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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071402
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20220509BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20220509BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20220509BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/067
B23K26/364
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180345
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】相川 力
(72)【発明者】
【氏名】林 博和
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AD02
4E168AD18
4E168CA06
4E168CB07
4E168CB23
4E168DA43
4E168EA05
4E168EA11
4E168EA20
5F063AA01
5F063AA04
5F063AA21
5F063AA37
5F063BA07
5F063CB02
5F063CB06
5F063CC23
5F063CC39
5F063CC53
5F063DD31
5F063DD32
(57)【要約】
【課題】加工溝の加工品質の維持とタクトタイムの増加防止とを両立可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】第2レーザ光を加工送り方向に沿って複数の分岐光に分岐させる分岐素子と、分岐素子により分岐された複数の分岐光を、加工対象のストリートに集光させる第2集光レンズと、を備え、第2集光レンズによりストリートに集光される分岐光ごとのスポットの中で互いに隣り合う先行スポットと後行スポットとの間隔である分岐距離をLとし、相対移動の速度である加工速度をVとし、先行スポットの加工位置に対して後行スポットが重なるまでの時間をτとした場合に、時間がτ=L/Vで表され、第2溝の加工品質の悪化が発生する時間の閾値をτ1とした場合にτ>τ1を満たす。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハを保持するテーブルに対しレーザ光学系を前記ウェーハのストリートに沿った加工送り方向に相対移動させながら、前記レーザ光学系により前記ストリートに沿って互いに平行な2条の第1溝を形成する縁切り加工と、前記2条の第1溝の間に第2溝を形成する中抜き加工と、を行うレーザ加工装置において、
前記レーザ光学系が、
前記縁切り加工に対応する2本の第1レーザ光と、前記中抜き加工に対応する第2レーザ光と、を出射するレーザ光出射系と、
前記レーザ光出射系から出射された前記2本の第1レーザ光を加工対象の前記ストリートに集光させる第1集光レンズと、
前記レーザ光出射系から出射された前記第2レーザ光を前記加工送り方向に沿って複数の分岐光に分岐させる分岐素子と、
前記分岐素子により分岐された複数の前記分岐光を、加工対象の前記ストリートに集光させる第2集光レンズと、
を備え、
前記第2集光レンズにより前記ストリートに集光される前記分岐光ごとのスポットの中で互いに隣り合う先行スポットと後行スポットとの間隔である分岐距離をLとし、前記相対移動の速度である加工速度をVとし、前記先行スポットの加工位置に対して前記後行スポットが重なるまでの時間をτとした場合に、前記時間がτ=L/Vで表され、
前記第2溝の加工品質の悪化が発生する前記時間の閾値をτ1とした場合にτ>τ1を満たすレーザ加工装置。
【請求項2】
前記レーザ光出射系が、
前記縁切り加工に対応する条件のレーザ光を出射する第1レーザ光源と、
前記中抜き加工に対応する条件のレーザ光を出射する第2レーザ光源と、
前記第1レーザ光源から出射された前記レーザ光から前記2本の第1レーザ光を形成する第1光形成素子と、
前記第2レーザ光源から出射された前記レーザ光から前記第2レーザ光を形成する第2光形成素子と、
を備え、
前記分岐素子が、前記第2光形成素子と前記第2集光レンズとの間の光路上に設けられている請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記レーザ光出射系が、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射された前記レーザ光を2分岐させる2分岐素子と、
前記2分岐素子により2分岐された前記レーザ光の一方から前記2本の第1レーザ光を形成する第1光形成素子と、
前記2分岐素子により2分岐された前記レーザ光の他方から前記第2レーザ光を形成する第2光形成素子と、
を備え、
前記分岐素子が、前記第2光形成素子と前記第2集光レンズとの間の光路上に設けられている請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第2光形成素子が、前記ストリートに非円形状の前記スポットを形成する前記第2レーザ光を形成し、
前記第2光形成素子を、前記第2光形成素子の光軸を中心とする軸周り方向に回転させる第2光形成素子回転機構と、
を備える請求項2又は3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記第1光形成素子を、前記第1光形成素子の光軸を中心とする軸周り方向に回転させる第1光形成素子回転機構を備える請求項2から4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記第2集光レンズが、前記第1集光レンズを間に挟んで2個設けられ且つ前記第1集光レンズと共に前記加工送り方向に沿って一列に配置され、
前記レーザ光出射系から出射された前記2本の第1レーザ光を前記第1集光レンズに導き且つ前記分岐素子により分岐された複数の前記分岐光を2個の前記第2集光レンズに選択的に導く接続光学系を備え、
前記接続光学系が、前記テーブルに対して前記レーザ光学系が前記加工送り方向の往路方向側に相対移動される場合には、複数の前記分岐光を前記第1集光レンズに対して前記往路方向側とは反対の復路方向側に位置する前記第2集光レンズに導き、且つ前記テーブルに対して前記レーザ光学系が前記復路方向側に相対移動される場合には、複数の前記分岐光を前記第1集光レンズに対して前記往路方向側に位置する前記第2集光レンズに導く請求項1から5のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記第2レーザ光がパルスレーザ光であり、
前記加工速度及び前記第2レーザ光の繰り返し周波数の少なくともいずれか一方を調整して、前記スポットごとに、前記スポットに対して次回に照射される前記スポットの前記加工送り方向のオーバーラップ率を50%以下にする請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
ウェーハを保持するテーブルに対しレーザ光学系を前記ウェーハのストリートに沿った加工送り方向に相対移動させながら、前記レーザ光学系により前記ストリートに沿って互いに平行な2条の第1溝を形成する縁切り加工と、前記2条の第1溝の間に第2溝を形成する中抜き加工と、を行うレーザ加工方法において、
前記レーザ光学系が、前記縁切り加工に対応する2本の第1レーザ光と前記中抜き加工に対応する第2レーザ光とを出射し、前記2本の第1レーザ光を第1集光レンズにより加工対象の前記ストリートに集光し、前記第2レーザ光を前記加工送り方向に沿って複数の分岐光に分岐し、複数の前記分岐光を第2集光レンズにより加工対象の前記ストリートに集光し、
前記第2集光レンズにより前記ストリートに集光される前記分岐光ごとのスポットの中で互いに隣り合う先行スポットと後行スポットとの間隔である分岐距離をLとし、前記相対移動の速度である加工速度をVとし、前記先行スポットの加工位置に対して前記後行スポットが重なるまでの時間をτとした場合に、前記時間がτ=L/Vで表され、
前記第2溝の加工品質の悪化が発生する前記時間の閾値をτ1とした場合にτ>τ1を満たすレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハのレーザ加工を行うレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスの製造分野では、シリコン等の基板の表面にガラス質材料からなる低誘電率絶縁体被膜(Low-k膜)と回路を形成する機能膜とを積層した積層体により複数のデバイスを形成しているウェーハ(半導体ウェーハ)が知られている。このようなウェーハは、複数のデバイスが格子状のストリートによって格子状に区画されており、ウェーハをストリートに沿って分割することにより個々のデバイスが製造される。
【0003】
ウェーハを複数のデバイス(チップ)に分割する方法として、高速回転するブレードを用いる方法、ウェーハの内部にストリートに沿ってレーザ加工領域を形成してこのレーザ加工領域が形成されることにより強度が低下したストリートに沿って外力を加える方法が知られている。しかしながら、Low-k膜が適用されたウェーハの場合、Low-k膜の素材とウェーハの素材とが異なるため、前者の方法ではブレードにより絶縁膜と基板とを同時に切削することが困難である。また、後者の方法ではストリート上にLow-k膜が存在する場合に良好な品質で個々のデバイスに分割することが困難である。
【0004】
そこで、特許文献1には、ウェーハのストリートに沿って2条の縁切り溝(遮断溝)を形成する縁切り加工と、2条の縁切り溝の間に中抜き溝(分割溝)を形成する中抜き加工と、を行うレーザ加工装置が開示されている。このレーザ加工装置は、ウェーハに対してレーザ光学系を加工送り方向の一方向側(例えば往路方向側)に相対移動させながら、レーザ光学系により同一のストリートに沿って2条の縁切り溝と中抜き溝とを同時形成(並行形成)することでLow-k膜等を除去する。
【0005】
特許文献2には、ウェーハを保持するチャックとレーザ光学系とを相対移動させながら、レーザ光学系によりダイシングストリートに沿って互いに平行な一対のトレンチ(2条の第1溝)と、一対のトレンチの間に形成される凹部であるファロウ(第2溝)と、を形成するレーザ加工装置が開示されている。特許文献2のレーザ光学系は、ウェーハに対するレーザ光学系の加工送り方向(往路方向、復路方向)に関係なく、トレンチの加工に対応するレーザビームをファロウの加工に対応するレーザビームよりも先行させる。
【0006】
また、特許文献2に記載のレーザ加工装置は、ファロウの加工に対応するレーザビームを加工送り方向に4分岐させ、4分岐させたレーザビームを共通の集光レンズでストリート上に個別に集光させることによりファロウの加工を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-182019号公報
【特許文献2】特開2016-208035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載のレーザ加工装置においてストリート上に形成される加工溝(2条の縁切り溝、中抜き溝)、特に中抜き溝の加工深さを深くしたい場合には、中抜き加工に対応するレーザ光(パルスレーザ光)のパワーを上げる、或いはこのレーザ光の繰り返し周波数を上げる必要がある。しかしながら、この場合にはウェーハの溶融による加工溝の埋め戻りが支配的になり、所望の加工深さが得られず且つ加工品質も悪化する。
【0009】
加工溝(中抜き溝)の加工品質の悪化等を防止するためには、例えば、ウェーハごとに定められた加工品質が保たれるレーザ光のパワーの閾値に基づき、この閾値以下のパワーのレーザ光で中抜き加工を行う方法がある。しかしながら、この場合にはストリートごとに複数回(複数パス)の中抜き加工を行う必要があり、タクトタイムが増加してしまう。
【0010】
このため、上述の閾値未満のパワーのレーザ光で中抜き加工を行う場合には、例えば、中抜き加工を行う集光レンズを増やすことで、ストリートごとに1回の中抜き加工を行うだけで所望深さの中抜き溝を形成する方法が考えられる(後述の図8参照)。しかしながら、この場合には集光レンズの数の増加分だけウェーハに対するレーザ光学系の相対移動量(加工距離)が増加するため、タクトタイムが増加してしまう。また、各集光レンズを同一直線上に配置する必要があり、その配置調整の煩雑さ及び難易度が増えてしまう。
【0011】
そこで、上記特許文献2に記載されているように、中抜き加工に対応するレーザ光を複数の分岐光に分岐させ、各分岐光を共通の集光レンズでストリートに集光させる方法が考えられる。しかしながら、各分岐光の分岐距離(間隔)が狭いと、レーザ光の繰り返し周波数を増加させたのと同様の状態になる。この場合には、ウェーハが十分に冷却されない状態でストリートに次々とレーザ光(パルスレーザ光)が照射されるため、ウェーハに対する入熱量の増加による加工溝の加工品質の悪化が懸念される。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、加工溝の加工品質の維持とタクトタイムの増加防止とを両立可能なレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的を達成するためのレーザ加工装置は、ウェーハを保持するテーブルに対しレーザ光学系をウェーハのストリートに沿った加工送り方向に相対移動させながら、レーザ光学系によりストリートに沿って互いに平行な2条の第1溝を形成する縁切り加工と、2条の第1溝の間に第2溝を形成する中抜き加工と、を行うレーザ加工装置において、レーザ光学系が、縁切り加工に対応する2本の第1レーザ光と、中抜き加工に対応する第2レーザ光と、を出射するレーザ光出射系と、レーザ光出射系から出射された2本の第1レーザ光を加工対象のストリートに集光させる第1集光レンズと、レーザ光出射系から出射された第2レーザ光を加工送り方向に沿って複数の分岐光に分岐させる分岐素子と、分岐素子により分岐された複数の分岐光を、加工対象のストリートに集光させる第2集光レンズと、を備え、第2集光レンズによりストリートに集光される分岐光ごとのスポットの中で互いに隣り合う先行スポットと後行スポットとの間隔である分岐距離をLとし、相対移動の速度である加工速度をVとし、先行スポットの加工位置に対して後行スポットが重なるまでの時間をτとした場合に、時間がτ=L/Vで表され、第2溝の加工品質の悪化が発生する時間の閾値をτ1とした場合にτ>τ1を満たす。
【0014】
このレーザ加工装置によれば、タクトタイムの増加を防止し、且つ加工溝(第2溝)の加工品質を悪化させることなく所望の加工深さが得られる。
【0015】
本発明の他の態様に係るレーザ加工装置において、レーザ光出射系が、縁切り加工に対応する条件のレーザ光を出射する第1レーザ光源と、中抜き加工に対応する条件のレーザ光を出射する第2レーザ光源と、第1レーザ光源から出射されたレーザ光から2本の第1レーザ光を形成する第1光形成素子と、第2レーザ光源から出射されたレーザ光から第2レーザ光を形成する第2光形成素子と、を備え、分岐素子が、第2光形成素子と第2集光レンズとの間の光路上に設けられている。これにより、レーザ加工を高速化してタクトタイムを低減させることができる。
【0016】
本発明の他の態様に係るレーザ加工装置において、レーザ光出射系が、レーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光源から出射されたレーザ光を2分岐させる2分岐素子と、2分岐素子により2分岐されたレーザ光の一方から2本の第1レーザ光を形成する第1光形成素子と、2分岐素子により2分岐されたレーザ光の他方から第2レーザ光を形成する第2光形成素子と、を備え、分岐素子が、第2光形成素子と第2集光レンズとの間の光路上に設けられている。
【0017】
本発明の他の態様に係るレーザ加工装置において、第2光形成素子が、ストリートに非円形状のスポットを形成する第2レーザ光を形成し、第2光形成素子を、第2光形成素子の光軸を中心とする軸周り方向に回転させる第2光形成素子回転機構と、を備える。これにより、第2溝の幅を調整することができる。
【0018】
本発明の他の態様に係るレーザ加工装置において、第1光形成素子を、第1光形成素子の光軸を中心とする軸周り方向に回転させる第1光形成素子回転機構を備える。これにより、2条の第1溝の間隔を調整することができる。
【0019】
本発明の他の態様に係るレーザ加工装置において、第2集光レンズが、第1集光レンズを間に挟んで2個設けられ且つ第1集光レンズと共に加工送り方向に沿って一列に配置され、レーザ光出射系から出射された2本の第1レーザ光を第1集光レンズに導き且つ分岐素子により分岐された複数の分岐光を2個の第2集光レンズに選択的に導く接続光学系を備え、接続光学系が、テーブルに対してレーザ光学系が加工送り方向の往路方向側に相対移動される場合には、複数の分岐光を第1集光レンズに対して往路方向側とは反対の復路方向側に位置する第2集光レンズに導き、且つテーブルに対してレーザ光学系が復路方向側に相対移動される場合には、複数の分岐光を第1集光レンズに対して往路方向側に位置する第2集光レンズに導く。これにより、レーザ加工のタクトタイムを低減させることができる。
【0020】
本発明の他の態様に係るレーザ加工装置において、第2レーザ光がパルスレーザ光であり、加工速度及び第2レーザ光の繰り返し周波数の少なくともいずれか一方を調整して、スポットごとに、スポットに対して次回に照射されるスポットの加工送り方向のオーバーラップ率を50%以下にする。これにより、加工溝(第2溝)の加工品質をより向上させることができる。
【0021】
本発明の目的を達成するためのレーザ加工方法は、ウェーハを保持するテーブルに対しレーザ光学系をウェーハのストリートに沿った加工送り方向に相対移動させながら、レーザ光学系によりストリートに沿って互いに平行な2条の第1溝を形成する縁切り加工と、2条の第1溝の間に第2溝を形成する中抜き加工と、を行うレーザ加工方法において、レーザ光学系が、縁切り加工に対応する2本の第1レーザ光と中抜き加工に対応する第2レーザ光とを出射し、2本の第1レーザ光を第1集光レンズにより加工対象のストリートに集光し、第2レーザ光を加工送り方向に沿って複数の分岐光に分岐し、複数の分岐光を第2集光レンズにより加工対象のストリートに集光し、第2集光レンズによりストリートに集光される分岐光ごとのスポットの中で互いに隣り合う先行スポットと後行スポットとの間隔である分岐距離をLとし、相対移動の速度である加工速度をVとし、先行スポットの加工位置に対して後行スポットが重なるまでの時間をτとした場合に、時間がτ=L/Vで表され、第2溝の加工品質の悪化が発生する時間の閾値をτ1とした場合にτ>τ1を満たす。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、加工溝の加工品質の維持とタクトタイムの増加防止とを両立可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態のレーザ加工装置の概略図である。
図2】レーザ加工装置による加工対象のウェーハの平面図である。
図3】奇数番目のストリートに沿ったレーザ加工を説明するための説明図である。
図4】偶数番目のストリートに沿ったレーザ加工を説明するための説明図である。
図5】ウェーハに対して往路方向側に相対移動されるレーザ光学系による縁切り加工及び中抜き加工を説明するための説明図である。
図6】ウェーハに対して復路方向側に相対移動されるレーザ光学系による縁切り加工及び中抜き加工を説明するための説明図である。
図7】第1実施形態のレーザ加工装置によるウェーハのストリートごとのレーザ加工の流れ、特に第1高速シャッタ、第2高速シャッタ、第1安全シャッタ、及び第2安全シャッタの動作を示したフローチャートである。
図8】比較例と本実施形態とにおいて、ストリートごとのレーザ加工に要する加工距離を比較するための説明図である。
図9】第2レーザ光の繰り返し周波数が10kHzで且つ加工速度が300mm/sである場合の中抜き加工を説明するための説明図である。
図10】第2レーザ光の繰り返し周波数が10kHzで且つ加工速度が30mm/sである場合の中抜き加工を説明するための説明図である。
図11】第2集光レンズによりストリート(復路、復路)上に集光される各分岐光のスポットを示した上面図である。
図12】第2レーザ光を分岐させない場合のストリートの任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示したグラフである。
図13】「τ<τ1」となる場合のストリートの任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示したグラフである。
図14】「τ>>τ1」を満たす場合のストリートの任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示したグラフである。
図15】「τ>τ1」を満たす場合のストリートの任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示したグラフである。
図16】「1スポット」の比較例と「2スポット」の本実施例とにおいて、中抜き加工の加工条件と中抜き溝の底面の加工状態との関係を示した説明図である。
図17図16に示した加工条件(A~D、A1~D1)ごとの入熱量と中抜き溝の加工深さとの関係を示したグラフである。
図18図16に示した加工条件ごとの加工速度と中抜き溝の加工深さとの関係を示したグラフである。
図19】中抜き加工の好ましいオーバーラップ率を説明するための説明図である。
図20】第1回転機構による2条の縁切り溝のY方向の間隔調整を説明するための説明図である。
図21】第2回転機構による中抜き溝のY方向の幅調整を説明するための説明図である。
図22】第3実施形態の分岐光ごとのスポットの上面図である。
図23】第4実施形態のレーザ加工装置のレーザ光学系の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態のレーザ加工装置の全体構成]
図1は、第1実施形態のレーザ加工装置10の概略図である。図1に示すように、レーザ加工装置10は、ウェーハ12を複数のチップ14(図2参照)に分割する前の前工程として、ウェーハ12に対してレーザ加工(アブレーション溝加工)を施す。なお、図中のXYZ方向は互いに直交し、このうちX方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は上下方向である。ここで、X方向は本発明の加工送り方向に相当する。
【0025】
図2は、レーザ加工装置10による加工対象のウェーハ12の平面図である。図2に示すように、ウェーハ12は、シリコン等の基板の表面にLow-k膜と回路を形成する機能膜とを積層した積層体である。ウェーハ12は格子状に配列された複数のストリートC(分割予定ライン)によって複数の領域に区画されている。この区画された各領域にはチップ14を構成するデバイス16が設けられている。
【0026】
レーザ加工装置10は、図中の括弧付き数字(1)~(4)、・・・に示すように、ストリートCごとにストリートCに沿ってウェーハ12に対してレーザ加工を行うことで、基板上のLow-k膜等を除去する。
【0027】
この際にレーザ加工装置10は、ウェーハ12のレーザ加工に要するタクトタイムを低減するために、ウェーハ12に対して後述のレーザ光学系24をX方向に相対移動させる際の相対移動方向をストリートCごとに交互に切り替える。
【0028】
例えば、図中の括弧付き数字(1),(3)等に示す奇数番目のストリートCに沿ってレーザ加工を行う場合には、ウェーハ12に対して後述のレーザ光学系24をX方向の一方向側である往路方向側X1(図5参照)に相対移動させる。また、図中の括弧付き数字(2),(4)等に示す偶数番目のストリートCに沿ってレーザ加工を行う場合には、ウェーハ12に対してレーザ光学系24をX方向の他方向側、すなわち往路方向側X1とは反対の復路方向側X2(図6参照)に相対移動させる。
【0029】
図3は、奇数番目のストリートCに沿ったレーザ加工を説明するための説明図である。図4は、偶数番目のストリートCに沿ったレーザ加工を説明するための説明図である。
【0030】
図3及び図4に示すように、本実施形態ではレーザ加工として縁切り加工及び中抜き加工が同時に(並行して)実行される。縁切り加工は、2本の第1レーザ光L1を用いて行うレーザ加工であって、且つストリートCに沿って互いに平行な2条の縁切り溝18(本発明の2条の第1溝に相当するアブレーション溝)を形成するレーザ加工である。
【0031】
中抜き加工は、縁切り加工で形成された2条の縁切り溝18の間に中抜き溝19(本発明の第2溝に相当するアブレーション溝)を形成するレーザ加工である。本実施形態では、この中抜き加工を、2本の第1レーザ光L1よりも太径の第2レーザ光L2を加工送り方向(X方向)に複数分岐した分岐光L2aを用いて行う。なお、アブレーション溝である2条の縁切り溝18及び中抜き溝19については公知技術であるので、その詳細についての説明は省略する(特許文献1参照)。
【0032】
レーザ加工装置10では、ウェーハ12に対して後述のレーザ光学系24を往路方向側X1(図5参照)に相対移動させたり或いは復路方向側X2(図6参照)に相対移動させたりする場合のいずれにおいても、縁切り加工を中抜き加工よりも先行して行う。
【0033】
図1に戻って、レーザ加工装置10は、テーブル20と、第1レーザ光源22Aと、第2レーザ光源22Bと、レーザ光学系24と、顕微鏡26と、相対移動機構28と、制御装置30と、を備える。
【0034】
テーブル20は、ウェーハ12を保持する。また、テーブル20は、制御装置30の制御の下、相対移動機構28により加工対象のストリートCに平行な加工送り方向であるX方向とストリートCの幅方向に平行なY方向とに移動されると共に、Z方向に平行なテーブル20の中心軸(回転軸)を中心として回転される。
【0035】
第1レーザ光源22A及び第2レーザ光源22Bは、後述のレーザ光学系24と共に本発明のレーザ光学系を構成する。第1レーザ光源22Aは、縁切り加工に適した条件(波長、パルス幅、及び繰り返し周波数等)のパルスレーザ光であるレーザ光LAをレーザ光学系24へ常時出射する。第2レーザ光源22Bは、中抜き加工に適した条件(波長、パルス幅、及び繰り返し周波数等)のパルスレーザ光であるレーザ光LBをレーザ光学系24へ常時出射する。
【0036】
ここで、後述の第4実施形態のように1つのレーザ光源22(図23参照)で、縁切り溝加工と中抜き溝加工とを行うことも考えられるが、レーザ光条件によっては縁切り溝加工の速度は向上できても中抜き溝加工の速度が向上できず、その結果、速度向上できない中抜き溝加工の速度で加工する必要がある。また、レーザ光条件によってはその逆となる場合がある。従って、それぞれにおいて低速度となる側の速度がレーザ加工における上限速度となってしまう。
【0037】
このように縁切り加工及び中抜き加工では、加工速度と加工仕上がりにそれぞれ適したレーザ光条件が有る。このため、縁切り加工と中抜き加工とで異なる光源(第1レーザ光源22A及び第2レーザ光源22B)を用いることが好ましい。これにより、レーザ加工がより高速化されるので、タクトタイムを低減させることができる。
【0038】
レーザ光学系24(レーザユニット又はレーザヘッドともいう)は、詳しくは後述するが、第1レーザ光源22Aからのレーザ光LAに基づき縁切り加工用の2本の第1レーザ光L1を形成する。また、レーザ光学系24は、第2レーザ光源22Bからのレーザ光LBに基づき中抜き加工用の1本の第2レーザ光L2を形成した後、この第2レーザ光L2を複数の分岐光L2aに分岐させる。そして、レーザ光学系24は、2本の第1レーザ光L1を第1集光レンズ38からストリートCに向けて出射(照射)する。また、レーザ光学系24は、制御装置30の制御の下、各分岐光L2aを2個の第2集光レンズ40A,40Bから選択的にストリートCに向けて出射(照射)する。
【0039】
さらに、レーザ光学系24は、制御装置30の制御の下、相対移動機構28によりY方向及びZ方向に移動される。
【0040】
顕微鏡26は、レーザ光学系24に固定されており、レーザ光学系24と一体に移動する。顕微鏡26は、縁切り加工及び中抜き加工の前に、ウェーハ12に形成されているアライメント基準(図示は省略)を撮影する。また、顕微鏡26は、縁切り加工及び中抜き加工によりストリートCに沿って形成された2条の縁切り溝18及び中抜き溝19の撮影を行う。顕微鏡26により撮影された撮影画像(画像データ)は、制御装置30へ出力され、この制御装置30により不図示のモニタに表示される。
【0041】
相対移動機構28は、不図示のXYZアクチュエータ及びモータ等から構成されており、制御装置30の制御の下、テーブル20のXY方向の移動及び回転軸を中心とする回転と、レーザ光学系24のZ方向の移動と、を行う。これにより、相対移動機構28は、テーブル20及びウェーハ12に対してレーザ光学系24を相対移動させることができる。なお、テーブル20(ウェーハ12)に対してレーザ光学系24を各方向(回転を含む)に相対移動可能であればその相対移動方法は特に限定はされない。
【0042】
相対移動機構28を駆動することで、加工対象のストリートCの一端である加工開始位置に対するレーザ光学系24の位置合わせ(アライメント)と、ストリートCに沿ったX方向[往路方向側X1(図5参照)又は復路方向側X2(図6参照)]のレーザ光学系24の相対移動と、を実行することができる。また、相対移動機構28を駆動して、テーブル20を90°回転させることで、ウェーハ12のY方向に沿った各ストリートCを加工送り方向であるX方向に平行にすることができる。
【0043】
制御装置30は、例えばパーソナルコンピュータのような演算装置により構成され、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路を備える。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、制御装置30の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0044】
制御装置30は、第1レーザ光源22A、第2レーザ光源22B、レーザ光学系24、顕微鏡26、及び相対移動機構28等の動作を統括的に制御する。
【0045】
[レーザ光学系]
図5は、ウェーハ12に対して往路方向側X1に相対移動されるレーザ光学系24による縁切り加工及び中抜き加工を説明するための説明図である。図6は、ウェーハ12に対して復路方向側X2に相対移動されるレーザ光学系24による縁切り加工及び中抜き加工を説明するための説明図である。以下、ウェーハ12に対して往路方向側X1に相対移動されるレーザ光学系24の加工対象である奇数番目のストリートCを適宜「往路」といい、復路方向側X2に相対移動されるレーザ光学系24の加工対象である偶数番目のストリートCを適宜「復路」という。
【0046】
図5及び図6に示すように、レーザ光学系24は、第1安全シャッタ100A及び第2安全シャッタ100Bと、安全シャッタ駆動機構102と、第1光形成素子32と、第2光形成素子34と、分岐素子35と、接続切替素子36と、第1集光レンズ38と、2個の第2集光レンズ40A,40Bと、第1高速シャッタ47A及び第2高速シャッタ47Bと、高速シャッタ駆動機構47Cと、を備える。
【0047】
第1安全シャッタ100Aは、第1レーザ光源22Aと第1光形成素子32との間のレーザ光LAの光路上に挿脱自在に設けられている。また、第2安全シャッタ100Bは、第2レーザ光源22Bと第2光形成素子34との間のレーザ光LBの光路上に挿脱自在に設けられている。
【0048】
安全シャッタ駆動機構102は、制御装置30の制御の下、レーザ光LAの光路に対して第1安全シャッタ100Aを挿脱させると共に、レーザ光LBの光路に対して第2安全シャッタ100Bを挿脱させるアクチュエータである。安全シャッタ駆動機構102は、レーザ加工時以外では、レーザ光LAの光路に対して第1安全シャッタ100Aを挿入させると共に、レーザ光LBの光路に対して第2安全シャッタ100Bを挿入させることで、レーザ光LA,LBの光路を開放する。
【0049】
また、安全シャッタ駆動機構102は、レーザ加工時にはレーザ光LAの光路から第1安全シャッタ100Aを退避させると共に、レーザ光LBの光路から第2安全シャッタ100Bを退避させることで、レーザ光LA,LBの光路を開放する。
【0050】
第1光形成素子32及び第2光形成素子34は、既述の第1レーザ光源22A及び第2レーザ光源22Bと共に本発明のレーザ光出射系を構成する。第1光形成素子32は、例えば回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE)が用いられる。この第1光形成素子32は、第1レーザ光源22Aより入射したレーザ光LAから縁切り加工に対応する2本の第1レーザ光L1を形成し、2本の第1レーザ光L1を第1集光レンズ38に向けて出射する。これにより、ストリートC(往路及び復路)上に第1集光レンズ38により2本の第1レーザ光L1が集光され、ストリートC上においてY方向に離間した2個のスポットSP1(集光点又は加工点ともいう)が形成される。なお、図示は省略するが、第1光形成素子32から第1集光レンズ38に至る2本の第1レーザ光L1の光路(光路上に設けられた各種光学素子を含む)は、本発明の接続光学系の一部を構成する。
【0051】
第2光形成素子34は、例えば回折光学素子及びマスク等が用いられる。第2光形成素子34は、第2レーザ光源22Bより入射したレーザ光LBから中抜き加工に対応する第2レーザ光L2を形成する。第2レーザ光L2は、後述の分岐素子35を経て、2条の縁切り溝18の間において矩形状(円形状等の他の形状でも可)で且つX方向に沿った複数個のスポットSP2を形成する。このスポットSP2のY方向の幅は、2条の縁切り溝18の間隔に合わせて調整されている。そして、第2光形成素子34は、第2レーザ光L2を分岐素子35へ出射する。
【0052】
分岐素子35は、第2光形成素子34から入射した第2レーザ光L2をX方向(加工送り方向)に沿って複数の分岐光L2aに分岐させる。この分岐素子35としては、例えば、回折光学素子、屈折光学素子、プリズム、及びこれらの組み合わせ等が用いられる。なお、図中では、分岐素子35により第2レーザ光L2を2分岐させているが、3以上に分岐させてもよい。そして、分岐素子35は、各分岐光L2aを接続切替素子36へ出射する。なお、各分岐光L2aの具体的な分岐条件については後述する。
【0053】
接続切替素子36は、本発明の接続光学系を構成する。この接続切替素子36としては、例えば、公知の光スイッチ或いは各種光学素子(λ/2板、偏光ビームスプリッタ、ハーフミラー、及びミラー等、或いはこれらの組み合わせ)が用いられる。接続切替素子36は、制御装置30の制御の下、分岐素子35から出射された各分岐光L2aを第2集光レンズ40A,40Bに選択的に導く。
【0054】
第1集光レンズ38及び第2集光レンズ40A,40Bは、X方向(加工送り方向)に沿って一列に配置されている。第1集光レンズ38は、第2集光レンズ40Aと第2集光レンズ40Bとの間に配置されている。換言すると、第2集光レンズ40A,40Bは、第1集光レンズ38を間に挟むように配置されている。第2集光レンズ40Aは、第1集光レンズ38に対して復路方向側X2に配置されている。第2集光レンズ40Bは、第1集光レンズ38に対して往路方向側X1に配置されている。
【0055】
第1集光レンズ38は、第1光形成素子32から入射した2本の第1レーザ光L1をストリートC(往路及び復路)上に集光させる。第2集光レンズ40Aは、接続切替素子36から入射した各分岐光L2aをストリートC(往路)上に集光させる。第2集光レンズ40Bは、接続切替素子36から入射した各分岐光L2aをストリートC(復路)上に集光させる。
【0056】
接続切替素子36は、相対移動機構28によりレーザ光学系24がウェーハ12に対して往路方向側X1及び復路方向側X2のいずれか一方向側に相対移動される場合に、各分岐光L2aを、第2集光レンズ40A,40Bの中で第1集光レンズ38に対して往路方向側X1及び復路方向側X2の他方向側に位置するレンズに導く。
【0057】
具体的には図5に示すように、接続切替素子36は、相対移動機構28によりレーザ光学系24がウェーハ12に対して往路方向側X1に相対移動される場合には、分岐素子35から出射された各分岐光L2aを第2集光レンズ40Aに導く。これにより、ストリートC(往路)上に第2集光レンズ40Aにより各分岐光L2aが個別に集光されることで分岐光L2aごとのスポットSP2が形成される。その結果、レーザ光学系24の往路方向側X1への相対移動によりストリートC(往路)に沿って縁切り加工が先行して実行されることで2条の縁切り溝18が形成され、続いて中抜き加工が実行されることで2条の縁切り溝18の間に中抜き溝19が形成される。
【0058】
図6に示すように、接続切替素子36は、相対移動機構28によりレーザ光学系24がウェーハ12に対して復路方向側X2に相対移動される場合には、分岐素子35から出射された各分岐光L2aを第2集光レンズ40Bに導く。これにより、ストリートC(復路)上に第2集光レンズ40Bにより各分岐光L2aが個別に集光されることで分岐光L2aごとのスポットSP2が形成される。その結果、レーザ光学系24の復路方向側X2への相対移動によりストリートC(復路)に沿って縁切り加工が先行して実行されることで2条の縁切り溝18が形成され、続いて中抜き加工が実行されることで2条の縁切り溝18の間に中抜き溝19が形成される。
【0059】
このように本実施形態では、第2レーザ光L2を複数の分岐光L2aに分岐させて、第2集光レンズ40A,40Bにより各分岐光L2aを個別にストリートC上に集光させることで、分岐光L2aごとにストリートCの中抜き加工を行うことができる。その結果、ウェーハ12に対するレーザ光学系24の1回の往路方向側X1又は復路方向側X2の相対移動によって、分岐光L2aの数に応じた複数回分の中抜き加工をストリートCに対して同時に行うことができる。このため、第2レーザ光L2のパワーを上げることなく中抜き溝19(加工溝)の加工深さを深くすることができる。これにより、タクトタイムを増加させることなく、中抜き溝19の加工品質が維持されるようなパワーの第2レーザ光L2で中抜き加工を行うことができる。
【0060】
第1高速シャッタ47Aは、第1レーザ光源22Aと第1光形成素子32との間のレーザ光LAの光路(第1光形成素子32と第1集光レンズ38との間の光路でも可)に対して挿脱自在に設けられている。第1高速シャッタ47Aは、第1レーザ光源22Aと第1光形成素子32との間の光路に挿入された場合に、第1レーザ光源22Aから第1光形成素子32に入射するレーザ光LAを遮断することで第1集光レンズ38からの2本の第1レーザ光L1の出射を停止させる。
【0061】
第2高速シャッタ47Bは、第2レーザ光源22Bと第2光形成素子34との間のレーザ光LBの光路(第2光形成素子34と接続切替素子36との間の光路でも可)に対して挿脱自在に設けられている。第2高速シャッタ47Bは、第2レーザ光源22Bと第2光形成素子34との間の光路に挿入された場合に、第2レーザ光源22Bから第2光形成素子34に入射するレーザ光LBを遮断することで、第2集光レンズ40A,40Bからの各分岐光L2aの出射を停止させる。
【0062】
高速シャッタ駆動機構47Cは、制御装置30の制御の下、第1高速シャッタ47A及び第2高速シャッタ47Bを既述の各光路に対して挿脱させるアクチュエータである。高速シャッタ駆動機構47Cは、縁切り加工時には第1高速シャッタ47Aをレーザ光LAの光路から退避させ且つ縁切り加工時以外では第1高速シャッタ47Aをレーザ光LAの光路に挿入する。また、高速シャッタ駆動機構47Cは、中抜き加工時には第2高速シャッタ47Bをレーザ光LBの光路から退避させ且つ中抜き加工時以外では第2高速シャッタ47Bをレーザ光LBの光路に挿入する。
【0063】
[レーザ加工(各シャッタの動作)]
図7は、上記構成の第1実施形態のレーザ加工装置10によるウェーハ12のストリートCごとのレーザ加工の流れ、特に第1高速シャッタ47A、第2高速シャッタ47B、第1安全シャッタ100A、及び第2安全シャッタ100Bの動作を示したフローチャートである。
【0064】
図7に示すように、レーザ加工対象のウェーハ12がテーブル20に保持されると、制御装置30が、最初に安全シャッタ駆動機構102を駆動して各安全シャッタ100A,100Bをレーザ光LA,LBの光路上から退避させる(ステップS0)。
【0065】
次いで、制御装置30が相対移動機構28を駆動して、ウェーハ12に対して顕微鏡26をウェーハ12のアライメント基準(図示は省略)を撮影可能な位置まで相対移動させた後、顕微鏡26によるアライメント基準の撮影を実行させる。そして、制御装置30は、顕微鏡26により撮影されたアライメント基準の撮影画像に基づき、ウェーハ12内の各ストリートCの位置を検出するアライメント検出を行う。次いで、制御装置30は、相対移動機構28を駆動して、レーザ光学系24の第1集光レンズ38の光軸と、第1番目のストリートC(往路)の加工開始位置との位置合わせを行う(ステップS1)。
【0066】
また、制御装置30は、接続切替素子36を駆動して各分岐光L2aを出射するレンズを第2集光レンズ40Aに切り替えた後(ステップS2)、高速シャッタ駆動機構47Cを駆動して第1高速シャッタ47Aをレーザ光LAの光路上から退避させる(ステップS3)。これにより、第1集光レンズ38から2本の第1レーザ光L1が出射され、2本の第1レーザ光L1がストリートC(往路)上の加工開始位置に集光される。
【0067】
次いで、制御装置30は、相対移動機構28を駆動して、ウェーハ12に対してレーザ光学系24を往路方向側X1に相対移動させる(ステップS4)。そして、第2集光レンズ40Aの光軸がストリートC(往路)の加工開始位置に到達すると、制御装置30は、高速シャッタ駆動機構47Cを駆動して第2高速シャッタ47Bをレーザ光LBの光路上から退避させる(ステップS5)。これにより、第2集光レンズ40Aから各分岐光L2aが出射され、各分岐光L2aが上述の加工開始位置に集光される。
【0068】
レーザ光学系24の往路方向側X1への相対移動が継続すると、図3及び図5に示したように、2本の第1レーザ光L1のスポットSP1と分岐光L2aごとのスポットSP2とがストリートC(往路)に沿って往路方向側X1に移動する。その結果、ストリートC(往路)に沿って、縁切り加工による2条の縁切り溝18の形成と中抜き加工による中抜き溝19の形成とが間隔を空けて同時に実行される。
【0069】
制御装置30は、スポットSP1がストリートC(往路)の加工終了位置に到達するタイミングに合わせて、高速シャッタ駆動機構47Cを駆動して第1高速シャッタ47Aをレーザ光LAの光路上に挿入させる(ステップS6,S7)。また、制御装置30は、各スポットSP2が上述の加工終了位置に到達するタイミングに合わせて、高速シャッタ駆動機構47Cを駆動して第2高速シャッタ47Bをレーザ光LBの光路上に挿入させる(ステップS8)。これにより、第1番目のストリートC(往路)のレーザ加工が完了する。
【0070】
制御装置30は、第1番目のストリートC(往路)のレーザ加工が完了すると、相対移動機構28を駆動して、第1集光レンズ38の光軸と、第2番目のストリートC(復路)の加工開始位置との位置合わせを行う(ステップS9でYES、ステップS10)。
【0071】
また、制御装置30は、接続切替素子36を駆動して各分岐光L2aを出射するレンズを第2集光レンズ40Bに切り替えた後(ステップS11)、高速シャッタ駆動機構47Cを駆動して第1高速シャッタ47Aをレーザ光LAの光路上から退避させる(ステップS12)。これにより、第1集光レンズ38により2本の第1レーザ光L1がストリートC(復路)上の加工開始位置に集光される。
【0072】
次いで、制御装置30は、相対移動機構28を駆動して、ウェーハ12に対してレーザ光学系24を復路方向側X2に相対移動させる(ステップS13)。そして、第2集光レンズ40Bの光軸が通常ストリートC(復路)の加工開始位置に到達すると、制御装置30は、高速シャッタ駆動機構47Cを駆動して第2高速シャッタ47Bをレーザ光LBの光路上から退避させる(ステップS14)。これにより、第2集光レンズ40Bにより各分岐光L2aが加工開始位置に集光される。
【0073】
レーザ光学系24の復路方向側X2への相対移動が継続すると、図4及び図6に示したように、2本の第1レーザ光L1のスポットSP1と分岐光L2aごとのスポットSP2とがストリートC(復路)に沿って復路方向側X2に移動する。その結果、ストリートC(復路)に沿って、縁切り加工による2条の縁切り溝18の形成と中抜き加工による中抜き溝19の形成とが間隔を空けて同時に実行される。
【0074】
制御装置30は、スポットSP1がストリートC(復路)の加工終了位置に到達するタイミングに合わせて、高速シャッタ駆動機構47Cを駆動して第1高速シャッタ47Aをレーザ光LAの光路上に挿入させる(ステップS15,S16)。また、制御装置30は、分岐光L2aごとのスポットSP2が加工終了位置に到達するタイミングに合わせて、高速シャッタ駆動機構47Cを駆動して第2高速シャッタ47Bをレーザ光LBの光路上に挿入させる(ステップS17)。これにより、第2番目のストリートC(復路)のレーザ加工が完了する。
【0075】
以下同様に、X方向に平行な全てのストリートCに沿ってレーザ加工(縁切り加工及び中抜き加工)が繰り返し実行される(ステップS9でYES、ステップS18でYES)。次いで、制御装置30は、相対移動機構28を駆動してテーブル20を90°回転させた後、上述の一連の処理を繰り返し実行する。これにより、格子状の各ストリートCに沿ってレーザ加工が実行される。
【0076】
図8は、比較例(符号8A参照)と本実施形態(符号8B参照)とにおいて、ストリートCごとのレーザ加工に要する加工距離(ウェーハ12に対するレーザ光学系24の相対移動量)を比較するための説明図である。なお、図8では、第2レーザ光L2を4分岐させた場合を例に挙げて説明を行っている。
【0077】
本実施形態では、1個(共通)の第2集光レンズ40A(第2集光レンズ40B)内で第2レーザ光L2を各分岐光L2aに分岐させているが、例えば、図8の符号8Aに示す比較例のように、中抜き加工を行う第2集光レンズ40A,40Bを増やす方法も考えられる。
【0078】
しかしながら、比較例では、複数の第2集光レンズ40A,40Bのうちの最後のレンズが加工終了位置に到達するまでウェーハ12に対するレーザ光学系24の相対移動を継続する必要あり、レーザ加工の加工距離が増加することでタクトタイムが増加してしまう。特に本実施形態のようにストリートC(往路、復路)のレーザ加工を往復で行う場合には、加工距離がさらに増えてしまう。また、複数の第2集光レンズ40A,40Bを同一直線上に配置する必要があり、配置調整の煩雑さ及び難易度が増えるという問題ある。
【0079】
これに対して図8の符号8Bに示すように、本実施形態では、1個(共通)の第2集光レンズ40A,40B内で第2レーザ光L2(スポットSP2)を分岐させているので、比較例とは異なり加工距離は増加せず、タクトタイムの増加が防止される。また、比較例のように複数の第2集光レンズ40A,40Bの配置調整を行う必要がなくなる。
【0080】
[中抜き加工]
図9は、第2レーザ光L2の繰り返し周波数が10kHzで且つ加工速度が300mm/sである場合の中抜き加工を説明するための説明図である。図10は、第2レーザ光L2の繰り返し周波数が10kHzで且つ加工速度が30mm/sである場合の中抜き加工を説明するための説明図である。
【0081】
図9及び図10に示すように、中抜き加工では、レーザ光学系24によりストリートC上に複数のスポットSP2を形成する。この際に、第2レーザ光L2はパルスレーザ光であるので、レーザ光学系24からストリートCに対する各分岐光L2aの照射は第2レーザ光L2の繰り返し周波数に応じて断続的(一定間隔ごと)に行われる。また同時に、相対移動機構28がウェーハ12に対してレーザ光学系24をX方向に相対移動、具体的にはウェーハ12を所定の加工速度でX方向に移動させる。これにより、ストリートCに対して各分岐光L2aのパルスが照射されるごとに、各スポットSP2の位置がストリートCに沿って移動する。
【0082】
各スポットSP2の位置の移動量であるスポット移動量dは、第2レーザ光L2の繰り返し周波数及び加工速度に応じて変化する。
【0083】
例えば、図9に示したように繰り返し周波数が10kHzで且つ加工速度が300mm/sである場合のスポット移動量dは30μmである。また、図10に示したように繰り返し周波数が10kHzで且つ加工速度が30mm/sである場合のスポット移動量dは3μmである。なお、スポット移動量dは、繰り返し周波数が増加するほど減少し、逆に繰り返し周波数が減少するほど増加する。
【0084】
図11は、本発明のレーザ加工方法を説明するための説明図であり、より具体的には第2集光レンズ40A,40BによりストリートC(復路、復路)上に集光される各分岐光L2aのスポットSP2を示した上面図である。
【0085】
図11に示すように、本実施形態では、ストリートC上に集光される分岐光L2aごとのスポットSP2の間隔、すなわち分岐光L2aごとのスポットSP2の中で互いに隣り合う先行スポットSP2aと後行スポットSP2bとの間隔である分岐距離を「L」とする。なお、互いに隣り合うスポットSP2の中でストリートCに沿って先行して移動する方が先行スポットSP2aであり、ストリートCに沿って後行して移動する方が後行スポットSP2bである。
【0086】
そして、レーザ加工(縁切り加工及び中抜き加工)の加工速度を「V」とした場合に、ストリートC上での先行スポットSP2aの加工位置に対して後行スポットSP2bが重なるまでの時間τは、τ=L/Vで表される。
【0087】
この際に時間τが短い場合、すなわち分岐距離Lが短かったり加工速度Vが速かったりすると、第2レーザ光L2の繰り返し周波数を増加させたのと同様の状態となり、ウェーハ12に対する入熱量が大きくなり過ぎることで中抜き溝19の加工品質が悪化する。また逆に、時間τが長い場合、すなわち分岐距離Lが長かったり加工速度Vが遅かったりする場合には、ストリートC上での先行スポットSP2aの加工位置に対して後行スポットSP2bが重なるまでの間にこの加工位置が冷却されるので、ウェーハ12に対する入熱量が一定範囲内に抑えられる。その結果、中抜き溝19の加工品質が保たれる。
【0088】
そこで本実施形態では、中抜き溝19の加工品質の悪化が発生する時間τの閾値(上限値)である時間閾値をτ1とした場合に、τ>τ1を満たす状態で中抜き加工(レーザ加工)を行う。ここで時間閾値τ1については、予め実験或いはシミュレーションを行うことで、ウェーハ12の種類、第2レーザ光L2の種類及びパワー等に応じて決定することができる。また、「τ>τ1を満たした状態」とは、τ>τ1を満たすように分岐距離L及び加工速度Vの少なくとも一方が調整されている状態である。さらに、分岐光L2aが3以上である場合も同様に、互いに隣り合う分岐光L2a(先行スポットSP2a、後行スポットSP2b)の間でτ>τ1を満たすようにする。
【0089】
図12から図15は、ストリートCの任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示したグラフである。図12は、第2レーザ光L2を分岐させない場合の任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示す。図13は、第2レーザ光L2を2分岐させているがτが「τ<τ1」となる場合の任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示す。図14は、第2レーザ光L2を2分岐させ且つτが「τ>>τ1」を満たす場合の任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示す。図15は、第2レーザ光L2を2分岐させ且つτが「τ>τ1」を満たす場合の任意の一点での入熱量と経過時間との関係を示す。
【0090】
なお、図12から図15では、説明の煩雑化を防止するために、第2レーザ光L2及び各分岐光L2aの1パルスごとのエネルギーを矩形で表しているが、他の形状、例えばガウシンアン或いは三角波などであってもよい。また、図12から図15中の「加工発生」は中抜き溝19を形成可能な入熱量の閾値を示し、「品質悪化」は中抜き溝19の加工品質が悪化する入熱量の閾値を示す。
【0091】
図12に示すように、第2レーザ光L2を分岐させない場合は、中抜き溝19の加工深さを深くするためには第2レーザ光L2のパワーを上げる必要がある。その結果、任意の一点に対する第2レーザ光L2の1回のパルスの照射で、任意の一点の蓄熱HS(入熱量)が「品質悪化」の閾値を超えてしまう。
【0092】
図13に示すように、第2レーザ光L2を2分岐させているがτが「τ<τ1」となる場合、すなわち分岐距離Lが短かったり、或いは加工速度Vが速かったり(繰り返し周波数が高すぎたり)する場合には、任意の一点において各分岐光L2a(先行スポットSP2a及び後行スポットSP2b)による入熱量が蓄積される。その結果、この任意の一点の蓄熱HS(入熱量)が「品質悪化」の閾値を超えてしまう。
【0093】
図14に示すように、第2レーザ光L2を2分岐させ且つτが「τ>>τ1」を満たす場合には、任意の一点に対する先行スポットSP2aによる蓄熱HS(入熱量)が「加工発生」の閾値を超えた後、後行スポットSP2bによる入熱が開始されるまでの間に十分に冷却される。このため、この任意の一点に対して後行スポットSP2bによる入熱が開始された後も蓄熱HS(入熱量)が「品質悪化」の閾値を超えることなく、中抜き溝19の加工品質が維持される。その結果、中抜き溝19の加工品質を悪化させることなく所望の加工深さが得られる。
【0094】
図15に示すように、第2レーザ光L2を2分岐させ且つτが「τ>τ1」を満たす場合、図13よりもτが大きい(例えば分岐距離Lが広い)ので、任意の一点に対する先行スポットSP2a及び後行スポットSP2bの入熱が連続したとしても、蓄熱HS(入熱量)が「品質悪化」の閾値を超えることなく、中抜き溝19の加工品質が維持される。その結果、中抜き溝19の加工品質を悪化させることなく所望の加工深さが得られる。
【0095】
[第1実施形態の効果]
以上のように第1実施形態では、第2集光レンズ40A,40B内で第2レーザ光L2(スポットSP2)を複数に分岐させることで、タクトタイムの増加を防止することができる。そして、第1実施形態では、τ>τ1を満たすように分岐距離L及び加工速度V(繰り返し周波数)の少なくとも一方を調整した状態で中抜き加工を行うことにより、中抜き溝19の加工品質を悪化させることなく所望の加工深さが得られる。その結果、第1実施形態では、タクトタイムの増加防止と、所望の加工深さの中抜き溝19の加工品質の維持と、を両立することができる。
【0096】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態のレーザ加工装置10について説明を行う。上記第1実施形態で説明したように、τ>τ1を満たすためには、分岐距離Lを広くする又は加工速度Vを遅くする又はその双方が考えられる。この際に加工速度Vを遅くするほど、スポットSP2ごとに、ストリートCに照射されたスポットSP2に対して次回に照射されるスポットSP2のX方向(加工送り方向)のオーバーラップ率が上昇する。そして、後述の図16に示すように、オーバーラップ率と中抜き溝19の加工品質との間には相関関係がある。そこで第2実施形態では、τ>τ1を満たした上でさらにオーバーラップ率が後述の所定条件(50%以下)を満たすように、加工速度V及び第2レーザ光L2の繰り返し周波数の少なくともいずれか一方の調整を行う。
【0097】
なお、第2実施形態のレーザ加工装置10は、上記第1実施形態のレーザ加工装置10と基本的に同じ構成であるので、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0098】
図16は、第2レーザ光L2を分岐させない「1スポット」の比較例と第2レーザ光L2を2分岐させる「2スポット」の本実施例とにおいて、中抜き加工の加工条件(加工速度V及びオーバーラップ率)と中抜き溝19の底面の加工状態との関係を示した説明図である。図17は、図16に示した加工条件(A~D、A1~D1)ごとの入熱量と中抜き溝19の加工深さとの関係を示したグラフである。図18は、図16に示した加工条件ごとの加工速度Vと中抜き溝19の加工深さとの関係を示したグラフである。
【0099】
なお、加工速度V及びオーバーラップ率以外の加工条件は、繰り返し周波数が50kHzであり、X方向(加工送り方向)の第2レーザ光L2及び分岐光L2aの幅が10μmであり、本実施例の分岐距離Lは100μmである。また、比較例の第2レーザ光L2、本実施例の個々の分岐光L2aのエネルギーは同一である。このため、本実施例と比較例とがストリートCに加えるエネルギーの大きさを比較すると、同一の加工条件(加工速度V及びオーバーラップ率)で本実施例が比較例に対して2倍の大きさになる。
【0100】
図16に示すように、本実施例と比較例とにおいて加工条件ごとの中抜き溝19の加工品質を比較すると、本実施例の加工条件C1,D1では中抜き溝19の底面に金属光沢が見られるので中抜き溝19の加工品質は良好である。また、本実施例の加工条件A1,B1では、中抜き溝19の底面に若干の焦げが発生しているので、中抜き溝19の加工品質は上述の加工条件C1,D1よりも劣る。
【0101】
一方、比較例の加工条件Aでは、中抜き溝19の底面が完全に焦げているので、中抜き溝19の加工品質がNGになる。また、比較例の加工条件B~Dでは、中抜き溝19の加工不足が発生するので、中抜き溝19の加工品質がNGになる。
【0102】
図17及び図18に示すように、本実施例の加工条件D1と比較例の加工条件Bは、ストリートCに対する単位面積当たりの熱投入量は同じになるが、加工条件D1の方が中抜き溝19の加工深さを深くすることができる。さらに加工条件D1は、既述の図16で説明したように中抜き溝19の加工品質が加工条件Bよりも良好である。また、本実施例の加工条件B1と比較例の加工条件Aについても同様である。
【0103】
図16から図18に示したように、本実施例の加工条件A1~D1を比較すると、オーバーラップ率が50%よりも高くなると、中抜き溝19の加工品質の低下が発生する。
【0104】
図19は、中抜き加工(レーザ加工)の好ましいオーバーラップ率を説明するための説明図である。図19の符号XIXA,XIXBに示すように、スポットSP2のオーバーラップ率が50%よりも大きくなると、ストリートC上に3スポット分の分岐光L2aが照射される領域OAが発生する。その結果、既述の図13に示したように蓄熱HS(入熱量)が増加することで中抜き溝19の加工品質が低下したり或いは蓄熱HSが「品質悪化」の閾値を超えたりするおそれがある。
【0105】
従って、上記第1実施形態で説明したようにτ>τ1を満たすように分岐距離L及び加工速度Vを調整する場合には、さらにオーバーラップ率が50%以下になるように加工速度V及び第2レーザ光L2の繰り返し周波数の少なくともいずれか一方を調整することが好ましい。例えば、第2レーザ光L2の繰り返し周波数が50kHzでオーバーラップ率が50%であるとすると、時間閾値τ1はτ1=20μsであるので、τ>20μsを満たすように分岐距離L等の調整を行う。これにより、第1実施形態よりも中抜き溝19の加工品質をより向上させることができる。
【0106】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態のレーザ加工装置10の説明を行う。第3実施形態のレーザ加工装置10は、2条の縁切り溝18のY方向の間隔と、中抜き溝19のY方向の幅と、を調整可能である。なお、第3実施形態のレーザ加工装置10は、後述の第1回転機構44(図20参照)と第2回転機構46(図21参照)とを備える点を除けば、上記各実施形態のレーザ加工装置10と基本的に同じ構成である。このため、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0107】
図20は、第1回転機構44による2条の縁切り溝18のY方向の間隔調整を説明するための説明図である。図20に示すように、第1回転機構44(本発明の第1光形成素子回転機構に相当)は、例えばモータ及び駆動伝達機構により構成されており、制御装置30の制御の下、第1光形成素子32をその光軸を中心とする軸周り方向に回転させる。これにより、ウェーハ12をZ方向上方側から見た場合において、第1集光レンズ38によりストリートC上に集光される2本の第1レーザ光L1のスポットSP1を、第1集光レンズ38の光軸を中心として回転させることができる。その結果、ストリートC上の2個のスポットSP1のY方向の間隔を広げたり或いは狭めたりすることで、2条の縁切り溝18のY方向の間隔を調整可能である。
【0108】
図21は、第2回転機構46による中抜き溝19のY方向の幅調整を説明するための説明図である。図22は、第3実施形態の分岐光L2aごとのスポットSP2の上面図である。
【0109】
図21に示すように、第2回転機構46(本発明の第2光形成素子回転機構に相当)は、第1回転機構44と同様に例えばモータ及び駆動伝達機構により構成されており、制御装置30の制御の下、第2光形成素子34をその光軸を中心とする軸周り方向に回転させる。これにより、図22の符号XXIIA,XXIIBに示すように、ウェーハ12をZ方向上方側から見た場合において、第2集光レンズ40A,40BによりストリートC上に集光される分岐光L2aごとのスポットSP2を、第2集光レンズ40A,40Bの光軸を中心として回転させることができる。
【0110】
ここで分岐光L2aごとのスポットSP2は矩形状、すなわち非円形状である。このため、各スポットSP2を回転させることで、ストリートC上に形成される中抜き溝19のY方向の幅を広げたり或いは狭めたり等の調整が可能となる。なお、各スポットSP2の形状は、非円形状であれば矩形状に限定されるものではない。
【0111】
制御装置30は、オペレータにより不図示の操作部に入力された調整指示に基づき、第1回転機構44及び第2回転機構46をそれぞれ駆動して、第1光形成素子32及び第2光形成素子34をそれぞれ回転させることで、2条の縁切り溝18の間隔及び中抜き溝19の幅を調整する。
【0112】
[第4実施形態]
図23は、第4実施形態のレーザ加工装置10のレーザ光学系24の概略図である。上記各実施形態のレーザ加工装置10は、第1レーザ光源22Aから出射されるレーザ光LAに基づき縁切り加工用の2本の第1レーザ光L1を生成し且つ第2レーザ光源22Bから出射されるレーザ光LBに基づき中抜き加工用の第2レーザ光L2を生成している。これに対して第4実施形態のレーザ加工装置10は、共通のレーザ光源22から出射されるレーザ光L0から2本の第1レーザ光L1と第2レーザ光L2とを生成する。
【0113】
図23に示すように、第4実施形態のレーザ加工装置10は、第1レーザ光源22A及び第2レーザ光源22Bの代わりにレーザ光源22を備え、且つ第1安全シャッタ100A及び第2安全シャッタ100Bの代わりに安全シャッタ100及び分岐素子31を備える点を除けば、上記各実施形態のレーザ加工装置10と基本的に同じ構成である。このため、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0114】
レーザ光源22は、分岐素子31、第1光形成素子32、及び第2光形成素子34と共に本発明のレーザ光出射系を構成する。レーザ光源22は、縁切り加工及び中抜き加工の双方に適した条件(波長、パルス幅、及び繰り返し周波数等)のレーザ光L0(パルスレーザ光等)を常時出射する。レーザ光源22から出射されたレーザ光L0はレーザ光学系24の分岐素子31に入射する。
【0115】
安全シャッタ100は、レーザ光源22と分岐素子31との間のレーザ光L0の光路上に挿脱自在に設けられている。第4実施形態の安全シャッタ駆動機構102は、制御装置30の制御の下、レーザ光L0の光路に対して安全シャッタ100を挿脱させる。安全シャッタ駆動機構102は、レーザ加工時以外では、上述の光路に対して安全シャッタ100を挿入させる。また、安全シャッタ駆動機構102は、レーザ加工時には、上述の光路から安全シャッタ100を退避させる。
【0116】
分岐素子31(本発明の2分岐素子に相当)は、例えばハーフミラー等が用いられたり、或いは分岐素子35と同様に回折光学素子、屈折光学素子、プリズム、及びこれらの組み合わせ等が用いられたりする。分岐素子31は、レーザ光源22から出射されたレーザ光L0を2分岐させて、2分岐したレーザ光L0の一方を第1光形成素子32へ出射し、且つレーザ光L0の他方を第2光形成素子34へ出射する。
【0117】
以下、上記各実施形態と同様に、第1光形成素子32による2本の第1レーザ光L1の形成と、第1集光レンズ38によるストリートC上への2本の第1レーザ光L1の集光と、が行われる。また、第2光形成素子34による第2レーザ光L2の形成と、分岐素子35による各分岐光L2aの生成と、接続切替素子36による第2集光レンズ40A,40Bの切替と、第2集光レンズ40A,40BによるストリートC上への各分岐光L2aの集光と、が行われる。
【0118】
[その他]
上記各実施形態のレーザ加工装置10では、第1集光レンズ38によりストリートC上に集光されるスポットSP1と、第2集光レンズ40AによりストリートC上に集光される各スポットSP2と、第2集光レンズ40BによりストリートC上に集光される各スポットSP2と、が互いに独立している。このため、上記各実施形態のように第1集光レンズ38及び第2集光レンズ40A,40Bの位置が固定されていると、レーザ加工時の加工送り軸(X軸)の運動精度に応じて、2条の縁切り溝18及び中抜き溝19の間に水平方向(Y方向)及び垂直方向(Z方向)にずれが生じるという問題がある。
【0119】
そこで、上記各実施形態のレーザ加工装置10に、第1集光レンズ38によりストリートC上に集光されるスポットSP1と、第2集光レンズ40AによりストリートC上に集光される各スポットSP2と、第2集光レンズ40BによりストリートC上に集光される各スポットSP2と、のY方向及びZ方向の位置を個別調整する機能を設けてもよい。これにより、例えばレーザ加工装置10の製造メーカにおいて各スポットSP1,SP2のY方向位置及びZ方向位置を調整(平行度を調整)することができる。
【0120】
また、ウェーハ12のレーザ加工中において顕微鏡26により撮影された撮影画像に基づき、縁切り加工のスポットSP1をストリートCに対してトレースさせ且つ中抜き加工の各スポットSP2を2条の縁切り溝18の中央に対してトレースさせることができる。さらに、上述の撮影画像に基づき、ウェーハ12(ストリートC)の表面に対するスポットSP1及び各スポットSP2のZ方向のずれ量(集光位置のずれ量)を調整することができる。
【0121】
上記各実施形態では、各安全シャッタ100,100A,100Bを光路上に挿脱させることで縁切り加工及び中抜き加工のオフオンを切り替えているが、第1レーザ光源22A及び第2レーザ光源22B(レーザ光源22)をオンオフさせることで縁切り加工及び中抜き加工のオンオフを切り替えてもよい。また、第1安全シャッタ100Aと第1高速シャッタ47Aとが一体化され、且つ第2安全シャッタ100Bと第2高速シャッタ47Bとが一体化されていてもよい。
【0122】
上記各実施形態では、ストリートCに対して第1集光レンズ38により縁切り加工を行い且つ第2集光レンズ40A,40Bの一方により中抜き加工を行っているが、ストリートCに対して第2集光レンズ40A,40Bの一方により縁切り加工を行い且つ第1集光レンズ38により中抜き加工を行ってもよい。この場合においても、加工送り方向に関係なく常に縁切り加工が中抜き加工よりも先行するように接続切替素子36を制御する。
【0123】
上記各実施形態では、第2集光レンズ40A,40B内で第2レーザ光L2を複数に分岐させると共にτ>τ1を満たすように分岐距離L及び加工速度V(繰り返し周波数)の少なくとも一方を調整した状態で中抜き加工を行っているが、縁切り加工についても同様に行ってもよい。すなわち,第1集光レンズ38内で2本の第1レーザ光L1を複数に分岐させると共にτ>τ1を満たすように分岐距離L及び加工速度Vの少なくとも一方を調整した状態で縁切り加工を行ってもよい。
【0124】
上記各実施形態では、第1集光レンズ38及び第2集光レンズ40A,40Bを用いてレーザ加工を行っているが、2種類の集光レンズ(本発明の第1集光レンズ及び第2集光レンズに相当)を用いてレーザ加工を行ってもよい。この場合には、ウェーハ12に対するレーザ光学系24の相対移動方向に応じて、2種類の集光レンズの一方による縁切り加工及び他方による中抜き加工と、2種類の集光レンズの他方による縁切り加工及び一方による中抜き加工と、を切り替える。
【0125】
上記各実施形態では、ウェーハ12に対してレーザ光学系24をX方向に相対的に1往復させることで2本分のストリートC(往路および復路)のレーザ加工を行っているが、レーザ加工の方向が一方向に固定されているレーザ加工装置10にも本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0126】
10 レーザ加工装置
12 ウェーハ
14 チップ
16 デバイス
18 縁切り溝
19 中抜き溝
20 テーブル
22 レーザ光源
22A 第1レーザ光源
22B 第2レーザ光源
24 レーザ光学系
26 顕微鏡
28 相対移動機構
30 制御装置
31,35 分岐素子
32 第1光形成素子
34 第2光形成素子
36 接続切替素子
38 第1集光レンズ
40A,40B 第2集光レンズ
44 第1回転機構
46 第2回転機構
47A 第1高速シャッタ
47B 第2高速シャッタ
47C 高速シャッタ駆動機構
100 安全シャッタ
100A 第1安全シャッタ
100B 第2安全シャッタ
102 安全シャッタ駆動機構
HS 蓄熱
L 分岐距離
L0 レーザ光
L1 第1レーザ光
L2 第2レーザ光
L2a 分岐光
LA,LB レーザ光
OA 領域
SP1,SP2 スポット
SP2a 先行スポット
SP2b 後行スポット
V 加工速度
X1 往路方向側
X2 復路方向側
d スポット移動量
τ1 時間閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23