(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022071985
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】IGF-1の産生を促進するビフィドバクテリウム属に属するビフィズス菌。
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220510BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220510BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181150
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上原 和也
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】谷井 勇介
(72)【発明者】
【氏名】伊木 明美
(72)【発明者】
【氏名】森 綾香
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
4B018MD87
4B018ME05
4B065AA21X
4B065BA22
4B065CA24
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】本発明は、IGF-1の産生を促進し、飲食品に好適に利用できる乳児腸内由来のビフィズス菌及び当該ビフィズス菌を含有する飲食品を提供することを目的とする。
【解決手段】IGF-1の産生を促進するビフィドバクテリウム・ブレーベ N140株(NITE BP-03232)を提供する。また、当該ビフィズス菌を含有する飲食品を提供する。これにより、骨芽細胞の増殖・分化を誘導し、骨形成を促進することができるので、丈夫な骨の形成及び維持が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGF-1の産生を促進するビフィドバクテリウム属に属するビフィズス菌。
【請求項2】
前記ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ブレーベN140株(NITE BP-03232)である、請求項1に記載のビフィズス菌。
【請求項3】
請求項1または2に記載のビフィズス菌を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGF-1の産生を促進する乳児腸内由来のビフィズス菌の菌株及びその菌体を含有する飲料、食品に関するものである。特に、ビフィドバクテリウム・ブレーベに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体を構成する骨は約200個以上あり、体重の約15~18%を占めることが知られている。また、骨は様々な役割を担っており、例えば、体の支持、運動の起点、脳や内臓などの保護、血液の生成、ミネラルの貯蔵等が挙げられる。
【0003】
胎児から成人に至るまで,骨では絶え間なく骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収が繰り返されている。骨形成と骨吸収の繰り返しを骨代謝(骨のリモデリング)といい、通常、骨代謝のバランスは一定に維持されている。しかし、骨代謝に影響を及ぼすホルモンが不足したり、骨形成に必要な細胞などに異常が起こったりすると、骨代謝のバランスが崩れ、骨粗鬆症などの疾病を発症する。
【0004】
骨代謝には種々の細胞群の分化や活性調節が複雑に関わっており、関与すると考えられる局所因子も多数存在することが明らかとなりつつある。このうち、インスリン様成長因子1(Insulin-like growth factor 1: IGF-1)は骨芽細胞の増殖・分化を誘導し、骨形成を促進するのに重要な因子であると考えられている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、IGF-1は骨芽細胞からのアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase:ALP)の分泌を促進すること(非特許文献2参照)や、分泌されたALPが骨の石灰化に関与していることも明らかとなっている(特許文献1参照)。そのため、間接的にではあるが、IGF-1は骨芽細胞の増殖・分化を誘導するだけでなく、骨の石灰化にも関与しているものと考えられている。
【0006】
さらに、IGF-1は骨以外の人体の殆どの細胞、特に筋肉、肝臓、腎臓、神経、皮膚及び肺の細胞に対しても影響を与えることが知られている。例えば、IGF-1が皮膚の細胞に働きかけることで、コラーゲンなどの生成が促される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「骨代謝とインスリン様成長因子」 Nippon Nogeikagaku Kaishi Vol.72 No.2 pp170~174, 1998
【非特許文献2】「老化生物学 老いと寿命のメカニズム」304~305頁 ロジャーB.マクドナルド著 株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル発行
【0009】
このように、IGF-1は人体にとって非常に重要な役割を果す成長因子である。一方で、IGF-1の分泌レベルは、10~20代をピークに減少に転じる。そのため、年齢が上がるほど血中IGF-1濃度が低下する。また、IGF-1の分泌レベルが生来低い人も存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安全に摂取できるIGF-1の産生を促進するビフィズス菌、及びそれを含有する飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
今回、本発明者らは、食事によってIGF-1の産生を促進することができないか検討を行った。その結果、乳児糞便を分離源としたビフィズス菌の中にIGF-1の産生を促進するビフィズス菌が存在することを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記課題解決のため、本発明は、IGF-1の産生を促進するビフィドバクテリウム属に属するビフィズス菌であることを特徴とする。
【0013】
また、上記課題解決のため、本発明は、上記ビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーベN140株(NITE BP-03232)であることを特徴とするビフィズス菌である。
【0014】
さらに、上記課題解決のため、本発明は上記ビフィズス菌を含有する飲食品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のビフィズス菌は、IGF-1の産生を促進する。これにより、骨芽細胞の増殖・分化を誘導し、骨形成を促進することができるので、丈夫な骨の形成及び維持が可能となる。また、ビフィズス菌の摂取により腸内環境を整えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明の菌株と比較菌株のIGF-1発現量を比較した図である。
【
図2】
図2は本発明の菌株と比較菌株のALP活性を比較した図である。
【
図3】
図3は本発明の菌株と比較菌株の石灰化判定するための吸光度を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ビフィドバクテリウム・ブレーベN140株(NITE BP-03232)
本発明のビフィズス菌はビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)である。本発明におけるN140の記号は、日清食品ホールディングス株式会社で独自に菌株に付与した番号である。本発明の菌株は、乳児糞便より本発明者によって初めて分離されたものである。
【0018】
本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベ N140株は、下記の条件で寄託されている。
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2)連絡先:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室
(3)受託番号:NITE BP-03232
(4)識別のための表示:N140
(5)寄託日:2020年6月18日
【0019】
本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN140株の菌学的性質は、以下の表1及び表2に示す通りである。本菌学的性質は、Bergey’s manual of systematic bacteriology Vol.2(1986)に記載の方法による。表1は本菌株に関する形状などを、表2は生化学試験、発酵試験の結果を示す。表2において、「+」が陽性、「-」は陰性を示す。
【0020】
【0021】
【0022】
2.IGF-1産生促進能及び骨形成促進能試験
本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN140株は、後述する実験例に示すように、高いIGF-1産生及び骨形成促進能を有する。IGF-1産生促進能の確認については以下の試験方法によって行った。
【0023】
<菌体の調製>
IGF-1産生能及び骨形成促進能評価に用いた被検体(ビフィズス菌サンプル)は、ビフィズス菌を表3に示すGAM培地(ニッスイ株式会社)で37℃ ・24時間培養した。次に、増殖した菌体を遠心分離して集菌した。集菌した菌体を滅菌水にて3回洗浄し、加熱殺菌後、凍結した。その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥し、乾燥菌体粉末を得た。得られた乾燥菌体粉末をPBSに懸濁したものをビフィズス菌サンプルとした。
【0024】
【0025】
<IGF-1産生能評価試験>
IGF-1産生能を評価するために、in vitro試験を行った。試験には骨由来U-2 OS細胞を用いた。まず、10%の非働化FBS (Invitrogen社)とPenicillin-Streptomycin (Invitrogen社)を加えたMcCoy's 5A Medium(w/ Glutamine, NaHCO3)を用いて、U-2 OS細胞を37℃、5% CO2の条件下で培養した。そして、24well plateに、6.0×105 cells/wellとなるようにU-2 OS細胞を播種した。その後、上記の培養条件下で24時間培養した。培養後、上記で得たビフィズス菌サンプルをPBS(PBS(-) pH7.4 Gibco社)で懸濁したものを終濃度50 μg/mLとなるように添加し、37℃、5% CO2の条件下で24時間培養した。培養後培地を回収し、Human IGF-I/IGF-1 DuoSet ELISA (R&D Systems社)を用いて培養上清中のIGF-1を測定した。
【0026】
3.骨形成促進能評価試験
<ALP活性評価>
本発明に係る乳酸菌N140株の副次的効果を確認するため、骨形成促進能を評価した。骨形成促進能を評価するために、in vitro試験を行った。評価試験は、骨芽細胞の標識酵素であるALPの活性を測定して判断した。試験には、ヒト骨芽細胞:Human Osteoblasts (PromoCell社:以下、「骨芽細胞」という。)を用いた。培養した骨芽細胞を96well plateに4×103 cells/wellとなるように播種(Osteoblast Growth Medium (Ready-to-use)タカラバイオ株式会社)し、37℃、5% CO2の条件下で24時間培養した。続いて、新しいOsteoblast Growth Mediumと共にビフィズス菌サンプルを終濃度 5 μg/mLとなるように添加し、さらに72時間培養した。その後、ALP assay kit(タカラバイオ株式会社)を用いてALP活性を測定した。
【0027】
<石灰化促進能評価>
次に、骨芽細胞を用いて石灰化促進能の評価を行った。培養した骨芽細胞を 48well plateに4.0×104 cells/wellとなるように播種(Osteoblast Growth Medium (Ready-to-use)タカラバイオ株式会社)し、37℃、5% CO2条件下で72時間培養した。続いて、Osteoblast Growth Mediumを骨芽細胞石灰化培地(Osteoblast Mineralization Mediumタカラバイオ株式会社)に置換し、ビフィズス菌サンプルを10 μg/wellで添加した。さらに、2日~3日ごとに、ビフィズス菌サンプルを添加した新鮮な骨芽細胞石灰化培地に置換した。骨芽細胞石灰化培地に置換してから19日後、培地を除去し、骨芽細胞の石灰化について石灰化評価キット(株式会社PGリサーチ)を用いて測定した。
【0028】
4.飲食品
本発明のビフィズス菌は飲食品に含有せしめて使用することができる。本発明のビフィズス菌は特に乳製品に好適に用いることができるが、例えば、ビフィズス菌入り発酵乳及びビフィズス菌入り乳酸菌飲料が考えられる。現行の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令では、成分規格として乳酸菌数は特に規定はされていないが、発酵乳(無脂乳固形分8.0%以上のもの)や乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%以上のもの)であれば1.0×107 cfu/mL以上、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%未満のもの)であれば1.0×106 cfu/mL以上が好ましく、乳などの発酵液中で増殖させたり、最終製品の形態で増殖させたりすることによって上記の菌数を実現することができる。また、ビフィズス菌入り発酵乳及びビフィズス菌入り乳酸菌飲料以外にも、バター等の乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子パン類等にも利用することができる。また、即席麺やクッキー等の加工食品にも好適に利用することができる。上記の他、本発明の食品は、前記ビフィズス菌と共に、必要に応じて適当な担体及び添加剤を添加して製剤化された形態(例えば、粉末、顆粒、カプセル、錠剤等)であってもよい。
【0029】
本発明のビフィズス菌は、一般の飲料や食品以外にも特定保健用食品、栄養補助食品等に含有させることも有用である。
【0030】
また、本発明のビフィズス菌は、食品以外にも化粧水等の化粧品分野、整腸剤等の医薬品分野、歯磨き粉等の日用品分野、サイレージ、動物用餌、植物液体肥料等の動物飼料・植物肥料分野においても応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム・ブレーベN140株)は、IGF-1の産生促進能を有する。
【実施例0032】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
<試験1>IGF-1産生促進能評価
本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN140株と、自社保有のビフィズス菌、乳酸菌についてIGF-1産生促進能を評価した。
【0034】
まず、本発明の菌株、基準株、及び比較菌株のそれぞれについて、表3に示すGAM培地(ニッスイ株式会社)で37℃、5% CO2の条件下で24時間培養した。次に、増殖した菌体を遠心分離して集菌した。集菌した菌体を滅菌水にて3回洗浄し、加熱殺菌後、凍結した。その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥し、乾燥菌体粉末を得た。得られた乾燥菌体粉末をPBSに懸濁したものをビフィズス菌サンプルとした。なお、基準株には、ビフィドバクテリウム・ブレーベの基準株及びラクトバチルス・ファーメンタムの基準株を用いた。
【0035】
次に、24well plateに6.0×10
5 cells/wellとなるようにU-2 OS細胞を播種して24時間培養した。次に、各ビフィズス菌サンプルを終濃度が50 μg/mLとなるように添加し、37℃、5%CO
2の条件下で24時間培養した。24時間培養後に培養上清を回収し、Human IGF-I/IGF-1 DuoSet ELISAを用いて培養上清中のIGF-1の測定を行った。自社保有の20株について試験を行った。試験の結果を
図1に示す。結果は培地1 mL当りのIGF-1の産生量で比較した。なお、ビフィズス菌サンプルを添加しないものをcontrol、IGF-1産生促進能を有する薬剤β‐Estradiol(Sigma-Aldrich社)を添加したものをpositive controlとした。
【0036】
図1に示すように、最もIGF-1の産生量が多いのはpositive controlのβ‐Estradiolであった。次に高い値を示したのが、ビフィドバクテリウム・ブレーベN140,N154及びラクトバチルス・ファーメンタムN218株であった。これらの3株は、positive controlよりは低いが、いずれも100 pg以上と高い値を示した。したがって、ビフィドバクテリウム・ブレーベN140,N154及びラクトバチルス・ファーメンタムN218株は高いIGF-1 生産促進能があることが明らかになった。
【0037】
<試験2>ALP活性評価
次に、IGF-1産生促進能が高った上位3株の副次的効果を確認するため、ALPの活性測定を行った。まず培養した骨芽細胞 を96well plateに4.0×10
3 cells/wellとなるように播種(Osteoblast Growth Medium (Ready-to-use)タカラバイオ株式会社)し、37℃、5% CO
2の条件下で24時間培養した。続いて、新しいOsteoblast Growth Mediumと共にビフィズス菌サンプルを終濃度5 μg/mLとなるように添加し、さらに72時間培養した。その後、ALP assay kitを用いてALP活性を測定した。結果を
図2に示す。なお、ビフィズス菌サンプルを添加しないものをcontrolとし、結果はcontrolを『100%』として、比較した。
【0038】
図2からも明らかなように、ビフィドバクテリウム・ブレーベ N140株はcontrolに比べて約1.5倍の活性が認められた。一方、N154及びN218 はcontrolよりも活性は高かったものの、基準株と比較すると活性は低いか、もしくは同程度であった。したがって、本発明にかかるビフィドバクテリウム・ブレーベ N140株はIGF-1産生促進能だけでなくALP活性も高いことが明らかになった
【0039】
<試験3>石灰化促進の評価
さらに副次的効果を確認するため、石灰化促進能評価も行った。骨芽細胞を48well plateに4.0×10
4 cells/wellとなるように播種(Osteoblast Growth Medium (Ready-to-use)タカラバイオ株式会社)し、37℃、5% CO
2条件下で72時間培養した。続いて、Osteoblast Growth Mediumを骨芽細胞石灰化培地(Osteoblast Mineralization Medium タカラバイオ株式会社)に置換し、ビフィズス菌サンプルを10 μg/wellで添加した。2日~3日ごとに、ビフィズス菌サンプルを添加した新鮮な骨芽細胞石灰化培地に置換した。骨芽細胞石灰化培地に置換してから19日後、培地を除去し、細胞の石灰化について石灰化評価キットを用いて測定した。なお、ビフィズス菌サンプルを添加せずにOsteoblast Growth Mediumのまま培養したものをnegative controlとし、ビフィズス菌サンプルを添加せずに骨芽細胞石灰化培地で培養したものをcontrolとした。結果を
図3に示す。
【0040】
石灰化が促進されているか否かは吸光度を測定して判定した。吸光度の値が高ければ、石灰化が促進されていることとなる。
図3から明らかなように、ビフィドバクテリウム・ブレーベN140,N154及びラクトバチルス・ファーメンタムN218のいずれも、controlよりも吸光度の値が高いことがわかる。すなわち、石灰化が促進されていることがわかる。特に、ビフィドバクテリウム・ブレーベN140は他のビフィズス菌よりも吸光度が高く、controlに比べて1.6倍以上の値であった。したがって、本発明にかかるビフィドバクテリウム・ブレーベN140株はIGF-1産生促進能およびALP活性に加えて石灰化の促進能もあることが明らかになった。
【0041】
以上説明したように、本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN140株はIGF-1の産生を効果的に促進する機能を有していることが明らかとなった。