(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070841
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】特定のクリープコンプライアンス値を有する感圧接着剤層を有する表示装置およびその設計方法
(51)【国際特許分類】
C09J 183/04 20060101AFI20220506BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220506BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220506BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C09J183/04
C09J7/38
G09F9/00 313
G09F9/30 308A
G09F9/30 308Z
G09F9/00 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175116
(22)【出願日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020179926
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真樹
(72)【発明者】
【氏名】津田 武明
(72)【発明者】
【氏名】飯村 智浩
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5C094
5G435
【Fターム(参考)】
4J004AA03
4J004AB01
4J004FA05
4J040EK031
4J040HD32
4J040JA06
4J040JB09
4J040KA26
4J040LA06
4J040NA19
5C094AA37
5C094AA47
5C094DA05
5C094DA06
5C094FB01
5C094FB06
5C094JA01
5C094JA20
5G435AA07
5G435GG42
5G435HH02
5G435HH18
5G435HH20
5G435KK05
(57)【要約】
【課題】 感圧接着剤層として用いた場合に、部材間の密着性および変形等に対する追従性を極めて効率よく判断することが可能であり、変形乃至湾曲を前提とする表示装置に使用した場合に、当該表示装置の信頼性および耐久性を十分に改善可能な、耐熱性等に優れたシリコーン系の感圧接着剤層を部材間に備える表示装置、およびその設計方法を提供する。
【解決手段】 感圧接着剤について貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”に関する動的粘弾性を測定し、同データを使用して作成した周波数f(1/t)に対する貯蔵弾性率G’(f)および損失弾性率G”(f)についてのマスターカーブ(曲線)に依拠して近似計算されるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下である感圧接着剤層を部材間に有する、表示装置および当該表示装置の製造・設計方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の計算工程1~3により算出されるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10
-6(1/Pa)以下である感圧接着剤層を部材間に有する、表示装置。
計算工程1:感圧接着剤について一定の角周波数ω
0とし、スイープ温度T
vにおいて測定した、貯蔵弾性率G’(ω
0,T
v)および損失弾性率G”(ω
0,T
v)を含む動的粘弾性測定結果を使用することにより、当該感圧接着剤について、時間tとする場合の周波数f(1/t)に対する貯蔵弾性率G’(f)および損失弾性率G”(f)についてのマスターカーブ(曲線)を作成する計算工程、
計算工程2:当該マスターカーブを用いて、下式により、貯蔵弾性率G’(f)および損失弾性率G”(f)を緩和弾性率G(t)に変換する計算工程
【数1】
(式中、tは時間であり、fは周波数であり(1/t)に相当する)、
計算工程3:近似により、1/G(t)をクリープコンプライアンス値に関する計算式J(t)に変換し、t=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jを求める計算工程
【請求項2】
フレキシブルディスプレイまたは曲面ディスプレイである、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
感圧接着剤層が、そのガラス転移温度(Tg)が10~100℃の範囲にあるシリコーン系感圧接着剤層である、請求項1または請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
感圧接着剤層が、その25℃における貯蔵弾性率G’が1MPa以上の範囲にあるシリコーン系感圧接着剤層である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項5】
感圧接着剤層が、
(A)分子内に平均して1を超える数のアルケニル基を有する鎖状オルガノポリシロキサン、
(B)以下の(b1)成分および(b2)成分を0:100~100:0の質量比で含む、オルガノポリシロキサンレジンまたはその混合物:
(b1)分子内の全ケイ素原子に対する水酸基および加水分解性基の含有量の和が9モル%以下であり、テトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)が4500以上であるオルガノポリシロキサンレジン、
(b2)分子内の全ケイ素原子に対する水酸基および加水分解性基の含有量の和が9モル%以下であり、テトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)が4500未満であるオルガノポリシロキサンレジン
(C)分子内に少なくとも2個のSi-H結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)ヒドロシリル化反応触媒
を含有する硬化性シリコーン感圧接着剤組成物の硬化物である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の表示装置であって、
(A)成分の少なくとも一部が、25℃において100,000mPa・s以上の粘度を有するか、JIS K 6249:2003に規定される方法に準じて測定された可塑度が50~200の範囲にある生ゴム状のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンであり、そのアルケニル基中のビニル(CH2=CH)部分の含有量が0.005~0.400質量%の範囲にある鎖状オルガノポリシロキサンであり、
(B)成分が、R3SiO1/2単位(式中、Rは一価有機基であり、Rの90モル%以上が炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基である;M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなるオルガノポリシロキサンレジンまたはその混合物であり
(C)成分の量が、上記の(A)成分中および(B)成分中のアルケニル基の物質量の和に対する(C)成分中のSiH基の物質量の比(モル比)が0.1~100となる量であり、
(D)成分の量が、組成物中の固形分中の白金系金属の含有量が0.1~200ppmの範囲である表示装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の表示装置であって、
(C)成分の量が、上記の(A)成分中および(B)成分中のアルケニル基の物質量の和に対する(C)成分中のSiH基の物質量の比(モル比)が11~60となる量である表示装置。
【請求項8】
上記の計算工程1~3により算出されるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下である感圧接着剤層を用いて部材間を接着する工程を有する、請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項9】
上記の計算工程1~3により算出されるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下となるような感圧接着剤層を与える硬化性シリコーン感圧接着剤組成物を選択し、当該硬化性シリコーン感圧接着剤組成物を部材間に塗布または当該硬化性シリコーン感圧接着剤組成物を硬化させてなる感圧接着剤層を部材間に配置することを特徴とする、請求項1に記載の表示装置の設計方法。
【請求項10】
上記の計算工程1~3により算出されるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下であり、その25℃における貯蔵弾性率G’が1MPa以上の範囲にあるシリコーン系感圧接着剤層を部材間に有し、曲げ、折り畳みおよび巻取りから選ばれるいずれか1種の変形が可能なフレキシブルディスプレイである、請求項1に記載の表示装置。
【請求項11】
上記の計算工程1~3により算出されるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが5.0×10-8~7.5×10-7(1/Pa)の範囲であるシリコーン系感圧接着剤を部材間に有し、曲げ、折り畳みおよび巻取りから選ばれるいずれか1種の変形が可能なフレキシブルディスプレイである、請求項1に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の計算工程により算出されるクリープコンプライアンス値が一定値以下である感圧接着剤層を部材間に有する表示装置、特に変形を前提とするフレキシブルディスプレイまたは曲面ディスプレイ、およびこれらの表示装置の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン系感圧接着剤組成物は、アクリル系やゴム系の感圧接着剤組成物と比較して、電気絶縁性、耐熱性、耐寒性、各種被着体に対する粘着性、必要に応じて透明性に優れるため、特に付加反応硬化型の感圧接着剤組成物が汎用されている。特に近年の材料開発においては、シリコーン系光学透明粘着剤(Optically Clear Adhesive,以下、「OCA」ということがある)の要求が拡大している。シリコーン系OCAは実用上十分な粘着力を有し、柔軟で変形性に富み、かつ、耐熱性、耐寒性および耐光性に優れ、OCA層の着色や変色の問題を生じ難く、OCA層の粘着力、貯蔵弾性率(たとえばせん断貯蔵弾性率G’)、硬さ等の物理的性質の変化が小さいため、-20℃等の低温を含む幅広い温度領域において使用される曲面ディスプレイ、フレキシブルディスプレイのように折り畳みや一定の変形を前提とした表示装置の貼り合わせ、あるいは封止に使用される用途展開が期待されている(例えば、特許文献1、2)。さらに、本件出願人らは、表示装置等の用途に合わせて、フレキシブル構造体、硬化により得られる粘着層の粘着力や、低温~室温における貯蔵弾性率の異なるシリコーン系感圧接着剤組成物を複数提案している(特許文献3~7)。しかしながら、殊にフレキシブルディスプレイの分野においては、どのような基準を用いて最適なシリコーン系OCAを選択すればよいかが十分に明確化されておらず、最適なフレキシブルディスプレイの設計には、多数の実験を行ってシリコーン系OCAをスクリーニングする工程が不可欠である。このため、硬化により与えられるシリコーンOCA層が変形に対して十分な追従性を備え、かつ、実用上十分な密着性および耐久性を備える表示装置を効率よく設計し、かつ、最適化したシリコーンOCAを硬化してなる粘着層を備えた表示装置を与えることが困難であるという問題を抱えていた。
【0003】
一方、特許文献8、9では、繰り返し屈曲して使用する表示デバイスにおいて、特定の方法で実測した、一定のクリープコンプライアンス値を有するアクリル系粘着剤層を使用することが提案されている。しかしながら、当該方法は、特定の厚みに調整したアクリル系粘着剤層の試験片を作成して、そのサンプルごとにクリープコンプライアンス値を実測する必要があるため、粘着剤の表示装置への適合性を簡易な測定手段のみで判断することは依然として困難であった。これに加えて、アクリル系粘着剤層においては、特に、耐熱耐寒性、耐光性が不十分であり、特に低温下で粘着層の貯蔵弾性率が不十分となり、ディスプレイを変形させた場合、層間剥離等により故障乃至信頼性低下の原因となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-528330号公報
【特許文献2】特表2019-527745号公報
【特許文献3】国際公開第WO2017/188308号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO2020/032285号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO2020/032286号パンフレット
【特許文献6】国際公開第WO2020/032287号パンフレット
【特許文献7】国際出願第PCT/JP2020/030623号
【特許文献8】特開2019-123826号公報
【特許文献9】特開2019-172932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、感圧接着層として用いた場合に、部材間の密着性および変形等に対する追従性を極めて効率よく判断することが可能であり、変形乃至湾曲を前提とする表示装置に使用した場合に、当該表示装置の信頼性および耐久性を十分に改善可能な、耐熱性等に優れたシリコーン系の感圧接着剤層を部材間に備える表示装置、およびその設計方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の課題は、感圧接着剤について貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”に関する動的粘弾性を測定し、同データを使用して作成した周波数f(1/t)に対する貯蔵弾性率G’(f)および損失弾性率G”(f)についてのマスターカーブ(曲線)に依拠して近似計算されるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下である感圧接着剤層を部材間に有する、表示装置、特に、フレキシブルディスプレイまたは曲面ディスプレイにより達成されうる。また、本発明の課題は、前記の方法で近似計算されるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下である感圧接着剤層部材間に配置することを特徴とする、表示装置の設計方法により達成されうる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表示装置は、粘着剤層の動的粘弾性の測定結果から簡便な手段で近似計算されうるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jというパラメータを使用することにより、部材間の密着性および変形等に対する追従性について、表示装置に使用するシリコーン系の感圧接着剤層の設計、選択および最適化の判断を効率よく行うことができ、当該感圧接着剤層を部材間に備え、信頼性および耐久性に優れる表示装置およびその設計方法を提供可能である。特に、シリコーン系の感圧接着剤層は、耐熱性、耐寒性および耐光性に優れ、感圧接着剤層の着色や変色の問題を生じ難いため、低温を含めた幅広い温度領域において繰り返し変形動作が可能であり、かつ、長期間に亘って透明性および部材間の密着性に優れる粘着剤層を備えた表示装置を、工業的に効率よく、信頼度の高い形で設計・製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る表示装置は、感圧接着剤層の動的粘弾性の測定結果から簡便な手段で近似計算されうるt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが、1×10-6(1/Pa)以下であり、好適には7.5×10-7(1/Pa)以下であり、より好適には1.00×10-8~7.50×10-7(1/Pa)の範囲内、特に好適には5.00×10-8~7.50×10-7(1/Pa)の範囲内にある感圧接着剤層を部材間に有することを特徴とする。このようなクリープコンプライアンス値Jを有する感圧接着剤層、特にシリコーン系の感圧接着剤層は、それ自体がバネ状の粘弾性挙動を示すため、繰り返しの変形、ストレスおよび湾曲に対する復元力および柔軟性に著しく優れ、部材への高度な追従性と同時に密着性、接着強度を実現するものである。なお、動的粘弾性の測定と近似計算の方法は後述する通りであるが、当該方法により得られたクリープコンプライアンス値Jが前記範囲を満たす限り、その他の方法でクリープコンプライアンス値を測定した感圧接着剤層を本発明において使用することそのものを妨げるものではない。
【0009】
本発明に係る表示装置は、後述する繰り返しの変形動作(屈曲、折り畳み、開閉、巻取り、巻物のように丸めたり、スクロールさせることを含む)または湾曲面のように持続的なストレスを前提として設計されるデジタルディスプレイを含むフレキシブルディスプレイ、曲面ディスプレイであることが特に好ましい。
【0010】
本発明に係る表示装置において、その部材間の接着層乃至中間層として使用可能な感圧接着剤層は、その種類について、t=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下である限り、特に限定されないが、例えばシリコーン系感圧接着剤、アクリル系感圧接着剤、及びウレタン系感圧接着剤からなる群から選択された少なくとも1種を使用することができる。経済性、他の基材への接着性、耐久性の点ではアクリル系感圧接着剤を選択してもよいが、特に長期に及ぶ、耐熱性、耐寒性、耐光性および透明性の点ではシリコーン系感圧接着剤を有利に選択することができる。
【0011】
[感圧接着剤層のt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jの導出]
本発明において、感圧接着剤層のt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jは、以下の計算工程1~3により算出される近似値として与えられる。当該計算は、所定の厚み等に合わせて特定の測定試料を作成してクリープコンプライアンス値を実測するよりも容易かつ簡便に行うことができ、かつ、計算結果の信頼性・精度に優れることから、試料の動的粘弾性測定結果から、表示装置、特に繰り返しの変形動作(屈曲、折り畳み、開閉、巻取り、巻物のように丸めたり、スクロールさせることを含む)または湾曲面のように持続的なストレスを前提として設計されるデジタルディスプレイを含むフレキシブルディスプレイ、曲面ディスプレイ等への適用に対し、容易に、その適合性を判断し、これらの表示装置を設計可能である。なお、本計算工程は、後述する文献1(藤川ら)のほか、文献「ETFEフィルムの粘弾性挙動について」(河端昌也、森山史朗、會田裕昌;一般社団法人 日本膜構造協会 膜構造研究論文(2005))および文献「動的粘弾性データを用いたCFRTPのクリープ挙動の解析」(荘司明子,平山紀夫,邉吾一;第35回FRPシンポジウム講演論文集、47-50頁(2006))などに記載されている。
【0012】
<計算工程1:マスターカーブの作成>
計算工程1は、感圧接着剤について一定の角周波数ω0とし、スイープ温度Tvにおいて測定した、貯蔵弾性率G’(ω0,Tv)および損失弾性率G”(ω0,Tv)を含む動的粘弾性測定結果を使用することにより、当該感圧接着剤について、時間tとする場合の周波数f(1/t)に対する貯蔵弾性率G’(f)および損失弾性率G”(f)についてのマスターカーブ(曲線)を作成する計算工程である。なお、スイープ温度Tvとは、段階的に温度を変えながら、それぞれの一定温度で周波数をスイープする、その各温度を意味する。計算工程1で使用する感圧接着剤の動的粘弾性とは、一定の角周波数、一定の昇温条件下における貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”の温度依存性であり、例えば、JIS K 7198等の試験方法に準拠した、市販の粘弾性測定機(DMA試験機)により、精度よく計測可能である。
【0013】
マスターカーブ(曲線)は、次に述べる計算工程2において、同試料の緩和弾性率G(t)を導出するために、試料の動的粘弾性測定結果について、線形粘弾性解析の手法により作成される、合成曲線である。このようなマスターカーブを作成することで、試料の動的粘弾性、特に、クリープ挙動を高精度で予測できるものであり、試料の動的粘弾性測定結果に基づくマスターカーブの作成は、プラスティック材料、ゴム材料等の分野では、例えば、以下の文献1(藤川ら)に記載の手法により、時間-温度換算則を用いて行うことができる。本発明において、好適なマスターカーブの計算手法は、藤川らの研究に記載のゴムのマスター曲線を予測する計算方法に依って行ったものである。
[文献1]藤川正毅ら,"周波数一定/温度分散の動的粘弾性試験結果からゴムのマスター曲線を予測する方法." 日本機械学会論文集 A編 79.805(2013):1354-1365.
【0014】
まず、貯蔵弾性率G’が周波数ωに対して緩やかな変化をしていると仮定できる場合、次式1)の関係が成立する。
【数1】
ここで、G”は損失弾性率を示す。前記の一定の角周波数、一定の昇温条件下における貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”の温度依存性に関する動的粘弾性測定結果からマスターカーブを予測する場合,動的粘弾性測定で設定した一定の角周波数をω
0とし,スイープ温度T
vで測定した貯蔵弾性率と損失弾性率をそれぞれG’(ω
0,T
v),G”(ω
0,T
v)とする。この動的粘弾性試験の測定結果を使用して,測定最低温度T
minを基準温度とするマスター曲線を作成する。なお、この再、シフトファクター(時間―温度換算因子)α
Tも同時に作成するため、任意の温度Tにおけるマスターカーブも容易に算出可能である。
【0015】
同マスターカーブを得るための解析上の計算アルゴリズムは、好適には、以下の通りである。
(1)動的粘弾性試験の測定結果に基づき、温度T
iにおける貯蔵弾性率と損失弾性率を G’
i,G”
iとする。計算開始は,初期温度T
i=T
minから行う。
(2)前進差分法により、上式1)を前方オイラー法で展開することにより、下記の様にG’
iをアップデートしてG’
i+1を計算する。
【数2】
【数3】
ここで,ω
i+1=ω
i-Δω
i=ω
i-hω
iとしている。
また、hは微小な正の係数であり、本発明において、シリコーン系感圧接着剤に関するマスターカーブの作成に当たっては、0.005を値として採用した。本発明において、感圧接着剤は、粘弾性を有するゴム材料であり、マスターカーブ作成時に、0.001~0.020の範囲にある任意の数を選んでよく、かつ、好ましい。また、計算の初期(1順目)はω
i=ω
0から進めるものとする。
(3)動的粘弾性試験の測定結果を参照し、G’
i+1の値におけるG”
i+1とT
i+1を算出する。なお、動的粘弾性試験の測定結果は離散データであるので、線形補間してG’
i+1の値を探索する。ω
i+1上にG”
i+1を割付(プロット)する。
(4)ω
i,ω
i+1の比より、温度T
i+1に対するシフトファクター(時間-温度換算因子)α
Ti+1を計算する。
(5)この操作を繰り返す、具体的には、T
i+1→T
i,ω
i+1→ω
iとして導出操作を繰り返すことにより、角周波数f(1/t)に対する貯蔵弾性率G’(f)および損失弾性率G”(f)についてのマスターカーブおよび温度Tに対するシフトファクターα
T(T)のカーブが各々作成される。
【0016】
<緩和弾性率G(t)への変換>
前述の文献「ETFEフィルムの粘弾性挙動について」(河端ら)および文献「動的粘弾性データを用いたCFRTPのクリープ挙動の解析」(荘司ら)において、動的粘弾性実験に基づく角周波数f(1/t)に対する貯蔵弾性率G’(f)および損失弾性率G’’(f)についてのマスターカーブに基づいて緩和弾性率G(t)(Pa)に変換し、クリープコンプライアンス値を求めることを提案している。具体的には、マスターカーブにより与えられる貯蔵弾性率G’(f)および損失弾性率G”(f)は周波数関数であるので、次式により、緩和弾性率G(t)に変換される。
【数4】
ここで、tは時間であり、fは角周波数であり(1/t)に相当する。なお、同変換式は、二宮-Ferryの換算式として当該分野で広く知られる、公知の計算方式である。
【0017】
<t=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jへの変換>
クリープコンプライアンス値の計算式J(t)(1/Pa)は、先に述べた文献「ETFEフィルムの粘弾性挙動について」等において、動的粘弾性を測定可能な材料、本発明においては感圧接着剤層においては、実用上、緩和弾性率G(t)の逆数として近似変換することが可能である。(前述の文献「ETFEフィルムの粘弾性挙動について」(河端ら)および文献「動的粘弾性データを用いたCFRTPのクリープ挙動の解析」(荘司ら)参照)
【数5】
【0018】
本発明においては、上記の時間(t)に関するクリープコンプライアンス値の計算式J(t)に基づき、最終的に、t=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値J(1/Pa)を算出する。なお、先の計算式J(t)において、t=1、すなわちJ(1)となる値が、t=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値J(1/Pa)である。以下、単に「クリープコンプライアンス値J」と表現する場合には、t=1におけるJ(1)を意味するものである。
【0019】
以上の計算工程1~3により、一定の角周波数、一定の昇温条件下における貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”の温度依存性に関する動的粘弾性測定結果から、比較的容易かつ精度よくt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jを算出することができ、この値を指標としてクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下である感圧接着剤層を部材間に有する、表示装置を利用することで、特に繰り返しの変形動作(屈曲、折り畳み、開閉、巻物のように丸めたり、スクロールさせることを含む)または湾曲面のように持続的なストレスを前提として設計されるデジタルディスプレイを含むフレキシブルディスプレイ、曲面ディスプレイ等において、当該表示装置の信頼性および耐久性を十分に改善可能である。
【0020】
[感圧接着剤層のガラス転移点(Tg)]
本発明にかかる表示装置は、前記の方法で計算されるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下である感圧接着剤層を部材間に有するものであるが、さらに、感圧接着剤層のガラス転移温度(Tg)が10~100℃の範囲にあることが好ましく、30~100℃の範囲にあることがより好ましく、50~100℃の範囲にあることが特に好ましい。このようなガラス転移温度(Tg)を備えることで、通常、表示装置を利用する温度範囲で、高度な柔軟性および粘弾性を維持できるものである。なお、後述する感圧接着剤層形成性オルガノポリシロキサン組成物を使用したシリコーン系の感圧接着剤層は、このようなTgの範囲を比較的容易に充足できる。なお、感圧接着剤層のTgは動的粘弾性測定試験により、損失係数(tanδ)のピーク値から容易に導出可能である。
【0021】
[感圧接着剤層の低温(-20℃)および室温(25℃)における貯蔵弾性率G’]
本発明にかかる表示装置に使用される前記の感圧接着剤層は、さらに、その25℃における貯蔵弾性率G’が1MPa以上の範囲にあることが好ましく、1~50MPaの範囲にあることがより好ましく、1.5~20MPaの範囲内にあることが特に好ましい。同様に、本発明にかかる表示装置に使用される前記の感圧接着剤層は、その-20℃における貯蔵弾性率G’が10~70MPaの範囲内にあることが好ましく、15~60MPaの範囲内にあることが特に好ましい。感圧接着剤層が低温(-20℃)および室温(25℃)における貯蔵弾性率G’について上記範囲にある場合、低温から高温に至る表示装置を利用する温度範囲で、上記のクリープコンプライアンス値Jに由来する部材への密着性、追従性および柔軟性が損なわれず、特に高温下及び低温下において、ディスプレイの変形時であっても高度な柔軟性および密着性を維持できるため、信頼性および耐久性に特に優れるものである。
【0022】
このような低温(-20℃)および室温(25℃)における貯蔵弾性率G’を実現できる感圧接着剤層として、後述する感圧接着剤層形成性オルガノポリシロキサン組成物を使用したシリコーン系感圧接着剤層を例示することができ、かつ、好ましい。シリコーン系以外、例えば、アクリル系感圧接着剤及びウレタン系感圧接着剤から選ばれる感圧接着剤層を使用した場合、同様なt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値であっても、ガラス転移点(Tg)および低温(-20℃)および室温(25℃)における貯蔵弾性率G’に置いて上記の範囲を実現できず、それらの感圧接着剤を使用した表示装置において、その耐熱性及び耐寒性が不十分となる場合がある。
【0023】
[感圧接着剤層形成性オルガノポリシロキサン組成物]
本発明における表示装置は、上記の特性を備える感圧接着剤層を部材間に有することが好ましいものであるが、特に、このような感圧接着剤層として、以下に述べる感圧接着剤層形成性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる感圧接着剤層の使用が好ましい。
【0024】
当該組成物は、ヒドロシリル化反応を含む硬化反応により速やかに硬化し、せん断貯蔵弾性率と引張試験での応力が高く、基材に対する強い接着力を有する感圧接着層を形成するものである。以下、その各構成成分、技術的特徴であるオルガノポリシロキサンレジンまたはその混合物の範囲、その鎖状オルガノポリシロキサンに対するオルガノポリシロキサンレジンの質量比、および感圧接着層の特性について説明する。
【0025】
本発明において好適な感圧接着剤層形成性オルガノポリシロキサン組成物は、上記のとおり、ヒドロシリル化反応により硬化して一定の粘着力を有する感圧接着層を形成するものであり、当該組成において、分子内の全ケイ素原子に対する水酸基および加水分解性基の含有量の和が9モル%以下であり、分子量範囲の異なるオルガノポリシロキサンレジンを単独または混合物の形態で使用し、かつ、主剤であるアルケニル基を有する鎖状オルガノポリシロキサンに対するオルガノポリシロキサンレジンの配合の範囲が特定の範囲にある。当該特徴を有する組成物の硬化により得られる感圧接着層は、25℃におけるせん断貯蔵弾性率G’が1.0MPa以上であり、かつ、25℃における500%歪時の応力が0.25MPa以上であり、好適には、さらに、一定の粘着力を有するものである。
【0026】
より具体的には、本発明において好適な感圧接着剤層形成性オルガノポリシロキサン組成物は、
(A)分子内に平均して1を超える数のアルケニル基を有する鎖状オルガノポリシロキサン、
(B)以下の(b1)成分および(b2)成分を0:100~100:0の質量比で含む、オルガノポリシロキサンレジンまたはその混合物:
(b1)分子内の全ケイ素原子に対する水酸基および加水分解性基の含有量の和が9モル%以下であり、テトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)が4500以上であるオルガノポリシロキサンレジン、
(b2)分子内の全ケイ素原子に対する水酸基および加水分解性基の含有量の和が9モル%以下であり、テトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)が4500未満であるオルガノポリシロキサンレジン
(C)分子内に少なくとも2個のSi-H結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)有効量のヒドロシリル化反応触媒、および
任意で、(A´)分子内に炭素-炭素二重結合含有反応性基を含まない鎖状オルガノポリシロキサン
を含有してなる。また、当該組成物は、ヒドロシリル化反応触媒を含むので、取扱作業性の見地から、さらに、(E)硬化遅延剤を含有してもよく、本発明の目的に反しない範囲で、その他の添加剤を含むものであってよい。以下、各成分について説明する。
【0027】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、鎖状のポリシロキサン分子であり、この組成物の主剤(ベースポリマー)であり、1分子中に平均して1を超える数のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、好適なアルケニル基の個数は、1分子中に1.5個以上である。(A)成分のオルガノポリシロキサンのアルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基が挙げられ、特にビニル基またはヘキセニル基であることが好ましい。(A)成分のアルケニル基の結合位置としては、例えば、分子鎖末端及び/又は分子鎖側鎖が挙げられる。なお、(A)成分は、単一の成分のみを含んでいてもよく、2種以上の異なった成分の混合物であってもよい。
【0028】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、メチル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;アラルキル基;ハロゲン化アルキル基などが挙げられ、特に、メチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0029】
(A)成分は(B)成分と異なり、鎖状のポリシロキサン分子構造を有する。例えば、(A)成分は、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状(分岐鎖状)であることが好ましく、一部に環状、三次元網状を含んでいても良い。好適には、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状または分岐鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。なお、分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを与えるシロキサン単位は後述するT単位またはQ単位である。
【0030】
(A)成分の室温における性状はオイル状または生ゴム状であってもよく、(A)成分の粘度は25℃において50mPa・s以上、特に100mPa・s以上であることが好ましい。特に、本発明にかかるオルガノポリシロキサン組成物が溶剤型である場合には、(A)成分の少なくとも一部は、(A1)25℃において100,000mPa・s以上の粘度を有するか、JIS K6249に規定される方法に準じて測定された可塑度(25℃、4.2gの球状試料に1kgfの荷重を3分間かけたときの厚さを1/100mmまで読み、この数値を100倍したもの)が50~200の範囲にある、さらに好ましくは80~180の範囲にある生ゴム状のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0031】
なお、これらのアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、接点障害防止等の見地から、揮発性または低分子量のシロキサンオリゴマー(オクタメチルテトラシロキサン(D4)、デカメチルペンタシロキサン(D5)等)が低減ないし除去されていることが好ましい。その程度は所望により設計可能であるが、成分(A)全体の1質量%未満、各シロキサンオリゴマーについて0.1質量%未満としてもよく、必要に応じ、検出限界付近まで低減してもよい。
【0032】
前記の(A1)成分中のアルケニル基の含有量は特に限定されるものではないが、本発明の技術的効果の見地から、(A1)成分中のアルケニル基中のビニル(CH2=CH)部分の含有量(以下、「ビニル含有量」という)が、0.005~0.400質量%の範囲が好ましく、0.005~0.300質量%の範囲が特に好ましい。
【0033】
好適には、本発明に係る鎖状オルガノポリシロキサンとオルガノポリシロキサンレジンの質量比は所定の範囲にあり、かつ、所定のオルガノポリシロキサンレジンまたはその混合物を使用することにより、高い貯蔵弾性率、引張応力という実用上十分な粘弾特性と応力に加えて、強い粘着力を同時に達成することが可能である。
【0034】
本発明の(A)成分として、前記の(A1)成分より低粘度の(A)成分であっても、利用可能であり、具体的には、(A2)25℃における粘度が100,000mPa・s未満のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンが利用可能である。ここで、(A2)成分の粘度以外の例示は、(A1)成分と同様である。
【0035】
本発明の技術的効果の見地から、(A)成分の50質量%以上が、(A1)成分である高重合度のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンであることが好ましく、75~100質量%が(A1)成分であることが特に好ましい。すなわち、本発明の(A)成分として前記の(A1)成分(=高重合度のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン)と(A2)成分(=より低重合度のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン)を併用する場合には、両者の質量比が50:50~100:0、より好適には75:25~100:0または75:25~90:10の範囲である。
【0036】
[その他のアルケニル基を有する環状シロキサン類および有機ケイ素化合物]
本発明において、任意選択により、(A)成分と共に、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン等のアルケニル基を有する環状シロキサン類を少量使用してもよい。これらの環状シロキサン類は、反応性希釈剤または硬化反応性の制御剤としての機能を果たす場合があり、必要に応じて使用することができる。
【0037】
同様に、任意選択により、(A)成分と共に、分子内に平均して1を超える数のアルケニル基を有する有機ケイ素化合物であって、上記の(A)成分、(B)成分およびアルケニル基を有する環状シロキサン類に該当しない成分を使用してもよい。これらの有機ケイ素化合物は、通常、硬化性シロキサン組成物における、独立した接着付与剤として使用されるアルケニル基含有シラン、アルケニル基含有シラン-シロキサンの反応混合物であり、ポリジアルキルシロキサン等のポリオルガノシロキサン成分やオルガノポリシロキサンレジン成分と異なる成分である。これらのアルケニル基を有する有機ケイ素化合物であって、さらに、分子内にエポキシ基を有するものは、取り扱い作業性に優れ、室温におけるせん断貯蔵弾性率G’等の粘弾特性を損なうことなく、ヒドロシリル化硬化反応により迅速に硬化することに加えて、各種の基材に対しても良好な接着性を付与することができ、特に、引張接着強さに優れた感圧接着層を形成できる場合がある。
【0038】
(B)オルガノポリシロキサンレジンまたはその混合物は、本発明の好適な構成の一つであり、基材への粘着力を付与する粘着付与成分であると同時に、(A)成分と一定の比率で使用することにより、硬化により得られるシリコーン系の感圧接着剤層の貯蔵弾性率、応力および実用的な粘着力範囲を実現する成分である。より具体的には、(B)成分は、水酸基または加水分解性基の含有量が抑制された、単独のオルガノポリシロキサンレジンまたは平均分子量の異なるオルガノポリシロキサンレジンの混合物である。このような(B)成分は、(B)成分間での加水分解/重合反応が起こりにくいため、本発明において、好適なクリープコンプライアンス値Jを与えるシリコーン系の感圧接着剤層を設計しやすく、単独、または平均分子量の異なるレジンを組み合わせて使用することで、その硬化物である感圧接着層における所定の貯蔵弾性率、応力および実用的な粘着力範囲を実現する。
【0039】
詳細には、(B)成分は、以下の(b1)成分および(b2)成分を0:100~100:0の質量比で含む、オルガノポリシロキサンレジンまたはその混合物である。ここで、(B)成分は、(b1)成分のみまたは(b2)成分のみからなる成分であってよく、これらの(b1)成分および(b2)成分の混合物であってもよい。
(b1)分子内の全ケイ素原子に対する水酸基および加水分解性基の含有量の和が9モル%以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)が4500以上であるオルガノポリシロキサンレジン、
(b2)分子内の全ケイ素原子に対する水酸基および加水分解性基の含有量の和が9モル%以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)が4500未満であるオルガノポリシロキサンレジン
【0040】
(B)成分、すなわち、(b1)成分および(b2)成分は、共通する性質として、その分子内における水酸基および加水分解性基の含有量の和が、当該オルガノポリシロキサンレジン分子中の全ケイ素原子に対して9モル%以下の範囲であり、分子中の全ケイ素原子に対して7モル%以下であることが好ましい。なお、(B)成分において、かかる水酸基および加水分解性基の含有量は、これらの官能基を全て水酸基に換算して表現することもできる。この場合、当該オルガノポリシロキサンレジン分子中の水酸基以外の加水分解性基を全て水酸基(OH)であると仮定してその質量%を計算すると、上記の水酸基および加水分解性基の含有量の和は、当該オルガノポリシロキサンレジン分子中における水酸基および水酸基に換算したこれらの加水分解性基の含有量の和が2.0質量%以下であり、1.6質量%以下が好ましいと表現することもできる。水酸基または加水分解性基は、後述するレジン構造中のシロキサン単位のうち、T単位またはQ単位などのケイ素に直接結合しており、原料となるシラン由来またはシランが加水分解した結果、生じた基であるので、合成したオルガノポリシロキサンレジンをトリメチルシラン等のシリル化剤で加水分解処理することで水酸基または加水分解性基の含有量を低減することができる。
【0041】
(b1)成分および(b2)成分において、当該水酸基または加水分解性基の量が前記の上限を超えると、オルガノポリシロキサンレジン分子間の縮合反応が進行して、硬化物中において分子量の大きいオルガノポリシロキサンレジン構造が形成されやすくなる。このような分子量の大きいオルガノポリシロキサンレジンは、組成物全体の硬化性を損なう傾向があり、当該組成物の低温における硬化性が不十分となったり、得られる感圧接着層が実用上十分な貯蔵弾性率を有しなくなる場合がある。
【0042】
(b1)成分および(b2)成分は、共にオルガノポリシロキサンレジンであり、三次元構造を有するオルガノポリシロキサンである。例えば、R2SiO2/2単位(D単位)及びRSiO3/2単位(T単位)(式中、Rは互いに独立した一価有機基を表す)からなり、水酸基または加水分解性基の含有量が上記範囲にあるレジン、T単位単独からなり、水酸基または加水分解性基の含有量が上記範囲にあるレジン、並びにR3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなり、水酸基または加水分解性基の含有量が上記範囲にあるレジンなどを挙げることができる。特に、R3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなり、分子内の全ケイ素原子に対する水酸基および加水分解性基の含有量の和が0~7モル%(これらの官能基を全て水酸基に換算した場合、0.0~1.6質量%であることが好ましい)の範囲であるレジン(MQレジンとも呼ばれる)を使用することが好ましい。
【0043】
Rの一価有機基は、好ましくは炭素数1~10の一価炭化水素基であり、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数6~10のシクロアルキル基、ベンジル基、フェニルエチル基、及びフェニルプロピル基が例示される。特に、Rの90モル%以上が炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、Rの95~100モル%がメチル基またはフェニル基であることが特に好ましい。
【0044】
(b1)成分および(b2)成分が、R3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなるレジンである場合、M単位対Q単位のモル比は、0.5~2.0であることが好ましい。このモル比が0.5未満である場合には基材への粘着力が低下することがあり、2.0より大きい場合には粘着層を構成する物質の凝集力が低下するからである。また、本発明の特性を損なわない範囲で、D単位及びT単位を(B)成分中に含有させることも可能である。さらに、これらのオルガノポリシロキサンレジンは、接点障害防止等の見地から、低分子量のシロキサンオリゴマーが低減ないし除去されていても良い。
【0045】
(b1)成分および(b2)成分であるオルガノポリシロキサンレジンは、その重量平均分子量(Mw)において互いに異なる。ここで、重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフラン(THF)を移動相溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定される各々のオルガノポリシロキサンレジンにおいて、個々の分子が全体に占める割合を考慮した平均分子量である。
【0046】
(b1)成分は、分子量の大きいオルガノポリシロキサンレジンであり、その重量平均分子量(Mw)は、4500以上であり、5000以上が好ましく、5500以上が特に好ましい。実用上、(b1)成分は、重量平均分子量(Mw)が5000~10000の範囲にある、上述のR3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなるレジンが特に好適である。
【0047】
(b2)成分は、分子量の小さいオルガノポリシロキサンレジンであり、その重量平均分子量(Mw)は、4500未満であり、4000以下が好ましく、3750以下が特に好ましい。実用上、(b1)成分は、重量平均分子量(Mw)が500~3750の範囲にある、上述のR3SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなるレジンが特に好適である。
【0048】
(B)成分は、上記の(b1)成分および(b2)成分を0:100~100:0の質量比で含む、オルガノポリシロキサンレジンまたはオルガノポリシロキサンレジン混合物であり、上記の通り、(b1)成分または(b2)成分のみを用いてもよく、これらの混合物であってもよい。(B)成分が(b1)成分および(b2)成分の混合物である場合、その混合比は、特に制限されるものではないが、組成や粘弾性の設計に応じて、5:95~95:5の範囲であってよく、10:90~90:10の範囲であってよく、15:85~85:15となる範囲であってもよい。これに対して、(B)成分は(b1)成分のみからなるオルガノポリシロキサンレジンであってもよく、同様に、(B)成分は(b2)成分のみからなるオルガノポリシロキサンレジンでもよい。(B)成分が単独のオルガノポリシロキサンレジンである本発明の実施形態および(B)成分が(b1)成分および(b2)成分の混合物である本発明の実施形態は、共に、本発明の好適な実施形態に含まれる。例えば、本発明に係るシリコーン系の感圧接着剤層において、所望の硬化性、粘着力および貯蔵弾性率等の特性を実現するために、単独のオルガノポリシロキサンレジンを用いてもよく、2種以上の分子量の異なるオルガノポリシロキサンレジンを実質的に組み合わせて使用することにより、所望とするより好ましい特性およびより好適なクリープコンプライアンス値J等を実現してもよい。
【0049】
[(A)成分および(A´)成分に対する(B)成分の質量比]
本発明に係る感圧接着層形成性オルガノポリシロキサン組成物は、鎖状の反応性シロキサン成分である(A)成分および後述する(A´)成分の和に対する、オルガノポリシロキサンレジンである(B)成分の質量比が1.0~4.0の範囲にあることが好ましい。(B)成分として、上記の特徴的なオルガノポリシロキサンレジンまたはその混合物を選択し、かつ、鎖状のシロキサンポリマー成分に対して上記のレジン成分が前記範囲となるように配合されていると、本発明の目的とする高い貯蔵弾性率および応力等の粘弾特性が好適に実現されるためである。特に、得られる感圧接着層の粘着力を高める見地から(A)成分および後述する(A´)成分に対する、(B)成分の質量比は1.5~4.0の範囲であってよく、所望の粘着力および貯蔵弾性率を実現するために、1.5~3.5の範囲が特に好ましい。一方、(A)成分および後述する(A´)成分に対する、(B)成分の質量比が前記範囲外であると、他の構成を調整しても本発明の目的とする硬化性、粘着力および貯蔵弾性率等の特性が実現できない場合がある。
【0050】
(C)成分は、Si-H結合を分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、本発明にかかるオルガノポリシロキサン組成物の架橋剤である。成分(C)の分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状、環状、あるいはオルガノポリシロキサンレジンであることが挙げられ、好ましくは、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、あるいはオルガノポリシロキサンレジンである。ケイ素原子結合水素原子の結合位置は特に限定されず、分子鎖末端,側鎖,これら両方が例示される。
ケイ素原子結合水素原子の含有量は0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.5~1.7質量%であることがより好ましい。
【0051】
ケイ素原子に結合する有機基として、メチル基等の炭素原子数1~8のアルキル基;フェニル基等のアリール基;アラルキル基;ハロゲン化アルキル基が例示されるが、それらの合計数の50モル%以上が炭素原子数1~8のアルキル基またはフェニル基であることが好ましい。製造容易性および前記した好ましい(A)成分、(B)成分との相溶性の点で他の有機基はメチル基またはフェニル基が好ましい。
【0052】
(C)成分として、具体的には、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン,テトラ(ジメチルハイドロジェンシロキシ)シラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン,両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体,両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体,環状メチルハイドロジェンオリゴシロキサン,環状メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、トリメトキシシランの加水分解縮合物、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、およびこれらの2種以上の混合物が例示される。
【0053】
[SiH/Vi比]
本発明にかかる好適な感圧接着剤層を与える組成物は、ヒドロシリル化反応硬化性であり、(C)成分の使用量は、組成物がヒドロシリル化反応により十分に硬化することができれば特に制限されるものではないが、組成物中の(A)成分中のアルケニル基の量(物質量)および(B)成分中のアルケニル基の量(物質量)の和に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiH)基の物質量、すなわちモル比が0.1~100の範囲であることが好ましく、0.5~60の範囲、1.0~50の範囲、または1.0~40の範囲であっても良い。なお、当該モル比を以下、「SiH/Vi比」と呼ぶことがある。
【0054】
一方、ガラス等の基材に対する密着性を改善する目的で、SiH/Vi比を10以上、または20以上に設計することができ、かつ、11を超えることが好ましく、22以上であることがより好ましい。例えば、組成物中の(A)成分中のアルケニル基の量(物質量)および(B)成分中のアルケニル基の量(物質量)の和に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiH)基の物質量は、11~60の範囲、21~60の範囲、22~50の範囲に設計することができる。SiH基の量が前記下限を下回ると、基材への密着性の改善という技術的効果が実現できない場合がある。一方、SiH基の量が前記上限を超えると、反応せずに残存する硬化剤の量が多くなってしまい、硬化物が脆くなる等の硬化物性における悪影響やガスの発生等の問題が生じる場合がある。ただし、組成物のSiH/Vi比が上記範囲外でも実用上十分な感圧接着層を形成することができる場合がある。
【0055】
なお、任意選択により、(A)成分および(B)成分以外のアルケニル基を有する環状シロキサン類および有機ケイ素化合物を使用する場合、本発明に係る組成物の硬化性の見地から、これらの成分を含む、組成物中のアルケニル基の総量(物質量)に対して(C)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiH)基の物質量が、1.0以上となることが好ましく、組成物中のアルケニル基の総量(物質量)に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiH)基の物質量が、1.5~60の範囲であってもよく、21~60の範囲であってもよい。
【0056】
[ヒドロシリル化反応触媒]
本発明にかかるオルガノポリシロキサン組成物は、ヒドロシリル化反応触媒を含む。ヒドロシリル化反応触媒としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が例示され、本組成物の硬化を著しく促進できることから白金系触媒が好ましい。この白金系触媒としては、白金-アルケニルシロキサン錯体が好ましく、特に、この白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが好ましい。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
【0057】
本発明において、ヒドロシリル化反応触媒の含有量は特に制限されるものではないが、組成物中の固形分の合計量に対し、白金系金属量が0.1~200pmの範囲となる範囲であり、0.1~150ppm、0.1~100ppmの範囲であってよく、0.1~50ppmの範囲であってもよい。ここで、白金系金属は、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウムからなるVIII族の金属元素であるが、実用上、ヒドロシリル化反応触媒の配位子を除いた白金金属の含有量が上記範囲であることが好ましい。なお、固形分とは、本発明にかかるオルガノポリシロキサン組成物を硬化反応させた場合に、硬化層を形成する成分(主として主剤、接着付与成分、架橋剤、触媒およびその他の不揮発性成分)であり、加熱硬化時に揮発する溶媒等の揮発性成分を含まない。
【0058】
本発明にかかるオルガノポリシロキサン組成物中の白金系金属の含有量が50ppm以下(45ppm以下,35ppm以下,30ppm以下,25ppm以下または20ppm以下)である場合、硬化後、あるいは加熱や紫外線等の高エネルギー線に暴露した場合、特に、透明な感圧接着層の変色や着色を抑制できる場合がある。一方、オルガノポリシロキサン組成物の硬化性の見地から、白金系金属の含有量は、0.1ppm以上であり、当該下限を下回ると硬化不良の原因となる場合がある。
【0059】
(E)成分は硬化遅延剤であり、組成物中のアルケニル基と(C)成分中のSiH基の架橋反応を抑制して、常温での可使時間を延長し、保存安定性を向上するために配合するものである。したがって、実用上は、本発明の感圧接着層形成性オルガノポリシロキサン組成物にとって、必須に近い成分である。
【0060】
具体的には、(E)成分はアセチレン系化合物、エンイン化合物、有機窒素化合物、有機燐化合物、オキシム化合物が例示される。具体的には、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、フェニルブチノール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-イン等のエンイン化合物;2-エチニル-4-メチル-2-ペンテン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のメチルアルケニルシクロシロキサン;ベンゾトリアゾールが例示される。
【0061】
組成物の硬化挙動の見地から、本発明にかかる好適な感圧接着層形成性オルガノポリシロキサン組成物は、組成物の調製後室温で8時間後に粘度の増大が1.5倍以内であり、80~200℃で硬化可能であることが好ましい。増粘が抑制されていることは、取扱作業性、ポットライフ、硬化後の特性の見地から重要であり、大過剰の(C)成分を含み、任意で白金系金属量の含有量が低くとも、一定以上の高温(80~200℃)で硬化させることで硬化性を確保することができるためである。なお、このような組成物は上記の各成分およびヒドロシリル化触媒と(E)成分の好適な組み合わせおよび配合量を選択することで、実現可能である。
【0062】
本発明にかかる好適なオルガノポリシロキサン組成物は、上記の好適な(A)成分および(B)成分に加えて、溶媒として有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤は、塗工作業性などを考慮してその種類及び配合量を調整する。有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘプタン、ヘキサン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロプルエーテル、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶剤、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、塩化メチレンなどの塩素化脂肪族炭化水素系溶剤、溶剤揮発油などが挙げられ、シート状基材への濡れ性などに応じて2種以上を組み合わせても良い。有機溶剤配合量は、(A)成分~(C)成分の混合物をシート状基材表面に均一に塗工できるような量がよく、例えば、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計100質量部当たり、5~3000質量部である。
【0063】
本発明にかかる好適なオルガノポリシロキサン組成物は、本発明の技術的効果を損なわない範囲で、任意で、上記成分以外の成分を含むことができる。例えば、接着促進剤;ポリジメチルシロキサンまたはポリジメチルジフェニルシロキサンなどの非反応性のオルガノポリシロキサン;酸化防止剤;光安定剤;難燃剤;1種類以上の帯電防止剤などを含むことができる。なお、これらの成分のほか、顔料、染料、無機微粒子(補強性フィラー、誘電性フィラー、導電性フィラー、熱伝導性フィラー)などを任意で配合することもできる。
【0064】
[(A´)分子内に炭素-炭素二重結合含有反応性基を含まない鎖状オルガノポリシロキサン]
本発明にかかる好適なオルガノポリシロキサン組成物には、アルケニル基、アクリル基、メタクリル基等の炭素-炭素二重結合含有反応性基を含まないポリジメチルシロキサンまたはポリジメチルジフェニルシロキサンなどの非反応性のオルガノポリシロキサンを配合することができ、これにより、後述する感圧接着層の損失係数(tanδ)、貯蔵弾性率(G’)損失弾性率(G”)を改善することができる場合がある。例えば、水酸基末端を有するポリジメチルシロキサン、トリメチルシロキシ末端を有するポリジメチルシロキサンまたはポリジメチルジフェニルシロキサンの使用により、感圧接着層の損失係数を増加させることができ、そのような組成物は、本発明の範囲に包含される。
【0065】
ここで、(A´)成分は、ヒドロシリル化による硬化反応に関与しない鎖状オルガノポリシロキサンであり、組成物中における(B)成分との質量比が、組成物の粘着力および貯蔵弾性率等の特性に影響しうる。前記の通り、(A)成分および(A´)成分に対する、(B)成分の質量比は1.0~4.0の範囲であってよく、所望の粘着力および貯蔵弾性率を実現するために、1.5~3.5の範囲が特に好ましい。なお、(A)成分と(A´)成分の質量比は特に制限されないが、所望の貯蔵弾性率および(B)成分との質量比に応じて、100:0~60:40の範囲、100:0~65:35の範囲、90:10~65:35の範囲、85:15~70:30の範囲等に設計してもよい。
【0066】
本発明にかかるオルガノポリシロキサン組成物の調製方法は特に限定されず、それぞれの成分を均質に混合することによって行われる。必要に応じて溶剤を加えてもよく、公知の攪拌機または混練機を用いて、0~200℃の温度で混合して調製してもよい。
【0067】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、基材上に塗工することによって塗膜を形成し、80~200℃の温度条件下、好適には、90~190℃の温度条件下で加熱することによって硬化物とする。塗工方法としては、グラビアコート、オフセットコート、オフセットグラビア、ロールコート、リバースロールコート、エアナイフコート、カーテンコート、及びコンマコートが例示される。塗工量は表示装置等の用途に応じて所望の厚さで設計することができ、一例として、硬化したあとの感圧接着層の厚みとして1~1,000μmであり、5~900μmであってよく、10~800μmであってよいが、これらに限定されるものではない。
【0068】
[感圧接着性および粘着力の範囲]
本発明にかかる表示装置は、好適には、上記の感圧接着剤層形成性オルガノポリシロキサン組成物をヒドロシリル化反応により硬化させてなるシリコーン系の感圧接着剤層をその部材間に有することを特徴とする。
【0069】
好適には、当該オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる厚み50μmの感圧接着層の、厚み2mmのポリメチルメタクリレートシートに対する、JIS Z 0237に従う180°引き剥がし試験方法を用いて引張速度300mm/minにより測定された粘着力が1000gf/inch以上、好適には、1200gf/inch以上の範囲であり、特に、1000~4000gf/inchの範囲にある感圧接着層を設計可能であり、1200~3500gf/inchの範囲にある感圧接着層が好適である。なお、上記の厚み(50μm)は、本発明にかかる硬化層の粘着力を客観的に定義するための基準となる硬化層自体の厚みであり、本発明のオルガノポリシロキサン組成物は厚み50μmに限らず、任意の厚みの硬化層または感圧接着層として利用することができることは言うまでもない。
【0070】
[貯蔵弾性率およびその他の機械的物性]
本発明にかかるシリコーン系の感圧接着剤層は、上記の段落0021に記載の低温(-20℃)および室温(25℃)における貯蔵弾性率G’を有することが好ましい。特に好適には、25℃におけるせん断貯蔵弾性率G’が1.0MPa以上であり、好適には、1~50MPaの範囲にあり、当該貯蔵弾性率G’が1.5~20MPaの範囲、1.7~17.5MPaの範囲であるものは好適に本発明の範囲に含まれる。
【0071】
また、本発明の組成物は、その硬化により得られる感圧接着層の25℃における500%歪時の応力が0.25MPa以上であり、好適には0.25~3.0MPaの範囲にあり、当該応力が0.27~2.5MPaの範囲であるものは好適に本発明の範囲に含まれる。また、本発明に係るシリコーン系の感圧接着層は、好適には、-20℃での1.0Hzにおける貯蔵弾性率G’が25℃での1.0Hzにおける貯蔵弾性率G’の3倍以上あってもよい。
【0072】
[感圧接着剤層の透明性、色調または着色・変色に関する特性]
本発明に係る感圧接着剤層、特にシリコーン系の感圧接着剤層は、実質的に透明、半透明または不透明のいずれであってもよく、当該感圧接着剤層の用途に応じてその透明性を設計することができる。目視で透明である場合、より客観的には、厚み100μmの硬化層からなる表示装置用の感圧接着層の波長450nmの光の透過率が空気の値を100%とした場合に80%以上であり、好適には90%以上であり、95%以上に設計してもよい。一方、光透過性が求められない電気・電子部品の接着等においては、半透明~不透明な感圧接着層であってもよく、光透過性以外の要求特性に応じて、着色性あるいは光透過性を損なうようなフィラー成分または添加剤を利用しても良い。
【0073】
好適には、本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、任意で硬化層中の白金系金属の含有量を低減等することにより、上記の透明性に加えて、硬化物が着色していないように設計することが可能である。また、本発明の硬化層は、高温や紫外線等の高エネルギー線に長時間暴露した場合であっても、その色調が大きく変化せず、特に、黄変の問題を生じないように設計可能である。
【0074】
[感圧接着剤層としての使用方法]
好適には、本発明に係るシリコーン系の感圧接着剤層は、被着体との密着性を向上させるために、感圧接着剤層または基材の表面に対してプライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理等の表面処理を行ってもよい。
【0075】
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、剥離ライナーに塗工した後、上記の温度条件下で加熱することにより硬化させ、剥離ライナーを剥がしてフィルム状基材、テープ状基材、またはシート状基材(以下、「フィルム状基材」という)と貼り合せたり、フィルム状基材に塗工した後、上記の温度条件下で加熱することにより硬化させ、前記基材の表面に感圧接着剤層を形成することができる。特に、上記のオルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化層が感圧接着層、特に、感圧接着剤フィルムである場合、当該硬化層は、剥離コーティング能を有する剥離層を備えたフィルム基材上に、剥離可能な状態で粘着した積層体フィルムとして取り扱うことが好ましい。剥離層は、好適には、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、アルキド系剥離剤、またはフルオロシリコーン系剥離剤等の剥離コーティング能を有する剥離層、基材表面に物理的に微細な凹凸を形成させたり、本発明の感圧接着層と付着しにくい基材それ自体であってもよく、フルオロシリコーン系剥離剤を硬化させてなる剥離層の使用が好ましい。なお、前記積層体において剥離層は、剥離層を構成する剥離剤の種類及び剥離力の異なる第一剥離層と第二剥離層である異差剥離層であってもよく、フルオロシリコーン系剥離剤は、フルオロアルキル基およびパーフルオロポリエーテル基から選ばれる1種類以上のフッ素含有基を含む、硬化反応性のシリコーン組成物であってよい。
【0076】
[表示装置の製造方法および設計方法]
本発明に係る表示装置は、その部材間における感圧接着剤層が、動的粘弾性測定装置(DMA)を使用した測定結果に基づいて算出したt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jにおいて1×10-6(1/Pa)以下の範囲にあり、剛性を有し、ばね状の弾性挙動を有するものであるが、t=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jは、感圧接着剤の動的粘弾性試験により容易に把握されることから、当該特性を満たす感圧接着剤を事前に選択し、部材間に塗布または配置することで製造することができる。なお、同方法により表示装置を設計することができる。
【0077】
特に、感圧接着剤層を与える組成物が上記の感圧接着剤層形成性のオルガノポリシロキサン組成物であり、硬化により、シリコーン系の感圧接着剤層を形成する場合、事前にその硬化物が、上記のクリープコンプライアンス値Jにおいて1×10-6(1/Pa)以下の範囲にあり、好適には、ガラス転移点(Tg)および25℃/-20℃における特定の貯蔵弾性率G’を有する硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物を選択し、部材間に塗布、または当該組成物を硬化させてなる感圧接着剤層(例えば、感圧接着剤フィルム硬化物)を部材間に配置することで、本発明に係る表示装置を製造することができる。なお、本発明に係る表示装置は、上記の通り、繰り返しの変形動作であって、曲げ、折り畳みおよび巻取りから選ばれる1種類以上の変形が可能なフレキシブルディスプレイまたは曲面ディスプレイであることが特に好ましい。
【0078】
本発明に係るt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jとして特定の値を有し、好適には、ガラス転移点(Tg)および25℃/-20℃における特定の貯蔵弾性率G’を有する感圧接着剤層を部材間に有する表示装置は、具体的には、車載または航空機の座席等に使用される曲面ディスプレイ、二つ折りまたは三つ折り等の形でデジタルディスプレイを折り畳んで使用するフォールダブルディスプレイ、表示面全体を任意の方向に巻取り乃至折り曲げて収納可能な変形ディスプレイなどのフレキシブルディスプレイに広く適用することが可能であり、その耐久性および信頼性を改善することができるものである。
【実施例0079】
以下に、本発明の実施例及び比較例を記す。なお、各実施例・比較例・参考例において「硬化させた」とは、各々の硬化条件により、各組成物が完全に硬化したことを意味するものである。
【0080】
(硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物の調製)
表1に示す各成分を用いて、各実施例・比較例・参考例に示す硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物を調製した。なお、表1における%は全て質量%である。
【0081】
(オルガノポリシロキサン成分の分子量の測定)
Waters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として、標準ポリスチレン換算で、オルガノポリシロキサンレジン等のオルガノポリシロキサン成分の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。
(オルガノポリシロキサンレジン中の水酸基(OH)含有量の測定)
ガラスフリープローブを備えたブルカー製ACP-300
29Si NMRスペクトロメーターを用い、テトラメチルシランの化学シフトを0ppmとしたときに、-93から-103.5ppmに現れるSi(OH)O
2/3単位の全シリコンに対する存在比率からモル含量を得、さらに、オルガノポリシロキサンレジン中の水酸基(OH)の質量%にも換算した。なお、以下の実施例におけるオルガノポリシロキサンレジン中に水酸基以外の加水分解性官能基は含まれていなかった。
(粘着力測定)
各組成物を、PETフィルム(株式会社東レ製、製品名ルミラー(登録商標)S10、厚さ50μm)に硬化後の厚みが50μmとなるように塗工し、150℃で3分間硬化させた。1日放置後、同試料を幅20mmに切断し、粘着層面をPMMA板(パルテック製、アクリライトL001,50×120×2mm)にローラーを用いて貼り合せて試験片とした。PMMA板を用いた試験片は、オリエンテック社製RTC-1210引っ張り試験機を用いてJIS Z0237に準じて180°引き剥がし試験方法を用いて引張速度300mm/minにて粘着力(20mm幅での測定を表示単位gf/インチに換算)を測定した。結果を表2に示す。
(動的粘弾性)
各組成物を硬化後の厚みが約100μmになるようにフロロシリコーン剥離コーティングを塗工した剥離ライナーに塗工し、150℃で3分間硬化させた。この感圧接着剤フィルムを5枚以上重ね合わせ、厚さ500μm以上である、両面を剥離ライナーに挟まれたフィルムサンプルを得た。当該フィルムを直径8mmにくりぬき、動的粘弾性装置(DMA; Anoton Paar社製、MCR301)のパラレルプレートプローブに貼り付けて測定した。測定条件は、-70℃~250℃の範囲であり、周波数1Hz、昇温速度3℃/分にて測定し、損失係数(tanδ)、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”を測定した(単位:MPa)。25℃および―20℃における貯蔵弾性率G’を表2に示す。また、損失係数(tanδ)のピーク値より各感圧接着剤フィルムのガラス転移点(Tg)を求め、同じく表2に示す。
(t=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jの計算方法)
クリープコンプライアンスの計算方法は、上記の段落0010以下において説明した通りである。すなわち、各感圧接着剤について、段落0014に記載したものと同様の解析上のアルゴリズムに従い、上記の動的粘弾性試験の結果から藤川らの手法を用いた時間-温度換算則を用いてマスターカーブを作成する(計算工程1)。次に同マスターカーブに基づき、二宮-Ferryの換算式:
【数6】
を用いて、緩和弾性率に変換する(計算工程2)。最後に、緩和弾性率G(t)の逆数として近似変換することによりクリープコンプライアンス値の計算式J(t)を求め、t=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値J(1/Pa)(=J(1))を算出した。
【0082】
表1に硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物の材料を示す。なお、各成分の粘度または可塑度は以下の方法により、室温において測定した。
[粘度]
粘度(mPa・s)は、JIS K7117-1に準拠した回転粘度計を使用して測定した値であり、動粘度(mm2/s)は、JIS Z8803に準拠したウベローデ型粘度計によって測定した値である。
[可塑度]
可塑度は、JIS K 6249に規定される方法に準じて測定された値(25℃、4.2gの球状試料に1kgfの荷重を3分間かけたときの厚さを1/100mmまで読み、この数値を100倍したもの)で示した。
【0083】
【0084】
[実施例1~7、比較例1~2]
以下、実施例1~7、比較例1,2にかかる組成物を準備し、上記の(動的粘弾性)および(粘着力測定)の項目に従って硬化させ、その粘着力,ガラス転移点(Tg),25℃/-20℃における貯蔵弾性率G’,および1秒当たりのクリープコンプライアンスの測定値を表2に示した。組成物の硬化により得られた感圧接着剤層のうち、実施例に係るものを表示装置、特に、曲げ、折り畳みおよび巻取りから選ばれるいずれか1種の変形が可能なフレキシブルディスプレイを構成する部材間に配置することで、本発明に係る表示装置を得ることができる。
【0085】
(実施例1)
成分a1のビニル官能性ポリジメチルシロキサン36.2重量部、成分b1のMQシリコーン樹脂99.3重量部、トルエン31.1重量部、成分c2のメチルハイドロジェンポリシロキサン0.347重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.088重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a1中のアルケニル基の量に対する成分c2中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は31.6、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0086】
(実施例2)
成分a2のビニル官能性ポリジメチルシロキサン36.4重量部、成分b1のMQシリコーン樹脂99.4重量部、トルエン30.9重量部、成分c2のメチルハイドロジェンポリシロキサン0.703重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.491重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a2中のアルケニル基の量に対する成分c2中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は12.7、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0087】
(実施例3)
成分a1のビニル官能性ポリジメチルシロキサン32.3重量部、成分b1のMQシリコーン樹脂100.8重量部、成分b2のMQシリコーン樹脂4.6重量部、トルエン84.6重量部、成分c2のメチルハイドロジェンポリシロキサン0.287重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.409重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a1中のアルケニル基の量に対する成分c2中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は29.2、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0088】
(実施例4)
成分a2のビニル官能性ポリジメチルシロキサン32.3重量部、成分b1のMQシリコーン樹脂100.8重量部、成分b2のMQシリコーン樹脂4.6重量部、トルエン29.0重量部、成分c2のメチルハイドロジェンポリシロキサン0.629重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.491重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a2中のアルケニル基の量に対する成分c2中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は12.8、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0089】
(実施例5)
成分a3のビニル官能性ポリジメチルシロキサン32.3重量部、成分b1のMQシリコーン樹脂100.8重量部、成分b2のMQシリコーン樹脂4.6重量部、トルエン29.0重量部、成分c2のメチルハイドロジェンポリシロキサン0.761重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.491重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a3中のアルケニル基の量に対する成分c2中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は12.8、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0090】
(実施例6)
成分a2のビニル官能性ポリジメチルシロキサン30.3重量部、成分b1のMQシリコーン樹脂97.1重量部、成分b2のMQシリコーン樹脂10.8重量部、トルエン84.0重量部、成分c2のメチルハイドロジェンポリシロキサン0.249重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.491重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a3中のアルケニル基の量に対する成分c2中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は5.40、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0091】
(実施例7)
成分a3のビニル官能性ポリジメチルシロキサン30.3重量部、成分b1のMQシリコーン樹脂99.4重量部、成分b2のMQシリコーン樹脂8.7重量部、トルエン83.7重量部、成分c2のメチルハイドロジェンポリシロキサン0.249重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.491重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a3中のアルケニル基の量に対する成分c2中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は5.40、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0092】
(比較例1)
成分a1のビニル官能性ポリジメチルシロキサン36.4重量部、成分b2のMQシリコーン樹脂91.0重量部、トルエン39.3重量部、成分c1のジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体0.807重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.577重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a1中のアルケニル基の量に対する成分c1中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は33.7、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0093】
(比較例2)
成分a1のビニル官能性ポリジメチルシロキサン31.6重量部、成分b1のMQシリコーン樹脂10.8重量部、成分b2のMQシリコーン樹脂88.1重量部、トルエン36.2重量部、成分c1のジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体0.610重量部、成分eの硬化遅延剤20%溶液0.577重量部、を室温でよく混合し、混合物に成分dの白金系ヒドロシリル化反応触媒0.355重量部を加えて硬化反応性のオルガノポリシロキサン組成物とした。成分a1中のアルケニル基の量に対する成分c2中のSiH基のモル比(SiH/Vi比)は29.4、白金金属の固形分に対する含量は22ppmであった。
【0094】
【0095】
表2に示すとおり、実施例1~7に係る感圧接着層形成性オルガノポリシロキサン組成物は、その硬化により得られる感圧接着剤層について、動的粘弾性測定結果から時間-温度変換則を用いてマスターカーブを作成し、換算式により緩和弾性率に変換し、それから変換したt=1(秒)におけるクリープコンプライアンス値Jが1×10-6(1/Pa)以下である。これらを、表示装置を構成する部材間に塗布して硬化させ、あるいは硬化により得られる感圧接着剤フィルムとして配置することで、好適な性能のディスプレイが設計できることが期待できる。一方、比較例に係る組成物の硬化により得られる感圧接着剤層は、クリープコンプライアンス値が非常に高いため、かりにフレキシブルディスプレイ等の繰り返しの変形動作を前提とする表示装置の部材間の接合乃至貼り合わせに使用した場合、変形動作に伴う部材からの剥離や接着不良の原因となり、当該表示装置の故障乃至不具合の原因となることが懸念される。