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特開2022-71422導電体、その製造方法及びこれを備える基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071422
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】導電体、その製造方法及びこれを備える基板
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20220509BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220509BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20220509BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20220509BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20220509BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20220509BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H01B1/22 Z
H01B13/00 501P
B22F3/11 A
C22C1/04 E
B32B7/025
B32B27/04
B32B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180380
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和樹
(72)【発明者】
【氏名】日下 靖之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真理子
【テーマコード(参考)】
4F100
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB24A
4F100AK33A
4F100AK41A
4F100AK49A
4F100AK50A
4F100AK51A
4F100AK52A
4F100AK53A
4F100AN02A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA21A
4F100CA23A
4F100DE01A
4F100DE02A
4F100DG01A
4F100DJ10A
4F100EJ48A
4F100GB43
4F100HB31A
4F100JB13A
4F100JG01A
4F100JK07A
4F100JK17
4K018AA02
4K018BA01
4K018BB04
4K018BB05
4K018KA22
4K018KA33
5G301DA03
5G301DA04
5G301DA05
5G301DA06
5G301DA10
5G301DA11
5G301DA13
5G301DA18
5G301DA19
5G301DA20
5G301DA22
5G301DA51
5G301DA53
5G301DA55
5G301DA57
5G301DA59
5G301DD10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】十分な導電性を有し、折り曲げといった変形に対して破断しにくい優れた靭性を有する導電体と、その導電体を配線として備える基板を提供する。
【解決手段】空隙部を有する導電性フィラー焼結体と、空隙部の少なくとも一部を充填する充填樹脂とを有する導電体であって、充填樹脂の導電体中における体積分率が30~80体積%であり、導電体の体積抵抗率が700μΩ・cm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙部を有する導電性フィラー焼結体と、前記空隙部の少なくとも一部を充填する充填樹脂とを有する導電体であり、
前記充填樹脂の前記導電体中における体積分率が30~80体積%であり、
前記導電体の体積抵抗率が700μΩ・cm以下である、導電体。
【請求項2】
前記導電性フィラー焼結体の空隙率が、40~80体積%である、請求項1に記載の導電体。
【請求項3】
前記充填樹脂のJIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が、0.1MPa以上である、請求項1又は2に記載の導電体。
【請求項4】
前記充填樹脂が硬化性樹脂を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の導電体。
【請求項5】
前記充填樹脂が、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~4の何れか1項に記載の導電体。
【請求項6】
前記導電性フィラー焼結体における導電性フィラーが金属フィラーを含む、請求項1~5の何れか1項に記載の導電体。
【請求項7】
前記導電性フィラー焼結体における導電性フィラーが銀フィラーを含む、請求項1~6の何れか1項に記載の導電体。
【請求項8】
前記導電性フィラー焼結体における導電性フィラーの焼結前の形状が、球状、不定形状、フレーク状、針状、繊維状及び棒状からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7の何れか1項に記載の導電体。
【請求項9】
前記導電性フィラー焼結体における導電性フィラーが、焼結前の体積平均粒子径が互いに異なる第1の導電性フィラーと第2の導電性フィラーとを少なくとも含む、請求項1~8の何れか1項に記載の導電体。
【請求項10】
前記第1の導電性フィラーの焼結前の体積平均粒子径が1nm以上300nm未満であり、前記第2の導電性フィラーの焼結前の体積平均粒子径が1.0~100μmであり、当該第1の導電性フィラーに対する当該第2の導電性フィラーの重量比(第2の導電性フィラー/第1の導電性フィラー)が2.0~10.0である、請求項1~9の何れか1項に記載の導電体。
【請求項11】
請求項1~10の何れか1項に記載の導電体により形成された配線を備える基板。
【請求項12】
導電性フィラー焼結体の空隙部に充填樹脂を充填する工程を含む、導電体の製造方法。
【請求項13】
前記導電性フィラー焼結体の空隙率が40~80体積%である、請求項12の導電体の製造方法。
【請求項14】
前記充填樹脂が硬化性樹脂を含む、請求項12又は13の導電体の製造方法。
【請求項15】
前記充填樹脂が、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項12~14の何れか1項に記載の導電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電体、その製造方法及びこれを備える基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種機器に動力となる電力と機器制御のための電気信号を伝達する役割を有するワイヤーハーネスが、自動車、電子・電気機器や機械装置等の様々な分野で広く使用されている。
【0003】
これらワイヤーハーネスとしては、従来から、端部に、複数の電線を一度に接続できる多芯コネクタを取り付けた構成のものが多く用いられているが、最近では、軽量化の要請に応じ、電線の使用に替えて、樹脂フィルムに金属箔等を積層して金属配線を設けたフレキシブルフラットケーブル(FFC)や、さらに電気・電子部品を搭載するフレキブル基板(FPC)などへの置き換えが進められている。また、成形品自体が配線パターンを担持するインモールドエレクトロニクスなどへの置き換えも検討されている。しかし、FFCには、軽量化や省スペース化に優れるものの、金属箔等の積層とエッチングによる配線パターンの形成に手間が掛かかる上に、折り曲げて所定のスペースに収納する際に金属配線が破断しやすいという問題があり、インモールドエレクトロニクスには、成形加工の際の変形により、同様に、金属配線が破断しやすいという問題があった。
【0004】
金属配線の破断という問題に対して、例えば、伸縮性樹脂層上に銅箔による配線パターンを波型等に形成した伸縮性配線基板(特許文献1)や、導電性フィラーとポリウレタンエラストマーとを特定の重量割合で含有する伸縮性導体形成用ペーストを乾燥して得られる伸縮性導体(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-075461号公報
【特許文献2】再公表2019-039511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の伸縮性配線基板には、金属配線の破断が起きにくいものの、波型等の特殊な形状で配線パターンを形成しなくてはならず、設計自由度が低いという問題があり、特許文献2の伸縮性導体には、破断しにくいものの、導電性が不十分という問題があった。そのため、特殊な配線パターンによらずとも破断が起きにくく、十分な導電性を有する配線を形成できる導電体が望まれている。
【0007】
従って、本開示の目的は、十分な導電性を有し、折り曲げといった変形に対して破断しにくい優れた靭性を有する導電体と、その導電体を配線として備える基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、空隙部を有する導電性フィラー焼結体と、前記空隙部の少なくとも一部を充填する樹脂とを特定の含有割合で有する導電体において、優れた導電性と、曲げ加工に対して破断しにくい優れた靭性が実現することを見出し、本開示の発明をするに至った。
【0009】
すなわち、本開示は、空隙部を有する導電性フィラー焼結体と、前記空隙部の少なくとも一部を充填する充填樹脂とを有する導電体であり、前記充填樹脂の体積分率が30~80体積%であり、前記導電体の体積抵抗率が700μΩ・cm以下である、導電体を提供する。
【0010】
前記導電性フィラー焼結体の空隙率は、40~80体積%であることが好ましい。
【0011】
前記充填樹脂のJIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率は、0.1MPa以上であることが好ましい。
【0012】
前記充填樹脂は、硬化性樹脂を含むことが好ましい。
【0013】
前記充填樹脂は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0014】
前記導電性フィラー焼結体における導電性フィラーは、金属フィラーを含むことが好ましい。
【0015】
前記導電性フィラー焼結体における導電性フィラーは、銀フィラーを含むことが好ましい。
【0016】
前記導電性フィラー焼結体における導電性フィラーの焼結前の形状は、球状、不定形状、フレーク状、針状、繊維状及び棒状からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0017】
前記導電性フィラー焼結体における導電性フィラーは、焼結前の体積平均粒子径が互いに異なる第1の導電性フィラーと第2の導電性フィラーとを少なくとも含むことが好ましい。
【0018】
前記第1の導電性フィラーの焼結前の体積平均粒子径は1nm以上300nm未満であり、前記第2の導電性フィラーの焼結前の体積平均粒子径は1.0~100μmであり、当該第1の導電性フィラーに対する当該第2の導電性フィラーの重量比(第2の導電性フィラー/第1の導電性フィラー)は2.0~10.0であることが好ましい。
【0019】
本開示は、また、前記導電体により形成された配線を備える基板を提供する。
【0020】
本開示は、また、導電性フィラー焼結体の空隙部に充填樹脂を充填する工程を含む、導電体の製造方法を提供する。
【0021】
前記導電体の製造方法において、前記導電性フィラー焼結体の空隙率は40~80体積%であることが好ましい。
【0022】
前記導電体の製造方法において、前記充填樹脂は、硬化性樹脂を含むことが好ましい。
【0023】
前記導電体の製造方法において、前記充填樹脂は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本開示の導電体は上記構成により十分な導電性と靭性を併せて有するので、本開示の導電体を用いることによって、折り曲げても配線が破断しにくい基板を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[導電体]
本開示の導電体は、空隙部を有する導電性フィラー焼結体と、上記空隙部の少なくとも一部を充填する樹脂とを有し、前記充填樹脂の体積分率が30~80体積%であり、体積抵抗率が700μΩ・cm以下である導電体である。また、本開示の導電体は、体積抵抗率が100μΩ・cm以下の良導電体であることが好ましい。
【0026】
本開示の導電体は、溶媒と微細な導電性フィラーとを含有する導電性組成物を成形し焼成して得た導電性フィラー焼結体について、更に、導電性フィラー焼結体の空隙部の少なくとも一部を、充填樹脂で充填することによって得られる。
【0027】
本開示に用いる導電性フィラー焼結体は、低温焼成であっても溶着するという微細フィラーの性質を利用し、樹脂基板等にダメージを与えることなく十分な導電性を示す配線を容易に形成し得るが、導電性フィラーの表面部分のみが融着した多孔質の構造であり、高剛性であることから、変形時に導電性フィラー間の融着部に生じたクラックに応力集中が起こり易く、クラックを起点として大きな破断が生じ易いという特性を有している。これに対して、本開示の導電体では、上記導電性フィラー焼結体の有する空隙部に充填された樹脂が応力集中を抑制するので、折り曲げによる変形時の破断を抑制できるものと考えられる。
【0028】
本開示の導電体中の樹脂の含有量は、0.5~5.0重量部が好ましく、より好ましくは1.0~4.0重量部、更に好ましくは1.5~3.0重量部である。樹脂の含有量が上記範囲内であると、折り曲げなど変形に対して破断が生じにくくなる。
【0029】
本開示の導電体の体積抵抗率は、配線の形成に十分な導電性という点から、700μΩ・cm以下が好ましく、より好ましくは400μΩ・cm以下、更に好ましくは100μΩ・cm以下、特に好ましくは20μΩ・cm以下、最も好ましくは10μΩ・cm以下である。下限は通常1.6μΩ・cmである。
【0030】
<導電性フィラー焼結体>
上記導電性フィラー焼結体は空隙部を有する多孔質の導電体である。上記導電性フィラー焼結体は、導電性組成物からなる成形体を焼成し、上記導電性フィラーを焼結することによって得ることができる。
【0031】
上記導電性フィラー焼結体の空隙率は、導電体において破断が生じにくくなる量の樹脂を充填できる点から、40~80体積%が好ましく、より好ましくは50~78体積%、更に好ましくは60~75体積%である。上記導電性フィラー焼結体の空隙率は、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
(導電性組成物)
上記導電性組成物は、焼結して上記導電性フィラー焼結体を形成する導電性フィラー及び溶媒を含む。
【0033】
(導電性フィラー)
上記導電性フィラーとしては、上記導電性フィラー焼結体が導電性を有するように焼結するものであればよく、例えば、金属フィラー、炭素フィラー及び金属酸化物フィラー等が挙げられる。中でも、金属フィラーが好ましい。金属フィラーとしては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、スズ、アルミニウム又はこれらの合金などを材質とする金属フィラーが挙げられる。中でも、銅フィラー、銀フィラーが好ましく、銀フィラーがより好ましい。金属フィラーは、単一の金属により形成されていてもよいし、例えばコアシェル構造のように2種以上の金属により形成されていてもよい。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
上記導電性フィラーは、焼結前において、球状、不定形状、フレーク状(扁平状)、針状、繊維状、棒状など、どのような形状であってもよいが、3次元的に溶着、結合して均一に上記空隙率の空隙部を形成し易い点から、球状又は不定形状であることが好ましい。これらの形状については、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
上記導電性フィラーの焼結前における体積平均粒子径(メディアン径、D50)は、1nm~100μmが好ましく、より好ましくは10nm~50μm、更に好ましくは30nm~35μm、特に好ましくは50nm~10μm、最も好ましくは70nm~1μmである。なお、導電性フィラーの体積平均粒子径は、例えば、市販のレーザー式粒度分布計((株)島津製作所製、SALD-7000等)を用いて測定することができる。
【0036】
上記導電性フィラーは、焼結前において、ナノサイズ(好ましくは1nm以上300nm未満、より好ましくは5~100nm、更に好ましくは10~50nm)、サブナノサイズ(好ましくは0.30μm以上1.00μm未満、より好ましくは0.40~0.95μm、更に好ましくは0.50~0.90μm)、又は、マイクロサイズ(好ましくは1.0~100μm、より好ましくは1.0~35μm、更に好ましくは1.1~10μm)など、異なる体積平均粒子径の導電性フィラーについて、2種以上を併用した混合型又はマルチピーク型(例えば、2ピーク型)の粒子径を有する導電性フィラーであってもよい。中でも、マイクロサイズ導電性フィラーの表面に付着したナノサイズ導電性フィラーの融着により焼結が一層強固となり、かつ均一に上記空隙率の空隙部を形成し易い点から、ナノサイズの導電性フィラー1と、マイクロサイズの導電性フィラー2とを、導電性フィラー1に対する導電性フィラー2の重量比(導電性フィラー2/導電性フィラー1)が2.0~10.0(好ましくは2.5~9.5、より好ましくは3.0~9.0)となるように併用することが好ましい。
【0037】
(溶媒)
上記溶媒は、焼成の際に揮発するものであればよく、例えば、アルコール系溶媒(α-テルピネオール、イソプロピルアルコール等)、グリコール系溶媒(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等)、グリセリン系溶媒((ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリンモノアルキルエーテル等)、アセテート系溶媒(酢酸ブチルトールカルビテート等)、炭化水素系溶媒(デカン、ドデカン、テトラデカン等)、アミン系溶媒(ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン等)などを用いることができる。これら溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
(バインダー樹脂)
上記導電性組成物は、塗布、印刷の際に適度な粘度を付与するためにバインダー樹脂を含んでいてもよい。上記導電性組成物が含んでいてもよいバインダー樹脂としては、例えば、ポリ-N-ビニル化合物(ポリ-N-ビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリ-N-ビニルカプロラクタム等)、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)、セルロース及びその誘導体、熱可塑性樹脂(ポリエステル、塩素化ポリオレフィン、ポリアクリル樹脂等)、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)などが挙げられる。
【0039】
上記ペースト中の上記導電性フィラーの含有量(2種以上の導電性フィラーを含有する場合はその合計)は、例えば、70~99重量%が好ましく、より好ましくは75~95重量%、更に好ましくは80~93重量%であり、インクジェット印刷法に適用する場合には、40~80重量%が好ましく、より好ましくは50~75重量%、更に好ましくは60~70重量%である。
【0040】
(導電性フィラー焼結体の製造方法)
上記導電性フィラー焼結体は、上記導電性組成物からなる成形体を焼成し、上記導電性フィラーを焼結させる工程を経て得ることができる。上記成形体は塗膜であってよいし、配線パターンであってもよい。また、上記成形体は、熱プレス等により基材に加工された溝に上記導電性組成物が充填されたものであってもよい。上記成形体は、例えば、上記導電性組成物を基板上に塗布することによって成形することができる。塗布方法としては、公知の印刷方法を用いることができ、例えば、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンス法等が挙げられる。導電性組成物の塗膜(成形体)の厚みは、例えば、焼成後の厚みが1~1000μm(好ましくは10~200μm)となるように、用途に応じて調整することができる。
【0041】
基材の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、環状オレフィンコポリマー(COC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)などが挙げられる。基材の形状は、フィルム状やシート状であることが好ましい。基材の厚みは、例えば、0.01~5mmとすることができる。基材は、得られた導電性フィラー焼結体を剥離して使用するための剥離シートであってもよい。
【0042】
焼成は、例えば、焼成温度100~350℃(好ましくは120~300℃、より好ましくは120~250℃)、焼成時間1~120分間(好ましくは30~60分間)で行うことができる。焼成時の雰囲気は、導電性フィラーの材質、焼結前の形状、焼結前の体積平均粒子径等に応じて調整することができ、例えば、銀など比較的酸化しにくい材質の場合、低酸素雰囲気下や大気中で行うことができ、銅などの比較的酸化し易い材質の場合、不活性ガス(窒素、アルゴン等)または還元(水素、ギ酸等)雰囲気下で行うことができる。
【0043】
<充填樹脂>
本開示に係る充填樹脂は、上記導電性フィラー焼結体の空隙部の少なくとも一部を充填できる樹脂であればよく、硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いることができる。中でも、導電体の破断抑制に十分な含有量の樹脂を充填し易い点から、硬化性樹脂が好ましい。
【0044】
本開示の導電体中の上記充填樹脂の体積分率は、30~80体積%であり、好ましくは40~78体積%、より好ましくは50~75体積%である。樹脂の体積分率が上記範囲内であると、十分な導電性を示しつつ、折り曲げなど変形に対して破断が生じにくくなる。
【0045】
なお、導電性フィラー焼結体中の充填樹脂の体積分率は、例えば、上記導電性フィラー焼結体に充填された上記充填樹脂の重量を比重により換算した体積を、上記導電性フィラー焼結体の見掛け体積で除することによって算出することができる。
【0046】
上記体積分率は、また、導電体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による画像を解析することにより算出することができる。すなわち、導電体を研磨した研磨断面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、所定の視野(例えば125μm×125μm)を所定の倍率(例えば1000倍)について撮像し、得られたSEM画像を解析し、視野内の全ての充填樹脂の占める面積を視野内の導電体の面積(断面積)で除し、100を乗じることによりを得ることができる。
【0047】
上記硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。中でも、取扱いが容易であり、導電体の靭性が優れるものとなる点から、シリコーン樹脂が好ましい。
【0048】
硬化前の上記硬化性樹脂は、溶媒を含む硬化性樹脂溶液として上記空隙部に充填することができる。上記溶媒としては、常圧における沸点が100℃以下の低沸点溶媒が好ましく、例えば、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、エステル系溶媒(酢酸メチル、酢酸エチル等)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフラン)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル、ベンゾニトリル等)、ケトン系溶媒(アセトン等)、水、炭化水素系溶媒(ヘキサン、ヘプタン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム等)などが挙げられる。これら溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0049】
上記熱可塑性樹脂は、例えば、スチレン系樹脂(ポリスチレン等)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、塩化ビニル系樹脂(塩化ビニル樹脂等)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド1212等)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリロニトリルの単独又は共重合体(PAN樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、AES樹脂、AXS樹脂等)、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、熱可塑性エラストマー(オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー等)及びこれらの樹脂の変性品や誘導体、更にはこれらの樹脂を含有するポリマーブレンドやポリマーアロイなどが挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、溶媒を含む熱可塑性樹脂溶液として上記空隙部に充填することができる。上記熱可塑性樹脂溶液に使用する溶媒としては、使用する上記熱可塑性樹脂に応じて、上記硬化性樹脂溶液に用いた溶媒と同様の溶媒を挙げることができる。
【0050】
上記硬化性樹脂溶液又は上記熱可塑性樹脂溶液のレオメーターによる粘度(25℃、せん断速度10s-1)は、上記導電性フィラー焼結体の空隙部に含浸し易い点から、20Pa・s以下が好ましく、より好ましくは10Pa・s以下、更に好ましくは1Pa・s以下である。また上記導電性フィラー焼結体に対する濡れ性が高いほど好ましいことから、上記硬化性樹脂溶液又は上記熱可塑性樹脂溶液の表面張力(25℃)は低いほど好ましい。例えば、40mN/m以下が好ましく、より好ましくは30mN/m以下、更に好ましくは25mN/m以下である。
【0051】
上記充填樹脂は、硬化性樹脂の場合、上記硬化性樹脂溶液を上記導電性フィラー焼結体に含浸させてから硬化させることによって、上記導電性フィラーの空隙部の少なくとも一部に充填される。硬化の方法としては、例えば、加熱、活性エネルギー線(紫外線、電子線等)の照射、酸素を含む雰囲気下への暴露等が挙げられる。
【0052】
硬化の条件は、上記硬化性樹脂の種類に応じて適宜調整することができるが、シリコーン樹脂を用いる場合には、例えば、ランプ出力80~300W/cm程度の照射源を用い、50~1000KeVの範囲の加速電圧、2~5Mradの照射量とする電子線に暴露させて硬化させることができる。
【0053】
上記充填樹脂のJIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率は、導電体の破断を抑制し易い点から、0.1MPa以上であることが好まく、より好ましくは1.0MPa以上、更に好ましくは3.0MPa以上である。
【0054】
<導電体の製造方法>
本開示の導電体は、上記導電性フィラー焼結体の空隙部に、上記充填樹脂の溶液を含浸させて溶媒を蒸散させ、硬化性樹脂の場合は更に樹脂を硬化させ、上記充填樹脂を充填することによって製造することができる。
【0055】
上記導電性フィラー焼結体への上記充填樹脂の含浸は、上記導電性フィラー焼結体に上記充填樹脂溶液を塗布することによって行うことができる。塗布方法としては、公知の塗布方法を用いることができ、例えば、ドロップキャスト法、ブレード法、エッジキャスト法、吹付け法、刷毛塗り法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンス法等が挙げられる。
【0056】
塗布、含浸は、空隙部中の気体による抵抗を低下させるために、上記充填樹脂溶液中の揮発分が蒸散しない範囲で、高温及び/又は減圧条件下において行うことが好ましい。高温とは40~120℃(好ましくは60~100℃)である。上記硬化性樹脂溶液又は上記熱可塑性樹脂溶液の、その温度範囲におけるレオメーターによる粘度(せん断速度10s-1)は、20Pa・s以下が好ましく、より好ましくは10Pa・s以下、更に好ましくは1Pa・s以下である。また、上記充填樹脂の液中拡散を利用するために、予め上記空隙部を充填樹脂の良溶媒で充填した後に上記充填樹脂溶液を塗布することが好ましい。上記良溶媒は、使用する上記充填樹脂に応じて、上記充填樹脂溶液に用いた溶媒と同様の溶媒を用いることができる。
【0057】
本開示の導電体は、高い導電性及び優れた靭性をバランスよく備えるため、FFC等やインモールドエレクトロニクスなどの基板において、配線を構成する材料として好適に用いることができる。
【0058】
[基板]
本開示の基板は、上記導電体を配線として備える。上記基板は、所定のスペースに収納する際やプレス加工等の成形加工の際に配線が破断しにくいので、FFC等やインモールドエレクトロニクスについて好適に用いることができる。また、本開示の基板は、可撓性基板であることが好ましい。
【0059】
以上、本開示の各構成及びそれらの組合せ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換及び変更が可能である。また、本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例0060】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0061】
実施例、比較例で用いた銀インク、銀フィラー及びシリコーンゴムは、以下の通りである。
【0062】
・銀ナノインク:銀フィラー1(体積平均粒子径35nm、球状)を50重量%で含有、商品名「Picosil」、(株)ダイセル製
・銀フィラー2a:体積平均粒子径1.2μm、球状、商品名「SL01」、三井金属鉱業(株)製
・銀フィラー2b:体積平均粒子径5μm、球状、商品名「SL03」、三井金属鉱業(株)製
・シリコーンゴム:付加反応型シリコーンゴム(JIS K7171に準拠して測定した曲げ弾性率3.0MPa、レオメーターによる粘度(25℃、せん断速度10s-1)4.1Pa・s、表面張力21mN/m)、商品名「KE106」、信越化学工業(株)製
【0063】
以下に、実施例及び比較例に係る導電体の調製、導電性(抵抗値)の評価方法について説明する。
【0064】
(調製例1)
銀ナノインクと銀フィラー2aとを、重量比(銀ナノインク:銀フィラー2a=1:4)で、フーバーマラー(H3型、(株)東洋精機製作所製)を用いて混合することによって、銀ナノフィラーの合計含有量が90重量%である銀ナノインクAを調製した。銀フィラー1に対する銀フィラー2aの重量比(銀フィラー2a/銀フィラー1)は8.0である。
【0065】
(調製例2)
銀ナノインクと銀フィラー2bとを、重量比(銀ナノインク:銀フィラー2b=1:4)で、フーバーマラー(H3型、(株)東洋精機製作所製)を用いて混合することによって、銀フィラーの合計含有量が90重量%である銀ナノインクBを調製した。銀フィラー1に対する銀フィラー2bの重量比(銀フィラー2b/銀フィラー1)は8.0である。
【0066】
(参考例1)
基材(ポリカーボネートフィルム、パンライト、帝人(株)製)上に、銀ナノインクAをバーコートを用いて塗布し、120℃で30分間乾燥した後、150℃で60分間かけて焼成して銀フィラー焼結体層とポリカーボネートフィルムとの積層体を得た。積層体を5mm×20mmの短冊片にカットして導電性評価用サンプルを調製し、センス端子間距離を10mmとした4端子抵抗測定により銀フィラー焼結体層の抵抗値を測定した。銀フィラー焼結体層の厚み測定は、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮像することによって行った。また、銀ナノインクAから得た銀フィラー焼結体の空隙率は40体積%であった。結果を表1に示した。なお、空隙率の測定は以下の方法により行った。
【0067】
(銀フィラー焼結体の空隙率の測定方法)
直径6mm(面積をaとする)、深さ0.14mmの円孔を有するガラス基材の円孔内に、銀ナノインクAをブレード法によって充填し、焼成することによって銀フィラー焼結体層を形成してから、焼成後の基材全体の重量(Wb)を測定した。比重ρ(0.915g/cm3)で濡れ性が高いシリコーンオイル(KF96L-5cs、信越化学工業(株)製)を銀フィラー焼結体層に含侵させ、表層付着分を除去してから、含浸後の基材全体の重量(Wc)を測定した。銀フィラー焼結体層の厚み(t)は、SEM観察により測定した。また、銀フィラー焼結体層断面のSEM観察により、シリコーンオイルが空隙部を完全に充填し、銀フィラー焼結体層中のシリコーンオイルの体積分率と、銀フィラー焼結体層の空隙率とが等しいことを確認した。以上から、銀フィラー焼結体層の見掛け体積(V1=a×t)と、銀フィラー焼結体層中のシリコーンオイルの体積分率すなわち銀フィラー焼結体層の空隙部の体積(V2=(Wc―Wb)/ρ)とから、銀フィラー焼結体層の空隙率(V2/V1)を算出した。
【0068】
(参考例2)
銀ナノインクBを用いた以外は参考例1と同様にして導電性評価用サンプルを調製した。抵抗値及び厚みについて結果を表1に示した。空隙率は75体積%であった。
【0069】
(実施例1)
基材(ポリカーボネートフィルム、パンライト、帝人(株)製)上に、銀ナノインクAをバーコートを用いて塗布し、120℃で30分間加温した後、150℃で60分間かけて焼成し、銀フィラー焼結体層とポリカーボネートフィルムとの積層体を得た。積層体の銀フィラー焼結体層に、25℃において、エタノールを塗布して含浸させた後、エタノールが揮発する前にシリコーンゴムを塗布して液中拡散により含浸させた、70℃で30分間加温した後、150℃で60分間かけてシリコーンゴムを硬化させて導電体層とした。抵抗値及び厚みの測定は参考例1と同様にして行った。銀フィラー焼結体層断面のSEMを用いて観察したところ、銀フィラー焼結体層の空隙部はシリコーンゴムで完全に充填されており、導電体中のシリコーンゴムの体積分率は、銀フィラー焼結体層の空隙率と等しかった。
【0070】
(実施例2)
エタノールにより希釈したシリコーンゴム50重量%溶液(希釈シリコーンゴム、レオメーターによる粘度(25℃、せん断速度10s-1)0.4Pa・s、表面張力22mN/m)を用いた以外は、実施例1と同様にして、抵抗値、厚み及びシリコーンゴム含有量を測定した。実施例1と同様、導電体中のシリコーンゴムの体積分率は、銀フィラー焼結体層の空隙率と等しかった。
【0071】
(実施例3)
基材(ポリカーボネートフィルム、パンライト、帝人(株)製)上に、評価用の銀インクAをバーコートを用いて塗布し、120℃で30分間乾燥した後、150℃で60分間かけて焼成し、銀フィラー焼結体とポリカーボネートフィルムとの積層体を得た。積層体を80℃に設定したホットプレート状に載置して加温した状態でシリコーンゴムを塗布して含侵させた後、150℃で60分間かけてシリコーンゴムを硬化した。抵抗値、厚み及びシリコーンゴム含有量の測定は実施例1と同様にして行った。実施例1と同様、導電体中のシリコーンゴムの体積分率は、銀フィラー焼結体層の空隙率と等しかった。レオメーターによる粘度(80℃、せん断速度10s-1)は1.4Pa・sであった。
【0072】
(実施例4~6)
銀インクBを用いた以外は実施例1~3と同様にして、抵抗値、厚み及びシリコーンゴム含有量を測定した。実施例1と同様、導電体中のシリコーンゴムの体積分率は、銀フィラー焼結体層の空隙率と等しかった。
【0073】
(比較例1)
基材(ポリカーボネートフィルム、パンライト、帝人(株)製)上に、銀ナノインクAをバーコートを用いて塗布し、120℃で30分間加温した後、150℃で60分間かけて焼成し、銀フィラー焼結体層とポリカーボネートフィルムとの積層体を得た。積層体の銀フィラー焼結体層に、エタノールにより希釈したシリコーンゴム50重量%溶液(希釈シリコーンゴム、レオメーターによる粘度(25℃、せん断速度10s-1)0.4Pa・s、表面張力22mN/m)を25℃において塗布して含侵させた後、150℃で60分間かけてシリコーンゴムを硬化させた。抵抗値及び厚みの測定は実施例1と同様にして行った。銀フィラー焼結体層断面のSEMを用いて観察したところ、銀フィラー焼結体層の空隙部はシリコーンゴムで完全には充填されていなかった。SEM画像の解析から算出された焼結体中のシリコーンゴムの体積分率は5体積%未満であった。
【0074】
(比較例2)
銀インクBを用いた以外は比較例1と同様にして、抵抗値、厚み及びシリコーンゴム含有量を測定した。
【0075】
(比較例3)
銀ナノインクと銀フィラー1とを重量比(銀ナノインク:銀フィラー1=1:4)で配合し、更に、銀ナノインクと銀フィラー1の合計9重量部に対してシリコーンゴム1重量部を配合して、フーバーマラー(H3型、(株)東洋精機製作所製)を用いて混合することによって、銀フィラーの合計含有量が81重量%、銀フィラー1に対する銀フィラー2の重量比(銀フィラー2/銀フィラー1)が8.0、シリコーンゴムの含有量が10重量%である評価用の銀インクCを調製した。
【0076】
基材(ポリカーボネートフィルム、パンライト、帝人(株)製)上に、銀インクCをバーコートを用いて塗布し、120℃で30分間乾燥した後、150℃で60分間かけて焼成するとともにシリコーンゴムを硬化し、銀フィラー焼結体とポリカーボネートフィルムとの積層体を得た。抵抗値の測定は実施例1と同様にして行った。シリコーンゴムの体積分率は、上記配合量から計算して55体積%であった。なお、実施例1と同様、銀フィラー焼結体層の空隙はシリコーンゴムで完全に充填されており、銀フィラー焼結体層の空隙率と導電体中のシリコーンゴムの体積分率は等しかった。
【0077】
実施例1~6の導電体の体積抵抗率は、何れも、比較例3よりも小さく、参考例1、2と同程度であって、優れた導電性を示すことが分かった。比較例1、2では、導電性は高いものの、シリコーンゴムの体積分率が十分でなかった。
【0078】
【表1】
【0079】
(実施例7)
ポリカーボネートフィルム(パンライト、帝人(株)製)に、深さ150μm、幅50μm、長さ10mmの溝を設け、その溝に、銀インクAをグラビア方式により充填した。120℃で30分間加温した後、150℃で60分間焼成し、溝中に銀フィラー焼結体を形成した。次に、実施例1と同様の方法で、溝中の銀フィラー焼結体にシリコーンゴムを充填した。すなわち、溝中の銀フィラー焼結体にエタノールを含侵させた後、エタノールが揮発する前に、シリコーンゴムを塗布した。70℃で30分間加温した後、150℃で60分間加熱しシリコーンゴムを硬化することによって、溝中に導電体を形成した。得られた導電体の焼結体の空隙部は、実施例1と同様に、シリコーンゴムで完全に充填されていた。さらに、溝中導電体(シリコーンゴムを完全に充填)を有するポリカーボネートフィルムを200℃に加温した金型を用いて曲げ半径0.5mm、曲げ角度40度で曲げることによって、導電体に対する折り曲げ加工を行った。折り曲がった部分について、体積抵抗率を評価した。結果を表2に示した。
【0080】
(比較例4)
実施例7と同様にして形成した溝中の銀フィラー焼結体(シリコーンゴムを充填せず)に対して、実施例7と同様にして折り曲げ加工を行い、折り曲がった部分について体積抵抗率を評価した。結果を表2に示した。
【0081】
(比較例5)
実施例7と同様にして形成した溝中の銀フィラー焼結体について、エタノールにより希釈したシリコーンゴム50重量%溶液(希釈シリコーンゴム、レオメーターによる粘度(25℃、せん断速度10s-1)0.4Pa・s、表面張力22mN/m)を塗布、含侵させた後、150℃で60分間かけてシリコーンゴムを硬化させることによって、溝中に、比較例1と同様のシリコーンゴムの体積分率(5体積%未満)を有する焼結体を形成した。実施例7と同様にして、焼結体(シリコーンゴムの体積分率が5体積%未満)に対して折り曲げ加工を行い、折り曲がった部分について体積抵抗率を評価した。結果を表2に示した。
【0082】
実施例7では、折り曲げ加工の後でも小さな体積抵抗率を示し、比較例4、5では電気は導通しなかった。本開示の導電体は、空隙部に樹脂を充填しない焼結体、及び充填樹脂の体積分率の十分でない焼結体よりも優れた靭性を有することが分かった。
【0083】
【表2】