(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071773
(43)【公開日】2022-05-16
(54)【発明の名称】血管新生を惹起することができる免疫隔離デバイス
(51)【国際特許分類】
A61L 27/40 20060101AFI20220509BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20220509BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20220509BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20220509BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
A61L27/40
A61L27/16
A61L27/38
A61L27/56
A61L27/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020180921
(22)【出願日】2020-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 悟朗
(72)【発明者】
【氏名】川越 雅子
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081AC16
4C081BB06
4C081CA051
4C081CB011
4C081CC01
4C081CD34
4C081CE02
4C081DA05
4C081DB03
4C081DB07
4C081DC01
(57)【要約】
【課題】移植細胞の生着を妨げることなく、生体適合性に優れた構成素材を用いて、免疫隔離性を維持しつつ、特殊な成長因子や薬剤などを使用することなく、デバイス最外層の周囲に血管新生を促す。
【解決手段】被移植物の包埋室を備え、前記包埋室は複層免疫隔離膜で覆われてなり、前記複層免疫隔離膜の最外層が不織布層であって、最外層表面の平均毛羽長が1~1000μmである、免疫隔離デバイス。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被移植物の包埋室を備え、前記包埋室は複層免疫隔離膜で覆われてなり、前記複層免疫隔離膜の最外層が不織布層であって、最外層表面の平均毛羽長が1~1000μmである、免疫隔離デバイス。
【請求項2】
前記複層免疫隔離膜が、最外層の不織布層とともに、多孔質膜層およびハイドロゲル層からなる群から選ばれる少なくとも1種の層を含む、請求項1に記載の免疫隔離デバイス。
【請求項3】
最外層表面の毛羽により、免疫隔離デバイスの周囲の血管新生を促進することができる、請求項1又は2に記載の免疫隔離デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生を惹起することができる免疫隔離デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫抑制剤の投与の必要なく、細胞移植治療を行う手段として、免疫隔離デバイスが開発されている。特にがん化リスクなどが懸念されるiPS細胞由来の体性細胞移植や、移植細胞の機能低下などの際に、移植部位を特定でき、デバイスを交換できるという点において、マクロカプセル化免疫隔離デバイスは有効な方法とされている。
【0003】
マクロカプセル化免疫隔離デバイスとして必要な機能としては、細胞または細胞塊を均一に会合させることなく分散固定できること、移植細胞への酸素や栄養成分を容易に透過させうること、治療効果として必要な細胞が放出する目的とする生理活性物質(サイトカイン、ホルモン、成長因子など)を細胞応答に応じて容易に放出させうること、且つ免疫応答細胞や免疫応答因子を透過させないこと、及び移植されたデバイスが生体適合性に優れ、周囲組織との癒着や肉芽などの炎症反応を惹起しにくいことが重要である。
【0004】
一方で、レシピエントの移植手術による侵襲を低減させ、万が一癌化や異常が発生した際や、移植細胞が壊死して再移植が必要となる場合を想定すると、移植方法としては、皮下移植が適切であると言える。しかしながら、皮下組織は血管に乏しく、移植細胞への酸素や栄養素の供給および、移植細胞からの生理活性物質の体内への吸収を考慮すると、必ずしも適切とは言えない。
【0005】
以上から、移植部位の周囲における血管新生を促進させ、移植細胞にとって必要な血流を近傍に確保することは非常に重要である。これまでに、bFGF等の血管新生因子をハイドロゲル等に含浸放出させることで、事前に皮下組織に血管新生を促進させる手法などが研究されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マクロカプセル化免疫隔離デバイスを用いた細胞移植において、レシピエントへの移植手術による侵襲、移植デバイス交換などを考慮すると、移植部位としては皮下が望ましい。しかしながら皮下組織は、血流が乏しく、移植細胞への酸素や栄養素の供給、および移植細胞からの生理活性物質の放出拡散を鑑みると、移植部位としては適切とは言えない。これまで皮下組織における血管新生手技として、bFGF等の成長因子の放出による事前処置により、血流を確保させることで、移植細胞の生着を促進させる研究等が多く検討されているが、効果の持続性を考慮するとコスト面において大いに課題がある。
【0007】
本発明は、移植細胞の生着を妨げることなく、生体適合性に優れた構成素材を用いて、免疫隔離性を維持しつつ、特殊な成長因子や薬剤などを使用することなく、デバイス最外層の周囲に血管新生を促すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の免疫隔離デバイスを提供するものである。
〔1〕 被移植物の包埋室を備え、前記包埋室は複層免疫隔離膜で覆われてなり、前記複層免疫隔離膜の最外層が不織布層であって、最外層表面の平均毛羽長が1~1000μmである、免疫隔離デバイス。
〔2〕 前記複層免疫隔離膜が、最外層の不織布層とともに、多孔質膜層およびハイドロゲル層からなる群から選ばれる少なくとも1種の層を含む、〔1〕に記載の免疫隔離デバイス。
〔3〕 最外層表面の毛羽により、免疫隔離デバイスの周囲の血管新生を促進することができる、〔1〕又は〔2〕に記載の免疫隔離デバイス。
【発明の効果】
【0009】
皮下移植などの血管が乏しい移植部位においても、特殊な成長因子や薬剤などを使用することなく、血管新生を促進させることが可能であり、加えて癒着などにてデバイスの取り出しが困難になること、デバイスが破損すること、免疫隔離効果を維持しつつ移植に必要な生理活性物質の拡散効率向上に適したデバイス厚みを最小限に制御することが困難なことを解決することができる。
【0010】
デバイスの最外層を不織布とし、且つ不織布表面に適切な毛羽立ちを設けることにより、血管新生を促進させることが可能となる。血管新生促進効果とデバイスの癒着防止は不織布表面の構造および、不織布素材により適切な状態に調整することが可能である。例えば生体適合性に優れた素材であるエチレンビニルアルコール共重合体を素材とし、不織布表面の毛羽立ち具合を、メルトブロー条件や後加工処理することにより調整することで、血管新生を促進しつつ、線維性組織などによるデバイスの癒着を防止することが可能となる。
【0011】
あるいは、移植前処置として、毛羽立ちが多く、血管新生効果が高い不織布を最外層としたデバイスを移植しておき、血管新生促進後、毛羽立ちを無くした表面加工を施した、移植細胞を包埋した不織布を最外層とするデバイスに交換することで、長期生着を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】不織布層(外層)と多孔質膜(内層)の2層構造の免疫隔離膜の断面図
【
図4】不織布層(外層)とハイドロゲル層(内層)を複層化した免疫隔離膜の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、細胞移植治療などに使用する移植用デバイスに関するものであり、特に移植による移植片の免疫拒絶反応から防御するための免疫隔離デバイスに関するものである。本発明のデバイスは、周囲の血管新生を惹起できるので、デバイス内部の被移植物に血管から酸素及び栄養成分を供給できるとともに、被移植物から放出されるインシュリン、成長因子、サイトカインなどの生理活性物質をデバイス周囲の血管から全身に供給することができる。
【0014】
不織布は、繊維を熱、機械的または化学的な作用によって接着または絡み合わせたもので、繊維径や量により、目付け(単位面積当たりの重量)を調整させることにより、強度に加えて、透過性やろ過性を制御することが可能である。
図3は、外層である不織布と多孔質膜と不織布とを、熱、機械的または化学的な作用によって接着固定させ複層化させた概念図を示す。
図4は、外層である不織布と多孔質膜と不織布とを、熱、機械的または化学的な作用によって接着固定して複層化させた概念図を示す。
【0015】
不織布の厚みは、移植片からの生理活性物質の物質拡散効率を考慮すると、100μm以下の可能な限り薄厚が望ましいが、不織布複層化の主目的は、多孔質膜を含む隔離層の耐久性向上であることを十分に考慮する必要がある。
【0016】
また、不織布の繊維材料としては、多孔質膜と同様に、生体適合性に優れた素材が望ましいが、最外層が不織布となることから、不織布の繊維素材も生体適合性に優れた素材が望ましい。
【0017】
移植部位として、外科的侵襲が少ない皮下移植を選択する場合は、移植細胞への酸素や栄養の供給および、細胞等からの生理活性物質の放出拡散において、デバイス近傍の血流の確保は非常に重要な要素である。しかしながら、皮下組織は血管に乏しく、血流の確保という観点からは移植部位としては適切であるとは言えない。そこで、皮下組織での移植デバイス周囲に血管新生を誘導させる必要がある。血管新生誘導の方法としては、bFGFやHGFなどの増殖因子を事前に投与する、またはデバイスに含浸させ放出させる方法が報告されている。
【0018】
本発明は、デバイス最外層に不織布を設け、且つ不織布表面の平均毛羽長を1μmから1,000μmに制御することで、ホスト側移植部位を物理的刺激することにより、炎症性サイトカインの遊走を促し、血管新生を促進させうる発明である。血管新生を促進効果としては、平均毛羽長は10~100μmが望ましい。毛羽長が長すぎると炎症反応を強く惹起し、周囲に肉芽組織が形成され、毛羽長が短すぎると血管新生が十分に惹起されない。デバイスの表面は、全体的に毛羽立ちがあってもよいが、表面の一部の毛羽立ち部分で血管新生を惹起し、その他の部分は、毛羽立ちを抑制してもよい。
【0019】
不織布最外層の毛羽具合を制御する方法として、メルトブロー条件(温度、圧力など)の調整に加えて、後加工であるエンボスやカレンダー処理、またはスパンレース(水流絡合)の条件調整や、物理的表面摩擦処理により制御することが可能である。
【0020】
不織布の材質としては、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン、フィブロネクチン、デキストラン、セルロース、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-ポリグリコール酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリカプロラクトン、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、ポリメリレンカーボネート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、カルボキシメチルセルロース、フィブロイン、絹などが挙げられ、ポリビニルアルコールが好ましい。不織布層は、1種の不織布層から構成されてもよく、2種以上の不織布を積層して1つの不織布層としてもよい。また、2種以上の材料から1つの不織布層を形成してもよい。
【0021】
不織布層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは500μm以下、より好ましくは10μm~100μmである。
【0022】
本発明の免疫隔離膜は、外表面が不織布層で構成され、不織布層からなる単層の免疫隔離膜であってもよく、多孔質膜層およびハイドロゲル層からなる群から選ばれる少なくとも1種の層を含み、多孔質膜とハイドロゲルが一体化した層であってもよい。好ましいハイドロゲルは、ハイドロゾルをゲル化して製造することができる。ハイドロゲルは、免疫隔離膜の他に、被移植物とともに包埋室に充填し、被移植物を物理的に保護し、免疫隔離膜を通って侵入した免疫応答細胞から被移植物を保護してもよい。
【0023】
「ハイドロゲル」を製造するためのハイドロゾルとしては、例えば、金属イオンの存在下でゲル化してハイドロゲルを形成するゾル、温度に応答してゲル化してハイドロゲルを形成するゾル、pHに応答してゲル化してハイドロゲルを形成するゾル、光に応答してハイドロゲルを形成するゾル、ソルビトールでゾル化するMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーなどが挙げられる。金属イオンとpHは、化学的な作用の例示である。これらのハイドロゾルをゲル化するためには、用いたゲルの特性に応じて、金属イオンを接触させる、温度をゲル化条件に調整する、pHをゲル化条件に調整する、ゲル化条件の光を照射する、ゲル化条件の磁場を与えるなどの操作を行えばよい。
【0024】
金属イオンの存在下でゲル化するハイドロゲルとしては、二価又は三価の金属イオン、好ましくはカルシウムイオン、マグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンの存在下でゲル化するアルギン酸ゲル、カルシウムイオンやカリウムイオンの存在下でゲル化するカラギーナンゲル、ナトリウムイオンの存在下でゲル化するアクリル酸系合成ゲル等が挙げられる。
【0025】
温度応答性ハイドロゲルとしては、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)をポリエチレングリコールで架橋した温度応答性ハイドロゲル(市販名:メビオールゲル)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、乳酸とエチレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコールとポリプロピレンオキシドのトリブロック共重合体(市販名:プルロニック、ポロキサマー)、アガロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0026】
pH応答性ハイドロゲルとしては、アルギン酸ゲル、キトサンゲル、カルボキシメチルセルロースゲル、アクリル酸系合成ゲル等が挙げられる。
【0027】
光応答性ハイドロゲルとしては、骨格にアゾベンゼンとシクロデキストリンを組み合わせた合成ゲル、フマル酸アミドをスペーサーとした超分子からなるゲル、ニトロベンジル基を介して架橋又は結合されているゲル等が挙げられる。
【0028】
ハイドロゲル層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは5μm~200μm、より好ましくは5μm~50μmである。
【0029】
ハイドロゲル層は、1種のハイドロゲル層から構成されてもよく、2種以上のハイドロゲル層を積層して1つのハイドロゲル層としてもよい。
【0030】
ハイドロゲルは、架橋によりグルコースなどの栄養物質、インシュリンなどの生理活性物質、免疫系液性因子などの透過率、強度などを調節することができる。
【0031】
「多孔質膜」は、複数の孔を有する膜であり、多孔質膜であることは、膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像または透過型電子顕微鏡(TEM)画像で確認することができる。
【0032】
多孔質膜の厚みは、特に限定されないが、好ましくは200μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0033】
多孔質膜の平均孔径は、特に限定されないが、好ましくは0.001μm~10μm、より好ましくは0.01μm~3μmである。
【0034】
多孔質膜の最大孔径は、特に限定されないが、好ましくは0.01μm~10μm、より好ましくは0.01μm~3μmである。最大孔径が上記の範囲内であれば、免疫応答細胞の包埋室への侵入を抑制し、かつ、アミノ酸、ビタミン、無機塩およびグルコースなどの炭素源等の栄養物質、酸素、二酸化炭素、サイトカイン、ホルモン、インシュリンなどの生理活性物質を十分に透過させることができる。
【0035】
多孔質膜はポリマーを含み、実質的にポリマーから構成されていることが好ましい。多孔質膜を形成するポリマーは生体適合性であることが好ましい。
【0036】
ポリマーの例としては、熱可塑性または熱硬化性のポリマーが挙げられる。ポリマーは、生体適合性であってもよい。ポリマーの具体的な例としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリスルホン、酢酸セルロース等のセルロースアシレート、ニトロセルロース、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマーのケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、オルガノシロキサン-ポリカーボネートコポリマー、ポリエステルカーボネート、オルガノポリシロキサン、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、強度、弾性等の観点から、ホモポリマーであってもよく、コポリマーやポリマーブレンド、ポリマーアロイであってもよい。多孔質膜を構成するポリマーは、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の親水性ポリマーを含んでいてもよい。親水性ポリマーと疎水性ポリマーを組み合わせることで生体適合性を向上させることができる。
【0037】
当該免疫隔離デバイスは、主として再生医療等製品として細胞移植治療に用いられることを想定している。
【0038】
図1または
図2に示すとおり、デバイス概念図としては、袋状または管状の形状からなり、デバイス内部に、細胞や細胞塊などの移植目的となる移植片を細胞固定層として包埋する。細胞固定層は、細胞や細胞塊などの移植片が固定層内部の固定材料に均一に分散固定されたものを示す。固定材料としては、アルギン酸や、キトサン、ポリビニルアルコールなどのハイドロゲルや、不織布、織物、メッシュの他、コラーゲン、ゼラチン、プロテオグリカンなどから構成される細胞外マトリックスなどの3次元構造体が考えられる。
【0039】
細胞固定層は、ハイドロゲルなどの固定材料の調整により、細胞を均一固定させる他に、抗体などの免疫系液性因子の移植片への侵入を防止させる役割を付与することも可能である。
【0040】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。
【0041】
デバイス概略図としては、袋状(
図1)または管状(
図2)に成形したものを示す。袋状デバイス(
図1)は下記に示す複層免疫隔離膜(a1およびa2)を、被移植物を包埋する空間を確保するために、一定距離(a4)を隔てて、スペーサーや熱、超音波、高周波、電子線などにて溶着(a3)させることにより成形されている。
【0042】
管状デバイス(
図2)は、管状に成形された各々の隔離層(b1, b2, b3)にて構成され、管状内部(b4)に細胞固定層を包埋させ、管状の両端を熱、超音波、高周波、電子線などにて溶着封止させることにより成形されている。
【0043】
全ての図において、最外層は、移植部位に接し、最内層は、包埋室又は被移植物に接する。
【0044】
図3は、不織布(2)を外層とし、多孔質膜(1)を内層とする2層構造を有し、最外層(3)が被移植部位に接し、最内層(4)が被移植物に接する。
【0045】
図4は、不織布(5)とハイドロゲル(6)の複層化を示す。ハイドロゲル(6)は、不織布(5)に含浸固定され、最外層表面(7)は、不織布(5)にて構成され、最内層表面(8)はハイドロゲル(6)にて構成される。
【0046】
多孔質膜は、レシピエントからの細胞の浸潤を抑制するとともに、移植片である細胞のリークを防止させうる機能を有する必要性から、平均細孔径は細胞径より小さな5μm以下が望ましい。また膜素材として、レシピエントの移植周辺組織との癒着や炎症を惹起させにくい、生体適合性に優れた材料が望ましく、例えばエチレンビニルアルコール共重合体や、セルロースなどが望ましい。
【0047】
膜厚は、移植片からの生理活性物質の物質拡散効率を考慮すると、100μm以下の可能な限り薄膜であることが望ましい。
【0048】
不織布単層では、細胞浸潤と細胞リークのみならず、必要な生理活性物質の透過性を抑制することなく、且つIgG抗体の様な免疫系液性因子を浸潤抑制することは容易では無い。そこで、不織布に含浸固定させたハイドロゲルのゲル強度あるいは架橋密度を調整することにより、生理活性物質の透過性を抑制することなく、細胞浸潤と細胞リークに加えて、IgG抗体の様な免疫系液性因子を浸潤抑制することが可能となる。ハイドロゲルの例としては、ポリビニルアルコール系高分子や、キトサン、アルギン酸塩などが挙げられる。
【0049】
不織布を基材とし、ハイドロゾル溶液を直接多孔質膜へ塗布し、熱、温度、光または化学的な作用によって、ハイドロゲル化させることにより複層化される。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1
1)複層化デバイスの作製
エチレンビニルアルコール共重合体を用いた高分子相分離反応にて製膜した多孔質膜と、同じくエチレンビニルアルコール共重合体を用いてメルトブロー法にて作製した不織布との複層化を実施した。
【0051】
複層化には、不織布の多孔質膜との接合部位をジメチルスルホキシド溶液10ppmにて30秒間40℃、加圧下にて処理したものに、多孔質膜を重ね、不織布側から100kPaの圧力で15秒間加圧して圧着させた。
【0052】
上記熱圧着(エンボス加工)の温度を30℃から60℃、圧力を50から300kPaにすることにより、50~100μmの厚みをもった複層膜を作製した。
また、最外層の不織布表面は、10~500μmの繊維毛羽長(平均毛羽長150μm)を確認できた。
【0053】
試作には、100μm厚の多孔質膜と、200μm厚の不織布を用いた。各々の引張強度は多孔質膜が0.1MPa、不織布が10MPa であった。
【0054】
当該複層化により、引張強度は多孔質膜単層の0.1MPaから10MPaに向上した。
【0055】
2)機能性試験
2-1)VITRO血管内皮細胞増殖因子(VEGF)誘導
ガンマ線滅菌済みの複層化デバイスの不織布最外層aおよび多孔質膜最外層bの双方を足場材料として35mmシャーレの底部に設置した。15% fetal bovine serum、100 U/ml penicillin、100 μl/ml streptomycin を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM) (Sigma)を用い、37℃、 5% CO2の条件下で、ヒト線維芽細胞 NHDFと、HUVEC血管内皮細胞をそれぞれ、104cells/ml、当該シャーレに播種し、共培養にて接触培養させた場合の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の放出量をELISA法にて測定した。
【0056】
その結果、Day5でのVEGFの放出量は、b:0.25pg/μg proteinに対し、a:0.68 pg/μg protein とaにて有意に、VEGFの放出を確認した。
【0057】
2-2)ガンマ線滅菌済みの複層化デバイスの不織布最外層aおよび多孔質膜最外層bの双方を足場材料として35mmシャーレの底部に設置した。15% fetal bovine serum、100 U/ml penicillin、100 μl/ml streptomycin を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM) (Sigma)を用い、37℃、 5% CO2の条件下で、DMEM培地に調整した104cells/mlのヒト血管内皮細胞HUVECを播種し、複層化デバイスと接触培養を行い、経日的に培養液中の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の放出量をELISA法にて測定した。その結果、Day5でのVEGFの放出量は、b:0.25pg/μg proteinに対し、a:0.68 pg/μg protein とaにて有意に、VEGFの放出を確認した。
【0058】
2-3)VIVO移植試験
Balb/cマウスの皮下に、1*2cm大に調整した、複層化デバイスの不織布最外層a(毛羽長約30-80μm)および多孔質膜最外層bを移植し、移植後1、2週間後に、皮下を切開し、デバイス周囲の肉眼的所見を観察した(n=3)。また、新生血管を評価するvon Willebrand factor(vWF)による免疫組織化学染色を実施した。その結果、未処置群、多孔質膜最外層デバイス移植群と比較し、不織布最外層デバイス移植群は、有意に血管新生の所見が確認された。