにして、不織布及び不織布に一体化された発泡ポリウレタン層を含む基材を得た。マイクロスコープによる観察によれば、発泡ポリウレタン層の厚さは300μmであった。また、発泡ポリウレタン層の発泡倍率は、3.7倍であった。
【0065】
一方、赤色顔料を含む、シリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタン11質量%を含み、DMFを溶媒として含むポリウレタン溶液に、ポリウレタン固形分に対して片末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを10質量%添加することにより、第1のインキを調製した。第1のインキを蒸発乾固させて形成される第1の領域に含まれるケイ素原子の含有割合は、4.7質量%であった。なお、第1の領域に含まれるケイ素原子の含有割合は、1.0gのインキをアルミ皿上で伸ばし、真空下で120℃で2時間乾燥して作成したフィルムをサンプルとして、蛍光X線装置ZSX Primun-μ(株式会社リガク製)を用いて測定した。
【0066】
そして、発泡ポリウレタン層の表面に、150meshのグラビアロールを用いて、乾燥後の厚さが約16μmになるように第1のインキを塗布することにより、表皮層を形成した。この表皮層は全層が第1の領域であり、16μmの第1の領域を含む。そして、平均深さが60μmである凸部を18個/mm2有する全面に微細な凹凸柄を有するエンボスロールを用いて、温度170℃、圧力15kg/cm、処理速度1.5m/分で型押しを行うことにより、凹凸表面を含むエンボス模様を形成した。このようにして、銀付調人工皮革を製造した。
【0067】
なお、表皮層の厚さ(膜厚)は次のようにして測定した。得られた銀付調人工皮革から満遍なく選択した断面の3か所を走査型電子顕微鏡(SEM)により400倍で観察して画像を撮影した。そして、3枚の画像において、それぞれ50μm間隔で表皮層の厚さ、また、第1の領域の厚さを5点ずつ計測し、それぞれの画像における表皮層の厚さの平均を求めた。そして、3枚の画像から求めた表皮層の厚さの平均の平均値をさらに算出した。このようにして得られた表皮層の厚さの平均値を表皮層の厚さとした。
【0068】
そして、得られた銀付調人工皮革からタテ7cm×ヨコ4.5cmの断片を切り抜いて試験片を作成した。そして、得られた試験片を広口ビンに収容された90℃の熱水に浸漬し、それを90℃の乾燥機内に24時間放置した。そして、24時間後に銀付調人工皮革を熱水から取り出し、以下の基準で判定した。
A:表皮層が中間層から完全に剥離していた。
B:部分的に表皮層と中間層との間に空隙が生じており、指でつまんで引きはがすと容易に剥離した。
C:中間層と表皮層とは全く剥離していなかった。
【0069】
また、得られた銀付調人工皮革を90℃で80%RHの恒温恒湿槽に放置し、4週間後に取り出し、以下の基準で判定した。
A:中間層と表皮層とは全く剥離していなかった。
B:中間層と表皮層とに剥離が認められた。
【0070】
結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
[実施例2]
乾燥後の厚さが約16μmになるようにインキを塗布した代わりに、乾燥後の厚さが約8μmになるようにインキを塗布した以外は、実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例3]
海島型複合繊維の不織布にポリエステル系ポリウレタンを主体として含むポリウレタン溶液を含浸させた代わりに、ポリカーボネートジオールとポリエステルジオールとをモル比60:40の比率で混合した高分子ポリオール単位を含むポリウレタンを主体として含むポリウレタン溶液を含浸させた以外は、実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例4]
第1のインキに含まれるポリウレタン固形分に対する片末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの割合10質量%を3質量%に変更した以外は実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例5]
第1のインキに含まれるポリウレタン固形分に対する片末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの割合10質量%を4質量%に変更し、乾燥後の膜厚16μmを4μmになるように調整した以外は実施例1と同様にして発泡ポリウレタン層の表面に第1の領域を形成した。そして、第1の領域の表面に実施例1で調製された第1のインキと同じインキを第2のインキとし、乾燥後の厚さが4μmになるように第2のインキを塗布し、乾燥することにより第2の領域を形成した。それら以外は実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例6]
第1のインキに含まれるポリウレタン固形分に対する片末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの割合10質量%を23質量%に変更し、乾燥後の膜厚16μmを4μmになるように調整した以外は実施例1と同様にして発泡ポリウレタン層の表面に第1の領域を形成した。そして、第1の領域の表面に実施例1で調製された第1のインキと同じインキを第2のインキとし、乾燥後の厚さが8μmになるように第2のインキを塗布し、乾燥することにより第2の領域を形成した。それら以外は実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例7]
第1のインキに含まれる片末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの代わりに無変性のポリジメチルシロキサンを配合し、乾燥後の膜厚16μmを8μmになるように調整した以外は実施例1と同様にして発泡ポリウレタン層の表面に第1の領域を形成した。そして、第1の領域の表面に実施例1で調製された第1のインキと同じインキを第2のインキとし、乾燥後の厚さが8μmになるように第2のインキを塗布し、乾燥することにより第2の領域を形成した。それら以外は実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例8]
実施例1で調製された第1のインキと同じインキを第2のインキとし、第1の領域の表面に乾燥後の厚さが4μmになるように第2のインキを塗布し、乾燥することにより第2の領域を形成した。それら以外は実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
第1のインキに含まれるシリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタンを無変性ポリカーボネート系ポリウレタンに変更し、片末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを配合していない第1のインキを用いて、乾燥後の膜厚8μmの第1の領域を形成した。そして、第1の領域の表面に実施例1で調製された第1のインキと同じインキを第2のインキとし、乾燥後の厚さが4μmになるように第2のインキを塗布し、乾燥することにより第2の領域を形成した。それら以外は実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例2]
片末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを配合していない第1のインキを用いて、乾燥後の膜厚16μmの第1の領域を形成した。それら以外は実施例1と同様にして銀付調人工皮革を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0081】
表1を参照すれば、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含む、中間層に直接接する厚さ4μm以上の第1の領域を含む表皮層を備えた実施例1~8で得られた銀付調人工皮革は、90℃の熱水に24時間浸漬したときに、表皮層が何れも剥離した。なお、ケイ素原子含有割合が2.8質量%である実施例4は自然に剥離しなかったが、軽い力で引っ張ることにより剥離した。一方、シリコーン変性ポリウレタン及び有機ポリシロキサンを含まず、ケイ素原子を含まない比較例1の銀付調人工皮革は、90℃の熱水に24時間浸漬しても表皮層が剥離しなかった。また、シリコーン変性ポリウレタンを含むが有機ポリシロキサンを含まず、ケイ素原子含有割合の低い比較例2の銀付調人工皮革も、90℃の熱水に24時間浸漬しても表皮層が剥離しなかった。