IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特開2022-72333テトラフルオロエチレン系ポリマーの組成物、該組成物を含む液状組成物、積層体およびフィルム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072333
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】テトラフルオロエチレン系ポリマーの組成物、該組成物を含む液状組成物、積層体およびフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20220510BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220510BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20220510BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20220510BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20220510BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20220510BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20220510BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220510BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K3/013
C08K3/28
C08K7/04
C08K7/18
C08K9/06
C08K9/04
B32B27/18 Z
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181699
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】小川 修平
(72)【発明者】
【氏名】室谷 英介
(72)【発明者】
【氏名】中西 智亮
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA13A
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AK18A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100CA23A
4F100DE01A
4F100DE03A
4F100DE04A
4F100EH46A
4F100EJ42A
4F100EJ86A
4F100GB41
4F100JA02
4F100JA04A
4F100JG05
4F100JJ01
4F100YY00A
4J002BD151
4J002DA017
4J002DA077
4J002DA087
4J002DA117
4J002DE077
4J002DE097
4J002DE117
4J002DE127
4J002DE147
4J002DE157
4J002DF016
4J002DF017
4J002DK007
4J002FA066
4J002FA087
4J002FB086
4J002FB096
4J002FB166
4J002FD017
4J002FD206
4J002GB00
4J002GF00
4J002GG02
4J002GH01
4J002GJ02
4J002GM00
4J002GM01
4J002GM04
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002HA08
(57)【要約】
【課題】熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子および窒化アルミニウムのウィスカーを含有し、所定の割合で含有し、熱伝導性および電気特性に優れた成形物を形成できる、成形性に優れた組成物の提供。該組成物と液状分散媒とを有する、分散安定性に優れた液状組成物の提供。
【解決手段】
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、窒化アルミニウムのウィスカーを含み、テトラフルオロエチレン系ポリマーの100質量部に対して、窒化アルミニウムの0.1から60質量部を含む組成物、および該組成物と液状分散媒を含有する液状組成物。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、窒化アルミニウムのウィスカーとを含み、テトラフルオロエチレン系ポリマーの100質量部に対して、窒化アルミニウムの0.1から60質量部を含む組成物。
【請求項2】
前記熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーが、260から320℃の溶融温度を有し、全単位に対して、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1から5モル%含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーが、主鎖炭素数1×10個あたり、10個以上5000個以下のカルボニル基含有基を有するポリマーである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記窒化アルミニウムのウィスカーが、カルボキシル基含有脂肪族炭化水素、シランカップリング剤、アルミネート系カップリング剤およびチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤で表面処理されている請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記表面処理剤が前記カルボキシル基含有脂肪族炭化水素である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記窒化アルミニウムのウィスカーのアスペクト比が、100以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
さらに窒化アルムニウムのウィスカー以外の無機フィラーを含有する請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記無機フィラーが球状である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物と液状分散媒とを含有する液状組成物。
【請求項10】
前記液状分散媒が、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項9に記載の液状組成物。
【請求項11】
粘度が10から10000mPa・sである請求項9または10に記載の液状組成物。
【請求項12】
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーを含むポリマー層と基材とを含む積層体。
【請求項13】
請求項9から11のいずれか1項に記載の液状組成物を基材の表面に接触させ、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項14】
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーを含むフィルム。
【請求項15】
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーとを溶融混練して組成物を得、得られた組成物を押出成形してフィルムを得るフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと窒化アルミニウムのウィスカーを含む組成物および該組成物を含む液状組成物に関する。また本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーを含む層と基材を含む積層体、テトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーを含むフィルムに関する。さらに本発明は該積層体およびフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、電気絶縁性、撥水撥油性、耐薬品性、耐熱性等の物性に優れており、レジスト、接着剤、電気絶縁層、潤滑剤、インク、塗料等を形成するための材料として有用である。特にテトラフルオロエチレン系ポリマーとウィスカーを含む材料は、放熱性に優れた高周波用途の電子部品材料として、注目されている。
特許文献1には、電気特性、寸法安定性特性、機械特性向上のため、テトラフルオロエチレン系ポリマーと他の熱可塑性樹脂と金属化合物のウィスカーを含む粉体組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-143921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらウィスカーは成形性や分散性が低く、また、テトラフルオロエチレン系ポリマーはフィラー等の他の成分との親和性が低い。そのため、テトラフルオロエチレン系ポリマーとウィスカーを含む組成物は、成形性や分散安定性が充分では無かった。その結果、かかる組成物から形成される成形物は、テトラフルオロエチレン系ポリマーが本来有する物性が低下しやすかった。さらに特許文献1に記載の組成物においては、テトラフルオロエチレン系ポリマー以外に熱可塑性樹脂を必須としている。その結果、テトラフルオロエチレン系ポリマーが本来有する物性がさらに低下しやすい。
【0005】
本発明者らは窒化アルミニウムのウィスカーに着目し、無機フィラーとの親和性が低いテトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーとの親和性の改良を検討し、熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーとの親和性が良好であること、特に両者を所定の割合で含めば、両者の物性が高度に発現する成形物が得られることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、窒化アルミニウムのウィスカーとを含み、テトラフルオロエチレン系ポリマーの100質量部に対して、窒化アルミニウムの0.1から60質量部を含む組成物。
[2]
前記熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーが、260から320℃の溶融温度を有し、全単位に対して、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1から5モル%含む前記[1]に記載の組成物。
[3]
前記熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーが、主鎖炭素数1×10個あたり、10個以上5000個以下のカルボニル基含有基を有するポリマーである前記[1]または[2]に記載の組成物。
[4]
前記窒化アルムニウムのウィスカーが、カルボキシル基含有脂肪族炭化水素、シランカップリング剤、アルミネート系カップリング剤およびチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤で表面処理されている前記[1]から[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]
前記表面処理剤が前記カルボキシル基含有脂肪族炭化水素である前記[4]に記載の組成物。
[6]
前記窒化アルミニウムのウィスカーのアスペクト比が、100以下である[1]から[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]
さらに窒化アルムニウムのウィスカー以外の無機フィラーを含有する前記[1]から[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
前記無機フィラーが球状である前記[7]に記載の組成物。
[9]
前記[1]か[8]のいずれかに記載の組成物と液状分散媒とを含有する液状組成物。
[10]
前記液状分散媒が、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[9]に記載の液状組成物。
[11]
粘度が10から10000mPa・sである前記[9]または[10]に記載の液状組成。
[12]
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーを含むポリマー層と基材とを含む積層体。
[13]
前記[9]から[11]のいずれかに記載の液状組成物を基材の表面に接触させ、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
[14]
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーを含むフィルム。
[15]
熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーとを溶融混練して組成物を得、得られた組成物を押出成形してフィルムを得るフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子および窒化アルミニウムのウィスカーを所定の割合で含有し、熱伝導性および電気特性に優れた成形物を形成でき、成形性にも優れた組成物が提供される。また、該組成物と液状分散媒とを有する、分散安定性に優れた液状組成物が提供される。
さらに本発明によれば、熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子および窒化アルミニウムのウィスカーの両者を含み各種物性に優れたポリマー層と基材を含む積層体、または両者を含み各種物性に優れたフィルム、およびそれらの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマー」とは、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとも記す)に基づく単位(以下、TFE単位とも記す)を含むポリマーであり、荷重49Nの条件下、ポリマーの溶融温度よりも20℃以上高い温度において、溶融流れ速度が0.1から1000g/10分となる温度が存在する溶融流動性のポリマーを意味する。
「ポリマーのガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
「粒子または無機フィラーのD50」は、対象物の平均粒子径であり、レーザー回折・散乱法によって求められる粒子の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒子の粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「粒子または無機フィラーのD90」は、対象物の累積体積粒径であり、「D50」と同様にして求められる粒子の体積基準累積90%径である。
「液状組成物の粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で分液状組成物について測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「液状組成物のチキソ比」とは、液状組成物を回転数が30rpmの条件で測定して求められる粘度ηを回転数が60rpmの条件で測定して求められる粘度ηで除して算出される値(η/η)である。
「モノマーに基づく単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
「液状組成物の分散層率」とは、18mLの液状組成物を内容積30mLのスクリュー管に入れ、25℃にて14日静置した際、静置前後の、スクリュー管中の分散液全体の高さと分散層の高さとから、以下の式により算出される値である。なお、静置後に分散層が確認されず、状態に変化がない場合には、分散液全体の高さに変化がないとして、分散層率は100%とする。分散層率が大きいほど分散安定性に優れる。
分散層率(%)=(分散層の高さ)/(分散液全体の高さ)×100
【0009】
本発明の組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「本粒子」とも記す。)と、窒化アルミニウムのウィスカーを含み、Fポリマーの100質量部に対して、窒化アルミニウムを0.1から60質量部含む。
また本発明の液状組成物(以下、「本液状組成物」とも記す。)は前記本組成物と液状分散媒を含む。
【0010】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは剛直性に富むポリマーであり、表面エネルギーが低く、そのパウダー同士は凝集しやすいうえ、無機物との親和性に劣る。したがって加工性と分散安定性に優れた組成物および液状組成物を得ることは困難であった。しかしながら本組成物および本液状組成物に用いられるテトラフルオロエチレン系ポリマーは熱溶融性であるため、物理的な応力(剪断応力等)の影響を受け難く、窒化アルミニウムのウィスカーとも相互作用しやすいと考えられる。さらに、Fポリマーと窒化アルミニウムのウィスカーとを所定の割合で含む本組成物は、Fポリマーおよび窒化アルミニウムのウィスカーのそれぞれが凝集し難く、それから得られる成形物中で窒化アルミニウムのウィスカーが均一に分散しやすくなると考えられる。その結果、本組成物と本液状組成物は加工性と分散安定性に優れると考えられる。
【0011】
Fポリマーのフッ素含有量は、70から76質量%であるのが好ましく、74から76質量%であるのがより好ましい。かかるフッ素含有量が高いFポリマーは、Fポリマーの電気物性等の物性に優れる反面、極性が低いため、窒化アルミニウムのウィスカーとの親和性も低い。しかしながら本組成物および本液状組成物で用いられるFポリマーは熱溶融性であるためFポリマーの物性が損なわれず、分散性に優れた組成物および液状組成物が得られる。
【0012】
Fポリマーの溶融温度は、260℃以上320℃以下が好ましく、285℃以上320℃以下がより好ましい。
Fポリマーのガラス転移点は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、125℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0013】
Fポリマーとしては、TFE単位とエチレンに基づく単位を含むポリマー、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)に基づく単位(以下、「PAVE単位」とも記す。)を含むポリマー(以下、「PFA」とも記す。)、TFE単位とフルオロアルキルエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とクロロトリフルオロエチレンに基づく単位とを含むポリマーまたはTFEとヘキサフルオロプロピレンに基づく単位を含むポリマー(以下、FEP」とも記す)が好ましく、PFAまたはFEPがより好ましく、PFAがさらに好ましい。これらのポリマーには、さらに他のコモノマーに基づく単位が含まれていてもよい。
PAVEとしては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCFまたはCF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0014】
Fポリマーは、極性官能基を有するのが好ましい。
極性官能基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基およびホスホノ基含有基が好ましく、本粒子の分散性等の物性が高まりやすい観点から、水酸基含有基およびカルボニル基含有基がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。
Fポリマーがカルボニル基含有基を有する場合、Fポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、主鎖炭素数1×10個あたり、10個以上5000個以下が好ましく、50個以上4000個以下がより好ましく、100個以上2000個以下がさらに好ましい。この場合、Fポリマーが窒化アルミニウムのウィスカーと相互作用しやすく、本組成物が加工性や分散安定性に優れやすい。なお、Fポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、ポリマーの組成又は国際公開2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0015】
水酸基含有基としては、アルコール性水酸基含有基が好ましく、-CFCHOH、-C(CFOHおよび1,2-グリコール基(-CH(OH)CHOH)がより好ましい。
カルボニル基含有基としては、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)およびカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0016】
Fポリマーとしては、溶融温度が260から320℃であり、PAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1から5モル%含むポリマーが好ましく、PAVE単位を含み、極性官能基を有するポリマー(1)、または、PAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を2から5モル%含み、極性官能基を有さないポリマー(2)がより好ましい。これらのポリマーを含有する本組成物は、成形物に加工した時、成形物中に微小球晶を形成するため、得られる成形物の特性が向上しやすい。
【0017】
ポリマー(1)が有する極性官能基は、ポリマーが含有する単位に含まれていてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するポリマーや、プラズマ処理、電離線処理や放射線処理によって調製された、極性官能基を有するポリマーが挙げられる。
Fポリマーがポリマー(1)であれば、本粒子において、ポリマー(1)と窒化アルミニウムのウィスカーの親和性が高く、本組成物が加工性や分散安定性に優れやすい。
【0018】
ポリマー(1)は、全単位に対して、TFE単位を93から98.99モル%、PAVE単位を1から5モル%および極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01から2モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸および5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0019】
ポリマー(2)は、TFE単位およびPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95から98モル%、PAVE単位を2から5モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×10個あたりに対して、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
【0020】
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、重合開始剤に由来する極性官能基をポリマー鎖の末端基に有するポリマー等の極性官能基を有するポリマーをフッ素化処理して製造してもよい。
フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0021】
本粒子は、Fポリマーを含有する粒子であり、粒子中のFポリマーの量は、80質量%以上であるのが好ましく、100質量%であるのがより好ましい。
本粒子のD50は、20μm以下であるのが好ましく、8μm以下であるのがより好ましく、5μm以下であるのがさらに好ましい。本粒子のD50は、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、1μm以上であるのがさらに好ましい。また、本粒子のD90は、10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのがより好ましい。本粒子のD50およびD90が、かかる範囲にあれば、その表面積が大きくなり、本粒子の分散性が一層改良されやすい。
【0022】
本粒子は、Fポリマーと異なる他の樹脂または無機物を含有してもよい。
他の樹脂の例としては、芳香族ポリマーが挙げられる。芳香族ポリマーは、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、スチレンエラストマーのような芳香族エラストマー、芳香族ポリアミック酸が挙げられる。
無機物の例としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金およびカーボンが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、窒化ホウ素およびステアナイトまたはメタ珪酸マグネシウムが挙げられ、シリカおよび窒化ホウ素が好ましく、シリカがさらに好ましい。
無機物を含む本粒子は、Fポリマーをコアとし、無機物をシェルに有するコアシェル構造を有するか、Fポリマーをシェルとし、無機物をコアに有するコアシェル構造を有するのが好ましい。かかる本粒子は、例えば、Fポリマーの粒子と、無機物の粒子とを衝突または凝集等により合着させて得られる。
【0023】
本組成物に含まれる窒化アルミニウムのウィスカー(以下、「本ウィスカー」とも記す。)は、窒化アルミニウムの針状または繊維状の結晶であり、単結晶が好ましい。本ウィスカーのアスペクト比は、本組成物から形成される成形物の熱伝導性を向上する観点から大きい方が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。また本ウィスカーのアスペクト比は通常、500以下であり、本組成物の加工性と分散安定性の観点から100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。
本組成物の加工性と分散安定性の観点から、本ウィスカー中に含まれる、アスペクト比が10以上20以下であるウィスカーの割合(個数比)は、60%以上が好ましく、80%以上が好ましい。前記ウィスカーの割合(個数比)の上限は100%である。
本ウィスカーの長さは1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また本ウィスカーの長さは5cm以下が好ましく、1cm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。本ウィスカーの直径は0.1μm以上が好ましく、10μm以下が好ましい。
【0024】
前記本ウィスカーは針状または繊維状であるが、本組成物に用いる場合、粉砕した粉砕ウィスカーを用いてもよい。粉砕ウィスカーの場合、その長さは10から100μmが好ましい。
【0025】
前記本ウィスカーはその表面が表面処理剤で表面処理されているのが好ましい。表面処理によりFポリマーとの親和性がより改良される。本ウィスカーの表面は酸化や加水分解によって電気特性が低下することがあるため、その表面を表面処理することで電気特性の低下を抑制することができる。
表面処理剤はカルボキシル基含有脂肪族炭化水素、シランカップリング剤、アルミネート系カップリング剤およびチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤が好ましい。これら表面処理剤は1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0026】
カルボキシル基含有脂肪族炭化水素の例としては、12-アミノドデカン酸、ドデカン2酸、ペンタデカン2酸、オクタデカン2酸、オレイン酸等が挙げられる。
【0027】
シランカップリング剤の例としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0028】
アルミネート系カップリング剤の例としては、アセトアルコキシアルミニウムジアセテートが挙げられる。
チタネート系カップリング剤の例としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネートが挙げられる。
これら表面処理剤の中でもカルボキシル基含有脂肪族炭化水素が好ましく、12-アミノドデカン酸、ドデカン2酸、ペンタデカン2酸、オクタデカン2酸、オレイン酸がより好ましい。
【0029】
本ウィスカーを前記表面処理剤で処理する方法は、例えば、表面処理剤を適切な溶媒に溶解し、そこへ本ウィスカーを添加し、一定時間撹拌した後、表面処理された本ウィスカーを取り出し、乾燥する方法が挙げられる。
本ウィスカーは表面に酸化被膜を有していてもよい。この場合、本ウィスカーの表面が加水分解され難く、本組成物から形成される成形物が電気特性に優れやすい。
【0030】
本組成物は前記Fポリマー100質量部に対して前記本ウィスカーを0.1から60質量部含む。前記本ウィスカーの量は得られる本組成物の加工性、分散安定性、熱伝導性の観点、および、本組成物から形成される成形物の均一性と電気特性の観点から、0.2から50質量部が好ましく、0.5から40質量部がより好ましく、1から25質量部がさらに好ましい。
【0031】
前記本組成物はさらに本組成物から得られる積層体等の成形体の物性に所望の特性を与える目的で、前記本ウィスカーとは異なる無機フィラーを含有してもよい。例えば、本樹脂組成物から得られる成形物の誘電率および誘電正接、若しくは線膨張率を低下させる目的の場合には、低誘電率および低誘電正接、若しくは低線膨張率の無機フィラーが用いられる。
【0032】
前記本組成物を液状分散媒に分散させて得られる本液状組成物の分散性の観点、成形体の放熱性を向上する観点から、本組成物はさらに無機フィラーを含むのが好ましい。
無機フィラーとしては、金属、金属酸化物、セラミックのフィラーが好ましく、具体的には、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、酸化アルミニウム、酸化鉛、酸化鉄、酸化錫、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、五酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化ネオジウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、窒化ホウ素、窒化ケイ素、グラファイト、カーボンブラック、フラーレン、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化ケイ素が挙げられ、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉛、酸化鉄、酸化錫、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、五酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化ネオジウム、酸化セリウム、酸化ニオブ、窒化ホウ素又は窒化アルミニウムが好ましく、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムまたは窒化ホウ素のフィラーがより好ましい。
無機フィラーは、1種類の無機フィラーを単独で用いてもよく、2種以上の無機フィラーを併用してもよい。
【0033】
前記無機フィラーの形状は、目的に応じて適宜選定され、粒子状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、平板状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられ、鱗片状または球状であるのが好ましく、球状であるのがより好ましい。球状のフィラーを使用すれば、針状または繊維状の本ウィスカーと無機フィラーとの熱伝導のパスが形成され、得られる積層体等の成形体の熱伝導性の改良効果が大きくなる傾向にある。
粒子状の無機フィラーの場合、そのD50は、0.02から200μmが好ましく、0.5から50μm以下がより好ましい。
【0034】
前記無機フィラーが球状である場合、略真球状であるのが好ましい。この場合の無機フィラーの粒子において、長径に対する短径の比は、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。上記比は、1未満が好ましい。かかる高度な略真球状の無機フィラーの粒子を用いれば、本組成物が液状分散媒中に分散した液状組成物を、より工業的かつ効率的に得やすい。また、Fポリマーの層等の成形物において、無機フィラーとFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性のバランスをよりとりやすい。
【0035】
前記無機フィラーの表面は、シランカップリング剤で表面処理されているのが好ましく、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランまたは3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランで表面処理されているのがより好ましい。
【0036】
無機フィラーの好適な具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン(登録商標)」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX(登録商標)」シリーズ等)、球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP(登録商標)」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された(石原産業社製の「タイペーク(登録商標)」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT(登録商標)」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
本組成物が無機フィラーを含む場合、本ウィスカーの含有量に対する無機フィラーの含有量の比は、0.1から5が好ましく、0.5から3がより好ましい。
【0037】
本組成物は、上記成分以外にも、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、各種フィラー等の他の成分をさらに含有してもよい。
【0038】
本組成物は前記Fポリマーと本ウィスカーと、必要に応じて前記無機フィラーと、他の成分を混合することで得られる。
本組成物は、粉状であってもよく、ペレットであってもよい。また、本組成物は、前記Fポリマーと本ウィスカーと、必要に応じて前記無機フィラーと、他の成分を溶融混練して得られる混練物であってもよい。
本組成物を溶融成形すれば、前記Fポリマーと本ウィスカーを含む、フィルム等の成形物が得られる。溶融成形としては、押出成形または射出成形が挙げられ、押出成形が好ましい。押出成形は単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等を用いて行うことができる。
溶融混練は前記押出機内で行い、そのまま取り出すことなく押出成形を行ってフィルムとしてもよいし、予め溶融混練して組成物にしておいてもよい。
【0039】
本組成物からは、Fポリマーと本ウィスカーとを含むポリマー層と、基材とを有する積層体を形成できる。積層体の製造方法としては、前記押出機として共押出機を用い、基材の原料とともに本組成物を押出成形する方法、前記基材上に本組成物を押出成形する方法、本組成物の押出成形物と前記基材とを熱圧着する方法が挙げられる。基材としては、後述の本液状組成物から形成される積層体における基材と同様のものが挙げられる。また、上記ポリマー層の好適な態様は、後述のF層におけるそれと同様である。
【0040】
本組成物は、液状であってもよい。液状である本組成物、すなわち本液状組成物は、前記本組成物と液状分散媒を含有した液状状態にあるスラリー状またはゾル状の組成物である。なお液状とは25℃で粘度が10mPa・s以下の化合物であり、以下も同じである。
液状分散媒は、本組成物を、分散する機能を有する液体であり、25℃で不活性な液体化合物である。液状分散媒は、水であってもよく、非水系液状分散媒であってもよい。液状分散媒としては、本液状組成物中の本組成物の分散安定性を高める観点から、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の液体化合物が好ましく、水、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびシクロペンタノンがより好ましい。
【0041】
液状分散媒は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。この場合、異種の液状分散媒は相溶するのが好ましい。
液状分散媒の沸点は、125から250℃が好ましい。この範囲において、本液状組成物から液状分散媒を除去する際に、本粒子が、高度に流動して緻密にパッキングし、その結果、本液状組成物から、緻密な成形物が形成されやすい。
本液状組成物における液状分散媒の含有量は、40から80質量%が好ましく、50から70質量%がより好ましい。
【0042】
本液状組成物中の固形分は、上記本粒子と本ウィスカーとを含有する。なお、本液状組成物の固形分とは、本液状組成物から形成される成形物において固形成分を形成する物質の総量を意味する。本液状組成物の全質量を100%として、固形分濃度は20質量%以上が好ましく、30質量%がより好ましい。また本液状組成物の分散性の観点から、固形分濃度は70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。固形分には本粒子と本ウィスカー以外の成分を含んでもよく、固形分中の本粒子と本ウィスカーとの合計量は、固形分の全質量を100質量%として、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。前記合計量は、100質量%以下が好ましい。
【0043】
前記本液状組成物は分散安定性とハンドリング性とを向上させる観点からノニオン性界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤の親水部位は、オキシアルキレン基またはアルコール性水酸基を有するのが好ましい。
オキシアルキレン基は、1種から構成されていてもよく、2種以上から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うオキシアルキレン基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。オキシアルキレン基は、オキシエチレン基が好ましい。
【0044】
界面活性剤の疎水部位は、アセチレン基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルケニル基を有するのが好ましい。換言すれば、界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤、シリコン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤が好ましく、シリコン系界面活性剤がより好ましい。
かかる界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(株式会社ネオス社製 フタージェントは登録商標)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製 サーフロンは登録商標)、「メガファック」シリーズ(DIC株式会社製 メガファックは登録商標)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業株式会社製 ユニダインは登録商標)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン株式会社社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
界面活性剤を含有する場合、前記本液状組成物中の含有量は、1から15質量%が好ましい。この場合、成分間の親和性が増し、本液状組成物の分散安定性がより向上しやすい。
【0045】
本液状組成物の粘度は、10mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本組成物の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以下がより好ましい。この場合、本液状組成物は塗工性に優れるため、任意の厚さを有するFポリマーの層等の成形物を形成しやすい。
本液状組成物のチキソ比は、1以上が好ましい。本液状組成物のチキソ比は、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。この場合、本液状組成物は塗工性に優れるだけでなく、その均質性にも優れるため、より緻密なFポリマーの層等の成形物を形成しやすい。
【0046】
本液状組成物の分散層率は60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。分散層率の上限は100%である。本法で得られる分散液は、上述のとおり、分散性と分散安定性に優れやすい。
【0047】
本液状組成物から得られる成形物の成分分布の均一性の低下や空隙の抑制の観点から、分散液中の泡沫体積比率は、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましい。泡沫体積比率は、0%以上が好ましい。
なお、泡沫体積比率は、標準大気圧かつ20℃における分散液の体積(V)と、それを0.003MPaまで減圧した際の泡を合わせた体積(V)とを測定し、以下の算出式で求められる値である。
泡沫体積比率[%]=100×(V-V)/Vである。
【0048】
前記本液状組成物は、本粒子、本ウィスカー、液状分散媒を混合して得られる。本液状組成物は、本粒子と本ウィスカーの混合物と液状分散媒を混合して得てもよく、本粒子と液状分散媒の混合物と本ウィスカーを混合して得てもよく、本ウィスカーと液状分散媒の混合物と本粒子を混合して得てもよく、本粒子と液状分散媒の混合物と、本ウィスカーと液状分散媒の混合物とを混合して得てもよい。
【0049】
本液状組成物を基材の表面に接触させ、加熱して、Fポリマーからなる層を形成すれば、Fポリマーと本ウィスカーとを含むポリマー層(以下、「F層」とも記す)と基材とを含む積層体が得られる。積層体の好適な態様としては、金属箔とその少なくとも一方の表面に形成されたF層とを有する金属張積層体、樹脂フィルムとその少なくとも一方の表面に形成されたF層とを有する多層フィルムが挙げられる。
【0050】
上記積層体の製造においては、基材の表面の少なくとも片面にF層が形成されればよく、基材の片面のみにF層が形成されてもよく、基材の両面にF層が形成されてもよい。基材の表面は、シランカップリング剤等により表面処理されていてもよい。本液状組成物の接触に際しては、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等の塗布方法を使用できる。
【0051】
F層は、加熱により前記本液状分散媒を除去した後に、さらに加熱によりFポリマーを焼成して形成するのが好ましい。分散媒の除去の温度は、できるだけ低温が好ましく、分散媒の沸点より50℃から150℃低い温度が好ましい。例えば沸点が約200℃のN-メチル-2-ピロリドンを用いた場合、150℃以下、好ましくは100から120℃で加熱することが好ましい。分散媒を除去する工程で空気を吹き付けるのが好ましい。
【0052】
分散媒を除去後、基材をFポリマーが焼成する温度領域に加熱して形成するのが好ましく、例えば300から400℃の範囲でポリマーを焼成するのが好ましい。F層は、Fポリマーの焼成物を含むのが好ましい。
F層は、上述のとおり本液状組成物の接触、乾燥、焼成の工程を経て形成される。これら工程は1回でも2回以上でもよい。例えば、前記本液状組成物を塗布し、加熱により液状分散媒を除去し膜を形成する。形成した膜の上にさらに前記本液状組成物を塗布して加熱により上記液状分散媒を除去し、さらに加熱によりポリマーを焼成して形成してもよい。平滑性に優れた厚い膜を得やすい観点から、液状分散媒の塗布、乾燥、焼成の工程を2回行うのが好ましい。
F層の厚さは、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。厚さの上限は、200μmである。この範囲において、耐クラック性に優れたF層を容易に形成できる。
F層と基材層との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましい。上記剥離強度は、100N/cm以下が好ましい。本液状組成物を用いれば、F層におけるFポリマーの物性を損なわずに、かかる積層体を容易に形成できる。
F層の空隙率は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましい。空隙率は、0.01%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましい。なお、空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察される成形物の断面におけるSEM写真から、画像処理にてF層の空隙部分を判定し、空隙部分が占める面積をF層の面積で除した割合(%)である。空隙部分が占める面積は空隙部分を円形と近似して求められる。
【0053】
基材の材質としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等の金属基板、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等の樹脂フィルム、繊維強化樹脂基板の前駆体であるプリプレグが挙げられる。基材の形状としては、平面状、曲面状、凹凸状が挙げられ、さらに、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。積層体の具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にF層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にF層を有する多層フィルムが挙げられる。これらの本積層体は、電気特性等の諸物性に優れており、プリント基板材料等として好適である。具体的には、かかる積層体は、フレキシブルプリント基板やリジッドプリント基板の製造に使用できる。
【0054】
F層と他の基材との積層体の構成としては、金属基板/F層/他の基材層/F層/金属基板、金属基板層/他の基材層/F層/他の基材層/金属基板層等が挙げられる。それぞれの層には、さらに、ガラスクロスやフィラーが含まれていてもよい。
【0055】
前記Fポリマーと本ウィスカーとを溶融混練し、得られた組成物を押出成形すれば、前記Fポリマーと本ウィスカーを含むフィルムが得られる。
溶融混練および押出成形の方法は上述の本組成物の溶融混練の方法と同様の方法が挙げられる。
前記Fポリマーと本ウィスカーを含むフィルムは、上述の積層体から、基材を除去して得てもよい。除去の方法としては、剥離またはエッチングが挙げられる。
【0056】
前記フィルムの熱伝導率は、0.5から100W/m・Kが好ましく、1から50W/m・Kがより好ましく、3から25W/m・Kがさらに好ましい。
前記フィルム中では、窒化アルミニウムのウィスカーが配向しやすく、電気特性および熱伝導性に異方性が生じやすい。例えば、押出成形して得たフィルム中では、窒化アルミニウムのウィスカーがフィルムの平面方向に配向しやすく、平面方向の熱伝導性が厚さ方向の熱伝導性に比べて高くなりやすい。そのため、フィルムの使用に際しては、目的の方向の物性が向上するよう、フィルムを適宜切断して用いてもよい。
【0057】
本発明の積層体およびフィルムは、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品、保護フィルム、放熱基板、放熱部品等として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材、自動車向けの放熱基板、パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET、CPU、放熱フィンや放熱板として有用である。
より具体的には、パソコンやディスプレーの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装等、低酸素下で加熱処理する加工機や真空オーブン、プラズマ処理装置などのシール材や、スパッタや各種ドライエッチング装置等の処理ユニット内の放熱部品として有用である。
【0058】
上述のとおりFポリマーと本ウィスカーとを含む本組成物および本液状組成物は成形性や分散安定性に優れ、本組成物からは熱伝導性および電気特性に優れた成形物を形成できる。
さらに両者を含むF層と基材とを含む積層体および両者を含むフィルムは、各種物性に優れる。
【0059】
以上、本組成物、本液状組成物、F層と基材とを含む積層体、前記Fポリマーと本ウィスカーを含むフィルムおよびそれらの製造方法を説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本組成物、本液状組成物、F層と基材とを含む積層体、前記Fポリマーと本ウィスカーを含むフィルムは上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。また前記製造方法の実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例0060】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[粒子]
粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基を主鎖炭素数1×10個あたり1000個有するポリマー1(溶融温度:300℃)からなる粒子(D50:2.1μm)
粒子2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%含み、カルボニル基を主鎖炭素数1×10個あたり40個有するポリマーからなる粒子(D50:1.8μm)
【0061】
[窒化アルミニウムのウィスカー]
ウィスカー1: オクタデカン2酸で表面処理された窒化アルミニウムのウィスカー(長さ:15μm、アスペクト比:15)
ウィスカー2:表面処理されていない窒化アルミニウムのウィスカー(長さ:15μm、アスペクト比:15)
【0062】
[液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0063】
2.液状組成物の製造例
[例1]
ポットに、粒子1とNMPとを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、組成物1を調製した。別のポットに、ウィスカー1とNMPとを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、組成物2を調製した。
さらに別のポットに、組成物1および2を投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、粒子1(32質量部)、ウィスカー1(8質量部)およびNMP(60質量部)を含む分散液1(粘度:400mPa・s)を得た。
[例2から例5]
粒子、ウィスカーの種類と量とを表1に示す通り変更した以外は、例1と同様にして、分散液2から5を得た。なお、分散液5ではウィスカーを使用しなかった。
【0064】
3.積層体の製造例
厚さ18μmの長尺の銅箔の表面に、バーコーターを用いて、分散液1を塗布して、ウェット膜を形成した。次いで、このウェット膜が形成された金属箔を、110℃にて5分間、乾燥炉に通し、加熱により乾燥させて、ドライ膜を得た。その後、窒素オーブン中で、ドライ膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、金属箔と、その表面に粒子1の溶融焼成物およびウィスカー1を含む、成形物としての厚さ20μmのポリマー層とを有する積層体1を製造した。
分散液1を、分散液2、3および5に変更した以外は、積層体1と同様にして、積層体2、3および5を製造した。なお、分散液4は分散安定性が低く、分散液4からは積層体を製造できなかった。
【0065】
4.評価
4-1.分散液の分散安定性の評価
それぞれの分散液を容器中に25℃にて保管保存後、その分散性を目視にて確認し、下記の基準に従って分散安定性を評価した。
【0066】
[評価基準]
〇:凝集物が視認されない。
△:容器側壁に細かな凝集物の付着が視認される。軽く撹拌すると均一に再分散した。
×:容器底部にも凝集物が沈殿しているのが視認される。再分散には強いせん断撹拌を要した。
【0067】
4-2.積層体の熱伝導性
それぞれの積層体について、積層体の銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングにより除去して単独のポリマー層を作製し、その面内方向における熱伝導率(W/m・K)を測定し、以下の基準に従って評価した。
【0068】
[評価基準]
○:1W/m・K以上
△:0.5W/m・K以上1W/m・K未満
×:0.5W/m・K未満
【0069】
4-3.積層体の誘電正接の評価
それぞれの積層体について、積層体の銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングにより除去して単独のポリマー層を作製し、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて、上記ポリマー層の誘電正接(測定周波数:10GHz)を測定し、下記の基準に従って評価した。
【0070】
[評価基準]
〇:その誘電正接が0.0010未満である。
△:その誘電正接が0.0010以上0.0025以下である。
×:その誘電正接が0.0025超である。
【0071】
4-4.積層体の線膨張性
それぞれの積層体について、積層体の銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングにより除去して単独のポリマー層を作製し、JIS C 6471:1995に規定される測定方法にしたがって、25℃以上260℃以下の範囲における、試験片の線膨張係数を測定した。
【0072】
[評価基準]
〇:30ppm/℃以下である。
△:30ppm/℃超40ppm/℃以下である。
×:40ppm/℃超である。
【0073】
各分散液の成分と、分散液および積層体の評価結果を、まとめて表1に示す。なお表1中、括弧内の数値は各成分の質量部を表す。
【0074】
【表1】
【0075】
5.フィルムの製造
粒子1(100質量部)とウィスカー1(20質量部)とをドライブレンドし、混合物を得た。混合物を2軸押出機(テクノベル社製、「KZW15TW-45MG」)に投入してスクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度370℃の条件で溶融混練し、その先端に設置したTダイから2.0kg/hrにて吐出して、厚さ100μmの平坦状のフィルム1を成形した。
ウィスカー1をウィスカー2に変更した以外は、フィルム1と同様にして、フィルム2を得た。フィルム2はフィルム1に比較して表面平滑性が低かった。
フィルム1の熱伝導性、誘電正接および線膨張性を前記評価基準に従い評価した結果、フィルム1は、順に、「〇」、「〇」、「〇」であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
上記結果から明らかなように、本組成物および本液状組成物は加工性や分散安定性に優れる。また本組成物および本液状組成物から得られる積層体およびフィルムはテトラフルオロエチレン系ポリマーが本来有する物性が低下することなく、熱伝導性および電気特性に優れる。