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特開2022-69481ポリビニルアルコール樹脂フィルム、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法、及びポリビニルアルコール樹脂フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069481
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール樹脂フィルム、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法、及びポリビニルアルコール樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220428BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026180
(22)【出願日】2022-02-22
(62)【分割の表示】P 2022508972の分割
【原出願日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020173926
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】特許業務法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風藤 修
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 康貴
(57)【要約】
【課題】
PVAフィルムの製造者を容易かつ確実に判別する方法を提供する。
【解決手段】
全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、化石燃料由来のエチレン(Bp)のみを由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ap)のみを含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、化石燃料由来のエチレン(Bp)のみを由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ap)のみを含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法。
【請求項2】
全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、該ポリビニルアルコール樹脂フィルムとは異なる他の、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法。
【請求項3】
炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムについて、炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することにより、生物由来のエチレン(Bb)がC3植物由来のエチレン(Bb)又はC4植物由来のエチレン(Bb)のいずれであるかを判別する、請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法。
【請求項4】
炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰以上である場合に、生物由来のエチレン(Bb)がC4植物由来のエチレン(Bb)であると判別し、前記炭素安定同位体比δ13Cが-20‰未満である場合に、生物由来のエチレン(Bb)がC3植物由来のエチレン(Bb)であると判別する、請求項3に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法。
【請求項5】
炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、化石燃料由来のエチレン(Bp)のみを由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ap)のみを含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法。
【請求項6】
炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、該ポリビニルアルコール樹脂フィルムとは異なる他の、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法。
【請求項7】
炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)に、カルボキシ基を有する化合物を反応させることでビニルエステルモノマーを合成し、又は、エチレンに、14Cを含むカルボキシ基を有する化合物を反応させることでビニルエステルモノマーを合成し、
得られたビニルエステルモノマーを重合してポリビニルエステルを得、
得られたポリビニルエステルをけん化することで、ポリビニルアルコール樹脂(Ab)を得、
得られたポリビニルアルコール樹脂(Ab)を用いてポリビニルアルコール樹脂フィルムを製造する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール樹脂を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法、及びポリビニルアルコール樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAと記することがある)を含むフィルムは、水溶性、光学特性などそのユニークな特性により、薬剤包装やシードテープなどの水溶性フィルム、液晶ディスプレーの偏光フィルムの原料などに用いられる光学フィルムなど、その特性を生かした様々な用途に使用されている。
【0003】
PVAは、合成樹脂としては珍しい生分解性を有し、環境負荷が少ない合成樹脂としても知られている。しかしながら、PVAを製造するための原料は、そのほとんどが石油、石炭、天然ガス等の化石燃料由来の化合物を出発原料として使用して製造されたものである。化石燃料は、長い年月の間、地中に固定されてきた炭素を含有する。従って、PVAを微生物により分解処理、あるいは通常の合成樹脂のように焼却処理して、二酸化炭素を大気中に放出することは、地中深くに固定されて大気中には存在していなかった炭素を二酸化炭素として大気中に放出することになり、地球温暖化の要因となりうる。
【0004】
一方、地球環境内において循環する二酸化炭素を吸収して、これを有機物に変化させた栄養源により育つ生物(植物、動物)から得られる材料を合成樹脂の原料として使用すれば、それを生分解処理あるいは焼却処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素が循環しているので、その二酸化炭素を構成する炭素の総量には変化がない。
【0005】
特に植物は、地球環境内で循環する二酸化炭素を吸収し、二酸化炭素と水とを原料とする光合成反応を行い、有機体として同化・固定化する生物であることから、炭素源として注目されている。例えば、サトウキビやトウモロコシ等の植物原料から抽出する糖の発酵物又はセルロース発酵物からアルコール成分、特にエチルアルコールを蒸留分離し、その脱水反応によりアルケンであるエチレンを得ることができる。この生物由来のエチレン(以下、バイオエチレンと記することがある)を原料としてビニルエステルモノマー(以下、バイオビニルエステルモノマーと記することがある)を合成し、このバイオビニルエステルモノマーを重合させて得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるPVA(以下、バイオPVAと記することがある)を製造すれば、このバイオPVAを生分解処理あるいは焼却処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させることはなく、地球温暖化の原因となる事はない。
【0006】
地球環境内で循環する二酸化炭素を構成する炭素は、同位体(アイソトープ)である放射性の炭素14(以下、14Cと称することがある)、安定な炭素12(以下、12Cと記することがある)、および準安定な炭素13(以下、13Cと記することがある)の混合物であり、その質量比率は、12Cが98.892質量%、13Cが1.108質量%、および14Cが1.2×10-12質量%~1.2×10-10質量%(痕跡量)であることが知られている。12Cと13Cとの比率は安定している。放射性の14Cは、大気上層で一次宇宙線によって生成された二次宇宙線に含まれる中性子が、大気中の窒素原子(14N)に衝突することによって生成されるので、太陽の黒点活動の強弱等により若干変動するものの、常に供給され続けているが、一方で、半減期5730年で減少する。
【0007】
地球環境内で循環する二酸化炭素を絶えず吸収して育つ生物の体を構成する炭素は、その生存中、更新され続けるため、地球環境内で循環する二酸化炭素を構成する3種類の炭素同位体の質量比率を引き継ぎ続ける。生物が死滅すれば、生物内部における3種類の炭素同位体の質量比率は、死滅時点の比率で固定化される。14Cの半減期は、5730年であり、これよりはるか昔の太古に生息した生物の死滅から長期間が経過して形成された化石燃料中の14Cの質量比率は、地球環境内で循環する現代の二酸化炭素と隔絶されるため、地球環境内で循環する二酸化炭素中の14Cの質量比率に比べて非常に小さい値となる。
【0008】
したがって、化石燃料を原料とする通常のPVAを構成する炭素における14Cの存在比率も、バイオPVAを構成する炭素における14Cの存在比率に比べて著しく小さい値、実質的に0%となるため、バイオPVAと化石燃料由来のPVAとは、含有される炭素における14Cの存在比率を測定すれば区別することが可能である。
【0009】
ところで、ポリビニルアルコール樹脂を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム(以下、PVAフィルムと記することがある)の用途としては、液晶テレビなどのLCDの構成要素である偏光フィルムなどの光学フィルムを製造する際の原反フィルムや、1回分の使用量の薬剤等を個別に包装する際の薬剤包装用フィルムが挙げられ、近年需要が拡大し続けている。これらの用途に使用されるPVAフィルムには、欠点が極めて少ないこと、厚み等のムラがほとんどないことなど、非常に高い品質を求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、PVAフィルムは光学フィルム製造用の原反フィルムや薬剤包装用フィルムなど様々な用途に使用されているが、市場において、PVAフィルムを用いた光学フィルムを含む液晶テレビや薬剤包装体などの末端商品で、PVAフィルムの品質に起因する問題を生じることがある。その場合、その問題の原因であるPVAフィルムが、自社で製造されたものであるか又は他社で製造されたものであるかを特定することが必要である。しかしながら、従来公知の技術では、問題の発生した末端商品に用いられたPVAフィルムを分析することによって、そのPVAフィルムの製造者を特定する事は非常に困難であった。そのため、市場において問題の発生した末端商品について、用いられたPVAフィルムの製造者を、容易かつ確実に判別する方法が求められていた。
【0011】
そこで、本発明は、第一に、生分解処理あるいは焼却処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ないPVAを用いたPVAフィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、第二に、PVAフィルムの製造者を、容易かつ確実に判別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
植物由来の有機物質と化石燃料由来の有機物質との区別については、米国国立標準局(NIST)による、ASTM D6866が知られている。ASTM D6866は、放射性炭素年代測定法を利用した固体・液体・気体試料中の生物起源炭素濃度を決定するASTM(米国材料試験協会;American Society for Testing and Materials)の標準規格で、現在有効な標準規格のバージョンは、2020年2月に施行されたASTM D6866-20である。この方法により、バイオPVAを含むフィルムと、バイオPVAを含まない化石燃料由来のPVAのみを含むフィルムとの判別が可能である。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1]ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[2]炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰以上である、前記[1]に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[3]炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰未満である、前記[1]に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[4]前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の全部又は一部が、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[5]前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がエチレン単位を含有し、前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の全単量体単位に対するエチレン単位の含有量が1モル%以上、15モル%未満である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[6]前記ポリビニルアルコール樹脂(A)のけん化度が80モル%以上である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[7]前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の重合度が200以上、8,000未満である、前記[1]~[6]のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[8]前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である、前記[1]~[7]のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[9]前記ポリビニルアルコール樹脂(A)が重合体末端にアルコキシル基を有し、前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の全単量体単位に対するアルコキシル基の含有量が0.0005モル%以上、1モル%未満である、前記[1]~[8]のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム;
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた光学フィルム;
[11]前記[1]~[9]のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルム;
[12]洗剤、農薬、又は殺菌剤を、前記[11]に記載の水溶性フィルムにより包装した包装体;
[13]全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、化石燃料由来のエチレン(Bp)のみを由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ap)のみを含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法;
[14]全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、該ポリビニルアルコール樹脂フィルムとは異なる他の、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法;
[15]炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムについて、炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することにより、生物由来のエチレン(Bb)がC3植物由来のエチレン(Bb)又はC4植物由来のエチレン(Bb)のいずれであるかを判別する、前記[13]又は[14]に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法;
[16]炭素13の(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰以上である場合に、生物由来のエチレン(Bb)がC4植物由来のエチレン(Bb)であると判別し、前記炭素安定同位体比δ13Cが-20‰未満である場合に、生物由来のエチレン(Bb)がC3植物由来のエチレン(Bb)であると判別する、前記[15]に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法;
[17]炭素13の(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、化石燃料由来のエチレン(Bp)のみを由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ap)のみを含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法;
[18]炭素13の(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムと、該ポリビニルアルコール樹脂フィルムとは異なる他の、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムとを判別する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法;
[19]生物由来のエチレン(Bb)に、カルボキシ基を有する化合物を反応させることでビニルエステルモノマーを合成し、又は、エチレン(Bb)に、カルボキシ基を有する化合物を反応させることでビニルエステルモノマーを合成し、得られたビニルエステルモノマーを重合してポリビニルエステルを得、得られたポリビニルエステルをけん化することで、ポリビニルアルコール樹脂(Ab)を得、得られたポリビニルアルコール樹脂(Ab)を用いてポリビニルアルコール樹脂フィルムを製造する、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの製造方法;
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第一に、生分解処理あるいは焼却処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ないPVAを用いたPVAフィルムが提供される。また、本発明によれば、第二に、PVAフィルムの製造者を、容易かつ確実に判別する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
14Cの存在比率>
本発明のPVAフィルムは、ポリビニルエステルのけん化物であるPVA(A)を含み、当該PVA(A)を構成する全炭素中の14Cの存在比率14C/C(以下、14C/Cと記することがある)が1.0×10-14以上である。全炭素とは全ての炭素の同位体を合算したものであり、14C/Cとは全炭素に対する14Cの比である。14C/Cが1.0×10-14未満である場合、ASTM D6866に準拠した測定方法の測定下限に近くなり、精度の良い測定が困難になり、PVAフィルムに含まれるPVA(A)がバイオPVAであるかの判別が困難になる。また14C/Cが小さいということは、PVA(A)を製造する際の、生物由来原料の使用割合が少ないことを示しており、地球環境内に存在する二酸化炭素の増加量の削減効果が不十分となる。14C/Cは2.0×10-14以上である事が好ましく、5.0×10-14以上である事がより好ましく、1.0×10-13以上である事がさらに好ましい。一方、14C/Cの上限に特に制限はないが、生物由来の原料は化石燃料由来の原料よりも一般にコストが高いため、14C/Cは1.0×10-11以下である事が好ましく、7.0×10-12以下である事がより好ましく、5.0×10-12以下である事がさらに好ましい。
【0017】
本発明において、14C/Cの測定方法に特に限定はなく、例えば、試料(例えば、酢酸ビニル)を必要により二酸化炭素やグラファイトとした後、加速器質量分析法(AMS法;Accelerator Mass Spectrometry)によって、標準物質(例えば、米国NISTシュウ酸)に対する14Cの含有量を比較測定することにより求めることができる。14C/Cは、試料中の14Cの量を試料中の全炭素量で除することによって算出できる。
【0018】
<炭素安定同位体比δ13C>
本発明における13Cの炭素安定同位体比δ13C(以下、δ13Cと記することがある)とは、自然界に存在する炭素原子の3種類の同位体(存在比 12C:13C:14C=98.9:1.11:1.2×10-12 単位;%)のうち、12Cに対する13Cの割合をいい、炭素安定同位体比は、標準物質に対する偏差で表され、以下の式で定義される値(δ値)をいう。
【0019】
δ13C[‰]={(13C/12C)sample/(13C/12C)PDB-1.0}×1,000
【0020】
ここで、[(13C/12C)sample]は、測定対象のサンプルの安定同位体比を表し、[(13C/12C)PDB]は標準物質の安定同位体比を表す。PDBは、「Pee Dee Belemnite」の略称であり、炭酸カルシウムからなる矢石類の化石(標準物質としては南カロリナ州のPeeDee層から出土した矢石類の化石)を意味し、13C/12C比の標準体として用いられる。また、「炭素安定同位体比δ13C」は加速器質量分析法によって測定される。なお、標準物質は希少なため、標準物質に対する安定同位体比が既知であるワーキングスタンダードを利用することもできる。
【0021】
<C3植物とC4植物>
バイオエチレンはその原料となる植物によりおおきく2つに大別され、サツマイモ、サトウダイコン、イネ、樹木、藻類などのC3植物に由来するものと、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバなどのC4植物に由来するものがあり、両者のδ13Cは大きく異なる。C3植物由来のバイオエチレンを原料としたPVAの場合、δ13Cは-20‰未満となり、C4植物由来のバイオエチレンを原料としたPVAの場合、δ13Cは-20‰以上となる。そのため、C3植物由来のバイオエチレンを原料としたPVAと、C4植物由来のバイオエチレンを原料としたPVAとは、上記14C/Cを測定して化石燃料由来のPVAである可能性を排除した上で、δ13Cを測定すれば判別できる。
【0022】
植物は、その光合成炭酸固定経路における二酸化炭素の初期固定産物の種類から、C3植物、C4植物及び多肉植物型光合成(CAM/Crassulacean Acid Metabolism)植物の3種類に分類される。作物ではトウモロコシや雑穀類がC4植物であり、イネやコムギといった主要作物はC3植物であり、サボテン(Cactaceae)、弁慶草(Crassulaceae)、トウザイクサ(Euphorbiaceae)等がCAM植物である。
【0023】
地球上の植物の90%以上はC3植物に属し、例えば、イネ、ムギ、タバコ、小麦、ジャガ芋、パームヤシ等の農業的に有用な植物が含まれる。C3植物の光合成経路で二酸化炭素固定に関与する酵素は、リブロース-1,5-二リン酸カルボキシラーゼであり、二酸化炭素に対する親和性が低く、逆に酸素に対する親和性が高いために、二酸化炭素固定反応、ひいては光合成反応の効率が低い。
【0024】
本発明のPVAフィルムは、加速器質量分析法によって測定される炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰未満であることが好ましい。δ13Cは、-50‰以上であることがより好ましく、-45‰以上であることがさらに好ましく、-40‰以上であることが特に好ましい。δ13Cは、-22‰以下であることがより好ましく、-25‰以下であることがさらに好ましく、-26‰以下であることが特に好ましい。本発明のPVAフィルムにおいて炭素安定同位体比δ13Cが上記範囲であることは、PVAフィルムに含まれるPVA(A)としてC3植物由来のバイオエチレンを原料としたPVAが使用されたことを示しており、原料のコスト、供給性などの観点より好ましい。また、C3植物としては、イネ、小麦、ジャガ芋、パーム油が好ましい。
【0025】
C4植物とはC4型光合成を行う植物であり、光合成の過程で一般の二酸化炭素還元回路であるカルベン-ベンソン回路の他に二酸化炭素濃縮のためのC4経路を持つ光合成の一形態である。このC4植物の光合成経路における二酸化炭素固定に関与する酵素は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼである。この酵素は、酸素による活性阻害を受けず、二酸化炭素の固定化能が高く、維管束鞘細胞にも発達した葉緑体が存在するのが特徴である。代表的なC4植物に、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバ、ソルガム、ススキ、ギニアグラス、ローズグラス、ニクキビ、アワ、ヒエ、シコウビエ、ホウキ木等があり、ホウキ木は別称で、ほうき草、帚木、コキアグリーンとも呼ばれる。かかるC4植物は、二酸化炭素を固定するのに余計にエネルギーを使っているので、C4植物以外の他の植物より効率よく二酸化炭素を固定することができる。また、C4植物以外の他の植物は高温の時に二酸化炭素を集めにくくなるが、C4植物はそういうことがない。しかも、水が少なくても光合成が十分に行える。高温や乾燥、低二酸化炭素、貧窒素土壌と言った植物には苛酷な気候下に対応するための生理的な適応である。
【0026】
本発明のPVAフィルムにおいて、加速器質量分析法によって測定される炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰以上であることが好ましい。δ13Cは、-18‰以上であることがより好ましく、-15‰以上であることがさらに好ましく、-13‰以上であることが特に好ましい。δ13Cは、-1‰以下であることがより好ましく、-4‰以下であることがさらに好ましく、-7‰以下であることが特に好ましい。本発明のPVAフィルムにおいて炭素安定同位体比δ13Cが上記範囲であることは、PVAフィルムに含まれるPVA(A)としてC4植物由来のバイオエチレンを原料としたPVAが使用されたことを示している。ここで、C4植物由来のバイオエチレンは、C3植物由来のバイオエチレンに比べて入手しにくい傾向があるため、本発明のPVAフィルムにおいて炭素安定同位体比δ13Cが上記範囲であることで、PVAフィルムの製造者を、より容易かつ確実に判別することができる。また、C4植物としては、生産量やコストから、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバが好ましい。
【0027】
その他、C3植物、C4植物以外の植物として、CAM植物は乾燥した環境に適応した光合成系を有しており、この光合成系は、C3光合成の一種の進化した形態と考えられている。CAM植物のδ13Cは、一般的に約-35‰~約-10‰の範囲であり、これらのCAM植物をバイオマス原料として、必要により本発明の効果を妨げない範囲で併用することができる。
【0028】
また、本発明のPVAフィルムは14C/C、必要によりδ13Cが上記範囲内にある限りにおいて、異なる14C/C、あるいはδ13Cを有するPVAを混合したものを、原料として用いてもよい。
【0029】
例えば、C3植物由来の原料を用いてδ13Cを示すPVAフィルムを得るだけでなく、異なるδ13CのPVAを混合して所定のδ13C、即ち、C3植物の単体では達成し得ないδ13Cを含め、より特定のδ13Cとすることで、得られるPVAフィルムの判別精度をさらに高めることができる。即ち、異なるδ13Cの原料を用いると、その炭素安定同位体比を分析して得られる統計解析値は固有のものとなるため、他の原料と区別することができ、したがって、そのような原料から製造されたPVAフィルムのδ13Cも固有の分析値を有することとなり、同定、追跡が容易となる。
【0030】
<ポリビニルアルコール樹脂>
本発明のPVAフィルムにおいて、PVA(A)の全部もしくは一部が、当該PVA(A)を構成する炭素の全部もしくは一部が、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である、ことが好ましい。すなわち、本発明のPVAフィルムにおいて、PVA(A)は、PVA(Ab)単独でもよく、PVA(Ab)と化石燃料由来の原料のみから得られるPVA(Ap)の混合物であってもよい。
【0031】
PVA(Ab)を得る方法に特に制限はないが、例えば、
(1)バイオビニルエステルモノマー(Cb1)のみを重合して得られたポリビニルエステル(Db1)のみをけん化してPVA(Ab1)を得る方法、
(2)バイオエチレン(Bb)と化石燃料由来のエチレン(Bp)の混合物を原料としたバイオビニルエステルモノマー(Cb2)を重合して得られたポリビニルエステル(Db2)をけん化してPVA(Ab2)を得る方法、
(3)前記バイオビニルエステルモノマー(Cb1)と、化石燃料由来のエチレン(Bp)を原料としたビニルエステルモノマー(Cp)とを共重合して得られたポリビニルエステル(Db3)をけん化してPVA(Ab3)を得る方法、
(4)前記ポリビニルエステル(Db1)と、化石燃料由来のビニルエステルモノマー(Cp)のみを重合して得られたポリビニルエステル(Dp)を混合したものをけん化してPVA(Ab4)を得る方法、
(5)上記(2)~(4)の方法を組み合わせた方法、
などが例示される。
【0032】
ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0033】
ビニルエステルモノマーの製造方法に特に制限はなく、例えば、エチレンをR-COOHであらわされるカルボキシ基を有する化合物と反応させることで得ることができる。酢酸ビニルは、以下のようにして合成することができる。通常、酢酸ビニルは、触媒存在下でエチレンと酢酸と酸素を気相反応させることで得ることができる。この時、所定の量の14Cを含むエチレン又は、カルボキシ基を有する化合物として所定の量の14Cを含む酢酸を用いることで、所定の量の14Cを含む酢酸ビニルが得られる。所定の量の14Cを含むエチレンとしては、例えば、バイオエチレンが挙げられる。
【0034】
なお、ビニルエステルモノマーの製造において、カルボン酸等のエチレン以外の原料についても生物由来のものを使用するのが好ましいが、カルボン酸基はけん化の際にポリビニルエステルのポリマー主鎖から外れ、通常は回収されて再使用されるので、化石燃料由来のものを使用しても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させることはなく、地球温暖化の原因となる事はない。
【0035】
ポリビニルエステルは1種又は2種以上のビニルエステルモノマーを用いて得られたものが好ましく、1種のビニルエステルモノマーのみを用いて得られたものがより好ましい。また、ポリビニルエステルは、1種又は2種以上のビニルエステルモノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0036】
ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、エチレンが好ましい。すなわち、本発明のPVAフィルムに含まれるPVAは、エチレン単位を含有することが好ましい。また、エチレン単位の含有量は、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、1モル%以上であることが好ましく、1.5モル%以上であることがより好ましい。また、エチレン単位の含有量は、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%未満であることが好ましく、10モル%未満であることがより好ましい。エチレン単位の含有量が上記範囲であることで、本発明のPVAフィルムを光学フィルム製造用の原反フィルムとして用いる場合に、PVAフィルムの光学特性を大きく損なうことなく耐水性などを改善することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、ポリマー主鎖中にエチレン単位を導入することで親水性を弱めつつも、結晶中でエチレン単位が占める体積がビニルアルコール単位のそれと大きな差がないことによりPVAの結晶構造が大きく乱されないためと推定される。
【0037】
ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、エチレン以外に、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸又はその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸又はその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N-メチロールアクリルアミド又はその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N-メチロールメタクリルアミド又はその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸又はその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸又はその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル系重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種又は2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0038】
ポリビニルエステルに占める他のモノマーに由来する構造単位の割合は、得られるPVAフィルムの強度や、PVAフィルムを光学フィルム製造用の原反フィルムとして用いる場合の光学性能などの観点から、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0039】
ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーは、化石燃料由来のモノマーを用いてもよく、植物由来のモノマーを用いてもよい。
【0040】
本発明のPVAフィルムにおいて、PVA(A)の重合度は200以上であることが好ましい。PVA(A)の重合度は8,000未満であることが好ましい。PVA(A)の重合度は、PVAフィルムの強度の観点から、300以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましい。一方、PVA(A)又はPVAフィルムの生産性などの点から、PVA(A)の重合度は5,000未満であることがより好ましく、3,000未満であることがさらに好ましい。ここでPVA(A)の重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度Poを意味し、PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
【0041】
Po = ([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0042】
本発明のPVAフィルムおいて、PVA(A)のけん化度は80モル%以上であることが好ましい。けん化度が80モル%未満の場合、PVAフィルムを薬剤包装用フィルムとして用いる場合水溶性が損なわれやすく、また、PVAフィルムを光学フィルム製造用の原反フィルムとして用いる場合に光学特性が損なわれやすい。けん化度は、84モル%以上であることがより好ましく、88モル%以上であることがさらに好ましい。一方、けん化度は100モル%未満が好ましく、99.999モル%未満がより好ましく、99.995モル%未満がさらに好ましい。ここでPVAのけん化度は、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステルモノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。PVAのけん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0043】
本発明のPVAフィルムにおいて、PVA(A)の1,2-グリコール結合の含有量は、0.2モル%以上であることが好ましい。PVA(A)の1,2-グリコール結合の含有量は、2.0モル%未満であることが好ましい。1,2-グリコール結合の含有量が2.0モル%未満であることにより、PVAフィルムを光学フィルム製造用の原反フィルムとして用いる場合に良好な光学特性や機械的強度を得やすい。一方、1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上であることで、PVA(A)を製造する際の生産性を高め、製造コストを低減することができる。PVA(A)の1,2-グリコール結合の含有量は、0.4モル%以上であることがより好ましく、0.6モル%以上であることがさらに好ましい。PVA(A)の1,2-グリコール結合の含有量は、1.9モル%未満であることがより好ましく、1.8モル%未満であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明のPVAフィルムにおいて、PVA(A)が重合体末端にアルコキシル基を有し、全単量体単位に対するアルコキシル基の含有量(以下、末端アルコキシル基の含有量と記すことがある)が0.0005モル%以上であることが好ましい。末端アルコキシル基の含有量は、1モル%未満であることが好ましい。重合体末端へのアルコキシル基の導入方法としては特に限定されないが、例えば、アルコキシル基を有する重合開始剤を用いて、ビニルエステルを重合する方法があげられる。
【0045】
本発明のPVAフィルムを光学フィルム製造用の原反フィルムとして用いる際に、例えば、PVAフィルムを原反フィルムとして偏光フィルムを製造する際に、製造工程における処理液中へPVA(A)が溶出し、処理液中のPVA(A)の濃度が高まると、ホウ酸架橋の進行等によってPVA(A)の微粒子が処理液中に析出してPVAフィルムに付着して、得られる偏光フィルムの表面にPVA微粒子に由来する異物が残存して欠点となるため問題を生じる事がある。本発明のPVAフィルムにおいては、PVA(A)が重合体末端にアルコキシル基を有し、全単量体単位に対するその含有量が0.0005モル%以上、1モル%未満であることで、この問題が発生するのを抑制することができる。末端アルコキシル基の含有量が0.0005モル%未満の場合、PVA(A)の微粒子に由来する偏光フィルムの表面の異物欠点を十分に低減できない場合がある。また、末端アルコキシル基の含有量が1モル%を超える場合、本発明のPVAフィルムを光学フィルム製造用の原反フィルムとして用いる場合に、得られる偏光フィルムの偏光性能が不十分になるおそれがある。全単量体単位に対する末端アルコキシル基の含有量は、0.001モル%以上であることがより好ましく、0.005モル%以上であることがさらに好ましい。全単量体単位に対する末端アルコキシル基の含有量は、0.1モル%未満であることがより好ましく、0.05モル%未満であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明におけるPVAフィルムは、PVA(A)として1種類のPVAを用いてもよいし、重合度やけん化度あるいは変性度などが互いに異なる2種以上のPVAをブレンドして用いてもよい。2種類以上のPVAをブレンドして用いる場合、PVA(A)とPVA(A)以外のバイオエチレン等のバイオマス由来のPVAをブレンドしてもよいし、PVA(A)と石油又は化石由来のPVAをブレンドしてもよいし、両方を組み合わせてもよい。
【0047】
本発明において、PVAフィルム中のPVA(A)の含有率は特に制限がないが、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該含有率は100質量%であってもよいが、バイオマスの入手性と偏光フィルムとしての性能の両立を考慮すると、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下、さらには90質量%以下であってもよい。
【0048】
<可塑剤>
本発明のPVAフィルムは、可塑剤を含まない状態では他のプラスチックフィルムに比べ剛直であり、衝撃強度等の機械的物性や二次加工時の工程通過性などが問題になることがある。それらの問題を防止するために、本発明のPVAフィルムには可塑剤を含有させることが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の多価アルコールなどを挙げることができる。これらの可塑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの可塑剤の中でも、フィルム表面へのブリードアウトがしにくいなどの観点から、エチレングリコール又はグリセリンが好ましく、グリセリンがより好ましい。また、可塑剤も生物由来の原料より製造されたものを使用することが好ましい。
【0049】
本発明のPVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、PVAフィルムに含まれるPVA100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。また、可塑剤の含有量は70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量が1質量部未満であると、PVAフィルムの衝撃強度等の機械的物性の改善効果が十分でないことがある。一方、可塑剤の含有量が70質量部を超えると、PVAフィルムが柔軟になりすぎて取り扱い性が低下したり、フィルム表面にブリードアウトしたりする場合がある。
【0050】
<澱粉/水溶性高分子>
本発明のPVAフィルムは、澱粉および/又はPVA(A)以外の水溶性高分子を含有してもよい。このような水溶性高分子を含有することで、PVAフィルムに機械的強度を付与し、PVAフィルムを取り扱う際の耐湿性を維持し、あるいはPVAフィルムを溶解する際の水の吸収による柔軟化の速度を調節することができる。
【0051】
澱粉としては、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、コメ澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の天然澱粉類;エーテル化加工、エステル化加工、酸化加工等が施された加工澱粉類などを挙げることができ、特に加工澱粉類が好ましい。
【0052】
PVAフィルム中における澱粉の含有量は、PVA(A)100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。澱粉の量が15質量部より大きいと、PVAフィルムの製造時における工程通過性が悪化するおそれがある。
【0053】
PVA(A)以外の水溶性高分子としては、例えば、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0054】
PVAフィルムにおけるPVA(A)以外の水溶性高分子の含有量は、PVA(A)100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。PVA(A)以外の水溶性高分子の含有量が15質量部より大きいと、PVAフィルムの物性がそこなわれるおそれがある。
【0055】
<界面活性剤>
PVAフィルムの製膜において、その取り扱い性や、またPVAフィルムを製造する際の製膜装置からの剥離性の向上などの観点からPVAフィルムに界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の種類としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などが例示できる。
【0056】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが挙げられる。
【0057】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。
界面活性剤は1種を使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
<その他の成分>
本発明のPVAフィルムは、可塑剤、澱粉、PVA(A)以外の水溶性高分子、界面活性剤以外に、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、架橋剤、着色剤、充填剤、防腐剤、防黴剤、他の高分子化合物などの成分を、本発明の効果を妨げない範囲で含有してもよい。PVA、可塑剤、澱粉、PVA(A)以外の水溶性高分子、界面活性剤の各質量の合計値が本発明のPVAフィルムの全質量に占める割合は、60~100質量%の範囲内であることが好ましく、80~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0059】
<形状>
本発明のPVAフィルムの厚みに特に制限はないが、厚みが厚すぎると二次加工性が悪化する傾向があることから、PVAフィルムの厚みは、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。また厚みがあまりに薄い場合、PVAフィルムの力学的強度に問題が生じるおそれがあることから、PVAフィルムの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。なお、PVAフィルムの厚みは、任意の10箇所(例えば、PVAフィルムの長さ方向に引いた直線上にある任意の10箇所)の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0060】
<用途>
本発明のPVAフィルムは、光学フィルム製造用の原反フィルム又は水溶性フィルムとして用いられる。光学フィルムとしては、偏光フィルム、視野角向上フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム等が例示されるが、偏光フィルムであることが好ましい。また、水溶性フィルムとしては、薬剤包装用フィルム、液圧転写用ベースフィルム、刺繍用基材フィルム、人工大理石成形用離型フィルム、種子包装用フィルム、汚物収容袋用フィルム等が例示されるが、薬剤包装用フィルムであることが好ましい。薬剤の種類としては、例えば、洗剤、農薬、又は殺菌剤等が挙げられる。薬剤の形態としては、粉末状、塊状、ゲル状および液体状のいずれであってもよい。本発明のPVAフィルムを薬剤包装用フィルムとして用いて薬剤を包装することにより、包装体を得ることができる。この包装体を用いることで、一般家庭において洗剤を用いて衣服を洗濯する際や、農作業において水田に農薬を散布する際に、一定量の薬剤を簡便かつ安全に使用することができる。
【0061】
<PVAフィルムの製造方法>
本発明において、PVAフィルムの製造方法は、PVA(A)に溶媒、添加剤等を加えて均一化させた製膜原液を使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(製膜原液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVAフィルムを得る方法)、あるいは、これらの組み合わせにより製膜する方法や、押出機などを使用して上記製膜原液を得てこれをTダイなどから押出すことにより製膜する溶融押出製膜法やインフレーション成形法など、任意の方法により製膜することができる。これらの中でも、流延製膜法および溶融押出製膜法が、均質なフィルムを生産性よく得ることができるため、好ましい。以下、PVAフィルムの流延製膜法又は溶融押出製膜法について説明する。
【0062】
PVAフィルムを流延製膜法又は溶融押出製膜法にて製膜する場合、上記の製膜原液は金属ロールや金属ベルトなどの支持体の上へ膜状に流涎され、加熱されて溶媒が除去されることにより、固化してフィルム化する。固化したフィルムは支持体より剥離されて、必要に応じて乾燥ロール、乾燥炉などにより乾燥されて、さらに必要に応じて熱処理されて、巻き取られることにより、ロール状の長尺のPVAフィルムを得ることができる。
【0063】
上記製膜原液の揮発分濃度(製膜時などに揮発や蒸発によって除去される溶媒等の揮発性成分の濃度)は50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましい。製膜原液の揮発分濃度は90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。揮発分濃度が50質量%未満であると、製膜原液の粘度が高くなり、製膜が困難となる場合がある。一方、揮発分濃度が90質量%を超えると、粘度が低くなり得られるフィルムの厚さ均一性が損なわれやすい。
【0064】
ここで、本明細書における「製膜原液の揮発分率」とは、下記の式により求めた揮発分率をいう。
【0065】
製膜原液の揮発分率(質量%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
(式中、Waは製膜原液の質量(g)を表し、WbはWa(g)の製膜原液を105℃の電熱乾燥機中で16時間乾燥した時の質量(g)を表す。)
【0066】
製膜原液の調整方法に特に制限はなく、例えば、PVAと可塑剤、界面活性剤などの添加剤を溶解タンク等で溶解させる方法や、一軸押出機又は二軸押出機を使用して含水状態のPVAを溶融混錬する際に、可塑剤、界面活性剤などと共に溶融混錬する方法などが挙げられる。
【0067】
PVAフィルムを流延製膜法又は溶融押出製膜法にて製膜する場合、上記の製膜原液は、膜状吐出装置から金属ロールや金属ベルトなどの支持体の上へ膜状に流涎され、加熱されて溶媒が除去されることにより、固化してフィルム化する。
【0068】
製膜原液を流涎する支持体の表面温度は50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、65℃以上であることがさらに好ましい。製膜原液を流涎する支持体の表面温度は110℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、95℃以下であることがさらに好ましい。表面温度が50℃未満の場合、乾燥に要する時間が長くなり生産性が低下する傾向がある。表面温度が110℃を超える場合は、発泡等の膜面の異常を生じやすくなる傾向、およびフィルムが固くなりすぎる傾向がある。
【0069】
支持体上でPVAフィルムを加熱すると同時に、PVA膜の非接触面側の全領域に風速1~10m/秒の熱風を均一に吹き付けて、乾燥速度を調節してもよい。非接触面側に吹き付ける熱風の温度は、乾燥効率や乾燥の均一性などの点から、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。非接触面側に吹き付ける熱風の温度は、乾燥効率や乾燥の均一性などの点から、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましい。
【0070】
支持体から剥離されたPVAフィルムは、支持体上で好ましくは揮発分率5~50質量%にまで乾燥された後、剥離され、必要に応じてさらに乾燥される。乾燥の方法に特に制限はなく、乾燥炉や乾燥ロールに接触させる方法が挙げられる。複数の乾燥ロールで乾燥させる場合は、フィルムの一方の面と他方の面を交互に乾燥ロールに接触させることが、両面を均一化させるために好ましい。乾燥ロールの数は、3個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、5個以上であることがさらに好ましい。乾燥ロールの数は、30個以下であることが好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度の上限は110℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることが更に好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度が高すぎると、フィルムが固くなりすぎるおそれがある。一方、乾燥炉、乾燥ロールの温度の下限は、40℃以上であることが好ましく、45℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度が低すぎると、生産性が低下するおそれがある。
【0071】
乾燥したPVAフィルムに対して、必要に応じてさらに熱処理を行うことができる。熱処理を行うことにより、PVAフィルムの強度、水溶性、複屈折率などの物性の調整を行うことができる。熱処理温度の下限は60℃以上であることが好ましい。熱処理温度の上限は135℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。熱処理温度が高すぎると、フィルムが固くなりすぎるおそれがある。
【0072】
このようにして製造されたPVAフィルムは、必要に応じて、さらに、調湿処理、フィルム両端部(耳部)のカットなどを行紙、円筒状のコアの上にロール状に巻き取られ、防湿包装されて、製品となる。
【0073】
上述した一連の処理によって最終的に得られるPVAフィルムの揮発分率は必ずしも限定されない。PVAフィルムの揮発分率は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。PVAフィルムの揮発分率は、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0074】
<判別方法>
以上の方法により得られたPVAフィルムは、全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムと、化石燃料由来のエチレン(Bp)のみを由来とするPVA(Ap)のみを含むPVAフィルムとを判別することができる。
【0075】
なお、本発明において、化石燃料由来のエチレン(Bp)のみを由来とするPVA(Ap)とは、炭素の全部又は一部が、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含まないことを意味するものであり、化石燃料由来のエチレン(Bp)以外の他の単量体単位を含むPVA(Ap)を排除する概念ではない。また、本発明において、PVA(Ap)のみを含むPVAフィルムとは、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含まないことを意味するものであり、PVA(Ap)以外の成分を含むPVAフィルムを排除する概念ではない。
【0076】
また、全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定することにより、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムと、このPVAフィルムとは異なる他の、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムとを判別することができる。例えば、同じ植物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を一部に含むPVAフィルムであっても、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)と、化石燃料由来の原料のみから得られるPVA(Ap)とが含有する割合が異なれば、存在比率14C/Cは異なるものとなる。例えば、自社で製造するPVAフィルムについて、全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが一定となるように製造することで、PVAフィルムが自社のものであるか、他社のものであるかを判別することができる。また、同じ企業内であっても、製造拠点、製造日、製造ロットに応じて、炭素14(14C)の存在比率14C/Cが異なるように製造しておくことで、炭素14(14C)の存在比率14C/Cの測定により、PVAフィルムの製造拠点、製造日、製造ロットを特定することも可能となる。
【0077】
PVAフィルムの判別を実行するためには、全炭素中の14Cの存在比率14C/Cが1.0×10-14以上となるようにPVAフィルムを製造することが好ましく、5.0×10-14以上となるように製造することがより好ましく、2.0×10-14以上となるように製造することがさらに好ましい。また、生物由来の原料は化石燃料由来の原料よりも一般にコストが高いため、PVAフィルムの判別を実行するためには、全炭素中の14Cの存在比率14C/Cが1.0×10-11以下となるようにPVAフィルムを製造することが好ましく、5.0×10-12以下となるように製造することがより好ましく、0.1×10-14以下となるように製造することがさらに好ましい。
【0078】
さらに、全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定することにより、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムであると判別されたものについて、炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することにより、生物由来のエチレン(Bb)がC3植物由来のエチレン(Bb)又はC4植物由来のエチレン(Bb)のいずれであるかを判別することができる。より具体的には、炭素13の(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰以上である場合に、生物由来のエチレン(Bb)がC4植物由来のエチレン(Bb)であると判別し、前記炭素安定同位体比δ13Cが-20‰未満である場合に、生物由来のエチレン(Bb)がC3植物由来のエチレン(Bb)であると判別する。全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/C、及び、炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することで、より高い精度で、PVAフィルムの判別を行うことができる。
【0079】
上では、全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cを測定したうえで、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムであると判別されたものについて、炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することとしたが、炭素14(14C)の存在比率14C/Cの測定を行わず、炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cの測定を行い、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムと、該PVAフィルムとは異なる他のPVAフィルムとを判別することができる。例えば、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムと、化石燃料由来の原料のみから得られるPVA(Ap)のみを含むPVAフィルムとを判別することができる。ただし、化石燃料由来の原料のみから得られるPVA(Ap)の炭素安定同位体比δ13Cは、一般的に-20‰未満となるため、C3植物由来のエチレン(Bb)を原料とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムと、化石燃料由来の原料のみから得られるPVA(Ap)のみを含むPVAフィルムの判別が、難しくなる場合がある。
【0080】
さらに、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムと、該PVAフィルムとは異なる、生物由来のエチレン(Bb)を由来とするPVA(Ab)を含むPVAフィルムとを判別することも可能である。
【0081】
上で述べたように、PVAフィルムの生産ラインごとに、使用するPVAの、バイオPVAと化石燃料由来PVAとの混合比率を変えれば、消費者市場で入手できるLCD製品の偏光板を分析することにより、使用されている偏光フィルムがどの生産ラインのPVAフィルムを原料とした物であるかを特定することが可能となる。
【0082】
<用途>
本発明のPVAフィルムは、上記のように偏光フィルムの原料などの光学用途に好適に用いる事ができる。また薬剤包装やシードテープなどの水溶性フィルムの用途にも好適に用いる事ができる。
【実施例0083】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0084】
[PVAフィルムの精製]
以下の実施例又は比較例で得られたPVAフィルムロールを巻き出して約5gのフィルムを採取し、小さく裁断した。そして裁断したPVAフィルムを、クロロホルムを用いてソックスレー抽出器で抽出した。このようにしてPVAフィルム中のPVA以外の成分を十分に除去することで、PVAフィルムを精製し、PVAフィルム中のPVAを得た。
【0085】
[PVAフィルム中のPVAの全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cの測定]
上記の[PVAフィルムの精製]で得られたPVAを、米国材料試験協会(American Society of Testing and Materials)で規定される前処理方法(ASTM D6866/Method B)によりCO化させた後、鉄触媒を用いた完全還元処理によりC(グラファイト)化させた。次いで、加速器質量分析法により、精製したPVAフィルム及び標準物質の炭素同位体比(14C/12C比,13C/12C比)を測定し、それらの測定結果から12C濃度、13C濃度及び14C濃度を求めた。そして、得られた14C濃度を全炭素濃度(12C濃度、13C濃度及び14C濃度の合計)で除すことにより、PVAフィルム中のPVAの14C/Cを算出した。ここで、標準物質としては、米国国内率標準技術研究所が提供しているシュウ酸標準物質(HOxII)から合成したグラファイトを用いた。なお、本測定における14C/Cの測定限界は1.0×10-14未満である。
【0086】
[PVAフィルム中のPVAの炭素安定同位体比δ13Cの測定]
上記の[PVAフィルムの精製]で得られたPVAを、米国材料試験協会(American Society of Testing and Materials)で規定される前処理方法(ASTM D6866/Method B)によりCO化させた後、鉄触媒を用いた完全還元処理によりC(グラファイト)化させた。次いで、加速器質量分析法により、精製したPVAフィルム及び標準物質の炭素同位体比(13C/12C比)を測定した。そして、以下の式により炭素安定同位体比δ13Cを算出した。ここで、標準物質としては、PDB(「Pee Dee Belemnite」)を用いた。
【0087】
δ13C[‰]={(13C/12C)sample/(13C/12C)PDB-1.0}×1,000
【0088】
上記式中、[(13C/12C)sample]は、測定対象である精製したPVAフィルムの炭素同位体比(13C/12C比)を表し、[(13C/12C)PDB]は標準物質であるPDBの炭素同位体比(13C/12C比)を表す。
【0089】
[PVAフィルム中のPVAのエチレン単位含有量、アルコキシル基含有量、1,2-グリコール結合含有量及びけん化度の測定]
上記の[PVAフィルムの精製]で得られたPVAを、ジメチルスルホキシド(DMSO-d)に溶解させた後、その溶液をアセトンに添加してPVAを析出させることにより、さらに精製した。このPVAのDMSO-d溶液にトリフルオロ酢酸(TFA)を1~2滴滴下し、得られた試料について以下の条件にて直ちにNMR測定を行った。得られたNMRスペクトルからPVAフィルム中のPVAのエチレン単位含有量、アルコキシル基含有量、1,2-グリコール結合含有量及びけん化度を求めた。
【0090】
(NMR測定条件)
使用装置:日本電子株式会社製超伝導核磁気共鳴装置「Lambda500」
溶媒:DMSO-d(TFA滴下)
濃度:5質量%
温度:80℃
共鳴周波数:1H 500MHz
フリップアングル:45°
パルスディレイタイム:4.0秒
積算回数:6000回
【0091】
[PVAフィルムの延伸限界温度の測定]
以下の実施例又は比較例で得られたPVAフィルムロールの幅方向中央部から幅方向30mm、流れ方向60mmの長方形の試験片を採取した。この試験片を引張試験機にチャック間隔15mmでセットした後、所定の温度に設定した恒温水槽中で延伸して破断時の延伸倍率を測定した。これを3回繰り返し、破断時の延伸倍率の平均値を求めた。この平均値が6.5倍以上であれば、恒温水槽の温度を1℃下げ、6.5倍未満であれば恒温水槽の温度を1℃上げ、破断時の延伸倍率の平均値が6.5倍以上となる限界の温度(平均値が6.5倍以上となる最低温度)を求めた。
【0092】
[偏光フィルム中の異物数の評価]
以下の実施例又は比較例で得られた偏光フィルムロールを巻き出して、長さ方向(延伸方向)30cm、幅方向20cmのサイズにカットした。カットした偏光フィルムの表面に存在する青色異物を目視で観察し、最長径が5~500μmである異物の数(個/600cm)を求めた。これを3回繰り返して、異物数の平均値(個/600cm)を求めた。異物の最長径は微分干渉顕微鏡(倍率:200倍)を用いて測定した。なお、以下の実施例又は比較例においては、乾燥処理後の偏光フィルムを6時間連続的に巻き取っているため、カットした偏光フィルムは、偏光フィルムを製造開始してから約6時間後のサンプルとなる。
【0093】
[偏光フィルムの偏光度の測定]
以下の実施例又は比較例で得られた偏光フィルムロールを巻き出して、長さ方向(延伸方向)30cm、幅方向20cmのサイズにカットした。このカットした偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの長さ方向(延伸方向)1.5cm、幅方向1.5cmの正方形のサンプルを2枚採取し、それらの長さ方向(延伸方向)が平行になるように重ねた場合の光の透過率(Y∥)、および長さ方向(延伸方向)が直交するように重ねた場合の光の透過率(Y⊥)を、上記透過率の測定方法と同様の方法にて測定し、下記の式から偏光度(V)(%)を求めた。
【0094】
偏光度(V)(%)={(Y∥-Y⊥)/(Y∥+Y⊥)}1/2×100
【0095】
<実施例1>
(1)酢酸ビニルの合成
シリカ球体担体「HSV-I」(上海海源化工科技有限公司製)(球体直径5mm、比表面積160m/g、吸水率0.75g/g)23g(吸水量19.7g)に、56質量%テトラクロロパラジウム酸ナトリウム水溶液1.5gおよび17質量%テトラクロロ金酸四水和物水溶液1.5gを含む担体吸水量相当の水溶液を含浸させた後、メタケイ酸ナトリウム9水和物2.5gを含む水溶液40mLに浸漬し、20時間静置した。続いて、52質量%ヒドラジン水和物水溶液3.3mLを添加、室温で4時間静置した後、水中に塩化物イオンが無くなるまで水洗し、110℃で4時間乾燥した。得られたパラジウム/金/担体組成物を1.7質量%酢酸水溶液60mLに浸漬し、16時間静置した。次いで、16時間水洗し、110℃で4時間乾燥した。その後、2gの酢酸カリウムの担体吸水量相当水溶液に含浸し、110℃で4時間乾燥することで酢酸ビニル合成触媒を得た。
【0096】
得られた触媒3mLをガラスビーズ75mLで希釈して、SUS316L製反応管(内径22mm、長さ480mm)に充填し、反応温度150℃、反応圧力0.6MPaGでエチレン/酸素/水/酢酸/窒素=47.3/6.1/5.6/26.3/14.7(mol%)の割合に混合したガスを流量20NL/時で流通させて、反応を行った。ここでエチレンとしては、サトウキビ由来のバイオエチレン(Braskem S.A.製)を用いた。得られた酢酸ビニルを含む反応ガスを精製して、酢酸ビニルを得た。
【0097】
(2)PVAの合成
モノマーとして上記で得られた酢酸ビニル、重合開始剤として2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、溶媒としてメタノールを用いて、公知の方法により重合温度60℃で重合を行った後、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物として2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン(DPMP)を、使用した重合開始剤1モル当たり2モル添加した。重合時間は、目標とする重合度に合わせて調整した。得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液に、ポリ酢酸ビニルの酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.023となるように、水酸化ナトリウムの6質量%メタノール溶液を撹拌下に加えて、30℃でケン化反応を開始させた。ケン化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した。ケン化反応の開始から50分経過した時点でゲル化物を粉砕してメタノールで膨潤したPVA(PVA-1)を得た。このPVA-1をその5倍の質量のメタノールで洗浄し、次いで55℃で1時間、100℃で2時間、熱風乾燥した。
【0098】
(3)PVAフィルム及びPVAフィルムロールの製造
得られたPVA-1 100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部を含有する水溶液(PVA濃度:15質量%)を、PVAフィルムの製膜原液として調整した。この製膜原液をスリットダイから表面温度90℃に調整された直径2mの第1金属ロール上に吐出させて乾燥させ、水分率が12質量%となったフィルムを金属ロールから剥離した。次いで表面温度70℃の直径1mの第2金属ロールに、第1金属ロールが接触していなかったフィルム面を接触させて乾燥させた。さらにフィルムの一面と他面が交互に金属ロールに接するように、当該フィルムを第3~6金属ロール(表面温度80~120℃、直径1m)に順次接触させて乾燥させて巻き取ることにより、幅0.6m、長さ1000m、厚み30μmのPVAフィルムのロール状物(PVAフィルムロール)を得た。
【0099】
(4)偏光フィルムの製造
得られたPVAフィルムロールを巻き出して、膨潤処理、染色処理、架橋処理、延伸処理、洗浄処理、乾燥処理をこの順に施して偏光フィルムを連続的に製造した。膨潤処理は、30℃の処理液(純水)が入った膨潤処理槽中にPVAフィルムを浸漬し、その間に当該フィルムを長さ方向に1.72倍に一軸延伸することにより行った。染色処理は、32℃の処理液(ホウ酸2.8質量%およびヨウ化カリウム5質量%の水溶液)が入った膨潤処理槽中にPVAフィルムを浸漬し、その間に当該フィルムを長さ方向に1.37倍に一軸延伸することにより行った。架橋処理は、32℃の架橋処理液(2.6質量%ホウ酸水溶液)が入った膨潤処理槽中にPVAフィルムを浸漬し、その間に当該フィルムを1.12倍に長さ方向に一軸延伸することにより行った。延伸処理は55℃の延伸処理液(ホウ酸2.8質量%およびヨウ化カリウム5質量%の水溶液)が入った膨潤処理槽中でPVAフィルムを長さ方向に2.31倍に一軸延伸することにより行った。洗浄処理は22℃の洗浄処理液(ホウ酸1.5質量%およびヨウ化カリウム5質量%の水溶液)の入った洗浄処理槽中にPVAフィルムを12秒間浸漬することにより行った。乾燥処理は60℃で1.5分間PVAフィルムを乾燥させることにより行った。ここで、洗浄処理及び乾燥処理の間はPVAフィルムの延伸を行わなかった。このようにして、得られたPVAフィルムロールを巻き出して、偏光フィルムを連続的に製造した。
【0100】
(5)偏光フィルムロールの製造
得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの長さ方向(延伸方向)1.5cm、幅方向1.5cmの正方形のサンプルを2枚採取し、それぞれについて株式会社日立製作所製の分光光度計V-7100(積分球付属)を用いて、JIS Z8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2度視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚の偏光フィルムサンプルについて、延伸軸方向に対して45度傾けた場合の光の透過率と-45度傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値(Y1)を求めた。
【0101】
もう一枚の偏光フィルムサンプルについても、前記と同様にして45度傾けた場合の光の透過率と-45度傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値(Y2)を求めた。前記で求めたY1とY2を平均して偏光フィルムの透過率(Y)(%)とした。
【0102】
この透過度が43.5%になるように、膨潤処理槽中のヨウ素及びヨウ化カリウムの濃度を調整した後、乾燥処理後の偏光フィルムを6時間連続的に巻き取ることにより、偏光フィルムのロール状物(偏光フィルムロール)を得た。
【0103】
このようにして得られたPVAフィルムロール及び偏光フィルムロールについて、上記した方法で測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を表2に示す。なお、PVAの原料及び重合条件を表1に示す。
【0104】
<実施例2>
上記の「(2)PVAの合成」で使用した重合開始剤をアゾビスイソブチロニトリルに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVA(PVA-2)を得た。そして、PVA-2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムロール及び偏光フィルムロールを製造し、測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を表2に示す。なお、PVAの原料及び重合条件を表1に示す。
【0105】
<実施例3>
上記の「(2)PVAの合成」でPVAの重合温度を90℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVA(PVA-3)を得た。そして、PVA-3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムロール及び偏光フィルムロールを製造し、測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を表2に示す。なお、PVAの原料及び重合条件を表1に示す。
【0106】
<比較例1>
上記の「(1)酢酸ビニルの合成」で使用したエチレンを石油由来のエチレン(エア・リキード工業ガス株式会社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVA(PVA-4)を得た。そして、PVA-4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムロール及び偏光フィルムロールを製造し、測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を表2に示す。なお、PVAの原料及び重合条件を表1に示す。
【0107】
<実施例4>
上記の「(3)PVAフィルム及びPVAフィルムロールの製造」で使用したPVAを、
比較例1で得られたPVA-4と実施例1で得られたPVA-1とを質量比1:1で混合したPVAに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムロール及び偏光フィルムロールを製造し、測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を表2に示す。なお、PVAの原料及び重合条件を表1に示す。
【0108】
<実施例5>
上記の「(2)PVAの合成」で使用するモノマーとして、サトウキビ由来のバイオエチレン(Braskem S.A.製)を、酢酸ビニル100質量部に対して5.7質量部追加し、反応容器内の圧力を0.03MPaGに維持して重合反応を行ったこと以外は実施例1と同様にして、PVA(PVA-5)を得た。そして、PVA-5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムロール及び偏光フィルムロールを製造し、測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を表2に示す。なお、PVAの原料及び重合条件を表1に示す。
【0109】
<実施例6>
C3植物であるイネを、アルカリ処理工程、糖化処理工程、エタノール化工程を経て処理することにより、イネ由来のエタノールを得た。このエタノールを、モルデナイトを触媒とした190℃での脱水反応処理を行うことにより、イネ由来のバイオエチレンを製造した。
【0110】
そして、上記の「(1)酢酸ビニルの合成」で使用したエチレンを、このイネ由来のバイオエチレンに変更したこと以外は実施例1と同様にしてPVA(PVA-6)を得た。そして、PVA-6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムロール及び偏光フィルムロールを製造し、測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を表2に示す。なお、PVAの原料及び重合条件を表1に示す。

【0111】
【表1】
【0112】
【表2】