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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070005
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】電解質膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20220502BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220502BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220502BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20220502BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20220502BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20220502BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0568
H01B13/00 501Z
H01G11/84
H01G11/56
H01G11/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179003
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】日下 靖之
(72)【発明者】
【氏名】福田 伸子
【テーマコード(参考)】
5E078
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA14
5E078AB02
5E078DA06
5E078DA11
5E078DA13
5E078DA18
5E078DA19
5E078LA08
5G301CA01
5G301CA16
5G301CD01
5H029AJ14
5H029AM01
5H029AM02
5H029AM06
5H029AM07
5H029AM09
5H029HJ03
5H029HJ07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安価な印刷法を用いて精密なパターンを得られ、簡単な封止構造でも長期間安定的に動作可能なイオン液体からなる電解質膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】印刷法を用いて形成され得る電解質膜は、イオン伝導性を有する液体電解質2を絶縁性粒子3の間に毛管力によって保持させて基板上に形状固定させてなる。かかる電解質膜は、ブランケット11に与えたインクを基板に転写してパターニングされて該基板上に形成される。ここで、インクは、イオン伝導性を有する液体電解質2を分散溶媒4に絶縁性粒子3とともに混合して含む混合溶媒6である。このインクをブランケットにパターニングして与えて分散溶媒をブランケットに選択的に吸収させてから基板に転写し電解質膜を得る。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷法を用いて形成され得る電解質膜であって、
イオン伝導性を有する液体電解質を絶縁性粒子の間に毛管力によって保持させて基板上に形状固定させてなることを特徴とする電解質膜。
【請求項2】
前記液体電解質はイオン液体であることを特徴とする請求項1記載の電解質膜。
【請求項3】
前記液体電解質は、塩化リチウム、硝酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、六フッ化リン酸リチウムのリチウム塩溶解液であることを特徴とする請求項1記載の電解質膜。
【請求項4】
前記液体電解質は、テトラエチルアンモニウム四フッ化ホウ酸塩を支持塩とする溶解液であることを特徴とする請求項1記載の電解質膜。
【請求項5】
前記絶縁性粒子の平均断面径は0.1μm以下で、体積率は50%以上であることを特徴とする請求項1記載の電解質膜。
【請求項6】
ブランケットに与えたインクを基板に転写してパターニングされた電解質膜を該基板上に形成する方法であって、
前記インクはイオン伝導性を有する液体電解質を分散溶媒に絶縁性粒子とともに混合して含み、
前記インクを前記ブランケットにパターニングして与えて前記分散溶媒を前記ブランケットに選択的に吸収させてから前記基板に転写して、前記液体電解質を前記絶縁性粒子の間に毛管凝縮させて前記基板上に形状固定させることを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記ブランケットに対し、前記液体電解質よりも前記分散溶媒の吸収速度が大であることを特徴とする請求項6記載の電解質膜の製造方法。
【請求項8】
前記ブランケットはシリコーンゴムからなることを特徴とする請求項7記載の電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記インクは、ゲル形成能を有する高分子を更に含むことを特徴とする請求項6乃至8のうちの1つに記載の電解質膜の製造方法。
【請求項10】
前記絶縁性粒子は平均断面径を0.1μm以下で、前記基板上に形状固定させて体積率で50%以上となるように前記インクに与えられることを特徴とする請求項6乃至9のうちの1つに記載の電解質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷法を用いて形成され得る電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平面型の電気二重層コンデンサ(マイクロスーパーキャパシタ)や低電圧駆動の可能な薄膜トランジスタのゲート膜、リチウムイオン二次電池などを製造するためには、基板上に電解質膜を形成する必要がある。ここで、電解質膜に液体電解質を用いた場合、印刷法等の真空成膜プロセスと比較して安価な製造方法を用い得るが、固体電解質と比べて劣化しやすく厳重に封止することが必要となり、新たな機能層をこの上に積層させることも難しい、といった問題を指摘される。
【0003】
例えば、特許文献1では、ニッケル基板の上に、MnOカソード電極膜-ゲル電解質膜-Znアノード電極膜の三層構造膜を印刷で与えてから乾燥させる電気化学セルの製造方法を開示している。ここで、電極は活性電極材料粒子のスラリーを用いるとともに、ゲル電解質膜はイオン液体を吸収させたポリビニルアルコール(PVA)のようなポリマーネットワークからなる電解質を用いるとしている。このような、ゲル電解質膜は、カソード-アノード電極間の物理的且つ電子セパレータとして作用し、これに低融点の有機塩であるイオン液体をポリマーネットワークに組み合わせて用いることで、長期間の使用下であっても蒸発せず且つリークせず、高価で複雑な密封されたパッケージングを必要としないと述べている。
【0004】
ここまで、電解質膜を形成する方法としては、上記したPVAのようなポリマーネットワークに液体電解質を混合する方法以外に、液体電解質であるイオン液体を重合させて固体化して用いる方法などが提案されている。これらの方法では、いずれも基板上へのパターニング時点では液体であって、基板に対する濡れやはじきによっては精密なパターンを形成することは難しいものの、上記したように簡便で安価な印刷法等の製造方法を用い得る。また、固体化することで封止構造を簡便にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-49833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、イオン伝導性を有する液体電解質を固体にしてしまうと、イオン伝導度が大きく低下してしまう。そこで、蒸気圧の低いイオン液体を固体にすることなく電解質膜に用いることで、イオン伝導度を低下させることなく、簡単な封止構造でも高いイオン伝導度を維持でき長期間安定的に動作させ得ることが期待される。
【0007】
本発明は、上記したような実情を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、安価な印刷法を用いて精密なパターンを得られ、簡単な封止構造でも長期間安定的に動作可能なイオン液体からなる電解質膜及びその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による電解質膜は、印刷法を用いて形成され得る電解質膜であって、イオン伝導性を有する液体電解質を絶縁性粒子の間に毛管力によって保持させて基板上に形状固定させてなることを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、安価な印刷法を用いて精密なパターンを得られ、液体電解質を絶縁性粒子の間に毛管力によって保持させて基板上に形状固定させることで、簡単な封止構造でも長期間安定的に動作可能となるのである。
【0010】
上記した発明において、前記液体電解質はイオン液体であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、蒸気圧の低いイオン液体を液体電解質に用いることで、簡単な封止構造でも更に長期間安定的に動作可能となるのである。
【0011】
上記した発明において、前記液体電解質は塩化リチウム、硝酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、六フッ化リン酸リチウム等のリチウム塩溶解液であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、リチウムイオン二次電池の部材として、簡単な封止構造でも更に長期間安定的に動作可能となるのである。
【0012】
上記した発明において、前記液体電解質はテトラエチルアンモニウム四フッ化ホウ酸塩からなる溶解液であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、電気二重層キャパシタの部材として、簡単な封止構造でも更に長期間安定的に動作可能となるのである。
【0013】
上記した発明において、前記絶縁性粒子の平均断面径は0.1μm以下で、体積率は50%以上であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、液体電解質を絶縁性粒子の間に毛管凝縮させて基板上に確実に形状固定できて、簡単な封止構造でも更に長期間安定的に動作可能となるのである。
【0014】
また、本発明による製造方法は、ブランケットに与えたインクを基板に転写してパターニングされた電解質膜を該基板上に形成する方法であって、前記インクはイオン伝導性を有する液体電解質を分散溶媒に絶縁性粒子とともに混合して含み、前記インクを前記ブランケットにパターニングして与えて前記分散溶媒を前記ブランケットに選択的に吸収させてから前記基板に転写して、前記液体電解質を前記絶縁性粒子の間に毛管凝縮させて前記基板上に形状固定させることを特徴とする。
【0015】
かかる特徴によれば、安価な印刷法を用いて精密なパターンを得られるとともに、液体電解質を絶縁性粒子の間に毛管凝縮させて基板上に形状固定させて、簡単な封止構造でも長期間安定的に動作可能な電解質膜を得られるのである。
【0016】
上記した発明において、前記ブランケットに対し、前記液体電解質よりも前記分散溶媒の吸収速度が大であることを特徴としてもよい。また、前記ブランケットはシリコーンゴムからなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、安価な印刷法を用いてより精密なパターンを得られるとともに、液体電解質を絶縁性粒子の間に毛管凝縮させて基板上に確実に形状固定させて、簡単な封止構造でも長期間安定的に動作可能な電解質膜を得られるのである。
【0017】
上記した発明において、前記インクは、ゲル形成能を有する高分子を更に含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、安価な印刷法を用いてより精密なパターンを得られるとともに、液体電解質を基板上に確実に形状固定させて、簡単な封止構造でも長期間安定的に動作可能な電解質膜を得られるのである。
【0018】
上記した発明において、前記絶縁性粒子は平均断面径を0.1μm以下で、前記基板上に形状固定させて体積率で50%以上となるように前記インクに与えられることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、安価な印刷法を用いてより精密なパターンを得られるとともに、液体電解質を基板上に確実に形状固定させて、簡単な封止構造でも長期間安定的に動作可能な電解質膜を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一例による電解質膜の断面図である。
図2】反転オフセット印刷の工程の説明図である。
図3】ブランケット上でのインクの変化を示す図である。
図4】製造試験に用いたインクの配合を示す一覧表である。
図5】製造試験に用いた他のインクの配合を示す一覧表である。
図6】製造試験において製造された電解質膜の外観写真である。
図7】製造試験において製造された電気二重層キャパシタの断面図である。
図8】電気二重層キャパシタの定電流充電における電位の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の1つの実施形態について図1を用いて説明する。
【0021】
図1に示すように、電解質膜1は印刷法を用いて形成され得るものであり、イオン伝導性を有する液体電解質2を絶縁性粒子3の間に毛管凝縮させて、基板9上に形状固定させている。つまり、絶縁性粒子3の粒子同士が狭い間隙を形成することにより、液体電解質2を絶縁性粒子3の間に毛管力によって保持させて、その結果、液体電解質2の蒸気圧をバルク蒸気圧よりも見かけ低くする。そのため、簡単な封止構造でも液体電解質2を電解質膜1内に長期間留めることができ、安定的に電解質として動作可能とする。
【0022】
液体電解質2は、蒸気圧の低いイオン液体であると、液体電解質2を更に長期間電解質膜1内に留めることができて好ましい。
【0023】
また、液体電解質2は、塩を溶媒に溶解させた溶解液であってもよい。このような塩として、例えば、塩化リチウム、硝酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、六フッ化リン酸リチウムなどのリチウム塩を好適に用い得る。このようなリチウム塩を用いると溶媒に対して高い溶解性を示し、電解質膜1をリチウムイオン電池の部材として用いることができる。また、液体電解質2に用いる塩として、例えば、テトラエチルアンモニウム四フッ化ホウ酸塩を好適に用い得る。このような塩を用いると電気化学的安定性が高く、電気伝導率の高い電解質が得られ、電解質膜1を電気二重層キャパシタの部材として用いることができる。なお、液体電解質2に用いる溶媒の詳細については後述する。
【0024】
絶縁性粒子3は、液体電解質2を形状固定するために用いられるものである。そのため、絶縁性であればその組成は制限されない。絶縁性粒子3として、例えば、シリカ、ジルコニア、アルミナ、粘土鉱物、チタン酸バリウムなどの絶縁性酸化物粒子を好適に用い得る。一方、絶縁性粒子3は、毛管凝縮により液体電解質2を絶縁性粒子3の間隙によって確実に形状固定させるようなものであるとともに、精密にパターニングできることが好ましい。例えば、絶縁性粒子は、その平均断面径を0.1μm以下とし、電解質膜1内に体積率で50%以上含有されることが好ましい。
【0025】
ところで、上記したように、電解質膜1は印刷法を用いて形成され得る。一方、上記したように絶縁性粒子3は、液体電解質2を毛管凝縮によって形状固定するためにその粒子同士の間隙を狭くするよう、すなわち粒子同士を密にするよう、配置されている。つまり、電解質膜1は流動性に乏しい。一般に、このような流動性に乏しいペースト状体などの印刷は、均一な厚さに塗布することが難しく、印刷そのものを困難とさせる。
【0026】
そこで、このような電解質膜1を印刷によって製造する方法について、図2及び図3を用いて説明する。
【0027】
図2に示すように、電解質膜1は例えばグラビアオフセット印刷、反転オフセット印刷、付着力コントラスト印刷などのオフセット印刷によって製造可能である。ここでは、反転オフセット印刷を例に挙げて説明する。
【0028】
まず、図2(a)に示すように、ブランケット11にインクコーター12でインク13を塗布する(コーティング工程)。インク13は、イオン伝導性を有する液体電解質2を分散溶媒に絶縁性粒子3とともに混合して含む。
【0029】
次に、図2(b)に示すように、ブランケット11上のインク13をクリシェ14に当接させて一部のインク13を除去してパターニングを行う(OFF工程)。
【0030】
最後に、図2(c)に示すように、ブランケット11上にパターニングされたインク13を基板9上に転写する(SET工程)。
【0031】
以上のように反転オフセット印刷によりインク13をパターニングして基板9上に転写するのであるが、コーティング工程においてインク13は適度な流動性を必要とする。そのため、上記したようにインク13には分散溶媒が含まれる。一方で、SET工程でインク13を転写した後の電解質膜1においては、上記したように液体電解質2を毛管凝縮によって形状固定することができなければならず、流動性を低くすることが好ましい。そこで、インク13の分散溶媒をブランケットに選択的に吸収させてから基板9に転写させる。これによって、コーティング工程においてはインク13に塗布に必要な流動性を与え、SET工程までに分散溶媒を減じてインク13を転写後の電解質膜1として必要な形状固定の機能を与えることができる。このようなブランケット11への選択的な吸収のため、分散溶媒のブランケット11への吸収速度は液体電解質2の吸収速度よりも大きいことが好ましい。
【0032】
詳細には、図3(a)に示すように、ブランケット11に塗布するインク13については、ブランケット11への塗布に必要な流動性を有するように分散溶媒4を含む。インク13は、分散溶媒4と液体電解質2とを完全に混和させた混合溶媒6の中に絶縁性粒子3を均一に分散させていることが望ましい。そして、絶縁性粒子3の含有量に対する液体電解質2の含有量の体積割合は0.5~1の範囲内であることが望ましい。この体積割合は、得られた電解質膜1を確実に形状固定させるように決定される。液体電解質2の含有量が多いと、得られる電解質膜1に流動性を与えてしまい、絶縁性粒子3による形状固定を十分に得られなくなる。一方、液体電解質2の含有量が少ないと、十分なイオン伝導性が得られず、さらにはブランケット11からの転写を困難にしてしまう。また、液体電解質2の粘度は、イオン伝導性の観点から10mPa・s以下であることが望ましい。
【0033】
そして、図3(b)に示すように、SET工程に至るまでにインク13から分散溶媒4が選択的にブランケット11に吸収される。つまり、ブランケット11は分散溶媒4を吸収可能なものからなり、例えば、シリコーンゴムを好適に用い得る。シリコーンゴムとしては、代表的にはポリジメチルシロキサンとすることができる。分散溶媒4としては、ブランケット11に吸収されやく、また室温で蒸発しやすいものが好ましく、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、エチレングリコールジエチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチルアセテート、イソプロピルアセテート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、イソプロピルアルコール、エタノール、ブタノールを好適に用い得る。
【0034】
さらに、図3(c)に示すように、ブランケット11への吸収や蒸発によって分散溶媒4がほとんど残存しなくなり、このインク13を基板9へ転写することでパターニングされた電解質膜1を得ることができる。
【0035】
このように、分散溶媒4はほとんど残存しないようにし得るため、得られる電解質膜1に影響を与えることなく使用できる。一方、分散溶媒4の含有量は塗布するインク13の粘度に影響を与え、流動性を左右する。分散溶媒4の含有量は、この粘度を調整するよう、塗布を含めた印刷方法や得ようとする電解質膜1の厚さによって、適宜、決定され得る。例えば、インク13において、絶縁性粒子3の含有量に対して、分散溶媒4の含有量は5~20v/v%であることが望ましい。
【0036】
なお、インク13は、絶縁性粒子3の分散性を向上させるための分散剤や、基板9に対する濡れ性を向上させるための界面活性剤、インク13の粘度を調整するための高分子助剤、絶縁性粒子3同士及び基板9との結着性を向上させるためのバインダー樹脂など、公知のインク添加物を含んでいてもよい。また、絶縁性粒子3の分散安定性を向上させるため、複数の溶媒を混合して分散溶媒4として用いてもよい。さらに、液体電解質2の形状固定性をさらに向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート等のゲル形成能を有する高分子を添加してもよい。
【0037】
さて、上記したように、インク13からはブランケット11へ選択的に分散溶媒4を吸収させる。そのため、液体電解質2として塩の溶解液を用いる場合、かかる溶解液やその溶媒としてはブランケット11への吸収速度の小さいものとすることが好ましい。溶媒としては、常温で液体であり、粘度が低く、誘電率が高く、沸点が高く、電気化学的に安定であるものが望ましいが、ブランケット11としてシリコーンゴムを用いた場合、吸収速度の小さいものとして、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのアルキルカーボネート系溶剤、ガンマブチロラクトン、バレロラクトンなどのラクトン系溶剤、1-メチル-2-ピロリドンなどのラクタム系溶剤、エチレングリコール、1,3-プロパンジオールなどの多価アルコール系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、などのアミド系溶剤、アセトニトリル、アジポニトリルなどのニトリル系溶剤、水などが挙げられる。なお、液体電解質2の塩濃度は、塩を完全に溶解させる範囲内において、イオン伝導性をより大きくするものとすればよく、一般的には0.5~2Mの範囲内である。
【0038】
なお、液体電解質2に用いる溶媒のブランケット11に対する吸収速度は、溶媒に浸漬させた時間に対するブランケット11の材料の重量変化から見積もることができる。一般的に、溶媒の極性が強く、分子量の大きい溶媒であるほど吸収速度を低くできる。また、極性の強い溶媒は、一般的に高い誘電率を示す傾向にあり、液体電解質2のイオン伝導性、及び、ブランケット11からの転写性の両方の観点からも望ましい。
【0039】
他方、上記したように液体電解質2としてはイオン液体も好適に用い得る。イオン液体は、常温で液体であり、粘度が低く、イオン伝導性を示し、沸点が高い(つまり、常温での蒸気圧が低い)ため、溶媒を添加することなく、そのまま液体電解質2として供することができる。なお、液体電解質2の形状固定性をさらに向上させるために、重合反応により高分子化する反応性イオン液体を用いることもできる。
【0040】
[製造試験]
次に、電解質膜を実際に製造した結果について図4及び図5を用いて説明する。
【0041】
図4に示すように、試料1~試料5の各配合のインクを用いて反転オフセット印刷により櫛歯状にパターニングされた電解質膜1を製造した。分散溶媒としては、上記したPGMEA及びPGMEをそれぞれ0.5g及び1.4g配合した。また、絶縁性粒子としては、平均断面径を10~15nmとするSiOのナノ粒子を0.6g配合した。液体電解質としては、試料1~試料4には塩化リチウム(試料1)、又は、硝酸リチウム(試料2~試料4)からなる塩を溶媒に溶解させた溶解液を図示した量で配合し、試料4及び試料5にはイオン液体を図示した量で配合した。なお、溶媒にはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用い、イオン液体には1-ブチル-1-メチルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミンアニオン(BMP-TFSI)を用いた。また、いずれの試料にも界面活性剤を0.002g配合した。
【0042】
さらに、図5に示すように、試料6~8の各配合のインクを用いて同様に電解質膜1を製造した。分散溶媒としては、上記したPGMEA又はPGMEに加え、さらにシクロヘキサノン、イソプロピルアルコール、エチレングリコールを図示した量で配合した。絶縁性粒子としては、上記と同様のSiOのナノ粒子を0.15g配合した。液体電解質としては、テトラエチルアンモニウム四フッ化ホウ酸塩を溶媒に溶解させた溶解液を図示した量で配合した。なお、溶媒にはプロピレンカーボネートを用いた。試料6~8においてイオン液体は使用しなかった。また、いずれの試料にも界面活性剤を0.001g配合した。
【0043】
図6(a)及び(b)にそれぞれ代表例として試料1及び試料4による電解質膜の外観写真を示した。その他の試料(2、3、5、6、7、8)も含め、いずれの試料についても良好に印刷でき、精密にパターニングされた電解質膜を得ることができた。また、温度23℃、相対湿度50%の大気下に開放した状態で2週間静置後も電解質膜の表面にイオン塩の析出は認められず、液体電解質を毛管凝縮によって形状固定できているものと認められた。
【0044】
図7に示すように、試料1のインクを用い、さらに電気二重層キャパシタ20を製作し、充電特性を測定した。ガラスからなる基板9の上に平板状の一対の炭素電極8を離間して設け、さらにその上方から両電極を覆うようにパターニングした電解質膜1を印刷によって形成した。
【0045】
図8に示すように、かかる電気二重層キャパシタに一定電流下(10nA、20nA、30nA、40nA)で充電を行い、電極間に生じる電位差の時間変化を測定した。電流を大きくするほど早く電位差が上昇するように充電されていることが確認された。
【0046】
以上のように、イオン伝導性を有する液体電解質を絶縁性粒子の間に毛管凝縮させて基板上に形状固定させた電解質膜は、印刷法を用いて形成できた。これによって、安価な印刷法を用いて精密なパターンを得ることができ、簡単な封止構造でも長期間安定的に動作可能な電解質膜とすることができた。
【0047】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるだろう。
【符号の説明】
【0048】
1 電解質膜
2 液体電解質
3 絶縁性粒子
9 基板
11 ブランケット

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8