(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069882
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】新規化合物及びアニオンレセプタ
(51)【国際特許分類】
C07C 275/10 20060101AFI20220502BHJP
C07C 275/26 20060101ALI20220502BHJP
C07C 275/34 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C07C275/10
C07C275/26
C07C275/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178810
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】三室 翼
(72)【発明者】
【氏名】吉田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】加茂 和幸
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB80
(57)【要約】 (修正有)
【課題】有機溶剤への溶解性を改善し、アニオンを捕捉可能な新規化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物。
(式中、R
1及びR
2は、夫々独立に、H、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基又はヒドロキシ基を表し、R
3~R
6は、夫々独立に、H又はアルキル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される、化合物。
【化1】
(一般式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基を表し、R
3~R
6は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表す。)
【化2】
(一般式(2)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基を表し、R
3~R
6は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表し、R
7~R
14は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表し、R
7又はR
8とR
9又はR
10とが結合して環状構造を形成してもよく、及び/又はR
11又はR
12とR
13又はR
14とが結合して環状構造を形成してもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)又は前記一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)又は前記一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)又は前記一般式(2)において、R1及びR2は、tert-ブチル基である、請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)又は前記一般式(2)において、R3~R6は水素原子である、請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記一般式(2)で表され、R7又はR8とR9又はR10とが結合して環状構造を形成し、及び/又はR11又はR12とR13又はR14とが結合して環状構造を形成する、請求項1から5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
前記一般式(2)で表され、R7又はR8とR9又はR10とが結合してベンゼン環を形成し、及び/又はR11又はR12とR13又はR14とが結合してベンゼン環を形成する、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記一般式(2)で表され、R7又はR8とR9又はR10とが結合してベンゼン環を形成し、及びR11又はR12とR13又はR14とが結合してベンゼン環を形成する、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
前記一般式(2)で表され、R7~R14は、水素原子である、請求項1から5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
下記化合物のいずれかである、請求項1に記載の化合物。
【化3】
(上記構造式において、Buはn-ブチル基を表し、t-Buはtert-ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の化合物を含む、アニオンレセプタ。
【請求項12】
請求項11に記載のアニオンレセプタと、有機溶剤とを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、新規化合物及びアニオンレセプタに関する。
【背景技術】
【0002】
アニオンは、デバイス、環境、生体等で重要な働きをしており、これらアニオンを認識し、捕捉することが可能なアニオンレセプタは種々の応用展開が考えられるため、広く研究されている。
アニオンレセプタは、溶媒中に含まれる遊離のアニオンを捕捉することが可能であり、溶媒からアニオンを除去する技術に用いることができる。例えば、溶媒に樹脂を溶解させて樹脂塗膜を塗工する技術では、溶媒中に含まれるアニオンが樹脂塗膜に混入することで、樹脂塗膜の強度等の物性が低下することがある。また、樹脂原料から溶媒に溶出するアニオンが樹脂塗膜の形成に悪影響を及ぼすことがある。そのため、予め溶媒にアニオンレセプタを添加することで、アニオンによる樹脂塗膜への作用を低減することができる。また、洗浄液においても、特に高純度な材料が扱われる分野では、材料へのアニオンの作用を低減するために、洗浄液からのアニオンの除去が望まれる。また、電気化学的な作用を伴う電池等の電解質においても、不純物として混入するアニオンは電気特性を低下させることがあるため、予め電解質にアニオンレセプタを添加しておき、アニオンを除去しておくとよい。さらに、工業的な廃液等からアニオンを除去することで、環境への負荷を低減することができる。
【0003】
従来、溶媒からイオンを除去する技術として、イオン交換法、透析・ゲル透過法、電気泳動法等がある。これらの技術では、分離装置に投入して精製した溶媒を用いることになるため、精製後から溶媒を用いる工程までに混入するアニオンや、溶媒に添加される溶質から溶出するアニオンを除去する技術ではない。そのため、アニオンレセプタのように、工程中又は製品中に添加しておくことで、アニオンを捕捉可能な材料の応用が求められている。さらに、アニオンレセプタの分子構造によって、アニオン種を特定して捕捉する技術が開発されてきている。
【0004】
非特許文献1及び2には、2,2’-ビナフチル基の8,8’-位にウレア基を有するアニオンレセプタが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Kondo, H. Sonoda, T. Katsu, and M. Unno, Sens. Actuators B, 160, 684-690 (2011).
【非特許文献2】S. Kondo, M. Nagamine, S. Karasawa, M. Ishihara, M. Unno, and Y. Yano, Tetrahedron, 67, 943-950 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1及び2には、上記構造を備えるアニオンレセプタは、基本骨格である2,2’-ビナフチル基が剛直なナフチル基を単結合で連結した構造であることから、比較的硬い骨格を有し、さらには8,8’-位に導入したウレア基が適切な位置に配置しているため、アニオンを捕捉可能であり、特に塩化物イオンの捕捉に対して選択性を示すことが開示される。
一方で、非特許文献1及び2に開示されるアニオンレセプタは、2,2’-ビナフチル基に起因する剛直な構造であることで、有機溶剤に対する溶解度が低い傾向がある。有機溶剤に混入したアニオンを捕捉するためには、有機溶剤にアニオンレセプタを溶解させて用いることが望ましいが、アニオンレセプタの溶解度と、アニオンを捕捉する会合能とは相反する傾向がある。そのため、溶解度と会合能の要望を満たすアニオンレセプタの開発が期待される。
【0007】
本発明の一目的としては、有機溶剤への溶解性を改善し、アニオンを捕捉可能な新規化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を要旨とする。
[1]下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される、化合物。
【化1】
(一般式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基を表し、R
3~R
6は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表す。)
【化2】
(一般式(2)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基を表し、R
3~R
6は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表し、R
7~R
14は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表し、R
7又はR
8とR
9又はR
10とが結合して環状構造を形成してもよく、及び/又はR
11又はR
12とR
13又はR
14とが結合して環状構造を形成してもよい。)
【0009】
[2]前記一般式(1)又は前記一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基である、[1]に記載の化合物。
[3]前記一般式(1)又は前記一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である、[1]又は[2]に記載の化合物。
[4]前記一般式(1)又は前記一般式(2)において、R1及びR2は、tert-ブチル基である、[1]から[3]のいずれか1つに記載の化合物。
[5]前記一般式(1)又は前記一般式(2)において、R3~R6は水素原子である、[1]から[4]のいずれか1つに記載の化合物。
【0010】
[6]前記一般式(2)で表され、R7又はR8とR9又はR10とが結合して環状構造を形成し、及び/又はR11又はR12とR13又はR14とが結合して環状構造を形成する、[1]から[5]のいずれか1つに記載の化合物。
[7]前記一般式(2)で表され、R7又はR8とR9又はR10とが結合してベンゼン環を形成し、及び/又はR11又はR12とR13又はR14とが結合してベンゼン環を形成する、[6]に記載の化合物。
[8]前記一般式(2)で表され、R7又はR8とR9又はR10とが結合してベンゼン環を形成し、及びR11又はR12とR13又はR14とが結合してベンゼン環を形成する、[6]に記載の化合物。
[9]前記一般式(2)で表され、R7~R14は、水素原子である、[1]から[5]のいずれか1つに記載の化合物。
【0011】
[10]下記化合物のいずれかである、[1]に記載の化合物。
【化3】
(上記構造式において、Buはn-ブチル基を表し、t-Buはtert-ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。)
[11][1]から[10]のいずれか1つに記載の化合物を含む、アニオンレセプタ。
[12][11]に記載のアニオンレセプタと、有機溶剤とを含む、組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、有機溶剤への溶解性を改善し、アニオンを捕捉可能な新規化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、以下の例示によって本発明は限定されない。
【0014】
「新規化合物」
一実施形態による新規化合物は、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物である。
【化4】
【0015】
一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基を表し、R3~R6は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表す。
【0016】
【0017】
一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基を表し、R3~R6は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表し、R7~R14は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表し、R7又はR8とR9又はR10とが結合して環状構造を形成してもよく、及び/又はR11又はR12とR13又はR14とが結合して環状構造を形成してもよい。
【0018】
この新規化合物は、有機溶剤への溶解性を改善し、アニオンを捕捉可能であり、アニオンレセプタとして好適に用いることができる。特に、この新規化合物は、有機溶剤中に遊離する塩化物イオンを選択的に捕捉することができる。
【0019】
2,2’-ビナフチル基の8,8’-位にウレア基を有するアニオンレセプタは、2,2’-ビナフチル基に起因して剛直な構造を有することと、両末端にウレア基を有することによって、アニオンを捕捉する会合能に優れる。この化合物を下記一般式(3)に示す。この分子構造について、本発明者らの研究では、両末端のウレア基に導入される置換基が有機溶剤への溶解度に影響を及ぼすことがわかってきている。例えば、置換基がn-ブチル基よりも置換基がtert-ブチル基である場合に、有機溶剤に対する溶解度が高まることがわかってきている。しかし、有機溶剤に対する溶解度は依然として改善の余地があり、例えば有機デバイス等のように特定の有機溶剤が好ましく用いられる分野では、各種の有機溶剤に対して溶解度をより高めることが期待されている。
【0020】
【化6】
(一般式(3)において、Rは、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である。)
【0021】
一般式(1)によって表される化合物は、5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ビナフタレン骨格を有しており、環末端をシクロヘキセン環とすることによって、固体において分子間でのπ-π相互作用によるスタッキングを阻害し、溶解度の向上を図ることができると考えられる。一般式(1)によって表される化合物は、ベンゼン環とシクロヘキサン環との縮合環構造から、剛直な構造を残すため、アニオンの会合能をより高めることができる。
なお、8,8’-置換5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ビナフタレン骨格の8,8’-位はキラル中心であるため、一般式(1)で表される化合物は、2種のジアステレオマー混合物として合成される。この2種のジアステレオマーは、上記構造上の特徴から、いずれもアニオン、特に塩化物イオンと会合すると予測することができる。
【0022】
一般式(2)によって表される化合物は、ビナフタレン骨格を脂肪族鎖又は芳香族鎖とエーテル鎖とで置換した構造をしており、フレキシブルな構造ゆえに、高い溶解度を示すと考えられる。一方で、フレキシブルな構造に起因して、アニオンの会合能は低下する傾向がある。有機溶剤への高い溶解度を考慮すると、有機溶剤へ高濃度にこれらの化合物を添加することで、有機溶剤からアニオンを効率よく捕捉することが可能である。また、一般式(2)で表される化合物は、両末端のウレア基の位置が一般式(1)によって表される化合物とほぼ同じであるため、アニオン、特に塩化物イオンを選択的に捕捉することができる。
具体的には、一般式(2)によって表される化合物が、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタンをカップリングして合成される場合、構造がフレキシブルになって溶解度は向上するが、アニオンの会合能が若干低下する傾向がある。
また、一般式(2)によって表される化合物が、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタンをカップリングして合成される場合、構造がさらにフレキシブルになって溶解度は格段に向上するが、アニオンの会合能が低下する傾向がある。
上記した観点から、種々の用途に応じて、アニオンレセプタを選択して用いることができる。
【0023】
一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基を表し、R1及びR2は、互いに同一でも異なってもよい。
【0024】
R1及びR2として導入されるアルキル基は、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であってよく、鎖状又は脂環式であってもよい。このアルキル基は、炭素数が1~20が好ましく、炭素数が1~8がより好ましく、炭素数が1~4がさらに好ましい。このアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等、又はこれらの少なくとも1つの水素原子がアルキル基によって置換された基等の脂環式アルキル基等が挙げられる。これらの中でも鎖状アルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、さらに好ましくはn-ブチル基、又はtert-ブチル基である。
【0025】
R1及びR2として導入されるアリール基は、炭素数が6~24が好ましく、炭素数が6~12がより好ましく、炭素数が6~8がさらに好ましい。このアリール基は、単環、多環、又は縮合環であってよく、1~4個の芳香環を有する基、又は2~4個の芳香環の縮合環を有する基であってよく、好ましくは1個のベンゼン環を有する基である。このアリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、テトラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基等が挙げられる。これらの中でもフェニル基が好ましい。これらのアリール基は、少なくとも1つの水素原子がアルキル基によって置換されていてもよく、例えば、炭素数1~4のアルキル基によって置換されたフェニル基等が挙げられ、具体的には、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基等が挙げられる。
【0026】
R1及びR2として導入されるヘテロアリール基は、炭素原子とヘテロ原子とを環上に有する基であり、ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ホウ素原子、リン原子等が挙げられる。このヘテロアリール基は、炭素原子とヘテロ原子の合計原子数が5~24が好ましく、6~12がより好ましく、6~8がさらに好ましい。このヘテロアリール基は、例えば、ピリジン、ピラジン等の6員複素芳香環を有する基、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン等の縮合複素芳香環を有する基、フラン、ピロール、チオフェン等の5員複素芳香環を有する基等が挙げられる。
【0027】
R1及びR2として導入されるアルコキシ基は、アルキル基部分が直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であってよく、鎖状又は脂環式であってもよい。このアルコキシ基は、炭素数が1~20が好ましく、炭素数が1~8がより好ましく、炭素数が1~4がさらに好ましい。このアルコキシ基は、例えば、-O-R’として表され、R’はアルキル基を表し、具体的には上記したアルキル基で説明した通りである。より好ましくは、炭素数が1~4のアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基等が挙げられる。
【0028】
好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素数が1~20のアルキル基、炭素数が6~24のアリール基、炭素数が5~24のヘテロアリール基、炭素数が1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシ基である。
より好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素数が1~8のアルキル基、炭素数が6~12のアリール基、炭素数が6~12のヘテロアリール基、炭素数が1~8のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であり、なかでも、炭素数が1~8のアルキル基、又は炭素数が6~12のヘテロアリール基である。
好ましい一形態では、R1及びR2は、それぞれ独立的に、炭素数が1~4のアルキル基又は炭素数が6~8のアリール基であり、より好ましくは、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である。より好ましい一形態では、R1及びR2のうち少なくとも一方がtert-ブチル基であり、より好ましくはR1及びR2の両方がtert-ブチル基である。
【0029】
一般式(1)において、R3~R6は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表し、R3~R6は、互いに同一でも、一部又は全部が異なってもよい。
【0030】
R3~R6として導入されるアルキル基は、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であってよく、鎖状又は脂環式であってもよい。このアルキル基は、炭素数が1~20が好ましく、炭素数が1~8がより好ましく、炭素数が1~4がさらに好ましい。このアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等、又はこれらの少なくとも1つの水素原子がアルキル基によって置換された基等の脂環式アルキル基等が挙げられる。これらの中でも鎖状アルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、さらに好ましくはメチル基、又はエチル基である。
好ましくは、R3~R6は、それぞれ独立的に、水素原子、又は炭素数が1~20のアルキル基であり、より好ましくは、水素原子、又は炭素数が1~8のアルキル基であり、さらに好ましくは、水素原子、メチル基、又はエチル基であり、一層好ましくは水素原子である。
R3~R6は、一部又は全部が異なってもよいが、R3~R6のうち少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、全てのR3~R6が水素原子であることがさらに好ましい。
【0031】
一般式(1)で表される化合物において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基であることが好ましく、R1及びR2が、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である場合に、R3~R6のうち少なくとも1つは水素原子であることが好ましく、全てのR3~R6が水素原子であることがより好ましい。
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、R3~R6が水素原子である化合物であって、下記一般式(1-1)に示す。一般式(1-1)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に一般式(1)で説明した通りである。
【0032】
【0033】
一般式(1)で表される化合物の他の具体例としては、R1及びR2がtert-ブチル基であり、R3~R6が水素原子である化合物であって、下記一般式(1-2)に示す。下記一般式(1-2)において、t-Buは、tert-ブチル基を表し、R3~R6は、それぞれ独立的に一般式(1)で説明した通りである。
【0034】
【0035】
一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基を表す。詳細については、上記した一般式(1)で説明した通りである。
一般式(2)において、R3~R6は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表す。詳細については、上記した一般式(1)で説明した通りである。
【0036】
一般式(2)において、R7~R14は、それぞれ独立的に、水素原子、又はアルキル基を表し、R7又はR8とR9又はR10とが結合して環状構造を形成してもよく、及び/又はR11又はR12とR13又はR14とが結合して環状構造を形成してもよい。R7~R14は、互いに同一でも、一部又は全部が異なってもよい。
R7~R14として導入されるアルキル基は、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であってよく、鎖状又は脂環式であってもよい。このアルキル基は、炭素数が1~20が好ましく、炭素数が1~8がより好ましく、炭素数が1~4がさらに好ましい。このアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等、又はこれらの少なくとも1つの水素原子がアルキル基によって置換された基等の脂環式アルキル基等が挙げられる。これらの中でも鎖状アルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、さらに好ましくはメチル基、又はエチル基である。
【0037】
新規化合物の一例では、R7~R14は、一部又は全部が異なってもよいが、全てのR7~R14が水素原子、及び炭素数が1~8のアルキル基からなる群から選択されることが好ましく、全てのR7~R14が水素原子、メチル基、及びエチル基からなる群から選択されることがより好ましく、全てのR7~R14が水素原子であることがさらに好ましい。
好ましくは、下記一般式(2-1)で表される化合物である。下記一般式(2-1)において、R1~R6は上記一般式(2)において説明した通りである。
【0038】
【0039】
R7又はR8とR9又はR10とが結合して環状構造を形成してもよい。この環状構造としては、例えば、炭素数が6~24が好ましく、炭素数が6~12がより好ましく、炭素数が6~8がさらに好ましい。この環状構造は、単環、多環、又は縮合環であってよく、芳香族又は脂環式であってよく、1~4個の単環又は多環、又は2~4個の縮合環であってよく、好ましくは芳香環であって、より好ましくは1個のベンゼン環である。R7~R10のうち環状構造を形成しない基は、水素原子又はアルキル基であることが好ましい。
【0040】
同様に、R11又はR12とR13又はR14とが結合して環状構造を形成してもよい。この環状構造としては、例えば、炭素数が6~24が好ましく、炭素数が6~12がより好ましく、炭素数が6~8がさらに好ましい。この環状構造は、単環、多環、又は縮合環であってよく、芳香族又は脂環式であってよく、1~4個の単環又は多環、又は2~4個の縮合環であってよく、好ましくは芳香環であって、より好ましくは1個のベンゼン環である。R11~R14のうち環状構造を形成しない基は、水素原子又はアルキル基であることが好ましい。
【0041】
環状構造としては、例えば、ウレア基とエーテル結合との間のエチレン基と結合してアリーレン基を形成し得る構造が挙げられ、このようなアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基等のアリーレン基、これらのアリーレン基のうち少なくとも1つの水素原子がアルキル基、アリール基によって置換された基等が挙げられる。
【0042】
新規化合物の他の例では、R7~R14は、一部又は全部が異なってもよいが、R7又はR8とR9又はR10とが結合して環状構造を形成し、R11~R14が水素原子又はアルキル基であってもよく、R11又はR12とR13又はR14とが結合して環状構造を形成し、R7~R10が水素原子又はアルキル基であってよく、R7又はR8とR9又はR10とが結合して環状構造を形成し、かつR11又はR12とR13又はR14とが結合して環状構造を形成してもよい。なかでも、R7又はR8とR9又はR10とが結合して環状構造を形成し、かつR11又はR12とR13又はR14とが結合して環状構造を形成する構造が好ましく、この場合、R7又はR8とR9又はR10とが結合して形成される環状構造と、R11又はR12とR13又はR14とが結合して形成される環状構造とは互いに同一であっても異なってもよいが、同一であることが好ましい。ここで形成される環状構造は1個のベンゼン環であることが好ましい。
好ましくは、下記一般式(2-2)で表される化合物である。下記一般式(2-2)において、R1~R6は上記一般式(2)において説明した通りである。
【0043】
【0044】
一般式(2)で表される化合物において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基であることが好ましく、R1及びR2が、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である場合に、R3~R6のうち少なくとも1つは水素原子であることが好ましく、全てのR3~R6が水素原子であることがより好ましい。
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、R3~R6が水素原子である化合物であって、下記一般式(2-3)に示す。一般式(2-3)において、R1及びR2並びにR7~R14は、それぞれ独立的に一般式(2)で説明した通りである。
【0045】
【0046】
一般式(2)で表される化合物の他の具体例としては、R1及びR2がtert-ブチル基であり、R3~R6が水素原子である化合物であって、下記一般式(2-4)に示す。下記一般式(2-4)において、t-Buは、tert-ブチル基を表し、R3~R6並びにR7~R14は、それぞれ独立的に一般式(2)で説明した通りである。
【0047】
【0048】
具体的な新規化合物を以下に挙げる。下記構造式において、Buはn-ブチル基を表し、t-Buはtert-ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0049】
【0050】
上記した新規化合物の中でも、化合物1a、化合物1b、化合物1cが好ましく、化合物1a、化合物1bがより好ましく、化合物1bがさらに好ましい。なお、上記した新規化合物は、単体でも混合物として提供されてもよい。
【0051】
「化合物の合成方法」
以下、一般式(1)で表される化合物又は一般式(2)で表される新規化合物の合成方法を説明する。なお、本開示の新規化合物は、以下の合成方法によって合成された化合物に限定されない。
【0052】
一般式(1)で表される化合物を合成する方法は、5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ―8,8’-ジアミノ-2,2-ビナフタレンの両末端のアミノ基に、イソシアン酸誘導体を導入することを含むことができる。
一般式(2)で表される化合物を合成する方法は、下記一般式(4)で表される化合物に、イソシアン酸誘導体を導入することを含むことができる。一般式(4)において、R7~R14は、上記した一般式(2)で説明した通りである。
【0053】
【0054】
一般式(2)で表される化合物を合成する方法の具体例としては、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン、又は1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタンの両末端のアミノ基に、イソシアン酸誘導体を導入することを含むことができる。
なお、いずれの化合物においても、両末端のアミノ基のうち1個の水素原子は置換されていてもよい。置換基は、一般式(1)又は(2)においてR3又はR4として導入される基であり、詳細については上記した通りである。
【0055】
イソシアン酸誘導体としては、R’’NCOで表される化合物である。R’’は一般式(1)又は一般式(2)においてR1又はR2として導入される基であり、詳細については上記した通りである。具体的には、イソシアン酸誘導体としては、イソシアン酸アルキルエステル、イソシアン酸アリールエステル等が挙げられる。イソシアン酸アルキルエステルとしては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、n-ブチルイソシアネート、sec-ブチルイソシアネート、tert-ブチルイソシアネート、イソブチルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート等が挙げられる。イソシアン酸アリールエステルとしては、例えば、フェニルイソシアネートなどが挙げられる。
【0056】
この反応は、各種の溶媒中で行うことができ、使用可能な溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒、水等が挙げられる。
反応後は、必要に応じて反応混合物から溶媒等を除去し、ろ過及び乾燥をすることで生成物を得ることができる。また、より精製するためにクロマトグラフィーを用いて生成物を単離してもよい。
【0057】
一般式(1)で表される化合物は、5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ―8,8’-ジアミノ-2,2-ビナフタレンの両末端のアミノ基にイソシアン酸誘導体を導入することで得ることができる。以下、5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ―8,8’-ジアミノ-2,2-ビナフタレンの合成方法の一例について説明する。
この合成方法は、出発原料にハロゲン化ベンゼンを用いて7-ハロゲン-1-テトラロンを合成すること、7-ハロゲン-1-テトラロンをカップリングしてビステトラロンを合成すること、ビステトラロンのケトン基をアミノ化することを含むことができる。
ハロゲン化ベンゼンには、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等を好ましく用いることができる。この出発原料から、7-クロロ-1-テトラロン、7-ブロモ-1-テトラロン等を得ることができる。この合成反応は、M. S. Newman and S. Seshadri, J. Org. Chem., 1962, 27, 76., C. A. Kerr, I. D. Rae, Aust. J. Chem., 1978, 31, 341.等に記載の3段階の合成方法を参考にして行うことができる。また、7-クロロ-1-テトラロン、又は7-ブロモ-1-テトラロンは、常法に従って合成可能であり、市販品を用いてもよい。
7-ハロゲン-1-テトラロンをカップリングすることで、2つのαテトラロンが7位で結合したビステトラロンを合成することができる。この反応は、各種の溶媒中で行うことができ、DMAc(ジメチルアセトアミド)等の極性溶媒中で行うことが好ましい。この合成においては、NiCl2等のニッケル触媒、PPh3(トリフェニルホスフィン)、ビピリジン、亜鉛等の金属等の反応添加剤等を用いてもよい。
【0058】
ビステトラロンのケトン基をアミノ化する方法は、収率の観点から、還元的アミノ化法を用いることが好ましい。具体的には、イリジウム触媒を用いて、ビステトラロンとギ酸アンモニウムとを反応させることで、ケトン基をアミノ化することができる。イリジウム触媒としては、例えば、Chloro[N-[4-(dimethylamino)phenyl]-2-pyridinecarboxamidato](pentamethylcyclopentadienyl)iridium(III)(関東化学株式会社製の「Ir-PA1(商品名)」)を用いることができる。この反応は、各種の溶媒中で行うことができ、エタノール等の溶媒中で行うことが好ましい。この合成においては、酢酸等の反応添加剤を用いてもよい。
【0059】
一般式(2)で表される化合物は、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン、又は1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタンの両末端のアミノ基に、イソシアン酸誘導体を導入することで得ることができる。
1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタンの合成方法の一例について説明する。この合成方法は、出発原料に2-ニトロフェノールを用いて、1,2-ビス(2-ニトロフェノキシ)エタンを合成すること、1,2-ビス(2-ニトロフェノキシ)エタンの両末端のニトロ基をアミノ化することを含むことができる。
具体的には、1,2-ビス(2-ニトロフェノキシ)エタンは、2-ニトロフェノールと1,2-ジハロゲンエチルとを反応させて得ることができる。反応は、ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒中で行うことが好ましく、K2CO3等の触媒を用いてもよい。また、1,2-ビス(2-ニトロフェノキシ)エタンは、常法に従って合成可能であり、市販品を用いてもよい。
1,2-ビス(2-ニトロフェノキシ)エタンの両末端のニトロ基をアミノ化する方法は、常法に従って行えばよいが、接触還元法を用いることが好ましい。具体的には、1,2-ビス(2-ニトロフェノキシ)エタンを、水素ガス等の還元性雰囲気下でパラジウム/炭素(Pd/C)等の触媒を用いて還元処理することで、ニトロ基をアミノ基に還元することが可能である。
【0060】
1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタンは、常法に従って合成可能であり、例えば、市販品を用いてもよい。
【0061】
「アニオンレセプタ」
一実施形態によるアニオンレセプタは、一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を含むことを特徴とする。一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の詳細については上記した通りである。
アニオンは、デバイス、環境、生体等で重要な働きをしており、これらアニオンを認識し捕捉するために、一実施形態によるアニオンレセプタを好ましく用いることができる。アニオンとしては、単原子イオン又は多原子イオンであってよく、1価~4価のイオンであってよい。なかでも、一実施形態によるアニオンレセプタは、1価の単原子イオン又は多原子イオンを捕捉する選択性に優れる。アニオンの具体例としては、水素化物イオン(H-)、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、リン酸二水素イオン、酢酸イオン、水酸化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン等が挙げられる。これらの中でも、一実施形態によるアニオンレセプタは、ハロゲン化物イオン、なかでも塩化物イオンを捕捉する選択性に優れる。
【0062】
アニオンレセプタは、一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を1種単独で含んでもよく、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
アニオンレセプタは、上記した化合物1a、化合物1b、化合物1c、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましく、化合物1a、化合物1b、又はこれらの組み合わせを含むことがより好ましく、化合物1bを含むことがさらに好ましい。これらの化合物は、有機溶剤への溶解性が優れ、アニオン、なかでも塩化物イオンを捕捉する選択性に優れる。
【0063】
「組成物」
一実施形態による組成物は、有機溶剤とアニオンレセプタとを含む組成物であって、アニオンレセプタが上記した一般式(1)又は一般式(2)によって表される化合物を含む。これによって、有機溶剤中に遊離するアニオンがアニオンレセプタによって捕捉され、アニオン量が低減した組成物を提供することができる。この組成物は、アニオン等の不純物の混入が忌避となる電子材料又は電気材料に適用することができ、例えば、有機デバイス材料、半導体材料、電池材料等に応用可能である。また、工業廃水の処理等の環境用途、生体用途等への応用も可能である。
【0064】
組成物に含まれる有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒、クロロホルム、アセトニトリル等が挙げられる。これらの有機溶剤は、組成物中に単独で、又は2種以上が組み合わされて配合されてもよい。
組成物には、各種用途に適した添加剤がさらに含まれてもよい。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0066】
下記レセプタ1~4を合成した。
【0067】
【0068】
(レセプタ1の合成方法)
上記(1)で表されるレセプタ1は、非特許文献1に記載の方法によって合成した。上記(1)において、Rがブチル基であるレセプタ1a、Rがtert-ブチル基であるレセプタ1b、及びRがフェニル基であるレセプタ1cを合成することができた。
【0069】
(レセプタ2の合成方法)
レセプタ2の合成経路を下記反応式(I)に示す。
【0070】
【0071】
クロロベンゼンから3段階にて7-クロロテトラロンを合成した。詳しくは、C. A. Kerr, I. D. Rae, Aust. J. Chem., 1978, 31, 341.に記載の方法にしたがって合成した。
【0072】
反応式(I)において反応(a)は、以下の手順にしたがった。
塩化ニッケル(II)(18mg)、亜鉛末(269mg)、トリフェニルホスフィン(192mg)、2,2’-ビピリジン(21mg)を含むN,N-ジメチルアセトアミド(1.2mL)溶液をアルゴン雰囲気下、65℃で30分撹拌した。その混合物に7-クロロ-1-テトラロン(500mg)のN,N-ジメチルアセトアミド(2.9mL)溶液を加え、アルゴン雰囲気下、65℃で12時間撹拌した。酢酸エチルを加え、濾過した後、濾液を水、食塩水の順に洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣を酢酸エチル/ヘキサン混合溶液から再結晶することで、ジケトンを淡黄色固体として得た。収量182mg,45%。
M.p. 188-189 °C. 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.29 (d, 2H, J = 2.3 Hz), 7.76 (dd, 2H, J1= 8.0 Hz, J2= 2.3 Hz), 7.35 (d, 2H, J= 8.0 Hz), 3.02 (t, 4H, J= 6.0 Hz), 2.70 (t, 4H, J= 6.6 Hz), 2.18 (tt, 4H, J1= 6.6 Hz, J2= 6.0 Hz).
【0073】
反応式(I)において反応(b)は、以下の手順にしたがった。
上記得られたジケトン200mgとIr-PA1(イリジウム触媒、関東化学株式会社より入手した。)2mg(0.005eq.)、ギ酸アンモニウム435mg(10eq.)、ギ酸110μL(4eq.)を100mL二口ナスフラスコに入れ、メタノール7mLを注ぎ、アルゴン雰囲気下で14時間還流した。溶液を減圧下エバポレートした後、ジクロロメタン15mLを加えて溶解し、水酸化ナトリウム水溶液(6.7M)15mLで3回洗浄した。得られた有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、乾燥した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:トリエチルアミン=88:10:2)で分離し、ジアミンを褐色のシロップとして得た。収量154mg,収率77%。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.64 (s, 2H), 7.39 (dd, 2H, J1 = 8.0, J2 = 2.0 Hz), 7.14 (d, 2H, J = 8.0 Hz), 4.04 (t, 2H, J = 5.5 Hz), 2.80 (m, 4H), 2.03 (m, 4H), 1.77 (m, 4H), 1.66 (s, 4H).
【0074】
反応式(I)において反応(c)は、以下の手順にしたがって、上記得られたジアミンを用いて各種末端のレセプタ2a,2b,2cを合成した。
ジアミン150mgとイソシアン酸n-ブチル(130μL,2.2eq.)のエタノール(6mL)溶液をアルゴン雰囲気下で1.5時間還流した。溶液を減圧下でエバポレートした後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(10%メタノール-クロロホルム)で分離し、上記(2a)で表されるレセプタ2aを無色の固体(150mg,60%)で得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.41 (d, 2H, J = 2.0 Hz), 7.31 (dd, 2H, J = 8.0, 1.5 Hz), 7.14 (d, 2H, J = 8.0 Hz), 6.18 (d, 2H, J = 8.5 Hz), 5.70 (t, 2H, J = 6.0 Hz), 4.80 (q, 2H, J = 7.5 Hz), 3.06-2.99 (m, 4H), 2.79-2.66 (m, 4H), 1.87-1.66 (m, 8H), 1.39-1.24 (m, 8H), 0.87 (t, 6H, J = 7.3 Hz ).
【0075】
ジアミン177mgとイソシアン酸tert-ブチル(160μL,2.2eq.)のエタノール(4mL)溶液をアルゴン雰囲気下で3時間還流した。溶液を減圧下でエバポレートし、上記(2b)で表されるレセプタ2bを無色の固体(181mg,61%)で得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.44 (s, 2H), 7.36-7.33 (m, 2H), 7.13 (d, 2H, J = 8.0 Hz), 5.99 (d, 2H, J = 9.0 Hz), 5.58 (d, 2H, J = 8.5 Hz), 4.76 (s, 2H), 2.78-2.67 (m, 4H), 1.95-1.56 (m, 8H), 1.25 (s, 18H).
【0076】
ジアミン47mgとイソシアン酸フェニル(40μL,2.2eq.)のエタノール(3mL)溶液をアルゴン雰囲気下で1時間還流した。生成した白色の沈殿を吸引ろ過し、減圧下で乾燥させ、上記(2c)で表されるレセプタ2cを薄桃色の固体(20mg,24%)で得た。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.25 (s, 2H), 7.46 (s, 2H), 7.35-7.32 (m, 6H), 7.19-7.14 (m, 6H), 6.67-6.83 (m, 2H), 6.51 (d, 2H, J = 8.1 Hz), 4.87-4.84 (s, 2H), 2.78-2.65 (m, 4H), 1.91-1.87 (m, 4H), 1.80-1.73 (m, 4H).
【0077】
(レセプタ3の合成方法)
レセプタ3の合成経路を下記反応式(II)に示す。
【0078】
【0079】
2-ニトロフェノールを出発原料に既知の方法(M. Zuhlke, S. Sass, D. Riebe, T. Beitz, H. G. Lohmannsroben, ChemPlusChem2017, 82, 1266; A. Contractor, E. W. Miller, Biochemistry, 2018 57, 237)で1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタンを合成した。続けて、1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン(148mg)とイソシアン酸n-ブチル(132mg)のエタノール(5mL)溶液をアルゴン雰囲気下で一晩還流した。室温まで冷却した後、吸引濾過によって無色の固体である、上記(3a)で表されるレセプタ3a(216mg,81%)を得た。M.p.197~200℃。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.87 (dd, 2H, J1 = 7.2 Hz, J2 = 2.0 Hz), 7.0-6.98 (m, 4H), 6.94-9.62 (m, 2H), 6.91 (s, 2H), 5.51 (s, 2H), 4.31(s, 4H), 3.20 (q, 4H, J = 7.4 Hz), 1.47 (quint, 4H, J = 7.4 Hz), 1.32 (sext, 4H, J = 7.4 Hz), 0.89 (t, 6H, J = 7.4 Hz). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 156.3, 148.5, 129.6, 123.5, 122.4, 121.9, 113.6, 68.2, 40.1, 32.1, 20.0, 13.8.
【0080】
1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン(321mg)とイソシアン酸tert-ブチル(290mg)のエタノール(7mL)溶液をアルゴン雰囲気下で一晩還流した。室温まで冷却した後、減圧下でエバポレートした。得られた残渣をクロロホルム/メタノールより再結晶することで、無色の固体である、上記(3b)で表されるレセプタ3b(443mg,76%)を得た。M.p.189~192℃。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.88 (dd, 2H, J1 = 7.2 Hz, J2 = 2.6 Hz), 6.99-6.90 (m, 6H), 6.86 (s, 2H), 5.31 (s, 2H), 4.30 (s, 4H), 1.34 (s, 18H). 3C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 155.1, 148.1, 130.1, 122.9, 122.5, 121.4, 113.9, 68.5, 50.6, 29.2.
【0081】
(レセプタ4の合成方法)
レセプタ4の合成経路を下記反応式(III)に示す。
【0082】
【0083】
1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(東京化成工業株式会社より入手した。)500mgとイソシアン酸n-ブチル(735mg)のテトラヒドロフラン(5mL)溶液をアルゴン雰囲気下で14時間還流した。溶液を減圧下エバポレートした後、残渣を酢酸エチルより再結晶することで、上記(4a)で表されるレセプタ4aを無色固体(1.11g,95%)として得た。M.p.127.5~128.5℃。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.31 (s, 2H), 5.17 (s, 2H), 3.62 (s. 4H), 3.58 (t, 4H, J = 5.2 Hz), 3.35 (q, 4H, J = 5.2 Hz), 3.17 (q, 4H, J = 6.9 Hz), 1.47 (quint, 4H, J = 7.4 Hz), 1.35 (sext, 4H, J = 7.4 Hz), 0.92 (t, 6H, J = 7.2 Hz). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 159.0, 70.7, 70.3, 40.5, 40.1, 32.4, 20.1, 13.8.
【0084】
1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(東京化成工業株式会社より入手した。)500mgとイソシアン酸tert-ブチル(735mg)のテトラヒドロフラン(6mL)溶液をアルゴン雰囲気下で18時間還流した。溶液を冷却して生じた無色固体を吸引濾過することで、上記(4b)で表されるレセプタ4b(804mg,69%)を得た。M.p.151~156℃。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.46 (s, 2H), 5.15 (s, 2H), 3.75 (s, 4H), 3.56 (t, 4H, J = 4.6 Hz), 3.31 (q, 4H, J = 4.6 Hz), 1.33 (s, 18H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 158.2, 70.8, 70.2, 50.1, 40.0, 29.5.
【0085】
(溶解度の評価方法)
各レセプタについて、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、クロロホルム(CHCl3)、アセトニトリル(MeCN)に対する溶解度を評価した。結果を表1に示す。
レセプタ1b、2、3の溶解度については、UV-visスペクトルを用いて定量した。いずれのレセプタについても高い溶解度を示すDMSO(ジメチルスルホキシド)でストック溶液を調製し、これをMeCNを入れた中にマイクロシリンジを用いて添加することによって、薄いMeCN溶液を調製した。このUV-visスペクトルを測定し、そこから各波長におけるモル吸光係数を決定した。他の溶媒についてはそれぞれのレセプタの飽和溶液を遠心分離と濾過により調製し、それら飽和溶液から一定量をMeCNを入れたUVセル中に添加し、UV-visスペクトルを測定し、これと先のモル吸光係数から、それぞれの飽和溶液の濃度を計算した。
レセプタ4の溶解度は1H NMRを用いて定量した。それぞれの溶媒に過剰のレセプタ4を加えて、加熱冷却を繰り返し、十分に溶解させた後、遠心分離をおこなった。マイクロシリンジを用いて一定量をNMRチューブに量り取り、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で溶媒を留去した。真空ポンプで減圧して乾燥した後、秤量したナフタレンを含む重クロロホルム溶液を一定量NMRチューブに加え、NMRを測定した。積分値の比をもとにして、飽和濃度を算出した。
【0086】
結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
これより、レセプタ1bは、溶解性が低いことがわかる。
レセプタ2a,2b,2cは、溶解性が高まることがわかる。レセプタ2bは、末端のtert-ブチル基に起因して、より溶解性が高いことがわかる。
レセプタ3a、3bもまた、溶解性が改善された。レセプタ3bは、末端のtert-ブチル基に起因して、より溶解性が高いことがわかる。
レセプタ4a、レセプタ4bもまた、溶解性が改善された。レセプタ4bは、末端のtert-ブチル基に起因して、より溶解性が高いことがわかる。
【0089】
(会合定数の評価方法)
各レセプタについて、会合定数を評価した。結果を表2に示す。
レセプタ1b、2c、3のアニオンとの会合能については、アセトニトリル(MeCN)中でUV-visスペクトル滴定を用いて評価した。また、レセプタ4の会合能については1H NMRにより評価した。レセプタ2cについては、共役したフェニル基に由来するスペクトル変化が観測され、多波長での1:1会合における理論曲線と非線形カーブフィッティングによって会合定数を評価することができた。
レセプタ2cは、酢酸アニオン(AcO-)及び塩化物イオン(Cl-)に対して会合能を有することを確認できた。レセプタ2cは、ベンゼン環とシクロヘキサン環との縮合環構造から、剛直な構造を残すため、アニオンの会合能が高まると考えられる。この傾向は、未測定であるが同じ構造を有するレセプタ2a、2bも同様であると考えられる。レセプタ2cは、レセプタ1bと比べると、酢酸アニオンに対する会合能は若干小さかったものの、同じオーダーであった。一方で塩化物イオンに対する会合能は2桁程度小さく、フレキシブルな構造に由来して、会合能の低下が見られた。
レセプタ3については、いずれも酢酸イオン及び塩化物イオンに対して会合能を有することを確認できたが、レセプタ1bと比べ酢酸イオンに対しては1桁程度、塩化物イオンに対しては2桁程度低かった。これはフレキシブルな構造のためであると考えられる。レセプタ4については、いずれも酢酸イオン及び塩化物イオンに対して会合能を有することを確認できたが、他のレセプタに比べて会合能は低かった。これはレセプタ4がフレキシブルな構造のためと考えられる。
レセプタ2c、3a、3c、4a、4bは、レセプタ1bに比べると会合能が低い傾向があるが、上記した通り各種溶媒に対して溶解性が高いことから、試料中のレセプタの濃度を高めることで、アニオンをより効率よく捕捉することができる。
【0090】