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特開2022-70839鉄イオン溶出体、および鉄イオン供給装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070839
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】鉄イオン溶出体、および鉄イオン供給装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20220506BHJP
【FI】
C02F11/00 Z ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174794
(22)【出願日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2020179558
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 徹教
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA09
4D059BA28
4D059BK21
4D059DA22
4D059DA58
4D059DA59
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】簡便な構造でありながら高濃度の鉄イオンを長期間、かつ安定的に溶出できる手段を提供する。
【解決手段】 鉄イオン溶出体1は、複数の炭素鉄複合体10と、炭素鉄複合体10を内部に保持する保持部材20と、を備え、水中に鉄イオンを供給する。保持部材20は、その内部と外部を液体が通過可能に構成されている。保持部材20の材質は、例えば天然繊維、合成繊維、金属、無機繊維などでよく、導電性材料が好ましい。鉄イオン溶出体1を水中に設置すると、炭素鉄複合体10において炭素と鉄および水との接触界面において炭素と鉄の電位差から局部電池が形成され、2価の鉄イオン(Fe2+)が溶出する。炭素鉄複合体10に電子が滞留すると鉄イオンの溶出を妨げることから、電子を導電助材30によって系外に移動させることが好ましい。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に鉄イオンを供給するための鉄イオン溶出体であって、
少なくとも1以上の炭素鉄複合体と、
前記炭素鉄複合体を、水に接触可能な状態で保持する保持部材と、
を備え、
さらに、前記炭素鉄複合体と接触した状態で配置される導電助材を備えているか、又は、前記保持部材が導電性材料によって形成されていることを特徴とする鉄イオン溶出体。
【請求項2】
前記炭素鉄複合体が、鉄粒子と炭素材との焼結体である請求項1に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項3】
前記保持部材が、液体が通過可能な網状もしくは籠状の構造物であり、その内部に、前記導電助材が収納されている請求項1に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項4】
前記保持部材が導電性材料で形成され、前記炭素鉄複合体と前記保持部材とが接触している請求項1~3のいずれか1項に記載の鉄イオン溶出体。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄イオン溶出体と、
前記鉄イオン溶出体に電気的に接続される導電性のカソードと、
を備えている鉄イオン供給装置。
【請求項6】
前記カソードが、水面または水面に近くに設置されている請求項5に記載の鉄イオン供給装置。
【請求項7】
濃度3重量%の食塩水中に5日間浸漬したときの鉄イオン溶出能が2000mg/kg以上である請求項5又は6に記載の鉄イオン供給装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に設置することにより、高濃度の鉄イオンを長期間安定的に供給し、水環境、例えば底質環境の浄化を行うための鉄イオン溶出体、および鉄イオン供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾などの閉鎖性海域は、沿岸都市から流入する過剰な有機物が蓄積し、富栄養化が進行しやすい環境にある。富栄養化の進行は、赤潮の発生などを引き起こすだけでなく、過剰な有機物や栄養塩類が水底に堆積して腐敗することにより底質の環境を悪化させる。そのため、一般的に広くヘドロと呼称される還元性の強い暗黒色の汚泥と化した底質から硫化水素が発生して漁業や生活環境が大きく損なわれる問題がこれまで度々起きてきた。
【0003】
この問題に対して、鉄粉や酸化鉄、水酸化鉄を底質に散布することで硫化水素の発生を抑制できることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。これら鉄または鉄化合物の硫化水素抑制メカニズムは主に両者の化学反応によるものであることから、継続的な効果を得るためには定期的に散布を繰り返さなければならないという課題がある。
【0004】
しかし、水酸化鉄や酸化鉄は、環境中に溶出した鉄イオンが酸化されることで容易に発生させることができることから、鉄イオンを継続的に環境中に供給することを可能とする方法や装置が求められている。例えば、炭素と金属鉄粒子の焼結体の投入(特許文献1)や、炭素材と金属鉄の接合体を鉄イオン溶出体として水中に浸漬する方法(特許文献2)、板状の金属鉄と粒状の炭素材を収納した容器に通水することによって鉄イオン含有水が得られる装置(特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-053304号公報
【特許文献2】特開2013-183676号公報
【特許文献3】特許第5539579号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】井上徹教,藤原裕次,中村由行,2017.鉄剤散布による堆積物からの硫化物溶出抑制.海洋理工学会誌,23,25-30.
【非特許文献2】金谷弦,菊池永祐,2009.鉄添加により遊離硫化水素を汽水域底泥から除去する実験的手法の検討.東北アジア研究,13,17-28.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術では高濃度の鉄イオンを長期間かつ安定的に供給し続けることは困難であり、たとえば特許文献2の方法や特許文献3の装置では、炭素材と金属鉄の接触面積や接触の持続性に課題があったり、鉄イオンの溶出量を増やすために別途ばっ気装置が必要となるなどの課題がある。
【0008】
従って、本発明は、簡便な構造でありながら高濃度の鉄イオンを長期間、かつ安定的に溶出できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、以下の構成により従来技術の課題を解決することを見出し、本発明をなした。
すなわち、本発明の鉄イオン溶出体は、水中に鉄イオンを供給するための鉄イオン溶出体であって、
少なくとも1以上の炭素鉄複合体と、
前記炭素鉄複合体を、水に接触可能な状態で保持する保持部材と、
を備え、
さらに、前記炭素鉄複合体と接触した状態で配置される導電助材を備えているか、又は、前記保持部材が導電性材料によって形成されている。
【0010】
本発明の鉄イオン溶出体は、前記炭素鉄複合体が、鉄粒子と炭素材との焼結体であってもよい。
【0011】
本発明の鉄イオン溶出体は、前記保持部材が、液体が通過可能な網状もしくは籠状の構造物であってもよく、その内部に、前記導電助材が収納されていてもよい。
【0012】
本発明の鉄イオン溶出体は、前記保持部材が導電性材料で形成されていてもよく、前記炭素鉄複合体と前記保持部材とが接触していてもよい。
【0013】
本発明の鉄イオン供給装置は、上記いずれかの鉄イオン溶出体と、
前記鉄イオン溶出体に電気的に接続される導電性のカソードと、
を備えている。
【0014】
本発明の鉄イオン供給装置は、前記カソードが、水面または水面に近くに設置されていてもよい。
【0015】
本発明の鉄イオン供給装置は、濃度3重量%の食塩水中に5日間浸漬したときの鉄イオン溶出能が2000mg/kg以上であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の鉄イオン溶出体および鉄イオン供給装置は、簡便な構造でありながら高濃度の鉄イオンを長期間、かつ安定的に水中に溶出することができ、環境浄化や排水処理などに広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の鉄イオン溶出体の模式図である。
図2】本発明の鉄イオン溶出体で使用される炭素鉄複合体の模式図である。
図3】本発明の鉄イオン供給装置の模式図である。
図4】本発明の鉄イオン供給装置の別の模式図である。
図5】実施例1における試験装置の模式図である。
図6】実施例2における試験装置の模式図である。
図7】実施例3における試験装置の模式図である。
図8】実施例4における試験装置の模式図である。
図9】実施例7における試験装置の模式図である。
図10】実施例8における試験装置の模式図である。
図11】実施例9における試験装置の模式図である。
図12】比較例1における試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。各図における大きさや部材の比率等は、図示の便宜上、実際の大きさや比率等とは異なっており、図面によって本発明が制限されるものではない。
【0019】
[鉄イオン溶出体]
図1は、本発明の一実施の形態に係る鉄イオン溶出体を模式的に説明する図面である。鉄イオン溶出体1は、1つないし複数の炭素鉄複合体10と、炭素鉄複合体10を水に接触可能な状態で保持する保持部材20を備え、水中に鉄イオンを供給する。鉄イオン溶出体1は、炭素鉄複合体10と接触した状態で配置されている導電助材30を備えているか、又は、保持部材20が導電性材料によって形成され、該保持部材20と炭素鉄複合体10が接触した状態で保持されていればよい。本実施の形態では、鉄イオン溶出体1は、1つないし複数の粒状の炭素鉄複合体10が、導電助材30とともに、外形形状がたとえば円柱状等をなす籠状の保持部材20の内部に収容されている。
以下、鉄イオン溶出体1を構成する炭素鉄複合体10、保持部材20、任意の構成要素である導電助材30について、この順に説明する。
【0020】
[炭素鉄複合体]
本実施の形態の鉄イオン溶出体1に使用される炭素鉄複合体10は、炭素材と金属鉄とを直接もしくはバインダー(結合剤)を使用して複合化させたものである。炭素鉄複合体10は、炭素と鉄の電位差を利用した局部電池効果によって、水中に浸漬することで鉄イオンを供給することが可能な材料である。
【0021】
炭素鉄複合体10の形状は、表面積が大きいほうが鉄イオンの発生量を多くすることができるので、粒状もしくは塊状であることが好ましい。炭素鉄複合体10は、その破壊硬度が50N以上であることが好ましく、80N以上であることがより好ましい。破壊硬度が50N未満であると、水流による搖動で粒子同士が接触して炭素鉄複合体10が破壊されやすくなる。水流によって炭素鉄複合体10が破壊されると、鉄と炭素が分離することにより局部電池の効果が消失し、2価鉄イオンの溶出が少なくなってしまうおそれがある。
また、炭素鉄複合体10は、1年以上海中に浸漬されても自己崩壊しないものが良い。海中では潮汐、海流、波浪などによる揺動があるために炭素鉄複合体10が崩壊して海底に落下することを防止することができるからである。このような観点から、炭素鉄複合体10は、5重量%濃度の塩水に浸漬10日後の破壊硬度が50N以上であり、かつ、塩水浸漬前の破壊硬度の1/2以上を維持していることが、さらに好ましい。5重量%濃度の塩水浸漬10日後の破壊硬度が、塩水浸漬前の破壊硬度の1/2以上であることによって、局部電池の効果を長期間保持することができる。
なお、破壊硬度については海水もしくは淡水中に1ケ月浸漬させた後でも50N以上が好ましく、80N以上であることがより好ましく、100N以上であることが最も好ましい。
【0022】
炭素鉄複合体10としては、例えば、炭素繊維を鉄材に締結したものや、鉄粉と木炭などの炭素質物をセメントや粘土などで造粒したもの、鉄粉を焼酎滓や有機汚泥、デンプン、廃糖蜜などで焼成固化したもの、などのような従来公知のものを使用することができる。これらの中でも、鉄と炭素を炭素前駆体により造粒し、焼成して焼結させることによって作製された炭素鉄複合体10が好ましい(特許文献1参照)。このような炭素鉄複合体10は、長期間安定的に鉄イオンを連続的に放出することができるほか、焼結後は造粒に使用した炭素前駆体が硬質な炭素となるために造粒物の強度が高く、かつ環境負荷を与える重金属や有機化合物のような物質の溶出も無いために最も好ましいものである。
【0023】
図2は、炭素鉄複合体10の好ましい例の外観構成を模式的に示す図である。図2に示すように、炭素鉄複合体10は、複数の鉄粒子11と炭素質物13とを含有する多孔質な焼結体である。炭素鉄複合体10において、複数の鉄粒子11は、炭素質物13によって固定化されている。炭素質物13は、導電性炭素を95重量%以上含有する不定形状の固化物であり、鉄粒子11を担持する構造体として機能するとともに、鉄粒子11との接触によって局部電池を形成する。炭素鉄複合体10は、所定の嵩密度と開気孔率を有する多孔質体であり、複数の細孔15が形成されている。炭素質物13は、コークス等の炭素質原料由来部分と、有機バインダー等の有機物に由来する接着部分とが区別できる状態で存在していてもよいし、あるいは、両者が互いに区別できない状態で実質的に一体となって炭素質物13を形成していてもよい。
【0024】
炭素鉄複合体10における鉄粒子11と炭素質物13との重量比(鉄粒子11:炭素質物13)は、水中での2価鉄イオン溶出の持続性に応じて調整され得るが、例えば、5:95~95:5の範囲であり、好ましくは20:80~80:20、より好ましくは30:70~70:30である。炭素質物13に対する鉄粒子11の重量比が5重量%未満であると炭素質物13が多すぎて、水との接触面積が小さく、2価鉄イオンの供給能力が低いとともに持続性が悪くなる。一方、炭素質物13に対する鉄粒子11の重量比が95重量%を超えると、局部電池が形成され十分な鉄イオン供給能力は備わっているが、炭素分が少ない為に一体化物として脆くなり、表面から鉄粒子11が欠落したり、炭素鉄複合体10の崩壊が発生しやすくなる。なお、炭素鉄複合体10には、鉄、炭素以外に酸素(10重量%以下)やその他微量の元素(Ni、Mnなど)も含まれるが、上記重量比は、単純に鉄元素と炭素元素の比率をいう。また、炭素質物13には、予め配合するコークス等の炭素質原料以外に、有機バインダーなどの有機物が焼成されて、炭化された炭素も含む。
【0025】
炭素鉄複合体10は、1.1~4.0の嵩密度と20~70%の開気孔率を有する多孔質な焼結体であることが好ましい。ここで、嵩密度は、1.3~3.5であるとより好ましい。また、開気孔率は30~60%であるとより好ましい。開気孔率が20%未満であると2価鉄イオンの溶出量が少なくなり、70%を超えると、材料の強度が低下して崩壊しやすくなるため好ましくない。
【0026】
また、炭素鉄複合体10は、3重量%以上、好ましくは3~5重量%濃度の塩水浸漬10日後の2価鉄イオンの溶出量が2ppm以上であることが好ましく、より好ましくは5ppm以上、さらに、10ppm以上であることが望ましい。
【0027】
さらに、炭素鉄複合体10は、不活性雰囲気中での熱重量分析における室温~500℃までの温度における炭素鉄複合体10の重量減少率が3%以下であることが好ましい。室温から500℃までの重量減少率が3%以下であるということは、有機バインダーおよびコークス粉が完全に炭素化していることを示している。そのため、水中に設置したときに炭素鉄複合体10が崩壊しにくく、かつ環境に有害な有機化合物が炭素鉄複合体10から溶出することが無いため、新たな環境負荷を生じることもない。
【0028】
炭素鉄複合体10は、0価の金属鉄が炭素と接触することによる局部電池の形成により、水中へ2価鉄イオンを溶出する。このため、鉄粒子11としては、鉄原料の段階で酸化鉄であっても、焼成後の最終製品で金属鉄になっていれば良いが、好ましくは鉄(Fe)を主成分として炭素(C)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)の少なくとも一種以上が0.5重量%以上含まれている鉄鋼材料を原料とすることが良い。なお、このような鉄粒子11として、鋳鉄や炭素鋼、ステンレス鋼等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
炭素鉄複合体10を構成する鉄粒子11は、海水中において焼結している炭素との局部電池効果によって2価鉄イオンを水中に放出するため、徐々に小さくなる。従って使用する鉄粒子11の粒度としては、JIS規格で200~5メッシュであることが好ましい。なお、JIS規格ではメッシュの数値が小さくなるほど粒度は大きくなるため、「5メッシュ以下」というときは、例えば「4メッシュ」は含まないことを意味する。200メッシュのものよりも粒度が小さいと、あまりにも小さいため、水との接触期間が短くなるとともに、製造時に発火、粉塵爆発などのおそれがある。また、5メッシュのものよりも粒度が大きいと、大きすぎるため、混合、混練、造粒が難しくなる。鉄粒子11の形状は、例えば球形などの粒状であればよく、不定形の塊状であってもよい。なお、図2では、説明の便宜上、鉄粒子11を平面視が正6角形の多面体形状に描いているが、これに限るものではない。
【0030】
炭素鉄複合体10を構成する炭素質物13は、鉄と局部電池を形成する為に必要であり、鉄との接触が非常に重要である。局部電池を形成させるための炭素質物13の原料(炭素質原料)としては、例えば、コークス、木炭、石炭粉、黒鉛、コールタールピッチや、有機化合物や高分子材料の炭化物等が使用可能である。これらは単独もしくは2種以上混合して使用することもできる。炭素質原料の形状は問われないが、焼結後に鉄粒子11との接触箇所を多くして局部電池機能を発現しやすい粉粒状、塊状などが好ましく、不定形な外観形状であってもよい。鉄原料と配合する炭素質原料の50重量%以上は、高温で溶融して流動性を示さない固体炭素質材料であることが好ましい。そのような固体炭素質材料として、例えば黒鉛、コークス粉などを挙げることができ、特に、450℃以上の温度履歴があり、かつ導電性を有するピッチコークス粉であることがより好ましい。
【0031】
450℃以上の温度履歴があるピッチコークス粉は、コールタールピッチや高分子材料のように高温で溶融して流動することが無いため、造粒した形状を保ちやすく、かつ多孔質な炭素鉄複合体10を得ることが容易である。コークス粉に代表される炭素質原料の粒度は、焼結後に鉄粒子11との接触箇所を多くして局部電池機能を効率化させるため、及び、造粒性を向上させる為に、例えばJIS規格で300~5メッシュがよい。5メッシュのものよりも粒度が大きくなると、鉄粒子11と局部電池を形成するための接触点数が減り、溶出効率が低下する。一方、300メッシュのものよりも粒度が小さくなると嵩密度が小さくなりすぎ、混合性、造粒性が悪化するばかりか、発火、粉塵爆発などのおそれがある。
【0032】
なお、コークス粉は、石油系または石炭系重質油から得られるコークスのいずれも使用することができる。これらの中でも、石炭系重質油から得られるコークスは、メソフェースリッチでニードルコークスになりやすいため、導電性が高く、結果的に局部電池としての電流が流れやすく、鉄イオンを発生しやすいので好ましい。
【0033】
図2に例示する炭素鉄複合体10は、有機物ではない導電性を有する炭素と、鉄との焼結体であるが、その製造過程において高温で炭素化する有機バインダーを使用することが好ましい。有機バインダーを用いることによって、粉粒状の原料の凝集を促進させて粒状化速度を上げ、収率を向上させることができる。また、有機バインダーが焼結時に炭素化することにより、炭素鉄複合体10の物性(強度、表面状態、耐崩壊性など)を改善し、鉄粒子11と炭素質物13との接着を強固なものとすることができる。そのような観点から、有機バインダーとしては、固定炭素分を20重量%以上有しており、芳香環を多く含有したピッチやフェノール樹脂、リグニン、またはフェノール成分を主成分とするリグニンスルホン酸塩などが好ましく、これらの中でも、固定炭素及び結着力に優れたコールタールピッチが最も好ましい。
【0034】
コールタールピッチは、不活性または還元雰囲気における500℃以上の焼成により、固定炭素以外の水素、酸素、窒素、硫黄分等が分解、揮発して、焼成物の実質95%以上が炭素となる。また、コールタールピッチは、焼成時に、水素、酸素、窒素、硫黄などが放出されることから空隙を形成し、水と鉄との接触面積を多くし、効率的な鉄イオン発生に寄与する。さらに、コールタールピッチは、導電性を有する強固な炭化物になるため、鉄粒子11と炭素質物13とを固定化するよいバインダーとなる。
なお、コールタールピッチの中でも固定炭素分が50重量%以上あるものが焼成時の形状維持の面からも好ましく、このようなコールタールピッチとしては、例えば、株式会社シーケム製のBPやIP(いずれも製品名)が例示される。
【0035】
有機バインダーは、鉄原料と炭素質原料の混合物100重量部に対して、例えば5~20重量部の範囲内で配合することがよい。有機バインダーが5重量部未満ではバインダーとしての効果がなく、20重量部を越えると焼成時に有機バインダーが溶融することにより、所望の形状や好適な嵩密度、開気孔率が得られなくなる。なお、鉄原料とコールタールピッチなどの有機バインダーのみで複合物を形成させた場合、焼成時に有機バインダーが溶融して、複合物の形状が維持できない。
【0036】
コールタールピッチに代表される有機バインダーは、鉄原料及び炭素質原料に対して均一に混合させるために、粉粒体がよい。この粉粒体の粒度としては、例えば200~32メッシュがよい。有機バインダーの粒度が小さすぎると嵩密度が小さくなりすぎ、混合、混練性が悪化し、大きすぎると混合、加熱溶融及び造粒品内部が不均一になる可能性がある。
また、コールタールピッチは、例えば30~150℃の温度範囲内に軟化点があるものが好ましい。このような軟化点を持つコールタールピッチの使用は、加熱しながら混合物を成型(造粒)するブリケットマシンや溶融造粒、乾式造粒などの分子間力による造粒方法には非常に都合がよい。それらによる造粒後、それをそのまま焼成すれば良いので、効率良く炭素鉄複合体10を製造することが可能である。
【0037】
また、有機バインダーには、コールタールピッチやフェノール樹脂などに加えて、造粒性を向上させるための造粒助剤を添加してもよい。造粒助剤は、焼結時に炭素質物13となるものであれば特に限定されない。造粒助剤の例として、例えば、ゼラチン、デンプン糊、廃糖蜜、リグニンスルホン酸塩、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、デキストリン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミドなどが好適である。造粒助剤を使用する場合、有機バインダーと造粒助剤の重量配合比(有機バインダー:造粒助剤)は、例えば100:0~30:70とすることが好ましい。このような範囲内となるように造粒助剤の配合比を調整することによって、焼結時の嵩密度や開気孔率、破壊硬度等に悪影響を及ぼすことなく、所望の形状の炭素鉄複合体10を容易に製造することができる。
【0038】
炭素鉄複合体10は、破壊硬度、嵩密度や開気孔率などの物性値や局部電池効果による2価鉄イオンの溶出を妨げない範囲において、鉄と炭素以外に、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム等の元素を含有する鉱物系の無機物等をさらに含んでいても構わない。
【0039】
炭素鉄複合体10は、鉄原料と炭素質原料の混合物に有機バインダーを配合して、必要に応じて所望の形状に造粒したのち、不活性または還元雰囲気において500℃以上の温度で焼成し、焼結させることによって製造することができる。
【0040】
鉄原料や炭素質原料、有機バインダーの配合順序は、特に限定されず、鉄原料と炭素質原料の混合物をまず作製してから有機バインダーを配合してもよいし、すべての原料を一度に配合してもよい。他の添加物を配合する場合もまた同様である。配合方法については、各種ブレンダーやミキサー、ニーダーなど一般的な混合・混練器を使用することができる。
【0041】
各種原料が配合された混合物は、必要に応じて、任意の形状となるように造粒が行われる。造粒形状については、特に限定されず、例えば、球状、回転楕円状、円柱状、不定形状等とすることができる。これらの中でも、海水等との接触面積が大きくなるので、球状もしくは回転楕円状が好ましい。また、造粒物の大きさについては、特に限定されるものではないが、球形の場合には、直径5mm以上、好ましくは直径5~100mm程度が好ましい。また、造粒物の形状が球形以外である場合は、直径5~100mmの球と同程度の体積となるような大きさとすることが好ましい。
なお、造粒は人手にて行うことも可能であるが、作業性や安全性、形状制御などの面からは、ペレタイザやブリケットマシン等の造粒機の使用が好ましい。
【0042】
造粒された原料混合物は、水や有機溶剤を造粒時に使用した場合は60℃以上で乾燥した後、500℃以上の不活性又は還元雰囲気下において焼成し、焼結させる。焼成には、例えば、リードハンマー炉、トップチャージ炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、マイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、仮焼処理は、連続式又はバッチ式のどちらでもよい。焼成温度は700℃以上であることがより好ましく、900℃以上であることがさらに好ましく、1000℃以上であることが最も好ましい。500℃以上の不活性または還元雰囲気下で焼成を行うことにより、有機バインダーを確実に炭化させるとともに、鉄原料中に含まれる酸化鉄の還元も行うことができる。焼成によって得られた炭素鉄複合体10は、速やかな2価鉄イオンの溶出と高い破壊硬度を発現する環境負荷のない鉄イオン源として利用できる。なお、焼成は複数回行ってもよく、一度焼結した焼結体を鉄やマンガンなどの化合物の水溶液に浸漬したのち、再度焼成を行うこともできる。
【0043】
焼結工程を経た炭素鉄複合体10はその後、不活性または還元雰囲気下のまま徐冷、もしくは徐冷の後、大気雰囲気下で取り扱いが可能な温度まで放冷されたのち、保持部材20の内部空間に収納され、鉄イオン溶出体1として使用に供される。
【0044】
[保持部材]
保持部材20は、その内部に炭素鉄複合体10を少なくとも1つ以上収納可能な空間を有し、その内部と外部を液体が通過可能に構成されている。保持部材20の外形形状としては、例えば、直方体、立方体形状、円柱形状等であってもよい。また、保持部材20は、籠状、袋状、網状、皿状などであってもよい。
【0045】
保持部材20の材質は、水中で容易に腐食・分解されるものでなければ、特に制限はなく、例えば天然繊維、合成繊維、金属、無機繊維などでもよいが、導電性材料で構成されていることが好ましく、電気的に良導体である素材がより好ましい。保持部材20を構成する素材が電気的に良導体であると、内部に収納された複数の炭素鉄複合体10と保持部材20とを接触した状態とすることによって、炭素鉄複合体10における局部電池効果によって発生した電子を、保持部材20を介して効率的にやり取りすることが可能になり、鉄イオンの溶出量を増大させることができる。したがって、保持部材20を構成する素材は、金属又は炭素であることが好ましく、炭素繊維、ステンレス、チタンのいずれかであることがより好ましい。なお、上記保持部材20を構成する導電性材料は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0046】
保持部材20は、その内部に収納した炭素鉄複合体10が取り出し可能であることが好ましい。長期間の使用によって、炭素鉄複合体10から発生した水酸化鉄などのフロックが蓄積して目詰まりが生じたり、微生物が付着・増殖することで表面にバイオフィルムが形成されて鉄イオン溶出量が低下したりすることがある。保持部材20を、炭素鉄複合体10が取り出し可能な構造とすることで、保持部材20の再利用や、炭素鉄複合体10の交換、洗浄、再生利用などを容易にし、運用コストを低減することができる。
【0047】
保持部材20の内部空間に保持される炭素鉄複合体10は、鉄イオン溶出量を増大させる観点から複数個が収納されていることが好ましく、炭素鉄複合体10に加えて導電性の材料からなる導電助材30がさらに収納されていることが望ましい。
【0048】
[導電助材]
導電助材30は、炭素鉄複合体10で発生した電子の外部への移動を促す機能を有している。鉄イオン溶出体1を水中に設置すると、炭素鉄複合体10において炭素と鉄および水との接触界面において炭素と鉄の電位差から局部電池が形成され、2価の鉄イオン(Fe2+)が溶出する。このとき、鉄の溶出(イオン化)に伴い発生する電子は、炭素鉄複合体10の別の個所において最終的に消費されるが、炭素鉄複合体10に電子が滞留すると鉄イオンの溶出を妨げることから、電子を導電助材30によって系外に移動させることが好ましい。導電助材30を用いることで、炭素鉄複合体10からの鉄の溶出量を増大できる。
また、炭素鉄複合体10のみでは、その表面の炭素上で生成する水酸基と鉄イオンの結合による水酸化鉄が炭素鉄複合体10表面上に堆積しやすく、鉄イオン生成能力の低下につながることから、炭素鉄複合体10と導電助材30を適度に混合して炭素鉄複合体10表面への水酸化鉄の堆積を避けることも可能である。
【0049】
導電助材30の材質は、電気伝導性であり、水中で腐食もしくは溶解しないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ステンレスや鉄よりも貴な金属、炭素材料などを使用可能である。鉄イオン溶出体1が水中に保持されることから、比重が小さく、電子を速やかに系外に移動させるという目的から、例えば木炭、竹炭、天然黒鉛、人工黒鉛、製鉄コークス、ニードルコークスおよびこれらを用いた成形体などの炭素材料がより好ましく、天然黒鉛、人工黒鉛、製鉄コークス、ニードルコークス及びこれらを用いた成形体がさらに好ましく、4端子法で測定される体積抵抗値が1×10-2Ω・cm以下である電気伝導性の高い炭素材料であるニードルコークスおよびこれらを用いた成形体が最も好ましい。
【0050】
導電助材30は特にその形状は限定されず、球体や楕円体、立方体、角柱、円柱、多面体や不定形の粒状もしくは塊状体、織布、フェルト、メッシュなどの板状もしくはシート状、短繊維や長繊維、連続繊維をまとめた綿状物等を任意に選択して使用することができるが、炭素鉄複合体10や導電性の保持部材20への接触面積が大きくなるようなものを選択して用いることが良い。
【0051】
以上の構成を有する鉄イオン溶出体1は、このまま水中に設置することで鉄イオンを周囲に供給することができる。水中での設置位置については特に限定はなく、水底でも水中でも水面で構わないが、鉄イオン溶出体1の少なくとも一部が大気中に露出した状態となるように設置したり、酸素濃度の高い水面もしくは水面近傍に設置すると鉄イオン発生量が多くなることから好ましい。また、鉄イオン溶出体1に直接海水等を注いだり、タンクなどの容器に収納して内部に通水することで流出水に鉄イオンを含有させることもできる。
【0052】
鉄イオン溶出体1を海面などの水面もしくは水面近傍に設置する方法としては、例えば、岸壁、ブイなどの浮遊体、水底に固定された杭などから吊り下げる方法、船底や魚類、貝類、海苔などの養殖に使用する生簀などに固定する方法などが好ましい。これらの設置方法においては、例えばロープや鎖などの長尺な部材を用いて係留したり、着脱自在なアダプターを用いて固定したりすることができる。鉄イオン溶出体1を固定する場合は、水流によって揺動可能な状態にしてもよい。また、一端を水底に固定し、他端を浮きに固定し、ロープなどを利用して、鉄イオン溶出体1が水中に浮遊状態となるように係留してもよい。
【0053】
[鉄イオン供給装置]
図3は、鉄イオン溶出体1を利用した、本発明の一実施の形態に係る鉄イオン供給装置の模式図である。鉄イオン供給装置100は、鉄イオン溶出体1と、鉄イオン溶出体1に電気的に接続されるカソード101と、鉄イオン溶出体1とカソード101を電気的に接続する導線102とを備えている。なお、実際の装置については本図の概念を満たしていればよく、カソード101や鉄イオン溶出体1の位置や大きさなどについては図の記載に縛られるものではない。
【0054】
本実施の形態に係る鉄イオン供給装置100は、例えば海水110などの水中に浸漬された鉄イオン溶出体1の炭素鉄複合体10から鉄イオン(Fe2+)が溶出した際に発生する電子(e)を、導電助材30や保持部材20により集電し、導線102を通じて水面110aに設置されたカソード101に導き、炭素鉄複合体10の外部で消費させるようになっている。炭素鉄複合体10は、炭素と鉄の間で形成される局部電池により、下式(1)に示すように鉄が2価イオンとして水中に溶出する際に電子を生じるが、生じた電子は炭素鉄複合体10の別な場所において、下式(2)で示す反応によって消費されない限り、炭素鉄複合体10の鉄イオンの溶出を阻害すると考えられる。このため、溶存酸素が豊富な水面110aにカソード101を別途設けることによって、電子を消費し、炭素鉄複合体10からの鉄イオンの溶出を促進(=鉄イオン溶出量の増大)させることができる。
Fe→Fe2++2e (1)
O+1/2O+2e→4OH (2)
【0055】
鉄イオン供給装置100の鉄イオン溶出能は、溶出した鉄イオン濃度ではなく、濃度3重量%の食塩水中に5日間浸漬したとき、鉄イオン供給装置100に使用される炭素鉄複合体10の単位重量(1kg)当たりの鉄イオン溶出量にて評価することが好ましい。これは、鉄イオン溶出量が炭素鉄複合体10の鉄/炭素比や、炭素鉄複合体10の個数、サイズ(=表面積)によって大きく影響されるためである。炭素鉄複合体10の単位重量当たりの鉄イオン溶出量が大きいと所望の濃度の鉄イオンを環境中に溶出させたい場合において、炭素鉄複合体10の所要量が少なくなるため、軽量でコンパクトな装置にすることができ、特に浮体式の鉄イオン供給装置(例えば、図4参照)の場合において有利である。
濃度3重量%の食塩水中に5日間浸漬したときの鉄イオン溶出能は、炭素鉄複合体10の単位重量あたりの鉄イオン発生量として2000mg/kg以上となることが好ましく、2500mg/kg以上がより好ましく、3000mg/kg以上がさらに好ましい。
【0056】
カソード101の材質は、特に限定されず、例えば、金属材料、炭素材料等の導電材料を挙げることができるが、電気伝導度が高く、鉄よりも標準電極電位が高い材料が好ましい。このような金属材料としては、例えば、ステンレス、チタン、銅、白金等を挙げることができ、炭素材料としては、コークス、グラファイト、ポーラスカーボン、炭素繊維、カーボンクロス、カーボンマット、カーボンフェルト、カーボンペーパー等を挙げることができる。カソード101として、比表面積が高く、海水110中でも腐食しにくい炭素材料を使用することがより好ましく、炭素材料の多孔質体が最も好ましい。
【0057】
カソード101の形状は、特に限定されず、例えば、シート状、板状、棒状、紐状、メッシュ状、格子状、蛇腹状、ブロック状、多孔質状等を挙げることができ、さらにこれらの形状に凹凸をつけた形状や孔開け加工を行ったもの、これらの形状を屈曲又は湾曲させた形状などを挙げることができる。また、粒塊状物を集成してこれをカソード101としても良く、さらにはカソード101表面に電極反応を促進するための触媒部が配置されていてもよい。
【0058】
カソード101は、鉄イオン溶出体1の外部に設けることが好ましく、鉄イオン溶出体1と離隔して配置してもよいし、隣接して配置してもよい。図3において、鉄イオン供給装置100は、鉄イオン溶出体1がカソード101よりも下方にあり、全体が完全に水中に埋没している。一方、カソード101は水面110aおよび水面110a近傍に位置しているが、鉄イオン溶出体1はカソード101と同様に水面110aおよび水面110a近傍に位置していてもよい。
【0059】
また、鉄イオン溶出体1はカソード101と導線102により電気的に接続されている。導線102は、炭素鉄複合体10から鉄イオンが溶出する際に発生する電子をカソード101に移送するためのものである。導線102の材質は、防食性に優れたステンレスまたはチタン線、炭素繊維であることが好ましく、耐腐食性や揺動への耐久性の観点からチタン線であることがより好ましい。また、導線102の周囲は、合成樹脂などの絶縁材料で被覆されていることが好ましい。
導線102による鉄イオン溶出体1とカソード101との接続は、炭素鉄複合体10とカソード101とを直接接続しても良いし、図示しない集電体を設け、集電体を介してカソード101を接続しても良い。また、導電助材30とカソード101を導線102で接続してもよく、鉄イオン溶出体1の保持部材20が電気の良導体で形成されている場合は、保持部材20とカソード101を導線102で接続してもよい。
【0060】
図4は、鉄イオン溶出体1を用いた鉄イオン供給装置の別の例を概念的に示す図である。なお、実際の装置については本図の概念を満たしていればよく、カソード101や鉄イオン溶出体1の位置や大きさなどについては図の記載に縛られるものではない。
【0061】
図4に示す鉄イオン供給装置200は、鉄イオン溶出体1と、鉄イオン溶出体1に電気的に接続されるカソード101と、これらに浮力を与える浮体103とを備えている。カソード101の材質や形状は、図3に示した態様と同様である。浮体103は、水に対して浮力を有する材質、構造であれば特に制限はなく、ブイ、浮きなどを用いることができる。鉄イオン供給装置200は、浮体103の浮力により水面110aに浮遊させられるようになっている。
【0062】
鉄イオン供給装置200は、電気伝導性のある保持部材20を有する鉄イオン溶出体1がカソード101の直下に位置しており、鉄イオン溶出体1の全体が例えば海水110などの水中に完全に埋没している。一方、カソード101は鉄イオン溶出体1の直上に設けられており、かつその一部が大気中に露出した状態となるようにされている。鉄イオン溶出体1とカソード101は、電気的に導通するように接している。図4に示す鉄イオン供給装置200は、炭素鉄複合体10から鉄イオンが溶出する際に発生する電子が、保持部材20または導電助材30を通じてカソード101に移送される。なお、図示は省略するが、導線を用いて鉄イオン溶出体1とカソード101とを電気的に接続してもよい。図4に示す鉄イオン供給装置200の他の構成及び効果は図3に示す鉄イオン供給装置100と同様である。
【0063】
鉄イオン溶出体1を用いた鉄イオン供給装置のさらに別の例として、鉄イオン溶出体1とカソード101を導線102により接続せずにお互いの近傍(およそ0.5m以内、好ましくは0.1m以内)に離間して配置した無結線型の装置構成とすることも挙げられる。
この場合、炭素鉄複合体10から鉄イオンが溶出する際に発生する電子は水中を通じてカソード101まで到達することになるので、鉄イオン溶出体1から発生した電子のカソード101への伝達は結線型(例えば、図3の装置)よりも低下する。そのため、カソード101としては、例えば、粒状の多孔質炭素電極を導電性の材質からなる収納部材に収納したもの全体をカソード101とするなど、表面積の大きなものを用い、鉄イオン溶出体1の上方もしくは、水流を考慮した側方に配置することが好ましい。ここで用いる収容部材は、保持部材20と同様の構成とすることができる。
なお、無結線型の鉄イオン供給装置の場合、鉄イオン溶出体1とカソード101を離間して配置することから、水中に浸漬していない状態では「電気的に接続されていない」状態となるが、海水などの水中に浸漬する実際の使用状態では、水を媒体として「電気的に接続される」ため、無結線型の鉄イオン供給装置についても「電気的に接続されるカソード101」を備えているものである。
【0064】
以上、詳述したとおり、鉄イオン溶出体1および鉄イオン供給装置100、200は、海水110や淡水などの水中に設置することによって、港湾や湖沼といった閉鎖性水域における底質からの硫化水素の発生抑制や、微生物の活性化によるヘドロの浄化といった環境改善分野に広く利用することができる。また、鉄イオン溶出体1および鉄イオン供給装置100、200は、装置構成を柔軟に調整できることから公園の池や堀といった小規模な水域にも適用することが可能である。
【実施例0065】
以下、本発明の実証試験のために行った実験結果を実施例として記載するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0066】
[嵩密度]
アルキメデス法により測定した。
【0067】
[開気孔率]
試料の乾燥重量、純水に浸けたときの水中重量、ならびにそれを真空にし、飽水させたときの飽水重量を測定し、得られた重量を使って以下の式から開気孔率を求めた。
開気孔率(%)=[(飽水重量-乾燥重量)/(飽水重量-水中重量)]×100
【0068】
[破壊硬度]
造粒物の崩壊する荷重(座屈する荷重)を圧壊荷重(破壊硬度)とした。荷重測定には、藤原製作所 木屋式硬度計1600-C(最大200N)を使用し、サンプルに圧縮荷重を加え、最大荷重を圧壊荷重とし、造粒物5点の平均値を採用した。
【0069】
[Ni、Cr溶出確認]
ステンレス網籠(SUS304)を使用した実施例、比較例において、試験後に炭素鉄複合体10を取り出した後の水酸化鉄を含む海水110を10%硝酸で加熱溶解し、鉄イオン測定と同時にニッケル、クロムイオンの濃度をICP発光分光分析法にて測定した。
【0070】
[鉄イオン溶出量及び溶出能]
実施例及び比較例の鉄イオン溶出体1(又は鉄イオン供給装置100)を海水110(塩分濃度3重量%)に浸漬して静置した。5日間の浸漬後、海水110中に発生した水酸化鉄を10wt%濃度の硝酸を添加することにより完全に溶解させたのち、パックテスト(共立理化学研究 全鉄 WAK-Fe)にて浸漬後の海水110中の鉄イオン濃度を測定し、鉄イオン溶出量とした。また、前記鉄イオン濃度を鉄イオン溶出体1(又は鉄イオン供給装置100)で使用した鉄イオン発生源(鉄板、鉄球または炭素鉄複合体10)の重量(単位kg)で除した数値を鉄イオン溶出能として算出した。なお、鉄イオン溶出能の算出に際してはステンレス籠については鉄イオン発生源としてはみなさない。
なお、測定に際しては図3に示すようにカソード101は水面付近に位置するように、また、アノードとして機能する鉄イオン溶出体1は、その全体が完全に海水110中に浸かっている状態となるように設置した。
【0071】
[炭素鉄複合体]
図2に示したものと同様の構成を有する炭素鉄複合体10を使用した。すなわち、鋳鉄粉(竹内工業株式会社製、28メッシュアンダー品 炭素:2~4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5~1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)とニードルコークス粉(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、9メッシュアンダー)をバインダーピッチ(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、軟化点:85℃、固定炭素分58%)とデンプン(浅田製粉株式会社製、ライ麦粉α化品、残炭率10%)を用いてブリケットマシンにて造粒(ポケット:18×14×深さ3.3mm)し、非酸化性雰囲気下800℃の温度で焼成し、焼結させて炭素鉄複合体10を作製した。表1に、使用した炭素鉄複合体10の詳細を示す。炭素鉄複合体10の1粒あたりの見かけの表面積はブリケットマシンのポケットサイズから5.1cmで、重さは2.1gであった。また、嵩密度は2.02で、開気孔率は30%であった。
【0072】
【表1】
【0073】
[多孔質炭素材料A]
真密度1.82g/cmのピッチコークスを粉砕し、0.250~0.500mm:25%、0.075~0.249mm:45%、0.074mm以下:30%の粒度配合になるように調整した。このピッチコークス粒子100重量部に、石炭系重質油から得られたバインダーピッチ(シーケム社製、軟化点:97℃)40重量部を添加し、200℃で20分間加熱混練した。この混練物を20mmφの棒状に押出し成型した。成型後900℃の非酸化性雰囲気中で焼成し、焼結物(炭素成形体)を得た。この炭素成形体を20mmφ×48mmに加工し、嵩密度1.40、吸水率8.9%の多孔質炭素材料Aを得た。
なお、吸水率の測定は、予め重量測定した多孔質炭素材料Aを室温の純水に浸漬し、24時間後に取り出し、3分間室温で静置し、水の滴りがなく、水が十分切れたところで重量M2を測定し、浸漬前の重量M1に対する、増加した重量(M2-M1)の比率として下式によって求めた。
吸水率[%]=[(M2-M1)/M1]×100
【0074】
[多孔質炭素材料B]
ニードルコークス粉(シーケム社製、9メッシュアンダー)をバインダーピッチ(シーケム社製、軟化点:90℃)とデンプン(浅田製粉株式会社製、ライ麦粉α化品)を用いてブリケットマシンにて造粒(ポケット:18×14×深さ3.3mm)し、非酸化性雰囲気下900℃の温度で焼成し、焼結させて多孔質炭素材料Bを作製した。多孔質炭素材料Bの1粒あたりの見かけの表面積は5.0cmで、重さは1.8gであった。嵩密度は1.27、開気孔率は39%であった。
【0075】
[実施例1]
保持部材20としてステンレス製の円筒形の網籠(材質SUS304 重さ7.0g)を用意し、内部に炭素鉄複合体10を1個収納し、鉄イオン溶出体1とした。次いで、底面の内直径が55mmで容量220mlの丸型ねじ口瓶104を準備し、蓋に開けた穴(5mm径)を利用して鉄イオン溶出体1をナイロン糸105で吊り下げ、天然の海水110(塩分濃度3重量%;福岡県平松漁港にて採取したもの。以下、同様である。)150mlを保持部材20が完全に浸るまで注ぎ込んだ。
丸型ねじ口瓶104は恒温水槽(図示省略)に設置し、27℃の温度にセットして静置し、5日間静置したのち、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。
実施例1における試験装置の概要を図5に、評価結果を表2に示す。
【0076】
[実施例2]
保持部材20としてナイロン製の網袋(重さ 0.7g)を用意し、内部に炭素鉄複合体10を1個と、導電助材30として多孔質炭素材料Bを1個収納し、鉄イオン溶出体1とした。なお、多孔質炭素材料Bは炭素鉄複合体10の上に接触させて乗せた。
次いで、底面の内直径が55mmで容量220mlの丸型ねじ口瓶104を準備し、蓋に開けた穴(5mm径)を利用して鉄イオン溶出体1をナイロン糸105で吊り下げ、天然の海水110の150mlを保持部材20が完全に浸るまで注ぎ込んだ。
丸型ねじ口瓶104は恒温水槽(図示省略)に設置し、27℃の温度にセットし、5日間静置したのち、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。
実施例2における試験装置の概要を図6に、評価結果を表2に示す。
【0077】
[実施例3]
鉄イオン溶出体1に炭素鉄複合体10と共に収納する導電助材30としてニードルコークス塊(シーケム社製 LPC-U、4.0g/個)を用いた以外は実施例2と同様にして、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。試験装置の概要を図7に、評価結果を表2に示す。
【0078】
[実施例4]
保持部材20としてナイロン製の網袋(重さ 0.7g)を用意し、内部に炭素鉄複合体10を1個と、導電助材30としてサイジング材のない炭素繊維(日本グラファイトファイバー製 12K 0.16g)を収納し、鉄イオン溶出体1とした。炭素鉄複合体10は炭素繊維の上に接触させて乗せた。
次いで、底面の内直径が55mmで容量220mlの丸型ねじ口瓶104を準備し、蓋に開けた穴(5mm径)を利用して鉄イオン溶出体1をナイロン糸105で吊り下げ、天然の海水110の150mlを保持部材20が完全に浸るまで注ぎ込んだ。
丸型ねじ口瓶104は恒温水槽(図示省略)に設置し、27℃の温度にセットして5日間静置し、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。
実施例4における試験装置の概要を図8に、評価結果を表2に示す。
【0079】
[実施例5]
鉄イオン溶出体1に収納する炭素鉄複合体10を3個、導電助材30としての多孔質炭素材料Bの個数を9個とした以外は実施例2と同様にして、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。評価結果を表2に示す。
【0080】
[実施例6]
図示は省略するが、保持部材20としてナイロン製の網袋(重さ0.7g)を用意し、内部に炭素鉄複合体10を1個と、導電助材30としてサイジング材のない炭素繊維(日本グラファイトファイバー製 12K)収納し、鉄イオン溶出体1とした。浸漬した炭素繊維の上に炭素鉄複合体10を接触させて乗せた。
次いで、底面の内直径が55mmで容量220mlの丸型ねじ口瓶104を準備し、蓋に開けた穴(5mm径)を利用して鉄イオン溶出体1をナイロン糸105で吊り下げ、天然の海水110の150mlを保持部材20が完全に浸るまで注ぎ込んだ。このとき、炭素繊維はその全長の1/3が海水110に浸漬しており、残りの2/3については繊維が折損しない程度に束ねて、保持部材20外の直上水面110a近傍にカソード101として配置した。
丸型ねじ口瓶104は恒温水槽に設置し、27℃の温度にセットして5日間静置し、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。評価結果を表2に示す。
【0081】
[実施例7]
保持部材20としてステンレス製の円筒形の網籠を用意し、内部に炭素鉄複合体10を1個と、導電助材30として多孔質炭素材料Bを1個収納し、鉄イオン溶出体1とした。
次いで、多孔質炭素材料Aをカソード101として準備し、カソード101と保持部材20をチタン線の導線102を用いて電気的に接続して鉄イオン供給装置100とした。
容量2000mlのプラスチック瓶106に1500mlの天然の海水110を入れ、それを恒温水槽(図示省略)に設置し、鉄イオン溶出体1が底部に位置し、多孔質炭素材料Aが水面110aに位置するように、蓋に開けた穴(5mm径)などを利用して吊るすように配置した。恒温水槽を27℃の温度にセットして5日間静置し、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。
実施例7における試験装置の概要を図9に、評価結果を表2に示す。
【0082】
[実施例8]
保持部材20としてステンレス製の円筒形で開閉可能な蓋つきの網籠を用意し、内部に炭素鉄複合体10を1個と、導電助材30として多孔質炭素材料Bを2個収納し、鉄イオン溶出体1とした。
次いで、保持部材20の蓋を閉め、その上に多孔質炭素材料Bの5個(合計9g)をなるべく平らになるように積んで、カソード101として配置して鉄イオン供給装置100とした。
容量2000mlのプラスチック瓶106に1500mlの天然の海水110を入れ、それを恒温水槽(図示省略)に設置した。このとき、プラスチック瓶106の蓋に開けた穴(5mm径)を利用して、保持部材20の蓋に載せた多孔質炭素材料Bが約1mm程度の高さで水面110aから露出するように、かつ、鉄イオン溶出体1が完全に海水110中に浸漬するように、ナイロン糸105で吊るして配置した。恒温水槽を27℃の温度にセットして5日間静置し、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。
実施例8における試験装置の概要を図10に、評価結果を表2に示す。
【0083】
[実施例9]
保持部材20としてステンレス製の円筒形の網籠を用意し、内部に炭素鉄複合体10を1個収納し、鉄イオン溶出体1とした。
次いで、ステンレス製の円筒形の網籠の中に多孔質炭素材料Bを5個(合計9g)入れたものをカソード101として準備した。容量2000mlのプラスチック瓶106に1500mlの天然の海水110を入れ、それを恒温水槽(図示省略)に設置した。プラスチック瓶106の底面に鉄イオン溶出体1を置き、鉄イオン溶出体1が完全に海水110中に浸漬するようにした。この鉄イオン溶出体1の直上5cmにカソード101の多孔質炭素材料Bが位置するように、蓋に開けた穴(5mm径)などを利用してナイロン糸105で吊るすように配置して、無結線型の鉄イオン供給装置100とした。恒温水槽を27℃の温度にセットして5日間静置し、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。
実施例9における試験装置の概要を図11に、評価結果を表2に示す。
【0084】
[比較例1]
保持部材20としてナイロン製の網袋を用意し、内部に炭素鉄複合体10を1個収納し、鉄イオン溶出体1とした。
次いで、底面の内直径が55mmで容量220mlの丸型ねじ口瓶104を準備し、蓋に開けた穴(5mm径)を利用して鉄イオン溶出体1をナイロン糸105で吊り下げ、天然の海水110の150mlを保持部材20が完全に浸るまで注ぎ込んだ。
丸型ねじ口瓶104は恒温水槽(図示省略)に設置し、27℃の温度にセットして5日間静置したのち、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。
比較例1における試験装置の概要を図12に、評価結果を表2に示す。
【0085】
[比較例2]
図示は省略するが、板状の金属部材(材質SS400 40×10×2mm、6.2g)の上に炭素繊維強化プラスチック材料(CFRP、マトリックス樹脂:フェノキシ樹脂 Vf56% 40×10×1mm 重さ0.61g)を平面同士で重ねてナイロン糸105で縛り付けた炭素鉄複合体10を鉄イオン溶出体1として、保持部材20を用いずに海水110中に浸漬した以外は実施例1と同様にして、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。評価結果を表2に示す。
【0086】
[比較例3]
鉄イオン溶出体1に収納する炭素鉄複合体10の代わりに鋼球(材質SUJ2 φ10mm 4.1g)を1個使用した以外は比較例1と同様にして、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。評価結果を表2に示す。
【0087】
[比較例4]
鉄イオン溶出体1に収納する炭素鉄複合体10の代わりに鋼球(材質SUJ2 φ10mm 4.1g)を1個と導電助材30としてニードルコークス塊(日鉄ケミカル&マテリアル製 LPC-U、重さ4.0g 1個)を使用した以外は比較例1と同様にして、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。評価結果を表2に示す。
【0088】
[比較例5]
鉄イオン溶出体1に収納する炭素鉄複合体10の個数を3個に変更した以外は比較例1と同様にして、瓶内の海水110中に発生した鉄イオン溶出量を測定した。評価結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例1~5の鉄イオン溶出体1は炭素鉄複合体10をただナイロン網袋にいれただけの比較例1、5や、鋼板にCFRPを併用した比較例2、鋼球のみを使用した比較例3、並びに鋼球にニードルコークスを併用した比較例4よりも、炭素鉄複合体10の使用量あたりの鉄イオンの溶出量が多く、かつ鉄イオン溶出能も大きくなっている。また、実施例1、7、8では、保持部材20にSUSを使用しても浸漬水や沈降物からNiおよびCrが検出されなかった。さらに、実施例6~8では、カソード101を用いて炭素鉄複合体10から鉄イオンが溶出する際に発生する電子を系外に逃がすことで鉄イオン溶出量が従来方法よりも促進されており、他の実施例と比較しても、鉄イオン溶出量および重量出力密度が高く、より高濃度の鉄イオンを効率よく水中に供給することができることが明らかであり、装置の小型化も可能であることがわかる。加えて、実施例9のように大きな表面積を持つカソード101を鉄イオン溶出体1の近傍に配置することによっても、比較例よりも鉄イオンを多く溶出することができることがわかる。実施例9の鉄イオン供給装置100は、、無結線型であるため、例えば池などの止水域での使用にも適している。また、実施例9の鉄イオン供給装置100の応用例として、例えば水温が高く底質からの硫化水素の発生が多い夏季は導線102を用いて鉄イオン溶出体1とカソード101を結合させて鉄イオンを大量に発生させ、気温が低く底質からの硫化水素の発生の少ない冬季は無結線型とすることで鉄イオンの発生を少なくする、といった季節調整型の使用方法もできる。
【0091】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1…鉄イオン溶出体、10…炭素鉄複合体、11…鉄粒子、13…炭素質物、15…細孔、20…保持部材、30…導電助材、100…鉄イオン供給装置、101…カソード、102…導線、103…浮体、200…鉄イオン供給装置

図1
図2
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図10
図11
図12