(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068755
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】麺皮類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20220427BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20220427BHJP
【FI】
A23L7/109 D
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177606
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯野 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】豊田 肇
(72)【発明者】
【氏名】秋草 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】津田 恭征
(72)【発明者】
【氏名】杉元 勝彦
【テーマコード(参考)】
4B036
4B046
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LE04
4B036LF12
4B036LH09
4B036LH10
4B036LH13
4B036LH22
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4B036LP03
4B036LP14
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4B046LE02
4B046LE11
4B046LG02
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4B046LG13
4B046LG26
4B046LP03
4B046LP69
4B046LP80
4B046LQ04
(57)【要約】
【課題】加熱調理後の食感について経時劣化耐性を有し、加熱調理直後は勿論のこと、加熱調理後から数時間経過後であっても食感が良好な麺皮類を製造し得る、麺皮類の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の麺皮類の製造方法は、α化穀粉類を含まない生地原料に液体原料を添加して、常温常圧で流動性を有する生地を調製する第1工程と、前記生地に含有されている澱粉をα化させることなく、該生地を凍結させるか、又は該生地を半凍結させてシャーベット状にする第2工程とを有する。前記第2工程において、前記生地の凍結又は半凍結は、該生地を雰囲気温度が-3℃以下の環境で3時間以上保管することによって行うことができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化穀粉類を含まない生地原料に液体原料を添加して、常温常圧で流動性を有する生地を調製する第1工程と、
前記生地に含有されている澱粉をα化させることなく、該生地を凍結させるか、又は該生地を半凍結させてシャーベット状にする第2工程とを有する、麺皮類の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において、前記生地の凍結又は半凍結は、該生地を雰囲気温度が-3℃以下の環境で3時間以上保管することによって行われる、請求項1に記載の麺皮類の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、前記生地原料に対する前記液体原料の添加量は、該生地原料に含まれる穀粉類100質量部に対して80~200質量部である、請求項1又は2に記載の麺皮類の製造方法。
【請求項4】
更に、前記第2工程を経た生地を焼成する第3工程を有する、請求項1~3の何れか1項に記載の麺皮類の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程において、前記第2工程を経た生地と該第2工程を経ずに調製された別の生地との混合物を焼成し、
前記混合物に含まれる穀粉類の全質量に対する、前記第2工程を経た生地に含まれる穀粉類の質量の割合が、25質量%以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の麺皮類の製造方法。
【請求項6】
前記麺皮類が春巻皮である、請求項1~5の何れか1項に記載の麺皮類の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって製造された春巻皮を用いた、春巻きの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の食材を包んで食するための包み皮として利用可能な麺皮類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
春巻き、餃子、シューマイ、小籠包等のいわゆる麺皮食品は、食材を包む麺皮の食感の良さなどもあって広く普及し身近なものとなっている。中でも、油で加熱調理する春巻きは、その麺皮特有のパリパリとした食感が多くの人に好まれており、スーパーの総菜売場などにおいて定番商品となっている。しかし、春巻きは、麺皮に包まれている食材の水分が油ちょう後に麺皮に徐々に移行するため、時間の経過と共に麺皮がべたついてゴム様のヒキが強くなり、パリパリ感を喪失するという課題があった。
【0003】
前記課題の解決を図った技術が種々提案されている。例えば特許文献1及び2には、冷凍保存され、喫食時に電子レンジで再加熱される春巻きの改良技術が記載されている。特許文献1に記載の技術は、春巻皮の原料中に高融点油脂を配合することを要旨とし、特許文献2記載の技術、春巻皮に原料中に特定の糖類を配合させることを要旨としている。特許文献3には、α化加工物に老化処理を施して、含有されている澱粉を老化させる老化工程と、該老化処理が施されたα化加工物を用いる麺皮化工程とを有する、麺皮類の製造方法が記載されており、該老化処理の具体例として、α化加工物を冷蔵又は冷凍する処理が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-289767号公報
【特許文献2】特開平9-28358号公報
【特許文献3】特開2017-12156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、ヒキが無く歯切れの良い食感の麺皮食品に対する要望に十分に応えられていないのが実情であり、特に、油ちょう等の加熱調理後において、時間経過と共に食感が低下する、電子レンジ等で再加熱した際に食感が低下するという問題がある。加熱調理後の食感について経時劣化耐性を有し、加熱調理後に数時間放置しても、加熱調理直後と同等のパリパリとしてクリスピーでヒキがなく歯切れの良い食感を保持し、食感が良好な麺皮食品を提供し得る麺皮類は未だ提供されていない。
【0006】
本発明の課題は、加熱調理後の食感について経時劣化耐性を有し、加熱調理直後は勿論のこと、加熱調理後から数時間経過後であっても食感が良好な麺皮類を製造し得る、麺皮類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
澱粉は周知の通り、非加熱の未α化澱粉の状態においては、アミロースとアミロペクチンとが水素結合によって規則的に集合したミセル構造を有し、高度に結晶化した粒状をなしているが、この粒状の未α化澱粉に水分を加えて加熱すると、その粒は水和して次第に膨潤し、さらに加熱を続けると結晶構造が崩れて糊状に変化する。この現象が糊化(α化)である。また、この水和した糊化澱粉を冷却すると、時間経過に伴い離水して澱粉分子が再び集合して部分的に再結晶化して凝集する。この現象が老化であり、再加熱しても完全にはもとの糊化の状態には戻らない。特許文献3に記載の技術は、この糊化(α化)澱粉の老化を積極的に利用することで、麺皮類の加熱調理後の食感の経時劣化耐性の向上を図ったものである。
【0008】
本発明者らは、麺皮類について、加熱調理後の経時劣化耐性を含めた食感の改良を図るべく種々検討した結果、1)α化穀粉を含まない生地原料に液体原料を加えて調製された常温常圧で流動性を有する生地を、該生地中の澱粉の未α化状態、すなわち該澱粉が一定量の水分を保持している状態を維持しつつ、凍結又は半凍結処理することで、該澱粉が水分を抱えにくくなる構造となること、及び2)該凍結又は半凍結処理が施された生地を焼成して得られた麺皮類は、加熱されたときに該生地中の水分が蒸発しやすいため、例えば春巻きの製造において油ちょうされるとパリッとした好ましい食感になりやすく、また、食感の経時劣化耐性が向上することを知見した。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、α化穀粉類を含まない生地原料に液体原料を添加して、常温常圧で流動性を有する生地を調製する第1工程と、前記生地に含有されている澱粉をα化させることなく、該生地を凍結させるか、又は該生地を半凍結させてシャーベット状にする第2工程とを有する、麺皮類の製造方法である。
また本発明は、前記の本発明の麺皮類の製造方法によって製造された春巻皮を用いた、春巻きの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱調理後の食感について経時劣化耐性を有し、加熱調理直後は勿論のこと、加熱調理後から数時間経過後であっても食感が良好な麺皮類、春巻きが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の麺皮類の製造方法は少なくとも、生地原料に液体原料を加えて常温常圧で流動性を有する生地(流動状生地)を調製する第1工程(生地調製工程)と、該生地を凍結又は半凍結させる第2工程(生地保管工程)とを有する。
【0012】
第1工程(生地調製工程)では、α化穀粉類を含まない生地原料を用いる。本明細書において「α化穀粉類」は、含有されている澱粉がα化(糊化)されている穀粉類を指す。ここでいう「穀粉類」には穀粉及び澱粉が含まれ、該「澱粉」は、小麦粉等の穀粉から分離されたものを指し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。α化穀粉類は、穀粉類(穀粉及び澱粉)のα化処理、具体的には例えば、穀粉類を水分の存在下で加熱することで得られる。
【0013】
前記の「α化穀粉類を含まない」は、生地原料におけるα化穀粉類の含有量がゼロである場合のみならず、α化穀粉類を含むことによる作用効果が発現しない程度の少量のα化穀粉類が生地原料に含まれている場合が包含される。つまり、前記の「α化穀粉類を含まない」は「α化穀粉類を実質的に含まない」に言い換えることができる。ここでいう「実質的に含まない」とは、具体的には例えば、生地原料におけるα化穀粉類の含有量が、該生地原料に含まれる全ての穀粉類(穀粉及び澱粉)の全質量のうち、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下であり得る。
【0014】
α化穀粉類を含まない生地原料に配合される穀粉類、すなわち未α化穀粉類(未α化穀粉、未α化澱粉)としては、α化されていないことを条件として、麺類や麺皮類の製造に通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
未α化穀粉としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉;そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉が挙げられる。目的に応じ、未α化穀粉として、熱処理した小麦粉を用いることもできる。
未α化澱粉としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等;これらの未加工澱粉(生澱粉)にエーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の加工を施した加工澱粉;難消化性澱粉が挙げられる。
好ましい未α化穀粉類として、小麦粉が挙げられる。生地原料における小麦粉の含有量は、該生地原料に含まれる穀粉類の全質量のうち、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
小麦粉以外の他の未α化穀粉類を使用する場合、生地原料における該他の未α化穀粉類の含有量は、前記の小麦粉の含有量と同様に設定することができる。
【0015】
生地原料は糖類を含んでいてもよい。生地原料に糖類を配合することで、麺皮類の加熱調理後の食感が一層向上し得る。例えば麺皮類が春巻皮の場合は、色調が良好になりやすくなる他、油ちょう後の食感が、パリパリとしたクリスピーなものとなり得る。
糖類としては、例えば、ショ糖、ブドウ糖、果糖、デキストリン(難消化性デキストリン含む)、水あめ、還元水あめ、トレハロース、キシロース、マルトース、マルトオリゴ糖等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。より好ましくは、還元水あめを含む1種以上を用いる。
また、糖類としては、「糖類の固形分の全質量に対する、該固形分中の四糖以上の多糖類の合計含有質量の割合」(以下、「四糖以上占有率」とも言う。)が50質量%以上であるものが好ましく、特に、四糖以上占有率が50質量%以上の還元水あめが好ましい。
生地原料における糖類の含有量は、該生地原料に含まれる穀粉類100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~10質量部である。生地原料において糖類の含有量が少なすぎるとこれを使用する意義に乏しく、糖類の含有量が多すぎると、麺皮類の加熱調理後のパリパリ感が低下するおそれがある。
【0016】
生地原料は油脂類を含んでいてもよい。生地原料に油脂類を配合することで、麺皮類の加熱調理後の食感が一層向上し得る。例えば麺皮類が春巻皮の場合は、油ちょう後の食感が、ヒキがなく歯切れのよいものとなり得る。
油脂類としては、例えば、サラダ油、硬化パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂等の植物油脂;牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂;各種動植物油脂に水素添加、分別、エステル交換などの処理を施した加工油脂等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。生地原料として用いられる油脂類は、常温常圧で固形の固形油脂を含むことが好ましく、該固形油脂は、融点が40~80℃の固形油脂を含むことがより好ましい。
生地原料における油脂類の含有量は、該生地原料に含まれる穀粉類100質量部に対して、好ましくは1~20質量部、より好ましくは2~15質量部である。生地原料において油脂類の含有量が少なすぎるとこれを使用する意義に乏しく、油脂類の含有量が多すぎると、麺皮類の加熱調理後のパリパリ感の持続性が低下するおそれがある。
【0017】
生地原料は、前記の穀粉類、糖類及び油脂類以外の他の原料(副原料)を含んでいてもよい。副原料としては、例えば、卵白、卵黄、卵蛋白酵素分解物、乳類、小麦蛋白、大豆蛋白、色素、増粘多糖類(ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン等)、アミノ酸(アラニン、グリシン、リジン等)、食塩、乳化剤、酵素(プロテアーゼ、アミラーゼ等)、有機酸、有機酸塩、アルコール、保存剤、pH調整剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
第1工程では、生地原料に液体原料を添加して、常温常圧(具体的には例えば、気温25℃、1気圧)で流動性を有する流動状生地を調製する。生地の調製は、常法に従って行うことができる。液体原料は、典型的には水(清水、井戸水、ろ過水など)を主体とし、水に加えて更に、食塩、卵類等、その他水溶性の原料(出汁、調味料など)を含有してもよい。
【0019】
第1工程において、生地原料に対する液体原料の添加量は、製造する麺皮類の種類等に応じて適宜調整すればよく特に制限されないが、液体原料の添加量の増減により流動性生地の粘度を調整することで、麺皮類(特に春巻皮)に適した厚みの製造ができることから、生地原料に含まれる穀粉類100質量部に対して、好ましくは80~200質量部、より好ましくは100~150質量部である。
【0020】
第2工程(保管工程)では、第1工程で調製した流動状生地を、該生地に含有されている澱粉をα化させることなく、凍結又は半凍結させる。本発明の所定の効果(麺皮類の食感及び経時劣化耐性の向上等)の発現は、第2工程の実施に依るところが大きい。
前記の「生地に含有されている澱粉をα化させることなく」とは、生地の調製(第1工程)から該生地を凍結又は半凍結させるまでの過程(以下、「凍結・半凍結の前工程」とも言う。)で、生地原料に含まれる澱粉がα化しないようにするということを意味する。具体的には例えば、凍結・半凍結の前工程で生地原料又は生地を加熱しないことが挙げられる。ここでいう「加熱しない」の一例として、凍結・半凍結の前工程で生地原料又は生地の品温を50℃以上にしないことが挙げられる。
【0021】
第2工程では、流動状生地を凍結させる、すなわち該生地の全体を凍結させて氷塊を形成してもよく、あるいは、該生地を半凍結させてシャーベット状にしてもよい。シャーベット状の生地は、典型的には、半凍結前に流動性を有していた生地の一部が凍結して氷塊又は氷結晶を形成し、該生地の残りの部分は凍結せずに流動性を有している状態である。
生地を凍結又は半凍結させる方法は特に限定されず、穀粉類及び水分を主体とする流動状生地を凍結又は半凍結させ得る方法であればよく、具体的には例えば、処理対象の生地を雰囲気温度が0℃以下の環境に所定時間静置する方法が挙げられる。典型的な方法として、処理対象の生地を袋状容器などの各種容器に収容し、その容器ごと、庫内温度が0℃以下の所定温度範囲に保たれた冷凍庫の庫内に所定時間保管する方法が挙げられる。
処理対象の生地を雰囲気温度0℃以下の環境で保管する場合、その保管時間を調整することで、生地の凍結/半凍結を調整することができる。一般に、生地を半凍結させる(生地をシャーベット状にする)場合は、生地を凍結させる場合に比べて保管時間は短くてよい。
生地を凍結又は半凍結させる場合は、緩慢凍結でも急速凍結でもよい。ここでいう「緩慢凍結」とは、冷凍庫に静置する等の緩慢な冷却速度での凍結のことを指し、「急速凍結」とは、液体冷媒や冷風等を併用して冷却速度を高めた凍結方法を指す。典型的な「急速凍結」にはブライン凍結機、トンネルフリーザーやスパイラルフリーザー、ショックフリーザーの使用などが挙げられる。
【0022】
第2工程で採用可能な生地保管工程の一例として、処理対象の生地を、雰囲気温度が好ましくは-3℃以下、より好ましくは-5℃以下の環境で、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上保管する方法が挙げられる。
【0023】
本発明の麺皮類の製造方法は、前記の第1及び2工程に加えて更に、第2工程を経た生地を焼成する第3工程を有していてもよい。この第3工程によって生地は麺皮類となる。第3工程は麺皮化工程と言うことができる。
第3工程において、生地の焼成方法は特に制限されず、製造する麺皮類の種類等に応じて、公知の焼成方法から適切なものを選択すればよい。例えば、麺皮類として春巻皮を製造する場合、第2工程を経た生地すなわち凍結又は半凍結状態とされた生地を、必要に応じ解凍して常温常圧で流動性を有する生地とした後、該生地を、回転する加熱ドラム上に膜状に落下させて焼成する方法を採用することができる。凍結又は半凍結状態の生地の解凍方法は特に限定されず、例えば、生地を常温(例えば10~20℃程度)又は冷蔵(0~10℃)の環境に静置して解凍する方法、生地に流水を当てて解凍する方法が挙げられる。あるいは、第2工程を経た生地を解凍せずにそのまま焼成に供してもよい。
【0024】
第3工程では、第2工程を経た生地(凍結又は半凍結状態とされた生地)のみを焼成して、該生地からなる麺皮類を製造する方法(第1の方法)を採用してもよく、あるいは、第2工程を経た生地と別の生地とを併用して麺皮類する方法(第2の方法)を採用してもよい。
【0025】
前記第2の方法において、第3工程では、第2工程を経た生地と該第2工程を経ずに調製された別の生地との混合物を焼成する。この「別の生地」としては、第2工程を経ていない点以外は、第2工程を経た生地と同様のものを用いることができる。すなわち、第2工程を経た生地と併用される別の生地は、α化穀粉類を含まない生地原料に液体原料を添加して調製され得るもので、常温常圧で流動性を有する流動状生地であり得る。
前記混合物において、第2工程を経た生地と別の生地との含有質量比は特に制限されないが、本発明の所定の効果が確実に奏されるようにする観点から、該混合物に含まれる穀粉類の全質量に対する、第2工程を経た生地に含まれる穀粉類の質量の割合は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。
【0026】
本発明が適用可能な麺皮類の種類は特に限定されず、例えば、春巻き、餃子、シューマイ、ワンタン、小籠包等の麺皮食品における麺皮(種々の食材を包んで食するための包み皮)が挙げられる。
【0027】
本発明の麺皮類の製造方法は、春巻皮の製造に好適である。
本発明には、本発明の麺皮類の製造方法によって製造された春巻皮を用いた、春巻きの製造方法が包含される。本発明の春巻きの製造方法は、典型的には、前述の本発明の麺皮類の製造方法によって春巻皮を製造する工程と、具材を該春巻皮で包んで未調理春巻きを得る工程とを有する。前記未調理春巻きを得る工程は、常法に従って行うことができる。春巻皮に内包される具材の種類は特に限定されず、春巻きの具材として通常使用される肉類や野菜類などの食材から適宜選択できる。本発明の春巻きの製造方法は、前記未調理春巻きを得る工程の後に、該未調理春巻きを冷蔵又は冷凍する工程を有していてもよい。
【実施例0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
〔実施例1~10、比較例1:春巻皮の製造〕
生地原料として、α化されていない小麦粉(日清製粉株式会社製、商品名「特ナンバーワン」)、食塩、糖類(ブドウ糖)及び液状油脂(サラダ油)、還元水あめ(物産フードサイエンス株式会社製、商品名「エスイー30」、四糖以上占有率56~76%)、固形油脂(横関油脂工業株式会社製、商品名「ヴージョS」、融点40℃)を用い、生地原料に液体原料としての水を所定量添加し混捏して、下記表1に示す配合の流動状生地を得た(生地調製工程)。
次いで、袋状容器(パウチ袋)に流動状生地を重量にして2kg分入れ、その容器入り流動状生地を、下記保管法A~Cの何れかにより所定時間保管した(生地保管工程)。
・保管法A(冷凍保管):容器入り流動状生地を、庫内温度が一定の冷凍温度(-3℃、-5℃、-10℃又は-18℃)に設定された恒温庫(市販のドウコンディショナー又は冷凍庫)内に所定時間保管する方法。
・保管法B(急速凍結後冷凍保管):容器入り流動状生地を、設定温度-30℃の急速凍結機(株式会社アビー製、KX-R10AF1)にて30分間処理した後、所定時間保管する方法。
・保管法C(冷蔵保管):容器入り流動状生地を、庫内温度が一定の冷蔵温度(4℃)に設定された恒温庫(市販の冷蔵庫)内に所定時間保管する方法。流動状生地は、保管法Cによっては凍結も半凍結もせず、流動性を有したままである。
次いで、前記生地保管工程を経た生地(保管済み生地)を、ドラム型焼成機を用いてそのドラム面上で焼成し、厚さ0.5~0.55mmの帯状の春巻皮を製造した(麺皮化工程)。前記保管法A又はBによって保管した生地(凍結又は半凍結状態の生地)は、流水解凍、常温(20℃)での静置解凍(常温解凍)又は冷蔵庫(4℃)内での静置解凍(冷蔵解凍)によって解凍してから焼成し、前記保管法Cによって保管した生地(流動状生地)は、そのまま焼成した。前記麺皮化工程では、「麺皮化する(焼成する)生地に含まれる穀粉類の全質量に対する、保管工程を経た生地(保管済み生地)に含まれる穀粉類の質量の割合」(以下、「保管済み生地割合」とも言う。)は100質量%であった。
【0030】
〔対照例1:春巻皮の製造〕
前記生地保管工程を実施せず、前記生地調製工程で得られた流動状生地をそのまま焼成した以外は、前記各実施例と同様にして春巻皮を製造した。
【0031】
〔実施例11~15:春巻皮の製造〕
前記麺皮化工程において、保管済み生地に加えて別の生地を、保管済み生地割合が下記表2に示すものとなるように用いた以外は、実施例7と同様にして春巻皮を製造した。前記別の生地は、前記生地保管工程を経ていない以外は、実施例7の保管済み生地と同じである。
【0032】
〔評価試験〕
各実施例、比較例及び対照例の帯状の春巻皮を190mm×190mmの平面視正方形形状の細片に分割し、その春巻皮の細片の片面上に調理済みの具材を載せた後、該春巻皮を巻き上げて、揚げ用未調理春巻きを製造し、庫内温度-40℃の冷凍庫で冷凍保管した。この冷凍保管された未調理春巻きを175~180℃のサラダ油で油ちょうして春巻きを得、該春巻きを常温(25℃)の環境に4時間放置した後、食感官能試験に供した。食感官能試験は、10名の専門パネラーに、春巻きを食した際のパリパリ感及びヒキをそれぞれ下記評価基準に基づき評価してもらうことによって実施した。その評価結果を、10名の専門パネラーの評価点の平均値として下記表1及び表2に示す。
【0033】
<パリパリ感の評価基準>
5点:油ちょう直後と同等のパリパリ感があり、非常に良好。
4点:パリパリ感がかなりあり、良好。
3点:パリパリ感が多少ある(対照例と同等)。
2点:ややパリパリ感が無く、やや不良。
1点:パリパリ感が無く、不良。
<ヒキの評価基準>
5点:油ちょう直後と同等でヒキが無く、非常に良好。
4点:ヒキが少なく、良好。
3点:ヒキが多少ある(対照例と同等)。
2点:ヒキがやや強く、やや不良。
1点:ヒキが強く、不良。
【0034】
【0035】
表1に示すとおり、各実施例は、流動状生地を 該生地に含有されている澱粉をα化させることなく、凍結させるか又は半凍結させてシャーベット状にしたため、斯かる生地の凍結・半凍結工程を実施しない対照例及び比較例に比べて、加熱調理してから4時間経過後の食感に優れていた。
【0036】
【0037】
表2においては実施例13~15及び7が特に食感の評価が高かったことから、麺皮類の加熱調理後の経時劣化耐性の向上を図るためには、麺皮化工程における保管済み生地割合、すなわち「前記第3工程において、焼成対象の生地(混合物)に含まれる穀粉類の全質量に対する、前記第2工程を経た生地と該第2工程を経ずに調製された別の生地との混合物に含まれる穀粉類の質量の割合」は、25質量%以上が好ましいことがわかる。