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特開2022-70122二次電池におけるキャリア元素の金属析出挙動のオペランド分析法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070122
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】二次電池におけるキャリア元素の金属析出挙動のオペランド分析法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20220502BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20220502BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220502BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220502BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220502BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20220502BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220502BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220502BHJP
   H01M 50/543 20210101ALI20220502BHJP
   H01M 50/10 20210101ALI20220502BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20220502BHJP
   G01N 27/48 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
G01N21/552
H01M10/04 Z
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0562
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M2/30 D
H01M2/02 F
G01N21/27 B
G01N27/48 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179161
(22)【出願日】2020-10-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼掲載アドレス:http://www.denchi60.org/download/60denchi_Program.pdf(第60回電池討論会プログラム) 掲載日: 令和1年10月30日 ▲2▼掲載アドレス:http://www.denchi60.org/09.html(第60回電池討論会オンライン要旨集サイトの案内ページ) https://confit.atlas.jp/guide/event/denchi60/subject/2B13/advanced(第60回電池討論会オンライン要旨集閲覧ページ) 掲載日: 令和1年11月6日 ▲3▼集会名: 第60回電池討論会 開催場所:国立京都国際会館(京都市左京区宝ヶ池) 開催日: 令和1年11月13日~15日
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】橘田 晃宜
(72)【発明者】
【氏名】村井 健介
【テーマコード(参考)】
2G059
5H011
5H017
5H028
5H029
5H043
5H050
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC03
2G059CC20
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059FF20
2G059HH01
2G059HH02
2G059JJ01
2G059JJ12
2G059KK01
5H011AA04
5H011AA12
5H011CC02
5H011CC06
5H017AA03
5H017CC01
5H017EE01
5H017HH05
5H028AA06
5H028AA07
5H028BB01
5H028BB04
5H028BB11
5H028CC08
5H028CC20
5H028EE01
5H029AJ01
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029BJ02
5H029CJ03
5H029DJ02
5H029DJ03
5H029DJ04
5H029DJ05
5H029DJ07
5H029HJ12
5H043BA17
5H043BA18
5H043BA19
5H043BA20
5H043CA02
5H043DA01
5H043JA12D
5H043JA13D
5H043KA01D
5H043LA21D
5H050AA01
5H050BA17
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA04
5H050DA10
5H050GA03
5H050GA28
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、二次電池のキャリア金属元素の析出を、高い感度及び高い選択性をもってオペランド分析できる技術を提供することである。
【解決手段】二次電池の作用極におけるキャリア金属元素の金属析出挙動のオペランド分析法であって:表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み、且つキャリア元素と合金化しない材料で構成された表面を有する作用極と;対極と;前記作用極の前記表面及び対極に接する電解質と;前記作用極の前記表面とは反対面側に積層された、前記電解質に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層と;を含む二次電池を作動させる工程、前記透明材料層の側から前記電解質の側の方向へ光を入射し、前記作用極の前記表面にエバネッセント場を発生させる工程、及び前記エバネッセント場での表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する工程を含む、オペランド分析法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の作用極におけるキャリア元素の金属析出のオペランド分析法であって、
表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み、且つキャリア元素と合金化しない材料で構成された表面を有する作用極と、
対極と、
前記作用極の前記表面及び対極に接する電解質と、
前記作用極の前記表面とは反対面側に積層された、前記電解質に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層と、
を含む二次電池を作動させる工程、
前記透明材料層の側から前記電解質の側の方向へ、表面プラズモン共鳴吸収分光が可能な波長域の光を入射し、前記作用極の前記表面にエバネッセント場を発生させる工程、及び
前記エバネッセント場での表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する工程、
を含む、オペランド分析法。
【請求項2】
前記透明材料層の材質が、前記光を透過する、ガラス、プラスチック又はセラミックスである、請求項1に記載のオペランド分析法。
【請求項3】
前記二次電池が、前記透明材料層の、前記作用極と反対側に設けられたプリズムを含み、前記プリズムによりエバネッセント場を発生させる、請求項1又は2に記載のオペランド分析法。
【請求項4】
前記キャリア元素が、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ土類金属元素以外の多価金属元素からなる群より選択される、請求項1~3に記載のオペランド分析法。
【請求項5】
前記作用極が、前記金属母材層の単層で構成され、
前記金属母材層が、前記キャリア元素と合金化しない材料で構成されている、請求項1~4のいずれかに記載のオペランド分析法。
【請求項6】
前記作用極が、前記金属母材層と、前記金属母材層の前記電解質側に積層された被覆層とを含む複層で構成され、
前記被覆層が、前記キャリア元素と合金化しない材料で構成されている、請求項1~4に記載のオペランド分析法。
【請求項7】
前記キャリア元素がリチウムであり、前記キャリア元素と合金化しない材料が銅又は銅合金である、請求項5又は6に記載のキャリア元素金属二次電池のオペランド分析法。
【請求項8】
前記被覆層が電極活物質で構成されている、請求項6に記載のキャリア元素イオン二次電池のオペランド分析法。
【請求項9】
前記作用極における前記キャリア元素の金属析出形態を、析出量の変化に対する前記表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化の程度に基づいて判断する、請求項1~8のいずれかに記載のオペランド分析法。
【請求項10】
前記電解質が液体電解質である、請求項1~9のいずれかに記載のオペランド分析法。
【請求項11】
前記電解質が固体電解質である、請求項1~9のいずれかに記載のオペランド分析法。
【請求項12】
表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み、且つキャリア元素と合金化しない材料で構成された表面を有する作用極と、
対極と、
前記作用極の前記表面及び対極に接する電解質と、
前記作用極の前記表面とは反対面側に積層された、前記電解質に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層と、
を含む、オペランド分析用二次電池。
【請求項13】
前記作用極の周縁部を支持する作用極集電部材と、
前記対極が表面に設けられた対極集電部材と、
筒状部材と、をさらに含み、
前記筒状部材の両開口端部が、前記作用極集電部材と前記対極集電部材とで封止され、且つ前記筒状部材の内部に電解質が封入されている、請求項12に記載のオペランド分析用二次電池。
【請求項14】
前記電解質と前記作用極の前記表面との間に設けられたセパレータと、前記セパレータを前記作用極の方向へ加圧するための加圧部とをさらに含む、請求項12又は13に記載の二次電池。
【請求項15】
窓が穿通された窓付き部材をさらに含み、
前記筒状部材の一方の開口端部と前記窓付き部材との間に、前記作用極集電部材と前記作用極と前記透明材料層とを挟持している、請求項13又は14に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池におけるキャリア元素の金属析出挙動のオペランド分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境・エネルギー問題を解決する上で、繰り返し充放電が可能な二次電池のさらなる開発が望まれている。
【0003】
二次電池は金属元素イオンを電荷担体(キャリア)とし、正極、負極及び電解質を基本構造とする化学電池の総称であり、キャリア元素イオン二次電池とキャリア元素金属二次電池とに大別される。
【0004】
キャリア元素イオン二次電池は、正極及び負極にイオン吸蔵材料(電極活物質)を用いた電池で、充電反応においてキャリアはイオンとして電極活物質中に吸蔵される。従って、キャリア元素イオン二次電池は電池内部ではキャリア元素の単体金属が生成しないため安全性が高く、リチウムイオン電池などとして一部実用化されている電池もある。
【0005】
一方、キャリア元素金属二次電池は負極に金属箔を用いる電池で、充電反応においてキャリアは単体金属まで還元される。すなわちキャリア元素金属二次電池では充放電反応に伴って負極の金属表面上で単体金属の溶解と析出とが繰り返される。このような反応はエネルギー密度を高くできるなどの利点があるため、キャリア元素金属二次電池は次世代二次電池の有望な候補として位置づけられている。
【0006】
ここで、上記二次電池のキャリアとして用いられる元素(キャリア元素)は、碑な電気化学ポテンシャルを有し、高電圧が見込めることから、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、及びマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属が用いられる。また、運搬できる電気量が多く見込めることから、亜鉛及びアルミニウム等の多価金属もキャリア元素として有望視されている。上述のキャリア元素の中で、最も軽くかつ最も碑な電気化学ポテンシャルを有するリチウムは実用上も極めて重要である。以下ではキャリア元素にリチウムを用いたリチウム系二次電池、すなわちリチウムイオン電池とリチウム金属二次電池についてさらに詳しく述べる。
【0007】
リチウムイオン電池は現在最も広く普及した二次電池の一つであり、小型携帯用の電源から大型車載用の電源まで、幅広い産業分野においてその利用が拡大され続けている。リチウムイオン電池は、今後の低炭素及び脱炭素社会の実現においても、最も重要な電源になりうると期待されている。
【0008】
リチウムイオン電池の充電反応は、電解質中のリチウムイオンが、負極活物質に吸蔵されることで進行する。負極活物質とはリチウムをイオンとして受け取る物質であり、原理上は電池内部にリチウムの単体金属(以下では金属リチウムと称する)が生成しないが、実際には、様々な要因により金属リチウムが生成する望ましくない現象も生じうる。
【0009】
また、金属リチウム二次電池は、電池内部において、リチウムを単体金属として析出および溶解させる反応を伴う電池である。金属リチウム二次電池の充電反応では、電解質中のリチウムイオンが還元され、負極である金属集電箔上に金属リチウムとして析出し、放電反応では析出した金属リチウムが溶解する。金属集電箔としては、金属リチウム、又は、リチウムと合金化しない銅又はニッケル等が用いられ、これらの金属電極上における金属リチウムの析出と溶解によって金属リチウム二次電池の動作が実現される。
【0010】
これらのリチウム系二次電池の電池性能を評価するために、電池動作中の電極反応挙動又は電極状態に関する分析が行われており、これらの分析は、電池の動作中すなわちオペランドで行うことが強く求められている。このような電池のオペランド分析を試みた例は種々報告されている。
【0011】
非特許文献1では、正極材料であるコバルト酸リチウムの導電性変化に着目し、表面プラズモン共鳴顕微鏡を用いてそのリチウムイオン拡散挙動をオペランドで観察したことが記載されている。
【0012】
非特許文献2では、シリコン負極のリチウムイオン電池反応の過程をラマン分光法でオペランド調査したことが記載されている。
【0013】
非特許文献3では、金チップを用い、表面プラズモン共鳴スペクトル(Surface Plasmon Resonance Spectroscopy;SPRS)と電気化学水晶振動子計測(Electrochemical Quartz Crystal Microbalance;EQCM)法とを組み合わせて電池動作中の金チップ表面の被膜生成の過程をオペランドで調査したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】"Optical Imaging of Phase Transition and Li-Ion Diffusion Kinetics of Single LiCoO2 Nanoparticles during Electrochemical Cycling" J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 186-192.
【非特許文献2】"Operando plasmon-enhanced Raman spectroscopy in silicon anodes for Li-ion battery" J. Nanopart. Res. 2017, 19, 372.
【非特許文献3】"In operando measurements of kinetics of solid electrolyte interphase formation in lithium-ion batteries" J. Power Sources 2018, 400, 426-433.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
リチウム系二次電池の大きな利点として、エネルギー密度の高さが挙げられる。その反面、エネルギー密度の高さは電池そのものの安全性を低下させる要因ともなりうる。
【0016】
リチウムイオン電池においては、充電時の電池内部で析出した金属リチウムによる短絡が生じた場合、その危険性は増大する。このようなリチウムイオン電池の安全性は、人が直接携帯する小型電池のみならず、車載用や定置用の電池においても、その高出力化や大型化の要請に鑑みると、ますます重要性を増しているといえる。リチウムイオン電池の安全性は、電池内部での金属リチウム生成をいかに抑制するかによって決定づけられる。従って、リチウムイオン電池の充電動作において、金属リチウム析出の有無に基づいて安全性を評価することが極めて重要である。
【0017】
また、金属リチウム二次電池では、金属電極上のリチウムの析出と溶解反応を積極的に利用するため、その安全性は電気化学的な金属リチウムの析出挙動に支配されている。つまり、金属リチウム二次電池の安全性は、充電動作においていかに均質な析出を実現するかによって決定づけられる。従って金属リチウム二次電池の充電動作において、金属リチウムの析出形態に基づいて安全性を評価することが極めて重要である。
【0018】
したがって、リチウム系二次電池についてのオペランド分析の中でも、金属リチウムの析出の有無又は形態の分析は、安全性の評価において特に重要といえる。
【0019】
しかしながら、金属リチウム析出の分析は一般的に困難である。それは、リチウムが全元素の中で3番目に軽いため、金属リチウムの物質としての密度が極めて小さく、密度の小さい物質の物理的な観察が本質的に困難であることによる。金属リチウムを直接観察するためには、高強度の線源、高感度の検出装置、長時間の測定などが必要と考えられるが、これらの諸条件を動作環境で実施することは基本的に困難である。このため、非特許文献1及び2のように、リチウム系二次電池のオペランド分析では、活物質に対するリチウムイオンの吸蔵放出、又は電極表面上への皮膜生成を観測することが主となっている。
【0020】
また、リチウム系二次電池のオペランド分析では非特許文献3のようにEQCM法も広く利用されている。EQCM法は水晶振動子を電極とし、そこに金属リチウムが析出することで生じる電極質量の変化を、共振状態の変化から逆算して求める手法である。この手法の質量感度は非常に高く、電極質量の変化を高感度で検出できる点では優れている。しかしこの手法で分析される電極質量の変化は、金属リチウムの析出の際に同時に起こりうる副反応、つまり充電反応での電解質の還元分解による被膜の生成による質量変化もとらえうるため、本質的に金属リチウムの析出現象のみを選択的に検知することはできない。
【0021】
つまり、これまでリチウム系二次電池における金属リチウムの析出を、高い感度及び高い選択性をもってオペランド分析できる技術は知られていない。リチウム系二次電池以外の二次電池、例えばナトリウム系二次電池、カリウム系二次電池、及びマグネシウム系二次電池等についても同様に、キャリア金属元素の析出を、高い感度及び高い選択性をもってオペランド分析できる技術は知られていない。
【0022】
そこで、本発明の目的は、二次電池のキャリア金属元素の析出を、高い感度及び高い選択性をもってオペランド分析できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、析出するキャリア元素の単体金属そのものではなく、その単体金属析出によって生じる光学スペクトルの変化を計測することにより、キャリア元素の単体金属析出現象を検出する手法を着想した。そして、それを具現化する手段として表面プラズモン共鳴(金属で構成される層の表面で起こる変質及び/又は物質の析出などの現象に敏感)吸収分光法を利用することによって、キャリア元素の単体金属析出を、高い感度及び高い選択性をもってオペランド分析できることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0024】
項1. 二次電池の作用極表面におけるキャリア元素の金属析出のオペランド分析法であって、
表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み、且つキャリア元素と合金化しない材料で構成された表面を有する作用極と、
対極と、
前記作用極の前記表面及び対極に接する電解質と、
前記作用極の前記表面とは反対面側に積層された、前記電解質に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層と、
を含む二次電池を作動させる工程、
前記透明材料層の側から前記電解質の側の方向へ、表面プラズモン共鳴吸収分光が可能な波長域の光を入射し、前記作用極の前記表面にエバネッセント場を発生させる工程、及び
前記エバネッセント場での表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する工程、
を含む、オペランド分析法。
項2. 前記透明材料層の材質が、前記光を透過する、ガラス、プラスチック又はセラミックスである、項1に記載のオペランド分析法。
項3. 前記二次電池が、前記透明材料層の、前記作用極と反対側に設けられたプリズムを含み、前記プリズムによりエバネッセント場を発生させる、項1又は2に記載のオペランド分析法。
項4. 前記キャリア元素が、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ土類金属元素以外の多価金属元素からなる群より選択される、項1~3に記載のオペランド分析法。
項5. 前記作用極が、前記金属母材層の単層で構成され、
前記金属母材層が、前記キャリア元素と合金化しない材料で構成されている、項1~4のいずれかに記載のオペランド分析法。
項6. 前記作用極が、前記金属母材層と、前記金属母材層の前記電解質側に積層された被覆層とを含む複層で構成され、
前記被覆層が、前記キャリア元素と合金化しない材料で構成されている、項1~4に記載のオペランド分析法。
項7. 前記キャリア元素がリチウムであり、前記キャリア元素と合金化しない材料が銅又は銅合金である、項5又は6に記載のキャリア元素金属二次電池のオペランド分析法。
項8. 前記被覆層が電極活物質で構成されている、項6に記載のキャリア元素イオン二次電池のオペランド分析法。
項9. 前記作用極における前記キャリア元素の金属析出形態を、析出量の変化に対する前記表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化の程度に基づいて判断する、項1~8のいずれかに記載のオペランド分析法。
項10. 前記電解質が液体電解質である、項1~9のいずれかに記載のオペランド分析法。
項11. 前記電解質が固体電解質である、項1~9のいずれかに記載のオペランド分析法。
項12. 表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み、且つキャリア元素と合金化しない材料で構成された表面を有する作用極と、
対極と、
前記作用極の前記表面及び対極に接する電解質と、
前記作用極の前記表面とは反対面側に積層された、前記電解質に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層と、
を含む、オペランド分析用二次電池。
項13. 前記作用極の周縁部を支持する作用極集電部材と、
前記対極が表面に設けられた対極集電部材と、
筒状部材と、をさらに含み、
前記筒状部材の両開口端部が、前記作用極集電部材と前記対極集電部材とで封止され、且つ前記筒状部材の内部に電解質が封入されている、項12に記載のオペランド分析用二次電池。
項14. 前記電解質と前記作用極の前記表面との間に設けられたセパレータと、前記セパレータを前記作用極の方向へ加圧するための加圧部とをさらに含む、項12又は13に記載の二次電池。
項15. 窓が穿通された窓付き部材をさらに含み、
前記筒状部材の一方の開口端部と前記窓付き部材との間に、前記作用極集電部材と前記作用極と前記透明材料層とを挟持している、項13又は14に記載の二次電池。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、二次電池のキャリア元素の単体金属の析出を、高い感度及び高い選択性をもってオペランド分析できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のオペランド分析法に用いられる二次電池の一例の断面図(a)、及び当該セルに光を入射する方向からの正面図(b)を模式的に示す。
図2A図1の二次電池が金属電池である場合における作用極の一例の断面図を示す。
図2B図1の二次電池が金属電池である場合における作用極の他の例の断面図を示す。
図3図1の二次電池がイオン電池である場合における作用極の一例の断面図を示す。
図4】本発明のオペランド分析法におけるエバネッセントを発生させる工程及び表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する工程を模式的に示す。
図5】本発明のオペランド分析法におけるエバネッセントを発生させる工程及び表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する工程を模式的に示す。
図6】本発明のオペランド分析法を実施するために設計される測定系の一例を模式的に示す。
図7図1の二次電池の組み立て工程を示す。
図8A】様々な電極金属を用いた場合のSPRSのシミュレーション結果を示す。
図8B】様々な電極金属を用いた場合のSPRSのシミュレーション結果を示す。
図9】銅電極上にリチウムが析出する場合のSPRSのシミュレーション結果を示す。
図10】金電極上にナトリウムが析出する場合のSPRSのシミュレーション結果を示す。
図11】銀電極上にカリウムが析出する場合のSPRSのシミュレーション結果を示す。
図12】銅電極上のリチウム析出の様々な析出形態によるSPRSのシミュレーション結果を示す。
図13】金属の析出形態に関する4通りのモデルを示す。
図14図13のそれぞれのモデルに関するSPRSのシミュレーション結果であり、吸収ピーク波長(上図)及び吸収ピーク強度(下図)とリチウムの平均膜厚との関係を示す。
図15】実施例2で得られた、電気化学及び表面プラズモン共鳴吸収スペクトル(SPRS)の同時測定結果であり、サイクリックボルタモグラム(左図)及び電位3.0~0.0V vs. Li+/Liの範囲におけるSPRS(右図)を示す。
図16】実施例2で得られた、電気化学及び表面プラズモン共鳴吸収スペクトル(SPRS)の同時測定結果であり、図15左図の拡大図(左図)及びリチウム析出電位の範囲で取得したSPRS(右図)を示す。
図17】リチウムの平均析出膜厚と電圧との関係を、一部拡大図と共に示す。
図18】実施例3で得られた、定電流試験によるリチウム析出の分析結果であり、電池電圧のプロファイル(右図)と対応するSPRS挙動(左図)との相関を示す。
図19】実施例4で得られた、定電流試験によるリチウム析出の分析結果であり、電池電圧のプロファイル(右図)と対応するSPRS挙動(左図)との相関を示す。
図20】実施例5で得られた、定電流試験によるナトリウム析出の分析結果であり、電池電圧のプロファイル(右図)と対応するSPRS挙動(左図)との相関を示す。
図21】実施例6で得られた、様々な電解質を用いた場合のSPRSを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[1.二次電池におけるキャリア金属元素析出挙動のオペランド分析法]
本発明の二次電池におけるキャリア元素の金属析出挙動のオペランド分析法は、所定の構成の二次電池を作動させる工程と、エバネッセント場を発生させる工程と、表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する工程とを含む。
【0028】
[1-1.所定の構成の二次電池を作動させる工程]
[1-1-1.所定の構成の二次電池]
本発明の分析法で用いられる二次電池は、表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み、且つキャリア元素と合金化しない材料で構成された表面を有する作用極と;対極と;前記作用極の前記表面及び対極に接する電解質と;前記作用極の前記表面とは反対面側に積層された、前記電解質に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層と、を含む。
【0029】
[1-1-1-1.二次電池の種類]
本発明において、二次電池のキャリア元素(電荷担体となるイオンを与える元素)としては特に限定されず、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ土類金属元素以外の多価金属元素(以下において、「他の多価金属元素」と記載する。)が挙げられる。アルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム、カルシウム等が挙げられ、他の多価金属元素としては、アルミニウム、亜鉛、鉛等が挙げられる。つまり、本発明において、二次電池の具体例としては、リチウム系二次電池、ナトリウム系二次電池、カリウム系二次電池等のアルカリ金属系二次電池、マグネシウム系二次電池、カルシウム系二次電池等のアルカリ土類金属系二次電池、アルミニウム系二次電池、亜鉛系二次電池、鉛系二次電池等の他の多価金属系二次電池が挙げられる。また、二次電池のキャリア元素をMと表記する場合、M系二次電池には、M金属電池(以下において、「金属電池」とも記載する)と、Mイオン電池(以下において、「イオン電池」とも記載する)とが含まれる。
【0030】
図1に、本発明のオペランド分析法に用いられる二次電池の一例の断面図(a)、及び当該セルに表面プラズモン共鳴吸収分光が可能な波長域の光を入射する方向からの外観図(b)を模式的に示す。図1(a)の断面図は、図1(b)のA-A方向の断面図である。図1に示す二次電池1は、所定の作用極2と、対極3と、作用極2の表面S及び対極3に接する電解質5と、作用極2の表面Sとは反対面側に積層された、電解質5に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層4と、を含む。以下、図1の例を参照して本発明の詳細を説明する。
【0031】
[1-1-1-2.作用極]
作用極2は、表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み、且つキャリア元素と合金化しない材料で構成された表面を有する。
【0032】
表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層の材料については、少なくとも表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属であることを条件とする。「表面プラズモン共鳴吸収特性を有する」とは、例えば全反射減衰測定(Attenuated Total Reflectance:ATR)法などの反射率測定により得られる表面プラズモン共鳴吸収スペクトルにおいて、吸収ピークを与える波長を有することをいう。吸収ピークは、当該表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを、縦軸を反射率、横軸を波長とする分光反射率曲線で表した場合、ベースラインから下(反射率が小さくなる方向)に凸に形成されるピークであれば特に限定されない。本発明の効果をより一層高める観点から、吸収ピークの強度としては、吸収ピークのベースラインをBL、吸収ピークの頂点をP、頂点Pを与える波長をWLp、ベースラインBL上の波長WLpの点をBLp、波長WLpにおいて反射率が0となる点をP0とすると、点BLp-点P0間の距離を1とした場合の点BLp-頂点P間の相対距離で、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上が挙げられる。表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属の例としては、金、銀、銅、アルミニウム、白金、亜鉛、及びこれらの金属の2種以上からなる合金が挙げられる。さらに、表面プラズモン吸収特性を有する金属の例としては、表面プラズモン吸収特性を喪失させない限りにおいて、上記の金属の1種以上及び他の金属からなる合金も挙げられる。当該他の金属の具体例としては特に限定されず、例えば、ニッケル、タングステン、及び/又はステンレス合金等が挙げられる。
【0033】
本発明において、「表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層」の材料と「キャリア元素と合金化しない材料」とは、同一である場合と異なる場合とがあり、二次電池1に実際に適用されるこれら材料の具体例については、[i]二次電池1が金属二次電池であるかイオン電池であるか、[ii]作用極2の層構成が単層であるか複層であるか、及び[iii]キャリア元素が何であるかに応じて定まる。以下、二次電池1が金属電池である場合とイオン電池である場合とに分けて、作用極2の具体的な構成及び材料について説明する。
【0034】
[金属電池の場合]
二次電池1が金属電池である場合の作用極2の例を、図2A及び図2Bを参照して説明する。図2A及び図2Bでは、それぞれ、作用極2の具体例である作用極2a及び作用極2bを、それらが積層されている透明材料層4と共に示す。
【0035】
図2Aに示す作用極2aは、金属母材層21aの単層で構成されており、金属母材層21a自体が、上記のキャリア元素と合金化しない材料で構成されている。つまり、図2Aに例示する場合、「表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層」の材料と「キャリア元素と合金化しない材料」とは同一となり、金属母材層21a自体の電解質側の表面が、作用極2aの表面Sをなす。
【0036】
図2Aに示す作用極2aを構成する金属母材21aの材料の具体例については、表面プラズモン共鳴吸収特性を有し且つキャリア元素と合金化しない金属である限りにおいて特に限定されない。例えば、上述の表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属の例から、キャリア元素と合金化しない金属を選択すればよく、キャリア金属と合金化するか否かについては、当業者であれば容易に決定することができる。金属母材21aの材料の好ましい例としては、キャリア元素がリチウムである場合は、銅及び銅合金(銅と他の金属とからなる合金)が挙げられ、キャリア元素がナトリウム、カリウム、マグネシウム、又はカルシウムである場合は、銅、銀、金、及びこれらの2種以上からなる合金、並びにこれらと他の金属とからなる合金が挙げられ、キャリア元素がアルミニウムである場合は、金及び金合金(金と他の金属とからなる合金)が挙げられ、キャリア元素が亜鉛である場合は、銀、金、及びこれらからなる合金、並びにこれらを含む合金が挙げられる。上記他の金属については上記した通りである。
【0037】
金属母材層21aの厚みとしては特に限定されないが、本発明の分析法で用いられる表面プラズモン共鳴吸収法を効果的に利用する観点から、例えば10~100nm、好ましくは30~70nmが挙げられる。
【0038】
図2Bに示す作用極2bは、金属母材層21bと、金属母材層21bの電解質側に積層された被覆層22とを含む複層で構成されている。つまり、図2Bに例示する場合、「表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層」の材料と「キャリア元素と合金化しない材料」とは異なっており、被覆層22が「キャリア元素と合金化しない材料」で構成され、その電解質側の表面が作用極2bの表面Sをなす。
【0039】
図2Bに示す作用極2bでは、被覆層22が金属母材層21bとキャリア元素との合金化を防いでいるため、金属母材層21bの材料としては、キャリア元素の種類にかかわらず、表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属であれば特に限定されない。したがって、金属母材層21bの材料としては、金、銀、銅、アルミニウム、白金、亜鉛、及びこれらの金属の2種以上からなる合金、並びにこれらの金属の1種以上及び他の金属からなる合金が挙げられる。
【0040】
図2Bに示す金属母材層21bの厚みとしては、図2Aに示す金属母材層21aの厚みとして述べたものと同じである。
【0041】
被覆層22を構成するキャリア元素と合金化しない材料としては、表面プラズモン共鳴吸収特性の有無にかかわらず、キャリア元素と合金化しない金属であれば特に限定されない。その具体例としては、例えばニッケル、タングステン、及び/又はステンレス合金等の表面プラズモン共鳴吸収特性を有しない金属、並びに、金属母材21aの材料として挙げた表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属が挙げられる。
【0042】
被覆層22の厚みとしては特に限定されないが、本発明の分析法で用いられる表面プラズモン共鳴法を効果的に利用する観点から、例えば10nm以下、好ましくは5nm以下が挙げられる。被覆層22の厚み範囲の下限としては特に限定されないが、金属母材層21bとキャリア元素との合金化をより効果的に防止する観点から、例えば1nm以上が挙げられる。
【0043】
[イオン電池の場合]
二次電池1がイオン電池である場合の作用極2の例を、図3を参照して説明する。図3では、作用極2の具体例である作用極2cをそれが積層されている透明材料層4と共に示す。図3に示す作用極2cは、金属母材層21bと、金属母材層21bの電解質側に積層された被覆層23とを含む複層で構成されている。つまり、図3に例示する場合、「表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層」の材料と「キャリア元素と合金化しない材料」とは異なっており、被覆層23が「キャリア元素と合金化しない材料」で構成され、その電解質側の表面が作用極2bの表面Sをなす。
【0044】
図3に示す作用極2cでは、被覆層23が金属母材層21bとキャリア元素との合金化を防いでいるため、金属母材層21bの材料としては、キャリア元素の種類にかかわらず、プラズモン共鳴吸収特性を有する金属である。金属母材層21bの材料及び厚みとしては、図2Bに示す作用極2bを構成する金属母材21bの材料及び厚みとして述べたものと同じである。
【0045】
図3に示す被覆層23の材料は、電極活物質である。電極活物質は、電気化学的にキャリア元素の吸蔵及び放出が可能な材料であれば特に限定されず、キャリア元素の種類に応じて適宜決定することができる。被覆層23の材料の具体例としては、二次電池1がリチウムイオン電池である場合、炭素系材料(グラファイト[人造黒鉛、天然黒鉛]、紡錘状黒鉛/炭素複合負極材[GDA]、球形化黒鉛系負極材[GDR]等)、酸化物(SnO2等)、チタン酸リチウム、シリコン、並びに、錫及びこれらを含む合金等が挙げられ;ナトリウムイオン電池である場合、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、錫、アンチモン、リン、これらを含む合金系、並びにチタン酸化物等が挙げられ;カリウムイオン電池である場合、グラファイト、ハードカーボン、チタン酸化物、リン酸カリウム化合物、プルシアンブルー系、ポリアニオン系等が挙げられ;マグネシウムイオン電池である場合、マグネシウムビスマス合金、MgCo24、MgMn24等が挙げられ;アルミニウムイオン電池である場合、非晶質バナジウム酸化物、多孔質黒鉛等が挙げられ;カルシウムイオン電池である場合、プルシアンブルー、プルシアンブルー類似体等が挙げられ;亜鉛イオン電池である場合、水酸化亜鉛等が挙げられる。
【0046】
図3に示す被覆層23の厚みとしては、その構成材料が透明材料の場合においては制限されず、その構成材料が透明でない場合は、本発明の分析法で用いられる表面プラズモン共鳴吸収分光法を効果的に利用する観点から、例えば10μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、一層好ましくは30nm以下が挙げられる。被覆層23の厚みの下限としては特に限定されないが、被覆層23を電極として有効に作用させる観点から、例えば1nm以上が挙げられる。
【0047】
なお、図示していないが、図2A及び図2Bに示す作用極2a,2b、並びに図3に示す作用極2cにおいては、表面Sが電解質5と接触していればよく、本発明の効果を損なわない限り、任意の他の層が任意の位置に積層されていてもよい。
【0048】
他の層の例として、作用極2a,2b,2cと電解質5との間に積層されるセパレータが挙げられる。セパレータを構成する材料としては、多孔質材料であれば特に限定されず、例えば、多孔質ポリプロピレンフィルム、多孔質ガラスフィルム、セルロースフィルム等が挙げられる。セパレータの厚みについては特に限定されず、作用極2a,2b,2cの構成層である母材金属層21a,21bの表面プラズモン共鳴吸収特性を有効利用する観点から、例え5μm~50μmが挙げられる。さらに、セパレータを作用極の方向へ加圧するための加圧部を含んでいてもよい。
【0049】
他の層の別の例として、図2A又は図2Bに示す作用極2a,2b、若しくは図3に示す作用極2cと、透明材料層4と、の間に積層される接着層が挙げられる。この接着層は、作用極2a,2b,2cと透明材料層4との間の接着性を向上させる目的で設けることができ、このような接着層の材料としては、例えば、タングステン、クロム、チタン等が挙げられる。接着層の厚みとしては特に限定されないが、本発明の分析法で用いられる表面プラズモン共鳴吸収分光法を効果的に利用する観点から、例えば10nm以下、好ましくは2nm以下が挙げられ、接着層として有効に機能させる観点から、例えば1nm以上が挙げられる。
【0050】
透明材料4上にこれら作用極2(作用極2a,2b,2c)及び必要に応じて積層される他の層を設ける方法としては特に限定されず、当業者に公知の製膜法及び/又はラミネート法を適宜選択することができる。製膜法の具体例としては、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等が挙げられる。
【0051】
作用極2は、必要に応じて、適当な作用極集電部材6に保持されることができる。作用極集電部材6は、作用極2に電気的に接続され、かつ、電解質5と二次電池1とを光学的に遮らない態様で設けられればよい。例えば、図1に示すように、作用極集電部材6は、作用極2の周縁部を接触支持するように構成された、貫通孔を有する部材(図1の態様ではリング状部材)に、作用極端子WTが延設されている。
【0052】
対極集電部材7の材料としては特に限定されないが、好ましくは、ステンレス合金、銅、ニッケル、チタン、亜鉛、白金等の大気中で安定な金属が挙げられ、より好ましくはステンレス鋼材が挙げられる。
【0053】
[1-1-1-3.対極]
対極3の材料としては、上記の作用極2で起こる還元(酸化)反応に対応する酸化(還元)反応を起こし、上記の作用極に流す電流を受けることができる材料が、キャリア金属元素の種類に応じて当業者によって適宜選択される。対極3の材料の具体例としては、二次電池1がリチウムイオン電池である場合、金属リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等の正極材料、リチウムをプレドープした負極材料等が挙げられ;二次電池1がナトリウムイオン電池である場合、金属ナトリウム、ナトリウム遷移金属酸化物(NaFeO2、NaCoO2、NaMnO2等)、ナトリウムをプレドープしたチタン酸化物及びハードカーボン等が挙げられ;二次電池1がカリウムイオン電池である場合、金属カリウム、カリウムドープ黒鉛等が挙げられ、二次電池1がマグネシウムイオン電池である場合、金属マグネシウム、マグネシウムビスマス合金等が挙げられ;アルミニウムイオン電池である場合、金属アルミニウム、多孔質グラファイト等が挙げられ;カルシウムイオン電池である場合、金属カルシウム等が挙げられ;亜鉛イオン電池である場合、金属亜鉛、多孔質炭素、亜鉛合金等が挙げられる。
【0054】
対極3の厚みとしては特に限定されないが、例えば50~300μm、好ましくは150~250μmが挙げられる。
【0055】
対極3は、必要に応じて、適当な対極集電部材7に積層されて保持されることができる。また、対極3の材料として金属リチウムのような大気中で不安定な金属が用いられる場合等においては、対極3は、図1に示すように、二次電池1中に完全に封入されるよう、対極集電部材7の表面の一部に積層されることができる。対極集電部材7の表面において、対極3は、光の照射部分で確実に金属析出が起こるように、直径1cm以下、好ましくは直径0.3~0.7cm相当の円状の大きさで儲けられることが好ましい。対極集電部材7は、対極3を電気的に接続される状態で積層可能なものであればよい。例えば、図1に示す例では、対極集電部材7は、対極3を接触状態で積層できる表面を有する板状部材に、対極用端子RTが延設されている。
【0056】
対極集電部材7の材料としては特に限定されないが、好ましくは、ステンレス合金、銅、ニッケル、チタン、亜鉛、白金等の大気中で安定であり、かつ図1に示す例のように電解質5に接する場合はキャリア金属元素と合金化反応しない金属が挙げられ、より好ましくはステンレス鋼材が挙げられる。
【0057】
[1-1-1-4.電解質]
電解質5としては、二次電池の電解質として用いられるものであればどのようなものを用いてもよい。また、電解質5の性状としては、液体電解質及び固体電解質のいずれであってもよい。液体電解質及び固体電解質は、キャリア金属元素の種類に応じて当業者によって適宜選択される。
【0058】
液体電解質の溶媒としては、特に限定されないが、例えば炭酸エステル系溶媒(炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸エチルメチル、炭酸ジメチル(DMC)等)、エーテル系溶媒(テトラグライム(G4)、トリグライム等のグライム溶媒等)等の有機溶媒;ピリジニウム、ピペリジニウム(N-メチル-N-プロピル-ピペリジニウム(PP13)等)、ピロリジニウム(N,N-ジメチルピロリジニウム(Py11)、N-メチル-N-エチルピロリジニウム(Py12)、N-メチル-N-ブチルピロリジニウム(Py14)等)、イミダゾリウム(1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI)、ジメチルイミダゾール(DMI)、プロピルメチルイミダゾール(PMI)、ブチルメチルイミダゾール(BMI)等)等の脂肪族四級アミンと、フッ化物系アニオン(ビスフルオロスルフォニルアミド(FSA)アニオン、ビストリフルオロメチルスルフォニルアミド(TFSA)アニオン、フルオロトリフルオロメチルスルフォニルアミド(FTA)アニオン等)とからなるイオン液体等が挙げられる。これらの有機溶媒及びイオン液体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
また、液体電解質の電解質塩としては、特に限定されないが、二次電池1がリチウムイオン電池である場合、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム (LiBF4)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)アミド(LiTFSA)等の解離性の高いリチウム塩が挙げられ;二次電池1がナトリウムイオン電池である場合、NaLiPF6、NaTFSA、NaFSA、NaBF4が挙げられ;二次電池1がカリウムイオン電池である場合、KPF6、KFSA、KTFSA、KBF4等が挙げられ、二次電池1がマグネシウムイオン電池である場合、Mg(TFSA)2等、及び添加剤としてのMg(BH42、MgCl2等が挙げられ;アルミニウムイオン電池である場合、ハロゲン化アルミニウム(塩化アルミニウム(AlCl3)、臭化アルミニウム(AlBr3)等)等が挙げられ;カルシウムイオン電池である場合、Ca(TFSA)2が挙げられ;亜鉛イオン電池である場合、塩化亜鉛(ZnCl2)、硫酸亜鉛(ZnSO4)が挙げられる。
【0060】
固体電解質としては、二次電池1がリチウムイオン電池である場合、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43、Li7La3Zr212、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46(LIPON)、Li3.6Si0.60.44、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO43、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)等の酸化物系固体電解質;Li10GeP212、Li3.25Ge0.250.754、30Li2S・26B23・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P25、50Li2S・50GeS2、Li7311、Li3.250.954等の硫化物系固体電解質が挙げられ;二次電池1がナトリウムイオン電池である場合、Na-β-Al23、NASICON、Na3PS4、Na3SbS4、Na7311、Na7311等が挙げられ;二次電池1がカリウムイオン電池である場合、K2/3Mg2/3Te1/32等が挙げられ、二次電池1がマグネシウムイオン電池である場合、MgZr4(PO46、β-MgSO4:Mg(NO32-0.4MgO、Mg(BH4)(NH2)、MgSc2Se4等が挙げられる。
【0061】
[1-1-1-5.透明材料層]
透明材料層4の材料としては、電解質5に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料であれば特に限定されない。本発明で用いられる透明材料層4に用いられる材料の例としては、表面プラズモン共鳴吸収分光が可能な波長域の光を透過する、ガラス、プラスチック及びセラミックスが挙げられる。ガラスとしては、様々な屈折率を有するガラスが挙げられ、例えば、フリントガラス、クラウンフリントガラス、クラウンガラス、クリスタルガラス、ソーダ石灰ガラス、フローライト等が挙げられる。プラスチックとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0062】
電解質5に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料は、具体的には、一般的な全反射の式(スネルの法則)に基づいて適切な屈折率を決定し、決定した屈折率を有する透明材料を任意に選択することができる。
【0063】
透明材料の屈折率をn0、電解質5の溶媒又は固体電解質の屈折率をn1、光の入射角をθ0図1に示す入射光Iの入射角θ0に相当)とすると、全反射が起こる条件は以下の式で表される。
【0064】
【数1】
【0065】
例えば入射角θ0を60°とした場合、n0>1.155n1となる。一例として、リチウム系二次電池の液体電解質に多用される炭酸プロピレン溶媒の場合、当該溶媒の屈折率n1は1.421であるから、材料の屈折率n0は1.64超と算出される。この場合、好適には、屈折率が1.78以上であるガラス板を透明材料層4の材料として用いることができる。入射角θ0は全反射条件及びプラズモン条件を満たす限りにおいて限定されないため、材料の屈折率n0は、適宜選択される入射角θ0及び/又は電解質5の溶媒又は固体電解質の屈折率に応じて広く選択できる。
【0066】
本発明においては、入射光Iを全反射させるためのいかなる部品が用いられてもよい。図1に示す態様では、二次電池1は、透明材料層4の、作用極2と反対側に設けられたプリズムPを更に含んでいる。図示された態様においては、プリズムPとして三角柱プリズムを示している。
【0067】
プリズムPと透明材料層4との具体的態様としては、両者が一体的に成形されている形態、プリズムPと透明材料層4とが直接光学的に接続されている形態、及びプリズムPと透明材料層4とが、それらの間に光学面平滑剤(例えば、パラフィンオイル、ポリブテン含有オイル等の光学マッチングオイル、及び水等)を介在させることにより光学的に接続されている形態が挙げられる。
【0068】
[1-1-1-6.二次電池の形態]
本発明では、後述するように、作用極2に対して、電解質5と接触する表面Sの反対面側から入射光Iを照射して分析するため、非常に簡便な方法でオペランド測定が可能である。分析に供する二次電池の形態としては、図1に示すような密閉系のセル、並びに図示していないがセパレータを有するセル及び加圧拘束を必要とする全固体電池等の、実際の電池構成に共通する形態を選択することができる。その他、二次電池1のさらに詳細な構造及び組み立て方法については、後述「2.二次電池」で述べる。
【0069】
[1-1-2.二次電池の作動]
上記の二次電池1の作用極2と対極3とを電気化学測定装置に接続し、電圧及び電流を印加する。図1に示す態様においては、作用極2は、作用極端子WTを有する作用極集電部材6に電気的に接続されており、対極3は、対極端子RTを有する対極集電部材7に電気的に接続されており、作用極端子WTと対極端子RTは電気化学測定装置の該当する端子に接続される。
【0070】
本発明においては、少なくとも充電反応を行い、二次電池1が金属電池の場合には作用極2a(図2A)又は作用極2b(図2B)にキャリア元素の金属を析出させ、二次電池1がMイオン電池の場合には作用極2bの被覆層23(図3)にキャリア元素イオンを吸蔵させる。二次電池の作動には、任意の電気化学測定装置を用いることができる。
【0071】
[1-2.エバネッセント場を発生させる工程、表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する工程]
[1-2-1.測定原理]
本発明では、透明材料層4の側から電解質5の側の方向へ、表面プラズモン共鳴吸収分光が可能な波長域の光(入射光I)を入射することで、動作している二次電池1に対し、光学的全反射減衰法 (Attenuated Total Reflection:ATR)を利用した分光法を行う。作用極2の金属で構成される層上(具体的には、図2Aで示される作用極2aの場合にあっては金属母材層21aの表面S上;図2Bで示される作用極2bの場合にあっては被覆層22の表面S上;図3で示される作用極2cの場合にあっては被覆層23と金属母材層21bとの界面及び/又は被覆層23中をいう。以下において同様。)にキャリア元素の単体金属が析出することで生じる、金属母材層を構成する材料の表面プラズモン共鳴の固有モードの変化を、その吸収スペクトルの変調として検出する。入射光Iの入射角θ0については全反射条件及び表面プラズモン共鳴条件を満たす角度であれば特に限定されない。
【0072】
つまり、本発明では、作用極2の、キャリア元素の単体金属の析出が起こる電解質5側とは反対側から測定を行うことができる。キャリア元素の単体金属の析出が起こる側は、電解質5(場合によりさらにセパレータ)、対極3などの障害物が多いため、当該側からキャリア元素の単体金属の析出を直接観察することは困難であり、当該側からの直接観察を可能とするには、二次電池を開放型セルなどの特殊な形態で設計する必要がある。しかしながら、本発明では、キャリア元素の単体金属が析出する電解質5側とは反対側から入射光Iを照射するため、上記のような障害物の影響は全く受けない。このため、上述したように、分析に供する二次電池の形態として、実際の電池構成に共通する形態を選択することが可能となる。また、アルカリ金属およびアルカリ土類金属元素の単体金属は高活性であるので、その析出を扱う場合には、アルゴン封入グローブボックスやドライチャンバー等の不活性非水環境を要するが、本測定の実施環境においてはこれらも不要である。
【0073】
図4及び図5に、図1の作用極2近傍を拡大し、本発明の分析法におけるエバネッセントを発生させる工程及び表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する工程を模式的に示す。図4及び図5に示すように、透明材料層4の側から電解質5の側の方向へ光(入射光I)を入射し、作用極2の表面Sにエバネッセント場(Evanescent Field:EF)を発生させ、エバネッセント場EFでの表面プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定する。
【0074】
二次電池1に対して入射光Iが所定の入射角で入射すると、図4に示すように、透明材料層4の界面で全反射するとともに、作用極2側の、入射光Iの波長程度の厚みの領域に電磁場の染み出し、つまりエバネッセント場EFが発生する。二次電池1は、透明材料層4に表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層(図2A図2B及び図3に示す金属母材21a,21bに相当する層)が直接積層されているため、エバネッセント場EFにおける電磁波、つまりエバネッセント光が当該金属母材層の自由電子と共鳴し、特定の波長の光が強く吸収される。これを表面プラズモン共鳴吸収と呼ぶ。従って反射光Rを分光すると、図4中のスペクトル(横軸:波長、縦軸:反射強度)に例示されるように、特定の波長の光の吸収(図中矢印で示される吸収ピーク)が観測される。
【0075】
表面プラズモン共鳴吸収による光吸収スペクトルの特徴は、金属母材層21a,21bの自由電子とエバネッセント光との共鳴の固有状態に強く依存する。このため、電気化学測定装置等により動作している二次電池1において、図5に示すように、作用極2の金属で構成される層上にさらに別種の金属であるキャリア元素の単体金属が析出すると、当該析出したキャリア元素の単体金属(Deposited Metal:DM、以下において、単に「金属DM」とも記載する)の自由電子による影響により、エバネッセント場EFにおける金属母材層21a,21bの表面プラズモン共鳴の固有状態は顕著に変化する。その結果、図5中のスペクトル(横軸:波長、縦軸:反射強度)に例示されるように、その形状は顕著に変化する。例えば図5に示すように、図4中矢印で示した特徴的な吸収ピークが減衰するとともに長波長側へシフトしている。
【0076】
析出した金属DMが金属母材層21a,21bの表面プラズモン共鳴の固有状態に及ぼす影響は極めて甚大であり、共鳴吸収スペクトルを顕著に変化させる。その感度は、例えばリチウム原子2~3原子相当の厚みの析出を捉えるほどに鋭敏である。
【0077】
通常、動作している二次電池1において作用極2の金属で構成される層上にキャリア元素の単体金属が析出する場合、それと同時に作用極の表面Sでは電解質5の還元分解による被膜の生成も伴う。しかし、電解質5に由来する被膜は有機化合物又は無機化合物であり、いずれも非金属であるため自由電子を有さない。したがって、キャリア元素の単体金属が析出する場合と異なり、被膜生成によってもたらされる表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化は限定的である。つまり表面プラズモン共鳴吸収スペクトルは自由電子を有するキャリア元素の単体金属析出に対してのみ甚大な変化を示すので、本発明の方法は、キャリア元素の単体金属の析出を、被膜生成とは明確に区別して極めて高い選択性をもって検出することができる。
【0078】
作用極2の金属で構成される層上に析出した金属DMからのプラズモン共鳴吸収(SPR)による反射スペクトルは、マトリックス法による多層膜反射の式を使って計算することでシミュレーションができる。マトリックス法による多層膜反射の式については公知であり、具体的には、"Raman scattering and attenuated-total-reflection studies of surface-plasmon polaritons", K. Kurosawa, R. M. Pierce, S. Ushioda, and J. C. Hemminger, Phys. Rev. B 1986, 33, 789-798.を参照することができる。また、金属析出の初期段階で、電解質中に金属DMの微小核が生成することを考慮する場合、金属DMの微小核の充填率及び析出膜厚によっては、混合薄膜の屈折率(具体的には、電解質と金属DMの微小核とを一つの媒質とした屈折率)(又は誘電率)を有効媒質近似理論により算出することができる。有効媒質近似理論については公知であり、具体的には、「偏光解析法における膜厚測定および有効媒質近似理論」, 川畑州一, 表面科学 1997, 18, 681-686.を参照することができる。
【0079】
[1-2-2.測定系]
図6に、本発明の分析法を実施するために設計される測定系の一例を模式的に示す。
【0080】
二次電池1は上述のように任意の電気化学測定装置に接続する。この電気化学測定装置が二次電池1に与える電流及び電圧の情報の解析装置としてコンピュータPC1を用いることができる。
【0081】
入射光Iに関しては、図6に示すように、適当な光源を用いることができる。光源からの拡散光は凸レンズで平行化し、平行化された光からビームアパチャーで所定量の平行光束を取り出すことができる。さらに所定の偏光板を通過させることで、表面プラズモン共鳴を励起可能なP偏光モードの入射光、及び非励起性のS偏向モードの入射光などを任意に選択して用いることができる。
【0082】
入射光Iの生成に用いる光源としては、キセノンランプ、白熱電球、スペクトルの輝度変動が少ない広帯域のLED、タングステンランプ等を用いることができる。光源から発する光としては広波長帯域の可視光や近赤外光を含んでいればよく、好ましくは白色光が挙げられる。白色光は人体への影響もなく、大気中を伝播できるため、本発明の分析法では、高真空条件や遮蔽設備など特殊な計測環境が必要となるX線や電子線が不要となる。
【0083】
反射光Rのスペクトル情報の取得は、図6に示すように、反射光Rを必要に応じてミラーで案内し、分光器へ導くことによって行うことができる。分光器については、通常の表面プラズモン共鳴吸収法で用いられる任意の機器を用いることができる。また、分光スペクトル情報の解析装置としてコンピュータPC2を用いることができる。
【0084】
図示された例では、電流及び電圧の情報の解析と分光スペクトル情報の解析とを別々のコンピュータで行うオペランド測定例を挙げているが、同一のコンピュータを用いてもよい。これにより電流及び電圧の情報の取得時(例えばコンピュータへの取り込み時)と分光スペクトル情報の取得時(例えばコンピュータへの取り込み時)とを同期させることができる。
【0085】
このように、本発明の分析法に用いられる光学系は、光源、スペクトル分光器、及び一般的な光学部品だけで完結するため、極めて簡易な構成とすることができる。さらに、本発明の分析法に用いられる光学系は、上記スペクトル分光器の代わりに、波長分解能の高いカラーカメラ(ハイパースペクトルカメラ)を用いることもできる。この場合、当該カラーカメラにより二次元の色情報を得ることができるため、電極上の析出状況を二次元マッピングすることが可能になる。
【0086】
[1-2-3.金属イオン電池における測定]
金属イオン電池の安全性は、電池内部での金属析出(キャリア金属元素が金属として析出すること)をいかに抑制するかによって決定づけられる。本発明の分析法では、金属イオン電池の充電動作において、金属析出の有無に基づいて安全性を評価することができる。
【0087】
具体的には、金属イオン電池のオペランド測定においては、作用極2上への金属析出の有無を、表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化の有無に基づいて判断することができる。上述の通り、本発明の分析法では、作用極2上へ析出したキャリア元素の単体金属を極めて高感度で検出できるため、本発明の分析法によれば、金属析出、特にデンドライト析出の有無などの安全性評価を極めて精度よく行うことができる。
【0088】
[1-2-4.金属二次電池における測定]
金属二次電池の安全性は、充電動作においていかに均質な金属析出(キャリア金属元素が金属として析出すること)を実現するかによって決定づけられる。本発明の分析法では、金属二次電池の充電動作において、キャリア元素の単体金属の析出形態に基づいて安全性を評価することができる。
【0089】
具体的には、金属二次電池のオペランド測定においては、キャリア元素の単体金属の析出量に対する表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化の応答に基づいて、その金属の析出形態を判断することができる。表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化としては、吸収ピーク波長、吸収ピーク強度、並びにピーク半値幅などのピーク形状の変化が挙げられる。また、キャリア元素の単体金属の析出量は電気化学測定装置でモニターされる電流と電圧の相関、及び/又は電流値の時間積分値である電気量から類推することが可能である。
【0090】
ここで、キャリア元素の単体金属の析出形態としては、図13に示すように大きく4つの形態が挙げられる。図13では、作用極の金属で構成される層上の金属DMの様々な形態を模式的に示している。図13(a)は高密度核分散析出のモデルを示し、このモデルでは、初期の金属DM粒子の大きさが一定で、析出に伴ってその数が増加する。図13(b)は低密度核成長析出のモデルを示し、このモデルでは、初期から金属DM核の数が一定で、析出に伴い各々の金属DM核が肥大化する。図13(c)は金属DMの針状成長、すなわちデンドライト析出のモデルを示し、このモデルでは、金属DMが縦方向に伸長することを仮定している。図13(d)は均質膜析出のモデルを示し、このモデルでは、析出開始時からDMが均質膜をなし、その厚みが増大する。
【0091】
吸収ピークの波長に基づく変化については、金属DMの析出量が多くなるほど、吸収ピークは長波長側にシフトしていく。このため、金属DMの析出が作用極2の表面Sにおいて均質であればあるほど、つまり図13(d)の均質膜に近ければ近いほど、金属DMの析出量の増加に伴う表面プラズモン共鳴吸収スペクトルのディップ波長の長波長側へのシフトが緩やかになる。
【0092】
また、光学反射スペクトルのディップの深さ、すなわち表面プラズモン共鳴吸収の強度については、図13(a)のモデルの場合、金属DMの平均膜厚が所定厚(例えば2nm)以下ではDMの析出量が多くなるに伴って急激に減衰し(ピーク反射率が急激に大きくなり)、DMの析出平均膜厚が所定厚を超えると急激に大きく(ピーク反射率が急激に小さく)なる。図13(b)のモデルの場合、DMの析出平均膜厚が所定厚(例えば2nm)以下では金属DMの析出量が多くなるに伴って吸収ピーク強度が急激に減衰し(ピーク反射率が急激に大きくなり)、金属DMの析出平均膜厚が所定厚を超えると吸収ピークは依然減衰傾向にあるものの、その傾向が極端に緩やかに(ピーク反射率が大きくなる傾向が急激に緩やかに)なる。図13(c)のモデルの場合、金属DMの析出平均膜厚が所定厚(例えば2nm)以下では金属DMの析出量が多くなるに伴って吸収ピークが急激に減衰し(ピーク反射率が急激に大きくなり)それ以上の膜厚になってもピークは減衰して表面プラズモン共鳴吸収のピークは消失したままとなる。図13(d)のモデルの場合、金属DMの析出量の増加に伴い、ほぼ一定の傾向で吸収ピーク波長が変化し、ピーク反射率が大きくなる (反射率のディップが減衰していく)。ここで、吸収ピークの波長が変化するのは、金属DM自体が表面プラズモン共鳴吸収特性を有する場合であり、観察される光学スペクトルの起源が、金属母材層21a,21bに由来する表面プラズモン共鳴吸収から金属DMに由来する表面プラズモン共鳴吸収へと変遷していくことによる。ここで、リチウム、ナトリウム、カリウムはプラズモン活性を有する金属であるので、キャリア元素がリチウム、ナトリウム又はカリウムである場合にこのような吸収ピークのシフトが予測される。吸収ピーク反射率が大きくなる(吸収スペクトルのディップが減衰していく)のは、金属DMの析出により、その膜厚と金属母材層21a,21bの膜厚の総厚が大きくなることによる。
【0093】
このように、金属DMの析出形態の違いが、その析出量に対する吸収ピーク波長および吸収ピーク強度の変化の特徴に強く反映される。したがって表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化に基づいて、金属DMの析出形態を判断することができる。
【0094】
表面プラズモン共鳴吸収スペクトルのシミュレーションは種々の金属DM析出モデルで可能である。すなわち様々な金属DMの析出形態を多数仮定し、それに対応するスペクトル変化の様相を網羅的にシミュレーションすることも可能である。このようなシミュレーションデータの蓄積をもとにして、実験的に確認された表面プラズモン共鳴スペクトル変化の特徴から、対応するDM析出形態を機械学習により逆推定することも可能である。
【0095】
[1-2-5.金属析出に伴う現象の解析]
上記「1-2-1.測定原理」で述べた通り、作用極2の金属で構成される層上におけるキャリア元素の単体金属の析出により、表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化は極端に変化する。一方で、作用極2の表面Sにおける有機または無機被膜の生成は界面付近の媒質の屈折率を変化させる程度に留まるため、皮膜生成によってもたらされる表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化は限定的である。また電解質5の濃度の変化も界面付近の媒質の屈折率を変化させる要因となるが、それによってもたらされる表面プラズモン共鳴吸収スペクトルの変化はやはり限定的である。これらの変化は、キャリア元素の単体金属が析出しない電位における表面プラズモン共鳴吸収スペクトルのかすかな変化、例えば吸収ピーク波長の変化などによって確認することができる。従って、本発明の分析法では、作用極2の表面Sにおける被膜の生成及び/又は電解質5の表面S近傍における濃度変化といった、キャリア元素の単体金属析出に伴った諸現象も独立して分析することができる。
【0096】
[2.キャリア金属元素析出挙動のオペランド分析用二次電池]
本発明のキャリア元素の単体金属析出挙動のオペランド分析用二次電池(以下において、単に「二次電池」とも記載する。)は、表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み、且つキャリア元素と合金化しない材料で構成された表面を有する作用極と;対極と;前記作用極の前記表面及び対極に接する電解質と;前記作用極の前記表面とは反対面側に積層された、前記電解質に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層と、を含む。
【0097】
本発明の二次電池については、上記「1-1-1.所定の構成の二次電池」で述べた通りであり、一例として図1に示される二次電池1が挙げられる。つまり、二次電池1は、表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属母材層を含み且つキャリア金属元素と合金化しない材料で構成された表面Sを有する作用極2と、対極3と、作用極2の前記表面S及び対極3に接する電解質5と、作用極2の前記表面Sとは反対面側に積層された、電解質5に対して全反射が起こる屈折率を有する透明材料層4と、を含む。
【0098】
さらに、図示された例では、二次電池1は、筒状部材8(例えば円筒状部材)を含み、作用極2及び透明材料層4を支持する作用極集電部材6と、対極3が設けられた対極集電部材7と、で両開口端部が封止された筒状部材8の中に、電解質5が封入されている。また、二次電池1は、透明材料層4が光学窓をなしているが、筒状部材8の密封性と対極集電部材7と作用極2との電気的接続の安定性とを一層高める観点から、窓Wが穿通された窓付き部材9をさらに含み、筒状部材8の一方の開口端部と窓W付き部材9との間に、作用極集電部材6と電気的接続された作用極集電部材6と作用極2及び透明材料層4とを挟持していることが好ましい。
【0099】
筒状部材8及び窓W付き部材9の材料としては特に限定されないが、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のプラスチックが挙げられる。
【0100】
本発明の二次電池の組み立て方法としては特に限定されない。図7に、図1の二次電池1の組み立て工程の一例を示す。図7に示すように、二次電池1は、透明基材層4となる基板表面に作用極2を積層して積層体aを作成する工程;筒状部材8(例えば円筒状部材)の一方の開口端部と窓W付き部材9との間に、ガスケットо(例えばOリング)と、作用極集電部材6と、作用極2が作用極集電部材6と接触し且つ筒状部材8側を向くように配設された積層体aと、を挟持することで当該開口端部を封止し、アセンブリbを作成する工程;対極集電部材7表面に対極3を積層して積層体cを作成する工程;アセンブリbの筒状部材8の他方の開口端部に、ガスケットо(例えばOリング)を介して、積層体cを取り付けて封止する工程;筒状部材8内部の空間に電解質を封入する工程;アセンブリbにおける窓Wに、光学面平滑剤(図示せず)を介してプリズムPを取り付ける工程と、を含むことができる。
【実施例0101】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
[予備試験例]SPRSのシミュレーション
電解質中に置かれた金属電極上に析出した金属薄膜からの表面プラズモン共鳴吸収スペクトル(SPRS)を、シミュレーションにより予測した。なお、SPRSのシミュレーションは、マトリックス法による多層膜反射の式(“Raman scattering and attenuated-total-reflection studies of surface-plasmon polaritons”, K. Kurosawa, R. M. Pierce, S. Ushioda, and J. C. Hemminger, Phys. Rev. B 1986, 33, 789-798.)を使って計算した。また、金属DMの析出の初期段階で電解液中に析出金属が微小に析出することから、析出した金属DMの充填率及び析出膜厚によって混合薄膜の屈折率(又は誘電率)を有効媒質近似理論(「偏光解析法における膜厚測定および有効媒質近似理論」, 川畑州一, 表面科学 1997, 18, 681-686.)により算出した。
【0103】
<予備試験例1>様々な電極金属を用いた場合のSPRSのシミュレーション
金属電極が、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)、又はニッケル(Ni)の単層である場合と、金電極表面にリチウムと合金化しないニッケル被覆層が積層された複層(Ni/Au)である場合とについて、SPRSをシミュレーションにより予測した。
【0104】
Cu、Au、Ag、Pt、Zn、及びNiの単層の膜厚は、それぞれ、45nm、50nm、55nm、25nm、20nm、及び15nmとした。また、Ni/Au複層については、金層の膜厚を50nm、ニッケル被覆層の膜厚を2nmとした。Cu、Au、Ag、及びNi/Auについてのシミュレーション結果を図8Aに示し、Pt、Zn、及びNiについてのシミュレーション結果を図8Bに示す。
【0105】
図8Aに示すように、Au及びCuについては互いに似たスペクトルになったが、Agについては明らかに異なるプラズモン吸収ピークとなった。いずれの金属についてもプラズモン吸収ピークは極めて深いディップを有しており、金属析出挙動の分析で使用するにあたり極めて好ましい表面プラズモン吸収特性を有するものであることが示された。また、Ni/Auでは、2nm厚ニッケル層の存在によりプラズモン吸収ピークの減少がいくらか認められたものの、スペクトルは十分な程度のディップを有しており、金属析出挙動の分析で使用するにあたり何ら問題とならないものであった。したがって、Ni/Auも、金属析出挙動の分析で使用するにあたり好ましい表面プラズモン吸収特性を有するものであることが示された。
【0106】
また、図8Bに示すように、Pt及びZnについてもプラズモン吸収ピークが認められた。Ptのプラズモン吸収ピークも深いディップを有し、Znについてはプラズモン吸収ピークがやや小さいもの明らかなディップを有していることから、いずれも金属析出挙動の分析で使用可能な表面プラズモン吸収特性を有するものであることが示された。一方で、Niについてはプラズモン吸収ピークが認められなかったため、単独では金属析出挙動の分析で使用可能な表面プラズモン吸収特性を有しないことが示された。
【0107】
<予備試験例2>電極金属及び析出金属の様々な組み合わせによるSPRSのシミュレーション
電極金属及び析出金属の組み合わせとして、銅電極上にリチウム(Li/Cu)、金電極上にナトリウム(Na/Au)、及び銀電極上にカリウム(K/Ag)がそれぞれ均質膜として様々な膜厚で析出する場合のSPRSをシミュレーションにより予測した。シミュレーション結果を図9図11に示す。
【0108】
図9図11に示すように、Li/Cu、Na/Au、及びK/Agのいずれの場合においても、析出量(析出膜厚)の増大に伴いSPRSの吸収ピークが長波長側へシフトすることが示された。前述項目「1-2-4.金属二次電池における測定」で図13(d)のを参照して説明した通りに、リチウム、ナトリウム、カリウムはプラズモン活性を有する金属であるために、銅、金、銀のプラズモン吸収ピークのシフトが予測されている。
【0109】
<予備試験例3>銅電極上のリチウム析出の様々な析出形態によるSPRSのシミュレーション-1
銅(Cu)電極上にリチウム(Li)が不均質膜又は均質膜として析出する場合のSPRSをシミュレーションにより予測した。膜厚1nm相当の不均質膜又は膜厚1nmの均質膜が析出する場合を4パターン想定し、これら析出パターンにおける不均質膜又は均質膜の充填率faを、それぞれ、0.1、0.2、0.5、1.0とした。シミュレーション結果を図12に示す。なお、膜厚1nm相当とは、充填率faが1.0の均質膜で析出した場合に1nm厚となる換算であることをいう。具体的には、充填率faの不均質膜が1nm相当の厚みで析出した場合、当該不均質膜の実際の厚みtは(1×1/fa)nmとなる。例えば、具体的には、充填率faが0.1の不均質膜が1nm相当の厚みで析出した場合、当該不均質膜の実際の厚みは10nm(=1×1/0.1)となる。
【0110】
図12に示すように、リチウムのような二次電池のキャリア元素の単体金属の析出をSPR測定するという斬新な測定系によれば、析出膜厚が1nm相当でも充填率faの違いによってプラズモン吸収ピークの形状や波長シフト量が異なるという、これまでの通常のSPR分野で考えられる程度をはるかに超える感度が可能であることが示された。
【0111】
<予備試験例4>銅電極上のリチウム析出の様々な析出形態によるSPRSのシミュレーション-2
銅電極上のリチウム析出挙動に関して、析出形態のシミュレーションを行った。シミュレーションのモデルとしては、図13に示す4通りの析出モデルを想定した。
【0112】
図13のそれぞれのモデルについてのSPRSのシミュレーション結果を、縦軸に吸収ピーク波長又は吸収ピーク反射率(吸収ピーク強度)、横軸に平均膜厚を取って図14に示す。図14上図に示すように、吸収ピーク波長に関してはいずれのモデルでも、析出に対して長波長側にピークシフトしていく様子が伺える。すなわち金属リチウムの析出は銅のSPRSを長波長側に変化させる傾向を示した。一方、長波長シフトの変化の速さは均質膜を仮定したモデル(d)が最も緩やかであった。すなわち、析出形態がより均質膜に近いほど、この波長シフトの傾向は緩やかになることが示された。
【0113】
図14下図に示すように、吸収ピーク強度に関しては、モデル(a)とモデル(b)とが析出平均膜厚2nm以下の領域でほぼ同じ傾向、すなわち吸収ピークの減衰が確認できるが、それ以降の析出領域では挙動は大きく異なっている。すなわち、モデル(a)では再び減衰したピークが再び増大し、吸収スペクトルが再度出現するのに対し、モデル(b)の場合は減衰したまま、つまりピークは消失したままとなる。モデル(b)の傾向はモデル(c)及びモデル(d)の傾向とも異なっており、つまりリチウム析出の極初期において極端なピーク長波長シフトとピーク強度の減衰がみられ、それ以降は明瞭なスペクトルは確認できなくなることが示された。
【0114】
<予備試験例5>電極金属及び析出金属の様々な組み合わせによるSPRS吸収ピークのシミュレーション
電極金属を、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、及びニッケル層が積層された金(Ni/Au)とした。銅(Cu)、金(Au)、及び銀(Ag)の膜厚は約50nmとし、ニッケル層が積層された金(Ni/Au)については、ニッケル層の膜厚を1~2nm、金の膜厚を約50nmとした。また、析出金属を、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)又は亜鉛(Zn)とした。電解質中で電極金属上に金属微粒子膜が膜厚1nm相当(充填率fa=0.1,膜厚10nm)析出したとしてプラズモン吸収ピーク波長をシミュレートした。シミュレーション結果を表1に示す。なお、表1ではプラズモン吸収ピーク波長と共に、括弧内に波長シフト量を示している。また、シミュレーション結果を示していない電極金属及び析出金属の組み合わせは、電極金属及び析出金属の合金化特性を考慮して計算対象から除外したものである。
【0115】
【表1】
【0116】
表1に示すように、計算されたいずれの組み合わせにおいても、膜厚1nm相当の金属析出についてプラズモン吸収ピーク波長のシフトが計算できた。
【0117】
上記予備試験例1~5のシミュレーション結果より、上記シミュレーションに用いた金属以外、例えば、白金、アルミニウム、亜鉛、並びに、金、銀、白金、アルミニウム、及び/又は亜鉛を含む合金等の電極金属として使用可能とされている金属についても同様に、SPRSに基づいて金属析出挙動の分析で使用可能なことが推認できる。
【0118】
なお、表1のシミュレーション結果は、充填率fa=0.1を計算条件としたものであるため、キャリア元素がLi又はNaの場合は屈折率が増加しプラズモン吸収ピーク波長がプラス側(長波長側)にシフトする一方、キャリア元素がKの場合は屈折率が減少しプラズモン吸収ピーク波長がマイナス側(単波長側)にシフトした計算結果となっている。一方、図9図11に示した連続膜(すなわち充填率fa=1)の場合は、キャリア元素がLi、Na、Kいずれの場合にもプラズモン吸収ピーク波長がプラス側(長波長側)にシフトする計算結果となっている。計算されるシフト量は、キャリア元素の種類と設定する充填率faと膜厚tとに依存するため、同じキャリア元素でも計算結果によってプラズモン吸収ピーク波長はプラス側(長波長側)にシフトする場合とマイナス側(単波長側)にシフトする場合とがあるのは、計算条件の違いによる。
【0119】
[実施例1]オペランド分析用二次電池と光学系の設計
図1に示すオペランド分析用二次電池1(金属リチウム二次電池を模した密閉型分光用電気化学セル)を構築した。作用極2として銅膜(厚み50nm)、対極3として金属リチウム箔(直径5mm,厚み0.2mm)、透明材料層4として高屈折率ガラス円板(直径320mm,厚み2mm,屈折率1.7)、電解質5として、炭酸プロピレン(PC)溶媒中ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解させた液体電解質、作用極集電部材6として、リング状部材に作用極端子WTが延設されたステンレス合金製集電極プラグ、対極集電部材7としてステンレス合金円板、筒状部材8としてPEEK製円筒部材、窓付き部材9として、四角形の窓Wが穿通された(窓Wの両脇には、入射光及び半反射光の光路を遮らないように切り欠きが設けられている)PEEK製の円板状部材を用いた。作用極2及び透明材料層4の具体的な構成は、図2Aに示す通りである。
【0120】
銅膜は高屈折率ガラス表面に真空蒸着によって製膜した(積層体aの作成)。金属リチウム箔はステンレス合金円板表面の中央部に貼り付け、表面をプラスチックシートで研磨して金属光沢を生じさせた(積層体cの作成)。円筒状部材の一方の開口端部と窓付き部材との間に、パーフルオロエラストマー製Oリングと、集電極プラグと、銅膜の周縁部が集電極プラグのリング状部分と接触し且つ円筒状部材側を向くように配設された積層体aと、を挟持することで当該開口端部を封止した(アセンブリbの作成)。アセンブリbの円筒状部材と窓付き部材とは、ねじ止めにより締結した。アセンブリbの円筒状部材の他方の開口端部に、パーフルオロエラストマー製Oリングを介して、積層体cを取り付けて封止した。アセンブリbの円筒状部材と、積層体cのステンレス合金円板とは、ねじ止めにより締結した。円筒状部材の内部に液体電解質を封入し、液体電解質を金属リチウム箔と銅膜とに接触させた。液体電解質の封入は、筒状部材8の壁面に穿通された、栓ねじにより開閉可能な孔を通じて行った。なお、栓ねじにより開閉可能な孔を別にもう1か所設け、密閉された筒状部材8内の液体電解質で置換された空気の排出に用いた。窓付き部材の窓に、光学マッチングオイルを介して三角柱プリズムを光学的に接続した。
【0121】
また、図6に示す光学系を設計した。二次電池1(金属リチウム二次電池を模した密閉型分光用電気化学セル)は適当なセルソケットで保持して電気化学測定装置に接続し、この装置における電流及び電圧の情報の解析装置としてコンピュータPC1を用いた。光源には市販のタングステンハロゲンランプを用いた。レンズで平行化された光束がビームアパチャーを通過後、直径3mmの平行光束として偏光板を通過し、SPR活性のあるP偏光として入射光Iを導くように構成した。また、二次電池1への入射光Iの入射角(図1のθ0に相当する角度)は60°に設定した。また、入射光Iが、二次電池1で全反射しミラーを介して分光器に導かれるように構成した。分光器にはファイバー型マルチチャネル分光器を用い、分光スペクトル情報の解析装置としてコンピュータPC2を用いた。本実施例では、これらコンピュータPC1,PC2の内部時刻を一致させた上で、データ取り込み時刻に基づき、電気化学測定装置における電流及び電圧の情報と分光スペクトル情報とを同期した。
【0122】
[実施例2]サイクリックボルタンメトリーによるリチウム析出の分析(PC中LiPF6
実施例1で作製及び設計したオペランド分析用二次電池及び光学系を用い、サイクリックボルタンメトリーを用いたリチウム析出の分析を行った。
【0123】
(1)電気化学とスペクトルの同時測定
電気化学測定装置には市販のポテンショスタットを用いた。この装置の測定モードはサイクリックボルタンメトリーとし、2mVsec-1の速度で、3.0~-0.3V vs. Li+/Liの範囲で電位を掃引した。データ取り込みのステップは1mV毎とした。
【0124】
スペクトル測定には市販の分光システムを用いた。スペクトルの取り込み時間(露光時間)は1secとし、10sec毎に1スペクトルを連続で記録した。ここで、電気化学測定では10secで20mV電位が掃引されるので、本実施例では20mV毎に1スペクトルを取り込むことになる。
【0125】
図15に、電気化学及び表面プラズモン共鳴吸収スペクトル(SPRS)の同時測定結果を示す。図15左図は、1サイクルのサイクリックボルタモグラムの全体像を示している。各ドットは、図15右図に示したSPRSの取り込み点と対応している。図15右図はサイクリックボルタモグラムの各ドットに対応する電位において測定されたSPRSを示しており、スペクトルの左端には対応する電気化学電位を示している。
【0126】
図15左図に示すとおり、サイクリックボルタモグラム中にリチウムの析出及び溶解に相当する明瞭な酸化還元のピークが観察された。すなわち分光用電気化学セルで目的の電気化学測定が可能なことが示された。さらに、図15右図に示すとおり、電位3.0~0.0V vs. Li+/Liの範囲ではSPRSに極端な変化は認められなかった。これは、当該電位範囲に対応する図15左図のサイクリックボルタモグラム中に明瞭な酸化還元ピークが確認されていないこととよく一致している。
【0127】
なお、0.0V vs. Li+/Li時点でのSPRSは、0.5V vs. Li+/Li時点に比べてその吸収ピーク位置が数nm程度長波長側にシフトしている様子がうかがえる。一般に炭酸プロピレン溶媒系の液体電解質は、0.5V vs. Li+/Li 電位以下で還元分解され、被膜を生成することが知られている。したがってこの長波長シフトは、銅膜上に生成された被膜成分による屈折率の変化を反映していると考えられる。長波長シフトの程度は限定的であることから、被膜の生成がSPRSに大きく影響しないことが分かる。
【0128】
さらに、図16に、リチウム析出電位の範囲で取得したSPRSを図15と同様に示した。図16左図では、リチウム析出電位(0V vs. Li+/Li)以下のサイクリックボルタモグラムを、縦軸を拡大して示している。図16左図に示すように、-0.06V vs. Li+/Li電位付近からボルタモグラムが下方へ大きく変曲しており、これは金属リチウム析出に伴う還元電流の増大を意味している。すなわち金属リチウムの析出は-0.06V vs. Li+/Li付近から生じ始めると予想される。ボルタモグラム中の各ドットに対応する電位において取得したSPRSを図16右図に示している。図16右図に示すように、SPRSの特徴は-0.06V vs. Li+/Li付近までほとんど変化しないが、-0.08から-0.10V vs. Li+/Liにかけて劇的に変化する様子が記録されている。これは銅膜上に金属リチウムが析出されたことにより、そのSPRSが極端に変調された結果であると考えられる。
【0129】
以上より金属リチウム析出が電気化学測定とSPRSとの同時測定によって追跡可能なことが示された。実験結果からは、SPRSの特徴的な変化が-0.12V vs. Li+/Li付近で完了し、それ以降の電位掃引条件においてほとんど変化しないことが確認された。
【0130】
(2)リチウム析出に対するSPRS検出感度の見積もり
上述のとおり、SPRSの変化は-0.08V vs. Li+/Li時点から生じることが確認できた。したがって、SPRSによる金属リチウムの検出可能電位は、約-0.08V vs. Li+/Li以下であると考えられる。
【0131】
サイクリックボルタンメトリー測定では、電流値と電圧値をそれぞれ時間tの関数として記録している。電流値I(t)の積分値である電気量Qは以下の式で求められる。
【0132】
【数2】
【0133】
以下では、表面積S(cm2)の電極に対して、厚みがd(cm)の均質な金属リチウム膜が析出すると仮定する。この厚みdを平均析出膜厚とする。リチウムの密度は0.534(g/cm3)、原子量は6.941(g/mol)であるため、析出する金属リチウムの物質量は0.077Sd(mol)となる。金属リチウム1molの析出では電子1mol=96485Cの電気量が必要であるため、d(cm)の金属リチウム析出に必要な電気量Qは7423Sd(C)となる。したがって、膜厚dは以下の式に示す通り時間tの関数として表現できる。
【0134】
【数3】
【0135】
ここで、電圧値も時間の関数として記録されているため、上記の式に基づいて求めた平均析出膜厚dと電圧との関係を図17に示す。図17ではサイクリックボルタンメトリーの開始電圧3V vs. Li+/Liを電位掃引の開始時刻t=0として、平均膜厚dを電圧に対してプロットしている。金属リチウムの析出は-0.06V vs. Li+/Li付近で生じると考えられるため、それ以前の反応はいずれも、電極表面の不純物の還元及び/又は液体電解質の分解と被膜の生成に起因するものと考えられる。図17では、金属リチウムの析出電位付近の拡大図も併せて示している。0~-0.02V vs Li+/Liの範囲でのグラフの傾きは、上記の通り金属リチウム析出以外の反応によると考えられる。したがって、この範囲のグラフの傾きを外挿して(拡大図中の破線)、正味の金属リチウムの析出量を各電位で見積もった。
【0136】
まず、-0.08V vs. Li+/Li電位における正味の析出量は、平均膜厚で約0.3nm程度と見積もられた。これはリチウム1~2原子層分の厚みに相当する。すなわちSPRSは金属リチウム数原子程度の析出を検出可能な感度を有していると考えられる。これはオペランド測定手法としては極めて良好な感度といえる。
【0137】
また、-0.12V vs. Li+/Li電位における正味の平均析出膜厚は約1.7nm程度(約2nm程度)と見積もられた。SPRSの特徴はこれ以降の電位範囲ではほぼ一定であったため、SPRSの変化は平均析出膜厚約2nm以上でほぼ飽和しうると考えられる。
【0138】
(3)リチウム析出形態に関するシミュレーションとの照合
上記予備試験例4で示したリチウム析出形態に関するシミュレーション結果を上記の実験結果に当てはめた。図16で示された通り、スペクトルの変化は-0.12V vs. Li+/Liすなわち平均析出膜厚が約2nm以降の領域においてスペクトルのピークは消失し、以降-0.3V vs. Li+/Liすなわち30nm程度の膜厚に至っても、変化はなかった。この挙動を説明する析出モデルはシミュレーション上ではモデル(b)以外になく、したがって本実施例における析出形態は低密度核成長析出パターンが最も妥当であると結論付けられた。一般的にも、電気化学的に炭酸プロピレン系液体電解質中での金属リチウム析出のパターンは、モデル(b)に代表されるような低密度核成長析出であると理解されていることにも一致する。つまり、上記の実験結果のシミュレーションへの当てはめは、電気化学的な知見に照らし合わせても妥当な結果であると考えられる。このように、SPRSの変化をシミュレーションと対応させることで、析出形態についての挙動をある程度理解することも可能になることが示された。
【0139】
(4)まとめ
炭酸プロピレン系液体電解質中での金属リチウム析出実験をサイクリックボルタンメトリー測定によって行い、同時にSPRS測定を行った結果、SPRSの変化が平均析出膜厚0.3nm程度で生じ、リチウム数原子層相当のわずかな析出をも鋭敏に検知可能な高感度の分析が可能であることが明らかとなった。さらに実験で記録したSPRS変化の特徴を、典型的な析出モデルを想定したシミュレーションと照合することで、実験結果が低密度核成長析出が妥当であるとの結論が得られ、この結果は電気化学的な知見と比較しても妥当であった。
【0140】
[実施例3]定電流試験によるリチウム析出の分析(PC中LiPF6
実施例1で作製及び設計したオペランド分析用二次電池及び光学系とを用い、サイクリックボルタンメトリーの代わりに、電池の反応としてより一般的な定電流試験を用いたことを除いて実施例1と同様にしてリチウム析出の分析を行った。結果を図18に示す。図18では、1mAcm-2の一定電流密度下でCu蒸着膜上に金属リチウム析出を行った場合に取得した、電池電圧のプロファイル(右図)と対応するSPRS挙動(左図)との相関を示しており、電圧プロファイル及びSPRSの記録間隔はそれぞれ0.1秒及び0.2秒であり、セルは、初期に10秒間2.8Vに電位固定され、次に1mAcm-2の一定電流を5秒間通電し、最後に再度2.8Vに電位固定した。
【0141】
図18に示すとおり、電流を流すことでセル電圧は急速に降下するが、図中のt0から電圧プロファイルが平坦になる様子が見られる。すなわちこの時点から電気化学的なリチウム析出が起こりえたと考えられる。SPRSの波長変化は図中円で囲んだスペクトル、すなわちt1の時点からみられるが、電気化学的なリチウム析出が起こった時点とスペクトルの波長変化が起こった時点との時間差Δt=(t1-t0)は僅か0.1秒である。この時間差に相当する析出電気量Qは0.1mAscm-2となる。ここで、作用極のCu蒸着膜表面に対して、均質に金属リチウムが析出する場合を仮定すると、1nmの金属リチウム析出に要する電気量は0.742mAscm-2と見積もられる。したがって、0.1mAscm-2の析出電気量は金属リチウム0.13nm程度の析出膜厚に相当する。これは金属リチウム1~2原子層分に相当する。つまり、SPRSによる金属リチウム析出の感度は、定電流試験の場合においても極めて高いといえる。
【0142】
[実施例4]定電流試験によるリチウム析出の分析(LiTFSA-G4液体電解液)
電解質5として、炭酸プロピレン(PC)溶媒中ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)の代わりテトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライムG4)中にリチウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)アミド(LiTFSA)を溶解させた液体電解質を用いたことを除いて実施例1と同様にして作製及び設計したオペランド分析用二次電池と、実施例1で設計した光学系とを用い、実施例3と同様にして定電流試験によりリチウム析出の分析を行った。結果を図19に示す。図19図18と同様に、電気化学操作を行った場合の電圧プロファイルと対応するSPRS挙動との相関を示している。但し図19においては、1mAcm-2の通電時間は10秒とした。
【0143】
図19において、SPRSの変化は円で囲ったスペクトルから確認できるが、その取得時点t1は電気化学的リチウム析出が確認できた時点t0よりも0.2秒早い。ここで金属リチウムの析出は電圧が0Vを下回る領域で起こり得る。したがって電圧プラトーが確認できるt0より前の時刻から、僅かな金属リチウムの析出が起こりうる可能性がある。すなわち電圧挙動では捉えることができない程の微小な金属リチウム析出でさえも、SPRSの変化は敏感に検出していると考えられる。電解質によっては、電圧挙動に比べてSPRS挙動の方が、より金属リチウム析出現象に対して敏感な場合があると考えられる。電極電位は一般に、電解質塩濃度によっても変化する。したがって、セルの電圧挙動は、作用極表面の電解質塩の濃度変化によっても影響される。G4等のグライム溶媒を含む液体電解質は粘度が高く、リチウムイオンの濃度拡散挙動がPC系に比べて遅いため、その変化の挙動に時間的遅延が発生する場合がある。一方、SPRSはこのような電解質塩濃度の影響を殆ど受けないため、より正確なリチウム析出挙動を時間的な遅延なく検出できるものと考えられる。
【0144】
[実施例5]定電流試験によるナトリウム析出の分析(EC/DEC中NaPF6
対極として金属ナトリウムを用い、電解質としてナトリウムイオン電池に繁用される炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)との混合溶媒にNaPF6塩を1Mの濃度で溶解させた液体電解質を用いたことを除いて、実施例3と同様にしてナトリウム析出の分析を行った。結果を図20に示す。図20では、定電流での金属Na析出の電圧プロファイルとそれに対応するSPRSの挙動とを示している。電流密度は、実施例3等と同様、1mAcm-2とした。
【0145】
図20に示すように、セル電圧は経過時間10.6秒付近から平坦となっており、これは電極表面への金属Naの電気化学的な析出を意味している。平坦部が出現する時点の時間をt0とし、SPRSの変化が確認できた時間t1=10.7秒との差Δtを計測したところ、Δt=t1-t0=0.1秒であった。ここで、金属Naが電極に均質に析出すると仮定した場合、その析出膜厚1nmは電気量で0.406mAscm-2に相当する。析出開始時点(t0)からSPRSの変化が検出される時点(t1)までに、電流密度1mAcm-2で0.1秒間の析出が起こるので、その電気量は0.1mAscm-2である。これは金属Naの膜厚に換算して約0.25nmとなる。金属Naの格子定数が0.42nmであることを考慮すると、この膜厚はNa結晶の2~3原子層分に相当する。つまり、SPRSによる金属析出の検出感度は元素の種類によらず極めて良好であるといえる。
【0146】
[実施例6]様々な電解質を用いた場合のSPRS
電解質として、炭酸エステル混合溶媒を用いたEC/DEC中1MのNaPF6(混合炭酸エステル系);炭酸エステル溶媒を用いたPC中1MのLiPF6(炭酸エステル系);長鎖エーテル溶媒(グライム溶媒)を用いたG4中1MのLiTFSA(長鎖エーテル系);炭酸エステル溶媒に高濃度電解質を含ませたDMC中4MのLiFSA(濃厚系);イオン液体を用いたPy14TFSA-10重量%LiTFSA(イオン液体系1);イオン液体を用いたPP13TFSA-10重量%LiTFSA(イオン液体系2);及びイオン液体を用いたEMITFSA-10重量%LiFSA(イオン液体系3)をそれぞれ用いた場合のSPRSを取得し、それらの形状を比較した。結果を図21に示す。
【0147】
図21に示すように、電解質の種類によってプラズモンスペクトルの形は若干異なるものの、いずれも可視波長域にディップを有することが理解できる。したがって、いずれの電解質においても金属析出挙動の調査が可能であることが認められる。
【符号の説明】
【0148】
1:(オペランド分析用)二次電池
2:作用極
2a:作用極(金属電池用)
2b:作用極(金属電池用)
2c:作用極(イオン電池用)
21a:金属母材層(表面プラズモン共鳴吸収特性を有しキャリア元素と合金化しない金属で構成)
21b:金属母材層(表面プラズモン共鳴吸収特性を有する金属で構成)
22:被覆層(キャリア元素と合金化しない金属で構成)
23:被覆層(キャリア元素イオンを吸蔵する電池活物質で構成)
3:対極
4:透明材料層
5:電解質
6:作用極集電部材
7:対極集電部材
8:筒状部材
9:窓付き支持部材
S:キャリア金属元素と合金化しない材料で構成された表面
WT:作用極端子
RT:対極端子
P:プリズム
W:窓
I:入射光
θ0:入射角
R:反射光
DM:金属(析出したキャリア元素の単体金属)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21