(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070679
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】坩堝の形状修正方法及び坩堝修正治具
(51)【国際特許分類】
C30B 15/10 20060101AFI20220506BHJP
C30B 29/30 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C30B15/10
C30B29/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179870
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小見 利行
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BC32
4G077BC37
4G077CF10
4G077EG01
4G077EG02
4G077EG28
4G077HA11
4G077HA12
4G077PD02
(57)【要約】
【課題】坩堝周りの耐火物等の解体及び再構築、坩堝内の残留原料の掻き出しを行うことなく、坩堝の形状修正が簡単に生産性良くできる坩堝の形状修正方法及び坩堝修正治具を提供することを目的とする。
【解決手段】チョクラルスキー法を用いた酸化物単結晶の結晶育成に用いる坩堝の形状修正方法であって、
前記坩堝が結晶育成装置内に設置され、かつ、前記坩堝内に残留原料がある状態で、前記坩堝内の残留原料より上方で坩堝径が最小の坩堝内壁の位置に、一方向に圧力を加える加圧機構を設置する工程と、
前記一方向と水平で前記一方向と垂直となる方向において、坩堝形状を維持する固定機構を設置する工程と、
前記加圧機構を用いて前記一方向に圧力を加えて前記坩堝の形状を修正する工程と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法を用いた酸化物単結晶の結晶育成に用いる坩堝の形状修正方法であって、
前記坩堝が結晶育成装置内に設置され、かつ、前記坩堝内に残留原料がある状態で、前記坩堝内の残留原料より上方で坩堝径が最小の坩堝内壁の位置に、一方向に圧力を加える加圧機構を設置する工程と、
前記一方向と水平で前記一方向と垂直となる方向において、坩堝形状を維持する固定機構を設置する工程と、
前記加圧機構を用いて前記一方向に圧力を加えて前記坩堝の形状を修正する工程と、を有する坩堝の形状修正方法。
【請求項2】
前記加圧機構と、前記固定機構は、同一面内で機能する請求項1記載の坩堝の形状修正方法。
【請求項3】
前記加圧機構は、ターンバックル機構を有し、ネジの回転力で坩堝内壁に圧力を加える請求項1又は2に記載の坩堝の形状修正方法。
【請求項4】
前記一方向の位置を前記坩堝内壁の周方向に沿って所定角度変える工程を少なくとも1回有し、
前記坩堝の形状を修正する工程を複数回実施する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の坩堝の形状修正方法。
【請求項5】
チョクラルスキー法を用いた酸化物単結晶の結晶育成に用いる坩堝の形状修正に使用する坩堝形状修正治具であって、
坩堝内壁の一方向に圧力を加える加圧機構部と、
前記一方向と同一面内で前記一方向と垂直となる方向に坩堝形状を維持する固定機構部を有し、
前記一方向に圧力を加える機構部は、ターンバックル機構を有する坩堝形状修正治具。
【請求項6】
前記加圧機構部と前記固定機構部は、枠体により同一面内に保持されている請求項4に記載の坩堝形状修正治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶育成装置を用いたチョクラルスキー(以下、「Cz」と略称する)法による酸化物単結晶の育成方法に用いる坩堝の形状修正方法及び坩堝修正治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強誘電体であるタンタル酸リチウム(LiTaO3:以下、LTと略称する)やニオブ酸リチウム(LiNbO3:以下、LNと略称する)単結晶から加工される酸化物単結晶基板は、主に移動体通信機器において電気信号ノイズを除去する表面弾性波素子(SAWフィルター)の材料として用いられている。
【0003】
SAWフィルターの材料となるLT、LN単結晶は、産業的には、主にCz法により育成され、例えば、特許文献1に記載の高周波誘電加熱式結晶育成装置が使用される。Cz法とは、
図1に示すように、坩堝内の原料融液表面に種結晶となる単結晶片を接触させ、該種結晶を回転させながら上方に引き上げることにより種結晶と同一方位の円筒状単結晶を育成する方法である。
【0004】
例えば、LN単結晶育成の場合、LN結晶の融点が1250℃と高温であることから、高融点金属である白金(Pt)製の坩堝を用い、所定のLN原料を充填し、高周波誘導加熱式の電気炉(結晶育成装置)を用いて育成されている。育成時の引上速度は、一般的には数mm/H程度、回転速度は数~数十rpm程度で行われる。また、育成時の炉内は、大気中または不活性ガス雰囲気中とするのが一般的である。このような条件下で、所望の大きさまで結晶を育成した後は、引上速度の変更や融液温度を徐々に高くする等の操作を行うことで、育成結晶を融液から切り離す。その後、結晶育成装置のパワーを所定の速度で低下させることで徐冷し、炉内温度が室温近傍となった後に結晶育成装置の炉内から結晶を取り出す。
【0005】
結晶育成後の白金坩堝内には、育成開始時のおよそ半分程度のLN原料が残る。坩堝内に残ったLN原料は次の育成に使用され、引き上げた結晶重量に相当するLN原料を白金坩堝に充填して原料を融解し、結晶育成が行われる。このように坩堝内には固化した原料が常に同じ位置に残った状態で原料融解、冷却が繰り返し行われる。
【0006】
結晶育成の温度領域で、白金坩堝は熱膨張により数mm程度膨張する。結晶育成終了後の冷却過程において、白金坩堝が膨張した状態で原料融液が固化する。白金坩堝は、炉内温度が下がるにつれて収縮してくるが、白金とLNの熱膨張係数の違いにより、固化した原料が存在すると、白金坩堝側壁には外向きの応力が発生する。固化した原料より上方の白金坩堝側壁には、固化した原料が無いために内向きの応力が発生する。1回の熱サイクルでの変形量は僅かであるが、固化した原料位置が常に同じ位置で原料融解、冷却を繰り返し行っていくと塑性変形し、白金坩堝の変形は徐々に増大してくる(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
Cz法による単結晶育成では、引上軸の上部に配置されたロードセルにより結晶重量を測定し、制御周期当たりの重量増加量から結晶直径を算出し、目標直径との差分から高周波出力を変化させて直径を制御する直径自動制御(ADC)が用いられている。結晶直径の算出は、坩堝直径、結晶密度、融液密度、引上距離、重量変化量等から求められるが、坩堝が変形すると液面降下距離が変化するために算出される結晶直径は実際の直径と異なった計算結果となる。坩堝直径が大きい場合は、液面降下距離が小さくなるために目標直径よりも小さいとADCは判断し、直径を太くする制御を行う。一方、坩堝直径が小さい場合には、液面降下距離が大きくなるために目標直径よりも大きいとADCは判断し、直径を細くする制御を行う。このため、変形した坩堝で結晶育成を行うと、目標とする直径から外れた結晶直径で育成されてしまう。育成結晶の直径が目標直径よりも大きい場合には、結晶中心部と外周部の温度差が大きくなり、クラック不良の原因となる。また、製品を加工する際の研削ロスが多くなり、製造コスト増の要因となる。育成結晶の直径が目標直径よりも小さい場合には、径不良となり得られる良品長が短くなる。
【0008】
このため、坩堝変形が進んだ場合、坩堝変形に伴う温度環境の変化により多結晶化やクラック不良が増加し、生産性の低下、コストアップの要因となる。特に坩堝側面が内側にくびれる様な変形を起こした場合には、成長結晶と坩堝内壁が接近するためにADCの目標直径を大きくしても結晶直径は大きくならず、製品直径以下となるばかりか曲がりなどの形状不良も起き易くなる。
【0009】
坩堝変形に起因する結晶不良が多発し生産性が低下した場合には、白金坩堝の形状修正或いは改鋳を坩堝メーカーに依頼するのが一般的である。白金はイリジウムなどの金属と比較すると柔らかく、展延性に優れた金属であるため、室温で叩き上げて白金坩堝の直径を修正する事が出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-6612号公報
【特許文献2】特開2019-52067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、白金坩堝の形状修正を行うためには、白金坩堝周りの耐火物等を解体する必要がある。このため、白金坩堝の修正には、耐火物等を解体及び修正後の構築には、時間を要し生産性を低下する要因となっていた。更に、白金坩堝の形状修正作業には、坩堝内にある残留原料を取り除く必要もあった。
【0012】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、坩堝周りの耐火物等の解体及び再構築、坩堝内の残留原料の掻き出しを行うことなく、坩堝の形状修正が簡単に生産性良くできる坩堝の形状修正方法及び坩堝修正治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る坩堝の形状修正方法は、チョクラルスキー法を用いた酸化物単結晶の結晶育成に用いる坩堝の形状修正方法であって、
前記坩堝が結晶育成装置内に設置され、かつ、前記坩堝内に残留原料がある状態で、前記坩堝内の残留原料より上方で坩堝径が最小の坩堝内壁の位置に、一方向に圧力を加える加圧機構を設置する工程と、
前記一方向と水平で前記一方向と垂直となる方向において、坩堝形状を維持する固定機構を設置する工程と、
前記加圧機構を用いて前記一方向に圧力を加えて前記坩堝の形状を修正する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、坩堝側壁が内側にくびれた形状を坩堝周りの耐火物等の解体及び再構築、坩堝内の残留原料の掻き出しを行うことなく、結晶育成装置上で容易に坩堝の形状修正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】高周波誘導加熱式単結晶育成装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2】変形後の坩堝形状の一例を示した側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る坩堝修正治具の一例を示した図である。
【
図4】坩堝を上から見た形状の一例を示した図である。
【
図5】加圧機構と固定機構を一体化した形状修正冶具の一例の治具を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0017】
はじめに、
図1を参照して、Cz法による結晶育成装置の構成例、および、単結晶育成方法の概要について説明する。
【0018】
図1は、高周波誘導加熱式結晶育成装置の概略構成を示す断面図である。高周波誘導加熱式結晶育成装置は、坩堝10と、断熱材20と、耐火物30と、坩堝台40と、引上げ軸50と、ロードセル60と、ワークコイル70と、チャンバー80と、電源90と、制御部100とを備える。
【0019】
また、引上軸50の下端には種結晶保持部51が設けられ、種結晶110を保持している。また、坩堝10内には原料融液120が貯留保持されている。
【0020】
図1に示すように、高周波誘導加熱式結晶育成装置は、チャンバー80内に坩堝10を配置する。坩堝10は、耐火物30を介して、坩堝台40上に載置される。坩堝10と耐火物30との間にはジルコニアバブル等の断熱材20が充填される。坩堝10を囲むようにワークコイル70が配置され、ワークコイル70が形成する高周波磁場によって坩堝10の壁に渦電流が流れ、坩堝10自体が発熱体となる。このように、高周波誘導加熱式結晶育成装置では、ワークコイル70によって形成される高周波磁場によりワークコイル70内に設置されている坩堝10の側壁に渦電流が発生し、その渦電流によって坩堝10自体が発熱体となり、坩堝10内にある原料の融解や結晶育成に必要な温度環境の形成を行う。
【0021】
なお、ワークコイル70の代わりに、抵抗加熱式ヒータで坩堝10を加熱することも可能であり、本実施形態に係る坩堝形状修正方法は、いずれの加熱方式にも適用可能である。
図1においては、高周波誘導加熱式結晶育成装置の例を挙げて説明する。
【0022】
チャンバー70の上部には引上げ軸(シード棒)50が回転可能かつ上下方向に移動可能に設けられている。引き上げ軸50は、上方の引上げ軸駆動モータにより昇降可能に構成されている。また、引上げ軸(シード棒)50の上端の先端部には、結晶重量を計測するためのロードセル60が取り付けられている。引上げ軸(シード棒)50の下端の先端部には、種結晶110を保持するための種結晶保持部(シードホルダ)51が取り付けられている。
【0023】
また、結晶育成装置全体の動作を制御するための制御部100と、高周波コイル70及び結晶育成装置全体に電力を供給するための電源90がチャンバー80の外部に設けられる。
【0024】
Cz法では、坩堝10内の単結晶の原料融液120の表面に種結晶110となる単結晶片を接触させ、種結晶110を引上げ軸(シード棒)50により回転させながら上方に引上げることにより、種結晶110と同一方位の円筒状単結晶を育成する。
【0025】
また、育成する酸化物単結晶については、上述したように、タンタル酸リチウム(LiTaO3:以下、「LT」と略称する)やニオブ酸リチウム(LiNbO3:以下、「LN」と略称する)単結晶等が育成される。
【0026】
本発明で形状修正する坩堝10は、上述のように、高周波誘導加熱式結晶育成装置や抵抗加熱式結晶育成装置で高温度の炉内に用いられる。このため、坩堝10は、一般に耐熱性を有するものであり、難加工材からなる。LT、LN等の酸化物単結晶を育成する場合、LT単結晶育成用には、イリジウム(Ir)製坩堝、LN単結晶育成用には、白金(Pt)製坩堝が用いられている。
【0027】
白金はイリジウムなどの金属と比較すると柔らかく、展延性に優れた金属である。以下の説明では、LN単結晶の結晶育成に用いる白金坩堝の事例についての坩堝形状修正方法について説明する。LN単結晶を育成する場合は、LN結晶の融点が1250℃であることから、高融点金属である白金製の坩堝10が用いられる。育成時の引上げ速度は、一般的には数mm/H程度、回転速度は数~数十rpm程度で行われる。また、育成時の炉内は、大気中または不活性ガス雰囲気中とするのが一般的である。このような条件下で、所望の大きさまで結晶を育成した後、引上げ速度の変更や融液温度を徐々に高くする等の操作を行うことで、育成結晶を融液から切り離す。その後、結晶育成装置のパワーを所定の速度で低下させることで徐冷し、炉内温度が室温近傍となった後に育成炉内から結晶を取り出す。結晶育成後の坩堝内には、育成開始時のおよそ半分程度の残留原料が残る。坩堝内に残った残留原料は次の育成に使用され、引き上げた結晶重量に相当するLN原料を坩堝に充填して残留原料及び追加したLN原料を融解し、結晶育成が行われる。
【0028】
このように坩堝10内には固化した原料が常に同じ位置に残った状態で原料融解、冷却が繰り返し行われるために、坩堝10内に残った原料の坩堝側壁は外側に膨らみ、原料表面より上方の坩堝側壁は内側にくびれる変形が徐々に増大してくる(
図2参照)。坩堝側壁が内側にくびれる領域は結晶育成が行われる領域である。坩堝10がくびれて内径が小さくなることにより、径不良や曲がりなどの形状不良の発生の原因となる。坩堝のくびれた形状を修正するには、坩堝周りの耐火物等の解体及び再構築が必要となり、また、坩堝10内の残留原料の掻き出しが必要となり、生産性を悪化させていた。
【0029】
そこで、本発明者は、坩堝周りの耐火物等の解体及び再構築、坩堝内の残留原料の掻き出しを行うことなく、結晶育成装置上で容易に坩堝の形状修正を行える形状修正方法及びその方法に用いる冶具の試作を重ね、坩堝側壁の内側にくびれた部分を外側に押し広げることに適した形状修正方法及びその方法に用いる冶具を作製するに至った。
【0030】
本発明の実施形態に係る坩堝形状修正方法は、坩堝10が結晶育成装置内に設置され、かつ、坩堝10内に残留原料がある状態で、坩堝内の残留原料より上方で坩堝径が最小の坩堝内壁の位置に、一方向に圧力を加える加圧機構を設置する工程と、一方向と水平で一方向と垂直となる方向において、坩堝形状を維持する固定機構を設置する工程と、加圧機構を用いて一方向に圧力を加えて前記坩堝の形状を修正する工程と、を有する。
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る坩堝の形状修正方法について詳細に説明する。
【0032】
図2は、変形後の坩堝形状の一例を示した側面図である。
【0033】
本発明の実施形態に係る坩堝の形状修正方法は、坩堝10を結晶育成装置内に設置し、かつ、坩堝10内に残留原料がある状態で行うことを特徴としている(
図1参照)。前述したように、坩堝10の変形は、坩堝10内に残った残留原料の坩堝側壁は外側に膨らみ、残留原料上端より上方の坩堝側壁は内側にくびれる変形が徐々に増大してくる。特に、坩堝側壁が内側にくびれる領域は結晶育成が行われる領域であり、結晶の育成に重要となっている。そこで、本発明の実施形態に係る坩堝の形状修正方法では、坩堝側壁が内側にくびれる領域を修正する。
【0034】
図2に示されるように、坩堝側壁が内側にくびれる領域は、坩堝内の残留原料上端より10mm~30mm上側の位置である。この位置は、形状修正する前に測定してもよい。測定方法には特に限定はない。例えば、坩堝内径を測定する。測定器具はキャリパゲージなどを用いると良い。坩堝は対象性を保ったまま変形することは少ない。局所的に膨らんだりくびれたりして、坩堝の変形の仕方はさまざまである。このため、坩堝内径の測定は、測定箇所が多ければ多いほど真の値に近づくが、45°角度を変えた4方向の内径を測定しても良い。なお、坩堝内径の測定は、複数個所であればよく、少なくとも直交する2か所で、多ければ多い程精度は高くなる。
【0035】
坩堝内径を測定する上下方向の位置については、坩堝10の上端から坩堝内の残留原料上端までの範囲を測定する。測定間隔は特に限定はないが、連続で測定することが好ましい。キャリパゲージでは、例えば、鉛直方向において10mm間隔で測定してもよい。この測定結果より坩堝の坩堝側壁が内側にくびれる領域の坩堝径の最小位置を把握する。なお、坩堝径の最小位置は、局所的に膨らんだりくびれたりして、複数個所ある場合もある。これら複数個所を含め坩堝径の最小領域とする。
【0036】
次に、坩堝の形状修正について説明する。
図2に示されるように、結晶育成を繰り返し行うと坩堝内の残留原料より上方の坩堝側壁は内側にくびれてくる。このような状態を、購入当時の坩堝内径に修正する。本発明の実施形態に係る坩堝の修正方法では、一方向に圧力を加える加圧機構と、前記一方向と水平面内にある前記一方向と垂直となる方向に坩堝形状を維持する固定機構を設置する。坩堝修正時、ある一方向に圧力を加えて坩堝10を修正した場合、一方向と水平で前記一方向と垂直となる方向の内径が小さくなる現象が発生する。修正方向を45°~90°回転させて繰り返し行えば最終的には修正されるが、効率的ではない。そこで、圧力を加える方向に対し、水平で圧力を加える方向と垂直となる方向に、坩堝が小さくなることを抑える固定機構を設ける。これにより、圧力を加える方向と垂直方向の内径が小さくなる現象を抑えられ、数回の修正で済み効率的に坩堝の形状修正が可能となる。
【0037】
一方向に圧力を加える機構は、坩堝径の最小位置を内側から外側に圧力を掛けることが出来れば特に限定はない。例えば、油圧シリンダーを用いて坩堝内側から加圧してもよい。但し、前述したように、坩堝修正は結晶育成装置内に坩堝を配置した状態で行う必要がある。油圧シリンダー等を用いた場合、装置が大掛かりになり、また、坩堝径が50mm~300mmでありスペースが限られている事より設置が難しい場合がある。そこで、本発明では、ターンバックル機構を有した形状修正治具を用いることが好ましい。
【0038】
図3は、本発明の実施形態に係る坩堝修正治具の一例を示した図である。
図3においては、ターンバックル機構を有した坩堝修正治具150の一例が示されている。
【0039】
ターンバックル機構を有した坩堝修正治具は、金属製の胴部151の両端にネジ山が切られていて、一方は右ネジが切られたシャフト152、もう一方は左ネジ(逆ネジ)が切られたシャフト153で構成され、両側のシャフト152、153が回転しない状態で胴部151を回転させると両側のシャフト152、153が胴部151から飛び出る(胴部151を逆回転させるとシャフト152、153が入り込む)構造となっている。ワイヤーなどの張力を調節するターンバックルと同様の構造である。治具のシャフト端面には、坩堝内径と同じ曲率の金属板が取り付けられている。この形状修正冶具は、坩堝10のくびれた部分に加圧し押し広げて形状を修正する加圧機構を有する加圧治具となる。
まず、加圧冶具の一方のシャフト152を回転させてシャフトを伸ばし、坩堝10の最小直径部11にシャフト端部の金属板152aを当てる。次に、もう一方のシャフト153を回転させて、シャフト端部の金属板153aが坩堝の最小直径部11に当たるまでシャフト153を伸ばす。坩堝側壁を押し広げる治具の両端の金属板152a、153aを坩堝側壁に接触させると摩擦力によりシャフト152、153は回転しなくなる。
【0040】
そして、形状修正治具150の胴部151を回転させると両側のシャフト152、153が伸び、坩堝側壁のくびれ部分が押し広げられる。
【0041】
図4は、坩堝10を上から見た形状の一例を示した図である。例えば、
図4で示すA-C方向を形状修正治具で押し広げると、B-D方向の直径は潰れて小さくなり、坩堝10が楕円形に形状変化するだけでくびれ部分を膨らませることは出来ない。このため、対角方向の直径が潰れないように坩堝側壁を押さえる必要がある。そこで、加圧治具の対角位置に固定機構を設置する。
【0042】
固定機構は、一方向に圧力を加える機構が一方向に加圧した時に、対角方向の直径が潰れないように坩堝側壁を内側から押さえられれば、特に限定はない。例えば、
図3に示すターンバックル機構を有した形状修正治具150(加圧治具)を代用して固定治具とすることもできる。加圧治具を代用した固定冶具は、治具の一方のシャフト152を回転させてシャフト152を伸ばし、坩堝10の最小直径部11にシャフト端部の金属板152aを当てる。次に、もう一方のシャフト153を回転させて、シャフト端部の金属板153aが坩堝10の最小直径部11に当たるまでシャフト153を伸ばす。治具の両端の金属板153aを坩堝側壁に接触させると摩擦力によりシャフト153は回転しなくなる状態で固定すればよい。
【0043】
坩堝10に加圧治具と固定治具を設置後、加圧治具に取り付けられているシャフト152、153を坩堝側壁に当てた状態で胴部151を回転させて押さえ込み、坩堝10のくびれ部分を膨らませる。
【0044】
加圧機構にターンバックル機構を有した加圧治具を使用することで、胴部151の回転回数で、坩堝10の修正する量をあらかじめ調整することが可能となる。調整量は、坩堝10の変形状態にもよるが1mm~5mmの範囲行うことが好ましい。変形量が1mm未満では、結晶育成時の不具合発生は少なく坩堝10の修正を必要としない。5mmを超えて坩堝10を修正すると坩堝10に亀裂が入る等不具合が発生することがある。また、胴部151の回転回数で、坩堝10の修正する量をあらかじめ調整することが可能であるため、坩堝10が結晶育成装置内に設置された状態でも修正可能となる。
【0045】
図1に示されるように、坩堝10の外周は断熱材20及び耐火物30で囲まれており、この状態で必要以上の加圧し坩堝の形状修正を行うと坩堝10の修正と同時に耐火物30等が割れることがある。加圧機構にターンバックル機構を有した加圧治具を使用することで、坩堝10の修正する量をあらかじめ調整することが可能で耐火物30及び断熱材20に影響を与えない程度(耐熱材の割れ等の発生が無い程度)に調整することができる。また、坩堝側壁は内側にくびれの修正は、購入当時の坩堝内径を目標とすることで耐火物30及び断熱材20の割れを防止できる。このため、坩堝10を結晶育成装置に設置した状態でも坩堝10の形状修正が可能となる。更に、ターンバックル機構を有した加圧治具は、油圧シリンダー等に比べ、小さく、かつ構造も簡単であるため、結晶育成装置の坩堝10が設置した状態でも治具の設置は容易である。
【0046】
なお、上記断熱材20において、断熱材20がジルコニアバブル等、容易に除去が可能な場合は、ジルコニアバブルを除去してから坩堝10の形状修正を行うことが好ましい。ジルコニアバブルを取り除かないまま形状修正冶具150を用いて坩堝側壁を押し広げた場合、ジルコニアバブルが潰れて保温性が悪化することがある。
【0047】
このようにして坩堝10のくびれ部分を押し広げた後は、形状修正冶具150の胴部151を逆回転させて両側のシャフト152、153を縮め、対角位置に取り付けられている固定治具緩めて取り出す。
【0048】
その後、形状修正治具150を45°ずらし、
図4で示すE-G方向、B-D方向、F-H方向のくびれ部分を膨らませる形状修正を行う。複数回行うことで、均一に坩堝10を修正することが可能となる。
【0049】
なお、上記固定治具は、ターンバックル機構を有した加圧治具を代用した事例について説明したが、この場合、加圧治具の位置に対し、固定治具の高さ方向の位置は緩衝しないように、上下にずらす必要がある。加圧治具と固定治具は同一平面にあることがより好ましい。
【0050】
図5は、加圧機構と固定機構を一体化した形状修正冶具160の一例の治具を示した図である。形状修正治具160は、坩堝側壁を加圧する加圧機構部161と坩堝を固定する固定機構部162と金属製の枠体163で構成される。加圧機構部161は、前述したターンバックル機構を有した形状修正治具150と同様で、胴部161aとシャフト161b、161cで構成されている。シャフト161b、161cは、枠体163に取り付けられている。シャフト161b、161c端面には、坩堝内径と同じ曲率の金属板161d、161eが取り付けられている。固定機構部162は、シャフト162a、162bで構成され、枠体163に取り付けられている。また、坩堝側壁を押さえるためのシャフト162a、162bの端面にも、坩堝内径と同じ曲率の金属板162c、162dが取り付けられている。金属製の枠体163には、坩堝側壁を加圧する加圧機構部161のシャフト161b、161cを通す貫通穴163a、163bが設けられ、対角位置には、坩堝側壁を固定する固定機構部162に坩堝10を押さえるためのシャフト162a、162bを取り付けるネジ穴163c、163dが設けられている。この形状修正冶具160を用いた坩堝10の形状修正方法は、
図2に示す坩堝10の最小直径部11に形状修正冶具160の加圧機構部161を当て、対角位置の固定機構部162のシャフト162a、162bで坩堝側壁を押さえながら、加圧機構部161の胴部161aを回転させて両側に取り付けられたシャフト161b、161cで坩堝側壁を押し広げる。本形状修正治具160を使用することで、加圧治具と固定治具が同一平面の位置に設置することが可能となり、修正効率を高めることが出来る。
【0051】
このように、本発明の坩堝形状修正方法では、結晶育成装置内に坩堝10を配置し、かつ坩堝内に残留原料を有する状態でも、残留原料の上端より上方の坩堝側壁が内側にくびれる変形を、坩堝周辺の耐火物等に不具合を発生させるこことなく簡単に生産性良く修正することが可能である。従来の坩堝形状修正のために行う結晶育成装置の耐火物等を解体及び再構築、結晶育装置から坩堝10を取り出し、坩堝10内の残留原料を掻き出す作業が不要となる。更に、坩堝側壁が内側にくびれる領域は結晶育成が行われる重要な領域であり、この部分を形状修正することで、品質の安定した結晶を、生産性良く得るとこが可能となる。
【0052】
[実施例]
次に、本発明の実施例について具体的に説明する。なお、理解の容易のため、実施形態の構成要素に対応する構成要素には、同一の参照符号を付すものとする。
【0053】
[実施例1]
実施例では、高周波誘導加熱式結晶育成装置を用いCz法でニオブ酸リチウム単結晶(LN単結晶)を繰り返し育成した坩堝で変形がある坩堝を使用して坩堝の修正を行った。この坩堝10は、白金製坩堝で購入時大きさが内径φ200mm、深さが200mmであった。坩堝10は、LN単結晶を取り出し後、結晶育成装置内に坩堝10が設置され、かつ、坩堝10内には残留原料が約半分残っている状態であった。
【0054】
まず、修正する前に坩堝10の変形状況を測定した。測定はキャリパゲージを用いて、
図4に示すように、4方向の内径を坩堝10の上端から坩堝内の残留原料の上端まで10mm間隔で測定した。この結果、坩堝上端より80mmの位置の坩堝内径が最も小さい値となった。修正前の内径は、194mm~199mmと1mm~6mm内側へ窪んだ形状となっていた。
【0055】
LN結晶取り出し後、坩堝10と耐火物80の間に充填している断熱材(ジルコニアバブル)20を掃除機で吸い取り、坩堝内原料の高さ付近までジルコニアバブルを取り出した。
【0056】
次に、
図5に示す形状修正冶具160を坩堝内に入れ、坩堝側壁を押し広げる治具の一方のシャフト161bを回転させてシャフト161bを伸ばし、
図4のA部分の坩堝最小直径部11にシャフト端部の金属板161dを当てた後、もう一方のシャフト161cを回転させてシャフト161cを伸ばし、
図4のC部分の坩堝最小直径部11にシャフト端部の金属板161eを当て、冶具両側の金属板161d、161eが坩堝側壁に十分接触して、手を離しても形状修正冶具160が落ちない状態にした。
【0057】
そして、対角のB方向、D方向のシャフト162a、162bをそれぞれ回転させてシャフト162a、162bを伸ばし、坩堝最小直径部11にシャフト端部の金属板162c、162dを当てて、A-C方向のくびれ部分を押し広げてもB-D方向の形状が潰れないように固定した。A-C方向に取り付けた形状修正冶具160の胴部161aを回転させて両側のシャフト161b、161cを伸ばし、坩堝側壁のくびれ部分を4mm押し広げた後、それぞれのシャフト161b、161cを緩めて形状修正治具160を取り外した。
【0058】
次に、形状修正治具を左に45°回し、坩堝側壁を押し広げる治具の一方のシャフト161bを回転させてシャフト161bを伸ばし、
図4のE部分の坩堝最小直径部11にシャフト端部161dの金属板を当てた後、もう一方のシャフト161cを回転させてシャフト161cを伸ばし、
図4のG部分の坩堝最小直径部11にシャフト端部161eの金属板を当て、冶具両側の金属板161d、161eが坩堝側壁に十分接触して、手を離しても形状修正冶具160が落ちない状態にした。
【0059】
そして、対角のF方向、H方向のシャフトをそれぞれ回転させてシャフト162a、162bを伸ばし、坩堝最小直径部11にシャフト端部の金属板162c、162dを当てて、E-G方向のくびれ部分を押し広げてもF-H方向の形状が潰れないように固定した。E-G方向に取り付けた形状修正冶具160の胴部161aを回転させて両側のシャフト161b、161cを伸ばし、坩堝側壁のくびれ部分を2mm押し広げた後、それぞれのシャフト161b、161cを緩めて形状修正治具を取り外した。
【0060】
このように、形状修正治具160を左に45°刻みで回して、B-D方向の坩堝側壁のくびれ部分を3mm、F-H方向の坩堝側壁のくびれ部分を5mm押し広げた。
【0061】
次いで、坩堝側壁の最小直径部11の坩堝内径を測定し、形状修正前後の坩堝形状を比較した。坩堝内径測定は、キャリパゲージを用いて、
図4のA-C、B-D、E-G、F-Hの4方向を測定した。坩堝側壁のくびれ部分は2mm~4mm膨らみ、内径は、198mm~200mmとくびれ形状が改善された。また、楕円となっていた形状も円形に改善された。
【0062】
このように、本発明の実施形態に係る坩堝の形状修正方法及び形状修正治具は、坩堝を用いてCz法による酸化物単結晶を生産する場合に有効である。
【0063】
本発明の実施形態に係る坩堝の形状修正方法によれば、坩堝周りの耐火物等の解体及び再構築、坩堝内の残留原料の掻き出しを行うことなく、結晶育成装置上において容易に坩堝の形状修正を行うことができる。これにより、坩堝形状起因の径不良や曲がりなどの結晶形状不良を抑制することが可能となり、生産性向上、コストダウンが図れる。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 坩堝
20 断熱材
30 耐火物
40 坩堝台
50 引上げ軸
51 シードホルダ
60 ロードセル
70 ワークコイル
80 チャンバー
90 電源
100 制御部
110 種結晶
120 原料融液
150、160加圧修正治具
161 加圧機構部
162 固定機構部