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特開2022-70937熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体、および成形体、ならびにそれらの製造方法
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  • 特開-熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体、および成形体、ならびにそれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070937
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体、および成形体、ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220506BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220506BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20220506BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B15/08 J
C08J7/00 301
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018582
(22)【出願日】2022-02-09
(62)【分割の表示】P 2021516048の分割
【原出願日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2019082064
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貴文
(72)【発明者】
【氏名】浅田 光則
(72)【発明者】
【氏名】有本 紀久雄
(57)【要約】      (修正有)
【課題】配線基板の多層化を行う際にプロセス窓の広い、高い耐熱性と生産性を両立する熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体および成形体を提供する。
【解決手段】前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、光学的に異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーで構成されたフィルムであって、動的粘弾性測定で求められる貯蔵弾性率のプロファイルにおいて、180℃以上の温度でゴム状平坦領域が存在し、200~280℃におけるゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’が80MPa以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー(以下、熱可塑性液晶ポリマーと称する)で構成されたフィルムであって、動的粘弾性測定で求められる貯蔵弾性率のプロファイルにおいて、180℃以上の温度でゴム状平坦領域が存在し、200~280℃におけるゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’が80MPa以上である、熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
【請求項2】
280℃における貯蔵弾性率が60MPa以上である、請求項1に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
【請求項3】
示差走査熱量計を用いて、室温から400℃の温度範囲で10℃/minの速度で昇温した際に現れる吸熱ピーク位置が、310℃以上である、請求項1または2に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムを少なくとも1層備える、積層体。
【請求項5】
さらに、金属層を少なくとも1層備える、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記金属層が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、銀、銀合金、およびこれらの複合金属種から選択される少なくとも一種で構成される、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムまたは請求項4~6のいずれか一項に記載の積層体から形成された、成形体。
【請求項8】
配線板である、請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
高周波用回路基板、車載用センサ、モバイル用回路基板、またはアンテナである、請求項7または8に記載の成形体。
【請求項10】
融点上昇速度Rtmが0.20℃/min以上の熱可塑性液晶ポリマーから構成される熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、熱処理を行い耐熱化する、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記熱処理が、1段階または複数段階の熱処理であり、熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tm)とした場合、Tm℃以下で第1の熱処理を行い耐熱化する、請求項10に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項12】
熱源として、熱風オーブン、蒸気オーブン、電気ヒータ、赤外線ヒータ、セラミックヒータ、熱ロール、熱プレス、および電磁波照射機から選択された少なくとも一種が用いられる、請求項10または11に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記熱処理が1段階である、請求項10~12のいずれか一項に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項14】
熱可塑性液晶ポリマーで構成されたポリマー層を備える積層体であって、前記ポリマー層が融点上昇速度Rtmが0.20℃/min以上の熱可塑性液晶ポリマーから構成される積層体に対して、熱処理を行い耐熱化する、請求項4~6のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理が、1段階または複数段階の熱処理であり、熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tm)とした場合、Tm℃以下で第1の熱処理を行い耐熱化する、請求項14に記載の積層体の製造方法。
【請求項16】
熱源として、熱風オーブン、蒸気オーブン、電気ヒータ、赤外線ヒータ、セラミックヒータ、熱ロール、熱プレス、および電磁波照射機から選択された少なくとも一種が用いられる、請求項14または15に記載の積層体の製造方法。
【請求項17】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルム、および/または請求項4~6のいずれか一項に記載の積層体に後加工を行うことにより、成形体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は2019年4月23日出願の特願2019-082064の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー(以下、熱可塑性液晶ポリマーと称する)からなり、耐熱性に優れるフィルム、積層体、および成形体、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、電子・電気・通信工業分野において機器の小型化・軽量化の要求から、プリント配線基板の高密度化の必要性が高まっている。これに伴い、配線基板の多層化、配線ピッチの狭幅化、ビアホールの微細化など様々な工夫が進められている。例えば、高密度化回路は、非金属層と金属層からなる金属張積層板を非金属層を介して多層化し製造される。従来、プリント配線基板・回路は、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が非金属層として主に使用され、銅箔などの金属層と積層して製造されているが、熱硬化性樹脂は加熱反応によって適正な積層が可能になるまでに時間を要することが知られている。
【0004】
これに対し、生産性向上を目的に、複数枚の同時積層、装置による同時多段製造が一般的に採用されている。このような状況の下、熱可塑性液晶ポリマー材料は熱可塑性樹脂であることを活かした生産性の向上効果が期待でき、また、物性面においても他の材料と比較して極めて低い吸水率と誘電損失から高周波伝送用途を代表として高く注目を集めている。
【0005】
熱可塑性液晶ポリマー材料は熱可塑性を利用して熱圧着による多層化が可能となるが、その一方で、多層化に際する耐熱性も必要である。つまり、多層化に使用される非金属層が適度に軟化・可塑化され、積層板の金属層または非金属層と強固に密着する条件で積層体が製造される際であっても、積層板の非金属層が高い耐熱性を有する場合、プロセス窓(製造条件の最適範囲)が広く安定した製品が製造可能となる。
【0006】
多層積層体の安定した製造法として、接着剤を使用しない例として、特許文献1(特許第4004139号公報)、特許文献2(特許第4138995号公報)には、融点の異なる熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属層からなる金属積層体と非金属層の多層積層板の製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献3(特許第3893930号公報)に提案された多層基板の製造方法では、熱可塑性樹脂からなる複数のシート材を積層し、前記積層シート材を一つずつシート材保持具に保持した状態で可撓性材料を介して加熱および加圧を行うことにより、従来のバッチ型の真空チャンバを利用することなく、多層基板を製造することができる。そのため、該製造方法によれば、従来のバッチ型の真空チャンバを用いた工程に較べて、生産効率を大幅に向上することができる。
【0008】
材料自体の耐熱化に関しては、熱可塑性液晶ポリマー材料の耐熱化として、特許文献4(特許第3878741号公報)には、融点が300℃以下の熱可塑性液晶ポリマーの融点を300℃以上に高める方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4004139号公報
【特許文献2】特許第4138995号公報
【特許文献3】特許第3893930号公報
【特許文献4】特許第3878741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1および2に提案された多層積層板では、低融点の熱可塑性液晶ポリマーフィルムを使用する点で、プロセス窓を広げることが困難である。また、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点を高める場合、多段階による4時間以上の熱処理が必要であるため、生産性に乏しいという問題点を有している。
【0011】
また、特許文献3に提案された方法では、可撓性材料を介して積層シート材を急速加熱する際、熱可塑性樹脂が加水分解反応を起こし、例えば熱可塑性液晶ポリマーなどでは樹脂の流動性が大きくなって導体パターンの位置がずれたり、樹脂フィルム中にボイドが発生するという問題点を有している。
【0012】
さらにまた、特許文献4に記載された方法においても、多段階により4時間以上の加熱により熱可塑性液晶ポリマーの融点を高めることが可能であるが、このような方法は、生産性に乏しいという問題点を有している。
【0013】
そのため、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて多層化を行うにあたってプロセス窓を広げるには、設備や接着剤の改善では限界があり、更なる多層化の要求を十分に満足させるには至っていない。また、単純に融点を上げるだけでは、熱可塑性液晶ポリマーフィルム製造時の生産性も含め、市場要求を満足させることは出来ていなかった。
【0014】
従って本発明の目的は、多層化を行う際にプロセス窓の広い熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体、および成形体、ならびにこれらを容易に製造可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、驚くべきことに、動的粘弾性測定で求められる貯蔵弾性率の温度依存性に関して、ゴム状平坦領域が存在し、かつ当該ゴム状平坦領域における貯蔵弾性率E’が特定の範囲である熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、多層積層板製造時に要求される耐熱性が著しく高く、特に、その特定の動的粘弾特性のためか、樹脂の流動を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー(以下、熱可塑性液晶ポリマーと称する)で構成されたフィルムであって、動的粘弾性測定で求められる貯蔵弾性率のプロファイルにおいて、180℃以上(好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上)の温度でゴム状平坦領域が存在し、200~280℃におけるゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’が80MPa以上(好ましくは100MPa以上、より好ましくは120MPa以上)である、熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
〔態様2〕
280℃における貯蔵弾性率が60MPa以上(好ましくは70MPa以上、より好ましくは80MPa以上)である、態様1に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
〔態様3〕
示差走査熱量計を用いて、室温から400℃の温度範囲で10℃/minの速度で昇温した際に現れる吸熱ピーク位置が、310℃以上(好ましくは315℃以上、より好ましくは320℃以上)である、態様1または2に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムを少なくとも1層備える、積層体。
〔態様5〕
さらに、金属層を少なくとも1層備える、態様4に記載の積層体。
〔態様6〕
前記金属層が、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、銀、銀合金、およびこれらの複合金属種から選択される少なくとも一種で構成される、態様5に記載の積層体。
〔態様7〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムまたは態様4~6のいずれか一態様に記載の積層体から形成された、成形体。
〔態様8〕
配線板である、態様7に記載の成形体。
〔態様9〕
高周波用回路基板、車載用センサ、モバイル用回路基板、またはアンテナである、態様7または8に記載の成形体。
〔態様10〕
融点上昇速度Rtmが0.20℃/min以上(好ましくは0.22℃/min以上、より好ましくは0.25℃/min以上、さらに好ましくは0.26℃/min以上)の熱可塑性液晶ポリマーから構成される熱可塑性液晶ポリマーフィルム(材料フィルム)に対して、熱処理を行い耐熱化する、態様1~3のいずれか一態様に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
〔態様11〕
前記熱処理が、1段階または複数段階の熱処理であり、熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tm)とした場合、Tm℃以下(好ましくはTm℃未満、より好ましくは(Tm-2)℃以下)で第1の熱処理を行い耐熱化する、態様10に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
〔態様12〕
熱源として、熱風オーブン、蒸気オーブン、電気ヒータ、赤外線ヒータ、セラミックヒータ、熱ロール、熱プレス、および電磁波照射機から選択された少なくとも一種が用いられる、態様10または11に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
〔態様13〕
前記熱処理が1段階である、態様10~12のいずれか一態様に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法。
〔態様14〕
熱可塑性液晶ポリマーで構成されたポリマー層を備える積層体であって、前記ポリマー層が融点上昇速度Rtmが0.20℃/min以上(好ましくは0.22℃/min以上、より好ましくは0.25℃/min以上、さらに好ましくは0.26℃/min以上)の熱可塑性液晶ポリマーから構成される積層体に対して、熱処理を行い耐熱化する、態様4~6のいずれか一態様に記載の積層体の製造方法。
〔態様15〕
前記熱処理が、1段階または複数段階の熱処理であり、熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tm)とした場合、Tm℃以下(好ましくはTm℃未満、より好ましくは(Tm-2)℃以下)で第1の熱処理を行い耐熱化する、態様14に記載の積層体の製造方法。
〔態様16〕
熱源として、熱風オーブン、蒸気オーブン、電気ヒータ、赤外線ヒータ、セラミックヒータ、熱ロール、熱プレス、および電磁波照射機から選択された少なくとも一種が用いられる、態様14または15に記載の積層体の製造方法。
〔態様17〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルム、および/または態様4~6のいずれか一態様に記載の積層体に後加工を行うことにより、成形体を製造する方法。
【0017】
本明細書において、熱可塑性液晶ポリマーの融点上昇速度とは、示差走査熱量測定において、常温(例えば25℃)と所定の温度(例えば400℃)の間で、熱可塑性液晶ポリマーフィルム(原料フィルム)を加熱、冷却、再加熱した際に、再加熱時に吸熱ピークが現れる温度を熱可塑性液晶ポリマーの融点Tmとし、熱可塑性液晶ポリマーフィルムをTm-10℃の温度で一時間熱処理した後に、示差走査熱量測定において、常温(例えば25℃)から所定の温度(例えば400℃)まで加熱した際に、吸熱ピークが現れる温度をTm’としたとき、Rtm=(Tm’-Tm)/60で算出される値である。上記の差走査熱量測定における温度変化率(昇温速度、降温速度)は、10℃/minであってもよい。
【0018】
本明細書において、積層体とは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、被着体が積層した構造物を意味し、成形体とは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して回路などが形成された構造物を意味している。
【0019】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、多層積層板製造時に要求される耐熱性が非常に高く、積層・回路加工の際に広いプロセス窓を有するため、例えば、これまで煩雑であった多層積層プロセスの簡略化に繋がり、積層体を低コストで製造する事が可能である。さらに、特殊な設備や治具を使用することなく、超多層積層基板を製造することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一態様における金属張積層板の断面図である。
図2】本発明の一態様における多層積層基板作製時の組立体の断面図である。
図3】本発明の実施例1で得られた熱処理後のフィルムの動的粘弾性測定による貯蔵弾性率の温度依存性に関するプロファイルを示すグラフである。
図4】比較例2で得られたフィルムの動的粘弾性測定による貯蔵弾性率の温度依存性に関するプロファイルを示すグラフである。
図5】比較例4で得られた熱処理後のフィルムの動的粘弾性測定による貯蔵弾性率の温度依存性に関するプロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、特定の機能を発現する化合物として具体例を示しているが、本発明はこれに限定されない。また、例示される材料は、特に説明がない限り、単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
【0023】
[熱可塑性液晶ポリマー]
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性液晶ポリマーで構成される。この熱可塑性液晶ポリマーは、溶融成形できる液晶ポリマー(または光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー)で構成され、溶融成形できる液晶ポリマーであればその化学的構成については特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル、またはこれにアミド結合が導入された熱可塑性液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。
【0024】
また、熱可塑性液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0025】
本発明に用いられる熱可塑性液晶ポリマーの具体例としては、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知の熱可塑性液晶ポリエステルおよび熱可塑性液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。ただし、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを形成するためには、種々の原料化合物の組合せには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0026】
(1)芳香族または脂肪族ジオール(代表例は表1参照)
【表1】
【0027】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【表2】
【0028】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【表3】
【0029】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【表4】
【0030】
これらの原料化合物から得られる熱可塑性液晶ポリマーの代表例として表5および6に示す構造単位を有する共重合体を挙げることができる。
【0031】
【表5】
【表6】
【0032】
これらの共重合体のうち、p-ヒドロキシ安息香酸および/または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を少なくとも繰り返し単位として含む共重合体が好ましく、特に、(i)p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との繰り返し単位を含む共重合体、または(ii)p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、少なくとも一種の芳香族ジオールと、少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸との繰り返し単位を含む共重合体が好ましい。
【0033】
熱可塑性液晶ポリマーが、p-ヒドロキシ安息香酸(A)および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(B)との繰り返し単位を含む共重合体の場合、そのモル比(A)/(B)は、(A)/(B)=10/90~90/10が好ましく、50/50~90/10がより好ましく、75/25~90/10がさらに好ましく、75/25~85/15がよりさらに好ましく、77/23~80/20が特に好ましい。
【0034】
例えば、(i)の共重合体の場合、p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の繰り返し単位以外に、分子量等を調整する観点から、芳香族ジオールや芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸)から構成される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0035】
また、(ii)の共重合体の場合、p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、および4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオールと、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸との繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。
【0036】
なお、本発明にいう光学的異方性の溶融相を形成し得るとは、例えば試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0037】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、上記共重合体のうち、融点上昇速度Rtmが0.20℃/min以上である熱可塑性液晶ポリマーで構成されることが好ましい。より好ましくは0.22℃/min以上、さらに好ましくは0.25℃/min以上、さらにより好ましくは0.26℃/min以上であってもよい。熱可塑性液晶ポリマーの融点上昇速度Rtmの上限は特に制限されないが、1.0℃/min以下であってもよい。
【0038】
融点上昇速度Rtmは、以下のように算出される。まず、示差走査熱量計を用いて、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの一部を試料容器に入れ、室温(例えば、25℃)から400℃まで10℃/minの速度で昇温した後、室温まで10℃/minの速度で冷却し、再度室温から400℃まで10℃/minの速度で昇温した際に現れる吸熱ピークの位置を、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマー固有の融点(以下Tmと称す)として測定する。
また、Tmの測定に用いた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、Tm-10℃で60分間処理した後、当該処理した熱可塑性液晶ポリマーフィルムの一部を試料容器に入れ、室温から400℃まで10℃/minの速度で昇温した際に現れる吸熱ピークの位置を、Tm-10℃雰囲気下で60分間処理した熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tm’として測定する。これらの測定値に基づき、以下の式により、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマーの融点上昇速度Rtm(℃/min)を算出する。
Rtm=(Tm’-Tm)/60
【0039】
融点上昇速度が速やかな熱可塑性液晶ポリマーは、熱処理により、結晶構造の均一性が高い斜方晶結晶を形成しやすいためか、耐熱性の向上だけではなく、特定の動的粘弾特性を付与することができる。
【0040】
熱可塑性液晶ポリマーは、融点(Tm)が、例えば、300~380℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは305~360℃の範囲、さらに好ましくは310~350℃の範囲であってもよい。なお、融点は、示差走査熱量計を用いて、上述のように、熱可塑性液晶ポリマーサンプルの熱挙動を観察して得ることができる。
【0041】
また、熱可塑性液晶ポリマーは、溶融成形性の観点から、例えば、(Tm+20)℃におけるせん断速度1000/sの溶融粘度30~120Pa・sを有していてもよく、好ましくは溶融粘度50~100Pa・sを有していてもよい。
【0042】
前記熱可塑性液晶ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマー、各種添加剤を添加してもよい。また、必要に応じて充填剤を添加してもよい。
【0043】
[熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体または成形体の製造方法]
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、融点上昇速度Rtmが0.20℃/min以上の熱可塑性液晶ポリマーから構成される熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム、材料フィルム)に対して、熱処理を行うことにより製造することが可能である。
【0044】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)は、特定の融点上昇速度Rtmを有する熱可塑性液晶ポリマーから構成されていればその製造方法は特に限定されず、例えば、前記熱可塑性液晶ポリマーをキャスト成形してフィルムを得てもよいし、前記熱可塑性液晶ポリマーの溶融混練物を押出成形してフィルムを得てもよい。押出成形法としては任意の方法のものが使用されるが、周知のTダイ法、インフレーション法等が工業的に有利である。特にインフレーション法では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの機械軸方向(以下、MD方向と略す)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向と略す)にも応力が加えられ、MD方向、TD方向に均一に延伸できることから、MD方向とTD方向における分子配向性、誘電特性等を制御した熱可塑性液晶ポリマーフィルムが得られる。
【0045】
例えば、Tダイ法による押出成形では、Tダイから押出した溶融体シートを、熱可塑性液晶ポリマーフィルムのMD方向だけでなく、これとTD方向の双方に対して同時に延伸して製膜してもよいし、またはTダイから押出した溶融体シートを一旦MD方向に延伸し、ついでTD方向に延伸して製膜してもよい。
【0046】
また、インフレーション法による押出成形では、リングダイから溶融押出された円筒状シートに対して、所定のドロー比(MD方向の延伸倍率に相当する)およびブロー比(TD方向の延伸倍率に相当する)で延伸して製膜してもよい。
【0047】
このような押出成形の延伸倍率は、MD方向の延伸倍率(またはドロー比)として、例えば、1.0~10程度であってもよく、好ましくは1.2~7程度、さらに好ましくは1.3~7程度であってもよい。また、TD方向の延伸倍率(またはブロー比)として、例えば、1.5~20程度であってもよく、好ましくは2~15程度、さらに好ましくは2.5~14程度であってもよい。
【0048】
このようにして得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)に対して熱処理が行われ、耐熱化される。
熱処理の方法は、耐熱化された熱可塑性液晶ポリマーフィルムが特定の動的粘弾特性を有する限り特に限定されず、例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)をロールトゥロールなどにより直接熱処理してもよいし、一旦得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)と被着体とを積層した積層体を熱処理してもよいし、スパッタリングやめっきなどにより熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)上に金属層が直接形成された積層体を熱処理してもよい。このような積層体は、熱プレスや熱ローラー、ダブルベルトプレス等の熱圧着法を利用して製造する事が可能であるが、特にこれに限定されない。
【0049】
熱処理を行う際の熱源としては、公知または慣用の熱源を利用することが可能である。好ましい熱源としては、例えば、熱風オーブン、蒸気オーブン、電気ヒータ、赤外線ヒータ、セラミックヒータ、熱ロール、熱プレス、電磁波照射機(例えば、マイクロ波照射機など)などが挙げられる。これらの熱源は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0050】
耐熱化は、1段階または複数段階の熱処理により行うことが可能であるが、本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、1~2段階で熱処理が行われるのが好ましく、より好ましくは1段階で熱処理が行われるのが好ましい。
【0051】
1段階または複数段階の熱処理では、例えば、第1の熱処理として、熱可塑性液晶ポリマーの融点を(Tm)とした場合、Tm℃以下、好ましくはTm℃未満、より好ましくは(Tm-2)℃以下で加熱処理が行われてもよい。加熱温度は、好ましくは(Tm-50)℃以上、より好ましくは(Tm-40)℃以上であってもよい。ここで熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tm)は前述の融点の測定方法により求めることができる。1段階の熱処理では、第1の熱処理のみにより耐熱化が行われ、複数段階の熱処理では、第1の熱処理以降、次段階の熱処理温度は、前段階の熱処理温度よりも高い加熱温度により熱処理が行われてもよい。
【0052】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点は熱処理に応じて上昇するが、本発明では速やかな耐熱化が可能であるため、加熱温度は、熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tm)を基準として決定されればよい。
【0053】
したがって、第2の熱処理以降の加熱温度は、必要に応じて、熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tm)以上で行われてもよく、例えば、複数段階での熱処理における最高到達温度は、(Tm+30)℃以下であってもよく、好ましくは(Tm+20)℃以下であってもよい。
【0054】
熱処理における各段階での加熱時間は、加熱温度、熱処理の段階などに応じて適宜設定することができる。本発明では、速やかな耐熱化が可能であるため、加熱時間は、例えば、全体で10分~3時間程度であってもよく、好ましくは10分~2時間程度(例えば30分~2時間程度)、より好ましくは10分~1.3時間程度(例えば45分~1.3時間程度)であってもよい。
【0055】
被着体としては、熱処理の支持体として利用することができる限り特に限定されず、金属層、耐熱性樹脂層などが挙げられる。
【0056】
金属層を構成する金属としては、導電性を有する金属であれば特に限定されないが、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、銀、銀合金、およびこれらの複合金属種などが挙げられる。これらの金属には、2000質量ppm以下で他の金属種が含まれていてもよく、不可避不純物が存在していてもよい。
【0057】
被着体として金属層が用いられる場合、熱処理後に、熱可塑性液晶ポリマーフィルム部分が耐熱化された積層体としてそのまま用いることが可能である。例えば、導電性、放熱性を必要とする場合は銅、銅合金、銀、銀合金を使用すればよく、強磁性が必要であれば鉄合金などを使用すればよく、安価なものが必要であればアルミニウムなどを使用すればよい。
【0058】
好ましくは、回路基板用の金属種として銅が用いられてもよく、具体的には、金属層には、銅が99.8%質量以上含まれ、さらに、銀、スズ、亜鉛、クロム、ホウ素、チタン、マグネシウム、リン、ケイ素、鉄、金、プラセオジム、ニッケル、およびコバルトからなる群から選択された少なくとも一種の他の金属種を2000質量ppm以下および、残部不可避不純物が含まれる銅で構成されていてもよい。
【0059】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム上に金属層を形成する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば熱可塑性液晶ポリマーフィルム上に、金属層を蒸着してもよく、無電解めっき、電解めっきにより、金属層を形成してもよい。また、金属箔(例えば銅箔)を、熱圧着により熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に積層してもよい。銅箔は、回路基板において用い得る銅箔であれば、特に限定されず、圧延銅箔、電解銅箔のいずれであってもよい。
【0060】
耐熱性樹脂層を構成する樹脂としては、熱処理で行われる最高到達温度よりも高い融点を有する樹脂または熱硬化性樹脂などが挙げられ、好ましくは、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)などが挙げられる。
【0061】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム上に耐熱性樹脂層を形成する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば耐熱性樹脂フィルムを、熱圧着により熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に積層してもよい。
【0062】
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属層の積層体は、それぞれの単層での厚みをTa(μm)、Tb(μm)とすると、Ta、Tbは、それぞれ、0.1~500μmの範囲から選択することが可能である。近年の薄型化、軽量化の観点からは、Taは好ましくは1~175μm、より好ましくは5~130μm程度であってもよい。また、Tbは好ましくは1~20μm、より好ましくは2~15μm程度であってもよい。
【0063】
なお、前記積層体は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属層との多層構造を有しており、少なくとも1層の熱可塑性液晶ポリマーフィルムと少なくとも1層の金属層を含んでいる。例えば、多層構造の積層体としては、
(i)金属層/熱可塑性液晶ポリマーフィルム
(ii)金属層/熱可塑性液晶ポリマーフィルム/金属層
(iii)熱可塑性液晶ポリマーフィルム/熱可塑性液晶ポリマーフィルム/金属層
(iv)熱可塑性液晶ポリマーフィルム/金属層/熱可塑性液晶ポリマーフィルム
(v)金属層/熱可塑性液晶ポリマーフィルム/熱可塑性液晶ポリマーフィルム/金属層(vi)金属層/熱可塑性液晶ポリマーフィルム/金属層/熱可塑性液晶ポリマーフィルム/金属層
などの積層構造を有する物を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0064】
なお、熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、被着体と積層された状態で、そのまま積層体として用いてもよいし、被着体と分離して熱可塑性液晶ポリマーフィルム単独で用いてもよい。さらに、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、適当な接着層を介して多層化を行ってもよい。接着層としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。
【0065】
また、例えば、成形体は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム、および/または積層体に後加工を行うことにより、製造されてもよい。
【0066】
例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、表面上に導体パターンを形成することにより、配線板などの成形体(またはユニット回路基板)を製造してもよい。また、積層体の金属層に対して、導体パターンを形成することにより、配線板などの成形体(またはユニット回路基板)を製造してもよい。
さらに、導体パターンが形成されたユニット回路基板を、他の基板材料に対して重ね合わせて多層化することにより配線板などの成形体(または回路基板)を製造してもよい。基板材料としては、上述の熱可塑性液晶ポリマーフィルム、金属層(金属箔)、ユニット回路基板などが例示でき、必要に応じて接着層を用いてもよい。
【0067】
または、熱可塑性液晶ポリマーで構成されたポリマー層を備える予備成形体であって、前記ポリマー層が融点上昇速度Rtmが0.20℃/min以上の熱可塑性液晶ポリマーから構成される予備成形体に対して、熱処理を行い、成形体を得てもよい。その場合、成形体のポリマー部分は、後述する特定の範囲のゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’を有している。
【0068】
[熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体および成形体]
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体、および成形体は、熱処理によって、熱可塑性液晶ポリマーに特定の結晶構造が形成されるためか、熱可塑性液晶ポリマー部分が、動的粘弾性測定で求められる貯蔵弾性率のプロファイルにおいて、180℃以上の温度でゴム状平坦領域が存在し、200~280℃におけるゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’が80MPa以上である。
【0069】
ここで、ゴム状平坦領域とは、重合体の分子鎖は動くが、完全には溶融しない領域であり、貯蔵弾性率が温度に依存せず、略一定の値をとる領域をいう。本発明においては、所定の温度の±5℃の温度範囲における貯蔵弾性率(MPa)の変化量から算出される傾きの絶対値が5MPa/℃以下である場合に、当該所定の温度における貯蔵弾性率は平坦領域に属するものとみなす。なお、所定の範囲(例えば、180℃以上)の温度でゴム状平坦領域が存在する場合とは、ゴム状平坦領域の全体が当該所定の範囲の温度に属していることをいう。ゴム状平坦領域は、好ましくは190℃以上に存在していてもよく、より好ましくは200℃以上に存在していてもよい。また、ゴム状平坦領域は、350℃以下に存在していてもよく、好ましくは340℃以下、より好ましくは330℃以下に存在していてもよい。なお、高温側で上記傾きの絶対値が5MPa/℃を超えて、貯蔵弾性率が急激に低下する領域を流動領域とする。
【0070】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、上述の製造方法により、特定の動的粘弾特性を付与することができることを見出したものである。具体的には、熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)を熱処理することにより、貯蔵弾性率の高温域にゴム状平坦領域を存在させることができ、また、当該熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマーとして特定の融点上昇速度を有するものを用いることにより、ゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’を特定の範囲に高くすることができる。そして、そのような熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、積層体作製時における樹脂の流動を抑制することができることを見出したものである。
【0071】
積層体作製時における樹脂の流動を抑制する観点から、200~280℃におけるゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’が、好ましくは100MPa以上、より好ましくは120MPa以上であってもよい。200~280℃におけるゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’の上限は特に限定されないが、例えば1000MPa程度であってもよい。なお、200~280℃におけるゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’は、後述の実施例に記載した方法により測定される値であり、ゴム状平坦領域が200~280℃の範囲外まで続いて存在している場合であっても、200~280℃の間において測定される値である。
【0072】
また、積層体作製時における樹脂の流動を抑制する観点から、280℃における貯蔵弾性率が、例えば、60MPa以上、好ましくは70MPa以上、より好ましくは80MPa以上であってもよい。280℃における貯蔵弾性率の上限は特に限定されないが、例えば800MPa程度であってもよい。
【0073】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、耐熱性に優れる観点から、ゴム状平坦領域の終点温度が280℃以上であってもよく、好ましくは285℃以上、より好ましくは300℃以上であってもよい。ゴム状平坦領域の終点温度の上限は特に限定されないが、例えば400℃程度であってもよい。なお、ゴム状平坦領域の終点温度は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0074】
また、本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、示差走査熱量計を用いて、室温(例えば、25℃)から400℃の温度範囲で10℃/minの速度で昇温した際に現れる吸熱ピーク位置を熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)とする。例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)は、310℃以上であってもよく、好ましくは315℃以上、より好ましくは320℃以上であってもよい。融点(Tm)の上限は特に限定されないが、例えば400℃程度であってもよい。
【0075】
また、本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体、および成形体は、熱処理によって、熱可塑性液晶ポリマーに特定の結晶構造が発生しているため、熱可塑性液晶ポリマー部分が、広角X線回折測定で検出される回折プロファイルにおいて、2θ=14~26度におけるベースライン上の積分強度をA、2θ=22.3~24.3度においてメインピークのプロファイルを一次関数に近似して除去した後のサブピークのプロファイルの積分強度をB、B/A×100=UCとしたとき、下記式(1)を充足してもよく、より好ましくは下記式(2)を充足してもよい。
0≦UC≦2.0 (1)
0.1≦UC≦1.5 (2)
【0076】
本発明におけるUCとは、斜方晶結晶の構造の均一性(結晶性)の指標とみなすことができる。数値が大きいほど斜方晶の(200)面の回折信号がシャープであることを意味する。すなわち、結晶構造の均一性の高い斜方晶が大きく成長している。なお、広角X線回折測定によるUCは、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0077】
UCが所定の範囲に存在しない場合であっても、例えば融点が280~340℃の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは存在する。しかしながら、そのような熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、耐熱化は斜方晶の形成によってではなく、主に固相重合プロセスによって行われているので、耐熱化には膨大な時間の熱処理を要する傾向にある。
【0078】
例えば、本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体および成形体は、耐熱性に優れるだけでなく、プロセス窓が広いため、各種用途において好適に用いることができる。
【0079】
例えば、少なくとも1層の熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、少なくとも1層の金属層を備える積層体は、金属層に回路パターンを形成でき、配線板として有用である。また、成形体が複数の回路層を備える場合、高密度化、高機能化の要求を満たすことが可能であるため、成形体は、多層回路基板として好適である。
【0080】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルム、積層体および成形体は、耐熱性が著しく高いため、高周波用回路基板や車載用センサ、モバイル用回路基板、アンテナなどの用途において好適であるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0082】
(膜厚)
デジタル厚み計(株式会社ミツトヨ製)を用い、得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムをTD方向に1cm間隔で測定し、中心部および端部から任意に選んだ10点の平均値を膜厚とした。
【0083】
(示差走査熱量測定)
(Tm)
示差走査熱量計(株式会社島津製作所製)を用いて、実施例および比較例で得られた熱処理後の熱可塑性液晶ポリマーフィルムから所定の大きさをサンプリングして試料容器に入れ、室温から400℃まで10℃/minの速度で昇温した際に現れる吸熱ピークの位置を熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tmとした。
【0084】
(TmおよびRtm)
示差走査熱量計(株式会社島津製作所製)を用いて、熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)から所定の大きさをサンプリングして試料容器に入れ、室温から400℃まで10℃/minの速度で昇温した後、室温まで10℃/minの速度で冷却し、再度室温から400℃まで10℃/minの速度で昇温した際に現れる吸熱ピークの位置を、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマーの融点Tmとした。
【0085】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)を、オーブンバッチにおいてTm-10℃の雰囲気下で60分間処理した。示差走査熱量計を用いて、処理した熱可塑性液晶ポリマーフィルムから所定の大きさをサンプリングして試料容器に入れ、室温から400℃まで10℃/minの速度で昇温した際に現れる吸熱ピークの位置を、上記処理した熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tm’とし、以下の式により、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマーの融点上昇速度Rtm(℃/min)を算出した。
Rtm=(Tm’-Tm)/60
【0086】
(動的粘弾性測定)
熱可塑性液晶ポリマーフィルムを縦10mm、横5mmに切り出し、試験片を作製した。粘弾性測定装置(NETZSCH製「DMA242E Artemis」)を用いて、試験片を試料ホルダに取り付け、周波数を1Hz、荷重を0.2N、測定モードを引張りモードとし、室温から350℃の温度範囲で5℃/minの昇温速度で貯蔵弾性率を測定した。
得られた貯蔵弾性率のプロファイル(縦軸:貯蔵弾性率(MPa)、横軸:温度(℃))において、200℃から280℃までの間で10℃毎の温度変化に対する貯蔵弾性率の変化量から傾きを算出した。算出した傾きの絶対値が5MPa/℃以下であり最も小さい温度変化範囲を求め、その温度変化範囲における中心の温度(例えば、200~210℃であれば205℃)での貯蔵弾性率をゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’として算出した。また、280℃における貯蔵弾性率を算出した。
また、180℃以上の温度で存在するゴム状平坦領域の接線と、当該ゴム状平坦領域より高温側の流動領域の接線との交点における温度を、ゴム状平坦領域の終点温度として算出した。
【0087】
(広角X線回折測定)
広角X線回折測定には、Bruker AXS社製、D8 Discover装置を使用した。熱可塑性液晶ポリマーフィルムを10mm四方に切り取り、標準的な試料ホルダに貼り付けた。データのS/N比を高めるため、熱可塑性液晶ポリマーフィルムはMD方向を一致させるように複数枚重ね、厚みが0.5mm程度になるように調整した。X線源はCuKαとし、フィラメント電圧を45kV、電流を110mAとした。コリメーターは0.3mmのものを使用した。
【0088】
標準試料ホルダを装置に取り付け、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの法線と一致する方向からX線が照射されるように位置調整した。すなわち熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面に対して垂直にX線を照射した。熱可塑性液晶ポリマーフィルムと検出器の距離(カメラ距離)を100mmとした。検出器には2次元PSPC検出器を使用し、2次元回折像を取得した。検出器は試料の後方に設置し、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの法線、検出器の法線、X線照射方向がすべて一致するように配置した。露光時間は600秒とした。
【0089】
得られた2次元回折像を円環平均処理し、1次元プロファイルへと変換した(データ1)。円環平均の範囲は、回折角(2θ)で10~30度とした。方位角範囲は0~180度とした。2θのステップは0.05度とした。なお方位角0度は熱可塑性液晶ポリマーフィルムのMD方向に対応させた。
【0090】
変換した1次元プロファイル(データ1)は、同じ条件で取得したバックグラウンドデータ(試料を取り付けないときの測定データ)を使って寄生散乱等の処理をした。すなわちバックグラウンドデータを1次元プロファイル化したのち、熱可塑性液晶ポリマーフィルムのデータから差し引いた。これをデータ2とした。
【0091】
バックグラウンド処理したデータ2に対して、ベースラインを設定して差し引いた。ベースラインは、バックグラウンド処理後のデータにおいて、2θが14度と26度における強度値を結ぶ一次関数とした。なお14度および26度における強度値は、それぞれ、13.8~14.2度、25.8~26.2度の範囲の強度の平均値(間隔0.05度)とした。データ2から上述の一次関数を差し引いた。これをデータ3とした。データ3に対して、回折角2θとして14~26度の範囲で積分強度を求め、求めた積分強度をAとした。
【0092】
さらに、データ3において、回折角2θが22.3度と24.3度における強度値を結ぶ一次関数を計算し、データ3からさらに一次関数を減算した。これをデータ4とした。データ4に対して、2θが22.3~24.3度の範囲の積分強度を求めた(B)。さらにB/A×100を計算した(=UC)。
【0093】
(金属張積層板の作製)
図1に示すように、熱可塑性液晶ポリマーフィルム1と金属箔2とを重ね合わせ、組立体を作製した。金属箔には、福田金属箔粉工業株式会社製CF-H9A-DS-HD2-12(厚さ12μm)を使用した。この組立体を北川精機株式会社製真空プレス機において、真空下、室温(25℃)より250℃に6℃/minで昇温させ、15分保持した後、300℃に6℃/minで昇温後、面圧4MPaの条件で熱圧着させ、10分後に250℃に7℃/minで降温、250℃到達後急冷により50℃になったことを確認し、真空を開放し、熱可塑性液晶ポリマーフィルム1と金属箔2とを備える金属張積層板3を作製した。
【0094】
(耐熱性-積層フロー/プロセス窓)
積層フローによる耐熱性は、多層積層基板四隅の熱可塑性液晶ポリマーフィルム形状変化を観察し評価した。図2に示すように、図1で得られた金属張積層板3を2枚、互いの熱可塑性液晶ポリマーフィルム1が合わさるように重ね合わせ、組立体を作製した。この組立体の上下面に、SUS板4およびクッション材5をそれぞれ配設して組立体を挟み込み、真空プレス機において、310℃、面圧2MPaの条件で熱圧着させ、多層積層基板を作製した。作製した多層積層基板四隅の熱可塑性液晶ポリマーフィルム形状変化を目視により観察し、以下の基準により評価した。
A:積層条件において、熱可塑性液晶ポリマーはほとんど流動せず、金属層から0.7mm以下のバリしか認められなかった。
B:積層条件において、熱可塑性液晶ポリマーはほとんど流動せず、金属層から0.7mmより大きく、1mm以下のバリしか認められなかった。
C:積層条件において、熱可塑性液晶ポリマーの流動により金属層から1mmより大きなバリが認められた。
【0095】
(熱可塑性液晶ポリマーの作製)
熱可塑性液晶ポリマーの重合の代表例として実施例1の方法は以下である。p-ヒドロキシ安息香酸6.1kg(23モル部)、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸28.1kg(77モル部)、および無水酢酸20.1kgを投入し、アセチル化(160℃、還流下約2時間)後、1℃/minで昇温し340℃で保持し、60分間減圧処理(1000Pa)を行い、溶融重縮合を行った。
【0096】
<実施例1>
(1)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位23モル部、p-ヒドロキシ安息香酸単位77モル部のモル比率からなるサーモトロピック液晶性ポリエステルを重合し、インフレーションダイより押出成形し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)を構成する熱可塑性液晶ポリマーのTmは310℃であった。
(2)上記で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)について、280℃で3時間熱処理した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムのTmは317℃であった。
(3)上記(2)で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて金属張積層板、多層積層基板を作製した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムと多層積層基板について、示差走査熱量測定、動的粘弾性測定、広角X線回折測定、および積層フローについての評価を行った結果は、表7に示す通りである。なお、図3は、実施例1で得られた熱処理後の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの動的粘弾性測定による貯蔵弾性率の温度依存性に関するプロファイルを示すグラフであり、貯蔵弾性率E’は245℃における貯蔵弾性率の数値を表す。
【0097】
<実施例2>
(1)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位20モル部、p-ヒドロキシ安息香酸単位80モル部、テレフタル酸単位1モル部のモル比率からなるサーモトロピック液晶性ポリエステルを重合し、インフレーションダイより押出成形し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)を構成する熱可塑性液晶ポリマーのTmは320℃であった。
(2)上記で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)について、300℃で1時間熱処理した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムのTmは334℃であった。
(3)上記(2)で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて金属張積層板、多層積層基板を作製した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムと多層積層基板について、示差走査熱量測定、動的粘弾性測定、広角X線回折測定、および積層フローについての評価を行った結果は、表7に示す通りである。なお、貯蔵弾性率E’は265℃における貯蔵弾性率の数値を表す。
【0098】
<実施例3>
(1)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位20モル部、p-ヒドロキシ安息香酸単位80モル部、テレフタル酸単位1モル部のモル比率からなるサーモトロピック液晶性ポリエステルを重合し、インフレーションダイより押出成形し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)を得た。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)を構成する熱可塑性液晶ポリマーのTmは320℃であった。
(2)上記で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム(耐熱化前フィルム)について、310℃で1時間熱処理した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムのTmは347℃であった。
(3)上記(2)で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて金属張積層板、多層積層基板を作製した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムと多層積層基板について、示差走査熱量測定、動的粘弾性測定、広角X線回折測定、および積層フローについての評価を行った結果は、表7に示す通りである。なお、貯蔵弾性率E’は265℃における貯蔵弾性率の数値を表す。
【0099】
<比較例1>
(1)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位27モル部、p-ヒドロキシ安息香酸単位73モル部のモル比率からなるサーモトロピック液晶性ポリエステルを重合し、インフレーションダイより押出し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマーのTmは280℃であった。
(2)上記(1)で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて金属張積層板、多層積層基板を作製した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムと多層積層基板について、示差走査熱量測定、動的粘弾性測定、広角X線回折測定、および積層フローについての評価を行った結果は、表7に示す通りである。なお、動的粘弾性測定において、180℃以上の温度で貯蔵弾性率のゴム状平坦領域は検出されなかった。
【0100】
<比較例2>
(1)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位23モル部、p-ヒドロキシ安息香酸単位77モル部のモル比率からなるサーモトロピック液晶性ポリエステルを重合し、インフレーションダイより押出し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマーのTmは310℃であった。
(2)上記(1)で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて金属張積層板、多層積層基板を作製した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムと多層積層基板について、示差走査熱量測定、動的粘弾性測定、広角X線回折測定、および積層フローについての評価を行った結果は、表7に示す通りである。なお、図4は、比較例2で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの動的粘弾性測定による貯蔵弾性率の温度依存性に関するプロファイルを示すグラフであるが、この図に示すように、180℃以上の温度で貯蔵弾性率のゴム状平坦領域は検出されなかった。
【0101】
<比較例3>
(1)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位20モル部、p-ヒドロキシ安息香酸単位80モル部、テレフタル酸1モル部のモル比率からなるサーモトロピック液晶性ポリエステルを重合し、インフレーションダイより押出し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマーのTmは320℃であった。
(2)上記(1)で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて金属張積層板、多層積層基板を作製した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムと多層積層基板について、示差走査熱量測定、動的粘弾性測定、広角X線回折測定、および積層フローについての評価を行った結果は、表7に示す通りである。なお、動的粘弾性測定において、180℃以上の温度で貯蔵弾性率のゴム状平坦領域は検出されなかった。
【0102】
<比較例4>
(1)比較例1の材料を280℃で3時間熱処理した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムのTmは313℃であった。
(2)上記(1)で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いて金属張積層板、多層積層基板を作製した。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムと多層積層基板について、示差走査熱量測定、動的粘弾性測定、広角X線回折測定、および積層フローについての評価を行った結果は、表7に示す通りである。なお、図5は、比較例4で得られた熱処理後の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの動的粘弾性測定による貯蔵弾性率の温度依存性に関するプロファイルを示すグラフであり、貯蔵弾性率E’は245℃における貯蔵弾性率の数値を表す。
【0103】
【表7】
【0104】
表7から明らかなように、比較例1~3で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、ゴム状平坦領域が存在していないため、積層フローを満足することはできなかった。また、比較例4では、熱処理を施すことでゴム状平坦領域が生じているが、比較例4のようにRtmが小さい熱可塑性液晶ポリマーを用いている場合、ゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’を高くできないため、積層フローを満足することはできなかった。
【0105】
これに対して、実施例1~3では、ゴム状平坦領域が存在し、かつ特定の範囲のゴム状平坦領域の貯蔵弾性率E’を有しているため、比較例1~4に対し、積層フローを満足している。このようなフィルムを有する金属張積層板を用いると、積層・回路加工の際に広いプロセス窓を有するため、特殊な設備や治具を使用することなく、積層体を低コストで製造することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび積層板は、各種成形体(例えば、配線板)の材料として、特に多層積層回路材料などとして好適であり、例えば、電子・電気・通信工業分野におけるプリント配線板として、高周波用回路基板、車載用センサ、モバイル用回路基板、アンテナなどの用途において有用である。
【0107】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0108】
1・・・熱可塑性液晶ポリマーフィルム
2・・・金属層(銅箔)
3・・・金属張積層板
4・・・SUS板
5・・・クッション材
図1
図2
図3
図4
図5