(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070515
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】電子回路基板用積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/082 20060101AFI20220506BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20220506BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220506BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20220506BHJP
B29C 43/58 20060101ALI20220506BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20220506BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220506BHJP
H05K 3/20 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
B32B15/082 Z
B32B15/20
B32B27/30 B
B29C43/18
B29C43/58
B29C43/34
H05K1/03 610H
H05K3/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179617
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 壮弘
【テーマコード(参考)】
4F100
4F204
5E343
【Fターム(参考)】
4F100AB17B
4F100AB17C
4F100AB33B
4F100AB33C
4F100AK04A
4F100AK09A
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5E343AA02
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5E343GG02
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(57)【要約】
【課題】銅層が剥離しにくく、剥離強度に優れ、伝送損失が少ない電子回路基板用積層体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである、電子回路基板用積層体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである、電子回路基板用積層体。
【請求項2】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、樹脂層の銅層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.15~0.55μmであり、樹脂層の銅層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.80~9.00μmである、電子回路基板用積層体。
【請求項3】
前記樹脂層の両面に銅層を有する、請求項1又は2に記載の電子回路基板用積層体。
【請求項4】
前記銅層を構成する銅箔が電解銅箔である、請求項1~3のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
【請求項5】
前記樹脂層がスチレン系エラストマーを更に含む、請求項1~4のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
【請求項6】
前記シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の重量平均分子量が100,000~300,000である、請求項1~5のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
【請求項7】
前記銅層の厚さが8~30μmである、請求項1~6のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
【請求項8】
電子回路基板用積層体の厚さが10~3,000μmである、請求項1~7のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体を用いた電子回路基板。
【請求項10】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂シートの少なくとも一面に銅箔を下記条件1及び下記条件2を満たすプレス条件でプレスして一体化するプレス工程を有し、
シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである電子回路基板用積層体を得る、電子回路基板用積層体の製造方法。
(条件1)プレス温度が272~305℃
(条件2)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+28.0)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
【請求項11】
前記プレス条件が、更に下記条件2aを満たす、請求項10に記載の電子回路基板用積層体の製造方法。
(条件2a)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+31.2)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
【請求項12】
前記銅箔が電解銅箔である、請求項10又は11に記載の電子回路基板用積層体の製造方法。
【請求項13】
プレス工程の前に、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂とスチレン系エラストマーとを混練し、キャストして、樹脂シートを得る工程を有する、請求項10~12のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体の製造方法。
【請求項14】
樹脂シートを得る工程において、前記のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂とスチレン系エラストマーに更に核剤を混練する、請求項13に記載の電子回路基板用積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路基板用積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂(以下、SPSともいう。)は、機械的強度、耐熱性、電気特性、吸水寸法安定性、及び耐薬品性等の優れた性能を有する。そのため、SPSは、電気・電子機器材料、車載・電装部品、家電製品、各種機械部品、産業用資材等の様々な用途に使用される樹脂として非常に有用である。
更に、SPSはスチレンモノマーを重合して得られる炭化水素樹脂であり、誘電損失が少なく、絶縁性も有するため、前記用途の中でも電気・電子機器材料として使用することが検討されている。
【0003】
SPSを用いた電子機器材料の例として、たとえば、特許文献1には耐電食特性と信頼性の向上、及び高密度実装への対応を目的として、SPS、極性基をもつ重合体、熱可塑性樹脂等、難燃性樹脂組成物、及びガラスクロスを積層し、少なくとも一方の面に金属層を積層してなるプリント配線用基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の高性能化に伴い、電子回路に用いられる配線の微細化が求められているが、配線を微細化することにより、基板と銅等の金属配線との接触面積が減少し、剥離しやすいという問題が生じる。そのため、微細な配線であっても剥離しにくい回路基板が求められている。
また、電子機器・情報端末の高性能化・高機能化と情報通信技術の進歩により、通信には高周波の信号が用いられるようになっている。そのため、高周波数の信号を用いた場合においても、伝送損失の少ない回路基板を製造することのできる材料が求められている。
そのため、配線の微細化という要求に応えつつ、金属配線と基板樹脂の接着性の向上と伝送損失の低減を両立する回路基板が求められていた。
したがって、本発明は、銅層が剥離しにくく、剥離強度に優れ、伝送損失が少ない電子回路基板用積層体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、SPS層の少なくとも一面に、特定の粗さを有する銅層を有する積層体が前記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明は以下の[1]~[14]に関する。
【0007】
[1]シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである、電子回路基板用積層体。
[2]シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、樹脂層の銅層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.15~0.55μmであり、樹脂層の銅層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.80~9.00μmである、電子回路基板用積層体。
[3]前記樹脂層の両面に銅層を有する、上記[1]又は[2]に記載の電子回路基板用積層体。
[4]前記銅層を構成する銅箔が電解銅箔である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
[5]前記樹脂層がスチレン系エラストマーを更に含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
[6]前記シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の重量平均分子量が100,000~300,000である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
[7]前記銅層の厚さが8~30μmである、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
[8]電子回路基板用積層体の厚さが10~3,000μmである、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体。
[9]上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体を用いた電子回路基板。
[10]シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂シートの少なくとも一面に銅箔を下記条件1及び下記条件2を満たすプレス条件でプレスして一体化するプレス工程を有し、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである電子回路基板用積層体を得る、電子回路基板用積層体の製造方法。
(条件1)プレス温度が272~305℃
(条件2)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+28.0)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
[11]前記プレス条件が、更に下記条件2aを満たす、上記[10]に記載の電子回路基板用積層体の製造方法。
(条件2a)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+31.2)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
[12]前記銅箔が電解銅箔である、上記[10]又は[11]に記載の電子回路基板用積層体の製造方法。
[13]プレス工程の前に、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂とスチレン系エラストマーとを混練し、キャストして、樹脂シートを得る工程を有する、上記[10]~[12]のいずれか1つに記載の電子回路基板用積層体の製造方法。
[14]樹脂シートを得る工程において、前記のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂とスチレン系エラストマーに更に核剤を混練する、上記[13]に記載の電子回路基板用積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、銅層が剥離しにくく、剥離強度に優れ、伝送損失が少ない電子回路基板用積層体、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電子回路基板用積層体は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである。
以下、各項目について詳細に説明する。
【0010】
[電子回路基板用積層体]
本発明の電子回路基板用積層体は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである。
【0011】
<樹脂層>
本発明の電子回路基板用積層体における樹脂層は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む。
樹脂層中のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の含有量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは85質量%以下である。樹脂層中のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の含有量が前記の範囲であれば、高周波特性と靱性が共に優れた積層体となる。
樹脂層中のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂の含有量が95質量%を超える場合、樹脂層には延伸したフィルムを用いることができる。この場合、特に高周波特性に優れた積層体となる。
また、樹脂層の厚さは、好ましくは60~192μmであり、より好ましくは69~161μmであり、更に好ましくは80~140μmである。樹脂層の厚さが前記の範囲であれば、絶縁性と靱性に優れ、かつ回路の高密度化も可能となる。樹脂層は複数の層からなっていてもよく、その場合は各層の合計の厚さが前記の範囲であることが好ましい。
【0012】
(シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂)
樹脂層を構成するシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(以下、単にスチレン系樹脂ともいう)は、ラセミダイアッド(r)で75モル%以上、好ましくは85モル%以上、ラセミペンタッド(rrrr)で30モル%以上、好ましくは50モル%以上のシンジオタクティシティを有する。
タクティシティは、隣り合うスチレン単位におけるフェニル環が、重合体ブロックの主鎖によって形成される平面に対して交互に配置されている割合のことを意味する。シンジオタクティシティは、核磁気共鳴法(13C-NMR法)により定量できる。ダイアッドは連続した2つのモノマーユニット、ペンタッドは5つのモノマーユニットでのシンジオタクティシティを示す。
【0013】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、又はスチレンを主成分とする共重合体等が挙げられ、ポリスチレン(スチレンホモポリマー)が好ましい。
スチレン系樹脂にスチレンを主成分とする共重合体を用いる場合、スチレン成分は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上が更に好ましい。
【0014】
スチレン系樹脂の重量平均分子量は、100,000~300,000が好ましく、150,000~250,000がより好ましく、150,000~200,000が更に好ましい。重量平均分子量は、単分散ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィーで求められる。具体的には、実施例に記載した測定方法によって求められる。
スチレン系樹脂の軟化点は、260℃より大きいことが好ましく、261℃以上がより好ましく、262℃以上が更に好ましく、263~267℃がより更に好ましい。軟化点はJIS K7206:2016に準拠して測定することができ、具体的には実施例に示す方法で測定することができる。
スチレン系樹脂の融点は、265℃以上が好ましく、267℃以上がより好ましく、269℃以上がさらにより好ましい。また、275℃以下が好ましく、273℃以下がより好ましい。スチレン系樹脂の融点は、示差走査熱量測定(DSC測定)装置によりJIS K 7121:1987の「一定の熱処理を行った後、融解温度を測定する場合」に記載される方法に準じて、昇温速度20℃/分の条件にて得られる融解ピーク温度から、樹脂の融点を求めることができる。
【0015】
(スチレン系エラストマー)
本発明の電子回路基板用積層体における樹脂層は、スチレン系エラストマーを含んでもよく、特に優れた靱性が得られる観点から、好ましくはスチレン系エラストマーを含む。
樹脂層中のスチレン系エラストマーの含有量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。前記の範囲であれば、靱性に優れ、かつ伝送損失の少ない積層体を得ることができる。
【0016】
スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれる少なくとも1つが好ましく、これらのスチレン系エラストマーは一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
これらスチレン系エラストマーの中では、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)が好ましく、未変性のスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)がより好ましい。未変性SEBSを用いることで、得られる積層体に絶縁性を維持しつつ、靭性を付与することができる。
スチレン系エラストマーのMFRは温度230℃、荷重2.16kgfの測定条件下において、0.0(No Flow)~10g/10minであることが好ましい。
スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、好ましくは150,000~250,000である。
【0017】
(他の添加剤等)
本発明の電子回路基板用積層体における樹脂層は、各種添加剤を含んでいてもよい。
樹脂層に好ましく用いられる添加剤としては、核剤、酸化防止剤、ガラスクロス、充填剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0018】
核剤としては、有機核剤、及び無機核剤が使用できるが、好ましくは有機核剤である。
有機核剤としては、例えばジ-p-tert-ブチル安息香酸の金属塩、p-tert-ブチル安息香酸の金属塩、シクロヘキサンカルボン酸のナトリウム塩、β-ナフトエ酸のナトリウム塩などのカルボン酸の金属塩、リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)金属塩などの有機リン化合物などが挙げられ、好ましくは有機リン化合物であり、より好ましくはリン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)金属塩である。
核剤の含有量としては、樹脂層中、好ましくは0.1~1%である。
【0019】
酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系酸化防止剤が挙げられ、好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤である。
酸化防止剤の含有量としては、樹脂層中、好ましくは0.01~0.5%である。
【0020】
ガラスクロスとしては、織り方が、平織、綾織、目抜平織等のガラスクロスが挙げられ、好ましくは平織のガラスクロスである。
ガラスクロスは、カップリング剤で表面処理した、表面処理ガラスクロスが好ましい。表面処理に用いられるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤を用いることができる。
【0021】
<銅層>
本発明の電子回路基板用積層体は、前記樹脂層の少なくとも一面に銅層を有しており、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)は0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)は1.20~6.00μmである。
【0022】
前記のとおり、本発明の電子回路基板用積層体は、樹脂層の少なくとも一面に銅層を有しているが、樹脂層の両面に銅層を有することが好ましい。両面に銅層を有することで、回路の複雑化、高密度化が可能となる。
すなわち、本発明の電子回路基板用積層体は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも片面に銅層が積層されており、好ましくはシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の両面に銅層が積層され、樹脂層の両面に銅層が積層される場合、銅層、樹脂層、銅層の順に積層される。
【0023】
本発明の電子回路基板用積層体が有する銅層は、剥離強度と伝送損失低減を両立させる観点から、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)は、0.20~0.60μmであり、好ましくは0.22μm以上であり、より好ましくは0.25μm以上であり、更に好ましくは0.26μm以上であり、より更に好ましくは0.28μm以上であり、また、好ましくは0.55μm以下であり、より好ましくは0.50μm以下であり、更に好ましくは0.45μm以下であり、より更に好ましくは0.40μm以下である。
また、本発明の電子回路基板用積層体が有する銅層は、剥離強度と伝送損失低減を両立させる観点から、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)は、1.20~6.00μmであり、好ましくは1.50μm以上であり、より好ましくは2.00μm以上であり、更に好ましくは2.50μm以上であり、より更に好ましくは2.70μm以上であり、また、好ましくは5.00μm以下であり、より好ましくは4.50μm以下であり、更に好ましくは4.30μm以下であり、より更に好ましくは4.10μm以下である。
前記平均粗さ(Ra)及び前記最大高さ粗さ(Rz)は、具体的には実施例の方法によって測定することができる。
【0024】
銅層の厚さは、高密度実装化、信頼性及び伝送損失の観点から、好ましくは8~30μmであり、より好ましくは9~25μmであり、更に好ましくは10~20μmである。
【0025】
銅層は、銅箔から構成され、銅層を構成する銅箔は、好ましくは圧延銅箔及び電解銅箔からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、剥離強度と伝送損失低減の観点から、より好ましくは電解銅箔である。
銅箔の表面は、前記の平均粗さ及び最大高さ粗さを有していればよいが、表面粗さをこの範囲に調整するために、粗化処理を行ってもよい。粗化処理方法としては、めっきによる粗化粒子の形成等が挙げられる。
更に銅箔は、耐熱処理、防錆処理、化学処理等の表面処理を施している表面処理銅箔であってもよい。
耐熱処理及び防錆処理としては、それぞれ耐熱性、防錆性を有する金属を用いてめっき加工する方法が挙げられる。
化学処理としては、樹脂層との密着性を高めるために、銅箔表面と反応する反応性基と樹脂層表面と反応する反応性基の両方を有する化合物での処理が挙げられる。このような化合物としてはシランカップリング剤等が挙げられる。前記樹脂層表面と反応する反応性基としては、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、アクリル基、イソシアネート基、メルカプト基等が挙げられる。
【0026】
<特定の表面粗さである樹脂層を有する電子回路基板用積層体>
本発明の第二の実施形態は、特定の表面粗さである樹脂層を有する電子回路基板用積層体である。該電子回路基板用積層体は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、樹脂層の銅層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.15~0.55μmであり、樹脂層の銅層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.80~9.00μmである。
【0027】
樹脂層の銅層に接する面の平均粗さ(Ra)及び樹脂層の銅層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)は、積層体をエッチングし、銅層を除去したのち、露出した樹脂層の表面の粗さを測定することにより得ることができる。具体的には実施例の方法によって測定することができる。
【0028】
本発明の第二の実施形態の電子回路基板用積層体が有する樹脂層は、剥離強度と伝送損失低減を両立させる観点から、樹脂層の銅層に接する面の平均粗さ(Ra)は、0.15~0.55μmであり、好ましくは0.16μm以上であり、より好ましくは0.18μm以上であり、更に好ましくは0.19μm以上であり、より更に好ましくは0.20μm以上であり、また、好ましくは0.45μm以下であり、より好ましくは0.40μm以下であり、更に好ましくは0.35μm以下であり、より更に好ましくは0.30μm以下である。
また、本発明の第二の実施形態の電子回路基板用積層体が有する樹脂層は、剥離強度と伝送損失低減を両立させる観点から、樹脂層の銅層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)は、1.80~9.00μmであり、好ましくは2.00μm以上であり、より好ましくは2.30μm以上であり、更に好ましくは2.50μm以上であり、より更に好ましくは2.80μm以上であり、また、好ましくは7.00μm以下であり、より好ましくは6.50μm以下であり、更に好ましくは6.00μm以下であり、より更に好ましくは5.00μm以下である。
【0029】
<電子回路基板用積層体の特性等>
本発明の電子回路基板用積層体の厚さは、好ましくは10~3,000μmであり、用途によって適切な厚さに調節することが好ましい。
たとえば、本発明の電子回路基板用積層体をリジットの電子回路用基板として用いる場合、電子回路基板用積層体の厚さは、好ましくは50~3,000μmであり、より好ましくは100~2,000μmであり、更に好ましくは400~1,600μmである。また、本発明の電子回路基板用積層体をフレキシブルの電子回路用基板として用いる場合、電子回路基板用積層体の厚さは、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは130μm以下であり、更に好ましくは125μm以下であり、また、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上である。前記の範囲であれば、強度に優れ、伝送損失が少なく、得られる電子回路基板及び製品の小型化も可能となる
【0030】
本発明の電子回路基板用積層体は、銅層が剥離しにくく、剥離強度に優れ、伝送損失が少ないため、特に高周波回路基板や高周波アンテナ回路基板等に利用することが好ましい。
【0031】
[電子回路基板用積層体の製造方法]
本発明の電子回路基板用積層体の製造方法は、上述の電子回路基板用積層体、すなわち、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである電子回路基板用積層体が得られる方法であれば、制限はないが、次のプレス工程を有する方法であることが好ましい。
具体的には、本発明の好適な電子回路基板用積層体の製造方法は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂シートの少なくとも一面に銅箔を下記条件1及び下記条件2を満たすプレス条件でプレスして一体化するプレス工程を有し、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである電子回路基板用積層体を得る方法である。
(条件1)プレス温度が272~305℃
(条件2)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+28.0)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
【0032】
上記の電子回路基板用積層体の製造方法において、プレス工程に用いられる樹脂シートを得る工程を有することが好ましく、樹脂シートを得る工程は、プレス工程の前に、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂とスチレン系エラストマーとを混練し、キャストする工程であることが好ましい。
以下に各工程について説明する。
【0033】
(樹脂シートを得る工程)
本発明の電子回路基板用積層体の製造方法は、プレス工程の前に、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂とスチレン系エラストマーとを混練し、キャストして、樹脂シートを得る工程を有することが好ましい。
本工程で用いられるシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂、及びスチレン系エラストマーは、好ましくはペレット状である。
本工程で用いられるシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂、及びスチレン系エラストマーは、それぞれ、好ましくは、上述の<樹脂層>の項で説明したシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂、及びスチレン系エラストマーであり、好ましいスチレン系樹脂及びスチレン系エラストマーも同様である。
本工程において、好ましくは、前記のシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂とスチレン系エラストマーに更に核剤を混練する。
また、好ましくは、酸化防止剤も混練する。
ここで用いられるシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂、及びスチレン系エラストマーの配合量は、好ましくは、上述の<樹脂層>の項で説明した樹脂層中の含有量である。
核剤の配合量は、得られる樹脂シート中、好ましくは0.1~1質量%である。
酸化防止剤の配合量は、得られる樹脂シート中、好ましくは0.05~0.5質量%である。
混練は、好ましくは二軸押出機で行い、得られた混練混合物をペレット化し、次のシート作製に供する。
【0034】
ペレット化した混練混合物を、好ましくは単軸押出機又は二軸押出機に導入し、Tダイスより溶融押出し、キャストロールにて冷却固化して樹脂シートを得る。
前記ペレット化した混練混合物は、予め乾燥することが好ましい。乾燥は、好ましくは60~150℃の環境下、10分間~3時間放置することによって行う。
次に押出機に混練混合物を導入するが、前記の乾燥ができない場合や乾燥が不十分である場合、真空ベント付き押出機を使用することが好ましい。
樹脂の流れ方向の厚さに変動が生じることを抑制し、厚さの均一な樹脂シートを得るために、押出機の後にギヤポンプを設置することが好ましい。
更に異物混入を避けるため、ギヤポンプの後にポリマーフィルターを設けることがより好ましい。
ポリマーフィルターとしては、リーフディスクタイプ、キャンドルタイプが挙げられる。
ポリマーフィルターの濾過材としては、焼結金属タイプが好ましい。捕集粒径としては、1~100μmが好ましい。
押出機での押出温度は、280~330℃が好ましい。押出機のヒーターから、ポリマーライン、ギヤポンプ、ポリマーフィルター、Tダイスまで押出温度に調整することが好ましい。
【0035】
キャストロールの冷却媒体は、油又は水が好ましく、冷却温度は50~95℃が好ましく、60~90℃がより好ましい。
前記押出機のTダイスより溶融押出された樹脂混合物をキャストロールに密着させるため、エアーチャンバー、エアーナイフ方式、又は静電印加方式あるいはそれらを組み合わせて用いることが好ましい。
このようにキャストロール上に溶融した樹脂混合物を密着させ、急冷することにより、安定して連続して樹脂シートを得ることができる。
キャストロールの引速は0.5~30m/分が好ましく、1~15m/分がより好ましい。
【0036】
(プレス工程)
本発明の好適な電子回路基板用積層体の製造方法は、上記のようにして得られたシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂シートの少なくとも一面に銅箔を下記条件1及び下記条件2を満たすプレス条件でプレスして一体化するプレス工程を有することが好ましい。
(条件1)プレス温度が272~305℃
(条件2)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+28.0)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
【0037】
本プレス工程で用いる銅箔は、上述の<銅層>の項で説明した銅層を構成する銅箔であることが好ましい。
具体的には、本プレス工程で用いる銅箔は、剥離強度と伝送損失低減を両立させる観点から、銅箔の樹脂シートに接着する面の平均粗さ(Ra)は、0.20~0.60μmであり、好ましくは0.22μm以上であり、より好ましくは0.25μm以上であり、更に好ましくは0.26μm以上であり、より更に好ましくは0.28μm以上であり、また、好ましくは0.55μm以下であり、より好ましくは0.50μm以下であり、更に好ましくは0.45μm以下であり、より更に好ましくは0.40μm以下である。
また、本プレス工程で用いる銅箔は、剥離強度と伝送損失低減を両立させる観点から、銅箔の樹脂シートに接着する面の最大高さ粗さ(Rz)は、1.20~6.00μmであり、好ましくは1.50μm以上であり、より好ましくは2.00μm以上であり、更に好ましくは2.50μm以上であり、より更に好ましくは2.70μm以上であり、また、好ましくは5.00μm以下であり、より好ましくは4.50μm以下であり、更に好ましくは4.30μm以下であり、より更に好ましくは4.10μm以下である。
銅箔の厚さは、高密度実装化、信頼性及び伝送損失の観点から、好ましくは8~30μmであり、より好ましくは9~25μmであり、更に好ましくは10~20μmである。
【0038】
本プレス工程で用いる銅箔は、好ましくは圧延銅箔及び電解銅箔からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、剥離強度と伝送損失低減の観点から、より好ましくは電解銅箔である。
銅箔の表面は、前記の平均粗さ及び最大高さ粗さを有していればよいが、表面粗さをこの範囲に調整するために、粗化処理を行ってもよい。粗化処理方法としては、めっきによる粗化粒子の形成等が挙げられる。
更に銅箔は、耐熱処理、防錆処理、化学処理等の表面処理を施している表面処理銅箔であってもよい。
耐熱処理及び防錆処理としては、それぞれ耐熱性、防錆性を有する金属を用いてめっき加工する方法が挙げられる。
化学処理としては、樹脂層との密着性を高めるために、銅箔表面と反応する反応性基と樹脂層表面と反応する反応性基の両方を有する化合物での処理が挙げられる。このような化合物としてはシランカップリング剤等が挙げられる。前記樹脂層表面と反応する反応性基としては、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、アクリル基、イソシアネート基、メルカプト基等が挙げられる。
【0039】
本プレス工程では、銅箔の表面が前記の表面粗さ(Ra及びRz)を有する面を樹脂シートに接するように積層する。具体的には、粗化処理を施してある銅箔であれば、粗化処理され多面を樹脂シートに接するように積層する。
銅箔は樹脂シートの少なくとも一面に積層すればよいが、好ましくは樹脂シートの両面に積層する。 本プレス工程では、常圧でプレスしてもよく、真空状態でプレスしてもよいが、真空状態でプレスすることが好ましい。プレス方法としては上下に平行で平らな熱板の間に銅箔/SPS樹脂/銅箔の順にセットアップして積層する方式でもよいし、2本の金属ロールもしくは金属ベルトにロール状に巻かれた銅箔、SPSシートを繰り出し連続的にプレスをしてもよい。
真空状態でプレスする場合、真空プレス機を用いることが好ましく、真空度は好ましくは-0.05MPa以下である。また、プレス保持時間は好ましくは1~60分間である。
【0040】
本工程では、樹脂シートの少なくとも一面に銅箔を下記条件1及び下記条件2を満たすプレス条件でプレスして一体化するプレス工程を有することが好ましい。なお、条件2において、下限値である(-0.1T+28.0)MPaが0.5MPaを下回るときは、下限値を0.5MPaとする。
(条件1)プレス温度が272~305℃
(条件2)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+28.0)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
プレス温度は、好ましくは272~305℃であり、より好ましくは273~300℃であり、更に好ましくは275~290℃であり、より更に好ましくは278~288℃である。前記の範囲であれば、得られる積層体は剥離強度に優れ、厚さは均一なものとなり、さらに積層体を製造するためのプレス時に生じる減肉を抑制することができる。
【0041】
プレス圧力は、前記プレス温度によって、調整することが好ましく、前記条件2の式を満たすことが好ましい。
更にプレス条件は、更に下記条件2aを満たすことがより好ましい。なお、条件2aにおいて、下限値である(-0.1T+31.2)MPaが0.5MPaを下回るときは、下限値を0.5MPaとする。
(条件2a)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+31.2)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
上記の条件で製造された積層体は、剥離強度に優れ、得られる積層体が均一した厚さを有しており、更にプレス工程での溶融フローによる樹脂の減肉が少なく、生産性にも優れている。
【0042】
(特定の表面粗さである樹脂層を有する電子回路基板用積層体の製造方法)
本発明の別の実施形態の電子回路基板用積層体の製造方法は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂シートの少なくとも一面に銅箔を下記条件1及び下記条件2を満たすプレス条件でプレスして一体化するプレス工程を有し、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、樹脂層の銅層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.15~0.55μmであり、樹脂層の銅層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.80~9.00μmである電子回路基板用積層体を得る方法である。
(条件1)プレス温度が272~305℃
(条件2)プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+28.0)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下
本実施形態においても、前記(樹脂シートを得る工程)及び前記(プレス工程)の各項に記載した方法によることが好ましい。
【0043】
[電子回路基板]
本発明の電子回路基板は、前記電子回路基板用積層体を用いたものである。
すなわち、本発明の電子回路基板の第一の実施形態である電子回路基板は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、銅層の樹脂層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.20~0.60μmであり、銅層の樹脂層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.20~6.00μmである、電子回路基板用積層体を用いたものであり、本発明の電子回路基板の第二の実施形態である電子回路基板は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂を含む樹脂層の少なくとも一面に銅層を有し、樹脂層の銅層に接する面の平均粗さ(Ra)が0.15~0.55μmであり、樹脂層の銅層に接する面の最大高さ粗さ(Rz)が1.80~9.00μmである、電子回路基板用積層体を用いたものである。
これらのなかでも、前記電子回路基板用積層体の製造方法で得られた樹脂積層体を用いたものが好ましい。
【0044】
前記電子回路基板用積層体は、銅層が剥離しにくく、剥離強度に優れ、伝送損失が少ないため、本発明の電子回路基板は、特に高周波回路や高周波アンテナ回路等の用途に使用することが好ましい。
【0045】
本発明の電子回路基板は、前記電子回路用基板積層体の銅層をパターニングすることにより製造される。パターニングは、フォトリソ法により銅層をエッチングすることにより行うことが好ましい。
【0046】
本発明の電子回路基板の厚さは、上述の電子回路基板用積層体の厚さと同様であればよく、好ましくは10~3,000μmであり、用途によって適切な厚さに調節することが好ましい。
具体的には、リジットの電子回路用基板である場合、電子回路基板の厚さは、好ましくは50~3,000μmであり、より好ましくは100~2,000μmであり、更に好ましくは400~1,600μmである。また、フレキシブルの電子回路用基板である場合、電子回路基板の厚さは、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは130μm以下であり、更に好ましくは125μm以下であり、また、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。前記の範囲であれば、強度に優れ、伝送損失が少なく、製品の小型化も可能となる。
【実施例0047】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0048】
(1)樹脂の重量平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー(ゲルパーミエイションクロマトグラフィ、略称「GPC」)測定法により測定した。
測定条件は、東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8321GPC/HT)、東ソー株式会社製GPCカラム(GMHHR-H(S)HT)を用い、溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを用い、145℃で測定した。
標準ポリスチレンの検量線を用いて、ポリスチレン換算分子量として算出した。
【0049】
(2)銅箔表面(銅層の樹脂層に接する面)の平均粗さ(Ra)及び最大高さ粗さ(Rz)
共焦点レーザー顕微鏡 OPTHLICS H1200(レーザーテック社製)を使用して測定した。
【0050】
(3)剥離強度
積層体の剥離強度は、積層体から銅箔を剥離する際の強度である。
測定は、測定器としてフォースゲージ(商品名:DPRS-2TR、株式会社イマダ製)を用い、JPCA電気回路基板規格第3版第7項「性能試験」に準拠し、次の条件で行った。
治具:90度剥離治具(商品名:P90-200N-BB、株式会社イマダ製)
引張速度:50mm/分
銅箔の流れ方向(銅箔製造時の巻取り方向)に剥離した際の強度、及び銅箔の流れ方向に直交する方向に剥離した際の強度を、それぞれ3回ずつ測定し、全ての測定値の平均値を積層体の剥離強度とした。
【0051】
(4)高周波減衰率(伝送損失の評価)
実施例及び比較例の積層体をフォトリソ法でエッチングをしてマイクロストリップライン(片面の銅層を幅270μmの細線状に残したもの。全長100mm)を作成した。
前記マイクロストリップラインについて、ネットワークアナライザー N5227(Keysight社製)を用いて、周波数65GHzでのS21減衰率を測定した。そして、全長25mmのDe-embedding用マイクロストリップラインを用いて、全長100mmのマイクロストリップラインのS21減衰率の結果からDe-embeddingを実施し、75mm長のS21減衰率(dB)(高周波減衰率)を測定した。高周波減衰率の絶対値が小さいほど、伝送損失が少ない。
【0052】
(5)樹脂層表面(樹脂層の銅層に接する面)のエッチング後の平均粗さ(Ra)及びエッチング後の最大高さ粗さ(Rz)
前記「(4)高周波減衰率」と同様の方法でエッチングをして樹脂層を露出させた。露出された樹脂層の表面を共焦点レーザー顕微鏡 OPTHLICS H1200(レーザーテック社製)を使用して測定した。
【0053】
(6)厚さ偏差
実施例1及び各製造例の積層体における厚さ偏差は、積層体を160mm×160mmに切断し銅箔の流れ方向に直交する方向に5mm毎に厚さ測定器(ゲージ)で測定し、その最大値と最小値の差を平均値で除して求めた。厚さ偏差が小さいほど、積層体の厚さは均一であり、好ましい。
【0054】
(7)シートの減肉
実施例1及び各製造例の積層体におけるシートの減肉は、製造前後での各層及び積層体の厚さを測定し、以下の式によって求めた。なお、樹脂層(樹脂シート)及び積層体の平均厚さの測定方法は前記「(6)厚さ偏差」の方法に準じた。減肉が少ないほど、樹脂シートのロスが少なく、生産性が良好である。プレス前の銅箔の厚さも、前記「(6)厚さ偏差」の方法に準じ厚さ測定器(ゲージ)を用いて測定することでその平均の厚さを求めることができ、積層体の銅箔の厚さは、プレスによる変化は小さくプレス前の銅箔の厚さとほとんど変わらないことを確認した。
シートの減肉(%)=([プレス前の樹脂シートの平均厚さ+銅箔の厚さ(両面分:24μm)-プレス後の積層体の厚さ(平均厚さ)]/[プレス前の樹脂シートの平均厚さ])×100
【0055】
[電子回路基板用積層体の製造]
実施例1
(1)SPSシートの製造
SPS(シンジオタクチックポリスチレン、スチレンホモポリマー、重量平均分子量180,000)ペレット 80質量部、SEBS(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体、セプトン8006、株式会社クラレ製)ペレット 20質量部、結晶核剤(アデカスタブNA11、株式会社ADEKA製)0.5質量部、及び酸化防止剤(イルガノックス1010、BASFジャパン株式会社製)0.2質量部を、二軸押出機にて290℃で溶融混練後、ペレット化した。得られたペレットを80℃で3時間乾燥した。
乾燥後のペレットをスクリュー径50mmの単軸押出機にて溶融し、以下の条件でTダイスより押出し、キャストロールにて冷却して、巻取り、SPSシートを得た。
押出時の温度は、押出機のヒーター、ポリマーライン、ギヤポンプ、ポリマーフィルター、Tダイスのいずれも300℃に設定した。Tダイスは、リップ幅500mm、リップ開度0.7~0.9mmに調整した。キャストロールは冷却媒体として油を用い、温度は80℃に設定した。キャストロールの引速は2.0m/分とした。
【0056】
(2)積層体の製造
(1)で得られたSPSシートを100mm×100mmの正方形に切り出し、次の構成となるように積層し、該積層物を真空プレス機にて、真空度を-0.1MPaとし、プレス温度280℃、プレス圧力4.0MPa、プレス時間3分間の条件でプレスし、一体化させて積層体を得た。
プレス機における積層順は、上部より、真空プレス機の上部プレス板(160mm×160mm)、アルミニウム版(160mm×160mm、厚さ1mm)、電解銅箔(JXEFL-BHM、180mm×180mm、厚さ12μm、JX金属株式会社製、粗化処理面をSPSシート側に使用する。粗化処理面の平均粗さ(Ra)0.30μm、最大高さ粗さ(Rz)3.96μm)、(1)で得られたSPSシート(100mm×100mm)、電解銅箔(JXEFL-BHM、180mm×180mm、厚さ12μm、JX金属株式会社製、粗化処理面をSPSシート側に使用する。粗化処理面の平均粗さ(Ra)0.30μm、最大高さ粗さ(Rz)3.96μm)、アルミニウム版(160mm×160mm、厚さ1mm)、真空プレス機の下部プレス板(160mm×160mm)とした。これにより、両面に銅層を有する積層体を得た。積層体の厚さ(平均厚さ)は124μmであった。剥離強度と高周波減衰率の値を表1に示す。なお、各評価では、積層体を各評価で必要となる形状に切断して用いた。
【0057】
実施例2~3及び比較例1~2
(2)積層体の製造で用いた電解銅箔(JXEFL-BHM)を、表1に示す銅箔に変更した以外は、実施例1と同様にして、両面に銅層を有する積層体を得た。積層体の厚さは(平均厚さ)は124μmであった。剥離強度と高周波減衰率の値を表1に示す。なお、比較例2の積層体は、銅層が剥離しやすく、マイクロストリップラインが良好に作成できないため、高周波減衰率が測定できなかった。
【0058】
比較例3
樹脂層が液晶ポリマー(LCP)である電子回路基板用積層体(厚さ:銅層/樹脂層/銅層=12μm/100μm/12μm、R-F705S、パナソニック株式会社製)について、前記実施例及び比較例と同様の評価を行った。剥離強度と高周波減衰率の値を表1に示す。なお、銅層の表面粗さは測定しなかった。
【0059】
【0060】
表1の結果から、実施例である本発明の電子回路基板用積層体は、剥離強度が高いために、銅層が剥離しにくく、さらに伝送損失が少ないことから、高周波回路基板や高周波アンテナ回路基板用として有用であることがわかる。
【0061】
[電子回路基板用積層体の製造(プレス条件の変更)]
製造例1~6
実施例1のプレス条件のうち、プレス温度を280℃から表2に示すプレス温度に変更し、プレス圧力を4.0MPaから表2に示すプレス圧力に変更した以外は、実施例1と同様にして、両面に銅層を有する積層体を得た。剥離強度、厚さ偏差、及びシートの減肉を表2に示す。
【0062】
【0063】
実施例1及び製造例1~3のプレス条件は、上述の条件1(プレス温度が272~305℃)及び条件2(プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+28.0)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下)を満たすため、いずれも剥離強度に優れ、積層体の厚さも均一であり、溶融フローによる樹脂の減肉が少なく、生産性にも優れていることがわかる。なかでも実施例1及び製造例3は条件2a(プレス温度をT(℃)とするとき、プレス圧力が、0.5MPa以上、かつ(-0.1T+31.2)MPa以上(-0.1T+32.8)MPa以下)も満たすため、より優れている。
一方、製造例4におけるプレス条件では、温度が条件1を満たさず、厚さ偏差に劣り、製造例5及び6におけるプレス条件では、温度と圧力の関係が条件2を満たさず、シートの減肉が劣ることがわかる。